(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、赤外線や電波を含む電磁波を利用した無線通信(例えば近距離無線通信)で端末装置に案内情報を送信する構成では、電波や赤外線を受信するための受信機器を端末装置が具備する必要がある。本発明は、赤外線や電波を含む電磁波を利用した無線通信に専用される受信機器の利用を必要とせずに端末装置に情報を送信することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る再生システムは、対象音を表す対象信号を取得する制御部と、前記対象信号が表す前記対象音と、当該対象音を表す関連情報の識別情報を含む音響成分とを含む音を放音することで、当該識別情報を、通知された識別情報に対応する関連情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する放音装置とを具備する。
また、本発明の好適な態様に係る端末装置は、対象音と、当該対象音を表す関連情報の識別情報を含む音響成分とを含む音を収音する収音装置と、前記収音装置が収音した音から前記識別情報を抽出する特定部と、前記特定部が抽出した識別情報に対応する関連情報を取得する取得部とを具備する。
【0006】
ところで、音波を伝送媒体として端末装置に情報を配信する技術が提供されている(以下「音響通信」という)。音響通信では、音響信号のうち高域側(例えば非可聴域内の約18kHz以上かつ20kHz以下)の周波数帯域に配信情報を含有する音響信号を表す音響を放音することで、端末装置に情報が配信(収音)される。音響通信を特許文献1および特許文献2に例示される路線バスの音声案内システムに適用することを想定する。通常、路線バスの車内にはエンジン音や振動音等の車外音が到来するから、案内音声が明瞭に利用者に知覚されるように、音響信号の低域側(例えば可聴域内の約16kHz以下)の成分が濾過(フィルタ)され、高域側の成分はカットされる場合がある。このため、特許文献1および特許文献2に音響通信を適用した場合、高域側の周波数帯域に包含された配信情報を出力(放音)することができない、という問題がある。なお、以上の説明では、公共交通機関の路線バスを例示したが、他の公共交通機関や公共施設等、利用者に様々な情報を提供する任意の状況において同様の問題が発生し得る。以上の事情を考慮して、本発明の好適な態様は、特定の周波数帯域が抑圧される環境でも適切に音響通信を実現することを目的とする。
【0007】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る音響処理装置は、対象音を表す対象信号と当該対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する第1周波数帯域の第1音響信号から識別情報を抽出する情報抽出手段と、前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む信号であって前記第1周波数帯域とは相違する第2周波数帯域の第2音響信号を生成する信号処理手段とを具備する。以上の構成では、対象音(例えば利用者に提供される案内音声)を表す対象信号と、案内音声の識別情報が包含される変調信号とが第1周波数帯域の第1音響信号に含有され、第1音響信号から抽出された識別情報が第2周波数帯域の第2音響信号に包含される。以上の構成によれば、第1音響信号において第2周波数帯域が抑圧された環境でも第2周波数帯域を利用した音響通信により適切に識別情報を送信することが可能である。なお、「対象音」の例示としては、公共施設や公共交通機関の利用者に提供される案内情報(例えば、開館時間や閉館時間等の施設情報、乗降案内、運賃案内等)の音声が挙げられる。
【0008】
本発明の好適な態様において、対象音を表す対象信号と当該対象音の識別情報が重畳された変調信号とを含有する再生信号の再生音を収音して前記第1音響信号を生成する収音手段と、前記信号処理手段が生成した第2音響信号に応じた音響を放音する放音手段とを具備する。以上の態様では、音響処理装置が、再生信号の再生音を収音する収音手段と、信号処理手段が生成した第2音響信号に応じた音響を放音する放音手段とを具備する。したがって、第2周波数帯域を抑圧した再生信号に応じた音響を放音する既存のシステムを改変することなく、音響通信により適切に識別情報を送信できるという利点がある。
【0009】
