特許第6231129号(P6231129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231129
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】脂肪酸シンターゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/14 20060101AFI20171106BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C07D401/14CSP
   A61K31/4709
   A61P35/00
   A61K45/00
【請求項の数】13
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2015-552179(P2015-552179)
(86)(22)【出願日】2014年1月10日
(65)【公表番号】特表2016-504410(P2016-504410A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】IB2014058174
(87)【国際公開番号】WO2014108858
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2016年11月11日
(31)【優先権主張番号】61/750,872
(32)【優先日】2013年1月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513110104
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、(ナンバー2)、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY (NO.2) LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】シンシア、アン、パリッシュ
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/103546(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/037299(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/020733(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/037298(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 401/14
A61K 31/4709
A61K 45/00
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;および
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
からなる群から選択される化合物またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
式(I)
【化1】
を有する化合物(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンまたはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項3】
式(II)
【化2】
を有する化合物(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンまたはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項4】
式(III)
【化3】
を有する化合物(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンまたはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項5】
式(IV)
【化4】
を有する化合物(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンまたはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項6】
ラットに静脈投与した場合に39mL/分/kg以下のクリアランスを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
マウスに静脈投与した場合に30mL/分/kg未満のクリアランスを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
齧歯類に経口投与した場合に約101ng・h/mL/mg/kgよりも大きいDNAUCを達成することができる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含んでなる医薬組成物。
【請求項10】
癌を治療するための、請求項に記載の医薬組成物
【請求項11】
治療上有効な量の
a)請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩;および
b)少なくとも1種類の抗新生物薬
含んでなる、必要とする哺乳動物において癌の治療に使用するための組み合わせ。
【請求項12】
前記癌が、胃癌、脳腫瘍(神経膠腫)、膠芽腫、白血病、リンパ腫、乳癌、炎症性乳癌、ウィルムス腫瘍、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、上衣腫、髄芽細胞腫、結腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、肝臓癌、黒色腫、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、肉腫、骨肉腫、膀胱癌、胃癌、ならびに骨および甲状腺の巨細胞腫瘍からなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物または請求項11に記載の使用のための組み合わせ。
【請求項13】
少なくとも1種類の抗新生物薬と共に癌の治療に使用するための、請求項9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸シンターゼ(FAS)の阻害剤である新規なトリアゾロン(triazolones)、それらを含有する医薬組成物、それらの調製方法、および癌の治療のための療法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸は、膜の構成要素、膜タンパク質の標的化のためのアンカー、脂質二次メッセンジャーの合成における前駆体、およびエネルギー蓄積のための媒体としてなど、様々な細胞プロセスにおいて不可欠な役割を有している(Menendez JS and Lupu R, Fatty acid synthase and the lipogenic phenotype in cancer pathogenesis, Nature Reviews Cancer, 7: 763-777 (2007))。脂肪酸は、食餌から得るか、または炭水化物前駆体から新たに合成することができる。後者の生合成は、多機能性ホモ二量体FASによって触媒される。FASは、プライマーとしてアセチル−CoAおよび二炭素供与体としてマロニルCo−A、ならびに還元性の相当物としてNADPHを用いることによって、長鎖脂肪酸を合成する(Wakil SJ, Lipids, Structure and function of animal fatty acid synthase, 39: 1045-1053 (2004), Asturias FJ et al., Structure and molecular organization of mammalian fatty acid synthase, Nature Struct. Mol. Biol. 12:225-232 (2005), Maier T, et al., Architecture of Mammalian Fatty Acid Synthase at 4.5 Å Resolution, Science 311:1258-1262 (2006))。
【0003】
新たな脂肪酸合成は、胚発生中、および、脂肪酸が肺界面活性剤の産生に用いられる胎生期の肺で活発である。成人では、ほとんどの正常なヒト組織は、食餌から脂肪酸を優先的に摂取する。従って、新たな脂質生合成および脂質生合成酵素の発現のレベルは低い(Weiss L, et al., Fatty-acid biosynthesis in man, a pathway of minor importance. Purification, optimal assay conditions, and organ distribution of fatty-acid synthase. Biological Chemistry Hoppe-Seyler 367(9):905-912 (1986))。対照的に、多くの腫瘍は、高率の新たな脂肪酸合成を示す(Medes G, et al., Metabolism of Neoplastic Tissue. IV. A Study of Lipid Synthesis in Neoplastic Tissue Slices in Vitro, Can Res, 13:27-29, (1953))。FASは、前立腺、卵巣、結腸、子宮内膜 肺、膀胱、胃、および腎臓を含む多くの種類の癌において過剰発現されることが現在示されている(Kuhajda FP, Fatty-acid synthase and human cancer: new perspectives on its role in tumor biology, Nutrition; 16:202-208 (2000))。腫瘍および正常細胞におけるFASのこの差次的な発現および機能は、多大な治療域の可能性を有する癌療法へのアプローチを提供する。
【0004】
薬理学的および低分子干渉RNAを介したFASの阻害が、癌細胞の増殖を優先的に阻害することが実証されている。加えて、これらの阻害剤は、in vitroでは癌細胞のアポトーシスを誘発し、in vivoマウス異種移植モデルでは、ヒト腫瘍の増殖を抑制する(Menendez JS and Lupu R, Nature Reviews Cancer, 7: 763-777 (2007))。これらの知見に基づいて、FASは、抗新生物介入の主要な潜在標的と考えられる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、
(S)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン;および
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
からなる群から選択される化合物またはその薬学的に許容可能な塩に関する。
【発明の具体的説明】
【0006】
本発明はまた、式(I)
【化1】
を有する化合物(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンまたはその薬学的に許容可能な塩に関する。
【0007】
本発明はまた、式(II)
【化2】
を有する化合物(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンまたはその薬学的に許容可能な塩に関する。
【0008】
本発明はまた、式(III)
【化3】
を有する化合物(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンまたはその薬学的に許容可能な塩に関する。
【0009】
本発明はまた、式(IV)
【化4】
を有する化合物(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンまたはその薬学的に許容可能な塩に関する。
【0010】
本発明の一実施態様では、化合物は、ヒトFASに対するFAS阻害のIC50が<20nMである。別の実施態様では、本化合物は、低いin vivoクリアランスを示す。別の実施態様では、本化合物は、ラットに静脈投与した場合に約17mL/分/kg未満のクリアランスを示す。さらに別の実施態様では、本化合物は、マウスに静脈投与した場合に約30mL/分/kg未満のクリアランスを示す。別の実施態様では、本化合物は、哺乳動物に経口投与した場合に少なくとも約101ng・h/mL/mg/kgのDNAUCを達成することができる。一面において、哺乳動物は齧歯類である。
【0011】
当技術分野で理解されているように、血液、血漿および/または他の組織中の化合物濃度などの薬物動態データを収集、測定および評価するために様々な方法が使用できる。これもまた当技術分野で理解されているように、血液および/または血漿および/または他の組織中の、限定されるものではないが、グルコースレベル、FAS活性、脂肪酸の合成および他のバイオマーカーレベルなどの様々な薬力学的データを収集、測定および評価するために様々な方法が使用できる。
【0012】
別の実施態様では、本発明は、本発明の化合物のいずれかに従う化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含んでなる医薬組成物に関する。
【0013】
別の実施態様では、必要とするヒトにおいて癌を治療するための方法であって、前記ヒトに本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を投与することを含んでなる方法が提供される。一実施態様では、必要とするヒトにおいて癌を治療するための方法であって、前記ヒトに本発明の医薬組成物を投与することを含んでなる方法が提供される。一実施態様では、癌は、胃(gastric)癌、脳腫瘍(神経膠腫)、膠芽腫、白血病、リンパ腫、乳癌、炎症性乳癌、ウィルムス腫瘍、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、上衣腫、髄芽細胞腫、結腸癌、頭頸部癌、腎臓(kidney)癌、肺癌、肝臓癌、黒色腫、腎臓(renal)癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、肉腫、骨肉腫、膀胱癌、胃(stomach)癌、ならびに骨および甲状腺の巨細胞腫瘍からなる群から選択される。
【0014】
別の実施態様では、必要とする哺乳動物において癌を治療する方法は、このような哺乳動物に治療上有効な量の
少なくとも1種類の本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、および
少なくとも1種類の抗新生物薬
を投与することを含んでなる。
【0015】
本発明はまた、実験の節において例示される化合物に関する。絶対的ではないが一般に、本発明の塩は薬学的に許容可能な塩である。「薬学的に許容可能な塩」という用語内に包含される塩は、本発明の化合物の非毒性塩である。本発明の化合物の塩は、酸付加塩を含んでなり得る。一般に、これらの塩は、薬学的に許容可能な無機酸および有機酸から形成される。好適な酸塩のより具体的な例としては、マレイン酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、過塩素酸、フミン酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ギ酸、乳酸、アレイック(aleic)アシッド、酒石酸、クエン酸、パルモイック(palmoic)アシッド、マロン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、ナフタレン−2−スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヨウ化水素酸、リンゴ酸、テロイック(teroic)アシッド、タンニン酸などが挙げられる。
【0016】
他の代表的な塩としては、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、二酒石酸塩、ホウ酸塩、エデト酸カルシウム、カンシル酸塩、炭酸塩、クラブラン酸塩、クエン酸塩、二塩酸塩、エジシル酸塩、エストール酸塩、エシル酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、マレイン酸一カリウム、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩)、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、スバセチン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド、および吉草酸塩が挙げられる。
【0017】
薬学的に許容可能でない他の塩も、本発明の化合物の作製に有用であり得、これらは、本発明のさらなる面を成すと考えられるべきである。シュウ酸塩またはトリフルオロ酢酸塩などのこれらの塩は、それら自体は薬学的に許容可能なものではないが、本発明の化合物およびそれらの薬学的に許容可能な塩を得る際の中間体として有用な塩の作製において有用であり得る。
【0018】
