特許第6231115号(P6231115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)の特許一覧 ▶ ユニベルシテ、ジョセフ、フーリエ‐グルノーブル、1の特許一覧

特許6231115PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル
<>
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000026
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000027
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000028
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000029
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000030
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000031
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000032
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000033
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000034
  • 特許6231115-PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル 図000035
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231115
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】PBAグラフトヒアルロン酸(HA)を含んでなるグルコース応答性ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/08 20060101AFI20171106BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C08B37/08 Z
   A61K9/06
   A61K47/36
   A61K38/28
   A61P3/10
【請求項の数】15
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2015-540172(P2015-540172)
(86)(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公表番号】特表2015-537078(P2015-537078A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】EP2013073140
(87)【国際公開番号】WO2014072330
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2016年11月2日
(31)【優先権主張番号】12306369.5
(32)【優先日】2012年11月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(73)【特許権者】
【識別番号】510066248
【氏名又は名称】ユニベルシテ、ジョセフ、フーリエ
【氏名又は名称原語表記】Universite Joseph Fourier
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ラシェル、オーゼリー−ベルティ
(72)【発明者】
【氏名】エミリー、アシェット
(72)【発明者】
【氏名】ボグダン、カタージ
(72)【発明者】
【氏名】バレリー、ラベーヌ
(72)【発明者】
【氏名】レア、メサジェ
【審査官】 杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−244031(JP,A)
【文献】 特開平04−124144(JP,A)
【文献】 特開平03−204823(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/119117(WO,A1)
【文献】 特表2002−523476(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/159757(WO,A1)
【文献】 特表2003−527874(JP,A)
【文献】 Journal of Pharmaceutical Sciense,2011年,100(6),2278-2286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00 − 37/18
A61K 9/00 − 9/72
A61K 47/00 − 47/69
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたフェニルボロン酸(PBA)修飾ヒアルロン酸(HA)ポリマー(ここで、前記基は、フェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)と、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾ヒアルロン酸(HA)ポリマー(ここで、前記シス−ジオールは、二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される)
との混合物を含んでなる、ポリマー組成物。
【請求項2】
7〜10のpHを有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記PBA修飾HAポリマーの少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がさらにグラフトされ、前記シス−ジオール修飾HAポリマーの少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がさらにグラフトされた、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記アルケン基がペンテノエートおよびマレイミドからなる群の中で選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記PBA修飾HAポリマーと前記シス−ジオール修飾HAポリマーがそれらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して可逆的に、共有結合的に架橋されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記PBA修飾HAポリマーと前記シス−ジオール修飾HAポリマーがそれらのアルケン基を介して化学的に架橋され、かつ、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して可逆的に、共有結合的にさらに架橋されている、請求項3または4に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
請求項5に記載のポリマー組成物を含んでなる、注射可能なヒドロゲル。
【請求項8】
請求項6に記載のポリマー組成物を含んでなる、移植可能なヒドロゲル。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマー組成物と前記ポリマー組成物中に含有される薬物とを含んでなる、薬物送達システム。
【請求項10】
糖尿病の治療方法に使用するための、請求項9に記載の薬物送達システム。
【請求項11】
前記薬物がインスリンである、請求項9または10に記載の薬物送達システム。
【請求項12】
HAポリマー組成物を含んでなる可逆的に架橋されたヒドロゲルを製造するための方法であって、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたフェニルボロン酸(PBA)修飾ヒアルロン酸(HA)ポリマーを作製する工程(ここで、前記基は、フェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)、
b)ヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾ヒアルロン酸(HA)ポリマーを作製する工程(ここで、前記シス−ジオールは、二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される);
c)工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオール修飾HAポリマーの水溶液を、7〜10のpHで混合して、可逆的に架橋されたヒドロゲルを得る工程
を含んでなる、方法。
【請求項13】
工程c)において、工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオールHAポリマーの水溶液の混合が薬物の存在下で行われ、それにより、前記薬物を前記HAポリマー組成物に組み込む、請求項12に記載のヒドロゲルを製造するための方法。
【請求項14】
ヒアルロン酸(HA)ポリマー組成物を含んでなる二重架橋ヒドロゲルを製造するための方法であって、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされ(ここで、前記基は、フェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)、かつ、少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がグラフトされた、フェニルボロン酸(PBA)修飾ヒアルロン酸(HA)ポリマーを作製する工程、および
b)ヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされ(ここで、前記シス−ジオールは、二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される)、かつ、少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がグラフトされた、シス−ジオール修飾ヒアルロン酸(HA)ポリマーを作製する工程、
c)工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオール修飾HAポリマーの水溶液を3〜6.5のpHで混合して、HAポリマー組成物を得る工程、
