(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[光走査装置]
図1Aは光走査装置1を例示している。
図1Bは振動素子11の構成を例示している。振動素子11は、振動部21とそれを揺動(回転振動)可能に支持する導電性を有する第1の捻り梁101と第2の捻り梁102とを有している。振動部21は、導電性部材、圧電材、ミラー部材および磁石を有している。この例の振動部21は平板状の第1の導電性部材201、リング状の第2の導電性部材202、それらによって挟持される圧電材401、第1の導電性部材201に取り付けられたミラー部材301、第2の導電性部材202に取り付けられた第1の磁石601および第2の磁石602を有している。このように、ミラー部材301は圧電材401の少なくとも一方の電極側に設けられているため、圧電材401の変形によってミラー面の曲率が変化する。
【0013】
また、第1の捻り梁101および第2の捻り梁102の各端部(基端部)は不図示の筐体に固定される。第1の捻り梁101および第2の捻り梁102の他方の各端部(先端部)はそれぞれ第1の導電性部材201と第2の導電性部材202とに結合、接合、接続または固定されている。第1の捻り梁101および第2の捻り梁102の捻り変形によって振動部21のミラー部材301の反射方向が変化し、光走査が行われる。
【0014】
このような振動部21の近傍には磁界発生部700が配置され、駆動回路801からの駆動信号に基づいて発生した交番磁界により第1の磁石601および第2の磁石602に回転トルクが生じ、振動部21に回転振動が励起される。第1の捻り梁101および第2の捻り梁102は第1の導電性部材201および第2の導電性部材202にそれぞれ配線等を介さずに電気的に接続されている。
【0015】
また、圧電材401の第1面には第1の電極501が形成されており、第1の電極501に対して第1の導電性部材201が結合している。圧電材401の第2面には第2の電極502が形成されており、第2の電極502に対して第2の導電性部材202が結合している。このように、圧電材401は、一対の電極間に圧電層を介在してなる圧電体として機能する。振動素子11の回動軸に対して、第1の捻り梁101の長手方向に延びる中心線と、第2の捻り梁102の長手方向に延びる中心線と一致するように、第1の導電性部材201に対する第1の捻り梁101の結合部と、第2の導電性部材202に対する第2の捻り梁102の結合部とにはそれぞれ曲げ加工が施されている。第1の捻り梁101および第2の捻り梁102はそれぞれ電力を供給する駆動回路802に接続されている。このように、第1の捻り梁101および第2の捻り梁102は一対の導電性の梁部として機能する。
【0016】
そして、第1の捻り梁101および第2の捻り梁102はそれぞれ駆動回路802から供給される駆動信号を、第1の導電性部材201および第2の導電性部材202を介して圧電材401の第1の電極501と第2の電極502に印加する。これにより圧電材401の第1の電極501と第2の電極502の間に電界が生じ、圧電材401が電界に応じて伸縮して第1の導電性部材201とミラー部材301に変形を生じさせる。
【0017】
このように圧電材401とミラー部材301を有する振動部21は曲率可変ミラーとして機能する。駆動回路802からの駆動信号の大きさによってミラー部材301の曲率が制御され、走査光の焦点位置が補正される。これにより、ビームウエストの位置が照射対象位置に合致するようになる。
【0018】
[振動素子]
図1Aおよび
図1Aには示した振動素子11では、第1の捻り梁101と第2の捻り梁102とがそれぞれ圧電材401およびミラー部材301のそれぞれ異なる側に存在することで圧電材401およびミラー部材301を両持ち支持している。しかし、このような構成は一例にしかすぎない。
図2ないし
図7を用いて振動素子11の他の実施形態について説明する。
【0019】
図2(a)および
図2(b)は第1の捻り梁101および第2の捻り梁102が並行に配置された構成(いわゆる片持ち支持)の振動素子12を例示している。第1の捻り梁101および第2の捻り梁102の端部はともに筐体に固定され、振動素子12の回転振動の中心軸(回動軸)は第1の捻り梁101および第2の捻り梁102の中間となる。
【0020】
図2に示すような片持ち支持構造では、捻り梁の撓み剛性が低すぎると、
図2に示した座標軸のy方向にミラー部材301が首を振る撓みモードの共振周波数が低くなる。そのため、振動部21の振動状態は外部からの衝撃などで回転振動モードに撓み振動モードが加わった振動状態になり、走査線が副走査方向(z方向)に変動する場合がある。
【0021】
図2に示すようにy方向に第1の捻り梁101および第2の捻り梁102を並べた構成では撓み剛性が増加するため、撓み振動の共振周波数が高くなる。つまり、外部から衝撃が加わっても変動し難くなり、また、変動しても短時間で変動を減衰させることができる。