限定されるものではないが式(I)、式(II)、式(III)、および/または式(IV)を含む本発明の化合物またはその塩は、立体異性形(例えば、それは不斉炭素原子を含有する)で存在し得る。個々の立体異性体(鏡像異性体)およびこれらの混合物は、本発明の範囲内に含まれる。本発明はまた、限定されるものではないが式(I)、式(II)、式(III)、および/または式(IV)を含む本発明の化合物により表される化合物または塩の個々の異性体を、1以上のキラル中心が反転したそれらの異性体との混合物として包含する。同様に、本発明の化合物または化合物の塩は、式で示される以外の互変異性形で存在してもよく、これらも本発明の範囲内に含まれると理解される。本発明は、本明細書の上記で定義される特定の基のあらゆる組合せおよびサブセットを含むと理解されるべきである。本発明の範囲は、立体異性体の混合物、ならびに精製された鏡像異性体または鏡像異性体的/ジアステレオマー的に富化された混合物を含む。また、本発明の化合物により表される化合物の個々の異性体、ならびにその完全にまたは部分的に平衡化されたいずれの混合物も、本発明の範囲内に含まれる。本発明はまた、本発明の化合物により表される化合物または塩の個々の異性体、ならびに1以上のキラル中心が反転したそれらの異性体との混合物も含む。本発明は以上に定義される特定の基のあらゆる組合せおよびサブセットを含むと理解されるべきである。
【0019】
本発明はまた、本発明の化合物の種々の重水素化形態も含む。炭素に結合した利用可能な水素原子はそれぞれ独立に、重水素原子で置換され得る。当業者ならば、本発明の化合物の重水素化形態を合成する方法を知っている。本発明の化合物の重水素化形態の作製には、市販の重水素化出発物質が使用可能であり、またはそれらは、重水素化試薬(例えば、重水素化リチウムアルミニウム)を用いる従来の技術を用いて合成することができる。
【0020】
定義
用語は、それらの認知されている意味の範囲内で用いられる。以下の定義は、定義された用語を明らかにすることを意図し、限定するものではない。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「アルキル」は、好ましくは1〜12個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖炭化水素基を意味し、これらは非置換または置換、飽和または不飽和であってよく、多置換度が本発明の範囲内に含まれる。置換されてよい場合、アルキル基は、非置換であるか、または、ハロゲン、アミノ、置換アミノ、シアノ、ヒドロキシル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アミノスルホニル、カルボン酸、カルボン酸エステル、カルボキサミド、アミノカルボニル、およびヘテロシクリルからなる群から選択される好適な置換基で置換される。本明細書で使用される「アルキル」の例としては、限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、n−ブチル、t−ブチル、イソペンチル、n−ペンチルなど、ならびにこれらの置換型が挙げられる。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「シクロアルキル」は、非置換または置換、単環式または多環式の飽和非芳香族環を意味する。例示的「シクロアルキル」基としては、限定されるものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなど、ならびにそれらの非置換および置換型が挙げられる。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「アルコキシ」は基−ORを意味し、ここで、Rは、上記で定義されるC−CアルキルまたはC−Cシクロアルキルである。用語「C−Cアルコキシ」は、酸素架橋原子を介して結合された少なくとも1個、最大4個の炭素原子を有する直鎖または分岐型の炭化水素基を意味する。本発明において有用な例示的「(C−C)アルコキシ」基としては、限定されるものではないが、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、およびt−ブトキシが挙げられる。
【0024】
「ヘテロシクロアルキル」は、飽和または部分不飽和であり、窒素、酸素、および硫黄から独立に選択される1〜3個のヘテロ原子を含む3〜10個の環原子を含有する、非芳香族一価の単環式または二環式基を含む基または部分を表す。本発明において有用なヘテロシクロアルキルの実例としては、限定されるものではないが、アゼチジニル、ピロリジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、オキサゾリニル、チアゾリニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、1,3−ジオキソラニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホニリル、チオモルホリニル、テトラヒドロピラニル、ジニドロピラニル、1,3−ジオキサニル、1,4−ジオキサニル、1,3−オキサチオラニル、1,3−オキサチアニル、1,3−ジチアニル、ヘキサヒドロ−1H−1,4−ジアゼピニル、アザビシクロ[3.2.1]オクチル、アザビシクロ[3.3.1]ノニル、アザビシクロ[4.3.0]ノニル、オキサビシクロ[2.2.1]ヘプチル、および1,5,9−トリアザシクロドデシルが挙げられる。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「ヘテロシクリル」は、1以上のヘテロ原子を含有する、非置換もしくは置換型の単環式または多環式環系を意味する。好ましいヘテロ原子としては、窒素、酸素、および硫黄が挙げられ、N−オキシド、硫黄オキシド、およびジオキシドを含む。ヘテロ環式環は、限定されるものではないが、3〜8員であってよく、完全に飽和されているか、または1以上の不飽和度を有する。本定義内には、多置換度が含まれる。「ヘテロ環式」基の例としては、限定されるものではないが、テトラヒドロフラニル、ピラニル、1,4−ジオキサニル、1,3−ジオキサニル、ピペリジニル、ピロリジニル、モルホニリル、アゼチジニル、ピペラジニル、ピロリジノニル、ピペラジノニル、ピラゾリジニル、およびそれらの種々の互変異性体、ならびにそれらの非置換および置換型が挙げられる。用語「9または10員のヘテロシクリル」は、窒素、酸素、および硫黄から独立に選択される1〜5個のヘテロ原子を含む9または10個の環原子を含有する、完全不飽和または部分不飽和の二環式基を表し、この基は、非置換であっても、または本明細書で定義される1以上の置換基によって置換されていてもよい。選択される9または10員のヘテロシクリル基は、1個の窒素、酸素、または硫黄環ヘテロ原子を含有し、場合により1、2、3、もしくは4個の付加的窒素環原子および/または1個の付加的酸素もしくは硫黄原子を含有してよい。9または10員のヘテロシクリル基の例としては、限定されるものではないが、ベンゾフラニル、イソベンゾフリル、2,3−ジヒドロベンゾフリル、1,3−ベンゾジオキソリル、ジヒドロベンゾジオキシニル、ベンゾチエニル、インドリジニル、インドリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、ベンズイミダゾリル、ジヒドロベンズイミダゾリル、ベンゾキサゾリル、ジヒドロベンゾキサゾリル、ベンズチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ジヒドロベンゾイソチアゾリル、インダゾリル、ピロロピリジニル、ピロロピリミジニル、イミダゾピリジニル、イミダゾピリミジニル、ピラゾロピリジニル、ピラゾロピリミジニル、ベンゾキサジアゾリル、ベンズチアジアゾリル、ベンゾトリアゾリル、トリアゾロピリジニル、プリニル、キノリニル、テトラヒドロキノリニル、イソキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、キノキサリニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、1,5−ナフチリジニル、1,6−ナフチリジニル、1,7−ナフチリジニル、1,8−ナフチリジニル、およびプテリジニルが挙げられる。
【0026】
用語「アリール」は、指定された数の炭素原子、特に6〜10個の炭素原子を含有する炭素環式芳香族部分(フェニルまたはナフチルなど)を意味する。アリール基の例としては、限定されるものではないが、フェニル、ナフチル、インデニル、アズレニル、フルオレニル、アントラセニル、フェナントレニル、テトラヒドロナフチル、インダニル、フェナントリジニルなどが挙げられる。特に断りのない限り、用語「アリール」はまた、芳香族炭化水素基の可能性のある各位置異性体も含み、例えば、1−ナフチル、2−ナフチル、5−テトラヒドロナフチル、6−テトラヒドロナフチル、1−フェナントリジニル、2−フェナントリジニル、3−フェナントリジニル、4−フェナントリジニル、7−フェナントリジニル、8−フェナントリジニル、9−フェナントリジニル、および10−フェナントリジニルである。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「ヘテロアリール」は、特に断りのない限り、1または複数の炭素と少なくとも1つのヘテロ原子を含有する芳香族環系を意味する。ヘテロアリールは、単環式または多環式、置換または非置換であってよい。単環式ヘテロアリール基は、環に1〜4個のヘテロ原子を有してよく、多環式ヘテロアリールは、1〜8個のヘテロ原子を含有してよい。多環式ヘテロアリール環は、縮合、スピロ、または架橋型の環接合部を含有してよく、例えば、二環式ヘテロアリールは、多環式ヘテロアリールである。二環式ヘテロアリール環は、8〜12員の原子を含有してよい。単環式ヘテロアリール環は、5〜8員の原子(炭素およびヘテロ原子)を含有してよい。例示的な5〜6員ヘテロアリールとしては、限定されるものではないが、フラニル、チオフェニル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル(1,2,4-traizolyl)、オキサゾリル、イソキサゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,5−オキサジアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、テトラゾリル、ピリジニル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、およびトリアジニルが挙げられる。他の例示的なヘテロアリール基としては、限定されるものではないが、ベンゾフラニル、イソベンゾフリル、2,3−ジヒドロベンゾフリル、1,3−ベンゾジオキソリル、ジヒドロベンゾジオキシニル、ベンゾチエニル、インドリジニル、インドリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、ベンズイミダゾリル、ジヒドロベンズイミダゾリル、ベンゾキサゾリル、ジヒドロベンゾキサゾリル、ベンズチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ジヒドロベンゾイソチアゾリル、インダゾリル、ピロロピリジニル、ピロロピリミジニル、イミダゾピリジニル、イミダゾピリミジニル、ピラゾロピリジニル、ピラゾロピリミジニル、ベンゾキサジアゾリル、ベンズチアジアゾリル、ベンゾトリアゾリル、トリアゾロピリジニル、プリニル、キノリニル、テトラヒドロキノリニル、イソキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、キノキサリニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、1,5−ナフチリジニル、1,6−ナフチリジニル、1,7−ナフチリジニル、1,8−ナフチリジニル、およびプテリジニルが挙げられる。ヘテロアリールに対する好適な置換基は、「置換されていてよい」の定義中に記載されている。
【0028】
本明細書で使用する場合、「複素環式」、「複素環(heterocycle)」、「複素環(heterocycl)」基、またはこれらの文法的変形は、「ヘテロアリール」および「ヘテロシクロアルキル」基を含む。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「シアノ」は−CN基を意味する。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「されてよい」は、次に記載される1つまたは複数の事象が、発生しても、または発生しなくてもよいことを意味し、発生する1または複数の事象、および発生しない1または複数の事象の両方を含む。
【0031】
本明細書で使用する場合、特に断りのない限り、「置換されていてもよい」という語句、またはその文法的変形は、多置換度を含む1以上の置換基による任意選択による置換を示す。この語句は、本明細書に記載および描写される置換の重複として解釈されるべきではない。例示的な任意選択の置換基としては、アシル、アルキル、アルキルスルホニル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、シアノ、ハロゲン、ハロアルキル、ヒドロキシル、オキソ、アミド、スルファミド、尿素、アミノ、置換アミノ、アシルアミノ、フェニルカルボニル、ジアルキルアミノスルホンアミド、モルホリノ、スルホンアミド、チオ尿素、ニトロ、ピロリジニル、ピラゾリル、ピロリル、フェニル、およびテトラゾリルが挙げられ、ここで、ピロリジニル、ピラゾリル、およびテトラゾリルは、1〜3個のC−Cアルキルでさらに置換されていてもよい。
【0032】
「鏡像異性体的に富化された」とは、その鏡像体過剰率がゼロよりも大きい生成物を意味する。例えば、鏡像異性体的に富化されたとは、その鏡像体過剰率が約50%eeより大きい、約75%eeより大きい、および約90%eeより大きい生成物を意味する。
【0033】
「鏡像体過剰率」または「ee」は、一方の鏡像異性体の他方に対する過剰率であり、パーセントで表される。従って、ラセミ混合物中には両方の鏡像異性体が同量で存在することから、鏡像異性体過剰率はゼロである(0%ee)。しかし、一方の鏡像異性体が、生成物の95%を構成するように富化された場合、鏡像異性体過剰率は90%eeとなる(富化された鏡像異性体の量である95%から他方の鏡像異性体の量である5%を差し引く)。
【0034】
「鏡像異性体的に純粋」とは、その鏡像異性体過剰率が100%eeである生成物を意味する。
【0035】
「ジアステレオマー」とは、少なくとも2つのキラル中心を有する化合物を意味する。
【0036】
「ジアステレオマー過剰率」または「de」とは、1つのジアステレオマーの他に対する過剰率であり、パーセントで表される。
【0037】
「ジアステレオマー的に純粋」とは、そのジアステレオマー過剰率が100%deである生成物を意味する。
【0038】
「ハロ」または「ハロゲン」とは、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨードを意味する。
【0039】
「ヘテロ原子」とは、窒素、硫黄、または酸素原子を意味する。
【0040】
「員(member)原子」とは、鎖または環を形成する1または複数の原子を意味する。鎖内および環内に2個以上の員原子が存在する場合、各員原子は、その鎖または環内の隣接する員原子と共有結合している。鎖または環上で置換基を構成する原子は、鎖または環の員原子ではない。
【0041】
「オキソ」とは、置換基=Oを意味する。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「生理学的に機能的な誘導体」は、哺乳動物への投与時に本発明の化合物またはその活性代謝物を(直接または間接的に)提供することができる、本発明の化合物の薬学的に許容可能な任意の誘導体、例えば、エステルまたはアミドを意味する。このような誘導体は、過度な実験を行うことなく、および生理学的に機能的な誘導体を教示する範囲で参照により本明細書に組み込まれるBurger’s Medicinal Chemistry And Drug Discovery, 5th Edition, Vol 1: Principles and Practiceの教示を参照すれば、当業者には自明である。
【0043】
「薬学的に許容可能な」とは、健全な医学的判断の範囲内で、妥当なベネフィット/リスク比に見合って、過度な毒性、刺激性、またはその他の問題もしくは合併症なくヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適している化合物、材料、組成物、および投与形を意味する。
【0044】
本明細書で使用する場合、「併用投与」または「併用投与する」とは、同じ患者への2種類以上の化合物の投与を意味する。このような化合物の併用投与は、同時もしくはほぼ同時点(例えば、1時間以内)であってもよいし、または互いに数時間内もしくは数日内であってもよい。例えば、第1の化合物が毎週1回投与され、第2の化合物が毎日併用投与されてよい。
【0045】
本明細書で使用する場合、「最大血中濃度」または「Cmax」とは、その種にある物質(例えば、式(I)の化合物)を投与した後の、その種の血中におけるその物質の最高観測濃度を意味する。
【0046】
本明細書で使用する場合、「曲線下面積」または「AUC」とは、時間に対するある物質の血中濃度のプロットにおける曲線の下の面積である。AUCは、ある時間内の瞬間濃度の積分の指標であり得、単位質量×時間/容量であり、モル濃度×時間、例えば、nM×日としても表すことができる。AUCは一般に、台形法(例えば、直線、直線−対数)により計算される。AUCは通常、ゼロから無限大までの時間範囲で示され、他の時間範囲は表示される(例えば、AUC(t1−t2)、ここで、t1およびt2は範囲の開始時および終了時である)。従って、本明細書で使用する場合、「AUC0-24h」は24時間のAUCを意味し、「AUC0-4h」は4時間のAUCを意味する。
【0047】
「用量標準化AUC」または「DNAUC」とは、用量(mg/kg)により標準化されたAUC値を意味する。
【0048】
