(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230171
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ジャーナルガス軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 27/02 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
F16C27/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-85043(P2016-85043)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-194117(P2017-194117A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2017年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】504366545
【氏名又は名称】株式会社アーカイブワークス
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 栄人
【審査官】
尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−13219(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/125825(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0054718(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0281936(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/02
F16C 17/04
F16C 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングフォイルと、該リングフォイルの外周側に配設された軸受ケースと、リングフォイルと軸受ケースとの間に配設された板状バネ部材と、を備えるジャーナルガス軸受であって、
前記リングフォイルは、
円筒体Aと、
該円筒体Aの外周面に周方向に所定間隔をあけて複数設けられると共に、中間部に切欠き部を有する軸方向分割突起部と、
を有し、
前記軸受ケースは、
円筒体Bと、
該円筒体Bの内周面に前記リングフォイルの軸方向分割突起部と嵌合可能に複数設けられると共に、前記リングフォイルの切欠き部と対応する位置に、切欠き部の軸方向長さに対応した、円筒体Bの外周面まで貫通する貫通孔を有する軸方向溝部と、
を有し、
前記リングフォイルの軸方向分割突起部及び前記軸受ケースの軸方向溝部が嵌合した状態で、前記貫通孔から前記切欠き部に、前記切欠き部の軸方向長さに対応した止めピンが挿入され、前記リングフォイル及び軸受ケースの軸方向の移動が規制される
ことを特徴とするジャーナルガス軸受。
【請求項2】
リングフォイルの突起部及び軸受ケースの溝部の断面形状が、基部が短辺となる逆台形状であることを特徴とする請求項1記載のジャーナルガス軸受。
【請求項3】
リングフォイルが、円筒体Aの内周面に軸方向内周溝を有することを特徴とする請求項1又は2記載のジャーナルガス軸受。
【請求項4】
板状バネ部材が、複数のバネ部材本体と、該バネ部材本体を接続する、リングフォイルの切欠き部の軸方向長さに対応した接続部とを具備することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のジャーナルガス軸受。
【請求項5】
バネ部材本体が、分離溝によって形成された舌部が軸方向に千鳥状に配設された舌部群を、周方向に所定間隔をあけて複数具備することを特徴とする請求項4記載のジャーナルガス軸受。
【請求項6】
舌部が、その先端に、複数の小舌部を有することを特徴とする請求項5記載のジャーナルガス軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気やガスを潤滑媒体とする、高速回転機械の回転ロータ(回転軸)を支えるための軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械、発電機、モータ等の高速回転機械の回転軸を支持する軸受は、高速回転機械の高速化に伴い、高速化性能、損失低減性能の向上が求められている。軸受は、潤滑剤として潤滑油を用いた軸受と、ボールベアリングを用いた軸受とに大別される。
