(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記巻線温度推定部(17)が、前記機械の1サイクルの動作と対応する前記モータ(11)の駆動時間および電流値を用いて前記巻線(12)の温度を推定する、請求項1または2に記載のモータ制御装置。
前記巻線温度推定部(17)により推定される巻線(12)の温度に基づいて、前記推定される巻線(12)の温度が前記モータの温度保護レベルを超えないことを満たす機械の許容デューティサイクル時間を算出する許容デューティサイクル時間算出部(18)をさらに備えた、請求項3に記載のモータ制御装置。
機械を動作させるモータ(11)の巻線(12)に印加する電流値を用いて前記巻線の温度を計算する温度上昇推定計算式により巻線温度を推定する巻線温度推定部(17)と、前記巻線(12)に装着された温度センサ(13)と、を備えたモータ制御装置が実施する機械の許容デューティサイクル時間算出方法であって、
前記機械に取付けられた前記モータ(11)を所定の回転速度で回転させる場合について、前記巻線温度推定部(17)により推定された前記巻線(12)の温度を、前記巻線(12)に電流を印加してからの経過時間ごとに示した巻線推定温度上昇プロファイルと、前記温度センサ(13)により測定された前記巻線(12)の温度を、前記巻線(12)に電流を印加してからの経過時間ごとに示した巻線実温度上昇プロファイルと、を比較した結果に基づいて、前記巻線推定温度上昇プロファイルを前記巻線実温度上昇プロファイルに合致させるように、前記巻線(12)の温度を補正する補正係数を算出し、当該補正係数により前記温度上昇推定計算式を補正し、
前記補正係数を補正した前記温度上昇推定計算式を用いて、前記巻線温度推定部(17)が、前記機械の1サイクルの動作と対応する前記モータ(11)の駆動時間および電流値から前記巻線の温度を推定し、
前記推定される巻線(12)の温度が前記モータの温度保護レベルを超えないことを満たす機械の許容デューティサイクル時間を算出する、
機械の許容デューティサイクル時間算出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、モータが取付けられた機械の構造ごとに熱容量が異なるため、機械の熱容量を考慮して巻線の温度を推定するのが難しく、機械の許容デューティサイクル時間を正確に算出するのが困難であった。
【0008】
そのような場合、実際にモータを機械に取付けて機械を動作させながら、試行錯誤を重ねて巻線の温度を推定していたため、機械の許容デューティサイクル時間を求めるのに時間およびコストを要していた。
【0009】
また、機械の許容デューティサイクル時間に従ってモータ休止時間を制御するので、算出した許容デューティサイクル時間が正確でない場合には、機械を効率よく稼働させるのが困難となる。
【0010】
そこで本発明は、上述したような実情に鑑み、機械の熱容量を考慮した巻線の温度を推定することが可能になるモータ制御装置、およびモータ制御装置が実施する機械の許容デューティサイクル時間算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一態様によれば、機械を動作させるモータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータの巻線に印加する電流値を用いて前記巻線の温度を計算する温度上昇推定計算式により巻線温度を推定する巻線温度推定部と、
前記巻線に装着された温度センサと、
前記機械に取付けられた前記モータを所定の回転速度で回転させる場合について、前記巻線温度推定部により推定された前記巻線の温度
を、前記巻線に電流を印加してからの経過時間ごとに示した巻線推定温度上昇プロファイルと、前記温度センサにより測定された前記巻線の温度
を、前記巻線(12)に電流を印加してからの経過時間ごとに示した巻線実温度上昇プロファイルと、を比較した結果に基づいて、前記巻線推定温度上昇プロファイルを前記巻線実温度上昇プロファイルに合致させるように、前記巻線の温度を補正する補正係数を算出し、当該補正係数により前記温度上昇推定計算式を補正する補正部と、
を備えるモータ制御装置が提供される。
この第一態様により上述の課題が解決される。しかし、本発明は、第一態様に限られず、以下の第二態様ないし第4態様のいずれかのモータ制御装置を提供することもできる。
【0012】
本発明の第二態様によれば、第一態様のモータ制御装置であって、
