特許第6231447号(P6231447)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231447ポリマー被膜で被覆されたブリキおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231447
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ポリマー被膜で被覆されたブリキおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20171106BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20171106BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20171106BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20171106BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20171106BHJP
   B65D 1/12 20060101ALI20171106BHJP
   C25D 11/34 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C23C28/00 C
   B05D7/14 G
   B32B15/08 G
   B32B15/09
   B65D1/00 111
   B65D1/12
   C25D11/34 B
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-149572(P2014-149572)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2015-78427(P2015-78427A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2014年10月23日
【審判番号】不服2016-10099(P2016-10099/J1)
【審判請求日】2016年7月5日
(31)【優先権主張番号】10 2013 109 801.0
(32)【優先日】2013年9月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キャサリーン スタイン−フェヒナー
(72)【発明者】
【氏名】タニア ロンメル
(72)【発明者】
【氏名】ライナー サウワー
(72)【発明者】
【氏名】ベアーテ バネマン
(72)【発明者】
【氏名】ペトラ ディーデリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン リーブシャー
【合議体】
【審判長】 鈴木 正紀
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 板谷 一弘
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/104530(WO,A2)
【文献】 特公昭50−8691(JP,B2)
【文献】 特開2005−238718(JP,A)
【文献】 特開2004−74657(JP,A)
【文献】 特開2009−68108(JP,A)
【文献】 特開2000−153843(JP,A)
【文献】 特開2000−234183(JP,A)
【文献】 特開2011−117071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C24/00-30/00
C25D 5/00-21/22
B32B 1/00-43/00
B65D 1/00, 1/12
B65D65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ被膜で被覆された鋼板のクロムフリー表面をポリマー被膜で被覆する方法であって、
第1ステップで、前記スズ被膜で被覆された鋼板のクロムフリースズ表面は、水性のクロムフリー電解液内で、前記スズ被覆された鋼板の陽極分極によって電気化学的に酸化され、前記スズ被膜の表面の前記電気化学的酸化は、前記鋼板の前記スズ被膜の被覆後、直ちに、かつ、数秒以内に実施され、
第2ステップで、酸化されたスズ被膜の表面にポリマー被覆が施され、前記ポリマー被覆の材料は、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)である、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
被覆された鋼板の製造方法であって、
鋼板の片面または両面にスズ被膜を電解的に被覆するステップと、
水性のクロムフリー電解液内で、前記スズ被覆された鋼板の陽極分極によって、前記スズ被膜の表面を電気化学的に酸化させるステップであって、前記スズ被膜の表面の前記電気化学的酸化が、前記鋼板の前記スズ被膜の被覆後、直ちに、かつ、数秒以内に実施されるステップと、