【0003】
潤滑油を用いた軸受は、粘度が高いため、回転に伴う摩擦損失が大きくなり、高速化の妨げとなっている。また、潤滑油を供給するポンプ、冷却器、タンクなどが必要なために、装置全体が大きくなるという欠点を有している。さらに、潤滑油の漏洩が、回転機械を装備した装置全体の汚染に繋がる。特に、食品機械、養殖、温室などでは、製品に大きな損害を与えることとなる。
【0004】
また、例えば、ボールベアリングを用いた軸受では、回転軸の軸径に対して、ボールの寸法分、軸受外径を大きくする必要があり、回転機械の回転部分の大きな外径と容積を占めている。また、軸受にボールの破壊を伴う損傷が生じた場合には、回転軸は支えを失い、径方向に大きく動く(位置ずれを起こす)ために、回転ロータ(回転軸)の固定された部品がケーシングなどの固定部分に接触して大破するケースがあり、軸受の損傷は、回転機械の大破につながることが多い。ボールベアリングよりも回転軸サポート能力が高く、低コストで製作可能なすべり軸受でも、ボールベアリングと同様である。
【0005】
潤滑油を使わない軸受として磁気軸受があるが、回転軸上に磁性体を設ける必要があること、回転軸の2次の固有振動数以上では制御が困難になること、軸受として磁性体やコイルが必要なこと、高度な制御ソフトや装置が必要なことからコストが高いという欠点がある。
【0006】
さらに、潤滑油を使わない軸受としてガス軸受があり、このガス軸受には、静圧型と動圧型がある(非特許文献1、2参照)。静圧型は、軸受部に外部から高圧のガスを送り込んで回転軸の浮揚を助けるタイプの軸受である。一方、動圧型は、軸受自身で周囲の流体を使って浮揚するものである。
【0007】
動圧型軸受の代表的なものとしては、NASAで開発されたリーフフォイル型とバンプフォイル型がある。この両者は、軸受ケースが大きくなりやすく、リーフやバンプと呼ばれるフォイルを弾性支持するバネ構造が複雑で、軸径30mmより小さなものの製造が難しいと言われている。この2つと構造が異なるものとして、キャプストン社が開発した動圧型軸受があるが、これはバネを軸受ケースの取り付ける溝とケーシング内面形状の加工が難しいことが課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−61645
【特許文献2】特開2004−270904
【特許文献3】特開2006−57652
【特許文献4】特開2002−364643
【特許文献5】特表平10−511446
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】十合晋一、気体軸受ガイドブック、共立出版
【非特許文献2】吉本成香、気体軸受(オイルフリー軸受)、ターボ機械、第32巻、第7号、2004年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、低速から高速までの振動安定性、及び損失低減を実現し、発進停止時の軸受損傷が極めて少なく、低コストで製造が容易である軽量・コンパクト(小外径)なジャーナルガス軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ガス軸受の性能向上を図るべくさらに鋭意調査・研究した結果、リングフォイルと軸受ケースとの新たな取り付け構造、さらには、リングフォイルと軸受ケースとの間に配設される板状バネ部材との新たな組み合わせ構造を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、リングフォイルと、該リングフォイルの外周側に配設された軸受ケースと、リングフォイルと軸受ケースとの間に配設された板状バネ部材とを備えるジャーナルガス軸受であって、
前記リングフォイルは、円筒体Aと、該円筒体Aの外周面に周方向に所定間隔をあけて複数設けられると共に、中間部に切欠き部を有する軸方向分割突起部とを有し、
前記軸受ケースは、円筒体Bと、該円筒体Bの内周面に前記リングフォイルの軸方向分割突起部と嵌合可能に複数設けられると共に、前記リングフォイルの切欠き部と対応する位置に、切欠き部の軸方向長さに対応した、円筒体Bの外周面まで貫通する貫通孔を有する軸方向溝部とを有し、
前記リングフォイルの軸方向分割突起部及び前記軸受ケースの軸方向溝部が嵌合した状態で、前記貫通孔から前記切欠き部に、前記切欠き部の軸方向長さに対応した止めピンが挿入され、前記リングフォイル及び軸受ケースの軸方向の移動が規制されることを特徴とするジャーナルガス軸受に関する。
