(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記除振装置は、空気圧力または電磁力を利用して浮上する構造を備え、前記制御装置は、制御信号により、浮上と着座を任意に制御することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11,
図12は、従来技術の構成を示している。
図11において、ロボットは、床に設置されているので、ワークの着脱のために必要な距離が長くなり、大型ロボット90が必要となる。また、ロボットでワーク交換を自動化するためには、大型ロボット90との相対位置にずれが生じないように、旋盤加工機91には除振装置が搭載されない(脚部と一体のベース92が用いられる)。除振装置がないと、床振動の影響を受けるので、精密な加工が出来ない。
【0005】
図12において、精密旋盤加工機1の除振装置10は常時浮上状態で、床振動を除振している。大型ロボット90は床に設置されており、ワークの着脱を行なうが、ワークを取り付ける真空チャック面との相対位置が除振装置によりずれる。ずれ量を補正するため、ワークを取り付ける前にロボットに搭載したCCDカメラ93で撮像し、ロボットの制御装置内保存されている基準画像との比較から位置のずれ量を算出して、ロボットの位置にフィードバックする。このように、CCDカメラ93などのセンサを別途搭載する必要があり、そのセンサの情報をロボットの位置補正にフィードバックする装置及びソフトウェアも必要になる。
【0006】
一般的に、除振装置は床振動を伝えないことが目的であり、厳密に同じ姿勢を保つ必要がないので、床(静止系)から見て、工作機械または測定装置の姿勢(位置)は、常に同じにはならない。工作機械や測定装置自体は、多少姿勢(装置の傾き)が変化しても、十分な機械剛性があれば、精度的な影響は受けないので、工作機械や測定装置単体の使用においては問題ない。
【0007】
一方、自動化のためにロボットと組み合わせて使用する場合を考えると、床に固定されたロボットから見た機上の座標は、除振装置が介在することにより、ずれることになる。したがって、ロボットが機上の工具やワークの着脱を行なう場合、この位置ずれを補正する必要がある。
【0008】
位置ずれの補正自体は、別途のセンサ(カメラなど)を搭載し、位置ずれ量を計測することで、ロボットのハンド位置を補正することで可能である。しかし、この方法では、別途のセンサや、ずれ量をロボットにフィードバックする装置またはソフトウェアが必要になる。
【0009】
他の解決方法として、ロボットを機上(除振装置より上)に搭載することで、除振装置の位置ずれの影響を受けなくすることが可能である。この場合は、センサなどの装置の追加が不要となる。また、機上の方がロボットからの工具、ワークへの距離が短くなるので、より小型のロボットを採用することができ、設置面積の削減、コストの低減に寄与する。
【0010】
床に固定されたロボットを高速で動作させても、その反動は床に加わるだけで、工作機械や測定装置の精度への影響はほぼない。しかし、背景技術で説明したように機上にロボットを搭載した場合、ロボットが高速動作をすると、その反動が工作機械または測定装置に直接伝わる。特に、精密な工作機械や測定装置は除振装置で浮上しているので、大きな反動が加わると、大きく揺れることになる。精密な工作機械や測定装置は、大きな外乱を想定していないので、大きく揺らされるとサーボモータで位置を保持できずにアラームとなる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、ベース上に少なくとも直線軸または回転軸及びロボットを搭載する位置決め装置において、ロボットの動作状態が前記直線軸または前記回転軸の動作に影響しない位置決め装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る発明は、ベース上に少なくとも一つの直線軸または回転軸及びロボットを搭載する位置決め装置において、前記ベースを着座及び浮上することが可能な除振装置と、前記ロボットの動作状態に応じて、前記除振装置の浮上と着座を制御する制御装置と、を有
