特許第6231261号(P6231261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231261
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】バイオフィルムの形成を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20171106BHJP
   A23L 3/3517 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/7024 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20171106BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20171106BHJP
   C11D 3/48 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   A61K8/37
   A23L3/3517
   A61K8/60
   A61K31/23
   A61K31/7024
   A61P1/02
   A61Q11/00
   C11D3/48
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-103695(P2012-103695)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-231002(P2013-231002A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2014年1月21日
【審判番号】不服2016-5853(P2016-5853/J1)
【審判請求日】2016年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 三雄
(72)【発明者】
【氏名】岩本 壮王多
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 創太
(72)【発明者】
【氏名】田中 康雄
【合議体】
【審判長】 須藤 康洋
【審判官】 関 美祝
【審判官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−195496(JP,A)
【文献】 特開2000−204039(JP,A)
【文献】 特開2010−202868(JP,A)
【文献】 特開2012−56854(JP,A)
【文献】 特開2009−132702(JP,A)
【文献】 特開2007−146134(JP,A)
【文献】 特開2004−292401(JP,A)
【文献】 石けん洗剤の基礎,日本石鹸洗剤工業会,2007年12月15日,[online],[検索日2015.05.13],インターネット<URL:http://jsda.org/w/03_shiki/a_sekken30.html>,URL,http://jsda.org/w/03_shiki/a_sekken30.html
【文献】 市毛将司,幅靖志,木村與司雄,過熱水蒸気の食品表面殺菌への利用,研究報告書,あいち産業科学技術総合センター,2008年,[online],[検索日2015.12.21],インターネット<URL:http://www.aichi−inst.jp/shokuhin/research/report/>,URL,http://www.aichi−inst.jp/shokuhin/research/report/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン脂肪酸エステルとして、炭素数7〜14の飽和脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステルであるグリセリルモノヘプタノエート、グリセリルモノカプリレート、グリセリルモノノナノエート、グリセリルモノカプレート、グリセリルモノウンデカノエート、グリセリルモノラウレート、グリセリルモノトリデカノエート及びグリセリルモノミリステート、並びにグリセリルモノウンデセノエートからなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有するバイオフィルム抑制剤を用いて、カンジダ菌に対して実質的に殺菌力を有することなくカンジダ菌によるバイオフィルムの形成を抑制する方法。
【請求項2】
ジグリセリン脂肪酸エステルとして、ジグリセリルモノラウレートを有効成分として含有するバイオフィルム抑制剤を用いて、カンジダ菌に対して実質的に殺菌力を有することなくカンジダ菌によるバイオフィルムの形成を抑制する方法。
【請求項3】
ショ糖脂肪酸エステルとして、炭素数10〜18の飽和脂肪酸残基を有するショ糖モノ脂肪酸エステルであるスクロースモノカプレート、スクロースモノウンデカノエート、スクロースモノラウレート、スクロースモノトリデカノエート、スクロースモノミリステート、スクロースモノペンタデカノエート、スクロースモノパルミテート、スクロースモノヘプタデカノエート及びスクロースモノステアレート、並びにスクロースジカプレート及びスクロースジラウレートからなる群のうち少なくとも1種を有効成分として含有する、バイオフィルム抑制剤を用いて、カンジダ菌に対して実質的に殺菌力を有することなくカンジダ菌によるバイオフィルムの形成を抑制する方法。
【請求項4】
ソルビタン脂肪酸エステルとして、ソルビタンモノラウレートを有効成分として含有するバイオフィルム抑制剤を用いて、カンジダ菌に対して実質的に殺菌力を有することなくカンジダ菌によるバイオフィルムの形成を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物によるバイオフィルムの形成を抑制するために用いるバイオフィルム抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムとは、細菌やカビ等が固体や液体の表面に付着することによって形成される微生物の集合体であり、日常の様々な環境に存在する。このバイオフィルムと呼ばれる微生物集合体は、医療や産業、さらには日常生活にも深く関与し、多くの問題を引き起こしている。例えば、台所、浴室、トイレ等の排水口に存在するぬめりもバイオフィルムであり、悪臭の原因とされている。また、産業面においては、金属製の配管材料への付着から始まり、さらには腐食することがある。このことは工場の製造過程における微生物汚染の原因となることとして示唆される。医療分野に関しては、カテーテル内部やコンタクトレンズ、義歯等にバイオフィルムが形成され、感染症を引き起こす要因となる。
【0003】
