(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発泡模型の表面に塗型剤を塗布してなる鋳型を鋳砂の中に埋めた後に、前記鋳型内に金属の溶湯を注ぎ込み、前記発泡模型を消失させて前記溶湯と置換することで、直径が18mm以下で長さがl(mm)の穴を備えた鋳物を鋳造する消失模型鋳造方法において、
前記発泡模型に塗布する前記塗型剤の厚みをt(mm)、前記穴が形成される部分である前記発泡模型の穴部の直径をD(mm)、乾燥させた前記塗型剤の常温の抗折強度をσc(MPa)とすると、前記穴部の周辺部において前記溶湯の凝固が終了する凝固終了時間te(秒)が、前記塗型剤の熱分解が終了する時間t0(秒)以内のときに、以下の式を満たす前記塗型剤を用いることを特徴とする消失模型鋳造方法。
σc≧{t0/(t0−te)}×(1.5×10-4×l2/t2+160/D2)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
(消失模型鋳造方法)
本発明の実施形態による消失模型鋳造方法は、発泡模型の表面に塗型剤を塗布してなる鋳型を鋳砂(乾燥砂)の中に埋めた後に、鋳型内に金属の溶湯を注ぎ込み、発泡模型を消失させて溶湯と置換することで、直径が18mm以下で長さがl(mm)の穴を備えた鋳物を鋳造する方法である。この消失模型鋳造方法は、「鋳抜き」によって、例えば、直径が18mm以下で長さが100mm以上の細穴を備えた鋳物を鋳造するのに最も適した方法であると考えられる。
【0014】
消失模型鋳造方法は、金属(鋳鉄)を溶解して溶湯とする溶解工程と、発泡模型を成形する成形工程と、発泡模型の表面に塗型剤を塗布して鋳型とする塗布工程と、を有している。さらに、消失模型鋳造方法は、鋳型を鋳砂の中に埋めて鋳型の隅々にまで鋳砂を充填する造型工程と、鋳型内に溶湯(溶融金属)を注ぎ込むことで、発泡模型を溶かして溶湯と置換する鋳込工程と、鋳型内に注ぎ込んだ溶湯を冷却して鋳物にする冷却工程と、鋳物と鋳砂とを分離する分離工程と、を有している。
【0015】
溶湯にする金属としては、ねずみ鋳鉄(JIS−FC250)や球状黒鉛鋳鉄(JIS−FCD450)などを用いることができる。また、発泡模型としては、発泡スチロールなどの発泡樹脂を用いることができる。また、塗型剤としては、シリカ系骨材の塗型剤などを用いることができる。また、鋳砂としては、SiO
2を主成分とする「けい砂」や、ジルコン砂、クロマイト砂、合成セラミック砂などを用いることができる。なお、鋳砂に粘結剤や硬化剤を添加してもよい。
【0016】
なお、塗型剤の厚みは3mm以下が好ましい。塗型剤の厚みが3mm以上になると、塗型剤の塗布と乾燥とを3回以上繰り返す必要があり手間がかかる上に、厚みが不均一になりやすいからである。
【0017】
ここで、直径が18mm以下で長さがl(mm)の穴を備えた鋳物を鋳造するに際して、本実施形態では、発泡模型の穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間te(秒)が、塗型剤の熱分解が終了する時間t0(秒)以内のときに、以下の式(1)を満たす塗型剤を用いている。なお、発泡模型の穴部とは、鋳抜きによって穴が形成される部分である。
【0018】
σc≧{t0/(t0−te)}×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(1)
ここで、lは鋳物に形成する穴の長さ(mm)、tは発泡模型に塗布する塗型剤の厚み(mm)、Dは発泡模型の穴部の直径(mm)、σcは乾燥させた塗型剤の常温の抗折強度(曲げ強さ)(MPa)である。
【0019】
ここで、上面図である
図1Aおよび側面図である
図1Bに示すように、直方体の発泡模型2の中央部に、直径がD(mm)で長さがl(mm)の穴部3が上面から下面にかけて貫通して設けられた鋳型1を用いて、直径が18mm以下で長さがl(mm)の細穴を備えた鋳物を鋳造する場合について考える。なお、穴部3は、その穴端部3aにおいて発泡模型2の面との間に角が生じるように設けられている。即ち、穴端部3aにテーパなどの加工は施されていない。また、穴部3の直径Dは、穴部3の中心線を挟んだ穴部3の表面間の長さであり、穴部3の表面に塗布された塗型剤の表面間の長さではない。
