【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、各独立請求項に記載の、流体を分注するための弁、カートリッジ、および生体試料を分析するための分析システムを提供する。本発明の各実施形態が、従属請求項に記載される。
【0008】
本明細書において理解される「常時閉弁」は、電磁力を働かせることなどにより作動装置によって操作される弁を含む。常時閉とは、作動装置が作動されていない場合、または作動装置が故障した場合には、弁がその閉状態にあることを意味する。言い換えれば、作動装置から弁に対して開口力が働かされない限り、弁はその閉位置に留まる。
【0009】
本発明の実施形態によれば、作動ユニットは、プランジャに対して磁気による開口力を働かせる磁界を生成するための作動コイルを含みうる。例えば、作動は、作動コイルに電流を流す作動ユニットの電源をオンにし、そして作動コイルが磁気による開口力をもたらす電磁界を形成することにより、行われる。
【0010】
作動コイルを流れる電流は、作動コイルの温度上昇をもたらす可能性がある。この温度上昇は、弁をその開位置に持って行き弁をその開位置に保つためにのみ電流が流れる必要があるという事実によって制限される。弁がその閉状態にある間は、電流が流れる必要はない。流体によっては温度上昇が望ましくない場合があるので、上記のことは、作動に起因する分注される流体のそのような温度上昇を制限するという有益な効果を有する。このことは、温度変化に敏感な幹細胞などの生きた組織を含む流体に特に関係する。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、プランジャおよび/または閉鎖要素は、永久磁石を担持しかつ/または永久磁性材料で構成されて、作動ユニットがプランジャに対してプランジャをその閉位置から開位置へと動かす反対の力を働かせるように作動されない限りはプランジャをその閉位置に維持するように磁気による閉口力をプランジャに対して働かせることにより、弁をその通常の閉状態に維持する。
【0012】
作動ユニットがオフにされると、この反対の力が消失し、それによりプランジャは、その閉位置に向かって加速されて、細管ノズルの端部におけるその閉位置に達すると急停止される。この細管ノズルの端部へのプランジャの衝突は、ノズルの先端、すなわち流体出口から垂れ下がっている場合がある分注された流体の液滴が、液滴をノズルの先端から落下させ、それによりこの液滴もまた流体が分注される容器に達しうるという利点を有する。このことは、流体を分注する精度を高める。
【0013】
プランジャがその閉位置に衝突したときにプランジャによってもたらされる衝撃が、全体としては弁に及ぼされずに直接ノズルに及ぼされ、それにより非常に限られた量の流体のみがプランジャの衝突によって加速されることが、さらなる利点である。このことは、流体が、幹細胞のような生きた組織を含む流体などの極めて敏感な性質の流体である場合に、特に有利である。
【0014】
1つの態様では、本発明は、乾燥部分および湿潤部分を含む、流体を分注するための常時閉弁であって、湿潤部分のみが流体に接触されるように配置されており、湿潤部分が、
− 流体入口開口部、流体出口を提供する細管ノズル、空所、およびプランジャを有する流体分注ユニットであって、細管ノズルが、空所内に端部を有し、プランジャが、空所内で開位置へ移動可能とされて、流体入口開口部および空所を通じた流体の流入と、細管ノズルを通じた流体の流出とを可能にし、プランジャがさらに、細管ノズルの端部に向けられた側に密封面を有し、プランジャが、密封面により細管ノズルの端部を密封する閉位置へ移動可能とされる、流体分注ユニットを含み、
乾燥部分が、
− プランジャを閉位置に引き付けるためにプランジャに対して磁気による閉口力を働かせる閉鎖要素を含む、弁に関する。
【0015】
前述の実施形態は、弁の湿潤部分のみが流体に接触する一方で、閉鎖要素は流体と少しも接触しないので、有利でありうる。湿潤部分と乾燥部分とを分けることができるので、流体と接触しない閉鎖要素を再利用することができる。反対に、湿潤部分は、それぞれの流体または試薬を消費した後で容易に処分することができる。現在のピペット操作デバイスでの場合のようなピペットの洗浄過程をなくすことにより、持ち越し効果およびいかなる相互汚染も防止される。安価な材料で湿潤部分を製造することにより、1回に分注するマイクロリットル当たりの費用を削減することができる。
【0016】
閉鎖要素がプランジャをその閉位置に引き付けると、例えば、保管または移送などの状況下では弁の弁体内の流体が流出することができないように、弁は完全に閉じられる。
実施形態によれば、閉鎖要素は、湿潤部分に解放可能に取り付けられる。
【0017】
前述の実施形態は、唯一流体と接触する湿潤部分を、さらなる用途のために再使用することが可能な閉鎖要素から容易に分離することができるので、有利でありうる。閉鎖要素を別の未使用の弁の湿潤部分に再度組み付けることができる一方で、湿潤部分を乾燥部分から容易に取り外すことができるので、現在使用される機械式ピペット操作デバイスで必要とされるようなノズルの先端を洗浄するステップが、不要になる。したがって、別の試薬の適用を用意するのに必要とされるステップの数が、減少されうる。したがって、微小流体を分注する過程を自動化するための機構が、簡易化されうる。
