特許第6231352号(P6231352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231352
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】オイルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20171106BHJP
【FI】
   F16J15/3204 201
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-224147(P2013-224147)
(22)【出願日】2013年10月29日
(65)【公開番号】特開2015-86908(P2015-86908A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】中川 岳洋
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−315398(JP,A)
【文献】 実開平03−048165(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールリップ摺動部の大気側側面に密封流体に対するポンピング作用を発揮する正方向ネジおよび逆方向ネジが円周上並んで設けられ、
前記正方向ネジおよび逆方向ネジはそれぞれ、リップ先端から始まる平行ネジおよびこれに連続する舟底状ネジが1本に連続したものとされ、
前記正方向ネジにおける舟底状ネジは、その軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角が軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角より大きく形成され、
前記逆方向ネジにおける舟底状ネジは、その軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角が軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角より大きく形成され、
前記正方向ネジにおける平行ネジは、その軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角と軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角が同等に形成され、
前記逆方向ネジにおける平行ネジはこれも、その軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角と軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角が同等に形成されていることを特徴とするオイルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係るオイルシールに関し、更に詳しくは、シールリップの摺動部に流体ポンピング作用を発揮するネジを設けたオイルシールに関する。本発明のオイルシールは例えば、自動車関連の分野で用いられ、または汎用機械の分野などで用いられる。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等車両のディファレンシャルギヤの右側・左側に使用されるオイルシールは従来、シールリップ摺動部の大気側側面に密封流体に対するポンピング作用を発揮する正方向ネジおよび逆方向ネジを円周上並べて設けた両方向ネジ仕様とされており、よって右側・左側に使用されるオイルシールは共用とされている。
【0003】
これに対し昨今、オイルシールの密封性能を向上することが必要とされ、両方向ネジとしてこれまでの平行ネジではなく、ポンピング作用に一層優れた舟底状ネジを適用することが検討されている。
【0004】
しかしながら、このように両方向ネジとして舟底状ネジを適用する場合には、その特有のネジ形状により飛沫漏れを生じることがあり、これを防止するには、両方向ネジ仕様を取り止め、一方向ネジ仕様とする必要がある。
【0005】
したがってディファレンシャルギヤの右側・左側で別仕様のオイルシールを使用することになり、よって左右のシールの誤組み付けの発生が懸念として生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−312274号公報
