(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記恒温槽は、前記マイクロ波導入口及びマイクロ波導出口とは異なる恒温槽の側面に、前記反応容器内の状態を観察するための観察窓と明かり取り窓とが対向して設けられていることを特徴とする請求項1記載の反応装置。
前記入口側同軸導波管変換器は、前記マイクロ波導入口に向かって高さ寸法が一定で幅寸法が漸次幅狭となる形状を有し、出口側同軸導波管変換器は、前記マイクロ波導出口に向かって高さ寸法が一定で幅寸法が漸次幅狭となる形状を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の反応装置。
前記反応容器は、該反応容器を保持する保持筒に保持された状態で前記反応容器挿通孔に挿通され、前記保持筒には、前記マイクロ波導入口及び前記マイクロ波導出口に対応した開口がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の反応装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された加熱装置では、マイクロ波が外管と流通管との間を流れる熱媒体に吸収されるため、被加熱物を加熱するために消費されたマイクロ波の量(電力)を正確に測定することができなかった。また、ヒートフロー式により熱量測定を行う際には、反応熱量を校正するためのキャリブレーションヒーターを被加熱物中に沈める必要があるが、マイクロ波の加熱や電波漏れの影響が考えられるため、キャリブレーションを行うことができなかった。このため、反応熱量を測定できないので、マイクロ波の反応進行状況の確認ができなかった。さらに、流通管周囲の構造も脆弱であり、誘電率の低い非加熱液の昇温が困難であり、エネルギー効率が低く、温度範囲も狭いという問題があった。また、特許文献2に記載された加熱・冷却機構では、被加熱物(液剤)の加熱源としてマイクロ波を使用していないため、加熱効率が十分に高いとは言えなかった。
【0005】
そこで本発明は、加熱源としてマイクロ波を使用するとともに、金属製の恒温槽を使用し、被加熱物である被加熱液を加熱するために用いられたマイクロ波の吸収電力を正確に測定しながら被加熱液の温度を一定に制御することが可能な反応装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の反応装置は、被加熱液を収容可能な反応容器と、該反応容器を挿通可能な反応容器挿通孔を有する金属製の恒温槽と、該恒温槽の対向する一対の側面に対向してそれぞれ設けられたマイクロ波導入口及びマイクロ波導出口と、前記マイクロ波導入口に連結された入口側同軸導波管変換器及び前記マイクロ波導出口に連結された出口側同軸導波管変換器と、マイクロ波発振器から出力されて前記入口側同軸導波管変換器を介して前記反応容器に導入されるマイクロ波の電力を測定する入口側電力検出手段と、入口側同軸導波管変換器から導入されて反応容器を経て出口側同軸導波管変換器に導出されたマイクロ波の電力を測定する出口側電力検出手段と、マイクロ波発振器まで戻ってきたマイクロ波の反射電力を測定する反射電力検出手段と、前記入口側電力検出手段で測定したマイクロ波の電力と出口側電力検出手段で測定したマイクロ波の電力と反射電力検出手段で測定したマイクロ波の電力とに基づいて前記被加熱液に吸収されたマイクロ波の電力を算出する吸収電力算出手段と、前記反応容器内に反応薬液を注入する反応薬液注入部と、前記反応容器内の被加熱液の温度を測定する被加熱液温度測定手段と、前記恒温槽を加熱する加熱手段及び恒温槽を冷却する冷却手段及び恒温槽の温度を測定する恒温槽温度測定手段と、前記被加熱液温度測定手段で測定した被加熱液の温度又は前記恒温槽温度測定手段で測定した恒温槽の温度に基づいて前記加熱手段及び冷却手段を制御する恒温槽温度制御手段と、前記被加熱液温度測定手段で測定した被加熱液の温