し、前記制御装置は、少なくとも一つのプログラムで区切られる連続したロボットの動作における指令速度の最大値を、予め設定した閾値と比較することで、前記連続したロボットの動作の最中は、浮上または着座の状態を前記除振装置が維持するように制御することを特徴とす
る位置決め装置である。
【0013】
上記位置決め装置の効果は次のとおりである。
ロボットが床に設置されていると、除振装置による姿勢変化がロボットと位置決め装置の各軸間の位置ずれの原因となるが、ロボットがベース上に搭載されていることで、除振装置による姿勢変化は、ロボットと各軸間の相対位置に影響しない
。
【0014】
ロボットが低速動作または停止しているときには、除振装置を浮上させ、床振動がベース上の直線軸または回転軸に伝わらないようにすることで、高精度な位置決めを行なう。ロボットが高速動作しているときは、除振装置に支持されたベースが反動で揺らされることがないように、除振装置を着座させる。ロボットによる自動化で加工や計測のサイクルタイムを上げるためには、工具やワークを着脱するロボットを最高速度で動作させる必要がある。このとき、加工や計測は完了しているので、除振装置を着座させても精度的な影響は生じない。したがって本願によれば、ロボットによる工具、ワーク交換のサイクルタイム短縮と除振装置による加工・計測の高精度化を両立できる。
【0015】
そして、ロボットの動作速度は、動作プログラムの中で常時一定ではないので、単純に閾値との大小を比較して除振装置の浮上/着座を制御すると、頻繁に浮上/着座の切り替えが起きる。浮上/着座を瞬間的に切り替えるとそれ自体がベースに大きな衝撃を加えることになるので、浮上/着座は衝撃が発生しない程度の時間(数秒)が必要になる。この間ロボットの動作を待機するとロボットのサイクルタイムが長くなるので、少なくとも一つの動作プログラムの中では、その中の最大速度を閾値と比較して、プログラム実行前に着座か浮上の状態にし、プログラム実行中はその状態を維持する。これにより、浮上/着座の切り替えでロボットが待機するのは、プログラム実行前のみとなる。
なお、厳密には速度の最大値というよりも、ハンド(ツール座標系)の加速が最大になるときにベースに加わる反動も最大になると考えられ、ロボットの姿勢も影響する。しかし、プログラム上では速度を指定するのが一般的なので、速度の大小を比較する。
【0016】
請求項
2に係る発明は、前記除振装置は、空気圧力または電磁力を利用して浮上する構造を備え、前記制御装置は、制御信号により、浮上と着座を任意に制御することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置である。
【0017】
上記位置決め装置の効果は以下のとおりである。
除振装置の浮上機構としては、機械的なバネ、永久磁石同士の反発も考えられるが、これらの構造で浮上または着座させるためには、別途アクチュエータを搭載して、固定(着座)させる構造が必要になる。一方、空気圧力や電磁力(電磁石+永久磁石の反発)を利用した除振装置は、供給エアのON/OFF、電源のON/OFFで容易に浮上/着座が可能となる。
【0018】
請求項
3に記載の発明は、前記制御装置または、前記ロボットを制御する制御装置は、プログラムで指定したタイミングで制御信号を出力する機能を有し、該制御信号により前記除振装置の浮上または着座を制御することを特徴とする請求項1
または2に記載の位置決め装置である。
【0019】
上記位置決め装置の効果は以下のとおりである。
