特許第6231280号(P6231280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231280加工場所へのプロセスガスの供給源を含む粒子ビームシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231280
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】加工場所へのプロセスガスの供給源を含む粒子ビームシステム
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20171106BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20171106BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C23C16/455
   H01J37/317 D
   H01J37/305 A
【請求項の数】21
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-10160(P2013-10160)
(22)【出願日】2013年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-167018(P2013-167018A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年12月3日
(31)【優先権主張番号】10 2012 001 267.5
(32)【優先日】2012年1月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512158505
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコーピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss Microscopy GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】ウルリケ ジール
(72)【発明者】
【氏名】マチアス クナピッヒ
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/060444(WO,A2)
【文献】 特開2000−282241(JP,A)
【文献】 特開2002−016010(JP,A)
【文献】 特開2002−129337(JP,A)
【文献】 特開平01−191411(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0190423(US,A1)
【文献】 特開平11−181566(JP,A)
【文献】 国際公開第01/038602(WO,A1)
【文献】 特許第3921347(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
H01J 37/30−37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスガスを粒子ビームシステムの加工場所に供給するシステムであって、
ガスリザーバと、
該ガスリザーバに接続した第1端部を有するガス導管と、
前記加工場所の近くに位置付けた第1端部を有するパイプと、
前記ガス導管の第2端部と前記パイプの第2端部との間に設けた弁であり、前記ガスリザーバから前記ガス導管及び前記パイプを介して前記加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した弁と、
該弁を開閉し、プロセスガスを前記加工場所に供給しない第1動作モードからプロセスガスを前記加工場所に供給する第2動作モードへ前記システムを切り替え、且つ前記第2動作モードの開始時に前記弁を複数周期で交互に開閉するよう構成したコントローラであり、各周期は、前記弁が開く第1持続時間と、該第1持続時間の直後の前記弁が閉じる第2持続時間とを含み、少なくとも1対の連続周期で、第1周期における前記第1持続時間と前記第2持続時間との比が、対のうちの前記第1周期の後の第2周期における前記第1持続時間と前記第2持続時間との比よりも小さいという関係を満たすコントローラと
を備えたシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記関係は、6対以上の連続周期で満たされるシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシステムにおいて、前記関係は、3対以上の直接連続した周期で満たされるシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記第1動作モードは、1秒よりも長い持続時間を有するシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステムにおいて、第2動作モードは、0.1秒よりも長い持続時間を有するシステム。
【請求項6】
プロセスガスを粒子ビームシステムの加工場所に供給するシステムであって、
前記加工場所の近くに位置付けた第1端部を有するパイプと、
第1ガスリザーバと、
該第1ガスリザーバに接続した第1端部を有する第1ガス導管と、
該第1ガス導管の第2端部と前記パイプの第2端部との間に設けた第1弁であり、前記第1ガスリザーバから前記第1ガス導管及び前記パイプを介して前記加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した第1弁と、
第2ガスリザーバと、
該第2ガスリザーバに接続した第1端部を有する第2ガス導管と、
該第2ガス導管の第2端部と前記パイプの第2端部との間に設けた第2弁であり、前記第2ガスリザーバから前記第2ガス導管及び前記パイプを介して前記加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した少なくとも1つの第2弁と、
前記第1弁及び前記第2弁を複数周期で開閉するよう構成したコントローラであり、各周期は、前記第1弁が開き前記第2弁が閉じる第3持続時間と、前記第1弁が閉じ前記第2弁が開く第4持続時間とを含むコントローラと