【特許文献2】特許第3278349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、正方向ネジおよび逆方向ネジの組み合わせよりなる両方向ネジ仕様であってかつネジとして舟底状ネジを備えるオイルシールにおいて、そのネジによる密封性能を高めることができるオイルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるオイルシールは、シールリップ摺動部の大気側側面に密封流体に対するポンピング作用を発揮する正方向ネジおよび逆方向ネジが円周上並んで設けられ、前記正方向ネジおよび逆方向ネジはそれぞれ、リップ先端から始まる平行ネジおよびこれに連続する舟底状ネジが1本に連続したものとされ、前記正方向ネジにおける舟底状ネジは、その軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角が軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角より大きく形成され、前記逆方向ネジにおける舟底状ネジは、その軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角が軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角より大きく形成され、前記正方向ネジにおける平行ネジは、その軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角と軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角が同等に形成され、前記逆方向ネジにおける平行ネジはこれも、その軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角と軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角が同等に形成されていることを特徴とする。
【0011】
両方向ネジは、軸が正方向に回転(正回転)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側へ押し戻すことによりシール機能を発揮する正方向ネジ(正ネジ部)と、軸が逆方向に回転(逆回転)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側へ押し戻すことによりシール機能を発揮する逆方向ネジ(逆ネジ部)との組み合わせよりなる。
【0012】
本発明おいて、正方向ネジおよび逆方向ネジはそれぞれ、リップ先端から始まる平行ネジおよびこれに連続する舟底状ネジの組み合わせよりなり、この平行ネジおよび舟底状ネジが1本に連続したものとされている。平行ネジは、その長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成されたネジである。舟底状ネジは、その長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端側(密封流体側)から大気側へかけて徐々に大きくなる形状を備えるネジである。平行ネジはその長手直角の断面形状が三角形ないし略三角形とされ、舟底状ネジはこれもその長手直角の断面形状が三角形ないし略三角形とされている。
【0013】
また、本発明において、正方向ネジにおける舟底状ネジは、その軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角が軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角より大きく形成されている。正方向ネジにおける舟底状ネジの軸正回転方向後方側の斜面は、軸が正回転するときに密封流体を回収する(押し戻す)側の斜面であり、正方向ネジにおける舟底状ネジの軸正回転方向前方側の斜面は、その反対側の斜面(逆ネジ側の斜面)である。
【0014】
また、本発明において、逆方向ネジにおける舟底状ネジは、その軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角が軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角より大きく形成されている。逆方向ネジにおける舟底状ネジの軸正回転方向前方側の斜面は、軸が逆回転するときに密封流体を回収する(押し戻す)側の斜面であり、逆方向ネジにおける舟底状ネジの軸正回転方向後方側の斜面は、その反対側の斜面(逆ネジ側の斜面)である。
【0015】
したがって本発明では、上記したように密封流体を回収する側の斜面である正方向ネジにおける舟底状ネジの軸正回転方向後方側の斜面が傾斜角を大きく形成されているため、軸の正回転時、この斜面が密封流体の流れに対する壁(堰)となり、よって密封流体を回収しやすくなる。また、反対側の斜面である逆方向ネジにおける舟底状ネジの軸正回転方向後方側の斜面が傾斜角を小さく形成されているため、軸の正回転時、密封流体はこのネジを乗り越えやすく、よって密封流体がこの斜面を伝って大気側へ流れるのを抑制し、併せて飛沫漏れが発生するのを抑制することが可能とされる。
【0016】
また、軸の逆回転時は、この作用が円周上反対向きとなり、以下のようになる。
【0017】
すなわち本発明では、上記したように密封流体を回収する側の斜面である逆方向ネジにおける舟底状ネジの軸正回転方向前方側の斜面が傾斜角を大きく形成されているため、軸の逆回転時、この斜面が密封流体の流れに対する壁(堰)となり、よって密封流体を回収しやすくなる。また、反対側の斜面である正方向ネジにおける舟底状ネジの軸正回転方向前方側の斜面が傾斜角を小さく形成されているため、軸の逆回転時、密封流体はこのネジを乗り越えやすく、よって密封流体がこの斜面を伝って大気側へ流れるのを抑制し、併せて飛沫漏れが発生するのを抑制することが可能とされる。
