【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば歯科材料用途では、3点曲げ強度で800(MPa)以上の高い強度と、全光線透過率で少なくとも40(%)以上の高い透光性とを共に備えることが要求されている。前述したような部分安定化ジルコニアは、歯科材料として十分な機械的強度を備えているが、透光性は低いため、その改善が望まれていた。
【0007】
これに対して、2〜4(mol%)のイットリアを含むジルコニア焼結体において、3点曲げ強度が1700(MPa)以上、且つ、厚さ0.5(mm)での全光線透過率が43(%)以上の特性を備えたものが提案されている(例えば、前記特許文献1を参照。)。このジルコニア焼結体は、上述した歯科材料としての条件を満たすものであるが、10(μm)以上の大きさの気孔を完全に消滅させることによって、機械的強度および全光線透過率を向上させたものであり、相対密度95(%)以上の焼結体を半密閉状態の容器に入れ、50(MPa)以上の等方圧下で1200〜1600(℃)に加熱するHIP処理を施すことで得られる。
【0008】
また、2〜4(mol%)のイットリアを含み、アルミナを含有しないジルコニア焼結体において、相対密度が99.8(%)以上、且つ、厚さ1.0(mm)での全光線透過率が35(%)以上のジルコニア焼結体が提案されている(例えば、前記特許文献2を参照。)。このジルコニア焼結体は、BET比表面積が10〜16(m
2/g)、大気中において昇温速度300(℃/hr)で焼成したときの相対密度70(%)から90((%)までの焼結収縮速度(Δρ/ΔT)が0.0120〜0.0135(g/cm
3・℃)である粉末を用いて成形および常圧にて焼成処理を施すことで製造される。このような焼結収縮速度の範囲内にある原料粉末を用いることで、上述したような99.8(%)以上の相対密度が得られ、高い透光性が得られるものとされている。すなわち、この技術によれば、HIP処理を必要とすることなく、常圧焼結でも機械的強度および透光性に共に優れたジルコニア焼結体が得られる。
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に記載される技術は、前述したように透光性を得るためにHIP処理を必須とする。このHIP処理のための装置は、一般に歯科医院に備えられていないため、患者ごとに型取りして補綴物等が製作される歯科材料用途では、HIP処理を必須とする上記材料は、実用性に問題がある。
【0010】
一方、前記特許文献2に記載される技術によれば、HIP処理が無用であるため、一般の歯科医院においても容易に透光性の高い補綴物等を製作できる。しかし、この特許文献2に記載の焼結体と同等の焼結体で再現実験を行ってみても、厚さ0.5(mm)の全光線透過率で38(%)程度までの特性しか得られなかった。しかも、この技術では、原料粉末を製造するための仮焼処理において、温度や保持時間等の条件を種々変更して複数種類の粉末を作製し、これを加圧成形した成形体を熱収縮計で測定することにより、大気中、昇温速度300(℃/hr)における相対密度70(%)〜90(%)の焼結収縮速度を求め、その値に基づいて仮焼条件を決定する。そのため、原料製造のための仮焼条件を決定するに際して、成形および焼成処理が必須となるので、手間が掛かると共に、それらの処理条件の差異に起因して仮焼条件の適否判断を誤る可能性がある。
【0011】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、機械的強度が高く且つ透光性の優れたジルコニア焼結体と、その製造に用い得るジルコニア原料粉末を提供することにある。
【発明の効果】
【0014】
前記第1発明および第2発明によれば、ジルコニア原料粉末は、結晶相が専ら正方晶から成ると共に、粉末XRD測定におけるその正方晶の第1ピークの半価幅が
0.268〜0.304°の範囲内の十分に小さい値に留められ、且つ、BET比表面積が17(m
2/g)以上の微粉であることから、この原料粉末を用いて、所望の形状に加圧成形し、更に焼成処理を施すと、透光性が高く且つ機械的強度も高いジルコニア焼結体を得ることができる。ジルコニア原料粉末は、半価幅が小さいほど粒子内部の欠陥が少なく、これを成形して焼成処理を施すと、その粒子内部の欠陥に由来する欠陥が減じられるため、欠陥の少ない焼結体が得られる。また、比表面積が十分に大きいことから、高い活性を有するので、焼結体の粒界の欠陥が減じられる。この結果、透光性が高く且つ機械的強度も高くなるものと考えられる。
【0015】
なお、本願発明において、第1ピークの半価幅は、小さいほど欠陥が少なくなるもので、前記上限値
0.304°はこの観点で定められているが、半価幅を小さくするためには原料粉末を仮焼する際に保持時間を長く或いは昇温速度を遅くする必要がある。その結果、原料粉末の活性は低下傾向になり、透光性および機械的強度が却って低下するため、半価幅は
0.268°以上にする必要がある。
【0016】
また、本願発明において、BET比表面積は17(m
2/g)以上にすることが必要で、これにより、原料粉末が十分に高い活性を有するので、焼結が促進されて粒界の欠陥が減じられる。比表面積が大きくなっても、粒内の欠陥は減じられないが、前述したように第1ピークの半価幅を十分に小さい値とすることで、粒内の欠陥が減じられる。このようにして、これら2種の欠陥が共に減じられることで、前述したように高い透光性が得られるのである。これに対して、前記特許文献2に記載されるようにBET比表面積を16(m
