特許第6231522号(P6231522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231522免疫グロブリン断片を用いたインスリン薬物結合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231522
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】免疫グロブリン断片を用いたインスリン薬物結合体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/62 20060101AFI20171106BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20171106BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20171106BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20171106BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20171106BHJP
   C07K 1/10 20060101ALI20171106BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20171106BHJP
【FI】
   C07K14/62ZNA
   A61K38/28
   A61P3/10
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61K47/36
   A61K47/42
   A61K47/68
   C07K19/00
   C07K1/10
   !C07K16/00
【請求項の数】22
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-134519(P2015-134519)
(22)【出願日】2015年7月3日
(62)【分割の表示】特願2013-502499(P2013-502499)の分割
【原出願日】2011年4月4日
(65)【公開番号】特開2016-733(P2016-733A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年7月30日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0030575
(32)【優先日】2010年4月2日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512188720
【氏名又は名称】ハンミ サイエンス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANMI SCIENCE CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン、デ ハエ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ジャエ ヒー
(72)【発明者】
【氏名】パーク,ヤング ジン
(72)【発明者】
【氏名】イム,デ ソン
(72)【発明者】
【氏名】バエ,スン ミン
(72)【発明者】
【氏名】クウォン,セ チャン
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5990506(JP,B2)
【文献】 特表2007−531513(JP,A)
【文献】 特表2008−534676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン及び免疫グロブリンFc領域がポリエチレングリコールにより連結され、前記インスリンのベータチェーンのN末端に前記ポリエチレングリコールが結合されたことを特徴とするインスリン結合体。
【請求項2】
前記インスリンは天然インスリン、天然インスリンの一部のアミノ酸が置換(substitution)、追加(addition)、除去(deletion)及び修飾(modification)のいずれかの方法又はそれらの方法の組み合わせにより製造された変異体、誘導体又はそれらの断片である請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの各末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域とインスリンのアミン基又はチオール基に結合された請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項4】
免疫グロブリンFc領域が非グリコシル化(aglycosylated)されたことを特徴とする請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項5】
免疫グロブリンFc領域がCH1、CH2、CH3及びCH4ドメインからなる群から選択される1つ〜4つのドメインから構成される請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項6】
免疫グロブリンFc領域がヒンジ領域をさらに含む請求項5に記載のインスリン結合体。
【請求項7】
免疫グロブリンFc領域がIgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来するFc領域である請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項8】
免疫グロブリンFc領域のそれぞれのドメインがIgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドである請求項7に記載のインスリン結合体。
【請求項9】
免疫グロブリンFc領域が同一起源のドメインからなる単鎖免疫グロブリンで構成された二量体又は多量体である請求項7に記載のインスリン結合体。
【請求項10】
免疫グロブリンFc領域がIgG4 Fc領域である請求項7に記載のインスリン結合体。