【0022】
図3(a)および
図3(b)は第1の導電性部材201および第2の導電性部材202の両側に捻り梁が配置されている。つまり、振動素子13は、振動素子12に対してさらに第3の捻り梁103と第4の捻り梁104とが追加されている。第1の捻り梁101と第3の捻り梁103はそれぞれ反対側から第1の導電性部材201に結合されている。同様に、第2の捻り梁102と第4の捻り梁104はそれぞれ反対側から第2の導電性部材202に結合されている。第1の捻り梁101の長手方向の中心線と第3の捻り梁103の長手方向の中心線は一致している。同様に、第2の捻り梁102の長手方向の中心線と第4の捻り梁104の長手方向の中心線は一致している。
図2や
図3では曲げ加工が施されていないため第1の捻り梁101と第2の捻り梁102との間には空間が存在する。もちろん、第1の捻り梁101、第2の捻り梁102、第3の捻り梁103および第4の捻り梁104にも曲げ加工が採用されてもよい。
【0023】
図3に示した振動素子13の構造は両持ち支持構造の一種であり、
図2の構成に比べて全体のサイズは大きくなるが、より撓み剛性が高くなり、走査線の副走査方向への変動を抑えることができる。
【0024】
図4に、振動素子13で捻り梁を通じて圧電材401に電圧を印加してミラー部材301を変形させたときの形状の一例を示す。圧電材401およびミラー部材301が曲率を持つことにより導電性部材201、202も変形し、その影響が捻り梁101〜104にも及んでいる。曲率変化として大きな変形量を必要としない場合、すなわち、振動部21の回転軸が捻り梁101〜104の断面内に収まっている場合には問題ない。しかし、大きな曲率変化が必要な場合には、捻り梁101〜104の変形により、通常の回転振動モードに撓み振動が加わった異常振動が発生することがある。
【0025】
これに対して、
図5に示すように、第1の導電性部材201および第2の導電性部材202の夫々を回転振動の回転軸から離れた対称な2箇所で保持するような導電性を有する保持部701、702、703、704を形成してもよい。なお、第1の保持部701は第1の捻り梁101に結合しており、また、第1の導電性部材201と2点で結合している。第2の保持部702は第1の捻り梁102に結合しており、また、第2の導電性部材202と2点で結合している。第3の保持部703は第3の捻り梁103に結合しており、また、第1の導電性部材201と2点で結合している。第4の保持部704は第4の捻り梁104に結合しており、また、第2の導電性部材202と2点で結合している。
【0026】
圧電材401と同じ厚みの磁石603、604がスペーサとして設けられている。つまり、第1の保持部701と第2の保持部702によって磁石604が挟持されている。同様に、第3の保持部703と第4の保持部704によって磁石603が挟持されている。磁石603、604は磁石601、602の代わりに設けられている。このように保持部を設けることで保持部が曲率変化の緩衝材として機能する。よって、ミラー部材301等の曲率変化が捻り梁に及びにくくなり、異常振動の発生を低減できる。
【0027】
図6(a)および
図6(b)は、振動素子14を発展させた振動素子15を示している。振動素子15の第1の導電性部材203および第2の導電性部材204はいずれも枠状の形状をしている。なお、第1の導電性部材203および第2の導電性部材204の外形は圧電材401の外形にほぼ一致している。この例では、第1の導電性部材203は複数のフレームから構成されている。第1フレーム711は、横方向に延び、第1の捻り梁101(第2の捻り梁102)に結合したフレームである。第2フレーム712、第3フレーム713はそれぞれ縦方向に延び、第1フレーム711と第4フレーム714とに結合したフレームである。第4フレーム714は、横方向に延び、第3の捻り梁103(第4の捻り梁104)に結合したフレームである。第1の導電性部材203および第2の導電性部材204は同一の形状であるため大量生産しやすい。ミラー部材301には、第1の導電性部材203の第2フレーム712および第3フレーム713の一部を収容する溝723、724が形成されている。なお、磁石603は第1の導電性部材203の第4フレーム714と第2の導電性部材204の第4フレーム714とにより挟持されている。磁石604は第1の導電性部材203の第1フレーム711と第2の導電性部材204の第1フレーム711とにより挟持されている。
【0028】
導電性部材の材料としては金属材料が用いられうる。ただし、導電性部材の体積が大きくなりすぎると、振動部の重量が増加する。その結果、撓み振動モードの共振周波数が下がって走査線の副走査方向への変動が生じたり、異常振動の原因になったりすることがある。また、振動部の慣性モーメントも増大するため、捻り梁への応力負荷が増大し、耐久性に問題が生じることもありうる。これに対して、
