【実施例】
【0029】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0030】
第1実施例・・・
図1および
図2は、本発明の第1実施例に係るオイルシールを示している。当該実施例に係るオイルシールは、軸(相手部材、図示せず)が正逆両方向に回転するのに対応する両回転シールであって、以下のように構成されている。
【0031】
すなわち
図1に示すように、金属環(図示せず)に被着(加硫接着)されたゴム状弾性体によって軸の周面に摺動可能に密接するシールリップ1が設けられており、このシールリップ1の先端摺動部に密封流体側側面(斜面)2および大気側側面(斜面)3が設けられている。符号4は、両側面2,3が交差するリップ先端であって、尖端状とされている。
【0032】
上記シールリップ1の両側面2,3のうちの大気側側面3に、軸が正方向に回転(正回転、矢印Z)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側Xへ押し戻すことによりシール機能を発揮する正方向ネジ(正ネジ部)11が設けられ、また、軸が逆方向に回転(逆回転)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側Xへ押し戻すことによりシール機能を発揮する逆方向ネジ(逆ネジ部)21が設けられている。これらの正方向ネジ11および逆方向ネジ21は、1本ずつもしくは複数本ずつが円周上交互に設けられ(例えば8等配ずつ)、または円周上半周ずつ設けられ、何れにしても円周上並んで設けられている。
【0033】
正方向ネジ11は螺旋状の突起よりなる。螺旋の向きはその大気側端部11aから密封流体側端部11bへかけて軸の正回転方向Zの前方へ向けて傾斜する向きとされている。またこの正方向ネジ11は、リップ先端4から始まる平行ネジ12およびこれに連続する舟底状ネジ13が1本に連続したものとされている。
【0034】
平行ネジ12はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成され、舟底状ネジ13はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端4側(密封流体側X)から大気側Yへかけて徐々に大きくなる形状を備えている。平行ネジ12および舟底状ネジ13の長手直角の断面形状はそれぞれ三角形ないし略三角形とされている。
【0035】
一方、逆方向ネジ21はこれも螺旋状の突起よりなる。螺旋の向きはその大気側端部21aから密封流体側端部21bへかけて軸の正回転方向Zの後方へ向けて傾斜する向きとされている。またこの逆方向ネジ21は、リップ先端4から始まる平行ネジ22およびこれに連続する舟底状ネジ23が1本に連続したものとされている。
【0036】
平行ネジ22はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成され、舟底状ネジ23はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端4側(密封流体側X)から大気側Yへかけて徐々に大きくなる形状を備えている。平行ネジ22および舟底状ネジ23の長手直角の断面形状はそれぞれ三角形ないし略三角形とされている。
【0037】
また、本発明にとくに特徴的な構成として、上記正方向ネジ11における舟底状ネジ13は
図2(B)の拡大断面に示すように、その軸正回転方向後方側の斜面13aの傾斜角(側面3からの立ち上がり角)θ
1が軸正回転方向前方側の斜面13bの傾斜角θ
2より大きく形成され(θ
1>θ
2)、上記逆方向ネジ21における舟底状ネジ23は
図2(D)に示すように、その軸正回転方向前方側の斜面23aの傾斜角θ
3が軸正回転方向後方側の斜面23bの傾斜角θ
4より大きく形成されている(θ
3>θ
4)。傾斜角θ
1,θ
3の大きさとしては40〜50°の範囲が好適であり、45°とするのが一層好適である。傾斜角θ
2,θ
4の大きさとしては10〜20°の範囲が好適であり、15°とするのが一層好適である。
【0038】
また、上記正方向ネジ11における平行ネジ12は
図2(A)に示すように、その軸正回転方向後方側の斜面12aの傾斜角θ
5と軸正回転方向前方側の斜面12bの傾斜角θ
6が同等に形成され(θ
5=θ
6)、上記逆方向ネジ21における平行ネジ22はこれも
図2(C)に示すように、その軸正回転方向前方側の斜面22aの傾斜角θ
7と軸正回転方向後方側の斜面22bの傾斜角θ
8が同等に形成されている(θ
7=θ
8)。これらの傾斜角θ
5,θ
6,θ
7,θ
8の大きさとしては25〜35°の範囲が好適であり、30°とするのが一層好適である。
【0039】
上記構成のオイルシールは例えば、上記したように自動車等車両のディファレンシャルギヤの右側・左側に共用部品として装着されるものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0040】
すなわち上記構成を備えるオイルシールにおいては、正方向ネジ11および逆方向ネジ21がそれぞれ、そのネジ高さをリップ先端4から大気側Yへかけて徐々に大きくする形状の舟底状ネジ13,23を備えているため、軸との摺動に伴う摩耗が進行してもネジ高さが低くなりにくく、よってポンピング作用が低下しにくい。
