(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内輪と外輪との間に複数の転動体を介装し、前記内輪と外輪の開口側にリング状の磁石を取着した保持板を配設し、前記リング状の磁石によって形成される磁気回路に磁性流体を保持して前記複数の転動体をシールする磁性流体シール付き軸受であって、
前記保持板は、前記内輪及び外輪のいずれか一方に隙間が生じるように、前記内輪及び外輪の他方に位置決め固定され、
前記隙間、及び、前記保持板の固定側に生じた微小隙間に前記磁性流体がそれぞれ保持され、
前記保持板とリング状の磁石の取着領域には、前記隙間に充填した磁性流体が、前記隙間側から前記微小隙間側に移動可能となる流路が形成されていることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
前記保持板とリング状の磁石は磁力によって取着されるとともに、各対向面の少なくともいずれか一方を粗面化して前記流路を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性流体シール付き軸受。
前記保持板とリング状の磁石の各対向面の少なくともいずれか一方に、前記流路を生じさせるように、少なくとも溝、突起、スリットのいずれか1つ以上を形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁性流体シール付き軸受。
前記外輪又は内輪の転動体側内面には、前記リング状の磁石又は内側保持板を当て付ける当て付け部が形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の磁性流体シール付き軸受。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種の駆動力伝達機構に設置される回転軸は、軸受を介して回転自在に支持されている。この場合、軸受は、内輪と外輪との間に周方向に沿って複数の転動体(転がり部材)を収容した、いわゆるボールベアリング(玉軸受)を用いることが多く、これにより回転軸の回転性能の向上を図っている。
【0003】
上記のようなボールベアリング(以下、軸受と称する)は、様々な駆動装置における駆動力伝達機構の回転軸の支持手段として用いられるが、駆動装置によっては、軸受部分を通過して、内部に埃、水分等の異物の侵入を防止したいことがある。また、軸受そのものに異物が侵入すると、回転性能が劣化したり、異音が生じる等の問題が生じる。
【0004】
このような問題の対策として、例えば、特許文献1に開示されているように、軸受の内輪及び外輪との間に、磁石と保持板(極板)を配設して磁気回路を形成し、この磁気回路に磁性流体を保持して軸受内部を密閉するシール構造を備えた磁性流体シール付き軸受が知られている。この磁性流体シール付き軸受は、内輪との間で隙間が生じるように、外輪に磁石及び極板を固定するとともに、前記隙間に磁性流体を保持することで、軸受内部をシールするよう構成されている。
【0005】
上記したような磁性流体シール付き軸受では、磁性流体によって隙間部分をシールすることから、ゴム等のシール構造と比較して回転性能を低下させることなく、内部の密閉効果は高まるものの、磁石及び保持板の固定側(外輪側)では、十分なシール効果が得られない可能性がある。すなわち、磁石及び保持板を固定するに際しては、組み込み性を考慮して、外輪に対して磁石が取着された保持板を圧入し、外輪の内面に形成された段部に当て付けることで磁石及び保持板を組み込むが、磁石や保持板の寸法公差の影響等により、外輪と、磁石及び保持板との間に僅かな隙間が生じてしまい、この部分から水分等の異物が入り込む可能性がある。特に、使用環境が厳しい魚釣用リールの各種駆動軸を支持する軸受では、防水・防塵性能を確保した上で、更に高い回転性能(低トルクでフリー回転性能が良い)が要求されることから、上記した特許文献1に開示されている構成では十分な性能を発揮することができない。
【0006】
そこで、特許文献2には、磁石及び保持板の固定側(圧入側)にも磁性流体を充填することで、内部のシール性を高めた磁性流体シール付き軸受が開示されている。すなわち、保持板に取着される磁石の磁極を軸方向に向くように着磁することで内輪側及び外輪側に軸方向に対して対称となるような磁気回路を形成し、各磁気回路部分に磁性流体を保持することで、内輪側及び外輪側に磁性流体によるシール膜を形成して内部のシール性を高める構成が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明に係る磁性流体シール付き軸受の実施形態について説明する。