前記補正部が、前記機械の動作時の冷却要因による温度低下量を考慮して前記温度上昇推定計算式の補正を行なう、モータ制御装置が提供される。
【0013】
本発明の第三態様によれば、第一態様または第二態様のモータ制御装置であって、
前記巻線温度推定部が、前記機械の1サイクルの動作と対応する前記モータの駆動時間および電流値を用いて前記巻線の温度を推定する、モータ制御装置が提供される。
【0014】
本発明の第四態様によれば、第三態様のモータ制御装置であって、
前記巻線温度推定部により推定される巻線の温度に基づいて、前記推定される巻線の温度が前記モータの温度保護レベルを超えないことを満たす機械の許容デューティサイクル時間を算出する許容デューティサイクル時間算出部をさらに備えた、モータ制御装置が提供される。
【0015】
本発明の第五態様によれば、
機械を動作させるモータの巻線に印加する電流値を用いて前記巻線の温度を計算する温度上昇推定計算式により巻線温度を推定する巻線温度推定部と、前記巻線に装着された温度センサと、を備えたモータ制御装置が実施する機械の許容デューティサイクル時間算出方法であって、
前記機械に取付けられた前記モータを所定の回転速度で回転させる場合について、前記巻線温度推定部により推定された前記巻線の温度
を、前記巻線(12)に電流を印加してからの経過時間ごとに示した巻線推定温度上昇プロファイルと、前記温度センサにより測定された前記巻線の温度
を、前記巻線(12)に電流を印加してからの経過時間ごとに示した巻線実温度上昇プロファイルと、を比較した結果に基づいて、前記巻線推定温度上昇プロファイルを前記巻線実温度上昇プロファイルに合致させるように、前記巻線の温度を補正する補正係数を算出し、当該補正係数により前記温度上昇推定計算式を補正し、
前記補正係数を補正した前記温度上昇推定計算式を用いて、前記巻線温度推定部が、前記機械の1サイクルの動作と対応する前記モータの駆動時間および電流値から前記巻線の温度を推定し、
前記推定される巻線の温度が前記モータの温度保護レベルを超えないことを満たす機械の許容デューティサイクル時間を算出する、
機械の許容デューティサイクル時間算出方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第一態様によれば、モータ制御装置に備わる補正部は、モータを機械に取付けて該モータを所定の回転速度で回転させた状況において温度センサにより測定された巻線の温度の巻線実温度上昇プロファイルと、この測定と同じ状況について巻線温度推定部により推定された巻線の温度の巻線推定温度上昇プロファイルとを比較する。それから、その比較結果に基づいて、巻線推定温度上昇プロファイルを巻線実温度上昇プロファイルに合致させられるような温度上昇推定計算式の補正係数を算出する。そして、その補正係数を乗じた温度上昇推定計算式により巻線温度を推定するようにしている。このようにモータを機械に取付けた状態において温度上昇推定計算式を補正しているので、機械の熱容量を考慮して巻線の温度を正確に推定することが可能となる。
【0017】
本発明の第二態様によれば、機械の動作時の冷却要因による温度低下量を考慮して温度上昇推定計算式を補正することにより、巻線温度推定部により推定される巻線の温度を、上述の第一態様よりも機械での実際の巻線温度に近付けることが可能となる。
【0018】
本発明の第三態様から第五態様によれば、例えば加工機械が実際に加工を行うときに機械の1サイクルの動作が繰返される場合、巻線の温度を効率よく正確に推定し、この推定値を用いて、巻線の過熱および焼損を防ぐための機械の許容デューティサイクル時間(すなわち、機械の1サイクルの動作に対するモータ駆動時間とこれに続くモータ休止時間の組合せ)も正確に算出することができる。
【0019】
添付図面に示される本発明の典型的な実施形態の詳細な説明から、本発明のこれらの目的、特徴および利点ならびに他の目的、特徴および利点がさらに明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の図面において、同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。また、図面に示される形態は本発明を実施するための一つの例であり、本発明は図示された形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は本発明の一実施形態によるモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
