特許第6231208号(P6231208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ドレーゲルヴェルク アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト アウフ アクチェンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231208
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】新生児及び早産児のための温熱療法器
(51)【国際特許分類】
   A61G 11/00 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   A61G11/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-530972(P2016-530972)
(86)(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公表番号】特表2016-537096(P2016-537096A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】EP2014003002
(87)【国際公開番号】WO2015070969
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2016年7月11日
(31)【優先権主張番号】102013018919.5
(32)【優先日】2013年11月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】308011030
【氏名又は名称】ドレーゲルヴェルク アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト アウフ アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Draegerwerk AG & Co.KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アーニャ ヴィルデン
(72)【発明者】
【氏名】フィリプ メーリング
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ナンヅィク
(72)【発明者】
【氏名】マークス ハンペ
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−502726(JP,A)
【文献】 特表2013−529538(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第04316173(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新生児又は早産児のための温熱療法器(10)であって、
前記温熱療法器(10)は、ベッド下部構造(30)とインキュベータコンパートメント(20)とを有しており、
前記インキュベータコンパートメント(20)には、前記新生児又は前記早産児が横たわる吊り床として機能する臥床補助手段(50)が設けられており、
前記臥床補助手段(50)は、保持構造(60)に取り付けられている柔軟性のある布である、温熱療法器(10)において、
前記保持構造(60)は、相互に反対方向に旋回可能な少なくとも2つの保持アーム(61)を有し、
各保持アーム(61)の一方の端点に、前記臥床補助手段(50)のための少なくとも1つの取付箇所(63)が形成されており、
前記臥床補助手段(50)を前記保持アーム(61)の旋回によって広げて張ることができ、
前記保持アーム(61)の旋回によって、前記臥床補助手段(50)を広げて張る程度を調整可能であり、
前記保持構造(60)を引き出すことによって、前記臥床補助手段(50)を、前記インキュベータコンパートメント(20)から引き出す及び/又は回転させて出すことができることを特徴とする、温熱療法器。
【請求項2】
2つの保持アーム(61)がそれぞれ1つの保持アームペアを形成しており、保持アームペアの各保持アームが相互にすれ違いながら摺動できるように、保持アームペアの各保持アームが可動に前記保持構造(60)に収容されている、請求項に記載の温熱療法器。
【請求項3】
前記保持構造(60)は、保持アーム(61)のペアを2つ有しており、一方のペアが前記インキュベータコンパートメント(20)の一端部の領域に配置され、他方のペアが前記インキュベータコンパートメント(20)の他端部の領域に配置されている、請求項1または2に記載の温熱療法器。
