特許第6231266号(P6231266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231266
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】電気自動車向け消火システム
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/07 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   A62C3/07 Z
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-179174(P2012-179174)
(22)【出願日】2012年8月13日
(65)【公開番号】特開2014-36713(P2014-36713A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年5月18日
【審判番号】不服2016-16755(P2016-16755/J1)
【審判請求日】2016年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】茨木 博
【合議体】
【審判長】 佐々木 芳枝
【審判官】 三島木 英宏
【審判官】 槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−142419(JP,A)
【文献】 特開平10−247527(JP,A)
【文献】 実開昭59−188674(JP,U)
【文献】 国際公開第2011/161792(WO,A1)
【文献】 特開2007−250545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00 - 99/00 ,
H01M 10/42 - 10/48 ,
H01M 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状を備えた複数の単電池を収納容器に収納した蓄電装置と、
前記収納容器内に配置され、前記単電池の異常に伴う火災を検知した場合に、消火用エアロゾルを噴出して消火する発煙消火装置と、
を備えた電気自動車向け消火システムであって、
前記収納容器は、前記複数の単電池及び前記発煙消火装置を配列して収納する電池収納部を備え、
前記発煙消火装置は、
前記収納容器内に消火用エアロゾルを噴出する噴出口が設けられ、前記単電池と同様な円筒形状の筐体と、
前記筐体に収納され、燃焼により前記消火用エアロゾルを発生する固形消火剤と、
前記全ての単電池の直上を通過するよう布設され、前記単電池の異常に伴う火災を検知する熱感知ケーブルと、
前記熱感知ケーブルにより前記収納容器内の火災を検知した場合に、ヒータの通電加熱により前記固形消火剤に点火して燃焼させる点火回路部と、
前記点火回路部に電源を供給する電池電源と、
を備え、
前記電池収納部は、
所定数の前記単電池を配列して収納する電池収納区画と、
前記電池収納区画の略中央に配置され、前記発煙消火装置を収納する少なくも1つの消火装置収納区画と、
を備えたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項2】
円筒形状を備えた複数の単電池を収納容器に収納した蓄電装置と、
前記収納容器内に配置され、前記単電池の異常に伴う火災を検知した場合に、消火用エアロゾルを噴出して消火する発煙消火装置と、
を備えた電気自動車向け消火システムであって、
前記収納容器は、前記複数の単電池及び前記発煙消火装置を配列して収納する電池収納部を備え、
前記発煙消火装置は、
前記収納容器内に消火用エアロゾルを噴出する噴出口が設けられ、前記単電池と同様な円筒形状の筐体と、
前記筐体に収納され、燃焼により前記消火用エアロゾルを発生する固形消火剤と、
前記全ての単電池の直上を通過するように布設され、前記単電池の異常に伴う火災を検知する熱感知ケーブルと、
前記熱感知ケーブルにより前記収納容器内の火災を検知した場合、又は外部から点火制御信号が入力された場合の何れかの場合に、ヒータの通電加熱により前記固形消火剤に点火して燃焼させる点火回路部と、
前記点火回路部に電源を供給する電池電源と、
を備えたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項3】
請求項記載の電気自動車向け消火システムであって、前記電池収納部は、所定数の前記単電池を配列して収納する電池収納区画と、当該電池収納区画に隣接して前記発煙消火装置を収納する少なくも1つの消火装置収納区画とを備えたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項4】
請求項記載の電気自動車向け消火システムであって、前記電池収納部は、前記消火装置収納区画を前記収納容器の略中央に配置することを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項5】
請求項1又は2記載の電気自動車向け消火システムにであって、前記発煙消火装置は、
前記筐体に設けられ、前記点火回路部との間を信号線で接続したコネクタと、
前記コネクタに着脱自在に設けられ、前記熱感知ケーブル及び前記収納容器から外部に引き出される信号線を前記コネクタに接続するプラグと、
を備えことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項6】
請求項1又は2記載の電気自動車向け消火システムにであって
前記熱感知ケーブルは、火災による熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線を短絡状態に接触させ、