【請求項11】
免疫グロブリンFc領域がヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域(Human aglycosylated IgG4 Fc region)である請求項10に記載のインスリン結合体。
【請求項12】
前記ポリエチレングリコールの有する反応基がアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項13】
スクシンイミド誘導体がスクシンイミジルプロピオネート、スクシンイミジルカルボキシメチル、ヒドロキシスクシンイミジル又はスクシンイミジルカーボネートである請求項12に記載のインスリン結合体。
【請求項14】
前記ポリエチレングリコールは両末端に反応アルデヒド基の反応基を有する請求項12に記載のインスリン結合体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載のインスリン結合体を含む、生体内持続性及び安定性が向上した持続性インスリン製剤。
【請求項16】
前記持続性インスリン製剤は糖尿病治療用である請求項15に記載の持続性インスリン製剤。
【請求項17】
(1)各末端にアルデヒド、マレイミド又はスクシンイミド誘導体反応基を有する前記ポリエチレングリコールの一方の末端を免疫グロブリンFc領域のアミン基又はチオール基に共有結合により連結する段階と、
(2)前記(1)の反応混合物から前記ポリエチレングリコールが共有結合した免疫グロブリンFc領域を含む連結体を分離する段階と、
(3)分離した連結体の前記ポリエチレングリコールの他方の末端にインスリンを共有結合により連結し、前記ポリエチレングリコールの両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合されたペプチド結合体を生成する段階とを含む、請求項1のインスリン結合体の製造方法。
【請求項18】
(1)各末端にアルデヒド反応基を有する前記ポリエチレングリコールを免疫グロブリンFcのN末端にpH6.0で共有結合により連結する段階と、
(2)前記(1)の反応混合物からN末端に前記ポリエチレングリコールが共有結合した免疫グロブリンFc領域を含む連結体を分離する段階と、
(3)分離した連結体の前記ポリエチレングリコールの他方の末端にインスリンを共有結合により連結し、前記ポリエチレングリコールの両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合されたペプチド結合体を生成する段階とを含む、請求項1のインスリン結合体の製造方法。
【請求項19】
(1)各末端にアルデヒド、マレイミド又はスクシンイミド誘導体反応基を有する前記ポリエチレングリコールをインスリンのアミン基又はチオール基に共有結合により連結する段階と、
(2)前記(1)の反応混合物から前記ポリエチレングリコールが共有結合したインスリンを含む連結体を分離する段階と、
(3)分離した連結体の前記ポリエチレングリコールの他方の末端に免疫グロブリンFc領域を共有結合により連結し、前記ポリエチレングリコールの両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合されたペプチド結合体を生成する段階とを含む、請求項1のインスリン結合体の製造方法。
【請求項20】
(1)各末端にアルデヒド反応基を有する前記ポリエチレングリコールをインスリンのアミン基に共有結合により連結する段階と、
(2)前記(1)の反応混合物から前記ポリエチレングリコールが共有結合したインスリンを含む連結体を分離する段階と、
(3)分離した連結体の前記ポリエチレングリコールの他方の末端に免疫グロブリンFc領域を共有結合により連結し、前記ポリエチレングリコールの両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合されたペプチド結合体を生成する段階とを含む、請求項1のインスリン結合体の製造方法。
【請求項21】
インスリン欠乏症を患う個体治療用の製剤の製造のための請求項1〜14のいずれか1項に記載のインスリン結合体の使用。
【請求項22】
前記インスリン欠乏症は糖尿病である請求項21に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリンが非ペプチド性重合体により免疫グロブリンFc領域と共有結合的に連結されて製造された、向上した生体内の持続性及び安定性を有するインスリン結合体、それを含む持続性製剤、並びにその製造方法に関する。本発明は、糖尿病などのインスリン障害疾患を有する個体を治療する方法を提供する。本発明のインスリン結合体は、比較的高いレベルでペプチドの生体内活性を維持し、血中半減期が大幅に増加するので、インスリン治療時の服薬順応度を著しく改善することができる。
【背景技術】
【0002】
インスリンは、膵臓のベータ細胞から分泌されるペプチドであり、体内の血糖レベルを調節するのに非常に重要な役割を果たす。インスリンが正常に分泌されなかったり、分泌されたインスリンが体内で正常に作用しないと、体内の血糖を調節することができず、糖尿病を誘発する。このような糖尿病を2型糖尿病という。1型糖尿病は、膵臓で十分なインスリンを作ることができなくて血糖が上昇すると誘発される。
【0003】
2型糖尿病は、一般に化学的に合成された経口血糖降下剤を用いて治療し、場合によっては患者にインスリンを用いて治療する。それに対して、1型糖尿病の場合はインスリンの投与が求められる。
【0004】
近年用いられているインスリン治療法は、食事前後にインスリンを投与するものである。しかし、このようなインスリン投与は、1日に3回ずつ継続して投与しなければならないので、患者に多大な苦痛をもたらし、非常に不便である。このような問題を解決するために様々な試みがなされてきた。そのうちの1つは、ペプチド薬物の生体膜透過性を向上させることにより、口腔又は鼻腔からの吸入によりペプチド薬物を伝達する方法である。残念ながら、このような方法は注射剤に比べて著しく低い伝達効率を示すので、ペプチド薬物の体内活性を希望のレベルに維持するには未だ多くの困難がある。
【0005】