図1及び
図2は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、
図1は全体構成を示す図、
図2は
図1の要部拡大図である。
【0017】
本実施形態に係る磁性流体シール付き軸受(以下、軸受とも称する)1は、円筒状で回転軸100に回転可能に嵌合される内輪3aと、この内輪3aを囲繞して駆動装置の筐体(内部フレーム等)101に配設される円筒状の外輪3bと、これら内外輪3a,3b間に介装して配設される多数の転動体(転がり部材)3cとを備えている。転動体3cは、保持器(図示せず)によって保持されており、これにより内輪3aと外輪3bとを相対的に回転可能としている。
【0018】
前記内輪3a、外輪3b及び転動体3cは、本実施形態では、磁性を有する材料、例えばクロム系ステンレス(SUS440C)によって形成されており、前記保持器は、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)によって形成されている。なお、転動体3cについては、必ずしも磁性体である必要はない。例えばセラミックス系の材料で形成することにより、磁場の影響を受けない(転動体3cと内外輪3a,3bが吸引されない)ようにすることができ、低トルク化することが可能となる。
【0019】
また、本実施形態では、内輪3aの露出端面3eと外輪3bの露出端面3fとが同一平面(略同一であっても良い)上になるように構成されているが、外輪3bを内輪3aよりも軸方向に長く形成しても良い(外輪3bは内輪3aに対して軸方向に突出した伸長円筒部を備えていても良い)し、内輪3aを外輪3bよりも軸方向に長く形成しても良い。
【0020】
前記内輪3aと外輪3bの開口側には、磁性流体シール(磁気シール機構)20が設置されている。この磁性流体シール20は、本実施形態のように、軸受1の内部のシール性を高めるために、前記内輪3aと外輪3bの両側の開口に配設しておくことが好ましいが、一方の開口に設置する構成であっても良い。
【0021】
前記磁性流体シール20は、リング状に構成された磁石21と、磁石21の軸方向外側面に接するように配置され、内輪3a及び外輪3bのいずれか一方(本実施形態では外輪3b)を固定側とするリング状の外側極板(外側保持板)22と、磁石21の軸方向内側面に接して配置され、外側極板22と同じ側を固定側とするリング状の内側極板(内側保持板)23と、を備えており、前記磁石21は、外側極板22と内側極板23に挟持された状態となっている。また、磁性流体シール20は、前記磁石21によって形成される磁気回路に保持される磁性流体(外輪側磁性流体25a、内輪側磁性流体25b)を有しており、これらの構成部材により、前記転がり部材3c内に、埃、水分等が侵入しないようにシールする機能を有している。なお、磁石21及び両極板22,23の反固定側(本実施形態では内輪3a側)には、内輪3aの外周面との間で磁性流体を保持する隙間Gが形成されている(勿論、磁石21及び両極板22,23が内輪3a側に固定される場合には、隙間Gが外輪3b側に形成される)。
【0022】
前記磁石21としては、磁束密度が高く、磁力が強い永久磁石、例えば、焼結製法によって作製されるネオジム磁石を用いることができ、本実施形態では、予め軸方向(軸受1の軸芯方向X)に磁極(S極、N極)が向くように着磁されている。また、磁石21を挟持する前記外側極板22及び内側極板23は、磁石21と略同一の形状となっており、磁性を有する材料、例えばステンレス(SUS420)によって形成されている。
【0023】
前記外輪側磁性流体25a、内輪側磁性流体25bは、例えばFe
3O
4のような磁性微粒子を、ベースオイルに分散(界面活性剤を利用してベースオイル内に分散させている)させて構成されたものであり、粘性があって磁石を近づけると反応する特性を備えている。このため、磁性流体25a,25bは、磁石21と、磁性材料で構成される内輪3a、外輪3b及び極板22,23との間で形成される磁気回路M1,M2によって、所定の位置に安定して保持される。
【0024】