【0018】
したがって軸の回転が正逆いずれの方向であっても、このように密封流体を回収しやすいため密封性能を向上させることが可能とされ、併せて飛沫漏れが発生するのを抑制することが可能とされる。
【0019】
尚、上記したように本発明は、正方向ネジおよび逆方向ネジにおける舟底状ネジの左右斜面の傾斜角を互いに異ならせることによりオイルシールの性能向上を図るものであるが、舟底状ネジが連続するリップ端側の平行ネジについても同様のことが云える。
【0020】
すなわち、密封流体を回収する側の斜面である正方向ネジにおける平行ネジの軸正回転方向後方側の斜面が傾斜角を大きく形成されると、軸の正回転時、この斜面が密封流体の流れに対する壁(堰)となり、よって密封流体を回収しやすくなる。また、反対側の斜面である逆方向ネジにおける平行ネジの軸正回転方向後方側の斜面が傾斜角を小さく形成されると、軸の正回転時、密封流体はこのネジを乗り越えやすく、よって密封流体がこの斜面を伝って大気側へ流れるのを抑制し、併せて飛沫漏れが発生するのを抑制することが可能とされる。
【0021】
また、軸の逆回転時は、この作用が円周上反対向きとなり、以下のようになる。
【0022】
すなわち、密封流体を回収する側の斜面である逆方向ネジにおける平行ネジの軸正回転方向前方側の斜面が傾斜角を大きく形成されると、軸の逆回転時、この斜面が密封流体の流れに対する壁(堰)となり、よって密封流体を回収しやすくなる。また、反対側の斜面である正方向ネジにおける平行ネジの軸正回転方向前方側の斜面が傾斜角を小さく形成されると、軸の逆回転時、密封流体はこのネジを乗り越えやすく、よって密封流体がこの斜面を伝って大気側へ流れるのを抑制し、併せて飛沫漏れが発生するのを抑制することが可能とされる。
【0023】
したがって軸の回転が正逆いずれの方向であっても、このように密封流体を回収しやすいため密封性能を向上させることが可能とされ、併せて飛沫漏れが発生するのを抑制することが可能とされる。
【0024】
但し、このように正方向ネジおよび逆方向ネジにおける平行ネジの左右斜面の傾斜角を互いに異ならせることは任意であって、正方向ネジにおける平行ネジはその軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角と軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角が同等に形成されても良く、逆方向ネジにおける平行ネジはこれもその軸正回転方向前方側の斜面の傾斜角と軸正回転方向後方側の斜面の傾斜角が同等に形成されても良い。これらの場合は平行ネジが封止面で左右対称につぶれるので、円周上均一なシール面圧を得やすく、封止状態を安定化することが可能とされる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0026】
すなわち本発明においては以上説明したように、上記構成により、密封流体を回収しやすくなる効果と、飛沫漏れの発生を抑制する効果を同時的に発揮することが可能とされる。したがって本発明所期の目的どおり、両方向ネジ仕様であってかつネジとして舟底状ネジを備えるオイルシールにおいて、そのネジによる密封性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1実施例に係るオイルシールの要部断面図
図2図2(A)は図1におけるA−A線拡大断面図、図2(B)は図1におけるB−B線拡大断面図、図2(C)は図1におけるC−C線拡大断面図、図2(D)は図1におけるD−D線拡大断面図
図3】本発明の第2実施例に係るオイルシールの要部断面図
図4図4(E)は図3におけるE−E線拡大断面図、図4(F)は図3におけるF−F線拡大断面図、図4(G)は図3におけるG−G線拡大断面図、図4(H)は図3におけるH−H線拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)大きい舟底ネジのネジ山の傾斜角を左右非対称とする。油を回収する側の斜面については、ネジ山の傾斜角を大きくし、油の流れに対し壁となることで、油を回収し易くする。反対側の逆ネジ側の斜面については、ネジ山の傾斜角を小さくすることで油がネジ山を乗り越え易くなり、逆ネジ部により吸込み能力を低下させる作用を抑える。
(2)大型の舟底ネジ部で主なポンピングを発生させる。平行ネジは封止面を変形させないように小さくする。平行ネジは封止面までの整流作用の役目を果たすのみとする。
(3)舟底ネジの傾斜角非対称を平行ネジまで延長したタイプ。このタイプによれば、上記ポンピングを封止面まで維持できる。
(4)舟底ネジは傾斜角非対称であるが、平行ネジは傾斜角対称であるタイプ。のタイプによれば、平行ネジが封止面で対称につぶれるので、封止状態が安定する。環状均一なシール面圧を得られる。
【実施例】
【0029】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0030】
第1実施例・・・
図1および図2は、本発明の第1実施例に係るオイルシールを示している。当該実施例に係るオイルシールは、軸(相手部材、図示せず)が正逆両方向に回転するのに対応する両回転シールであって、以下のように構成されている。