ロボットを利用した自動化システムでは、同じ動作のプログラムを繰り返すだけなので、どのプログラムで除振装置を浮上または着座すべきかは、請求項3のように速度から判断するまでもなく、プログラムの目的から判断が付く。したがって、ユーザは除振装置の浮上/着座を制御する制御信号の命令文を予めプログラムに組み込むことが出来る。例えば、工作機械や測定装置上のワークや工具の交換をロボットで行なうプログラムは、先ず除振装置に着座する制御信号を送り、その後ロボットを最高速で動作させて、交換動作を行なう。次に、加工や計測を開始する前に除振装置を浮上させ、加工中、計測中の間に、次のワークや工具をロボットが準備するプログラムは、低速で動作させる。
【0020】
工作機械や測定装置にロボットを搭載したシステムでは、一般的に、衝突回避やユーザの安全確保する必要があるため、動作状態の情報をリアルタイムで通信して相互に相手の動作状態を監視できる。したがって、工作機械や測定装置のプログラムの方に除振装置の制御命令を組み込んでも良いし、ロボットのプログラムの方に除振装置の制御命令を組み込んでも良いし、その両方でも良い。
【0021】
また、ロボットの動作に対して除振装置の浮上/着座を切り替えるだけでなく、工作機械や測定装置の動作に対して除振装置の浮上/着座を切り替えても良い。例えば、工作機械や測定装置の各軸を高速動作させる場合にもロボットと同様に大きな反動が生じるので、その場合には除振装置を着座し、精密な動作のときのみ浮上させるといった使い方が出来る。このようにすることで、例えば工作機械であれば、高速送りを必要とする粗加工時は除振装置を着座させ、加減速の反動で生じる揺動を防ぎ、仕上げ加工では除振装置を浮上させて、低速の送りで高精度な仕上げ加工を行なう、という使い方が出来る。
【0022】
請求項
4に記載の発明は、前記除振装置が着座する際に、前記ベースの位置と姿勢が一意に決まる少なくとも一組の嵌合部材を備えたことを特徴とする請求項1から
3の何れか一つに記載の位置決め装置である。
上記位置決め装置の効果は以下のとおりである。
除振装置上のベースは、浮上していても着座していても水平方向の位置は再現しない。
例えば、2台の位置決め装置が隣り合わせに設置され、一方のベース上に搭載されるロボットで隣の位置決めベース上にワークを置く場合、それぞれのベースの位置が正確に再現しないと、ワークを置く位置がずれる。請求項記載の構造であれば、一旦それぞれの除振装置を着座させてベースの位置を
嵌合部材で一意に定めることで、ロボットと隣の位置決め装置との位置ずれがなくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、ベース上に少なくとも直線軸または回転軸及びロボットを搭載する位置決め装置において、ロボットの動作状態が前記直線軸または前記回転軸の動作に影響しない位置決め装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、各実施形態で同一または類似の構成要素については同じ符号を用いて説明する。
本発明の概略を説明する。エアダンパやマグネットダンパは、エアのON/OFF、電磁石のON/OFFでダンパの浮上/着座を任意に行なうことができる。ロボットを高速に動作させる場合は、事前に除振装置を着座させ、ロボットが静止または低速で動作する場合は、除振装置を事前に浮上させることで、ロボットの動作による揺れを最小限に抑えることが出来る。ロボットが高速で動作するのは、工具交換やワーク交換時であり、加工や計測を行っていないので、除振装置が着座することによる床振動の影響は現れない。高い位置決め精度が必要となる加工中や計測中は除振装置が浮上して、床振動を除去するとともに、ロボットの動作を停止または低速にすることで、ロボットによる揺れや振動の影響を低減することが出来る。
【0026】
図1は位置決め装置が精密旋盤加工機である本発明の実施形態を示す図である。
図1は、請求項1の実施形態に対応する。本実施形態の位置決め装置は、ロボットを備えた精密旋盤加工機1である。X軸は、ベース11の面上に固定される案内部材13と案内部材13に案内されるX軸スライド12で構成される。Z軸は、ベース11の面上に固定される案内部材15と案内部材15に案内されるZ軸スライド14で構成される。
