(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<結晶製造装置>
以下、本発明の実施形態に係る結晶製造装置について、
図1〜
図6を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る結晶製造装置の概略を示しており、結晶製造装置を上下方向に切断した断面を示している。
図2は、
図1の結晶製造装置が備えている坩堝を上下方向に切断した断面を詳細に示している。
図3は、
図2に示した坩堝を上面視したときの構成を示している。
図4〜
図6は、それぞれ
図2に示した坩堝の変形例を示しており、坩堝を上面視したとき、または坩堝を上下方向に切断したときの構成を示している。
【0013】
結晶製造装置1は、半導体部品等に使用される炭化珪素の結晶2を製造する装置である。結晶製造装置1は、
図1に示すように、主に種結晶3と、種結晶3を保持する保持部材4と、溶液5と、溶液5を貯留(保持)する坩堝6とを含んでいる。結晶製造装置1は、保持部材4を介して種結晶3を坩堝6内に移動させて、種結晶3の下面を坩堝6内にある溶液5に接触させることで、種結晶3の下面に結晶2を成長させる。
【0014】
結晶2は、製造された後に加工されてウェハーになり、半導体部品製造プロセスを経て半導体部品の一部となる。結晶2は、例えば炭化珪素の単結晶からなる。結晶2は、種結晶3の下面に成長した炭化珪素の結晶の塊である。結晶2は、例えば円柱状に形成されている。結晶2の直径は、例えば15mm以上95mm以下に設定されている。結晶2の高さは、例えば30mm以上300mm以下に設定されている。
【0015】
種結晶3は、結晶製造装置1で成長させる結晶2の種となる。種結晶3は、例えば円状または多角形状の平面形状を有する平板状に形成されている。種結晶3は、結晶2と同じ材料からなる結晶である。すなわち、本実施形態では、炭化珪素の結晶2を製造するため、炭化珪素の結晶からなる種結晶3を用いる。種結晶3は、例えば単結晶または多結晶か
らなる。
【0016】
種結晶3は、保持部材4の下面に固定されている。種結晶3は、例えば炭素を含んだ接着材(図示せず)によって、保持部材4に固定されている。また、種結晶3は、保持部材4によって、上下方向(Z軸方向)に移動可能となっている。
【0017】
保持部材4は、種結晶3を保持して、溶液5に対して種結晶3の搬出入を行なう。具体的に、保持部材4は、種結晶3を溶液5に接触させたり、溶液5から結晶2を遠ざけたりする機能を有する。保持部材4は、
図1に示すように、移動装置7の一部である移動機構(図示せず)に固定されている。移動機構は、移動機構に固定されている保持部材4を、例えばモータを利用して上下方向に移動させる。その結果、移動装置7によって、保持部材4は上下方向に移動する。したがって、種結晶3は保持部材4の移動に伴って上下方向に移動する。
【0018】
保持部材4は、例えば柱状に形成されている。保持部材4は、例えば炭素の多結晶体または炭素を焼成した焼成体等からなる。保持部材4は、上下方向の軸の周囲に回転可能な状態で移動装置7に固定されていてもよい。
【0019】
溶液5は、坩堝6の内部に溜められており、結晶2の原料を種結晶3に供給して結晶2を成長させるものである。溶液5は、結晶2と同じ材料を含む。すなわち、結晶2は炭化珪素の結晶であるから、溶液5は炭素と珪素とを含んでいる。本実施形態では、溶液5は、珪素からなる溶媒に、炭素からなる溶質が溶解している。なお、溶液5は、炭素の溶解度を向上させるために、例えばクロム等の金属材料を含んでいてもよい。
【0020】
本実施形態では、炭化珪素の結晶2を成長させる方法として、溶液成長法が用いられる。溶液成長法では、溶液5を、種結晶3の下面において局所的に準安定状態(熱力学的に非平衡状態であるが、その状態で一時的に安定している状態)にすることによって、種結晶3の下面に結晶2として析出させている。すなわち、溶液5では、珪素(溶媒)に炭素(溶質)を溶解させており、炭素の溶解度は、溶媒の温度が高くなるほど大きくなる。ここで、加熱して高温になった溶液5が種結晶3への接触によって冷えると、溶解した炭素が過飽和状態となって、溶液5が局所的に準安定状態となる。そして、溶液5が安定状態(熱力学的に平衡状態)に移行しようとして、種結晶3の下面に炭化珪素の結晶2として析出する。その結果、種結晶3の下面に結晶2が成長する。