2/g)以下にすると、低活性であることから、粒界の欠陥が残り易いので、十分に高い透光性が得られないものと考えられる。
【0017】
また、本願において、「専ら正方晶から成る」とは、正方晶により現れる物性が他の結晶相により現れる物性よりも支配的であることを意味する。例えば、粉末XRD測定の結果から求められる正方晶の全体に占める割合が70(%)以上であれば、これに該当する。他の結晶相は、立方晶であっても単斜晶であってもよい。
【0018】
因みに、ジルコニア原料粉末或いはジルコニア焼結体のXRD測定で得られるピークの半価幅を制御して特性改善を図ることは、従来から種々行われている。例えば、ジルコニア原料粉末の正方晶(200)面に相当するX線回折のピークの半価幅を0.5°以上とすることにより、平均粒径が1〜100(μm)の比較的粗い原料粉末でも焼結性を高め、焼成時の高い脱脂性と焼結体の高い機械的強度とを両立させることが提案されている(例えば、前記特許文献3を参照。)。半価幅が大きいほど結晶格子が歪んで結晶性が低下することから、焼成時の結合作用が促進されるものとされている。
【0019】
また、焼結体表面のX線回折測定による正方晶ジルコニアの(101)面のピークの半価幅を0.3°以上にすることにより、水熱安定性を向上させることが提案されている(例えば、前記特許文献4を参照。)。半価幅を大きくすることで、正方晶から単斜晶への相変態の抑制効果が十分に得られ、強度の経時劣化が抑制されるものとされている。
【0020】
また、焼結体のX線回折パターンの正方晶(111)面ピークの半価幅を0.42〜0.47°とすることにより、強度および靭性を高めることが提案されている(例えば、前記特許文献5を参照。)。一般に、セラミック焼結体においては、半価幅が大きいほど欠陥が多く、強度や靭性が低くなるものと考えられてきたが、ジルコニア焼結体においては従来よりも大きい半価幅で高強度・高靭性が得られることを見出したとされている。
【0021】
しかしながら、上記各文献に記載の技術は、何れも半価幅の数値範囲が本願発明とは異なるもので、しかも、解決しようとする課題も異なり、透光性を改善することは全く検討されていない。
【0022】
また、第1発明
および第2発明によれば、ジルコニア原料粉末は、粉末XRD測定の半価幅およびBET比表面積が共に前記範囲内にあるように仮焼条件を定めればよい。すなわち、仮焼条件を定めるに際しては、一次原料に応じて条件を適宜調整して仮焼処理を施し、得られた原料粉末の物性を測定して、前記範囲内の値が得られるか否かでその条件の適否を判断できる。そのため、前記特許文献2に記載の技術において焼結収縮速度を求めるために必須であった仮焼原料粉末の成形・焼成が無用であることから、それらの処理の手間を要せず、しかも、成形・焼成条件の差異に起因する仮焼条件の適否判断の誤りが生じ得ない利点がある。
【0023】
また、好適には、前記第2発明のジルコニア焼結体は、0.5(mm)厚みの試料の分光光度計による波長600(nm)の全光透過率が42(%)以上である。このようにすれば、十分に高い透光性を有することから、審美的に透光性が求められる歯科材料に好適である。一般に、歯の先端縁部は0.5(mm)程度の厚さ寸法を有し、この先端縁部が透けて見えることが審美的に好ましい。したがって、上記のように0.5(mm)厚みで40(%)以上の全光透過率を有していれば、十分な審美性が得られる。因みに、従来から歯科用補綴物に用いられてきたジルコニア焼結体は、透光性の高いものでも全光透過率が35〜37(%)程度に留まっていた。これは全光透過率が例えば40(%)以上である天然歯のエナメル質に比較して劣るので、機械的強度を保ったままジルコニア焼結体の透光性を一層高めることが望まれていた。
【0024】
また、好適には、前記第1発明のジルコニア原料粉末は、一次粒子径が30〜140(nm)の範囲内である。このようにすれば、一次粒子径が十分に小さいことから、高い焼結性を有するので、原料粉末の欠陥が減じられていることと相俟って透過率の一層高いジルコニア焼結体を製造し得る。
【0025】
また、好適には、前記第1発明のジルコニア原料粉末は、Y
2O
3を3(mol%)程度の割合で安定化剤として含むものである。本発明のジルコニア原料粉末は、良く知られたカルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、イットリア(Y
2O
3)、セリア(CeO
2)等の種々の安定化剤を任意に選択して、適宜の添加量で用いることができるが、中でもY
2O
3を3(mol%)含むものは機械的強度が高く、且つ、透光性も高いため好ましい。
【0026】
また、好適には、前記第2発明のジルコニア焼結体は、前記ジルコニア原料粉末を1軸加圧成形装置で成形した後、等方圧で加圧処理を施し、その後、焼成処理を施すことによって製造される。このようにすれば、未焼成の成形体の密度が高められ且つ均質化させられることから、相対密度が一層高く、機械的強度や透光性が一層高いジルコニア焼結体が得られる。
【0027】
また、好適には、前記第2発明のジルコニア焼結体は、大気中常圧下において、昇温速度50〜200(℃/hr)の範囲内、最高温度1350〜1550(℃)の範囲内、保持時間1〜5(hr)の範囲内で焼成処理を施すことにより得られる。このようにすれば、機械的強度や透光性が一層高いジルコニア焼結体が得られる。