(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、AM方式のラジオ放送波をトンネル内等に再放送する中継装置では、例えば、
図9に示すように、アンテナ41に到来した放送波は、受信部42によって所定の中間周波信号(またはベースバンド信号)に変換され、さらに、送信部43によって所望の周波数の再放送波に変換されてアンテナ44から再送信されていた。
【0003】
また、このような従来の中継装置では、上記再放送波は、周波数が放送波と同じ、またはほぼ同じである場合には、アンテナ44からアンテナ41への回り込みを軽減することによってトンネル内において良好な品質によるラジオ放送の試聴を可能とするために、例えば、以下の事項(a)〜(c)の全てまたは一部が人手を介して図られていた。
【0004】
(a) アンテナ41、44の双方または何れか一方の位置や姿勢の調整
(b) 受信部42および送信部43の総合的な利得や移相量の調整
(c) 再放送波の周波数の微調整
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術としては、以下に列記する特許文献1、2および非特許文献1があった。
【0006】
(1) 「受信アンテナと、キャンセル用信号にキャンセルパラメータを乗算して生成したレプリカ信号と受信信号とを、無線周波帯、中間周波帯、ベースバンドの少なくとも1つで合成し、その合成信号からベースバンド合成信号を得て出力するキャリヤ合成部と、上記ベースバンド合成信号の復調処理を行って得られたデータ信号を用いて送信信号と、上記キャンセル用信号とを生成する送信部と、上記送信信号を送出する送信アンテナ部と、上記キャンセルパラメータと上記キャンセル用信号との積の信号と、上記受信信号の差の信号のパワーを小さくするように、上記ベースバンド合成信号と、上記キャンセル信号と、ステップ係数との積を前回の上記キャンセルパラメータに加算することにより逐次更新された上記キャンセルパラメータを算出して、算出されたキャンセルパラメータを上記キャリア合成部に出力するパラメータ制御部とを含む」ことによって、「送信波にパイロット信号の重畳や変調のような擾乱を加えずに干渉をキャンセルし、また精度のよいキャンセル制御を行える」点に特徴があるブースタ装置…特許文献1
【0007】
(2) 「所定の周波数チャネルのサブキャリア信号を多重化して含むOFDM信号の伝送路特性を測定する伝送路特性測定器において、受信したOFDM信号のスペクトルの逆数に基づいて伝送路特性を測定する」ことによって、「中継処理開始後の伝送路特性の変化にもより迅速に対応することができる」点に特徴がある伝送路特性測定器…特許文献2
【0008】
(3) 「直接中継方式ブースタ方式が適用され、不感地でサービスを行う方式やその領域の大小によって装置を使い分ける」ことによって、「移動通信方式における不感地における通信サービスを経済的かつ簡便に提供可能とする」点に特徴がある周波数オフセットブースタ…非特許文献1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した従来例では、人手を介して行われる既述の事項(a)〜(c)の何れについても、現地に担当員が赴かなければ実現できず、多くの工数や費用を要する場合が多かった。
【0012】
さらに、これらの事項(a)〜(c)は、法令上の制限や運用者の要求の範囲で達成されなければならないために、作業が繁雑となる場合が多かった。
【0013】
本発明は、既存の放送方式等の制約の下で、始動や再始動だけではなく、環境や経年に応じた特性の変動にも柔軟に適応し、かつ精度よく安定に回り込みの経路の伝送路推定を実現できる回り込み伝送路推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明では、制御手段は、第一の空中線に到来した到来波の再送信または中継の下で第二の空中線から放射される送信波の搬送波周波数を時系列の順に異なる複数pの値f
t1〜f