また、本実施形態では、前記外輪3bの内面に、磁石21に対して転動体3c側に当て付け部としての段差3dが形成されており、この段差3dにより、外輪3bは、開口側が薄肉領域、転動体側が厚肉領域となって、軸方向の外側の内外輪3a,3b間隔が内側よりも大きく形成されている。このような段差3dを形成することで、内側極板23を開口から圧入した際、内側極板23を段差3dに当て付けて正確に位置決めすることができるようになる。この場合、本実施形態の段差3dは、軸方向に対して垂直な面となるように形成されており、ユニット化された磁石21、極板22,23を開口側から挿入し、段差(垂直な面)3dに対して当て付ける(吸着される)ことで、正確な位置決め固定が容易に行えるようになる。
【0025】
なお、段差3dについては、本実施形態のように、軸方向Xに対して垂直な面に限定されるものではなく、例えば、階段状に形成されていたり、傾斜状(斜面)に形成されていても良い。また、位置決め、固定するためのこのような段差については、内輪3a側(内輪3aの転動体側内面)に形成しておいても良い。
【0026】
前記極板22,23は、その外径が外輪3bの内周面(薄肉領域の内周面)に対して僅かに大きく形成されており、これに取着された磁石21と共に、外輪3bの開口側に圧入されるようになっている(外輪側に極板22,23が固定される)。この場合、磁石21を挟持した極板22,23の軸受に対する組み付けは、圧入以外にもすきまばめ、磁力固定であっても良い。
【0027】
前記磁石21を取着した極板22,23は、外輪3bに対して圧入した際、内輪3aの外周面との間で、所定の前記隙間Gが生じる大きさに形成されている。前記磁石21は、その径が、極板22,23の径よりも小さくなるように形成されており、
図2に示すように、磁石21は、組み付け状態において、その径方向の端面が、各極板22,23の端面から突出しないように各極板に取着されている。この場合、磁石21は、組み付け状態において、外輪3bの内面との間に、0.01〜0.10mm程度の微小隙間G´が生じるように取着されていることが好ましく、このような微小隙間G´内においても外輪側磁性流体25aが保持されている。すなわち、このような微小隙間G´部分にも外輪側磁性流体25aを保持しておくことによって、内部の確実なシールが成されるとともに磁性流体の貯留機能が発揮され、外側極板22と外輪3bとの間に保持された外輪側磁性流体25aや、内側極板23と外輪3bとの間に保持された外輪側磁性流体25aが流出しても、ある程度、シール効果を維持することが可能となる。なお、このような微小隙間G´は、360°に亘って形成されていても良いし、周方向に部分的に形成された構成であっても良い。
【0028】
また、本実施形態では、前記磁石21と両極板22,23とは、互いに接着されておらず、磁力によって取着されているが、接着されていても良い。そして、極板22,23と磁石21とのこの取着領域には、隙間Gに充填した磁性流体が隙間G側から微小隙間G´側に移動可能となる流路90が形成されている。この流路90は、例えば、磁石21および両極板22,23の各対向面の少なくともいずれか一方を粗面化することで形成可能であり、磁石21と対向する極板22,23の少なくとも一方の対向面が粗面化されたもの、あるいは、極板22,23と対向する磁石21の両側の対向面のうちの少なくとも一方が粗面化されたものであってもよく、このような粗面化構成により、単に極板22,23と磁石21を接着しないで磁石によって取着するだけで、上記した流路を容易に形成することが可能となる。
【0029】
なお、ここでの粗面状態は、磁性流体が隙間G側から微小隙間G´側に移動可能であれば、その程度は特定の構造に限定されるものではなく、例えば、対向表面をバレル仕上げ、ショットブラスト処理等することによって形成することが可能である。また、このような粗面化処理(あるいは前記流路90)は、磁性流体が隙間G側から微小隙間G´側に移動可能であれば、対向面の全体にわたって施される必要はなく、対向面の一部分のみに施されていてもよい。
【0030】
