【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴部分に記載の構成を備えているインキュベータによって解決される。別の構成は、従属請求項に記載されている。
【0010】
特に、本発明は、ベッド下部構造と、保持構造に取り付けられている柔軟性のある布である臥床補助手段が設けられているインキュベータコンパートメントと、を有する、新生児又は早産児のための温熱療法器において、臥床補助手段を保持構造によって広げて張ることができ、その際に、保持構造によって、臥床補助手段を広げて張る程度を調整することができ、また、臥床補助手段を、保持構造を用いることによって、インキュベータコンパートメントから引き出すことができる。
【0011】
ここで、ベッド下部構造とは、インキュベータコンパートメントが載置されている温熱療法器の部分である。ベッド下部構造に、温熱療法器の運転に必要とされるメカニズムの全て又は一部を配置することができる。例えば、ベッド下部構造には、加熱装置、空気中の湿度を制御する装置、及び、インキュベータコンパートメント内に生じている周囲温度を制御する装置を配置することができる。また、ベッド下部構造に、インキュベータコンパートメント内の乳児の体重を量る装置又はレントゲン撮影装置が設けられていることも考えられる。インキュベータコンパートメントとは、この関係において、ケアすべき新生児又は早産児がいる空間であると解される。インキュベータコンパートメントは、典型的には、新生児又は早産児を横たわらせることができる臥床面と、少なくとも部分的に透明な側壁と、通常は透明である天井部と、によって画定されている。臥床面は、インキュベータコンパートメントと、ベッド下部構造との間の境界部を形成していると考えられる。臥床面がベッド下部構造の一部であることも考えられる。この場合、インキュベータコンパートメントは、上述の側壁と、上述の天井部と、ベッド下部構造と、によって画定される。オプションとして、インキュベータコンパートメント内に設けられている臥床補助手段に付加的に、インキュベータコンパートメント内の臥床面の上にマットレスを配置することもできる。
【0012】
柔軟性のある布として形成されている臥床補助手段を、要求に応じて、種々の強さで緊張させることができる(広げて張ることができる;種々の強さの張力を有している)。本発明の特別な利点は、保持構造によって、臥床補助手段をどの程度まで広げて張るかを調整できることである。臥床補助手段が極弱く緊張されているか、又は緊張されていない(広げて張られていない)場合、臥床補助手段は、インキュベータコンパートメント内に懸吊されている吊り床のように機能する。これに対して、臥床補助手段が強く緊張されている場合、臥床補助手段はマットレスのように機能する。
【0013】
保持構造が可動に形成されていると特に有利である。この可動性に基づき、一方では、臥床補助手段の張力を調整することができる(調整可能な張力)。換言すれば、保持構造の移動によって臥床補助手段を広げて張ることができるように、保持構造を可動にすることができる。
【0014】
他方では、臥床補助手段の位置をインキュベータコンパートメントに対して相対的に変更できると有利である。このために、保持構造が可動に収容されていると好適である。特に、臥床補助手段がインキュベータコンパートメントに対して相対的に移動できるように、保持構造を動かすことができる。例えば、可動に収容されている保持構造が相応に動かされることによって、臥床補助手段をインキュベータコンパートメントから移動させることができるか、又はインキュベータコンパートメント内へと移動させることができる。インキュベータコンパートメント内での臥床補助手段の高さを保持構造の可動性によって調整できることも考えられる。換言すれば、本発明の利点は、臥床補助手段の張力も、インキュベータコンパートメントに対して相対的な臥床補助手段の位置も、保持構造の移動によって調整できることである。しかしながら、臥床補助手段の張力を調整する移動が、それと同時に臥床補助手段の位置にも影響を及ぼすこと、又はそれとは反対に、臥床補助手段の位置の変更が、それと同時に臥床補助手段の張力を調整する移動に影響を及ぼすことは、いかなる場合にも必要とされる訳ではない。保持構造をインキュベータコンパートメントから引き出す及び/又は回転させて出すことができる(herausschwenkbar)と好適であることが分かった。勿論、臥床補助手段をインキュベータコンパートメント内に進入させる反対方向の移動も可能である。