【0031】
すなわち図1に示すように、金属環(図示せず)に被着(加硫接着)されたゴム状弾性体によって軸の周面に摺動可能に密接するシールリップ1が設けられており、このシールリップ1の先端摺動部に密封流体側側面(斜面)2および大気側側面(斜面)3が設けられている。符号4は、両側面2,3が交差するリップ先端であって、尖端状とされている。
【0032】
上記シールリップ1の両側面2,3のうちの大気側側面3に、軸が正方向に回転(正回転、矢印Z)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側Xへ押し戻すことによりシール機能を発揮する正方向ネジ(正ネジ部)11が設けられ、また、軸が逆方向に回転(逆回転)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側Xへ押し戻すことによりシール機能を発揮する逆方向ネジ(逆ネジ部)21が設けられている。これらの正方向ネジ11および逆方向ネジ21は、1本ずつもしくは複数本ずつが円周上交互に設けられ(例えば8等配ずつ)、または円周上半周ずつ設けられ、何れにしても円周上並んで設けられている。
【0033】
正方向ネジ11は螺旋状の突起よりなる。螺旋の向きはその大気側端部11aから密封流体側端部11bへかけて軸の正回転方向Zの前方へ向けて傾斜する向きとされている。またこの正方向ネジ11は、リップ先端4から始まる平行ネジ12およびこれに連続する舟底状ネジ13が1本に連続したものとされている。
【0034】
平行ネジ12はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成され、舟底状ネジ13はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端4側(密封流体側X)から大気側Yへかけて徐々に大きくなる形状を備えている。平行ネジ12および舟底状ネジ13の長手直角の断面形状はそれぞれ三角形ないし略三角形とされている。
【0035】
一方、逆方向ネジ21はこれも螺旋状の突起よりなる。螺旋の向きはその大気側端部21aから密封流体側端部21bへかけて軸の正回転方向Zの後方へ向けて傾斜する向きとされている。またこの逆方向ネジ21は、リップ先端4から始まる平行ネジ22およびこれに連続する舟底状ネジ23が1本に連続したものとされている。
【0036】
平行ネジ22はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成され、舟底状ネジ23はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端4側(密封流体側X)から大気側Yへかけて徐々に大きくなる形状を備えている。平行ネジ22および舟底状ネジ23の長手直角の断面形状はそれぞれ三角形ないし略三角形とされている。
【0037】
また、本発明にとくに特徴的な構成として、上記正方向ネジ11における舟底状ネジ13は図2(B)の拡大断面に示すように、その軸正回転方向後方側の斜面13aの傾斜角(側面3からの立ち上がり角)θが軸正回転方向前方側の斜面13bの傾斜角θより大きく形成され(θ>θ)、上記逆方向ネジ21における舟底状ネジ23は図2(D)に示すように、その軸正回転方向前方側の斜面23aの傾斜角θが軸正回転方向後方側の斜面23bの傾斜角θより大きく形成されている(θ>θ)。傾斜角θ,θの大きさとしては40〜50°の範囲が好適であり、45°とするのが一層好適である。傾斜角θ,θの大きさとしては10〜20°の範囲が好適であり、15°とするのが一層好適である。
【0038】
また、上記正方向ネジ11における平行ネジ12は図2(A)に示すように、その軸正回転方向後方側の斜面12aの傾斜角θと軸正回転方向前方側の斜面12bの傾斜角θが同等に形成され(θ=θ)、上記逆方向ネジ21における平行ネジ22はこれも図2(C)に示すように、その軸正回転方向前方側の斜面22aの傾斜角θと軸正回転方向後方側の斜面22bの傾斜角θが同等に形成されている(θ=θ)。これらの傾斜角θ,θ,θ,θの大きさとしては25〜35°の範囲が好適であり、30°とするのが一層好適である。
【0039】
上記構成のオイルシールは例えば、上記したように自動車等車両のディファレンシャルギヤの右側・左側に共用部品として装着されるものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0040】
すなわち上記構成を備えるオイルシールにおいては、正方向ネジ11および逆方向ネジ21がそれぞれ、そのネジ高さをリップ先端4から大気側Yへかけて徐々に大きくする形状の舟底状ネジ13,23を備えているため、軸との摺動に伴う摩耗が進行してもネジ高さが低くなりにくく、よってポンピング作用が低下しにくい。
【0041】
