(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231072
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】静的および流体力学的な封止機能を有するラジアルシャフトシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20171106BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-501906(P2015-501906)
(86)(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公表番号】特表2015-510999(P2015-510999A)
(43)【公表日】2015年4月13日
(86)【国際出願番号】US2013033262
(87)【国際公開番号】WO2013142665
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2016年2月25日
(31)【優先権主張番号】13/426,450
(32)【優先日】2012年3月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599058372
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セドラー,ブレント・アール
(72)【発明者】
【氏名】トス,デイビッド・エム
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−068683(JP,A)
【文献】
実開平05−030638(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0057472(US,A1)
【文献】
英国特許出願公告第00996711(GB,A)
【文献】
独国特許出願公開第19922842(DE,A1)
【文献】
英国特許出願公開第01459352(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアルシャフトシールであって、前記ラジアルシャフトシールは、ハウジング内でシャフトの周りに収容されて、前記シャフトシールの空気側を前記シャフトシールのオイル側から封止分離するように構成され、
環状のマウント部分と、
前記マウント部分に接続されたエラストマーシール本体と、
前記シール本体に接続されたシールリップとを備え、前記シールリップは、オイル側端部と自由空気側端部との間で軸方向に延在する環状の内側シール面を有し、前記内側シール面は、前記シャフトに沿って前記シャフトと封止係合して延在する第1の溝領域と、周方向に連続した静的リブとを有し、前記第1の溝領域は、前記静的リブから軸方向に離間され、前記静的リブと前記オイル側端部との間に延在して、潤滑剤を前記シールの前記オイル側に向かって送り、前記第1の溝領域は、第1の方向に沿って前記静的リブに対して傾斜した複数の第1の溝を含み、前記第1の方向は、前記シャフトに対する前記ラジアルシャフトシールの相対的な回転中に、前記潤滑剤を前記シールの前記オイル側に向かって送るように構成されており、
前記内側シール面は、前記静的リブから前記シールの前記空気側に向かって前記内側シール面に沿って延在して、前記潤滑剤を前記シールの前記オイル側に向かって押し戻す第2の溝領域をさらに含み、前記第2の溝領域は、第2の方向に沿って前記静的リブに対して傾斜した複数の第2の溝を有し、前記第2の方向は、前記シャフトに対する前記ラジアルシャフトシールの相対的な回転中に、前記潤滑剤を前記シールの前記オイル側に向かって送るように構成されており、
前記複数の第2の溝は、前記複数の第1の溝と比べて、前記静的リブに対してより小さな傾斜角に沿って延在している、ラジアルシャフトシール。
【請求項2】
前記第1の溝は前記静的リブに合流しない、請求項1に記載のラジアルシャフトシール。
【請求項3】
前記第1の溝は線状に直線的であり、前記第2の溝は線状に直線的である、請求項1または請求項2に記載のラジアルシャフトシール。
【請求項4】
前記シールの前記空気側端部から前記空気側に向かって延在する補助リップをさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のラジアルシャフトシール。
【請求項5】