d)工程c)で得られたHAポリマー組成物を、HAポリマー組成物上のアルケン基へのPEG−(SH)のラジカル付加により光架橋して、化学的に架橋されたHAポリマー組成物を得る工程、
e)工程d)のHAポリマー組成物を7〜10のpHで架橋する工程
を含んでなる、方法。
【請求項15】
工程d)の後、薬物がHAポリマー組成物に組み込まれる、請求項14に記載のポリマー組成物を含んでなる二重架橋ヒドロゲルを製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病および関連の態様の治療においてインスリン送達システムとして使用可能な、生体高分子に基づく新規なグルコース感受性ヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、血中のグルコース濃度の蓄積を特徴とする、グルコース調節の障害である。このグルコース調節の破綻は、内分泌系の膵臓がインスリンを分泌できないか、または身体がインスリンを適切に使用できないことによるものであり得る。1型糖尿病の場合、通常の治療は、毎日複数回の血糖管理および皮下注射からなる。しかしながら、インスリン用量が血中のグルコースレベルに絶えず適合され、それにより、有害な合併症を招く正常範囲を下回るまたは上回るグルコースレベルを回避することができれば、血糖のより良い管理が達成できる。この関連で、インスリンの閉ループ送達の需要が高い。
【0003】
グルコース応答性ポリマー、特にヒドロゲルは、グルコースレベルを検知し、それに応じてインスリンを送達するというそれらの両能力のために本分野で大きな注目が寄せられている。血中グルコース濃度に応じた可逆的膨潤の結果としての、これらの極めて膨潤した網状構造の透過性の変動は、それらを、自己調節インスリン送達を達成するために好適なものとする。
【0004】
この目的で、ポリマー鎖上にグルコースセンサー部分を導入することが必要であり、フェニルボロン酸(PBA)が理想的な候補と思われており、これはこの分子が他のグルコース認識要素(グルコースオキシダーゼ、コンカナバリンA)に比べて不安定性および免疫応答のリスクに比較的影響を受けにくいためである。フェニルボロン酸は、水性媒体中でジオールと可逆的に結合して環状ボロン酸エステルを形成することが知られている(Kataoka et al., 1998)。いくつかの研究で、PBAを含有するグルコース応答性ポリマーゲルシステムが確立されている(Kataoka et al., 1998; Ravaine et al., 2008; Samoei et al., 2006; Wang et al., 2010; Wu et al., 2011)。
【0005】
しかしながら、これらのグルコース応答システムには多くの欠点がある。これらのポリマーは一般に、合成、非生分解性であり、生体適合性がなく、in vivo適用ができない。
【0006】
さらに、グルコースセンサーとしてボロン酸(PBA)を含んでなる動的マトリックスの形成は、アルカリpHでは安定であるが、生理学的条件下では安定でないボロン酸−シス−ジオール複合体の形成に基づいている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、調節型のインスリン送達のための、グルコースに感受性のある新規な生体高分子複合体システムを記載する。この生体高分子複合体は、PBAで修飾されたヒアルロン酸(HA)誘導体とマルトースで修飾されたヒアルロン酸(HA)誘導体を混合することにより得られる。HAは、あらゆる組織に偏在し、そこで重要な構造的および生物学的機能を持つ陰イオン性の直鎖多糖である。従って、HAは生体適合性があり、生物体内の酵素により分解され得る。さらに、HAは細菌発酵により容易に生産できる。PBAはシス−ジオール単位を有する分子と結合することができるので、HA鎖の糖単位と複合体を形成することができる。しかしながら、HAの繰り返しの二糖単位の構造(D−グルクロン酸とN−アセチル−D−グルコサミンからなる)は、グルコースに比べてPBAとの効率的複合体形成ができないことから、水溶液中でPBA修飾HAとマルトース修飾HA(それぞれHA−PBAとHA−マルトース)を合わせることにより動的網状構造(すなわち、動的共有結合的架橋により形成される網状構造)の形成を促進するためにHA上に末端グルコース単位を含むマルトース部分がグラフトされた。この配合ストラテジーにより、遊離グルコースによるHA−PBAからのHA−マルトースの競合的排除に基づくグルコース感受性を示す動的ヒドロゲルを得ることが可能となった。有利なことに、動的網状構造の形成は生理学的pHで見られたが、これはアルカリpHでのみ安定に存在できる他のボロン酸−シス−ジオール複合体に比べるとまれなことである(Ivanov et al., 2004; Kitano et al., 1992; Matsumoto et al., 2004)。
【0008】
概要
本発明の第1の目的は、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマー、前記シス−ジオールは二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロールおよびマンニトールからなる群の中で選択される、
との混合物を含んでなるポリマー組成物である。
【0009】
本発明の第1の実施態様では、本ポリマー組成物は、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマー(ここで、前記基は3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)と、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマー(ここで、前記シス−ジオールは二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される)
との混合物を含んでなる。
【0010】
本発明の第2の実施態様では、前記請求項のいずれか一項に記載のポリマー組成物は、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上に3−アミノフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上にマルトース含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマー
との混合物を含んでなる。
【0011】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシル上にチオール−エンカップリングを介してフェニルボロン酸含有基がグラフトされ、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシル上にチオール−エンカップリングを介してシス−ジオール含有基がグラフトされる。
【0012】
本発明の第3の実施態様では、本ポリマー組成物は、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上に式(I):
【化1】
のPBA基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上に式(II):
【化2】
のマルトース基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーとの混合物を含んでなる。
【0013】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、フェニルボロン酸含有基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.2である。
【0014】
本発明のポリマー組成物では、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは、シス−ジオール含有基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.2である。
【0015】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、分子量Mが10000g/mol〜3000000g/mol、より優先的には20000g/mol〜800000g/molであり、シス−ジオール修飾HAポリマーは、分子量Mが10000g/mol〜3000000g/mol、より優先的には20000g/mol〜800000g/molである。
【0016】
本発明のポリマー組成物では、フェニルボロン酸含有基とシス−ジオール含有基の間のモル比は、好ましくは0.25/1〜2.5/1、より好ましくは0.5/1〜2/1である。
【0017】
本発明のポリマー組成物では、組成物は好ましくは7〜10、好ましくは7〜7.5のpHを有する。
【0018】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がさらにグラフトされ、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がさらにグラフトされる。
【0019】
本発明のポリマー組成物では、アルケン基は好ましくは、ペンテノエートおよびマレイミドからなる群の中で選択される。
【0020】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、アルケン基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.5であり、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは、アルケン基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.5である。
【0021】
本発明の好ましい実施態様では、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して、可逆的に、共有結合的に架橋される。
【0022】
いくつかの実施態様では、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、それらのアルケン基を介して化学的に架橋される。好ましくは、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、ビスチオール化ポリ(エチレングリコール)P(EG−(SH))との光架橋反応により、それらのアルケン基を介して化学的に架橋される。
【0023】
好ましくは、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して、さらに可逆的に、共有結合的に架橋される。
【0024】