tpに個別に設定する。推定手段は、前記再送信を行う系と、前記第二の空中線から前記第一の空中線に至る回り込みの経路との総合的な特性を示し、かつ前記複数pの異なる値f
t1〜f
tpが個別に反映された複数pの式からなる連立方程式の解として、前記経路の伝送路推定を行う。
【0015】
すなわち、第二の空中線から放射された送信波が第一の空中線に回り込む経路の伝送路推定は、その送信波の搬送波周波数の偏差が許容される限度内において、第一の空中線に到来した到来波との互換性が損なわれることなく、精度よく実現される。
【0016】
請求項2に記載の発明では、制御手段は、第一の空中線に到来した到来波の再送信または中継の下で第二の空中線から放射される送信波の位相を時系列の順に異なる複数pの値φ
t1〜φ
tpに個別に設定する。推定手段は、前記再送信を行う系と、前記第二の空中線から前記第一の空中線に至る回り込みの経路との総合的な特性を示し、かつ前記複数pの異なる値φ
t1〜φ
tpが個別に反映された複数pの式からなる連立方程式の解として、前記経路の伝送路推定を行う。
【0017】
すなわち、第二の空中線から放射された送信波が第一の空中線に回り込む経路の伝送路推定は、その送信波の搬送波周波数の偏差が許容される限度内において、第一の空中線に到来した到来波との互換性が損なわれることなく、精度よく実現される。
【0018】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の伝送路推定装置において、前記制御手段は、前記複数pの値f
t1〜f
tpを規定の値域内で前記送信波の搬送波周波数として設定する。
【0019】
すなわち、再送信や中継により送信される送信波の搬送波周波数は、規定の範囲内に制限される。
【0020】
請求項4に記載の発明では、請求項1または請求項3に記載の伝送路推定装置において、前記制御手段は、前記複数pの値f
t1〜f
tpの内、前記時系列の順の末尾に設定される値、または前記特定の値に後続して設定される値として、前記再送信に適用されるべき所望の値を設定する。
【0021】
すなわち、再送信や中継により定常状態で送信される送信波の搬送波周波数は、その再送信や中継が行われるべき所望の値に設定される。
【0022】
請求項5に記載の発明では、請求項1、3、4の何れか1項に記載の伝送路推定装置において、前記制御手段は、前記複数pの値f
t1〜f
tpの全てまたは一部に搬送波周波数が設定された前記送信波のレベルを規定の値に設定する。
【0023】
すなわち、回り込みの経路の伝送路推定を解として与える連立方程式を得るため送信波の搬送波周波数が異なる値f
t1〜f
tpに順次設定される過程では、その送信波のレベルが適宜設定されることにより、法令上の制限が遵守され、かつ外部に対する無用な干渉や妨害の回避が実現される。
【0024】
請求項6に記載の発明では、
前記複数pの値ft1〜ftpの何れかは、前記到来波の搬送波周波数frと同じである。
このような構成の伝送路推定装置では、請求項1、3、4、5の何れか1項に記載の伝送路推定装置において、前記複数pの値ft1〜ftpの何れかは、前記到来波の搬送波周波数frと同じである。
すなわち、再送信または中継の下で送信される送信波の周波数は、所望の期間には、その再送信や中継の対象となる到来波の周波数に同じ値に設定される。
したがって、回り込みの経路の伝送路推定のために適用されるべき無線周波数の数が少なく抑えられ、かつ定常的に行われる再送信や中継の下で送信される送信波の周波数は到来波の周波数と同じ値に設定することが可能となる。
【0025】
請求項7に記載の発明では、
前記複数pの値φt1〜φtpの何れかは、前記到来波の位相φrと同じである。
このような構成の伝送路推定装置では、請求項2に記載の伝送路推定装置において、前記複数pの値φt1〜φtpの何れかは、前記到来波の位相φrと同じである。
すなわち、再送信または中継の下で送信される送信波の位相は、所望の期間には、その再送信や中継の対象となる到来波と同じ位相に設定される。
したがって、定常的に行われる再送信や中継の下で送信される送信波と、上記到来波との間における位相の格差が圧縮される。
