【文献】
J. Agric. Food Chem., 2006, 54(17):6419-6427
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0001】
序論
食品の生産では、脂質および他のエステルの分解が、風味、構造、食感、または純度にとって重要である。この工程は加水分解と呼ばれ、遊離脂肪酸を生じるが、数ある中でも遊離脂肪酸は、風味、すなわち味と匂いの組み合わせの重要な一因である。特に、乳脂肪中に比較的大量に存在する短鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸は、食物の風味に強く寄与する。
【0002】
エステルは、強塩基または強酸のいずれかを用いて化学的に加水分解され得るが、このような手順は粗雑でかつ非特異的であり、収率の損失、望ましくない副産物、および廃棄物をもたらす。酵素加水分解は一般により特異的であり、これらの問題の少なくとも一部を回避する。リパーゼは、脂肪酸の鎖長または脂肪酸の鎖の位置の観点から、特定の脂質の加水分解にしばしば選択的な表面酵素である。この特異性が、任意の所与の用途に対して特定のリパーゼがどのぐらい適しているかを決定する。
【0003】
リパーゼの使用は、工業において一般的である。その例には、ラセミ薬物の分割、脂肪および脂質の修飾、香料の合成、ならびに医薬品および栄養補助食品の生産が含まれる。現在用いられているリパーゼの大半は、真菌または細菌発酵系を用いて得られるが、動物由来のリパーゼも同様にいくらか使用されている。植物由来のリパーゼは、工業への適用は比較的稀である。
【0004】
工業的に最も適用可能なリパーゼは、細菌発酵によって得られ、終了段階の厄介な加工が必要である。このようなリパーゼは、全体としておよびタンパク質として純度が低い傾向があり、したがって炭水化物、塩、および起こり得る望ましくない副次的活性を多量に含む。さらに、市販のリパーゼ調製物は一般的に、広範な様々な非タンパク質物質、塩、および非リパーゼ酵素を含む(Bjurlin et al 2001 JAOCS 78-2 p 153-160(非特許文献1))。
【0005】
チーズなどの食品において風味をもたらすためにリパーゼを使用することは、かなり一般的であり、多くの異なるリパーゼ調製物が報告されている。レンネットと呼ばれる仔ウシまたはブタ由来の消化酵素は、レンネットが乳の凝固を誘導し得るため、およびレンネットが、チーズに風味を与える遊離脂肪酸の産生を誘導するために、伝統的にチーズに添加される。この工程は、死亡した仔ウシまたはブタを必要とする費用のかかる酵素単離を含み、これは面倒であると共に、菜食主義者には適さない。またこれは、疾患の伝達の可能性を持ち込む。
【0006】
一般に、チーズは、例えばレンネットおよび/または酸の添加による乳の凝固により製造される。凝固に際して、乳はカードと乳清に分かれる。乳タンパク質の水溶液である乳清を捨て、カードを収集し、これを軽く押して残りの水分の一部を除去する。それでもなお、得られたカードはおよそ30%の水分を含み、乳脂肪、タンパク質、および水のコロイド分散体と見なされるべきである。乳またはカードのいずれかに、適切な酵素を(例えば、レンネットの形態で)添加する。大部分のチーズについては、カードをその後熟成させる。
【0007】
チーズの製造では、酵素の作用によって、とりわけ解糖、タンパク質分解、および脂肪分解による乳成分の一次分解経路が始まる。これは、チーズの風味を担う一連の化合物、例えば、アミノ酸、ある種のペプチド、エステル、アルデヒド、ケトン、フェノール、および脂肪酸などをもたらす。脂肪酸の群において、特に短鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸は有益な風味の発生を担うのに対して、長鎖脂肪酸は石鹸様の不快な味を生じる。異なる脂肪酸が、チーズに異なる種類の味をもたらす。例えば、C
4脂肪酸は牛乳チーズ中に多く存在するのに対して、C
6脂肪酸はヤギ乳チーズ中に多く見られる。しかしながら、現在用いられているリパーゼは、望ましい風味成分を放出し、かつ望ましくない石鹸様の風味を回避するための選択性をほとんど示さない。
【0008】
現在、チーズの製造には微生物のリパーゼが好まれており、一般に、ある特定の型のリパーゼを得るために、遺伝子改変された細菌が使用される。このようなリパーゼは、複雑でかつ費用のかかる単離方法を必要とし、多くの場合この反応は非常に長時間続けなくてはならないため、最終産物において酸敗を招き得る。
【0009】
植物由来のリパーゼ酵素は、ジャガイモから得ることができる。ジャガイモタンパク質は、3つのカテゴリー:(i) パタチンファミリー、高度に相同的な酸性43 kDa糖タンパク質(高分子量画分、「HMW」、ジャガイモタンパク質の40〜50 wt.%を構成する)、(ii) 塩基性5〜25 kDaプロテアーゼ阻害剤(「PI」、ジャガイモタンパク質の30〜40 wt.%)、および(iii) 主に高分子量タンパク質である他のタンパク質(ジャガイモタンパク質の10〜20 wt.%)に分類され得る。パタチンファミリーは、いくらかのリパーゼ活性を有することが知られており、単一段階クロマトグラフィー工程ならびにその後の濃縮および乾燥によって得られ得る。数ある中でも高純度のパタチンを単離するための非常に簡便な工程が、出願WO2008/069650(特許文献1)に記載されている。
【0010】