本発明の別の目的は、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーが、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して、可逆的に、共有結合的に架橋されたポリマー組成物を含んでなる、注射可能なヒドロゲルである。
【0025】
本発明の別の目的は、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーが、それらのアルケン基を介して化学的に架橋され、かつ、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介してさらに可逆的に、共有結合的に架橋されたポリマー組成物を含んでなる、移植可能なヒドロゲルである。
【0026】
本発明の別の目的は、
a)式(III):
【化3】
{式中、R、R、RおよびRは、H、式(I):
【化4】
のPBA基、および
式(IV):
【化5】
のアルケン基からなる群の中で独立に選択され、
は、25〜8000、好ましくは50〜2000の整数であり、
式(I)のPBA基によるDSは、0.02〜0.6、好ましくは0.05〜0.2であり、
式(IV)のアルケン基によるDSは、0〜0.6、好ましくは0.02〜0.6である}
で示されるPBA修飾HAポリマーと、
式(V):
【化6】
{式中、R、R、RおよびRは、H、式(II):
【化7】
のマルトース基、式(IV):
【化8】
のアルケン基からなる群の中で独立に選択され、
は、25〜8000、好ましくは50〜2000の整数であり、
マルトース基によるDSは、0.02〜0.6、好ましくは0.05〜0.2であり、
アルケン基によるDSは、0〜0.6、好ましくは0.02〜0.6である}
で示されるシス−ジオール修飾HAポリマーとの混合物を含んでなるポリマー組成物である。
【0027】
本発明では、ポリマー組成物は、好ましくは、PBA基とアルケン基の間のモル比が0.25/1〜2.5/1、好ましくは0.5/1〜2/1である混合物を含んでなる。
【0028】
本発明では、ポリマー組成物は、好ましくは、7〜10、好ましくは7〜7.5のpHを有する。
【0029】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、好ましくは、それぞれそれらのPBA基およびそれらのマルトース基を介して可逆的に、共有結合的に架橋される。
【0030】
本発明のポリマーでは、PBA修飾HAポリマーは、好ましくは、アルケン基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.2であり、シス−ジオール修飾HAポリマーは、好ましくは、アルケン基によるDSが0.02〜0.6、好ましくは0.05〜0.2である。
【0031】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、好ましくは、それらのアルケン基を介して化学的に架橋される。好ましくは、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、PEG−(SH)との光架橋反応により、それらのアルケン基を介して化学的に架橋される。好ましくは、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、それらのPBA基およびそれらのマルトース基を介してさらに可逆的に、共有結合的に架橋される。
【0032】
本発明の別の目的は、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーがそれらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して可逆的に、共有結合的に架橋されたポリマー組成物を含んでなる注射可能なヒドロゲルである。
【0033】
本発明の別の目的は、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーがそれらのアルケン基を介して化学的に架橋され、かつ、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介してさらに可逆的に、共有結合的に架橋されたポリマー組成物を含んでなる移植可能なヒドロゲルである。
【0034】
本発明の別の目的は、上記のようなポリマー組成物と前記ポリマー組成物に含有される薬物とを含んでなる薬物送達システムである。好ましくは、本発明による薬物送達システムは薬剤として使用するためのものである。好ましくは、本発明による薬物送達システムは、糖尿病の治療方法で使用するためのものである。好ましい実施態様では、薬物はインスリンである。
【0035】
本発明の別の目的は、少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーを製造するための方法であって、
a)HAポリマーのヒドロキシルにアルケン基をグラフトして、アルケン基で修飾されたHA中間体を得る工程、
b)フェニルボロン酸含有基にチオール基をグラフトして、フェニルボロン酸−チオール誘導体を得る工程、
c)工程a)で得られた生成物を工程b)で得られた生成物と反応させてチオエーテル結合を形成する工程
を含んでなる方法である。
【0036】
好ましくは、工程a)において、アルケン基はペンテノエートおよびマレイミドから選択される。
【0037】
好ましくは、工程b)において、得られるフェニルボロン酸−チオール誘導体は、式(VI):
【化9】
の化合物である。
【0038】
本発明の別の目的は、少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーを製造するための方法であって、
a)HAポリマーのヒドロキシルにアルケン基をグラフトして、アルケン基で修飾されたHA中間体を得る工程、
b)シス−ジオールにチオール基をグラフトしてチオールシス−ジオールを得る工程、
c)工程a)で得られた生成物を工程b)で得られた生成物と反応させてチオエーテル結合を形成する工程
を含んでなる方法である。
【0039】
好ましくは、工程a)において、アルケン基はペンテノエートおよびマレイミドから選択される。
【0040】
好ましくは、工程b)において、シス−ジオールはマルトースであり、得られるチオールシス−ジオールは式(VII):
【化10】
の化合物である。
【0041】
本発明の別の目的は、HAポリマー組成物を含んでなる可逆的に架橋されたヒドロゲルを製造するための方法であって、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーを作製する工程、
b)ヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーを作製する工程(ここで、前記シス−ジオールは二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される)、
c)工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程のシス−ジオール修飾HAポリマーの水溶液を7〜10の間、好ましくは7.2〜9.5の間を含んでなるpHで混合して、可逆的に架橋されたヒドロゲルを得る工程
を含んでなる方法である。
【0042】
本発明の別の目的は、HAポリマー組成物を含んでなる可逆的に架橋されたヒドロゲルを製造するための方法であって、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーを作製する工程(ここで、前記基は、フェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)、
b)ヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーを作製する工程(ここで、前記シス−ジオールは二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される)、
c)工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオール修飾HAポリマーの水溶液を7〜10の間、好ましくは7.2〜9.5の間を含んでなるpHで混合して、可逆的に架橋されたヒドロゲルを得る工程
を含んでなる方法である。
【0043】
好ましくは、工程c)において、工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオールHAポリマーの水溶液の混合は薬物の存在下で行い、それにより、薬物をHAポリマー組成物に組み込む。
【0044】
本発明の別の目的は、HAポリマー組成物を含んでなる二重架橋ヒドロゲルを製造するための方法であって、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされ(ここで、前記基は、フェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)、かつ、少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーを作製する工程、
b)ヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされ(ここで、前記シス−ジオールは二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される)、かつ、少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーを作製する工程、
c)工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオール修飾HAポリマーの水溶液を3〜6.5のpHで混合して、HAポリマー組成物を得る工程、
d)工程c)で得られたHAポリマー組成物を、HAポリマー組成物上のアルケン基へのPEG−(SH)のラジカル付加により光架橋して、化学的に架橋されたHAポリマー組成物を得る工程、
e)工程d)のHAポリマー組成物を7〜10の間、優先的には7.2〜9.5の間を含んでなるpHで架橋する工程
を含んでなる方法である。
【0045】
好ましい実施態様では、工程d)の後、薬物がHAポリマー組成物に組み込まれる。
【発明の具体的説明】
【0046】
本発明は、PBA(フェニルボロン酸)で修飾されたHA誘導体とシス−ジオールで修飾されたHA誘導体を混合することにより得られるポリマー組成物を記載する。
【0047】
これらの親水性HAポリマーを架橋することにより、ポリマー鎖の網状構造が得られ、その結果、水吸収性の高いヒドロゲルが形成される。
【0048】
より詳しくは、7〜10の範囲のpHで、ボロン酸−シス−ジオール複合体によるHA分子の架橋が起こり、本発明の組成物は動的マトリックスまたはヒドロゲルを形成する。驚くことに、通常アルカリpHでのみ安定なボロン酸−シス−ジオール複合体は、生理学的pH(7.4)を含む、より低いpHで著しい安定性を示す。