本発明の好適な態様において、前記放音手段によって前記第2音響信号に応じた音響が放音される時間長は、前記再生信号のうち前記変調信号が放音される時間長よりも長い。したがって、第2音響信号が包含する識別情報を受信側にて受信できる機会が充分に確保されるという利点がある。なお、第1周波数帯域は例えば可聴域に設定され、第2周波数帯域は第1周波数帯域を上回る帯域(例えば利用者が殆ど知覚できない帯域)に設定される。ここで、識別情報を含む変調信号が過度に長時間に亘り放音されると、利用者が違和感や不快感を知覚する可能性がある。以上の構成では、第2周波数帯域の第2音響信号に応じた音響が放音される時間長は、第1周波数帯域の再生信号のうち変調信号が放音される時間長よりも長く設定される。すなわち、利用者が殆ど知覚できない第2周波数帯域の音響を利用した音響通信で識別情報が送信される。したがって、利用者に違和感や不快感を知覚させることなく、識別情報を各端末装置に通知することが可能である。
【0010】
本発明の好適な態様に係る音響処理装置は、対象音を表す対象信号と当該対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する第1音響信号から識別情報を抽出する情報抽出手段と、前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む送信信号を生成する信号処理手段と、前記信号処理手段が生成した前記送信信号を示す電磁波を送信する送信手段とを具備する。以上の態様によれば、例えば、多様な伝送媒体を利用した情報の配信が可能であることから、特定の周波数帯域が抑圧される環境であっても適切に識別情報を送信することが可能である。
【0011】
以上の各態様に係る音響処理装置は、専用の電子回路で実現されるほか、CPU(Central Processing Unit)等の汎用の演算処理装置とプログラムとの協働によっても実現される。本発明のプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体(光ディスク)が好例であるが、半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体を包含し得る。なお、例えば、本発明のプログラムは、通信網を介した配信の形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。また、以上の各態様に係る音響処理装置の動作方法(音響処理方法)としても本発明は特定される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
第1実施形態の音声案内システム1の概要について説明する。以下の説明では、第1実施形態の音声案内システム1を公共交通機関の車内放送に利用した構成を例示する。音声案内システム1では、路線バスの利用者に対して案内情報(乗降案内,運賃情報,観光案内,周辺情報等)を表す案内音声(対象音)が提供される。
【0014】
図1は、第1実施形態の音声案内システム1の構成図である。音声案内システム1は、再生システム100と音響処理装置200と端末装置300とを含んで構成される。再生システム100および音響処理装置200は、路線バスの車輌C内に設置される。
【0015】
再生システム100は、相異なる複数の案内音声の各々に対応する識別情報を含む周波数帯域B1の音響を当該案内音声とともに車輌C内に放音する。車輌Cに乗車する利用者は音声案内を聴取する。他方、音響処理装置200は、再生システム100が放音する音響から識別情報を抽出し、当該識別情報を含む周波数帯域B2の音響を放音する。周波数帯域B1と周波数帯域B2とは相違する。すなわち、音響処理装置200は、識別情報を含む音響の周波数帯域を変換する信号処理装置である。
【0016】
端末装置300は、車輌Cに乗車する利用者が携行する可搬型の通信端末(例えば携帯電話機やスマートフォン)であり、音響処理装置200が放音する音響から案内音声の識別情報を抽出し、当該識別情報に対応する案内情報を案内情報サーバー500から通信網(例えば移動通信網やインターネット)400を介して受信する。案内情報は、案内音声による案内に関連する情報であり、例えば、利用案内(施設案内,運賃案内等),交通案内(乗降案内,乗換案内等),案内対象の地点の付近の観光案内(観光施設,宿泊施設,名所旧跡等の周辺案内等)の文字列や画像(静止画または動画),案内音声を表す文字列(例えば難聴者が視覚的に案内を確認するための文字列),案内音声による案内を他言語に翻訳した音声や文字列が、案内情報として端末装置300に提供されて再生(放音または表示)される。音声案内システム1の各要素の詳細を以下に説明する。
【0017】
<再生システム100>