【0026】
請求項8に記載の発明では、
回り込みキャンセラは、第一の空中線に到来した到来波の再送信に供される第二の空中線から前記第一の空中線に至る回り込みを相殺または抑圧し、請求項1、2、3、4、5、6、7の何れか1項に記載の伝送路推定装置と、前記伝送路推定装置によって行われた伝送路推定の結果を前記相殺または前記抑圧に適用する回り込みキャンセル支援手段とを備える。
このような構成の回り込みキャンセラでは、第一の空中線に到来した到来波の再送信に供される第二の空中線から前記第一の空中線に至る回り込みを相殺または抑圧する回り込みキャンセラにおいて、伝送路推定装置は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載される。回り込みキャンセル支援手段は、前記伝送路推定装置によって行われた伝送路推定の結果を前記相殺または前記抑圧に適用する。
すなわち、回り込みは、その回り込みの経路について請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の伝送路推定装置によって求められた伝送路推定の結果が適用されることによって、相殺されまたは抑圧される。
したがって、本発明が適用された伝送系や無線伝送系では、構成が大幅に変更されることなく安価に、高い伝送品質が達成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明が適用された伝送系や無線伝送系では、構成が大幅に変更されることなく安価に、高い伝送品質が達成される。
【0028】
本発明が適用された伝送系や無線伝送系では、仕様や性能、ならびに関係する法令上の制限の下で多様な無線周波数に柔軟に適応可能となる。
【0029】
本発明が適用された伝送系や無線伝送系によれば、様々な制約や環境に対する柔軟な適応が可能となる。
【0030】
したがって、本発明によれば、安価に付加価値および総合的な信頼性が高められ、かつ様々な系に対する柔軟な適応が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す図である。
図において、
図9に示すものと機能および構成が同じものについては、同じ符号を付与し、ここでは、その説明を省略する。受信部42および送信部43については、本実施形態では、図示を省略する。
本実施形態と
図9に示す従来例との構成の相違点は、以下の点にある。
【0033】
(1) 受信部42の後段に加算器11が配置される。
(2) 送信部43の前段に乗算器12が配置される。
(3) 乗算器12の出力と加算器11の加数入力との間にトランスバーサルフィルタ13が配置される。
【0034】
(4) 加算器11の出力に接続された第一の入力を個別に有するDFT部14、15、16
(5) これらのDFT部14、15、16の出力がタップ係数更新部17の第一、第二および第三の入力に接続される。
【0035】
(6) タップ係数更新部17の第一の出力がトランスバーサルフィルタ13の係数入力に接続される。
(7) タップ係数更新部17の第二の出力が周波数オフセット制御部18に入力され、その周波数オフセット制御部18の出力が乗算器12の乗数入力に接続される。
【0036】
図2は、本実施形態において行われる主要な処理のフローチャートである。
図3は、本実施形態の動作を説明する図である。
以下、
図1〜
図3を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0037】
本明細書では、簡単のため親局(上位局)からの送信波の搬送波周波数f
0 を「0」とする等価低域系にて説明することとする.実際の装置においても周波数変換して搬送波周波数を零として扱う場合が多い。アンテナ41に到来した放送波X(f)と後述する回り込み波C(f)Y(f)とは共に、図示されない周波数変換器によって信号Z(f)に変換されて加算器11に入力される。加算器11は、トランスバーサルフィルタ13によって後述するように算出され、かつ更新される複素信号を上記信号Z(f)に加算することによって複素信号W(f)を生成する。その複素信号W(f)は、周波数オフセット制御部18によって生成された周波数Δf