実際には、リパーゼを含むジャガイモタンパク質は、実際の商用用途がないという理由で、主に動物用の供給原料として用いられている。パタチンは、とりわけリン脂質およびモノグリセリドに対してエステラーゼ活性を有するにもかかわらず、トリグリセリドに対して不活性であるため(例えば、Hirschberg et al, Eur. J. Biochem 2001, 268, 5037(非特許文献2)、Galliard et al., Biochem. J. 1971, 121, 379(非特許文献3)、またはAndrews et al, Biochem J. 1988, 252, 199(非特許文献4)を参照されたい)、一般に、パタチンの実際の使用は限定されると見なされている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本発明の範囲に関して、パタチンは、天然ジャガイモタンパク質単離物の高分子量(HMW)画分で、ジャガイモタンパク質の約40〜50 wt.%を構成する、30 kDaまたはそれ以上、好ましくは35 kDaまたはそれ以上、および最も好ましくは約43 kDaの分子量、ならびに5.8未満、好ましくは4.8〜5.5の間の等電点を有する糖タンパク質の高度に相同的なファミリーを意味すると理解される。パタチンは、アシルヒドロラーゼ反応性を示す糖タンパク質のファミリーであり、ジャガイモ塊茎中の全可溶性タンパク質の40 wt %までを占める。出願WO2008/069650において、ジャガイモ果汁(PFJ)またはジャガイモ果実水(PFW)からのパタチンの単離の入念な説明が記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0016】
WO2008/069650の工程は、ジャガイモ果汁をpH 7〜9において二価金属カチオンによる凝結に供すること、および凝結したジャガイモ果汁を遠心分離し、それによって上清を形成することを伴う。続いて、この上清を、ジャガイモタンパク質と結合し得る吸着剤を用いて、pH 11未満および温度5〜35℃で操作する膨張層吸着クロマトグラフィーに供し、それによって天然ジャガイモタンパク質を吸着剤に吸着させる。最後に、溶出剤を用いて、少なくとも1種の天然ジャガイモタンパク質単離物を吸着剤から溶出させる。この方法は、変性タンパク質が最小限に存在し、かつ安定した溶解度を特徴とする、とりわけ高純度の単離された天然パタチンをもたらす。
【0017】
ジャガイモ果汁は、pH 7〜9、好ましくはpH 7.0〜7.5において二価金属カチオンで前処理して、望ましくない物質を凝結させ、その後遠心分離によって綿状沈殿物を分離する。特に適切な二価金属カチオンはCa
2+である。この前処理は、ジャガイモ果汁から、負荷電ポリマー、ペクチン、糖アルカロイド、および微生物などの望ましくない物質を除去する。特に、ペクチンおよび糖アルカロイドの除去は、これらの化合物がジャガイモタンパク質に付着し、凝結を引き起こす可能性があり、それによって溶解度およびその他の物理的特性の観点から不安定なタンパク質単離物をもたらすという理由で、有利である。
【0018】
この工程の第2段階では、上清を膨張層吸着クロマトグラフィーに供する。パタチンのより良い安定性のために、出発材料の温度を35 C未満に保持することが有利である。さらに、典型的に600〜1200 cm/hという範囲の、中程度に高い流速を用いることが好ましい。膨張層吸着クロマトグラフィーは、pH 11未満、好ましくはpH 10未満で操作する。
【0019】
前処理したジャガイモ果汁中の天然ジャガイモタンパク質は、それらを膨張層吸着カラム内の適切な吸着剤上に結合させることによって、上清から単離する。一定量の天然ジャガイモタンパク質と結合するカラム材料には、混合モード吸着剤、例えば、Amersham Streamline(商標)Direct CST I(GE Healthcare)、Fastline吸着剤(Upfront Chromatography A/S)、マクロ多孔性吸着剤、例えばAmberlite(商標)XAD7HP(Rohm & Haas Company)、およびイオン交換吸着剤が含まれる。次いで、パタチンなどの天然ジャガイモタンパク質単離物を回収するため、天然ジャガイモタンパク質を吸着している吸着剤を適切な溶出剤で溶出させる。溶出剤は、好ましくは、4〜12の範囲のpH、より好ましくは5.5〜11.0の範囲のpHを有する。
【0020】
混合モード吸着剤を用いる好ましい態様において、タンパク質は等電点および分子量の両方に対して分画され得る。これによって、例えばパタチン画分とプロテアーゼ阻害剤画分の分離が可能になる。パタチン単離物は、pH 5.7〜8.7、好ましくはpH 5.8〜6.5において溶出される。
【0021】
アシルヒドロラーゼ反応性は、一般に、水分子によるエステル結合の加水分解を触媒して、構成要素であるカルボン酸とアルコールを形成する酵素(のクラス)の能力として理解される。この反応は場合により、反応条件の適切な調節により逆転し、この場合、カルボン酸とアルコールのエステル化が起こる。反応の方向に影響を及ぼし得る反応条件には、例えば、温度、反応物の独自性、ならびに/または存在する水、カルボン酸、およびアルコールの量が含まれる。本発明は、パタチンが高度に選択的なアシルヒドロラーゼ反応性を有し、そのためチーズの製造に非常に適していることを開示する。
【0022】
パタチンのヒドロラーゼ活性は、脂質、特にモノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、およびトリアシルグリセリド中に見出されるようなアシル基に特異的に向けられる。パタチンのヒドロラーゼ活性は、モノグリセリドに対して強いことが公知であった。しかしながら、そのような活性はトリグリセリドに対して見出されないこともまた報告された(例えば、Hirschberg et al, Eur. J. Biochem 2001, 268, 5037、Galliard et al., Biochem. J. 1971, 121, 379、またはAndrews et al, Biochem J. 1988, 252, 199を参照されたい)。これらの報告にもかかわらず、本発明に従って、驚くべきことに、パタチンにトリグリセリドヒドロラーゼ活性が実際に存在すること、およびこの活性がC