前記点火回路部は、前記熱感知ケーブルの短絡を検出した場合に、前記ヒータの通電加熱により前記固形消火剤に点火して燃焼させることを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項7】
請求項1又は2記載の電気自動車向け消火システムに於いて、前記点火回路部は、前記ヒータの通電加熱により前記固形消火剤に点火して燃焼させた場合に、消火起動信号を前記コネクタ及びプラグを介して外部に出力することを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項8】
請求項1又は2記載の電気自動車向け消火システムにであって
前記発煙消火装置の筐体は、
長手方向の一端を開口した円筒形状の筐体本体と、
噴出口を備え、前記筐体本体の開口に装着された蓋部材と、
前記筐体本体の内部に支持部材を介して浮いた状態に配置され、前記固形消火剤を収納した消火剤収納ケースと、
前記消火剤収納ケースから噴出した前記消火用エアロゾルを前記噴出口に導く煙道を形成する煙道構造と、
前記煙道に配置された火炎噴出防止部材と、
を備えたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状を備えた複数の単電池を配列して収納したケース内に発煙消火装置を設け、単電池の異常に伴う火災を検知して消火する電気自動車向け消火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンや軽油を燃料としたエンジンを動力源とする自動車以外に、エンジンとモーターを搭載したハイブリッド自動車が急増している。この背景には原油価格の上昇により、低燃費車の需要が増加したことや、環境負荷低減の意識向上によりCO2排出量の少ないハイブリッド自動車の需要が増加したことにある。さらに、このようなハイブリッド車に加え、電気モーターのみを動力源とし、走行時のCO2排出量がゼロである電気自動車も徐々に普及がはじまっている。
【0003】
ハイブリッド自動車や電気自動車(以下、総称して「電気自動車」と呼ぶ)の車体には、複数の単電池を配列して直列且つ並列接続した高電圧且つ大容量の蓄電装置が搭載されている。蓄電装置はセルと呼ばれる単電池を複数接続した組電池で構成されている。また蓄電装置に搭載する単電池は、従来のニッケル・水素の単電池から一般家庭でも充電が可能なリチウムイオンの単電池へ移行しており、今後も単電池の高性能化が期待されている。このような高性能で大容量蓄電装置の特性を利用して、電気料金が安価となる夜間に電気自動車を充電し、日中は電気自動車の動力源や生活用電源として使用するほか、災害等による停電時は、電気自動車の蓄電装置を生活用電源の代替として使用する事例も出ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−129009号公報
【特許文献2】特開2011−254906号公報
【特許文献3】特開2009−142419号公報
【特許文献4】特開2009−142420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような電気自動車は、従来のエンジン自動車に見られない車両火災が想定される。エンジン自動車は燃料タンクにガソリンや軽油を搭載しており、万が一、車両火災が発生した場合は、油火災として取扱い、油火災に対応した消火設備によって消火活動をおこなっている。具体的には、泡水溶液消火設備や水噴霧設備といった水系消火設備が主流であり、この他に消火器などの粉末消火設備やガス消火設備が車両火災に対応する消火設備として使用されている。しかし、現在普及が始まっている電気自動車は、単電池を複数接続した組電池で構成された高電圧の大容量の蓄電装置を搭載しており、蓄電装置に設けた単電池において、内部ショートや過充電等の種々の原因で熱暴走し、電池温度が著しく上昇し、数百度まで達する。そして電池温度が上昇すると、電池内部の圧力が上昇し、その結果、単電池の破裂や発火が起き、蓄電装置を火元とした車両火災となり、エンジン自動車とは異なる電気火災が発生する恐れがある。
【0006】
一方、建築物等に併設された駐車場は、泡水溶液消火設備や水噴霧設備といった水系消火設備が主流であり、電気自動車から生じる電気火災の消火には対応しておらず、それにもかかわらず電気自動車の入庫を制限する駐車場はほとんど見当たらない。また、一般住宅で電気自動車の充電や生活用電源代替設備として使用する際も、電気火災に対応した設備は住宅設備として持ち合わせていない。電気火災が発生した際に、従来の水系消火設備による消火活動は、火災消火或いは抑制するどころか、感電事故等の二次災害を誘発する危険性が高い。
【0007】
特許文献1は、ラミネートフィルムでパッキングされたリチウムイオン電池パックを収納する電池ケースにおいて、リチウムイオン電池パックを加圧するために、液体の消火剤を封入した加圧バッグが電池ケース内に備えられていることが開示されている。リチウムイオン電池に異常加熱があった場合は、リチウムイオン電池パックが膨張して加圧バッグを破裂させ、加圧バッグ内の液体消火剤が電池ケース内にばらまかれることによって、発火を抑制するものである。この場合、電池パックの発火を抑制することはできるが、引き続き電池パックの異常加熱が継続して発火した場合は、電池ケース内にばらまかれた消火剤は既に蒸発していると考えられ、消火を行うことができず、大きな車両火災へ発展してしまう可能性が高い。
【0008】
本発明は、蓄電装置に複数配置した単電池の異常に起因した電気火災を自動検出して消火抑制する電気自動車向け消火システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(電気自動車向け消火システム)