本明細書で使用する場合、「信頼区間」または「CI」とは、ある測定値または試験値が所与の確率pに相当して入る範囲であり、pは90%または95%CIを意味し、算術平均、幾何平均、または最小二乗平均として計算される。本明細書で使用する場合、幾何平均は、自然対数変換値を累乗法により逆変換したものの平均であり、最小二乗平均は、固定効果を用いて分散分析(ANOVA)モデルから導かれたこと以外は同様の幾何平均であってもなくてもよい。
【0049】
本明細書で使用する場合、「変動係数(CV)」は分散の指標であり、平均に対する標準偏差の比と定義される。それは上記の計算値に100を掛けてパーセンテージ(%)として報告される(%CV)。
【0050】
薬物クリアランス(CL)は、代謝および排泄のプロセスによる、単位時間当たりの、薬物が排除された血管コンパートメント内の血液の体積として定義される。薬物が一次速度論によって消失されるならば、薬物のクリアランスは一定である。薬物は腎排泄または代謝またはその両方によって排除される。多くの場合、クリアランスは治療される哺乳動物の体重によって標準化され、mL/分/kgの単位で表される。
【0051】
本発明内の化合物は2つ以上の互変異性形で存在する場合があり、このような互変異性形は総て本発明の範囲内に含まれる。
【0052】
本発明はさらに、少なくとも1種類の本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩と1種類以上の賦形剤(製薬分野では担体および/または希釈剤とも呼ばれる)を含んでなる医薬組成物(医薬処方物とも呼ばれる)を提供する。賦形剤は、処方物の他の成分と適合し、そのレシピエント(すなわち、患者)に対して有害ではないという意味で許容される。
【0053】
本発明の別の面によれば、本発明の化合物またはその塩と少なくとも1種類の賦形剤とを混合(または混入)することを含んでなる、医薬組成物の調製方法が提供される。
【0054】
医薬組成物
医薬組成物は、単位用量当たり所定量の有効成分を含有する単位投与形であり得る。このような単位は、式(I)などの本発明の化合物もしくはその塩の治療上有効な量、または所望の治療上有効な量を達成するために所与の時点で複数の単位投与形が投与され得るような治療上有効な量の画分を含有してよい。好ましい単位用量処方物は、本明細書の上記に挙げたように、有効成分の一日用量もしくは分割用量、またはその適切な画分を含有するものである。さらに、このような医薬組成物は、製薬技術分野で周知のいずれの方法によって調製してもよい。
【0055】
医薬組成物は、例えば、経口(頬側または舌下を含む)、直腸内、経鼻、局所(頬側、舌下、または経皮を含む)、膣内、または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、または皮内を含む)経路などの適切ないずれの経路による投与にも適合可能である。このような組成物は、例えば有効成分を1または複数の賦形剤と会合させることにより、製薬分野で公知のいずれの方法によって調製してもよい。
【0056】
経口投与に適合される場合、医薬組成物は、錠剤またはカプセル剤などの離散単位;散剤または顆粒剤;水性もしくは非水性液体中の溶液または懸濁液;可食フォームまたはホイップ;水中油型液体エマルションまたは油中水型液体エマルションであり得る。本発明の化合物もしくはその塩、または本発明の医薬組成物はまた、「速溶性」医薬として投与するために、キャンディ、ウエハース、および/またはタンテープ(tongue tape)処方物中に配合してもよい。
【0057】
例えば、錠剤またはカプセル剤の形態での経口投与の場合、有効薬物成分は、エタノール、グリセロール、水などの経口用非毒性の薬学的に許容可能な不活性担体と組み合わせてもよい。散剤または顆粒剤は、化合物を適切な微細サイズに粉砕し、例えばデンプンまたはマンニトールのような可食炭水化物などの医薬担体を同様に粉砕したものと混合することによって調製される。香味剤、保存剤、分散剤、および着色剤も存在してよい。
【0058】
カプセル剤は、上記のように粉末混合物を作製し、成形されたゼラチンまたは非ゼラチン系の剤皮に充填することによって作製される。コロイドシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、固体ポリエチレングリコールなどの流動促進剤および滑沢剤を、充填操作の前に粉末混合物に添加することができる。寒天−寒天(agar-agar)、炭酸カルシウム、または炭酸ナトリウムなどの崩壊剤または可溶化剤もまた、カプセル剤が摂取された際の医薬の利用度を向上するために添加することができる。
【0059】
さらに、所望される場合または必要な場合には、好適な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、および着色剤もまた本混合物に配合することができる。好適な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、天然糖類(例えば、グルコースもしくはβ−ラクトース)、トウモロコシ甘味剤、天然および合成ガム、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが挙げられる。これらの投与形に使用される滑沢剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。崩壊剤としては、限定されるものではないが、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどが挙げられる。
【0060】
錠剤は、例えば、粉末混合物を調製し、造粒またはスラッグを形成し、滑沢剤および崩壊剤を加え、打錠することにより調剤される。粉末混合物は、適宜粉砕された化合物を、上記の希釈剤または基剤、ならびに場合によりカルボキシメチルセルロース、およびアルギン酸塩、ゼラチン、もしくはポリビニルピロリドンなどの結合剤、パラフィンなどの溶解遅延剤、第四級塩などの再吸収促進剤、ならびに/またはベントナイト、カオリン、もしくはリン酸二カルシウムなどの吸収剤とともに混合することによって調製される。粉末混合物は、シロップ、デンプンペースト、アカディア糊、またはセルロース系もしくはポリマー材料の溶液などの結合剤を湿らせ、スクリーンに通すことによって造粒することができる。造粒の別法として、粉末混合物を打錠機にかけることができるが、その結果、形成の不完全なスラッグが崩壊して顆粒となる。顆粒は、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、または鉱油の添加により、錠剤成形鋳型への粘着を防ぐように滑沢化することができる。次に、滑沢化された混合物が打錠される。本発明の化合物または塩は、自由流動性の不活性担体と組み合わせて、造粒またはスラッグ化工程を経ずに、直接打錠することもできる。セラックの封止コート、糖またはポリマー材料のコーティング、およびワックスのつや出しコーティングからなる半透明の保護コーティングを提供することができる。異なった用量を識別するために、これらコーティングに色素を添加することができる。
【0061】
溶液、シロップ、およびエリキシルなどの経口液は、所与量が所定量の有効成分を含有するように、単位投与形で調製することができる。シロップ剤は、本発明の化合物またはその塩を、適宜着香した水溶液に溶かすことにより調製することができ、一方、エリキシル剤は、非毒性のアルコール性ビヒクルの使用により調製される。懸濁液は、本発明の化合物または塩を非毒性ビヒクルに分散させることにより処方することができる。エトキシル化イソステアリルアルコールおよびポリオキシエチレンソルビトールエーテルなどの可溶化剤および乳化剤、保存剤、ペパーミントオイルなどの着香添加剤、天然甘味剤、サッカリン、または他の人工甘味剤なども添加することができる。
【0062】
必要に応じて、経口投与のための単位投与処方物をマイクロカプセル化することができる。処方物はまた、放出を延長または持続させるために、例えば、粒子状材料をポリマーまたはワックスなどでコーティングまたは包埋することにより調製することもできる。
【0063】
本発明においては、錠剤およびカプセル剤が医薬組成物の送達のために好ましい。
【0064】
本明細書で使用する場合、用語「治療」は、予防を含み、特定の病態を緩和すること、病態の1以上の症状を排除または軽減すること、病態の進行を緩徐化また停止させること、および過去に罹患したまたは診断された患者または対象者における病態の再発を予防または遅延させることを意味する。予防(または疾患発症の回避もしくは遅延)は一般に、疾患または病態を発症した患者に対するものと同一または類似の方法で薬物を投与することにより達成される。
【0065】
本発明は、本化合物により標的とされる少なくとも1つの病態を有する哺乳動物、特にヒトにおける治療方法を提供する。このような治療は、治療上有効な量の少なくとも1種類の本発明の化合物またはその塩を前記哺乳動物、特にヒトに投与する工程を含んでなる。治療はまた、少なくとも1種類の本発明の化合物またはその塩を含有する治療上有効な量の医薬組成物を前記哺乳動物、特にヒトに投与する工程を含んでなることもできる。
【0066】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、例えば、研究者または臨床医により求められる、組織、系、動物、またはヒトの生物学的または医学的応答を惹起する薬物また医薬剤の量を意味する。
【0067】
用語「治療的有効な量」は、そのような量を受容していない対応する対象者と比較して、疾患、障害、もしくは副作用の治療の改善、治癒、予防、もしくは改善、または疾患もしくは障害の進行速度の減少をもたらす任意の量を意味する。この用語はまた、正常な生理学的機能を増進するのに有効な量もその範囲内に含む。療法において使用するために、少なくとも1種類の本発明の化合物ならびにその塩の治療上有効な量は、粗化学物質として投与してもよい。加えて、前記有効成分は医薬組成物として提供してもよい。
【0068】
療法において使用するために、治療上有効な量の少なくとも1種類の本発明の化合物またはその塩を粗化学物質として提供することも可能であるが、それは一般には医薬組成物または処方物の有効成分として提供される。
【0069】
本発明の化合物またはその塩の正確な治療上有効量は、限定されるものではないが、治療される対象者(患者)の年齢および体重、治療を要する正確な障害およびその重症度、医薬処方物/組成物の性質、ならびに投与経路を含むいくつかの因子によって決まり、最終的には、担当の医師または獣医の裁量による。一般に、本発明の化合物またはその塩は、治療用には、約0.1〜100mg/kgレシピエント(患者、哺乳動物)体重/日の範囲で、より通常には、0.1〜10mg/kg体重/日の範囲で与えられる。許容される一日用量は約1〜約1000mg/日、好ましくは、約1〜約100mg/日であり得る。この量は、1日当たり単回用量で与えてもよいし、または合計一日用量が同じとなるように1日当たり数回(例えば、2回、3回、4回、5回またはそれを超える回数)の分割用量で与えてもよい。有効量のその塩は、有効量の本発明の化合物自体の比率として決定することができる。治療に関して本明細書に言及される他の病態の治療(予防を含む)にも同等の用量が適当であるはずである。一般に、適当な用量の決定は、医学または薬学分野の熟練者により容易に達成できる。
【0070】
組合せ
本発明の化合物が癌の処置のために投与される場合、用語「併用投与」およびその文法的変形は、本明細書で使用する場合、本明細書で述べるFAS阻害化合物、ならびに限定されるものではないが、抗新生物薬を含む化学療法および/または放射線治療を含む癌の治療に有用であることが公知である1もしくは複数のさらなる有効成分の同時投与、またはいずれかの様式の個別逐次投与を意味する。1または複数のさらなる有効成分という用語は、本明細書で使用する場合、癌の治療を必要とする患者に投与された際に有利な特性を示すことが知られているか、または有利な特性の示すいずれの化合物または治療薬も含む。好ましくは、投与が同時でない場合、それらの化合物は、互いに近接した時間内に投与される。さらに、化合物が同じ投与形で投与されるかどうかは問題ではなく、例えば、1つの化合物を局所投与し、別の化合物を経口投与してもよい。
【0071】
一般に、治療される感受性腫瘍に対して活性を有するいずれの抗新生物薬も、本発明の癌治療において併用投与可能である。このような薬剤の例は、Cancer Principles and Practice f Oncology by V.T. Devita and S. Hellman (editors), 6th edition (February 15, 2001), Lippincott Williams & Wilkins Publishersに見出すことができる。当業者ならば、関与する薬物および癌の特定の特性に基づいて、薬剤のどの組合せが有用であるかを識別することができる。本発明において有用である典型的な抗新生物薬としては、限定されるものではないが、ジテルペノイドおよびビンカアルカロイドなどの微小管阻害剤;白金配位錯体;ナイトロジェンマスタード、オキサアザホスホリン、アルキルスルホネート、ニトロソ尿素、およびトリアゼンなどのアルキル化剤;アントラサイクリン、アクチノマイシン、およびブレオマイシンなどの抗生物質;エピポドフィロトキシンなどのトポイソメラーゼII阻害剤;プリンおよびピリミジン類似体および抗葉酸化合物などの代謝拮抗剤;カンプトテシンなどのトポイソメラーゼI阻害剤;ホルモンおよびホルモン類似体;シグナル伝達経路阻害剤;非受容体チロシンキナーゼ血管新生阻害剤;免疫治療薬;アポトーシス促進剤;ならびに細胞周期シグナル伝達阻害剤が挙げられる。
【0072】
本発明のFAS阻害化合物と組み合わせて使用するための、または併用投与される1または複数のさらなる有効成分の例は、化学療法薬である。
【0073】
微小管阻害剤または有糸分裂阻害剤は、細胞周期のM期、すなわち有糸分裂期の間に腫瘍細胞の微小管に対して活性である細胞周期特異的薬剤である。微小管阻害剤の例としては、限定されるものではないが、ジテルペノイドおよびビンカアルカロイドが挙げられる。
【0074】
ジテルペノイドは、天然源に由来し、細胞周期のG/M期に作用する周期相特異的抗癌剤である。ジテルペノイドは、微小管のβ−チューブリンサブユニットと結合することによりこのタンパク質を安定化させると考えられている。その後タンパク質の分解が阻害され、有糸分裂が停止し、細胞死をたどると思われる。ジテルペノイドの例としては、限定されるものではないが、パクリタキセルおよびその類似体であるドセタキセルが挙げられる。
【0075】
パクリタキセル、5β,20−エポキシ−1,2α,4,7β,10β,13α−ヘキサ−ヒドロキシタクス−11−エン−9−オン4,10−ジアセテート2−ベンゾエートの(2R,3S)−N−ベンゾイル−3−フェニルイソセリンとの13−エステルは、タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)から単離された天然ジテルペン生成物であり、注射液タキソール(TAXOL)(登録商標)として市販されている。パクリタキセルは、テルペンのタキサンファミリーのメンバーである。パクリタキセルは、1971年にWaniら(J. Am. Chem, Soc., 93:2325. 1971)によって初めて単離され、化学法およびX線結晶学的方法によってその構造が同定された。その活性の1つの機構は、パクリタキセルの、チューブリンと結合し、それにより癌細胞増殖を阻害する能力に関連している。Schiff et al., Proc. Natl, Acad, Sci. USA, 77:1561-1565 (1980); Schiff et al., Nature, 277:665-667 (1979); Kumar, J. Biol, Chem, 256: 10435-10441 (1981)。いくつかのパクリタキセル誘導体の合成および抗癌活性に関する総説としては、D. G. I. Kingston et al., Studies in Organic Chemistry vol. 26, “New trends in Natural Products Chemistry 1986”, Attaur-Rahman, P.W. Le Quesne編(Elsevier, Amsterdam, 1986) pp 219-235を参照。
【0076】
パクリタキセルは、米国における難治性卵巣癌の治療における臨床使用(Markman et al., Yale Journal of Biology and Medicine, 64:583, 1991; McGuire et al., Ann. lntem, Med., 111:273,1989)および乳癌の治療(Holmes et al., J. Nat. Cancer Inst., 83:1797,1991)に承認されている。パクリタキセルは、皮膚における新生物(Einzig et. al., Proc. Am. Soc. Clin. Oncol., 20:46)および頭頸部癌(Forastire et. al., Sem. Oncol., 20:56, 1990)の治療のための潜在的候補である。またこの化合物は、多発性嚢胞腎疾患(Woo et. al., Nature, 368:750. 1994)、肺癌、およびマラリアの治療にも可能性を示している。パクリタキセルで患者を治療すると、閾値濃度(50nM)を超える投与期間に関連して(Kearns, C.M. et. al., Seminars in Oncology, 3(6) p.16-23, 1995)、骨髄抑制が起こる(複数の細胞系譜、Ignoff, R.J. et. al, Cancer Chemotherapy Pocket Guide, 1998)。
【0077】