【0020】
ここで、細穴の直径は、10mm以上であることが好ましい。また、細穴の直径は、18mm以下であることがより好ましい。直径10mmの細穴の表面に厚み3mmの塗型剤を塗布すると、細穴の内側の空間の内径が4mmとなり、細穴の内部に鋳砂を投入するのが困難になるからである。
【0021】
まず、基本的な鋳造条件にしたがって、発泡模型2の穴部3の表面に塗布された塗型剤に作用する負荷を予測する。ここで、細穴を鉛直方向に沿って設ける場合、穴部3の穴端部3aに塗布した塗型剤には以下の外力が作用する。
(1)溶湯の静圧(σp)
(2)溶湯の流れによる動圧(σm)
(3)塗型剤と溶湯との凝固時の熱収縮・膨張差(σthout)
(4)穴部3内の鋳砂と塗型剤との熱収縮・膨張差(σthin)
(5)発泡模型の燃焼で発生したガスの圧力(Pgout)(σgout)
(6)発泡模型の燃焼で発生したガスが穴部3の内部に溜まって生じる内圧(Pgin)(σgin)
【0022】
したがって、溶湯(溶融金属)の温度と同等の高温下における塗型剤の強度(熱間強度)をσbとすると、以下の式(2)が成立すれば、塗型剤の損傷による溶湯と鋳砂との「焼き付き」を生じさせることなく、「鋳抜き」することが可能となる。
【0023】
σb>σp+σm+σthout+σthin+σgout+σgin ・・・式(2)
【0025】
(溶湯の静圧)
鋳型1の側面図である
図2に示すように、発泡模型2を消失させて溶湯6と置換すると、発泡模型2の周囲に充填された鋳砂5は、溶湯6の静圧を受ける。
図2のA−A断面図である
図3に示すように、穴部3の表面に塗布された塗型剤4は、周方向に圧縮力を受ける。
【0026】
ここで、発泡模型2の周囲に充填された鋳砂5の量が十分である場合には、
図2の要部Bの拡大図である
図4に示すように、穴端部3aに塗布された塗型剤4において、溶湯6の静圧と鋳砂5からの反力とが釣り合う。よって、穴部3の軸方向の負荷は無視することができる。
【0027】
一方、穴部3の内部に充填された鋳砂5の量が不十分である場合には、穴端部3aに塗布された塗型剤4には、溶湯6の静圧(浮力)による曲げ応力が作用する。
【0028】
ここで、穴部3の直径をD(mm)、重力加速度をg、溶湯6の密度をρ
m(kg/mm
3)とすると、溶湯6の静圧による穴部3(半円)への外力w(N/mm)は、平均ヘッド差(溶湯の湯口と穴部3との鉛直方向高さの差)h(mm)として、次式(3)で求めることができる。なお、溶湯の湯口とは、穴部よりも上方において、発泡模型を囲む鋳砂に開口されて、溶湯が注ぎ込まれる箇所である。
【0029】
w=ρ
mgh×∫(D/2sinθ×θ)dθ
=ρ
mghD/2×∫sin
2θdθ
=ρ
mghD/2〔θ/2−sin2θ/4〕
=(π/4)ρ
mghD ・・・式(3)
【0030】
穴部3の表面に塗布された厚みt(mm)の塗型剤4に作用する応力は、穴部3の内部に充填された鋳砂5からの反力が無いと仮定して平板に近似すると、梁理論から次式(4)のσ
c(MPa)となる。
【0031】
σ
c≒M/I×t/2=(π/8)ρ
mghl
2/t
2 ・・・式(4)
ここで、Mは穴部3の両端に作用するモーメント、Iは半円筒の断面2次モーメントである。
M=(π/48)ρ
mghDl
2
I=Dt
3/12
【0032】
(溶湯の流れによる動圧)
溶湯の流れによる動圧は、溶湯の流れが静かであることを前提とすると、無視することができる。
【0033】
(塗型剤と溶湯との凝固時の熱収縮・膨張差)
線膨張率は、鋳砂より鋳鉄の方が大きい。よって、塗型剤と溶湯との凝固時の熱収縮・膨張差は、塗型剤の軸方向に圧縮力を与える。この圧縮力は、塗型剤が形成する円管が座屈により破壊される原因になりうるが、無視できるほど小さいと考えられる。また、塗型剤の周方向の応力も無視することができる。
【0034】
(穴部内の鋳砂と塗型剤との熱収縮・膨張差)
穴部3内の鋳砂や塗型剤は、溶湯よりも温度変化が小さい。よって、穴部3内の鋳砂と塗型剤との熱収縮・膨張差による影響は、塗型剤と溶湯との凝固時の熱収縮・膨張差よりも小さく、無視することができる。
【0035】
(発泡模型の燃焼で発生したガスの圧力)
鋳型1の側面図である
図5に示すように、発泡模型2を消失させて溶湯6と置換すると、発泡模型2の周囲に充填された鋳砂5は、発泡模型2の燃焼で発生したガスの圧力を受ける。