本発明は、
円筒形状を備えた複数の単電池を収納容器に収納した蓄電装置と、
収納容器内に配置され、単電池の異常に伴う火災を検知した場合に、消火用エアロゾルを噴出して消火する発煙消火装置と、
を備えた電気自動車向け消火システムであって、
収納容器は、複数の単電池及び発煙消火装置を配列して収納する電池収納部を備え、
発煙消火装置は、
収納容器内に消火用エアロゾルを噴出する噴出口が設けられ、単電池と同様な円筒形状の筐体と、
筐体に収納され、燃焼により消火用エアロゾルを発生する固形消火剤と、
全ての単電池の直上を通過するよう布設され、単電池の異常に伴う火災を検知する熱感知ケーブルと、
熱感知ケーブルにより収納容器内の火災を検知した場合に、ヒータの通電加熱により固形消火剤に点火して燃焼させる点火回路部と、
点火回路部に電源を供給する電池電源と、
を備え、
電池収納部は、
所定数の単電池を配列して収納する電池収納区画と、
電池収納区画の略中央に配置され、発煙消火装置を収納する少なくも1つの消火装置収納区画と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
(電気自動車向け消火システム)
本発明は、
円筒形状を備えた複数の単電池を収納容器に収納した蓄電装置と、
収納容器内に配置され、単電池の異常に伴う火災を検知した場合に、消火用エアロゾルを噴出して消火する発煙消火装置と、
を備えた電気自動車向け消火システムであって、
収納容器は、複数の単電池及び発煙消火装置を配列して収納する電池収納部を備え、
発煙消火装置は、
収納容器内に消火用エアロゾルを噴出する噴出口が設けられ、単電池と同様な円筒形状の筐体と、
筐体に収納され、燃焼により前記消火用エアロゾルを発生する固形消火剤と、
全ての単電池の直上を通過するように布設され、単電池の異常に伴う火災を検知する熱感知ケーブルと、
熱感知ケーブルにより収納容器内の火災を検知した場合、又は外部の車両用制御装置から点火制御信号が入力された場合の少なくとも何れかの場合に、ヒータの通電加熱により固形消火剤に点火して燃焼させる点火回路部と、
点火回路部に電源を供給する電池電源と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
(電池収納区画と消火装置収納区画)
電池収納部は、所定数の単電池を配列して収納する電池収納区画と、当該電池収納区画に隣接して発煙消火装置を収納する少なくも1つの消火装置収納区画とを備える。また、電池収納部は、消火装置収納区画を収納容器の略中央に配置する。
【0012】
(発煙消火器装置の詳細)
発煙消火装置は、
筐体に設けられ、点火回路部との間を信号線で接続したコネクタと、
コネクタに着脱自在に設けられ、熱感知ケーブル及び収納容器から外部に引き出される信号線をコネクタに接続するプラグと、
を備える。
【0013】
(熱感知ケーブル)
熱感知ケーブルは、火災による熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線を短絡状態に接触させ、
点火回路部は、熱感知ケーブルの短絡を検出した場合に、ヒータの通電加熱により固形消火剤に点火して燃焼させる。
【0014】
(消火起動信号の外部出力)
発煙消火装置の点火回路部は、ヒータの通電加熱により固形消火剤に点火して燃焼させた場合に、消火起動信号をコネクタ及びプラグを介して外部に出力する。
【0015】
(発煙消火装置の筐体構造)
発煙消火装置の筐体は、
長手方向の一端開口した円筒形状の筐体本体と、
噴出口を備え、筐体本体の開口に装着された蓋部材と、
筐体本体の内部に支持部材を介して浮いた状態に配置され、固形消火剤を収納した消火剤収納ケースと、
消火剤収納ケースから噴出した消火用エアロゾルを噴出口に導く煙道を形成する煙道構造と、
煙道に配置された火炎噴出防止部材と、
を備える。
【発明の効果】
【0016】
(基本的な効果)
本発明の電気自動車向け消火システムは、円筒形状を備えた複数の単電池を配列して収納した蓄電装置の収納容器内に、単電池と同じ円筒形状を備えた発煙消火装置を、電池収納位置の空き位置に配置し、発煙消火装置は単電池の異常に伴う火災を検知した場合に、消火用エアロゾルを噴出して消火するようにしたため、蓄電装置に設けた単電池が、内部ショートや過充電、電気自動車の衝突事故などに伴う損壊等の種々の原因で熱暴走し、電池温度が著しく上昇し、その結果、単電池の破裂や発火が起きた場合に、単電池の異常に伴う電気火災を検知して発煙消火装置から消火用エアロゾルを噴出し、電気火災を蓄電装置の収納容器内で消火抑制し、蓄電装置を火元として大きな自動車火災に拡大してしまうことを未然に防止することを可能とする。
【0017】
また、本発明の電気自動車向け消火システムは、発煙消火装置を単電池と同じ円筒形状とし、蓄電装置の収納容器内に単電池と同様に収納配置することを可能としたため、蓄電装置の電池収納部は、所定数の単電池を配列して収納する電池収納区画と、当該電池収納区画に隣接した発煙消火装置を収納する少なくも1つの消火装置収納区画とし、収納容器内に単電池を収納する区画を一つ余計に確保して、そこに発煙消火装置を収納するだけでよく、発煙消火装置の配置スペースを最小限に抑え、収納容器への組み込みを簡単且つ容易に行うことを可能とする。また、発煙消火装置を設けても、蓄電装置を単体で電気自動車に搭載する場合や、複数の蓄電装置を並べたり重ねたりして電気自動車に搭載する場合、これを妨げることがない。
【0018】