図1に例示される通り、再生システム100は、操作部110と再生処理装置120と放音装置130とを含んで構成される。操作部110は、路線バスの運転手OPからの指示を受付ける入力装置である。車輌Cが任意の停留所に接近するたびに、運転手OPは、操作部110を適宜に操作することで、当該停留所に関する案内音声の再生を指示することが可能である。再生処理装置120は、相異なる複数の案内音声のうち運転手OPが操作部110に対する操作で指示した案内音声と、当該案内音声の識別情報を含む音響との混合音を表す音響信号(以下「再生信号」という)A2を生成する。放音装置130(例えばスピーカ)は、再生処理装置120が生成した再生信号A2に応じた音響を放音する。なお、
図1では1個の放音装置130のみが図示されているが、実際には車輌C内に複数の放音装置130が設置されて再生処理装置120から各々に再生信号A2が並列に供給される。
【0018】
図2は、再生システム100の構成を示すブロック図である。第1実施形態の再生処理装置120は、
図2に例示される通り、制御部102と信号合成部104と記憶部106とフィルタ108とを含んで構成される。記憶部106は、例えば半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体で構成され、車輌Cが停車する地点(停留所)毎に、当該地点に関連する案内音声を表す音響信号(以下「対象信号」という)AG(AG1,AG2,……)と当該地点に関連する案内情報の識別情報D(D1,D2,……)とを記憶する。なお、対象信号AGと識別情報Dとは、再生処理装置120の記憶部106に記憶される構成に限られるものではない。例えば再生処理装置120が外部装置(サーバ装置)と通信を実行することにより外部装置から対象信号AGと識別情報Dとを受信する構成としてもよい。
停留所には、路線バスの走行区間の経路上に存在する停留所の他、乗降地点となる場所(例えば、公共交通機関の駅、空港、任意の公道上の地点)が含まれ得る。識別情報Dは、案内情報を識別するための固有の符号であり、車輌Cが停車する地点(停留所)毎に設定される。例えば、相異なる案内情報の間で相互に重複しないように公知の方法で生成された乱数の系列が識別情報Dとして案内情報毎に設定される。
【0019】
図2の制御部102は、車輌Cの停留所への接近にともない操作部110が運転手OPから受付けた再生指示に応じて、当該停留所に対応する案内音声の対象信号AGと識別情報Dとを記憶部106から読み出して信号合成部104に供給する。信号合成部104は、識別情報Dを対象信号AGに重畳することで再生信号A1を生成する。対象信号AGに対する識別情報Dの重畳(音響透かし)には公知の方法が任意に採用され得るが、例えば国際公開第2010/016589号に開示された方法が好適である。
【0020】
図3は、信号合成部104の構成を示すブロック図である。
図3に例示される通り、信号合成部104は変調処理部1042と混合処理部1044とを包含する。変調処理部1042は、拡散符号を利用した識別情報Dの拡散変調と所定の周波数の搬送波を利用した周波数変換とを順次に実行することで、識別情報Dを特定の周波数帯域の音響成分として含有する音響信号(以下「変調信号」という)ADを生成する。変調信号ADの周波数帯域は、放音装置130による放音と、音響処理装置200による収音とが可能な周波数帯域であり、かつ、利用者が通常の環境で聴取する音響(音声や楽音)の周波数帯域(例えば可聴域内の約16kHz以下)の範囲内に包含される。混合処理部1044は、制御部102から供給された対象信号AGと、変調処理部1042によって生成された変調信号ADとを混合(典型的には加算)することで再生信号A1を生成する。
【0021】
図2のフィルタ108は、再生信号A1のうち高域側の周波数成分を抑圧することで再生信号A2を生成する低域通過フィルタ(LPF)である。
図4は、第1実施形態のフィルタ108の特性図である。エンジン音や振動音等の雑音が到来する車輌Cの内部でも利用者に案内音声が明瞭に知覚されるように、フィルタ108は、
図4に例示される通り、再生信号A1のうち高域側(例えば18kHz以上かつ20kHz以下)の周波数帯域の成分を抑圧し、案内音声に対応した低域側の周波数帯域B1(例えば可聴域内の約16kHz以下)の成分を維持する。周波数帯域B1は、放音装置130による放音と音響処理装置200による収音とが可能な周波数帯域であり、かつ、利用者が通常の環境で聴取する音響(音声や楽音)の周波数帯域(例えば可聴域内の約16kHz以下)の範囲内に包含される。識別情報Dを含む変調信号ADの周波数帯域bは、フィルタ108の通過帯域(周波数帯域B1)に包含される。以上の説明から理解される通り、対象信号AGおよび変調信号ADの周波数帯域B1はフィルタ108を通過する帯域に設定される。
【0022】
