(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231475
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】無溶剤複数成分スプレーシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
B05B 7/04 20060101AFI20171106BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20171106BHJP
B01F 15/06 20060101ALI20171106BHJP
B01F 15/04 20060101ALI20171106BHJP
B01F 5/06 20060101ALI20171106BHJP
B01F 5/02 20060101ALI20171106BHJP
B01F 5/00 20060101ALI20171106BHJP
B01F 3/14 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
B05B7/04
B05D1/02 G
B01F15/06 Z
B01F15/04 C
B01F5/06
B01F5/02 Z
B01F5/00 F
B01F3/14
【請求項の数】16
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-520331(P2014-520331)
(86)(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公表番号】特表2014-521495(P2014-521495A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】US2012046498
(87)【国際公開番号】WO2013009999
(87)【国際公開日】20130117
【審査請求日】2015年7月7日
(31)【優先権主張番号】13/181,201
(32)【優先日】2011年7月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512272694
【氏名又は名称】キャスタグラ・プロダクツ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】モンシャン,ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ルーセン,ピーター
【審査官】
赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04760956(US,A)
【文献】
特開2002−059035(JP,A)
【文献】
特表2000−516535(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3083862(JP,U)
【文献】
特開昭50−075628(JP,A)
【文献】
特開平07−194997(JP,A)
【文献】
特開昭61−101266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 7/00− 7/32
B05D 1/00− 7/26
B01F 3/00− 3/22
B01F 5/00− 5/26
B01F 15/04− 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数成分流体配合物の二つ以上の成分をそれぞれ圧力下で送出するための一組の比率定量ポンプと、
前記各流体成分を加熱するための加熱システムと、
ガンハウジングと、
前記各流体成分が圧力下で導入される混合・分注装置であって、衝突混合エレメントと、背圧エレメントと、一つ以上の静止型混合エレメントを収容した静止型混合器ハウジングと、混合した材料を分注するオリフィス部とを備える混合・分注装置と
を備える複数成分スプレーシステムであって、
前記混合・分注装置の前記衝突混合エレメントは、前記各流体成分が圧力下で導入されて、衝突混合によって初期混合されるように構成された、入口ポート及び混合チャンバを有し、
前記混合・分注装置の前記オリフィス部は、前記静止型混合器ハウジングの下流に位置し、
前記背圧エレメントは、衝突混合エレメントの各流体成分用入口ポートと前記オリフィス部との間に位置するインサートであり、衝突混合チャンバの前端に設けた背圧エレメント挿入用空洞内に挿入され、静止型混合エレメントの交換を容易にするため前記静止型混合器ハウジングを容易且つ迅速に取外しできるように、衝突混合エレメントの前端のネジに接続することにより、前記背圧エレメントが所定位置に取付けられ、
前記ガンハウジングは、気体若しくは液体状流体を加圧下で導入することができる導入ポートと、各流体成分を通過させるための接続ブロックポートとを有し、
前記ガンハウジングは、前記ガンハウジングの前記接続ブロックポートが前記入口ポートと一直線上に並ぶ分注位置と、前記ガンハウジングの前記導入ポートが前記入口ポートと連通するパージ位置へと、前記混合・分注装置に対して可動であり、
前記スプレーシステムはさらに、
前記一組の比率定量ポンプによって発生した圧力を監視及び調節するための装置と、
前記流体成分を所定温度に調節するための温度調節器と、
前記定量ポンプ間の設定比率を設定及び維持するための装置と
を備える、複数成分スプレーシステム。
【請求項2】
前記所定温度が摂氏15〜100度の範囲である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記圧力が1,700〜70,000kPaの範囲である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記比率の設定が、可変比率機構を使って比率を調節することによって、若しくは固定比率機構を使って比率を機械的に再設定することによって、行うことができる、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記一組の定量ポンプが、流体圧若しくは空気圧作動式シリンダ、ギアポンプ、ピストンポンプ、ぜん動ポンプ、ダイヤフラムポンプ、若しくは他の容積型ポンプからなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記静止型混合エレメントが、容易に回転させて取り出すことのできる材料で作製されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記流体成分の温度を個別制御可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記オリフィス部が、注入オリフィス若しくは注水オリフィスである、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
各作業サイクルの終わりに、前記混合チャンバから混合材料を一掃するために、エアパージを用いる、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記静止型混合エレメントは、回転させて取り出す以外に、熱で溶かす、焼く、若しくは焼き切る、又は強制的に押出す、及び/又は1リットル未満の少量の溶剤を使用して前記エレメントの取外しを補助することによって、前記静止型混合器ハウジングから取外すことができる、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記オリフィス部がスプレーノズルである、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
複数成分の熱可塑性若しくは熱硬化性材料を分注する方法であって、
複数成分流体配合物の二つ以上の成分をそれぞれ、圧力下で請求項1に記載の混合・分注装置へ送出し、
各流体成分を加熱し、
各流体成分を衝突混合チャンバ内で衝突混合により混合し、
一つ以上の静止型混合エレメントを収容する静止型混合器ハウジング内で、前記成分をさらに混合し、
混合した材料をオリフィス部で分注する、
ことを含む、複数成分の熱可塑性若しくは熱硬化性材料を分注する方法。
【請求項13】
前記静止型混合器ハウジングを周期的に取り外して、前記静止型混合エレメントを交換することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記一組の比率定量ポンプによって発生した圧力を監視及び調節することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記定量ポンプ間の設定比率を設定及び維持することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記流体成分に一つ以上の触媒を添加して、反応速度を高め、硬化時間を短縮することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、装置を定期的に洗い流す若しくはパージするための溶剤、又は分注する材料の一部としての溶剤を使用せずに、複数成分材料をスプレーするための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレーによって塗布する複数成分からなる熱可塑性及び熱硬化性材料は、保護用及び装飾用コーティングとして商業的に広く受け入れられている。同様に、スプレーによって塗布する発泡体も、世界中で広く使用されている。スプレー式塗布装置によって製造した成形品も、業種によっては広く受け入れられ、一般的になってきている。通常二部分型配合物として提供され、スプレー式塗布装置によって施されると、両部分が化学的に組み合わされて最終形となるこのようなタイプの材料については、多くの従来技術がある。硬化速度及びゲル化時間は、様々な配合によって数時間から10秒未満までと大きく異なる。多くの配合では、異なる温度、異なるタイプ及び量の触媒や、他の手段を使って、この速度を変更することができる。