【請求項4】
前記保持構造(60)は、前記保持アーム(61)を降下可能に収容するための少なくとも1つの収容ケース(62)を有している、請求項からまでのいずれか1項に記載の温熱療法器。
【請求項5】
前記少なくとも1つの収容ケース(62)が、当該収容ケース(62)を引き出し可能又は押し込み可能に前記ベッド下部構造(30)に案内されている、請求項に記載の温熱療法器。
【請求項6】
前記ベッド下部構造(30)は、少なくとも1本の支柱(31)を有している、請求項1からまでのいずれか1項に記載の温熱療法器。
【請求項7】
前記保持構造(60)は駆動機構を有している、請求項1からまでのいずれか1項に記載の温熱療法器。
【請求項8】
前記臥床補助手段(50)は、加熱装置を有している、請求項1からまでのいずれか1項に記載の温熱療法器。
【請求項9】
前記インキュベータコンパートメント(20)は、少なくとも1つの旋回可能な側壁(21)を有している、請求項1からまでのいずれか1項に記載の温熱療法器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載されている、新生児及び早産児のための温熱療法器に関する。
【背景技術】
【0002】
新生児及び早産児(乳児)のための温熱療法器が一般的に知られている。開放された状態でケアを行うための温熱療法器も、閉鎖されたインキュベータコンパートメント内に新生児及び早産児がいるいわゆるインキュベータも存在する。
【0003】
看護ケアの実務では、早産児を、母胎内の環境に似せて、全方位で囲むことが頻繁に必要になることが分かっている。しかしながら、従来のインキュベータでは、早産児は、側方に透明な囲いを有している平坦なベッド面と対面している。
【0004】
それゆえ、独国実用新案第202009009794号明細書には、インキュベータに自由揺動式に懸吊可能である、早産児の収容装置が開示されている。ここでは、臥床面が吊り床によって形成される。吊り床は、上方からインキュベータコンパートメントに懸吊される。
【0005】
独国実用新案第20006785号明細書及び独国特許出願公開第4316173号明細書にも、インキュベータコンパートメント内で懸吊されている臥床補助手段に臥床させることが開示されている。独国実用新案20006758号明細書には、吊り床状の臥床補助手段が、インキュベータコンパートメントの側壁に固定されているフックに取り付けられることが開示されている。独国特許出願公開第4316173号明細書には、乳児が臥床補助手段によってしっかりと固定されてくるまれることが開示されている。ここで提案される臥床補助手段は、インキュベータの上側の部分において、フックを用いてレールに懸吊される。
【0006】
上記のいずれのインキュベータにおいても、乳児は、懸吊式の臥床補助手段を有していない従来のインキュベータと同様に、たいていは、周囲環境から比較的隔離されて、閉鎖された透明なケース内に横たわっている。しかしながら、これによって、両親との密なスキンシップ、更には、この成長段階においては実際に非常に重要であるケアスタッフとの密なスキンシップが困難になる。
【0007】
これに対応するために、多くの病院では、種々の規模で、いわゆるカンガルーケアが実施されている。このカンガルーケアでは、乳児が一時的にインキュベータから取り出され、母親又は父親のもとで皮膚同士が直接触れ合う。もっともこれによって、乳児の姿勢が変化し、また、多かれ少なかれインキュベータから離れることになる。従ってこのケアは、乳児の臨床状態に基づき、触れ合うには十分であるとして、インキュベータから取り出すことが許可された乳児についてのみ実践することができる。特にその際には、センサのケーブル、人工呼吸装置のチューブ等が邪魔になることも考えられ、又はそれどころか、乳児の取り出しが妨げられることも考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の事項を出発点とした本発明の課題は、従来技術の上記の欠点及び更なる欠点を解決し、新生児及び早産児のための改良された温熱療法器を提供することである。特に、最適な臥床だけでなく、両親又はケアスタッフと新生児又は早産児との一時的な密な触れ合いを実現する温熱療法器が提供されるべきである。更には、温熱療法器は、可能な限り廉価且つ簡単に製造できるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴部分に記載の構成を備えているインキュベータによって解決される。別の構成は、従属請求項に記載されている。
【0010】
