(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231307
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】機能不全HDLの測定方法、機能不全HDL測定用キット、並びに、生活習慣病マーカーの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20171106BHJP
G01N 33/566 20060101ALI20171106BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20171106BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
G01N33/53 W
G01N33/566
G01N33/543 515A
G01N33/50 F
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-135064(P2013-135064)
(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公開番号】特開2015-10879(P2015-10879A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】513163258
【氏名又は名称】中野 恵正
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】向井 準
(72)【発明者】
【氏名】大木 誠
【審査官】
海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−279066(JP,A)
【文献】
特開2011−106847(JP,A)
【文献】
特開2008−203269(JP,A)
【文献】
特開2004−069672(JP,A)
【文献】
特開平09−033525(JP,A)
【文献】
特表2007−515632(JP,A)
【文献】
特開2012−100585(JP,A)
【文献】
Besler C, et al., ,J. Clin. Invest.,2011年,vol.121 ,p2693-2708
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれる機能不全HDLの測定方法であって、機能不全HDLの受容体に前記試料を接触させて、試料中の機能不全HDLを前記受容体に結合させ、受容体に結合した機能不全HDLを検出するものであり、
前記受容体は、LOX−1又はその改変体であり、
前記受容体は、担体に固定化されており、
前記受容体に結合した機能不全HDLに、機能不全HDLを認識する抗体をさらに結合させることを特徴とする機能不全HDLの測定方法。
【請求項2】
前記機能不全HDLは、酸化HDLであることを特徴とする請求項1に記載の機能不全HDLの測定方法。
【請求項3】
前記抗体は、抗アポリポタンパク質A1抗体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機能不全HDLの測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の機能不全HDLの測定方法に用いるためのキットであって、LOX−1又はその改変体と機能不全HDLを認識する抗体とを含むことを特徴とする機能不全HDL測定用キット。
【請求項5】
前記抗体は、抗アポリポタンパク質A1抗体であることを特徴とする請求項4に記載の機能不全HDL測定用キット。
【請求項6】
さらに、機能不全HDLの標準品を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の機能不全HDL測定用キット。
【請求項7】
機能不全HDLからなる生活習慣病マーカーの測定方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の機能不全HDLの測定方法によって、被験者から採取した体液中の機能不全HDLを測定することを特徴とする生活習慣病マーカーの測定方法。
【請求項8】
前記体液は、血清又は血漿であることを特徴とする請求項7に記載の生活習慣病マーカーの測定方法。
【請求項9】
前記生活習慣病は、メタボリックシンドローム、耐糖能異常、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化、及び高血圧からなる群より選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項7又は8に記載の生活習慣病マーカーの測定方法。