【0021】
坩堝6は、溶液5を貯留するとともに、溶液5を加熱するものである。坩堝6は、
図1および
図2に示すように、溶液5を保持する容器8と、容器8に設けられている、溶液5の放熱を抑制する抑制部材9とを有している。本実施形態では、抑制部材9は、容器8の内壁に接着材(図示せず)を介して固定されている。なお、抑制部材9は、容器8と一体的に形成されてもよい。
【0022】
容器8は、上述した通り、溶液5を保持するものである。そのため、容器8は、溶液5を保持する保持領域10を有している凹部11が形成されている。容器8は、例えば黒鉛で形成されている。本実施形態では、容器8は、容器8内の中で結晶2の原料のうち珪素を融解させて溶媒とし、珪素の溶媒に容器8の一部(炭素)が溶解することで、炭素と珪素とを含む溶液5となっている。
【0023】
容器8は、例えば円状または多角形状の平面形状を有する柱状に形成されている。凹部11は、柱状に形成されており、例えば円状または多角形状の平面形状を有する。凹部11の開口は、凹部11の平面形状と同じく、例えば円状または多角形状に形成されている。凹部11の開口面積は、例えば2000mm
2以上3000mm
2以下に設定されてい
る。
【0024】
抑制部材9は、例えば、凹部11の開口と相似形状を有する平板状に形成されている。抑制部材9の厚みは、例えば3mm以上20mm以下に設定されている。
【0025】
抑制部材9は、中央部において抑制部材9の上面および下面の間を貫通し、種結晶3を溶液5に向けて出し入れ可能な通過孔12を有している。通過孔12は、成長する結晶2および種結晶3が通過可能であればどのような形状でも構わない。通過孔12の断面形状は、例えば柱状に形成されている。通過孔12の平面形状は、例えば円状または多角形状に形成されている。通過孔12の開口は、
図3に示すように、成長する結晶2および種結晶3よりも大きく設定されている。通過孔12の開口面積は、凹部11の開口面積の例えば30%以上50%以下に設定されている。通過孔12の開口面積は、例えば950mm
2以上1500mm
2以下に設定されている。
【0026】
抑制部材9は、
図2に示すように、容器8の凹部11内に保持領域10の少なくとも一部を覆うように配されている。また、抑制部材9は、
図3に示すように、坩堝6を上面視したときに、容器8の縁部から容器8の中央部にわたって位置している。
【0027】
抑制部材9は、保持領域10の少なくとも一部を覆っていることから、例えば溶液5から発生する蒸気の移動を妨げることができ、溶液5の液面からの放熱を抑制することができる。その結果、溶液5の温度低下を低減することができる。
【0028】
さらに、抑制部材9には、
図2に示すように、貫通部13の周囲において抑制部材9の上面および下面の間を貫通している貫通部13を有している。そして、貫通部13は、容器8の凹部11に溶液5を保持したときに抑制部材9の上方から溶液5の液面中央部を視認可能な位置に形成されている。これによって、溶液5の液面中央部に位置する種結晶3または成長した結晶2から放射された熱を、この貫通部13を経由して抑制部材9の上方に伝えることができる。その結果、種結晶3または成長した結晶2の温度を選択的に低下させることができる。
【0029】
したがって、本発明によれば、溶液5の温度低下を抑制する一方で、種結晶3または成長した結晶2の温度を低下させることができるため、溶液5の温度と種結晶3または成長した結晶2の温度との差を大きくすることができる。よって、結晶2の成長速度を向上させることができる。
【0030】
なお、溶液成長法での結晶成長は高温下で行なわれることから、種結晶3または成長した結晶2からの放熱は対流、熱伝導および熱放射を比較したときに熱放射が支配的となる。このとき、貫通部13から、種結晶3または結晶2からの放射熱を選択的に上方に逃がすことができるから、この領域の温度を効果的に低下させることができる。
【0031】
なお、ここで「視認可能」とは、
図2に示すように、貫通部13を上下方向に切断した断面において、上側開口の抑制部材9の中央部側の縁と下側開口の抑制部材9の縁部側の縁とを結ぶ第1直線L1と、上側開口の抑制部材9の縁部側の縁と下側開口の抑制部材9の中央部側の縁とを結ぶ第2直線L2とで挟まれる領域内に視認対象物が位置していることを指す。
【0032】
貫通部13の下側開口は、