特に、本発明は、ベッド下部構造と、保持構造に取り付けられている柔軟性のある布である臥床補助手段が設けられているインキュベータコンパートメントと、を有する、新生児又は早産児のための温熱療法器において、臥床補助手段を保持構造によって広げて張ることができ、その際に、保持構造によって、臥床補助手段を広げて張る程度を調整することができ、また、臥床補助手段を、保持構造を用いることによって、インキュベータコンパートメントから引き出すことができる。
【0011】
ここで、ベッド下部構造とは、インキュベータコンパートメントが載置されている温熱療法器の部分である。ベッド下部構造に、温熱療法器の運転に必要とされるメカニズムの全て又は一部を配置することができる。例えば、ベッド下部構造には、加熱装置、空気中の湿度を制御する装置、及び、インキュベータコンパートメント内に生じている周囲温度を制御する装置を配置することができる。また、ベッド下部構造に、インキュベータコンパートメント内の乳児の体重を量る装置又はレントゲン撮影装置が設けられていることも考えられる。インキュベータコンパートメントとは、この関係において、ケアすべき新生児又は早産児がいる空間であると解される。インキュベータコンパートメントは、典型的には、新生児又は早産児を横たわらせることができる臥床面と、少なくとも部分的に透明な側壁と、通常は透明である天井部と、によって画定されている。臥床面は、インキュベータコンパートメントと、ベッド下部構造との間の境界部を形成していると考えられる。臥床面がベッド下部構造の一部であることも考えられる。この場合、インキュベータコンパートメントは、上述の側壁と、上述の天井部と、ベッド下部構造と、によって画定される。オプションとして、インキュベータコンパートメント内に設けられている臥床補助手段に付加的に、インキュベータコンパートメント内の臥床面の上にマットレスを配置することもできる。
【0012】
柔軟性のある布として形成されている臥床補助手段を、要求に応じて、種々の強さで緊張させることができる(広げて張ることができる;種々の強さの張力を有している)。本発明の特別な利点は、保持構造によって、臥床補助手段をどの程度まで広げて張るかを調整できることである。臥床補助手段が極弱く緊張されているか、又は緊張されていない(広げて張られていない)場合、臥床補助手段は、インキュベータコンパートメント内に懸吊されている吊り床のように機能する。これに対して、臥床補助手段が強く緊張されている場合、臥床補助手段はマットレスのように機能する。
【0013】
保持構造が可動に形成されていると特に有利である。この可動性に基づき、一方では、臥床補助手段の張力を調整することができる(調整可能な張力)。換言すれば、保持構造の移動によって臥床補助手段を広げて張ることができるように、保持構造を可動にすることができる。
【0014】
他方では、臥床補助手段の位置をインキュベータコンパートメントに対して相対的に変更できると有利である。このために、保持構造が可動に収容されていると好適である。特に、臥床補助手段がインキュベータコンパートメントに対して相対的に移動できるように、保持構造を動かすことができる。例えば、可動に収容されている保持構造が相応に動かされることによって、臥床補助手段をインキュベータコンパートメントから移動させることができるか、又はインキュベータコンパートメント内へと移動させることができる。インキュベータコンパートメント内での臥床補助手段の高さを保持構造の可動性によって調整できることも考えられる。換言すれば、本発明の利点は、臥床補助手段の張力も、インキュベータコンパートメントに対して相対的な臥床補助手段の位置も、保持構造の移動によって調整できることである。しかしながら、臥床補助手段の張力を調整する移動が、それと同時に臥床補助手段の位置にも影響を及ぼすこと、又はそれとは反対に、臥床補助手段の位置の変更が、それと同時に臥床補助手段の張力を調整する移動に影響を及ぼすことは、いかなる場合にも必要とされる訳ではない。保持構造をインキュベータコンパートメントから引き出す及び/又は回転させて出すことができる(herausschwenkbar)と好適であることが分かった。勿論、臥床補助手段をインキュベータコンパートメント内に進入させる反対方向の移動も可能である。
【0015】
この関係において、保持構造をベッド下部構造に可動に収容することができる。これは、一方では、保持構造の重心が比較的低い位置に置かれるという利点を有しており、このことは、移動時の保持構造の安定性に有利に作用すると考えられる。他方では、例えば保持構造をインキュベータコンパートメントから引き出す人間が温熱療法器の前に座っており、従って、インキュベータコンパートメントとの関係において、比較的低い位置を取る場合であっても、保持構造の取り扱いを簡単に実現できる。更に、このようにして、インキュベータコンパートメント内に向けられる視線を保持構造の一部が遮ること、従って温熱療法器内にいる乳児に向けられる視線を遮ることを回避することができる。
【0016】