【0003】
複数成分からなる配合物は、場合によっては三つ、四つ、それ以上の部分からなるものとして提供されるが、複数成分系の大半は二部分型系であり、これらは標準的ではない。複数成分系の各成分は、それぞれ部分A、部分Bと特定されることが多く、典型的な二液成分より多くの成分が含まれる場合には、追加として部分C、部分D等と特定される。本明細書では、典型的な二部分型系及び命名を使用するが、出願人は、このことによって開示及び請求の範囲を二成分系のみに限定することは意図していない。触媒(硬化促進剤)、発泡剤、顔料等を、複数成分系中の液体成分の一つに予め配合するのではなく、複数成分系中に別個の成分として導入することは、広く認知されている慣例である。しかしながら、このようなより複雑な系を、特に図面において説明することは煩雑であるので、本明細書において複数成分系とは、二つ以上の部分として提供される配合物として定義されると考えることを、出願人は本明細書の読者に求めたい。
【0004】
多くの配合物では、様々なタイプや量の溶剤を、配合物自体に含ませて、若しくは従来技術において知られているスプレー装置の一部又は全部の装置部品を清掃、パージするために、用いている。Norman R. Mowrerの米国特許第4,695,618号(1987年)には、当時「揮発性有機成分(VOC)のタイプ及び量を共に制限する環境及び健康に関する政府規制へのコンプライアンスに重きが置かれるようになったことにより、コーティング製造業者及び消費者は、新たなコーティング技術を求めるようになってきた」(第1欄40〜44行)と開示されている。それ以来、製造業者は、硬化サイクル完了後に配合物中に残存する成分の割合を示すのに使用される言葉として、略100%固体、と従来技術に記載されている多くの配合物を製造してきた。これは、このような溶剤や他の揮発性成分の使用を、配合物から、さらには装置をパージ及び清掃する工程から、削減若しくは撤廃することが、実際に長い間望まれてきていることを裏付けている。
【0005】
配合物及び装置それぞれの製造業者は、厳しくなる一方の環境及び健康に関する要求を満たす一方で、コストを上げずにより良い解決策を求める顧客及び消費者の要望を満たす新たな技術の開発に苦労している。特に、溶剤を使用しないことにより、体積比1:1と調和のとれた粘度を維持することができる改良された配合物を開発することが、さらに難しくなっている。配合物におけるこの比率は広範となる傾向にあり、現在は4:1が実効可能な最大比率であると考えられている。本明細書において、標準的な比率は、1:1、1.5:1、2:1、3:1、及び4:1であり、これよりも広い比率は非標準的であると考えられている。多くの専門家は、2:1を超える比率は非標準的であると考えている一方で、さらに広範にわたる比率の配合物がより多く使用されるようになってくると認識している。
【0006】
この比率を超えて、配合物によっては10:1を超える比率に対応するスプレーシステムを実現することが望まれている。一般的に、比率が1:1から離れるほど、材料を上手く混合して分注することが難しくなる、ということが広く認知されている。粘度も同様に幅広く、一般的には上昇し、1,000,000cP(センチポイズ)と高い粘度の配合物も従来知られている。これに対して、50cPというずっと低い粘度の材料もある。従って、高粘度の材料を、スプレー技術を用いて上手く圧送し、混合し、分注することができるように粘度を低下させるための精巧な加熱システムを含めることが常識となっている。解釈として、「スプレー」という用語は便宜的に使用しているものであり、他の塗布技術や分注技術も想定している。
【0007】
Peter Paul Roosenらの米国特許第5,344,490号(1994年)には、体積比4:1〜9:1で、部分Aの成分と部分Bの成分との粘度が大きく異なる複数成分配合物を含む可塑化石膏組成物が開示されている。Roosenは本願出願人の一人であり、'490号特許の開示を参照によりここに援用する。Roosenの'490号特許における配合物の実施例1は、総量で石膏41%PBW(重量比)を含有し、部分Aが合計83%PBWの石膏及び他の様々な成分であり、部分Bが残量17%のイソシアネートである二つの部分によって代表的には調製される複数成分の石膏組成物である。このPBW比5:1を体積比に換算すると約4.5:1であるが、これは標準的な工業的比率ではなく、容易に手に入る慣用の装置を使って無溶剤スプレー塗布法によって分注するのは困難であった。Roosenらは、適切なスプレーシステムによって材料を分注することに何度も失敗し、配合物の分注に非スプレー式手段を使わざるを得なかった。
【0008】
Roosenの'490特許には、石膏組成物が、石膏75%PBWと、これよりもずっと少ない割合(7%PBW未満)のイソシアネートとを含み、上記実施例1の配合物を使って作製される製品と同様の製品を含む様々な最終製品とされる配合物が開示されている。この実施例2の配合物は、実施例1と非常によく似ているが、石膏の量が多いことが主な違いとなっている。Roosenは、石膏41%PBWを含む実施例1の配合物をスプレー塗布するための適切な手段を見つけることを、並びに可能であれば、実施例2の配合物の石膏75%PBWに迫る石膏含有量の高い配合物を塗布するためにスプレーシステムを使用することを常に課題の一つとしていた。20年間にもわたるこのような取り組みは、常に失敗に終わってきた。この失敗の原因の一つは、配合物に石油化学系溶剤を入れること、若しくはスプレーシステムのパージ若しくは定期的洗浄システムの一部に石油化学系溶剤を入れることをためらっていたことにある。
【0009】
上述のRoosenの配合物及びそこから派生した製品は、カナダを始めとした国々において、環境への悪影響を最小限とした「環境に優しい」持続可能な技術の良い例として認められている。さらに、石油化学系イソシアネート成分を他の材料で置き換えて、さらに環境に優しいものとする進展があった。実際、2010年にRoosenは、数百万人がテレビで視聴したカナダ全土で行われた「Greenvention(環境に優しい発明)」コンテストに優勝して10万ドルの賞金を授与され、カナダきっての「Eco-preneur(エコな企業家)」と評されている。石油化学系溶剤を含有成分として、若しくは定期的パージシステムの一部として使用するスプレー装置は、どちらも一般的且つ広く行われている現在の業界の慣行であるにもかかわらず、Roosenはこのような装置を用いて配合物を分注するいかなる方法の提案も受入れることを断固として拒否してきた。
【0010】
Roosenの'490号特許の配合物と好対照をなすものとして、Mowrerの'618号特許では、実質的に1:1の体積比で組み合わせることができ、市販の複数成分系エアレススプレー装置を使って常温で塗布する、一連の二成分系無溶剤ポリウレタン組成物が明らかにされている。Mowrerは、彼の配合物及び認識されている様々な技術的制限に順応する理由を説明するためには苦労を惜しまない。彼の配合物は、比較的少数の大手化学薬品製造会社が製造し、充分市場に出回っている標準的な石油化学系成分からなっているようである。狭い技術的制約に合わせるというアプローチには、顧客や消費者にとって潜在的により価値のある新規で有用な製品を発明する専門家の能力を制限してしまうという欠点があると考えられる。
【0011】
さらに、維持可能で環境保全型の解決手段を開発することがより困難となる。しかしながら、Mowrerのアプローチは、これまでもこれからも、機器製造業者には好まれている。
【0012】
もうひとつの重要な可変要素は圧力である。最近の複数成分スプレー装置は、ますます高い圧力で操作するように設計されており、現在では7,000psi(50,000kPa)を超える装置もある。これは主に、高粘度成分の無溶剤配合物を上手く調和させ、混合し、分注する必要があるためである。装置の寿命を延ばし、作業者の安全性を高めると共に、作業及び維持費用を削減するには、低圧で操作できることが好ましい。Mowrerらは、システム圧力及び粘度限界を、それぞれ3,000psi(21,000kPa)及び1,000cP(センチポイズ)とすることを提案している。Graco Minnesota Inc.は、ミネアポリスに拠点を置く複数成分系スプレー装置の大手製造業者である。Graco のFusion(商標)Solvent Purge Plural-Component Gun(溶剤浄化式複数成分系ガン)の2011年技術マニュアルには、所要圧力でゲージのバランスをとるように、はっきりと指示されている。このGraco社製のガンは、重量が重すぎ、大きさが嵩張るため、扱いにくく使いにくい比較的重い装置なので、用途が限られている。Matthew Merchantの米国特許第7,744,019号には、二成分系の各成分を、それぞれ同じ圧力、この場合約3,000psi(21,000kPa)で、混合チューブに導入する必要があることが、はっきりと記載されている。
【0013】
粘度、比率、及び圧力を一致させておくという従来から確立されている傾向が強い。
【0014】
配合物中に使用する溶剤の量は削減傾向にあったが、複数成分系スプレーシステム装置の洗浄及びパージについては、その逆であった。このような装置の洗浄及びパージに年数百ガロン(リットル)もの溶剤が使用されている可能性を指摘した従来技術は極めて多数ある。例えば、100%固形タイプのエポキシコーティングシステムの多くは、装置を使用するたびに、機材をパージ及び清掃するために代表的には約5ガロン(20リットル)もの溶剤を必要とすることは、よく知られている。代表的には、このようなエポキシコーティングを50ガロン(200リットル)使用すると、溶剤の量は、配合物に溶剤10%を含有するのに等しいことになる。パージ及び洗浄要件を考慮すると、配合物中の溶剤量を削減することの利点の多くは失われてしまうように思われる。