図6(a)および
図6(b)に示した振動素子15のように第1の導電性部材203および第2の導電性部材204として枠状の導電性部材を採用することで、振動部21を軽量化することができる。振動素子15では、ミラー部材301とそれに形成された溝723、724に収納される第2フレーム712のヤング率と第3フレーム713のヤング率とを整合させることが好ましい。圧電材401の伸縮によるミラー部材301の曲率の変化量は、圧電材401に結合された部材のヤング率と厚みにより変わる。そのため、ミラー部材301と溝723、724内に固定された第1の導電性部材203の第2フレーム712のヤング率と第3フレーム713のヤング率に大きな差異があると、曲率に位置によるばらつきが生じる。また、第2フレーム712のヤング率と第3フレーム713のヤング率はミラー部材のヤング率に近ければ、曲率に与える影響がさらに小さくなる。よって、第2フレーム712、第3フレーム713の材料としてはミラー部材301のヤング率に近くなるような材料を選択されてもよい。または、第1の導電性部材203の材料として金属材料を用いる場合には、加工率や熱処理によって第1の導電性部材203のヤング率をミラー部材301のヤング率に近付けてもよい。
【0029】
図6に示した、ミラー部材301に形成した溝723、724内に第1の導電性部材203の一部を収納する構成がさらに改良されてもよい。
図7によれば、振動素子16は、振動素子15の第2フレーム712と第3フレーム713とを交差させることで構成されている。なお、交差した第2フレーム712と第3フレーム713とを収容できるようにするためにミラー部材301の溝723、724も同様に交差している。これにより、走査方向の曲率分布と副走査方向の曲率分布との差を小さくすることが可能となる。
【0030】
図6に示した振動素子15では溝723、724の影響が走査方向の曲率分布に大きく影響しうる。一方、
図7に示した振動素子16では、走査方向の曲率分布と副走査方向の曲率分布とがほぼ同じとなる。よって、振動素子16は振動素子15と比較してより安定して光走査を行うことが可能となる。
【0031】
[材料など]
捻り梁に用いられる材料としては、金属材料の他、カーボンを混合した樹脂材料など導電性材料であれば特に限定されるものではないが、繰り返し耐久性や耐衝撃性の観点から、SUS301やSUS631等のステンレスや銅合金、Co(コバルト)−Ni(ニッケル)基合金などの金属材料が採用されてもよい。その中でもSPRON(登録商標)510に代表されるCo−Ni−Cr(クロム)−Mo(モリブデン)合金などの時効硬化型Co−Ni基合金は特に疲労限が高く、繰り返し応力が加わる光走査装置には都合がよい。また、Co−Ni基合金は耐熱性や耐食性も高いため、通電やそれによる発熱が材料特性に影響を与えることは小さく、その点においても捻り梁に通電を行う光走査装置には適切であろう。さらに、Co−Ni基合金は内部摩擦が小さいという特徴もあり、振動素子11〜16を共振させて回転振動させる際のQ値が高く、駆動に要する消費電力を低減できる利点もある。Co−Ni−Cr−Mo合金を用いる場合には、加工率50%以上、より好ましくは90%以上の圧延加工、または、線引き加工により加工硬化処理を施した後、形状加工を行い、500〜600℃程度の温度で時効硬化処理が施されてもよい。最終的なヤング率や硬度は、加工率と時効熱処理の温度および時間で調整も可能である。形状加工には、エッチング加工やプレス加工、レーザー加工、ワイヤー放電加工等を用いることができる。加工硬化処理や形状加工において、その仕上がり具合によっては表面付近の内部摩擦が増加し、振動素子のQ値が低下してしまうことがある。そのような場合には、時効硬化処理前にエッチング処理を行うのが良く、目標寸法に対して大きめに形状加工を施したのち、硝酸系のエッチャントなどを用いて仕上げの形状加工を施すのが好ましい。また、加工硬化処理や形状加工時に生じた微少なクラックや表面の荒れがある場合にも、振動素子のQ値低下や耐久性低下の問題が生じる。そのような場合には、時効硬化処理前に電界研磨処理を行うのが良く、リン酸系やエチレングリコール系の液を用いた電界研磨処理によって表面を平滑化するのが好ましい。
【0032】
導電性部材201〜204は、生産性の観点から、夫々捻り梁と同一材料で一体構造であるのが好ましい。しかしこれに限定されるものではなく、金属材料など導電性材料で形成して捻り梁と接合しても良い。接合する際には、形状加工を簡素化できることから捻り梁に線材を用いるのが好ましく、また、接合部の耐久性向上のために接合する線材の端部に鍛造などによって接合面を形成するのが好ましい。
【0033】