図5(a)は、再生信号A2の音響が放音される時間長と、再生信号A2が包含する変調信号ADが表す音響(以下「通知音」という)および対象信号AGの音響(案内音声)の時間長との説明図である。再生信号A2の音響は時間長T1に亘って放音される。
図5(a)に例示される通り、識別情報Dを含む変調信号ADの通知音は、再生信号A2の開始から時間長TDに亘り、再生信号A2の音響が放音される時間長T1に包含される。対象信号AGが表す案内音声は、変調信号ADの音響が放音された直後から時間長TGに亘って放音される。変調信号ADが表す通知音は、車輌C内の各利用者の注意を喚起する聴覚的に自然な音響(例えば「ピンポーン」等の案内用の音響)である。通知音の時間長TDは、案内音声の時間長TGと比較して充分に短い時間(例えば1秒から2秒程度)に設定される。
【0023】
図6は、本実施形態の再生処理装置120の概略的な動作のフローチャートである。例えば、車輌Cの停留所への接近にともない、運転手OPから操作部110を介して案内音声の再生指示が受付けられると(SA1)、制御部102は、当該再生指示に応じた地点に対応する案内音声の対象信号AGおよび識別情報Dを記憶部106から読み出して信号合成部104に供給する(SA2)。信号合成部104は、制御部102から供給される案内音声の対象信号AGと、制御部102から供給される識別情報Dとを含む変調信号ADとの混合で再生信号A1を生成する(SA3)。フィルタ108は、信号合成部104が生成した再生信号A1のうち周波数帯域B1を抽出することで再生信号A2を生成する(SA4)。放音装置130は、フィルタ108による処理後の再生信号A2に応じた音響を放音する(SA5)。
【0024】
<音響処理装置200>
図7は、音響処理装置200の構成を示すブロック図である。第1実施形態の音響処理装置200は、再生システム100の放音装置130の近傍(例えばスピーカーネットの表面)に設置された音響機器であり、
図7に例示される通り、収音装置202と情報抽出部206と記憶部208と信号処理部210と放音装置214とを含んで構成される。収音装置202は、再生システム100の放音装置130から放音される再生信号A2の再生音を収音して第1音響信号S1を生成する。以上の説明から理解される通り、第1音響信号S1は、識別情報Dを含む変調信号ADの音響成分(通知音)と案内音声の音響成分とを周波数帯域B1に含有する。第1実施形態では、音響処理装置200が放音装置130の近傍に配置されるから、第1音響信号S1は雑音の影響を受けにくい。
【0025】
図7の情報抽出部206および信号処理部210は、例えば記憶部208に記憶されたプログラムを演算処理装置(CPU)が実行することで実現される。情報抽出部206は、収音装置202が生成した第1音響信号S1の復調で識別情報Dを抽出する。具体的には、情報抽出部206は、第1音響信号S1のうち識別情報Dを含む周波数帯域bの帯域成分を例えば帯域通過フィルタで選択し、識別情報Dの拡散変調に利用された拡散符号を係数とする整合フィルタを通過させることで識別情報Dを抽出する。第1実施形態では、音響処理装置200が、放音装置130の近傍に配置されるから、通知音の時間長TDが案内音声の時間長TGと比較して充分に短い時間に設定されても識別情報Dを精度良く抽出することが可能である。情報抽出部206により抽出された識別情報Dは記憶部208(メモリ)に格納される。以上の説明から理解される通り、空気振動としての音響(音波)を伝送媒体とする音響通信で再生システム100から音響処理装置200に識別情報Dが通知される。
【0026】
信号処理部210は、情報抽出部206が抽出した識別情報Dを記憶部208から読み出して、拡散符号を利用した識別情報Dの拡散変調と所定の周波数の搬送波を利用した周波数変換とを順次に実行することで、識別情報Dを高域側の周波数帯域B2の音響成分として含有する第2音響信号(変調信号)S2を生成する。放音装置214は、信号処理部210が生成した第2音響信号S2に応じた音響を放音する。なお、
図7では、再生信号A2をアナログからデジタルに変換するA/D変換器や、第2音響信号S2をデジタルからアナログに変換するD/A変換器の図示は便宜的に省略されている。
【0027】