前記オイル側端部は、前記シャフトの滑り面の径よりも小さい第1の径を有し、前記自由空気側端部は、前記第1の径よりも小さい第2の径を有し、それによって、前記内側シール面の全体が前記シャフトの前記滑り面に封止係合することを確実にする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のラジアルシャフトシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.技術分野
本発明は、概して、回転するシャフトとハウジングとの間に流体密封シールを形成することを目的とする種類のダイナミックオイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術
ダイナミックラジアルシャフトオイルシールは、シールのいわゆる「オイル側」と「空気側」とを有するように設計される。これらの名称は設置されたときのシールの向きに関連し、オイル側はハウジングの内側に面してオイルと接触し、空気側は外側に面して空気にさらされる。
【0003】
効果的なシールを維持しながらの使用中、潤滑剤をシールのオイル側に維持しつつ、粉塵および他の汚染物質をシールの空気側に保持することが望ましい。シールリップのシール面上の静的バンドを、静的バンドからシールのオイル側に向かって延在する螺旋状の溝と結合させて、潤滑剤をシールのオイル側に押し戻すことが知られている。しかし、螺旋状の溝が静的バンドに合流している状態では、潤滑剤の少なくとも一部が、シールのオイル側に押し戻されるのではなく静的バンドを迂回することがあり、静的バンドの空気側に残存する傾向がある。これは、場合によってはシール内で負圧を生じさせて、静的バンドの空気側に潤滑剤を蓄積させることによって、望ましくない影響をシールに与え、ひいては付着物を生じさせ、静的バンドのオイル側の螺旋状の溝が潤滑剤をシールのオイル側に押し戻す能力を失わせる可能性がある。したがって、シールの耐用寿命、および場合によってはシールが保護している軸受または他の部品の耐用寿命が縮められる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
発明の1つの現在好ましい局面によれば、ハウジング内でシャフトの周りに収容されて、シャフトシールの空気側をシャフトシールのオイル側から封止分離するように構成されたラジアルシャフトシールが提供される。シールは、環状のマウント部分と、マウント部分に接続されたエラストマーシール本体と、シール本体に接続されたシールリップとを含む。シールリップは、オイル側端部と自由空気側端部との間で軸方向に延在する環状の内側シール面を有する。内側シール面は、第1の溝領域と、環状の静的バンドとを有する。第1の溝領域は、静的バンドから軸方向に離間され、静的バンドとオイル側端部との間に延在して、潤滑剤をシールのオイル側に向かって送る。
【0005】
発明の別の局面によれば、第2の溝領域が静的バンドからシールの空気側に向かって内側シール面に沿って延在して、潤滑剤をシールのオイル側に向かって押し戻す。
【0006】
発明の別の局面によれば、第1の溝領域は、第1の方向に方向付けられた複数の第1の溝を有し、第2の溝領域は、第2の方向に方向付けられた複数の第2の溝を有し、第1の方向は第2の方向と同じである。
【0007】
図面の簡単な説明
本発明の上記およびその他の局面、特徴および利点は、以下の現在好ましい実施の形態およびベストモードに関する詳細な説明、添付の請求項、および図面と関連付けて考慮されると、より容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のある局面に従い構成されたラジアルシャフトシールの断面図である。
【
図1A】シャフト上に配置されたシールを示す
図1と同様の図である。
【
図2】発明のある局面に係る
図1のシールのシール面の概略図である。
【
図3】発明の別の局面に係る
図1のシールのシール面の概略図である。
【
図4】発明の別の局面に従い構成されたラジアルシャフトシールの断面図である。
【
図5】発明の別の局面に係る
図4のシールのシール面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましい実施形態の詳細な説明
さらに詳しく図面を参照すると、
図1および