圧電材(圧電層)401には、圧電定数の大きいチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が好適に用いられる。しかし、これに限定されるものではなく、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸鉛等、圧電特性を有する材料であればよい。圧電材401は両面に電極の形成された焼結体の他、成膜可能な形状であれば、導電性部材201〜204、ミラー部材301、または、導電性部材203を収納したミラー部材301など導電性部材とミラー部材の複合構成に対して成膜によって形成されたものであってもよい。焼結体を用いる場合には、電極501、502と導電性部材201〜204の直接接合、または、接着剤等を用いた接着により圧電材401が保持される。接着による場合には、接着部における導電性部材と電極の間の電気容量が圧電材401の両電極間の電気容量よりも大きくなるように、できるだけ対向面積を大きくし、かつ、接着層を薄くして、導電性部材と電極を近接させるのが好ましい。また、接着剤に導電性を付与して導電性を確保しても良い。成膜で形成する場合には、導電性部材201〜204に直接成膜され、その間に電極は形成されない。成膜の方法としては、ゾルゲル法など各種の成膜方法を用いることができるが、その中でも、成膜レートが高く膜質の良い厚膜形成が容易なエアロゾルディポジション法やガスデポジション法を用いるのが好ましい。圧電材401の材料にPZTを用い、導電性部材201〜204に金属材料を用いる場合には、鉛の拡散を防止する中間層が形成されてもよい。また、圧電特性の向上には熱処理温度を上げることが有効であるため、成膜の基材となる導電性部材201〜204は耐熱性が高い材料で形成されるのが好ましく、Co−Ni基合金などが好適に用いられる。なお、一対の電極となる電極501及び電極502の間に圧電材401を介在させて得られる圧電体(圧電素子)の駆動変形によってミラー部材301を曲率可変型の可動ミラー(偏向ミラー等)とすることが可能となる。
【0034】
ミラー部材301は、シリコンウエハや薄板ガラスなどの表面平坦性の良い基材に反射膜や増反射膜を形成したものの他、導電性部材201に直接形成された反射膜等であってもよい。反射膜としては、蒸着等で形成されるAu、Ag、Al等の膜が挙げられる。また、必要に応じてその上に増反射膜が形成される。また、導電性部材201の研磨によって鏡面を形成することも可能であり、この場合には、導電性部材201がミラー部材301としても機能する。
【0035】
磁石601〜604は、特に限定されるものではないが、捻り振動に係わる慣性モーメントを小さくするために出来るだけ小型で磁力の強いものが好ましい。よって、磁力の強いNd−Fe−B系磁石やSm−Co系磁石等や、小型形状形成が可能な加工性に優れたFe−Cr−Co系磁石などが好適に用いられうる。
【0036】
[光走査装置の動作]
次に、
図8〜
図12を参照して光走査装置の動作を説明する。
【0037】
図8(a)は振動素子11〜16のいずれかを採用した光走査装置によるレーザー光走査の状態を示したものである。
図8(b)は振動部21に配置されたミラー部材301の変形の様子を示したものであり、光の走査方向、および、それに垂直な副走査方向に共通の変形である。ミラー部材301が圧電材401に加えられた電気信号により
図8(b)の(R1)のような曲率を持った状態であるとき、ビームウエストが走査中心からR1の距離にある投射面P1の中央に位置しているとする。捻り梁の捻り振動により振動部21が回転して
図8(b)の(R1’)の状態になったとき、ミラー部材301の曲率は圧電材401に加えられる電気信号の変化により(R1)の状態から小さくなる方向に変化し、ビームウエストは走査中心からR1’の距離にある投射面P1の右端に位置するようになる。仮に(R1)の状態から曲率が変化していない場合には、ビームウエストは走査端方向にR1の位置になり、投射面P1の右端ではビーム径が拡がってしまう。走査左端も同様に、
図8(b)の(R”)の状態で曲率が変化することによりビームウエストは投射面P1上に保持される。このように、1回の往復走査の間に2回のミラー曲率変化を生じさせる制御、即ち、走査周波数に対して2倍の周波数を含む信号を用いたミラー曲率の制御を行うことにより、アークサインレンズなどのレンズ光学系を使用することなく、最小スポットが形成されるビームウエスト位置をほぼ同一平面上に保持した光走査が可能になる。
図8(c)は、同様に面P1よりも投射距離の長い投射面P2にビームウエストを保持するためのミラー部材301の変形状態を示したものであり、
図8(b)よりも曲率が大きい状態を維持することで、ビームウエスト位置は(R2)→(R2’)→(R2)→(R2”)→(R2)と移動する。このように、圧電材401の駆動信号の制御により、ビームウエストを保持する面を変化させることも可能である。
【0038】
図9は、