【0015】
この関係において、保持構造をベッド下部構造に可動に収容することができる。これは、一方では、保持構造の重心が比較的低い位置に置かれるという利点を有しており、このことは、移動時の保持構造の安定性に有利に作用すると考えられる。他方では、例えば保持構造をインキュベータコンパートメントから引き出す人間が温熱療法器の前に座っており、従って、インキュベータコンパートメントとの関係において、比較的低い位置を取る場合であっても、保持構造の取り扱いを簡単に実現できる。更に、このようにして、インキュベータコンパートメント内に向けられる視線を保持構造の一部が遮ること、従って温熱療法器内にいる乳児に向けられる視線を遮ることを回避することができる。
【0016】
いずれの場合にも、保持構造が少なくとも2つの旋回可能な保持アームを有していると好適である。この保持アームの旋回によって、ひいては保持構造の移動によって、臥床補助手段の張力を調整することができる。この場合、有利には、保持構造は4つの旋回可能な保持アームを有している。保持アームが円弧状であることも考えられる。例えば、保持アームは半円又は1/4円状のバーの構造を有することができる。他の形状の円弧も勿論可能である。それらのバーはそれぞれ第1の端部及び第2の端部を有している。この場合、各保持アームの少なくとも一方の端部は、例えば自由端部としての端部は、インキュベータコンパートメント内に突出していると考えられる。保持アームがその形状に応じて円弧状の軌道に沿って移動できるように、保持アームを保持構造に収容することができる。例えば、各保持アームを円弧状の軌道に沿ってスライドさせることができ、その場合には、円弧状の軌道の半径は、保持アームの円弧の半径と一致する。その際有利には、保持アームの端点が、その円弧状の軌道に沿って移動する際に相互に近付く方向又は相互に離れる方向に移動できるように、保持アームは保持構造内で相互に配向されている。
【0017】
それぞれ2つの保持アームが1つの保持アームペアを形成すると好適であることが分かった。保持アームが相互にすれ違いながら摺動できるように、保持アームペアの各保持アームが可動に収容されていることも考えられる。各保持アームは、外側の端点及び内側の端点を有することができる。内側の端点は、各他方の保持アームと対向している端点である。外側の端点は、インキュベータコンパートメント内に突出する自由端点である。保持アームペアの各保持アームの旋回によって、保持アームペアの外側の端点間の距離を拡大又は縮小することができる。この場合においても、有利には、端点の移動は、保持アームの形状によって設定される円弧に応じている。
【0018】
有利には、その種の保持構造においては、各保持アームに臥床補助手段のための少なくとも1つの取付箇所が形成されている。特に有利には、取付箇所がそれぞれ保持アームの一方の端点に、極めて有利には保持アームの外側の端点に形成されている。取付箇所がフックによって形成され、それらのフックに臥床補助手段を懸吊させることも考えられる。フックは例えばロック可能な安全フックであって良い。代替的には、クリップ止め、ねじ止め等の別の固定機構も勿論考えられる。臥床補助手段を取付箇所に取り付け可能であることが重要である。有利には、臥床補助手段はリバーシブルに取付箇所に取り付け可能である。後者の場合には、臥床補助手段の交換及び温熱療法器のクリーニングが容易になる。例えば、上述したように布状の臥床補助手段が矩形の形状を有していることが考えられ、その場合には、布の各角が保持装置の取付箇所に取り付けられている。
【0019】
保持アームの旋回によって、インキュベータコンパートメント内の取付箇所の位置が変化する。臥床補助手段の取付箇所の高さを相互に独立して調整可能であると好適である。臥床補助手段は、有利には、脚部側端部及び頭部側端部を有している。同じことが温熱療法器及びインキュベータコンパートメントにも当てはまる。この場合、例えば、布の脚部側端部が取り付けられている取付箇所は、布の頭部側端部が取り付けられている取付箇所とは異なる高さに位置することができる。このようにして、臥床補助手段の斜めの位置を達成することができる。斜めの位置とは、臥床補助手段に横たわる乳児がマットレスとは平行ではない位置である。臥床補助手段の取付箇所の高さを対で調整できると特に好適であることが分かった。本発明によれば、上述の円弧状の軌道に沿った保持アームの旋回によって、高さの調整が行われる。
【0020】