ドセタキセル、(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステルの5β−20−エポキシ−1,2α,4,7β,10β,13α−ヘキサヒドロキシタクス−11−エン−9−オン4−アセテート2−ベンゾエートとの13−エステルの三水和物は、注射液としてタキソテール(TAXOTERE)(登録商標)として市販されている。ドセタキセルは、乳癌の治療に指示される。ドセタキセルは、ヨーロッパイチイの針葉から抽出した天然の前駆物質10−デアセチル−バッカチンIIIを使用して製造された、パクリタキセル(前項参照)の半合成誘導体である。ドセタキセルの用量制限毒性は好中球減少である。
【0078】
ビンカアルカロイドは、ニチニチソウ由来の細胞周期特異的抗新生物薬である。ビンカアルカロイドは、チューブリンと特異的に結合することによって細胞周期のM期(有糸分裂)に作用する。その結果、結合されたチューブリン分子は、重合して微小管になることができない。有糸分裂は中期で停止し、細胞死をたどると考えられている。ビンカアルカロイドの例としては、限定されるものではないが、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビンが挙げられる。
【0079】
ビンブラスチン、硫酸ビンカロイコブラスチンは、注射液としてベルバン(VELBAN)(登録商標)として市販されている。ビンブラスチンは、種々の固形腫瘍の第二選択療法として指示される可能性があるが、精巣癌、ならびにホジキン病、リンパ球性および組織球性リンパ腫を含む種々のリンパ腫の治療に主として指示される。骨髄抑制がビンブラスチンの用量制限副作用である。
【0080】
ビンクリスチン、ビンカロイコブラスチンの22−オキソ−硫酸塩は、注射液としてオンコビン(ONCOVIN)(登録商標)として市販されている。ビンクリスチンは、急性白血病の治療に指示されており、ホジキンおよび非ホジキン悪性リンパ腫の治療計画の中でも使用されている。脱毛および神経学的作用がビンクリスチンの最も一般的な副作用であり、程度は低いが、骨髄抑制および胃腸粘膜炎作用が生じる。
【0081】
酒石酸ビノレルビンの注射液(ナベルビン(NAVELBINE)(登録商標))として市販されているビノレルビン、3’,4’−ジデヒドロ−4’−デオキシ−C’−ノルビンカロイコブラスチン[R−(R,R)−2,3−ジヒドロキシブタン二酸(1:2)(塩)]は、半合成ビンカアルカロイドである。ビノレルビンは、単剤として、またはシスプラチンなどの他の化学療法薬と組み合わせて、種々の固形腫瘍、特に、非小細胞肺癌、進行性乳癌、およびホルモン不応性前立腺癌の治療に指示される。骨髄抑制がビノレルビンの最も一般的な用量制限副作用である。
【0082】
白金配位錯体は、非細胞周期特異的抗癌剤であり、DNAと相互作用する。白金錯体は、腫瘍細胞に侵入し、アクア化を受け、DNAとの鎖内架橋および鎖間架橋を形成し、腫瘍に対して有害な生物学的作用を引き起こす。白金配位錯体の例としては、限定されるものではないが、シスプラチンおよびカルボプラチンが挙げられる。
【0083】
シスプラチン、シス−ジアンミンジクロロ白金は、注射液としてプラチノール(PLATINOL)(登録商標)として市販されている。シスプラチンは、主として転移性の精巣癌および卵巣癌ならびに進行性膀胱癌の治療に指示される。シスプラチンの主な用量制限副作用は、腎毒性(水分補給と利尿により管理可能)、および耳毒性である。
【0084】
カルボプラチン、ジアンミン[1,1−シクロブタン−ジカルボキシレート(2−)−O,O’]白金は、注射液としてパラプラチン(PARAPLATIN)(登録商標)として市販されている。カルボプラチンは、主として進行性卵巣癌の第一選択および第二選択治療に指示される。骨髄抑制がカルボプラチンの用量制限毒性である。
【0085】
アルキル化剤は、非細胞周期特異的抗癌剤(non-phase anti-cancer specific agents)であり、かつ、強力な求電子試薬である。一般に、アルキル化剤は、アルキル化によって、リン酸基、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、およびイミダゾール基などのDNA分子の求核部分を介してDNAと共有結合を形成する。このようなアルキル化によって核酸機能が破壊され細胞死に至る。アルキル化剤の例としては、限定されるものではないが、シクロホスファミド、メルファラン、およびクロラムブシルなどのナイトロジェンマスタード;ブスルファンなどのスルホン酸アルキル;カルムスチンなどのニトロ尿素;ならびにダカルバジンなどのトリアゼンが挙げられる。
【0086】
シクロホスファミド、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]テトラヒドロ−2H−1,3,2−オキシアザホスホリン2−オキシド一水和物は、注射液または錠剤としてシトキサン(CYTOXAN)(登録商標)として市販されている。シクロホスファミドは、単剤として、または他の化学療法薬と組み合わせて、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、および白血病の治療に指示される。脱毛、悪心、嘔吐および白血球減少がシクロホスファミドの最も一般的な用量制限副作用である。
【0087】
メルファラン、4−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]−L−フェニルアラニンは、注射液または錠剤としてアルケラン(ALKERAN)(登録商標)として市販されている。メルファランは、多発性骨髄腫および切除不能な卵巣上皮癌の待期療法に指示される。骨髄抑制がメルファランの最も一般的な用量制限副作用である。
【0088】
クロラムブシル、4−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]ベンゼンブタン酸は、ロイケラン(LEUKERAN)(登録商標)錠剤として市販されている。クロラムブシルは、慢性リンパ性白血病、ならびにリンパ肉腫、巨大濾胞性リンパ腫、およびホジキン病などの悪性リンパ腫の待期療法に指示される。骨髄抑制がクロラムブシルの最も一般的な用量制限副作用である。
【0089】
ブスルファン、ジメタンスルホン酸1,4−ブタンジオールは、マイレラン(MYLERAN)(登録商標)錠剤として市販されている。ブスルファンは、慢性骨髄性白血病の待期療法に指示される。骨髄抑制がブスルファンの最も一般的な用量制限副作用である。
【0090】
カルムスチン、1,3−[ビス(2−クロロエチル)−1−ニトロソ尿素は、BiCNU(登録商標)として凍結乾燥物質の単一バイアルとして市販されている。カルムスチンは、脳腫瘍、多発性骨髄腫、ホジキン病、および非ホジキンリンパ腫用に、単剤として、または他の薬剤と組み合わせて、待期療法に指示される。遅発性骨髄抑制がカルムスチンの最も一般的な用量制限副作用である。
【0091】
ダカルバジン、5−(3,3−ジメチル−1−トリアゼノ)−イミダゾール−4−カルボキサミドは、材料の単一バイアルとしてDTIC−Dome(登録商標)として市販されている。ダカルバジンは、転移性悪性黒色腫の治療、および他の薬剤と組み合わせてホジキン病の第二選択治療に指示される。悪心、嘔吐、および食欲不振がダカルバジンの最も一般的な用量制限副作用である。
【0092】
抗生物質系抗新生物薬は、非細胞周期特異的薬剤であり、DNAと結合するかまたはDNAにインターカレートする。一般に、このような作用によって安定なDNA複合体かまたは鎖の切断が生じ、それにより核酸の通常機能が乱れ、細胞死に至る。抗生物質系抗新生物薬の例としては、限定されるものではないが、ダクチノマイシンなどのアクチノマイシン;ダウノルビシンおよびドキソルビシンなどのアントロサイクリン;ならびにブレオマイシンが挙げられる。
【0093】
ダクチノマイシンは、アクチノマイシンDとしても知られ、注射液の形態でコスメゲン(COSMEGEN)(登録商標)として市販されている。ダクチノマイシンは、ウィルムス腫瘍および横紋筋肉腫の治療に指示される。悪心、嘔吐および食欲不振がダクチノマイシンの最も一般的な用量制限副作用である。
【0094】
ダウノルビシン、(8S−シス−)−8−アセチル−10−[(3−アミノ−2,3,6−トリデオキシ−α−L−リクソ−ヘキソピラノシル)オキシ]−7,8,9,10−テトラヒドロ−6,8,11−トリヒドロキシ−1−メトキシ−5,12ナフタセンジオン塩酸塩は、リポソーム注射形態としてダウノキソーム(DAUNOXOME)(登録商標)として、または注射液としてセルビジン(CERUBIDINE)(登録商標)として市販されている。ダウノルビシンは、急性非リンパ球性白血病および進行性HIV関連カポジ肉腫の治療における寛解導入に指示される。骨髄抑制がダウノルビシンの最も一般的な用量制限副作用である。
【0095】
ドキソルビシン、(8S,10S)−10−[(3−アミノ−2,3,6−トリデオキシ−α−L−リクソ−ヘキソピラノシル)オキシ]−8−グリコロイル,7,8,9,10−テトラヒドロ−6,8,11−トリヒドロキシ−1−メトキシ−5,12ナフタセンジオン塩酸塩は、注射可能な形態としてルベックス(RUBEX)(登録商標)またはアドリアマイシンRDF(ADRIAMYCIN RDF)(登録商標)として市販されている。ドキソルビシンは、主として急性リンパ芽球性白血病および急性骨髄芽球性白血病の治療に指示されるが、いくつかの固形腫瘍およびリンパ腫の治療における有用成分でもある。骨髄抑制がドキソルビシンの最も一般的な用量制限副作用である。
【0096】
ブレオマイシン、ストレプトミセス・ヴェルチシルス(Streptomyces verticillus)の株から単離された細胞傷害性グリコペプチド系抗生物質の混合物は、ベレノキサン(BLENOXANE)(登録商標)として市販されている。ブレオマイシンは、単剤として、または他の薬剤と組み合わせて、扁平上皮癌、リンパ腫、および精巣癌の待期療法に指示される。肺毒性および皮膚毒性がブレオマイシンの最も一般的な用量制限副作用である。
【0097】
トポイソメラーゼII阻害剤としては、限定されるものではないが、エピポドフィロトキシンが挙げられる。
【0098】
エピポドフィロトキシンは、マンドレイク植物由来の細胞周期特異的抗新生物薬である。エピポドフィロトキシンは、一般に、トポイソメラーゼIIとDNAとの三元複合体を形成してDNA鎖の切断を引き起こすことによって、細胞周期のS期およびG期において細胞に影響を及ぼす。この鎖切断が蓄積し、細胞死をたどる。エピポドフィロトキシンの例としては、限定されるものではないが、エトポシドおよびテニポシドが挙げられる。
【0099】
エトポシド、4’−デメチル−エピポドフィロトキシン9[4,6−0−(R)−エチリデン−β−D−グルコピラノシド]は、注射液またはカプセル剤としてベプシド(VePESID)(登録商標)として市販されており、一般にVP−16として知られている。エトポシドは、単剤として、または他の化学療法薬と組み合わせて、精巣癌および非小細胞肺癌の治療に指示される。骨髄抑制がエトポシドの最も一般的な副作用である。白血球減少の発生率の方が、血小板減少症よりも重大となる傾向がある。
【0100】
テニポシド、4’−デメチル−エピポドフィロトキシン9[4,6−0−(R)−テニリデン−β−D−グルコピラノシド]は、注射液としてブモン(VUMON)(登録商標)として市販されており、一般にVM−26として知られている。テニポシドは、単剤として、または他の化学療法薬と組み合わせて、小児における急性白血病の治療に指示される。骨髄抑制がテニポシドの最も一般的な用量制限副作用である。テニポシドは、白血球減少および血小板減少の両方を誘発し得る。
【0101】
代謝拮抗性抗新生物薬は、DNA合成を阻害すること、またはプリンもしくはピリミジン塩基の合成を阻害し、それによりDNA合成を制限することによって細胞周期のS期(DNA合成)に作用する、細胞周期特異的抗新生物薬である。その結果、S期は進行せず、細胞死をたどる。代謝拮抗性抗新生物薬の例としては、限定されるものではないが、フルオロウラシル、メトトレキサート、シタラビン、メカプトプリン(mecaptopurine)、チオグアニン、およびゲムシタビンが挙げられる。
【0102】
5−フルオロウラシル、5−フルオロ−2,4−(1H,3H)ピリミジンジオンは、フルオロウラシルとして市販されている。5−フルオロウラシルを投与すると、チミジル酸合成が阻害され、またRNAおよびDNAの両方に組み込まれる。その結果は一般に細胞死である。5−フルオロウラシルは、単剤として、または他の化学療法薬と組み合わせて、乳癌、結腸癌、直腸癌、胃癌、および膵癌の治療に指示される。骨髄抑制および粘膜炎が5−フルオロウラシルの用量制限副作用である。他のフルオロピリミジン類似体としては、5−フルオロデオキシウリジン(フロクスウリジン)および5−フルオロデオキシウリジン一リン酸が挙げられる。
【0103】
シタラビン、4−アミノ−1−β−D−アラビノフラノシル−2(1H)−ピリミジノンは、シトサール−U(CYTOSAR-U)(登録商標)として市販されており、一般にAra−Cとして知られている。シタラビンは、成長中のDNA鎖へのシタラビンの末端組み込みによってDNA鎖の伸長を阻害することにより、S期で細胞期特異性を示すと考えられている。シタラビンは、単剤として、または他の化学療法薬と組み合わせて、急性白血病の治療に指示される。他のシチジン類似体としては、5−アザシチジンおよび2’,2’−ジフルオロデオキシシチジン(ゲムシタビン)が挙げられる。シタラビンは、白血球減少、血小板減少、および粘膜炎を誘発する。
【0104】
メルカプトプリン、1,7−ジヒドロ−6H−プリン−6−チオン一水和物は、プリントール(PURINETHOL)(登録商標)として市販されている。メルカプトプリンは、現時点でまだ特定されていないメカニズムによってDNA合成を阻害することにより、S期で細胞期特異性を示す。メルカプトプリンは、単剤として、または他の化学療法薬と組み合わせて、急性白血病の治療に指示される。骨髄抑制および胃腸粘膜炎が、高用量のメルカプトプリンの副作用と予想される。有用なメルカプトプリン類似体はアザチオプリンである。
【0105】
チオグアニン、2−アミノ−1,7−ジヒドロ−6H−プリン−6−チオンは、タブロイド(TABLOID)(登録商標)として市販されている。チオグアニンは、現時点でまだ特定されていないメカニズムによってDNA合成を阻害することにより、S期で細胞期特異性を示す。チオグアニンは、単剤として、または他の化学療法薬と組み合わせて、急性白血病の治療に指示される。白血球減少、血小板減少、および貧血を含む骨髄抑制がチオグアニン投与の最も一般的な用量制限副作用である。しかしながら、消化管副作用も起こり、用量制限となり得る。他のプリン類似体としては、ペントスタチン、エリスロヒドロキシノニルアデニン、リン酸フルダラビン、およびクラドリビンが挙げられる。
【0106】
ゲムシタビン、2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロシチジン一塩酸塩(β−異性体)は、ジェムザール(GEMZAR)(登録商標)として市販されている。ゲムシタビンは、S期にて、またG1/S境界を通る細胞の進行を遮断することによって、細胞期特異性を示す。ゲムシタビンは、シスプラチンと組み合わせて局所進行性非小細胞肺癌の治療に指示され、また単独で局所進行性膵癌の治療に指示される。白血球減少、血小板減少、および貧血を含む骨髄抑制が、ゲムシタビン投与の最も一般的な用量制限副作用である。
【0107】
メトトレキサート、N−[4[[(2,4−ジアミノ−6−プテリジニル)メチル]メチルアミノ]ベンゾイル]−L−グルタミン酸は、メトトレキサートナトリウムとして市販されている。メトトレキサートは、プリンヌクレオチドおよびチミジル酸の合成に必要とされるジヒドロ葉酸レダクターゼの阻害を介して、DNAの合成、修復、および/または複製を阻害することによって、特にS期に細胞周期作用を示す。メトトレキサートは、単剤として、または他の化学療法薬と組み合わせて、絨毛癌、髄膜白血病、非ホジキンリンパ腫、ならびに乳癌、頭部癌、頸部癌、卵巣癌、および膀胱癌の治療に指示される。骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、および貧血)および粘膜炎が、メトトレキサート投与の予想される副作用である。
【0108】
カンプトテシンおよびカンプトテシン誘導体を含むカンプトテシン類は、トポイソメラーゼI阻害剤として入手可能または開発中である。カンプトテシン細胞傷害活性は、そのトポイソメラーゼI阻害活性に関連すると考えられている。カンプトテシンの例としては、限定されるものではないが、イリノテカン、トポテカン、および下記の7−(4−メチルピペラジノ−メチレン)−10,11−エチレンジオキシ−20−カンプトテシンの種々の光学形態が挙げられる。
【0109】
イリノテカンHCl、(4S)−4,11−ジエチル−4−ヒドロキシ−9−[(4−ピペリジノピペリジノ)カルボニルオキシ]−1H−ピラノ[3’,4’,6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−3,14(4H,12H)−ジオン塩酸塩は、注射液カンプトサール(CAMPTOSAR)(登録商標)として市販されている。
【0110】
イリノテカンは、その活性代謝物SN−38とともにトポイソメラーゼI−DNA複合体と結合する、カンプトテシンの誘導体である。細胞傷害性は、トポイソメラーゼI:DNA:イリンテカンまたはSN−38の三元複合体と複製酵素との相互作用により引き起こされる回復不能な二本鎖切断の結果として生じると考えられている。イリノテカンは、結腸または直腸の転移性癌の治療に指示される。イリノテカンHClの用量制限副作用は、好中球減少を含む骨髄抑制、および下痢を含むGI作用である。
【0111】