【0041】
また、軸の正回転時、密封流体を回収する側の斜面となる正方向ネジ11における舟底状ネジ13の軸正回転方向後方側の斜面13aの傾斜角θ
1が大きく形成されているため、この後方側の斜面13aが密封流体の流れに対する壁(堰)となり、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる逆方向ネジ21における舟底状ネジ23の軸正回転方向後方側の斜面23bの傾斜角θ
4が小さく形成されているため、密封流体がこのネジ23を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面23bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0042】
また、軸の逆回転時、密封流体を回収する側の斜面となる逆方向ネジ21における舟底状ネジ23の軸正回転方向前方側の斜面23aの傾斜角θ
3が大きく形成されているため、この前方側の斜面23aが密封流体の流れに対する壁(堰)となり、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる正方向ネジ11における舟底状ネジ13の軸正回転方向前方側の斜面13bの傾斜角θ
2が小さく形成されているため、密封流体がこのネジ13を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面13bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0043】
第2実施例・・・
図3および
図4は、本発明の第2実施例に係るオイルシールを示している。当該実施例に係るオイルシールは、軸(相手部材、図示せず)が正逆両方向に回転するのに対応する両回転シールであって、以下のように構成されている。
【0044】
すなわち
図3に示すように、金属環(図示せず)に被着(加硫接着)されたゴム状弾性体によって軸の周面に摺動可能に密接するシールリップ1が設けられており、このシールリップ1の先端摺動部に密封流体側側面(斜面)2および大気側側面(斜面)3が設けられている。符号4は、両側面2,3が交差するリップ先端であって、尖端状とされている。
【0045】
上記シールリップ1の両側面2,3のうちの大気側側面3に、軸が正方向に回転(正回転、矢印Z)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側Xへ押し戻すことによりシール機能を発揮する正方向ネジ(正ネジ部)11が設けられ、また、軸が逆方向に回転(逆回転)するときにポンピング作用によって密封流体を密封流体側Xへ押し戻すことによりシール機能を発揮する逆方向ネジ(逆ネジ部)21が設けられている。これらの正方向ネジ11および逆方向ネジ21は、1本ずつもしくは複数本ずつが円周上交互に設けられ(例えば8等配ずつ)、または円周上半周ずつ設けられ、何れにしても円周上並んで設けられている。
【0046】
正方向ネジ11は螺旋状の突起よりなる。螺旋の向きはその大気側端部11aから密封流体側端部11bへかけて軸の正回転方向Zの前方へ向けて傾斜する向きとされている。またこの正方向ネジ11は、リップ先端4から始まる平行ネジ12およびこれに連続する舟底状ネジ13が1本に連続したものとされている。
【0047】
平行ネジ12はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成され、舟底状ネジ13はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端4側(密封流体側X)から大気側Yへかけて徐々に大きくなる形状を備えている。平行ネジ12および舟底状ネジ13の長手直角の断面形状はそれぞれ三角形ないし略三角形とされている。
【0048】
一方、逆方向ネジ21はこれも螺旋状の突起よりなる。螺旋の向きはその大気側端部21aから密封流体側端部21bへかけて軸の正回転方向Zの後方へ向けて傾斜する向きとされている。またこの逆方向ネジ21は、リップ先端4から始まる平行ネジ22およびこれに連続する舟底状ネジ23が1本に連続したものとされている。
【0049】
平行ネジ22はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がネジ全長に亙って等しく形成され、舟底状ネジ23はその長手直角の断面形状(ネジ高さおよびネジ幅を含む)がリップ先端4側(密封流体側X)から大気側Yへかけて徐々に大きくなる形状を備えている。平行ネジ22および舟底状ネジ23の長手直角の断面形状はそれぞれ三角形ないし略三角形とされている。
【0050】
また、本発明にとくに特徴的な構成として、上記正方向ネジ11における舟底状ネジ13は
図4(F)に示すように、その軸正回転方向後方側の斜面13aの傾斜角(側面3からの立ち上がり角)θ
1が軸正回転方向前方側の斜面13bの傾斜角θ
2より大きく形成され(θ
1>θ
2)、上記逆方向ネジ21における舟底状ネジ23は