4〜C
8脂肪酸に非常に特異的であることが見出された。
【0023】
脂肪酸は、続く直鎖状炭素鎖上の1位のカルボン酸基の存在を特徴とする化合物のクラスである。炭素鎖の長さは脂肪酸の重要な特徴であり、そのため、10個の連続した直鎖状炭素原子の炭素鎖を有する脂肪酸はC
10脂肪酸と称される。一般に、公知の脂肪酸はC
4〜C
36脂肪酸である。炭素鎖は飽和していてよいが、1つまたは複数の二重結合を含んでもよい。
【0024】
脂肪酸は伝統的に、異なる方法を用いていくつかの群に分類される。1つの方法は、それらを飽和度に従って分類するものである。その結果、脂肪酸の1つの群は飽和脂肪酸と定義され、飽和脂肪酸はそれらの炭素鎖中のいかなる2つの炭素原子間にも二重結合を有さない。
【0025】
不飽和脂肪酸は、炭素鎖中に1つまたは複数の二重結合を有する。不飽和脂肪酸内には、炭素鎖中に1つの二重結合を有する一価不飽和脂肪酸(MUFA)、および炭素鎖中に複数の二重結合を有する多価不飽和脂肪酸(PUFA)が存在する。
【0026】
脂肪酸はまた、それらの炭素鎖の長さに従って分類され得る。その結果、6個未満の炭素原子の炭素鎖を有する短鎖脂肪酸(SCFA)が存在する。中鎖脂肪酸(MCFA)は6〜12個の炭素原子の炭素鎖を有し、長鎖脂肪酸(LCFA)は13〜21個の炭素原子の炭素鎖を有する。超長鎖脂肪酸(VLCFA)は、22個よりも長い炭素原子の炭素鎖を有する。鎖長に従って脂肪酸を分類する場合、炭素鎖は飽和であってもよいし、また一価不飽和もしくは多価不飽和であってもよい。
【0027】
脂肪酸はすべての生命体内に存在し、いくつかの機能を有する。通常、これらの機能は、より大きな分子中に取り込まれた1つまたは複数の脂肪酸によって発揮される。したがって、脂肪酸は、糖、アミノ酸、またはグリセロール誘導体に結合されてよく、エネルギー貯蔵から細胞構造化およびさらに多くの機能にまで及ぶ機能を有する。
【0028】
脂質は、本発明の範囲に関して、脂肪酸がエステル結合によってグリセロールのヒドロキシル基に連結されている任意の化合物である。モノアシルグリセリド(MAGまたはモノグリセリド)は、1つの脂肪酸および2つの遊離ヒドロキシル基を有するグリセロールのエステルである。ジアシルグリセリド(DAGまたはジグリセリド)は、2つの脂肪酸および1つの遊離ヒドロキシル基を有するグリセロールのエステルである。トリアシルグリセリド(TAGまたはトリグリセリド)は、3つの脂肪酸を有するグリセロールのエステルである。トリアシルグリセリドは、口語的に「脂肪」と称される;油もまた脂肪であるが、「脂肪」は一般に、固体または半固体状のトリグリセリドを指すために用いられるのに対し、「油」は液体または粘性のトリグリセリドに対して用いられる。
【0029】
多くの異なる脂肪酸が存在し、様々な脂肪酸の相対的存在量は、同じ種の中でほぼ一定である。様々な脂肪酸のトリグリセリドへの分布は、ほぼランダムである。したがって、トリグリセリドは一般に3つの異なる脂肪酸を含むが、2つの同一脂肪酸を有するトリグリセリドを見出す統計的確率は無視できない。さらに、3つの同一脂肪酸単位を有するトリグリセリドが天然に存在する。一例は、バター中に存在することが知られているトリブチリン(単一のグリセロール骨格上に3つのC
4脂肪酸が存在)である。
【0030】
上記のグリセロールと1つまたは複数の脂肪酸のエステルはすべて、「脂質」と称され得る。しかしながら、脂質には、MAG-グリセロールまたはDAG-グリセロールの遊離ヒドロキシル基が、リン酸基などの別の基に結合しているMAGおよびDAGもまた含まれる。2つの脂肪酸および1つのリン酸基が単一のグリセロール分子に結合している分子がリン脂質と称されるのに対して、1つの脂肪酸のみがグリセロールに結合して、1つの遊離ヒドロキシル基が残っている分子は、リゾリン脂質と称される。リン脂質またはリゾリン脂質は、リン酸基上にさらなる置換を有し得る。例えば、リン酸基がコリンでさらに官能基化されたリン脂質またはリゾリン脂質はホスファチジルコリンと称され、したがってこれはリン脂質の1つの型であり、およびまた脂質の1つの型である。
【0031】
脂質という用語は、口語的には、1つまたは複数の脂肪酸がエステル結合により、単糖、二糖、または多糖などの糖に結合している化合物をさらに含む。この場合、これは脂肪酸炭水化物エステルまたは糖脂質と称される。また脂質は、ステロールエステルなどの脂肪酸の他のエステルを含み得る。しかしながら、本発明の範囲に関して、脂質という用語は、グリセロールの脂肪酸エステルに限定される;糖またはステロールを伴うような脂肪酸の他のエステルは、脂質の群の一部と見なされない。
【0032】
脂質は一般に、2つの群:極性脂質と中性脂質とに分類される。極性脂質が水に溶けて例えばミセルまたは二重層を形成するのに対して、中性脂質は非常に低い水溶性を示す。リン脂質は極性脂質と見なされ、一般に5〜10の間のオクタノール・水係数(LogP)を有する。中性脂質は低い水溶性を有し、一般に10よりも高いLogPを有する。しかしながら、例えば、トリアセチン(LogP = 0.25)、トリブチリン(C
4、LogP = 3.27)、トリカプリオン(C
6、LogP = 5.6)、トリカプリリン(C
8、LogP = 9.2)のように、より低いオクタノール・水係数を有するトリグリセリドが存在する;トリカプリン(C
10)はLogP = 10.9を有する。パタチンが、比較的極性のあるトリグリセリド、すなわち10未満のLogPを有するトリグリセリドを加水分解するのに効果的であることが見出された(下記参照)。
【0033】
本発明の範囲に関して、トリグリセリドという用語は、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを含む。モノグリセリドおよびジグリセリドは本質的には天然に存在せず、トリグリセリドの加水分解によって生じるため、中性脂質の分解は常にトリグリセリドの分解から始まる。したがって、中性脂質を加水分解する工程では、これはトリグリセリドの加水分解が起こる場合に有利である。