【0036】
図5のC−C断面図である
図6に示すように、穴部3の表面に塗布された塗型剤4は、周方向に圧縮力を受ける。しかし、
図5の要部Dの拡大図である
図7に示すように、穴部3の軸方向には、次式(5)の引張力を与える。
【0037】
σgout∝Pgout/D
2 ・・・式(5)
【0038】
なお、
図7に示すように、発泡模型2の周囲に充填された鋳砂5の量が十分である場合には、ガスの圧力と鋳砂5からの反力とが釣り合うので、穴部3の軸方向の負荷は無視することができる。
【0039】
(発泡模型の燃焼で発生したガスが穴部の内部に溜まって生じる内圧)
発泡模型2の燃焼で発生したガスが穴部3の内部に溜まって生じる内圧は、塗型剤に式(6)の周方向の応力、および、式(7)の軸方向の応力を生じさせる。
【0040】
σgin≒D×Pgin/t ・・・式(6)
σginz≒D×Pgin/(2t) ・・・式(7)
【0041】
ここで、穴部3の直径Dが小さいほど鋳抜きがし難いことから、式(6)、式(7)で表される外力の影響は無視できるほど小さいといえる。
【0042】
以上から、鋳砂の充填量が十分である場合には、塗型剤への負荷は小さい。しかし、実際には、鋳砂からの反力は十分ではなく、塗型剤には、溶湯の静圧による曲げ応力、および、発泡模型2の燃焼で発生したガスの圧力による軸方向の引張力が作用する。よって、塗型剤は、これらに耐えうる熱間強度を有する必要がある。したがって、鋳抜き条件として、式(2)は、式(4)と式(5)とを用いて、式(8)のように近似することができる。
【0043】
σb>σp+σgout=(π/8)ρ
mghl
2/t
2+kPgout/D
2+γ ・・・式(8)
ここで、kは比例定数、γ=σm+σthout+σthin+σgin≒0である。
【0044】
式(8)は、鋳砂の反力が無いときに成立する、もっとも厳しい条件である。そこで、鋳砂の反力も加味して各項を係数に置き換えると、式(9)のような、穴部3の直径Dと長さl、および、塗型剤の厚みtの関数とすることができる。
【0045】
σb>α・l
2/t
2+β/D
2 ・・・式(9)
【0046】
ここで、塗型剤の熱間強度を直接測定することは困難である。そこで、塗型剤の熱間強度σb(MPa)の代わりに、樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度σn(MPa)を用いる。樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度と、穴部の鋳抜き可能な直径(鋳抜き可能径)との関係を
図8に示す。すると、この関係から、式(9)は式(10)で表すことができる。
【0047】
σn≧−0.36+140/D
2 ・・・式(10)
【0048】
よって、上記の式(10)を満たす塗型剤を用いて、発泡模型に塗布する塗型剤の厚みを1mm以上とすることで、直径が18mm以下で長さが100mm以上の細穴を備えた鋳物を鋳造しても、塗型剤が損傷しないようにすることができる。
【0049】
(塗型剤の抗折強度)
ここで、上記の式(10)は、穴部の軸方向に直交する断面の短辺が100mmの鋳型を用いて求められている。そして、穴部の周辺部において溶湯の凝固が完了するまでに、穴部の塗型剤は焼結体になっている。よって、「焼き付き」を生じさせないためには、塗型剤の焼結体としての熱間強度が、浮力などの外力の合計を上回る必要がある。
【0050】
一方、鋳型において、穴部の軸方向に直交する断面の短辺(
図1Aの短辺T)が薄くなると、穴部の周辺部において溶湯の凝固が完了するまでに要する時間が短くなる。この場合、穴部の周辺部において溶湯の凝固が完了したときに、塗型剤を構成する樹脂の分解が完全には終了していない、つまり完全な焼結体になっていないことが予想される。
【0051】
後述するように、塗型剤を樹脂分解するまで加熱して焼結体にした後に常温に戻したものの抗折強度σnは、塗型剤をそのまま乾燥させた樹脂粘結体としての常温の抗折強度σcの約1/7以下に低下する。このことから、樹脂分解が完全に終了していない、即ち、完全な焼結体になっていない塗型剤の抗折強度は、完全に焼結体になった塗型剤の抗折強度σnよりも高いものと推定される。