【0049】
これらの組成物は、遊離グルコースによるPBA修飾HAからのシス−ジオール修飾HAの競合的排除に基づくグルコース感受性粘度を示す動的ヒドロゲルを形成する。
【0050】
本発明のヒドロゲルは、それらを注射または移植の両方に好適とする軟質から硬質の範囲の特性を持ち得る。
【0051】
本発明では、用語「HA」は、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロナン、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩、特に、CAS番号9004−61−9および9067−32−7(ナトリウム塩)を有するヒアルロナンを意味する。
【0052】
HAグリコサミノグリカンは、下式:
【化11】
により表すことができる。
【0053】
本発明の組成物は、少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーと、少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーとを含んでなる。PBA修 飾HAおよびシス−ジオール修飾HAは、HAポリマーの特にヒドロキシル基上にグラフトされた他のいずれの官能基を含んでなってもよい。
【0054】
一般に、本発明のポリマー組成物は、PBA修飾HAの水溶液とシス−ジオール修飾HAの水溶液を混合することにより得られる。pH7〜10、より好ましくは7.2〜9.5で、これらのHA分子を架橋するボロン酸−シス−ジオール複合体を含んでなる動的ヒドロゲルが形成される。ボロン酸−シス−ジオール複合体はグルコース感受性があり、従って、本発明のヒドロゲルの膨潤、粘度および透過性は、媒体中のグルコースの存在および媒体中に存在するグルコースの量によって異なる。
【0055】
本発明の組成物およびヒドロゲルは、グルコース感受性である。いずれの薬物またはAPI(有効医薬成分)でも本発明の組成物およびヒドロゲルに組み込むことができる。本発明の組成物およびヒドロゲルは薬物送達システムとして使用可能であり、本ヒドロゲルからの薬物の放出はグルコース濃度によって調節される。
【0056】
本発明の第1の目的は、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマー
との混合物を含んでなるポリマー組成物である。
【0057】
本発明において、フェニルボロン酸含有基(PBA)は、シス−ジオール含有基を有するボロン酸−シス−ジオール複合体を形成することができるPBAまたはPBA誘導体を含んでなるいずれの基であってもよい。
【0058】
本発明において、シス−ジオール含有基は好ましくは、
・マルトース、ラクトースおよびスクロースなどの二糖類;
・グルコース、ガラクトースおよびマンノースなどのヘキソース;
・グルクロン酸、ガラクツロン酸、およびマンヌロン酸などのヘキソースのウロン酸誘導体;
・ガラクトサミンおよびグルコサミンなどのヘキソサミン;
・N−アセチル−ガラクトサミンおよびN−アセチル−グルコサミンなどのヘキソサミンのN−アセチル誘導体;
・グリセロール;
・マンニトール;ならびに
・シアル酸
からなる群の中で選択される。
【0059】
本発明の第1の実施態様では、ポリマー組成物は、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマー(ここで、前記基は、フェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)と、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマー(ここで、前記シス−ジオールは、二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択され)
との混合物を含んでなる。
【0060】
本発明の第2の実施態様では、ポリマー組成物は、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上に3−アミノフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上にマルトース含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマー
との混合物を含んでなる。
【0061】
本発明の第3の実施態様では、ポリマー組成物は、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上に式(I):
【化12】
のPBA基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル上に式(II):
【化13】
のマルトース基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマー
との混合物を含んでなる。
【0062】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、チオール−エンカップリングを介して少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされ、かつ、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは、チオール−エンカップリングを介して少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされる。
【0063】
本発明者らにより開発されたチオール−エンカップリングに基づく合成ストラテジーは、様々な置換度を有するPBA修飾HAおよびシス−ジオール修飾HAを提供する。この合成ストラテジーから考えて、これらのHAポリマーはまた、ポリマー鎖に沿ったヒドロキシル基上にグラフトされたアルケン基も有し得る。これらのアルケン基は、本発明のグルコース感受性ヒドロゲルを化学的に架橋するために有利に使用することができる。アルケン基はさらに、HAポリマーのさらなる官能基化のためにも使用可能である。この合成ストラテジーは、WO2012/066133にも記載されている。
【0064】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がさらにグラフトされ、かつ、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がさらにグラフトされる。
【0065】
本発明のポリマー組成物では、アルケン基は好ましくは、ペンテノエートおよびマレイミドからなる群の中で選択される。
【0066】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、アルケン基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.5であり、かつ、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは、アルケン基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.5である。
【0067】
本ポリマーのヒドロキシル基を介し、HA鎖に沿ってPBA基またはシス−ジオール基をグラフトするために、他のいずれの方法を用いてもよい。
【0068】
本発明の第4の実施態様では、ポリマー組成物は、
a)式(III):
【化14】
{式中、R、R、RおよびRは、H、式(I):
【化15】
のPBA基および式(IV):
【化16】
のアルケン基からなる群の中で独立に選択され、
は、25〜8000、好ましくは50〜2000の整数であり
式(I)のPBA基によるDSは、0.02〜0.6、好ましくは0.05〜0.2であり、
式(IV)のアルケン基によるDSは、0〜0.6、好ましくは0.02〜0.6である}
で示されるPBA修飾HAポリマーと、
b)式(V):
【化17】
{式中、R、R、RおよびRは、H、式(II):
【化18】
のマルトース基および式(IV):
【化19】
のアルケン基からなる群の中で独立に選択され、
は、25〜8000、好ましくは50〜2000の整数であり、
マルトース基によるDSは、0.02〜0.6、好ましくは0.05〜0.2であり、
アルケン基によるDSは、0〜0.6、好ましくは0.02〜0.6である}
で示されるシス−ジオール修飾HAポリマー
との混合物を含んでなる。
【0069】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、フェニルボロン酸含有基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.2である。
【0070】
本発明のポリマー組成物では、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは、シス−ジオール含有基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.2である。
【0071】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、アルケン基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.5であり、かつ、シス−ジオール修飾HAポリマーは好ましくは、アルケン基によるDSが0.02〜0.6、より好ましくは0.05〜0.5である。
【0072】
本発明のポリマー組成物では、アルケン基は好ましくは、ペンテノエートおよびマレイミドからなる群の中で選択される。
【0073】
本発明のポリマー組成物では、PBA修飾HAポリマーは好ましくは、分子量Mが10000g/mol〜3000000g/mol、より優先的には20000g/mol〜800000g/molであり、かつ、シス−ジオール修飾HAポリマーは、分子量Mが10000g/mol〜3000000g/mol、より優先的には20000g/mol〜800000g/molである。
【0074】
本発明のポリマー組成物では、フェニルボロン酸含有基とシス−ジオール含有基の間のモル比は、好ましくは0.25/1〜2.5/1、より好ましくは0.5/1〜2/1である。
【0075】
本発明のポリマー組成物は好ましくは、7〜10、好ましくは7.2〜9.5、より好ましくは7.2〜7.5、いっそうより好ましくは7.4(生理学的pH)のpHを有する。
【0076】
本発明の組成物は、中性またはアルカリpHで架橋されたヒドロゲルを形成する。PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して可逆的に、共有結合的に架橋される。この架橋は、グルコースに応答して変化するので、「動的」または「可逆的」である。
【0077】