【0034】
混合物にはいくつかの種類が存在する。本発明の文脈において重要な混合物の種類は、以下のものである。
・溶液
・コロイド分散体
・乳濁液
・懸濁液
【0035】
チンダル現象とは、使用される光の波長よりも大きな粒子による光の弾性散乱である。この現象は主にコロイド分散体および懸濁液で知られており、当技術分野で公知のような媒体中で粒径を決定するために使用することができる。
【0036】
本明細書で用いられる系は、反応物の分散により、それらが「互いに出会い」相互作用し得るように化学反応が起こることを可能にする任意の液体または半液体環境であってよい。系は、均一な溶液、懸濁液、油中水型乳濁液または水中油型乳濁液、および液体または粘性の高い見かけ上固形のいずれかであるコロイド分散体の形状をとってよい。
【0037】
液体とは、溶質と溶媒を混合することによって作製される混合物である。溶質は、溶解する物質である。溶媒は、溶解させる物質である。溶液は均一であり、チンダル現象を示さない。
【0038】
コロイド分散体とは、2つまたはそれ以上の不混和相が存在し、その結果一方の相(分布相または内相)がもう一方の相(連続相)中に分布している混合物である。付加的な不混和相が存在してもよい。内相は液体、固体、または気体であってよく、気体‐気体分散体が存在しないことを除いて、同様に連続相も液体、固体、または気体であってよい。コロイド分散体は均一に見えるが、実際には不均一である。しかしながら、1つまたは複数の内相は連続相中に均一に分布している。本発明の範囲に関する特徴は、コロイド分散体は、組成物中で化学変化が起こらない限り、静置した場合に沈澱しないことである。カードおよび乳は、コロイド分散体の例である。コロイド分散体はチンダル現象を示す。
【0039】
乳濁液とは、少なくとも2つの不混和液体の不均一な混合物である。液体分布相が液体連続相中に分布しているため、乳濁液はこの特徴をコロイド分散体と共有する。しかしながら、本発明の範囲に関して、乳濁液は、十分に長時間にわたって静置した場合に連続相中に沈澱する。したがって、乳濁液は、一方の相がもう一方の相中に均一に分布している安定した系を保持する時間によって、コロイド分散体と区別される。
【0040】
多くの場合、乳濁液には、層への分離を妨げる何らかの形態の安定剤が添加される。しかしながら、そのような安定剤がない場合には、その系はやがて2層に分離し、そのような系は、少なくとも分離が起こるまでは乳濁液と見なされる。乳濁液はチンダル現象を示す。
【0041】
懸濁液とは、固体が溶解していない、固体と液体の不均一な混合物である。したがって、懸濁液は、一方の相がもう一方の相中に均一に分布している少なくとも2相を含み、この特徴をコロイド分散体と共有する。懸濁液は、本発明の用語法では、固体‐液体コロイド分散体よりも大きな粒子を有し、静置した場合に沈澱する。懸濁液はチンダル現象を示す。
【0042】
本発明は、トリグリセリドを水の存在下でパタチンに供する段階を含む、少なくとも1つのC
4〜C
8脂肪酸を含むトリグリセリドから脂肪酸を加水分解するための方法であって、パタチンがC
4〜C
8脂肪酸を加水分解するか、またはC
4〜C
8脂肪酸の加水分解を触媒する、方法を開示する。
【0043】
異なる脂肪酸を含むトリグリセリド混合物において、加水分解は選択的に起こる。これは、本質的にC
4〜C
8脂肪酸のみがグリセロール骨格から加水分解されると解釈される。したがって、パタチンは、C
4〜C
8脂肪酸とグリセロール骨格との間のエステル結合を切断するのを助ける。より短いまたはより長い炭素鎖を有する脂肪酸は、パタチンの存在下で本質的に加水分解されず、グリセロール骨格に付着したまま残る。好ましくは、C
4脂肪酸およびC
6脂肪酸が加水分解され、最も好ましいのは、特に牛乳チーズの製造におけるC
4脂肪酸のみの加水分解、または特にヤギ乳チーズの製造におけるC
6脂肪酸のみの加水分解である。
【0044】
脂肪酸が位置するグリセロール骨格上の位置は影響しない。外側の脂肪酸位置(sn(1)およびsn(3))はいくらかより効率的に加水分解されるが、中心(sn(2))位置に位置する脂肪酸もまた加水分解され得る。したがって、好ましい態様では、グリセロール骨格の外側位置は、中心位置よりも優先的に加水分解される。
【0045】
脂肪酸の飽和度は関係なく、本発明を用いて、飽和および不飽和のC
4〜C
8脂肪酸の両方が加水分解され得る。しかしながら、不飽和C
4〜C
8脂肪酸は稀であり、その結果、好ましくは本発明に従って飽和C
4〜C
8脂肪酸が加水分解される。
【0046】
このようにして、本発明による加水分解はC
4〜C
8遊離脂肪酸およびジグリセリドをもたらす。その後、加水分解は継続して、さらなる脂肪酸およびモノグリセリドおよびグリセロールを形成し得る。本発明によるC
4〜C
8脂肪酸の加水分解は、加水分解が終了する前に任意の適切な時点で停止させることができる。
【0047】
別の好ましい態様において、トリグリセリドの選択的加水分解は、グリセロール骨格上にC
4〜C
8脂肪酸のみを有するトリグリセリドに限定される。この場合好ましくは、グリセロール骨格上の外側位置の脂肪酸が選択的に加水分解される。さらなる好ましい態様において、加水分解のための脂肪酸はC
4脂肪酸およびC
6脂肪酸であり、最も好ましいのは、特に牛乳チーズの製造におけるC
4脂肪酸のみの加水分解、または特にヤギ乳チーズの製造におけるC
6脂肪酸のみの加水分解である。
【0048】