【0052】
鋳造中の塗型剤の温度と塗型剤の強度との関係を
図9に示す。常温(RT)において塗型剤の抗折強度はσcであり、樹脂による骨材の結合力(樹脂粘結体としての強度)が塗型剤の強度を決めている。加熱により塗型剤の樹脂分解が開始されると、樹脂の熱分解の進行にともなって塗型剤の強度は低下していく。そして、樹脂分解が完全に終了すると、塗型剤の抗折強度は、焼結体にした後に常温(RT)に戻したものの抗折強度σnとなる。
【0053】
穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了するまでの時間が長い場合、
図9に示すように、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了するまでに塗型剤の樹脂分解が完全に終了して塗型剤が焼結体となる。一方、鋳造中の塗型剤の温度と塗型剤の強度との関係を示す
図10に示すように、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了するまでの時間が短い場合、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了した時点で塗型剤の樹脂分解は完全に終了していない、つまり完全な焼結体になっていないことが予想される。そして、塗型剤が完全な焼結体になっていないと、塗型剤には樹脂粘結体としての強度が残存し、その強度は焼結体になった塗型剤の抗折強度σnよりも高いものと推定される。
【0054】
したがって、塗型剤の熱分解が終了するまでに、穴部の周辺部の溶湯の凝固が終了するとき、言い換えれば、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間te(秒)が、塗型剤の熱分解が終了する時間t0(秒)以内のときに、塗型剤に樹脂粘結体としての強度が残存する。そして、完全な焼結体になっていない塗型剤の抗折強度は、焼結体になった塗型剤の抗折強度σnよりも高いと推定されるので、塗型剤に樹脂粘結体としての強度が残存している方が、塗型剤が損傷しにくく、「焼き付き」が生じにくいといえる。
【0055】
ここで、塗型剤に用いられている樹脂の熱分解の反応速度式は、次の式(11)で表せる。
kt=f(α) ・・・式(11)
ここで、kは反応速度定数、tは反応時間(秒)、αは分解率、f(α)は分解率αの関数である。
【0056】
すると、穴部の周辺部において溶湯の凝固が完了した時(t=te)の塗型剤の熱間強度σbは、次の式(12)で表せる。
σb=g(α)=g(f
-1(kte))=h(te) ・・・式(12)
ここで、g(α)は分解率αにおける熱間強度σbを決める関数である。
【0057】
h(te)は、g(f
-1)と表せるので、熱間強度σbは、凝固完了までの時間の関数となる。
【0058】
ここで、後述するように、塗型剤の熱分解が終了する時間t0は1600秒と近似できる。穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間te(秒)が、塗型剤の熱分解が終了する時間t0(秒)以内のときに、塗型剤に樹脂粘結体としての強度が残存しているといえるので、式(13)となる。
te≦t0≒1600(秒) ・・・式(13)
【0059】
穴部の軸方向に直交する断面の短辺が100mmの鋳型における試験結果(詳細は後述)から、式(9)のαとβとを求めると、以下の式(14)のようになる。
σb>1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2 ・・・式(14)
【0060】
塗型剤内の樹脂分解が終わっていないとき、つまり、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間teが、塗型剤の熱分解が終了する時間t0以内のときであれば、樹脂粘結体としての塗型剤の抗折強度σcを用いて、式(14)は、以下の式(15)のように近似することができる。
kσc≧1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2 ・・・式(15)
ここで、kは樹脂分解状況で変わる係数である。
【0061】