度に基づいて前記マイクロ波発振器から出力されるマイクロ波の電力を制御するマイクロ波出力制御手段とを備え、マイクロ波シングルモード(TE10モード)を熱源
とし、マイクロ波の進行波が恒温槽に吸収されずに被加熱液に1回だけ当たって通過することにより被加熱液にマイクロ波が直接照射され、被加熱液がマイクロ波シングルモードを吸収することを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の反応装置は、前記恒温槽が、前記マイクロ波導入口及びマイクロ波導出口とは異なる恒温槽の側面に、前記反応容器内の状態を観察するための観察窓と明かり取り窓とが対向して設けられていることを特徴としている。また、前記マイクロ波が2.45GHzで
あることを特徴としている。
【0008】
加えて、前記入口側同軸導波管変換器が前記マイクロ波導入口に向かって高さ寸法が一定で幅寸法が漸次幅狭となる形状を有し、出口側同軸導波管変換器が前記マイクロ波導出口に向かって高さ寸法が一定で幅寸法が漸次幅狭となる形状を有していることを特徴としている。
【0009】
また、前記反応容器が該反応容器を保持する保持筒に保持された状態で前記反応容器挿通孔に挿通され、前記保持筒には、前記マイクロ波導入口及び前記マイクロ波導出口に対応した開口がそれぞれ設けられていることを特徴とし、前記保持筒が外側形状が前記反応容器挿通孔に対応した形状で、反応容器に接する内側形状が異なる複数種類の保持筒の中から、使用する反応容器の外側形状に対応した内側形状を有する保持筒を選択して用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の反応装置によれば、金属製の恒温槽を使用し、該恒温槽の側面にマイクロ波導入口及びマイクロ波導出口を設けているので、恒温槽にマイクロ波が吸収されることはなく、入口側同軸導波管変換器からマイクロ波導入口を介して恒温槽内の被加熱液にマイクロ波を照射し、入口側同軸導波管変換器から導入したマイクロ波の電力と、恒温槽のマイクロ波導出口から出口側同軸導波管変換器に導出されたマイクロ波の電力と、マイクロ波発振器まで戻ったマイクロ波の反射電力とから被加熱液に吸収されたマイクロ波の電力を算出することができる。発熱反応によって被加熱液が昇温したときに、マイクロ波の吸収電力を減少させることにより被加熱液の温度を反応前と同じ温度に保つことができる。また、マイクロ波の吸収電力を正確に測定できるので、マイクロ波反応のエンタルピー、反応速度、安全性確認や反応進行状況を確認することができる。さらに、恒温槽を金属製としたので、構造が堅牢となり、安全性や使い勝手の向上が図れる。また、誘電率の低い非加熱液であっても効率よく昇温させることができ、温度範囲も広く取ることが可能となる。
【0011】
さらに、恒温槽の温度を一定に保った状態で、マイクロ波発振器から出力するマイクロ波の電力を調整することにより、反応熱によって温度が変化する被加熱液の温度を一定に保つことができ、このときに吸収されたマイクロ波の電力を利用して演算することにより、反応熱[W]及び反応熱量[J]を算出することができる。さらに、マイクロ波の電力を一定に保った状態で、恒温槽の温度を一定に保ちながら被加熱液の温度変化を測定したり、被加熱液の温度を一定に保つように恒温槽の温度を変化させたりすることによっても、反応熱[W]及び反応熱量[J]を算出することができる。したがって、キャリブレーションヒーターを用いることなく、ヒートフロー式による熱量測定を行うこともできる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1乃至
図5は、本発明の反応装置の反応容器としてバッチ式の反応容器を使用した例を示すもので、被加熱液Lを収容可能な試験管などからなる反応容器11と、マイクロ波を吸収しない金属材料、例えば熱伝導性の良好なアルミニウムで形成された直方体形状の恒温槽12とで反応部13が形成されている。反応容器11の内部には、マイクロ波を吸収したり、反射したりしない光ファイバー式温度センサ14が挿入されており、反応容器11の上部開口には、光ファイバー式温度センサ14の挿通部15aと、反応容器11内に反応薬液を注入する際に使用する反応薬液注入部15bと、反応容器11内からガスを排出するガスパージ管15cとを備えたキャップ部材15が装着される。
