(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
腐植酸粗製物と、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、および水酸化アンモニウムから少なくとも一つを含む1価アルカリの水溶液を質量基準で1:5〜1:10で、pH5.0〜7.0となるようにして、40〜90℃、0.5〜1時間攪拌した後に、固液分離工程を含む、pH5.0〜7.0の範囲で、全有機炭素濃度が20,000mg/L以上である腐植酸抽出液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る腐植酸抽出物の実施形態を説明する。
【0016】
本実施形態に係る腐植酸抽出物は、水酸化カリウム水溶液等により、pH5.0〜7.0で抽出したものであり、全有機炭素濃度として20,000mg/L以上の腐植酸抽出液を得ることを特徴とする。
【0017】
本実施形態に係る腐植酸抽出物は、褐炭等の若年炭を硝酸で酸化し得られる腐植酸粗製物から水酸化カリウム水溶液等を用いpH5.0〜7.0の範囲で抽出する事を特徴とするので、先ずその製造方法について説明する。
【0018】
[腐植酸粗製物の製造方法]
ここで、「若年炭」とは炭素含有量の少ない石炭であり、炭素含有率が83質量%以下と定義される。好ましくは、炭素含有率が78質量%以下の若年炭であれば、石炭化が進行途中であり成分中の芳香族縮合環はまだ少なく縮重合の割合も小さく、脂肪族炭化水素の側鎖や主鎖の割合が高く硝酸による酸化分解しやすい。また同時に酸性官能基も多く、キレート作用などの効果が期待される。また親水性が高く抽出する際に利点となる。
【0019】
若年炭は、例えば、泥炭、亜炭、褐炭、亜瀝青炭等であり、これらの1種又は2種以上を混合したものが使用される。
【0020】
ここで、該若年炭1000kgあたり、濃硝酸を無水換算で500〜1000kg配合し、20〜60分間混合する。硝酸の添加量を調節することにより、得られる腐植酸粗製物のメラニックインデックスを2.0〜3.0とすることが出来る。
【0021】
[メラニックインデックス]
本実施形態に係る腐植酸粗製物は、メラニックインデックス(以下、「MI」という。)が2.2〜3.0であることを特徴とする。
【0022】
ここで、MIとは、腐植酸の分類に用いられている指標であり、水酸化ナトリウム抽出液の吸収スペクトルの波長450nmと520nmにおける吸光度の比(A
450/A
520)である。(熊田恭一著、土壌有機物の化学第2版 学会出版センター(1981)、日本土壌肥料学雑誌 第71号 第1号 p.82〜85(2000))。
【0023】
より具体的には、本実施形態に係るMIとは、次の方法によって算出されるものである。
試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕する。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤する。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温に戻してから再度精秤する。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求める。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過する。濾液の450nmの吸光度と520nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定する。この場合、450nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し吸光度が0.8以上1.0未満に調整してから、520nmの吸光度を測定する。(450nmでの吸光度/520nmでの吸光度)の比を算出し、MIとする。
【0024】
MIが2.2以上であれば、充分なアルコール性水酸基やメトキシル基などの活性基を有しているので、水溶性が向上しpH7.0以下での抽出率も向上する。また、MIが3.0以下であれば、過剰な酸化反応を抑制し硝酸コストの低減につながる。
【0025】
MIの2.2〜3.0の増減は腐植酸粗製物製造時の硝酸量の増減によって行うことができ、硝酸量を多くすればMIが増加する。天然腐植酸のMIは概ね1.7以下である。
【0026】
さらには、MIが2.2〜2.4であることが、適切な使用量で硝酸を用いることができ、コストを低く抑えられるという理由から好ましい。
【0027】
[腐植酸抽出液の製造方法]
上記、腐植酸粗製物に水を加え、pHを測定しながら水酸化カリウム等のアルカリをpH5.0〜7.0となるように適宜添加し、液温を40〜90℃として、0.5〜1時間攪拌した後、40℃以下まで冷却する。未反応の残渣を遠心分離、フィルタープレス等で固液分離した上澄み部として腐植酸抽出液を得る。