図1Aは、本発明のある局面に従い構成された、以降シール10と呼ぶラジアルシャフトシールを例示する。限定ではなく一例として、シール10は、クランクケースに応用して使用するのに適しており、回転可能なシャフト12の周りを封止してラジアルシャフトシールアセンブリ13を形成することを目的とする。シール10は、設置されたときのシール10の向きとの関連で、オイル側Oと、軸方向に反対の空気側Aとを有する。オイル側Oは封止されている適用物の内側に面する側であり、空気側Aは封止されている適用物の外側の周囲に面する側である。シール10は、エラストマーシール材料16が装着された金属もしくはポリマーの輪または環状構造体15として部分的に設けられたカラー14とも呼ばれる外側ケース等のマウント部分を含む。エラストマー材料16はシール本体17を形成し、径方向内側に延在してシールリップ18をもたらす。シールリップ18は、オイル側端部22と自由空気側端部24との間で軸方向に延在する環状内側シール面20を有する。内側シール面20は、シャフト12に沿ってシャフト12と封止係合して延在する第1の溝領域26と、シャフト12に沿ってシャフト12と封止係合して延在する第2の溝領域28とを有する。第1の溝領域26および第2の溝領域28は、その間に延在する、バンド30とも呼ばれる環状の周方向に連続したリブによって、互いに軸方向に離間されている。潤滑剤が偶然バンド30を迂回した場合、第1の溝領域26は、潤滑剤、たとえば油をオイル側Oの方に導くように構成され、第2の溝領域28は、潤滑剤、たとえば油をバンド30の方にかつオイル側Oに戻すように導くように構成される。バンド30は、第1および第2の溝領域26,28それぞれの間に介在し、シールリップ18とシャフト12との間に相対的運動がない状態で固定シールをもたらす一方、潤滑剤がバンド30の空気側Aに流れることと空気側に存在することとを抑制するようにも作用する。したがって、オイル側Oから空気側Aに潤滑剤が移動することが抑制され、負圧蓄積がシールのオイル側に生じるのを防ぐことが容易となり、潤滑剤がバンド30を迂回する場合、潤滑剤は第2の溝領域28を介して流され、強制的にバンド30を迂回し、オイル側Oに戻される。それゆえ、潤滑剤がバンド30の空気側に蓄積し残存することが防がれ、ひいては、分解された潤滑剤の堆積物および他の形態の汚染物質がバンド30の空気側に不要に蓄積することが防がれる。
【0010】
金属のカラー14は、L字型、または、当該技術で周知のように特定の用途の要求に応じてC字型、S字型または図示のような環状等、任意の数の構成を有していてもよい。金属の強化リング構造体15は、少なくとも一部が外面上のエラストマーシール材料16で覆われて示され、輪郭に凹凸32を設けることにより、クランクケースの穴(図示せず)にフィットした流体密封状態の設置をもたらしてもよい。
【0011】
環状ブリッジ31は、シールリップ18をシール本体17に、使用に適した状態で接続する。環状ブリッジ31は、ブリッジ31がシールリップ18から概ね横方向に径方向外側に延在し、次いでシール10の中心軸34に対してある角度で重なる態様でシールリップ18上を戻るように、シールリップ18のオイル側端部22とシール本体17とに接続される。この角度はたとえば約20〜40度の間であるが、この角度の範囲は、意図される用途にとって望ましい場合は、水平面から1〜89度に亘ることができる。このため、ブリッジ31は、シールアセンブリ10の空気側Aに面する環状のポケット33をもたらす。
【0012】
シールリップ18は、弛緩し設置されていない状態のときは、シール10の中心軸34から約1〜10度の間の数度だけわずかに傾いて延びている。シール面20は、自由状態にある間、オイル側端部22で最大の内径SDを有し、この内径はシャフト12の滑り面36の外径ODよりも小さいため、内側シール面20全体は、組立後および使用中、確実に滑り面36と封止係合される。さらに、空気側A上に位置する汚染物質がシール10のオイル側Oに入るのを防ぐことを容易にする、補助リップ38とも呼ばれる非接触式粉塵排除リップを有する空気側端部24が形成され得る。補助リップ38は、シールリップ18の空気側端部24から空気側Aに向かって延在し、第2の溝領域28から離間されている。補助リップ38は、シャフト12と接触しないままであるように、内側シール面20の内径SDより大きな内径ADを有する。それゆえ、補助リップ38は、シールリップ18とシャフト滑り面36との間の滑りトルクに寄与しない。
【0013】
図2において、発明のある局面に従って構成された内側シール面20が示される。内側シール面20の周方向に連続した環状の静的封止バンド30は、第1および第2の溝領域26,28の間に周方向に延在して示される。第1の溝領域26は、静的封止バンド30からシールリップ18のオイル側端部22に離間された関係で延在する複数の第1の溝40を有する。したがって第1の溝40はバンド30の手前で停止し、ゆえにバンド30に合流しない。そのため、溝のない領域41が第1の溝40とバンド30との間に延在し、ゆえにオイル側Oからある程度の潤滑剤がバンド30に到達して、バンド30とシャフト12の滑り面36との間の滑り摩擦を低減することを容易にすることになると予期されるものの、第1の溝領域26内の潤滑剤は、かなりの量がバンド30に到達するほど推進されない。
