【文献】
Ohta N et al,Journal of Pharmaceutical Sciences,1983年,Vol.72, No.4,p.385-388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
不飽和カルボン酸アミド化合物の製造方法としては、不飽和カルボン酸とアミンとを、脱水縮合させる方法が知られている。特許文献1には、カルボジイミドを脱水縮合剤として使用し、2−ヒドロキシ桂皮酸とアミン類を脱水縮合させて2−ヒドロキシ桂皮酸アミドを得る方法が記載されている。また、非特許文献1には、N,N−カルボニルジイミダゾールを脱水縮合剤として使用し、4−メトキシ桂皮酸とアミン類を脱水縮合させて4−メトキシ桂皮酸アミドを得る方法が記載されている。しかし前記方法で使用する脱水縮合剤は高価で、強いアレルギー反応を引き起こす場合があるため、工業的に有利な方法とはいえない。また、不飽和カルボン酸ニトリルの水和により不飽和カルボン酸アミドを得る方法も知られているが、不飽和カルボン酸の種類によっては反応の選択性が低下する等、必ずしも一般的な方法とはいえない。
【0003】
そのため、不飽和カルボン酸アミドの合成方法としては、不飽和カルボン酸クロリドとアミンを反応させる方法が多用されている。また、不飽和カルボン酸クロリドの製造方法としては、不飽和カルボン酸と塩化チオニルを反応させる方法が、塩化チオニルの沸点が比較的低く、余剰の塩化チオニルの除去が容易である点等から最も一般的である。非特許文献2には、不飽和カルボン酸と前記不飽和カルボン酸に対して8.6モル倍の塩化チオニルを冷却下で混合し、反応が開始してから加熱還流状態にして不飽和カルボン酸クロリドを得る方法が記載されている。
【0004】
すなわち、不飽和カルボン酸アミドの製造方法としては、不飽和カルボン酸と塩化チオニルを反応させることにより不飽和カルボン酸クロリドを合成し、得られた不飽和カルボン酸クロリドとアミンを反応させることにより不飽和カルボン酸アミドを合成する方法が一般的である。
【0005】
一方、高機能材料、例えば、電気・電子部品の製造に利用される感光性高機能材料(レジスト材料)、とりわけ高信頼性が要求される半導体封止材料、半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等のパッケージ材料、及び半導体、液晶ディスプレイやMEMS用感光性材料等においては、その構成材料の高純度化が要求されている。なかでも含塩素化合物は、電気・電子部品の性能に大きな影響を与えることが知られている。特許文献2には、副生物に含まれるハロゲン原子が露光時にハロゲンアニオンとなって酸発生剤の効果を低下させ、感度を低下させることが開示されている。また、特許文献3には、吸湿により塩素イオンを遊離する加水分解性塩素等多くの有機塩素化合物を不純物として含有する化合物を電気・電子部品の製造に使用すると、配線の腐食や断線、絶縁性の低下が起きやすくなり、電気・電子部品の信頼性の低下が生じることが開示されている。
【0006】
そのため、精製処理を施すことにより不飽和カルボン酸アミドを含む高純度の結晶を得ることが重要である。しかし、従来の精製方法で精製して得られた不飽和カルボン酸アミド化合物の結晶は純度は高いが綿毛状を呈し嵩密度が低く嵩張るため、乾燥する際には大きな乾燥機で乾燥させる、若しくは少量ずつ複数回に分けて乾燥させる必要がある等取り扱い性が悪く、運搬性、充填性も悪いことが問題であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、医薬、農薬、高分子材料、機能材料やこれらの中間体等のファインケミカルとして有用であって、高純度且つ嵩が低く取り扱い性に優れた不飽和カルボン酸アミドの結晶を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記高純度且つ嵩が低く取り扱い性に優れた不飽和カルボン酸アミドの結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、不飽和カルボン酸を塩化チオニルで塩素化して得られた不飽和カルボン酸クロリドにイミダゾール化合物を反応させる不飽和カルボン酸アミドの製造方法において、塩化チオニルの使用量を特定の範囲に調整、若しくは反応後に吸着剤を用いて精製する反応工程を設けると、含塩素化合物含有量の極めて低い不飽和カルボン酸アミドが得られること、反応後、更に、水で洗浄し、水含有量が0.3重量%以下となるまで共沸脱水した後に晶析することにより、高純度且つ嵩が低い不飽和カルボン酸アミドの結晶が得られることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
(式中、R
1〜R
5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R
1〜R