一方、過剰量の薬物を皮下投与して薬物の吸収を遅延させる方法があり、これにより1日1回の投与で血中濃度を維持することができる。開発された医薬品(Lantus(R),Sanofi−aventis)の一部は、許可されて現在患者に用いられている。また、活性を持続させる研究が進められ、インスリンに脂肪酸が修飾されて製造され、投与部位におけるインスリン分子の自己会合(Self−association)及び血中におけるアルブミンとの可逆結合により持続時間が延長されたLevemir(NovoNordisk)が開発された。しかし、このような方法は、投与部位に痛みを誘発し、1日1回注射するのも患者にとって大きな負担となる。
【0006】
ペプチド薬物の血中安定性を向上させて血中薬物濃度を長期間高く持続し、薬効を最大化しようとする努力が続けられてきた。このようなペプチド薬物の持続型製剤は、ペプチド薬物の安定性が向上され、患者に免疫反応を誘発することなく、薬物の力価が十分に高く維持される必要がある。このようなペプチド薬物の持続型製剤の製造のために、ポリエチレングリコール(PEG)などの溶解度が高い高分子物質をペプチド薬物の表面に化学的に変形させる方法が従来用いられていた。
【0007】
PEGは、目的とするペプチドの特定部位又は様々な部位に非特異的に結合してペプチドの分子量を増加させる効果をもたらし、腎臓による消失を抑制して加水分解を防止する効果があり、特に副作用もない。例えば、国際公開第2006/076471号公報には、NPR−Aに結合してcGMPの産生を活性化し、動脈内の血圧を降下させることにより鬱血性心不全(Congestive heart failure)治療剤として用いられるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)にPEGを結合して生理活性を持続させることが記載されている。米国特許第6,924,264号明細書には、エキセンディン(exendin)−4のリシン残基にPEGを結合させて生体内の持続時間を増加させることが記載されている。このような方法は、PEG分子量を増加させ、ペプチド薬物の生体内の抵抗時間を長くする。しかし、分子量が増加するにつれてペプチド薬物の力価が著しく低くなり、またペプチドとの反応性が低下する。よって、残念ながら収率が低下する。
【0008】
国際公開第02/46227号公報は、組換え遺伝子技術を用いて、GLP−1、エキセンディン−4又はその類似体と、ヒト血清アルブミン又は免疫グロブリン断片(Fc)を連結させて製造した融合タンパク質を開示している。米国特許第6,756,480号明細書には、副甲状腺ホルモン(PTH)及びその類似体とFc部位を連結させて製造した融合タンパク質が記載されている。このような方法は、低いペグ化(pegylation)収率や非特異性などの問題を解決することができるが、血中半減期の増加効果が予想より画期的ではなく、場合によっては力価が低いという問題がある。血中半減期の増加効果を最大化するために様々な種類のペプチドリンカーが用いられてきたが、免疫反応を誘発する恐れがあった。また、BNPのようにジスルフィド結合(disulfide bond)を有するペプチドを用いるとミスフォールディング(misfolding)の確率が高く、天然に存在しないアミノ酸残基を有するペプチドを使用すると多くの困難があるので、遺伝子組換えによってのみ産生される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、インスリンの血中半減期及び生体内活性を同時に最大化する方法を開発するために鋭意努力した結果、免疫グロブリンFc領域、非ペプチド性重合体及びインスリンを共有結合により部位選択的に互いに連結させると、公知のインフレームフュージョン(inframe fusion)方法よりも血中半減期が大幅に増加することを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、インスリンの生体内活性を維持しつつ、その血中半減期を著しく延長した優れたインスリン結合体、それを含む持続型製剤、及びその製造方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインスリン結合体は、ペプチドの生体内活性が比較的高く維持され、血中半減期が大幅に増加し、インスリン投与を必要とする患者の服薬順応度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】インスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体の薬剤疫学調査の結果である。
図2】インスリン誘導体−PEG−免疫グロブリンFc結合体のin vivo効力比較試験の結果である。
図3】(a)および(b)は、サイズ排除カラムを用いてインスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体のベータチェーン1番フェニルアラニン(B1F)の90%以上のペグ化を分析した結果である。
図4a】インスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体のベータチェーン特異的結合を分析した結果である。
図4b】(a)および(b)は、インスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体のベータチェーン特異的結合を分析した結果である。
図4c】(a)および(b)は、インスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体のベータチェーン特異的結合を分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記目的を達成するための一態様として、本発明は、インスリン及び免疫グロブリンFc領域が非ペプチド性重合体により連結され、前記インスリンのベータチェーンのN末端に前記非ペプチド性重合体が結合されたことを特徴とするインスリン結合体を提供する。
【0014】
