特許第6230177号(P6230177)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230177
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】掌部残存機能を利用した摘み機構
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/54 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   A61F2/54
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-19858(P2014-19858)
(22)【出願日】2014年2月4日
(65)【公開番号】特開2015-146839(P2015-146839A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年12月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム フィージビリティスタディステージ シーズ顕在化タイプ「乳幼児・小児用5指筋電義手の開発と一般流通化」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121326
【弁理士】
【氏名又は名称】恒川 圭志
(72)【発明者】
【氏名】横井 浩史
(72)【発明者】
【氏名】石原 正博
(72)【発明者】
【氏名】平井 健司
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−022577(JP,A)
【文献】 特表2009−519795(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0212129(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拇指CM関節を残存して掌部が切断された手に装着することにより、その拇指CM関節を利用して作動させられる摘み機構であって、
掌部の残存部を嵌め入れるための掌ソケットと、
前記拇指CM関節に平行に設けられた拇指側回動軸において、その軸心回りの回動可能且つ軸心方向の併進可能に前記掌ソケットに取り付けられた拇指の残存部を嵌め入れるための拇指フォルダと、
前記拇指フォルダに拇指先端方向に伸びて設けられた拇指側リンクと、
前記拇指以外の4指の少なくとも1つのMP関節に略対応する位置に設けられた4指側回動軸において、その軸心回りの回動可能に前記掌ソケットに取り付けられた前記掌部とは反対側に伸びる4指側リンクと、
前記拇指フォルダと相対位置固定に前記拇指側回動軸に交差する方向に突設されたスライダ軸と、
前記4指側リンクとは反対側に向かって伸び且つ前記スライダ軸が相対的に滑動させられる案内面を有してその4指側リンクと相対位置固定に設けられ、前記拇指側リンクがその4指側リンクに接近する方向への前記拇指側回動軸の回動に伴って前記スライダ軸が回動しつつその案内面を押し上げることにより前記4指側回動軸回りに回動させられるスライダと
を、含むことを特徴とする摘み機構。
【請求項2】
前記拇指側回動軸は、手の甲の体表面に位置するように設けられているものである請求項1の摘み機構。
【請求項3】
前記拇指側回動軸と前記4指側回動軸とは互いに直交するものである請求項1または請求項2の摘み機構。
【請求項4】
前記スライダは前記4指側回動軸の軸心方向に直交する平面内に配置されているものである請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の摘み機構。
【請求項5】
前記拇指側リンクは拇指を模した形状を備えたものであり、前記4指側リンクは4指のうち少なくとも1本を模した形状を備えたものである請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の摘み機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手掌部での切断により失われた指先の摘み機能を再建するための手先具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、事故や疾病などによって上肢の一部が失われた場合に、義手を装着してこれを補うことが行われている。義手は、外観の復元のみを目的とした装飾用義手、特定の作業に特化させた作業用義手、ハーネスなどを介して身体の他の部分を利用して任意動作を可能とした能動義手などに分類される。これらのうち装飾用義手は何らの動作を行い得ないもので、機能的な復元を望む場合には作業用義手や能動義手が用いられる。