図8のような走査を行うための駆動信号の例である。駆動回路801が周波数f1の駆動信号を供給することで振動部21に回転振動が誘起する。一方、駆動回路802が周波数f1の2倍の周波数f2を持つ信号にオフセット電圧ΔVを加えて生成した駆動信号が捻り梁に印加される。これにより、ミラー部材301の曲率変形が誘起される。
【0039】
周波数f2の駆動信号は一走査内でビームウエストを走査面上に維持するための駆動信号であり、ΔVはビームウエストを保持する面を変化させるためのオフセットである。振動部21を共振により回転振動させる場合には周波数f1の駆動信号と振動部21の回転角の位相が90度ずれる。そのため、回転角に合わせて振動部21のミラー部材301の曲率変形が制御されるよう、駆動回路802が出力する駆動信号の位相も駆動回路801が出力する駆動信号の位相とはずれている。
【0040】
次に、投射面に形成されるビームスポットの移動速度について説明する。光走査装置では、ビームを走査しながら時系列データに基づいてビーム強度を変化させたり、ビーム走査時の反射光の強度変化を時系列データとして検出したりすることで、画像の形成や投影、光学パターンの読み取りなどを行う。その際、ビームの移動速度が大きく変化すると、画像の歪や読み取り分解能のばらつきが生じてしまう。時系列データを補正してビーム強度の変化をビームの移動速度の変化に対応させる方法や、読み取り速度を移動速度の変化に対応させる方法も考えられるが、それには高価な高速の制御手段が必要となる。投射面上のビームスポットの移動はできるだけ等速であるのが好ましく、サイン波状に角度変化する振動素子11〜16のビーム走査角に対して、投射面上での等速性が得られる範囲で使用するのが好ましい。
【0041】
図10は
図8(a)と同様に光走査の状態を示したものである。走査の中央を基準にして、ミラー部材301の回転振動によるビームの最大走査角をθo、その内実際に走査光が利用される有効範囲をθeffとし、走査中心から距離Lの位置にある投射面P上でθeffに相当する範囲をXeffとしている。投射面Pを
図8(a)のP1とすると、Xeffの位置は投射面P1端部のR1’の位置に相当する。ビーム方向が角度θの方向であるとき、投射面P上に形成されるビームスポットの移動速度をVとすると、角度θ=0の時の移動速度Voを基準にして、角度θに対する移動速度Vの変化率V/Voは
図11(a)のようになる。
図11(a)において横軸はビームの方向を示す角度θであり、縦軸は移動速度Vの変化率V/Voである。最大走査角θoを増加させていくと図の(i)〜(v)のように角度θに対する移動速度Vが変化する。このとき、スポット移動速度の許容誤差をΔvとすると、(iii)のグラフでこの範囲内にある角度、即ち、有効走査角θeffはΘ3である。最大走査角を増加させた(iv)のグラフでは有効走査角がΘ4に拡がる。しかし、さらに最大走査角を増加させた(v)のグラフでは有効走査角がΘ5となって逆に狭まり、これ以上最大走査角を増加しても有効走査角を拡げることはできない。
図11(b)はこの最大走査角θoと有効走査角θeffの関係を示したものであり、許容誤差の大きさによって有効走査角が最も広くなる最大走査角が異なる。
図11(c)は、許容誤差の大きさに対する最大の有効走査角と、その有効走査角を得るために必要な最大走査角を示している。許容誤差による差はあるが、最大の有効走査角を得るには、40度以上の最大走査角が必要となる。光走査装置においては、短い投射距離で広い範囲の画像形成や読み取りを行うことができるのが望ましく、有効走査角はできるだけ広いのが好ましい。また、振動素子11〜16の小型化や消費電力の観点から最大走査角はできるだけ狭いのが好ましい。これらのことから、有効走査角がピークとなる最大走査角で振動素子を動作させるのが好ましく、そのためには、最大走査角として走査の中央に対して±40度以上、振動素子の回転振動振幅として±20度以上にするのが好ましい。小型の振動素子でこの振幅を実現するには、ミラー部材301を支持する捻り梁に高い強度と耐久性が必要であり、時効硬化型のCo−Ni基合金を用いた捻り梁はこの点からも非常に好ましい。
【0042】
次に、光走査時の投射面に投射されるビームスポット径の変化について説明する。光走査装置において、ビームスポット径は光走査により形成や投影される画像の精細度や、光学パターン読み取りの分解能に大きく影響する。このため、有効走査領域内でのビームスポット径の変動は極力少ないのが好ましい。
【0043】
図12(a)に投射面上の位置によるビームスポット径の変化の一例を示す。
図10に示した投射距離Lを174mmに設定し、振動素子11〜16の回転振動によって投射面の中央Oからx軸方向へのビームスポットを移動したときのビームスポット径変化を示している。
図12(a)の横軸は投射面中央からの距離xであり、縦軸はビームスポット径φである。また、
図12(b)には、ミラー部材301の曲率を変化させるために圧電材401に印加する駆動信号の一例を示す。周波数f2の駆動信号は振動素子11〜16の回転振動の周波数、即ち、走査周波数(回転振動周波数)f1の2倍の周波数f2を持つ駆動信号であり、