特に、義歯の汚れは義歯性口内炎だけでなく口角炎などを引き起こすことも報告されており、さらに、バイオフィルムの形成(すなわち、デンチャープラークの堆積)が助長され、ますます口腔内環境が悪化する(非特許文献1)。このバイオフィルムには高頻度でカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)を主としたカンジダ菌が検出されることが報告されている。
【0004】
一般的にバイオフィルムは、一度形成されると浮遊菌とは異なり、薬剤の浸透率の低下や熱耐性を有するようになり、薬剤治療や加熱処理による除去が難しいとされる。最も効果的な手法としては、ブラッシング等による物理的除去とされているが、細部への物理的除去は困難とされ、問題視されているのが現状である。他のバイオフィルムの除去法として、ポピドンヨード、塩化ベンゼトニウム又は硫酸フラジオマイシン等の一般的な殺菌剤を用いる他に、バイオフィルム溶解物質や界面活性剤と殺菌剤の併用による手法が報告されている(特許文献1,2参照)。しかしながら、殺菌剤を多用した場合、若しくは、高濃度の殺菌剤を使用した場合、薬剤耐性菌の出現や、殺菌効果による口腔内の菌環境の変化による菌交代症の発症、副作用の発現など、人体に対して様々な影響を与える可能性がある。
【0005】
したがって、これらの問題を解決するには、バイオフィルムの形成そのものを抑制することが効果的であるといえる。カンジダ菌に由来するバイオフィルムの形成を抑制する方法としては、例えば、カチオン性殺菌剤、ポリリン酸又はその塩、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する液体口腔用組成物を用いる方法が開示されている(特許文献3)。この方法では、殺菌剤を必須成分としているため、高濃度の殺菌剤を使用した場合に懸念される上述した問題点が依然として存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−126437号公報
【特許文献2】特開2008−303188号公報
【特許文献3】特開2006−117574号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】二川浩樹その他6名著、「口腔カンジダの付着およびバイオフィルム形成」、Jpn.J.Med.Mycol.、Vol.46、p.233-242、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、殺菌剤を必須成分としなくても、カンジダ菌に由来するバイオフィルムの形成抑制力に優れたバイオフィルム抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、種々の脂肪酸エステルのうち、特定の脂肪酸エステルが、カンジダ菌に対して、優れたバイオフィルム形成抑制力を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 グリセリン脂肪酸エステルとして、炭素数7〜14の飽和脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はグリセリルモノウンデセノエートを有効成分として含有し、有効成分が添加された培地において第一のカンジダ菌によるバイオフィルムが培養され、有効成分が添加されていない培地をコントロールとして第二のカンジダ菌によるバイオフィルムが培養され、第一のカンジダ菌によるバイオフィルムを染色した後、洗浄し、マイクロプレートに固着して測定した第一吸光度を、第二のカンジダ菌によるバイオフィルムを染色した後、洗浄し、マイクロプレートに固着して測定した基準吸光度の50%に抑制するために必要な、有効成分の濃度が20ppm以下である性質を有し、有効成分の濃度が100ppm以下において殺菌力を実質的に有しない性質を有するカンジダ菌によるバイオフィルムの形成を抑制するためのバイオフィルム抑制剤。
〔2〕 炭素数7〜14の飽和脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステルが、グリセリルモノヘプタノエート、グリセリルモノカプリレート、グリセリルモノノナノエート、グリセリルモノカプレート、グリセリルモノウンデカノエート、グリセリルモノラウレート、グリセリルモノトリデカノエート及びグリセリルモノミリステートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕記載のバイオフィルム抑制剤。
〔3〕 ジグリセリン脂肪酸エステルとして、ジグリセリルモノラウレートを有効成分として含有し、有効成分が添加された培地において第一のカンジダ菌によるバイオフィルムが培養され、有効成分が添加されていない培地をコントロールとして第二のカンジダ菌によるバイオフィルムが培養され、第一のカンジダ菌によるバイオフィルムを染色した後、洗浄し、マイクロプレートに固着して測定した第一吸光度を、第二のカンジダ菌によるバイオフィルムを染色した後、洗浄し、マイクロプレートに固着して測定した基準吸光度の50%に抑制するために必要な、有効成分の濃度が20ppm以下である性質を有し、有効成分の濃度が100ppm以下において殺菌力を実質的に有しない性質を有するカンジダ菌によるバイオフィルムの形成を抑制するためのバイオフィルム抑制剤。
〔4〕 ショ糖脂肪酸エステルとして、炭素数10〜18の飽和脂肪酸残基を有するショ糖モノ脂肪酸エステル、スクロースジカプレート及びスクロースジラウレートからなる群のうち少なくとも1種を有効成分として含有し、有効成分が添加された培地において第一のカンジダ菌によるバイオフィルムが培養され、有効成分が添加されていない培地をコントロールとして第二のカンジダ菌によるバイオフィルムが培養され、第一のカンジダ菌によるバイオフィルムを染色した後、洗浄し、マイクロプレートに固着して測定した第一吸光度を、第二のカンジダ菌によるバイオフィルムを染色した後、洗浄し、マイクロプレートに固着して測定した基準吸光度の50%に抑制するために必要な、有効成分の濃度が20ppm以下である性質を有し、有効成分の濃度が100ppm以下において殺菌力を実質的に有しない性質を有するカンジダ菌によるバイオフィルムの形成を抑制するためのバイオフィルム抑制剤。
〔5〕 炭素数10〜18の飽和脂肪酸残基を有するショ糖モノ脂肪酸エステルが、スクロースモノカプレート、スクロースモノウンデカノエート、スクロースモノラウレート、スクロースモノトリデカノエート、スクロースモノミリステート、スクロースモノペンタデカノエート、スクロースモノパルミテート、スクロースモノヘプタデカノエート及びスクロースモノステアレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記〔4〕記載のバイオフィルム抑制剤。