また、発煙消火装置が蓄電装置の収納容器内に噴出する消火用エアロゾルは、固形消火剤を点火・燃焼させることによって発生し、消火用エアロゾルは2μm程度の微粒子であり、その主成分金属の酸化物、炭酸塩或いは燐酸塩或いはその混合物含有する。具体的には、塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどを主成分とし、これに窒素、二酸化炭素、水蒸気などが含まれ、水系消火剤を使用できない電気火災に好適な消火抑制ができる。
【0019】
また、蓄電装置の収納容器内は、外気から遮断された密閉空間であり、発煙消火装置から噴出した消火用エアロゾルは確実に収納容器内に滞留して外部に漏れ出すことはなく、単電池の異常で起きた収納容器内の電気火災を、確実に消火抑制することができる。
【0020】
(発煙消火器装置による効果)
また、発煙消火装置は、円筒形状の筐体、固形消火剤、火災検知部、点火回路部、コネクタ、プラグ、電池電源を備えるようにしたため、蓄電装置の収納容器内に、発煙消火装置は完全に独立した装置として内蔵することを可能とし、蓄電装置側の変更は、電池収納区画を一つ余計に確保するといった簡単な変更だけで済み、蓄電装置の収納容器内に発煙消火装置を、簡単且つ容易に配置して、単電池の異常に伴う電気火災の消火抑制を可能とする。
【0021】
また蓄電装置の収納容器内に収納した単電池の異常に伴う電気火災の検知は、例えば熱感知ケーブルが単電池の破裂や発火に伴う熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線を短絡状態に接触させることで検知しており、温度センサなどを使用した場合に必要な火災を検知する閾値温度の設定や、閾値と検出温度の比較判断を不要とし、簡単且つ確実に、単電池の異常に伴う電気火災を検知して消火用エアロゾルを収納容器内に噴出し、消火抑制できる。
【0022】
(熱感知ケーブルの布設による効果)
また、熱感知ケーブルを蓄電装置の収納容器内に収納して配列している全ての単電池の近傍を横切るように布設するため、熱感知ケーブルの布設という簡単な構成により、全ての単電池の各々に対し、個別的に異常に伴う発火や破裂による火災を確実に検出して、消火用エアロゾルの収納容器内噴出による消火抑制ができる。
【0023】
(消火起動信号の外部出力)
また、発煙消火装置の点火回路部は、ヒータの通電加熱により固形消火剤に点火して燃焼させた場合に、消火起動信号をコネクタ及びプラグを介して外部に出力するため、例えば消火起動信号に基づき運転表示パネルに消火起動を表示して報知することを可能とする。
【0024】
(発煙消火装置の筐体構造による効果)
発煙消火装置の筐体は、筐体本体、噴射口を備えた蓋部材、消火剤収納ケース、煙道構造、火炎噴出防止部材、点火回路部により構成しており、水系の消火装置に比べると、単電池の円筒形状と同じコンパクトで且つ軽量な消火装置とすることができ、蓄電装置の収納容器に内蔵しても、蓄電装置の電気自動車への搭載スペースに大きく影響することはない。
【0025】
また消火に必要な消火用エアロゾルを得るための固形消火剤の重量は、例えば1立方メートル当たり80グラム〜200グラム程度となることが知られており、蓄電装置の収納容器内容積は、トラックやバスなどの大型電気自動車であっても、0.25立方メートル程度であり、これに必要な固形消火剤は20グラム〜50グラム程度であり、実際には、収納容器内に複数の単電池を配列して収納することから、実質的な収納容器内の空き容積はそれよりも更に小さく、必要な固形消火剤が少なくて済むため、単電池の円筒形状と同じコンパクトなサイズであっても、十分な消火抑制性能を確保することが可能である。
【0026】
また、必要とする固形消火剤の量が少なくて済むことで、固形消火剤を燃焼して消火用エアロゾルを発生しても、固形消火剤の燃焼による炎や発熱を少なくすることができ、単電池による電気火災を逆に煽ってしまうような不具合は起きない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明による電気自動車向け消火システムの実施形態を示した説明図
図2図1の蓄電装置の分解組立て状態を示した説明図
図3図1の収納容器蓋を外して収納容器本体の内部を示した平面図
図4図3の単電池の電気接続を示した回路図
図5】発煙消火装置の軸方向の断面を示した断面図
図6図5の噴出側の端面を示した説明図
図7】発煙消火装置に内蔵した点火回路部の実施形態を示した回路図
図8】発煙消火装置を起動して消火用エアロゾルを発生する状態を示した説明図
図9】発煙消火装置を設けた蓄電装置を含む電気自動車システムを示したブロック図
【発明を実施するための形態】
【0028】
[電気自動車向け消火システムの構成]
図1は本発明による電気自動車向け消火システムにおける発煙消火装置を内蔵した蓄電装置を示した斜視図、図2は蓄電装置の分解組立て状態を示した説明図、図3は収納容器本体内を示した平面図である。
【0029】
(蓄電装置の概要)
図1図2及び図3に示すように、蓄電装置10は、上部に開口した箱型の収納容器本体11と、収納容器本体11の開口に装着してボルト13で固定した収納容器蓋12を備え、収納容器本体11と収納容器蓋12で蓄電装置10の収納容器を構成する。なお、蓄電装置10は、電池モジュール或いは電池パックとも呼ばれる。また、電気自動車には、蓄電装置14を必要に応じて複数台搭載する。
【0030】
収納容器本体11の長手方向の一端に位置する手前側の側壁には、蓄電装置10の正極出力端子14aと負極出力端子14bを取付けている。
【0031】
収納容器本体11の電池収納部11aには、組電池25を収納している。組電池25は、複数の電池収納区画15aを備えた電池収納箱15に、円筒形状を持つ複数の単電池26を配列している。単電池26は、電池セルとして知られたリチウムイオン電池等の非水電解質二次電池であり、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成した円筒形状の外装容器に、非水電解液と共に電極体を備えている。単電池26の電極体は、例えば、正極板及び負極板をその間にセパレータを介在させて渦巻き状に捲回すことにより、円筒形状に形成している。単電池26の外装容器の上端は正極端子となり、下端は負極端子となる。