本発明において、インスリンは、体内の血糖が高いときに膵臓から分泌され、肝臓、筋肉又は脂肪組織で糖を吸収してグリコーゲンに変換し、脂肪が分解されてエネルギー源として用いられることを抑制して血糖を調節する機能を有するペプチドである。このようなペプチドは、インスリン類似体(agonist)、前駆物質(precursors)、誘導体(derivatives)、断片(fragments)、又は変異体(variants)などを含み、天然インスリン、速効型インスリン、持効型インスリンなどが好ましい。
【0015】
天然インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンであり、一般に細胞内のグルコース吸収を促進して脂肪の分解を抑制し、体内の血糖を調節する役割を果たす。インスリンは、血糖調節機能のないプロインスリン(Proinsulin)前駆体の形態から加工を経てインスリンとなる。インスリンのアミノ酸配列は次の通りである。
【0016】
アルファチェーン:Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn(配列番号1)
【0017】
ベータチェーン:Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr(配列番号2)
【0018】
インスリン類似体とは、インスリンの構造に関係なく、インスリンの生体内受容体に結合してインスリンと同じ生物学的活性を示す物質を意味する。
【0019】
インスリン誘導体とは、天然インスリンと比較して、少なくとも80%のアミノ酸配列相同性を有し、アミノ酸残基の一部の基が化学的に置換(例えば、alpha−methylation、alpha−hydroxylation)、除去(例えば、deamination)又は修飾(例えば、N−methylation)された形態であり、体内で血糖を調節する機能を有するペプチドを意味する。
【0020】
インスリン断片とは、インスリンのN末端又はC末端に1つ又はそれ以上のアミノ酸が追加又は削除された形態を意味し、追加されるアミノ酸は天然に存在しないアミノ酸(例えば、D型アミノ酸)であってもよく、このようなインスリン断片は体内で血糖調節機能を有する。
【0021】
インスリン変異体とは、インスリンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なるペプチドであり、体内で血糖調節機能を有するペプチドを意味する。
【0022】
インスリン類似体、誘導体、断片及び変異体にそれぞれ用いられる製造方法は、独立して用いられてもよく、組み合わせて用いられてもよい。例えば、本発明は、天然インスリンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、天然インスリンのN末端アミノ酸残基が脱アミノ化(deamination)され、体内で血糖調節機能を有するペプチドを含む。
【0023】
具体的な一態様として、本発明に用いるインスリンは、組換え技術により産生されてもよく、また固相(solid phase)合成法により合成する方法で産生されてもよい。
【0024】
また、本発明に用いるインスリンは、インスリンのベータチェーンのN末端に非ペプチド性重合体が結合されたことを特徴とする。このような非ペプチド性重合体は、本発明においてリンカーとして用いられる。インスリンのアルファチェーン修飾は活性及び安全性を低下させる。よって、本発明は、インスリンのベータチェーンのN末端に非ペプチド性重合体をリンカーとして連結することにより、インスリンの活性を維持し、かつ安全性を向上させた。
【0025】
本発明において、「活性」という用語は、インスリンがインスリン受容体に結合する能力を意味し、インスリンがインスリン受容体に結合してその作用を示すことを意味する。
【0026】
本発明のインスリンのベータチェーンのN末端に非ペプチド性重合体が結合することはpH調節により引き起こされ、好ましくはpH4.5〜7.5である。
【0027】
本発明において、「N末端」という用語は、「N末端領域」という用語と混用される。
【0028】
具体的な一実施例として、本発明者は、免疫グロブリンFc領域のN末端にPEGを結合させ、それをインスリンのベータチェーンのN末端に選択的にカップリングしてインスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体を製造した。本発明において製造したインスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体の血中半減期は約18時間と画期的に増加し、疾患モデル動物において血糖強化効果を示した。よって、生体内活性が維持される新規な持効型インスリン剤形を製造することができた。
【0029】
免疫グロブリンFc領域は、生体内で代謝される生分解性ポリペプチドであるので、薬物のキャリアとして安全に使用できる。また、免疫グロブリンFc領域は、免疫グロブリン分子全体に比べて相対的に分子量が小さいので、結合体の製造、精製及び収率面で有利である。アミノ酸配列は抗体ごとに異なるので、高い非均質性を示すFab部分を除去することにより、物質の同質性が大幅に増加し、血中抗原性の誘発可能性が低くなるという効果も期待することができる。
【0030】
本発明において、「免疫グロブリンFc領域」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域、重鎖不変領域1(CH1)及び軽鎖不変領域(CL1)を除いたものであり、重鎖不変領域2(CH2)及び重鎖不変領域3(CH3)部分を意味する。ここで、重鎖不変領域にヒンジ(hinge)部分を含むこともある。また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然型と生理学的に同等又は向上した機能を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖不変領域1(CH1)及び/又は軽鎖不変領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。また、CH2及び/又はCH3に該当する非常に長い一部のアミノ酸配列が除去された領域であってもよい。すなわち、本発明の免疫グロブリンFc領域は、(1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、(2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、(3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、(4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、(5)1つ又は2つ以上のドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、(6)重鎖不変領域の各ドメインと軽鎖不変領域の二量体であってもよい。