【0015】
溶剤パージ・洗浄システムを明らかに利用している従来技術の多くの例の一部として、米国特許第7,918,369号、第5,678,764号、第6,544,204号、第5,178,326号、第4,760,956号、第4,695,618号、第4,967,956号、第6,811,096号、及び第6,824,071号が挙げられる。Graco社は、これらの特許、並びに溶剤噴射システムに係るWO2009/036129等の文献の多くについて、実質的な利権を有しているようである。特許出願中とうたっているGraco社の現在のFusion(商標)Solvent Purge Plural-Component Gun(溶剤浄化式複数成分系ガン)が、最新技術を代表しているものと思われる。
【0016】
現在広く使用されている、溶剤でパージする若しくは洗い流すスプレーシステムでは、複数成分系液状配合物の二つ以上の成分を加圧下でそれぞれマニホールドへと送り出す一連の比率定量ポンプがよく利用されており、このようなマニホールドでは、二つの流れが合流し、合流した流れは次いで、ホイップ(whip)と呼ばれる単一のホースやチューブによって流体通路内にある一つ以上の静止型混合エレメントを通り、混合材料を分注するスプレーガンに通される。静止型混合装置は、さらに下流にも配置してもよく、ガン自体の中や、混合流体通路中の一以上の位置に見られる場合もある。マニホールド、静止型混合エレメント、ホイップ、及びガンを通して圧送されてきた溶剤流を、別個の溶剤ポンプが各操作周期の終わりに送り出し、混合材料が硬化してシステムの一以上のパーツを詰まらせてしまう前にシステムからパージする。Timothy S. Kukeshらの米国特許第5,178,326号は、混合材料がスプレーガンの噴霧用オリフィスを出た後にさらに加圧空気を衝突させることを含むこのような装置に関する。Kukeshの'326特許には、このような従来の溶剤パージ手法が非常によく説明されている。
【0017】
ガン内部の噴霧用オリフィスの非常に近くで混合を行うように設計されているスプレー装置を記載した従来技術もある。複数成分系配合物の混合は、スプレーチップと呼ばれることもある噴霧用オリフィスを出る複数の流体流の衝突混合によって、小さい混合チャンバ内で行われ、このオリフィスは衝突混合位置の非常に近くにある。明確にするために、複数の成分は別々にガンに供給され、スプレーチップの非常に近くで混合される。Jonathan R. McMichaelの米国特許第7,527,172号は、このような複数成分(二成分)混合・分注装置の改良に関する。McMichaelの'172号特許の装置は、二つの流体成分を混合するのに衝突混合に依存しているため、体積比率が1:1若しくはその近傍であること、二つの流体それぞれの流体粘度が比較的低く、厳密に一致していること、及び圧力が比較的厳密に一致していることを要する。この種のスプレーガンは、通常数秒で硬化する速硬性ウレタンフォームに主に使用される。主に速硬性ウレタンフォームや尿素に使用される衝突混合式ガンの多くは、溶剤が広く使用されているより一般的な非接触混合式のガンで必要とされるほどではないものの、溶剤によるパージを利用している。McMichaelの'172号特許に開示されているような衝突混合式ガンのなかには、ガンの使用が済むたびに早急にパージする必要のある比較的少量の混合材料を、空気を使用してパージするものもある。この種のガンは、非標準的比率の配合物、特に高粘度の流体が含まれる場合には、効果的に使用されていない。このような材料に衝突混合式のガンを使用してみても、混合が不十分となり、スプレーパターンに乏しく、詰まりが生じ、若しくはこれらが複合的に生じて、一般的には不適当な結果となる。
【0018】
Richard O. Probstらの米国特許第3,799,403号(引用によりこの開示を援用する)には、複数の流体成分の流れを停止/開始するための実用的でシンプルな手段として、また分注操作の停止時に、圧縮空気等のガスを利用して、混合チャンバから複数成分材料の混合残渣をパージすることができるように、ハウジングに対して混合チャンバを可動としたスプレーガンが開示されている。このようなガンは長年にわたり使用されてきたが、特に比率、粘度、及び/又は圧力が一定ではない場合に、定常的に流体成分を高い品質で混合することは困難である。
【0019】
複数成分システムをパージするための別の方法として、流体成分の一つを遮断し、別の一つの流体成分を連続的に流して、混合材料をシステムからパージする方法がある。これは、遮断した流体成分が通常混合チャンバに入るところへ向かってパージ流体が逆流するいわゆるクロスオーバー効果と呼ばれる現象のために、効果的ではない場合が多い。ここに混合材料が溜まり、最終的には閉塞したり、流れを妨げたりすることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第4,695,618号明細書
【特許文献2】米国特許第5,344,490号明細書
【特許文献3】米国特許第7,744,019号明細書
【特許文献4】米国特許第7,918,369号明細書
【特許文献5】米国特許第5,678,764号明細書
【特許文献6】米国特許第6,544,204号明細書
【特許文献7】米国特許第5,178,326号明細書
【特許文献8】米国特許第4,760,956号明細書
【特許文献9】米国特許第4,695,618号明細書
【特許文献10】米国特許第4,967,956号明細書
【特許文献11】米国特許第6,811,096号明細書
【特許文献12】米国特許第6,824,071号明細書
【特許文献13】国際公開公報第WO2009/036129号
【特許文献14】米国特許第7,527,172号明細書
【特許文献15】米国特許第3,799,403号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本願出願人は、認識されている装置の限界に合わせて配合物を設計するという現在の傾向に従うのではなく、無溶剤スプレーシステムを発明し、より広範囲にわたる配合物のバリエーションを提供する方法及び装置を設計することにより、逆のアプローチをとっている。本発明の目的の一つは、配合物中の溶剤使用量を削減するという継続的な流れを促進すると共に、スプレーシステム装置をパージ及び浄化するために溶剤を使用する必要をなくすことにある。
【0022】
別の目的は、配合物製造者が、現在の工業的慣行よりもより広範囲にわたる製品を成功裏に混合及び分散させることができるようにするスプレーシステムを提供することにある。例えば、二成分配合物の部分Aと部分Bとの広範囲にわたる比率並びに粘度及び圧力の大きな差に、容易に且つ高い信頼性をもって対処することができるスプレーシステムは、配合物製造者、顧客、及び消費者等にとって非常に価値あるものとなると考えられる。
【0023】
本発明の第三の目的は、ウレタン、尿素、エポキシ、ポリエステル、フェノール類、及びこれまで発明されていないものも含む他の化学成分から製造された様々な発泡体、コーティング、及び成形品のゲル化時間及び硬化速度を、必要に応じて大幅に削減する性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、システムから材料を洗い流す若しくはパージするために溶剤の使用を必要としない、複数成分スプレーシステムに関する。スプレーシステムで混合及び分注される配合物は、各流体成分の圧力や温度を厳密に一致させなくても、大きく異なる粘度及び比率とすることができる。このシステムにより、様々な複数成分系熱可塑性及び熱硬化性配合物を混合及び分注する際に、必要に応じて硬化速度及びゲル化時間を短くすることが容易になる。
【0025】
構成成分を混合する際の反応が高速である、ウレタン、尿素、エポキシ、ポリエステル、フェノール類、及び他の化学成分から製造される発泡体、成形体、及びコーティングを含む、様々な複数成分系熱可塑性及び熱硬化性配合物を混合及び分注する際に、硬化速度及びゲル化時間を、数時間から10秒未満まで非常に広範囲にわたって変化させることができる。
【0026】
本発明を説明するにあたり、本明細書に定義していない用語は、その技術分野で一般的に認められている意味を持つものとする。
【0027】
本発明のスプレーシステムは、複数成分流体配合物の二つ以上の成分を、それぞれ圧力下で、ガンハウジング内に設置された混合・スプレー装置へ送出するための一組の比率定量ポンプと、各流体成分を、好ましくは混合・スプレー装置に入る各流体成分を独立して温度制御することを可能にする十分な制御下で、加熱するための加熱システムと、衝突混合エレメントと、各流体成分が別個の入口若しくは注入ポートを通って混合・スプレー装置の衝突混合エレメント部分に入る地点よりも下流に配置される、一つ以上の静止型混合エレメントを収容した静止型混合器ハウジングとを備える混合・分注装置と、衝突混合エレメント、及び流体導入地点とスプレーオリフィスとの間のどこかに好ましくは静止型混合エレメントの直上流に配置される背圧エレメントよりも下流に、配置されるスプレーオリフィスと、静止型混合器エレメントを収容する静止型混合器ハウジングを容易且つ迅速に取外すための手段とを備える。本発明の重要な特徴は、容易に取り外し可能な静止型混合器ハウジングを用いることができること、及び静止型混合器エレメントを機械的若しくは他の方法で取外すことができることである。混合エレメントを、簡単なハンドドリル操作若しくはボール盤を用いて回転させて取外し、新たなエレメントと交換し、迅速に作業に戻ることができる、回転させることができるプラスチック製の使い捨て部品で構成することが現時点で好ましい。現時点で好ましいスプレーオリフィスは、多くの工具店で一般に入手可能で、操作者が様々な流量で材料を分注して様々なスプレーパターンを創作することができる様々なオリフィスサイズ及び形状の交換可能なチップを有する、標準的なリバーシブルチップ型のオリフィスである。別の好ましい実施態様では、スプレーオリフィスの代わりに、亀裂の充填、モールドの充填、若しくは材料を噴霧状態で塗布する必要のない他の操作に使用する注入若しくは注水オリフィスを使用する。混合・スプレー装置への流体成分の導入を開始/停止するための好ましい手段は、ガンハウジングに対して可動である可動混合・スプレー装置を使用することである。これには、各分注操作の終わりに迅速にエアパージを行う手段を提供するという追加的な利点があり、このような手段を備えることは非常に好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のスプレーガン部分は、製造ラインで使用する頑丈な産業用デバイスとして、又は手持ちで使用する、若しくは様々な領域、特に形状的制限が比較的厳しい領域においてロボットが使用するコンパクトで軽量なデバイスとしてのいずれの構成とすることもできる。