トポテカンHCl、(S)−10−[(ジメチルアミノ)メチル]−4−エチル−4,9−ジヒドロキシ−1H−ピラノ[3’,4’,6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−3,14−(4H,12H)−ジオン一塩酸塩は、注射液ハイカムチン(HYCAMTIN)(登録商標)として市販されている。トポテカンは、トポイソメラーゼI−DNA複合体と結合して、DNA分子のねじれ歪みに応答してトポイソメラーゼIにより引き起こされる一本鎖切断の再連結を妨げるカンプトテシンの誘導体である。トポテカンは、転移性の卵巣癌および小細胞肺癌の第二選択治療に指示される。トポテカンHClの用量規制副作用は、骨髄抑制、主に好中球減少である。
【0112】
また、下式A:
【化5】
の、化学名「7−(4−メチルピペラジノ−メチレン)−10,11−エチレンジオキシ−20(R,S)−カンプトテシン(ラセミ混合物)または「7−(4−メチルピペラジノ−メチレン)−10,11−エチレンジオキシ−20(R)カンプトテシン(R鏡像異性体)または「7−(4−メチルピペラジノ−メチレン)−10,11−エチレンジオキシ−20(S)−カンプトテシン(S鏡像異性体)」で知られるラセミ混合物(R、S)型ならびにRおよびS鏡像異性体を含む、現在開発中のカンプトテシン誘導体も着目される。このような化合物ならびに関連化合物は、製造方法を含め、米国特許第6,063,923号;同第5,342,947号;同第5,559,235号;同第5,491,237号および1997年11月24日に出願された継続米国特許出願第08/977,217号に記載されている。
【0113】
ホルモンおよびホルモン類似体は、ホルモンと癌の増殖および/または増殖の欠如との間に関係がある癌を治療するのに有用な化合物である。癌治療で有用なホルモンおよびホルモン類似体の例としては、限定されるものではないが、小児の悪性リンパ腫および急性白血病の治療に有用なプレドニゾンおよびプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド;副腎皮質癌およびエストロゲン受容体を含むホルモン依存性乳癌の治療に有用なアミノグルテチミドおよび他のアロマターゼ阻害剤、例えば、アナストロゾール、レトラゾール(letrazole)、ボラゾール(vorazole)およびエクセメスタン;ホルモン依存性乳癌および子宮内膜癌の治療に有用なプロゲストリン(progestrin)、例えば、酢酸メゲストロール;前立腺癌および良性前立腺肥大の治療に有用なエストロゲン、アンドロゲンおよび抗アンドロゲン、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、酢酸シプロテロンおよび5α−レダクターゼ、例えば、フィナステリドおよびデュタステライド;ホルモン依存性乳癌および他の感受性癌の治療に有用な抗エストロゲン作用薬、例えば、タモキシフェン、トレミフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、ヨードキシフェン、ならびに選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERMS)、例えば米国特許第5,681,835号、同第5,877,219号および同第6,207,716号に記載のもの;ならびに前立腺癌の治療のための黄体形成ホルモン(LH)および/または卵胞刺激ホルモン(FSH)の放出を刺激するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)およびその類似体、例えば、LHRH促進剤および拮抗剤、例えば酢酸ゴセレリンおよびルプロリド(luprolide)が挙げられる。
【0114】
レトロゾール(商標フェマーラ(Femara))は、外科手術後のホルモン反応性乳癌の治療のための経口非ステロイド系アロマターゼ阻害剤である。アロマターゼ酵素の活性を通してのアンドロゲンの変換によってエストロゲンが産生される。次に、エストロゲンは、エストロゲン受容体と結合し、これにより、細胞分裂が引き起こされる。レトロゾールは、そのチトクロムP450ユニットのヘムとの競合的な可逆性結合によって、アロマターゼがエストロゲンを産生できないようにする。この作用は特異的であり、レトロゾールは、ミネラロステロイドまたはコルチコステロイドの産生を低下させない。
【0115】
シグナル伝達経路阻害剤は、細胞内変化を引き起こす化学プロセスを遮断または阻害する阻害剤である。本明細書で使用する場合、この変化は細胞増殖または分化である。本発明において有用なシグナル伝達阻害剤としては、受容体チロシンキナーゼ、非受容体型チロシンキナーゼ、SH2/SH3ドメイン遮断剤、セリン/トレオニンキナーゼ、ホスホチジルイノシトール(phosphotidyl inositol)−3キナーゼ、ミオイノシトールシグナル伝達およびRas癌遺伝子の阻害剤が含まれる。
【0116】
いくつかのタンパク質チロシンキナーゼは、細胞増殖の調節に関与する様々なタンパク質の特定のチロシル残基のリン酸化を触媒する。このようなタンパク質チロシンキナーゼは、受容体または非受容体型キナーゼとして大別することができる。
【0117】
受容体チロシンキナーゼは、細胞外リガンド結合ドメイン、トランスメンブランドメイン、およびチロシンキナーゼドメインを有するトランスメンブランタンパク質である。受容体チロシンキナーゼは細胞増殖の調節に関与し、一般に成長因子受容体と呼ばれている。例えば過剰発現または突然変異による、これら多くのキナーゼの不適当または制御を欠いた活性化、すなわち異常なキナーゼ増殖因子受容体活性は、制御を欠いた細胞増殖をもたらすことが示されている。従って、このようなキナーゼの異常な活性は、悪性組織増殖と関連づけられている。結果として、このようなキナーゼの阻害剤は、癌治療法を提供し得る。増殖因子受容体としては、例えば、上皮増殖因子受容体(EGFr)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFr)、erbB2、erbB4、血管内皮増殖因子受容体(VEGFr)、免疫グロブリン様ドメインと表皮性増殖因子相同ドメインを含むチロシンキナーゼ(TIE−2)、インスリン増殖因子−I(IGFI)受容体、マクロファージコロニー刺激因子(cfms)、BTK、ckit、cmet、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体、Trk受容体(TrkA、TrkBおよびTrkC)、エフリン(eph)受容体ならびにRET癌原遺伝子が挙げられる。増殖受容体のいくつかの阻害剤が開発中であり、リガンド拮抗剤、抗体、チロシンキナーゼ阻害剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。増殖因子受容体および増殖因子受容体機能を阻害する薬剤は、例えば、Kath, John C., Exp. Opin. Ther. Patents (2000) 10(6):803-818;Shawver et al DDT Vol 2, No. 2 1997年2月;およびLofts, F. J et al, "Growth factor receptors as targets", New Molecular Targets for Cancer Chemotherapy, Workman, Paul and Kerr, David編, CRC press 1994, Londonに記載されている。
【0118】
増殖因子受容体キナーゼでないチロシンキナーゼは、非受容体型チロシンキナーゼと呼ばれる。抗癌剤の標的または潜在的標的となる、本発明において有用な非受容体型チロシンキナーゼには、cSrc、Lck、Fyn、Yes、Jak、cAbl、FAK(接着斑キナーゼ)、BrutonsチロシンキナーゼおよびBcr−Ablが挙げられる。このような非受容体型キナーゼおよび非受容体型チロシンキナーゼ機能を阻害する薬剤は、Sinh, S. and Corey, S.J., (1999) Journal of Hematotherapy and Stem Cell Research 8 (5): 465-80;およびBolen, J.B., Brugge, J.S., (1997) Annual review of Immunology. 15: 371-404に記載されている。
【0119】
SH2/SH3ドメイン遮断剤は、PI3−K p85サブユニット、Srcファミリーキナーゼ、アダプター分子(Shc、Crk、Nck、Grb2)およびRas−GAPを含む様々な酵素またはアダプタータンパク質におけるSH2またはSH3ドメイン結合を乱す薬剤である。抗癌剤の標的としてのSH2/SH3ドメインは、Smithgall, T.E. (1995), Journal of Pharmacological and Toxicological Methods 34(3) 125-32に述べられている。
【0120】
Rafキナーゼ(rafk)、マイトジェンまたは細胞外調節キナーゼ(Mitogen or Extracellular Regulated Kinase)(MEK)、および細胞外調節キナーゼ(Extracellular Regulated Kinase)(ERK)の遮断剤を含む、MAPキナーゼカスケード遮断剤を含むセリン/トレオニンキナーゼ阻害剤;ならびにPKC(α、β、γ、ε、μ、λ、ι、ζ)の遮断剤を含むタンパク質キナーゼCファミリーメンバー遮断剤、IkBキナーゼファミリー(IKKa、IKKb)、PKBファミリーキナーゼ、AKTキナーゼファミリーメンバー、TGFβ受容体キナーゼ。このようなセリン/トレオニンキナーゼおよびそれらの阻害剤は、Yamamoto, T., Taya, S., Kaibuchi, K., (1999), Journal of Biochemistry. 126 (5) 799-803; Brodt, P, Samani, A., and Navab, R. (2000), Biochemical Pharmacology, 60. 1101-1107; Massague, J., Weis-Garcia, F. (1996) Cancer Surveys. 27:41-64; Philip, P.A., and Harris, A.L. (1995), Cancer Treatment and Research. 78: 3-27, Lackey, K. et al Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters, (10), 2000, 223-226; 米国特許第6,268,391号;およびMartinez-Iacaci, L., et al, Int. J. Cancer (2000), 88(1), 44-52に記載されている。
【0121】
PI3−キナーゼ、ATM、DNA−PKおよびKuの遮断剤を含むホスファチジルイノシトール−3キナーゼファミリーメンバーの阻害剤もまた本発明において有用である。このようなキナーゼは、Abraham, R.T. (1996), Current Opinion in Immunology. 8 (3) 412-8; Canman, C.E., Lim, D.S. (1998), Oncogene 17 (25) 3301-3308; Jackson, S.P. (1997), International Journal of Biochemistry and Cell Biology. 29 (7):935-8;およびZhong, H. et al, Cancer res, (2000) 60(6), 1541-1545に記載されている。
【0122】
また、本発明では、ミオイノシトールシグナル伝達阻害剤、例えば、ホスホリパーゼC遮断剤およびミオイノシトール類似体も有用である。このようなシグナル伝達阻害剤は、Powis, G., and Kozikowski A., (1994) New Molecular Targets for Cancer Chemotherapy, Paul Workman and David Kerr編, CRC press 1994, Londonに記載されている。
【0123】
シグナル伝達経路阻害剤の別の群は、Ras癌遺伝子の阻害剤である。このような阻害剤には、ファルネシルトランスフェラーゼ、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼおよびCAAXプロテアーゼの阻害剤ならびにアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムおよび免疫療法が含まれる。このような阻害剤は、野生型変異体rasを含む細胞においてrasの活性化を阻止し、それにより抗増殖薬として作用することが示されている。Ras癌遺伝子の阻害は、Scharovsky, O.G., Rozados, V.R., Gervasoni, S.I. Matar, P. (2000), Journal of Biomedical Science. 7(4) 292-8;Ashby, M.N. (1998), Current Opinion in Lipidology. 9 (2) 99-102;およびBennett, C.F. and Cowsert, L.M. BioChim. Biophys. Acta, (1999) 1489(1):19-30に記載されている。
【0124】
上述のように、受容体キナーゼリガンド結合に対する抗体拮抗剤もまた、シグナル伝達阻害剤として機能し得る。この群のシグナル伝達経路阻害剤は、受容体チロシンキナーゼの細胞外リガンド結合ドメインに対するヒト化抗体の使用を含む。例えば、Imclone C225 EGFR特異的抗体(Green, M.C. et al, Monoclonal Antibody Therapy for Solid Tumors, Cancer Treat. Rev., (2000), 26(4), 269-286参照);ハーセプチン(Herceptin)(登録商標)erbB2抗体(Tyrosine Kinase Signalling in Breast cancer:erbB Family Receptor Tyrosine Kniases, Breast cancer Res., 2000, 2(3), 176-183参照);ならびに2CB VEGFR2特異的抗体(Brekken, R.A. et al, Selective Inhibition of VEGFR2 Activity by a monoclonal Anti-VEGF antibody blocks tumor growth in mice, Cancer Res. (2000) 60, 5117-5124参照)。
【0125】
非受容体型キナーゼ血管新生阻害剤もまた、本発明において使用を見出すことができる。血管新生関連VEGFRおよびTIE2の阻害剤は、シグナル伝達阻害剤について上述されている(両受容体とも、受容体型チロシンキナーゼである)。erbB2およびEGFRの阻害剤が血管新生、主にVEGF発現を阻害することが示されているので、血管新生は一般にerbB2/EGFRシグナル伝達と関連する。従って、erbB2/EGFR阻害剤と血管新生の阻害剤の組合せは意味をなす。よって、非受容体型チロシンキナーゼ阻害剤は、本発明のEGFR/erbB2阻害剤と組み合わせて使用することができる。例えば、VEGFR(受容体チロシンキナーゼ)を認識しないが、リガンド;血管新生を阻害するインテグリン(αβ)の小分子阻害剤;エンドスタチンおよびアンギオスタチン(非RTK)とは結合する抗VEGF抗体も、開示されたerbファミリー阻害剤との組合せにおいて有用であると思われる(Bruns CJ et al (2000), Cancer Res., 60: 2926-2935; Schreiber AB, Winkler MEおよびDerynck R. (1986), Science, 232: 1250-1253;Yen L et al. (2000), Oncogene 19: 3460-3469参照)。
【0126】
ヴォトリエント(VOTRIENT)(登録商標)として市販されているパゾパニブは、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である。パゾパニブは、塩酸塩として提供され、その化学名は、5−[[4−[(2,3−ジメチル−2H−インダゾールー6−イル)メチルアミノ]−2−ピリミジニル]アミノ]−2−メチルベンゼンスルホンアミド一塩酸塩である。パゾパニブは、進行性腎細胞癌を有する患者の治療用として承認されている。
【0127】
アバスチン(AVASTIN)(登録商標)として市販されているベバシズマブ(Bevacisumab)は、VEGF−Aを遮断するヒト化モノクローナル抗体である。アバスチン(登録商標)は、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、腎臓癌、および神経膠芽腫を含む種々の癌の治療用に承認されている。
【0128】
mTOR阻害剤としては、限定されるものではないが、ラパマイシン(FK506)およびラパログ、RAD001またはエベロリムス(アフィニトール)、CCI−779またはテムシロリムス、AP23573、AZD8055、WYE−354、WYE−600、WYE−687およびPp121が挙げられる。
【0129】
エベロリムスは、ノバルティス社によりアフィニトール(Afinitor)(登録商標)として販売されており、シロリムスの40−O−(2−ヒドロキシエチル)誘導体であり、シロリムスと同様にmTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)阻害剤として働く。エベロリムスは、現在、臓器移植の拒絶を防ぐための免疫抑制剤および腎細胞癌の治療薬として使用されている。いくつかの癌において使用するためのエベロリムスおよびその他のmTOR阻害剤に対するさらなる研究も行われている。エベロリムスは、下記の化学構造(式B)および化学名を有する:
【化6】
ジヒドロキシ−12−[(2R)−1−[(1S,3R,4R)−4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシシクロヘキシル]プロパン−2−イル]−19,30−ジメトキシ−15,17,21,23,29,35−ヘキサメチル−11,36−ジオキサ−4−アザトリシクロ[30.3.1.04,9]ヘキサトリアコンタ−16,24,26,28−テトラエン−2,3,10,14,20−ペントン。