【0014】
前記恒温槽12には、前記反応容器11を直接又は保持筒16を介して挿通可能な反応容器挿通孔17が恒温槽12の中央部を鉛直方向に貫通した状態で設けられるとともに、対向する一対の2面には、同一の長方形状を有するマイクロ波導入口18とマイクロ波導出口19とが貫通状態で対向してそれぞれ設けられている。また、恒温槽12の対向する一対の他の2面には、反応容器11内の状態を観察するための観察窓20と明かり取り窓21とが貫通状態で対向してそれぞれ設けられている。
【0015】
さらに、マイクロ波導入口18やマイクロ波導出口19、観察窓20や明かり取り窓21から外れた位置の恒温槽12の内部には、恒温槽12をあらかじめ設定された温度に調節するための冷却手段としての冷却水流路22と、加熱手段としてのヒータ23と、恒温槽12の温度を測定するための恒温槽温度測定手段としての温度センサ24とが設けられており、冷却水流路22に接続した冷却水配管22aには、冷却水の流れを制御する電磁弁22bが設けられている。また、温度センサ24で測定した温度に基づいて前記ヒータ23及び前記電磁弁22bを制御する恒温槽温度制御部25が設けられており、恒温槽温度制御部25は、基本的に、恒温槽12を一定の温度に保持するように設定されている。
【0016】
保持筒16は、反応容器挿通孔17の内径より小さな外径を有する反応容器11を使用する際に、反応容器11を保持して反応容器挿通孔17内に挿入するためのものであって、恒温槽12と同様に、熱伝導性の良好なアルミニウムで形成された一対の半割体16a,16aを組み合わせた有底円筒状に形成されている。半割体16a,16aの内側には、反応容器11の外側形状に対応した形状の保持溝16b,16bが、上端から下端近傍にわたってそれぞれ設けられており、上下外周には、リング状のコイルスプリング26を装着するための周溝16c,16cがそれぞれ設けられている。また、上下方向中間部には、マイクロ波導入口18やマイクロ波導出口19、観察窓20や明かり取り窓21に対応した開口16d,16eがそれぞれ設けられている。
【0017】
保持筒16で反応容器11を保持する際には、半割体16a,16aの保持溝16b,16bで反応容器11を挟み、上下の周溝16c,16cにコイルスプリング26を装着して半割体16a,16aを締め付けることにより、半割体16a,16aの保持溝16b内に反応容器11を挟持する。このとき、保持筒16の底部に、適宜な高さを有するリング状の合成樹脂製スペーサ27をクッション材を兼ねて配置し、反応容器11内の被加熱液Lの位置をマイクロ波導入口18やマイクロ波導出口19の位置に対応する状態にする。また、恒温槽12の上部には、保持筒16を覆う筒状の遮蔽部材28を設け、外部へのマイクロ波の漏洩を防止する。恒温槽12の底面には、マイクロ波の漏洩を防止するとともに保持筒16を下方から支持する支持板29が取り付けられており、支持板29の下方には、反応容器11内に投入された磁性撹拌子30aを回転させるためのマグネチックスターラ30が配置される(
図8(A)参照)。
【0018】
前記マイクロ波導入口18には、マイクロ波導入口18を通して反応容器11にマイクロ波を導入するための入口側同軸導波管変換器31が連結されており、該入口側同軸導波管変換器31には、インピーダンス調整用のチューナ32を介してマイクロ波発振器33が設けられている。このマイクロ波発振器33は、出力したマイクロ波の電力と入口側同軸導波管変換器31からの反射波の電力とを測定する入口側電力検出手段及び反射電力検出手段としての機能も有しており、これによって反応容器11に導入したマイクロ波の電力を正確に測定することができるように形成されている。また、前記マイクロ波導出口19には、反応容器11を通過したマイクロ波の電力を測定する機能としての出口側電力検出手段34を備えた出口側同軸導波管変換器35が設けられている。