【0032】
ここで、リチウムイオン電池とした場合の単電池26のサイズは、例えば(直径R=80mm〜120mm)×(高さH=80mm〜120mm)程度となる。
【0033】
組電池25は、例えば24区画に分けた電池収納箱15の内の23区画を電池収納区画15aに使用し、23個の単電池26を配列して直列接続している。ここで、リチウムイオン電池の平均セル電圧を例えば3.6ボルトとすると、図4の回路図に示す23個の単電池26の直列接続により、組電池25の電圧は82.8ボルトとなり、蓄電装置10の正極出力端子14aと負極出力端子14bの電圧も82.8ボルトとなる。なお、単電池26の数は、必要とする組電池の必要電圧に対応した数とする。また、複数の単電池26の接続は、所定数の単電池を並列接続した組電池とし、この組電池を複数直列接続しても良い。
【0034】
(発煙消火装置の概要)
図1図2及び図3に示すように、蓄電装置10における収納容器本体11側には、単電池26と同じ円筒形状、即ち単電池26と同じ直径R及び高さHを持った円筒形状の発煙消火装置16を、組電池25を構成する複数の単電池26と共に電池収納箱15に収納している。
【0035】
即ち、電池収納箱15は、24区画の内の23区画を電池収納区画15aとして23個の単電池26を収納し、残り1区画を消火装置収納区画15bに割り当て、そこに発煙消火装置16を収納している。
【0036】
発煙消火装置16は、蓄電装置10の収納容器内に収納した単電池26の異常に伴う火災を検知した場合に、固形消火剤の燃焼により発生した消火用エアロゾルを収納容器内に噴出して消火する。
【0037】
なお、本実施形態では、電池収納箱15の奥左隅となるコーナー区画を消火装置収納区画15bとして発煙消火装置16を収納しているが、24区画の中の任意の1区画を消火装置収納区画15bとして発煙消火装置16を収納してもよい。例えば、収納容器内部に効率良く消火用エアロゾルを噴出して拡散させるため、収納容器の略中央に位置する区画を消火装置収納区画15bに割り当てて発煙消火装置16を収納する。
【0038】
発煙消火装置16は、単電池26と同じサイズの円筒形状であり、電池収納箱15の消火装置収納区画15bに収納し、電池収納箱15を本体収納容器11の電池収納部11aに組み込んだ状態で、コネクタ30を設けた上端面に形成した噴出口28から消火用エアロゾルを収納容器内に噴出可能としている。また、発煙消火装置16のコネクタ30に対しプラグ52を装着することで、火災検知部として機能する熱感知ケーブル32と、信号線33、34を発煙消火装置16に接続している。
【0039】
熱感知ケーブル32は、ビニールなどの樹脂で絶縁被覆した2本の撚られた信号線であり、2本の信号線の間に発煙消火装置16から電圧を印加しており、火災による熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線が短絡状態に接触し、感知電流が流れることで火災を検知する。
【0040】
コネクタ30及びプラグ52を介して収納容器内に引き出された熱感知ケーブル32は、図3に示すように、収納容器本体11内に収納している全ての単電池26の直上を通過するように布設し、単電池26の各々の異常に伴う火災による熱を検知可能としている。
【0041】
また、コネクタ30及びプラグ52を介して引き出した信号線33、34は、収納容器本体11の長手方向の一端の側面に設けたコネクタ24に接続している。信号線33は、外部から点火制御信号を入力し、発煙消火装置16を遠隔的に動作させる。信号線34は、発煙消火装置16で固形消火剤に点火して燃焼させた場合に消火起動信号を出力する。このためコネクタ24に車両用制御装置側からの信号ケーブルをプラグ接続しておくことで、車両制御装置側からの点火制御信号による発煙消火装置16の動作を可能とし、また、運転表示パネルなどに、発煙消火装置16の起動を表示することを可能とする。
【0042】
[発煙消火装置の構成]
(発煙消火装置の構造)
図5は発煙消火装置の軸方向の断面を示した断面図、及び図6は発煙消火装置の上部端面を示した説明図である。
【0043】
図5及び図6に示すように、本実施形態の発煙消火装置16は、上部に開口した単電池と同じサイズの円筒形状を備えた筐体本体18と、筐体本体18の上部開口に嵌合固定する蓋部材20で構成する。
【0044】
蓋部材20の中央にはコネクタ30を取り付け、その周囲に放射状に噴出口28を形成し、消火用エアロゾルを噴出口28から外部に噴出可能としている。コネクタ30に対しては、熱感知ケーブル32及び信号線33,34を引き出したプラグ52を接続可能としている。
【0045】
発煙消火装置16の内部には消火剤収納ケース36を組み込んでいる。消火剤収納ケース36は、下方に開口した円筒形状のケース部材であり、ケース上部に支持部材50を溶接などで固定し、支持部材50の両側を筐体本体18内の所定位置に溶接などで固定した支持部材48に当接し、ねじ51により固定し、筐体本体18の内部に浮いた状態となるように消火剤収納ケース36を位置決め支持している。
【0046】
また消火剤収納ケース36の下部については、下方開口44の左右方向に屈曲した一対の支持片46、及び側面を下方に延在した一対の延在片56を形成し、筐体本体18内に収納した状態で、筐体本体18の内部に浮いた状態となるように消火剤収納ケース36を位置決め支持している。
【0047】