【0013】
本発明のジャーナルガス軸受においては、リングフォイルの突起部及び軸受ケースの溝部の断面形状が、基部が短辺となる逆台形状であることが好ましい。
また、リングフォイルは、円筒体Aの内周面に軸方向内周溝を有することが好ましい。
さらに、板状バネ部材は、複数のバネ部材本体と、該バネ部材本体を接続する、リングフォイルの切欠き部の軸方向長さに対応した接続部とを具備することが好ましい。バネ部材本体は、分離溝によって形成された舌部が軸方向に千鳥状に配設された舌部群を、周方向に所定間隔をあけて複数具備することが好ましく、舌部が、その先端に、複数の小舌部を有することがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のジャーナルガス軸受は、低速から高速までの振動安定性、及び損失低減化が図られ、発進停止時の軸受損傷が極めて少ない。また、低コストで製造容易であり、軽量・コンパクト(小外径)化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るジャーナルガス軸受の概要構成を示す断面斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るリングフォイルの概略構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る軸受ケースの概要構成を示す断面斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る板状バネ部材の概略構成を示す装着前の展開図である。
【
図5】
図4に示す板状バネ部材におけるバネ部材本体の拡大図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係るリングフォイルの概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のジャーナルガス軸受としては、リングフォイルと、該リングフォイルの外周側に配設された軸受ケースと、リングフォイルと軸受ケースとの間に配設された板状バネ部材とを備えており、前記リングフォイルは、円筒体Aと、該円筒体Aの外周面に周方向に所定間隔をあけて複数設けられると共に、中間部に切欠き部を有する軸方向分割突起部とを有し、前記軸受ケースは、円筒体Bと、該円筒体Bの内周面に前記リングフォイルの軸方向分割突起部と嵌合可能に複数設けられると共に、前記リングフォイルの切欠き部と対応する位置に、切欠き部の軸方向長さに対応した、円筒体Bの外周面まで貫通する貫通孔を有する軸方向溝部とを有し、前記リングフォイルの軸方向分割突起部及び前記軸受ケースの軸方向溝部が嵌合した状態で、前記貫通孔から前記切欠き部に、前記切欠き部の軸方向長さに対応した止めピンが挿入され、前記リングフォイル及び軸受ケースの軸方向の移動が規制されるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ガスタービン等の回転機械の回転軸を支持する動圧型のガス軸受である。
【0017】
以下、本発明のジャーナルガス軸受の各構成要素について具体的に説明する。
【0018】
[リングフォイル]
リングフォイルは、円筒体Aと、円筒体Aの外周面に設けられた軸方向分割突起部(以下、単に分割突起部ということがある)とを具備している。分割突起部は、円筒体Aの周方向に所定間隔をあけて複数設けられており、突起部の中間部に切欠き部を有する。円筒体Aの内周側には回転軸が収容され、リングフォイル(円筒体A)の内周面が、回転軸が回転する際の摺動面となる。
【0019】
円筒体Aの形状としては、回転軸を安定して収容可能な内面形状を有するものであり、真円又はそれに近い円形状であることが好ましい。
【0020】
円筒体Aの外周面に設けられた分割突起部の断面形状としては、矩形状、弧状、多角形状等種々の形状とすることができるが、基部が短辺となる逆台形状であることが好ましい。すなわち、円筒体Aの軸中心側から径方向に遠ざかるにつれて幅広となる形状であることが好ましい。この分割突起部は、軸受ケースの溝部に挿入されるが、断面形状が逆台形状であることにより、リングフォイルが軸受ケースの内側に外れることを防止することができる。
【0021】
分割突起部は、周方向に複数(例えば、等間隔に3つ)設けられている。これにより、リングフォイルが回転軸から受ける振動は均等に分散される。その結果、特定の方向へ押圧されることよるリングフォイルの変形が防止され、振動安定性、及び損失低減を図ることが可能となる。