本発明に従って加水分解されるトリグリセリドの水溶性は、オクタノール・水分配係数logPを用いて最も良く説明される。本発明による方法を用いて加水分解されるトリグリセリドのlogPは、10以下であり、好ましくは9.2未満、好ましくは6.3未満である。さらにより好ましくは、logPは0.25〜6.3の範囲内にあるべきであり、さらにより好ましくは3.27〜6.3の範囲内であるべきである。logPは、本発明の範囲に関して、25℃におけるオクタノールと脱塩水との間のトリグリセリドの分配係数と定義され、これは例えば振盪フラスコ法を用いて当業者によって通常通りに決定され得る。
【0049】
天然脂肪または天然油は、主にトリグリセリドと様々な鎖長の広範な異なる脂肪酸から構成される。しかしながら、天然脂肪または天然油は、トリグリセリドの加水分解によって生じたジグリセリドなどの不純物を含み得る。天然の脂肪および油中に存在する様々な脂肪酸は、4〜28個の炭素原子の炭素鎖を有し得る。特定の型の脂肪の脂肪酸プロファイルは、例えば、Jong and Badings, 1990, J High Resolution Chrom. 13:94-98によるGCベースの方法などの任意の方法を用いて決定することができる。本発明の方法は、優先的に天然脂肪または天然油の加水分解に向けられる。
【0050】
本発明において用いられるパタチンは、ジャガイモ、
Solanum tuberosum由来である。好ましくは、パタチンは、デンプン製粉後に得られたジャガイモジュースから単離される。ジャガイモジュースは、工業デンプン生産または直接的なヒト消費もしくは飼料の両方のための、すべての種類のジャガイモ品種に由来する。好ましくは、パタチンはジャガイモジュースから単離され、好ましくはパタチンはまた、他のジャガイモタンパク質および不純物などから精製される。さらに、本発明による方法のために、天然型の、すなわち未変性のパタチンを使用することが好ましい。最も好ましくは、水相中に自由に溶解または分散している天然パタチンが使用される。
【0051】
本発明によるエステルの加水分解は、加水分解の進行を可能にするために十分な水が存在する限り、任意の溶媒中で、または溶媒なしで行うことができる。大部分のリパーゼが親水性領域と疎水性領域との界面上で機能するのに対して、パタチンは水相中で最も良く機能するということは、本発明の重要な局面である。したがって、本発明の方法は、水の存在下での、好ましくは水相中でのパタチンによるトリグリセリドの加水分解に関する。このような水相は、好ましくは、疎水相中の無極性トリグリセリドと水相中のパタチンとの十分な接触を可能にするために、乳濁液またはコロイド分散体中などにおいて、より疎水性の高い相中に含まれる。また水相は、多相系における連続相であってもよい。パタチンに関してこれまでに同定された実際の使用は、水溶液、懸濁液、または乳濁液を含み、この場合、これが油中水型乳濁液であるかまたは水中油型乳濁液であるかは重要ではない。しかしながら最も好ましくは、パタチンは、コロイド分散体または乳濁液中でトリグリセリドから1つまたは複数の脂肪酸を加水分解するための方法において用いられる。乳濁液が用いられる場合、これは好ましくは油中水型乳濁液である。
【0052】
水の十分な存在は、任意の系においてトリグリセリドのグリセロール骨格からのC
4〜C
8脂肪酸の加水分解を可能にするために、本発明に必須である。この観点での十分な水とは、全系の割合として算出して、少なくとも1体積%、好ましくは少なくとも5体積%、より好ましくは少なくとも10体積%、より好ましくは少なくとも15体積%、より好ましくは少なくとも20体積%、および最も好ましくは少なくとも25体積%の水含量を意味する。
【0053】
1つまたは複数のC
4〜C
8脂肪酸を加水分解するのに適した温度は、好ましくはパタチンが活性を有する温度、例えば4〜80℃、好ましくは10〜65℃などである。チーズの製造などの、ゆっくりとした反応速度が最良の結果をもたらす工程に関しては、11〜23℃、好ましくは13℃という温度を用いる方がよい。より速い反応速度が望ましい工程に関しては、例えば50〜65℃などの、変性条件直下の温度を用いることが最良である。
【0054】
同様に、pHも、パタチンが活性を有するようにするべきである;C
4〜C
8脂肪酸の加水分解が進行する際の適切なpH値は、4.5〜9の間、好ましくは8.5である。チーズの製造に関して、使用するのに最適なpHは4.8〜6.7の間である。
【0055】
本発明の非常に好ましい一態様において、C
4〜C
8脂肪酸の加水分解が起こる乳濁液またはコロイド分散体は乳脂肪を含む。乳脂肪は、短鎖および中鎖トリグリセリドが天然に豊富であり、そうした理由でパタチンは乳の選択的加水分解に非常に適している。したがって、乳濁液またはコロイド分散体は好ましくは乳を含む。
【0056】
C
4〜C
8脂肪酸を含むトリグリセリドを含む任意の種類の乳を、パタチンによって加水分解することができる。したがって、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウマ、水牛、ヤク、トナカイ、ラクダ、およびヘラジカを含む任意の哺乳動物の乳が適している。しかしながら好ましくは、牛乳、ヤギ乳、またはヒツジ乳、特に牛乳が、パタチンと組み合わせて用いられる。
【0057】
別の好ましい態様において、本発明の乳濁液またはコロイド分散体はカードである。カードは、乳から得られるコロイド分散体であり、トリグリセリド、タンパク質、およびおよそ30%の水を含む。トリグリセリドは比較的多量のC
4〜C
8脂肪酸を含み、そのためパタチンによる選択的加水分解に非常に適している。カードは、粘性のある固体様の塊という形状をとる。これは特にチーズの製造に用いられる。
【0058】
C
4〜C