【0027】
X軸上の主軸16に真空チャック17を介してワーク18を取り付け、Z軸上の工具台20に工具19を取り付け、X、Zの2軸と主軸の回転により加工を行なう。精密な加工を行なうために、ベース11は4つの除振装置10で支持され、床振動をベース11に伝えない構造になっている。また、ワーク18を自動交換するためにベース11上にロボット21を搭載しており、ワーク18を把持可能なハンド22を装着している。
【0028】
真空チャック17によるワーク18のチャックは、チャック面と平行な方向に取り付けの自由度があるので、主軸16の回転中心とワーク18の中心が一致するように正確な位置に取り付ける必要がある。真空チャック17の替わりに三つ爪チャックを使用すると、ある程度自動的にワーク18の中心と主軸の中心を合わせることが出来るが、三つ爪の締め付けによるワーク18の変形を避けるために、高精度な加工では真空チャックが使用される。
【0029】
ロボット21をベース11上に搭載した場合は、ロボット21を床に設置した場合よりも、ロボット21がワーク18を交換するためのリーチが少なくて済む分、ロボット21のサイズが小さくなるので、コスト的なメリットがある。また、ロボット21が床面積を占有しない分、システム全体の設置面積を低減できるメリットがある。更に、除振装置10は位置(姿勢)の再現性がない場合が多く、ベース11上にロボット21が設置されることで、除振装置10の位置(姿勢)に関係なく、ロボット21とワーク18の相対座標は各軸を正確に位置決め制御すれば一意に決まる。真空チャック17を用いる場合は、ワーク18の中心と主軸16の中心を正確に一致させることが必要なので、位置の再現性の高いワーク着脱は重要である。
【0030】
図2は請求項1の実施形態において、除振装置を浮上させた場合(
図2(a))と着座させた場合(
図2(b))を示している。
図1で述べた構成において、除振装置10は床30の床振動をベースに伝えないという点では精密加工の精度向上に大きく貢献するが、除振装置10が浮上している状態では、ベース11に力が加わると容易に揺れるという大きな欠点がある。特にロボット21による高速動作は、大きな反動がベース11に加わるので、ベース11が大きく揺らされ、各軸の位置制御にとっては大きな外乱要素となる。この外乱が各軸を位置制御するモータの推力を超えれば、各軸は誤差過大等のアラーム状態となる。従来はこれが、除振装置10の上にロボット21を設置できない大きな理由となっていた。
【0031】
このようなロボット21を使用した自動加工システムにおいて、ロボット21が高速動作を必要とするのはサイクルタイムを短縮するためであるが、ロボット21は常時高速動作をしているわけではない。ロボット21が高速に動作することでサイクルタイムの短縮につながる工程は、ワーク18を自動交換するときであって、加工中にロボットが高速動作する必要はない。一方、除振装置が浮上する必要があるのは、加工中のみであって、ワーク自動交換中ではない。この点に着目すると、
図2(a),
図2(b)に示すように、加工中とワーク交換中を分けて考え、加工中は除振装置:浮上、ロボット:停止または低速動作、ワーク交換中は除振装置:着座、ロボット:高速動作、とすることが出来る。
【0032】
図1、
図2は精密旋盤加工機の実施形態であるが、精密マシニングセンタや精密研磨装置など、様々な精密加工機に適用可能である。また、ロボット21はワーク交換だけでなく、工具交換や機内洗浄など、機上で可能な様々な自動化用途に適用できる。本発明の構成によれば、ロボット21を使用した精密加工機の自動化において、ロボット21の設置による設置面積増を最小に抑え、ロボット21のサイズも小型に出来る上に、除振装置による高精度な加工とロボットによる高速なハンドリングの両立が実現できる。
【0033】
図3は精密三次元測定装置である本発明の実施形態を示す図である。
図3は請求項1の実施形態として、位置決め装置がロボットを備えた精密三次元測定装置の場合を示している。この場合も、