【0029】
本発明によれば、従来のスプレーシステムから混合材料をパージするのに通常使用する溶剤を不要とすることができるのみならず、エポキシ等の材料の硬化速度を非常に速くすることができ、通常20分から1時間のゲル化時間及び24時間の硬化時間を要するところを、それぞれ数秒、数分に短縮することができる。溶剤洗浄システムでは、パージを要する混合材料の、混合マニホールド、ホイップホース、ガン、スプレーチップ、及び関連する付属品における滞留時間を長くする必要があるので、長いゲル化時間及び硬化時間が必要となる。システムをパージするたびに約5ガロン(20リットル)の溶剤が必要となるので、操作者は、洗浄を頻繁に行う必要がなくなるように、余分なゲル化時間をとらなければならない。本発明のシステムによれば、混合をガン内部で行い、溶剤パージの必要がなく、混合材料のシステム内滞留時間を大幅に削減することができるので、非常に短いゲル化時間及び硬化時間で材料を再配合することができる。
【0030】
本初見えによれば、配合者が複数成分材料を標準的な体積比率1:1〜4:1の範囲外で、各流体成分の粘度を非常に異なるものとして設計することが可能になる。例えば、部分Aと部分Bとの比率が5:1で、部分Aの粘度が部分Bの粘度よりも100〜1000倍高い二部分型配合物であっても、本発明を用いて完全に混合・分注することができる。硬化速度は数秒から数分であり、各流体成分の圧力は厳密に一致している必要はなく、溶剤によるパージの必要もない。このことは、発明の詳細な説明においてより詳しく説明する。
【0031】
本発明のさらなる特徴は、この発明の要旨及び以下の詳細な説明により、特許請求の範囲を鑑みて、当業者に明らかになるであろう。本発明は様々な形態の実施態様を含み得るが、以下に説明するのは本発明の特定の実施態様であり、本明細書の開示は例示的なものであって、本発明をここに記載する特定の実施態様に限定する目的はないことを理解されたい。
【0032】
図面や以下に記載する好ましい実施態様の詳細な説明は、本発明の一例をなす。本発明の他の実施態様は、図面及び以下に記載する詳細な説明から当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本発明の現在好ましい実施態様による無溶剤複数成分スプレーシステムの、簡略化した概略線図である。
【
図2】
図2は、本発明で使用可能なあるスプレーガン装置を非分注エアパージ位置で示す、水平面を断面とし、共に示される前面図における2−2線の方向に見た断面頂面図である。
【
図3】
図3は、好ましいスプレーガン装置を材料分注位置で示す、水平面を断面とし、共に示される前面図における3−3線の方向に見た断面頂面図である。
【
図4】
図4は、好ましいスプレーガン装置を非分注エアパージ位置で示す、垂直面を断面とし、
図5の4−4線の方向に見た断面側面図である。
【
図5】
図5は、
図3の好ましいスプレーガンを材料分注位置で示す頂面図である。
【
図6a】
図6aは、
図3の好ましいスプレーガンをガンハウジングと共に示す斜視図である。
【
図6b】
図6bは、
図3の好ましいスプレーガンをガンハウジングなしで示す斜視図であり、この図に示す装置を、本発明の混合・スプレー装置部分とも称する。
【
図7】
図7は、本発明の混合・スプレー装置部分の好ましい実施態様の分解図である。
【
図8】
図8は、
図7の好ましい衝突混合エレメントの斜視図である。
【
図10】
図10は、好ましい衝突混合エレメントを、垂直面を断面として
図9における10−10線の方向に見た断面端面図である。
【
図13】
図13は、垂直面を断面として
図5における13−13線の方向に見た、
図5の一部断面端面拡大図であり、材料混合分注部分のガンハウジング内における、衝突混合エレメントとその接続ブロックとの間の封止接合部を示す。
【
図20】
図20は、
図7及び
図18の好ましい静止型混合器ハウジングを、垂直面を断面として
図19における20−20線の方向に見た断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、一般に複数成分配合物を混合及びスプレーするための無溶剤システムを備える、本発明のスプレーシステム10の簡略化した概略線図であり、このシステムでは、部分A流体成分供給20と部分B流体成分供給30とが、部分A及び部分Bそれぞれのための一組の比率定量ポンプ40、50を通して圧送され、これらのポンプは、スプレーガン60とも称する本発明の混合・スプレー装置部分へ、機械的、電子的、若しくは当業者に公知の他の適切な手段によって設定可能な所定の体積比で、流体流を送出する。各流体を適切な圧力、温度、及び流量でスプレーガンへと送出すると共に、各流体成分を確実に一貫性をもって送出することができるように所望の体積比を充分な制御下で維持することができる、いくつかの機材パッケージが入手可能である。当業者であれば、複数成分スプレー機材の専門業者等の様々な出所から、適当な機材パッケージを用意することができる。本願出願人としては、どのような機材を使用するとしても、装置全体を通して各成分の温度を個別に制御する機能が必要であることを提案しておく以外は、特別な好みはない。圧縮空気70の供給もまたスプレーガン60へと送出され、各作業後ごとに、また場合によっては、後に詳細に説明するように作動工程の一部として使用するために、ガンの一部をパージする手段を提供する。これらの機能を果たす他の手段を用いる場合には、圧縮空気供給は必須ではないが、好ましい方法である。
【0035】
図2は、本発明で使用可能なあるスプレーガン60を非分注エアパージ位置で示す、水平面を断面とし、共に示される前面図における2−2線の方向に見た断面頂面図である。スプレーガン60は、ガンハウジング90を取付けた混合・スプレー装置80を有する。部分A及び部分Bの流体成分は、それぞれ流体成分接続ブロック100a、100bを通って中に入る。スプレー・混合装置80はガンハウジング90に対して可動であり、加圧下で接続ブロックポート120a、120bから接続ブロック100a、100bにそれぞれ入ってくるはずの各流体成分が、流体を受入れることができる開放通路がないために入れないようになっている前方位置で示されているため、図面に示す位置では、どちらの流体もスプレー・混合装置80には入れないようになっている。混合・スプレー装置80は、ネジ付接続部110を介して力をかけて、図面に示す位置まで右に押すか、材料分注位置まで左に引っ張るかのいずれかによって、ガンハウジング90に対して移動される。本発明のスプレーガン60は、製造ラインで使用する頑丈な産業用デバイスとして、又は手持ちで使用する、若しくは様々な領域、特に形状的制限が比較的厳しい領域においてロボットが使用するコンパクトで軽量なデバイスとしても構成することができる。
【0036】
図3は、本発明で使用可能なあるスプレーガン60を材料分注位置で示す、水平面を断面とし、共に示される前面図における3−3線の方向に見た断面頂面図である。スプレーガン60は、ガンハウジング90に取付けた混合・スプレー装置80からなる。部分A及び部分Bの流体成分は、それぞれ流体成分接続ブロック100a、100bを通って中に入る。スプレー・混合装置80はガンハウジング90に対して可動であり、加圧下で接続ブロックポート120a、120bから接続ブロック100a、100bにそれぞれ入ってくるはずの各流体成分が、流体を受入れることができる開放通路が利用可能であるために入ることができるようになっている後方位置で示されているため、図面に示す位置では、どちらの流体もスプレー・混合装置80に入ることができる。混合・スプレー装置80は、ネジ付接続部110を介して力をかけて、図面に示す位置まで左に引っ張るか、非分注エアパージ位置まで右に押すかのいずれかによって、ガンハウジング90に対して移動される。
【0037】
図4は、好ましいスプレーガン装置60を非分注エアパージ位置で示す断面側面図である。この図面では、圧縮空気及び/又は他の適切な気体状若しくは液体状流体を加圧下で導入することができる、ガンハウジング90のケーシングを通るポート130を示す。図面に示す位置では、この流体は、接続ブロック100a、100bによって遮断されないので、混合・スプレー装置に入ることができる。このことは、
図2の表示ではポート130は見えないものの、
図2からよりはっきりとわかる。
【0038】
図5は、好ましいスプレーガン60を材料分注位置で示す頂面図である。部分A及び部分Bの流体成分は、それぞれ接続ブロック100a、100bを通って中に入る。スプレーガン60の混合・スプレー装置80部分は、この材料分注位置では、ガンハウジング90に対して引き込まれた位置にある。
【0039】
図6aは、好ましいスプレーガン60をガンハウジングと共に示す斜視図である。
【0040】
図6bは、好ましいスプレーガン60をガンハウジングなしで示す斜視図であり、この図に示す装置を、本発明の混合・スプレー装置80部分とも称する。