【0019】
入口側同軸導波管変換器31及び出口側同軸導波管変換器35は、全体として角筒状に形成されており、恒温槽12との連結部がマイクロ波導入口18及びマイクロ波導出口19の開口と同じ大きさの開口を有しており、恒温槽12と反対側の端部には、同軸ケーブルを介して各変換器内にアンテナ(導体棒)31a,35aを設けるための同軸コネクタを備えたアンテナ装着部31b,35bがそれぞれ設けられている。また、各変換器31,35の上下の天板36a及び底板36bは、全長にわたって平行に形成され、前後の側面板36c、36dの内面は、恒温槽12のマイクロ波導入口18又はマイクロ波導出口19側からアンテナ装着部31b,35bに向かって漸次拡開する斜面形状に形成されている。例えば、恒温槽12からアンテナ装着部31b,35bまでの距離は、通常、70〜122mm程度に設定され、恒温槽12側の幅寸法に対してアンテナ装着部31b,35b側の幅寸法が2〜3倍程度になるように設定されている。
【0020】
前記マイクロ波発振器33には、該マイクロ波発振器33から出力する2.45GHzのマイクロ波の電力を調節するマイクロ波出力制御手段37が設けられており、このマイクロ波出力制御手段37は、基本的に、前記光ファイバー式温度センサ14で測定した被加熱液Lの温度があらかじめ設定された一定の温度を保持するように、マイクロ波発振器33から出力するマイクロ波の電力を調節するように設定されている。
【0021】
また、入口側同軸導波管変換器31の入口側電力検出手段で測定したマイクロ波の電力と出口側同軸導波管変換器35の出口側電力検出手段で測定したマイクロ波の電力とは、吸収電力算出手段を備えた演算記録手段38に入力して両者の差を演算することにより、反応容器11内の被加熱液Lに吸収された電力、すなわち、被加熱液Lを加熱するために用いられた電力を求めることができる。
【0022】
図6及び
図7に示すように、前記恒温槽12は、フロー式の反応管にも対応することができる。なお、以下の説明において、前記バッチ式で示した反応装置の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0023】
フロー式の反応管41は、上下方向に延びた小径流通管41aの中間で、マイクロ波導入口18及びマイクロ波導出口19の位置に対応する部分に大径反応部41bを設けたもので、前記保持筒16と同様に、半割体42a,42aを組み合わせて形成される流通管用保持筒42に保持された状態で恒温槽12の反応容器挿通孔17内に挿通される。流通管用保持筒42の各半割体42a,42aにそれぞれ形成された流通管用保持溝42b,42bは、中間部に大径反応部41bを収容可能な大径溝部42cが設けられ、該大径溝部42cの上下に小径流通管41aを収容可能な小径溝部42dがそれぞれ設けられている。また、流通管用保持筒42に反応管41を保持する際には、大径反応部41bの下部に、大径反応部41bの位置調整とクッションとを兼ねたリング状の合成樹脂製スペーサ43が配置される。さらに、反応容器挿通孔17内に挿通された状態で恒温槽12の上下に突出した流通管用保持筒42の外周は,前記同様の遮蔽部材44で覆われて外部へのマイクロ波MWの漏洩が防止される。
【0024】
図8(A)に示すように、バッチ式の反応容器11を使用した場合は、冷却水循環装置51から冷却水を恒温槽12の冷却水流路22に流通させるとともに、ヒータ23を制御して恒温槽12をあらかじめ設定された被加熱液L設定温度より低い一定の温度に保ちながら、マイクロ波MWを磁性撹拌子30aで撹拌されている被加熱液Lに照射して被加熱液Lを加熱することにより、被加熱液Lを被加熱液L設定温度に保持する。
【0025】
また、