上記したように、本実施形態では、軸方向に磁極が向くように着磁された磁石21を極板で挟持しており、前記磁石を挟持した極板22,23を外輪3bに圧入すると、内輪3a側、及び外輪3b側には、軸方向に対して対称となるような磁束(磁気回路M1,M2)が形成される。このため、上記した磁石21、極板22,23と内輪3aとの間の隙間G、及び、磁石21と外輪3bとの間の微小隙間G´には、それぞれ内輪側磁性流体25b、及び外輪側磁性流体25aを保持させることが可能となる。具体的には、磁性流体をスポイト、注射器、ディスペンサー等の注入器具によって前記隙間Gに充填すると、内輪側で形成されている磁気回路M1によって、隙間G(内輪3aと外側極板22との間、内輪3aと内側極板23との間、内輪3aと磁石21との間の内の1箇所以上)に内輪側磁性流体25bによるシールがなされる。
【0031】
また、このとき、隙間Gに注入された磁性流体は、磁石21と極板22,23との界面(対向面)に形成される前記流路90に発生している磁力を通じて、隙間G側から微小隙間G´側へと移動する。そして、このようにして移動された磁性流体は、外輪3bと磁石21との間の前記微小隙間G´に流れ込むと共に、寸法公差等の影響によって生じる外輪3bと外側極板22との間の微小隙間G´´および外輪3bと内側極板23との間の微小隙間G´´にも流れ込む。そして、外輪3bと内側極板23との間の微小隙間G´´に流れ込んだ磁性流体は、段差3dとこの段差3dに突き当てられる内側極板23との間にも微小隙間が存在している場合には、前記微小隙間G´´を通じて更に転動体3c側にも浸透して行き、段差3dのエッジ部分と内側極板23との境界部位に盛り上がるように保持されるようになり、シール効果が更に高められる。すなわち、外輪3bと外側極板22との間(微小隙間G´´)、外輪3bと内側極板23との間(微小隙間G´´)、さらには、外輪3bと磁石21との間(微小隙間G´)の内の1箇所以上で外輪側磁性流体25aによるシールがなされる。
【0032】
以上のように構成された磁性流体シール付き軸受1は、各種の駆動装置の回転軸(駆動軸)を支持する部分に配設される。上記したように、リング状の磁石21、及び、これを挟持するように保持する外側/内側極板22,23によって、内外輪のそれぞれに、内輪側磁性流体25b及び外輪側磁性流体25aが保持されているため、内輪3aの外側表面及び外輪3bの内側表面を伝わり易い水分やゴミ等の異物の内部への侵入が確実に防止され、これにより軸受1の回転性能を維持して回転軸100の滑らかな回転を長期に亘って維持することが可能となる。
【0033】
また、上記した磁性流体シール付き軸受1では、外側/内側極板22,23とリング状の磁石21との取着領域に、隙間Gに充填した磁性流体が隙間G側から微小隙間G´側に移動可能となる流路90が形成されているため、隙間Gに対して磁性流体を充填するだけで磁性流体は微小隙間G´(微小隙間G´´)側に移動することが可能となる。すなわち、磁性流体は、隙間Gに対して充填するだけで微小隙間G´,G´´側にも保持されるため、磁性流体充填作業を含む組立作業性の向上が図れる。
【0034】
また、本実施形態では、磁石21と転動体3cとの間に内側極板23が存在しているため、
図2に示すように、外側極板22から内側極板23へ向かって閉じる磁界による磁気回路M1,M2が形成されるようになり、転動体3cの部分には強い磁界が生じることはない。このため、転動体3cとこれに接触する内外輪3a,3bとの吸引力を抑制して低トルク化を図ることが可能となる。
【0035】
また、上記した磁性流体シール付き軸受1の構成部材については、耐食性を有するものであることが好ましい。これは、磁性流体25a,25bでシールされない領域に海水等が侵入して塩分が付着してしまうことがあり、これにより発錆する可能性があるためである。具体的には、構成部材である内輪3a、外輪3b及び外側極板22については、例えば、表面に電解クロム酸処理又は無電解ニッケルメッキ処理等の耐食性処理を施しておくことで、部材そのものの耐食性を向上することが可能となり、磁性流体シール20でシールされない露出領域から発錆することを効果的に防止することが可能となる。或いは、そのような表面処理をするのではなく、構成材料そのものを高耐食性のある素材(高耐食材)で構成しても良い。このような高耐食材としては、例えば、耐食性に優れたCrやMoを含有したステンレス系の材料で構成することができ、前記Crについては、12〜18%、前記Moについては、1〜3%程度含有することで、塩水に対して耐食性に優れた素材とすることが可能となる。なお、上記のような耐食性処理を行なったり、高耐食性材料で構成するのは、内輪3a、外輪3b及び外側極板22の内、1つ以上であればよい。