図1の精密旋盤加工機と同様にベース、ロボット、除振装置を備える構造であるが、ベース上のY軸にZ軸が搭載され、Z軸スライド先端に装着されたプローブをワークに接触させて形状を計測する。また、ベース上に回転テーブルを搭載し、真空チャックを介してワークを固定する。
【0034】
除振装置の浮上または着座の制御は
図2の説明と同様で、測定中とワーク交換中を分けて考え、測定中は除振装置:浮上、ロボット:停止または低速動作、ワーク交換中は除振装置:着座、ロボット:高速動作、とする。
【0035】
図3は、位置決め装置が精密三次元測定装置2の例を示している。
図3は接触式プローブ(プローブ25)を用いた精密三次元測定装置での実施形態であるが、CCDカメラ、静電容量変位計、レーザ計測器、白色干渉測定器といった非接触の測定装置など、様々な精密測定装置に適用可能である。また、ロボット21はワーク交換だけでなく、プローブ交換やエアブローなど、測定装置の機上で可能な様々な自動化用途に適用できる。本発明の構成によれば、ロボット21を使用した精密測定装置の自動化において、ロボット21による設置面積増を最小に抑え、ロボット21のサイズも小型に出来る上に、除振装置10による高精度な計測とロボット21による高速なハンドリングの両立が実現できる。
【0036】
図4は外部信号で浮上と着座の制御が可能なエアダンパの構造を示す図である。
図4(a)、
図4(b)は、請求項2の実施形態として、外部信号で浮上/着座が制御可能なエアダンパの構造(断面図)を示している。
【0037】
図4(a)は浮上状態を示しており、コンプレッサなどの高圧エア源50から供給された高圧エアは、外部信号で開閉可能な電磁弁49(開状態)、レベル調整装置52を介して、エアダンパ本体42内の第1室45に導かれる。第1室45の高圧エアは、オリフィス(細管)44を通って、第2室43に入る。第2室43はピストン40とベローズ41で密閉されているので、エア圧力でピストン40が持ち上げられ、浮上する。このとき、ピストン40が床30と非接触の状態になるので、床振動を除振できる。オリフィス44は第2室43に出入りするエアの流量を制限する役割があり、ピストン40が昇降する速度を制限するので、ピストン40が単なる空気バネで持ち上げられるのではなく、エアダンパとしての減衰機構の機能を果たす。
【0038】
ピストン40の上下方向の位置は、基準板53を介してレベル調整装置52に伝わり、ピストン位置が基準よりも低ければ、レベル調整装置52が第1室45へのエア給気量を増加し、ピストン位置が基準よりも高ければ、エア流入量を減らして、レベル調整排気配管51からの排気量を増やすことで、ピストン位置が基準位置になるように自動調整する。
【0039】
ただし、ピストン位置が厳密に基準位置を維持するようにレベル調整装置52で制御すると、頻繁に第1室へのエアの給気または排気量が変動するようになり、ピストン40が小刻みに上下するので、これ自体が振動となってしまう。
【0040】
したがって、一般的にはピストン40の基準位置からのずれに対し、ある程度の不感帯を設けて、レベル調整装置52が作動するようにしている。こうすることで、ピストン40への大きな負荷変動がない状態では、第1室45から絞り弁47を介して排気される流量と釣り合う流量をレベル調整装置52が供給した状態で安定的に浮上する。レベル調整装置52の役割は、ベース11(
図1参照)上の搭載重量が変わったときにも同じ浮上量を維持し、4つの除振装置10がそれぞれ独立して浮上量を調節することで、ベース11上の偏荷重に対してもある程度の水平レベルを維持するものである。
【0041】
上述のレベル調整装置52の不感帯が、
図1で説明した浮上した除振装置は位置再現性がないという原因となる。また、レベル調整装置52は、搭載重量の変動に対応するだけで、ロボット21の高速動作の反動を押さえ込む(制振)ような高速な応答性はない。