2 または(Δf
2 +k)の局発信号と乗算器12によって乗じられることによって、再送信波Y(f)に変換され、アンテナ44を介して再送信される。
【0038】
このような再送信波Y(f)は、上記アンテナ41に到来し、回り込み伝送路C(f)を通り、回り込み波C(f)Y(f)として回り込む。
本発明の特徴は、本実施形態では、DFT部14、15、16、タップ係数更新部17、トランスバーサルフィルタ13、乗算器12および周波数オフセット制御部18が後述するように連係することによって行う処理の手順にある。
【0039】
〔本実施形態の原理〕
以下、このような処理の手順に先行して、本実施形態の原理を説明する。
放送波X(f)の搬送波成分に対応する信号Z(f)の搬送波成分の線スペクトルZ(0) は、
図3(a) に示すように、その搬送波成分のレベルAと位相θ
0 とに対して、一般に、下式(1) で表される。
Z(0)=A・exp(jθ
0 ) …(1)
【0040】
上記周波数オフセット制御部18によって設定される周波数がΔf
2である状態における信号Y(f)の周波数Δf
2における線スペクトル(すなわち、再送信信号の搬送波成分の線スペクトル)Y(Δf
2)は、周波数オフセット制御部18において周波数オフセットΔf
2が付加されると、同時に位相θ
2が付加されるので、次式で表される。
Y(Δf
2)=A・ exp{j(θ
0+θ
2)}
【0041】
同様に、周波数オフセット制御部18において周波数オフセット(Δf
2+k)が付加されると、同時に位相θ
2が付加されるので、信号Y(f)の周波数(Δf
2+k)における線スペクトル(すなわち、再送信信号の搬送波成分の線スペクトル)Y(Δf
2+k)は、次式で表される。
Y(Δf
2+k)=A・ exp{j(θ
0+θ
2)}
【0042】
但し、周波数オフセットΔf
2を付加した場合と、周波数オフセット(Δf
2+k)が付加した場合とで位相θ
2 は一致させておく。
【0043】
また、上記周波数オフセット制御部18によって設定される周波数が(Δf
2+k)とΔf
2とである状態における回り込み波それぞれと、上記信号Z(f)の搬送波成分の線スペクトルZ(Δf
2+k)、Z(Δf
2)は、
図3(b),(c)にそれぞれ示すように、以下に列記する値に対して、下記(2),(3)で与えられる。
【0044】
アンテナ44からアンテナ41への回り込み波は、再送信波と回り込み伝送路により表され、時間領域では
∫y(τ)c(t−τ)dτ
として表され、周波数領域では
Y(f)・C(f)
で表される。
【0045】
以下、回り込み伝送路のインパルス応答値c(t)
c(t)=ρexp(jθ)δ(t-τ)
として説明する。但し、ρ、θ、およびτはそれぞれ回り込み伝送路の振幅比、位相、および伝搬遅延時間を表す。
【0046】
回り込み伝送路のインパルス応答c(t)に対応する周波数特性(伝達関数)C(f)は、c(t)をフーリエ変換することで得られ、次式
C(f)=ρexp(jθ) exp (-j2πfτ)
で表される。
【0047】
ここで回り込み波をキャンセルしていない状態では、Y(f)は受信信号W(f)=Z(f)に周波数オフセット制御部18において周波数オフセットΔf
2を付加した信号であるので、
Y(f)=Z(f−Δf
2)
exp(jθ
2)
であり、
Z(f)=X(f)+C(f)・Y(f)
である。すなわち、周波数(Δf
2+k)、および周波数Δf
2における線スペクトルZ(Δf
2+k)、およびZ(Δf
2)がそれぞれ得られる。
Z(Δf
2+k)=A・exp(jθ
0)・ρexp{j(θ+θ
2)}・exp{−j2π(Δf
2+k)τ}…(2)
Z(Δf
2)=A・exp(jθ
0)・ρexp{j(θ+θ
2)}・exp(−j2πΔf
2τ) …(3)
【0048】
したがって、上式(1)、(2)の両辺の比と、上式(1)、(3)の両辺の比とは、それぞれ下式(4)、(5)で表される。