これらの動的ヒドロゲルの膨潤、粘度および透過性はまた、組成物の各修飾HAポリマーのPBA基またはシス−ジオール基によるDSにも依存する。ポリマー組成物中のフェニルボロン酸含有基とシス−ジオール含有基の間のモル比もまた、HAヒドロゲルの特性ならびにHAポリマーのMwを決定する。
【0078】
調整可能なグルコース感受性を有するヒドロゲルは、これらの種々のパラメーターを変更することにより得られる。
【0079】
薬物、APIまたは他の任意の有効成分は、ボロン酸−シスジオール複合体の形成によるHAポリマーの可逆的架橋前または架橋中にヒドロゲルに組み込むことができる。
【0080】
ボロン酸−シスジオール複合体の形成を介してHAポリマーのPBA基およびシス−ジオール基を架橋することにより得られたヒドロゲルは、特に、注射可能なヒドロゲルとして使用可能である。
【0081】
これらのヒドロゲルはまた、50〜1000nmの間、好ましくは100〜500nmの間を含んでなるサイズを有するナノ粒子として処方することもできる。これらのナノ粒子はまた、注射による投与にも好適である。
【0082】
よって、本発明の別の目的は、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーがそれらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して可逆的に、共有結合的に架橋されたポリマー組成物を含んでなる注射可能なヒドロゲルである。
【0083】
本発明のポリマー組成物は、当業者に公知の任意の適当な方法によってさらに化学的に 架橋されてもよい。
【0084】
本発明において、HAポリマー組成物の化学的架橋は、HAポリマー鎖に沿ったヒドロキシル上にグラフトされたアルケン基を介して行われてよい。これらの実施態様では、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、それらのアルケン基を介して化学的に架橋される。
【0085】
PBA修飾HAとシス−ジオール修飾HAは、当業者に公知のいずれの方法によって、それらのアルケン基を介して化学的にさらに架橋されてもよい。好ましい実施態様では、化学的に架橋されたヒドロゲルの形成は、ラジカル−チオールエン付加反応によって行われる。好ましくは、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーは、ビスチオール化ポリ(エチレングリコール)(PEG−(SH))との光架橋反応により、それらのアルケン基を介して化学的に架橋される。
【0086】
化学的架橋後、薬物、APIまたは任意の有効成分は、HAポリマー鎖に沿ったPBA基およびシス−ジオール基を介して可逆的および動的グルコース感受性架橋が行われる前に、ヒドロゲルに組み込まれてよい。
【0087】
好ましくは、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーとを含んでなる化学的に架橋されたヒドロゲルは、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介して、さらに可逆的に、共有結合的に架橋される。
【0088】
PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーがそれらのアルケン基を介して化学的に架橋され、かつ、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介してさらに可逆的に、共有結合的に架橋されたポリマー組成物を含んでなる、これらの二重架橋されたヒドロゲルは、特に、移植可能なヒドロゲルとして使用され得る。
【0089】
本発明の二重架橋されたヒドロゲルはまた、50〜1000nmの間、好ましくは100〜500nmの間を含んでなるサイズを有するナノ粒子として処方してもよい。これらのナノ粒子は、注射による投与に好適である。
【0090】
本発明の別の目的は、PBA修飾HAポリマーとシス−ジオール修飾HAポリマーがそれらのアルケン基を介して化学的に架橋され、かつ、それらのフェニルボロン酸含有基およびそれらのシス−ジオール含有基を介してさらに可逆的に、共有結合的に架橋されたポリマー組成物を含んでなる、移植可能なヒドロゲルである。
【0091】
本発明の別の目的は、上記のようなポリマー組成物と前記ポリマー組成物中に含有される薬物または有効成分とを含んでなる薬物送達システムである。本発明の薬物送達システムは、薬物または有効成分のグルコース感受性放出を提供する。好ましくは、本発明による薬物送達システムは、薬剤として使用するためのものである。好ましくは、本発明による薬物送達システムは、糖尿病の治療方法において使用するためのものである。好ましい実施態様では、薬物はインスリンである。
【0092】
多様な様式で本発明のヒドロゲルを作製するために、本発明者らは、様々な置換度を有するPBA修飾HAおよびシス−ジオール修飾HAの合成を可能とする合成ストラテジーを開発した。ヒドロゲルの挙動は、遊離グルコースの不在下および存在下、水溶液中のHA−PBA/HA−シス−ジオール混合物の動的レオロジーを測定することによって定量した。特に、本発明者らは、グルコース応答のタイプがHA結合PBAとHA結合シス−ジオールの間の比を変更することによって強い影響を受け、有利にはこれを用いて、グルコース感受性を厳密に調整し、ヒドロゲルからの薬物の放出を厳格に制御することができることを示した。これらの考慮事項に基づき、本発明の態様は、化学的に修飾された生体適合性および生分解性天然多糖からの、調整可能なグルコース感受性を有する動的ヒドロゲルの開発に関する。本発明の別の態様は、鎖に沿って様々な置換度(DS)でPBA基またはシス−ジオール部分のいずれかを有する多糖誘導体への多様な経路の開発に関する。特に、DSに応じて、これらの多糖はまた、鎖に沿って、グルコース感受性網状構造を化学的に架橋するために使用可能なアルケン基も有し得る。得られた化学的ヒドロゲルは、血糖濃度に応じたそれらの可逆的膨潤の結果としての、例えば、自己調節インスリン送達を達成するための移植可能な材料として使用することができる。
【0093】
HA誘導体は、スキーム1に示されるように、鎖に沿ってアルケン官能基を有する一般的な中間体から合成された。
スキーム1:チオール−エン反応に基づくHA上へのフェニルボロン酸部分およびマルトース部分のグラフトのための合成ストラテジー
【化20】
【0094】
PBAおよびシス−ジオールによるHAの官能基化のためのストラテジーは、その簡単さ、高い反応性、および利用可能な試薬の幅広さからクリック化学として分類されている「チオール−エン反応」による。チオール−エン反応は、チオエーテル結合の形成をもたらす二重結合上のチオールのラジカル付加に基づく。官能性チオールと反応させるために、WO2012/066133に従前に記載されている手順に従い、HAをまずアルケン基で官能基化した。本発明者らは、実際に、水性有機媒体中で多糖と無水カルボン酸を反応させることによりHAをアルケン基で官能基化するための温和な条件を開発した。HA−アルケンの置換度は、[無水カルボン酸]/[HA]供給比を変更することによって調節することができる。例えば、[無水ペンテン酸]/[HA]比1を使用したところ、本発明者らはDSが0.2のペンテノエート修飾HAを得、これをチオール−エン反応においてシス−ジオール−チオール誘導体およびPBA−チオール誘導体とさらに反応させた。
【0095】
よって、本発明の別の目的は、少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーを製造するための方法であって、
a)HAポリマーのヒドロキシルにアルケン基をグラフトして、アルケン基で修飾されたHA中間体を得る工程、
b)フェニルボロン酸含有基にチオール基をグラフトして、フェニルボロン酸−チオール誘導体を得る工程、
c)工程a)で得られた生成物を工程b)で得られた生成物と反応させて、チオエーテル結合を形成する工程
を含んでなる方法である。
【0096】
好ましくは、工程a)において、アルケン基はペンテノエートおよびマレイミドから選択される。
【0097】
好ましくは、工程b)において、得られるフェニルボロン酸−チオール誘導体は、式(VI):
【化21】
の化合物である。
【0098】
本発明の別の目的は、少なくとも1つのヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーを製造するための方法であって、
a)HAポリマーのヒドロキシルにアルケン基をグラフトして、アルケン基で修飾されたHA中間体を得る工程、
b)シス−ジオールにチオール基をグラフトしてチオールシス−ジオールを得る工程、
c)工程a)で得られた生成物を工程b)で得られた生成物と反応させて、チオエーテル結合を形成する工程
を含んでなる方法である。
【0099】
好ましくは、工程a)において、アルケン基はペンテノエートおよびマレイミドから選択される。
【0100】
好ましくは、工程b)において、シス−ジオールはマルトースであり、得られるチオールシス−ジオールは、式(VII):
【化22】
の化合物である。
【0101】
本発明の別の目的は、HAポリマー組成物を含んでなる動的および/または可逆的に架橋されたヒドロゲルを製造するための方法であって、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーを作製する工程;
b)ヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーを作製する工程;
c)工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオール修飾HAポリマーの水溶液を7〜10の間、優先的には7.2〜9.5の間を含んでなるpHで混合して、動的にかつ/または可逆的に架橋されたヒドロゲルを得る工程
を含んでなる方法である。
【0102】
本発明の別の目的は、HAポリマー組成物を含んでなる可逆的に架橋されたヒドロゲルを製造するための方法であって、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーを作製する工程(ここで、前記基は、フェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)、
b)ヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーを作製する工程(ここで、前記シス−ジオールは、二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される)、
c)工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオール修飾HAポリマーの水溶液を7〜10の間、優先的には7.2〜9.5の間を含んでなるpHで混合して、可逆的に架橋されたヒドロゲルを得る工程