〔6〕 ソルビタン脂肪酸エステルとして、ソルビタンモノラウレートを有効成分として含有し、有効成分が添加された培地において第一のカンジダ菌によるバイオフィルムが培養され、有効成分が添加されていない培地をコントロールとして第二のカンジダ菌によるバイオフィルムが培養され、第一のカンジダ菌によるバイオフィルムを染色した後、洗浄し、マイクロプレートに固着して測定した第一吸光度を、第二のカンジダ菌によるバイオフィルムを染色した後、洗浄し、マイクロプレートに固着して測定した基準吸光度の50%に抑制するために必要な、有効成分の濃度が20ppm以下である性質を有し、有効成分の濃度が100ppm以下において殺菌力を実質的に有しない性質を有するカンジダ菌によるバイオフィルムの形成を抑制するためのバイオフィルム抑制剤。
〔7〕 前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のバイオフィルム抑制剤を含有する、洗浄剤、化粧品、食品、医薬部外品又は口腔衛生製品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カンジダ菌に対して実質的に殺菌力を有さず、カンジダ菌に対して優れたバイオフィルム形成抑制力を示す有効成分を含有するバイオフィルム抑制剤が提供される。このため、該バイオフィルム抑制剤を例えば、洗浄剤、化粧品、食品、医薬部外品、口腔衛生製品等のバイオフィルム抑制対象物に配合することで、該バイオフィルム抑制対象物中のバイオフィルムの形成を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】グリセリルモノヘプタノエートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図2】グリセリルモノカプリレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図3】グリセリルモノカプレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図4】グリセリルモノラウレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図5】グリセリルモノトリデカノエートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図6】グリセリルモノミリステートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図7】グリセリルモノパルミテートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図8】ジグリセリルモノカプレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図9】ジグリセリルモノラウレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図10】ジグリセリルモノミリステートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図11】スクロースモノカプリレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図12】スクロースモノカプレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図13】スクロースモノラウレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図14】スクロースモノミリステートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図15】スクロースモノパルミテートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図16】スクロースモノステアレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図17】スクロースモノアラキデートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図18】スクロースジカプリレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図19】スクロースジカプレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図20】スクロースジラウレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図21】ソルビタンモノラウレートについて、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図22】ケトコナゾール(陽性対照)について、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフ。
図23】グリセリルモノカプレート含有培地で培養したC.albicansの顕微鏡観察図。
図24】DMSO含有培地で培養したC.albicansの顕微鏡観察図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のバイオフィルム抑制剤は、特定の脂肪酸エステルを有効成分として含有するものであり、より具体的には、グリセリン、ジグリセリン、ショ糖及びソルビタンが有する水酸基が、脂肪酸が有するカルボキシル基とエステル結合したエステル結合生成物のうち、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖モノ脂肪酸エステル、ショ糖ジ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステルを有効成分として含有するものである。本発明のバイオフィルム抑制剤は、カンジダ菌によるバイオフィルムの形成に対して、優れた抑制力を有する。以下では、バイオフィルム形成に対する抑制力を「バイオフィルム抑制力」と略記する。本発明において「有効成分」とは、それ単独でカンジダ菌に対してバイオフィルム抑制力を有する成分をいう。
【0014】