【0028】
[腐植酸抽出の際の固液比]
腐植酸粗製物に対する、抽出溶媒の量を固液比と定義する。腐植酸粗製物100gを1Lのビーカーに入れ、1000mLとなるように溶媒を添加したものを、固液比1:10とする。
【0029】
液温による腐植酸の抽出率に大差はなかったが、抽出液の凍結防止や高温による取り扱い性の悪化を防止するため、40〜90℃の範囲が望ましい。また抽出時間も、0.5時間以上で腐植酸の抽出率に大差なく、作業効率を考え0.5〜1時間の範囲が望ましい。
【0030】
[全有機炭素濃度]
抽出液の全有機炭素(TOC)濃度の測定方法は、次のように定義される。腐植酸粗製物の抽出液を、3,000×gで遠心分離した上澄み液を、全有機体炭素計(島津製作所製TOC-L)を用いて燃焼触媒酸化方式で測定した値である。
【0031】
尚、TOCは直接、腐植酸の定量値ではない。煩雑な腐植酸の定量法(上記、国際腐植物質学会法等)に比べ、簡易に定量可能なTOCを本発明では指標としている。この値間には強い相関があり、原料とする褐炭の種類などにより異なるが、腐植酸量はTOCの1.4〜1.8倍量と推定できる。
【0032】
抽出液の有機態炭素量は、腐植酸粗製物と溶媒の固液比を変えることで調整する事が可能である。また、腐植酸粗製物の製造の際に、MI値を上げるほど抽出率が上がり、この手法でも抽出液の有機態炭素量を調整できる。これらは、腐植酸抽出物の使用目的により適宜変更する。
【0033】
若年炭は天然物であり、その産地によって、種類やロット間又はロット内でも品質が異なる。そのため、同じ条件で製造された腐植酸粗製物であっても、腐植酸量が著しく異なってしまうことがある。
【0034】
〈作用効果〉
以下、上記実施形態に係る腐植酸抽出液、その製造方法について説明する。
【0035】
上記実施形態に係る腐植酸抽出液は、若年炭の硝酸酸化物(腐植酸粗製物)から抽出された、pH7.0以下の腐植酸抽出液であることを特徴とする。
【0036】
一般的な畑作物は至適pHが6.5前後であり、上記実施形態に係る腐植酸抽出液を肥料用途として使用する場合は作物体の至適pHと非常に近いことが有効である。また、作物体の至適pHであれば、鉄などの金属要素がアルカリ側で水酸化鉄として沈殿し、植物が吸収できない等の問題を回避できる。
【0037】
また、製造工程においても中性に近いpHであるため、作業員のアルカリ暴露など危険な作業を回避できる。
【0038】
上記工程からなる腐植酸抽出液は、肥料用途のみならず中性に近いpHで使用するキレート剤、凝集剤などの工業用途にも使用することが出来る。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
ドラフト中で、250μm全通となるように粉砕した炭素含有率が77質量%の褐炭500gを2リットルのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸630gを添加した。70℃の水浴中で約1時間酸化反応を行った後、105℃で乾燥し腐植酸粗製物を得た。MI値は、前述の手法で測定した。この腐植酸粗製物100gに0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH6.5とした。固液比1:10となるように水を加え、80℃で1時間抽出した。この抽出液を、3,000×gで遠心分離し、得られた上澄み液は適宜希釈し、全有機体炭素計でTOCを定量した。
【0041】
[実施例2]
濃度48質量%の硝酸量を840g添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0042】
[実施例3]
濃度48質量%の硝酸量を1,000g添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0043】
[実施例4]
0.3mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH5.0とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0044】
[実施例5]
濃度48質量%の硝酸量を1,000g添加し、0.3mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH5.0とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0045】
[比較例1]
腐植酸粗製物として天然腐植酸(内蒙古産)を使用した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0046】