8脂肪酸を加水分解するために、食物の生産工程において用いられる、好ましくは乳またはカードなどの乳濁液またはコロイド分散体にパタチンを添加することにより、他のリパーゼを用いる場合よりも速い速度で、グリセロール骨格から短鎖および中鎖脂肪酸風味成分が放出される。この観点での風味とは、味と匂いの組み合わせである。これによって、食品の風味を高めるためにパタチンを使用することが可能になる。この態様に従って、加水分解は、食品の出発材料であるか、またはその一部であるか、または食品の出発材料である系において行われる。好ましくは、この食品はチーズであり、最も好ましくはイタリアタイプのチーズ、ブルーチーズ、または酵素処理チーズ(enzyme-modified cheese)である。この好ましい態様において、加水分解は、例えばチーズの製造に用いられる乳中で行われ、したがってこの食品、すなわちチーズの調製方法の一部を形成する。
【0059】
チーズの製造工程におけるパタチンの使用は、微生物リパーゼまたはレンネットなどの他のリパーゼの使用に勝るかなりの利点を有する。C
4〜C
8脂肪酸に対する特異性は、チーズ製造工程の加速および/または風味の増強されたチーズをもたらす。そのため、パタチンが添加されたカードまたは乳は、チーズ製造に簡便に使用することができる。
【0060】
チーズ製造方法においてパタチンが使用される場合、パタチンはチーズ製造のいずれかまたはすべての段階に添加することができる。パタチンはカードに直接添加することもできるが、好ましくはパタチンを凝固前の乳に添加する。パタチンは、凝固中に主にカードと共に分画される。得られたカードはおよそ30%の水分を含み、乳脂肪、タンパク質、および水のコロイド分散体と見なされるべきである。他の供給源の酵素の使用に勝る、パタチンを使用する利点は、パタチンが乳脂肪トリグリセリドからのC
4〜C
8脂肪酸の放出に対して高い選択性を有し、チーズが熟成する速度を高め、および風味の発生を増やし、それによって風味を高めることである。同時に、石鹸のような味をチーズにもたらす、より長い鎖長の脂肪酸の加水分解が妨げられるが、それはパタチンがこのような基質に対する反応性を有さないためである。また、パタチンは、グリセロールの他の脂肪酸エステルを加水分解することなく、風味を放出する脂肪酸を選択的に加水分解するため、過度に大規模な加水分解に起因する酸敗を招き得る暴走反応を防ぐ。最後に、多くの微生物リパーゼとは対照的に、パタチンは容易に不活化される。
【0061】
温度を、一般的な低温殺菌温度、例えば50〜80℃の間、好ましくは70〜75℃、およびより好ましくは75℃まで上昇させると、パタチンは本質的に不活化される。70℃では、17秒以内に活性の90%の低下が見られるのに対して、75℃では、最大でも10秒以内に活性の90%の低下が見られる。pH依存性が認められ、より低いpHではより長い不活化時間を要するが、pH 6.7では、パタチンの活性は75℃で8.2秒以内に90%まで低下する。
【0062】
パタチンは、例えば天然レンネットまたは微生物レンネットなどの他の酵素と組み合わせて使用し、それによってチーズの熟成速度を高め、かつ風味発生の増加を与えることができる。パタチンは、任意の種類の乳凝固と組み合わせて使用することができる。したがって、レンネットまたは微生物酵素のいずれかにより凝固した、酵素的にカードにしたチーズは、パタチンの添加から恩恵を受ける。また、酸によってカードにしたチーズおよび乳清チーズも、その特異的加水分解特性のために、添加されたパタチンから恩恵を受ける。
【0063】
したがって、パタチンの使用を含むチーズの製造方法を本発明において開示する。本方法は、
・乳を凝固させてカードを得る段階、
・該カードを脱水する段階、および
・フレッシュチーズを形成し、任意でその後熟成させる段階
を含み、ここで、上記のように、少なくとも1つのC
4〜C
8脂肪酸を加水分解するために、パタチンを乳またはカードに添加する。
【0064】
当技術分野で公知の通り、乳の凝固は酸および/またはレンネットの添加によって行うことができる。好ましくは、乳はチーズ乳であり、これは特定の種類のチーズのために規格化および/または低温殺菌された乳である。上記のように、任意の乳を使用することができる。
【0065】
凝固はカードの形成を誘導する。同時に、可溶性乳タンパク質の水溶液が生じ、これは乳清と称される。乳またはカードのいずれかにスターター培養物を添加することが好ましい。スターター培養物は、当技術分野で公知のように、脂肪およびタンパク質などの乳成分を分解して、チーズを凝固させ、かつ風味形成を誘導する少なくとも1つの酵素、好ましくは酵素混合物を含む。乳、カード、またはスターター培養物へのパタチンの添加は、本方法の場合のように、風味の形成を増強し、したがってチーズの製造に非常に有益である。
【0066】
カードを脱水するとは、カードから乳清の少なくとも一部を分離することを意味する。これは通常、押すことによって行われるが、他の方法も考えられ得る。好ましくは、魅力的な形状および味を得るため、ならびに微生物の増殖を防ぐために、カードを成形し、および/またはカードに塩分を加える。
【0067】
十分な脱水の結果として、フレッシュチーズが形成される。ある種のチーズは習慣的にフレッシュチーズとして食されるが、多くの場合は熟成段階によってチーズの質が向上する。したがって、任意でフレッシュチーズを熟成させる。フレッシュチーズを熟成させるとは、脱水したカードを、チーズの種類に依存する十分な時間にわたって静置することを意味する。柔らかい熟成チーズが一般的に最小の熟成時間を有するのに対して、他の種類のチーズは、熟成させるために数カ月または数年などのはるかにより多くの時間を必要とし得る。十分な時間をかけた熟成により、最終的なチーズが得られる。
【0068】
好ましくは、本方法に従ってイタリアタイプのチーズ、ブルーチーズ、および/または酵素処理チーズなどのチーズを調製することができ、したがって、イタリアタイプのチーズ、ブルーチーズ、および/または酵素処理チーズの風味を高めるためにパタチンを使用することが好ましい。
【0069】
ここで本発明を、以下の非限定的な実施例によって説明する。
【実施例】
【0070】
実施例1:酸凝固した全乳における、パタチン触媒による脂肪分解の実現可能性