この消火剤収納ケース36の支持構造は、筐体本体18に対する接触を最小限に抑え、固形消火剤38の燃焼による熱が外側の筐体本体18側に伝わり難い空気層を介在した断熱構造としている。
【0048】
ここで、筐体本体18、蓋部材20、消火剤収納ケース36及び支持部材48、50は、固形消火剤38の燃焼により消火用エアロゾルを発生することから、固形消火剤38の燃焼による熱に耐える構造とするため、金属材料で作られている。
【0049】
消火剤収納ケース36の内部には固形消火剤38を収納し、固形消火剤38に対してはヒータ40を取り付けている。
【0050】
また消火剤収納ケース36の上部には支持部材50を介して点火回路部42を筐体本体18の内部に浮いた状態となるように支持している。点火回路部42は電池電源(一次電池)を内蔵しており、コネクタ30との間に、プラグ52を介して熱感知ケーブル32、点火制御信号を入力する信号線33、及び消火起動信号を出力する信号線34を接続するための信号線を接続し、またヒータ40に対する信号線も接続している。
【0051】
点火回路部42は、単電池の異常に伴う火災を熱感知ケーブル32の短絡により検出した場合に、ヒータ40に通電して加熱することにより固形消火剤38に点火して燃焼させる。また、信号線33を介して外部から点火制御信号を入力した場合にも、ヒータ40に通電して加熱することにより固形消火剤38に点火して燃焼させる。
【0052】
本実施形態で使用する固形消火剤38は、燃焼により消火用エアロゾルを発生する。消火用エアロゾルは、2μm程度の超微粒子であり、その主成分は金属の酸化物、炭酸塩あるいは燐酸塩あるいはその混合物を含有している。

【0053】
具体的は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどを主成分とし、これに窒素、二酸化炭素、水蒸気などが含まれている。このような主成分を持つ消火用エアロゾルにあっては、消火用エアロゾルそのものに毒性がなく、環境に優しい発生ガスということができる
【0054】
固形消火剤38の燃焼により発生した消火用エアロゾルによる消火作用は、蓄電装置の収納容器内を消火用エアロゾルで満たすことで、火災の発生により燃焼している燃焼の活性中心を消滅、抑制する作用により消火を行うものであり、水系消火剤を使用することのできない電気火災に好適な消火作用が得られる。
【0055】
また固形消火剤38の量は蓄電装置の収納容器内の容積に応じて決まる。閉鎖空間となる消火対象エリア1立方メートル当たりを消火するに必要な消火用エアロゾルを発生するための固形消火剤38の重量は、80グラム〜200グラム程度であり、これに基づき、消火対象とする蓄電装置の収納容器内の容積に応じた量の固形消火剤38を消火剤収納ケース36に収納している。
【0056】
本実施形態の発煙消火装置16が消火対象とする自動車向け蓄電装置の収納容器内容積は、例えば0.1立方メートル〜0.25立方メートル程度であり、これに複数の単電池で構成した組電池を収納することから、実際の空きスペースの容積は更に小さなものとなる。例えば蓄電装置の収納容器内容積を0.1立方メートルとした場合に必要な固形消火剤の重量は8グラム〜20グラムとなり、また0.25立方メートルとした場合に必要な固形消火剤の重量は20グラム〜50グラムとなる。
【0057】
発煙消火装置16の大きさは、必要とする固形消火剤38の重量で決まり、最大でも50グラム以下で済むことから、この程度の重量の固形消火剤38を収納する筐体本体18は単電池の外容器サイズ程度まで小型化が可能となる。
【0058】
固形消火剤38を収納した発煙消火装置16の内部には、消火剤収納ケース36の下方からその周囲を通って上端の噴出口28へ至る煙道45を形成している。このように下方から上方に回りこむ煙道45の形成は、固形消火剤38と噴出口28との距離を離し、且つ炎の出る向きと噴出口28が直線方向とならないよう煙道45を屈曲させた構成とし、固形消火剤38の燃焼による炎が噴出口28から蓄電装置の収納容器内に吹き出さないようにしている。
【0059】
また固形消火剤38による炎の噴出を更に効果的に防止するためには、必要に応じて煙道45の途中に、金網などのエアロゾルだけを通過するような火炎噴出防止部材54を配置することが望ましい。本実施形態では、消火剤収納ケース36の下方開口44から延在した延在片56の内側に火炎噴出防止部材54を配置している。
【0060】
火炎噴出防止部材54の具体例としては、ガラスや磁器などの細径パイプを複数並べて炎の噴出しを抑制する構造、複数の金網を分離配置して炎の噴出しを抑制する構造、ガラスや磁器などのボールを複数配置して炎の噴出しを抑制する構造、更には複数の金網の間にガラスや磁器などのボールを複数配置して炎の噴出しを抑制する構造などがある。
【0061】
(点火回路部の構成)
図7は、図5の発煙消火装置の内部に配置した点火回路部の実施形態を示した回路図である。図7に示すように、点火回路部42は、プラグ52及びコネクタ30を介して蓄電装置の収納容器内に布線した熱感知ケーブル32、点火制御信号を入力する信号線33、及び消火起動信号を出力する信号線34を接続している。なお、点火制御信号を入力する信号線33は通常監視状態で開放状態にあり、点火制御信号を入力する場合は、短絡状態となる。
【0062】
点火回路部42には、トランジスタ68、リレー70、抵抗62,64,66を備えたヒータ駆動回路及び電池電源60を設ける。電池電源60は釦電池などの一次電池であり、外部からの電源供給を不要としている。
【0063】