【0041】
図7は、混合・スプレー装置80の好ましい実施態様の分解図である。この装置は衝突混合エレメント140からなり、この中に背圧エレメント150が挿入される。ワッシャ160は、この好ましい実施態様では衝突混合エレメント140上にねじ込まれる静止型混合器ハウジング180をシールする役割を果たす。静止型混合器エレメント140とガンハウジング90との間のシールを形成し、パージエアが逃げるのを防ぐと共に、混合・スプレー装置80とガンハウジング90との間に滑りばめを維持するために、Oリング170が使用される。静止型混合エレメント190が静止型混合器ハウジング180内に挿入され、スプレーオリフィス200によって所定位置に保持される。好ましいスプレーオリフィス200は、様々なサイズ及び形状のオリフィスで所定範囲の流量及び様々なスプレーパターンを提供する、簡単に取換え可能なリバーシブルチップ210を含む、一般に入手可能なタイプのものである。この図面には、流れ方向に対して垂直なチップ210を、オフ位置で示す。スプレーオリフィスは、ネジ付接続部によって静止型混合器ハウジング180に接続される。
【0042】
好ましい静止型混合エレメント190は、プラスチック製の使い捨てタイプであり、スプレーオリフィス200をねじって静止型混合器ハウジング180から外し、使い捨ての静止型混合エレメント190を回転させて取出し、新しいものを押し込んで交換することにより、迅速且つ簡単に交換可能である。次いでスプレーオリフィス200をねじって静止型混合器ハウジング180上に取付ければ、スプレーシステム10は再稼働可能となる。必要に応じて、この好ましい実施態様では、静止型混合器ハウジング180をねじって衝突混合エレメント140から外し、新たな静止型混合エレメント190が入った新たな静止型混合器ハウジング180と迅速に交換することができる。交換したものは、スプレー操作を妨げることなくライン外で再生可能である。このエレメントは、回転させて取出すか、熱で溶かす、焼く、若しくは焼き切る等の他の手段で取外すことができ、又は強制的に押出す及び/又は1リットル未満の少量の溶剤を使用して、このエレメントの取外しを補助することができる。さらに、好ましい実施態様では、様々な静止型混合器ハウジングが、いろいろな静止型混合エレメントを収容するための様々な長さ、様々な内径で、入手可能である。一つ以上のエレメント若しくは一つ以上のタイプのエレメントをハウジング内に設置して、当業者であれば特定の複数成分配合物に合わせて適当に決定できる様々な混合特性を提供することもできる。
【0043】
図8は、好ましい衝突混合エレメント140の斜視図である。機械的、空気圧式、油圧式、電気的、若しくは他のタイプのアクチュエータを、後端のネジ110に取付け、衝突混合エレメントを長手方向に押し引きするのに充分な力をかけるのに使用する。
【0044】
図9は、好ましい衝突混合エレメント140の側面図である。ネジ220によって静止型混合器ハウジング180に接続する。この図面に示す流体入口つまり注入ポート230は、複数の成分流体の一つが加圧下で注入されるところである。衝突混合エレメント140の反対側にもう一つあるが、同じ大きさとする必要はない。
【0045】
図10は、好ましい衝突混合エレメント140の断面端面図である。この好ましい実施態様において、二つの流体成分注入ポート230、240は、衝突混合エレメント140の中心軸から約0.011インチ(0.028cm)だけ、僅かにオフセットしている。それぞれのポートのサイズも、衝突混合チャンバ250とは異なる。好ましい実施態様では、一方の注入ポート240のサイズは、約0.094インチ(0.24cm)であって、約0.042インチ(0.11cm)である他方の注入ポート230よりも実質的に大きい直径となっている。この好ましい実施態様の衝突混合チャンバ250の直径は約0.069インチ(0.18cm)であって、大きい方の注入ポートよりも幾分小さい。このチャンバに入る流体は、オフセットにより渦を巻く傾向と相まって、乱流となってチャンバに入る。
【0046】
図11は、好ましい衝突混合エレメント140の背面図である。
【0047】
図12は、好ましい衝突混合エレメント140の断面側面図である。後端には、アクチュエータに取付けるためのネジ110があり、反対側つまり前端には、静止型混合器ハウジング180に取付けるためのネジ220がある。流体成分注入ポート230、240並びに衝突混合チャンバ250の配置は、この図面から非常にはっきりとわかる。前端に設けたより大きな背圧エレメント挿入用空洞270は、背圧エレメント150を挿入するところである。
【0048】
図13は、垂直面を断面として
図5における13−13線の方向に見た、
図5の一部断面端面拡大図であり、材料混合分注部分のガンハウジング内における、衝突混合エレメント140と接続ブロック100a、100bとの間の封止接合部を示す。この位置において、接続ブロックポート120a、120bは各注入ポート230、240と一直線上に並ぶので、流体成分が中央の衝突混合チャンバ250へと通過することができる。
【0049】
図14は、好ましい背圧エレメント150の斜視図である。
【0050】
図15は、好ましい背圧エレメントの前面図である。好ましい実施態様における背圧ポート280の直径は、約0.060インチ(0.15cm)である。
【0051】
図16は、好ましい背圧エレメント150の断面側面図である。
【0052】
図17は、好ましい背圧エレメントの背面図である。
【0053】
図18は、好ましい静止型混合器ハウジング180の斜視図であり、これはネジ290を介して、衝突混合エレメント140の前端の対応するネジ220に接続される。Oリング170を収容するOリング溝300と、一対のレンチ溝320があり、レンチ溝は一方のみがこの図面に示されているが、もう一方は反対側にある。このレンチ溝は、衝突混合エレメント140から静止型混合器ハウジング180を迅速且つ容易に取外すのを容易にするためのものである。
【0054】
図19は、好ましい静止型混合器ハウジング180の背面図であり、後端雌ネジを示しているが、この雌ネジは、衝突混合エレメント140の前端に設けた対応するネジ220に接続する。この図面には、スプレーオリフィス200を螺合する、より大径の雄ネジ310も示す。
【0055】
図20は、好ましい静止型混合器ハウジング180の断面側面図である。長径0.250インチ(0.635cm)の孔330には段差が付けられて小径の孔340となり、この小径の孔は、静止型混合器エレメント190が奥まで挿入され過ぎるのを防ぐための段部として機能する。この好ましい実施態様では、スプレーオリフィス200を静止型混合器ハウジングの前端に螺合すると、静止型混合エレメントが流体によって下流へと移動してしまうのを防ぐ。
【0056】
図21は、好ましい静止型混合器ハウジング180の前面図であり、雄ネジ310及び内孔330、340をよりはっきりと示している。
【0057】
各流体成分の圧力は、混合材料がスプレーオリフィス200を出る際の霧化及び許容できるスプレーパターンの形成、装置10全体の効率的操作、そして衝突混合エレメント140内での効果的な初期混合に十分な圧力を生じさせるのに十分となるように、最低でも1,000psi(7,000kPa)とすべきである。しかしながら、本発明では300psi(2,00kPa)という低圧での実施に成功している。これに対して、好ましい最高圧力は、機材の磨耗を最小限とし、最大限の安全を確保するためには、3,500psi(24,000kPa)であるが、本発明は、現行の高圧スプレーシステムが作動する7,000〜10,000psi(50,000〜70,000kPa)という、これよりもはるかに高い圧力でも正常に機能する。各流体成分の圧力を一致させる必要は特にないが、各流体成分間の圧力差を1,000psi(7,000kPa)以内に留めておくことが好ましい。
【0058】
各流体成分間の体積比は、二成分配合物の場合、大きな困難を生じることなく、1:1から10:1までの範囲とすることができる。複数成分系では、触媒、発泡剤、顔料、及び/又は他の成分が配合物に含まれる場合等であっても、比率の高い成分の一つにこれらを予め配合しなくても、これよりもはるかに大きな比率差でも操作可能である。例えば、100万分のいくらか程度の極少量だけ添加された触媒を含む5:1の系でも機能する。
【0059】
複数成分配合物の各流体成分間の大きな粘度差は、高粘度流体成分を加熱して、システム内で流体を圧送できるような粘度まで低下させ、粘度の上限は、定量ポンプ40、50が圧力上限つまり極限動力に達するような粘度とすること、高粘度の流体成分用のホースやチューブのサイズを、低粘度の流体成分用のサイズよりも大きくすること、低粘度の流体成分用のホースやチューブのサイズを、高粘度の流体成分用のサイズよりも小さくすること、高比率側が高粘度である場合には、高粘度の流体成分に対応する衝突混合エレメント140の注入ポート240のサイズを、低粘度の流体成分用の注入ポート230よりも大きくすること、高粘度の流体成分の圧力を、低粘度の流体成分の圧力よりも高くすること、のうち一つ以上の手段によって対処することができる。
【0060】