実験室のホットプレート上で、1 Lの全乳を2 Lビーカー中で加熱した。沸騰したところで発熱体のスイッチを切り、カードが形成されるまで、撹拌下で30%溶液の酢酸を添加した。水切りボウル中でチーズ布を用いてカードを収集し、冷ました。カードを2つの画分に分割した。パタチン(Solanic 206P)の10% w:v溶液 10 mLを、一方の画分にゆっくりと注ぎ入れ、脱塩水10 mLを、未処理の対照となる他方の画分に注ぎ入れた。軽く押して、カードから残りの乳清を除去した。5分以内に、パタチン処理したカード塊は強力なチーズの匂いを発したのに対して、未処理の対照は煮沸乳の匂いを保持した。
【0071】
実施例2:レンネット凝固したチーズにおけるパタチン用量反応関係
レンネットはSigmaAldrichから購入した(R5876)。全乳の500 mL分割量に0.1 mg/L〜1.0 g/Lの間の濃度のパタチンを補充し、10 mg/Lレンネットの作用により35℃で90分間凝固させた。パタチン(「HMW」)を添加せずに、参照凝固乳を同様に調製した。凝固物をチーズ布で濾し、押すことにより、カード画分を回収した。得られた物質を、90 g/L塩化ナトリウム溶液中に1時間完全に浸水させて塩漬けし、周囲温度で3日間熟成させた。常駐研究室職員から構成される9名の試験パネルに、それぞれのチーズの匂いが、パタチンを含まない参照チーズの匂いと著しく異なるかどうかを確信をもって示すように依頼した。3日後、1 mg/Lまたはそれ以上のパタチンを含むチーズは、参照チーズとは著しく異なる匂いを有した(結果のグラフについては、
図1を参照されたい)。
【0072】
実施例3:レンネット誘導性凝固における、パタチンのカードおよび乳清への分布
パタチン標識
Solanic HMWジャガイモタンパク質単離物を、本質的に純粋なパタチン調製物として使用した。クマシーブリリアントブルーはMerckによるものである(G-250 1.15444、R-250 1.12553)。PD10ゲル濾過カラムはGE Healthcareによるものである。レンネットはSigmaAldrichから購入した(R5876)。
【0073】
パタチンの4,0%(m:m)溶液を脱塩水中で調製し、等量のクマシーブリリアントブルーR-250またはクマシーブリリアントブルーG-250のいずれかと共にインキュベートし、30分間にわたり一定の撹拌下で周囲温度にてインキュベートした。インキュベーション後、PD10使い捨てゲル濾過カラムでのゲル濾過により、任意の非結合色素をタンパク質から除去した。使用時まで、色素標識パタチン溶液を-28℃で貯蔵した。
【0074】
標識タンパク質による、パタチンのカードおよび乳清への分布の決定
乳の5 mL分割量に、20 mg/L〜2.0 g/Lの間の異なる量の標識パタチンを補充した。必要に応じて脱塩水を添加して、全量を一定に保持した。得られた混合物および対照としての未処理の乳を、10 mg/Lのレンネットを添加し、35℃で90分間インキュベートすることにより凝固させた。得られた物質を、9000 gで10分間遠心分離してカードと乳清に分離した。次に乳清をマイクロバイアルに移し、15000 gで10分間にわたり再度遠心分離して、わずかに不透明な溶液を得た。
【0075】
カード画分および乳清画分の写真を撮影して、色素の分布を光学的に検査できるようにした(
図2)。乳清中の青色色素の量の分光光度定量は、遠心分離によっても精密濾過によっても十分に除去されなかった残存濁度のために成功しなかった。
【0076】
リパーゼ活性測定による、パタチンのカードおよび乳清への分布の決定
公知のリパーゼ基質は、SigmaAldrichから購入した(カプリル酸4-ニトロフェニル、21742)。乳の5 mL分割量に、50 mg/L〜500 mg/Lの間の異なる量のパタチンを補充した。必要に応じて脱塩水を添加して、全量を一定に保持した。得られた混合物および対照としての未処理の乳を、10 mg/Lのレンネットを添加し、35℃で90分間インキュベートすることにより凝固させた。得られた物質を、9000 gで10分間遠心分離してカードと乳清に分離した。次に乳清をマイクロバイアルに移し、15000 gで10分間にわたり再度遠心分離して、わずかに不透明な溶液を得た。これを脱塩水で10000倍希釈した。カード画分をpH 7.5の100 mMクエン酸緩衝液中に再懸濁し、同様に希釈した。元の乳溶液の分割量も同程度まで希釈した。これらの希釈物100μLを、96ウェルプレート中の、2 mMカプリル酸4-ニトロフェニルを含む30 mM Tris-HCl pH 8.0溶液100μLに曝露し、BioRad Model 608プレートリーダーを用いて、周囲温度にて5分間にわたり10秒間隔で405 nmの吸光度について解析した(
図3)。乳清中のパタチンの活性は、添加したパタチン活性よりもはるかに低く、パタチンが乳凝固時に主にカード中に分画されることが示される。
【0077】
実施例4:パタチンの不活化
乳清中の残存リパーゼ活性は、残存乳脂肪の分解を引き起こし得るため、望ましくないと考えられる。これは、乳清中に揮発性の臭いのある遊離脂肪酸の存在をもたらし、時間と共に味を変える。加えて、乳清から調製された製品は脂肪分解活性を含み、潜在的にそれらの用途を限定する。
【0078】
パタチン(Solanic 206P HMWジャガイモタンパク質)を、pH 5、6、および7の緩衝溶液、ならびにpH 6.7の新たに調製された乳清中に、1 g/Lの濃度になるよう溶解した。これらの溶液中のリパーゼ活性の速度論的分解モデルは、ストップトフロー系において熱曝露時に残存活性を測定することにより構築した。
【0079】