【0036】
図3は、隙間Gに充填した磁性流体を微小隙間G´側へ移動させるための前記流路90の変形例を示している。この変形例では、極板と対向する磁石21の片面または両面に溝50を形成することで流路としている。そのような溝50は、
図3(a)に示されるように、複数設けられてもよく、磁石21の内周面から外周面に至るまで、極板22,23に対する磁石21の対向面21a及び/又は21bの径方向寸法の全体にわたって形成されていてもよい。
図3(a)の例では、前記流路90を形成する複数の径方向溝50が磁石21の対向面21aに放射状の配置を成して設けられており、その形状は、
図3(b)に示すように、断面が略半円形に形成されている。或いは、
図3(c)に示すように、そのような溝50(流路90)は、磁石21の両側の対向面21a,21bに形成してもよく、その断面形状についても、略台形状にする等、適宜変形することが可能である。
【0037】
また、隙間Gに充填した磁性流体を微小隙間G´側へ移動させるための流路は、
図3に示すような溝である必要はなく、例えば、対向面に形成される突起(対向面に形成された凹凸同士の接触)、対向面同士の部分的な接着などであってもよい。また、これらの溝、突起、凹凸等は、それらが流路の全体を形成する必要はなく、例えば前述した粗面との組み合わせによって前記流路を生じさせるものでも良い。また、そのような溝、突起、凹凸等は、磁石21と対向する極板22,23の対向面に設けられていてもよい。すなわち、溝、突起、凹凸等を形成することによって、磁性流体の貯留量を多く確保することが可能となる。
【0038】
次に、本発明の磁性流体シール付き軸受の別の実施形態について説明する。
なお、以下の実施形態では、上記した実施形態と同様な部分については、同一の参照符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0039】
図4は、磁性流体シール付き軸受の第2の実施形態を示す。本実施形態の磁性流体シール20Aでは、内側極板23の径方向長さが外側極板22のそれよりも短く設定されている。このような構成によれば隙間G側に充填した磁性流体は、磁石21の転動体側表面に沿って移動可能となり、短い部分は極板が存在しないことから移動する際の抵抗がなくなり、隙間Gに充填した磁性流体が、外輪3b側の磁気回路M2による磁界の吸引力を受けて微小隙間G´,G´´側へ移動し易くなる。
【0040】
図5(a)は、隙間Gに充填した磁性流体を微小隙間G´,G´´側へ移動させるための流路90の変形例を示しており、
図5(b)は、
図5(a)の極板を有する磁性流体シール付き軸受の要部拡大断面図である。この変形例では、転動体3cに対向する内側の極板23に、内周面側から外周側に向けて、径方向に延びるスリット52を形成して流路90としている。このようなスリット52は、周方向に亘って複数個所形成してもよく、又、両極板22,23に形成してもよい。また、極板には、このようなスリットの他に、上記したような溝や凹凸等による流路を形成しておいてもよい。
【0041】
このような構成の極板22,23を有する磁性流体シール20Bでは、
図5(b)に示されるように、隙間Gに注入された磁性流体は、極板23のスリット52を通じて外輪側へ移動し易くなる。特に、磁石21と極板23との界面(対向面)に上記したような流路90を形成しておくことで、磁性流体は流路90を通じて微小隙間G´,G´´側へ移動し易くなる。なお、極板23と磁石21は、接着しないで磁力で取着されている。
【0042】
上記した磁性流体シール20,20A,20Bでは、磁石21は、その径が極板22,23の径よりも小さくなるように形成されているが、
図6に示すように、磁石21は、外側極板22及び内側極板23の各内輪側端部22c,23cと、各外輪側端部22b,23bに対して、それぞれ1mm以内の段差55が生じる大きさに形成されていることが好ましい。すなわち、磁石21の外輪側端部21cと外側極板22及び内側極板23の各外輪側端部22b,23bとの間の径方向寸法H2が1mm以内に設定されるとともに、磁石21の内輪側端部21dと外側極板22及び内側極板23の各内輪側端部22c,23cとの間の径方向寸法H1が1mm以内に設定されることが好ましい。
【0043】