【0031】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体(mutant)をも含む。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列中の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214〜238、297〜299、318〜322又は327〜331番のアミノ酸残基が変形のために適当な部位として用いられる。また、ジスルフィド結合を形成する部位が除去されるか、天然型FcからN末端のいくつかのアミノ酸が除去されるか、又は天然型FcのN末端にメチオニン残基が付加されるなど、様々な種類の誘導体が可能である。また、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、ADCC部位が除去されてもよい。このような免疫グロブリンFc領域の配列誘導体を製造する技術は、国際公開第97/34631号、国際公開第96/32478号などに開示されている。
【0032】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は当該分野において公知である(H.Neurath,R.L.Hill,The Proteins,Academic Press,New York,1979)。最も一般的な交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、及びAsp/Gly間の双方向の交換である。
【0033】
場合によっては、Fc部位は、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾されてもよい。
【0034】
前述したFc誘導体は、本発明のFc領域と同じ生物学的活性を示すが、Fc領域の熱、pHなどに対する構造的安定性を増大させた誘導体である。
【0035】
また、このようなFc領域は、ヒト、及びウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットを含む他の動物から分離した天然型から得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換え型又はその誘導体であってもよい。ここで、天然型から得る方法は、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素を処理して得ることができる。免疫グロブリンにパパインを処理するとFab及びFcに切断され、ペプシンを処理するとpF’c及びF(ab)2に切断される。これらの断片は、サイズ排除クロマトグラフィー(size−exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。
【0036】
ヒト由来のFc領域、微生物から得られた組換え型免疫グロブリンFc領域であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然型糖鎖、天然型に比べて増加した糖鎖、天然型に比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法、微生物を用いた遺伝工学的方法などの通常の方法が用いられる。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)の結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞毒性又は補体依存性細胞毒性が低下又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域は、薬物のキャリアとして本発明の目的に適する。
【0038】
本発明において、「糖鎖の除去(Deglycosylation)」とは、酵素で糖を除去したFc領域を意味し、「非グリコシル化(Aglycosylation)」とは、原核動物、好ましくは大腸菌で産生されてグリコシル化されていないFc領域を意味する。
【0039】
また、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgM由来、それらの組み合わせ(combination)、又はそれらのハイブリッド(hybrid)によるFc領域であってもよい。ヒト血液に最も豊富なタンパク質であるIgG又はIgM由来であることが好ましく、リガンド結合タンパク質の半減期を向上させることが知られているIgG由来であることが最も好ましい。
【0040】
一方、本発明において、「組み合わせ(combination)」とは、同一起源の単鎖免疫グロブリンFc領域を暗号化するポリペプチドが異なる起源の単鎖ポリペプチドと結合して二量体又は多量体を形成することである。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgE Fc断片からなる群から選択される2つ以上の断片から二量体又は多量体を製造することができる。
【0041】
本発明において、「ハイブリッド(hybrid)」とは、2つ以上の異なる起源の免疫グロブリンFc断片を暗号化する配列が単鎖免疫グロブリンFc領域内に存在することを意味する用語である。本発明においては、様々な形態のハイブリッドが可能である。すなわち、IgG Fc、IgM Fc、IgA Fc、IgE Fc及びIgD FcのCH1、CH2、CH3及びCH4からなる群から選択される1つ〜4つのドメインのハイブリッドが可能であり、ヒンジを含んでもよい。