【0014】
第2の溝領域28は、静的封止バンド30からシールリップ18の空気側端部24に向かって延在する複数の第2の溝42を有する。したがって、第2の溝42はバンド30まで延在し、ゆえにバンド30に合流する。したがって、第2の溝42が第1の溝40と同じ方向に潤滑剤を送るように構成されている場合、バンド30を迂回して第2の溝42に入るいずれの潤滑剤もバンド30と直接接触するように押し戻され、バンド30を迂回して第1の溝40に戻る傾向がある。第1の溝40は、オイル側Oに潤滑剤を押し戻し続ける。
【0015】
第1の溝40は第1の方向に方向付けられ、第2の溝42は第2の方向に方向付けられる。第1の方向は、第2の方向と同じかまたは実質的に同じである。したがって、上では理解されないが、第1および第2の溝40,42の螺旋またはヘリックスの角方向は同じであり、それによって、潤滑剤を同じ方向に、すなわちシール10のオイル側Oに向かって送る傾向がある。第1および第2の溝40,42は、例として、線状に直線的であり、シャフト12による相対的なシール回転Rの方向に対して傾斜した関係で互いに平行または実質的に平行に延在しているものとして示される。中間バンド30からオイル側Oに向かう第1および第2の溝40,42の傾斜角は、シャフト12とシールリップ18との間の相対的な回転R中に、第1および第2の溝40,42に到達するオイル側O上の潤滑剤がオイル側Oに向かって押し戻されるようなものである。
【0016】
図3では、発明の別の局面に従い構成された内側シール面120が示される。同様の特徴を識別するために、上記で用いたのと同じ参照符号に100を付したものを用いる。内面120は、第1の溝領域126と、第2の溝領域128と、第1および第2の溝領域126,128の間の、周方向に連続した環状の静的封止バンド130とを含む。第1の溝領域126は、上述した第1の溝40と同じように構成された複数の第1の溝140を有する。さらに、第2の溝領域128は複数の第2の溝142を有するが、上述した第2の溝42とは異なり、第2の溝142は、シール面20の周囲に約180〜360度の間で延在するねじ山として構成される。したがって、第2の溝142が静的バンド130に対して延在する傾斜角は、第2の溝42よりも小さい。第1および第2の溝140,142は、例として、線状に直線的であり、シャフトによる相対的なシール回転Rの方向に対して傾斜した関係で互いに平行または実質的に平行に延在しているものとして示される。中間バンド
130からオイル側Oに向かう第1および第2の溝140,142の傾斜角は、シャフトとシールリップとの間の相対的な回転R中に、第1および第2の溝40,42に到達するオイル側O上の潤滑剤がオイル側Oに向かって押し戻されるようなものである。
【0017】
図4では、発明の別の局面に従って構成されたシール210が示される。同様の特徴を識別するために、上記で用いたのと同じ参照符号に100を付したものを用いる。シール210は、第2の溝領域を除いて、先のシール構造に関して上述したのと同じ特徴をすべて含む。したがって、シール210は、上記のようなカラー(図示せず)と、径方向内側に延在してシールリップ218をもたらすシール本体217とを含む。シールリップ218は、オイル側端部222と自由空気側端部224との間で軸方向に延在する環状の内側シール面220を有する。内側シール面220は、上記のように、シャフトに沿ってシャフトと封止係合して延在するように構成された第1の溝領域226と、第1の溝領域226から隣接する空気側端部224に向かって離間された、環状の周方向に連続したバンド230とを有する。第1の溝領域226は、潤滑剤をオイル側Oに向かって送るように構成され、バンド230は、潤滑剤がバンド
230を迂回するのを防ぐように構成される。第1の溝領域226は、上記のように第1の溝240を含み、第1の溝240は、バンド
230から軸方向に離間され、バンド
230の手前で停止し、それによりバンド230と第1の溝240との間で周方向に延在する、溝のない環状の領域241を形成する。
【0018】
上記教示に照らし本発明には数多くの変形および変更が可能であることは明らかである。したがって、以下の請求項および最終的に許可される請求項の範囲内で、具体的に記載されたものとは異なるやり方で本発明を実施し得ることが理解されるはずである。