5のうち少なくとも2つが互いに結合して芳香環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい。R
6、R
7、R
8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R
7、R
8は互いに結合して、イミダゾール環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
で表される不飽和カルボン酸アミドを95面積%以上(ガスクロマトグラフィーを使用し、下記分析条件により測定)含み、嵩密度が0.2〜0.7g/mLであることを特徴とする結晶を提供する。
ガスクロマトグラフィーの分析条件
カラム DB−1701
径×長さ 0.25mm×30m
膜厚 0.25μm
スプリット比 1/50
流速 1mL/min(He)
注入量 1μL
注入口温度 250℃
検出器温度 280℃
昇温条件 50℃で4分間保持し、その後15℃/分で280℃まで昇温し、280℃で10分間保持
分析時間 30分
【0012】
前記結晶のX線回折において、2θが6.0〜8.0、13.5〜15.5、及び16.5〜18.0から選択される少なくとも1つの範囲にピークがあり、且つ、2θが9.0〜10.5、12.5〜13.5、及び29.0〜30.0の範囲にピークがないことが好ましい。
【0013】
前記不飽和カルボン酸アミドとしては、下記式(1-1)〜(1-6)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物が好ましい。
【化2】
【0014】
本発明は、また、下記式(2)
【化3】
(式中、R
1〜R
5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R
1〜R
5のうち少なくとも2つが互いに結合して芳香環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
で表される不飽和カルボン酸を、塩化チオニルにより塩素化して、下記式(3)
【化4】
(式中、R
1〜R
5は前記に同じ)
で表される化合物を得る反応工程1、及び得られた上記式(3)で表される化合物と下記式(4)
【化5】
(式中、R
6、R
7、R
8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R
7、R
8は互いに結合して、イミダゾール環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
で表されるイミダゾール化合物を反応させることにより、下記式(1)
【化6】
(式中、R
1〜R
8は前記に同じ)
で表される不飽和カルボン酸アミドを得る反応工程2、及び精製工程を含む前記結晶の製造方法であって、下記2要件を具備する結晶の製造方法を提供する。
1.反応工程1において塩化チオニルの使用量を上記式(2)で表される不飽和カルボン酸の0.5〜3.0モル倍とする、及び/又は精製工程において吸着剤を用いて含塩素化合物を分離・除去する。
2.精製工程において反応系内に水を加えて洗浄し、水含有量が0.3重量%以下となるまで共沸脱水した後に晶析する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の結晶は、上記式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドを95面積%以上含み、嵩密度が0.2〜0.7g/mLであるため、高純度であり、且つ嵩が低く取り扱い性(作業性、運搬性等)に優れる。そのため、工業製品の原料として特に有用であり、医薬、農薬、高分子材料、高機能材料[例えば、電気・電子部品の製造に利用される感光性高機能材料(レジスト材料)、とりわけ高信頼性が要求される半導体封止材料、半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等のパッケージ材料、及び半導体、液晶ディスプレイやMEMS用感光性材料]等やこれらの中間体として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[結晶]
本発明の結晶は、下記式(1)
【化7】
(式中、R
1〜R
5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R
1〜R
5のうち少なくとも2つが互いに結合して芳香環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい。R
6、R
7、R
8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R
7、R
8は互いに結合して、イミダゾール環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
で表される不飽和カルボン酸アミドを95面積%以上含み、嵩密度が0.2〜0.7g/mLであることを特徴とする。