【0018】
実施形態によれば、閉鎖要素は、スナップ嵌め、プレス嵌め、形状嵌め、ねじ止め、および/または接着剤により、空所を流れる流体の方向の範囲内で湿潤部分に解放可能に取り付けられる。
【0019】
前述の実施形態は、湿潤部分と閉鎖要素との間に及ぼされる引き付ける磁力に加えて、さらに湿潤部分を閉鎖要素に固定することにより、2つの構成要素間の相対位置がより安定化され、したがって弁の通常の閉状態におけるいかなる漏れも防止されるので、有利でありうる。例えば移送中または保管中での、様々な弁における様々な流体のいかなる持ち越し効果および相互汚染も、防止される。また一方で、乾燥部分および湿潤部分は、いかなる用途においても容易に分解することができる。流体と直接接触していた使い捨て式の湿潤部分は、リサイクルまたは処分することができ、一方で、非使い捨て式の乾燥部分は、再使用することができる。そのため、使い捨て式の湿潤部分は、安価な材料で製造されうる。
【0020】
実施形態によれば、流体分注ユニットは、空所内のプランジャの運動を案内するための複数の摺動面をさらに含む。摺動面は、空所を通して流体経路を形成するために、互いに分断されている。
【0021】
前述の実施形態は、プランジャの運動の方向が案内されて、結果として弁体の長手軸に平行な運動になるので、有利でありうる。プランジャに磁力を適用するときに、いずれの無制御の方向においても、妨げになる傾き運動がなくなる。流体の粘度に依存する流体の粘着力を考慮すると、ノズルを介して分注される流体の量は、著しく減少させることができ、したがって、サブマイクロリットルの範囲での流体液滴の分注が可能になる。そのため、例えば、体外診断の分野における試薬の量を著しく減少させて、所望の診断検査を実行することができる。したがって、体外診断の分野における試薬にかかる費用を、削減することができる。
【0022】
実施形態によれば、摺動面は、少なくとも部分的に開位置と閉位置との間に延在して空所の壁に配置され、摺動面は、空所の軸方向に延在し、流体出口に向かう摺動面の軸方向の延長は、閉位置によって制限され、流体出口に面するプランジャの端部は、密封面を持ち、細管ノズルは、閉口力を釣り合わせるために動作可能であるように、空所内に延在する。
【0023】
前述の実施形態は、プランジャのための導管として作用する摺動面が、プランジャのいかなる傾きも最小限に抑え、かつ、弁の長軸に沿ったプランジャの並行運動の摩擦の減少を最小限に抑えるので、有利でありうる。それと同時に、プランジャの運動中に接触する面が減るので、プランジャの運動中のいかなる摩擦も、摺動面によって減少される。流体出口の密封、および空所内への細管ノズルの追加的な延長により、プランジャがその閉位置にあるときには、流体の漏れがなくなる。プランジャがその閉位置にあることによる流体出口の閉口の程度が、高められる。それと同時に、プランジャの確実な閉状態および開状態を定義することにより、投与量の正確度が高められる。
【0024】
実施形態によれば、空所は、細管ノズルを含む密封領域を備える。密封領域には、摺動面が存在しない。
前述の実施形態は、プランジャの密封剤が流体を吸収することにより時間と共にその体積を膨張させた場合でも、細管ノズルの端部の完全な密封がなおも可能とされるので、有利でありうる。
【0025】
実施形態によれば、摺動面は、プランジャの外側表面および/または空所の内側表面に配置される。
前述の実施形態は、プランジャの運動を案内する方法をプランジャの磁性材料の特性に応じて変更することができるので、有利でありうる。実施形態の2つの代替形態は、空所内でプランジャの運動を案内する機能を同様の方法で満たすので、流体分注ユニットの構成要素の購入は、購入費用のみに焦点を当てればよい。
【0026】
実施形態によれば、空所は、下部開口部を有する第1の射出成形部品の内部に形成され、下部開口部は、第2の射出成形部品によって閉じられ、細管ノズルは、第2の射出成形部品を貫通する。
【0027】
前述の実施形態は、一方の部品が、流体のための貯槽への、例えばカートリッジの貯槽への接続部を有し、他方の部品が、ノズルのための開口部と、磁気による閉鎖要素の開口部に嵌合するための例えば突出部とを有して、弁体自体を2つの部品から構成することができるので、有利でありうる。第1の部品がカートリッジの貯槽に接続されうる一方で、第2の部品は、例えば体外診断デバイスの結合架台に接続されうる。互換性を前提として、これらの2つの部品は、診断検査の必要性に応じて交換することができる。両方の部品が射出成形材料で構成されるという事実から、微小流体弁の使い捨て式部品は安価な材料で構成できることが分かる。使い捨て式部品の形状および材料は、それぞれの体外診断デバイスの空間的および機能的な要求に応じて選択されうる。例えば、材料は、この弁を使用して分注される試薬との適合性のために、または生体適合性のために選択されうる。
【0028】