図1に示されるモータ制御装置1は、ロボットまたは工作機械(不図示)などの機械2を動作させるモータ11の巻線12の焼損を防止するため、モータ駆動時間とモータ休止時間とを切替制御する機能を有する。特に、背景技術の欄において述べたように、モータ制御装置1は、機械の1サイクルの動作における巻線12の温度を推定し、機械の1サイクルの動作を繰返すときに、巻線12の温度がアラームレベル(すなわちモータの温度保護レベル)を超えないことを満たすモータ駆動時間およびモータ休止時間の組合せ(すなわち許容デューティサイクル時間)に従ってモータ11を駆動するようにしている。このとき、モータ11が取付けられる機械2の構造ごとに熱容量が異なるため、機械2の熱容量を考慮して巻線12の温度を正確に推定することが巻線12の焼損防止に有効となる。
【0023】
そこで、本実施形態のモータ制御装置1は、
図1に示されるように、モータ11に装着されていて巻線12の温度を検出する温度センサ13と、モータ11の回転位置および回転速度を検出するエンコーダ14と、モータ11を駆動する所定の動作指令、例えば速度指令やトルク指令などを生成して出力する指令部15と、エンコーダ14の検出値と指令部15の指令値とに基づいてモータ11を駆動するモータ駆動部16と、を備える。
【0024】
さらに、本実施形態のモータ制御装置1は、予め記憶された温度上昇推定計算式を用いてモータ11の巻線12の温度を推定する巻線温度推定部17と、巻線温度推定部17により推定された巻線温度に基づいて機械の許容デューティサイクル時間を計算しモータ駆動部16に出力する許容デューティサイクル時間算出部18と、温度センサ13により検出された巻線12の温度を所定時間ごとに順次記録する巻線温度記録部19と、を備える。そして、当該モータ制御装置1は、巻線温度記録部19により順次記録された実際の温度から求められた巻線実温度上昇プロファイルと、巻線温度推定部17により順次推定された温度から求められた巻線推定温度上昇プロファイルとを比較しつつ、巻線温度推定部17内の温度上昇推定計算式の補正係数を算出し、当該補正係数により温度上昇推定計算式を補正する補正部20を備えている。さらに、巻線温度推定部17には、温度上昇推定計算式のパラメータを入力可能な入力部21が接続されていることが好ましい。
【0025】
また、
図1に示された巻線温度推定部17は、巻線12の温度上昇を推定する温度上昇推定計算式、例えば下記式(1)を記憶保持していて、式(1)を用いて巻線12の温度上昇プロファイルを推定する。
[モータ巻線の温度上昇]=[連続定格時の温度上昇]
×[モータ電流^2]÷[連続定格時の電流^2]
×(1−e^(−[経過時間]÷[熱時定数]))・・・(1)
【0026】
上記式(1)について、「連続定格時の電流」とは、モータ11が過熱することなしに巻線12に連続印加できる最大電流値を意味し、「連続定格時の温度上昇」とは、モータ単体において連続定格時の電流を実際に印加したときから巻線12の温度が飽和するまでの温度上昇量を意味する。さらに、「経過時間」とは、電流を巻線12に印加してから電流印加を終了するまでの時間、すなわちモータ駆動時間を意味する。「熱時定数」とは、巻線12の温度変化に必要な時間を意味する。さらに、「モータ電流」とは、指令どおりにモータ11を動作させるときの電流値を意味する。勿論、「連続定格時の電流」、「連続定格時の温度上昇」および「熱時定数」はモータ11の設計および製造段階において決まるものなので、式(1)に初めから与えられている。一方、「モータ電流」および「経過時間」は上記式(1)のパラメータである。さらに、「モータ電流」および「経過時間」については、指令部15や入力部21から巻線温度推定部17に入力することができる。
【0027】
さらに、本願においては、例えば工作機械が実際に加工を行った実績や、加工プログラムの解析によるシミュレーションなどから、機械の1サイクルの動作に対応するモータ電流を事前に求め、求めたモータ電流を入力部21から巻線温度推定部17に入力することも可能となっている。
【0028】
第一方法例
次に、
図1に示されたモータ制御装置1において、機械2の熱容量を考慮した巻線12の温度上昇プロファイルを推定する第一方法例について述べる。
図2は本発明に係る第一方法例を示したフローチャートである。
【0029】
まず、機械2のオペレータはモータ11を機械2に取付ける。このとき、モータ11の回転軸には未だ何も接続されていない状態とする。この状態において、指令部15(
図1)は、モータ11が所定の回転速度で回転するようにモータ駆動部16に速度指令を出力する。そして、モータ駆動部16(