【0018】
本発明の結晶は、下記式(2)
【化8】
(式中、R
1〜R
5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R
1〜R
5のうち少なくとも2つが互いに結合して芳香環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
で表される不飽和カルボン酸を、塩化チオニルにより塩素化して、下記式(3)
【化9】
(式中、R
1〜R
5は前記に同じ)
で表される化合物を得る反応工程1、及び得られた上記式(3)で表される化合物と下記式(4)
【化10】
(式中、R
6、R
7、R
8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R
7、R
8は互いに結合して、イミダゾール環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
で表されるイミダゾール化合物を反応させることにより、下記式(1)
【化11】
(式中、R
1〜R
8は前記に同じ)
で表される不飽和カルボン酸アミドを得る反応工程2、及び精製工程を含み、下記2要件を具備する方法により製造することができる。
1.反応工程1において塩化チオニルの使用量を上記式(2)で表される不飽和カルボン酸の0.5〜3.0モル倍とする、及び/又は精製工程において吸着剤を用いて含塩素化合物を分離・除去する。
2.精製工程において反応系内に水を加えて洗浄し、水含有量が0.3重量%以下となるまで共沸脱水した後に晶析する。
【0019】
前記R
1〜R
5におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等の炭素数1〜4程度のアルキル基等を挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ基等の炭素数1〜6程度のアルコキシ基等を挙げることができる。R
1〜R
5のうち少なくとも2つが互いに結合して芳香環を構成する炭素原子と共に形成する環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン環等の炭素数6〜20程度(好ましくは6〜14)の芳香環;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロオクタン、シクロドデカン、アダマンタン、ノルボルナン、ノルボルネン環等の3〜20員程度(好ましくは3〜15員、特に好ましくは5〜12員)の炭化水素環(シクロアルカン環、シクロアルケン環、及び橋かけ炭素環)等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、R
1、R
2、R
4、R
5が水素原子であり、R
3がメトキシ基であることが、吸光感度に優れる化合物を得ることができる点、及び原料の入手が容易な点で好ましい。
【0020】
前記R
6、R
7、R
8におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基等の炭素数1〜20程度(好ましくは1〜10)のアルキル基等を挙げることができる。アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜20程度(好ましくは6〜14)のアリール基等を挙げることができる。
【0021】
前記R
7、R
8が互いに結合して、イミダゾール環を構成する炭素原子と共に形成する環としては、例えば、ベンゼン環等の芳香環等を挙げることができる。前記環は、置換基として、メチル、エチル、プロピル基等の炭素数1〜3程度のアルキル基や、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜20程度(好ましくは6〜14)のアリール基等を有していてもよい。
【0022】
式(4)で表されるイミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−フェニルベンゾイミダゾール等を挙げることができる。
【0023】
式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドの具体例としては、下記式(1-1)〜(1-6)で表される化合物等を挙げることができる。本発明の結晶は、なかでも下記式(1-1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0025】
[反応工程1]
反応工程1は、上記式(2)で表される不飽和カルボン酸を塩化チオニルにより塩素化して上記式(3)で表される化合物を得る工程である。
【0026】