[比較例2]
腐植酸粗製物として炭素含有率が77質量%の褐炭を使用した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0047】
[比較例3]
濃度48質量%の硝酸量を400g添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果に示すように、本発明に係る実施例1〜5の腐植酸抽出液は、pH5.0〜6.5の酸性〜弱酸性条件下でも溶解し、高濃度の腐植酸抽出液が得られる。また、実施例5の様に、腐植酸粗製物のMI値を高めることにより、pH5.0でもさらに高濃度の腐植酸抽出液が得られる。比較例2は溶解率が非常に悪いが、比較例3の様に硝酸酸化により溶解率が高まる傾向となる。ただし、目標とする腐植酸の濃度は達成できず、腐植酸粗製物のMI値が2.2以上となるように硝酸を添加し酸化処理を実施する必要がある。
【0050】
[比較例4]
水酸化カリウム水溶液の代わりに、0.2mol/Lの水酸化マグネシウム溶液(スラリー)を900mL、2.0mol/L水酸化マグネシウム溶液(スラリー)を適宜加えること以外、実施例1と同様の処理を実施し、TOCを定量した。
【0051】
【表2】
【0052】
比較例4は、溶媒のアルカリの種類を変更しているが、抽出液の濃度が低下しており、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム等の1価アルカリを使用し実施する必要がある。これらの抽出溶媒は、例えば肥料用途とする場合は水酸化カリウムや水酸化アンモニウムを用いるなど使用用途に合わせて選択できる。
【0053】
[実施例6]
腐植酸粗製物の量を200gとし、固液比1:5になるように調整したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0054】
[比較例5]
腐植酸粗製物の量を400gとし、固液比1:2.5になるように調整したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0055】
[比較例6]
腐植酸粗製物の量を10gとし、固液比1:100になるように調整したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0056】
【表3】
【0057】
比較例5は抽出時に、スラリー化し固液分離が困難な状況となったため検討を中止した。この固液比では製造できなかった。固液比1:5〜1:10の範囲では高濃度の腐植酸抽出液が得られた。比較例6は大部分の腐植酸粗製物が溶解し抽出効率が高いと想定されたが、溶媒量が多いため結果として溶液濃度が低下したと考えられた。
【0058】
[栽培試験]
レタス(品種:フリルアイス、雪印種苗株式会社製)を供試作物とし、水耕栽培により腐植酸抽出液の栽培試験を実施した。水耕液はOATハウス1号1.5g及びOATハウス2号1.0g(ともにOATアグリオ(株)製)を1Lの蒸留水に溶解し調製した(OATアグリオ(株)標準A処方)。
【0059】
水耕液は100mL容量のポリスチレン容器に水耕液を80mL入れ、発泡スチロール製の栽培板の中央に、実生苗(加水したシャーレに播種し、10日目の苗)をウレタンフォームで固定して定植した(
図1参照)。水耕液は最初の3日間は標準A処方の1/5濃度、次の3日間を1/2濃度、次の3日間を1/1濃度(標準A処方)として順化を実施した。
【0060】
順化した苗は、1000mL容量のポリスチレン容器に水耕液を800mL入れ、発泡スチロール製の栽培板の中央に、順化した該苗を移植し、7日毎に水耕液全量を交換し28日間、24℃で栽培した。栽培後、地際部で地上部(茎葉)と地下部(根)を刈り取りそれぞれの質量を測定し、収量とした。試験はn=5で実施し、平均値であらわした。
【0061】
[実施例7]実施例1で得た腐植酸抽出液を、順化時、及び栽培時の水耕液にTOC濃度として1mg/Lとなるように添加し、上記のレタス栽培を実施した。
【0062】
[実施例8]TOC濃度として10mg/Lとなるように、水耕液に実施例1で得た腐植酸抽出液を添加した以外は、実施例7と同様に実施した。
【0063】
[実施例9]TOC濃度として50mg/Lとなるように、水耕液に実施例1で得た腐植酸抽出液を添加した以外は、実施例7と同様に実施した。
【0064】
[比較例9]添加した腐植酸抽出液のかわりに、水を添加し実施例6と同様に実施した。
【0065】
【表4】
【0066】
表4の結果に示すように、本発明に係る実施例7〜9の腐植酸抽出液はレタスの生育に有効に働き、地上部の生育量を増加させた。また、地下部の生育にも有効に働いた。地下部の生育は養分吸収に有効に働くため、結果として地上部の生育に寄与したと考えられる。農業生産上、有効な資材であることがわかった。