【0003】
上記の作業用義手は、専門的な仕事や野外、工場などの重労働に対応できるように、耐久性を重視すると共に、直接強い力を伝達するために、関節継手等の部品を極力排除した単純な構成が望ましい。また、体重を支えるだけでなく、物を動かないように押さえ、あるいは、物体の運搬に耐える強度を保証するために、数十kgの手先負荷に耐えることが望まれる。また、棒状の長尺物などを取り扱うことを可能とするために、手根関節部の回内外にも対応すると共に対象物の断面形状及び直径に合わせて付属品を取り換えできることも望まれる。
【0004】
上記のような仕様を満足させるため、作業用義手は、断端部ソケット、ハーネス、カフ、手先具より構成される。断端部ソケットは、上肢の断端部を広い面積でカバーする形状を有し、断端部に密着することによって、面圧を低減するとともに、装着時の安定性を確保する部品である。また、ハーネスは、義手を身体に固定、または、懸垂するために用いられるベルト状の部品であり、落下防止を目的として、肩義手、上腕義手、肘義手、前腕義手に利用される。また、カフは、前腕義手において、腕部に装着するバンドであり、ソケットと断端部とを密着させ、手先具に大きな負荷がかかった時に、義手の落下を防ぐことを目的とする部品である。また、手先具は、作業の内容に応じた特殊な形状を有するもので、主にステンレス鋼などの金属から成る。手先具の例としては、鍬や鎌などの柄を固定するための金具、物を抑えるために手先を平面にした金具、または、曲鉤と呼ばれるC型金具、双嘴鈎と呼ばれる拇指対立三指軽屈曲把持の形状を有する金具が挙げられる。なお、これらの手先具は可動部分が設けられていても能動的に操作できる機構は備えておらず、その可動部分を他方の手を用いて操作するようになっている。
【0005】
また、前記の能動義手は、装着した作業用義手の手先具の可動部を自ら動かすことができるように構成された機械装置であり、例えば双嘴鈎などを肩の関節の姿勢などの体の動き(例えば、肩の前後運動や肩甲骨の開閉運動)、あるいは電気や空気圧などの力を手先具に連結されたワイヤーなどに伝達して開閉可能にしたものである。
【0006】
上記の能動義手は、前記作業用義手の構成部品を基本とするが、例えば、肘よりも上位の切断の場合には、肘関節の屈曲伸展の機能を実現するために、上腕基部、肘関節、前腕基部が必要になる。上腕基部および前腕基部は、関節と関節とを接続する部品である。関節部品は、カーボンクロスまたはグラスクロスで包含され、これが上腕部または前腕部の型に合わせて接着固定されることにより、腕の外形と関節部品とが一体成型され、強度が確保されている。
【0007】
また、関節継手は、対応する関節に応じて、肩継手・肘継手・手継手などがある。肘継手はラチェット機構によって任意の角度で関節角を固定可能としたもので、ラチェットの開閉は、例えば肩の上下運動を蛇管ワイヤーにより伝達して行われる。また、手継手は手先具の回内外の姿勢調整を可能とするもので、摺動抵抗が強めに調整される。なお、このような能動義手では、手先具の上に装飾用グローブを被せて外見を復元することも行われる。
【0008】
上肢切断において、最も多いのは、指または掌の切断や欠損である。この手掌部の切断や欠損においては、関節の運動機能や感覚の機能が残されている場合が多く、様々な機能再建の可能性がある。手指の残存機能を活用する試みは、手の外科学会やマイクロサージャリ―学会を中心に多数の事例が報告されているが、近年の外科的治療の進歩は目覚ましく、特に、鋭利な刃物等による切断事例では切断片を接合する回復術で高い生着率を得られるまでに至っている。その一方で、磨滅損傷などの重篤な切断状態の場合には、未だ再建の道は遠い状況にある。義肢装具による機能回復はこのような場合に有効な選択肢となるべきであるが、能動義手の技術は立ち遅れているため種々の症例に殆ど対応できていないのが現状である。そのため、柄を太くしたり残存部に引っ掛かるように成形したスプーンや、ピンセット型の箸等の自助具が、一部の福祉工房などでオーダーメイド製作されて用いられているが、できることが単一の機能に限定されてしまうことや、不自然な外観となる等の点で機能面や外観面で十分とは言えず、また、機能の割に高価であるため普及していない。
【0009】