を備え、該コントローラを、前記第1ガスリザーバから前記加工場所に供給されるガスの量と前記第2ガスリザーバから前記加工場所に供給されるガスの量との混合比を調整するために、前記第3持続時間と前記第4持続時間との比を変えるようさらに構成したシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムにおいて、各周期は、前記第1弁及び前記第2弁の両方が閉じる少なくとも1つの第5持続時間を含むシステム。
【請求項8】
プロセスガスを粒子ビームシステムの加工場所に供給するシステムであって、
前記加工場所を収容した真空外囲器と、
該真空外囲器を排気する真空ポンプと、
前記真空外囲器内のガス圧を示す圧力信号を発生するよう構成した圧力センサと、
異なるガスを収容する複数のガスリザーバと、
該ガスリザーバに接続した第1端部を有する複数のガス導管と、
前記加工場所の近くに位置付けた第1端部を有するパイプと、
前記複数のガス導管の第2端部と前記パイプの第2端部との間に設けた複数の弁であり、前記複数のガスリザーバから前記複数のガス導管及び前記パイプを介して前記加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した複数の弁と、
前記圧力信号が有する複数の所定値用のメモリを備え、前記複数の弁のそれぞれを前記複数の所定値の1つに関連付け、前記複数ののうち選択した弁を開閉し、プロセスガスを前記加工場所に供給しない第1動作モードからプロセスガスを前記加工場所に供給する第2動作モードへ前記システムを切り替え、且つ該第2動作モードで前記選択した弁を複数周期で開閉するよう構成したコントローラであり、各周期は、前記弁が開く第1持続時間と、該第1持続時間の直後の前記弁が閉じる第2持続時間とを含み、該コントローラを、前記圧力信号が前記選択した弁に関連する所定値に対応する値を有するよう、前記第1持続時間と前記第2持続時間との比を調整するよう構成したコントローラと
を備えたシステム。
【請求項9】
プロセスガスを粒子ビームシステムの加工場所に供給するシステムであって、
前記加工場所の近くに位置付けた第1端部を有するパイプと、
第1ガスリザーバと、
該第1ガスリザーバに接続した第1端部を有する第1ガス導管と、
該第1ガス導管の第2端部と前記パイプの第2端部との間に設けた第1弁であり、前記第1ガスリザーバから前記第1ガス導管及び前記パイプを介して前記加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した第1弁と、
少なくとも1つの第2ガスリザーバと、
該少なくとも1つの第2ガスリザーバに接続した第1端部を有する少なくとも1つの第2ガス導管と、
該少なくとも1つの第2ガス導管の第2端部と前記パイプの第2端部との間に設けた少なくとも1つの第2弁であり、前記少なくとも1つの第2ガスリザーバから前記少なくとも1つの第2ガス導管及び前記パイプを介して前記加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した少なくとも1つの第2弁と、
前記第1ガス導管及び前記少なくとも1つの第2ガス導管を共通して加熱するよう構成したヒータと
を備え、前記第1ガスリザーバは、フッ素ガス及び塩素ガスの一方を収容し、
前記少なくとも1つの第2ガスリザーバは、フッ素及び塩素を含有せず、SiO、O、N、及びHOの少なくとも1つを含むか、又はPt、W、Au、及びCの1つを含む少なくとも1つの化合物を含むガスを収容するシステム。
【請求項10】
請求項に記載のシステムにおいて、前記フッ素ガス及び前記塩素ガスの一方を収容した前記ガスリザーバを能動冷却しないシステム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1つのガス導管は、100mmよりも長い長さを有するシステム。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1つのガス導管は、100mmよりも大きい体積を有するシステム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記弁は前記コントローラが制御するアクチュエータを備えたシステム。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記加工場所へ指向させた粒子ビームを発生するよう構成した粒子ビームカラムをさらに備えたシステム。
【請求項15】
請求項14に記載のシステムにおいて、前記粒子ビームカラムは、前記加工場所へ指向させた電子ビームを発生するよう構成した電子ビームカラムを含むシステム。
【請求項16】
請求項14に記載のシステムにおいて、前記粒子ビームカラムは、前記加工場所へ指向させたイオンビームを発生するよう構成したイオンビームカラムを含むシステム。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記加工場所へ指向させた電子ビームを発生するよう構成した電子ビームカラムと、前記加工場所へ指向させたイオンビームを発生するよう構成したイオンビームカラムとをさらに備えたシステム。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記パイプ、前記少なくとも1つの弁、及び前記少なくとも1つのガス導管の少なくとも一部を、真空外囲器内に共通して収容したシステム。
【請求項19】
請求項18に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1つのガスリザーバを前記真空外囲器内に収容したシステム。
【請求項20】
請求項18に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1つのガスリザーバを、前記真空外囲器の外部に位置付け、前記少なくとも1つのガス導管は、前記真空外囲器の壁を通過するシステム。
【請求項21】
請求項1820のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記弁と前記加工場所との間の距離は、100mmよりも短いシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を加工するために粒子ビーム及びプロセスガスを物体に供給するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2012年1月23日付けで出願された独国特許出願第10 2012 001 267.5号の優先権を主張し、当該出願の全内容を参照により本明細書に援用する。