図9に示した周波数f2の駆動信号と同じである。周波数f4の駆動信号は周波数f1の4倍の周波数f4を持つ信号であり、周波数f2+f4の駆動信号は周波数f2の駆動信号と周波数f4の駆動信号を適当な比率で重畳した信号である。走査面上の位置によるビームスポット径の変化は、走査周波数と同期したミラー変形を行わない場合には
図12(a)の“f2なし”のグラフに示されたものとなり、走査端に向うに従って急激にスポット径が増大する。これに対して、周波数f2の駆動信号によりミラー部材301の曲率を変化させた場合には、
図12(a)の“f2のみ”のグラフに示されたものとなり、Xeffの有効走査範囲内でのビームスポット径の変動を大幅に抑えることができる。さらに、周波数f2とf4を重畳させた駆動信号でミラー部材301の曲率を変化させた場合には、
図12(a)の“f2+f4”のグラフに示されたものとなり、位置に依らずにほぼ一定のビームスポット径を得ることができる。
【0044】
上に述べた等速性やビームスポット径の安定化の効果は、振動素子11〜16が異常振動などを生じずに安定した光走査を行うことができる場合に限って得られるものである。振動素子11〜16を用いて最大走査角を適切に設定し、また、走査周波数の2倍および4倍の周波数を持つ信号で振動部21の曲率を制御することにより、画像の形成や投影、光学パターンの読み取りなどを高精度に行うことが可能な光走査装置を実現できる。
【0045】
[画像形成装置]
図13に光走査装置の実施例である画像形成装置7を示す。振動素子10は上述した振動素子11〜16のいずれか1つであり、振動部周辺の構成は省略してある。光源971は、画像データに応じて制御回路970が出力した駆動信号に基づき強度変調した光を射出する。射出された光は射出光学系972を通って振動素子10のミラー部材301で反射され、像担持体の一例である感光体975上を走査する。走査された光は、BDセンサ973、974で検出される。制御回路970は、BDセンサ973、974が出力する検出信号を基に走査角を制御するための制御信号を生成して出力する。制御信号は振動素子10の駆動回路870の駆動回路801にフィードバックされる。これにより駆動回路801は振動素子10の最大走査角を安定的に適切な値に維持する。また、駆動回路870に含まれている駆動回路802は検出信号に基づいてミラー曲率を制御するための制御信号を出力する。これにより、感光体975上でのビームスポット径がほぼ一定の大きさに維持される。
【0046】
振動素子11〜16を用いた画像形成装置7は、断線や異常振動などが生じにくくなり安定した光走査およびミラー曲率制御を行うことができる。このため、最大走査角の適切化やミラー曲率制御信号の適切化により、等速性やビームスポット径の安定化の効果を発揮する。つまり、高精度で信頼性の高い画像形成が可能となる。また、振動素子11〜16を用いた画像形成装置7では、走査速度の変動を補正するレンズ光学系を簡素化できる。また、走査速度の変動に対応するための画像データの補正やレーザー光の強度変調信号の補正などが不要となる。これにより、小型で安価な画像形成装置が実現できる。
【0047】
[画像形成装置]
図14(a)に光走査装置の実施例である画像投影装置8を示す。振動素子10は上記の振動素子11〜16のいずれか1つである。RGB3原色を含む光源装置981は、画像データに基づいて制御回路980から出力された信号にしたがって強度変調した光を射出する。振動素子10および垂直走査装置982により光は2次元走査され、スクリーン983に映像として投射される。垂直走査装置982の走査速度は振動素子10よりも遅い。垂直走査装置982には、たとえば、非共振駆動で高精度な位置決めができるガルバノミラーが用いられる。制御回路980から出力される制御信号に基づいて駆動回路880に含まれる駆動回路801は振動素子10の走査角を制御する。また、垂直走査装置982も同様に、制御回路980からの出力に基づいて走査角が制御される。さらに、駆動回路880の駆動回路802がミラー曲率制御信号(駆動信号)を出力することで、スクリーン983上でのビームスポット径がほぼ一定の大きさに維持される。また、制御回路980は、入力部984を通じて画像の台形補正が設定されると、垂直走査装置982の駆動信号の変化に応じてミラー曲率制御信号を変化させる。これにより、
図14(b)のように斜め投影を行う際にも、スクリーン上部の走査では焦点距離を長く、下部では焦点距離を短くしてスクリーン上のビームスポット径をほぼ一定の大きさに維持することができる。
【0048】