グリセリンモノ脂肪酸エステルとは、グリセリンと1つの脂肪酸とのエステル結合生成物であり、炭素数7〜14、より好ましくは炭素数8〜14の脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステルが、カンジダ菌に対して優れたバイオフィルム抑制力を有する。脂肪酸残基としては、飽和脂肪酸残基、不飽和脂肪酸残基のいずれでもよいが、飽和脂肪酸残基がより好ましい。炭素数7〜14の飽和脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、グリセリルモノヘプタノエート、グリセリルモノカプリレート、グリセリルモノノナノエート、グリセリルモノカプレート、グリセリルモノウンデカノエート、グリセリルモノラウレート、グリセリルモノトリデカノエート及びグリセリルモノミリステートが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。炭素数7〜14の不飽和脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、グリセリルモノデセノエート、グリセリルモノウンデセノエート及びグリセリルモノドデセノエートが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
炭素数が15以上の脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステルは、いずれもバイオフィルム抑制力に劣ることから、グリセリンモノ脂肪酸エステルによるバイオフィルム抑制力は脂肪酸残基の鎖長に特異的である。また、グリセリンジ脂肪酸エステル(グリセリンと2つの脂肪酸とのエステル結合生成物)とグリセリントリ脂肪酸エステル(グリセリンと3つの脂肪酸とのエステル結合生成物)についてみると、炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するグリセリンジ脂肪酸エステル(グリセリルジラウレート)と炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するグリセリントリ脂肪酸エステル(グリセリルトリラウレート)では、バイオフィルム抑制力が劣ることが確認されている。したがって、上記で述べた3つのグリセリン脂肪酸エステルの中でも、カンジダ菌に対するバイオフィルム抑制力は上記特定の脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステルに特異的に発揮される効果であると推測される。
【0016】
ジグリセリンモノ脂肪酸エステルとは、ジグリセリンと1つの脂肪酸とのエステル結合生成物であり、炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するジグリセリルモノラウレートが、カンジダ菌に対して優れたバイオフィルム抑制力を有する。一方、炭素数が10以下、及び炭素数が14の脂肪酸残基を有するジグリセリンモノ脂肪酸エステルでは、バイオフィルム抑制力に劣ることから、ジグリセリルモノラウレートによるバイオフィルム抑制力は脂肪酸残基の鎖長に特異的である。また、ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル(ヘキサグリセリンと1つの脂肪酸とのエステル結合生成物)とデカグリセリンモノ脂肪酸エステル(デカグリセリンと1つの脂肪酸とのエステル結合生成物)についてみると、炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル(ヘキサグリセリルモノラウレート)と炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するデカグリセンモノ脂肪酸エステル(デカグリセリルモノラウレート)ではバイオフィルム抑制力に劣ることが確認されている。したがって、上記で述べた3つのポリグリセリンモノ脂肪酸エステルの中でも、カンジダ菌に対するバイオフィルム抑制力はジグリセリンモノ脂肪酸エステル、その中でも炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するジグリセリルモノラウレートに特異的に発揮される効果であると推測される。
【0017】
ショ糖モノ脂肪酸エステルとは、ショ糖と1つの脂肪酸とのエステル結合生成物であり、炭素数10〜18の脂肪酸残基を有するショ糖モノ脂肪酸エステルが、カンジダ菌に対して優れたバイオフィルム抑制力を有する。脂肪酸残基としては、飽和脂肪酸残基、不飽和脂肪酸残基のいずれでもよいが、飽和脂肪酸残基がより好ましい。炭素数10〜18の飽和脂肪酸残基を有するショ糖モノ脂肪酸エステルとしては、スクロースモノカプレート、スクロースモノウンデカノエート、スクロースモノラウレート、スクロースモノトリデカノエート、スクロースモノミリステート、スクロースモノペンタデカノエート、スクロースモノパルミテート、スクロースモノヘプタデカノエート、スクロースモノステアレートが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。炭素数10〜18の不飽和脂肪酸残基を有するショ糖モノ脂肪酸エステルとしては、スクロースデセノエート、スクロースモノウンデセノエート、スクロースモノドデセノエート、スクロースモノパルミトレート及びスクロースモノオレエートが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
炭素数が8の飽和脂肪酸残基を有するスクロースモノカプリレート、炭素数が20の飽和脂肪酸残基を有するスクロースモノアラキデートは、いずれもバイオフィルム抑制力に劣ることから、ショ糖モノ脂肪酸エステルによるバイオフィルム抑制力は脂肪酸残基の鎖長に特異的である。
【0019】
ショ糖ジ脂肪酸エステルとは、ショ糖と2つの脂肪酸とのエステル結合生成物であり、炭素数10〜12の脂肪酸残基を有するショ糖モノ脂肪酸エステルが、カンジダ菌に対して優れたバイオフィルム抑制力を有する。一方、炭素数が8の飽和脂肪酸残基を有するスクロースジカプリレートでは、バイオフィルム抑制力に劣ることから、ショ糖ジ脂肪酸エステルによるバイオフィルム抑制力は脂肪酸残基の鎖長に特異的である。
【0020】
また、ショ糖ポリ脂肪酸エステル(ショ糖と3つ以上の脂肪酸とのエステル結合生成物)についてみると、炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するショ糖ポリ脂肪酸エステル(スクロースポリラウレート)ではバイオフィルム抑制力に劣ることが確認されている。したがって、上記で述べた3つのショ糖脂肪酸エステルの中でも、カンジダ菌に対するバイオフィルム抑制力はショ糖モノ脂肪酸エステル、ショ糖ジ脂肪酸エステルに特異的に発揮される効果であると推測される。
【0021】
ソルビタンモノ脂肪酸エステルとは、ソルビタンと1つの脂肪酸とのエステル結合生成物であり、炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するソルビタンモノラウレートが、カンジダ菌に対して優れたバイオフィルム抑制力を有する。
【0022】