乳清は、10 mg/Lレンネット(SigmaAldrich R5876)に30℃で90分間曝露した全乳から、チーズ布で濾過してカードを除去することにより調製した。パタチン溶液を、4ミリ秒〜10秒の範囲の曝露時間で、50°〜80℃の間の温度に曝露した。pH 8.0の30 mMリン酸緩衝液中の4-メチルウンベリフェリル酢酸(Alfa Aesar A12147)に対して3分間作用させたパタチン溶液の340 nmの吸光度の増加を測定することにより、リパーゼ活性を決定した。本質的にAnton and Barretの方法(Anton, G.E. and Barrot D.M.,2002 JAFC , 50, p.4119-25 「Inactivation of Quality-Related Enzymes in Carrots and Potatoes」)に準じたアレニウス反応速度論に従って、データを適合させた。
【0080】
(表1)異なる条件下でのパタチンの熱不活化。D値は、活性の90%低下を引き起こすのに必要な時間を表し、秒単位で報告される。kは秒の逆数で示した反応速度であり、EaはkJ / molで示した不活化反応の活性化エネルギーである。
【0081】
チーズ製造において、乳清は典型的に75℃で低温殺菌段階を受ける。この温度では、残存リパーゼ活性は数秒の間に、具体的には最大でも10秒以内に不活化されることがデータから示される。
【0082】
実施例5:モデルチーズにおけるジャガイモパタチンによるチーズ風味化合物の発生
テルミゼ(thermised)および遠心除菌により規格化しかつ低温殺菌したチーズ乳を用いて、通常のチーズ製造としてバット1杯のカード(200 L)を調製した。ゴーダタイプのチーズ用の加工プロトコールに従った。レンネット(Kalase、CSK Food Enrichment、Leeuwarden, The Netherlands)およびスターター(Bos中温性スターター、CSK Food Enrichment、Leeuwarden, The Netherlands)をバットに添加した。カードを洗浄した後、これを10個に分割して、異なる量のパタチン(Solanic 206P)を完全に混合した。これらの量は、30〜0.1 mgパタチン/Lチーズ乳の範囲であった。カードを予め押して、4等分し、それぞれをチーズバットに入れた。得られたチーズ(各約350 g)を押し、塩漬けし、真空包装し、13℃で6週間または13週間熟成させた。
【0083】
単一イオン記録モードで作動する固相動的抽出ヘッドスペースGC-MSにより、関連する揮発性風味成分を決定し、定量した。de Jong and Badings, 1990, J High Resolution Chrom. 13:94-98によるGCベースの方法を用いて、個々の脂肪酸のレベルを2つ組で決定した。官能分析は、ISO 8586手順により訓練され選別された熟練の専門家パネル(n = 12)により行った。試験者は、嗅覚および味覚の技能を有する、通常集団の上位10%の人であり、乳製品および共通風味言語(Common Flavour Language(CFL))に対して定期的に訓練を受ける。チーズは、目隠しでかつランダムな順序で試験した。
【0084】
官能検査により、チーズへのパタチンの添加と関連したいくつかの風味特性、すなわち、石鹸様/汗臭さ、焦げ臭い(Scorched)、金属様、甘い、ジアセチル/クリーム様の変化が明らかになった。しかしながら、石鹸様/汗臭さに関してのみ、パタチン量との著しい関連性が認められた(
図4)。パタチン量の増加に伴うこの風味は、次第に、特に石鹸様ではなく最終的には甘いと見なされた。
【0085】
機器分析により、パタチン量に伴うC
4〜C
8脂肪酸の量の増加が明らかになった。最も多い量(約30 mg/L乳)は、対照に対して、6週間の熟成後では50%の増加、および13週間の熟成後では65%の増加に相当した。パタチンはC
4、C
6、およびC
8脂肪酸の加水分解を選好し(
図5)、これらは他の遊離脂肪酸よりも高い増加を示す。
【0086】
ケトン、アルデヒド、およびエステルなどの脂肪酸由来の揮発性物質は、添加したパタチンの量と用量依存的な様式で増加した(
図6)。
【0087】
実施例6:ジャガイモリパーゼの貯蔵寿命
生産時から2年間を網羅するHMWジャガイモタンパク質粉末試料(Solanic 206P;パタチン)を、100 mM pH 8.0リン酸緩衝液中に2%濃度で溶解した。遠心分離により固形物を除去し、上清を、3 mg/mLドデシル硫酸ナトリウムの存在下で4 mMカプリル酸パラニトロフェニル(SigmaAldrich 21742)に対するリパーゼ活性について、30℃で405 nmの吸光度の分光測定により解析した。次に、16888のモル吸光係数を用いて活性を算出し、リパーゼ活性/mg粉末の単位として表した。解析はすべて、単一の実験系で行った。結果から、ジャガイモの品種、土壌条件、天気、および塊茎齢、および貯蔵条件が大きく異なるにもかかわらず、活性のばらつきは限定されることが示された。さらに、より古い試料がより新しい試料よりも低い活性を示すわけではなく、リパーゼ活性が少なくとも2年間にわたり、およびおそらくははるかにそれよりも長く安定であることが示される。
【0088】
実施例7:パタチンの基質特異性
科学文献は、パタチンの基質特異性を説明する様々な研究を含む。これらは一般に、8〜12個の間の炭素原子を含む、中鎖長のパラニトロフェニルエステルおよび飽和リン脂質が好ましい基質であることに同意する。
【0089】
これらの研究はまた、パタチンがトリグリセリドに対して活性をもたないことにも同意する。そのため驚いたことには、Solanicsパタチン製品は、C
4〜C
8脂肪酸、および場合によっては同じくC
10脂肪酸を有する短鎖および中鎖トリグリセリドに対して、低いが明らかに存在する活性を示す。0.025 mmol/分/gを上回る活性は、チーズ製造を含む食物生産工程に関して有意であると見なされる。
【0090】
(表2)mmol/分/gパタチンで表示した、周囲温度での様々な基質に対するパタチン活性。太字の数字は、本発明による加水分解を示す。Nd = 未検