更に、保持構造が保持アームのペアを2つ有していると好適である。一方のペアをインキュベータコンパートメントの頭部側端部の領域に配置することができ、他方のペアをインキュベータコンパートメントの脚部側端部の領域に配置することができる。相応に、頭部側端部の領域に配置されているペアには、臥床補助手段の頭部側端部を取り付けることができ、他方、脚部側端部の領域に配置されているペアには、臥床補助手段の脚部側端部を取り付けることができる。保持アームの第1のペアは、臥床補助手段の頭部側端部を広げて張り、他方では、保持アームの第2のペアは、臥床補助手段の脚部側端部を広げて張る。
【0021】
保持構造が、保持アームのための少なくとも1つの収容ケースを有している場合にも好適である。例えば、保持アームが収容ケース内に降下可能であることも考えられる。つまり、例えば、保持アームが収容ケース内に可動に収容されていることが考えられ、その場合には、保持アームの外側の端部を収容ケースから張り出させることができる。収容ケースには、ガイドローラを設けることができ、それらのガイドローラは旋回中の保持アームを適切な位置に保持する。
【0022】
保持アームが完全に収容ケース内に降下している場合、有利には、臥床補助手段は、インキュベータコンパートメント内の臥床面上に、例えばマットレスの上に平坦に広げられる。このようにして、臥床補助手段に横たわる乳児を優しく臥床面に降ろすことができる。代替的に、保持アームが完全に降下する前であっても、臥床補助手段を取り外すことができる。このことは、例えば、乳児がマットレスの上に直接横たわることが望まれる場合には好適である。
【0023】
保持構造が2つの収容ケースを有していることも考えられる。特に、保持構造が保持アームのペアを2つ有している場合には、それらのペアを1つずつ収容ケースに収容することができる。つまり、例えば、第1の収容ケースが温熱療法器の頭部側端部に配置されており、第2の収容ケースが温熱療法器の脚部側端部に配置されていることが考えられる。この場合、温熱療法器の頭部側端部は、インキュベータコンパートメントの頭部側端部に対応しており、また、温熱療法器の脚部側端部は、インキュベータコンパートメントの脚部側端部に対応している。
【0024】
1つ又は複数の収容ケースを温熱療法器から引き出せると特に好適である。このようにして、保持構造全体を温熱療法器から引き出すことができる。この場合には、保持構造によって、温熱療法器から、特にインキュベータコンパートメントから臥床補助手段も引き出すことができる。保持構造を側方において引き出せると有利である。つまり、ベッド下部構造がテーブル状に形成されていることも考えられ、その場合、臥床面は、インキュベータコンパートメントによって覆われている「テーブル上面」に相当する。保持構造は、例えば、保持アームの2つのペアから形成されており、各ペアは収容ケースに収容されている。保持アームは各収容ケースにおいて旋回可能である。各保持アームの外側の端部には、布状の臥床補助手段のための取付箇所が形成されている。各取付箇所には、有利には矩形の臥床補助手段の角が取り付けられている。2つの収容ケースのうちの一方は、インキュベータコンパートメントの脚部側端部の領域に配置されている。他方の収容ケースは、インキュベータコンパートメントの頭部側端部の領域に配置されている。ベッド下部構造の上側の面がインキュベータコンパートメントの下側の面と位置合わせされて終端しているように、例えばマットレスを敷くことができる臥床面と位置合わせされて終端されているように、収容ケースがベッド下部構造に配置されていると特に好適である。1つ又は全ての収容ケースが把手を有しており、その把手を用いることによって収容ケースを、ひいては保持構造をインキュベータコンパートメント又は温熱療法器から引き出せることも考えられる。
【0025】
収容ケースが伸縮式にベッド下部構造に案内されていると有利である。保持構造を迅速且つ簡単に、温熱療法器から引き出すことができるか、又は温熱療法器内へと押し込むことができる。保持構造が同期機構を有しており、これによって、複数の収容ケースが同期することでのみ移動できると特に有利である。このようにして、保持構造の移動時の臥床補助手段の意図しない引っ張り又は歪みを効果的に防止することができる。
【0026】
ベッド下部構造がテーブル状であると好適であることが分かった。これによってインキュベータの前に座ることが容易になる。ベッド下部構造が、高さ調整可能な2本の支柱を有していることも考えられる。代替的に、ベッド下部構造が離心した曲げ耐性のある支柱を有しているか、又は、ベッド下部構造が中央のリフティングコラムを有していることも考えられる。