塩化チオニルの使用量は、式(2)で表される不飽和カルボン酸の0.5〜3.0モル倍程度(好ましくは0.8〜2.5モル倍、より好ましくは0.9〜1.8モル倍、特に好ましくは1.0〜1.5モル倍、最も好ましくは1.0〜1.3モル倍)である。塩化チオニルの使用量が上記範囲を上回ると、副生物である含塩素化合物の生成量が増加して、感光性高機能材料として使用することが困難となる傾向がある。一方、塩化チオニルの使用量が上記範囲を下回ると、目的化合物の収率が低下する傾向がある。尚、本発明において含塩素化合物とは、本発明の不飽和カルボン酸アミドの製造方法により副生する全ての塩素原子含有化合物を意味する。主な含塩素化合物としては、上記式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドの塩素化物、及びその類縁体等を挙げることができる。
【0027】
上記塩素化反応は溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。前記溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の飽和又は不飽和炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;スルホラン等のスルホラン系溶媒;ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;シリコーンオイル等の高沸点溶媒等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
これらの中でも、芳香族炭化水素系溶媒やハロゲン化炭化水素系溶媒を特に好ましく使用でき、上記塩素化反応に使用する全溶媒(100重量%)に占める芳香族炭化水素系溶媒及びハロゲン化炭化水素系溶媒の割合(2種以上使用する場合はその総量)としては、例えば10重量%以上(好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上、最も好ましくは80重量%以上)である。
【0029】
溶媒の使用量は、反応基質を溶解又は分散することが可能であり、且つ、経済性等を損なわない範囲であれば特に制限されることがなく、例えば、式(2)で表される不飽和カルボン酸1重量部に対して、例えば1〜100000重量部程度、好ましくは1〜10000重量部である。
【0030】
上記塩素化反応は、例えば、式(2)で表される不飽和カルボン酸を仕込んだ系内に、塩化チオニルを滴下することにより行うことができる。反応時間は、例えば0.5〜48時間程度、好ましくは1〜36時間、特に好ましくは2〜24時間である。塩化チオニルの滴下時温度としては、例えば40℃以上、反応系内に存在する物質の沸点以下、好ましくは55〜120℃、特に好ましくは60〜75℃である。また、塩化チオニル滴下終了後の反応温度としては、例えば55℃以上、反応系内に存在する物質の沸点以下、好ましくは55〜120℃、特に好ましくは60〜75℃である。塩化チオニルの滴下時温度と滴下終了後の反応温度は同一であってもよく、異なっていてもよい。塩化チオニルの滴下時温度、及び滴下終了後の反応温度が上記範囲を下回ると、式(3)で表される化合物の収率が低下する傾向がある。一方、塩化チオニルの滴下時温度、及び滴下終了後の反応温度が上記範囲を上回ると、副生物である含塩素化合物の生成量が増加して、感光性高機能材料として使用することが困難となる場合がある。
【0031】
上記塩素化反応は、加圧下、常圧下又は減圧下(例えば0.0001〜0.1MPa程度、好ましくは0.001〜0.1MPa)の何れで行ってもよいが、常圧下又は減圧下で行うことが多い。
【0032】
本発明においては、反応工程1中若しくは反応工程1終了後に、過剰の塩化チオニルの除去操作を行うことが、結晶中の含塩素化合物含有量を低減することができる点で好ましい。過剰の塩化チオニルの除去手段としては、慣用の方法、例えば、脱気、抽出、蒸留、精留、分子蒸留、吸着を用いた分離等を用いることができる。これらは、連続的に行ってもよく、非連続的(回分式)に行ってもよい。また、操作時圧力は、減圧又は常圧の何れであってもよい。
【0033】
更に、反応工程1では、副生する酸性ガス(例えば、塩化水素、二酸化硫黄等)を反応系から連続的に分離しつつ反応を行うことが、結晶中の含塩素化合物含有量を低減することができる点で好ましい。副生する酸性ガスの分離手段としては、慣用の方法、例えば脱気、抽出、蒸留、精留、分子蒸留、吸着を用いた分離等を用いることができる。これらは、連続的に行ってもよく、非連続的(回分式)に行ってもよい。また、操作時圧力としては、減圧又は常圧の何れであってもよい。
【0034】
[反応工程2]
反応工程2は、反応工程1で得られた式(3)で表される化合物と式(4)で表されるイミダゾール化合物を反応させて、式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドを得る工程である。
【0035】