を含んでなる方法である。
【0103】
ヒドロゲルの可逆的/動的グルコース感受性架橋前または架橋中に、薬物、または他の任意の有効成分を任意の適当な方法によってヒドロゲルに組み込むことができる。架橋工程の前に、薬物または有効成分を一般にHAポリマー組成物を含有する水溶液に加え、その組成物中に拡散させるか、またはHA組成物に混合する。あるいは、薬物は可逆的架橋工程中にHA組成物に加えてもよい。
【0104】
好ましい実施態様では、工程c)において、工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオールHAポリマーの水溶液の混合は薬物の存在下で行い、それにより、その薬物をHAポリマー組成物に組み込む。
【0105】
本発明の別の目的は、HAポリマー組成物を含んでなる二重架橋ヒドロゲルを製造するための方法であって、
a)少なくとも1つのヒドロキシル上にフェニルボロン酸含有基がグラフトされ(ここで、前記基は、フェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−アミノフェニルボロン酸、4−(アミノエチルカルバモイル)−3−フルオロフェニルボロン酸および4−[(2−アミノエチル)カルバモイル]フェニルボロン酸からなる群の中で選択される)、かつ、少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がグラフトされたPBA修飾HAポリマーを作製する工程、
b)ヒドロキシル上にシス−ジオール含有基がグラフトされ(ここで、前記シス−ジオールは、二糖類、ヘキソース、ヘキソースのウロン酸誘導体、ヘキソサミン、ヘキソサミンのN−アセチル誘導体、グリセロール、マンニトールおよびシアル酸からなる群の中で選択される)、かつ、少なくとも1つのヒドロキシル上にアルケン基がグラフトされたシス−ジオール修飾HAポリマーを作製する工程、
c)工程a)のPBA修飾HAポリマーの水溶液と工程b)のシス−ジオール修飾HAポリマーの水溶液を3〜6.5の間のpHで混合してHAポリマー組成物を得る工程、
d)工程c)で得られたHAポリマー組成物を、HAポリマー組成物上のアルケン基へのPEG−(SH)のラジカル付加により光架橋して、化学的に架橋されたHAポリマー組成物を得る工程、
e)工程d)のHAポリマー組成物を7〜10の間、優先的には7.2〜9.5の間を含んでなるpHで架橋する工程
を含んでなる方法である。
【0106】
工程d)は化学架橋工程であるが、工程e)は、ボロン酸−シス−ジオール複合体の形成により得られる動的または可逆的架橋工程に相当する。上記のように、この第2の架橋工程は動的または可逆的であり、グルコース濃度に感受性がある。
【0107】
HA組成物の化学的架橋の後、ヒドロゲルの動的グルコース感受性架橋前または架橋中に、薬物または他の任意の有効成分を任意の適当な方法によってヒドロゲルに組み込むことができる。薬物または有効成分は一般にHAポリマー組成物を含有する水溶液に加え、その組成物中に拡散させるか、またはHA組成物に混合する。
【0108】
化学的架橋工程の後、HA組成物を対象薬物または有効成分を含有する溶液に浸漬して、その薬物をHA組成物中に拡散させることができる。あるいは、可逆的架橋工程中に、薬物または有効成分を7〜10の間、優先的には7.2〜9.5の間を含んでなるpHでHA組成物に直接加えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0109】
図1】多糖(HA)鎖上にグラフトされたフェニルボロン酸部分およびマルトース部分の可逆的複合体形成に基づくグルコース感受性ヒドロゲル。
図2】PBA修飾HAおよびマルトース修飾HAの合成。A)PBA−チオールとアルケン基の供給モル比の関数としての、HA−PBAのペンテノエートにおけるDSおよびPBA基におけるDSならびに2者のDSの合計の変動;B)PBA−チオールとアルケン基の供給モル比の関数としての、HA−マルトースのペンテノエートにおけるDSおよびマルトース基におけるDSならびに2者のDSの合計の変動。
図3】A)光開始剤(0.05%w/v)およびPEG−(SH)(アルケン基に対するチオール基のモル比=1)の存在下、HA−PBAの溶液(DSPBA=0.05、DS=0.29、C=0.01M HEPES、pH7.4中15g/L)(実線)およびHA−マルトースの溶液(DSmaltose=0.05、DS=0.29、C=0.01M HEPES、pH 7.4中15g/L)(点線)の時間に対する貯蔵弾性率(G’、黒い線)および損失弾性率(G’’、グレーの線)依存性。t=1分に始め、サンプルを20mW/cm強度のUV照射に曝した(発振周波数は1Hzに固定した)。B)光開始剤(0.05%w/v)およびPEG−SH(アルケン基に対するチオール基のモル比=1)の存在下、PBAおよびマルトースにおいて種々のDSを有するHA−PBAおよびHA−マルトースの溶液から作製したヒドロゲルの貯蔵弾性率の比較。
図4】種々のPBA/マルトースモル比でのHA−PBA/HA−マルトースの混合物、および最初のHA、HA−PBA、HA−マルトース単独の溶液の動的レオロジー挙動の比較。A)周波数の関数としての、貯蔵弾性率および損失弾性率の変動。B)周波数の関数としての、複素粘度の変動。総ポリマー濃度Cは15g/Lに固定した。溶媒:0.01M HEPES、pH7.4;温度:25℃。
図5】種々の[PBA]/[マルトース]比を有するHA−PBA/HA−マルトース混合物へのグルコース添加の影響。A)遊離グルコース(15mM)の不在下および存在下での、1Hzにおける複素粘度値の比較。総ポリマー濃度Cは15g/Lに固定した。溶媒:0.01M HEPES、pH7.4;温度:25℃。B)遊離グルコースによるHA鎖の架橋。C)グラフトされたマルトース部分の競合因子として働く遊離グルコースの添加時の網状構造の解離。
図6】[PBA]/[マルトース]最大比(2.5/1)のHA−PBA/HA−マルトース混合物に15mM濃度でグルコースおよびα−D−GlucMeを添加した影響の比較。A)1Hzでの複素粘度値。総ポリマー濃度Cは15g/Lに固定した。溶媒:0.01M HEPES、pH7.4;温度:25℃。B)HA−PBA/HA−マルトース複合体形成による網状構造の形成。C)遊離グルコース複合体形成による網状構造の増強。D)遊離グルコースの、グラフトされたPBA基への競合的結合による網状構造の崩壊。
図7】異なる[PBA]/[マルトース]比(1/1および1.5/1)を有するHA−PBA/HA−マルトース混合物から評価したグルコース濃度の関数としての|ηwith Gluc/|ηwithout Gluc(1Hzにおける値)の変動。総ポリマー濃度Cは15g/Lに固定した。溶媒:0.01M HEPES、pH7.4;温度:37℃。
図8】二重架橋ヒドロゲル。
図9】二重架橋ヒドロゲルの形成。
【実施例】
【0110】
実施例1:チオール前駆体の合成
PBA−SH
4℃にて超純水(18mL)中、3−アミノフェニルボロン酸(APBA、1g、5.4mmol)の溶液に、[1−エチル−3−(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド塩酸塩(1.24g、6.48mmol)を加えた。0.5M NaOHを用いてpHを4.8に調整し、このAPBA溶液を窒素で20分間脱気した。次に、超純水(5mL)に溶かしたメルカプトプロピオン酸(0.688mL、6.48mmol)を前記APBA溶液に滴下し、反応混合物を窒素下、4℃で1時間撹拌した。窒素下、室温でさらに12時間撹拌した後、修飾されたAPBAを酢酸エチルで5回抽出した。溶媒の蒸発後、残渣を水からの再結晶化により精製し、黄色固体として収率18%で得た(0.215g、0.96mmol)。
【0111】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ(ppm) : 7.83 (s, 1H, Ph), 7.70-7.72 (d, 1H, Ph), 7.45-7.47 (d,1H, Ph), 7.23-7.-7.27 (m,1H, Ph), 2.71-2.76 (m, 2H, CH2), 2.59-2.63 (m, 2H, CH2).
13C NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ(ppm): 20.2 (1C, SH-CH2), 39.8 (1C, CH2-C=O), 121.6, 125.7,128.1 (4C, CH Ph), 129.4 (1C, =C-B Ph), 138.7 (1C, NH-C, Ph), 169.8 (1C, C=O)
【0112】
マルトース−シスタミン
室温にて、40mLの超純水中、マルトース(0.4g、1.111mmol)の水溶液に、O−(カルボキシメチル)ヒドロキシルアミンヘミ塩酸塩(0.121g、1.111mmol)を加えた。0.5M NaOHを用いてpHを4.8に調整した。反応混合物を室温で24時間撹拌した後、0.5M NaOHの添加によりpH7に中和した。その後、マルトース−COOH誘導体を凍結乾燥により白色粉末として収率91%で回収した(0.421g、1.01mmol)。乾燥DMF(75mL)中、マルトース−COOH(0,750g、1.8mmol)の溶液に、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(0,486g、3,6mmol)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(0.909g、7.2mmol)およびシスタミン(0.203g、0.9mmol)を順次加えた。得られた混合物を窒素下、室温で一晩撹拌した。大部分の溶媒の蒸発後、残ったシロップを、撹拌下のアセトン(500mL)に滴下した。白色沈殿を濾取し、アセトンで3回洗浄し、乾燥させて、収率91%で粗生成物(778g、0.8mmol)を得たところ、これは所望の誘導体(65%)と最初のマルトース(35%)を含んでいた。PBA修飾HAの合成に用いたチオール−エン付加の選択性により、粗生成物をそれ以上精製せずに使用した。
【0113】
1H NMR (400 MHz, D2O) d (ppm): 7.75 (1H,結合グルコース単位からのアノマーHβ, N=CHβ-), 7.05 (1H, 結合グルコース単位からのアノマーHα, N=CHα-), 5.4 (1H,ペンダントグルコース単位からのアノマーH), 5.07 (1H, 結合グルコース基からのN=CHα,β-CH(OH)), 4.7 (2H, O-CH2), 4.55 (1H, ペンダントグルコース基からのN=CHα,β-CH(OH)), 3.5-4.3 (結合およびペンダントグルコース基からの8H, H-3, H-4, H-5, H-6), 2.9 (2H, NH-CH2-CH2), 2.82 (2H, NH-CH2-CH2).