【請求項10】
得られた機能不全HDLの測定値を基準値と比較する工程を包含することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の生活習慣病マーカーの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能不全HDLの測定方法、機能不全HDL測定用キット、並びに、生活習慣病
マーカーの
測定方法に関し、さらに詳細には、機能不全HDLの受容体を使用する機能不全HDLの測定方法、当該方法に用いられる機能不全HDL測定用キット、並びに当該方法を利用した
マーカーの
測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化が進み、それに起因すると考えられるメタボリックシンドローム、耐糖能異常、糖尿病、脂質異常症、高血圧、動脈硬化等の生活習慣病が増加している。これら生活習慣病に共通して問題になるのは、血中コレステロールの濃度と質である。
【0003】
コレステロールは脂質の一種でステロイドに分類され、中でもステロールと呼ばれるサブグループに属する有機化合物の一種である。このコレステロールが血中を運ばれるとき、タンパク質と結合して複合体となったリポタンパク質の分子形態をとる。肝臓から末梢へのコレステロール輸送は、比較的比重が軽く粒子径の大きなリポタンパク質(低比重リポタンパク質。low-density lipoprotein。以下、「LDL」と称する)が担当し、組織から肝臓への輸送は、比較的比重が重く粒子径の小さなリポタンパク質(
高比重リポタンパク質。high-density lipoprotein。以下、「HDL」と称する)が担当する。LDL分子に含まれるタンパク質はアポリポタンパク質Bである。HDL分子には多種類のタンパク質が含まれるが、その大半はアポリポタンパク質A1(以下、「ApoA1」と略記することがある。)である。
【0004】
1960年代にリポタンパク質の研究が進歩し、LDLが動脈硬化のリスクを高め、HDLがリスクを低減させるという学説が定着した。このため、LDLを「悪玉コレステロール」、HDLを「善玉コレステロール」と呼ぶことがある。現在、一般的な健康診断では総コレステロール、HDL、中性脂肪を測定し、3者の測定値から計算式によってLDLを算出している。日本動脈硬化学会が発出した動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、望ましいLDL、HDL、中性脂肪、非HDL(総コレステロール−HDL)の血中濃度を定義し、薬剤の服用によるコレステロールの管理目標を明記している。
【0005】
このように、LDLは動脈硬化の原因であり、血中濃度を管理するべきであるとされているが、1990年代末からの研究の進歩により、LDLそのものよりもむしろ、LDLが体内で酸化修飾を受けた酸化変性LDL(酸化LDL)が動脈硬化のリスクを高める分子であることが明らかにされている。そして、酸化LDLの測定法がいくつか開発されており、そのような測定法の一部は、重症糖尿病患者の予後管理に用いる体外診断用医薬品に採用されている。
【0006】
しかし近年、善玉とされていたHDLにも、酸化などの修飾により、機能が損なわれて動脈硬化のリスクを高める「機能不全HDL」があることが明らかになってきている。機能不全HDLは正常なHDLとは異なり、動脈硬化や炎症を促進又は惹起することが明らかになっている。
【0007】
機能不全HDLにはさまざまな分子形態の種類が知られている。例えば、HDLの構成成分のアポリポタンパク質A1のリジン残基が過酸化脂質によって酸化修飾された「MDA−HDL」、メチオニン残基が酸化修飾された「MetO−HDL」、ミエロペルオキシダーゼの作用によって次亜塩素酸塩化した「HOCl−HDL」、などである。さらにこのほかにも、HDLの構成成分の脂質部分が酸化された分子種もあるとされている。
【0008】
このような機能不全HDLの血中濃度の測定は、動脈硬化のリスク及び進展を判定する検査方法としての有用性が期待されるため、その測定技術の研究が進められた。測定技術としては、メチオニン残基が酸化修飾されたアポリポタンパク質A1(MetO−アポA1)をエピトープとするモノクローナル抗体と、抗アポリポタンパク質A1抗体とを用いるサンドイッチELISA法が報告されている(例えば、特許文献1〜4、非特許文献1,2)。
【0009】