【0022】
分割突起部における切欠き部は複数存在していてもよい。すなわち、分割突起部は、2又は3以上に分割されていてもよい。また、分割突起部は、振動安定性等の点から、円筒体Aの軸方向長さの1/2以上の長さ(合計)を有することが好ましく、2/3以上の長さを有することが好ましい。また、円筒体の軸方向両端から延設される突起部であることが好ましい。
【0023】
また、この円筒体Aの内周面には、軸方向内周溝を形成することができ、この内周溝は、好ましくは、突起部と対応した位置に形成される。内周面に内周溝を設けることで、突起部等に形成される空間を利用してジャーナルガス軸受の外部から外気をより効果的に取り込むことができる。
【0024】
上記のような構成を有するリングフォイル(円筒体A及び分割突起部)の材質としては、狭い隙間を埋める錆び等の発生を防止すべく、錆びにくく、法安定性が高い材料を用いることが好ましく、例えば、SUS304、SUS316、インコネル材等を挙げることができる。
【0025】
[軸受ケース]
軸受ケースは、円筒体Bと、円筒体Bの内周面に設けられた軸方向溝部を有している。軸方向溝部は、リングフォイルの分割突起部に対応して分割突起部と嵌合可能に設けられる。また、軸方向溝部は、前記リングフォイルの切欠き部と対応する位置に、切欠き部の軸方向長さに対応した、円筒体Bの外周面まで貫通する貫通孔を有している。この軸受ケースは、ジャーナルガス軸受の筐体をなす。
【0026】
円筒体Bの形状としては、リングフォイルの円筒体Aに比して一回り程度大きな径を有するものであって、円筒体Aと同様、真円又はそれに近い円形状であることが好ましい。この円筒体Bの端部には、例えば、フランジが設けられることにより、ビスやねじ等の固定部材により、軸受ケースを機械本体に固定することができる。
【0027】
軸方向溝部は、リングフォイルの分割突起部に対応して分割突起部と嵌合可能に円筒体Bの内周面に設けられており、その断面形状としては、矩形状、弧状、多角形状等種々の形状とすることができるが、基部が短辺となる逆台形状であることが好ましい。すなわち、円筒体Bの軸中心側から径方向に遠ざかるにつれて幅広となる形状であることが好ましい。この軸方向溝部には、リングフォイルの分割突起部が挿入されるが、断面形状が逆台形状であることにより、リングフォイルが軸受ケースの内側に外れることを防止することができる。
【0028】
また、軸方向溝部には、リングフォイルの切欠き部と対応する位置に、切欠き部の軸方向長さに対応した、円筒体Bの外周面まで貫通する貫通孔が設けられている。この貫通孔は、好ましくはリングフォイルの切欠き部と同じ形状に形成されており、例えば横断面矩形状に形成されている(角孔)。軸受ケースにリングフォイルを配置した際には、この貫通孔に対応してリングフォイルの切欠き部が配置されるようになっており、貫通孔及び溝部と切欠き部とにより空間が形成される。
【0029】
軸受ケースは、上記貫通孔及び溝部と切欠き部とにより形成される空間に、軸受ケース外周部から挿入される止めピンを具備する。止めピンの形状は、貫通孔と同じ形状であることが好ましく、例えば横断面矩形状に形成されている。止めピンの高さとしては、軸受ケースの円筒体Bの壁厚と同程度に設計されることが好ましい。軸受ケースの外周部から貫通孔に止めピンを挿入して固定し、空間を埋めることで、リングフォイルは軸方向の移動が規制される。これにより、リングフォイル装着時の軸方向における位置ずれが防止されるとともに、回転軸の回転に起因する振動による位置ずれが防止される。また、この止めピンにより、後述する板状バネ部材の接続部が固定される。
【0030】
かかる構成を有する軸受ケースの材質としては、狭い隙間を埋める錆び等の発生を防止すべく、錆びにくく、法安定性が高い材料を用いることが好ましく、例えば、SUS304、SUS316、インコネル材等を挙げることができる。
【0031】
[板状バネ部材]
板状バネ部材は、リングフォイルと軸受ケースとの間に配設されている。板状バネ部材は、例えば、複数のバネ部材本体と、各バネ部材本体を接続する接続部とを具備している。接続部の軸方向長さは、リングフォイルの切欠き部の軸方向長さに対応しており、これにより、回転軸の回転動作に起因する振動等による軸方向への板状バネ部材の位置ずれが防止され、安定した回転動作を保持することができる。
【0032】