図2に示すように、貫通部13の上側開口と上下方向で重ならないように上側開口よりも溶液5の液面の中央部側に位置している。これによって、抑制部材9の上方から貫通部13を覗いたときの視認可能な領域を小さくすることができる。したがって、溶液5からの熱放射を抑制部材9の上方に伝えることを低減することがで
きる。その結果、溶液5の温度低下を低減させることができ、種結晶3または成長した結晶2と溶液5との温度差を効果的に大きくすることができる。
【0033】
貫通部13は、結晶2の成長時に抑制部材9の上方から貫通部13を覗いたときに、種結晶3または成長した結晶2のみが視認可能なように形成されていてもよい。これによって、溶液5の温度低下を低減することができる。
【0034】
貫通部13の断面形状は、柱状に形成されていてもよい。すなわち、貫通部13を上下方向に切断したときの貫通部13の断面では、貫通部13の貫通方向に沿った長さが、貫通部13の貫通方向に直交する長さよりも長くてもよい。これによって、抑制部材9の上方から貫通部13を覗いたときの視認可能な領域を小さくすることができる。その結果、溶液5の温度低下を低減することができる。
【0035】
貫通部13の上側開口の開口面積は、貫通部13の下側開口の開口面積よりも小さくてもよい。これによって、貫通部13を介する種結晶3または成長した結晶2を起点とした視認可能領域が大きくなり、種結晶3または成長した結晶2を効果的に冷やすことができる。
【0036】
一方、貫通部13の上側開口の開口面積は、貫通部13の下側開口の開口面積よりも大きくしてもよい。ここで、例えば成長条件によっては、種結晶3または成長した結晶2を冷やし過ぎると成長した結晶2の品質が低下するおそれがある。しかしながら、貫通部13の上側開口の開口面積を下側開口よりも小さくすることによって、種結晶3または成長した結晶2が冷え過ぎることを防止することができる。
【0037】
貫通部13の上側開口は、抑制部材9の下方から貫通部13を覗いたときに、容器8が視認可能領域にない方が望ましい。すなわち、
図2に示すように、貫通部13を上下方向に切断した断面において、第1直線L1と第2直線L2とで挟まれる上側の領域内に容器8が位置しないことが望ましい。これによって、貫通部13を介する種結晶3または成長した結晶2を起点とする視認可能領域の温度が低くなり、種結晶3または結晶2からの熱放射を促進させることができる。
【0038】
抑制部材9の上面は、容器8の上端面と面一で平坦になるように位置していてもよい。これによって、貫通部13を介する種結晶3または成長した結晶2を起点とする視認可能領域内に容器8が位置することを防止することができる。
【0039】
抑制部材9の下面は、溶液5の液面近傍に位置していてもよい。具体的には、溶液5の液面から抑制部材9の下面までの高さが、抑制部材9の下面から容器8の上面までの高さよりも低くてもよい。これによって、抑制部材9の上方から貫通部13を介した視認領域を小さくすることができる。その結果、溶液5の温度低下を低減することができる。
【0040】
抑制部材9は、
図5および
図6に示すように、抑制部材9の貫通部13よりも内側に、抑制部材9を上下方向に貫通している副貫通部14をさらに有していてもよい。そして、副貫通部14の下側開口は、副貫通部14の上側開口と上下方向で重ならないように上側開口よりも溶液5の液面の中央部側に位置していてもよい。これによって、成長した結晶2から放射した熱を副貫通部14を経由して抑制部材9の上方に伝えることができ、成長した結晶2をさらに冷やすことができる。その結果、成長した結晶2と溶液5との温度差を大きくしやすくなり、結晶2の成長速度を向上させることができる。
【0041】
副貫通部14の横断面積は、貫通部13の横断面積よりも小さくてもよい。これによって、例えば貫通部13および副貫通部14の縦断面形状が柱状である場合には、副貫通部
14を経由する溶液5からの熱放射を、貫通部13を経由する溶液5からの熱放射よりも小さくすることができる。その結果、成長する結晶2が副貫通部14の熱放射領域にまで成長するまでは副貫通部14を経由して容器8内から熱放射することになるが、その間にも容器8内の温度低下を低減することができる。
【0042】
なお、貫通部13の横断面積は、凹部11の開口の面積の例えば10%以上40%以下に設定されている。また、貫通部13の横断面積は、例えば300mm