しかし、これらの方法ではモノクローナル抗体を利用するため、検出できる機能不全HDLの分子形態が限定される。そのため、上記のように多様な分子形態の機能不全HDLを広く捕捉して検出することはできないという共通の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4588053号公報
【特許文献2】特許第3998245号公報
【特許文献3】特許第3436444号公報
【特許文献4】特許第4625812号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Wang et al., "A sensitive and specific ELISA detects methionine sulfoxide-containing apolipoprotein A-I in HDL", Journal of Lipid Research 50, 2009, 586-594
【非特許文献2】Ueda et al., "Establishment and evaluation of 2 monoclonal antibodies against oxidized apolipoprotein A-I (apoA-I) and its application to determine blood oxidized apoA-I levels", Clinica Chimica Acta 378, 2007,105-111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、動脈硬化の原因は一種類の因子に帰するのではなく、LDLやHDLをはじめとするさまざまな生体分子が、病態準備状態にある生体内環境のストレスによって変質し、変質した分子が特異的受容体と結合することによって動脈硬化のリスクを高めていることが、近年の研究によって明らかになりつつある。このため、循環血中の機能不全HDLの濃度を測定することは、動脈硬化のリスクの程度を判定し、適切な医療介入を支援する有用な検査になる可能性がある。
【0013】
しかし、変質又は酸化を受けて生じた機能不全HDLの特定の構造をエピトープとするモノクローナル抗体を利用する方法では、異なる修飾基の構造を有する機能不全HDLを検出することができない。モノクローナル抗体を用いる限り、この制約を払拭できない。
【0014】
そこで本発明は、多様な分子形態の機能不全HDLを広く検出できる機能不全HDLの測定技術を提供するとともに、当該技術を利用した生活習慣病の検出技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決すべく、本発明者らは、モノクローナル抗体を用いずに機能不全HDLを測定するための研究を進めた。その結果、機能不全HDLの受容体(受容体タンパク質)を利用することにより、上記した課題を解決できることを見出した。すなわち、受容体を用いることにより、多様な機能不全HDLを広く捕捉することができることを見出した。そして、当該方法で測定した血中の機能不全HDLが、糖尿病、非アルコール性脂肪肝の患者では高値を示し、生活習慣病の検出が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
上記した知見に基づいて提供され
る1つの様相は、試料中に含まれる機能不全HDLの測定方法であって、機能不全HDLの受容体に前記試料を接触させて、試料中の機能不全HDLを前記受容体に結合させ、受容体に結合した機能不全HDLを検出することを特徴とする機能不全HDLの測定方法である。
【0017】
この発明は機能不全HDLの測定方法に係るものである。
この発明では、機能不全HDLが含まれる試料を機能不全HDLの受容体に接触させ、試料中の機能不全HDLを前記受容体に結合させる。そして、受容体に結合した機能不全HDLを検出することにより、試料中の機能不全HDLを測定する。
この発明では、機能不全HDLの受容体を用いるので、多様な分子形態の機能不全HDLを受容体上に捕捉することができる。そのため、機能不全HDLを幅広く捉えることができる。モノクローナル抗体を用いた従来技術のように、測定対象が特定の機能不全HDLに限定されることはない。
【0018】
「機能不全HDL」とは、修飾を受けたHDL(修飾HDL)であって、構成タンパクや構成脂質の酸化や欠損などにより、機能に異常を来したHDLを指す。
機能不全HDLには、HDLを構成するタンパク質や脂質部分が酸化された修飾HDL(酸化HDL)が含まれる。また機能不全HDLには、HDLを構成するタンパク質の一部が欠損した修飾HDLが含まれる。