バネ部材本体は、例えば、矩形状であって、リングフォイルの分割突起部及び切欠き部を除く部分を覆う形状となっている。このバネ部材本体は、分離溝(貫通した切り込み)により舌部が形成されており、平面状の板状バネ部材をリングフォイルの円筒体Aの外周面に沿って湾曲して配置した際に、円筒状のバネ部材本体の基盤部分から外周側(接線方向)に飛び出すような舌部(立設可能な舌部)を有することが好ましく、特に、舌部が、軸方向に千鳥状に、軸方向に対して左右に交互に立設可能に配設された舌部群を、周方向に所定間隔をあけて複数具備していることが好ましい。これにより、板状バネ部材の舌部群が、軸受ケースの内周面を押圧すると共に、基盤がリングフォイルの外周面を押圧し、適度な弾性を保持することができる。
【0033】
また、舌部の先端には、分離溝により分離された複数の小舌部が形成されていることが好ましい。この小舌部を形成する分離溝の長さとしては、舌部を形成する分離溝の長さの1/3〜2/3程度であることが好ましい。これにより、小さな弱い振動に対しては、小舌部のバネ力で抑制され、大きな強い振動に対しては、舌部の強いバネ力で抑制される。
【0034】
上記のような構成を有する板状バネ部材の材質としては、狭い隙間を埋める錆び等の発生を防止すべく、錆びにくく、法安定性が高い材料を用いることが好ましく、例えば、SUS304、SUS316、インコネル材等を挙げることができる。
【0035】
上記の構成を有する本発明のジャーナルガス軸受では、回転軸が回転を開始すると、回転軸とリングフォイルとの間の間隙に吸引力が発生し、外気は、リングフォイルの軸方向の端部の開口より、ジャーナルガス軸受の内部に取り込まれる。取り込まれた外気は、回転軸とリングフォイルとの間の間隙で滞留し、空気層を形成する。この空気層は、回転軸とリングフォイルとの間の潤滑剤として機能する。
【0036】
本発明のジャーナルガス軸受は、リングフォイルの軸方向分割突起部が軸受ケースの軸方向溝部に嵌合されるように構成されると共に、板状バネ部材は、リングフォイルと軸受ケースの間に巻設され、さらに、リングフォイルの突起部間に形成される切欠き部で止めピンにより固定されるため、回転軸の径方向又は軸方向の揺れに対して強く、回転動作が安定する。したがって、ジャーナルガス軸受の損失を低減することができる。
【0037】
また、本発明のジャーナルガス軸受は、軸受周辺に存在する流体(気体)を潤滑材として用いる、いわゆる動圧型ガス軸受であり、潤滑油を潤滑材として用いる一般的な軸受と異なり、潤滑油の供給ポンプ、タンク、冷却器等の補機が必要ない。したがって、軸受の必要な装置の小型化、軽量化、低コスト化が可能となる。また、空調装置等では、圧縮機に用いられる軸受の潤滑油が熱交換器に侵入して、伝熱面に付着し、熱交換器の性能を阻害するが、本発明のジャーナルガス軸受を適用することで、潤滑油が不要となり、熱交換器の性能の低下を防止することができる。
【0038】
以下、上述したジャーナルガス軸受の具体的な実施態様について、図面を参照して説明する。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態に係るジャーナルガス軸受の概要構成を示す断面斜視図である。
図1に示すように、本実施形態のジャーナルガス軸受100は、リングフォイル200と、リングフォイル200の外周面に沿うように配置された板状バネ部材400と、さらにその外周側に配置された軸受ケース300とを備えている。
【0040】
以下、ジャーナルガス軸受100を構成するリングフォイル200、軸受ケース300及びバネ部400について具体的に説明する。
【0041】
[リングフォイル200]
リングフォイル200は、回転軸を支持する円筒状の部材であり、軸受ケース300及びバネ部材400により支持される。
図2に示すように、リングフォイル200は、円筒体210と、円筒体210の外周面に軸方向に沿って形成された複数の突起部220を有する。突起部220間には切欠き部230が形成されている。
【0042】
突起部220は、後述する軸受ケース300の溝部311と対応して形成されており、軸方向に延設されるとともに、円周方向に沿って等間隔に3つ形成されている。また、突起部220は基部(リングフォイルの内径側)が短辺となる断面視逆台形状に形成されている。したがって、リングフォイル200を軸受ケース300に装着するときは、突起部220を軸受ケース300の溝部311に挿入するように、軸受ケース300の端部からリングフォイル200を挿入する。
【0043】