【0003】
粒子ビームシステムは、物体への材料の堆積又は物体からの材料の除去により小型物体を加工及び修正するために用いられる。堆積させる材料の前駆体を含むプロセスガスを、物体上の加工場所に供給することができ、その場合は前駆体が、材料を加工場所又は加工場所を包囲する領域に堆積させるよう粒子ビームにより活性化される。代替的に、適当なプロセスガスを物体上の加工場所に供給することができ、その場合はプロセスガスが、物体から放出された物体の材料との化合物を形成してその後に除去され得るよう粒子ビームにより活性化される。
【0004】
このようなシステムの一例は、特許文献1から既知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国出願公開第2006/0284090号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、加工場所への1つ又は複数の異なるプロセスガスの供給を可能にし、且つ改良された構成を有し、且つ/又は供給プロセスガスのより精密な制御を可能にするようなシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、プロセスガスを加工場所に供給するシステムは、少なくとも1つのガスリザーバと、少なくとも1つのガスリザーバに接続した第1端部を有する少なくとも1つのガス導管と、加工場所の近くに位置付けた第1端部を有するパイプと、少なくとも1つのガス導管の第2端部とパイプの第2端部との間に設けた弁であり、少なくとも1つのガスリザーバから少なくとも1つのガス導管及びパイプを介して加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した弁とを備える。本明細書中、ガスリザーバは、リザーバから出ることができるガス状物質を提供する材料を貯蔵する任意の装置である。ガスリザーバ内の材料は、気体状態、液体状態、若しくは固体状態であり得るか、又は気体状態、液体状態、若しくは固体状態の混合物を含み得る。ガスリザーバは、例えば、材料を圧縮ガス又は液体として貯蔵するガスボトルを含み得るか、又は昇華によりガスを放出する固体状態でガスを貯蔵する容器を含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態によれば、加工場所にプロセスガスを供給するシステムは、ガスリザーバと加工場所との間のガス供給路に設けた弁を開閉し、プロセスガスを加工場所に供給しない第1動作モードからプロセスガスを加工場所に供給する第2動作モードへシステムを切り替え、且つ第2動作モードの開始時に弁を複数周期で交互に開閉するよう構成したコントローラであり、各周期は、弁が開く第1持続時間と、第1持続時間の直後の弁が閉じる第2持続時間とを含むコントローラを備える。
【0009】
本明細書中の例示的な実施形態によれば、少なくとも1対の連続(subsequent)周期で以下の関係が満たされる。すなわち、対のうちの第1周期における第1持続時間と第2持続時間との比は、対のうちの第1周期の後の第2周期における第1持続時間と第2持続時間との比よりも小さい。
【0010】
さらに他の実施形態によれば、この関係は、6対以上、11対以上、51対以上、又は101対以上の連続周期で満たされる。
【0011】
本明細書中、対を形成する連続周期は、時間的に相互のすぐ隣にある必要はなく、弁を開閉する1つ又は複数の周期を対のうちの2つの連続周期の間に設けることができる。
【0012】
特定の実施形態によれば、上記関係は、1対、3対以上、4対以上、6対以上、又は11対以上の直接連続した(immediately subsequent)周期で満たされる。
【0013】
さらに他の例示的な実施形態によれば、第1動作モードは、1秒よりも長い、数秒の、又は10秒よりも長い持続時間を有し、且つ/又は第2動作モードは、0.1秒よりも長い、又は1秒以上の持続時間を有する。プロセスガスを加工場所に供給しない場合には、システムを第1動作モードへ切り替える。その場合、粒子ビームを加工場所へ指向させないこと、又は物体を全く修正しないように粒子ビームを停止させることが可能である。複数の異なるプロセスガスを用いる場合、システムを複数のプロセスガスの選択したものに関して第1動作モードにして、選択プロセスガスを加工場所に供給しないようにし、選択プロセスガスを用いた加工が行われないようにすることができる。粒子ビームを起動して加工場所へ指向させて、選択プロセスガスが粒子ビームにより活性化されないようにし、選択プロセスガスを用いた加工場所における材料の堆積又は加工場所からの材料の除去を回避するようにしてもよい。しかしながら、選択プロセスガスとは異なる他の何らかのプロセスガスを、この他のプロセスガスを用いた加工場所への材料の堆積又は加工場所からの材料の除去のために、加工場所に供給してもよい。
【0014】
第2動作モードは、プロセスガスを加工場所に供給して、加工場所への材料の堆積又は加工場所からの材料の除去のためにプロセスガスが粒子ビームにより活性化されるようにするためのものである。プロセスガスが第2動作モードで加工場所に供給されている間、リザーバと加工場所との間のガス供給路に設けた弁を短期間だけ閉じることが可能である。弁は、加工場所から一定の距離だけ離れて位置付けられ、それに従って加工場所から離れた場所のガス流を変更する。パイプ内及びパイプの第1端部と加工場所との間のガスの圧力差を均衡させるプロセスとパイプ内のガスの拡散プロセスとにより、弁の閉鎖により生じるガス流の突然の中断から、同じく加工場所へ向かうガス流の突然の中断が生じることがない。したがって、第2動作モードでの弁の周期的開閉は、加工場所へのプロセスガスの連続的又は準連続的供給を依然としてもたらし得る。こうした動作下では、1回毎に加工場所に供給されるプロセスガスの量を、弁が開く第1持続時間と弁が閉じる第2持続時間との比を調整することにより所望の値に調整することができる。
【0015】