いずれの場合にも、保持構造が少なくとも2つの旋回可能な保持アームを有していると好適である。この保持アームの旋回によって、ひいては保持構造の移動によって、臥床補助手段の張力を調整することができる。この場合、有利には、保持構造は4つの旋回可能な保持アームを有している。保持アームが円弧状であることも考えられる。例えば、保持アームは半円又は1/4円状のバーの構造を有することができる。他の形状の円弧も勿論可能である。それらのバーはそれぞれ第1の端部及び第2の端部を有している。この場合、各保持アームの少なくとも一方の端部は、例えば自由端部としての端部は、インキュベータコンパートメント内に突出していると考えられる。保持アームがその形状に応じて円弧状の軌道に沿って移動できるように、保持アームを保持構造に収容することができる。例えば、各保持アームを円弧状の軌道に沿ってスライドさせることができ、その場合には、円弧状の軌道の半径は、保持アームの円弧の半径と一致する。その際有利には、保持アームの端点が、その円弧状の軌道に沿って移動する際に相互に近付く方向又は相互に離れる方向に移動できるように、保持アームは保持構造内で相互に配向されている。
【0017】
それぞれ2つの保持アームが1つの保持アームペアを形成すると好適であることが分かった。保持アームが相互にすれ違いながら摺動できるように、保持アームペアの各保持アームが可動に収容されていることも考えられる。各保持アームは、外側の端点及び内側の端点を有することができる。内側の端点は、各他方の保持アームと対向している端点である。外側の端点は、インキュベータコンパートメント内に突出する自由端点である。保持アームペアの各保持アームの旋回によって、保持アームペアの外側の端点間の距離を拡大又は縮小することができる。この場合においても、有利には、端点の移動は、保持アームの形状によって設定される円弧に応じている。
【0018】
有利には、その種の保持構造においては、各保持アームに臥床補助手段のための少なくとも1つの取付箇所が形成されている。特に有利には、取付箇所がそれぞれ保持アームの一方の端点に、極めて有利には保持アームの外側の端点に形成されている。取付箇所がフックによって形成され、それらのフックに臥床補助手段を懸吊させることも考えられる。フックは例えばロック可能な安全フックであって良い。代替的には、クリップ止め、ねじ止め等の別の固定機構も勿論考えられる。臥床補助手段を取付箇所に取り付け可能であることが重要である。有利には、臥床補助手段はリバーシブルに取付箇所に取り付け可能である。後者の場合には、臥床補助手段の交換及び温熱療法器のクリーニングが容易になる。例えば、上述したように布状の臥床補助手段が矩形の形状を有していることが考えられ、その場合には、布の各角が保持装置の取付箇所に取り付けられている。
【0019】
保持アームの旋回によって、インキュベータコンパートメント内の取付箇所の位置が変化する。臥床補助手段の取付箇所の高さを相互に独立して調整可能であると好適である。臥床補助手段は、有利には、脚部側端部及び頭部側端部を有している。同じことが温熱療法器及びインキュベータコンパートメントにも当てはまる。この場合、例えば、布の脚部側端部が取り付けられている取付箇所は、布の頭部側端部が取り付けられている取付箇所とは異なる高さに位置することができる。このようにして、臥床補助手段の斜めの位置を達成することができる。斜めの位置とは、臥床補助手段に横たわる乳児がマットレスとは平行ではない位置である。臥床補助手段の取付箇所の高さを対で調整できると特に好適であることが分かった。本発明によれば、上述の円弧状の軌道に沿った保持アームの旋回によって、高さの調整が行われる。
【0020】
更に、保持構造が保持アームのペアを2つ有していると好適である。一方のペアをインキュベータコンパートメントの頭部側端部の領域に配置することができ、他方のペアをインキュベータコンパートメントの脚部側端部の領域に配置することができる。相応に、頭部側端部の領域に配置されているペアには、臥床補助手段の頭部側端部を取り付けることができ、他方、脚部側端部の領域に配置されているペアには、臥床補助手段の脚部側端部を取り付けることができる。保持アームの第1のペアは、臥床補助手段の頭部側端部を広げて張り、他方では、保持アームの第2のペアは、臥床補助手段の脚部側端部を広げて張る。
【0021】
保持構造が、保持アームのための少なくとも1つの収容ケースを有している場合にも好適である。例えば、保持アームが収容ケース内に降下可能であることも考えられる。つまり、例えば、保持アームが収容ケース内に可動に収容されていることが考えられ、その場合には、保持アームの外側の端部を収容ケースから張り出させることができる。収容ケースには、ガイドローラを設けることができ、それらのガイドローラは旋回中の保持アームを適切な位置に保持する。