例えば、上述したような、HDLの構成成分のアポリポタンパク質A1のリジン残基が過酸化脂質によって酸化修飾された「MDA−HDL」、メチオニン残基が酸化修飾された「MetO−HDL」、ミエロペルオキシダーゼの作用によって次亜塩素酸塩化した「HOCl−HDL」が、機能不全HDLの具体例として挙げられる。
【0019】
「機能不全HDLの受容体」には、受容体としての機能、すなわち、リガンドである機能不全HDLに対する結合性を保持している限り、天然型の受容体(受容体タンパク質の全長)の他、その改変体も含まれる。受容体の改変体としては、受容体タンパク質の変異体(アミノ酸置換体等)、受容体タンパク質の部分断片、受容体タンパク質と他タンパク質との融合タンパク質(キメラタンパク質)、等が例示される。
機能不全HDLの受容体としては、LOX−1(OLR−1とも呼ばれる)、CD36、等が知られている。
【0020】
好ましくは、前記受容体は、担体に固定化されている。
【0021】
かかる構成により、受容体に結合した機能不全HDLの検出が容易となる。例えば、固相法による測定が可能となる。
【0022】
好ましくは、前記受容体は、LOX−1又はその改変体である。
【0023】
LOX−1とは、レクチン様酸化LDL受容体(Lectin-like oxidized low-density lipoprotein receptor-1)のことであり、酸化LDLの受容体の一種として知られている(日薬理誌,第119巻,p145−154,2002年;特開2011−106847号公報;特開2012−100585号公報)。近年、修飾されたHDLがLOX−1のリガンドとして作用しているとの報告がある(Besler C, et al. J Clin Invest. 2011;121:2693-708)。そして
この発明は、機能不全HDLの受容体として、LOX−1又はその改変体を用いるものである。
【0024】
LOX−1の改変体の例としては、LOX−1の変異体(アミノ酸置換体等)、LOX−1の部分断片、LOX−1と他タンパク質との融合タンパク質(キメラタンパク質)等であって、受容体としての機能を保持しているものが挙げられる。
【0025】
好ましくは、前記機能不全HDLは、酸化HDLである。
【0026】
酸化HDLは、HDLの構成タンパク質や構成脂質が酸化された修飾HDLであり、機能不全HDLの代表例である。
【0027】
好ましくは、受容体に結合した機能不全HDLに、機能不全HDLを認識する抗体をさらに結合させる。
【0028】
かかる構成により、受容体に結合した機能不全HDLを抗体で検出することができる。
【0029】
好ましくは、前記抗体は、抗アポリポタンパク質A1抗体である。
【0030】
他の様相は、上記の機能不全HDLの測定方法に用いるためのキットであって、機能不全HDLの受容体を含むことを特徴とする機能不全HDL測定用キットである。
【0031】
この発明は、機能不全HDL測定用キットに係るものであり、機能不全HDLの受容体を含むことを特徴とする。
この発明のキットによれば、上記した受容体を用いた機能不全HDLの測定を簡便に行うことができる。
【0032】
好ましくは、さらに、機能不全HDLを認識する抗体を含む。
【0033】
かかる構成により、受容体に結合した機能不全HDLの検出を簡便かつ容易に行うことができる。
【0034】
好ましくは、さらに、機能不全HDLの標準品を含む。
【0035】
かかる構成により、検量線の作成が容易となる。
【0036】
他の様相は、上記の機能不全HDLの測定方法によって、被験者から採取した体液中の機能不全HDLを測定し、その測定結果に基づいて前記被験者における生活習慣病の有無を検出することを特徴とする生活習慣病の検出方法である。
【0037】
この発明は生活習慣病の検出方法に係るものであり、上記した機能不全HDLの測定方法によって体液中の機能不全HDLを測定し、その測定結果に基づいて生活習慣病の有無を検出する。
この発明によれば、体液中に存在する多様な分子形態の機能不全HDLを指標とすることができるので、機能不全HDLが関与する生活習慣病を幅広く高感度で検出することができる。
【0038】
ここで「生活習慣病」とは、食生活や運動習慣、休養や喫煙、飲酒などの生活習慣が、病気の発症や進行に関与している疾患と定義される。当該生活習慣病には、少なくともメタボリックシンドローム、耐糖能異常、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化、及び高血圧、並びにこれらの合併症が含まれる。
【0039】
「生活習慣病の有無の検出」とは、生活習慣病の罹患の有無だけでなく、将来の発症リスクの有無も含む概念である。生活習慣病の将来の発症リスクの有無とは、生活習慣病を発症していない時点において、将来、生活習慣病に罹患する可能性(危険性)の有無を指す。