このように、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリントリ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖ポリ脂肪酸エステルはいずれもカンジダ菌に対してバイオフィルム抑制力が劣り、さらにプロピレングリコールモノ脂肪酸エステルとプロピレングリコールジ脂肪酸エステルもカンジダ菌に対してバイオフィルム抑制力が劣る。
【0023】
グリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖モノ脂肪酸エステル、ショ糖ジ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステルのうち、カンジダ菌に対するバイオフィルム抑制力に優れた本発明の有効成分として、単一の脂肪酸エステルを用いてもよいし、異種の脂肪酸エステルを適宜組み合わせて用いてもよい。
【0024】
また、本発明の有効成分はカンジダ菌に対して殺菌力を有しないか、殺菌力が小さい。すなわち、本発明の有効成分は、カンジダ菌に対する殺菌力を実質的に有しない。このように、カンジダ菌に対して実質的に殺菌力を示さないにもかかわらず、バイオフィルム抑制力に優れる点が、本発明の有効成分の特徴である。この理由は明らかではないが、顕微鏡観察によれば、本発明の有効成分が、カンジダ菌の形態を酵母形態から菌糸状形態へ移行するのを抑制することが分かっており、このことがバイオフィルム抑制力と関連付けられるのではないかと推測している。
【0025】
本発明が対象とするカンジダ菌は特に限定されるものでなく、カンジダ(Candida)属に属する真菌全般をさし、例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・パラシロシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・グラブラタ(Candida grabrata)、カンジダ・ギリエルモンジイ(Candida guilliemondii)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)等が挙げられる。
【0026】
本発明のバイオフィルム抑制剤には、カンジダ菌に対するバイオフィルム抑制力を高めることができる点で、必要に応じてキレート剤や香料を配合することができる。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、コハク酸、サリチル酸、シュウ酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、トリポリリン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸/マレイン酸共重合物及びそれらの塩等が挙げられる。香料としては、例えば、メントール、チモール等のモノテルペン系香料が挙げられる。
【0027】
本発明のバイオフィルム抑制剤には、必要に応じて、公知の抗菌剤や保存料を併用して配合することもできる。併用できる公知の抗菌剤や保存料としては、例えば、イソプロピルメチルフェノール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、サリチル酸、パラベン類、フェノキシエタノール、安息香酸およびその金属塩、ソルビン酸、脂肪酸およびその金属塩、脂肪酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、白子タンパク質、ポリリジン、フィチン酸、エタノール、プロピレングリコール、チアベンダゾール、トリクロサン、ジンクピリチオン、クロルキシレノール、キトサン、カテキン、チモール、ヒノキチオール等が挙げられる。
【0028】
本発明のバイオフィルム抑制剤は、必要に応じて、乳化剤、固着剤、分散剤、湿潤剤、安定剤、噴射剤等を適宜添加することにより、油剤、乳剤、水和剤、噴霧剤、エアゾール剤、燻煙剤、塗布剤、洗浄剤、粉剤及び粒剤の形態として製剤化することができ、洗浄剤、化粧品、食品、医薬部外品、口腔衛生製品等に含有させることができる。
【0029】
洗浄剤としては、例えば、水回り洗浄剤、配管洗浄剤、カテーテル洗浄剤、コンタクトレンズ洗浄剤、石けん等が挙げられる。化粧品としては、例えば、化粧水、スキンパウダー、ボディーローション、サンケア剤、シェイビングローション等が挙げられる。食品としては、例えば、チューインガム、飴、錠菓等が挙げられる。医薬部外品としては、例えば、乳液、クリーム、軟膏、貼付剤、エアゾール剤等が挙げられる。口腔衛生製品としては、例えば、歯磨き剤、洗口液、口中スプレー歯磨き剤、入れ歯ケア剤等が挙げられる。
【0030】
洗浄剤、化粧品、食品、医薬部外品、口腔衛生製品等(以下、「バイオフィルム抑制対象物」という)に本発明のバイオフィルム抑制剤を含有させることにより、上記製品中におけるカンジダ菌に由来するバイオフィルムの形成を強く抑制することができる。バイオフィルム抑制対象物中における上記本発明の有効成分の含有量は、通常0.00001〜1重量%であり、好ましくは0.0001〜0.01重量%である。
【実施例】
【0031】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0032】
1.カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に対するバイオフィルム抑制力の確認試験
(1)被検試料
表1に示すグリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリントリ脂肪酸エステル、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖モノ脂肪酸エステル、ショ糖ジ脂肪酸エステル、ショ糖ポリ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコールジ脂肪酸エステル及び陽性対照(ケトコナゾール)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して1.0重量%溶液としたものを被検試料とした。
表1において購入先に関する表記「−」は、当該試料を自社で製造したことを示す。当該試料は、特開2009−183210号公報に準じて製造した。以下では、表1の構造上の分類に基づいて、自社製造試料の製造方法の概要を記載した。
【0033】
【表1】
【0034】
<グリセリルモノヘプタノエート(グリセリンモノ脂肪酸エステル)の合成例>