実施形態によれば、弁は、流体分注器を受け入れるためのホルダをさらに含み、このホルダは、流体分注器の断熱のために、その内側および/または外側の表面に空気路を有する。
【0029】
前述の実施形態は、ホルダの内側および/または外側の表面にある空気路が、弁の弁体に含まれている流体の断熱に作用する空気流を提供し、弁体周囲の空気と弁体の内部空間とに多少の温度差がある場合に、周囲空気の温度の影響を抑えて弁体内の流体の温度を比較的一定に保つことができるので、有利でありうる。弁体の内側および/または外側の表面の空気路が多くなるほど、断熱の効果が高められていく。例えば作動コイルといった熱を発生するデバイスが弁体の外側にある場合、弁体内の流体は、望ましくない形で加熱されることから保護される。
【0030】
実施形態によれば、ホルダは、その内壁に出っ張りを有し、この出っ張りは、流体分注ユニットを動作位置に保持するように構成される。
前述の実施形態は、ホルダの内壁にある出っ張りが、流体分注器の位置を安定させるのに必要な表面を減らすのと同時に、流体分注器の断熱の効果に寄与するさらなる空気路を生成することにより、流体分注器の位置を固定することができるので、有利でありうる。
【0031】
実施形態によれば、弁は、プランジャに対して磁気による開口力を働かせるための作動ユニットをさらに含み、この作動ユニットは、湿潤部分の外側に配置され、好ましくは、作動コイルまたは永久磁石のうちの一方を含む。
【0032】
前述の実施形態は、作動ユニットが湿潤部分の外側に配置されるのであれば、作動ユニット自体は弁体内にある流体と直接接触しないので、有利でありうる。そのため、作動ユニットは、弁の湿潤部分を交換するだけで、何の変更もなく再使用することができる。作動ユニットおよび磁石ホルダは、弁内の流体と接触せず、作動ユニットおよび磁石ホルダは、弁に解放可能に取り付け可能とされうる。したがって、弁の用途の融通性が高められうる。
【0033】
作動ユニットは、作動ユニットおよびホルダが、デバイスの、例えば体外診断デバイスの結合架台に取り外せないように固定された状態で、弁のホルダの周囲に位置決めされうることが好ましい。作動コイルまたは永久磁石の形態の作動ユニットは、弁体内のプランジャをその開位置にまたは開位置とその閉位置との間の位置に移動させる磁力を持つ磁界を生成することができる。分注される流体の量は、例えば、プランジャがその開位置にあるときのノズルが開かれる時間間隔を定義することにより、また、主に流速に関与する、流体に与えられる作動圧力を定義することにより、制御されうる。
【0034】
実施形態によれば、閉鎖要素およびプランジャのうちの少なくとも一方は、磁気による閉口力をもたらす磁界を生成するように構成される。
前述の実施形態は、弁の通常の閉状態が効率的な方法で実現されうるので、有利でありうる。保管または移送中の試薬の漏れとそれによる異なる試薬の相互汚染とを防ぐことができるように、弁の完全な閉鎖を達成することができる。弁の通常の閉状態では、漏れは存在しない。弁の閉状態は、閉鎖要素とプランジャとの間の引き合う磁力によって実現されうる。
【0035】
実施形態によれば、閉鎖要素およびプランジャのうちの少なくとも一方は、永久磁石である。
閉鎖要素およびプランジャのうちの少なくとも一方が永久磁石であることの利点は、弁を常時閉とすることができるということでありうる。この文脈において、「常時閉」とは、作動ユニットに電流が供給されていないかまたは作動閾値を下回る電流が作動ユニットに供給されている場合には弁が閉じられるということを意味する。作動ユニットは、電流が供給されたときに磁力を生成することによりプランジャをその開位置へと移動させるように動作可能である。
【0036】
前述の実施形態は、閉鎖要素およびプランジャのうちの一方が例えば軟磁性体である場合に、さらに有利でありうる。硬磁性体は、所定の閾値を上回る磁気保持力を有するが、軟磁性体は、所定の閾値を下回る保磁力を有する。軟磁性体は硬磁性体よりも安価なので、費用をさらに抑えることができる。説明された弁においては、湿潤部分の一部としてのプランジャは、好ましくは軟磁性体とされうるので、プランジャを処分する際の費用は、ごく安くなる。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、流体を受け入れるための貯槽を有するカートリッジに関し、カートリッジは、貯槽から流体を分注するために、前述の実施形態のいずれかによる弁を含む。
【0038】
さらなる態様では、本発明は、生体試料を分析するための分析システムであって、
− 本発明の一実施形態によるカートリッジを複数保持するためのカートリッジホルダと、
− 生体試料および1種または複数種の試薬を受け入れる試料容器を保持するための試料容器ホルダと、
− 試料容器に対するカートリッジの相対運動のためのロボット要素と、
− ロボット要素を制御するための第1の制御装置と、
− 作動ユニットを制御するための第2の制御装置と、
− 分注された流体の量を検知するためのセンサと
を含む、分析システムに関する。
【0039】
本発明の上記その他の品目、特徴、および利点は、本発明の例示的な実施形態に関する以下のより具体的な説明を図面と併せて読むことにより、より理解されるであろう。