トランジスタ68は、抵抗62,64の分圧電圧を、抵抗66を介してベースに印加しており、熱感知ケーブル32には抵抗62,64を介して電池電源60からの電源電圧を常時、印加している。ここで、通常監視状態でトランジスタ68はオフであり、また熱感知ケーブル32の一方の信号線には電源電圧のみが印加されるだけで電流は流れておらず、点火回路部42の消費電量は漏れ電流などに起因した極く僅かな消費電流だけであり、電池電源60として一次電池を使用しても、必要にして十分な電池寿命を確保可能である。
【0064】
トランジスタ68はPNPトランジスタであり、コレクタ側に負荷としてリレー70を接続しており、通常監視状態にあっては、熱感知ケーブル32は2本の信号線のビニールなどによる絶縁被覆で開放状態にあることから、電池電源60から電流は流れず、トランジスタ68はエミッタ,ベース間の電圧が0ボルトであることからオフ状態となっている。
【0065】
リレー70は、その常開リレー接点74を介してヒータ40を接続している。また、リレー70の常開リレー接点72をトランジスタ68のエミッタ・コレクタ間に接続し、ラッチ回路を形成している。更に、コネクタ30の端子に消火起動信号を出力するためのリレー接点76を接続している。
【0066】
蓄電装置に収納した単電池の異常発熱に伴う火災の熱を受けて熱感知ケーブル32の絶縁被覆であるビニールが溶け、2本の信号線が接触状態になると、抵抗62、64を介して熱感知ケーブル32に電流が流れる。このため、抵抗62に生ずる電圧によりトランジスタ68のエミッタ・ベース間にバイアス電圧が加わり、これによってトランジスタ68がオンしてリレー70を作動する。
【0067】
リレー70が作動すると常開リレー接点74が閉じ、ヒータ40に通電し、ヒータ40の通電による加熱で固形消火剤38に点火し、固形消火剤38の燃焼により消火用エアロゾルを発生して、噴出口28から収納容器内に消火用エアロゾルを噴出させる。
【0068】
またリレー70の作動によりリレー接点72が閉じることで、リレー70を作動状態にラッチし、これによって、熱感知ケーブル32の短絡状態の変動による誤動作を防ぐようにしている。
【0069】
更に、リレー接点76が閉じることで、信号線34を介して外部に対し消火動作が行われたことを示す消火起動信号を出力する。本実施形態の発煙消火装置16からの消火起動信号は、車両制御装置へ送られ、運転表示パネルに電池火災に対する消火装置の起動を表示して知らせる。
【0070】
一方、運転者の操作や衝突事故検知などに基づき、例えば車両制御装置側から点火制御信号が入力されると、信号線33は短絡状態となり、熱感知ケーブル32により火災検知した場合と同様に、抵抗62、64を介して信号線33に電流が流れてトランジスタ68がオンし、リレー70の作動で常開リレー接点74が閉じてヒータ40に通電し、加熱で固形消火剤38に点火し、固形消火剤38の燃焼により消火用エアロゾルを発生して、噴出口28から収納容器内に消火用エアロゾルを噴出させる。
【0071】
(発煙消火装置の動作)
図8は発煙消火装置の動作を示した説明図である。図8において、発煙消火装置16は、収納容器本体11に組み込んだ電池収納箱15の消火装置収納区画15bに収納しており、隣接した電池収納区画15aの各々には単電池26を収納している。発煙消火装置16に収納した点火回路部42が蓄電装置の収納容器内に布設した熱感知ケーブル32の火災による短絡状態を検知した場合、又は外部から点火制御信号が入力した場合、ヒータ40に通電加熱して固形消火剤38に点火し、固形消火剤38が燃焼して消火用エアロゾルを発生する。
【0072】
固形消火剤38の燃焼により発生した消火用エアロゾルは、消火剤収納ケース36の下方開口から火炎噴出防止部材54を介して噴き出した後、周囲の空洞である煙道45を通って上方に移動し、蓋部材20に形成した噴出口28から収納容器内の空間に消火用エアロゾル78を噴出し、収納容器内を消火用エアロゾル78で満たし、単電池26の異常による電気火災を消火抑制する。
【0073】
この場合、固形消火剤38による燃焼の炎は下方に噴き出し、また、火炎噴出防止部材54が炎の吹き出しを抑制し、炎が上方に折り返している煙道45を迂回して蓄電装置の収納容器内に噴き出すようなことはない。また固形消火剤38の燃焼により消火剤収納ケース36が加熱されるが、筐体本体18及び蓋部材20に対する接触は支持片46、支持部材48,50及び延在片56により、ほぼ浮動状態に支持して接触部分が少ない断熱構造としているため、熱伝導による外側の筐体本体18及び蓋部材20の温度上昇を抑制し、発煙消火装置16の過熱が火災の要因となることを防止する。
【0074】
(電気自動車システムの概要)
図9は、単電池と同じ円筒形状をもつ発煙消火装置を収納容器内に収納した蓄電装置を含む電気自動車システムの概略を示したブロックであり、ハイブリッド自動車を例にとっている。図9において、電気自動車システムは、モータジェネレータ80,インバータ装置82、車両制御装置90、および蓄電装置10を備える。
【0075】
モータジェネレータ80は、例えば三相交流機である。モータジェネレータ80は、車両の力行時(駆動走行時)及び内燃機関であるエンジンを始動する時など、回転動力が必要な運転モードでは、モータ駆動し、発生した回転動力を車輪及びエンジンなどの被駆動体に供給する。この場合、モータジェネレータ80に、蓄電装置10からインバータ装置82を介して、直流電力を三相交流電力に変換して供給する。
【0076】
また、モータジェネレータ80は、車両の減速、制動などの回生、及び蓄電装置10の充電が必要な場合などの、発電が必要な運転モードでは、車輪或いはエンジンからの駆動力によって駆動し、ジェネレータとして三相交流電力を発生させる。この場合、モータジェネレータ80からの三相交流電力を、インバータ装置82を介して直流電力に変換し、蓄電装置10に供給し、電力を蓄積する。
【0077】