これは、この寸法を超えて磁石が小径化すると、各磁気回路M1,M2の磁力が弱くなってしまい、隙間Gに充填された磁性流体が、磁気回路の吸引力によって、極板22,23の表面(磁石21と極板22,23との対向面)の流路を通じて微小隙間側へ移行しにくくなるからである。すなわち、磁石21の径を上記したように設定することで、隙間G側に充填された磁性流体は、微小隙間G´,G´´側へ移動し易くなる。
【0044】
図7は、磁性流体シール付き軸受の第3の実施形態を示す図である。図示のように、本実施形態の磁性流体シール20Cでは、第1の実施形態の構成から内側極板23が省かれて、外輪3bの段差3dに磁石21が突き当てられて位置決めされた構成となっている。
【0045】
このような構成でも、第1の実施形態と同様の作用効果が得られる。すなわち、磁性流体を隙間Gに充填すると、内輪3a側で形成されている磁気回路M1によって、隙間G(内輪3aと外側極板22との間、および、内輪3aと磁石21との間)に内輪側磁性流体25bによるシールがなされるとともに、隙間Gに注入された磁性流体は、磁石21と外側極板22との対向面に形成される流路90に発生している磁力を通じて微小隙間G´、G´´側へと移動する。そして、このようにして移動された磁性流体は、外輪3bと磁石21との間の前記微小隙間G´に流れ込むとともに、段差3dとこの段差3dに突き当てられる磁石21との間に微小隙間G´´が存在する場合には、この微小隙間G´´を通じて更に転動体3c側に浸透して行き、段差3dのエッジ部分と磁石21との境界部位に盛り上がるように保持されるようになり、内輪側および外輪側でシールが形成される。
【0046】
なお、このような構成では、内側極板23を省略したことにより、軸方向寸法を小型化することが可能となる。また、このような構成では、転動体3cの両側に磁性流体シール20Cを配設する場合、転動体3cを挟んで対向する各磁石は、異極が対向するように配設することが好ましい。すなわち、異極同士が対向することで、磁力線は転動体の内部を通過する傾向が強くなり、軸方向に対して直交する方向の磁力が弱まるようになる。このように軸方向に対して直交する方向の磁力が弱まると、転動体3cの、内輪側及び外輪側に対する吸引力が弱まることから、低トルク化を図ることが可能となる。
【0047】
以上のように構成される磁性流体シール付き軸受1は、様々な駆動装置の回転軸の支持部材として用いることができ、例えば、各種の魚釣用リール(両軸受けリール、スピニングリール、電動リールなど)に組み込まれた駆動力伝達機構の回転軸の支持部材として用いることが可能である。特に魚釣用リールは、水分、塩分、砂、埃など、外部環境が厳しい状況下で使用されるため、上記したような磁性流体シール付き軸受1を内部に組み込むことで、ハンドルの回転操作等によって回転駆動される回転軸の回転性能を向上し、長期に亘って安定した回転特性を得ることができる。
【0048】
また、これらの魚釣用リールの内、特に、ベイトキャストに用いられる両軸受けリールでは、上記したように、より低トルク化した構成のものをスプール軸の支持部材として用いることで、防水・防塵効果に加え、スプールのフリー回転性能を向上することが可能となる。
【0049】
図8〜
図10は、本発明に係る魚釣用リールの一実施形態(両軸受けリール)を示す図であり、
図8は全体構成を示す図、
図9は
図8に示す魚釣用リールのスプール軸部分を拡大して示す図、そして、
図10は
図8に示す魚釣用リールのハンドル軸部分を拡大して示す図である。
【0050】
本実施形態における魚釣用リールでは、以下に説明するように、スプールを回転可能に支持するスプール軸、及び、巻き取り操作されるハンドルのハンドル軸の支持部材として、上記した構成の磁性流体シール付き軸受1を配設している。
【0051】
図8に示すように、本実施形態に係る両軸受けリール30のリール本体31は、左右フレーム32a,32bにそれぞれカバー部材33a,33bを取着した左右側板31A,31Bを有しており、これら左右の側板31A,31B間には、釣糸が巻回されるスプール34aが一体的に固定されたスプール軸34が上記した構成の磁性流体シール付き軸受1を介して回転自在に支持されている。これらの磁性流体シール付き軸受1は、左右フレーム32a,32bに対して外輪3bが装着され、スプール軸34を回転可能に支持している。
【0052】