図1)はエンコーダ14の検出値を参照しながらモータ11を所定の回転速度で空運転させる(
図2のステップS11)。なお、「所定の回転速度」については最高回転速度が望ましいが、最高回転速度よりも低い回転速度でもよい。
【0030】
さらに、巻線温度記録部19(
図1)は、巻線12の温度が少なくとも飽和温度に達するまで、温度センサ13により検出された巻線12の温度を所定時間ごとに順次記録して、巻線実温度上昇プロファイルを作成する。その一方で、巻線温度推定部17(
図1)は、モータ11を所定の回転速度で回転させたときのモータ11の巻線12の温度を上記式(1)の温度上昇推定計算式に基づいて所定時間ごとに順次推定し、巻線推定温度上昇プロファイルを作成する。なお、当該推定に必要な式(1)のパラメータ(すなわち「モータ電流」および「経過時間」)は、指令部15および入力部21から巻線温度推定部17に入力されている。例えば、式(1)の「モータ電流」としては、所定の回転速度でモータ11を回転させるときの指令電流値が指令部15から巻線温度推定部17に入力される。また、温度センサ13により巻線12の温度測定を開始してから、巻線12の温度が飽和温度に達するまでに要する時間が、式(1)の「経過時間」に相当する。
【0031】
そして、補正部20(
図1)は、巻線温度記録部19により取得された巻線実温度上昇プロファイルと、巻線温度推定部17により取得された巻線推定温度上昇プロファイルとを比較する(
図2のステップS12)。
【0032】
このステップS12をさらに具体的に説明する。
図3は、ステップS12を具体的に説明するグラフであり、巻線実温度上昇プロファイル(図中の実線のグラフ)と、巻線推定温度上昇プロファイル(図中の破線のグラフ)とをそれぞれ示したグラフである。
図3において、横軸は電流を巻線に印加してからの経過時間(h)を表し、縦軸はモータの巻線温度(℃)を表している。
【0033】
図3のグラフから分かるように、巻線実温度上昇プロファイルにおける巻線12の飽和温度P1は、巻線推定温度上昇プロファイルにおける巻線12の飽和温度P2よりもα[℃]だけ低い。さらに、巻線実温度上昇プロファイルにおいて巻線12が飽和温度P1に達した時刻t2は、巻線推定温度上昇プロファイルにおいて巻線12が飽和温度P2に達した時刻t1よりもβ[h]だけ遅い。本願の第一方法例においては、巻線推定温度上昇プロファイル(
図3中の破線のグラフ)を巻線実温度上昇プロファイル(
図3中の実線のグラフ)に合致させる。このため、上述の補正部20は、まず、
図3に示されるような巻線実温度上昇プロファイルと、式(1)を用いて得られる巻線推定温度上昇プロファイルとを相互比較して、上述のα、βの値をそれぞれ求める。
【0034】
式(1)に対して上述のα、βを考慮し、かつ、推定される巻線温度を実際の巻線温度に合致させられるような補正係数1を含めると、式(1)は、下記式(2)のようになる。
[モータ巻線の温度上昇]−α=[連続定格時の温度上昇×補正係数1]
×[モータ電流^2]÷[連続定格時の電流^2]
×(1−e^(−[経過時間]÷[熱時定数−β]))・・・(2)
このような式(2)は補正部20に記憶保持されており、また、式(2)におけるα、β以外の値は、巻線推定温度上昇プロファイル(
図3中の破線のグラフ)を作成したときに既に取得されている。
【0035】
続いて、補正部20は、求めたα、βの値をそれぞれ式(2)の項α、βに入力し、式(2)の左辺と右辺とが等しくなるように式(2)内の補正係数1を算出する。そして、補正部20は、巻線推定温度上昇プロファイルを巻線実温度上昇プロファイルに合わせられるように算出した補正係数1によって、巻線温度推定部17内の温度上昇推定計算式(上記式(1))を補正する(
図2のステップS13)。補正された温度上昇推定計算式は、上記式(1)の右辺に補正係数1を乗じた式となる。すなわち、下記式(3)となる。
[モータ巻線の温度上昇]=[連続定格時の温度上昇×補正係数1]
×[モータ電流^2]÷[連続定格時の電流^2]
×(1−e^(−[経過時間]÷[熱時定数]))・・・(3)
その後、巻線温度推定部17は、補正された温度上昇推定計算式(上記式(3))を使用して巻線12の温度を推定することとなる。
【0036】