【0040】
好ましくは、前記体液は、血清又は血漿である。
【0041】
好ましくは、前記生活習慣病は、メタボリックシンドローム、耐糖能異常、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化、及び高血圧からなる群より選ばれた少なくとも1つである。
【0042】
請求項1に記載の発明は、試料中に含まれる機能不全HDLの測定方法であって、機能不全HDLの受容体に前記試料を接触させて、試料中の機能不全HDLを前記受容体に結合させ、受容体に結合した機能不全HDLを検出するものであり、前記受容体は、LOX−1又はその改変体であり、前記受容体は、担体に固定化されており、前記受容体に結合した機能不全HDLに、機能不全HDLを認識する抗体をさらに結合させることを特徴とする機能不全HDLの測定方法である。
【0043】
請求項2に記載の発明は、前記機能不全HDLは、酸化HDLであることを特徴とする請求項1に記載の機能不全HDLの測定方法である。
【0044】
請求項3に記載の発明は、前記抗体は、抗アポリポタンパク質A1抗体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機能不全HDLの測定方法である。
【0045】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の機能不全HDLの測定方法に用いるためのキットであって、LOX−1又はその改変体と機能不全HDLを認識する抗体とを含むことを特徴とする機能不全HDL測定用キットである。
【0046】
請求項5に記載の発明は、前記抗体は、抗アポリポタンパク質A1抗体であることを特徴とする請求項4に記載の機能不全HDL測定用キットである。
【0047】
請求項6に記載の発明は、さらに、機能不全HDLの標準品を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の機能不全HDL測定用キットである。
【0048】
請求項7に記載の発明は、機能不全HDLからなる生活習慣病マーカーの測定方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載の機能不全HDLの測定方法によって、被験者から採取した体液中の機能不全HDLを測定することを特徴とする生活習慣病マーカーの測定方法である。
【0049】
請求項8に記載の発明は、前記体液は、血清又は血漿であることを特徴とする請求項7に記載の生活習慣病マーカーの測定方法である。
【0050】
請求項9に記載の発明は、前記生活習慣病は、メタボリックシンドローム、耐糖能異常、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化、及び高血圧からなる群より選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項7又は8に記載の生活習慣病マーカーの測定方法である。
【0051】
請求項10に記載の発明は、得られた機能不全HDLの測定値を基準値と比較する工程を包含することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の生活習慣病マーカーの測定方法である。
【発明の効果】
【0052】
本発明の機能不全HDLの測定方法によれば、多様な分子形態の機能不全HDLを測定することができる。
【0053】
本発明の機能不全HDL測定用キットによれば、受容体を用いた上記機能不全HDLの測定方法を簡便に実施することができる。
【0054】
本発明の生活習慣病
マーカーの
測定方法によれば、機能不全HDLが関与する生活習慣病の有無を幅広く高感度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明の方法で作成した検量線を表すグラフである。
【
図2】本発明の方法で血清中の機能不全HDLを測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の機能不全HDLの測定方法は、機能不全HDLの受容体に試料を接触させて、試料中の機能不全HDLを受容体に結合させ、受容体に結合した機能不全HDLを検出することを特徴とするものである。
【0057】
上述したように、「機能不全HDL」とは、修飾を受けたHDL(修飾HDL)であって、構成タンパクや構成脂質の酸化や欠損などにより、機能に異常を来したHDLを指す。例えば、HDLを構成するタンパク質や脂質部分が酸化されたHDL(酸化HDL)、HDLを構成するタンパク質の一部が欠損したHDLが、機能不全HDLに含まれる。機能不全HDLの具体例としては、MDA−HDL、MetO−HDL、HOCl−HDL等が挙げられる。