前記スプール軸34の端部には、スプール軸34の軸方向に沿って移動可能なピニオンギア35が取り付けられている。この場合、ピニオンギアは、スプール軸34を同軸上に延長させて支持しても良いし、スプール軸34と同軸上に支軸を回転可能に配設し、その支軸に回転可能に支持する構成であっても良い。
【0053】
前記ピニオンギア35は、公知の切換手段によって、スプール軸34と係合してスプール軸34と一体に回転する係合位置(動力伝達状態;クラッチON)と、スプール軸34との係合状態が解除される非係合位置(動力遮断状態;クラッチOFF)との間で軸方向に沿って移動される。前記切換手段は、左右の側板31A,31B間に配設される切換えレバー36と、切換えレバー36の押下げ操作によって回動するクラッチプレート37とを備えており、切換えレバー36を押下げ操作することで、クラッチプレート37を介して動力伝達状態から動力遮断状態に切換えることが可能となっている。
【0054】
前記右側板31B側には、右フレーム32bとの間、及び右カバー33bとの間に設置される軸受、及び前記磁性流体シール付き軸受1によってハンドル軸40が回転可能に支持されており、このハンドル軸40の端部にハンドル42が取り付けられている。また、ハンドル軸40と右カバー33bとの間には、公知のように、逆転防止機構として一方向クラッチが配設されており、ハンドル軸40(ハンドル42)は、釣糸巻取方向のみに回転して逆回転が阻止されるようになっている。
【0055】
前記ピニオンギア35には、ハンドル軸40に支持された駆動歯車(ドライブギア)46が噛合しており、ハンドル軸40の端部に装着されたハンドル42を回転操作すると、前記ドライブギア46とピニオンギア35とを介して、スプール軸34が回転駆動され、それに伴ってスプール34aが回転して釣糸が巻回される。
【0056】
このような形式の魚釣用リールでは、特に、スプール34aの回転性能が要求されるため、従来では、軸受部分を効果的にシールすることはできなかったが、上記したような構成の磁性流体シール付き軸受1を配設することにより、防水・防塵効果が得られることに加え、スプールの回転性能を損なわないようにすることが可能となる。すなわち、海水が付着、侵入し易い環境の厳しい状況下で使用されても、回転軸(スプール軸34、ハンドル軸40)を回転可能に支持する軸受内部が防水されて塩ガミの発生を確実に防止できるので、安定したシール機能を長期間維持して回転軸の滑らかな回転を長期に亘って維持することが可能となる。
【0057】
この場合、スプール軸34やハンドル軸40に使用される軸受の大きさはある程度特定される(外径が10〜20mm程度、内径が3〜10mm程度)のであり、このような大きさの磁性流体シール付き軸受1であれば、
図2に示した隙間Gを0.05〜0.3mm、好ましくは0.1〜0.2mmに設定しておくことで、十分なシール効果が得られることに加え、低トルク化を図ることが可能となる。
なお、本実施形態の両軸受けリールでは、ピニオンギア35を回転可能に支持する軸受48a、及び、ハンドル軸40の基端側でハンドル軸を回転可能に支持する軸受についても、同様なシール構造を設置した磁性流体シール付き軸受1としても良い。
【0058】
また、上記したような構成の磁性流体シール付き軸受1を所定の位置に組み込む際、その周辺に磁性体(磁性材)があると、そこに引き寄せられて組み込み作業性が低下したり、或いは、その近辺に新たな磁気回路が形成されてしまい、磁性流体が移動してシール性が低下する可能性がある。このため、上記した磁性流体シール付き軸受1をリール本体のフレーム部分やカバー部分に組み込むに際しては、それに隣接する部品、例えば、リール本体、フレーム、軸、カバー、ハウジング等、軸受に対して径方向及び軸方向に隣接する部品については、非磁性材料(アルミニウム、オーステナイト系ステンレス、銅合金、樹脂等)で構成しておくことが好ましい。
このように構成することで、組み込み性の向上が図れると共に、確実なシール性を維持することが可能となる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、種々変形して実施することが可能である。
【0060】
上述した磁気シール機構の構成については一例を示したに過ぎず、磁石や極板の構成や配置態様については適宜変形することが可能である。例えば、外輪や内輪の軸方向の位置決め方法、更には、外輪表面や内輪表面に対するシール方法等、適宜変形することが可能である。