【0042】
一方、IgGもIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに分けられ、本発明においては、それらの組み合わせ又はそれらのハイブリッド化も可能である。IgG2及びIgG4サブクラスであることが好ましく、補体依存性細胞毒性(CDC,Complementdependent cytotoxicity)などのエフェクター機能(effector function)のほとんどないIgG4のFc領域であることが最も好ましい。
【0043】
すなわち、本発明の薬物のキャリア用免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であることが最も好ましい。ヒト由来のFc領域は、ヒト生体において抗原として作用するので、それに対する新規な抗体を生成するなどの好ましくない免疫反応を起こす非ヒト由来のFc領域に比べて好ましい。
【0044】
前記「非ペプチド性重合体」とは、繰り返し単位が2つ以上結合された生体適合性重合体を意味し、前記繰り返し単位はペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。
【0045】
本発明に使用可能な非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸,polylactic acid)及びPLGA(ポリ乳酸グリコール酸,polylactic−glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはポリエチレングリコールである。当該分野に知られたこれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に製造できる誘導体も本発明に含まれる。
【0046】
従来のインフレームフュージョン(inframe fusion)方法で製造された融合タンパク質に用いられていたペプチド性リンカーの欠点は、生体内でタンパク質分解酵素により容易に切断され、キャリアによる活性薬物の血中半減期の増加効果を期待したほど得られないということである。しかし、本発明においては、タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体を用いるので、キャリアと同様にペプチドの血中半減期を維持することができる。従って、本発明において用いられる非ペプチド性重合体は、このような役割を果たすもの、すなわち生体内のタンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体であれば限定されることなく用いられる。非ペプチド性重合体は、分子量が1〜100kDaの範囲、好ましくは1〜20kDaの範囲であることが好ましい。また、本発明の前記免疫グロブリンFc領域と結合される本発明の非ペプチド性重合体は、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
【0047】
本発明に用いられる非ペプチド性重合体は、免疫グロブリンFc領域及びタンパク質薬物と結合される反応基を有する。
【0048】
前記非ペプチド性重合体の両末端反応基は、反応アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド(maleimide)基及びスクシンイミド(succinimide)誘導体からなる群から選択されることが好ましい。ここで、スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルプロピオネート、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル又はスクシンイミジルカーボネートが用いられる。特に、前記非ペプチド性重合体が両末端に反応アルデヒド基の反応基を有する場合、非特異的反応を最小限に抑え、非ペプチド性重合体の両末端で生理活性ポリペプチド及び免疫グロブリンとそれぞれ結合するのに効果的である。アルデヒド結合による還元性アルキル化で生成された最終産物は、アミド結合により連結されたものよりはるかに安定的である。アルデヒド反応基は、低いpHではN末端に選択的に反応し、高いpH、例えばpH9.0の条件ではリシン残基と共有結合を形成することができる。
【0049】
前記非ペプチド性重合体の両末端反応基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、一末端にはマレイミド基、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、又はブチルアルデヒド基を有してもよい。両末端にヒドロキシ反応基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体として用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した様々な反応基として活性化してもよく、商業的に入手可能な変形した反応基を有するポリエチレングリコールを用いて本発明のタンパク質結合体を製造してもよい。
【0050】
また、本発明の他の態様として、本発明のインスリン結合体を含むインスリン持続性製剤を提供する。
【0051】
本発明において、「投与」とは、所定の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記結合体の投与経路は、薬物が標的組織に送達されるものであれば、いかなる一般的な経路を介して投与してもよい。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などであるが、これらに限定されるものではない。しかし、経口投与の場合はペプチドが消化されるので、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化することが好ましい。注射剤の形態で投与されることが好ましい。また、持続性製剤は、活性物質を標的細胞に送達することのできる任意の装置により投与することができる。