図4は、ピストン40の位置を積極的に制御しないのでパッシブダンパに分類されるが、別途アクチュエータを搭載してピストン40の位置を積極的に制御するタイプの除振装置10もある。しかし、アクチュエータの応答性や発生力には限界があるので、ロボット21の反動は押さえ込めない。
【0042】
一般的なエアダンパの用途では浮上と着座を切り替えて使用することがないので、浮上と着座を電気信号で切り替える装置は不要であるが、本発明に係る用途では、電磁弁49を取り付けることで、外部信号による浮上または着座の制御を行なう。
【0043】
図4(b)は電磁弁49を閉じて、エアダンパが着座した状態を示している。電磁弁49を閉じると、レベル調整装置52の動作に関係なく、第1室45へのエアの流入が止まり、絞り弁47を介して排気配管46からエアが流出するので、オリフィス44を介してつながっている第2室43のエア圧力も下がり、ピストン40が着座する。この状態は、ベース11上の搭載物の重量でピストン40が第2室43の底面に押し付けられているので、ピストン40は容易には動かない。特に、本発明に係る構成では
図1の説明のように小型のロボット21が搭載可能されるので、数100kgの重量があるベース11が、小型のロボット21の反動で動くことはない。
【0044】
図5(a),
図5(b)は、請求項2の実施形態として、外部信号で浮上または着座が制御可能なマグネットダンパの構造(断面図)を示している。マグネットダンパは、コイル63に電流を流したときに生じる磁力と永久磁石62との間の反発力を利用してピストン60を浮上させるものである。
図5(a)ではN極同士の反発力が生じる向きに電流を流している。磁力は距離が離れると急激に減少するので、ピストン60の上下位置はピストン60の荷重と反発力が同じになる位置で決まり、エアダンパのようにレベルセンサがなくても位置が保持される。しかし、エアダンパと同様に、厳密にピストン60の位置を制御しているわけでないので、浮上時の位置には再現性がなく、例えばベース11上の積載物の重量や重心の変化で容易に変わる。
【0045】
マグネットダンパは、原理としては永久磁石同士の反発力でも可能であるが、本発明の磁力を任意にON/OFFする目的では、
図5のコイル(電磁石)63を利用する方が容易である。外部信号より、コイル63に必要な電流を流せば、
図5(a)のようにピストン60は浮上し、電流を切れば
図5(b)のようにピストン60は着座する。
【0046】
図6は、請求項3の実施形態として
図1の構成で、ロボット21、位置決め装置(精密旋盤加工機)、除振装置(エアダンパ)10の動作をフローチャートで示したものである。ロボット21の動作プログラムを選択し、それを実行する前のタイミングで選択したプログラム内の最大速度を、予め設定しておいた速度の閾値と比較し、閾値を超えていればエアダンパを着座させ、閾値以下であればエアダンパを浮上させた状態でロボット21の動作プログラムを実行する。
【0047】
ロボット21は動作中の速度が一定ではないので、ロボット21の速度の大小のみを判断して、リアルタイムにエアダンパの浮上/着座を切り替えると、頻繁に浮上/着座が切り替わることになる。
図4の説明のように、エアダンパはピストン40の動作速度に制限があるので、瞬間的に浮上/着座の切り替えは出来ない。したがって、その間ロボット21を待機させるとサイクルタイムの低下につながる。
【0048】
そこで、1つのプログラムの中の指令速度の最大値に着目して、プログラム実行前に指令速度の最大値と閾値を比較する。このようにすることで、プログラム実行前に除振装置を浮上/着座が自動的に決まり、プログラムの実行中はその状態が維持されるので、頻繁な浮上/着座の切り替えが起きない。
【0049】
厳密には、ロボット21の指令速度が最大となるときに、ベース11に加わる反動が最大となるわけではなく、ロボット21の姿勢や加減速の設定にもよる。しかし、ロボット21のプログラム上は各動作に対して速度を指定する場合が多いので、プログラム中から最大速度を自動検出するのは容易である。尚、ロボットの速度指定は、軸ごとに指定されることもあるが、ハンド22の位置(ツール座標系)での速度指定が望ましい。