【0130】
ベキサロテンは、ターグレチン(Targretin)(登録商標)として販売されており、レチノイドX受容体(RXR)を選択的に活性化させるレチノイドのサブクラスのメンバーである。これらのレチノイド受容体は、レチノイン酸受容体(RAR)とは異なる生物活性を有する。化学名は、4−[1−(5,6,7,8−テトラヒドロ−3,5,5,8,8−ペンタメチル−2−ナフタレニル)エテニル]安息香酸である。ベキサロテンは、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL、皮膚癌の一種)の治療のために、その疾患を少なくとも1つの他の薬物では良好に治療することができなかった患者で用いられる。
【0131】
ネクサバール(Nexavar)(登録商標)として市販されているソラフェニブは、マルチキナーゼ阻害剤と称される薬物のクラスである。その化学名は、4−[4−[[4−クロロ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]カルバモイルアミノ]フェノキシ]−N−メチル−ピリジン−2−カルボキシアミドである。ソラフェニブは、進行性腎細胞癌(腎臓で発症する癌の一種)の治療に用いられる。ソラフェニブはまた、切除不能肝細胞癌(外科手術で治療することができない肝臓癌の一種)の治療にも用いられる。
【0132】
免疫療法計画において使用される薬剤もまた、本発明の化合物との組み合わせにおいて有用であり得る。erbB2またはEGFRに対する免疫応答を生じさせる多くの免疫学的戦略が存在する。これらの戦略は一般に、腫瘍ワクチン接種の範囲にある。免疫学的アプローチの有効性は、小分子阻害剤を用いたerbB2/EGFRシグナル伝達経路の阻害と組み合わせることにより、大きく向上され得る。erbB2/EGFRに対する免疫学的/腫瘍ワクチンアプローチの考察は、Reilly RT et al. (2000), Cancer Res. 60: 3569-3576;およびChen Y, Hu D, Eling DJ, Robbins J, and Kipps TJ. (1998), Cancer Res. 58: 1965-1971に見出される。
【0133】
erbB阻害剤の例としては、ラパチニブ、エルロチニブ、およびゲフィチニブが挙げられる。ラパチニブ、N−(3−クロロ−4−{[(3−フルオロフェニル)メチル]オキシ}フェニル)−6−[5−({[2−(メチルスルホニル)エチル]アミノ}メチル)−2−フラニル]−4−キナゾリナミン(示されるような式Cで表される)は、erbB−1およびerbB−2(EGFRおよびHER2)チロシンキナーゼの強力な経口小分子二重阻害剤であり、HER2陽性転移性乳癌の治療のために、カペシタビンとの併用が承認されている。
【化7】
【0134】
エルロチニブ、N−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス{[2−(メチルオキシ)エチル]オキシ}−4−キナゾリナミン(商標タルセバ(Tarceva)として市販)は、示されるような式Dで表される。
【化8】
エルロチニブの遊離塩基およびHCl塩は、例えば、米国特許第5,747,498号の実施例20に従って作製することができる。
【0135】
ゲフィチニブ、4−キナゾリナミン,N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−[3−4−モルホリン)プロポキシ]は、示されるような式Eで表される。
【化9】
商標イレッサ(IRESSA)(登録商標)(Astra−Zenenca)で市販されているゲフィチニブは、局部進行型または転移性の非小細胞肺癌の患者の、白金系およびドセタキセルによる化学療法がいずれも奏功しなかった後の治療に、単剤療法として指示される。ゲフィチニブの遊離塩基、HCl塩、およびジHCl塩は、1996年4月23日に出願され、1996年10月31日にWO96/33980として公開された国際特許出願第PCT/GB96/00961号の手順に従って作製することができる。
【0136】
トラスツズマブ(ハーセプチン(HEREPTIN)(登録商標))は、HER2受容体と結合するヒト化モノクローナル抗体である。その元々の適応症は、HER2陽性乳癌である。
【0137】
セツキシマブ(アービタックス(ERBITUX)(登録商標))は、上皮増殖因子受容体(EGFR)を阻害するキメラマウスヒト抗体である。
【0138】
ペルツズマブ(2C4とも称される、商標オモニターグ(Omnitarg))は、モノクローナル抗体である。「HER二量体化阻害剤」と称される薬剤系列のそのクラスの最初のものである。それは、HER2と結合することによって、HER2の他のHER受容体との二量体化を阻害し、腫瘍増殖の緩徐化がもたらされるとの仮説が立てられている。ペルツズマブは、2001年1月4日公開のWO01/00245に記載されている。
【0139】
リツキシマブは、リツキサン(RITUXAN)(登録商標)およびマブセラ(MABTHERA)(登録商標)として販売されているキメラモノクローナル抗体である。リツキシマブは、B細胞上のCD20と結合し、細胞アポトーシスを引き起こす。リツキシマブは、静脈内投与され、関節リウマチおよびB細胞非ホジキンリンパ腫の治療用に承認されている。
【0140】
オファツムマブは、アーゼラ(ARZERRA)(登録商標)として販売されている完全ヒトモノクローナル抗体である。オファツムマブは、B細胞上のCD20と結合し、フルダラビン(Fludara)およびアレムツズマブ(Campath)による治療に不応の成人における慢性リンパ性白血病(CLL;白血球の癌の一種)を治療するために用いられる。
【0141】
アポトーシス誘導療法で用いられる薬剤(例えば、bcl−2アンチセンスオリゴヌクレオチド)もまた、本発明の組合せにおいて使用可能である。Bcl−2ファミリータンパク質のメンバーは、アポトーシスを阻止する。従って、bcl−2のアップレギュレーションは、化学療法耐性と関連づけられている。研究によれば、上皮細胞増殖因子(EGF)がbcl−2ファミリーの抗アポトーシスメンバー(すなわち、mcl−1)を刺激することが示された。従って、腫瘍においてbcl−2の発現をダウンレギュレートするように設計された戦略は、臨床的利益が実証され、現在第II/III相治験にある(すなわち、ジェンタのG3139bcl−2アンチセンスオリゴヌクレオチド)。bcl−2に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド戦略を用いるこのようなアポトーシス誘導戦略は、Water JS et al. (2000), J. Clin. Oncol. 18: 1812-1823;およびKitada S et al. (1994), Antisense Res. Dev. 4: 71-79に述べられている。
【0142】
細胞周期シグナル伝達阻害剤は、細胞周期の制御に関与する分子を阻害する。サイクリン依存性キナーゼ(CDK)と呼ばれるタンパク質キナーゼファミリー、およびそれらのサイクリンと呼ばれるタンパク質ファミリーとの相互作用は、真核生物の細胞周期の進行を制御する。細胞周期の正常な進行には、異なるサイクリン/CDK複合体の同調的活性化および不活性化が必要である。細胞周期シグナル伝達のいくつかの阻害剤が開発中である。例えば、CDK2、CDK4およびCDK6を含むサイクリン依存性キナーゼ、およびそれらの阻害剤の例は、例えばRosania et al, Exp. Opin. Ther. Patents (2000) 10(2):215-230に記載されている。
【0143】
一実施態様では、請求の発明の癌の治療法は、本発明の化合物および/またはその薬学的に許容可能な塩、水和物、溶媒和物、もしくはプロドラッグと、微小管阻害剤、白金配位錯体、アルキル化剤、抗生物質、トポイソメラーゼII阻害剤、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼI阻害剤、ホルモンおよびホルモン類似体、シグナル伝達経路阻害剤、非受容体チロシンキナーゼ血管新生阻害剤、免疫治療剤、アポトーシス促進剤、ならびに細胞周期シグナル伝達阻害剤からなる群から選択されるものなどの少なくとも1つの抗新生物剤と併用投与することを含む。
【実施例】
【0144】
製造
本明細書に記載の誘導体は、引用することによりその全内容が本明細書の一部とされるWO2011/103546A1に概略が示され、下記に詳細に記載される一般法によって製造される。
【0145】
実施例1
(S)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化10】
a)(3S)−3−[2−(エチルオキシ)−2−オキソエチル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル
((3S)−1−{[(1,1−ジメチルエチル)オキシ]カルボニル}−3−ピロリジニル)酢酸(97.0g、423mmol)およびジエチルエーテル(800mL)を含有する2Lの丸底フラスコに、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(89.0g、465mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(5.17g、42.3mmol)、およびエタノール(54.0mL、931mmol)を加えた。この反応フラスコにオーバーヘッドスターラーを装着し、この白色反応混合物を一晩室温で撹拌した。LCMSによりアリコートを分析したところ、反応が進行して完了していたことが示された。この反応混合物を2Lの分液漏斗に移した。フラスコ内の残留沈殿を1N NaHSO水溶液で溶かし、分液漏斗に加えた。水層を分離し、有機層を1N NaHSO水溶液、飽和重炭酸ナトリウム水溶液、およびブラインで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮し、標題化合物を透明な黄色ゲルとして得(96.6g)、これを精製せずに次に送った。MS(ES)+ m/e 258.0 [M+H]+
【0146】
b)(3S)−3−(2−ヒドラジノ−2−オキソエチル)−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル
粗(3S)−3−[2−(エチルオキシ)−2−オキソエチル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル(96.2g)およびエタノール(700mL)を含有する2Lの丸底フラスコに、ヒドラジン一水和物(65重量%、100mL)を加えた。この反応フラスコにオーバーヘッドスターラーを装着し、反応混合物を75℃で一晩撹拌した。LCMSによりアリコートを分析したところ、出発材料の目的生成物へのほぼ完全な変換が示された。この溶液を室温まで冷却し、真空濃縮し、エタノール(500mL)と共沸させた。得られたゲルをジクロロメタン(500mL)で希釈し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した。濾液を真空濃縮して標題化合物を無色のゲルとして得(98.7g)、これを精製せずに次に送った。MS(ES)+ m/e 244.1[M+H]+
【0147】
c)(3S)−3−[2−(2−{[(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)アミノ]カルボニル}ヒドラジノ)−2−オキソエチル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル
ジクロロメタン(400mL)中、粗(3S)−3−(2−ヒドラジノ−2−オキソエチル)−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル(98.7g)を含有する2Lの丸底フラスコに、ジクロロメタン(400mL)中、4−ブロモ−2−フルオロ−1−イソシアナトベンゼン(88.0g、406mmol)の溶液を加えた。この反応フラスコにオーバーヘッドスターラーを装着し、反応混合物を室温で1時間撹拌し、この時点で透明な溶液は乳白色の懸濁液となっていた。固体沈殿を重力濾過により回収し、冷ジクロロメタン(2×50mL)で洗浄し、真空炉(50℃)で一晩乾燥させ、標題化合物を白色の純粋固体として得た(167.4g、3工程で86%)。MS(ES)+ m/e 459.2, 461.1 [M+H]+
【0148】
d)(3S)−3−{[4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]メチル}−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル
(3S)−3−[2−(2−{[(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)アミノ]カルボニル}ヒドラジノ)−2−オキソエチル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル(25.0g、54.4mmol)を含有する2Lの丸底フラスコに、炭酸カリウム(40.0g、289mmol)、水(1000mL)、および1−プロパノール(100mL)を加えた。窒素バブラーを備えた還流コンデンサー(condenser)を取り付け、反応混合物を140℃で20時間撹拌した。この反応混合物を室温まで冷却し、濾過し、真空濃縮した。残渣を1N NaOH水溶液(125mL)に取った。二炭酸ジ−tert−ブチル(6.0g、28mmol)を加え、この反応物を室温で72時間撹拌した。LCMSによりアリコートを分析したところ、反応は70%完了まで進行していたことが示された。さらに二炭酸ジ−tert−ブチル(2.0g、9.3mmol)を追加したところ、反応は>95%完了まで進行させることができたが、少量の(<5%)ビス保護材料(MW=540)が見られた。この反応物を1N HCl水溶液の添加によりpH=6〜7に調製した。この反応物を分液漏斗に移し、酢酸エチル(2×200mL)で洗浄した。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:ジクロロメタン)により精製し、標題化合物を得た(12.2g、48%)。MS(ES)+ m/e 440.8, 442.8 [M+H]+
【0149】
e)4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−5−{[(3S)−1−(シクロプロピルカルボニル)−3−ピロリジニル]メチル}−2,4−ジヒドロ−3H−1,2,4−トリアゾール−3−オン
(3S)−3−{[4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]メチル}−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル(26.5g、60.1mmol)を含有する1Lの丸底フラスコに、ジオキサン中4NのHCl(100mL、400mmol)を加えた。この反応混合物を室温で1時間撹拌した後、真空濃縮した。このフラスコにジクロロメタン(300mL)を加え、溶液を氷浴で冷却した。このフラスコにN,N−ジイソプロピルエチルアミン(42.0mL、240mmol)を加えた。次に、このフラスコに塩化ジクロロメタン(50mL)中、シクロプロパンカルボニル(5.00mL、54.6mmol)を、添加漏斗を介して加えた。2時間後、LCMSによりアリコートを分析したところ、反応は約80%進行していたことが示された。反応混合物の温度を0℃に維持しながら、ジクロロメタン(20mL)中、塩化シクロプロパンカルボニル(1.00mL、10.9mmol)を、添加漏斗を介して加えた。1時間後、LCMSによりアリコートを分析したところ、反応は約97%進行していたことが示された。ジクロロメタン(5mL)中、塩化シクロプロパンカルボニル(0.200mL、2.18mmol)をピペットにより加えた。1時間後、LCMSによりアリコートを分析したところ、反応が進行して完了していたことが示された。反応混合物をジクロロメタン(200mL)で希釈し、分液漏斗に移した。有機層を水、ブライン、および飽和NHCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:酢酸エチル)により精製し、標題生成物を得た(16.5g、67%)。MS(ES)+ m/e 409.0, 410.9 [M+H]+
【0150】
f)7−ブロモ−3−メチルキノリン
エタノール(50mL)に溶かしたKOH(5.61g、100mmol)の溶液を、窒素下、無水エタノール(200mL)中、2−アミノ−4−ブロモベンズアルデヒド(60.6g、303mmol)およびプロピオンアルデヒド(17.6g、303mmol)の混合物に滴下した。この混合物を還流するまで加熱した後、還流状態で3時間維持した。室温まで冷却した後、反応混合物を濃縮してエタノールを除去し、次に水を加え、この混合物を塩化メチレン(3×100mL)で抽出した。合わせた有機層を水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空濃縮した。粗材料を、ジエチルエーテルを用いて摩砕し、標題生成物(48.6g、219mmol、収率72%)を淡褐色固体として得た。MS(ES) m/e 221.9, 223.9 [M+H]+ (臭素パターン)。
【0151】
g)(S)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