【0052】
本発明の結合体を含む持続性製剤は、薬学的に許容可能な担体を含んでもよい。薬学的に許容される担体としては、経口投与の場合は結合剤、潤滑剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを用いてもよい。注射剤の場合は緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤などを混合して用いてもよい。局所投与用の場合は基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを用いてもよい。本発明の持続性製剤の剤形は、前述した薬学的に許容される担体と混合して様々な容量で製造してもよい。例えば、経口投与の場合は錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に製造してもよい。注射剤の場合は使い捨てアンプル又は複数回投薬形態に製造してもよい。また、本発明の持続性製剤は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放型製剤などに剤形化してもよい。
【0053】
製剤化に適する担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アカシア、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油などを用いてもよい。また、充填剤、凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料及び防腐剤をさらに含んでもよい。
【0054】
本発明の持続性製剤は、活性成分である薬物の種類だけでなく、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、並びに疾患の重篤度を含む様々な要素により決定される。本発明の薬学的組成物は、生体内持続性及び力価に優れるので、本発明の薬学的製剤の投与回数及び頻度を著しく減少させることができる。
【0055】
本発明の持続性製剤は、インスリンの生体内持続性及び安定性を非常に高く維持するので、インスリンによる糖尿病治療に効果的である。
【0056】
また、本発明のさらに他の態様として、本発明は、(1)各末端にアルデヒド、マレイミド又はスクシンイミド誘導体反応基を有する非ペプチド性重合体を用いて免疫グロブリンFc領域のアミン基又はチオール基に共有結合により連結する段階と、(2)前記(1)の反応混合物から非ペプチド性重合体が共有結合した免疫グロブリンFc領域を含む連結体を分離する段階と、(3)分離した連結体の非ペプチド性重合体の他方の末端にインスリンを共有結合により連結し、非ペプチド性重合体の両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合されたペプチド結合体を生成する段階とを含むインスリン結合体の製造方法を提供する。
【0057】
段階(1)の非ペプチド性重合体は、末端にアルデヒド誘導体反応基を有することが好ましく、3末端のアルデヒド反応基を有する非ペプチド性重合体であることがより好ましい。
【0058】
本発明のさらに他の態様として、本発明は、(1)各末端にアルデヒド反応基を有する非ペプチド性重合体を用いて免疫グロブリンFcのN末端にpH6.0で共有結合により連結する段階と、(2)前記(1)の反応混合物からN末端に非ペプチド性重合体が共有結合した免疫グロブリンFc領域を含む連結体を分離する段階と、(3)分離した連結体の非ペプチド性重合体の他方の末端にインスリンを共有結合により連結し、非ペプチド性重合体の両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合されたペプチド結合体を生成する段階とを含むインスリン結合体の製造方法を提供する。
【0059】
本発明のさらに他の態様として、本発明は、(1)各末端にアルデヒド、マレイミド又はスクシンイミド誘導体反応基を有する非ペプチド性重合体を用いてインスリンのアミン基又はチオール基に共有結合により連結する段階と、(2)前記(1)の反応混合物から非ペプチド性重合体が共有結合したインスリンを含む連結体を分離する段階と、(3)分離した連結体の非ペプチド性重合体の他方の末端に免疫グロブリンFc領域を共有結合により連結し、非ペプチド性重合体の両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合されたペプチド結合体を生成する段階とを含むインスリン結合体の製造方法を提供する。
【0060】
本発明のさらに他の態様として、本発明は、(1)各末端にアルデヒド反応基を有する非ペプチド性重合体を用いてインスリンのアミン基に共有結合により連結する段階と、(2)前記(1)の反応混合物から非ペプチド性重合体が共有結合したインスリンを含む連結体を分離する段階と、(3)分離した連結体の非ペプチド性重合体の他方の末端に免疫グロブリンFc領域を共有結合により連結し、非ペプチド性重合体の両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合されたペプチド結合体を生成する段階とを含むインスリン結合体の製造方法を提供する。
【0061】
さらに他の態様として、本発明は、前記インスリン結合体を含む持続性製剤をインスリン欠乏症を患う個体に効果的な分量を投与する段階を含む、インスリン欠乏症を有する個体を治療する方法を提供する。前記インスリン欠乏症は糖尿病であることが好ましい。
【0062】
前記個体は哺乳動物であってもよく、例えばヒト、霊長類、ウマ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウシ又はブタであってもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
ペグ化された免疫グロブリンFc領域の精製