混合・スプレー装置80が良好なスプレー結果を生じるよう、適切に形成されることを確実にするために、特別な注意が必要である。衝突混合エレメント140の注入ポート230、240を通して混合・スプレー装置に入る各流体成分は、充分な乱流を生じて混合工程が開始されるように、互いに、且つ衝突混合エレメント140の衝突混合チャンバ250の様々な表面と、接触する必要がある。背圧エレメント150は、この混合を補助し、低粘度の流体成分が高粘度の流体成分を超過しないように、充分な背圧を提供する必要がある。背圧が高すぎると、充分に混合された流体がスプレーオリフィス200から出て良好なスプレーパターンを形成するのが妨げられたり、注入ポート230、240の一つ以上で流体の混合及び閉塞が生じたりする等の問題が生じる。高粘度流体の場合、特に比率も高い高粘度の流体成分との比率差が大きい場合には、注入ポートは、背圧エレメント150よりも、直径を大きく、断面積をはるかに大きくしてもよい。注入ポート230、240は、衝突混合エレメント140の衝突温合チャンバ250中心線からオフセットしていて、流体成分が各注入ポート230、240から衝突混合エレメント140に入って、静止型混合器ハウジング180へ向かって下流へと移動し始める際に、乱流的ではあるが渦流を促進する。流体成分は、衝突混合エレメント140から下流へと移動するまでには、部分的に混合されるに過ぎない。背圧エレメント150の好ましい形状及び位置は、衝突混合エレメント内に嵌合し、一つ以上の静止型混合器エレメント190が入っている静止型混合器ハウジング180を衝突混合エレメントの端部に螺合することによって所定位置に固定されるインサートとすることであり、これによって背圧エレメント150が所定位置に固定される。好ましくはナイロンや他の適切な材料で作製されたワッシャ160も、背圧エレメント150と静止型混合器ハウジング180との間に挿入することができるが、これは必須要件ではない。ワッシャ160を含むことにより、流体の漏れを防止し、衝突混合エレメント140若しくは背圧エレメント150のいずれかが静止型混合器ハウジング180に対して振動する可能性を低くするのに役立つ。
【0061】
静止型混合器ハウジング180は、別のものと交換することができるように、若しくは静止型混合器エレメント190を取り外して交換するために、迅速且つ容易に取外すことができるようにすべきである。好ましい方法は、安価で、ハンドドリルやボール盤を使って容易に取出すことができる、使い捨てのプラスチック製円筒形エレメントを使用することである。また、ドリルを用いる方法が好ましいが、押出や焼き切りも可能である。混合する材料に合わせて、形状の異なる一つ以上の静止型混合エレメントを使用することができる。静止型混合器エレメントの選択は、背圧エレメント150の大きさを変えて背圧を増減させる必要が生じる等、背圧にも影響を与える。同様に、スプレーオリフィス200のサイズも、背圧エレメント150のサイズ決定に影響を与える。
【0062】
好ましいスプレーオリフィス200は、多くの工具店やスプレー機材供給業者から容易且つ安価に入手できる、一般に入手可能な普通のリバーシブルチップ210スタイルである。チップのサイズは、スプレーパターンの選択肢によって異なる。スプレーオリフィス200は、ネジ付接続部310を介して、静止型混合器ハウジング180に取り付けられる。別の好ましい選択肢は、材料を噴霧したくない場合に、注入ノズル若しくは注水ノズルタイプのスプレーオリフィス200を使用することである。これはモールドや亀裂を充填する場合に当てはまる。
【0063】
背圧エレメント150、静止型混合エレメント190、及びスプレーオリフィス200は、混合された流体成分が混合・スプレー装置80から分注されるまでに充分に混合されるように、注入ポート230、240が位置している地点であって衝突混合チャンバ250内で最初の衝突混合が生じる衝突混合エレメント140の地点から下流への流れを充分に遮断することができるよう、適度によく一致させる必要がある。この組合せによる遮断は重要であり、材料の適切な混合を生じさせるためにはおそらく必須である。しかしながら、この組合せによる遮断は度が過ぎてもいけない。遮断し過ぎると、材料が入口ポート230、240の一つ以上の中へと逆流したり、スプレーオリフィス200を通る流量が不十分となったり、スプレーパターンが不適切となったりする。
【0064】
適切な程度の遮断は、当業者が、適切なサイズのスプレーチップ210、適切な静止型混合エレメント190、及び適切なサイズの背圧エレメントを選択することにより、合理的に行うことができる。特定の配合物に合ったこれらエレメントの良好な組み合わせを見つけ出すためには、簡単な試験が必要かもしれない。同様に、衝突混合エレメント140の孔の適正なサイズ、並びに特定の配合物に合った適切なシステム操作温度及び圧力を確立するためには、試行錯誤や他の簡単な試験が必要かもしれない。複数成分スプレーシステムは歴史的に、たび重なる閉塞、機材の問題、混合の問題、若しくは混合材料をスプレーする際の異常を生じることなく、一貫して良好な結果を達成するよう上手く作用させるには、微妙な傾向がある。配合物に合うように装置を適切に設定するのが困難であることは普通であり、予測されることであるが、特定の配合物についてのパラメータが最初に見つかれば、このような困難は簡単に減少するはずである。
【0065】
以下の段落は、良好なスプレー結果を得るために、実務者が、適切なエレメント及びサイズを選択し、操作パラメータを設定するのを助けることを意図したものである。衝突混合エレメント140における適切な度合いの混合、並びに混合・スプレー装置80における適切な程度の遮断を行うことは重要なので、スプレーシステム10の温度及び圧力、並びに注入ポート230、240の寸法の設定について、さらに指針を示す。
【0066】
システム温度を設定するには、配合物の温度限界を考慮する必要があり、配合物の一つ以上の流体成分の過熱を防止するために、配合物製造者若しくは供給者が推奨する温度を越えてはならない。多くの配合物の場合、代表的には温度は約華氏210度(摂氏100度)までであるが、これよりもかなり低い最高温度に限られるものもある。実用的な最低温度は、華氏55度(摂氏15度)である。一つ以上の流体成分の局所的過熱の原因となるシステム内のホットスポットも、避けるべきである。温度設定は、最高温度限界よりも少なくとも数度低くすることを推奨する。実際には、好ましい加熱温度は、華氏65〜200度(摂氏18〜95度)の範囲内となる傾向がある。
【0067】
温度を設定するのに好ましい手順は、まず最も粘度が高い流体成分の温度を、最高温度限界よりも数度低く設定する。各流体成分の温度を個別制御できる複数成分ポンプシステムの場合には、低粘度の流体成分の温度を、高温の流体成分と粘度が最も一致するように設定すべきである。各流体成分の温度を個別制御できない複数成分ポンプシステムの場合には、低粘度の流体成分の粘度は、高粘度の流体成分と一致することはないと思われる。本発明では、各流体成分間の粘度差が大きくても許容できるので、これは大した問題ではない。しかしながら、粘度が違い過ぎて良好な混合を達成するのに問題がある場合には、個別温度制御可能な別のポンプシステムを探す前に、全体温度を下げてシステムを操作してみるべきである。ホース、チューブ、及び/又はパイプの長手方向にわたって加熱することが望ましくまた好ましい。
【0068】
複数成分定量ポンプのシステム圧力は、最高圧力が、機材供給者若しくは製造者が定めた機材の最高圧力能力を超えないように設定すべきである。このような最高圧力限界は、機材パッケージによって大きく異なる。現在使用されているタイプの複数成分システムでは、代表的には3000〜8000psi(20,000〜55,000kPa)の範囲である。最高作動圧力がより高いシステムもある。システム圧力を約2,000〜3,000psi(15,000〜20,000kPa)に設定するのが好ましいアプローチである。複数成分定量ポンプシステムでは、下流のある時点において最も抵抗が高い流体成分が、ポンプのシステム圧力を支配するように体積比がロックされているので、通常、圧力は個別制御できない。各流体成分の圧力を一致させる必要はないが、作業時に最も低圧の流体成分の圧力を、適切な混合を生じさせるだけ充分に高くすべきである。衝突混合は、適切な混合を生じるため圧力に依存しているので、全ての流体成分のうちの好ましい最低圧力は、1,000psi(7,000kPa)である。低圧の方が上手くいく場合もある。混合材料がスプレーオリフィス200を出る際に適切なスプレーパターンが得られるように、最低圧力も充分高くする必要がある。しかしながら、無気噴霧を必要とするスプレーオリフィスが必要とするほどの圧力を作業に必要としない、注水用、亀裂充填用、若しくはモールド充填用ノズルのように分注タイプのオリフィスもある。空気補助式スプレーオリフィスも、一般に無気タイプのものほど圧力を必要としない。好ましくは、最低圧力及び最高圧力をそれぞれ1,000psi(7,000kPa)、3,000psi(21,000kPa)で操作する。流体成分間の圧力差は一致させる必要はないが、この差異を最小限、好ましくは1,000psi(7,000kPa)以下に維持することが好ましい。各流体成分の温度を上方若しくは下方調整することにより、圧力に劇的な効果を与えることになるので、温度を維持して、混合・分注作業中の急激な圧力変化を避けることが重要である。高圧のシステムは費用がかかる上に作業コストも高い。また高圧で操作する機材では、安全もより重要な問題となる。
【0069】
高粘度の流体が含まれる場合には、スプレーガンへの充分な流れと送出を確保するために、システム圧力を上げる必要があるかもしれない。粘度1,000,000cPを超える流体成分を一つ以上含む配合物の場合は、圧力を7,000psi(50,000kPa)以上に近付ける必要があるかもしれない。しかしながら、一般的に本発明のシステムでは、必要な圧力は、このような配合物を混合・分注するのに使用する伝統的な溶剤洗浄システムよりも低い。
【0070】
別の可変要素は、定量ポンプ40、50とスプレーガン60との間のホース、チューブ、若しくはパイプのサイズ及び長さである。粘度のある流体がホース及び/またはチューブの長手方向に移動できるよう、直径を充分大きくすることが必要である。各成分の充分な流体流を可能にする最も小さいサイズを用いることが好ましいが、これは必須要件ではない。サイズは代表的には、長さ50〜500フィート(15m〜150m)の手持ちスプレーガンの場合、公称直径1/4インチ〜1/2インチ(0.6cm〜1.3cm)の範囲である。しかしながらプラント内システムでは、最大2インチ(5cm)以上、場合によってはさらに長い、これよりもはるかに大きい直径を用いることがよくある。例えば、製造プラントでは、1セットの定量ポンプから多重オリフィスに供給するシステムを使用する場合があり、よって大きなパイプサイズが必要となる。