Z(Δf
2+k)/Z(0)=ρexp{j(θ+θ
2)}・exp{−j2π(Δf
2+k)τ} …(4)
Z(Δf
2)/Z(0)=ρexp{j(θ+θ
2)}・exp(−j2π(Δf
2)τ) …(5)
【0049】
これらの式(4)、(5)より、回り込み波の伝搬遅延時間τ、並びに振幅ρ、および位相θを算出する。
【0050】
τ=−1/(2πk)・tan
−1[Im{Z(Δf
2+k)/Z(Δf
2)}/Re{Z(Δf
2+k)/Z(Δf
2)}] …(6)
ρ=|Z(Δf
2)/Z(0)|
ρ=|Z(Δf
2+k)/Z(0)|
のいずれか(以下、「式(7)
」と表記する。)により振幅ρが算出される。
また、既に算出した遅延時間τも用いて
θ+θ
2 =tan
−1[Z(Δf
2)/{Z(0)・ρexp(−j2πΔf
2τ)}]
θ+θ
2 =tan
−1[Z(Δf
2+k)/{Z(0)・ρexp(−j2π(Δf
2+k)τ)}]
のいずれか(以下、「式(8)
」と表記する。)により位相θが算出される。
【0051】
振幅ρと位相θについては、
ρexp{j(θ+θ
2)}=Z(Δf
2)/{Z(0) exp(−j2πΔf
2τ)}
ρexp{j(θ+θ
2)}=Z(Δf
2+k)/{Z(0) exp(−j2π(Δf
2+k)τ)}
のいずれか(以下、「式(9)
」と表記する。)により、振幅と位相を含めた複素数値として算出してもよい。
【0052】
ここで、回り込み波の位相θを算出する際にθ
2 が加算されているが、θ
2 は既知であるので、式(8)からはθ
2 を差し引くことでθが得られ、式(9)からはθ
2 に対応するexp(−jθ
2 )を乗算することで回り込み波の振幅ρと位相θを含めた複素数値ρexp(jθ)が得られる。
【0053】
〔本実施形態における各部の連係〕
周波数オフセット制御部18は、既述の周波数(Δf
2+k)、Δf
2を時系列に順次に所定のインターバルで与える。但し、周波数(Δf
2+k)、Δf
2の順番は逆でも良い。
【0054】
乗算器12は、このような局部発振器信号(もしくは、数値制御発振器(Numerically Controlled Oscillators:NCO)、ダイレクトデジタルシンセサイザ(Direct Digital Synthesizer:DDS)等の信号)に亘って複素信号W(f)の周波数をシフトさせる。
【0055】
一方、DFT部14、15、16は、複素信号W(f)(放送波X(f)と上記再送信波Y(f)の回り込み成分C(f)・Y(f)とが加算されている。回り込みキャンセル動作が開始された後は、回り込み波のキャンセル波も加算されている。)を離散フーリエ変換することにより、上記周波数(Δf
2+k)、Δf
2、0にそれぞれ対応したその複素信号W(f)の搬送波成分の線スペクトルを求める。
【0056】
タップ係数更新部17は、これらの線スペクトルに基づいて上式(6) に示す算術演算を行うことにより、アンテナ44からアンテナ41に回り込んだ回り込み波の伝搬遅延時間τを算出する(
図2ステップS1)。
【0057】
タップ係数更新部17は、これらの線スペクトルに基づいて上式(7),(8)に示す算術演算を行うことにより、上記の搬送波成分から、既述の周波数オフセットΔf
2と周波数オフセット(Δf
2+k)より、回り込み波の振幅ρおよび位相θを求める(
図2ステップS2)。
【0058】
タップ係数更新部17は、このようにして求められた伝搬遅延時間τ、並びに振幅ρ、および位相θを示すインパルス応答に相当するタップ係数を求める(
図2ステップS3)。
【0059】
タップ係数更新部では、式(7)、および(8)(もしくは式(7)、および(8)と等価な式(9))により算出された回り込み波の遅延時間τ、並びに振幅比ρ、および位相θ(厳密には、更新2回目以降は回り込み波をキャンセルした後のキャンセル残差)を示すインパルス応答r(t)を用いて(更新初回(1回目)はr(τ)=ρexp(jθ)、r(t)=0.0(t≠τ))、各遅延時間tに対応するタップ係数を例えば、