マイクロ波照射可能な10mLのバイアルに、(S)−4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン(150mg、0.367mmol)、酢酸カリウム(150mg、1.53mmol)、ビス(ピナコラト)二ホウ素(100mg、0.394mmol)、PdCl(dppf)−CHCl付加物(50mg、0.061mmol)、および1,4−ジオキサン(4mL)を充填した。バイアルに蓋をし、窒素でパージし、100℃で16時間撹拌した。溶液を室温まで冷却した。LCMSによりアリコートを分析したところ、目的のボロン酸エステル(MW=456)が対応するボロン酸中間体(MW=374)とともに示された。このバイアルに7−ブロモ−3−メチルキノリン(90mg、0.405mmol)および2M炭酸カリウム水溶液(2.00mL)を加えた。このバイアルに蓋をし、窒素でパージし、100℃で撹拌した。1時間後、この溶液を室温まで冷却した。ジオキサン層をピペットによりデカントし、分液漏斗に入れた。有機液を、酢酸エチル(40mL)および水(20mL)を用いて抽出した。酢酸エチル層を除去し、水層を酢酸エチル(10mL)で抽出した。合わせた有機層をブライン(1x)で洗浄し、硫酸ナトリウムおよびおよそ60mgのSilicycle Si−チオール樹脂で乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:ジクロロメタン)により精製し、標題化合物(61mg、収率35%)を得た。MS(ES)+ m/e 472.2 [M+H]+
【0152】
実施例2
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化11】
a)7−ブロモ−3−クロロキノリン
トルエン(50mL)中、2−クロロ−1,1−ジエトキシエタン(4.50mL、30.0mmol)、2−アミノ−4−ブロモベンズアルデヒド(3.00g、15.0mmol)、およびp−トルエンスルホン酸一水和物(0.285g、1.500mmol)の混合物を、ディーン/スタークトラップを用いて110℃で3時間加熱した。次に、溶媒を蒸発させ、残渣を酢酸エチルと飽和NaHCO水溶液とで分液した。水層を酢酸エチルで抽出し、合わせた有機抽出液をシリカゲル上で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィー(20〜50%ジクロロメタン/ヘキサン)により精製し、標題生成物(1.97g、8.12mmol、収率54%)を黄色固体として得た。MS (ES+) m/e 241.8/243.8 Brパターン[M+H]+; 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ ppm 7.85 (dd, J=8.84, 2.02 Hz, 1 H) 7.98 (d, J=8.59 Hz, 1 H) 8.29 (d, J=1.77 Hz, 1 H) 8.65 (d, J=2.02 Hz, 1 H) 8.94 (d, J=2.53 Hz, 1 H)。
【0153】
b)(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
7−ブロモ−3−クロロキノリン(1.01当量)を用いて実施例1gに記載の手順に従い、標題化合物を得た(56mg、31%)。MS(ES)+ m/e 492.4 [M+H]+
【0154】
実施例3
(S)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化12】
a)2−(7−ブロモキノリン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン
トルエン(60mL)中、2−(2,2−ジエトキシエチル)イソインドリン−1,3−ジオン(3.16g、12.00mmol)、2−アミノ−4−ブロモベンズアルデヒド(2g、10.00mmol)およびp−トルエンスルホン酸一水和物(1.902g、10.00mmol)の混合物を、ディーン−スターク装置を用いて還流下で一晩加熱した。極暗色/黒色の固体が一晩で沈殿し、これを回収し、トルエンおよびヘキサンで洗浄した後、DMFで強化したクロロホルムに溶かした。この混合物をNaHCO水溶液で洗浄し(2x)、分離中にいずれの沈殿も添加クロロホルム中に確実に溶解させた。有機層を乾燥させ(硫酸ナトリウム)、シリカゲル上で蒸発させた。フラッシュクロマトグラフィー(ジクロロメタン中0〜2%メタノール)により精製し、標題化合物を得た(1.6g、45%)。1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ ppm 9.05 (d, 1 H), 8.57 (d, J = 2.3 Hz, 1 H), 8.35 (d, J = 1.8 Hz, 1 H), 8.11 (d, J = 8.6 Hz, 1 H), 8.09 - 8.02 (m, 2 H), 8.02 - 7.93 (m, 2 H), 7.87 (dd, J = 1.9, 8.7 Hz, 1 H)。
【0155】
b)7−ブロモキノリン−3−アミン
エタノール(200mL)中、2−(7−ブロモキノリン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン(10g、28.3mmol)の懸濁液をヒドラジン(1.777mL、56.6mmol)で処理した後、還流下で1時間加熱した。この混合物を冷却し、沈殿を回収し、少量のエタノールで洗浄し、濾液を蒸発させて灰色の固体を得た。単離された固体を温エタノールに溶かし、シリカゲルに吸着させた。この固体をシリカゲルクロマトグラフィー(50〜100%酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、標題化合物を得た(3.5g、56%)。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ ppm 5.83 (s, 2 H) 7.14 (d, J=2.53 Hz, 1 H) 7.49 (dd, J=8.84, 2.02 Hz, 1 H) 7.54 - 7.65 (m, 1 H) 7.94 (d, J=1.77 Hz, 1 H) 8.46 (d, J=2.78 Hz, 1 H)。
【0156】
c)7−ブロモ−3−フルオロキノリン
クロロベンゼン(20mL)中、7−ブロモキノリン−3−アミン(2.00g、8.97mmol)の溶液を含有する100mLの丸底フラスコに、三フッ化ホウ素二水和物(0.900mL、13.6mmol)を、シリンジを介して滴下した。この溶液を窒素下で、フラスコの温度を50℃に上げながら撹拌した。この反応混合物に添加漏斗を介して、亜硝酸tert−ブチル(1.185mL、8.97mmol)をゆっくり滴下した(15分かける)。フラスコの温度を100℃に上げ、反応混合物を窒素下で2時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、氷および飽和重炭酸ナトリウム水溶液(約100mL)を含有するフラスコに注いだ。この反応フラスコをクロロホルムおよびジクロロメタンで洗浄し、有機洗液(約100mL)を、水層とともに分液漏斗に移した。有機層を除去し、水層をクロロホルムで洗浄した(3x)。合わせた有機層をブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(20〜50%ジクロロメタン:ヘキサン)により精製し、標題化合物を得た(731mg、36%)。MS(ES)+ m/e 227.9 [M+H]+
【0157】
d)(S)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
7−ブロモ−3−フルオロキノリン(0.9当量)を用いて実施例1gに記載の手順に従い、標題化合物を灰白色固体として得た(40mg、34%)。水性後処理の代わりに、デカントしたジオキサン層をそのままシリカゲルパッドに吸着させた。シリカゲルクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:ジクロロメタン)および逆相HPLC(10〜80%アセトニトリル/水+0.1%NHOH)の両方をこの化合物の精製に用いた。MS(ES)+ m/e 475.8 [M+H]+
【0158】
実施例4
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化13】
a)(3S)−3−[2−(エチルオキシ)−2−オキソエチル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル
1Lの丸底フラスコに、((3S)−1−{[(1,1−ジメチルエチル)オキシ]カルボニル}−3−ピロリジニル)酢酸(20g、87mmol)およびジエチルエーテル(200mL)を加えた。この溶液を1分間撹拌した後、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(18g、94mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(1.00g、8.19mmol)、およびエタノール(11mL、188mmol)を加えた。このフラスコに窒素バブラーを取り付け、反応混合物を一晩室温で撹拌した。この混合物にジエチルエーテル(200mL)および水(200mL)を加え、沈殿固体を一度溶解させ、フラスコ内容物を分液漏斗に注いだ。水層を分離し、有機層を飽和NHCl水溶液、飽和重炭酸ナトリウム、次いでブラインで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮し、標題化合物(19.1g)を得、これを精製せずに次に送った。MS(ES)+ m/e 257.8 [M+H]+
【0159】
b)[(3S)−1−プロパノイル−3−ピロリジニル]酢酸エチル
(3S)−3−[2−(エチルオキシ)−2−オキソエチル]−1−ピロリジンカルボン酸1,1−ジメチルエチル(19.1g)を含有する500mLの丸底フラスコに、ジオキサン中4MのHCl(100mL、400mmol)をゆっくり加えた。得られた溶液を室温で1時間撹拌した。溶液を真空濃縮してベージュ色の固体を得た。この固体をジクロロメタン(DCM)(300mL)に懸濁させ、室温で撹拌しながらN,N−ジイソプロピルエチルアミン(25.9mL、148mmol)で処理した。得られた黄色溶液に塩化プロパノイル(6.87g、74.2mmol)を滴下した。この反応物を室温で30分間撹拌し、この時点でLCMSによりアリコートを分析したところ、反応が進行して完了していたことが示された。この溶液をDCM(500mL)で希釈し、飽和塩化アンモニウム水溶液(400mL)、飽和重炭酸ナトリウム水溶液(400mL)、およびブライン(400mL)で順次洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空で濃縮乾固し、標題化合物を黄色油状物とし得(16g)、これを精製せずに次に送った。MS(ES)+ m/e 213.9 [M+H]+
【0160】
c)2−[(3S)−1−プロパノイル−3−ピロリジニル]アセトヒドラジド
[(3S)−1−プロパノイル−3−ピロリジニル]酢酸エチル(16g)を含有する1Lの丸底フラスコに、エタノール(100mL)およびヒドラジン一水和物(70mL、940mmol)を加えた。このフラスコに窒素バブラーを備えた還流コンデンサーを取り付けた。このフラスコを油浴に入れ、撹拌しながら一晩80℃に加熱した。LCMSによりアリコートを分析したところ、反応が進行して完了していたことが示された。この溶液を室温まで冷却し、真空濃縮し、エタノールと共沸させた(5×100mL)。得られた油状物をDCM(300mL)で希釈し、硫酸マグネシウムプラグに通した。硫酸マグネシウムをDCM(300mL)で洗浄した。合わせた濾液を真空濃縮し、標題化合物を透明油状物として得(15g)、これを精製せずに次に送った。MS(ES)+ m/e 199.9 [M+H]+
【0161】
d)N−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−2−{[(3S)−1−プロパノイル−3−ピロリジニル]アセチル}ヒドラジンカルボキサミド
ジクロロメタン(100mL)中、粗2−[(3S)−1−プロパノイル−3−ピロリジニル]アセトヒドラジド(15g)を含有する1Lの丸底フラスコに、イソシアン酸4−ブロモ−2−フルオロフェニル(16.2g、75.0mmol)をピペットにより滴下した。さらなるジクロロメタン(60mL)を用いて、イソシアン酸塩を含有するバイアルをすすぎ、これも反応フラスコに加えた。溶液は10分以内に撹拌白色沈殿に変わった。このフラスコを窒素バブラー下に置き、室温で撹拌した。2時間後、白色沈殿が増え、その結果撹拌が困難になった。LCMSによりアリコートを分析したところ、出発ヒドラジドは残留していないことが示された。溶液を真空濃縮した。固体をヘキサン(500mL)で洗浄し、濾過し、真空下で48時間乾燥させ、標題化合物を白色固体として得(30.5g)、これを精製せずに次に送った。MS(ES)+ m/e 414.9, 416.9 [M+H]+
【0162】
e)4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−5−{[(3S)−1−プロパノイル−3−ピロリジニル]メチル}−2,4−ジヒドロ−3H−1,2,4−トリアゾール−3−オン
粗N−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−2−{[(3S)−1−プロパノイル−3−ピロリジニル]アセチル}ヒドラジンカルボキサミド(30.5g)および炭酸カリウム(51g、370mmol)を含有する2Lの丸底フラスコに、水(1000mL)および1−プロパノール(100mL)を加えた。窒素バブラーを備えた還流コンデンサーを取り付け、反応混合物を140℃で撹拌した。16時間後、反応混合物を冷却した後、濾過した。濾液を1N HCl水溶液の添加によりpH=6〜7に調整した。目的生成物を水層からジクロロメタンで抽出した(3x)。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:酢酸エチル)により精製し、標題化合物を白色固体として得た(12g、5工程で34%)。MS(ES)+ m/e 396.7, 398.9 [M+H]+
【0163】
f)(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
10mLのマイクロ波照射可能なバイアルに、7−ブロモ−3−フルオロキノリン(260mg、1.15mmol)、ビス(ピナコラト)二ホウ素(310mg、1.22mmol)、酢酸カリウム(390mg、3.97mmol)、PdCl(dppf)−CHCl付加物(75mg、0.092mmol)、および1,4−ジオキサン(6mL)を加えた。バイアルに蓋をし、窒素でパージし、反応混合物を100℃で1時間撹拌した。LCMSによりアリコートを分析したところ、目的のキノリンボロン酸中間体の形成が示された。このバイアルに、(S)−4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン(450mg、1.13mmol)および2M炭酸カリウム水溶液(3.00mL)を加えた。バイアルに蓋をし、窒素でパージし、反応混合物を100℃で撹拌した。2時間後、この溶液を室温まで冷却し、1N HCl水溶液でpH=6〜7に調整した。この溶液をジクロロメタン(70mL)で希釈し、分液漏斗に移した。有機溶液を水(50mL)で洗浄し、水層をジクロロメタン(50mL)で抽出した。合わせた有機層をブライン(50mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムおよびおよそ100mgのSilicycle Si−チオール樹脂で乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:酢酸エチル)により精製し、標題化合物をクリーム色の固体として得た(394mg、収率74%)。MS(ES)+ m/e 463.8 [M+H]+
【0164】
実施例5
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化14】
a)7−ブロモ−3−メチルキノリン(1.05当量)を用いて実施例4fに記載の手順に従い、標題化合物をクリーム色の固体として得た(335mg、62%)。MS(ES)+ m/e 460.5 [M+H]+
【0165】
実施例6
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化15】
a)7−ブロモ−3−クロロキノリン(1.00当量)を用いて実施例4fに記載の手順に従い、標題化合物をクリーム色の個体として得た(127mg、58%)。MS(ES)+ m/e 480.1 [M+H]+
【0166】
実施例7
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化16】
a)(S)−4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
乾燥した二口100mL丸底フラスコを窒素雰囲気下に置き、(S)−4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン(3.00g、7.55mmol)を充填した。N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(40mL)、次いでヨードメタン(0.700mL、11.2mmol)を加えた。この溶液を氷浴で0℃に冷却した。水素化ナトリウム(鉱油中60%分散物、0.54g、13.5mmol)を少量ずつ加えた。この反応混合物を窒素下で維持し、氷浴を室温まで温めながら撹拌した。2時間後、LCMSによりアリコートを分析したところ、反応が進行して完了していたことが示された。この反応混合物に水(14mL)をゆっくり加えた後、酢酸エチル(100mL)および水(50mL)を含有する分液漏斗に移した。有機層を分離して取っておいた。水層を1N HCl水溶液の添加によりpH=6に調整した。水層を酢酸エチルで洗浄した(2x)。合わせた有機層を1:1 水:ブライン溶液で洗浄した(5x)。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮し、標題化合物を白色固体として得(2.95g)、これを精製せずに次に送った。MS(ES)+ m/e 411.3, 413.3 [M+H]+