酸化されたスズ被膜の表面をポリマー被膜で被覆するステップであって、前記ポリマー被膜の材料が、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)から成る群から選択されるステップと、
を含んでいる、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
前記スズ被膜の表面の前記電気化学的酸化ステップは、前記鋼板の前記スズ被膜の被覆後、何らの中間ステップなしに、直接実施される、
ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記電気化学的酸化のステップにおいて前記酸化されたスズ被膜の表面上に移送される電荷密度は、最大で40C/mである、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー被膜は、ポリマー膜を前記鋼板の前記クロムフリーの酸化されたスズ被膜の表面に積層することで形成される、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー被膜は、ポリマー層および接着促進剤層を含む共押出プラスチック膜を前記鋼板の前記酸化されたスズ被膜の表面に積層することにより形成され、前記接着促進剤層は前記スズ被膜の表面に対面している、
ことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー被膜の積層中に、前記鋼板は前記スズ被膜の融点(TSn)を超える温度に維持される、
ことを特徴とする請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー被膜のポリマー材料はポリエチレンテレフタレート(PET)である、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマー被膜はポリエチレンテレフタレート(PET)製の膜を前記鋼板の前記酸化されたスズ被膜の表面に積層することで形成される、
ことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)から成るポリマー被膜で被覆された、クロムフリー不動態化ブリキであって、
当該ブリキのスズ表面と前記ポリマー被膜との間には、酸化スズ層および接着促進剤層のみが存在し、かつ、前記接着促進剤層は、前記酸化スズ層と前記ポリマー被膜との間に存在し、
前記酸化スズ層は、本質的に四価酸化スズ(SnO)から成り、
前記酸化スズ層は、最大で0.1μmの厚みである、
ことを特徴とするブリキ。
【請求項11】
前記接着促進剤層は、グリコール修飾ポリエチレンテレフタレート(PETG)、グリコール修飾ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCTG)及び/又はイソフタル酸(IPA)を含有している、
ことを特徴とする請求項1記載のブリキ。
【請求項12】
粘着防止層が、前記ポリマー被膜の上面に存在する、
ことを特徴とする請求項10または11記載のブリキ。
【請求項13】
当該ブリキは、0.5g/mから12g/mの層であるスズ被膜によって被覆された、低炭素含有量である非合金または低合金鋼材からの0.05mmから0.50mmの厚みの冷間圧延鋼帯から製造される、
ことを特徴とする請求項10から1のいずれか1項に記載のブリキ。
【請求項14】
包装体の製造のための請求項10から1のいずれか1項に記載のブリキの利用。
【請求項15】
食品若しくは飲料品の缶、化学商品用の包装体、エアゾール缶、またはそれらの包装体の一部の製造のための請求項10から1のいずれか1項に記載のブリキの利用。
【請求項16】
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法を実施する装置であって、
所定の搬送速度で搬送方向に連続的鋼帯(10)を連続的に搬送するための搬送装置(6)と、
前記搬送速度で通過する前記鋼帯(10)をスズ被膜でガルバニック被覆するためのスズ被覆装置(7)と、
前記スズ被膜の表面を電気化学的に酸化するように、前記スズ被膜で被覆された鋼帯(10)が前記搬送速度で誘導される水性クロムフリー電解液の電解液槽(8a)を備えた酸化装置(8)と、
前記鋼帯(10)の片面または両面の、前記酸化されたスズ被膜の表面に、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)を含む群から選択されるポリマー材料によって、ポリマー被膜を被覆するためのプラスチック被覆装置(9)と、
を含んでいる、
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー被膜で被覆されたブリキ、および、その製造方法、並びに、その方法を実践するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリキは、薄い冷間圧延された鋼板であり、その表面はスズで被覆されている。鋼板へのスズ被覆の適用は、一般的には電解的に実行される。ブリキは、主として包装体の製造、特に人が消費する食品およびペットフードの缶、化学技術的商品の包装体、エアゾール缶、並びに飲料缶の製造に使用され、そのような包装体の一部、例えば密閉部、ラッシングベルト(固縛ベルト)、バルブプレート、缶蓋、および蓋リングの製造に利用される。