h(t)=h(t)−μ・r(t) …(10)
等の適応的な更新式によってタップ係数を更新する.ここでのμは0<μ≦1.0を満たす更新係数である。但し、式(10)によりタップ係数を更新する際には、回り込み波キャンセルを開始した後はW(f)=Z(f)ではなくなるので、式(7) および式(8) ではZ(f)に替えてW(f)を用いて計算をする。
【0060】
トランスバーサルフィルタ13は、乗算器12によってアンテナ44の給電点に与えられる再送信波Y(f)に、上記タップ係数に基づく濾波処理を施すことによって、アンテナ44からアンテナ41に至る再送信波Y(f)の回り込みの抑圧(キャンセル)を可能とする帰還信号を加算器11に与える。
【0061】
したがって、放送波X(f)には本来的に含まれないパイロット信号等が再送信波Y(f)に重畳されることなく、さらに、そのパイロット信号の重畳に付帯するハードウェアが備えられることなく、アンテナ44からアンテナ41に至る回り込みの抑圧が図られる。
【0062】
なお、本実施形態では、周波数オフセット制御部18によって設定される周波数(Δf
2+k)、Δf
2は、始動時に所定のインターバルで一回だけ切り替えられるが、双方の偏差は、法令の制限内に維持されている。
【0063】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、以下に列記する要件の全てが成立するならば、上記周波数は、3通り以上の値に設定されてもよい。
【0064】
(1) 少なくとも1つの周波数オフセット(以下、「特定の周波数」という。)は、本実施形態の定常的な稼働状態において適用される。
【0065】
(2) このような特定の周波数に応じてアンテナ44から再送信される再送信波Y(f)と、既述の放送波X(f)との間における周波数偏差は、上記法令の制限内で許容される限度内に抑える。
【0066】
(3) 上記特定の周波数以外の周波数に対応してアンテナ44から再送信される再送信波Y(f)の全てまたは一部のレベルは、上記法令の制限内において送信が許容される値に設定され、このような値と上記レベルとの差は、既知の値として予め与えられる。
【0067】
(4) 既述の遅延時間τ、並びに振幅ρ、および位相θは、上記3通り以上の信号に個別に対応した式の内、少なくとも2本から構成される1組の連立方程式の解として算出され、あるいは複数組の連立方程式により算出される。
【0068】
また、本実施形態では、再送信波Y(f)の周波数は、周波数オフセット制御部18が既述の周波数を(Δf
2+k)とΔf
2とのそれぞれに設定することによって、始動時に所定のインターバルで一回だけ切り替えられる。
【0069】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、上記周波数(Δf
2+k)、Δf
2に応じてアンテナ44から再送信される再送信波の何れの周波数も法令の制限内に抑えられる場合には、これらの周波数は、所定の周期やインターバルで(Δf
2+k)とΔf
2とに交互に設定されてもよい。
【0070】
さらに、本実施形態では、周波数オフセット制御部18によって周波数(Δf
2+k)、Δf
2が交互に切り替えられて設定されている。
しかし、本発明は、このような構成に限定されず、例えば、以下の通りに構成されてもよい。
(1)
周波数オフセット制御部18によって設定される周波数は、一定のΔf
2のみに固定される。
(2) 連立方程式(4)、(5)に含まれる項kは、回り込み波がアンテナ41に再帰的に到来してアンテナ44から再送信されることによって生じるΔf
2またはその整数倍の値として与えられる。
(3) 上記連立方程式(4)、(5)に、このような項kが適用されることによって、本実施形態の作用効果が同様に達成される。
【0071】
また、本実施形態では、本発明は、中波帯における既存のAM放送方式に適応し、かつトンネル内に放送波を再放送するために用いられる回り込みキャンセラに適用されている。