このように振動素子11〜16のいずれかを用いた画像投影装置8は、断線や異常振動などを生じずに安定した光走査およびミラー曲率制御を行うことができる。このため、最大走査角の適切化やミラー曲率制御信号の適切化により、等速性やビームスポット径の安定化の効果を発揮することができる。その結果、高精度で信頼性の高い画像投影が可能となる。また、画像投影装置8では、ミラー曲率制御信号の調整により斜め投影でもスクリーン上でビームスポット径をほぼ一定にすることができる。これにより、限られたスペースでも使用可能な高精細の画像投影装置8を実現できる。
【0049】
[光学パターン読み取り装置]
図15に光走査装置の実施例である光学パターン読み取り装置9を示す。振動素子10は振動素子11〜16のいずれか1つである。光源991から射出された光は射出光学系992を通って振動素子10のミラー部材301で反射され、光学パターン上を走査する。光学パターンに応じて強度が変化する反射光は、振動素子10で再び反射された後に検出光学系994によって集光され、光センサ995で検出される。デコーダ996は、光センサ995が出力する検出信号を2値化する。これにより光学パターンの情報が読み取られる。駆動回路890は制御回路990からの信号に基づいて振動素子10の回転振動の駆動信号およびミラー曲率制御信号を出力する。これにより、光学パターンのある投射面上でビームスポット径がほぼ一定の大きさに維持される。
【0050】
振動素子11〜16のいずれかを用いた光学パターン読み取り装置9は、断線や異常振動などを生じずに安定した光走査およびミラー曲率制御を行うことができる。このため、最大走査角の適切化やミラー曲率制御信号の適切化により、等速性やビームスポット径の安定化の効果を発揮できる。その結果、高精度でかつ信頼性の高い読み取りが可能となる。
【0051】
[まとめ]
本実施例によれば、圧電材401は第1電極501が形成された第1面と第2電極502が形成された第2面とを有する。第1の導電性部材201は第1電極501に結合し、導電性の第1の捻り梁101が第1の導電性部材201(203)に結合している。第2の導電性部材202(204)は第2電極502に結合し、導電性の第2の捻り梁102が第2の導電性部材202に結合している。ミラー部材301は圧電材401とともに第1の導電性部材201を挟持するように当該圧電材401に対して固定され、当該圧電材401の変形に伴って曲率が変化する。このように第1の導電性部材201、第2の導電性部材202に加え、第1の捻り梁101および第2の導電性部材202が導電性材料により構成されているため、配線を用いなくても電力を圧電材401に供給できる。よって、断線などの不良が生じずにくくなり、安定した回転振動(揺動)を実現できる。なお、走査ミラーと可変焦点ミラーが一体化されるため、光走査装置の小型化も期待できる。
【0052】
第1の捻り梁101と第2の捻り梁102とが並行に配置することで、捻り梁の撓み剛性が増加する。これにより、走査線が副走査方向(z方向)に変動しにくくなり、異常振動を低減でき、安定した振動を実現可能となる。なお、圧電材401およびミラー部材301が片持ち支持されてもよい。また、第1の捻り梁101と第2の捻り梁102との間には空間が存在してもよい。これらの構成は、外部から衝撃が加わっても変動し難くし、また、変動しても短時間で変動を減衰させる効果が得られる。
【0053】
図1A、
図1B、
図3、
図5〜
図7に示したように、第1の捻り梁101と第2の捻り梁102とがそれぞれ圧電材401およびミラー部材301のそれぞれ異なる側に存在することで圧電材401およびミラー部材301を両持ち支持してもよい。たとえば、第1の捻り梁101が第一方向から振動部21を支持し、第2の捻り梁102が第二方向(たとえば第一方向とは180度異なる方向)から振動部21を支持してもよい。このような両持ち支持構造は片持ち支持構造と比較して、全体のサイズは大きくなるが、より撓み剛性が高くなり、走査線の副走査方向への変動を抑えやすくなる。反対に片持ち支持構造は小サイズ化の面で有利である。
【0054】
図1(B)に示したように、第1の捻り梁101は第1の導電性部材201との接合部の近傍に曲げ加工が施されており、第1の捻り梁101の長手方向の中心線と振動素子11の回動軸とが概ね一致していてもよい。同様に、第2の捻り梁102は第2の導電性部材202との接合部の近傍に曲げ加工が施されており、第12捻り梁の長手方向の中心線と振動素子11の回動軸とが概ね一致していてもよい。
【0055】
図5ないし
図7を用いて説明したように、第1の導電性部材201を保持する導電性の第1の保持部材を介して第1の捻り梁101が第1の導電性部材201に結合していてもよい。これにより、ミラー部材301等の曲率変化が捻り梁に及びにくくなり、異常振動の発生を低減できる。さらに、第1の保持部材は、振動素子11の回動軸に対して対称となる2箇所において第1の導電性部材201を保持していてもよい。これにより異常振動の抑制効果がさらに高まるであろう。
【0056】