【0071】
好ましい実施態様の衝突混合エレメント140の注入ポート230、240のサイズを決める好ましい手段は、比較的簡単である。各流体成分の相対的圧力が、これら各ポートのサイズを決める際のガイドの役割を果たす。出発点は、粘度比が1:1と一致した流体成分の組からである。ここで、注入ポート230、240を同じサイズとし、比較的小径の0.040インチ(0.10cm)から始めても良い。この場合、圧力は一致に近くすべきである。比率1:1の流体成分の一方の粘度が他方よりもはるかに高い場合、高粘度の流体成分に対応するポートのサイズは、相対的圧力が互いに約1,000psi(7,000kPa)以内となるまで、大きくすべきである。同様に、比率が異なる場合には、比率の高い方に対応するポートのサイズを、相対的圧力が約1,000psi(7,000kPa)以内となるまで、大きくすべきである。ポートの最大サイズは、直径約0.100インチ(0.25cm)である。
【0072】
衝突混合チャンバ250のサイズは、この好ましい実施態様でも、好ましい直径0.069インチ(0.18cm)から通常は変わらないが、必要に応じて、望まれる生産高体積に合わせて変えることができる。所定の生産高体積について、各操作周期の終わりに混合・スプレー装置80から一掃すべき混合材料の量を最小限にするために、チャンバはできるだけ小さくすべきである。小さすぎると、スプレーオリフィス200を出る混合材料の流れが不十分となって、望まれる生産高体積を満たすことができなくなる。直径0.069インチ(0.18cm)の衝突混合チャンバ250は、標準的な市販のスプレーオリフィス200及び一般的に市販されているチップ210に合うように適合されている。好ましいチップ210は様々なサイズで入手可能であるが、0.015〜0.050インチ(0.038〜0.13cm)が好ましい。このような一般に入手可能なチップ210には、様々なスプレーパターン幅や形状もある。上述の通り、注入ポート230、240の中心線と衝突混合チャンバ250の中心とのオフセット距離は、好ましくは約0.042インチ(0.11cm)である。注入ポートを衝突混合エレメント140の中心まで延ばした時にチャンバに辿り着かないことがないように、オフセット距離には、注入ポートのサイズ範囲を吸収する幾分のばらつきがあっても良い。オフセットが過ぎても、衝突混合エレメント140の側面にしっかりと圧着して効果的な流体シールを維持する必要がある流体成分接続ブロック100a、100bと干渉してしまう。
【0073】
背圧エレメント150は、衝突混合チャンバ250とスプレーオリフィス200との間であれば、どこに配置してもよいが、この好ましい実施態様のように、衝突混合エレメント140と静止型混合器ハウジング180との間に挿入することが好ましい。好ましい実施態様における背圧エレメントのオリフィス280の直径は、約0.060インチ(0.15cm)であり、高粘度の流体の場合にはこれを約0.069インチ(0.18cm)まで大きくする。衝突混合チャンバ250から背圧エレメント150を通って、静止型混合エレメント190との最初の接触が生じる静止型混合器ハウジング180の入力側までの距離は、ここでも、各操作周期の終わりに混合・スプレー装置80から一掃すべき混合材料の量を最小限とするために、最小限とする。図に示す好ましい実施態様では、この距離は約1インチ(2.5cm)である。
【0074】
静止型混合器ハウジング180及びこれに関連する静止型混合エレメント190の長さは、適切な混合を行うのに必要な最小限の長さとする。この長さは、各操作周期の終わりに混合・スプレー装置80から一掃すべき混合材料の量を最小限とするために、最小限とする。静止型混合器ハウジング180の公称直径は1/4インチ(0.63cm)で、使い捨てプラスチックエレメント190を収容し、好ましい実施態様においてこのエレメントは、長さ1/4インチのセグメント、つまり「巻き」から形成され、各セグメントは静止型混合器ハウジング180内で巻きを形成している。これらは様々なスプレー機材供給者から容易に入手可能である。静止型混合エレメント190は、混合材料が溜まって、システムが作動不能となるほど流量を妨げている場合に、容易に回転させて取り出すことができる、高密度ポリエチレン若しくはナイロン等、様々なプラスチック材料から製造される。好ましい実施態様で使用する静止型混合器は、巻き回数で特定される、4回、6回、8回、10回、及び12回のものである。所定の配合物に合ったものの選択は、最も短いものから始めて、混合の品質をチェックし、次いで充分な程度の混合が達成できるまで長いものへと延ばしていく、という簡単な手順である。混合の品質は、最終的な硬化材料の物理的性質を試験することにより、容易に突き止めることができる。必要数よりも数巻き回多くても害はないが、長いものは短いものよりも、回転させて取り出す際に労力を要し、長いものはスプレーガン60の重量及びサイズを若干増加させるので、通常は望ましくない。好ましくは、ガンのサイズ及び重量を最小限とするものとする。短いミキサーは、エアパージの有効性を向上させる助けともなる。
【0075】
混合材料が入っている混合・スプレー装置80部分の全長は、約4±2インチ(10±5cm)である。
【0076】
Roosenの'490号特許の可塑化石膏組成物を用いて以下に示す詳細で行った、Roosenの'490号特許の配合物を包含するように行った本発明の改良についての一連の実験により、本発明の非常に特殊な好ましい実施態様が明らかになった。本発明が包含し得る非常に多くの配合物並びにそのバリエーションは、数千、恐らく数万から数十万あるので、実験に使用したこの好ましい実施態様を説明する基礎をなすこの特定の配合物及びそのバリエーションは、むしろ本発明の特定の狭い知見を代表していることに留意することが重要である。
【0077】
本発明の実験に導入したRoosenの'490号特許の最初の配合物は、重量比による主要成分として石膏、硫酸カルシウムの二水和物を含む、二部分型複数成分配合物である。これは、最もシンプルには、部分Aがポリオールサイドを含む液体石膏であり、部分Bが当業界で一般にMDIと称される高分子ジフェニルメタンジイソシアネートである慣用の液体イソシアネートである、二部分型ポリウレタンとして表現することができる。特に、この実験に使用したMDIは、ダウ・ケミカル社(Dow Chemical Company)が商品名PAPI-27として現在製造している製品である。以下の説明において、実験で使用した配合物のバリエーションは、石膏41〜42%(重量比)を含む配合物を意味する最初の「石膏41〜42%PBW」から始まって、各配合物中の石膏の重量%で特定している。実験が進むにつれ、石膏のレベルを、石膏62〜65%(重量比)を含むことを意味する「石膏62〜65%PBW」の配合物まで上げていった。実験において配合物を変更する手段は、単純に、部分Aの液体成分に追加量の乾燥石膏粉末を添加することによるものであった。
【0078】
実験に使用したRoosenの'490号特許の最初の配合物(石膏41〜42%PBW)の部分A及び部分Bの流体成分組成はそれぞれ以下の通りである。
石膏41〜42%PBW配合物
部分A流体成分:
石膏 部分Aの48.95%PBW
ヒマシ油 部分Aの45.33%PBW
二酸化チタン 部分Aの3.16%PBW
酸化鉄(黒) 部分Aの1.36%PBW
合成ゼオライト 部分Aの1.20%PBW
部分B流体成分:
ダウ PAPI-27 MDI 部分Bの100%PBW
【0079】
複合配合物は、部分Aと部分Bとの最適比が5:1PBW若しくは83:17PBWであるが、80:20PBWから85:15PBWの範囲もあり、この範囲では特性は大きく異なるが、混合材料は適切に硬化する。定量ポンプについて用いるには、重量比を体積比に換算する必要がある。この実験の目的のために、以下の二つの体積比を選択した。
4.66:1(部分A対部分B)PBV(体積比)、及び
5.00:1(部分A対部分B)PBV(体積比)。
【0080】
比率は、油圧作動式比率定量ユニット40、50のピストン及びシリンダを交換することにより、手動で再設定した。4.66:1PBVの比率は、低比率石膏配合物に使用するものであり、高比率石膏配合物の場合には5.00:1に変更した。石膏を部分A流体成分に追加することによりその比率が高くなると、適当な物理的特性で混合材料を効果的に硬化させるために、重量比及び体積比を増加させる必要があった。
【0081】
いくつかの実験では、部分A流体成分に添加する発泡剤として、エタノール40%、水60%の混合物を使用した。またいくつかの実験では、ジブチルスズジラウレート(DBTL)である硬化剤(触媒/促進剤)を部分A流体成分に添加した。これらの実験において、添加した発泡剤若しくは硬化剤の量は、いずれも0.25%PBWを越えなかった。
【0082】
衝突混合エレメント140の各注入ポート240、230の直径は、部分A用注入ポート240を0.093±0.002インチ(0.236±0.005cm)、部分B用注入ポート230を0.43±0.02インチ(0.109±0.005cm)とした。衝突混合チャンバ250の直径は、0.069±0.001インチ(0.175±0.003cm)とした。部分A及び部分B流体成分用のホースの公称サイズは、石膏62〜65%PBWの実験以外は、50フィート(15m)でそれぞれ1/2インチ(1.3cm)及び3/8インチ(1.0cm)であり、スプレーガン60に近い10フィート(3m)は、1/4インチ(0.6cm)のホイップホースとし、上記実験では、部分Bのラインを全長にわたって1/4インチ(0.6cm)に縮径した。ポンプからガンまでのホースの全長は、合計60フィート(20m)であった。静止型混合器ハウジングの孔330のサイズは、公称直径1/4インチ(0.6cm)であり、静止型混合エレメント190を手で押し込むことにより、静止型混合器ハウジング180内にぴったりと嵌合する。静止型混合器ハウジング180は、使い捨てプラスチックエレメント190を保持しており、好ましい実施態様では、このエレメントは長さ1/4インチのセグメントつまり「巻き」で構成され、各セグメントが静止型混合器ハウジング180内で巻きを形成している。