さらに、ガス流は、デューティサイクルと呼ぶこともできる第1持続時間と第2持続時間との比に応じて決まるだけではない。ガス流は、弁のすぐ上流にあるガス導管の体積内に供給されたガスのガス圧に応じても決まる。状況によっては、弁のすぐ上流にあるガス導管内のガス圧が、ガスを長期間にわたって加工場所に供給しない第1動作モードの終了時に比較的高いことが判明した。しかしながら、第2動作モードの開始時及び第2動作モード中には、弁のすぐ上流のガス圧は低下し続ける。所望のガス流を加工場所に供給するために第1持続時間と第2持続時間との間の比を所定の一定値で維持するよう第2動作モードを制御した場合、弁のすぐ上流のガス圧が低下するので、これにより実際には、第2動作モード中に加工場所に供給されるガス流が減少し続けることになる。
【0016】
こうした理由で、第2動作モード中に加工場所への実質的に一定ガス流量を維持するために、上述の実施形態では連続周期の第1持続時間及び第2持続時間を変えて、第2持続時間に対する第1持続時間の比が時間と共に増加するようにする。上述の関係を満たす1対又は複数対の周期が、複数の連続周期の中にある。この関係は、第2動作モードの開始時及び第2動作モード中のデューティサイクルの時間の増加を定義する。しかしながら、デューティサイクルが厳密に単調増加している必要はない。デューティサイクルを複数の直接連続した周期中に一定に維持することが可能であり、又はデューティサイクルを短期間だけ減らすことさえ可能である。特定の実施形態のみが、第2動作モードの開始時及び第2動作モード中に厳密に単調増加するデューティサイクルを用いる。
【0017】
例示的な実施形態によれば、プロセスガスを加工場所に供給するシステムは、複数のガスリザーバと、それぞれが各ガスリザーバに接続した第1端部を有する複数のガス導管と、加工場所に近い第1端部を有する単一のパイプと、ガス導管の1つの第2端部とパイプの第2端部との間にそれぞれ設けた複数の弁とを備える。複数のリザーバの1つに貯蔵した所望のプロセスガスを、選択した弁を開くことによりパイプを介して加工場所に供給することが可能である。複数の弁の1つのみを開き、残りの弁を閉じた場合、それに従って1つのプロセスガスのみがパイプを介して加工場所に供給される。しかしながら、パイプを介して2つ以上のプロセスガスを加工場所に供給するために、複数の弁のうち2つ以上を同時に開いて複数のプロセスガスの混合物を加工場所に供給するようにすることも可能である。
【0018】
例示的な実施形態によれば、複数のプロセスガスを加工場所に供給するシステムは、第1弁及び第2弁を周期的に開閉するよう構成したコントローラであり、各周期は、第1弁が開き第2弁が閉じる第1持続時間と、第1弁が閉じ第2弁が開く第2持続時間とを含むコントローラを備える。コントローラは、加工場所に供給されるガス混合物の混合比を調整するために第1持続時間と第2持続時間との比を変えるようさらに構成する。
【0019】
2つの弁を同時に開かないよう制御して、弁を通るガス流が交互に生じるようにする。これにより、弁の下流のガス体積内、パイプの一部内、又はパイプの全体積内で、2つの異なるガスの混合が回避されるか又は少なくとも大幅に低減される。それでもなお、2つのガスの混合物が加工場所に供給され、供給ガスの混合比は、第1持続時間及び第2持続時間により制御される。異なるプロセスガスのこのような交互の供給を提供することにより、供給ガスを粒子ビームで活性化することによって加工場所に材料の混合物を堆積することが可能である。堆積した材料は、プロセスガスとして供給した前駆体から形成され、材料の混合物の堆積は、堆積プロセスが第1持続時間及び第2持続時間と比べて遅いので連続的又は準連続的に生じ得る。
【0020】
弁の下流のガス体積内及びパイプ内を同時に流れるいくつかのプロセスガスが相互に反応して、例えばパイプ内の望ましくない材料堆積をもたらすことが判明した。パイプ内のガス混合物から生じるパイプ内のこのような材料堆積は、ガスが弁の下流のガス体積及びパイプを通って交互に流れるような上述の周期に従った弁の交互制御により、大幅に低減することができる。
【0021】
本明細書中の例示的な実施形態によれば、各周期は、両方の弁が閉じる少なくとも1つの第3持続時間を含み得る。これにより、パイプ内を流れるガスのさらなる時間的且つ局所的な分離が得られることで、パイプ内での2つのガスの相互反応により生じる堆積がさらに減るようになり、加工場所における材料の混合物の堆積は依然として悪影響を受けない。
【0022】
さらに他の実施形態によれば、2つ以上の弁を交互に制御し、単一の弁の制御に関して上述したように加工場所に向けてそれぞれのガスを一定流量提供するために、各弁のデューティサイクルを第2動作モードの開始時又は第2動作モード中に増加させる。本明細書中、第2動作モードの開始時にガス毎に異なるデューティサイクルの変化率を提供することが特に可能である。
【0023】
例示的な実施形態によれば、プロセスガスを加工場所に供給するシステムは、加工場所を収容した真空外囲器と、真空外囲器を排気する真空ポンプと、真空外囲器内のガス圧を示す圧力信号を発生するよう構成した圧力センサと、少なくとも1つのガスリザーバと、ガスリザーバと加工場所との間のガス流路に設けた少なくとも1つの弁と、コントローラとを備える。コントローラは、弁を開閉し、プロセスガスを加工場所に供給しない第1動作モードからプロセスガスを加工場所に供給する第2動作モードへシステムを切り替えるよう構成することができる。コントローラは、第2動作モードで弁を周期的に開閉するようさらに構成することができ、各周期は、弁が開く第1持続時間と、第1持続時間の直後の弁が閉じる第2持続時間とを含む。コントローラは、圧力信号に基づき第1持続時間と第2持続時間との比を調整するよう構成することができる。
【0024】