【0027】
保持構造が駆動機構を有している場合にも好適である。この場合には、保持アームペアの各保持アームを駆動機構によって相互に同期させて移動させることも考えられる。例えば、保持アームが円弧状のラックを有することができる。保持アーム自体を簡単に円弧状のラックとして形成することも考えられる。この場合、駆動機構は歯車を有することができ、歯車は機械的又は電気的な駆動部の運動を保持アームに伝達することができる。この場合には、例えば、歯車が保持アームのラック間に配置されていることも考えられ、その歯車によって、保持アームを同期させて移動させることができる。歯車をモータ駆動によって、及び/又は、手動で制御することができる。手動の制御のために、例えば、複数の歯車を駆動させることが可能な1つ又は複数の手動クランクを設けることができる。
【0028】
臥床補助手段が加熱装置を有している場合にも特に有利である。例えば、布状の臥床補助手段に面状ヒータを組み込むことも考えられる。このようにして、臥床補助手段に横たわる乳児を、インキュベータコンパートメント内だけでなく、インキュベータコンパートメント外に引き出された保持構造においても暖かく維持することができる。加熱装置を電気毛布として形成することも考えられる。例えば、臥床補助手段を電気毛布によって形成することができるし、又は、臥床補助手段は電気毛布が組み込まれている吊り床であっても良い。特に、電気抵抗加熱器又は流体加熱器も考えられる。
【0029】
保持構造、ひいては乳児を横たわらせることができる臥床補助手段を温熱療法器から引き出せるようにするために、インキュベータコンパートメントが少なくとも1つの旋回可能な側壁を有していると有利である。例えば、側壁が平行四辺形リンクを用いて旋回可能であることも考えられる。平行四辺形リンクがインキュベータコンパートメントとは異なる、インキュベータケーシングの領域に配置されていると特に好適である。例えば、側壁を一方の側において、平行四辺形リンクに懸吊させることができる。このようにして側壁を簡単且つ容易に上方へと、又は下方へと旋回させることができる。
【0030】
総じて、本発明による解決手段の特別な利点は、臥床補助手段が吊り床の形状を有しており、吊り床が温熱療法器に組み込まれており、吊り床は密接して乳児を包囲することができ、また、保持構造を用いて、乳児と共に側方において、温熱療法器から、特に温熱療法器のインキュベータコンパートメントから引き出すことができる。温熱療法器の傍に座るか立っている両親又はケアスタッフは、このようにして、乳児と密に触れあうことができ、その一方で、乳児はその横たわっている位置を変えないままで良く、従って受けるストレスは可能な限り少ない。温熱療法器の傍に座れるようにすることは、付加的に、ベッド下部構造を非常に平坦でテーブル状に実施することによって支援される。付加的に、保持構造の特別な構成は、特定の医療目的のために望まれる場合もある、乳児を傾けて横たわらせることを実現する。特に、このことは、保持アームの端部に形成されている取付箇所によって実現され、それらの取付箇所は相互に独立して、有利には対で高さを調整することができる。この高さ調整によって、臥床補助手段は種々に密接して乳児を包囲することができ、又は、臥床補助手段を乳児の身体の大きさに適合させることができる。保持アームを保持構造の収容ケース内に完全に降下させることによって、乳児を臥床補助手段の下に配置されている臥床面に、例えばマットレスに優しく降ろすことができる。
【0031】
乳児を温熱療法器外でも暖かく維持するために、吊り床には面状ヒータを組み込むことができる。更に有利には、臥床補助手段を簡単に取付箇所から取り外すことができ、また、保持アームを完全に収容ケース内に降下させることができる。このようにして、温熱療法器を所定の事例では、慣例のやり方でも、即ち平坦な臥床面とその下にあるマットレスを用いても利用することができる。臥床補助手段を定期的に交換してクリーニングできるようにするために、臥床補助手段を簡単に取り外せることも好適である。
【0032】
更なる特徴、細部及び詳細は、以下において説明する複数の図面及び実施例から明らかになる。それらの実施例は単に例示的なものに過ぎず、当業者であれば、本明細書の記載に基づき、問題なく別のヴァリエーション及び実施例に想到できることは自明である。