これに対して、指切断の症例に適用可能な可動式義指が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。この可動式義指は、指の付け根の関節である中手指節関節(metacarpophalangeal joint;以下「MP関節」という)より遠位の指切断に対して、MP関節の屈曲に連動して近位指節間関節(proximal interphalangeal joint;以下「PIP関節」という)および遠位指節間関節(distal interphalangeal joint;以下「DIP関節」という)を屈曲させる機構を組み込んだものである。この可動式義指では、MP関節の屈曲運動を、偏心リンク機構を用いてPIP関節およびDIP関節に伝達することにより、指先の回転運動を発生させている。これは、米国 DidrickMedical社からX−Fingerという名称で製品化されている。
【0010】
また、圧力弾性的にまたは曲げ弾性的に力伝達手段を介して結合されている駆動装置によって義指が少なくとも1つの回動軸を中心として可動とされた義手が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。この義指は、駆動装置に剛性的に連結されていたことから自然な動きが得られなかった従来構造に対して、力を受けた義指が弾性的にたわむことで自然な動きを実現したものである。また、一層自然な義指の動きを実現するために、本体と義指とを第1の回動軸周りの回動可能に連結する第1の駆動装置に加えて、義指の少なくとも一部分を第2の回動軸を中心として第1の回動軸に対し相対的に回動可能にする第2の駆動装置が義指に備えられた義手が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。また、同様な目的で、本体に取り付けられた複数の義指が駆動装置によって、本体の方へおよび互いに向かって可動であり、且つ、少なくとも2本の義指が、本体に対する異なった調整角度範囲を動くようにされた義手が提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。これら特許文献2〜4に記載された義手は駆動装置を備えており、例えば、遠隔操作あるいは筋電信号により動かされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2007−502650号公報
【特許文献2】特表2009−519795号公報
【特許文献3】特表2009−519796号公報
【特許文献4】特表2009−519797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、日常生活や業務遂行の上で、指が関与する手掌部の機能として、摘み機能や握り機能などが挙げられる。これらの機能を実現するためには、指のMP関節、PIP関節、DIP関節をそれぞれ能動的に且つ適宜連動して動かすことができるように構成することが必要となる。もっとも、例えば日常生活における物体把持では、各関節は必ずしも全て連動するわけではない。例えば、示指(第二指)と中指(第三指)については、尖指つまみが圧倒的に多いので、PIP関節、DIP関節は伸展の姿勢で固定した方が、尖指つまみが安定するため、関節連動機構は必要がない。これに対して、環指(第四指)と小指(第五指)については、握り込みの動作が多いため、関節連動機構がある方が、物体の安定把持を行いやすく好ましい。
【0013】
したがって、手掌部での切断に対しては、再建しようとする指の種類や重視する使用目的等に応じて、各関節の可動性、能動的な動作の可否、あるいは各関節相互の連動性を実現することが求められる。前記各特許文献に記載されている義肢は、このような要求に応えて、各関節を可動且つ連動するように構成したものである。
【0014】
しかしながら、前記特許文献1に記載された可動式義指は、個々の指に偏心リンク機構を備えることで関節を動かすものであるため、比較的重くなる問題がある。しかも、掌部での切断では、拇指CM関節は残存する場合が多いものの、示指から小指のMP関節が失われるので、残存しているMP関節を利用する上記可動式義指は、このような症例に対しては有効ではなかった。また、機構的にも複雑になり、更に、小寸法の部品に高強度が求められることから、製造費用が高額になる問題もあった。
【0015】