塗型剤の熱間強度は、樹脂の分解率が0%のときにσb=σcで、分解率が100%のときにσb=0(実際は焼結体としての強度は有する)である。式(12)を一次式と仮定すると、式(16)となる。
k=1−te/t0 ・・・式(16)
【0062】
式(16)を式(15)に代入すると、式(17)となる。この式(17)を満たす塗型剤を使用することで、「焼き付き」が生じないようにすることができる。
σc≧{t0/(t0−te)}×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(17)
【0063】
また、式(13)を式(17)に代入すると、次の式(18)となる。
σc≧{1600/(1600−te)}×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(18)
【0064】
なお、鋳型の形状は直方体に限定されず、三角柱や5角柱等の角柱状や円柱状であってもよい。
【0065】
また、鋳型の形状が直方体である場合、後述するように、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間teは、鋳型における穴部の軸方向に直交する断面の短辺T(
図1A参照)の関数で表わすことができる。鋳造に一般的な鋳砂を用いた場合、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間teは、式(19)で近似できる。
te=−1.03×10
-3T
2+16.5T ・・・式(19)
【0066】
式(17)に式(19)を代入すると、式(20)となる。
σc≧t0/(t0+1.03×10
-3T
2−16.5T)×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(20)
【0067】
また、式(18)に式(19)を代入すると、式(21)となる。
σc≧1600/(1600+1.03×10
-3T
2−16.5T)×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(21)
【0068】
(鋳抜き評価)
次に、穴部の軸方向に直交する断面の短辺Tの長さが異なる3体のブロック(鋳型)に対し、鋳抜きで形成する細穴の長さを100mmとした場合について、塗型剤、鋳砂、および、穴部3の直径をそれぞれ異ならせて、鋳抜きの可否を評価した。3体のブロックのサイズは、短辺T、長辺、高さの順にそれぞれ、100(mm)×200(mm)×100(mm)、50(mm)×200(mm)×100(mm)、25(mm)×200(mm)×100(mm)である。短辺Tが100mmのブロックの上面図を
図11Aに、側面図を
図11Bにそれぞれ示す。また、短辺Tが50mmのブロックの上面図を
図12Aに、側面図を
図12Bにそれぞれ示す。また、短辺Tが25mmのブロックの上面図を
図13Aに、側面図を
図13Bにそれぞれ示す。また、塗型剤の種類を表1に示す。また、鋳抜き可否の結果を表2に示す。なお、この評価は、同じ成分のねずみ鋳鉄(JIS−FC250)を用いて、同じ鋳造方法で行っている。
【0071】
評価の結果、同じ種類の塗型剤と鋳砂との組み合わせでも、ブロックの短辺Tが薄いほど鋳抜きがし易いことがわかる。この理由として、ブロックの短辺Tが薄くなり、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間teが短くなると、塗型剤を構成する樹脂の分解が完全には終了していない、つまり完全な焼結体になっていないことが予想される。
【0072】
また、表1から、塗型剤を樹脂分解するまで加熱して焼結体にした後に常温に戻したものの抗折強度σnは、塗型剤をそのまま乾燥させた樹脂粘結体としての常温の抗折強度σcの約1/7以下に低下することがわかる。このことから、樹脂分解が完全に終了していない、即ち、完全な焼結体になっていない塗型剤の抗折強度は、完全に焼結体になった塗型剤の抗折強度σnよりも高いものと推定される。
【0073】
鋳造ソフトJSCAST(クオリカ社)を用いて、ブロックの短辺Tを異ならせたときの直径が14mmの穴部の周辺の凝固時間を求めた。ブロックの斜視図を