【0022】
保持アームが完全に収容ケース内に降下している場合、有利には、臥床補助手段は、インキュベータコンパートメント内の臥床面上に、例えばマットレスの上に平坦に広げられる。このようにして、臥床補助手段に横たわる乳児を優しく臥床面に降ろすことができる。代替的に、保持アームが完全に降下する前であっても、臥床補助手段を取り外すことができる。このことは、例えば、乳児がマットレスの上に直接横たわることが望まれる場合には好適である。
【0023】
保持構造が2つの収容ケースを有していることも考えられる。特に、保持構造が保持アームのペアを2つ有している場合には、それらのペアを1つずつ収容ケースに収容することができる。つまり、例えば、第1の収容ケースが温熱療法器の頭部側端部に配置されており、第2の収容ケースが温熱療法器の脚部側端部に配置されていることが考えられる。この場合、温熱療法器の頭部側端部は、インキュベータコンパートメントの頭部側端部に対応しており、また、温熱療法器の脚部側端部は、インキュベータコンパートメントの脚部側端部に対応している。
【0024】
1つ又は複数の収容ケースを温熱療法器から引き出せると特に好適である。このようにして、保持構造全体を温熱療法器から引き出すことができる。この場合には、保持構造によって、温熱療法器から、特にインキュベータコンパートメントから臥床補助手段も引き出すことができる。保持構造を側方において引き出せると有利である。つまり、ベッド下部構造がテーブル状に形成されていることも考えられ、その場合、臥床面は、インキュベータコンパートメントによって覆われている「テーブル上面」に相当する。保持構造は、例えば、保持アームの2つのペアから形成されており、各ペアは収容ケースに収容されている。保持アームは各収容ケースにおいて旋回可能である。各保持アームの外側の端部には、布状の臥床補助手段のための取付箇所が形成されている。各取付箇所には、有利には矩形の臥床補助手段の角が取り付けられている。2つの収容ケースのうちの一方は、インキュベータコンパートメントの脚部側端部の領域に配置されている。他方の収容ケースは、インキュベータコンパートメントの頭部側端部の領域に配置されている。ベッド下部構造の上側の面がインキュベータコンパートメントの下側の面と位置合わせされて終端しているように、例えばマットレスを敷くことができる臥床面と位置合わせされて終端されているように、収容ケースがベッド下部構造に配置されていると特に好適である。1つ又は全ての収容ケースが把手を有しており、その把手を用いることによって収容ケースを、ひいては保持構造をインキュベータコンパートメント又は温熱療法器から引き出せることも考えられる。
【0025】
収容ケースが伸縮式にベッド下部構造に案内されていると有利である。保持構造を迅速且つ簡単に、温熱療法器から引き出すことができるか、又は温熱療法器内へと押し込むことができる。保持構造が同期機構を有しており、これによって、複数の収容ケースが同期することでのみ移動できると特に有利である。このようにして、保持構造の移動時の臥床補助手段の意図しない引っ張り又は歪みを効果的に防止することができる。
【0026】
ベッド下部構造がテーブル状であると好適であることが分かった。これによってインキュベータの前に座ることが容易になる。ベッド下部構造が、高さ調整可能な2本の支柱を有していることも考えられる。代替的に、ベッド下部構造が離心した曲げ耐性のある支柱を有しているか、又は、ベッド下部構造が中央のリフティングコラムを有していることも考えられる。
【0027】
保持構造が駆動機構を有している場合にも好適である。この場合には、保持アームペアの各保持アームを駆動機構によって相互に同期させて移動させることも考えられる。例えば、保持アームが円弧状のラックを有することができる。保持アーム自体を簡単に円弧状のラックとして形成することも考えられる。この場合、駆動機構は歯車を有することができ、歯車は機械的又は電気的な駆動部の運動を保持アームに伝達することができる。この場合には、例えば、歯車が保持アームのラック間に配置されていることも考えられ、その歯車によって、保持アームを同期させて移動させることができる。歯車をモータ駆動によって、及び/又は、手動で制御することができる。手動の制御のために、例えば、複数の歯車を駆動させることが可能な1つ又は複数の手動クランクを設けることができる。
【0028】
臥床補助手段が加熱装置を有している場合にも特に有利である。例えば、布状の臥床補助手段に面状ヒータを組み込むことも考えられる。このようにして、臥床補助手段に横たわる乳児を、インキュベータコンパートメント内だけでなく、インキュベータコンパートメント外に引き出された保持構造においても暖かく維持することができる。加熱装置を電気毛布として形成することも考えられる。例えば、臥床補助手段を電気毛布によって形成することができるし、又は、臥床補助手段は電気毛布が組み込まれている吊り床であっても良い。特に、電気抵抗加熱器又は流体加熱器も考えられる。