また、前記特許文献2〜4に記載されている義手は、駆動装置を備えていて、遠隔操作あるいは筋電信号を利用するように構成されているため、重く且つ大掛かりになる。また、何れの方法で駆動されても手本来の自然な動きを得ることは困難であった。そのため、手掌部の切断に対して、簡便な機構で自然な尖指つまみ機能を回復させる義手の提供が望まれていた。
【0016】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであって、その目的は、掌部で切断された症例に適用可能な摘み機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、拇指CM関節を残存して掌部が切断された手に装着することにより、その拇指CM関節を利用して作動させられる摘み機構であって、(a)掌部の残存部を嵌め入れるための掌ソケットと、(b)前記拇指CM関節に平行に設けられた拇指側回動軸において、その軸心回りの回動可能且つ軸心方向の併進可能に前記掌ソケットに取り付けられた拇指の残存部を嵌め入れるための拇指フォルダと、(c)前記拇指フォルダに拇指先端方向に伸びて設けられた拇指側リンクと、(d)前記拇指以外の4指の少なくとも1つのMP関節に略対応する位置に設けられた4指側回動軸において、その軸心回りの回動可能に前記掌ソケットに取り付けられた前記掌部とは反対側に伸びる4指側リンクと、(e)前記拇指フォルダと相対位置固定に前記拇指側回転軸に交差する方向に突設されたスライダ軸と、(f)前記4指側リンクとは反対側に向かって伸び且つ前記スライダ軸が相対的に滑動させられる案内面を有してその4指側リンクと相対位置固定に設けられ、前記拇指側リンクがその4指側リンクに接近する方向への前記拇指側回転軸の回動に伴って前記スライダ軸が回動しつつその案内面を押し上げることにより前記4指側回転軸回りに回動させられるスライダとを、含むことにある。
【発明の効果】
【0018】
このようにすれば、拇指フォルダがその軸心回りに拇指側リンクが4指側リンクに接近する方向に回動させられると、これと相対位置固定に設けられたスライダ軸が同時に回動させられて、そのスライダ軸が相対的に滑動させられることによってスライダの案内面が押し上げられるので、そのスライダは4指側回動軸回りに回動させられ、これと相対位置固定に設けられた4指側リンクは同時に拇指側リンクに向かって回動させられる。このとき、スライダの案内面は4指側リンクとは反対側に向かって伸びるように設けられているが、拇指フォルダは拇指側回動軸の軸心方向に併進可能に構成されていることから、スライダ軸がその拇指側回動軸の軸心方向に動きながら、スライダの案内面を滑らかに動くことができる。そのため、拇指CM関節の内外転および屈伸によって、拇指側リンクと4指側リンクとによる摘み動作が行われるので、拇指CM関節を残して掌部で切断された症例に適用可能な摘み機構が得られる。
【0019】
なお、上記構成によれば、拇指フォルダに併進力を作用させると、スライダ軸が拇指側回動軸の軸心方向の前後に動くことになる。そのため、スライダ軸と4指側回動軸との距離を変更することができ、ひいてはその4指側回動軸の回転運動量を変更することができるので、拇指CM関節の動きのみで、4指側リンクへの伝達力や開き角を調整できる利点がある。また、上記構成によれば、拇指側回動軸は、拇指CM関節と平行に設けられていれば足り、その延長線上に位置する必要がない。そのため、拇指側回動軸を拇指CM関節の延長線上からずれた位置に設けることにより、拇指CM関節の動きを回動および屈伸の2自由度の動きとして取り出すことができ、これを拇指側回動軸の回動および併進動作として取り出して、上述した各動作が得られるのである。
【0020】
ここで、好適には、前記拇指側回動軸は、手の甲の体表面に位置するように設けられているものである。このようにすれば、拇指側回動軸の拇指CM関節からの位置ズレを最小限に留めることができると共に、拇指側リンクおよび4指側リンクの屈曲動作方向に拇指側回動軸が位置しないため、摘み動作の妨げにならないように拇指側回動軸を容易に設け得る利点がある。
【0021】
また、好適には、前記拇指側回動軸と前記4指側回動軸とは互いに直交するものである。このようにすれば、拇指側フォルダおよびスライダ軸の拇指側回動軸の軸心方向の併進運動の方向が4指側回動軸に直交する位置関係になるため、スライダが一層滑らかに押し上げられて、一層滑らかな摘み動作が可能になる。なお、上記「直交」は数学的な意味における「直交」に限られず、おおむね直交する角度関係にあれば足り、また、「ねじれの位置」にある場合も含まれる。
【0022】