30mlのバイアル瓶中に、ヘプタン酸(和光純薬社製)3.33g及びグリセリン(和光純薬社製)6.66gを仕込んだ。同バイアルに、精製水0.10g、及びノボザイム435(ノボザイムズ社製)を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、50℃、15mmHgにて48時間反応させた。反応終了後、グリセリルモノヘプタノエートを含む粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフにより、精製を行うことで、グリセリルモノヘプタノエート2.90gを得た。
同様の手法にて、グリセリルモノノナノエート、グリセリルモノウンデカノエート、グリセリルモノトリデカノエート、グリセリルモノペンタデカノエート、グリセリルモノヘプタデカノエート、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノリノレート及びグリセリルモノリノレネートを得た。
【0035】
<ジグリセリルモノカプリレート(ジグリセリンモノ脂肪酸エステル)の合成例>
30mlのバイアル瓶中に、オクタン酸(和光純薬社製)3.00g及びジグリセリン(坂本薬品社製)を仕込んだ。同バイアルに、精製水0.10g、及びノボザイム435(ノボザイムズ社製)を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、50℃、15mmHgにて48時間反応させた。反応終了後、ジグリセリルモノカプリレートを含む粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフにより、精製を行うことで、ジグリセリルモノカプリレート3.40gを得た。
同様の手法にて、ジグリセリルモノカプレート、ジグリセリルモノラウレート及びジグリセリルモノミリステートを得た。
【0036】
<スクロースモノカプリレート(ショ糖モノ脂肪酸エステル)及びスクロースジカプリレート(ショ糖ジ脂肪酸エステル)の合成例>
脱水DMSO(ジメチルスルホキシド)(和光純薬社製)を仕込んだ200mlナスフラスコにスクロース(和光純薬社製)6.84g及びメチルオクタノエート(和光純薬社製)4.74gを加えた。さらに、炭酸カリウム(和光純薬社製)40mgを添加し、マグネチックスターラーによる攪拌を開始した。オイルバス上にて、フラスコ内温を95℃まで加熱したのを確認した後、減圧下30mmHgにて反応を開始した。反応終了後、乳酸(和光純薬社製)50mgを加えることによって反応を停止した。得られた反応粗液に精製水50mlを加え、イソブタノール(和光純薬社製)50mlを用いて抽出を行い、続いて有機相を精製水50mlにて二回、洗浄した。洗浄後、溶媒を留去し、スクロースモノカプリレート及びスクロースジカプリレートからなる粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=3:1)によって精製、単離し、目的の化合物であるスクロースモノカプリレート2.34g及びスクロースジカプリレート3.25gを得た。
また、同様の手法にて、スクロースモノカプレート及びスクロースジカプレートを得た。
【0037】
(2)供試菌株
カンジダ・アルビカンス(NBRC 1594株)
(3)供試菌液
ポテトデキストロース寒天培地(DIFCO社製)を溶解し滅菌済みシャーレに分注固化した。凍結保存品の供試菌株をこの寒天培地に塗抹して、30℃にて二日間培養した。2%グルコース含有酵母ニトロゲンベース(DIFCO社製)を10倍希釈することにより調製した培地20mlを三角フラスコに分注し、上記シャーレ内の菌を一白金耳取り植菌した。その後、30℃にて、24時間攪拌培養し、前培養液とした。次いで、遠心分離(3,000rpm,10分、4℃)を行い集菌した。生理食塩水20mlを用いて、得られたペレットを2回洗浄し、L−グルタミン含有RPMI1640培地(和光純薬工業社製,本試験において以下では、単に「1640培地」という)10mlを加え、再懸濁した。血球計算板を用いて、再懸濁液の細胞数をカウントし、細胞数が2.0×10cell/mlになるように1640培地を適宜加えたものを供試菌液として用いた。
【0038】
(4)実験方法
96穴マイクロプレートを用い、各被検試料について、10段階の2倍希釈系列を調製した。具体的には、まず、1段目ウェル(初発濃度用ウェル)及び2〜10段目ウェルに、それぞれ、196μl及び100μlの1640培地を分注した。そして、1段目ウェルに4μlの被検試料を添加し(被検試料濃度:200ppm)、次いで2〜10段目ウェルを2倍段階希釈法により順次希釈することで、10段目ウェルから1段目ウェルにかけて、被検試料濃度がそれぞれ、0.39ppm、0.78ppm、1.56ppm、3.13ppm、6.25ppm、12.5ppm、25ppm、50ppm、100ppm、200ppmで、容量が100μlの希釈系列を調製した。
次に、被検試料を上記濃度で含む各ウェルに供試菌液を100μlずつ添加し、10段目ウェルから1段目ウェルにかけて、被検試料濃度がそれぞれ、0.20ppm、0.39ppm、0.78ppm、1.56ppm、3.13ppm、6.25ppm、12.5ppm、25ppm、50ppm、100ppmの希釈系列を調製した。
【0039】
その後、30℃、二日間の培養を行った。培養終了後、各ウェルの培養液をアスピレーターにより除去し、各ウェルに付着した菌体、分泌物及び沈着物をバイオフィルムとし、各ウェルに対して0.01重量%水溶液として調製したクリスタルバイオレット(和光純薬工業社製)水溶液50μlを添加し、バイオフィルムを染色した。次いで、各ウェルからクリスタルバイオレット液を除き、200μlの蒸留水で2回洗浄後、エタノール200μlを加え、各ウェルからクリスタルバイオレットを溶出させることにより、マイクロプレートに固着したバイオフィルムを定量した。具体的には、マイクロプレートリーダー(MTP−120,CORONA ELECTRIC社製)を用いて、各ウェルの600nmにおける吸光度(O.D.600)を測定した。
【0040】
なお、96穴マイクロプレートの1つのウェルに1640培地を96μl添加し、次いでジメチルスルホキシド(DMSO)を4μl添加したものをコントロールとし、供試菌液を100μl添加し、上記と同様の条件で培養した。
【0041】
該コントロールのバイオフィルム形成率を100%とし、そのときの吸光度(O.D.600)を基準吸光度として、各被検試料について該基準吸光度の50%に相当する濃度(すなわち、バイオフィルムの形成を50%阻止するために必要な最低濃度(以下、「50%阻害濃度」という))を算出した。
各被検試料についてのバイオフィルムの形成抑制効果の判定は、各被検試料について算出された50%阻害濃度をケトコナゾール(陽性対照)の50%阻害濃度と比較し、以下の基準に基づいて評価した。表2に結果を示す。
・バイオフィルム抑制力に優れる:被検試料の50%阻害濃度が20ppm以下
