【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、
図2に、現状の一般的な70MPa(G)の水素ステーションの構成図を示す。
この水素ステーションは、水素ガスを受け入れる圧縮機ユニットからなる圧縮機設備1と、圧縮機設備1から送られてきた水素ガスを蓄圧する蓄圧器ユニットからなる水素蓄圧設備2と、水素蓄圧設備2からの水素ガスを水素自動車の燃料タンク6に充填するための経路に設けられた膨張弁3及び水素ガスプレクーラ4と、この水素ガスプレクーラ4を介して水素ガスの冷却を行う水素プレクールシステム5とを備え、さらに、水素プレクールシステム5には、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、アキュムレータ等からなる冷凍機設備7と、ブラインタンク、1次ブラインポンプ、2次ポンプ等からなるブライン回路8を備えるようにしている。
そして、この水素ステーションは、オンサイト型、オフサイト型の水素ステーションの両者とも、受け入れた水素は圧縮機設備1で中間圧(図例では40MPa(G))や高圧(図例では82MPa(G))まで圧縮され、それぞれの圧力で水素蓄圧設備2の蓄圧ユニット内にて圧縮ガスの形で保持される。
これらの水素ガスを、需要側である車載の燃料タンク6へ充填するには、膨張弁3を介しての膨張により行われるが、その際に水素ガス自身の温度上昇を伴うため、外部設備である水素プレクールシステム5により−40℃まで冷却される。
現状の技術では、この水素プレクールシステム5は、フロン冷媒等の通常の冷凍機設備7と、−40℃近辺で動作するブライン回路8とを組み合わせて構成されているため、構成が複雑であり、また、冷凍機用冷媒圧縮機、1次ブラインポンプ、2次ブラインポンプ等の多くの回転機器も必要になる。
【0008】
このため、従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムにおいては、以下の課題があった。
1)外部独立した水素プレクールシステムはそれ自体が外部電力で稼働するシステムである。一般的な水素ステーション(300Nm
3/h)で約40kWとなっており、水素プレクールシステムの運用自体が運転コストを上昇させる。
2)冷凍機の冷媒にフロン(代替えフロン)を使用するため法的な扱いを受け、このプレクーラ設備自体が高圧ガス保安法の冷凍保安則にかかり、設備や運用において制約を受ける。
3)フロンやブラインをステーション内に保有することは、フロンやブラインの外部漏洩に対する環境事故の予防対策が必要になる。
4)水素プレクールシステムが、冷凍回路とブライン回路の2段構成で複雑であることや、冷媒圧縮機やブラインポンプ等の回転機が複数存在するため、多くの保守管理役務が生じる。
5)ブラインを介したシステムのため、運転起動から定常状態になるまで時間を要する。このため、充填作業のかなり前から水素プレクールシステムを事前起動、系内を定常状態にしておく必要がある。
6)水素ステーション自体の設置スペースを小型化する際に、水素プレクールシステムの専有スペースがその制約となる。
7)現状の−40℃という温度では、さらなる水素の急速充填に制限が出てくる。将来において、さらに充填時間を短くするためには、現状の−40℃よりも低い温度に予冷が必要となる可能性もある。
【0009】
ところで、上記従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムの有する問題点に鑑み、本件出願人は、先に、特願2016−032072において、構成が簡易で、保守管理役務の負担が少なく、消費電力のコストを含む運転コストを低廉にできる、水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムを提案した。
【0010】
この水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムは、水素ガスを膨張減圧する過程で膨張機(膨張タービン)により水素ガスの温度降下を行い、その冷熱エネルギを利用して水素ガスの予冷を行うものであり、上記従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムの有する問題点を解消することができるものであった。
【0011】
より具体的には、この水素プレクールシステムは、
図3に示すように、水素ガス源ライン9を、膨張タービン11の回路に接続し、膨張タービン11にて最終的に水素ガスを膨張させて、エンタルピ降下(温度降下)させた水素ガスを、水素ガス供給ユニット13を介して、水素自動車の燃料タンク6に充填するようにした、高圧水素の膨張タービン式充填システム10として構成されている。
なお、
図3に示す例は、膨張タービン11に、タービン11aとコンプレッサ11bとを同軸に配したタービン・コンプレッサを用いたものであるが、膨張タービンのみで構成することもできる。
【0012】
ここで、
図4及び
図5に、水素ガスの膨張弁を用いた膨張(弁膨張)(従来方式)と高圧水素の膨張タービン式充填システム(新方式)による充填流量及び圧力並びに温度の変化を示す。
【0013】
ところで、この高圧水素の膨張タービン式充填システム10において、膨張タービン11の出口の温度は、刻々と変化する膨張タービン11の膨張比により決まるため一定ではない。
すなわち、
図5の典型的なタービン出口(=充填タンク入口)温度の計算事例に示すように(「Tin[新方式]」は、高圧水素の膨張タービン式充填システム10における膨張タービン11の出口温度(=充填タンク入口温度)の挙動例を示す。)、充填の初期段階においては、膨張タービン11の膨張比が高いために、短時間ではあるものの−70℃近くまで水素ガスの温度が降下する領域が生じる。
このように、水素ガスの温度が−40℃よりも降下する時間帯があるため、水素ガス供給ユニット13の構成部材、例えば、充填ホースのシール材を−70℃対応のものにする必要があり、設備コストの上昇につながるという問題があった(課題8)。
【0014】
本発明は、上記従来の水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムの有する問題点に鑑み、構成が簡易で、保守管理役務の負担が少なく、消費電力のコストを含む運転コストを低廉にでき、さらに、水素ガス供給ユニットの構成部材に汎用の部材を用いることができる高圧水素の膨張タービン式充填システムを提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高圧水素の膨張タービン式充填システムによれば、高圧に蓄圧された水素ガスをタンクへ加圧充填する際に、膨張タービンにて最終的に水素を膨張させて、エンタルピ降下(温度降下)させた水素ガスを調節タンク側へ充填するようにすることにより、構成が簡易で、保守管理役務の負担が少なく、消費電力のコストを含む運転コストを低廉にできる、例えば、水素ステーションの最終充填部において水素ガスの温度を降下させるために用いられる水素プレクールシステムを提供することができる。
そして、膨張タービンの出口に蓄冷器を設けることにより、膨張タービンの膨張比が高い充填の初期段階における水素ガスの温度降下の度合いを緩和、平滑化して、水素ガス供給ユニットの構成部材に汎用の部材を用いることを可能にし、設備コストが上昇することを防止することができる。
【0018】
また、前記膨張タービンに、タービン・コンプレッサを用いること、すなわち、回転軸の一方側に膨張用インペラ、他方側に圧縮用インペラを有するタービン・コンプレッサを用いることにより、膨張機において発生するエネルギを取り出し、有効利用する手段を別途設ける必要がなく、さらに、タービン側にて得られた回転エネルギを利用してコンプレッサ側にて水素ガスの圧力を上昇させて、タービン入口へ導かれるようにすることによって、コンプレッサで昇圧された分、タービンの膨張比が大きくなり、より多くの熱落差(=寒冷発生量)を得るようにすることができる。