特許第6231520号(P6231520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231520予防保守機能を具備するスイッチング電源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231520
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】予防保守機能を具備するスイッチング電源
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/00 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   H02M3/00 C
   H02M3/00 P
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-106033(P2015-106033)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-220485(P2016-220485A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 数哉
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−350448(JP,A)
【文献】 特開2013−038847(JP,A)
【文献】 特開2011−176986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧を一定の出力電圧に制御するためのPWM波形を出力する電源制御部と、前記電源制御部が出力するPWM波形を平滑化するチョークコイルおよび出力コンデンサと、を備えたスイッチング電源において、
前記PWM波形のスイッチング周波数を計測するスイッチング周波数監視部と、
該スイッチング周波数監視部が計測したスイッチング周波数が予め規定された周波数範囲内に納まっているかを判定し、前記範囲内に納まっていない場合に予防保守アラームを出力するアラーム出力部と、を備え、
前記電源制御部は、前記チョークコイルおよび前記出力コンデンサの劣化によって出力電圧が予め規定された電圧範囲外となる前にスイッチング周波数が予め規定された範囲外となるように制御を行う、
ことを特徴とするスイッチング電源。
【請求項2】
出力電圧を監視する出力電圧監視部を具備し、
前記アラーム出力部は、該出力電圧監視部が計測した出力電圧が予め規定された電圧範囲内に収まっているかを判定し、前記範囲内に収まっていない場合に装置交換アラームを出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源に関し、特に出力電圧が低下する前に電源動作が不安定になっていることを検出する予防保守機能を備えたスイッチング電源に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源は、主にPWM制御(パルス幅変調制御)により定電圧を出力している。このようなスイッチング電源を含む電源回路の異常を検出する従来技術として、図4に示すように、電源回路に出力電圧を監視する回路を組み込む手法が開示されている(例えば、特許文献1,2)。電源に電圧監視回路を組み込んで出力電圧を監視することにより電源に異常がないかをシステムにおいて認識することができる。
【0003】
また、電源回路の異常を検出するその他の従来技術として、例えば特許文献3には、劣化の進行度(寿命)を推定する推定モデルに稼働状況を照らし合わせることで残存寿命を推定する技術が開示されている。
【0004】
更に、特許文献4,5などには、スイッチング電源のスイッチング波形を監視し、監視した値(スイッチング周波数など)があらかじめ定められた閾値の範囲外になった場合に電源回路の異常を検出するスイッチング電源回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平02−145977号公報
【特許文献2】特開2005−172653号公報
【特許文献3】特開平05−056629号公報
【特許文献4】特開2002−153064号公報
【特許文献5】特開2001−275344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には以下に示す課題がある。
特許文献1,2に示す電圧監視回路を備えた電源回路では、出力コンデンサの経年劣化などが原因で監視電圧を外れた出力電圧になると異常を検出することができるが、監視電圧の閾値が低いと、図5に示すように異常を検出してから不具合が発生するまでの期間が短くなり、交換部品の手配が間に合わないと突然の動作停止の要因となり得る。
一方で、必要以上に監視電圧の閾値を高めると、異常を検出してから不具合が発生するまでの交換部品の手配などに必要な期間を取ることができるが、副作用として図5に示すように正常動作期間が短くなり、結果としてコストが上昇することになる。
また、特許文献1,2に開示される技術では電圧監視ICはDCレベルで監視を行っているため、電源精度に影響を与えるリップル電圧の監視を行う構成を別途設ける必要がある問題も発生する。
【0007】
また、特許文献3に開示される技術においては、実際の回路状態を反映したモデルを利用していないため、推定モデルが適用可能な状況には対応できるものの、推定モデルと異なる劣化モードが発生した場合には、推定していた残存寿命より短い期間で不具合が発生するため、突然の動作停止の要因となる。
【0008】
更に、特許文献4,5に開示される技術は、スイッチング周波数を監視する適用対象として絶縁型AC−DCコンバータのスイッチング電源を想定している。このような絶縁型AC−DCコンバータのスイッチング電源は、ハイパワーのアプリケーションであるため部品の劣化の進行が速く、特許文献4,5の技術のようにスイッチング周波数の異常発生後のスイッチング電源の動作(特性)を設定していない状況では、スイッチング周波数異常の検知から出力電源異常までの期間を適切に確保した監視閾値の設定が難しいため、予防保守としての効果は低い。
【0009】
そこで本発明の目的は、出力電圧が低下する前に電源動作が不安定になっていることを検出することが可能なスイッチング電源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明は、入力電圧を一定の出力電圧に制御するためのPWM波形を出力する電源制御部と、前記電源制御部が出力するPWM波形を平滑化するチョークコイルおよび出力コンデンサと、を備えたスイッチング電源において、前記PWM波形のスイッチング周波数を計測するスイッチング周波数監視部と、該スイッチング周波数監視部が計測したスイッチング周波数が予め規定された周波数範囲内に納まっているかを判定し、前記範囲内に納まっていない場合に予防保守アラームを出力するアラーム出力部と、を備え、前記電源制御部は、チョークコイルおよび出力コンデンサの劣化によって出力電圧が予め規定された電圧範囲外となる前にスイッチング周波数が予め規定された範囲外となるように制御を行う、ことを特徴とするスイッチング電源である。