また、軸の正回転時、密封流体を回収する側の斜面となる正方向ネジ11における舟底状ネジ13の軸正回転方向後方側の斜面13aの傾斜角θが大きく形成されているため、この後方側の斜面13aが密封流体の流れに対する壁(堰)となり、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる逆方向ネジ21における舟底状ネジ23の軸正回転方向後方側の斜面23bの傾斜角θが小さく形成されているため、密封流体がこのネジ23を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面23bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0042】
また、軸の逆回転時、密封流体を回収する側の斜面となる逆方向ネジ21における舟底状ネジ23の軸正回転方向前方側の斜面23aの傾斜角θが大きく形成されているため、この前方側の斜面23aが密封流体の流れに対する壁(堰)となり、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる正方向ネジ11における舟底状ネジ13の軸正回転方向前方側の斜面13bの傾斜角θが小さく形成されているため、密封流体がこのネジ13を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面13bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0043】
第2実施例・・・
図3および図4は、本発明の第2実施例に係るオイルシールを示している。当該実施例に係るオイルシールは、軸(相手部材、図示せず)が正逆両方向に回転するのに対応する両回転シールであって、以下のように構成されている。
【0044】
すなわち図3に示すように、金属環(図示せず)に被着(加硫接着)されたゴム状弾性体によって軸の周面に摺動可能に密接するシールリップ1が設けられており、このシールリップ1の先端摺動部に密封流体側側面(斜面)2および大気側側面(斜面)3が設けられている。符号4は、両側面2,3が交差するリップ先端であって、尖端状とされている。
【0045】
上記シールリップ1の両側面2,3のうちの大気側側面3に、軸が正方向に回転(正回転、矢印Z)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側Xへ押し戻すことによりシール機能を発揮する正方向ネジ(正ネジ部)11が設けられ、また、軸が逆方向に回転(逆回転)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側Xへ押し戻すことによりシール機能を発揮する逆方向ネジ(逆ネジ部)21が設けられている。これらの正方向ネジ11および逆方向ネジ21は、1本ずつもしくは複数本ずつが円周上交互に設けられ(例えば8等配ずつ)、または円周上半周ずつ設けられ、何れにしても円周上並んで設けられている。
【0046】
正方向ネジ11は螺旋状の突起よりなる。螺旋の向きはその大気側端部11aから密封流体側端部11bへかけて軸の正回転方向Zの前方へ向けて傾斜する向きとされている。またこの正方向ネジ11は、リップ先端4から始まる平行ネジ12およびこれに連続する舟底状ネジ13が1本に連続したものとされている。
【0047】
平行ネジ12はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成され、舟底状ネジ13はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端4側(密封流体側X)から大気側Yへかけて徐々に大きくなる形状を備えている。平行ネジ12および舟底状ネジ13の長手直角の断面形状はそれぞれ三角形ないし略三角形とされている。
【0048】
一方、逆方向ネジ21はこれも螺旋状の突起よりなる。螺旋の向きはその大気側端部21aから密封流体側端部21bへかけて軸の正回転方向Zの後方へ向けて傾斜する向きとされている。またこの逆方向ネジ21は、リップ先端4から始まる平行ネジ22およびこれに連続する舟底状ネジ23が1本に連続したものとされている。
【0049】
平行ネジ22はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成され、舟底状ネジ23はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端4側(密封流体側X)から大気側Yへかけて徐々に大きくなる形状を備えている。平行ネジ22および舟底状ネジ23の長手直角の断面形状はそれぞれ三角形ないし略三角形とされている。
【0050】
また、本発明にとくに特徴的な構成として、上記正方向ネジ11における舟底状ネジ13は図4(F)に示すように、その軸正回転方向後方側の斜面13aの傾斜角(側面3からの立ち上がり角)θが軸正回転方向前方側の斜面13bの傾斜角θより大きく形成され(θ>θ)、上記逆方向ネジ21における舟底状ネジ23は図4(H)に示すように、その軸正回転方向前方側の斜面23aの傾斜角θが軸正回転方向後方側の斜面23bの傾斜角θより大きく形成されている(θ>θ)。傾斜角θ,θの大きさとしては40〜50°の範囲が好適であり、45°とするのが一層好適である。傾斜角θ,θの大きさとしては10〜20°の範囲が好適であり、15°とするのが一層好適である。
【0051】