図14に示す。ブロックの長辺および高さをそれぞれ100mm、200mmとし、ブロックの短辺Tを100mm、50mm、25mmと異ならせた。また、ブロックには、高さ方向の中央と、上段(上端面から50mmの位置)と、下段(下端面から50mmの位置)とにそれぞれ穴部を設けた。なお、溶湯はねずみ鋳鉄(JIS−FC250)と仮定し、その物性値を与えた。
【0074】
短辺Tが100mmのブロックにおける、穴部の周辺部における冷却曲線を
図15Aに示す。また、短辺Tが50mmのブロックにおける、穴部の周辺部における冷却曲線を
図15Bに示す。また、短辺Tが25mmのブロックにおける、穴部の周辺部における冷却曲線を
図15Cに示す。ここで、測定箇所である「穴中心」、「鋳物表層」、「鋳物2層目」は、
図14にそれぞれ示した箇所である。溶湯が凝固するときの凝固潜熱により、溶湯が完全に凝固するまでは溶湯の温度は緩やかに降下する。そして、溶湯が完全に凝固した後は溶湯の温度は速やかに降下する。よって、冷却曲線における変曲点を凝固完了時間と考えてよい。
【0075】
なお、
図14において、ブロックは高さ方向からの抜熱の影響も受ける。よって、ブロックの中央に設けられた穴部よりも、ブロックの上段(上端面から50mmの位置)およびブロックの下段(下端面から50mmの位置)にそれぞれ設けられた穴部の方が凝固速度は速い。
【0076】
図14における短辺Tが100mmのブロックに設けられた上下段の穴部、および、中央の穴部の凝固時間および鋳抜き可否の結果を表3に示す。
【0078】
ここで、短辺Tが100mmのブロックに使用された塗型剤は、式(10)を満足していない。しかし、表3に示す実験結果から、ブロックの上下段の穴部の周辺の凝固時間は1600秒未満であり、仕上がり状態が良好な細穴を鋳抜くことができることがわかる。これに対し、ブロックの中段の穴部の周辺の凝固時間は1600秒より長く、仕上がり状態が良好な細穴を鋳抜くことができないことがわかる。よって、式(10)の条件を満たさなくても、凝固速度の速い上下段では「鋳抜き」が可能であることがわかる。
【0079】
以上の実験結果を踏まえて、短辺Tと凝固終了時間teとの関係を
図16に示す。
図16から、凝固終了時間teが1600秒以上となるときに、式(10)の条件を満足する必要があることがわかる。このことから、凝固終了時間teは1600秒以内である必要があるので、塗型剤の熱分解が終了する時間t0は1600秒で近似できることがわかる。
【0080】
また、短辺Tが100mmのブロックの中央の穴部が、式(10)の成立限界(t0≒1600(秒))になる。そこで、表2に示す鋳抜き試験結果の代表例である、塗型剤Aの鋳抜き限界(鋳抜き不可となった直径8mm)、および、塗型剤Bの直径14mmの2条件を、それぞれ式(9)に代入して連立方程式を解きαとβとを求めると、式(14)となる。
σb>1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2 ・・・式(14)
【0081】
塗型剤内の樹脂分解が終わっていないとき、つまり、穴部の周辺の凝固終了時間teが、塗型剤の熱分解が終了する時間t0以内のときであれば、樹脂粘結体としての塗型剤の常温の抗折強度σcを用いて、式(17)が得られる。また、式(17)にt0≒1600(秒)を代入すると、式(18)が得られる。
【0082】
σc≧{t0/(t0−te)}×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(17)
σc≧{1600/(1600−te)}×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(18)
【0083】
よって、式(17)または式(18)を満たす塗型剤を用いることで、直径が18mm以下の細穴を備えた鋳物を鋳造しても、塗型剤が損傷しないようにすることができることがわかる。
【0084】
また、前述した数値解析結果を用いて、短辺Tとブロックの中央の穴部の周辺部の凝固終了時間teとの関係を求めた。短辺Tと凝固終了時間teとの関係を
図17に示す。計算条件として、鋳造に一般的な鋳砂を用いた場合、
図17から、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間teは、式(19)で近似できることがわかる。
te=−1.03×10
-3T