【0003】
ブリキは、高い耐食性および酸に対する安定性、並びに良好な加工性を特徴とする。特定の利用形態、例えば、人による消費用の食料品および飲料品の缶のような包装体の製造のために、スズ被膜によって提供される、腐食からの防護に加えて、追加の保護を保証するように、ブリキ表面にはラッカーあるいはポリマー被膜も提供される。この目的で、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリプロピレン(PP)製のプラスチック面がブリキに提供される。膜(被膜)が被覆されたブリキは、特に、バルブプレート、エアゾール缶の底部、缶の引剥蓋、および深絞り加工された容器、並びに真空密閉体の製造に適している。
【0004】
しかしながら、PET被膜が被覆されたブリキの加工時に、PET被膜内には応力亀裂が形成され、侵襲性の、特に酸を含有した商品との接触によって下側のブリキのスズ被膜に対する侵食現象が発生する。また、ブリキ表面での加工性を向上させるために塗布される潤滑剤のエマルジョンもPET内の亀裂開始に関与し、PETの被膜に形成された亀裂内に侵入し、ブリキ表面を侵食する。これは接着性の喪失を導き、ブリキ表面からのPET被膜の剥離に導く可能性がある。
【0005】
公開DE4009839A1、DE3436412C2およびEP664209A1から、ポリエステル樹脂膜、特にポリエチレンテレフタレート(PET)製の膜が被覆されたブリキ鋼板は知られている。ポリエステル樹脂膜でのブリキ表面の被覆は、ポリエステル膜、特にPET膜をブリキ表面に積層することで実行される。ブリキ表面でのポリエステル樹脂膜の十分な接着を確実にするため、ポリエステル樹脂膜上に積層する前にクロム含有接剤着層がブリキ表面に被覆される。それは、例えば、水和クロム酸化物の単層または水和クロム酸化物の上層と金属クロム層との二重層によって形成される。ブリキ表面とポリエステル樹脂膜との間のこの接着剤層の存在がなければ、ポリエステル樹脂膜、特にPET膜はブリキ表面から剥離するであろう。特に、包装体の製造方法を実践する加工時あるいは包装体の殺菌工程または包装容器に高温商品を詰めるときに剥離するであろう。しかし、クロム含有接着剤層が利用されるクロム包装体は、毒性であり、環境には危険である。
【0006】
ブリキの代替材料として、電解的にクロム被覆(メッキ)された鋼板が従来から知られている(電解クロム被覆鋼、ECCS)。この“スズ無し鋼(TFS)”とも呼ばれる材料はクロムと酸化クロムの被膜が電解的に被覆された冷間圧延鋼板として知られている。この材料の表面はポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンのようなポリマー材料のための良好な接着性を有しており、例えば、追加の腐食防護を提供するようにポリマー膜を積層することで、このポリマーが被覆できる。ECCSまたはTFSのクロム表面でのポリマー被膜の接着は、例えば、包装容器の製造時および消毒時等のさらに強力な変形に耐える。従って、ポリマー被覆されたECCS鋼板が、特に、例えば、エアゾール缶のバルブプレートの製造時のような鋼板の強力な変形が必要とされる容器の製造方法の実践において使用される。そこでは成型加工に先立ってECCSの有機剤による被覆が実行される。そうしなければ工具の強力な磨耗と破断が発生するからである。
【0007】
例えばEP848664B1から、ポリエチレンテレフタレート製の膜が積層された腐食防護鋼帯(鋼板、ECCSまたはTFS)に対するクロム被覆は知られている。しかし、クロム被膜で腐食から保護されているこのような鋼板もまた、製造工程で使用されるクロム化合物、特に精錬槽の液体クロム酸(クロムVI)の毒性の問題を抱えることが指摘されている。
【0008】
WO97/03823−Aから、片面または両面に透明なポリマー膜が被覆されている、例えば電解的に被覆されたスズ層または酸化クロム層である金属腐食防護層を有した耐食性鋼板が知られている。このポリマー膜は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ポリビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)で成る。
【0009】
接着促進手段、特に接着剤層は、鋼板の金属腐食防護層と積層されたポリマー膜との間に提供される。耐腐食性鋼板の製造のため、金属腐食防護層がガルバニック被覆され、不動態化された0.05mmから0.5mmの厚みの鋼板が使用され、約160℃の温度に加熱される。このポリマー膜は、加熱された鋼板上に、回転ローラによって積層される。積層されたポリマー膜の厚みは、5μmから100μmである。よってポリマー膜は、好適には、片面にポリマー膜のポリマー材料よりも低い融点を有した接着剤層を有する。ポリマー膜は、接着剤層と共に鋼板の金属腐食防護層の表面に向かって配向されて積層されている。
【0010】