また、好適には、前記スライダは前記4指側回動軸の軸心方向に直交する平面内に配置されているものである。このようにすれば、スライダの案内面を摺動させられるスライダ軸からそのスライダに伝達される力の損失が低減されるので、摘み動作が一層容易になる。
【0023】
また、好適には、前記拇指側リンクは拇指を模した形状を備えたものであり、前記4指側リンクは4指のうち少なくとも1本を模した形状を備えたものである。このようにすれば、簡便に摘み機構を実現できる義手が得られる。すなわち、本願発明は、義手に限られず、手の形状を備えていない自助具にも適用できるが、拇指CM関節の動きを利用して4指側リンクとの間で自然な摘み動作を実現できるので、指形状を模した外形を与えることにより、義手として好適に用い得る。なお、義手として構成される場合には、5指を備えた装飾用グローブを嵌め付けるようにすることにより外形を与えうるため、4指側リンクは、摘み動作に必要な最低限の本数、例えば1〜2本で構成してよい。
【0024】
また、好適には、前記摘み機構において、前記拇指側リンクは全体が柔軟性を有する材料で構成される。このようにすれば、摘み動作を行った場合に物体表面から拇指側リンクに加えられた力によって、その拇指側リンクが全体的に変形することにより、その力が拇指フォルダが嵌め付けられた拇指残存部に伝達される。したがって、拇指残存部の触覚によって摘み動作により物体に加えられた力や、その物体表面の硬さなどを感知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施例の摘み機構を備えた義手の一例を説明する図である。
図2図1の義手の摘み動作を説明する図である。
図3図1の義手に備えられる拇指側リンクおよび拇指回転軸を一例を説明する図である。
図4図3の4指側リンク、スライダ、およびスライダ軸の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化あるいは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0027】
図1は、本発明の一実施例の摘み機構を備えた義手10の全体を、手12に装着した状態で示す図である。義手10は、拇指CM関節14を残して他の全ての指を欠損した手12に適用されるもので、拇指に対応する拇指側リンク16と、他の4指のうち示指および中指に対応する4指側リンク18と、掌部20に嵌め着けるための掌部ソケット22と、拇指残存部24に嵌め着けるための拇指フォルダ26とを備えている。
【0028】
前記拇指フォルダ26は、例えばアルミニウムやチタン合金等の金属あるいはグラスファイバーやカーボンファイバーを用いたFRP等の樹脂から成るもので、拇指残存部24が嵌め入れられる孔28を有している。拇指フォルダ26は、体表面に位置するように設けられた拇指回動軸30においてその軸心周りの回動可能且つその軸心方向の移動可能に前記掌部ソケット22に取り付けられている。拇指回動軸30の軸心Aを図に一点鎖線で示す。なお、掌部ソケット22には、後述するように拇指回動軸30を回転および併進可能に支持する軸受けが備えられているが、この図では省略した。
【0029】
また、前記拇指側リンク16は、前記拇指フォルダ26から連続的に形成されているもので、装着される手12の本来の拇指の寸法および形状を模した大きさを備えている。この拇指側リンク16は、本来の拇指の骨と同等以上の強度を有する。
【0030】
また、前記掌部ソケット22は、拇指フォルダ26と同様な金属あるいは樹脂などから成るもので、後述するバンドなどを用いて手12の甲側に確実に固定されるようになっている。
【0031】
また、前記4指側リンク18は、拇指フォルダ26と同様な金属あるいは樹脂などから成るもので、装着される手12の拇指以外の4指に対応する位置に、それぞれの寸法および形状を模した大きさで設けられている。4指側リンク18は、掌部ソケット22に対して、軸心B周りの回動可能に取り付けられているもので、例えば、4本全てが一体的に設けられているが、図1では支持関係の詳細を省略して示した。4指側リンク18は、図示のように4本が一体的に設けられる態様に限られず、少なくとも1本が回動可能に構成されていれば足り、他のものは掌部ソケット22に対して相対位置固定に設けられてもよい。上記軸心Bは、例えば、装着される手12の本来の4指のMP関節の位置に設けられており、前記拇指回動軸30とは略直交(ねじれの位置を含む)する位置関係にある。
【0032】