すでに上述したように、加工場所に供給されるガス流の量は、第1持続時間と第2持続時間との比、すなわち制御される弁のデューティサイクルに応じて決まるだけでなく、他の因子、例えば弁の上流のガス体積内のガス圧、供給ガスのタイプ、及び他の可能性のある既知の因子等に応じても決まる。しかしながら、実際には、加工場所に向けて一定ガス流量を提供することが望ましく、所望の一定ガス流量は、先行の実験で有利であることが分かっている。しかしながら、先行の実験は、弁の上流のガス圧及び他の因子に関して異なる条件下で行った可能性があるので、先行の実験のみに基づき弁のデューティサイクルを調整することは困難である。圧力センサが測定した真空外囲器内のガス圧に基づきデューティサイクルを制御した場合、以後の実験がリザーバ内及び弁の上流のガス圧及び他の可能性のある因子に関して異なる場合でも、所望の有利な結果を達成できることが多いことが判明した。したがって、デューティサイクルの調整と、それに対応して得られる、物体への材料の堆積又は物体からの材料の除去に関して有利な結果を達成する圧力信号とを決定するために、弁のデューティサイクルを変えることにより加工場所に向けた異なる量のガス流を用いて実験を行うことが可能である。所望の結果を繰り返すために、得られた信号を続いて以後の加工で用い、その場合の制御は圧力信号に基づくものであるので、異なる加工では異なるデューティサイクルとなる可能性がある。
【0025】
いくつかの例示的な実施形態によれば、プロセスガスを加工場所に供給するシステムは、異なるプロセスガスを貯蔵する複数のガスリザーバと、それぞれをガスリザーバの1つに関連付けた複数の弁とを備える。コントローラが複数のメモリを備え、各メモリがリザーバの1つに関連付けられ、特定のリザーバに貯蔵されたガスのデューティサイクルを調整するためにコントローラが用いる圧力信号を表す値を記憶する。ガスセンサの感度がガスのタイプ毎に異なり得るので、異なるガスが真空外囲器内に同じ絶対圧力で供給された場合でも、異なるガスが異なる圧力信号をもたらし得ることが判明した。したがって、異なるガスに対して異なる値の圧力信号を提供し、コントローラが異なる値を用いて異なるガスに関するガス供給のデューティサイクルを制御することが有利である。
【0026】
いくつかのさらに他の例示的な実施形態によれば、プロセスガスを粒子ビームシステムの加工場所に供給するシステムは、加工場所の近くに位置付けた第1端部を有するパイプと、第1ガスリザーバと、第1ガスリザーバに接続した第1端部を有する第1ガス導管と、第1ガス導管の第2端部とパイプの第2端部との間に設けた第1弁であり、第1ガスリザーバから第1ガス導管及びパイプを介して加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した第1弁と、少なくとも1つの第2ガスリザーバと、少なくとも1つの第2ガスリザーバに接続した第1端部を有する少なくとも1つの第2ガス導管と、少なくとも1つの第2ガス導管の第2端部とパイプの第2端部との間に設けた少なくとも1つの第2弁であり、少なくとも1つの第2ガスリザーバから少なくとも1つの第2ガス導管及びパイプを介して加工場所へのガス流を選択的に許可及び阻止するよう構成した少なくとも1つの第2弁と、第1ガス導管及び少なくとも1つの第2ガス導管を共通して加熱するよう構成したヒータとを備え、第1ガスリザーバは、フッ素ガス及び塩素ガスの一方を収容し、少なくとも1つの第2ガスリザーバは、フッ素及び塩素を含有せず、SiO、O、N、及びHOの少なくとも1つを含むか、又はPt、W、Au、J、及びCの1つを含む少なくとも1つの化合物を含むガスを収容する。
【0027】
本発明の上記の特徴及び他の有利な特徴は、添付図面を参照した以下の本発明の例示的な実施形態の詳細な説明からより明白になるであろう。本発明の可能な実施形態全てが本明細書で特定する利点の1つ1つ又はいずれかを必ずしも示すわけではないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】粒子ビームシステムの概略図を示す。
図2】プロセスガスを加工場所に供給するシステムの概略図である。
図3図2に示すシステムの弁の制御を示すグラフを示す。
図4図2に示すシステムの2つの弁の制御を示す2つのグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
後述する例示的な実施形態では、機能及び構造が同様であるコンポーネントは、可能な限り同様の参照符号で示す。したがって、特定の実施形態の個々のコンポーネントの特徴を理解するために、他の実施形態の説明及び本開示の概要を参照されたい。
【0030】
図1は、少なくとも1つの粒子ビーム及び少なくとも1つのプロセスガスを加工場所に供給するシステムの概略図である。システム1は、物体3の加工対象領域をシステム1の加工場所7に又はその近くに位置付けるよう物体マウント5上に取り付けた物体3の加工に用いることができる。図示の実施形態の加工システム1は、2つの粒子ビームカラム11及び13を備え、各粒子ビームカラム11、13は、それぞれ粒子ビーム12及び15を発生し、粒子ビーム12、15の両方を加工場所7へ指向させることができる。図示の実施形態では、粒子ビームカラム11は電子ビームカラムであり、発生する粒子ビーム12は電子ビームであり、粒子ビームカラム13はイオンビームカラムであり、粒子ビーム15はイオンビームである。
【0031】
物体マウント5は、物体3の表面上の複数の異なる選択可能な領域を粒子ビーム12及び15で加工することができるように、加工場所7に対して物体を3つの異なる方向に変位させることができるよう構成され得る。さらに、物体マウント5は、粒子ビーム12及び15に対する物体3の向きを変えるよう構成され得る。
【0032】
電子ビームカラム11は、電極21を有する電子源19を備え、電極21は、電子源の陰極から電子ビームを引き出してビームの電子を加速させる。電子ビームカラム11は、電子ビーム12を整形するコンデンサレンズ系23と、電子ビーム12を加工場所7に集束させる対物レンズ25とをさらに備える。物体3への電子ビーム12の入射場所を変えるためにビームデフレクタ27を設け、ビームを物体表面にわたって走査できるようにし、電子ビームカラム内に位置付けたデフレクタ29又は電子ビームカラム11に隣接して位置付けたデフレクタ31を用いて、二次電子及び後方散乱電子等の物体から放出された粒子を検出することができる。デフレクタ29、31の検出信号を用いて、電子ビームで走査した物体の領域の電子顕微鏡画像を生成することができる。
【0033】
イオンビームカラム13は、イオン源33とイオンビーム15を整形し加速させる電極35とを備える。ビームデフレクタ37及び集束コイル又は集束電極39を用いて、イオンビーム15を加工場所7に集束させ、イオンビームを物体3にわたって走査する。
【0034】