鋼板の金属腐食防護層にポリマー膜を積層するこの方法では、ポリマー膜を鋼板の腐食防護層の表面に積層するために、接着剤層を有した特殊ポリマー膜が使用される。このような接着剤層を有したポリマー膜は製造コストが非常に高い。さらに、接着剤層を有したそのようなポリマー膜の取り扱いは面倒であり、積層工程中に、方法パラメータ、特にポリマー膜と接着剤層の融点によって決定される温度は、特定の制限値内に維持されなければならない。特に、スズ被覆された鋼板では、鋼板のスズ被覆面でのポリマー膜の充分に良好な接着が保証されなければならないなら、接着剤層は必須である。一方、ポリマー膜は、ECCSまたはTFSのクロム面には良好に接着するが、鋼板の被覆に使用されるクロム含有物質のために、ECCSの製造は、毒性で環境的に有害な廃棄物を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】DE4009839A1
【特許文献2】DE3436412C2
【特許文献3】EP664209A1
【特許文献4】EP848664B1
【特許文献5】WO97/03823−A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって本発明の目的は、高耐食性である鋼板の製造のためのクロムを利用しない方法を可能な限り完全に開示することである。この方法で製造される高耐食性である鋼板は、包装体の製造のために特に適しており、製造プロセス時および製造された包装体の殺菌工程時に強力な変形があっても、耐食性に関する劣化を発生させないものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これら目的は請求項1と請求項2の方法によって、および請求項10の特徴を備えたブリキによって達成される。これら方法の好適実施態様は従属請求項3から9で示されており、従属請求項11から13はブリキの好適実施態様である。さらに、これら方法を実行するための請求項16の特徴を備えた装置はそれらの目的の達成に貢献する。
【0014】
ポリマー被膜によるスズ被覆鋼板(ブリキ)のクロムを使用しない(クロムフリー)被覆のための本発明による方法では、スズ被覆鋼板のクロムフリースズ被膜表面は、まず、第1のステップで電気化学的に酸化され、第2のステップでポリマー被膜が酸化されたスズ表面に施される。スズ表面の電気化学的酸化によって、スズ表面のクロムフリー不動態化が確実に提供され、ブリキ表面での酸化スズの無制限な増加が防止される。ブリキ表面での酸化スズの増加に対抗するブリキの不動態化のための知られた方法と比較して、本発明による方法におけるブリキ表面の不動態化は、クロム含有物質を使用せず、特に有毒で環境的に有害である酸化クロムを使用せずに実行される。驚くべきことに、電気化学的酸化によるブリキ表面のクロムフリー不動態化は、ブリキ表面の酸化スズの無制限な増加を防止するのみならず、同時的にポリマーのための良好な接着基盤も形成する。このように本発明による方法の第2のステップでは、ブリキの酸化されたスズ表面上にポリマー被膜が問題なく提供でき、酸化されたスズ表面はポリマー被膜の非常に良好な接着を可能にする。酸化されたスズ表面とポリマー被膜との間の接着は、例えば、種々な深絞り加工による缶の製造のための方法において発生する強力な変形、または、バルブプレートの製造において発生する強力な変形にさえも耐える。酸化されたスズ表面とポリマー被膜との間の接着も、消毒中にポリマー被膜がブリキ表面から剥離することなく、容易に消毒工程に耐える。
【0015】
ポリマー被膜が被覆されたブリキの製造のための本発明の方法では、第1のステップで、スズ被膜がまず鋼板の片面または両面に電解的に堆積される。第2のステップでは、スズ被膜の表面の電気化学的な酸化が実行され、最後にポリマー被膜がスズ被膜の酸化された表面に提供される。好適には、スズ表面の電気化学的な酸化は、鋼板上へのスズ被膜の堆積工程終了後、直ちに、特に数秒内に実行される。また、スズ表面の電気化学的な酸化は、好適には追加の中間的ステップを介さずに行われ、特に、ブリキ表面の中間洗浄または熱処理なく行われる。
【0016】
特にスズ表面の電気化学的酸化は、水性クロムフリー電解液内でのスズ被覆鋼板の陽極分極(アノード分極)によって実施できる。例えば、スズ表面の電気化学的酸化はソーダ溶液(炭酸ナトリウム溶液)内へのブリキの浸漬処理によって実施できる。本質的に四価酸化スズ(SnO)から成る薄い酸化スズ層が(クロムフリー)スズ表面上に形成される。酸素含有雰囲気内でのブリキの保存中にブリキ表面に形成される二価酸化スズ(SnO)とは異なり、この四価酸化スズはさらに不活性であり、酸素との接触でブリキ表面の(二価)酸化スズの無制限な増加を防止する。ブリキ表面の電気化学的な酸化中に形成される、本質的に四価酸化スズから成る酸化物層の厚みは、好適にはnm範囲であり、好適には100nmよりも薄い。ブリキ表面でのこの不動態化酸化スズ層の形成で、電荷密度は好適にはスズ表面に提供され、電気化学酸化ステップではせいぜい40C/mである。
【0017】