2以上500mm
2以下に設定されている。副貫通部14の横断面積は、凹部11の開口の面積の例えば5%以上10%以下に設定されている。また、副貫通部14の横断面積は、例えば150mm
2以上250mm
2以下に設定されている。また、横断面積の測定方法は、例えば定規によって測定することができる。
【0043】
副貫通部14の下側開口は、通過孔12の内面に位置していてもよい。これによって、副貫通部14の下側開口が抑制部材9の下面にある場合と比較して、溶液5からの熱放射を低減することができ、溶液5の温度低下を抑制することができる。
【0044】
貫通部13は、複数の第1貫通孔15であってもよい。具体的には、複数の第1貫通孔15は、
図3に示すように、通過孔12を囲うように通過孔12に沿って並んで配されている。これによって、種結晶3または成長した結晶2の温度分布を均一に近付けることができる。その結果、結晶2を均一に成長させやすくなり、結晶2の品質を向上させることができる。
【0045】
なお、複数の第1貫通孔15のそれぞれの開口面積は、例えば35mm
2以上45mm
2以下に設定されている。また、開口面積は、上述した横断面積の測定方法と同様の方法によって測定することができる。
【0046】
複数の第1貫通孔15のそれぞれの下側開口の位置は、抑制部材9の中央部側または抑制部材9の縁部側にずれていてもよい。すなわち、抑制部材9の中央部と第1貫通孔15との距離は、複数の第1貫通孔15のそれぞれで異なってもよい。これによって、抑制部材9の中央部と第1貫通孔15との距離によって、抑制部材9の上方から複数の第1貫通孔15を覗いたときの視認可能領域が、成長した結晶2の上下方向に変化する。したがって、成長した結晶2を周方向だけでなく高さ方向にも冷やすことができる。
【0047】
複数の第1貫通孔15において、下側開口が抑制部材9の中央部側に位置する第1貫通孔15と、下側開口が抑制部材9の縁部側に位置する第1貫通孔15とが交互に位置してもよい。これによって、抑制部材9の中央部と第1貫通孔15との距離によって、抑制部材9の上方から複数の第1貫通孔15を覗いたときの視認可能領域が、成長した結晶2の上下方向に変化する。したがって、種結晶3または成長した結晶2を周方向だけでなく高さ方向にも冷やすことができる。
【0048】
複数の第1貫通孔15は、
図3に示すように、等間隔に並んでいてもよい。これによって、種結晶3または成長した結晶2の平面方向の温度分布を均一に近付けることができる。
【0049】
貫通部13は、1つの第1貫通孔15であってもよい。これによって、抑制部材9の強度を向上させることができるため、例えば容器8の熱膨張等によって容器8の内側に位置している抑制部材9に圧縮応力が加わって抑制部材9が破壊されることを防止することができる。なお、この場合、以下に説明するように、結晶2の成長時には、種結晶3または成長した結晶2を均一に冷やすために保持部材4または坩堝6を回転させてもよい。
【0050】
貫通部13は、
図4に示すように、帯状に打ち抜かれるように形成されていてもよい。これによって、種結晶3または成長した結晶2の平面方向の温度分布を均一に近付けることができる。
【0051】
副貫通部14は、
図6に示すように、複数の第2貫通孔16からなっていてもよい。これによって、例えば副貫通部14が帯状に打ち抜かれている場合と比較して、抑制部材9の強度を向上させることができる。
【0052】
なお、貫通部13が複数の第1貫通孔15であり、副貫通部14が複数の第2貫通孔16である場合には、複数の第1貫通孔15のそれぞれの開口面積の和は、複数の第2貫通孔16のそれぞれの開口面積の和よりも大きい。なお、複数の第2貫通孔16のそれぞれの開口面積は、例えば15mm
2以上25mm
2以下に設定されている。
【0053】
複数の第2貫通孔16は、
図6に示すように、抑制部材9を上面視したときに、等間隔に並んでいてもよい。このような構成を有することによって、種結晶3または成長した結晶2の平面方向の温度分布を均一に近付けることができる。
【0054】
一方、複数の第1貫通孔15のそれぞれの上面開口の開口面積は、複数の第2貫通孔16のそれぞれの上面開口の開口面積よりも小さくてもよい。これによって、種結晶3または成長した結晶2を冷やす際に、溶液5付近に位置する種結晶3または成長した結晶2を冷やし過ぎることを低減して、溶液5の温度が低下することを低減することができる。