システム1は、加工場所7を真空体積53内に位置付けるよう加工場所7を包囲する囲い壁51を有する真空外囲器49をさらに備える。真空体積53を排気するために、ポンプポート55を介して真空ポンプ56を真空外囲器49に接続する。粒子ビームカラム11、13の前端部は、真空体積53内に突出し、囲い壁51に対してシールされる。粒子ビームカラム11及び13は、ビームカラムの内部を排気するための追加のポンプポート75を有していてもよく、追加のポンプポート75は、真空ポンプ56又は追加の真空ポンプに接続することができる。
【0035】
システム1は、少なくとも1つのプロセスガスを加工場所7に供給するガス供給システム61をさらに備える。図1は、真空外囲器49の外部に位置付けたガスリザーバ63、真空外囲器49の壁51を通過するガス導管65、弁67、及び加工場所7の近くに位置付けた端部を有するパイプ69を概略的に示す。
【0036】
代替的な実施例によれば、ガスリザーバ63を真空外囲器49内に位置付けて、ガス導管65が真空外囲器49の壁51を通過せずに対応の真空シールを回避できるようにすることができる。
【0037】
さらに、ガス供給システム61は、パイプ69の端部を加工場所7に対して位置決めするよう構成した位置決めシステム(図1には示さない)を含み得る。この目的で、ガス供給システム61全体を加工場所に対して変位させることが可能であり、又は、加工場所に対して変位させるのがパイプ69等のガス供給システムの一部のみで、パイプ等の部分がガス供給システムの残りの部分に可撓導管を介して接続される。
【0038】
リザーバ63内に貯蔵したプロセスガスを加工場所7に向けて流すために、弁67をコントローラ71により制御する。加工場所7又は加工場所に近い領域で物体に材料を堆積するか、又は物体3から材料を除去するために、加工場所7において、プロセスガスをイオンビーム15又は電子ビーム12により活性化することができる。コントローラ7は、粒子ビーム12及び15それぞれを物体3の表面上の選択可能な異なる場所へ指向させて、粒子ビームでの供給プロセスガスの活性化により材料の堆積又は材料の除去が生じる場所を変えるために、ビームデフレクタ27及び37をさらに制御し得る。
【0039】
システム1は、真空体積53内のガス圧を検出して圧力信号をコントローラ71に供給する真空センサ73をさらに備え、圧力信号は、真空体積53内のガス圧を示す。
【0040】
図2は、ガス供給システム61をある程度詳細に示す概略図である。ガス供給システム61は、3つの異なるプロセスガスの在庫を貯蔵する3つのガスリザーバ63、63、63を備える。ガス導管65、65、65の第1端部75、75、75を、ガスリザーバ63、63、63に接続する。リザーバのそれぞれが各自のブロック弁を備えていてもよく、又は各ブロック弁76、76、76をリザーバ63、63、63とガス導管65、65、65の第1端部75、75、75との間に設けることができる。ブロック弁は、手動で作動させることができるか、又はガス供給システム61を始動させるためにコントローラ71により開くことができ、ガス供給システム61の動作を停止させるために閉じることができる。
【0041】
弁67、67、67は、ガス導管65、65、65の第1端部75、75、75の反対側の第2端部77、77、77に接続する。弁67、67、67は、ガス導管65、65、65の端部77、77、77及び各弁67、67、67を通るガスの流れを選択的に許可及び阻止するよう構成される。図示の実施例では、弁67、67、67は電磁弁であり、それぞれが、コントローラ71に接続した端子80、80、80を有するコイルマグネット79、79、79を備えることで、弁を選択的に開閉するためにコントローラ71が活性化電流をコイル79に供給し得る。
【0042】
パイプ69は、加工場所7の近くに位置付けた第1端部81と、弁67、67、67に接続したマニホルド85に接続した第2端部83とを有する。
【0043】
図3の上側部分は、時間tに従ったコントローラ71による弁67、67、67の1つの制御を示すグラフを示す。特に、グラフは、時間101における第1動作モードから第2動作モードへの、また時間103における第2動作モードから再び第1動作モードへの、システム1の切り替えを示す。システムが時間101の前に設定されている第1動作モードは、1秒よりも長く、数秒、又は数時間にもなり得る持続時間102を有する。システムが時間101と103との間にある第2動作モードは、0.1秒よりも長く、1秒よりも長く、又は数分にもなり得る持続時間104を有する。第1動作モードでは、プロセスガスを加工場所に供給せず、弁は図3に「閉」で示す閉位置にある。第2動作モード104では、プロセスガスを加工場所に供給し、弁は、期間104の間は一時的に図3に「開」で示す開位置にある。
【0044】
弁は、第2動作モード104の間に周期的に交互に開閉させる。周期は持続時間105を有する。図示の実施例では、全周期が同じ持続時間105を有する。しかしながら、異なる周期が異なる持続時間を有することも可能である。
【0045】
各周期において、弁を期間107の間は開き、期間108の間は閉じる。弁が開く第1持続時間107と弁が閉じる第2持続時間108との比は、周期105毎に決定することができる。このような比をデューティサイクルと呼ぶこともできる。
【0046】
第2動作モードの開始時、すなわち時間101の後、第2動作モードでの加工場所に向けた一定流量のプロセスガスを維持するために、デューティサイクルを固定値に達するまでサイクル毎に増加させる。いくつかの実施例では、第2動作モードの開始時における比又はデューティサイクルの値は、長期間にわたるプロセスガスの供給に用いる固定値の0.2倍、0.4倍、又は0.6倍よりも小さくすることができる。デューティサイクルを第2動作モードの開始時に増加させる時間は、例えば0.5秒、1秒、2秒、又は5秒となり得る。デューティサイクルは、その値が例えば2秒以内又は5秒よりも長い期間内で10%よりも大きく変わらない場合に固定とみなすことができる。周期105の持続時間を短くして、デューティサイクルがその固定値に達するまで6周期以上、11周期以上、又は21周期以上を第2動作モードの開始時に行うようにしてもよい。1つの周期105の持続時間は、例えば1秒よりも短く、0.5秒よりも短く、又は0.1秒よりも短くすることができる。
【0047】