特に酸化HDLは、本発明の測定対象である機能不全HDLの代表例である。
【0058】
なお当然ながら、機能不全HDLの受容体には、機能不全HDLに対する抗体(イムノグロブリン)は含まれない。
【0059】
本発明では、試料中の機能不全HDLを「機能不全HDLの受容体」に結合させる。機能不全HDLの受容体としては、機能不全HDLがリガンドとなる受容体であれば特に限定はない。機能不全HDLの受容体の具体例としては、上述したLOX−1、CD36が挙げられる。
【0060】
CD36はクラスBスカベンジャー受容体ファミリーのひとつで、細胞の表面に発現する膜タンパク質である。分子量は88kDで、コラーゲン、トロンボスポンジンをはじめとするさまざまなタンパク質と結合し、各種のシグナル伝達に重要な役割を果たすことが知られており、酸化HDLとも結合する。
【0061】
また、機能不全HDLの受容体には、機能不全HDLに対する結合性を保持している限り、天然型の受容体(受容体タンパク質の全長)の他、その改変体(受容体タンパク質の変異体、受容体タンパク質の部分断片、受容体タンパク質と他タンパク質との融合タンパク質等)が含まれる。
【0062】
好ましい実施形態では、機能不全HDLの受容体としてLOX−1を用いる。なお、LOX−1の遺伝子は既にクローニングされており、組換え型のLOX−1が入手可能である(特開平9−98787号公報)。
【0063】
本発明における試料としては特に限定はないが、例えば、ヒトから採取した体液(例えば、血清や血漿)を挙げることができる。
【0064】
本発明では、受容体に結合した機能不全HDLを検出する。この際、担体(支持体)に固定化された受容体を用いることが好ましい。これにより、いわゆる固相法による測定が可能となる。担体としては、受容体を固定化できるものであれば特に限定はなく、マイクロタイタープレート、ビーズ、ラテックス粒子等、公知の担体を用いることができる。
【0065】
また、機能不全HDLを認識する抗体をさらに用いることができる。当該抗体の例としては、抗アポリポタンパク質A1抗体(抗ApoA1抗体)が挙げられる。本実施形態によれば、例えば、受容体によって機能不全HDLを捕捉し、抗体によって機能不全HDLを検出することができる。
【0066】
一例として、担体に固定化されたLOX−1(機能不全HDLの受容体)で試料中の機能不全HDLを捕捉し、抗ApoA1抗体(機能不全HDLを認識する抗体)で機能不全HDLを検出する測定系について説明する。この例は、いわゆるサンドイッチ法に属するものである。
【0067】
まず、LOX−1をマイクロタイタープレート等の担体に固定化する。そして、固定化されたLOX−1に血清等の試料を添加して接触させ、試料中の機能不全HDLをLOX−1に結合させる。洗浄後、抗ApoA1抗体を添加して、LOX−1に結合した機能不全HDLに抗ApoA1抗体を結合させる。そして、結合した抗ApoA1抗体検出し、これを指標として試料中の機能不全HDLを測定する。
抗ApoA1抗体は、標識と未標識のいずれでもよい。未標識の抗ApoA1抗体を用いる場合には、抗ApoA1抗体に結合する標識抗体(標識二次抗体)を用いればよい。標識の種類としては、酵素、蛍光物質、放射性物質等の公知のものを採用することができる。また抗ApoA1抗体は、ポリクローナルとモノクローナルのいずれでもよい。
【0068】
サンドイッチ法に代えて、競合法を用いることもできる。また、抗ApoA1抗体を固相化し、LOX−1で機能不全HDLを検出することも可能である。
【0069】
なお、本発明の機能不全HDLの測定方法において、検量線の作成等に使用する標準品(標準物質)としては、例えば、ヒト血液から調製したHDL画分を硫酸銅等で酸化処理したもの(以下、「人工酸化HDL」と称することがある。)を用いることができる。そして、当該標準品を用いて、タンパク濃度測定またはコレステロール測定によって濃度を規定した標準機能不全HDLの希釈系列を作製し、これらの測定結果から検量線を作成することができる。
【0070】
本発明の機能不全HDL測定用キットは、機能不全HDLの受容体を含むものである。好ましい実施形態では、機能不全HDLを認識する抗体(例えば、抗ApoA1抗体)をさらに含む。また、機能不全HDLの標準品(例えば、上記の人工酸化HDL)をさらに含む。
【0071】
本発明のキットの構成例を以下に挙げる。本構成のキットには、さらにプレートやビーズ等の担体、発色基質、等を含めてもよい。