式(4)で表されるイミダゾール化合物の使用量としては、式(3)で表される化合物の、例えば0.5〜20.0モル倍程度、好ましくは0.8〜8.0モル倍、特に好ましくは1.0〜3.0モル倍である。式(4)で表されるイミダゾール化合物の使用量が上記範囲を上回ると、反応の操作性及び経済性を損ねる傾向がある。一方、式(4)で表されるイミダゾール化合物の使用量が上記範囲を下回ると、式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドの収率が低下する傾向がある。
【0036】
上記反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。前記溶媒としては、上記反応工程1で使用できる溶媒と同様の例を挙げることができる。溶媒の使用量は、反応基質を溶解又は分散することが可能であり、且つ、経済性等を損なわない範囲内であれば特に制限されることがなく、例えば、式(3)で表される化合物1重量部に対して、1〜100000重量部程度、好ましくは1〜10000重量部である。反応工程2の溶媒は、反応工程1の溶媒を共通して使用することができ、反応工程1で使用した溶媒をそのまま使用してもよく、反応工程1終了後、濃縮又は希釈することにより濃度を調整して使用してもよい。
【0037】
反応工程2の反応温度としては、例えば−50〜150℃、好ましくは−10〜80℃、特に好ましくは10〜50℃である。また、反応は、加圧下、常圧下又は減圧下(例えば0.0001〜0.1MPa程度、好ましくは0.001〜0.1MPa)の何れで行ってもよいが、常圧下又は減圧下で行うことが多い。更に、反応は、バッチ式、セミバッチ式、及び連続式のいずれの方法で行ってもよい。
【0038】
反応工程2では、反応の進行により酸性ガス(塩化水素)及び/又はアミン塩酸塩のガスが副生する。本発明においては、これらを除去することが、反応の進行を促進することができ、且つ、含塩素化合物等の副生物生成を抑制することができる点で好ましい。除去方法としては、反応に不活性又は目的物の取得に影響を与えない塩基を添加してこれらを捕捉する方法や、脱気、抽出、蒸留、精留、分子蒸留、又は吸着等の分離手段により、これらを反応系から連続的若しくは非連続的(回分式)に分離しつつ反応を行う方法等を挙げることができる。前記分離操作時の圧力としては、減圧又は常圧の何れであってもよい。
【0039】
前記反応に不活性又は目的物の取得に影響を与えない塩基としては、例えば、無機塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、芳香族アミン(例えば、ピリジン等)、第1級アミン(例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、アリルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、キシリジン、ナフチルアミン、2−アミノチアゾール等)、第2級アミン(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジアリルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジオクチルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、エチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、N−メチルアニリン、ジフェニルアミン、フェノチアジン、ピラゾール等)、第3級アミン(例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等)等を挙げることができる。これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。反応に不活性又は目的物の取得に影響を与えない塩基の使用量としては、例えば、式(3)で表される化合物の0.5〜10.0モル倍程度、好ましくは0.8〜3.0モル倍である。
【0040】
[精製工程]
反応工程2を経て得られた反応生成物は、続いて精製工程に付される。精製工程においては、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段を採用することができる。
【0041】
本発明においては、吸着剤を用いて含塩素化合物を分離・除去することが好ましい。前記吸着剤としては、例えば、シリカゲル、アルミナ、活性炭、マグネシア、ハイドロタルサイト等を使用することができる。本発明においては、特に、分離及び/又は除去効率に優れる点でシリカゲルが好ましく、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して含塩素化合物を分離・除去することが最も好ましい。
【0042】
また、本発明においては、反応系内に水を加えて洗浄し、水含有量が0.3重量%以下(好ましくは0.1重量%以下)となるまで共沸脱水した後に晶析することが好ましい。
晶析の際に上記範囲を超えて水が存在すると、粉末状の結晶に比べて綿毛状の結晶が溶解度の関係で析出しやすくなり、得られる結晶の嵩密度が低下する傾向がある