5K PropionALD(3)PEG(プロピルアルデヒド基を3つ有するPEG,NOF,日本)を免疫グロブリンFc領域のN末端にペグ化するために、免疫グロブリンFc領域とPEGのモル比1:2、免疫グロブリンFc濃度10mg/mlとし、4℃で4.5時間反応させた。ここで、反応は100mMリン酸カリウムpH6.0で行われ、還元剤である20mM SCB(NaCNBH)を添加して反応させた。反応液をSource 15Q(GE Healthcare)精製カラムを用いて精製し、モノペグ化された(Mono−PEGylated)免疫グロブリンFcを得た。
【0065】
[実施例2]
インスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体の製造
インスリンのベータチェーンの1番フェニルアラニン(B1F)に90%以上修飾されたインスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体を製造するために、実施例1の方法で得たモノペグ化された(mono−PEGylated)免疫グロブリンFcとインスリンのモル比が4:1になるようにして全タンパク質濃度を20mg/mlとし、4℃で20時間反応させた。反応液は100mMリン酸カリウムpH6.0であり、還元剤である20mM SCBを添加した。反応が終結した反応液はSource 15Q精製カラムを用いて1次精製を行った。その後、Source 15ISO精製カラムで2次精製を行ってインスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体を得た。このようにして得たインスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体がB1Fに90%以上修飾されたことを確認するために、サイズ排除カラムを用いて分析した結果を図3(a)および(b)に示す。
【0066】
[実施例3]
インスリンリスプロ(Humalog)−PEG−免疫グロブリンFc結合体の製造
実施例1の方法で得たモノペグ化された(mono−PEGylated)免疫グロブリンFcとインスリンリスプロのモル比が4:1になるようにして全タンパク質濃度を20mg/mlとし、4℃で20時間反応させた。反応液は100mMリン酸カリウムpH6.0であり、還元剤である20mM SCBを添加した。反応終結後の精製過程は実施例2と同様である。
【0067】
[実施例4]
インスリングラルギン(Lantus(R))−PEG−免疫グロブリンFc結合体の製造
実施例1の方法で得たモノペグ化された(mono−PEGylated)免疫グロブリンFcとインスリングラルギンのモル比が4:1になるようにして全タンパク質濃度を20mg/mlとし、4℃で20時間反応させた。反応液は100mMリン酸カリウムpH6.0であり、還元剤である20mM SCBを添加した。反応終結後の精製過程は実施例2と同様である。
【0068】
[実施例5]
インスリンデテミル(Levemir(R))−PEG−免疫グロブリンFc結合体の製造
実施例1の方法で得たモノペグ化された(mono−PEGylated)免疫グロブリンFcとインスリンデテミルのモル比が4:1になるようにして全タンパク質濃度を20mg/mlとし、4℃で20時間反応させた。反応液は100mMリン酸カリウムpH6.0であり、還元剤である20mM SCBを添加した。反応終結後の精製過程は実施例2と同様である。
【0069】
[実施例6]
持効型インスリン結合体の生体内消失半減期の測定
持効型インスリン結合体の生体内持続性を確認するために、正常雄ラット(Normal SD rat)を用いて薬物動態を確認した。正常雄ラットにインスリンと持効型インスリン結合体を100μg/kg(インスリン基準)を単回皮下投与し、その後インスリンELISAキットを用いて時間による血中濃度変化を測定し、測定された値からWinNonlin 5.2を用いて薬物動態parameterを算出した。持効型インスリン結合体の生体内消失半減期は17.67時間であり、0.58時間の天然インスリンに比べて約30倍長い持続性を示すことが確認された(図1)。
【0070】
[実施例7]
インスリン誘導体結合体のin vivo効力試験
インスリン誘導体結合体のin vivo効力を比較するために、Streptozotocinにより糖尿病が誘発されたラットで血糖降下効力の比較試験を行った。16時間絶食させた正常ラットに、10mMクエン酸緩衝溶液(pH4.5)に溶解させたstreptozotocinを60mg/kg腹腔投与して糖尿を誘発した。その後、血糖が500mg/dL以上に上昇したラットにインスリン結合体、インスリンデテミル結合体、インスリンリスプロ結合体を0.5mg/kgの容量で単回皮下投与して血糖降下効力を比較した結果、インスリン結合体とインスリンリスプロ結合体の血糖降下は投与後約4日間持続し、5日目に血糖が上昇した。また、インスリンデテミル結合体も血糖を降下させる効力を示したが、同一容量のインスリン結合体とインスリンリスプロ結合体よりは低い効力を示した(図2)。
【0071】
[実施例8]
インスリン−5K PEG−免疫グロブリンFc結合体の結合部位の確認
インスリンと5K PEG−免疫グロブリンFcの結合部位を確認するために、Glu−Cマッピング方法を用いた。濃度1mg/mlのインスリン−5K PEG−免疫グロブリンFc 100μgに濃度1mg/mlのタンパク質内部加水分解酵素Glu−C 20μgを添加した。反応液は50mM HEPES pH7.5であり、25℃で8時間反応させた。その後、1N HCL 10μlを添加することにより反応を終結させた。マッピングはHPLC逆相クロマトグラフィーを用いた。マッピングの結果、インスリンのベータチェーンのN末端のピークが移動したことから、インスリンのベータチェーンのN末端に5K PEG−免疫グロブリンFcが結合したことが確認された(図4a−c)。
【0072】
Column:Jupiter C18 4.6×250mm,5μm(Phenomenex)
移動相A:20% 0.1M NaSO(pH2.0),10% CAN
移動相B:20% 0.1M NaSO(pH2.0),40% CAN
Gradient 0%B in 10min>0−10%B in 5min>10−70%B in 60min
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]