【0072】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、再送信波Y(f)の回り込みの抑圧や軽減が要求され、かつ占有帯域に単一の搬送波の成分を示す線スペクトルが含まれる方式の伝送系や無線伝送系であれば、周波数帯や変調方式の如何にかかわらず適用可能である。
【0073】
さらに、本実施形態の主要部は、
図1にブロック図として示すように、既述の信号処理をディジタル領域で行うFPGA等の専用ハードウェアあるいは汎用のディジタルシグナルプロセッサで構成され得る。
【0074】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、所定の性能、精度および応答性が確保されるならば、上記信号処理の何れの部位も等価な処理を行うアナログ回路で代替可能である。
【0075】
また、本実施形態では、連立方程式(4)、(5)は、既述の上式(1)、(2)の両辺の比と、上式(1)、(3)の両辺の比とがとられることによって与えられている。
【0076】
しかし、本発明は、このような構成に限定されず、例えば、再送信波Y(f)の周波数に代えて位相が複数通りに可変されることによって、連立方程式(4)、(5)に代わる連立方程式が与えられる場合には、その連立方程式の解は、如何なる数値計算法やアルゴリズムに基づいて求められてもよい。
【0077】
なお、このように周波数に代えて位相が複数通りに可変される構成は、以下の通りに、「回り込み波がアンテナ41に再帰的に到来してアンテナ44から再送信される過程では、アンテナ41の給電点から加算器11および乗算器12を介してアンテナ44の給電点に至る区間の移相量Φが個々の再送信波の位相に反映される」ことの活用が図られる構成で代替されてもよい。
(1)
移相量Φが一定の値に設定される。
(2) 上述した「連立方程式(4)、(5)に代わる連立方程式」には、上記「可変される位相」は、位相θ
2の2通りの値は、既述の移相量Φまたはその整数倍の値として与えられる。
(3) このような連立方程式を確実に有無ために、再帰的に送信される再送信波には、「その再帰的な送信の回数の識別を可能とする情報の重畳、またはその情報による変調」が施される。
【0078】
また、本実施形態は、既述の構成に限定されず、例えば、以下に列記する態様(a)〜(d)の何れで構成されてもよい。
(a)
図4に示すように、DFT部16は、その入力が乗算器12の出力に接続され、既述の周波数Δf
2、および周波数(Δf
2+k)の線スペクトルを求める。なお、このような構成では、既述の伝搬遅延時間τ算出する式(6)は下式で代替される。
τ=−1/(2πk)・tan
−1[Im[{W(Δf
2+k)Y(Δf
2)}/{Y(Δf
2+k)W(Δf
2)}]/Re[{W(Δf
2+k)Y(Δf
2)}/{Y(Δf
2+k)W(Δf
2)}]]
【0079】
振幅ρを算出する既述の式(7)は、下式で代替される。
ρ=|W(Δf
2)/Y(Δf
2)|
ρ=|W(Δf
2+k)/Y(Δf
2+k)|
また、位相θを算出する既述の式(8)は下式で代替される。
【0080】
θ=tan
−1[Im[W(Δf
2)/{Y(Δf
2)・ρexp(−j2πΔf
2τ)}]/Re[W(Δf
2)/{Y(Δf
2)・ρexp(−j2πΔf
2τ)}]]
θ=tan
−1[Im[W(Δf
2+k)/{Y(Δf
2+k)・ρexp(−j2π(Δf
2+k)τ)}]/Re[W(Δf
2+k)/{Y(Δf
2+k)・ρexp(−j2π(Δf
2+k)τ)}]
【0081】
振幅ρと位相θについては、
ρexp(jθ)=W(Δf
2)/{Y(Δf
2)・exp(−j2πΔf
2τ)}
ρexp(jθ)=W(Δf
2+k)/{Y(Δf
2+k)・exp(−j2π(Δf
2+k)τ)}
のいずれかにより、振幅と位相を含めた複素数値として算出してもよい。
【0082】
(b)
図5に示すように、DFT部14、15、16は、何れも既述の信号W(f)
を取り込み、それぞれ周波数零、周波数Δf
2 、周波数(Δf
2+k)の線スペクトルを求める。なお、このような構成では、既述の式(10)