プロセスガスの前駆体が提供した材料の堆積により、又はプロセスガスを用いた物体からの材料の除去により、物体の加工を加工場所で行う第2動作モードでは、プロセスガスを一定流量で、すなわち単位時間当たり一定のガス量で、加工場所に供給することが概して望ましい。すでに第2動作モードの開始時に長期間にわたって望ましい流量で、プロセスガスを供給するのに適したデューティサイクルを用いることが望ましいと思われるかもしれない。しかしながら、ガスリザーバ及びガスリザーバを弁と接続するガス導管のいくつかの特性は、システムが第2動作モードにある際に経時変化する。特に、リザーバ内及び弁のすぐ上流のガス導管内のガス圧は、第2動作モードの開始時にすぐの方が、その後になって一定のデューティサイクルを用いてプロセスガスを加工場所に供給する際よりも大きい。例えば、ガスは、限られた速度でガスリザーバ内の固体材料の昇華により発生させることができる。プロセスガスを加工場所に供給しない第1動作モードがかなりの持続時間を有する場合、相当量のプロセスガスがリザーバ及びガス導管内に蓄積し得る結果としてガス圧が上昇し、これは弁を開くとすぐに低下し、ガスがリザーバ及びガス導管からパイプを通って加工場所へ向かって逃げることができる。さらに、ガス導管は、ガス流に対する抵抗を与えるので、ガス流が生じない第1動作モードの終了時の弁におけるガス圧と比べて、第2動作モード中にガス導管65を通るガス流が生じる際の弁67におけるガス圧が低い。
【0048】
図示の実施例では、4つの周期105を時間101における第2動作モードの開始時に示す。期間107と108との比は、これら4つの周期で連続して増加する。4周期という数は、説明のために用いているにすぎず、実際には、比を増加させる周期の数をより多くして用いることができる。さらに、比の増加は、連続的に、すなわち厳密に単調に生じる必要はない。比を段階的に増加させて、段階間で一定に維持する可能性もある。短期間だけ比を減少させることもさらに可能である。
【0049】
上述のような第2動作モード104の開始時における期間107と108との比の制御に加えて、より詳細に後述するように、この比のさらなる制御を行うことが可能である。このような付加的な制御は、加工場所へ向かうガス流を所望の値に調整するのに有利である。これは、例えば、持続時間107と108との比、すなわちデューティサイクルを、過去に有利であると判明した値に調整することにより達成され得る。
【0050】
しかしながら、図示の実施例では、デューティサイクルを経時変化させて、真空センサ73が所定の圧力信号を発生するようにする。圧力信号Pの量の時間依存性を図3の下側部分に示す。プロセスガスを長期間にわたり加工場所に供給しない第1動作モード102では、真空ポンプ56の処理量及び真空外囲器51の漏れ速度により決まる高真空が真空体積53内にある。圧力センサ73が発生した圧力信号Pは、第1動作モード102では低い値113にある。システムを第1動作モードから第2動作モードへ切り替える時間101の直後に、圧力値Pは依然として低い値113にあるが、これは加工場所に供給したプロセスガスが圧力センサにまだ達していないからである。圧力値Pの増加は、その後の時間117の後に検出することができる。コントローラは、持続時間107と108との比、すなわち弁67のデューティサイクルを、さらに後の時間119で圧力信号Pに基づき調整し始める。時間119の後に、圧力信号Pが例えば先行の実験で有利であると判明した所定値115をとるようデューティサイクルを制御する。
【0051】
時間103における第2動作モードの終了時に弁を閉じると、圧力信号Pは、グラフの部分121で示すようにある程度遅れて減少する。図3は、第2動作モードの最終周期の持続時間が最後から2番目の周期105の持続時間よりも短いことも示すが、これは、システムを第2動作モードから再び第1動作モードへ切り替える時間103に弁を閉じるからである。
【0052】
図3を参照して上述した弁の制御は、図2に示す弁67、67、67のそれぞれに適用できる。本明細書中、プロセスガス毎に異なる所定値115を用いることが可能であり、異なる値115をコントローラ71内のデータメモリ161、161、161に記憶させることができる。さらに、3つのガスリザーバ、ガス導管、及び弁の数は、説明のために用いた例示的な数である。図3を参照して説明した弁の制御は、1つ又は2つのガスリザーバ又は4つ以上のガスリザーバを有するガス供給システムにも適用できる。さらに、図3を参照して上述した弁の制御は、別個に構成した2つ以上のガス供給システムの弁に適用でき、その場合は各ガス供給システムが、弁と加工場所との間に設けた各自のパイプを有する。
【0053】
図4は、2つのプロセスガスの混合物を加工場所7に供給するためにコントローラ71を用いて2つの異なる弁を制御する方法を示す。時間に応じた第1弁の制御を図4の上側部分に示し、時間に応じた第2弁の制御を図4の下側部分に示し、ここで、「開」は各弁の開位置を示し、「閉」は各弁の閉位置を示す。
【0054】
制御は、周期129に従って行い、各周期129は、第1弁が開き第2弁が閉じる持続時間123を有する第1部分と、第1弁が閉じ第2弁が開く持続時間125の第2部分と、両方の弁が閉じる持続時間127を有する2つの第3部分とを含む。2つの弁は、それに従って交互に開閉する。
【0055】
図4は、持続時間123を持続時間125で割ることにより得られる比の2つの異なる設定を、それぞれ左部分及び右部分に示す。図4の左部分では、この比が図4の右部分よりも大きい。持続時間123と125との比から、2つの弁を介して加工場所に供給されるプロセスガスの混合比が決まる。プロセスガスの所望の混合比は、上記で示したように期間123と125との比を変えることにより調整することができる。さらに、弁の交互制御には、2つのプロセスガスがマニホルド85及びパイプ69内で混ざらないか又は実質的に混ざらないことで、異なるガス間の直接接触から生じるガス堆積をマニホルド85及びパイプ69内で回避又は低減できるという利点がある。マニホルド85及びパイプ69内にすでにある異なるガスの混合は、期間123及び125を時間的に分離し且つ両方の弁が閉じる期間127の持続時間を増やすことにより、さらに減らすことができる。しかしながら、異なるガスがマニホルド85及びパイプ69内で接触することに起因した堆積が深刻な問題とならない場合、持続時間127を非常に短くするか又はゼロにすることさえできる。
【0056】