また、上記の4指側リンク18からは、その4指の伸びる方向とは略反対方向に向かって伸びるスライダ32が相対位置固定に備えられている。スライダ32は、4指側リンク18と一体的に形成され、あるいは個々に形成された後に組み付けられることで、それらの相対位置が固定されている。このスライダ32は、全体が軸心Bを法線とする平面に沿った薄板状を成し、その中央部に板厚方向に貫通する長孔34を有するもので、例えば、装着される手12の甲側に4指側リンク18とは反対側の一端が位置するように設けられている。
【0033】
前記の拇指回動軸30の4指側の先端部には、上記スライダ32に向かって突き出すスライダ軸36が備えられており、そのスライダ軸36は、前記長孔34内に突き通されている。図1においては、スライダ軸36と拇指回動軸30とが一体に形成されているが、これらは個々に形成されて相対位置固定に組み付けられていてもよい。
【0034】
なお、図1において、38は装飾用グローブであり、上記各構成部材を覆い隠し、他者に対する違和感を軽減させると共に、拇指回動軸30やスライダ32等の可動部分を保護する目的で装着されている。
【0035】
このように構成された義手10は、手12に装着して拇指CM関節14を4指側に向かって回動および屈伸させると、拇指側リンク16が4指側リンク18側に向かい、その動きに伴って、拇指回動軸30がその軸心A方向に僅かに併進させられつつ、その軸心A周りに回動させられる。これにより、拇指回動軸30の先端部に備えられているスライダ軸36は、軸心A周りにスライダ32の一端に向かって回動させられるので、その長孔34内でスライダ32を押し上げつつ案内される。すなわち、スライダ32の案内面を滑りながらこれに回転力を伝達する。この結果、スライダ32が回動させられて引き起こされ、これに相対位置固定に設けられた4指側リンク18は、前記軸心B周りに拇指側リンク16に向かって回動させられる。
【0036】
図2は、このようにして拇指側リンク16が4指側リンク18側に回動すると共に、4指側リンク18が拇指側リンク16側に回動した状態を示したものである。本実施例の義手10によれば、拇指CM関節14を回動および屈伸させるだけで、拇指残存部に設けられた拇指側リンク16が4指側リンク18に向かって動くだけでなく、機械的なリンク機構によってその4指側リンク18も拇指側リンク16に向かって動くので、図2に示されるように、拇指側リンク16と4指側リンク18との間で尖指摘みの動作が容易に実現される。
【0037】
上記の尖指摘み動作において、拇指CM関節14に作用させる屈伸力を変化させると、拇指側リンク16の長手方向の相対位置が変化すると共に、拇指回動軸30が併進させられることによってスライダ軸36と軸心Bとの距離が変化しこれに伴って回転運動量が変化し、ひいてはスライダ32に伝達される回転力が変化する。そのため、拇指CM関節14の動きだけで、尖指摘みの開き角度や摘み動作の強さを調整することができる。
【0038】
なお、図2においては、4指側リンク18は、示指および中指に対応する2本のみが回動しており、環指および小指に対応する2本は回動していない。図2図1に示したものとは4指側リンク18の構成がやや異なっていて、図示のものでは、前者の2本のみが掌部ソケット22に対して相対回動可能に構成されており、後者の2本は掌部ソケット22に固定されている。尖指摘み動作は、通常、拇指と示指および中指との間で行われるもので、同時に環指および小指が曲げられると、動作の妨げになり得る。そのため、拇指CM関節14の動きのみの微妙な制御で尖指摘みを実現させるに際しては、図2に示されるように、掌部ソケット22に対して示指および中指に対応する2本だけを相対回動させることが好ましいと考えられる。もっとも、このように2本だけが動くように構成するか、図1に示すように4本が一体に設けられ、あるいは3本が一体に設けられて同時に動くように構成するか、または、1本のみが動くように構成するかは、所望する主たる用途や、他の用途における不都合を考慮して適宜定めればよい。
【0039】
図3は、前述した拇指回動軸30の軸受け構造を説明する図であり、図4は、4指MP関節位置に設けられた4指側の軸受け構造を説明する図である。これらの図は前記図1或いは図2と厳密に対応するものではないが、軸受け構造の一例として両図を示す。
【0040】