【0029】
保持構造、ひいては乳児を横たわらせることができる臥床補助手段を温熱療法器から引き出せるようにするために、インキュベータコンパートメントが少なくとも1つの旋回可能な側壁を有していると有利である。例えば、側壁が平行四辺形リンクを用いて旋回可能であることも考えられる。平行四辺形リンクがインキュベータコンパートメントとは異なる、インキュベータケーシングの領域に配置されていると特に好適である。例えば、側壁を一方の側において、平行四辺形リンクに懸吊させることができる。このようにして側壁を簡単且つ容易に上方へと、又は下方へと旋回させることができる。
【0030】
総じて、本発明による解決手段の特別な利点は、臥床補助手段が吊り床の形状を有しており、吊り床が温熱療法器に組み込まれており、吊り床は密接して乳児を包囲することができ、また、保持構造を用いて、乳児と共に側方において、温熱療法器から、特に温熱療法器のインキュベータコンパートメントから引き出すことができる。温熱療法器の傍に座るか立っている両親又はケアスタッフは、このようにして、乳児と密に触れあうことができ、その一方で、乳児はその横たわっている位置を変えないままで良く、従って受けるストレスは可能な限り少ない。温熱療法器の傍に座れるようにすることは、付加的に、ベッド下部構造を非常に平坦でテーブル状に実施することによって支援される。付加的に、保持構造の特別な構成は、特定の医療目的のために望まれる場合もある、乳児を傾けて横たわらせることを実現する。特に、このことは、保持アームの端部に形成されている取付箇所によって実現され、それらの取付箇所は相互に独立して、有利には対で高さを調整することができる。この高さ調整によって、臥床補助手段は種々に密接して乳児を包囲することができ、又は、臥床補助手段を乳児の身体の大きさに適合させることができる。保持アームを保持構造の収容ケース内に完全に降下させることによって、乳児を臥床補助手段の下に配置されている臥床面に、例えばマットレスに優しく降ろすことができる。
【0031】
乳児を温熱療法器外でも暖かく維持するために、吊り床には面状ヒータを組み込むことができる。更に有利には、臥床補助手段を簡単に取付箇所から取り外すことができ、また、保持アームを完全に収容ケース内に降下させることができる。このようにして、温熱療法器を所定の事例では、慣例のやり方でも、即ち平坦な臥床面とその下にあるマットレスを用いても利用することができる。臥床補助手段を定期的に交換してクリーニングできるようにするために、臥床補助手段を簡単に取り外せることも好適である。
【0032】
更なる特徴、細部及び詳細は、以下において説明する複数の図面及び実施例から明らかになる。それらの実施例は単に例示的なものに過ぎず、当業者であれば、本明細書の記載に基づき、問題なく別のヴァリエーション及び実施例に想到できることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1a】インキュベータコンパートメントからスライドされて取り出された状態の、本発明による保持構造を備えている温熱療法器を示す。
図1b図1aに図示した温熱療法器の別の図を示す。
図2a】保持アームが上方に完全に旋回されている、本発明による保持構造の詳細図を示す。
図2b】保持アームが下がっている、図2aに示した保持構造の別の詳細図を示す。
図2c】収容ケース内に保持アームが降下している、図2a及び図2bに示した保持構造の別の詳細図を示す。
図3a】吊り床のように機能する臥床補助手段がインキュベータコンパートメント内にある、図1a及び図1bに示した温熱療法器を示す。
図3b】傾斜した臥床面を実現している臥床補助手段がインキュベータコンパートメント内にある、図1a及び図1bに示した温熱療法器を示す。
図3c】マットレスのように機能する臥床補助手段がインキュベータコンパートメント内にある、図1a及び図1bに示した温熱療法器を示す。
図3d】臥床補助手段が取り外されており、付加的に設けられているマットレスの上に乳児が横たわっており、また、保持アームが保持構造の収容ケース内に降下している、図1a及び図1bに示した温熱療法器を示す。
図4a】ベッド下部構造がテーブル状に形成されている、本発明による温熱療法器を示す。
図4b】ベッド下部構造が側方の支柱を備えるように形成されている、本発明による温熱療法器を示す。