周期129の持続時間及び周期129のデューティサイクルの両方を変えることができることを、図3を参照して上述した。図4では、デューティサイクルを、弁の一方が開く持続時間123及び125を両方の弁が閉じる2つの持続時間127で割った比として定義することができる。図3を参照して上述したように、ガスリザーバ及びガス導管の特定の特性は、動作中に変わる場合があり、デューティサイクルは、加工場所へ向かう一定流量のガスを達成するよう調整することができる。図4を参照して説明した実施例において2つのプロセスガスでこのような一定流量を達成するために、2つの持続時間123及び125の和を2つの持続時間127の和で割った比を変えることが可能である。例えば、持続時間123と持続時間125との間の第1持続時間127を一定に維持することができる一方で、持続時間125と周期129の終了との間の第2持続時間を変える。持続時間123及び125を等しく維持しながら持続時間127の和を増加させた場合、2つの持続時間123及び125の和を2つの持続時間127の和で割った比は小さくなり、加工場所へ向かうガス流量が減る。
【0057】
この実施例は、2つ以上のプロセスガスを用いた場合でも、加工場所へ向かうガス流及び真空体積53内のガス圧をデューティサイクルの変更により調整できることを示す。さらに、圧力値に基づきデューティサイクルを変えるために、図3を参照して上述したように真空センサ73が発生した圧力信号を用いることができる。
【0058】
図4は、2つの弁のみの交互制御を示しているが、マニホルド又はパイプ内にすでにあるガス混合物を回避する同じ原理を3つ以上の弁に適用でき、その場合は一方の弁が開き残りの弁が閉じる期間を設け、全ての弁が閉じる追加期間によりこれらの期間を分離することができる。
【0059】
ガス導管65、65、65及び弁67、67、67用の共通ヒータを、図2に矩形141で示す。共通ヒータは、例えば、ガス導管及び弁が熱的に接続される共通キャリアにより実施することができ、ガス導管及び弁を共通して加熱するために、電気エネルギーをコントローラ71から端子143を介して共通キャリアに供給することができる。ガス導管及び弁の加熱は、ガス導管及び弁内でのプロセスガスの堆積を回避するために提供される。マニホルド85及びパイプ69の一部を共通ヒータ141と熱的に接続して、マニホルド85及びパイプ69内でもプロセスガスの堆積を回避するようにすることもできる。ガス導管及び弁の温度がリザーバ内の最高温度よりも高く、使用プロセスガスの最低解離温度よりも低くなるよう共通ヒータを制御することが有利であり得る。
【0060】
特定の実施例では、リザーバ63はプロセスガスとしてフッ素を提供し、残りのリザーバ63、63の一方又は両方はフッ素とは異なるプロセスガスを提供する。例えば、これら他のプロセスガスは、Pt、W、SiO、Au、J、C、O、N、及びHOを含有し得る。従来、プロセスガスとしてフッ素を収容したリザーバを通常は冷却し、フッ素をガス弁に供給するガス導管も従来は冷却するか又は少なくとも加熱しない。しかしながら、本実施例では、プロセスガスのフッ素を弁に供給するガス導管65を、他のガス導管及び弁と共に共通して加熱する。この点で、フッ素が固体状態でリザーバ内に貯蔵され、固体状態からの昇華により生成されるので、フッ素を提供するガスリザーバを能動的に冷却することが有利であることが判明した。しかしながら、フッ素は、ブロック弁76の下流のガス導管65内で気体状態にあり、ガス導管65内のプロセスガスの加温は不利にならない。
【0061】
さらに、デューティサイクルを変えることによりガス流の制御を達成できるので、フッ素又はリザーバ内で従来冷却される他のプロセスガスのリザーバの能動冷却は必要なくなる。フッ素を貯蔵したリザーバの水又は空気循環を用いた受動冷却で十分であり得る。特に、このような受動冷却は制御の必要がない。
【0062】
実際に用いるプロセスガスの数例を以下に挙げる。
【0063】
解離温度が約90℃のメチルシクロペンタジエニル(トリメチル)白金(IV)を、約50℃〜約80℃の温度でリザーバに貯蔵し、白金(Pt)の堆積に用いることができる。
【0064】
解離温度が約196℃のタングステンヘキサカルボニルW(CO)6を、約60℃〜約80℃の温度でリザーバに貯蔵し、タングステン(W)の堆積に用いることができる。
【0065】
解離温度が約89℃のフェナントレンC141016Ptを、約60℃〜約85℃の温度でリザーバに貯蔵し、炭素(C)の堆積に用いることができる。
【0066】
解離温度が約80℃〜82°のジメチル(アセチルアセトネート)金(III)(CH(C)Au(III)を、約50℃〜約75℃の温度でリザーバに貯蔵し、金(Au)の堆積に用いることができる。
【0067】
解離温度が120℃よりも高い2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサン(PMCPS)を、約20°〜約50℃の温度でリザーバに貯蔵し、絶縁体SiOの堆積に用いることができる。
【0068】
解離温度が120℃よりも高いジアセトキシジ−tert−ブトキシシランC1224Si(BDAC又はDTBS)を、約20°〜約50℃の温度でリザーバに貯蔵し、絶縁体SiOの堆積に用いることができる。
【0069】
解離温度が約180℃の二フッ化キセノン(XeF)を、約1℃〜約35℃の温度でリザーバに貯蔵し、フッ素(F)を加工場所へ運ぶのに用いることができる。
【0070】
解離温度が約150℃の硫酸マグネシウム七水和物(MgSo7HO)を、約20℃〜約35℃の温度でリザーバに貯蔵し、水(HO)を加工場所へ運ぶのに用いることができる。
【0071】
解離温度が120℃よりも高い酸素(O)を、約20℃〜約100℃の温度でリザーバに貯蔵し、酸素(O)を加工場所へ運ぶのに用いることができる。
【0072】
解離温度が120℃よりも高い窒素(N)を、約20℃〜約100℃の温度でリザーバに貯蔵し、窒素(N)を加工場所へ運ぶのに用いることができる。
【0073】
本開示内容を、特定の例示的な実施形態に関して説明したが、多くの代替形態、変更形態、及び変形形態が当業者に明白となることが明らかである。したがって、本明細書に記載した開示内容の例示的な実施形態は、説明を意図したものであり、限定的な意図は一切ない。添付の特許請求の範囲に定めるような本開示の趣旨及び範囲から逸脱せずに、様々な変更を加えることができる。
図1
図2
図3
図4