2+16.5T ・・・式(19)
【0085】
よって、式(19)を式(17)、式(18)にそれぞれ代入すると、式(20)および式(21)が得られる。
σc≧t0/(t0+1.03×10
-3T
2−16.5T)×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(20)
σc≧1600/(1600+1.03×10
-3T
2−16.5T)×(1.5×10
-4×l
2/t
2+160/D
2) ・・・式(21)
【0086】
よって、式(20)または式(21)を満たす塗型剤を用いることで、直径が18mm以下の細穴を備えた鋳物を鋳造しても、塗型剤が損傷しないようにすることができることがわかる。
【0087】
(実施例)
次に、ねずみ鋳鉄(JIS−FC250)を溶湯として用いて、50(mm)×100(mm)×200(mm)の直方体の発泡模型に、上面から下面にかけて貫通する、長さ100mmで直径14mmの穴部を配置した鋳型を用いて、細穴を備えた鋳物を鋳造した。
【0088】
式(21)にT=50(mm)、l=100(mm)、D=14(mm)を代入し、さらに表1の塗型剤Bを2度塗りした標準厚みt=0.9(mm)を代入すると、右辺は5.7となった。塗型剤Bの常温の抗折強度σcは4.4MPaよりも大きいが、5.7MPa以下の場合もあるため、鋳抜きできない可能性が高い。そこで、塗型剤Bを3度塗りして厚みtを1.4mmとすることで、式(21)を満足した。
【0089】
発泡模型に塗型剤Bを3度塗りして鋳造を行った結果、「焼き付き」を生じさせることなく、仕上がり状態が良好な細穴を鋳抜くことができた。
【0090】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る消失模型鋳造方法によると、直径が18mm以下で長さがl(mm)の穴を備えた鋳物を鋳造するに際して、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間te(秒)が、塗型剤の熱分解が終了する時間t0以内のときに、上記の式(17)を満たす塗型剤を用いる。ここで、塗型剤の高温強度を直接測定することは困難である。しかし、塗型剤を樹脂分解するまで加熱して焼結体にした後に常温に戻したものの抗折強度が、塗型剤をそのまま乾燥させた樹脂粘結体としての常温の抗折強度の約1/7以下に低下することから、樹脂分解が完全に終了していない、即ち、完全な焼結体になっていない塗型剤の抗折強度は、完全に焼結体になった塗型剤の抗折強度よりも高いものと推定される。樹脂粘結体としての塗型剤の強度は、常温においてσcであり、樹脂の熱分解の進行にともなって低下していき、分解率が100%のときに0となる。しかし、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間te(秒)が、塗型剤の熱分解が終了する時間t0(秒)以内であれば、塗型剤に樹脂粘結体としての強度が残存する。そこで、塗型剤に残存している樹脂粘結体としての強度を考慮すると、上記の式(17)が得られる。よって、上記の式(17)を満たす塗型剤を用いることで、直径が18mm以下の細穴を備えた鋳物を鋳造しても、塗型剤が損傷しないようにすることができる。これにより、鋳造時に焼き付きが生じないので、直径が18mm以下であって、仕上がり状態が良好な細穴を鋳抜くことができる。
【0091】
また、塗型剤の熱分解が終了する時間t0が1600秒であるので、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間te(秒)が1600秒以内のときに、塗型剤に樹脂粘結体としての強度が残存する。よって、このときに、上記の式(18)を満たす塗型剤を用いることで、塗型剤が損傷しないようにすることができる。
【0092】
また、穴部の周辺部において溶湯の凝固が終了する凝固終了時間teは、鋳型における穴部の軸方向に直交する断面の短辺Tの関数として上記の式(19)で表わされる。よって、この関係を満たすときに、上記の式(20)、式(21)を満たす塗型剤を用いることで、塗型剤が損傷しないようにすることができる。
【0093】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。