・バイオフィルム抑制力に劣る:被検試料の50%阻害濃度が20ppmを超える
【0042】
【表2】
【0043】
(グリセリン脂肪酸エステルの結果)
表2の結果から、グリセリンモノ脂肪酸エステルについては、炭素数7〜14の飽和脂肪酸残基を有する被検試料及び炭素数11の不飽和脂肪酸残基を有するグリセリルモノウンデセノエートが、陽性対照であるケトコナゾールの50%阻害濃度(20ppm)よりも小さい値を示し、カンジダ菌に対してバイオフィルム抑制力に優れることが認められた。一方、炭素数15〜18の飽和脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステル及び炭素数18の不飽和脂肪酸残基を有するグリセリンモノ脂肪酸エステルは、いずれも20ppmを超える50%阻害濃度を示し、カンジダ菌に対してバイオフィルム抑制力に劣ることが分かった。
グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリントリ脂肪酸エステルについては、上記グリセリンモノ脂肪酸エステルの場合に優れたバイオフィルム抑制力を示した炭素数12の脂肪酸残基を有するグリセリルジラウレート、グリセリルトリラウレートのいずれについても、200ppmを超える50%阻害濃度を示し、バイオフィルム抑制力に劣ることが認められた。
上記の結果から、カンジダ菌に由来するバイオフィルムの形成抑制力は、グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基数によって顕著に異なることが分かった。
【0044】
(ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの結果)
表2の結果から、炭素数8〜14の飽和脂肪酸残基を有する被検試料のうち、炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するジグリセリルモノラウレートが、唯一20ppm以下の50%阻害濃度を示し、カンジダ菌に対してバイオフィルム抑制力に優れることが認められた。
【0045】
(ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステルの結果)
表2の結果から、上記グリセリンモノ脂肪酸エステルまたはジグリセリンモノ脂肪酸エステルの場合に優れたバイオフィルム抑制力を示した炭素数12の脂肪酸残基を有するヘキサグリセリルモノラウレート、デカグリセリルモノラウレートのいずれについても、100ppmを超える50%阻害濃度を示し、バイオフィルム抑制力に劣ることが認められた。
【0046】
(ショ糖脂肪酸エステルの結果)
表2の結果から、ショ糖モノ脂肪酸エステルについては、炭素数8〜20の飽和脂肪酸残基を有する被検試料のうち、炭素数10〜18の飽和脂肪酸残基を有する被検試料が、20ppm以下の50%阻害濃度を示し、カンジダ菌に対してバイオフィルム抑制力に優れることが認められた。
ショ糖ジ脂肪酸エステルについては、炭素数8〜12の飽和脂肪酸残基を有する被検試料のうち、炭素数10〜12の飽和脂肪酸残基を有する被検試料が、10ppm以下の50%阻害濃度を示し、バイオフィルム抑制力に優れることが認められた。
一方、ショ糖ポリ脂肪酸エステルについては、上記ショ糖モノ脂肪酸エステル及びショ糖ジ脂肪酸エステルの場合に優れたバイオフィルム抑制力を示した炭素数12の脂肪酸残基を有するスクロースポリラウレートは200ppm以上の50%阻害濃度を示し、バイオフィルム抑制力に劣ることが認められた。
【0047】
(ソルビタンモノ脂肪酸エステルの結果)
炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するソルビタンモノラウレートは、20ppm以下の50%阻害濃度を示し、バイオフィルム抑制力に優れることが認められた。
【0048】
(プロピレングリコール脂肪酸エステルの結果)
プロピレングリコールモノ脂肪酸エステルについては、炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するプロピレングリコールモノラウレートが60ppm以上の50%阻害濃度を示し、バイオフィルム抑制力に劣ることが認められた。
プロピレングリコールジ脂肪酸エステルについては、炭素数12の飽和脂肪酸残基を有するプロピレングリコールジラウレートが60ppm以上の50%阻害濃度を示し、バイオフィルム抑制力に劣ることが認められた。
【0049】
2.カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に対する本発明品の殺菌効果
(1)被検試料
表1に示すグリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリントリ脂肪酸エステル、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖モノ脂肪酸エステル、ショ糖ジ脂肪酸エステル、ショ糖ポリ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル及びプロピレングリコールジ脂肪酸エステル及び陽性対照(ケトコナゾール)のうちから、下記に示す化合物をDMSOに溶解して1.0重量%溶液としたものを被検試料とした。
<グリセリンモノ脂肪酸エステル>
グリセリルモノヘプタノエート、グリセリルモノカプリレート、グリセリルモノカプレート、グリセリルモノラウレート、グリセリルモノトリデカノエート、グリセリルモノミリステート、グリセリルモノパルミテート
<ジグリセリンモノ脂肪酸エステル>
ジグリセリルモノカプレート、ジグリセリルモノラウレート、ジグリセリルモノミリステート
<ショ糖モノ脂肪酸エステル>
スクロースモノカプリレート、スクロースモノカプレート、スクロースモノラウレート、スクロースモノミリステート、スクロースモノパルミテート、スクロースモノステアレート、スクロースモノアラキデート
<ショ糖ジ脂肪酸エステル>
スクロースジカプリレート、スクロースジカプレート、スクロースジラウレート
<ソルビタンモノ脂肪酸エステル>
ソルビタンモノラウレート
<陽性対照>
ケトコナゾール
【0050】
(2)供試菌株
カンジダ・アルビカンス(NBRC 1594株)
(3)供試菌液
ポテトデキストロース寒天培地(DIFCO社製)を溶解し滅菌済みシャーレに分注固化した。凍結保存品の供試菌株をこの寒天培地に塗抹して、30℃にて二日間培養した。2%グルコース含有酵母ニトロゲンベース(DIFCO社製)を10倍希釈することにより調製した培地20mlを三角フラスコに分注し、上記シャーレ内の菌を一白金耳取り植菌した。その後、30℃にて、24時間攪拌培養し、前培養液とした。次いで、遠心分離(3,000rpm,10分、4℃)を行い集菌した。生理食塩水20mlを用いて、得られたペレットを2回洗浄し、L−グルタミン含有RPMI1640培地(和光純薬工業社製,本試験において以下では、単に「1640培地」という)10mlを加え、再懸濁した。血球計算板を用いて、再懸濁液の細胞数をカウントし、細胞数が2.0×10cell/mlになるように1640培地を適宜加えたものを供試菌液として用いた。