図4に例示される通り、第2音響信号S2の周波数帯域B2は、第1音響信号S1の周波数帯域B1とは相違する。すなわち、第2音響信号S2の周波数帯域B2は、第1音響信号S1の周波数帯域B1を上回る。具体的には、周波数帯域B2は、放音装置214による放音と端末装置300による収音とが可能な周波数帯域であり、且つ、利用者が通常の環境で聴取する音声や楽音等の音響の周波数帯域(例えば可聴域内の約16kHz以下)を上回る周波数帯域(例えば18kHz以上かつ20kHz以下)の範囲内に包含される。したがって、識別情報Dを含む第2音響信号S2の再生音は端末装置300の利用者に殆ど知覚されない。すなわち、利用者により案内音声の聴取に影響することなく音響通信により識別情報Dを端末装置300に送信することが可能である。以上の説明から理解される通り、第1実施形態では、再生信号A2の周波数帯域B1とは相違する周波数帯域B2の音響成分として識別情報Dを含有する第2音響信号S2が生成されるから、再生システム100(フィルタ108)において案内音声の周波数帯域B1を強調するために周波数帯域B2を抑圧する構成でも、周波数帯域B2を利用した音響通信により識別情報Dを各端末装置300に通知することが可能である。
【0028】
図5(b)は、第2音響信号S2の説明図である。
図5(b)に例示される通り、第1実施形態の信号処理部210は、時間軸上の相異なる区間に反復的に識別情報Dが付加された第2音響信号S2を生成する。第2音響信号S2が表す音響は、放音装置130が放音した音響から情報抽出部206が識別情報Dを抽出してから時間長T2に亘り継続的に放音される。すなわち、識別情報Dは時間長T2に亘り反復的に音響通信で各端末装置300に通知される。
【0029】
図5(a)と
図5(b)との対比で把握される通り、音響処理装置200の放音装置214が第2音響信号S2に応じた音響を放音する時間長T2は、再生システム100の放音装置130が変調信号ADの通知音を放音する時間長TDよりも長い。識別情報Dを含む可聴域の通知音が過度に長時間に亘り放音されると、利用者が違和感や不快感を知覚する可能性がある。第1実施形態では、周波数帯域B1の通知音の放音は時間長TDに制限されるから、通知音が過度に長いことに起因した違和感や不快感を利用者が知覚する可能性は低減される。他方、音響処理装置200の信号処理部210は、利用者が殆ど知覚できない周波数帯域B2の音響を利用した音響通信で識別情報Dを送信するから、利用者に違和感や不快感を知覚させることなく、識別情報Dを各端末装置300に通知することが可能である。また、識別情報Dは時間長TDを上回る時間長T2に亘り反復的に音響処理装置200から送信(放音)されるから、例えば雑音成分の混在により第2音響信号S2の一部の識別情報Dが抽出できない場合でも他の区間の識別情報Dを端末装置300が再取得できるという利点がある。
【0030】
他方、対象信号AGの音響(案内音声)が放音される時間長TGとの関係では、第2音響信号S2の時間長T2は任意に設定され得る。第2音響信号S2の時間長T2が対象信号AGの時間長TGよりも長い構成(T2>TG)や、第2音響信号S2の時間長T2が対象信号AGの時間長TGよりも短い構成(T2<TG)や、第2音響信号S2の時間長T2が対象信号AGの時間長TGと等しい構成(T2=TG)のいずれもが好適に採用され得る。第2音響信号S2の音響は利用者による案内音声の聴取には影響しないから、
図5に例示される通り、第2音響信号S2の音響が放音される時間長T2と、対象信号AGの音響(案内音声)が放音される時間長TGとは相互に重複する構成としても良い。
【0031】
図8は、音響処理装置200の概略的な動作のフローチャートである。例えば、識別情報Dを包含する変調信号ADと対象信号AGとを含有する再生信号A2の再生音が放音装置130から放音されると、
図8の処理が開始される。収音装置202は、放音装置130から放音された再生音を収音して第1音響信号S1を生成する(SB1)。情報抽出部206は、第1音響信号S1から識別情報Dを抽出する(SB2)。信号処理部210は、識別情報Dを含む第2音響信号S2を生成する(SB3)。放音装置214は、第2音響信号S2に応じた音響(音波)を放音する(SB4)。
【0032】
<端末装置300>
図9は、端末装置300の構成を示すブロック図である。
図9に例示される通り、端末装置300は、収音装置302と特定部304と取得部306と提示部308とを具備する。収音装置302は、周囲の音響を収音する音響機器(マイクロホン)であり、音響処理装置200の放音装置214から放音された音響を収音し、当該音響の時間波形を表す音響信号(以下「収音信号」という)Xを生成する。収音信号Xは、識別情報Dの音響成分を含有する。なお、収音装置302が生成した収音信号Xをアナログからデジタルに変換するA/D変換器の図示は便宜的に省略されている。
【0033】
特定部304は、収音装置302が生成した収音信号Xの復調で案内情報の識別情報Dを抽出する。具体的には、特定部304は、収音信号Xのうち識別情報Dを含む周波数帯域B2の帯域成分を例えば高域通過フィルタで強調し、識別情報Dの拡散変調に利用された拡散符号を係数とする整合フィルタを通過させることで識別情報Dを抽出する。