ブリキ被膜表面の電気化学的酸化処理後に、それにはポリマー被膜が提供され、そのポリマー被膜は好適には10μmから100μmの範囲の厚みを有し、好適には酸化されたスズ表面へのポリマー膜の積層によって提供される。この処理には、ポリマー層と接着促進剤層との共押出プラスチック膜を使用することが特に好適である。これは鋼板の酸化されたスズ表面に積層され、プラスチック膜の接着促進剤層は酸化されたスズ表面に被覆され、積層ロールまたはローラを利用して熱効果により積層される。接着促進剤層は、ブリキの酸化されたスズ表面上のポリマー被膜の既に効果的な接着の接着効果をさらに増強する。
【0018】
スズ被覆鋼板が、ポリマー膜積層中に、スズ被膜の融点(232℃)以上の温度に加熱されるなら特に好適であることが証明されている。このようにブリキのスズ被膜が溶解され、少なくとも表面に近いブリキのスズ被膜の領域がポリマー膜積層中に溶融状態で存在する。このように鋼板の(溶融した)スズ表面と積層されたポリマー被膜との間の接着はさらに改善される。特に、融点が232℃よりも高いポリマー被膜のポリマー材料を使用したときでさえ、または融点が232℃を超える接着促進剤層との共押出プラスチック膜を使用したときでさえ、ポリマー被膜とブリキのスズ表面との充分な接着が保証される。しかし、ポリマー膜がスズ表面に積層されているとき、鋼板がスズの融点より高く、かつ、ポリマー被膜の形成に使用されるポリマー材料の融点または存在する接着促進剤の融点よりも高い温度にまで加熱されることが特に好適である。
【0019】
ブリキの酸化されたスズ表面に追加の接着促進剤層を用いずにポリマー被膜を施すことも可能である。本発明により製造されたブリキの加工処理中に、その後の処理工程で非常に強力な加工作業が実行される場合のみ、加工工程中にポリマー被膜の剥離を防止するように、ブリキの酸化されたスズ表面とポリマー被膜との間の接着促進剤層が必要になる。
【0020】
深絞り比が少なくともD/d=β=1.7(D=丸ブランク直径、d=カップ直径)である高い絞り比が必要とされる、本発明によって製造されるブリキの特殊な利用のためには、ポリマー被膜とブリキのスズ表面との間の接着促進剤層の利用が適していることが証明されている。グリコール修飾ポリエチレンテレフタレート(PETG)、グリコール修飾ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCTG)及び/又はイソフタル酸(IPA)またはそれらの混合物を含んだ中間層が、適した接着促進剤層であることが証明されている。
【0021】
ポリマー被膜のポリマー材料は好適には熱可塑性ポリエステルであり、特にはポリエチレンテレフタレート(PET)である。ポリエチレンテレフタレートの融点は、260℃から270℃の範囲である。酸化されたスズ表面へのポリマー被覆の適用で接着性を可能な限り良好となるようにするため、ポリマー被覆を適用するときには、スズ被覆鋼板をポリエチレンテレフタレートの融点以上の温度にまで加熱し、ポリマー被覆の適用中に、ブリキのスズ表面と、少なくともブリキに対面する表面に接近したポリマー被膜の領域との両方が溶融状態で存在し、緊密な材料接続を提供できるようにすることが有利である。ポリマー被覆が実行されるとき、スズ被覆鋼板が270℃から290℃の温度範囲、好適には280℃に保持されるなら特に好適であることが証明されている。
【0022】
例えば、ポリマー膜を積層ロールによって酸化されたスズ表面に積層するとき、加熱された積層ロールにポリマー膜が粘着するのを防止するため、ポリマー被膜の形成のために上面に粘着防止層を有した多層プラスチック膜を使用することが有利である。このような粘着防止層は、例えば、ポリマー膜の上面の酸化ケイ素層によって形成できる。
【0023】
本発明の方法は帯のスズ被覆装置において実行できる。そこでは鋼帯が搬送装置によって好適には200m/分以上の帯速度、特に好適には500m/分以上の帯速度でスズ被覆装置内を移動する。スズ表面の電気化学的酸化は酸化装置によって実行され、好適には、スズ被覆鋼帯を帯速度で水性電解液の電解槽内を移動させることで実行される。鋼帯は好適には陽極(アノード)として接続され、スズ表面を電気化学的(陽極的)に酸化させる。その後にポリマー被膜は、好適には積層ロールによって、片面または両面に酸化されたスズ表面にポリマー膜を積層する目的で、プラスチック被覆装置内を移動する鋼帯の酸化したスズ表面に適用される。スズ被覆装置と酸化装置は鋼帯の移動方向で見て前後に、好適には互いに非常に接近して配置され、スズ被覆後に200m/分以上の典型的な帯速度で非常に短時間、好適には数秒間で鋼帯のスズ被覆表面が電気化学的に酸化処理される。
【0024】
以上およびその他の本発明による方法および本発明のブリキの利点は、以下において添付図面を活用して説明する実施例から導き出されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、ポリマー被膜で被覆されたブリキの製造のための本発明による方法を実行するための装置の概略図である。
図2図2は、接着促進剤層が存在していない、ポリマー被膜を有した本発明によるブリキの概略図である。