蓄電装置10は、例えば組電池25を備え、組電池25を構成する電池収納箱15には、図2図3及び図4に示したように、複数の単電池26を収納し、電気的に直列に接続している。
【0078】
また蓄電装置10には、バッテリー制御部88とセル制御部86を設けている。バッテリー制御部88は、蓄電装置10の状態を管理及び制御すると共に、上位制御装置である車両制御装置90やインバータ装置82の制御部に蓄電装置10の状態や許容充放電電力などの充放電制御指令を通知する。バッテリー制御部88による蓄電装置10の状態の管理及び制御には、バッテリー電圧及び電流の計測、蓄電状態及び劣化状態などの演算、各組電池25の温度の計測、セル制御部86に対するセル電圧を計測するための指令、セル蓄電量を調整するための指令などの出力などがある。
【0079】
セル制御部86は、バッテリー制御部88からの指令によって複数の単電池(セル電池)の状態の管理及び制御を行う単電池毎に設けた複数の集積回路によって構成する。複数の単電池の状態の管理及び制御には、各単電池の電圧の計測,各単電池の蓄電量の調整などがある。
【0080】
断接部84は、リレー機構を備え、電気自動車システムの起動時には蓄電装置10とインバータ装置82との間を導通し、電気自動車システムの停止時及び異常時には蓄電装置10とインバータ装置82との間を遮断する。
【0081】
ここで、蓄電装置10の断接部84、セル制御部86及びバッテリー制御部88は、図1に示した蓄電装置10とは別に設けた制御装置の収納容器内に配置し、この制御装置を蓄電装置10と共に電気自動車の電池搭載場所に配置している。
【0082】
蓄電装置10の収納容器内には、組電池25に示すように、単電池と同じ円筒形状をもつ発煙消火装置16を収納し、発煙消火装置16から引き出した熱感知ケーブル32を組電池25を収納した収納容器内に布設し、また、点火制御信号を入力する信号線33と消火起動信号を出力する信号線34をバッテリー制御部88に接続し、運転者の操作や衝突検知などに基づき車両制御装置90が出力した点火制御信号をバッテリー制御装置88を経由して入力し、また、バッテリー制御部88を介して消火起動信号を車両制御装置90へ送信し、運転表示パネルに消火起動を表示可能としている。また、バッテリー制御部は、点火制御信号を入力する制御線33から、発煙消火装置16の点火回路部42に一次電池として搭載される電池電源60の電圧監視をおこなうことができ、電池電源60の電圧低下の際は一次電池の交換を利用者に通知することも可能である。
【0083】
[本発明の変形例]
上記の実施形態にあっては、組電池を構成する電池収納箱を例えば24区画に分け、そのうちの1区画を消火装置収納区画に割り当てて発煙消火装置16を収納し、残りの区画を電池収納区画に割り当てて単電池を収納しているが、必要に応じて、複数の消火装置収納区画を割り当て、各々に発煙消火装置16を収納し、消火能力を高めるようにしても良い。
【0084】
また、上記の実施形態にあっては、発煙消火装置に一次電池を用いた電池電源を内蔵して点火回路部を動作しているが、蓄電装置の収納容器内に収納している単電池(二次電池)から電源を供給するようにしても良い。
【0085】
また、点火回路部は、上記の実施形態に限定されず、火災による熱感知ケーブルの短絡を検知して固定消火剤に点火する回路機能、外部から点火制御信号を入力して固形消火剤に点火する回路機能、及び消火起動信号を外部に出力する回路機能を備えれば、適宜の回路とすることができる。
【0086】
また、上記の実施形態は、単電池の異常に伴う火災を検知する火災検知部として熱感知ケーブルを設けているが、これ以外に、熱電対、サーミスタ等の温度センサ、レーザパルス光を入射した場合の後方散乱光の強度から温度測定する光ファイバーセンサなどの適宜の火災検知部を設けても良い。
【0087】
また、本実施形態の蓄電装置に組み込む単電池は、電池容器内のガス圧異常により作動してガスを排出するガス排出弁を設けている場合があり、これに伴い蓄電装置に単電池の異常に伴い噴出した一酸化炭素ガスなどの有毒ガスを排ガスする排ガス機構、例えば収納容器内圧が所定値以上の場合に開放する逆止弁を備えている場合があるが、発煙消火装置から蓄電装置の収納容器内に消火用エアロゾルを噴出しても、収納容器内の内圧は排ガス機構を作動する圧力までは上昇せず、消火用エアロゾルが外部に漏れ出して消火効果が下がることはない。
【0088】
また、上記の実施形態で発煙消火装置に設けた点火回路部は、外部から点火制御信号によっても固形消火剤に点火して消火用エアロゾルを発生させているが、これは行わず、熱感知ケーブル等の火災検知部による火災検知のみで固形消火剤に点火して消火用エアロゾルを発生させるようにしても良い。
【0089】
また、上記の実施形態は、ハイブリッド自動車の電気自動車システムを例にとるものであったが、電気モータのみを動力源とする電気自動車の電気自動車システムについても、同様に適用可能である。
【0090】
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0091】
10:蓄電装置
11:収納容器本体
12:収納容器蓋
14a:正極出力端子
14b:負極出力端子
15:電池収納箱
15a:電池収納区画
15b:消火装置収納区画
16:発煙消火装置
18:筐体本体
20:蓋部材
24,30:コネクタ
25:組電池
26:単電池
28:噴出口
32:熱感知ケーブル
33,34:信号線
36:消火剤収納ケース
38:固形消火剤
40:ヒータ
42:点火回路部
44:後部開口
45:煙道
46:支持
48,50:支持部材
52:プラグ
54:火炎噴出防止部材
56:延在部
60:電池電源
68:トランジスタ
70:リレー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9