【0055】
複数の第2貫通孔16のそれぞれは、抑制部材9を上面視したときに、複数の第1貫通孔15のそれぞれと通過孔12とを結ぶ直線上の中間部に位置していてもよい。これによって、種結晶3または成長した結晶2を均一に冷やすことができる。
【0056】
複数の第2貫通孔16は、抑制部材9を上面視したときに、
図6に示すように、複数の第1貫通孔15同士の間と通過孔とにわたった領域に位置していてもよい。これによって、種結晶3または成長した結晶2を均一に冷やすことができる。
【0057】
複数の第1貫通孔15の数は、
図6に示すように、複数の第2貫通孔16の数よりも少なくてもよい。これによって、種結晶3または成長した結晶2を冷やす際に、溶液5付近に位置する種結晶3または成長した結晶2を冷やし過ぎることを低減して、溶液5の温度が低下することを低減することができる。
【0058】
通過孔12の平面形状は、
図3に示すように、凹部11の開口の相似形状であってもよい。通過孔12の開口面積は、
図3に示すように、凹部11の開口面積よりも小さい。このような構成を有することによって、溶液5の放熱を効果的に抑制することができる。
【0059】
坩堝6は、
図1に示すように、坩堝容器17の内部に配置されている。坩堝容器17は、坩堝6を保持する機能を担っている。この坩堝容器17と坩堝6との間には、保温材18が配置されている。この保温材18は、坩堝6の周囲を囲んでいる。保温材18は、坩堝6からの放熱を抑制し、坩堝6の温度を安定して保つ。坩堝6は、回転可能な状態で坩堝容器17の内部に配置されていてもよい。
【0060】
坩堝6には、加熱装置19によって、熱が加えられる。本実施形態の加熱装置19は、コイル20および交流電源21を含んでおり、例えば電磁波を利用した電磁加熱方式によって坩堝6の加熱を行なう。なお、加熱装置19は、例えば、カーボン等の発熱抵抗体で生じた熱を伝熱する抵抗加熱方式等の他の方式を採用することができる。この伝熱方式の加熱装置を採用する場合は、(坩堝6と保温材18との間に)発熱抵抗体が配置される。
【0061】
コイル20は、導体によって形成され、坩堝6の周囲を囲んでいる。コイル20は、坩堝6を円筒状に囲むように、坩堝6の周囲に配されている。すなわち、コイル20を有する加熱装置19は、コイル20による円筒状の加熱領域を有している。交流電源21は、コイル20に交流電流を流すためのものであり、交流電流の周波数が高いものを用いることによって、坩堝6内の設定温度までの加熱時間を短縮することができる。
【0062】
本実施形態では、交流電源21および移動装置7が制御装置22に接続されて制御されている。つまり、この結晶製造装置1は、制御装置22によって、溶液5の加熱および温度制御と、種結晶3の搬出入とが連動して制御されている。制御装置22は、中央演算処理装置およびメモリ等の記憶装置を含んでおり、例えば公知のコンピュータからなる。
【0063】
<結晶の製造方法>
本発明の実施形態に係る結晶の製造方法について説明する。本実施形態の結晶の製造方法は、準備工程、接触工程、結晶成長および引き離し工程を有している。
【0064】
(準備工程)
種結晶3を準備する。種結晶3は、例えば昇華法または溶液成長法等によって製造された炭化珪素の結晶の塊に切断等の加工を行なって平板状に形成したものを用いる。本実施形態では、種結晶3の下面を炭素面としている。種結晶3の下面は、例えば直径75mmの結晶2を成長させたい場合には、例えば直径75mmの円形に形成される。
【0065】
保持部材4を準備し、保持部材4の下面に種結晶3を固定する。具体的には、保持部材4の下面に炭素を含有する接着材を塗布する。その後、接着材を挟んで保持部材4の下面上に種結晶3を配して、種結晶3を保持部材4に固定する。その結果、保持部材4の下面に固定された種結晶3を準備することができる。なお、本実施形態では、種結晶3を保持部材4に固定した後、保持部材4の上端を移動装置7に固定する。
【0066】
坩堝6と、坩堝6内に溜まった、炭素および珪素を含む溶液5とを準備する。坩堝6の準備は、まず、黒鉛の塊から凹部11を有する容器8を準備する。なお、上述した通り、種結晶3の下面が例えば直径75mmの円形に設定されている場合には、凹部11の開口は、例えば直径150mmの円形に形成される。
【0067】