図4c】ベッド下部構造が中央の支柱を有している、本発明による温熱療法器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下において、同一の参照番号は全図においてそれぞれ同一の構成部材を表している。図1a及び図1bに示す温熱療法器10は、ベッド下部構造30とインキュベータコンパートメント20とを有している。ベッド下部構造30は、第1及び第2の支柱31を有している。これらの支柱31は、温熱療法器10の頭部側端部N及び脚部側端部Sにそれぞれ配置されている。支柱31には、それぞれ脚部ビーム32並びにキャスタ33が配置されている。このようにして、温熱療法器10を移動させることができ、また定置させることもできる。インキュベータコンパートメント20は、臥床面40、天井部41及び側壁21によって画定される。側壁21は、垂直方向に旋回可能であり、これによってインキュベータコンパートメント20を開放することができる。図示の例においては、ケアを行う大人Eに対向する側壁21が上方に旋回されている。側壁21には、把手22が形成されており、この把手22を用いることによって側壁21を動かすことができる。図1bから見て取れるように、インキュベータコンパートメント20の頭部側端部24には平行四辺形リンク23が配置されている。この平行四辺形リンク23を用いることによって、側壁21を旋回させることができる。
【0035】
温熱療法器10は、保持構造60と、この保持構造60に取り付けられている臥床補助手段50と、を更に有している。保持構造60は、図示の実施例では、2つの収容ケース62を有しており、これら2つの収容ケースには保持アーム61のペアが1つずつ配置されている。保持アーム61には、臥床補助手段50が取り付けられている。保持アーム61は、このために、その端部611に取付箇所63を有している。各収容ケース62には、把手64が配置されている。把手64を用いることによって、保持構造60をインキュベータコンパートメント20から引き出すことができる。
【0036】
図1a及び図1bに示す状態において、ケアすべき乳児Bは臥床補助手段50に横たわっている。インキュベータコンパートメント20は開放されており、また臥床補助手段50はその上に横たわる乳児Bと共に、インキュベータコンパートメント20から引き出されている。大人Eはテーブルに着くように温熱療法器10の前に座り、最適な状態で乳児Bに近付いて乳児Bと接触する。
【0037】
図2a,図2b及び図2cには、保持構造60の一部が詳細に示されている。それぞれ2つの保持アーム61が1つの保持アームペアを形成している。保持アーム61は、円弧の形状を有している。保持アームペアの各保持アーム61は、外側端部611及び内側端部612を有している。
【0038】
保持アーム61の外側端部611には、それぞれ1つの取付箇所63が形成されている。図示の実施例においては、取付箇所63はフック状である。図1a,図1b,図3a,図3b,図3c,図4a,図4b並びに図4cから見て取れるように、この取付箇所63において、臥床補助手段50を保持構造60に取り付けることができる。
【0039】
保持アームペアの各一方の保持アーム61の内側端部612は、それぞれ、保持アームペアの他方の保持アーム61と対向している。図2aに示すように、保持アームペアが完全に張り出した状態では、保持アーム61の内側端部612は相互に近接して位置している。各保持アーム61には、少なくとも1つの区間がラック65として形成されていることが見て取れる。代替的に、各保持アーム61にラック65が取り付けられていることも考えられる。保持アーム61間には歯車66が配置されている。歯車66は、保持アーム61のラック65に噛合されている。保持アーム61が歯車66の回転によって、円弧状の軌道Kに沿って、相互に反対方向に旋回可能であることが見て取れる。このように、保持構造60を用いることによって、臥床補助手段50をどの程度まで広げて張るかを調整することができる。特に、円弧状の軌道Kに沿った保持アーム61の旋回によって、保持アーム61の外側の端部611を相互に近付くように、また相互に離れるように移動させることができる。このようにして、臥床面40の上方における取付箇所63の高さも同時に調整することができる。
【0040】
図2b及び図2cからも同様に、図2aに示した保持構造60の一部が見て取れる。しかしながら、図2bにおいては、保持アーム61が収容ケース62に大きく進入している。図2cにおいては、保持アーム61が、図3dにおいても同様に、完全に収容ケース62内に降下している。
【0041】
図3a,図3b,図3c及び図3dからも見て取れるように、臥床補助手段50が保持構造60によって広げて張られ、また、保持構造60を用いることによって、その臥床補助手段50をどの程度まで広げて張るかを調整することができる。つまり、図3aにおいては、保持アーム61が最大限に張り出しており、取付箇所63は考えられる一番高い位置にある。ここでは、保持アーム61の全ての取付箇所63が同じ高さに位置決めされている。臥床補助手段50は、乳児Bが横たわる吊り床として機能する。