【0034】
取得部306は、通信網400(
図1参照)を介して案内情報サーバー500と通信する通信機器である。端末装置300と案内情報サーバー500との間の通信の方式は任意であるが、典型的には、音響処理装置200から端末装置300に識別情報Dを通知するための音響通信とは相違する無線通信(例えば電波や赤外線を伝送媒体とする情報通信)が採用される。取得部306は、特定部304が収音信号Xから抽出した識別情報Dを含む情報要求Rを案内情報サーバー500に送信する一方、情報要求Rに応じて案内情報サーバー500から送信された案内情報Gを受信する。
【0035】
案内情報サーバー500は、
図10の案内情報テーブルTB1を保持する。案内情報テーブルTB1は、識別情報D(D1,D2,……)と案内情報G(G1,G2,……)とを対応付ける。案内情報サーバー500は、識別情報Dを含む情報要求Rを端末装置300から受信すると、案内情報テーブルTB1のうち情報要求R内の識別情報Dに対応付けられた案内情報Gを読み出すとともに情報要求Rの送信元の端末装置300に当該案内情報Gを送信する。
図9の提示部308は、取得部306によって取得された案内情報Gを例えば表示装置に表示させて利用者に提示する。
【0036】
図11は、提示部308による案内情報Gの表示例の説明図である。
図11では、案内音声の発音内容の文字列として端末装置300の提示部308に提示された案内情報Gが例示される。
図11に例示される通り、利用者は提示部308に提示された案内情報G(図の例では乗降情報)を視覚的に確認することが可能である。以上の説明から理解される通り、利用者は、再生システム100の放音装置130から放音された案内音声を聴取する一方で、提示部308に提示された案内情報Gを視覚的に確認することが可能になる。以上の構成によれば、案内情報Gを視覚的および聴覚的に利用者に判りやすく提供することが可能になる。また、難聴者(聴覚障碍者)が案内音声の内容を確認できるという利点もある。
【0037】
第1実施形態では、音響処理装置200は収音装置202と放音装置214とを具備し、再生システム100の放音装置130から放音された再生信号A2を収音装置202で収音する一方、収音信号X(第1音響信号S1)に応じて生成した第2音響信号S2を放音装置214により放音する。以上の構成によれば、再生システム100に、再生信号A2のうち識別情報Dを含む音響成分を周波数帯域B1から周波数帯域B2に変換する仕組み(信号処理部210)を追加する変更を加えず、再生処理装置120の近傍に音響処理装置200を設置することで、周波数帯域B2を利用した音響通信により識別情報Dを端末装置300に通知できるという利点がある。
【0038】
なお、前述の説明では、再生システム100のフィルタ108が高域側の周波数帯域B2を抑圧する場合を例示したが、放音装置130から放音される音響において周波数帯域B2が抑圧される原因はフィルタ108の処理に限定されない。例えば、フィルタ108が存在しない構成でも、例えば周波数帯域B2を含む高音域の音響を放音し難い音響特性の放音装置130を利用した場合には、放音装置130から放音される音響において周波数帯域B2が抑圧される可能性がある。周波数帯域B2を放音可能な放音装置を利用することも可能ではあるが、路線バス等の車輌Cに設置された全ての既存の機器を改修することは現実的には困難である。また、対象信号AGのサンプリング周波数が低いため周波数帯域B2を再生対象に含まない場合にも周波数帯域B2が抑圧され得る。周波数帯域B2が抑圧される原因の如何に関わらず、第1実施形態の音響処理装置を適用することで、周波数帯域B2を利用した音響通信で識別情報Dを送信できるという前述の効果は実現される。
【0039】
第2音響信号S2に応じた音響は、変調信号ADの音響が放音される時間長TDを上回る時間長T2に亘って放音される。識別情報Dを含む通知音が例えば案内音声と比較して過度に長い場合には、利用者が聴感的に違和感や不快感を知覚する可能性がある。第1実施形態では、識別情報Dを含む通知音が放音される時間長TDは、第2音響信号S2の時間長T2よりも短くなるように構成されるから、聴感的な不自然さや不快感が利用者に付与される事態を低減することが可能である。
【0040】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0041】
図12は、第2実施形態の再生システム100の構成を示すブロック図である。第1実施形態では、再生システム100の放音装置130の近傍に音響処理装置200を設置した場合を例示した。
図12に例示される通り、第2実施形態では、再生システム100のうち再生処理装置120と放音装置130との間の信号線上に音響処理装置200が設置される。