図4(H)に示すように、その軸正回転方向前方側の斜面23aの傾斜角θ
3が軸正回転方向後方側の斜面23bの傾斜角θ
4より大きく形成されている(θ
3>θ
4)。傾斜角θ
1,θ
3の大きさとしては40〜50°の範囲が好適であり、45°とするのが一層好適である。傾斜角θ
2,θ
4の大きさとしては10〜20°の範囲が好適であり、15°とするのが一層好適である。
【0051】
また、上記第1実施例では平行ネジ12.22の断面形状は左右対称とされたが、当該第2実施例ではこれら平行ネジ12.22の断面形状が左右非対称とされている。
【0052】
すなわち当該第2実施例では、上記正方向ネジ11における平行ネジ12は
図4(E)に示すように、その軸正回転方向後方側の斜面12aの傾斜角θ
9が軸正回転方向前方側の斜面12bの傾斜角θ
10より大きく形成され(θ
9>θ
10)、また上記逆方向ネジ21における平行ネジ22は
図4(G)に示すように、その軸正回転方向前方側の斜面22aの傾斜角θ
11が軸正回転方向後方側の斜面22bの傾斜角θ
12より大きく形成されている(θ
11>θ
12)。傾斜角θ
9,θ
11の大きさとしては40〜50°の範囲が好適であり、45°とするのが一層好適である。傾斜角θ
10,θ
12の大きさとしては10〜20°の範囲が好適であり、15°とするのが一層好適である。
【0053】
上記構成のオイルシールは例えば、上記したように自動車等車両のディファレンシャルギヤの右側・左側に共用部品として装着されるものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0054】
すなわち上記構成を備えるオイルシールにおいては、正方向ネジ11および逆方向ネジ21がそれぞれ、そのネジ高さをリップ先端4から大気側Yへかけて徐々に大きくする形状の舟底状ネジ13,23を備えているため、軸との摺動に伴う摩耗が進行してもネジ高さが低くなりにくく、よってポンピング作用が低下しにくい。
【0055】
また、軸の正回転時、密封流体を回収する側の斜面となる正方向ネジ11における舟底状ネジ13の軸正回転方向後方側の斜面13aの傾斜角θ
1が大きく形成されているため、この後方側の斜面13aが密封流体の流れに対する壁(堰)となり、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる逆方向ネジ21における舟底状ネジ23の軸正回転方向後方側の斜面23bの傾斜角θ
4が小さく形成されているため、密封流体がこのネジ23を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面23bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0056】
また、軸の逆回転時、密封流体を回収する側の斜面となる逆方向ネジ21における舟底状ネジ23の軸正回転方向前方側の斜面23aの傾斜角θ
3が大きく形成されているため、この前方側の斜面23aが密封流体の流れに対する壁(堰)となり、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる正方向ネジ11における舟底状ネジ13の軸正回転方向前方側の斜面13bの傾斜角θ
2が小さく形成されているため、密封流体がこのネジ13を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面13bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0057】
また、当該第2実施例では平行ネジ12.22の断面形状が左右非対称とされているために、追加的事項として以下の作用効果が発揮される。
【0058】
すなわち軸の正回転時、密封流体を回収する側の斜面となる正方向ネジ11における平行ネジ12の軸正回転方向後方側の斜面12aの傾斜角θ
9が大きく形成されているため、この後方側の斜面12aが密封流体の流れに対する壁(堰)となりやすく、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる逆方向ネジ21における平行ネジ22の軸正回転方向後方側の斜面22bの傾斜角θ
12が小さく形成されているため、密封流体がこのネジ22を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面22bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。
【0059】
また、軸の逆回転時、密封流体を回収する側の斜面となる逆方向ネジ21における平行ネジ22の軸正回転方向前方側の斜面22aの傾斜角θ
11が大きく形成されているため、この前方側の斜面22aが密封流体の流れに対する壁(堰)となりやすく、密封流体を回収しやすい。したがって優れたポンピング作用が発揮される。また、反対側の斜面となる正方向ネジ11における平行ネジ12の軸正回転方向前方側の斜面12bの傾斜角θ
10が小さく形成されているため、密封流体がこのネジ12を乗り越えやすい。したがって密封流体が斜面12bを伝って大気側Yへ流れる量を抑制することができ、併せて飛沫漏れ量を抑制することができる。