次いで、黒鉛の塊から平板状に形成されるとともに、通過孔12、貫通部13および副貫通部14が形成された抑制部材9を準備する。次いで、抑制部材9の側面に炭素を含有する接着材を塗布した後、容器8の内壁に接着させることによって、坩堝6を準備することができる。なお、通過孔12は、種結晶3が通過することから、種結晶3よりも大きく形成される。通過孔12は、種結晶3が例えば直径75mmの円盤状から形成されている場合には、例えば直径85mmの円形状の開口で形成されている。
【0068】
溶液5の準備は、坩堝6内に、珪素の原料となる珪素粒子を入れて、坩堝6を珪素の融点(1420℃)以上に加熱することによって行なう。このとき、液化した珪素(溶媒)内に坩堝6を形成している炭素(溶質)が溶解する。その結果、坩堝6内に炭素および珪素を含む溶液5を準備することができる。なお、溶液5に含まれる炭素は、予め原料として炭素粒子を加えることによって、珪素を融解させるのと同時に炭素を溶解させてもよい。
【0069】
なお、坩堝6の抑制部材9は、例えば溶液5の液面から15cmの高さに配置される。また、坩堝6の抑制部材9があることによって、溶液5は例えば1900℃以上2000℃以下の温度で均一に近付けることができる。
【0070】
本実施形態では、坩堝6は加熱装置19のコイル20に囲まれた坩堝容器17内に設置される。そして、加熱装置19によって坩堝6を加熱することで、溶液5を形成することができる。なお、予め、坩堝6を結晶製造装置1の外で加熱して溶液5を形成した後に、坩堝6を坩堝容器17内に配置してもよい。また、溶液5を坩堝6以外の他の容器等で形成した後、坩堝容器17内に設置された坩堝6に溶液5を注ぎ込んでもよい。
【0071】
(接触工程)
種結晶3の下面を溶液5に接触させる。種結晶3は、保持部材4を下方に移動させることで溶液5に接触させる。なお、本実施形態では、種結晶3を下方向へ移動させることで種結晶3を溶液5に接触させているが、坩堝6を上方向へ移動させることで種結晶3を溶液5に接触させてもよい。
【0072】
種結晶3は、下面の少なくとも一部が溶液5の液面に接触していればよい。それゆえ、種結晶3の下面全体が溶液5に接触するようにしてもよいし、種結晶3の側面または上面まで浸かるように溶液5に接触させてもよい。種結晶3の側面または上面が浸かるように溶液5に入れた場合には、種結晶3の下面全体を確実に溶液5に接触させることができ、生産性を向上させることができる。
【0073】
(結晶成長工程)
接触工程で溶液5に接触させた種結晶3の下面に、溶液5から結晶2を成長させる。結晶2の成長は、上記の接触工程にて、種結晶3の下面を溶液5に接触させたときから始まる。すなわち、種結晶3の下面を溶液5に接触させることによって、種結晶3の下面と種結晶3の下面付近の溶液5との間に温度差ができる。そして、その温度差によって、炭素が過飽和状態になり、溶液5中の炭素および珪素が結晶2として種結晶3の下面に析出し始める。
【0074】
種結晶3を溶液5から引き上げて、結晶2を柱状に成長させる。このとき、抑制部材9の上方から貫通部13を覗いたときに、種結晶3または成長した結晶2を視認可能な状態を維持するように行なう。これによって、種結晶3または成長した結晶2の温度と溶液5の温度との差を大きくすることができ、結晶2の成長速度を向上させることができる。
【0075】
種結晶3を引き上げる際には、保持部材4または坩堝6を回転させてもよい、これによって、貫通部13からの視認可能領域を連続して変更させることができ、種結晶3または成長した結晶2の温度分布を均一にしやすくなる。
【0076】
なお、結晶2の平面方向および下方への成長速度を調整しながら種結晶3を上方向に少しずつ引き上げることによって、一定の径を保った状態で結晶2を成長させることができる。具体的には、種結晶3の引き上げの速度は、例えば50μm/h以上150μm/h以下に設定することができる。
【0077】
溶液5の温度は、例えば1400℃以上2000℃以下となるように設定されている。溶液5の温度が変動する場合には、溶液5の温度として、例えば一定時間において複数回測定した温度を平均した温度を用いることができる。溶液5の温度を測定する方法としては、例えば熱電対で直接的に測定する方法、または放射温度計を用いて間接的に測定する方法等を用いることができる。
【0078】
(引き離し工程)
結晶2を成長させた後、成長した結晶2を溶液5から引き離し、結晶成長を終了する。