図8(B)に示すように、フロー式の反応管41を使用した場合は、被加熱液Lとなる第1反応液容器52及び第2反応液容器53からそれぞれポンプ52a,53aによって供給された第1反応液と第2反応液とを混合部54で混合し、混合した混合液を反応管41の下部から反応管41に流通させ、反応管41の上部から反応後の製品液を製品液容器55に取り出すようにすればよい。また、混合部54には、第1反応液と第2反応液とを十分に混合させるため、マグネチックスターラーなどの撹拌手段56を設けておくことが好ましい。フロー式の場合も、恒温槽12をあらかじめ設定された混合液設定温度より低い一定の温度に保ちながら、マイクロ波MWを混合液に照射して混合液を加熱することにより、混合液を混合液設定温度に保持する。これにより、一定の温度で第1反応液と第2反応液とを連続的に反応させることができ、安定した状態の製品液を得ることができる。
【0026】
図9乃至
図11は、バッチ式の反応容器11を使用して反応熱量を測定する際の制御方式の各例をそれぞれ示すものである。
図9に示す反応熱量の測定方式は、被加熱液Lの温度に基づいてマイクロ波MWの電力を調節するものであり、
図10に示す方式は、被加熱液Lの温度に基づいて恒温槽12の温度を調節するものであり、
図11に示す方式は、恒温槽12の温度に基づいて恒温槽の加熱量又は冷却量を調節するものである。
【0027】
図9に示す反応熱量の測定方式では、恒温槽温度制御部25が温度センサ24で測定した恒温槽12の温度に基づいて冷却水流路22の電磁弁22bとヒータ23とを制御し、恒温槽12を一定の温度に保つとともに、光ファイバー式温度センサ14で測定した被加熱液Lの温度に基づいてマイクロ波出力制御手段37がマイクロ波発振器33の出力を調節することにより、被加熱液Lの温度を一定に保つように設定している。
【0028】
図10に示す反応熱量の測定方式では、マイクロ波出力制御手段37は、マイクロ波発振器33から一定電力のマイクロ波MWを出力し、恒温槽温度制御部25は、光ファイバー式温度センサ14で測定した被加熱液Lの温度に基づいて冷却水流路22の電磁弁22bとヒータ23とを制御することにより、被加熱液Lの温度を一定に保つように設定している。このとき、温度センサ24は、恒温槽12の温度を測定するだけとなる。
【0029】
図11に示す反応熱量の測定方式では、マイクロ波出力制御手段37は、マイクロ波発振器33から一定電力のマイクロ波MWを出力し、恒温槽温度制御部25は、温度センサ24で測定した恒温槽12の温度に基づいて冷却水流路22の電磁弁22bとヒータ23とを制御し、恒温槽12の温度を調節することにより、被加熱液Lの温度を一定に保つように設定している。このとき、光ファイバー式温度センサ14は、被加熱液Lの温度を測定するだけとなる。
【0030】
いずれの方式の場合も、マイクロ波シングルモード(TE10モード)を熱源とし、マイクロ波の進行波が、マイクロ波が恒温槽12に吸収されずに被加熱液Lに1回だけ当たって通過することにより被加熱液Lにマイクロ波を直接照射可能であり、前記恒温槽12内に配置される前記被加熱液Lは、前記マイクロ波シングルモードの吸収にとって最適な位置に配置される。また、光ファイバー式温度センサ14、温度センサ24、恒温槽温度制御部25、マイクロ波出力制御手段37の測定情報や制御情報は、図示しない演算記録手段に取り込まれて記憶、記録などの処理が行われる。
【0031】
図9に示す制御方法で、被加熱液Lの温度が一定に保たれている状態で、反応薬液注入部15bからあらかじめ設定された量の反応薬液を反応容器11内に注入(滴下)し、被加熱液Lと反応薬液とを反応させる。このとき、反応熱によって反応薬液と混合した被加熱液Lの温度が上昇すると、光ファイバー式温度センサ14で測定した被加熱液Lの温度上昇に応じてマイクロ波出力制御手段37がマイクロ波発振器33の出力(電力)を減少させることにより、被加熱液Lの温度を、反応前の温度と同じ温度にする。
【0032】