【0042】
図3bからは、乳児Bの頭部がその脚よりも高い位置に横たわるように、臥床補助手段50が傾斜されている様子が見て取れる。勿論、頭部よりも脚の方が高い位置にある反対の事例も可能である。頭部側端部N,24に配置されている保持アーム61が、脚部側端部Sに配置されている保持アーム61よりも、所属の収容ケース62から張り出していることが見て取れる。その結果、頭部側端部N,24の保持アーム61に形成されている取付箇所63は、脚部側端部Sの保持アームに形成されている取付箇所63よりも高い位置にある。
【0043】
図3cからは、臥床補助手段50がほぼ完全に広げて張られている様子が見て取れる。保持アーム61は、図2bに示したように、収容ケース62から取付箇所63だけが突出する程度にまで収容ケース62内に降下している様子が見て取れる。乳児は、マットレスのような臥床補助手段50の上に横たわっている。
【0044】
図3dにおいては、図2cに示したように、保持アーム61が完全に収容ケース62内に降下している。臥床補助手段50は取り外されており、乳児Bは温熱療法器10の臥床面40に横たわっている。図3dから見て取れるように、臥床面40も同様に引き出し可能であるように形成することができる。
【0045】
図4a,図4b及び図4dからは、ベッド下部構造30に関する例示的な種々の変形例が見て取れる。図1a,図1b,図3a,図3b,図3c及び図3dに示した実施例に対応する、図4aに示す実施例においては、ベッド下部構造30が2本の支柱31を有している。これらの支柱31は、温熱療法器10の頭部側端部N及び脚部側端部Sに配置されている。図4aに示すベッド下部構造30はテーブル状である。
【0046】
図4b及び図4cに示す代替的な実施例においては、各ベッド下部構造30が支柱31を1本しか有していない。支柱は、図4bに示すように、温熱療法器10の頭部側端部Nに配置されているか、又は図4cに示すように、温熱療法器10の臥床面40の下において中央に配置されている。脚部ビーム32はいずれの場合も車台として形成されており、複数のキャスタ33を有している。更に、脚部ビーム32は図4b及び4cに示す実施例においては、温熱療法器の近くに座ってケアを行う大人の支持部を形成している。
【0047】
構造に関する詳細、空間的な配置構成及び方法ステップも含めた、特許請求の範囲、明細書及び図面から明らかになる全ての特徴及び利点は、それ自体単独でも、また種々の組み合わせにおいても発明の本質を成すものであると考えられる。
【0048】
要約すると、ベッド下部構造30と、保持構造60に取り付けられている柔軟性のある布である臥床補助手段50が設けられているインキュベータコンパートメント20と、を有する、新生児又は早産児のための温熱療法器10において、臥床補助手段50が保持構造60によって広げて張られており、その際に、保持構造60によって、臥床補助手段50をどの程度まで広げて張るかを調整することができると好適であり、また、臥床補助手段50を、保持構造60を用いることによって、インキュベータコンパートメント20から引き出すことができ、及び/又は、回転させて出すことができる。この場合、保持構造60が可動にベッド下部構造30に収容されていると好適である。保持構造60が少なくとも2つの旋回可能な保持アーム61を有していると更に有利であり、好適には、それぞれ2つの保持アーム61が1つの保持アームペアを形成しており、また保持構造60が特に有利には保持アーム61のペアを2つ有している。各保持アーム61には、臥床補助手段50のための少なくとも1つの取付箇所63が形成されており、また保持構造60は、保持アーム61のための少なくとも1つの収容ケース62を有している。有利には、少なくとも1つの収容ケース62が、伸縮式にベッド下部構造30内に案内されている。総じて、ベッド下部構造30はテーブル状であり、保持構造60が駆動機構を有しており、臥床補助手段50が加熱装置を有しており、また、インキュベータコンパートメント20が少なくとも1つの旋回可能な側壁21を有していると好適である。
【符号の説明】
【0049】
B 乳児
E 大人
N 頭部側端部
S 脚部側端部
K 円弧状の軌道
10 温熱療法器
20 インキュベータコンパートメント
21 側壁
22 把手
23 平行四辺形リンク
24 頭部側端部
30 ベッド下部構造
31 支柱
32 脚部ビーム
33 キャスタ
40 臥床面
41 天井部
50 臥床補助手段
60 保持構造
61 保持アーム
611 端部
612 端部
62 収容ケース
63 取付箇所
64 把手
65 ラック
66 歯車
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c