図3図3は、接着促進剤層を備えたポリマー被膜を有した本発明によるブリキの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ポリマー被膜で被覆されたブリキの製造のための本発明による方法のための開始材料は、好適には、例えば20ppmから900ppm程度の低炭素を含有した帯状(鋼帯)の熱間圧延された非合金または低合金鋼板である。鋼材の合金成分は、国際規格ASTM A623−11(スズ圧伸製品のための標準仕様)の仕様基準を満たすものである。そこでは人が消費する食品の包装体の製造のための本発明によって製造されるブリキの使用が保証されている。基本的に、薄手または超薄手の鋼板の製造に適した組成を有する全てのタイプの鋼材が本発明の方法のために使用できる。熱間圧延鋼帯は、まず酸洗い装置(非図示)で酸洗い処理され、続いて洗浄され、乾燥され、さらに冷間圧延装置で冷間圧延される。鋼帯は1.0mm(薄手鋼板)未満の厚みに圧延され、好適には0.1mmから0.5mm(超薄手鋼板)に圧延される。冷間圧延後に鋼帯はまず連続焼鈍炉に通され、そこで鋼帯は鋼の再結晶焼鈍処理のために550℃から700℃に加熱される。この再結晶焼鈍処理によって冷間圧延された鋼帯の加工性が復活する。再結晶焼鈍処理後に、予定の処理目的に必要な加工特性を提供するために必要であれば、鋼帯は調質圧延装置で仕上げるか調質圧延処理することができる。調質圧延処理時に、必要とされる鋼帯のさらなる厚み減少も一定の条件下で達成できる。仕上げ処理、または調質圧延処理後に、アルカリ性電解質処理および後の洗浄処理を伴う酸洗い処理による鋼帯の洗浄が実行される。
【0027】
続いて、図1で概略的に図示するように、鋼帯10は、スズ被覆装置7を通過して送られる。鋼帯10はロール12から連続鋼帯として巻き戻され、搬送装置6を通って、好適には200m/分から750m/分の鋼帯速度で、スズ含有電解液のタンク7a内を移動し、陰極(カソード)としてスズ陽極間を導かれる。このように陽極のスズは溶解され、スズ被膜として鋼帯上に被覆される。スズはどのような厚みにでも被覆でき、必要であれば、鋼帯10の両面に被覆できる。被覆されたスズ層の厚みは通常は0.5g/mから12g/mである。しかし、さらに薄いか、さらに厚いスズ層を有した鋼帯の被膜も可能である。
【0028】
スズ被膜による鋼帯の被覆処理後、直ちに、特に追加の中間ステップを介さずに、スズ被覆された鋼帯10のスズ表面が酸化装置8において電気化学的に酸化される。この目的で、新しくスズ被覆された鋼帯10が、例えば酸性クロムフリーの水性電解液の電解槽に入れられ、陽極(アノード)として接続される。このように、スズ被覆鋼帯10の新鮮なスズ表面は陽極的に極性化される。これにより、スズ被覆鋼帯のスズ表面に、本質的に四価酸化スズ(SnO)から成る、nm程度の層厚を有する薄手の酸化層が形成される。この四価酸化スズは、酸素雰囲気中でスズ被覆鋼板の保存時に形成される二価酸化スズ(SnO)よりも活性度が非常に低い。新鮮にスズ被覆された表面の電気化学的酸化中に形成されるこの(本質的に四価で不活性である)酸化スズ層により、硫黄による腐食および反応に対するスズ被覆鋼帯の高い抵抗性が保証される。本質的に四価酸化スズ(SnO)から成る薄手酸化スズ層は、特に空気酸素とスズ被覆された表面との接触による追加の(二価)酸化スズの無制限な増加を防止する。
【0029】
スズ表面の電気化学的酸化処理が、例えば、ソーダ溶液内、すなわち、炭酸ナトリウム水溶液内でのスズ被覆鋼帯10の陽極酸化処理として実行される。この目的で、スズ被覆鋼帯は帯速度でソーダ溶液の電解槽8aを通って移動される。ソーダ溶液内の炭酸ナトリウム濃度は、好適には1質量%から10質量%、主に2質量%から8質量%、好適には3質量%から7質量%、特には4質量%から6質量%、最も好適には約5質量%である。
【0030】
スズ被膜の表面の電気化学的酸化のための酸化装置8は、好適には電解液で満たされた垂直タンクを備えた電解槽8aを含む。垂直タンク内の底部の付近には偏向ローラが存在し、それによってスズ被覆鋼帯10が偏向される。電位が垂直タンクのスズ被覆鋼帯10と反対電極(例えば鋼材陰極)との間に印加される。電気化学的酸化処理中に移される電荷量Qは、好適には40C/m未満である。電解槽内の電流密度は、好適には1.0A/dmから3A/dmの範囲である。酸化スズ層の密度は、好適には100nm未満であり、特に好適には、10nm程度である。
【0031】
陽極酸化時間は、電気化学的酸化槽(電解槽)内のスズ被覆鋼帯の滞在時間に対応する。これは、電解槽の長さ、または充填量、および陽極の長さと帯速度によって決定され、典型的な帯速度では、好適には0.1秒から1秒、特に0.1秒から0.7秒の間、好適には0.15秒から0.5秒、理想的には約0.2秒である。充填量を考慮して、陽極酸化時間を帯速度の関数として適した値に調整し、電気化学的に提供される酸化スズ層の好適な層厚を形成することが可能である。
【0032】
電解槽8a内の鋼帯10と反対電極との間の距離は、装置条件に関して調節される。その距離は、例えば3cmから15cm、好適には5cmから10cm、特に好適には約10cmである。電解液の温度は、好適には30℃から60℃であり、特には35℃から50℃である。
【0033】