このときの被加熱液Lの温度Trと、マイクロ波発振器33から入口側同軸導波管変換器31に出力されたマイクロ波MWにおける導波管入口電力MWinから、該導波管入口電力MWinからマイクロ波導出口19から導出された電力(出口側電力MWout)とマイクロ波発振器33まで戻った反射電力MWrefとを差し引いて算出した被加熱液Lが吸収したマイクロ波の電力Pとの経時変化を
図12に示す。なお、
図12に示す実験では、被加熱液Lの設定温度は50℃である。
【0033】
最初に被加熱液Lの温度Trを50℃に加熱するまでの間は、マイクロ波発振器33から出力されたマイクロ波の導波管入口電力MWin及び被加熱液Lが吸収したマイクロ波の電力Pは、共に高い値を示しているが、約300秒後に被加熱液Lの温度Trが50℃の一定状態になると、両電力MWin,Pは略一定の値となる。600秒経過したときに反応薬液を注入して被加熱液Lと反応薬液とを反応させると、常温の反応薬液が混合することによって一旦被加熱液Lの温度Trが低下するため、両電力MWin,Pの値が一時的に上昇するが、反応熱によって被加熱液Lの温度Trが上昇すると、光ファイバー式温度センサ14で測定した被加熱液Lの温度上昇に応じてマイクロ波出力制御手段37がマイクロ波発振器33から出力するマイクロ波の導波管入口電力MWinを減少させ、これに伴って被加熱液Lが吸収したマイクロ波の電力Pも減少することにより、被加熱液Lの温度Trが50℃に近付いていく。反応終了後は、反応熱による温度上昇がなくなるので、両電力MWin,Pは僅かずつ上昇して被加熱液Lの温度Trを50℃に保持する。
【0034】
図12から求めた被加熱液Lの温度Trと反応熱(熱量)dQと反応率Xconvの経時変化を
図13に示す。熱量dQは、吸収した電力Pから演算処理して求めた補正された熱量である。熱量dQを積算したものが反応熱量Qであり、反応熱量Qの熱転化率が反応率Xconvである。
【0035】
反応熱によって被加熱液Lの温度Trが上昇すると、700秒付近から熱量dQが増加し、反応率Xconvが最初は急激に上昇し、次第に緩やかに上昇する。そして900秒付近で反応が終了すると、熱量dQがゼロとなり、反応率Xconvは1で安定する。したがって、反応が進行して反応率Xconvがベースラインに設定した0から1(反応終了)になる間の熱量dQが被加熱液Lと反応薬液とが反応したときの反応熱量で、反応率Xconvが反応率、即ち反応進行状況となる。したがって、吸収された電力Pの変化を測定して演算処理するだけの簡単な操作で、かつ、短時間で反応熱量及び反応進行状況を求めることが可能となる。
【0036】
すなわち、この反応熱量測定法では、恒温槽12の温度を、被加熱液Lの設定温度より10〜20℃低い一定温度に維持しながら、反応容器11内の被加熱液Lを一定温度に維持するようにマイクロ波の電力(被加熱液Lが吸収する電力P)を連続的に調節する。この状態で反応が始まり、反応熱によって被加熱液Lの温度Trが上昇すると、被加熱液Lが吸収するマイクロ波の電力Pは、反応によって発生したそのときの熱量dQと等しい量だけ減少する。
【0037】
ここで、吸収電力P[W]は、マイクロ波導入口18から導入されたマイクロ波の電力(入口側電力MWin)[W]と、マイクロ波導出口19から導出された電力(出口側電力MWout)[W]と、マイクロ波発振器33まで戻った電力(反射電力MWref[W])とから、式1によって求めることができる。
【0038】
P[W]=MWin−MWout−MWref・・・式1
【0039】
さらに、被加熱液Lの熱量変化PC[W]は、マイクロ波導入口18から導入されるマイクロ波の設定電力MWinSET[W]と前記吸収電力P[W]との差、即ち式2によって求めることができる。
【0040】
PC[W]=MWinSET−P・・・式2
【0041】
そして、式3に示すように、熱量変化PC[W]からベースラインBLを決定し、これを差し引いたものが実際の発熱量dQ(ドットQ)[W]であり、この発熱量dQ[W]を毎秒積算したものが反応熱量Q[J]となる。