【0072】
〔キットの構成例〕
(a)LOX−1(溶液又は凍結乾燥品) 適量
(b)HRP標識抗ApoA1抗体(溶液又は凍結乾燥品) 適量
(c)人工酸化HDL(標準品。溶液又は凍結乾燥品) 適量
【0073】
本発明の生活習慣病の検出方法は、上記した機能不全HDLの測定方法によって、被験者から採取した体液中の機能不全HDLを測定し、その測定結果に基づいて前記被験者における生活習慣病の有無を検出するものである。体液の例としては、血清又は血漿が挙げられる。
【0074】
例えば、健常人の体液を用いて上記の方法で機能不全HDLを測定し、基準値(カットオフ値)を設定することができる。そして、被験者の体液を用いて同様にして機能不全HDLを測定し、その測定値を基準値と比較して、当該被験者における生活習慣病の有無を検出することができる。
【0075】
検出対象となる生活習慣病としては、メタボリックシンドローム、耐糖能異常、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化、高血圧、及びこれらの合併症が挙げられる。
【0076】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
(1)機能不全HDLの標準品(人工酸化HDL)の調製
常法によりヒト血液からHDL画分を調製した。得られた画分のHDL濃度を0.5mg/mLに調整し、終濃度が50マイクロモルになるように硫酸銅を加え、37℃で48時間インキュベートし、HDLを酸化修飾した。その後、終濃度2ミリモルになるようにEDTAを加えて、酸化を停止させ、標準品となる人工酸化HDLを得た。
【0078】
(2)サンドイッチ法による測定系の構築と検量線の作成
ヒトLOX−1のPBS溶液(0.5μg/mL)を調製した。これをマイクロタイタープレートの各穴に100μL注入し、4℃で一晩インキュベートした(LOX−1の固相化)。LOX−1溶液を排出し、各穴をPBST(PBS+0.05%Tween20)で3回洗浄した後、各穴にブロッキング液(5% BSA)を200μL注入した。室温で2時間インキュベートした(ブロッキング)。
【0079】
ブロッキング液を排出し、各穴をPBSTで3回洗浄した後、試料として上記(1)で調製した検量線作成用の標準品(人工酸化HDL。0〜1000ng/mL)を100μL注入した。室温で2時間インキュベートした。試料を排出し、各穴をPBSTで3回洗浄した後、各穴にHRP標識ヤギ抗ヒトApoA1抗体の3000倍希釈液を100μL注入した。室温で2時間インキュベートした。
【0080】
抗ヒトApoA1抗体溶液を排出し、各穴をPBSTで5回洗浄した後、各穴にTMB基質(バイオラッド社)を100μL注入した。遮光して30分間インキュベートした後、1M硫酸を50μL注入して酵素反応を停止した。マイクロプレートリーダーにて450nmにおける吸光度(A450)を測定した。得られた吸光度から検量線を作成した。
コントロールとして、酸化処理していないHDL(0〜1000ng/mL)も同時に測定した。
【0081】
結果を表1と
図1に示す。表1と
図1において、「oxHDL」は人工酸化HDL、「HDL」は酸化処理していないHDLを示す。すなわち、人工酸化HDLについては、その濃度に相関したA450値が得られた。そして、少なくとも0〜1000ng/mLの濃度範囲で直線性が得られており、機能不全HDL(酸化HDL)の測定が可能であった。
【0082】
【表1】
【0083】
(3)血清試料を用いた検討
健常人(25例)、非アルコール性脂肪肝患者(115例)、および糖尿病患者(415例)の血清を試料として、上記(2)の方法で酸化HDLを測定した。血清は、希釈液(5% BSA, 2mM EDTA in HEPES with 0.05% Tween20)で50倍希釈して使用した。標準品として、(1)で作製した人工酸化HDLを用いた。標準品の希釈系列は、4000ng/mLを先頭に1/2倍ずつ段階希釈した7点とした。測定結果を
図2に示す。
【0084】
機能不全HDL濃度(人工酸化HDL換算)の平均値±標準偏差(μg/mL)について、健常人では11.9±11.2μg/mL、非アルコール性脂肪肝患者では29.6±21.9μg/mL、糖尿病患者では85.9±48.0μg/mLであった。そして、健常人と非アルコール性脂肪肝患者との間、並びに、健常人と糖尿病患者との間に有意差が認められた。なお、非アルコール性脂肪肝はメタボリックシンドロームの一態様と捉えることができる。
以上より、本発明の方法によって血清中の機能不全HDLを測定することにより、糖尿病等の生活習慣病の検出が可能であることが示された。