切欠き部230は、リングフォイル200の軸方向の中間部に形成されている。リングフォイル200を軸受ケース300に装着すると、切欠き部230が形成された位置には空間が形成される。
【0044】
[軸受ケース300]
図3に示すように、軸受ケース300は、円筒体310の内周面に軸方向に沿って形成された溝部311を有する。また、円筒体310の端部にはフランジ313が設けられている。
図3に示すように、溝部311は、突起部220の形状に対応して断面視逆台形状に形成されている。すなわち、内周面側の開口部の幅に対して、外周面側の幅が大きく形成されている。かかる溝部311は、突起部220に対応して、円周方向に沿って等間隔に3つ形成されている。
【0045】
また、溝部311には、軸方向における中央の位置に、軸受ケース300の外周面まで貫通した貫通孔312が形成されている。この貫通孔312は、リングフォイル200の切欠き部230と対応した形状に形成されており、軸受ケース300にリングフォイル200を装着した後、溝部311及び貫通孔312と切り欠き部230とにより形成される空間に止めピン320を挿入することで(
図1参照)、軸方向の移動が規制される。なお、貫通孔312は、止めピン320を挿入した後、ピン抑え(不図示)により固定される。
【0046】
フランジ313には、複数の取り付けネジ孔340が設けられており、この取り付けネジ孔340により、ガスタービン等に取り付けられる。
【0047】
[板状バネ部材400]
板状バネ部材400は、リングフォイル200と軸受ケース300との間に設けられた弾性部材である。板状バネ部材400は、適度な弾性力でリングフォイル200をサポートし、安定して回転軸をセンターに保持することができると共に、回転軸とリングフォイル200との間に生じる力の変動を緩和する。
【0048】
図4に示すように、装着前の板状バネ部材400は、3つのバネ部材本体410と、バネ部材本体410の両端に設けられた4つの接続部420,430によって構成される。この接続部420,430の軸方向の長さ(図面上左右方向)は、リングフォイル200の切欠き部230の軸方向の長さにほぼ等しく、板状バネ部材400がリングフォイル200と軸受ケース300との間に装着された際、切欠き部230の位置に配設される。
【0049】
図4及び5に示すように、バネ部材本体410には、貫通溝440により切り込みが設けられており、舌部451が形成されている。舌部451は、軸方向に千鳥状に、軸方向に対して左右に交互に立設可能に配設され、一列の舌部群450を構成する。本実施形態においては、1つのバネ部材本体410につき、舌部群450が所定間隔をあけて5列設けられている。また、各舌部451には、舌部451の先端側を1/2程度分割する分離溝470により、2つの小舌部452が形成されている。
【0050】
続いて、他の実施形態に係るジャーナルガス軸受について説明する。
本実施例のジャーナルガス軸受は、リングフォイルの形状が異なる点以外については、上述した一実施形態に係るジャーナルガス軸受と同様の構成である。よって、本実施形態の特徴的構成であるリングフォイルについてのみ説明し、その他の構成についての説明は省略する。
【0051】
図6に示すように、本実施形態のリングフォイル500は、外周面に突起部510及び切り欠き部520を有する点で、上述したリングフォイル200と共通するが、突起部510の内周面に内周溝530を有する点でリングフォイル200とは異なる。内周面に内周溝530を設けることで、ジャーナルガス軸受の外部から外気をより効果的に取り込むことができ、例えば、回転軸の回転初期段階で短時間の間に回転軸とリングフォイル500との間に空気層が形成されるため、回転効率がさらに向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のジャーナルガス軸受は、低コストでの製造が可能であり、損失が小さく、軸受負荷能力が高いので、多くの産業分野において有用である。
【符号の説明】
【0053】
100 ジャーナルガス軸受
200 リングフォイル
210 円筒体(円筒体A)
220 突起部(軸方向分割突起部)
230 切欠き部
300 軸受ケース
310 円筒体(円筒体B)
311 溝部
312 貫通孔
313 フランジ
320 止めピン
340 取り付けネジ孔
400 板状バネ部材
410 バネ部材本体
420 接続部
430 接続部(接続端部)
440 貫通溝
450 舌部群
451 舌部
452 小舌部
470 分離溝
500 内周溝付きリングフォイル
510 突起部
520 切り欠き部
530 内周溝