【0042】
Q[J]=Σ(PC−BL)・・・式3
【0043】
一方、
図10に示す被加熱液Lの温度に基づいて恒温槽12の温度を調節する方法(内温モード)により、キャリブレーションヒーターを用いることなく、従来と同様にしてヒートフローHF[W]による反応熱量測定も可能である。この内温モードでは、反応前後で被加熱液Lの温度Trと恒温槽12の温度Tjとの内外の温度が平衡になり、内外温度差が一定の定常状態となる。このときマイクロ波を一定の出力で照射することにより、非加熱物である被加熱液Lのマイクロ波の吸収量(吸収電力)P[W]は一定となり、これをレファレンスとして温度の平衡状態が変化した場合でも、定常状態で新しい温度平衡となり、内外温度差も変化して一定の温度差となる。この2つの定常状態における内外温度差の引算により求めた内外温度差の変化量(Tr−Tj)をΔT
0[K]とすると、ヒートフローHF[W]の計算に必要な変数UA[W/K]又は総括伝熱係数U[W/m
2.K]を、下記式4又は式5にて求めることができ、これにより、マイクロ波加熱においても、ヒートフローHF[W]による反応熱量測定が可能となる。
【0044】
UA[W/K]=P[W]÷ΔT
0[K]・・・式4
U[W/m
2.K]=P[W]÷ΔT
0[K]÷A[m
2]・・・式5
【0045】
前記マイクロ波の吸収量(吸収電力)P[W]は、導波管入口電力MWin[W]と、導波管出口電力MWout[W]と、反射電力MWref[W]とから、式6によって求めることができる。
【0046】
P[W]=MWin−MWout−MWref・・・式6
【0047】
また、ヒートフローHF[W]は、前記総括伝熱係数U[W/m
2.K]と、伝熱面積A[m
2]と、被加熱液Lの温度Tr[℃]と、恒温槽12の温度Tj[℃]と、リアクションマス(反応質量)mr[g]と、比熱c[J/g.K]と、被加熱液Lの温度変化速度dTr/dt[K/s]と、反応薬液の温度差によるエネルギーロスdQdos[W]とから、式7によって求めることができる。
【0048】
HF=UA*ΔT
0+mr*c*(dTr/dt)+dQdos・・・式7
【0049】
得られたヒートフローHFからベースラインbaselineを決定して差し引いたものが実際の発熱量dQ[W]であり、式8に示すように、この発熱量dQを毎秒積算したものが積算熱量Q[J]となる。
【0050】
Q[J]=Σ(HF−baseline)・・・式8
【0051】
ここで、前記式7によれば、ヒートフローHFは、被加熱液Lの温度Trと恒温槽12の温度Tjとの差に依存し、雰囲気温度の影響を受けないこと、また、被加熱液Lの温度Trが変動した場合には、リアクションマスmrと比熱cと温度変化速度dTr/dtと積により補正が可能であるから、反応速度が速くても、遅くても対応可能であることがわかる。そして、式7において、滴下のロスがなく、被加熱液Lの温度Trが一定のとき、ヒートフローHFは、次の式9で表すことができる。
【0053】
式7と式9において、ヒートフローHFをマイクロ波の吸収量(吸収電力)P[W]に置き換えて展開すると、式10に示す比熱cを求めるキャリブレーション式と、式11に示す総括伝熱係数UA[W/K]を求めるキャリブレーション式とが得られる。
【0054】
c={P−UA*(Tr−Tj)}÷(mr*dTr/dt)・・・式10
UA=P÷ΔT
0・・・式11
【0055】
比熱cは、反応液温度上昇中に、変数UAは、反応液温度安定時に、それぞれ測定するので、キャリブレーションを、反応前、反応後の2回行うことにより、反応熱量を高精度で求めることができる。この内温モードで実験を行ったときの各値の変化の一例を
図14及び
図15に示す。
図15では、滴下率(0〜1):Xdos、反応率(0〜1):Xconv、未反応薬液の蓄積率(0〜1):Xacuum、実際の発熱量[W]:dQを示している。