【0011】
本願の請求項2に係る発明は、出力電圧を監視する出力電圧監視部を具備し、前記アラーム出力部は、該出力電圧監視部が計測した出力電圧が予め規定された電圧範囲内に収まっているかを判定し、前記範囲内に収まっていない場合に装置交換アラームを出力する、ことを特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、出力電圧が低下する前に電源動作が不安定になっていることを検出することが可能となる。また、出力コンデンサのESR異常、チョークコイルのインダクタンス低下など、スイッチング電源回路の部品の劣化(=リップル電圧異常)を検知可能になる。
【0013】
本発明では、実際の回路の不具合の予兆となる動作がトリガーとなるため、回路状態を反映した予防保守をおこなうことができ、従来技術で発生するような不適当な閾値の設定による副作用が起きることは無い。
【0014】
また、スイッチング周波数の異常発生後に出力電圧異常が発生するスイッチング電源を用いることで、異常検知から不具合発生までの期間を確保することができ、更に、出力電圧も監視することにより、出力電圧異常のタイミングで装置交換を行うことができるため、保守周期の長期化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のスイッチング電源の機能概要を説明する図である。
図2】本発明の実施形態におけるスイッチング電源の概略構成図である。
図3】本発明のスイッチング電源の特性について説明する図である。
図4】従来技術におけるスイッチング電源の概略構成図である。
図5】従来技術におけるスイッチング電源の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明のスイッチング電源の概要を説明する図である。本発明のスイッチング電源は、チョークコイル及び出力コンデンサの劣化によって出力電圧が予め規定された電圧範囲外となる前に、スイッチング周波数が予め規定された範囲外となるように設計されたスイッチング電源を対象としている。
【0017】
本発明では、上述した特性を持つスイッチング電源に対してスイッチング周波数監視部を設け、該スイッチング周波数監視部でスイッチング波形を監視し、動作周波数があらかじめ定められた許容範囲内に納まっているかを見ることにより、スイッチング電源が正常動作しているかを判定する。
【0018】
上述したように本発明で用いるスイッチング電源は、その特性によりスイッチング波形に乱れが出て動作周波数に変動が発生したとしても、その段階では出力電圧は大きく低下(変動)しないように設計されているため、スイッチング波形の変動の検出が予防保守のトリガーとなる。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態におけるスイッチング電源の概略構成図である。本発明のスイッチング電源1は、電源制御部10、チョークコイル11、出力コンデンサ12、スイッチング周波数監視部13、出力電圧監視部14、アラーム出力部15を備える。
【0020】
電源制御部10は、入力電圧に対してPWM制御(パルス幅変調制御)を行い、スイッチング波形信号を出力する。電源制御部10の内部では、チョークコイル11および出力コンデンサ12の劣化によって出力電圧が予め規定された電圧範囲外となる前に、スイッチング周波数が予め規定された範囲外となるように出力信号が制御される。電源制御部10による出力信号の制御は、電源制御部10に内蔵される位相補償回路の各定数を調節することで行われる。
例えば、図3に示すように、正常な特性値のチョークコイル、出力コンデンサが使用されている場合には適切な位相余裕を有し、かつ部品の劣化時に相当する異常な特性値を有するチョークコイル、出力コンデンサが使用されている場合には位相余裕が低下するように位相補償回路の各定数を調節し、チョークコイル及び出力コンデンサの劣化時にスイッチング周波数が予め規定された範囲外となるように設計する。電源制御部10がデジタル制御の場合には、PIDパラメータなどの制御パラメータを同様に調節する。
【0021】
チョークコイル11、および出力コンデンサ12は、電源制御部10から出力されたスイッチング波形信号の出力フィルタ(平滑回路)として機能し、平滑化された出力電圧を出力する。
チョークコイルと出力コンデンサで構成されるローパスフィルタの時定数(√LC)を、スイッチング波形に乱れが出た際のスイッチング周波数に対して大きくすることで、スイッチング波形に乱れが出ても出力電圧は大きく低下(変動)しない。例えば、スイッチング波形信号に乱れが出た際のスイッチング周波数が、前記ローパスフィルタの遮断周波数(1/2π√LC)の10倍以上の周波数となるようにローパスフィルタの時定数を設計する。
【0022】
スイッチング周波数監視部13は、電源制御部10から出力されたスイッチング波形信号を監視し、該スイッチング波形信号のスイッチング周波数が予め規定された範囲内であるかを判定し、スイッチング周波数が予め規定された範囲外となった時にアラーム出力部15に対して予防保守アラームを出力するよう指令する。スイッチング周波数監視部13は、CPUやメモリ、DSPなどで構成される。
【0023】
出力電圧監視部14は、スイッチング電源の出力電圧を監視し、該出力電圧が予め設定された電圧値の範囲内であるかを判定し、出力電圧が予め規定された範囲外となった時に、アラーム出力部15に対して装置交換アラームを出力するよう指令する。出力電圧監視部14は、設定された最大電圧値VH、最小電圧値VLなどと比較する比較回路などで構成される。
【0024】
アラーム出力部15は、スイッチング周波数監視部13からの予防保守アラーム出力指令、または出力電圧監視部14からの装置交換アラーム出力指令に従って、予防保守アラーム、または装置交換アラームをそれぞれ出力する。アラームの出力はLEDなどの視覚的なアラームとして出力してもよいし、音などにより出力するようにしてもよく、ユーザがそれぞれのアラームを区別できるように出力されていればどのような出力形態をとってもよい。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 スイッチング電源
10 電源制御部
11 チョークコイル
12 出力コンデンサ
13 スイッチング周波数監視部
14 出力電圧監視部
15 アラーム出力部
図1
図2
図3
図4
図5