【0043】
晶析は、反応工程2終了後、反応溶媒を蒸留により分離回収し、その後、晶析溶媒を加えて晶析してもよく、反応溶媒を晶析溶媒として使用して晶析してもよい。
【0044】
晶析溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の飽和又は不飽和炭化水素系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。尚、式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドが分解されるため、アルコール類や水は晶析溶媒としては好ましくない。本発明においては、反応溶媒をそのまま晶析溶媒として使用することが、操作が簡便で、且つ経済的である点で好ましい。
【0045】
晶析方法は、濃縮晶析、貧溶媒晶析、冷却晶析等の何れであってもよく、またこれらを2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0046】
晶析溶媒の使用量としては、式(2)で表される不飽和カルボン酸に対して、例えば1〜20重量倍程度、好ましくは1〜15重量倍である。
【0047】
晶析温度は例えば−5〜70℃程度であり、特に濃縮晶析の場合は10〜50℃が好ましく、冷却晶析の場合は0〜10℃が好ましい。
【0048】
晶析時間は、反応器のスケールに応じて適宜調整することができ、例えば3〜24時間程度である。
【0049】
上記晶析操作で析出した結晶は、晶析溶媒を濾過することにより分離、回収することができる。回収された結晶に含まれる溶媒は、加熱乾燥して除くことができる。
【0050】
上記製造方法により得られる結晶は、式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドを95面積%以上(好ましくは98面積%以上、特に好ましくは99面積%以上、最も好ましくは99.5面積%以上)含有する。式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドの含有量が上記範囲を下回ると、高機能材料として使用することが困難となる。また、含塩素化合物の含有量は、結晶全量の1000ppm以下程度(好ましくは、800ppm以下、特に好ましくは500ppm以下)であることが好ましい。含塩素化合物の含有量は、燃焼イオンクロマトグラフィー等を使用することにより測定することができる。尚、結晶中の式(1)で表される不飽和カルボン酸アミド含有量は、ガスクロマトグラフィーを使用し、下記分析条件により測定することができる。
<ガスクロマトグラフィーの分析条件>
カラム DB−1701
径×長さ 0.25mm×30m
膜厚 0.25μm
スプリット比 1/50
流速 1mL/min(He)
注入量 1μL
注入口温度 250℃
検出器温度 280℃
昇温条件 50℃(4分保持) − 15℃/分で昇温 − 280℃(10分保持)
分析時間 30分
【0051】
また、上記製造方法により得られる結晶は、嵩密度が0.2〜0.7g/mL(好ましくは0.3〜0.7g/mL)である。
【0052】
尚、本明細書において「嵩密度」とは、タップしない状態(=ゆるみ状態)での粉体試料の質量と粒子間空隙容積の因子を含んだ粉体試料の体積の比である。嵩密度は粉体試料の粒子密度と粉体層内での粒子の空間的配列に依存する。本発明において「嵩密度」は、0.1%の精度で秤量した約100gの試料(W
0:g)を、圧密せずに乾いた250mLメスシリンダー(最小目盛単位:2mL)に静かに入れ、体積(V
0:mL)を最小目盛単位まで読み取り、下記式から算出することができる。
嵩密度(g/mL)=W
0/V
0
【0053】
また、本発明の結晶は、X線回折において、2θが6.0〜8.0、13.5〜15.5、及び16.5〜18.0から選択される少なくとも1つの範囲にピークがあり(特に、2θが6.0〜8.0、13.5〜15.5、及び16.5〜18.0の範囲にそれぞれ少なくとも1つのピークがあり)、且つ、2θが9.0〜10.5、12.5〜13.5、及び29.0〜30.0の範囲にピークがないことが好ましい。
【0054】
本発明の結晶は式(1)で表される不飽和カルボン酸アミドを高純度に含み、嵩が低く取り扱い性(作業性、運搬性等)に優れる。本発明の結晶は、高機能材料、例えば、電気・電子部品の製造に利用される感光性高機能材料(レジスト材料)、とりわけ高信頼性が要求される半導体封止材料、半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等のパッケージ材料、及び半導体、液晶ディスプレイやMEMS用感光性材料に好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0056】
実施例1