【0167】
b)(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−メチルキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
粗(S)−4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン(2.95g)を含有する500mLの丸底フラスコに、ビス(ピナコラト)二ホウ素(2.00g、7.88mmol)、酢酸カリウム(3.00g、30.6mmol)、PdCl(dppf)−CHCl付加物(0.50g、0.61mmol)、および1,4−ジオキサン(30mL)を加えた。コンデンサーを取り付け、溶液を100℃で1時間撹拌した。LCMSによりアリコートを分析したところ、出発材料が消費され、目的のボロン酸中間体が存在していたことが示された。この反応混合物を室温まで冷却し、フラスコに7−ブロモ−3−メチルキノリン(1.6g、7.2mmol)、および2M炭酸カリウム水溶液(15.00mL)を充填した。この反応混合物を100℃で1時間撹拌した後、室温まで冷却した。この溶液を1N HCl水溶液の添加によりpH=7に調整した。目的生成物を酢酸エチル(2×200mL)で抽出した。合わせた有機層を硫酸ナトリウムおよびおよそ1gのSilicycle Si−チオール樹脂で乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:ジクロロメタン)、次いで逆相HPLC(35%アセトニトリル/65%0.3Mギ酸アンモニウム水溶液)により精製し、標題化合物を白色固体として得た(2.3g、2工程で収率64%)。MS(ES)+ m/e 474.4 [M+H]+
【0168】
実施例8
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化17】
a)3−クロロ−7−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)キノリン
マイクロ波照射可能な5mLのバイアルに、7−ブロモ−3−クロロキノリン(100mg、0.412mmol)、ビス(ピナコラト)二ホウ素(110mg、0.433mmol)、酢酸カリウム(160mg、1.63mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(40mg、0.035mmol)、および1,4−ジオキサン(2mL)を加えた。バイアルに蓋をし、窒素でパージし、100℃で撹拌した。4時間後、この反応混合物を室温まで冷却し、ジクロロメタン(10mL)で希釈した。溶液をセライトおよび硫酸ナトリウムのプラグで濾過し、このプラグをジクロロメタン(20mL)で洗浄した。濾液を真空濃縮し、残渣をジクロロメタンに溶かし、水で洗浄した(1x)。有機層を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:ジクロロメタン)により精製し、標題化合物を得た(120mg、89%)。MS(ES)+ m/e 289.8 [M+H]+
【0169】
b)(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
マイクロ波照射可能な5mLのバイアルに、(S)−4−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン(165mg、0.414mmol)、3−クロロ−7−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)キノリン(107mg、0.370mmol)、1,4−ジオキサン(2mL)、および2M炭酸カリウム水溶液(1.000mL)を加えた。バイアルに蓋をし、窒素でパージし、100℃で撹拌した。2時間後、バイアルを冷却させて相に分けた。ピペットを用いてジオキサン層をデカントし、ジクロロメタン(10mL)で希釈した。この有機層をセライトおよび硫酸ナトリウムのプラグで濾過した。このプラグをジクロロメタン(30mL)で洗浄し、濾液を真空濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(0〜10%メタノール:酢酸エチル)により精製し、標題化合物を得た(95mg、46%)。MS(ES)+ m/e 480.2 [M+H]+
【0170】
c)(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン(117mg、0.244mmol)を含有する10mLの丸底フラスコに、炭酸カリウム(100mg、0.724mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(2mL)、およびヨードメタン(20μL、0.32mmol)を加えた。反応混合物を80℃で16時間撹拌し、この時点でさらなるヨードメタン(20μL、0.32mmol)を追加した。反応混合物を80℃で16時間撹拌した後、LCMSによりアリコートを分析したところ、>95%完了まで進行していたことが示された。この反応混合物を室温まで冷却し、ジクロロメタン(50mL)で希釈し、ブラインで洗浄した(5x)。有機層を回収し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。残渣を逆相HPLC(20〜50%アセトニトリル:0.1%TFA含有水)により精製し、回収された生成物を、そのアセトニトリル(2mL)中の溶液をマクロ孔質固相抽出プラグ(PL−HCO、100mg、0.18mmol)に通すことにより中和し、標題生成物を、真空濃縮後に白色固体として得た(61mg、46%)。MS(ES)+ m/e 494.1 [M+H]+
【0171】
実施例9
(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化18】
a)(S)−4−(4−(3−クロロキノリン−7−イル)−2−フルオロフェニル)−3−((1−(シクロプロパンカルボニル)ピロリジン−3−イル)メチル)−1−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンを用いて実施例8cに記載の手順に従い、標題化合物を淡褐色固体として得た(60mg、49%)。MS(ES)+ m/e 506.0 [M+H]+
【0172】
実施例10
(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−1−メチル−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オン
【化19】
a)(S)−4−(2−フルオロ−4−(3−フルオロキノリン−7−イル)フェニル)−3−((1−プロピオニルピロリジン−3−イル)メチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5(4H)−オンを用いて実施例8cに記載の手順に従い、標題化合物を淡褐色固体として得た(45mg、34%)。MS(ES)+ m/e 477.9 [M+H]+
【0173】
生物学的データ
本発明の例示的化合物(実施例1〜10)は、本明細書に記載の生物学的アッセイのうち少なくとも1つに従って試験し、FASの阻害剤であることが判明した。
【0174】
FASアッセイ
FAS活性は、以下の2つのアッセイのうちの1つによって測定した。
【0175】
アッセイ#1:
FAS活性の阻害は、FASアッセイの反応停止後に残ったNADPH基質の検出に基づいて測定することができる。このアッセイは、384ウェル形式での10μLエンドポイントアッセイとして行われ、ここで、反応物は、50mMリン酸ナトリウム pH7.0の中に20μMマロニル−CoA、2μMアセチル−CoA、30μM NADPH、および40nM FASを含有する。このアッセイは、5μLのマロニル−CoA溶液を、次いで酵素溶液(アセチル−CoAおよびNADPHを含有)を、化合物のDMSO溶液100nLを予め分注しておいた黒色の低容量アッセイプレート(Greiner 784076)中に、順次分注することで行われる。この反応物を周囲温度で60分間インキュベートした後、50mMリン酸ナトリウム pH7.0中、90μMレサズリン、0.3IU/mLジアホラーゼから構成される発色溶液5μLで反応を停止させる。発色反応物は、Molecular Devices AnalystまたはAcquest(または同等物)プレートリーダーにて、530nm励起波長フィルター、580nm発光フィルター、および561nmダイクロイックフィルターを用いて読み取る。試験化合物は、純DMSO中、10mMの濃度で調製する。阻害曲線については、化合物を、3倍段階希釈を用いて希釈し、11種の濃度(例えば、25μM〜0.42nM)で試験する。曲線の解析は、ActivityBaseおよびXLfitを用いて行い、結果は、pIC50値として表す。
【0176】
アッセイ#2:
FASの阻害はまた、チオ反応性クマリン色素によるCoA生成物の検出に基づいて定量することもできる。このアッセイは、384ウェル形式での10μLエンドポイントアッセイとして行われ、ここで、反応物は、50mMリン酸ナトリウム pH7.0および0.04%Tween−20中、20μMマロニル−CoA、20μMアセチル−CoA、40μM NADPH、および2nM FASを含有する。このアッセイは、5μLの酵素溶液を、化合物のDMSO溶液100nLを予め分注しておいた黒色低容量アッセイプレート(Greiner 784076)に添加することで行われる。30分後、5μLの基質を添加し、この反応物を周囲温度でさらに60分間インキュベートする。次に、50μM CPM(7−ジエチルアミノ−3−(4’−マレイミジルフェニル)−4−メチルクマリンCPM;チオ反応性色素)を含有する6Mグアニジン−HCl 10μLで反応を停止させ、30分間インキュベートする。このプレートを、Envision(PerkinElmer)または同等のプレートリーダーにて、380nm励起波長フィルターおよび486nm発光フィルターを用いて読み取る。データのフィッティングおよび化合物の調製は上記のとおりに行う。
【0177】
脂肪生成アッセイ
培養した一次ヒト脂肪前駆細胞(Zen−Bio、カタログ番号ASC062801)を、0.2%ゼラチン(Sigma、カタログ番号G−6650)でコーティングした96ウェルプレート(Costar、カタログ番号3598)にて、10%熱失活ウシ胎仔血清(InvitroGen、カタログ番号16000−044)を添加したDMEM/F12培地(InvitroGen カタログ番号11330−032)中、コンフルエンス(3×10細胞/ウェル)で播種する。翌日(第1日)、種培地を、10%熱失活ウシ胎仔血清、200μM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン(Sigma、カタログ番号I−5879)、20nMデキサメタゾン(Sigma、カタログ番号D−8893)、20nM GW1929(Sigma、カタログ番号G5668)、および20nMインスリン(InvitroGen、カタログ番号03−0110SA)を添加したDMEM/F12培地から構成される分化培地に置き換えることで細胞分化を誘導する。第7日に、分化培地を、10%熱失活血清および20nMインスリンを添加したDMEM/F12からなるリフィード培地(re-feed medium)に置き換える。この時点でこの培地に適切な濃度の試験化合物および対照を添加する。第12日に、細胞トリグリセリドの相対量を、Trinderキット(Sigma、カタログ番号TR0100)を用いて評価する。リフィード培地を吸引し、細胞をPBS(InvitroGen、カタログ番号14190−144)で洗浄し、キット製造者のプロトコールに従ってアッセイを行う。簡単に述べると、アッセイを行う前に、再構成した溶液AおよびBを、0.01%ジギトニン(Sigma、カタログ番号D−5628)と混合して細胞に添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートする。吸光度を540nmで読み取る。データは、まず、下式:100((UNK−対照1)/(対照2−対照1))を用いて標準化し、式中、対照1は、0%応答対照のロバスト平均であり、対照2は、100%応答対照のロバスト平均である。化合物の複数の希釈物を試験する場合、pXC50を、下式:y=(a−d)/(1+(s/c)^b)+d、および外れ値の重み付けのためのIRLS(反復再重み付け最小二乗(Iterative Re-weighted Least Squares))アルゴリズムを用いた4パラメーター曲線フィッティングを用いた曲線から算出する(Mosteller, F. & Tukey J.W. (1977) Data Analysis and Regression, pp 353-365, Addison-Wesley)。
【0178】
DMPKアッセイ
マウスおよびラット薬物動態試験は、下記の例外以外は、一般に、Xiang et al. (Preclinical drug metabolism and pharmacokinetic evaluation of GW844520, a novel mitochondrial electron transport inhibitor. H Xiang, J McSurdy-Freed, G Subbanagounder, E Hugger, R Bambal, C Han, S Ferrar, D Gargallo and CB Davis. (2006) Journal of Pharmaceutical Sciences, 95:2657-2672)およびDavis et al. (Comparative preclinical drug metabolism and pharmacokinetic evaluation of novel 4-aminoquinoline anti-malarials. CB Davis, R Bambal, GS Moorthy, E Hugger, H Xiang, B Kevin Park, AE Shone, PM O’Neill and SA Ward (2009) Journal of Pharmaceutical Sciences, 98:362-377)に記載のとおりに行った。一部のマウス試験では、混成研究デザインを使用するのではなく、挿管動物を用い、各個体(n=2/化合物/投与経路)から連続的な血液サンプルを採取した。一部のivラット試験では、薬物を1時間または2時間注入し、単一の血液サンプルを採取して、定常状態条件を仮定するクリアランスを評価した(n=2/化合物)。このアッセイを、さらなる研究のための化合物の優先順位をつけるための最初のPKスクリーンとして用いた。
【0179】
生物学的および薬物動態データ
本発明の例示的化合物は、ヒトFASの有力な阻害剤であることが判明した。本発明の化合物に関する少なくとも1つの試験または複数の試験の平均値から決定されたヒトFASに対するIC50値は<20nMであった。
【0180】
齧歯類薬物動態(PK)データは、上記の方法に従い、例示的化合物について収集した。これらのデータを表1に示す。in vivoクリアランス(Cl)データは、1〜2つの試験で1〜4個体の動物の平均値として報告され、次のように分類される。ラットでは、「低」クリアランスは<17mL/分/kgと指定され、「中」クリアランスは17〜39mL/分/kgと指定され、「高」クリアランスは>39mL/分/kgと指定される。マウスでは、「低」クリアランスは<30mL/分/kgと指定され、「中」クリアランスは30〜70mL/分/kgと指定され、「高」クリアランスは>70mL/分/kgと指定される。2〜3個体の動物の試験についての平均用量標準化AUC(DNAUC)として報告されるin vivo経口暴露(po)データは、DNAUC≦101ng・h/mL/mg/kgが「不十分」、DNAUC>101ng・h/mL/mg/kgが「十分」と分類される。異なる条件で複数の試験が行われた場合には、データの全体を考慮した。「不十分」と「十分」の両方の経口暴露が見られた場合には混合型の最適化されていない結果を表すために「混合型(mixed)」の表示が使用される。
【0181】
比較のため、引用することによりその全内容が本明細書の一部とされるWO2011/103546A1からの、代表的な関連の2種のトリアゾロン実施例124および196のPKデータを示し、この構造を下記に示す。
【0182】
5−{[(3S)−1−(シクロプロピルカルボニル)−3−ピロリジニル]メチル}−4−[2−フルオロ−4−(7−キノリニル)フェニル]−2,4−ジヒドロ−3H−1,2,4−トリアゾール−3−オン
【化20】
【0183】
4−[2−フルオロ−4−(7−キノリニル)フェニル]−5−{[(3S)−1−プロパノイル−3−ピロリジニル]メチル}−2,4−ジヒドロ−3H−1,2,4−トリアゾール−3−オン
【化21】
【0184】
本明細書の例示的化合物において、キノリンの3位における置換基の組み込みは、ラットおよび/またはマウスPKプロファイルに、親参照例に比べて、注目に値する改善(高から中へもしくは中から低へなどのiv Clの低減、または不十分から十分へまたは不十分から混合型へなどの経口暴露の改善)をもたらした。下記の表1参照。
【表1】