第2の導電性部材202を保持する導電性の第2の保持部材を介して第2の捻り梁102が第2の導電性部材202に結合していてもよい。また、第2の保持部材は、振動素子11の回動軸に対して対称となる2箇所において第2の導電性部材202を保持していてもよい。このように第2の導電性部材202に関しても異常振動抑制する保持部が採用されてもよい。
【0057】
図6や
図7を用いて説明したように、第1の導電性部材201はミラー部材301に形成された溝に収納されていてもよい。これにより振動部21を軽量化することが可能となる。同様に、第2の導電性部材202はミラー部材301に形成された溝に収納されていてもよい。
【0058】
図6および
図7を用いて説明したように、第1の導電性部材201を保持する導電性の第1の保持部材を介して第1の捻り梁101が第1の導電性部材201に結合しており、第2の導電性部材202を保持する導電性の第2の保持部材を介して第2の捻り梁102が第2の導電性部材202に結合し、さらに、第1の保持部材と第2の保持部材とによって磁石が挟持されていてもよい。磁石のような重量物が回動軸の中心に配置可能となり、振動部21をさらに安定して揺動させることが可能となろう。
【0059】
第1の導電性部材201は厚みが一定の平板であってもよい。同様に第2の導電性部材202は厚みが一定の平板であってもよい。なお、第1の導電性部材201の形状と第2の導電性部材202の形状とは一致していてもよいが、異常振動が発生しない限りにおいては両者の形状が異なっていてもよい。
【0060】
図6や
図7を用いて説明したように、第1の導電性部材201は複数のフレームを有していてもよい。同様に、第2の導電性部材202は複数のフレームを有していてもよい。平板構造と比較してフレーム構造は軽量化の点で有利である。
【0061】
図7を用いて説明したように、複数のフレームを交差させてもよい。これにより、走査方向の曲率分布と副走査方向の曲率分布との差を小さくすることが可能となる。これは安定振動をもたらすであろう。
【0062】
なお、振動素子11〜16のいずれかと、振動素子11の第1の捻り梁101および第2の捻り梁102を介して圧電材401に駆動信号を供給する駆動回路801、802と、振動素子11のミラー部を揺動させる磁界を発生する磁界発生部700とを有し、光源からの光をミラー部材301により走査する光走査装置がさらに提供されてもよい。振動素子11〜16を採用することで、安定した光り走査を実現できる。
【0063】
駆動回路は、ミラー部材301の回転振動周波数f1の2倍の周波数f2の信号と4倍の周波数f4の信号とを重畳して駆動信号を生成してもよい。これにより、位置に依らずにほぼ一定のビームスポット径を得ることができる。
【0064】
ミラー部材301の回転角は±20度以上であってもよい。これはミラー部の走査角を広くしつつ、消費電力を削減するうえで有効である。
【0065】
図13を用いて説明したように、光走査装置と像担持体とを備え、当該光走査装置によって走査された光によって当該像担持体に画像を形成することを特徴とする画像形成装置7が提供されてもよい。振動素子11〜16を用いた画像形成装置7は、断線や異常振動などが生じにくくなり安定した光走査およびミラー曲率制御を行うことができる。このため、最大走査角の適切化やミラー曲率制御信号の適切化により、等速性やビームスポット径の安定化の効果を発揮する。つまり、高精度で信頼性の高い画像形成が可能となる。また、振動素子11〜16を用いた画像形成装置7では、走査速度の変動を補正するレンズ光学系を簡素化できる。また、走査速度の変動に対応するための画像データの補正やレーザー光の強度変調信号の補正などが不要となる。これにより、小型で安価な画像形成装置が実現できる。
【0066】
図14を用いて説明したように、光走査装置によって走査された光によってスクリーンに画像を投影することを特徴とする画像投影装置8が提供されてもよい。振動素子11〜16のいずれかを用いた画像投影装置8は、断線や異常振動などを生じずに安定した光走査およびミラー曲率制御を行うことができる。このため、最大走査角の適切化やミラー曲率制御信号の適切化により、等速性やビームスポット径の安定化の効果を発揮することができる。その結果、高精度で信頼性の高い画像投影が可能となる。また、画像投影装置8では、ミラー曲率制御信号の調整により斜め投影でもスクリーン上でビームスポット径をほぼ一定にすることができる。これにより、限られたスペースでも使用可能な高精細の画像投影装置8を実現できる。
【0067】
図15を用いて説明したように、光走査装置を備えたことを特徴とする光学パターン読み取り装置9が提供されてもよい。振動素子11〜16のいずれかを用いた光学パターン読み取り装置9は、断線や異常振動などを生じずに安定した光走査およびミラー曲率制御を行うことができる。このため、最大走査角の適切化やミラー曲率制御信号の適切化により、等速性やビームスポット径の安定化の効果を発揮できる。その結果、高精度でかつ信頼性の高い読み取りが可能となる。