図3において、掌部ソケット22には、軸受38,40が拇指フォルダ26に向かって設けられており、その拇指フォルダ26からは、その軸受け38,40の外側に位置するように延長して回動軸固定端42,44が形成されている。前記拇指回動軸30は、軸受38,40に設けられた貫通孔に刺し通され、拇指フォルダ26の回動軸固定端42,44にその両端が相対回動不能に固定されている。回動軸固定端42,44は、軸受38,40よりも十分に離れた位置に形成されているが、拇指回動軸30には、それら軸受38,40の間の位置に前記スライダ軸32の軸基部46が拇指回動軸30の直径よりも大径に設けられている。そのため、拇指CM関節14の屈伸動作に伴って生ずる拇指回動軸30の併進は、上記軸受38,40、回動軸固定端42,44、および軸基部46によって、僅かな大きさに制限されることとなる。
【0041】
また、図4において、掌部ソケット22の手12幅方向の両端部には、一対の支持フレーム48,50が備えられており、それらの間には、前記4指側リンク18のリンク基部52がその長手方向に沿って伸びる軸心B周りの回動可能に支持されている。なお、図4において、54は掌部ソケット22を手12に固定するためのバンドである。前記4指側リンク18は、このリンク基部52に相対位置固定に形成されており、図4では2本が備えられている構成例を示した。図示のように2本のみを動くように構成する場合には、4本のうちの他の2本は、例えば、支持フレーム48,50等に形成すればよく、4本が動くようにする場合には、リンク基部52に更に2本を一体的に形成すればよい。
【0042】
上記リンク基部52の長手方向の中間部には、4指側リンク18とは反対側に向かって伸びるスライダ32が備えられている。前記図1図2では、スライダ32が4指側リンク18の拇指側端に備えられているように描かれているが、前述した作動原理からも明らかなように、スライダ32は4指側リンク18と相対位置固定にその反対方向に向かって伸びるものであれば足りるので、このようにリンク基部52の中間部に備えられていても、前述した尖指摘み動作は何ら変わりなく実現される。
【0043】
また、上記スライダ32の長孔34に刺し通されたスライダ軸36は、前記軸基部46の先に一体的に形成されており、拇指CM関節14が内転していない状態では、リンク基部52の長手方向に略沿って伸びる。この状態から拇指CM関節14を内転させると、スライダ軸36は、先端側が図4の左方向に回動しつつ、手12の甲側に回動する。これにより、スライダ32は手12の甲側に回動させられ、回動軸Bに対して反対側に位置する4指側リンク18が手12の内側に回動させられるので、前記図1図2に示した場合と同様な動作が得られる。
【0044】
なお、図3図4において、拇指側リンク16、4指側リンク18は、何れも鉄鋼製の芯材の表面、あるいは少なくとも手12の内側の面が柔軟性を有するフェルト地などで覆われた構造を有する。このような柔軟性を有する材料が用いられることにより、尖指摘みの際に対象物を柔らかく摘むことができると共に、その感触を拇指残存部に伝えることができる利点がある。
【0045】
以上説明したように、本実施例によれば、拇指フォルダ26がその軸心回りに拇指側リンク16が4指側リンク18に接近する方向に回動させられると、これと相対位置固定に設けられたスライダ軸36が同時に回動させられて、そのスライダ軸36によってスライダ32の長孔34内の案内面が押し上げられるので、そのスライダ32は4指側回動軸B回りに回動させられ、これと相対位置固定に設けられた4指側リンク18は同時に拇指側リンク16に向かって回動させられる。このとき、スライダ32の案内面は4指側リンク18とは反対側に向かって伸びるように設けられているが、拇指フォルダ26は拇指側回動軸30の軸心方向に併進可能に構成されていることから、スライダ軸36がその拇指側回動軸30の軸心方向に動きながら、スライダ32の案内面を滑らかに動くことができる。そのため、拇指CM関節14の内外転および屈伸によって、拇指側リンク16と4指側リンク18とによる摘み動作が行われるので、拇指CM関節14を残して掌部で切断された症例に適用可能な摘み機構が得られる。
【0046】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0047】
10 義手、12 手、14 拇指CM関節、16 拇指側リンク、18 4指側リンク、20 掌部、22 掌部ソケット、24 拇指残存部、26 拇指フォルダ、28 孔、30 拇指回動軸、32 スライダ、34 長孔、36 スライダ軸、38,40 軸受、42,44 回動軸固定端、46 軸基部、48,50 支持フレーム、52 リンク基部、54 バンド
図1
図2
図3
図4