【0114】
実施例2:ペンテノエート修飾HAの合成
HA−100(1g、2.5mmol、M=100000g/mol)を4℃で超純水(50mL)に溶かし、得られた混合物を、完全に溶解させるために連続撹拌下、4℃で一晩維持した。次に、(3/2、v/v)の水/DMF比となるようにDMF(33mL)を滴下した。pHを8〜9の間に4時間維持しながら(0.5M NaOHの添加による)無水ペンテン酸(0.454g、2.5mmol)を加えた。この反応物を4℃にて連続撹拌下で一晩維持した。この後、NaClを、NaCl濃度が0.5Mとなるように反応混合物に加えた。エタノールの添加(水/EtOH(v/v)比2/3)によりポリマーを沈殿させた。上清の除去後、沈殿を水/EtOHの混合物(3/7、1/4、1/9、v/v)で順次洗浄し、最終的に、超純水を用いたダイアフィルトレーションによる最終精製のために超純水に溶かした。生成物を凍結乾燥により回収した(1.024g)。HA−ペンテノエートの置換度は、H NMRにより0.20±0.01であることが判明した。
【0115】
1H NMR (400 MHz, D2O)δ(ppm): 4.55 (N-アセチルグルコサミン単位からのH-1), 4.25 (グルクロン酸からのH-1), 3.9-3.1 (HAのH -2, H-3, H-4, H-5, H-6プロトン), 1.85 (CH3-CO from HA), 5.80 (m,1H,CH=CH2), 4.98 (m,2H,CH=CH2), 2.45 (m,2H,CH2-C=O), 2.29 (m,2H,OCCH2-CH2).
【0116】
実施例3:HA−PBAの合成
光開始剤としてのIrgacure 2959(0.05%w/v)の存在下、水/EtOH(3/2、v/v)の混合物中HA−ペンテノエートの溶液に、1mlのEtOHに溶かしたPBA−SHを加えた。PBA−SH部分のグラフトは、UV照射(λ=365nm)下で行った。生成物を、超純水を用いたダイアフィルトレーションにより精製し、凍結乾燥により回収した(0.298g)。HA−PBAの置換度は、H NMRにより0.12±0.01であることが判明した。
【0117】
1H NMR (400 MHz, D2O) δ (ppm): 4.55 (N-アセチルグルコサミン単位からのH-1), 4.25 (グルクロン酸からのH-1), 3.9-3.1 (HA のH-2, H-3, H-4, H-5, H-6 プロトン), 1.85 (HAからの CH3-CO ), 7.66 (s,1H, Ph からのNH-C-CH-C-B), 7.49 (m,2H, Ph からのC-CH-CH-CH-C-B), 7.37 (m,1H, Ph からのC-CH-CH-CH-C-B), 2.81 (m,2H, CH2-CO), 2.64 (m,2H, S-CH2-CH2-CO), 2.53 (m,2H, CH2-CH2-CH2-S), 1,55 (m, 4H, CH2-CH2-CH2-S).
【0118】
実施例4:HA−マルトースの合成
第1の工程は、マルトース−シスタミンのジスルフィド結合の還元からなる。よって、室温にて、4mLの脱気超純水中、マルトース−シスタミン(0.2g、0.211mmol)の水溶液に、1mlの脱気超純水中、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(91mg、0.317mmol)の溶液を加え、pHを5〜5.5に調整した。この混合物を窒素下、室温で15分間撹拌し、マルトース−SHを得た。0.1M NaOHを用いてpHを7.4に調整し、この溶液を、光開始剤としてのIrgacure 2959(0.05%w/v)の存在下、HA−ペンテノエートの水溶液に加えた。マルトース−SH部分のグラフトは、UV照射(λ=365nm)下で行った。生成物を、超純水を用いたダイアフィルトレーションにより精製し、凍結乾燥により回収した(0.148g)。HA−マルトースの置換度は、H NMRにより0.06±0.01であることが判明した。
【0119】
1H NMR (400 MHz, D2O) δH (ppm) 4.55 (N-アセチルグルコサミン単位からのH-1), 4.25 (グルクロン酸からのH-1), 3.9-3.1 (HA のH-2, H-3, H-4, H-5, H-6プロトン), 1.85 (HA からのCH3-CO), 1.52 (m,2H,CH2-CH2-CH2-S), 1.62 (m,2H,CH2-CH2-CH2-S), 2.35 (m, 2H, OC-CH2) 2.63 (m,2H, CH2-CH2-CH2-S), 2.82 (m,2H, S-CH2-CH2-NH), 7.63 (m, 1H, マルトースのHアノマー).
【0120】
実施例5:動的ヒドロゲルの形成およびレオロジー挙動
生理学的pHのHA−PBA(DS=0.12)水溶液とHA−マルトース(DS=0.06)水溶液を混合することにより動的ヒドロゲルを形成した。これらの混合物は、塩(0.15M NaCl)の存在下、総ポリマー濃度15g/L(最初のHAの臨界重なり濃度C(約3.3g/L)の約3倍)に関して肉眼的に透明な「ヒドロゲル」の形成をもたらす。このような網状構造の形成は、HA鎖に沿ってグラフトされたPBA部分とマルトース部分間で多くの複合体が同時に形成されることによる。興味深いことに、架橋は生理学的pHで見られ、これは、アルカリpHでのみ安定に存在し得るこのボロン酸誘導体を含む他のポリマー複合体に比べて異例である。生理学的pHでボロン酸−グルコース複合体形成を達成するには、一般にもっと複雑な化学を要する。以下に示すように、PBA誘導体は、水溶液中で両方の荷電状態、親水性でも、非荷電状態でも、比較的疎水性でも存在する。ジオールを添加すると、荷電状態(2)のみが可逆的共有結合を介してジオールと安定な複合体を形成し、中性型(1)は加水分解を極めて受けやすいとされている。本場合には、HA上に電荷およびジオール基が大過剰で存在するので状況が違うと思われる。これは非荷電三角エステル型のPBA(3)の形成を促し、本明細書の下記に示す平衡に大きな影響を与え得る。従前に述べたように、平衡に及ぼす中性エステル(3)の影響は、特定のジオールに対する全体的なボロン酸の親和性を評価する上で無視することができない。また、多くの単糖類のボロン酸エステルのpKは、ボロン酸のpKより2〜4単位低いことも報告されている。結果として、HA上にPBAをグラフトするとPBAの見かけのpKがエステルのpKに近づき、生理学的pHでボロン酸−グルコース複合体の形成を可能とすると想定することができる。
【0121】
ジオールの存在下の水溶液中でのフェニルボロン酸(phenyboronic acid)の平衡
【化23】
【0122】
図4Aは、種々のPBA/マルトースモル比([PBA]/[マルトース]=0.5、1、1.5、2.14、2.5)のHA−PBA/HA−マルトース混合物(総ポリマー濃度C=15g/L)の動的レオロジー係数G’およびG’’と最初のHAおよびその誘導体(HA−PBA、HA−マルトース)単独の溶液(C=15g/L)のそれとの周波数依存を比較したものである。この図から、ポリマー濃度は同じであるにも関わらず、混合物の貯蔵弾性率および損失弾性率の値がHAおよびその誘導体単独の溶液に関して得られた値よりもはるかに高いことが見て取れる。弾性率は少なくとも2桁高い。さらに、HA−PBA/HA−マルトース混合物に関しては広範囲の周波数でG’がG’’よりも大きく、カバーされる全周波数範囲で粘稠な特徴(G’’>G’)示すHA、HA−PBAおよびHA−マルトースの溶液とは対照的に粘弾性の挙動を反映している。従って、これらの結果は、グラフトされたPBA部分とマルトース部分の間の効果的な複合体形成、従って、動的三次元網状構造の創出の証拠を示した。マルトースに対するPBAの量をPBA/マルトースモル比1.5まで高めると、弾性率(図4A)および複素粘度(図4B)の増加がもたらされる。PBA/マルトース比が1.5を超えても、弾性率および複素粘度は一定のままである。このことは、有効鎖間結合の密度が高いほどPBA/マルトース複合体形成の確率が高くなることを示す。このような結果は、PBAがHAの糖単位との環状ボロン酸エステルも形成し得るということに関連する可能性があり、より安定な結合点の形成にはマルトースに対して過剰量のPBAが必要とされることを暗示している。