は、下式で代替される。
h(t)=−r(t)
【0083】
(c)
図6に示すように、DFT部14、15の入力に既述の信号Z(f)
が入力され、それぞれ周波数Δf
2 、周波数(Δf
2+k)の線スペクトルを求める。さらに、DFT部16の入力は乗算器12の出力に接続され、周波数Δf
2 の線スペクトルを求める。なお、このような構成では、既述の式(10)
は、下式で代替される。
h(t)=−r(t)
【0084】
(d)
図7に示すように、DFT部14、15、16は既述の信号Z(f)
を取り込んで周波数零、周波数Δf
2 、周波数(Δf
2+k)をそれぞれ求め、タップ係数更新部17はこれらに基づいて回り込み波の遅延時間を算出する。DFT14A、15A、16Aは複素信号W(f)を取り込んで周波数零、周波数Δf
2 、周波数(Δf
2+k)をそれぞれ求め、タップ係数更新部17はこれらに基づいて回り込み波の振幅および位相を算出して適宜更新する。
【0085】
また、本実施形態は、以下の通りに構成されてもよい。
(1)
図8に示すように、DFT部14、15、16に代えてDFT部14A、15A、16Aがそれぞれ備えられ、かつタップ係数更新部17および周波数オフセット制御部18に代えてタップ係数更新部17Aおよび周波数オフセット制御部18Aがそれぞれ備えられた点で、
図1に示す実施形態と異なる。
【0086】
(2) 周波数オフセット制御部18Aは、既述の周波数Δf
2を乗算器12に与え続けるが、既述の周波数(Δf
2+k) を生成することはない。
(3) アンテナ41には、既述の放送波X(f)と、再送信波Y(f)の回り込み成分C(f)・Y(f)とに併せて、その放送波X(f)の周波数fとは異なるが既知である周波数f′の放送波X′(f′)が到来する。
【0087】
(4) DFT部14A、15A、16Aは、これらの周波数の差δf(=f′−f)に対して定まる値(Δf
2+δf)を既述の周波数(Δf
2+k)と見なし(すなわち、f
2=δfとみなし)、かつ複素信号W(f)を離散フーリエ変換することにより、上記周波数(Δf
2+k)、Δf
2、0にそれぞれ対応したその複素信号W(f)の搬送波成分の線スペクトルを求める。
【0088】
(5) タップ係数更新部17Aは、以下に列記するように、
図1に示す実施形態に示すタップ係数更新部17と同様に、以下の処理を行う。
【0089】
(5-1) 上述した線スペクトルに基づいて上式(6) に示す算術演算を行うことにより、アンテナ44からアンテナ41に回り込んだ回り込み波の伝搬遅延時間τを算出する(
図2ステップS1)。
【0090】
(5-2) これらの線スペクトルに基づいて上式(7),(8)に示す算術演算を行うことにより、上記の搬送波成分から、既述の周波数オフセットΔf
2と周波数オフセット(Δf
2+k)とより、回り込み波の振幅ρおよび位相θを求める(
図2ステップS2)。
【0091】
(5-3) このようにして求められた伝搬遅延時間τ、並びに振幅ρ、および位相θを示すインパルス応答に相当するタップ係数を求める(
図2ステップS3)。
【0092】
すなわち、
図8に示す構成では、周波数オフセット制御部18Aが1通りだけの周波数(=Δf
2)を生成し、かつ既述の周波数(Δf
2+k)として、アンテナ41に到来することが自明である放送波X′(f′) の周波数f′に基づく換算が可能な値が適用されることによって、
図1に示す実施形態と同様に連立方程式が得られる。
【0093】
したがって、
図1に示す実施形態に比べて、性能や応答性が低下することくなく構成が簡略化され、しかも、再送信波の周波数が一定に保たれる。
なお、
図8に示す構成では、アンテナ44からアンテナ41に至る回り込み経路の伝送路推定が4つ以上の未知数として求められるべき場合には、これらの未知数を解として与える連立方程式は、2つ以上の放送波の既知の周波数に基づいて求められてもよい。
【0094】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。