また、上記第1実施例では平行ネジ12.22の断面形状は左右対称とされたが、当該第2実施例ではこれら平行ネジ12.22の断面形状が左右非対称とされている。
【0052】
すなわち当該第2実施例では、上記正方向ネジ11における平行ネジ12は図4(E)に示すように、その軸正回転方向後方側の斜面12aの傾斜角θが軸正回転方向前方側の斜面12bの傾斜角θ10より大きく形成され(θ>θ10)、また上記逆方向ネジ21における平行ネジ22は図4(G)に示すように、その軸正回転方向前方側の斜面22aの傾斜角θ11が軸正回転方向後方側の斜面22bの傾斜角θ12より大きく形成されている(θ11>θ12)。傾斜角θ,θ11の大きさとしては40〜50°の範囲が好適であり、45°とするのが一層好適である。傾斜角θ10,θ12の大きさとしては10〜20°の範囲が好適であり、15°とするのが一層好適である。
【0053】
上記構成のオイルシールは例えば、上記したように自動車等車両のディファレンシャルギヤの右側・左側に共用部品として装着されるものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0054】
すなわち上記構成を備えるオイルシールにおいては、正方向ネジ11および逆方向ネジ21がそれぞれ、そのネジ高さをリップ先端4から大気側Yへかけて徐々に大きくする形状の舟底状ネジ13,23を備えているため、軸との摺動に伴う摩耗が進行してもネジ高さが低くなりにくく、よってポンピング作用が低下しにくい。
【0055】
また、軸の正回転時、密封流体を回収する側の斜面となる正方向ネジ11における舟底状ネジ13の軸正回転方向後方側の斜面13aの傾斜角θが大きく形成されているため、この後方側の斜面13aが密封流体の流れに対する壁(堰)となり、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる逆方向ネジ21における舟底状ネジ23の軸正回転方向後方側の斜面23bの傾斜角θが小さく形成されているため、密封流体がこのネジ23を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面23bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0056】
また、軸の逆回転時、密封流体を回収する側の斜面となる逆方向ネジ21における舟底状ネジ23の軸正回転方向前方側の斜面23aの傾斜角θが大きく形成されているため、この前方側の斜面23aが密封流体の流れに対する壁(堰)となり、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる正方向ネジ11における舟底状ネジ13の軸正回転方向前方側の斜面13bの傾斜角θが小さく形成されているため、密封流体がこのネジ13を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面13bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0057】
また、当該第2実施例では平行ネジ12.22の断面形状が左右非対称とされているために、追加的事項として以下の作用効果が発揮される。
【0058】
すなわち軸の正回転時、密封流体を回収する側の斜面となる正方向ネジ11における平行ネジ12の軸正回転方向後方側の斜面12aの傾斜角θが大きく形成されているため、この後方側の斜面12aが密封流体の流れに対する壁(堰)となりやすく、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる逆方向ネジ21における平行ネジ22の軸正回転方向後方側の斜面22bの傾斜角θ12が小さく形成されているため、密封流体がこのネジ22を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面22bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0059】
また、軸の逆回転時、密封流体を回収する側の斜面となる逆方向ネジ21における平行ネジ22の軸正回転方向前方側の斜面22aの傾斜角θ11が大きく形成されているため、この前方側の斜面22aが密封流体の流れに対する壁(堰)となりやすく、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる正方向ネジ11における平行ネジ12の軸正回転方向前方側の斜面12bの傾斜角θ10が小さく形成されているため、密封流体がこのネジ12を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面12bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 シールリップ
2 密封流体側側面
3 大気側側面
4 リップ先端
11 正方向ネジ
11a 大気側端部
11b 密封流体側端部
12,22 平行ネジ
12a,13a,22b,23b 軸正回転方向後方側の斜面
12b,13b,22a,23a 軸正回転方向前方側の斜面
13,23 舟底状ネジ
21 逆方向ネジ
θ〜θ12 傾斜角
X 密封流体側
Y 大気側
図1
図2
図3
図4