【0123】
実施例6:グルコース量の関数としての粘度の測定
これらのデータから、これらの混合物はグルコースの付加に感受性があると思われる。このことを、混合物の複素粘度を加えたグルコースの量の関数として測定することによって確認した(図5)。より重要なこととして、本発明者らは、単にHA−PBA/HA−マルトース比を変更することで応答のタイプを制御できることを示した。図5Aから見て取れるように、15mM濃度のグルコース(糖尿病患者の高血中濃度、すなわち、正常血糖の3倍に相当)を0.25/1〜1.5/1の範囲のPBA/マルトース比のHA−PBA/HA−マルトース混合物に付加すると、複素粘度の低下が見られ、遊離グルコースとHA鎖の末端グルコース部分の間の競合的排除機構が働くことを示す。これに対して、より比率の高い(2.14/1および2.5/1)混合物に同じ濃度のグルコースを加えると、複素粘度の増加が見られる。ある特定の単糖類は、1,2−ジオールと4,6−または5,6−ジオールを用いて2つのボロン酸基に結合可能であることが知られている。D−グルコースは、高架橋形成能を有するこのような単糖類の1つである。従って、後者の系で、グルコース分子は架橋剤としても働き得ることが合理的に推測できる。この場合、ヒドロゲルはグルコース付加時に収縮を受ける。この挙動もまた、自己調節送達システムにおいてインスリン出力を制御するために有用であり得る。実際に、グルコース感受性ヒドロゲルは、膜孔内に注型またはグラフトされた後にそれらのゲート開閉特性に関して使用することができる。ヒドロゲル収縮は、グルコース濃度の関数として膜の透過性を高める。
【0124】
実施例7:1−O−メチル−α−D−グルコピラノシドを用いた競合的排除実験
この仮説は、1−O−メチル−α−D−グルコピラノシド(α−D−GlucMe)を用いた競合的排除実験によってさらに裏付けられた。D−グルコースとは対照的に、α−D−GlucMe(15mM濃度)を、より高比率(2.5/1)のHA−PBA/HA−マルトース混合物に加えると、複素粘度の低下がもたらされる(図6A)。この結果は、D−グルコースが架橋剤として働くという仮説を十分に裏付けた。
【0125】
実施例8:[PBA]/[マルトース]比に応じた粘度
図7は、漸増グルコース含量(5〜50mM)を用い、グルコース付加の前後における、
|ηwith Gluc/|ηwithout Gluc、すなわち、周波数1Hzの、[PBA]/[マルトース]比の異なる(1/1および1.5/1)HA−PBA/HA−マルトース混合物で得られた複素粘度値の比の変動を示す。これら2種類の混合物に関して、5〜50mMのグルコース範囲で粘度の低下が見られ、本システムのグルコース感受性が確認される。この低下は架橋の損失弾性率を反映し、網状構造のゆるみをもたらす。特に、低下率は2種類の[PBA]/[マルトース]比で異なり、動的網状構造のグルコース反応性が容易に最適化され得ることを示す。この特性は、網状構造を通る拡散による高分子の放出を制御するために使用することができる。このようなヒドロゲルにインスリンを付加して、血糖変動の関数としてその送達を達成することはできる。
【0126】
実施例9:ラジカル−チオールエン付加反応による化学的ヒドロゲルの形成
恒久的架橋を有する化学的網状構造を作製するために、有利には、チオールとペンテノエート修飾多糖のラジカルカップリングを使用することができる。HA−PBAとHA−マルトースの双方を、架橋剤としてビスチオール化ポリ(エチレングリコール)(PEG−(SH)、M=3400g/mol)を用い、化学的に架橋した。光架橋反応を光レオメトリーによりin situにてモニタリングした。図3Aは、PBAおよびマルトースにおけるDSが0.05([NaCl=0.15M含有0.01M HEPES、pH7.4中、C=15g/L)のHA−PBA溶液およびHA−マルトース溶液から得られた貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)の経時的掃引プロファイルを示す。なお、光開始剤Irgacure 2959およびPEG−(SH)を加えた(アルケン基に対するチオール基のモル比=1)。同じHA−ペンテノエートサンプル(DSは0.34)から2種類の生成物が作製されたので、両誘導体のペンテノエート基のDSは0.29である。サンプルは、35分間、20mW/cm UV強度の照射を行う前に1分間平衡化した。最初、G’’はG’より大きく、サンプルの粘稠な挙動を反映している。UV照射開始後の短い誘導期間の後、弾性のある有効な分子間架橋の形成のために貯蔵弾性率が急激に上昇し、損失弾性率を超える。G’曲線は20分の時点で横ばいとなり、ゲル化プロセスの終了を示す。このことから、このG’の定常値をヒドロゲル弾性の測定値として用いた。図3Bは、PBAおよびマルトースそれぞれにおいて異なるDSを有するHA−PBAおよびHA−マルトースの溶液から作製されたヒドロゲルの弾性(G’はt=20分に測定)を比較したものである。予想されたように、官能性分子におけるDSが上昇すると(すなわち、ペンテノエートにおけるDSが低下すると)弾性が低下する。DSが0.05のHA−PBAおよびHA−マルトースから作製されたヒドロゲルで、弾性に有意な差を見出すことができた。これはHAのPBAと糖の間のエステル結合の形成による付加的架橋の存在によるものと思われる。
【0127】
実施例10:インスリンを付加した二重架橋ヒドロゲルの合成
HA−p−PBA(0.0027g、DS=0.16およびDSPBA=0.14)およびHA−p−マルトース(0.0033g、DS=0.19およびDSmaltose=0.11)をそれぞれ、[NaCl]=0.15M含有0.01M HEPES、pH4に溶かした([HA−p−PBA]=[HA−p−マルトース]=15g/L)。これら2つの溶液を4℃で一晩撹拌する。光開始剤Irgacure 2959(0.002g、0.009mmol)およびPEG−(SH)(0.0048g、0.0014mmol、アルケン基に対するチオール基のモル比=1)を、撹拌下でHA−p−PBA溶液に加える。次に、両溶液(0.250mLのHA−p−PBAおよび0.150mLのHA−p−マルトース)を混合する([PBA]/[マルトース]=1)。その後、得られた混合物(0.100mL)に20mW/cm UV強度を5分間照射し、化学的ゲルを形成する。このゲルディスクを、1.5mg/mL濃度のFITC−インスリン(5800MW;モノマー)を含有する1mLの0.01M HEPES、pH4([NaCl]=0.15M含有)に浸漬した。4℃で1時間のインキュベーション後、NaOH水溶液(0.1M)を加えることによりpHを7.4に調整し、このディスクを、NaCl=0.15Mを含有する50mLの0.01M HEPES、pH7.4(「HEPESバッファー」と呼称)に浸漬した。二重架橋ヒドロゲル内にFITC−インスリンが組み込まれていることが蛍光顕微鏡により証明された。
【0128】
参照文献
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9