【0051】
(4)実験方法
96穴マイクロプレートを用い、各被検試料について、10段階の2倍希釈系列を調製した。具体的には、まず、1段目ウェル(初発濃度用ウェル)及び2〜10段目ウェルに、それぞれ、196μl及び100μlの1640培地を分注した。そして、1段目ウェルに4μlの被検試料を添加し(被検試料濃度:200ppm)、次いで2〜10段目ウェルを2倍段階希釈法により順次希釈することで、10段目ウェルから1段目ウェルにかけて、被検試料濃度がそれぞれ、0.39ppm、0.78ppm、1.56ppm、3.13ppm、6.25ppm、12.5ppm、25ppm、50ppm、100ppm、200ppmで、容量が100μlの希釈系列を調製した。
次に、被検試料を上記濃度で含む各ウェルに供試菌液を100μlずつ添加し、10段目ウェルから1段目ウェルにかけて、被検試料濃度がそれぞれ、0.20ppm、0.39ppm、0.78ppm、1.56ppm、3.13ppm、6.25ppm、12.5ppm、25ppm、50ppm、100ppmの希釈系列を調製した。
【0052】
その後、30℃、二日間の培養を行った。培養終了後、各ウェルの培養液を懸濁し、生理食塩水を用いて10倍段階希釈を行い、それぞれ、10−1、10−2、10−3希釈液を調製した。上記菌希釈液100μlをポテトデキストロース寒天培地に塗抹し、30℃において二日間の静置培養を行った。培養後、各寒天培地のコロニー形成数を計測し、1ml当たりの生菌数を算出した。
各被検試料の各希釈系列について、バイオフィルム形成率と生菌数をそれぞれ棒グラフと折れ線グラフで示し、これらを1つのグラフにまとめた2軸グラフを作成した。図1図22に結果を示す。
【0053】
図1図22から、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖モノ脂肪酸エステル、ショ糖ジ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステルのうち、カンジダ菌に対するバイオフィルム抑制力に優れた本発明の有効成分について、生菌数が各希釈系列でほとんど変化しないか、100ppm程度の希釈系列で1.0×10〜1.0×10(CFU/ml)に維持された。したがって、本発明の有効成分は、カンジダ菌に対して殺菌力を有しないか、殺菌力が小さいことが分かった。
【0054】
3.カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に対するバイオフィルム抑制効果の形態観察
(1)被検試料
表1に示すグリセリンモノ脂肪酸エステルのうち、グリセリルモノカプレート(サンソフトNo.760)をDMSOに溶解して1.0重量%溶液としたものを被検試料とした。
【0055】
(2)供試菌株
カンジダ・アルビカンス(NBRC 1594株)
(3)供試菌液
ポテトデキストロース寒天培地(DIFCO社製)を溶解し滅菌済みシャーレに分注固化した。凍結保存品の供試菌株をこの寒天培地に塗抹して、30℃にて二日間培養した。2%グルコース含有酵母ニトロゲンベース(DIFCO社製)を10倍希釈することにより調製した培地20mlを三角フラスコに分注し、上記シャーレ内の菌を一白金耳取り植菌した。その後、30℃にて、24時間攪拌培養し、前培養液とした。次いで、遠心分離(3,000rpm,20分、4℃)を行い集菌した。生理食塩水20mlを用いて、得られたペレットを2回洗浄し、L−グルタミン含有RPMI1640培地(和光純薬工業社製,本試験において以下では、単に「1640培地」という)10mlを加え再懸濁した。血球計算板を用いて、再懸濁液の細胞数をカウントし、細胞数が1.0×10cell/mlになるように1640培地を適宜加えたものを供試菌液として用いた。
【0056】
(4)実験方法
滅菌済みの三角フラスコに1640培地20mlを分注した。その後、100μlの上記被検試料を添加し、濃度が100ppmとなるように調整した。なお、上記被検試料に代えて、DMSOのみを用いたものをコントロールとした。これらの試料含有培地に供試菌液2mlを加え、30℃にて、二日間静置培養した。培養後、菌液を適宜スライドガラスに滴下し、顕微鏡による形態観察を行った。図23図24に結果を示す。
【0057】
図23は、被検試料(グリセリルモノカプレート)含有培地で培養したカンジダ・アルビカンスの顕微鏡観察図を示し、図24は、コントロール(DMSO)含有培地で培養したカンジダ・アルビカンスを示している。図23では大部分が酵母型の形態で存在するのに対し、図24では大部分が菌糸状の形態で存在することが分かった。また前記1,2の試験によれば、グリセリルモノカプレートを用いた試験ではバイオフィルムが形成されず、一方コントールではバイオフィルムが形成されている。このことから、グリセリルモノカプレートは、カンジダ・アルビカンスの形態を酵母形態から菌糸状形態へ移行するのを抑制することにより、結果として優れたバイオフィルム抑制力を有するものと推測される。
なお、グリセリルモノカプレート以外にも、本発明に係るバイオフィルム抑制剤の有効成分として使用することができる化合物についても同様の試験を行ったが、上記と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のバイオフィルム抑制剤による、カンジダ菌に対する優れたバイオフィルム抑制力を利用することで、洗浄剤、化粧品、食品、医薬部外品、口腔衛生製品等のバイオフィルム抑制対象物の配合成分として好適に利用可能である。
図1
図2
図3
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図6
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図8
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図10
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図12
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図19
図20
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図22
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図24