【0042】
図12から把握される通り、第2実施形態の音響処理装置200は、第1実施形態の収音装置202と放音装置214とを省略した構成である。第2実施形態では、再生処理装置120のフィルタ108により周波数帯域B2が抑圧された再生信号A2が音響処理装置200の情報抽出部206に供給される。音響処理装置200の情報抽出部206は、第1実施形態と同様の方法により再生信号A2(第1音響信号)から識別情報Dを抽出する。他方、信号処理部210は、第1実施形態と同様の方法で、情報抽出部206が抽出した識別情報Dを高域側の周波数帯域B2の音響成分として含有する第2音響信号S2を生成する。信号処理部210によって生成された周波数帯域B2の第2音響信号S2は放音装置130から放音される。端末装置300は、放音装置130による再生音から識別情報Dを抽出して案内情報Gを取得する。以上の構成では、音響処理装置200に収音装置202や放音装置214を設ける必要がないから、第1実施形態と比較して装置構成を簡略化できるという利点がある。なお、第1実施形態では、再生処理装置120から放音された通知音を音響処理装置200にて確実に収音できる程度に変調信号ADの音量を確保する必要がある。第2実施形態では、再生処理装置120と音響処理装置200とが有線で接続されるから、第1実施形態と比較して変調信号ADの音量を極力小さくすることが可能である。なお、第1実施形態では、変調信号ADが表す通知音が実際に放音されるから、通知音は聴覚的に自然な音響である必要があるが、第2実施形態では以上のように変調信号ADに必要な音量が低減されるから、聴感的に自然な音響である必要はないという利点もある。
【0043】
<第3実施形態>
第1実施形態の音響処理装置200は、音響を伝送媒体とした音響通信により識別情報Dを端末装置300に送信したが、識別情報Dを端末装置300に通知する通信の方式は音響通信に限定されない。第3実施形態の音響処理装置200は、赤外線や電波を含む電磁波を利用した無線通信(例えば近距離無線通信)で端末装置300に識別情報Dを通知する。
【0044】
図13は、第3実施形態の音響処理装置200の構成を示すブロック図である。
図13では、第1実施形態の放音装置214が送信部216に置き換えられる。送信部216は、信号処理部210によって生成された第2周波数帯域の第2音響信号S2を示す電磁波を送信する通信機器である。端末装置300の特定部304は、音響処理装置200から受信した受信信号に包含される識別情報Dを抽出し、識別情報Dを含む情報要求Rを案内情報サーバー500に送信することで案内情報Gを受信する。以上の構成によっても、実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0045】
なお、第3実施形態の構成では、送信部216から送信された電波や赤外線を受信するための受信機器を端末装置300が具備する必要がある。他方、第1実施形態や第2実施形態では、識別情報Dが音響通信で端末装置300に通知されるから、音声通話や動画収録に使用される収音装置302を識別情報Dの受信に流用でき、送信部216の通信方式に対応した専用の受信機器が不要であるという利点がある。
【0046】
<変形例>
以上に例示した各態様は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2個以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0047】
(1)前述の各形態の再生システム100では、記憶部106に事前に記憶された対象信号AGと識別情報Dとを利用して信号合成部104が再生信号A1を生成する構成を例示したが、再生信号A1を事前に用意することも可能である。
【0048】
図14は、変形例の再生システム100の構成を示すブロック図である。
図14の再生システム100では、前述の各形態で例示した信号合成部104が省略され、対象信号AG(案内音声)と識別情報Dの通知音との混合音を示す再生信号A1(A1-1,A1- 2,……)が停留所の地点毎に記憶部106に事前に格納される。記憶部106に記憶される各再生信号A1は、前述の各形態の信号合成部104による処理と同様の方法で事前に生成される。制御部102は、運転手OPからの指示に応じた再生信号A1を記憶部106から取得してフィルタ108に供給する。以上の構成によれば、信号合成部104を再生システム100に設置する必要がないから、再生システム100の構成が簡素化される(あるいは信号合成部104が存在しない既存のシステムを流用できる)という利点がある。
【0049】