【0083】
実験において変化させた機材構成、配合物、及び方法の詳細は以下の通りである。
【0093】
混合の品質は、作製した試料に条線、傷、若しくは積層が数ヶ所しかない、若しくは全くない場合に、顕著に高いと判断する。石膏50%PBWを超える高石膏含有量でのスプレーを成功させる性能は、予期できない特別な結果であった。高温では、石膏62〜65%PBWの部分A流体成分の粘度は約100,000cP(センチポイズ)であり、部分B流体成分の粘度は約100cPであり、前者は後者の約1,000倍高かった。さらに全く予期していなかったことは、高石膏含有量で製造した試料片の表面仕上げが、低石膏含有量のものと比較しても同等若しくはそれよりも良い場合もあるということであった。スプレーパターンも、高石膏含有量の実験で同等若しくは僅かに良い場合もあった。いかなる特定の理論にも拘束されないが、本願出願人は、これは高石膏含有量の材料が、初期硬化時に高密度及び高比熱容量の両方を満たしているため、特に発泡体を作成する場合に、より均等な硬化特性が得られるためであると考える。本願出願人は、このような予期せぬ結果の原因究明を続けて行く。
【0094】
本願出願人は、これらの実験において、粘度及び各流体成分の比率が多岐にわたるにもかかわらず、優れた品質の混合を達成できた理由は、本明細書に合理的説明及び理論が提示されていると充分に理解される流体力学的、機械的、及び熱力学的効果と化学反応動力学との組み合わせに根本がある、と考える。高度な数値流体力学(CFD)解析と、それに関連して流体の運動中に同時に変化する化学的及び物理的性質の解析との組み合わせによって、この分野における見識がより深まるものと期待される。しかしながら出願人は、ここでもいかなる特定の理論にも拘束されないが、当業者が多大な困難なく、また簡単な試験以上のものを行うことなく、本発明を実施できるようにすることを助けるために、以下の説明を示しておく。
【0095】
各注入ポート230、240を通って衝突混合エレメント140に入る流体成分は、高い圧力、粘度、及び温度下にある。これらの流体成分は、小さな衝突混合チャンバ250内へと押し込まれ、そこでまず若干乱流状態で接触する。背圧エレメント中に強制的に通される合流した流体を組み合わせることによって背圧が生じると共に、下流の他のエレメント180、190、200が、正味量の背圧を生じる。背圧は、流体を注入ポート230、240の一つ以上に逆流させるほど大きくはないが、流体が最初の衝突混合領域を出るのが早過ぎたり容易過ぎたりするのを防ぐと共に、流体に与えられるエネルギー量をさらに増加させる役割を果たす遮断を、効果的に形成するのに十分な程度大きい。これにより、流体のより局所的な加熱が生じ、流体成分を化学的に結合させて重合させるのに必要な化学反応の速度を大いに加速させるのに十分な運動エネルギーが提供される。加熱が加速することにより、発熱化学反応がさらに強まり、それによってさらに熱が産生される。このサイクルは、注入ポート230、240から入ってくる新たな材料によって、流体がさらに下流へと移動する前に硬化した固体とならない程度まで続く。しかしながら、硬化して固体にはならないが、最初の衝突混合チャンバ250内で数多くの核生成部位が生じていると考えられる。合流して部分的に混合した流体が静止型混合エレメント190に向かって移動し、その中へ入る際に、未だ激しい条件下で、これらの粒子は高い分子量となり、よって運動量が大きくなる。このようにより大きく成長する粒子を含む流体は、静止型混合エレメント190を徐々に進んでいく間に、代表的には早い段階で重合するという利点なしに静止型混合器に入る従来技術の装置における粒子よりも、運動量が大きくなる。静止型混合はさらにずっと効果的になるので、さらにずっとコンパクトになり得る。本発明のよりコンパクトなスプレーガン60では、代表的な慣用のシステムよりも混合領域が小さいので、このことによってスプレーガン60のサイズ及び重量の要件が少なくなり、溶剤パージシステムを不要とすることができる。このような小さい混合領域により、機材を効率的に作業可能状態に維持することができる無溶剤法が可能となる。これとは対照的に、代表的な溶剤洗浄式の静止型混合システムは、本発明の無溶剤複数成分スプレーシステム10と比較して、インチ(cm)若しくはインチの数分の一(mm)よりもフィート(メートル)で計る方が容易な混合領域を含む。
【0096】
本発明による手持ち型の好ましいスプレーガン60は、本発明の特徴により、適度にコンパクトで、重量が2.5ポンド(1.1kg)未満である。多くの作業では、作業者の疲労を最小限に抑えることが重要である。大半の場合、大きくて重いガンほど望ましくなく、場合によっては、特定の目的として操作不能若しくは適合しない場合がある。
【0097】
先に述べた密度についての説明は、上記の力学についても関連性があるが、本発明で試験した材料は、高密度成分若しくは含有物と低密度成分若しくは含有物との比率に関わらず、本発明では充分に混合可能である。
【0098】
このように静止型混合エレメント190のサイズ及び/又は長さを大いに削減して適切な混合を達成することができることにより、溶剤パージシステムを使用しなくて済むようになった。またこれらの実験のための操作において、各作業の終わりに、衝突混合エレメント140の衝突混合チャンバ250から残留物を一掃するエアパージ的な側面もあった。これらの実験から完全に明らかではないが、エアパージを有効にしておくことは必要かもしれない。あるいは、エアを使用しない場合には、チャンバ内へさらに深く入る手段、若しくはチャンバを清浄に保つための他の手段が必要かもしれない。
【0099】
本発明の無溶剤スプレーシステム10で作製する製品は多種多様である。本発明の最も明白な用途は、防食及び審美的理由のために表面をスプレーコーティングすることであり、ウレタン、エポキシ、尿素、若しくはこのような目的で入手可能な他のタイプの複数成分配合物の一つを用いることができる。本発明のスプレーシステム10には、現在使用されているシステムの大半にはない、予想も意図もしていない別の利点及び長所がある。溶剤パージシステムを備えるガンの上流に使用する混合マニホールドを使用する必要がないので、混合材料の滞留時間を非常に短くすることができる。本発明によれば、衝突混合エレメント140の衝突混合チャンバ250内で最初の混合が行われる地点から約4インチ(10cm)以内にあるスプレーオリフィス210を通して、混合材料をスプレーすることができるので、複数成分配合物の化学的性質が、特定の触媒、追加熱、若しくは他の手段の使用による反応の促進を許すものである場合、様々な配合物の一部若しくは全ての硬化速度を非常に加速させることができる。このことは、保護コーティングとして使用することが近年広く認められるようになってきたエポキシ配合物の場合、特に興味深い。
【0100】
本発明のスプレーシステム10によって作製可能な製品は、シングル屋根板及び屋根膜、建築用成型品、構造及び非構造パネル等の様々なタイプの成型品も含む。配合物を発泡させる発泡剤の添加により、若しくは添加せずに、粘度の高い材料を迅速に塗り上げることができるスプレーシステム10の性能には、自動車製造、インフラ復興、建築業、造船等、数多くの業界において広範囲にわたる用途がある。
【0101】
道路標示線も、本発明のスプレーシステム10を用いて製造できるものの別の一例である。橋梁や、工場の床、飛行機の格納庫、駐車場等の通行面のコーティングも、硬化速度を加速して、若しくは硬化速度を加速せすに、使用できる本発明の性能を生かすことができる。例えば、道路に破線を形成する場合、各作業の終わりに溶剤を使ってシステムをパージする必要がないので、長さの決まっていない所定パターンの道路標示線を非常に効率的に無駄なく形成するように本発明のスプレーシステム10を適合させることは、比較的簡単である。道路標示線の各破線ごとに止まって、スプレーオリフィスを止める必要性について、上記の実験において、Roosenの'490号特許の配合物を用いて試験を行った。一日かけて一連の開始/停止作業を100回行ったが、その前、最中、その後において、使用したいずれの機材を浄化するためにもいかなる溶剤も使用する必要はなかった。本発明に従って形成したもののように数秒で硬化する道路標示線は、ゆっくり硬化するものよりも望ましく且つ好ましい。
【0102】
本発明の好ましい形態について開示してきたが、本明細書に開示し説明した発明の特定の実施態様は、多数のバリエーションが可能であるので、限定的なものとして解釈すべきものではない。本発明の主題は、本明細書に記載した様々なエレメント、特徴、機能、及び/又は特性の、全ての新規且つ非自明なコンビネーション及びサブコンビネーションを含むものである。開示された実施態様の特徴、機能、エレメント、若しくは特性のうち必須のものはない。以下の特許請求の範囲は、新規且つ非自明であると考えられる特定のコンビネーション及びサブコンビネーションを規定するものである。特徴、機能、エレメント、及び/又は特性の他のコンビネーション及びサブコンビネーションは、現請求項の補正によって、又は本願若しくは関連出願における新たな請求項の追加によって、請求する場合がある。このような請求項も、原請求項よりも範囲が広い、狭い、同等であるかにかかわらず、本発明の主題に含まれるものとする。本発明はまた、専門家が自己の知識並びに場合により一連の決まった簡単な試験に基づいて、本明細書を読んですぐに理解できるであろう全ての実施態様及び全ての応用を含む。