電解槽の電流密度は、例えば1.0A/dmから3A/dm、好適には1.3A/dmから2.8A/dm、特に好適には2.4A/dmにセットされる。全体的電荷量は0.2Cから0.4Cの範囲で変動し、好適には、例えば0.3Cである。対応する電荷密度(酸化されたブリキ帯の領域に関する)は0.2C/dmから0.4C/dmの範囲内である。
【0034】
スズ被覆鋼帯10は、最大200m/分の帯速度で、スズ表面の電気化学的酸化後にプラスチック被覆装置9内に導かれる。スズ被覆装置での鋼帯のスズ被覆中に使用される約750m/分の高い帯速度では、鋼帯はプラスチック被覆装置を通過することはできないので、ポリマー被覆の方法ステップを、先行するスズ被覆鋼帯のコイルへの巻き上げ処理およびコイルの中間保存とは別々に実行することが有利である。これは問題なく可能である。なぜなら、スズ表面は、電気化学的酸化によって、(二価)酸化スズ層のさらなる無制限の増加に対して抵抗力があるからである。しかし、中間保存することなく、連続走行する鋼帯により、スズ被覆およびプラスチック被覆装置9におけるスズ表面の酸化処理後、直ちにポリマー被覆を適用することも可能である。そこではポリマー被膜がスズ被覆鋼帯の片面または両面に提供できる。この目的で、鋼帯はまず加熱装置11で加熱される。これは、例えば誘導加熱式として設計でき、あるいは赤外線加熱式またはマイクロ波加熱式として設計でき、少なくともスズの融点(232℃)以上の温度にまで加熱するように設計できる。好適には、鋼帯10の温度もポリマー被覆中にポリマー材料の融点以上である。好適には、ポリマー材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET、結晶化程度および重合化程度により融点が約235℃から260℃の間)またはポリプロピレン(PP、融点は約160℃)またはPE(融点は約130℃から145℃)である。
【0035】
スズ被覆鋼帯をスズの融点以上の温度にまで加熱する間、鋼材の鉄原子とスズ被膜のスズ原子とから成る薄くて非常に高密度である合金層が鋼帯表面とスズ層との間に形成される。この合金層は、鋼帯でのスズ被膜の非常に良好な接着を提供し、加えて非常の効果的な腐食防護を提供する。さらに、スズ被膜の完全溶解によって、スズ層の光沢面も提供される。
【0036】
ポリマー材料製の被膜16は加熱された鋼帯10に供給され、(適度に加熱された)積層ロール9aによってプラスチック被覆装置9でスズ被膜の片面または両面に押し付けられる。ポリマー膜16は、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル製の膜であり、特に二軸配向あるいは非晶性ポリエステル、あるいはポリプロピレン製の膜、またはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンおよびポリエチレンから成るポリマー積層物の膜でもよい。必要であれば、接着促進剤層を備えたポリマー膜が使用される。これを以下で説明する。加熱された鋼帯10の温度の結果、少なくとも表面に近いスズ被膜の領域が溶解し、(鋼帯の選択温度に応じて)恐らくは、少なくともスズ被膜鋼帯10に対面するポリマー膜16の領域も溶解し、積層ロール9aによってプレスされているスズ被膜の酸化された表面に接着するであろう。
【0037】
積層ロール9aによる鋼板10のスズ表面でのポリマー膜16の積層処理中に、恐らくは加熱されている積層ロールへのポリマー膜の固化接着を防止するため、好適には上面に粘着防止層を有した多層ポリマー膜16がポリマー被膜の形成のために使用される。このような粘着防止層は、例えば酸化ケイ素層によってポリマー膜の上面で形成できる。
【0038】
ポリマー膜を積層した後、スズ被覆鋼帯およびポリマー被覆鋼帯10は約20℃に冷却される。その後、オプションとして、ポリマー被膜は冷却後も完全に融解でき、その後に冷却装置(例えば水槽)15内でガラス転移点以下の温度に急冷処理される。このように、例えば、PETまたはPPをポリマー材料として使用するときには、ポリエチレンテレフタレートに非晶質構造が形成され、またはポリプロピレンに微小結晶構造が形成される。ポリマー被膜の溶解は、溶解装置14で使用されたポリマー材料の融点以上の温度への鋼帯10の別な加熱による特に適した手法で実行される。ポリマー被膜の溶解は、好適には、誘導コイル14a内での鋼帯10の誘導加熱により溶解装置14内で実行される。この処理後の加熱によってポリマー被膜内の内部応力が緩和によって解放され、スズ被膜とポリマー被膜との間の接着力が増強され、よって、これらの層の接着の安定性が提供される。例えば、ポリマー材料としてのPETの使用で緩和時間は0.5秒未満であり、PETの融点(約260℃)以上の温度へのポリマー被膜の短時間加熱で所望の緩和を得るのに充分である。200m/分を超える典型的な帯速度で、例えば、溶解装置内の鋼帯の移動方向に沿って1m未満の長さの誘導コイル14aが、この目的には十分であり、鋼帯10をこの部分で誘導的に加熱し、ポリマー被膜を溶解する。
【0039】
冷却装置15内での溶解したポリマー被膜のその後の急冷処理は、例えば空冷によって、または鋼帯を冷却液が入れられたタンク内に浸漬することによって可能である。最後に、被覆鋼帯10は送達装置6によってロール13上に巻き上げられる。
【0040】