【0050】
以下、
図6のフローチャートを各ステップに従って説明する。
[ステップsa01]ロボットがワークを真空チャックに取り付けるプログラムAを選択する。
[ステップsa02]プログラムAの最大速度が閾値を超えているか否かを判断し、超えている場合(YES)にはステップsa03へ移行し、超えていない場合(NO)にはステップsa04へ移行する。
[ステップsa03]エアダンパ着座の制御信号を出力する。
[ステップsa04]エアダンパ浮上の制御信号を出力する。
[ステップsa05]プログラムAを実行する。
[ステップsa06]プログラムAの実行が完了したか否かを判断し、完了した場合(YES)にはステップsa07へ移行し、完了していない場合(NO)は完了するのを待つ。
【0051】
[ステップsa07]エアダンパ浮上の制御信号を出力する。
[ステップsa08]精密旋盤加工機の加工プログラムaを実行する。
[ステップsa09]プログラムaの実行が完了したか否かを判断し、完了した場合(YES)にはステップsa10へ移行し、完了していない場合(NO)は完了するのを待つ。
[ステップsa10]ロボットがワークを真空チャックから外すプログラムBを選択する。
【0052】
[ステップsa11]プログラムBの最大速度が閾値を超えているか否かを判断し、超えている場合(YES)にはステップsa12へ移行し、超えていない場合(NO)にはステップsa13へ移行する。
[ステップsa12]エアダンパ着座の制御信号を出力する。
[ステップsa13]エアダンパ浮上の制御信号を出力する。
[ステップsa14]プログラムBを実行する。
[ステップsa15]プログラムBが完了したか否かを判断し、完了した場合(YES)には処理を終了し、完了していない場合(NO)には完了を待って処理を終了する。
【0053】
図7は、請求項4の実施形態として
図1の構成で、ロボット21、位置決め装置(精密旋盤加工機)、除振装置(エアダンパ)10の動作をフローチャートで示したものである。尚、ロボット21は
図8(a)に示すダブルハンドと
図8(b)に示す洗浄ハンドを交換可能な機能を有するものとする。
【0054】
図6のフローチャートではロボット21のプログラムを選択した後に、ロボット21の最大指令速度と閾値を比較して、エアダンパの浮上/着座の制御信号を出力しているが、ロボット21を備える加工システムは、量産加工目的に使われるため、同じプログラムが繰り返し使用される。したがって、エアダンパが浮上しているべきか、着座しているべきかは、各プログラムの目的から明らかである場合が多い。つまり、プラグラムを作成する時点で、プログラムの中にエアダンパの浮上または着座の命令文を組み込んでおくことが可能である。
【0055】
図7のフローチャートのプログラムであれば、ロボットが高速動作するプログラムC(真空チャックにワーク取り付け)、プログラムD(粗加工の切りくずを洗い流すための機内洗浄)、プログラムF(真空チャックからワーク取り外し)、精度が不要である粗加工プログラムbは、ダンパが着座している状態で実行する。一方、仕上げ加工プログラムc、サイクルタイム短縮のために仕上げ加工中に次のワークを準備するプログラムEは、仕上げ加工の精度を確保するため、エアダンパを浮上させた状態で行なう。エアダンパの制御信号は、精密旋盤加工機の制御装置とロボットの制御装置のどちらから出してもよい。
【0056】
図2、
図3、
図6の説明ではロボット21の速度で除振装置10の浮上または着座を切り替えるとしているが、実際には位置決め装置の各軸を高速に駆動した場合にも、大きな反動が生じる。したがって、
図7のフローチャートでエアダンパを着座させて粗加工を行なっているのは、高速加工による加減速の反動で生じるベースの揺れを防ぐためである。また、粗加工では大量の切り屑が発生するので、粗加工時にロボット21で機内の切り屑を洗い流す動作をさせているが、除振装置が着座しているので、ロボット21の高速動作が可能である。