50L反応器に4−メトキシ桂皮酸2.5kgとトルエン11kgを入れ、懸濁状態にした。ここに、塩化チオニル1.75kg(4−メトキシ桂皮酸の1.05モル倍)を反応器内の温度を70±2℃に保ちながら滴下し、滴下後、4−メトキシ桂皮酸の転化率が99%以上になるまで反応を継続した。反応終了後、60℃、減圧下で未反応の塩化チオニルと酸性ガスとともに約2割のトルエンを留去した。濃縮後、留出した量と同量のトルエンを添加し、4−メトキシ桂皮酸クロリドトルエン溶液を15kg得た。
次に、別の反応器にイミダゾール1.05kg(4−メトキシ桂皮酸クロリドの1.1モル倍)、トリエチルアミン1.42kg(4−メトキシ桂皮酸クロリドの1.0モル倍)、酢酸エチル19.5kgを仕込み、混合した。イミダゾールの溶解を確認後、4−メトキシ桂皮酸クロリドトルエン溶液15kgを反応器内の温度を30±5℃に保ちながら、滴下した。
滴下終了後、反応器内を1時間撹拌した後、イオン交換水12.5kgを加え、洗浄、分液して有機層を得た。得られた有機層を引き続き、8%炭酸水素ナトリウム水溶液12.5kgで洗浄し、さらに、イオン交換水12.5kgで2回洗浄した。洗浄が終了した有機層の一部を濃縮し、そこに酢酸エチル(4−メトキシ桂皮酸の2重量倍)を添加し、共沸脱水により水含有量を0.1重量%以下にした後、酢酸エチルとトルエンを減圧下に留去(濃縮途中でトルエンを4−メトキシ桂皮酸の2重量倍添加)し、スラリー状態にした上で、5℃以下に冷却し、ろ過を行なった。湿結晶を60℃に加温下で真空乾燥し、1−(3−(4−メトキシフェニル)アクリロイル)−イミダゾールを含む結晶を2.5kg(純度:100面積%)取得した。
得られた結晶は粉末状であった。前記結晶70gを秤量し、250mLのメスシリンダーに静かに入れ、目盛りを読み取ると236mLであった。嵩密度は0.297g/mLであった。再度、結晶70gを秤量し、同様に目盛りを読み取ると226mLで、嵩密度は0.310g/mLであった。従って、上記方法で取得した結晶の(平均)嵩密度は0.30g/mLであった。
また、得られた結晶のX線回折(XRD)の結果を
図1に示す。2θが7.3、14.5、17.3に代表的なX線回折ピークを検出した。また、2θが9.0〜10.5、12.5〜13.5、及び29.0〜30.0の範囲にはピークは検出されなかった。
【0057】
比較例1
4−メトキシ桂皮酸17kg、トルエン76.5kg、塩化チオニル11.9kg、イミダゾール7.1kg、トリエチルアミン13.5kg、酢酸エチル115kgを用いて、実施例1に示した方法と同様の方法により1−(3−(4−メトキシフェニル)アクリロイル)−イミダゾールを製造した。ただし、有機層の共沸脱水を行なわず、水含有量1.5%のまま、酢酸エチルとトルエンを減圧下に留去し、結晶を析出させた。
ろ過、乾燥後、1−(3−(4−メトキシフェニル)アクリロイル)−イミダゾールを含む結晶17kg(純度:99.0面積%)を取得した。得られた結晶は綿毛状であった。結晶20gを秤量し、250mLのメスシリンダーに静かに入れ、目盛りを読み取ると198mLで、嵩密度は0.101g/mLであった。再度、結晶20gを秤量し、同様に目盛りを読み取ると197mLで、嵩密度は0.102g/mLであった。従って、上記方法で取得した結晶の(平均)嵩密度は0.10g/mLであった。
また、得られた結晶のX線回折(XRD)の結果を
図2に示す。2θが9.9、13.0、29.5に代表的なX線回折ピークを検出した。このピークは実施例1の結晶では検出されなかった。
この結晶は嵩が高い(重量に対する体積が大きい)ため、実施例1で得られた結晶を扱う場合と比べて、乾燥反応工程において大きな装置が必要となり、又は分割して乾燥する場合は、乾燥の回数が増え、充填反応工程においては必要な充填容器の数が増えるなど、取扱い性、搬送性、充填性が悪かった。
【0058】
尚、上記実施例及び比較例で得られた結晶の純度は、前記結晶を0.01〜0.02g秤量し、アセトン(和光純薬工業(株)製試薬特級)1.5〜2gで希釈したものをサンプルとしてガスクロマトグラフィーを使用して測定し、クロマトグラム上に観察されるすべての成分のピーク面積(アセトンのみをガスクロマトグラフィーを使用して測定した際に検出されたピーク面積は除く)の総和に対する対象化合物のピーク面積(%)から算出した。
【0059】
ガスクロマトグラフィーの分析条件は下記の通りである。
<分析条件>
カラム DB−1701
径×長さ 0.25mm×30m
膜厚 0.25μm
スプリット比 1/50
流速 1mL/min(He)
注入量 1μL
注入口温度 250℃
検出器温度 280℃
昇温条件 50℃(4分保持) − 15℃/分で昇温 − 280℃(10分保持)
分析時間 30分
【0060】
また、上記実施例及び比較例で得られた結晶のX線回折(XRD)は、下記装置を使用し、下記条件で測定した。
X線回折装置 (株)リガク製、商品名「MiniFlex II」
線源 Cu Kα線、30kV、15mA
走査速度 4.00/分
発散スリット 0.625
散乱スリット 1.25