図2は対応的に製造されたブリキを図示する。これは鋼板1、スズ被膜2、スズ酸化層3およびポリマー被膜4(例えばPET製)の層を含む。
【0041】
本発明により製造されるブリキは、スズ被膜およびポリマー被膜で成る金属腐食防護層により達成される高耐食性を特徴とする。鉄とスズの薄い合金層も耐食性に貢献するが、その層は、スズの融点を超える温度へのスズ被覆鋼帯の加熱中に、鋼帯面とスズ層との間に形成される。これら腐食防護層の組み合わせは特に有利である。なぜなら、このポリマー被膜で空気の影響によるスズ被膜からのスズイオンの放出が回避されるからである。ポリマー被覆が存在するため、本発明で製造されるブリキは、侵襲的な、特に酸含有商品に対して不活性でもあり、従って、そのような商品の包装体の製造に非常に適している。艶消しグレーECCS(TFS)と比較して、スズ被膜の完全溶解中に形成されるスズ被膜の光沢面のために、本発明のブリキは高度の光沢性を有する。これは有利である。特に、透明または不透明ポリマー被膜を使用するときに有利である。なぜならブリキは光学的に非常に魅力的な光沢面を有するからである。金属腐食防護層とポリマー被膜とを備えた鋼板の製造のための知られた方法と比較して、本発明の方法は、完全クロムフリーである物質を使用し、クロムを含有した物質を一切使用しないことも特徴とする。
【0042】
本発明によって製造される鋼帯は、接着促進剤層または追加の接着層を利用せずに既に達成されている酸化されたスズ表面によるスズ被膜へのポリマー被覆の非常に良好な接着性をも特徴とする。スズ被膜とポリマー被膜との間の接着促進剤層の追加的使用は、非常に高い変形率が現れる特殊な利用例のためにのみ必要である。
【0043】
例えば、缶の丸蓋または丸底の製造で現れ、絞り比β=D/d(D=丸ブランク直径、d=缶直径)がβ<1.2で定義できる小さな変形率では、接着促進剤層の利用は不要である。一方、さらに大きな変形率、例えば、β>1.7であるさらに大きな深絞り成形ステップ(例えばバルブプレートの製造)では、接着促進剤層を使用することが有利であり、また、β>2であるさらに大きな変形率(例えば、単一または複数の深絞り缶およびDWI缶で発生)では、接着促進剤層はスズ表面からのポリマー被膜の剥離を確実に防止するのに必要であろう。
【0044】
グリコール修飾ポリエチレンテレフタレート(PETG、50%未満のジオール成分がシクロヘキサンジメタノール製)、グリコール修飾ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCTG、50%を超えるジオール成分がシクロヘキサンジメタノール製)、及び/又はイソフタル酸(IPA)が適した接着促進剤であることが判明している。少量のPETGおよび5体積%から25体積%のIPAまたはPCTGを有した接着促進剤が特に好適であることが判明している。ブリキの酸化されたスズ表面とポリマー被膜との間に接着促進剤層を形成するには、ポリマー層(例えばPET製)と、上記の材料の1つで製造される接着促進剤層とを含んだ複層ポリマー膜が好適に使用される。そのようなポリマー膜は共押出成型膜として入手でき、接着促進剤層の厚みは3μmから6μmの範囲であり、ポリマー膜の総厚は10μmから40μmである。この多層ポリマー膜は、接着促進剤層へのポリマー被膜の適用のためにスズ表面に向かって配向されており、よって、酸化されたスズ表面上に積層される。図3は対応的に製造されたブリキを断面図で図示する。これは鋼板層1、スズ被膜2、酸化スズ層3、および接着促進剤層5とポリマー層4(例えば、PET製)を有した積層されたポリマー被膜を含む。
【0045】
本発明により製造されるブリキは、包装容器、特に2部缶(深絞り成形され、延伸されたDWI缶)およびエアゾール缶である、食品や技術的商品のための包装容器の製造に適している。また本体の溶接に先立って、溶接領域からポリマー被膜が除去されるなら、3部缶の缶本体を考察対象とすることができる。また、ラッシングベルト(固縛ベルト)、バルブプレート、缶蓋および蓋リングのごとき包装容器の部分は本発明によって製造される鋼帯から製造できる。加えて、本発明の方法は、建築分野のための鋼板の製造または家庭用品の製造のための鋼板の製造のような他の分野で使用する鋼板の製造のためにも利用できる。
【0046】
本発明は説明した実施例には限定されない。よって、例えば、本発明の範囲内で、スズ表面の電気化学的酸化後に鋼帯10をロール(コイル)に巻き上げ、その形態で次の方法ステップ(ポリマー被覆の適用)に供給することは可能である。これは図1の本発明の装置の概略図では考慮に入れられていない。
【0047】
ポリマー被覆は積層以外の被覆方法によってスズ被膜にも適用できる。よって、例えば、直接押出し法によるスズ表面の電気化学的酸化後にも、溶解ポリマー材料が、例えば特許DE19730893C1で説明されているように酸化されたスズ被膜に適用できる。
【0048】
ポリマー被覆の適用において、異なるポリマー材料の組み合わせも可能である。よって、例えば、PET製のポリマー被膜がスズ被覆された鋼板の上面に適用でき、PP製のポリマー被膜を鋼板の下面に適用できる。ポリマー被膜(PPまたはPET)をラッカーと交換することもできる。
図1
図2
図3