【0057】
以下、
図7のフローチャートを各ステップにしたがって説明する。
[ステップsb01]ロボットがワークを真空チャックに取り付けるプログラムCを実行する。
[ステップsb02]プログラムCの中のエアダンパ着座命令を実行する。
[ステップsb03]エアダンパ着座させる。
[ステップsb04]プログラムCが完了したか否かを判断し、完了した場合(YES)にはステップsb05へ移行し、完了していない場合(NO)には完了を待つ。
[ステップsb05]精密旋盤加工機の粗加工プログラムbを実行する。
[ステップsb06]ロボットが機内洗浄を行なうプログラムDを実行する。
【0058】
[ステップsb07]プログラムbの実行が完了したか否かを判断し、完了した場合(YES)にはステップsb08へ移行し、完了していない場合(NO)には完了を待つ。
[ステップsb08]プログラムDの実行を終了する。
[ステップsb09]精密旋盤加工機の仕上げ加工プログラムcを実行する。
[ステップsb10]プログラムcの中のエアダンパ浮上命令を実行する。
[ステップsb11]エアダンパを浮上させる。
【0059】
[ステップsb12]ロボットが次のワークを把持するプログラムEを実行する。
[ステップsb13]プログラムcが完了したか否かを判断し、完了した場合(YES)にはステップsb14へ移行し、完了していない場合(NO)には完了するのを待つ。
[ステップsb14]ロボットが真空チャックからワークを外し、次のワークと交換するプログラムFを実行する。
[ステップsb15]プログラムFの中のエアダンパ着座命令を実行する。
[ステップsb16]エアダンパを着座させる。
[ステップsb17]プログラムCの実行が完了したか否かを判断し、完了した場合(YES)には処理を終了し、完了していない場合(NO)には完了を待って処理を終了する。
【0060】
図8は
図7に示すフローチャートの加工でロボットが使用するハンドを示す図である。
図8(a)は2つのワークを同時に把持可能なダブルハンド70で、2つの3つ爪エアチャック71,72をそれぞれ独立して開閉することでワーク18を把持する。これにより、未加工のワーク18を把持したまま、真空チャック17から加工済みワークを外し、そのまま未加工ワークを真空チャック17に取り付けることが出来るので、ワーク交換のサイクルタイムの短縮につながる。
図8(b)は洗浄用ハンド75で、洗浄ノズル76から高圧の洗浄液を噴射することで、切り屑を洗い流す。それぞれのハンド(ダブルハンド70と洗浄用ハンド75)は根元部分にハンド交換機構73,77を搭載し、ロボット21の手首に着脱可能で、ロボット21によるハンドの自動交換が可能になっている。
【0061】
図9は凹凸
嵌合部材を示す図である。
図9は、請求項5の実施形態を示している。円錐形状の凹凸
嵌合部品80が3組あり、凹凸
嵌合部品80の
嵌合凸部品81はベース11側、
嵌合凹部品82は、床30側に固定してある。除振装置10の浮上時は円錐部に間隙があり、着座時には円錐の凹凸部が
嵌合して、3点支持の状態となるので、着座状態では、床30の面に対するベース11の位置は正確に再現する。
嵌合部材は、除振装置80内に内蔵しても良い。
【0062】
図10は、請求項5の実施形態を示しており、
図1の精密旋盤加工機の隣に、
図3の精密三次元測定装置3(ロボットは搭載しない)を設置して、精密旋盤加工機1で加工したワークを精密三次元測定装置3の回転テーブル(真空チャック)上にロボット21がハンドリングするシステムである。装置間でワークを搬送するとき、それぞれの除振装置10は着座しており、それぞれの装置に備わる
図9の
嵌合凹凸部品が
嵌合することで、それぞれのベース11の位置が正確に定まった状態となる。この状態であれば、精密旋盤加工機1上のロボットと、精密三次元測定装置3上の回転テーブル(真空チャック)の相対位置はずれることがないので、正確な位置にワークを置くことができる。