(2)第1実施形態では、変調信号AD(通知音)と対象信号AG(案内音声)とが時間軸上で重複しない構成(
図5(a))を例示したが、変調信号ADと対象信号AGとを時間軸上で重複させることも可能である。例えば対象信号AGの冒頭部分に変調信号ADを含有させた構成が採用される。ただし、変調信号ADを周波数帯域B1の通知音として放音した場合には対象信号AGの案内音声の聴取が阻害される可能性がある。そこで、利用者が聴取可能な通知音を利用せずに、受聴者が殆ど知覚できない方法で変調信号AD(識別情報D)を対象信号AGに混合する構成が好適である。例えば、音響透かしやフィンガープリントの技術が、音響信号AGに対する識別情報Dの重畳や抽出に採用され得る。
【0050】
(3)前述の各形態では、路線バスの音声案内システム1に音響処理装置200を適用したが、音響処理装置200が適用される場面は以上の例示に限定されない。例えば、他の公共交通機関や電車における車内放送システムや、展示施設における再生システムに適用される構成も好適に採用され得る。例えば、展示施設における再生システムで、展示物の説明を案内する案内音声の対象信号AGに識別情報Dが重畳された再生音が生成されたうえで、音響処理装置200に収音される。端末装置300を携行した利用者が任意の作品に近づくと、案内音声とともに識別情報Dが重畳された第2音響信号S2が放音される。利用者が携行する端末装置300は、識別情報Dを含む情報要求Rに応じて案内情報サーバー500から提供される案内情報Gを表示(または放音)することで案内情報を確認することが可能である。
【0051】
(4)前述の各形態では、利用者に提供される案内音声の文字列を案内情報Gとして例示したが、案内情報Gの内容は以上の例示に限定されない。例えば、公共交通機関や施設の案内(利用案内,施設案内,料金案内等),交通案内(駅情報,乗換案内等),案内対象の地点の付近の観光案内(観光施設,宿泊施設,名所旧跡等の周辺案内等)の文字列や画像(静止画または動画),案内音声を表す文字列(例えば難聴者が視覚的に案内を確認するための文字列),案内音声による案内を他言語に翻訳した音声や文字列が、案内情報Gとして端末装置300に提供され得る。なお、案内情報Gとして観光情報が利用者に提供される構成では、観光施設や宿泊施設で利用可能なクーポン等が案内情報Gとともに提示部308に提示される構成としてもよい。
【0052】
(5)実施形態では、端末装置300の取得部306は、通信網400を介して案内情報サーバー500と通信し、識別情報Dを含む情報要求Rを案内情報サーバー500に送信する一方、情報要求Rに応じて案内情報サーバー500から送信された案内情報Gを受信する構成を例示したが、端末装置300における案内情報Gの取得の方法は以上の例示に限定されない。例えば、端末装置300の記憶装置に案内情報テーブルTB1を格納し、識別情報Dに対応する案内情報Gを取得部306が記憶装置から取得してもよい。
【0053】
(6)実施形態では、再生システム100と音響処理装置200と端末装置300と案内情報サーバー500とを各々単体の装置として包含する音声案内システム1を例示したが、音声案内システム1の装置構成は以上の例示に限定されない。例えば、変形例(4)のように端末装置300側で案内情報サーバー500の機能を包含する構成や、第2実施形態で例示されるように再生システム100と音響処理装置200とが単体の装置に包含される構成も好適に採用され得る。
【0054】
(7)前述の各形態では、路線バスの利用者を対象とした乗降案内を表す案内音声の再生を例示したが、再生システム100の放音装置130が放音する音響の種類は案内音声に限定されない。例えば、音楽等の各種の音響を再生する場合にも前述の各形態は採用され得る。以上の説明から理解される通り、前述の各形態の再生信号A2,第1音響信号S1は、再生対象となる音響(対象音)を示す信号として包括的に表現される。
【0055】
100……再生システム、102……制御部、104……信号合成部、106……記憶部、108……フィルタ、110……操作部、130……放音装置、1042……変調処理部、
1044……混合処理部、200……音響処理装置、202……収音装置、206……情報抽出部、208……記憶部、210……信号処理部、214……放音装置、300……端末装置、302……収音装置、304……特定部、308……提示部、500……案内情報サーバー。
【解決手段】再生システム100は、対象音を表す対象信号を取得する制御部102と、対象信号が表す対象音と、当該対象音を表す関連情報の識別情報を含む音響成分とを含む音を放音することで、当該識別情報を、通知された識別情報に対応する関連情報を取得可能な端末装置に音響通信で通知する放音装置130とを具備する。