上述したように、第一方法例においては、まず、モータ11を現実に機械2に取付け、モータ11を所定の回転速度で回転させたときに温度センサ13から得られる巻線実温度上昇プロファイルと、同じくモータ11を所定の回転速度で回転させた場合の巻線温度推定部17が推定する巻線推定温度上昇プロファイルとを比較する。それから、その比較結果に基づき、巻線推定温度上昇プロファイルを巻線実温度上昇プロファイルに合せられるような温度上昇推定計算式の補正係数を算出する。そして、その補正係数を乗じた温度上昇推定計算式により巻線温度を推定するようにしている。それにより、機械2の熱容量を考慮した巻線12の温度を正確に推定することが可能となる。さらに言えば、モータ11を取付ける機械2の構造が変更されたとしても、上述のように機械2の熱容量を考慮した巻線12の温度を正確に推定して、モータ11の巻線12が焼損しないようにモータ駆動時間とモータ休止時間とを切替制御することが可能となる。
【0037】
第二方法例
次に、
図1に示されたモータ制御装置1において、機械2の熱容量を考慮した巻線12の温度上昇プロファイルを推定する第二方法例について説明する。
図4は本発明に係る第二方法例を示したフローチャートである。
【0038】
以下の第二方法例においては、上述の第一方法例により得られた巻線推定温度上昇プロファイルを巻線実温度上昇プロファイルにさらに近付けるため、加工プログラムによって実際に加工して巻線12の温度上昇推定計算式を補正する。
【0039】
そのため、機械のオペレータは、モータ11を機械2に取付けるとともに、モータ11の回転軸に加工ツール(不図示)を取付け、加工ツールにより加工されるべきワーク(不図示)も機械2の作業テーブル上に固定する。このような状態において、まず、指令部15(
図1)は、軌跡プログラミングにより事前に作成された加工プログラムに基づいてワークを実際に加工するように、モータ駆動部16に所定の指令を出力してモータ11を駆動する(
図4のステップS21)。このとき、切削液などのクーラントを加工ツールおよびワークに供給しながらモータ11を駆動することが好ましい。
【0040】
次いで、巻線温度記録部19(
図1)は、加工プログラム(すなわち機械の1サイクルの動作)が終了するまで、温度センサ13により検出された巻線12の温度を所定時間ごとに順次記録して、巻線実温度上昇プロファイルを再度作成する。続いて、補正部20(
図1)は、加工プログラムに基づいてワークを加工したときの巻線実温度上昇プロファイルと、上述の第一方法例のステップS11〜S13(
図2参照)を経て補正された温度上昇推定計算式(上記式(3))により推定される巻線推定温度上昇プロファイルと、を比較する(
図4のステップS22)。
【0041】
このステップS22をさらに具体的に説明する。
図5は、ステップS22を具体的に説明するグラフであり、巻線実温度上昇プロファイル(図中の実線のグラフ)と、巻線推定温度上昇プロファイル(図中の破線のグラフ)とをそれぞれ示したグラフである。
図5において、横軸は電流を巻線に印加してからの経過時間(h)を表し、縦軸はモータの巻線温度(℃)を表している。
【0042】
図5のグラフから分かるように、機械の1サイクルの動作時間(すなわち加工プログラム1周期分)においては、巻線実温度上昇プロファイルの最大温度P3は、補正された温度上昇推定計算式により推定される巻線推定温度上昇プロファイルの最大温度P4よりもγ[℃]だけ低い。本願の第二方法例においては、巻線推定温度上昇プロファイル(
図5中の破線のグラフ)を巻線実温度上昇プロファイル(
図5中の実線のグラフ)に合致させる。このため、上述の補正部20は、まず、
図5に示されるような巻線実温度上昇プロファイルと、上記式(3)により得られる巻線推定温度上昇プロファイルとを相互比較して、上述のγの値をそれぞれ求める。
【0043】
上記式(3)に対して、上述のγを考慮し、かつ、式(3)により推定される巻線温度を実際の巻線温度に合致させられるような補正係数2を含めると、上記式(3)は、下記式(4)のようになる。
[モータ巻線の温度上昇]−γ=[連続定格時の温度上昇×補正係数1×補正係数2]
×[モータ電流^2]÷[連続定格時の電流^2]
×(1−e^(−[経過時間]÷[熱時定数]))・・・(4)
このような式(4)もまた、補正部20に記憶保持されている。また、式(4)におけるγおよび補正係数2を除いた値は、上述した第一方法例のステップS11〜S13の過程において既に補正部20に与えられている。
【0044】
続いて、補正部20は、求めたγの値をそれぞれ式(4)の項γに入力し、式(4)の左辺と右辺とが等しくなるように式(4)内の補正係数2を算出する。そして、補正部20は、上記式(3)により推定された巻線推定温度上昇プロファイルを巻線実温度上昇プロファイルに合致させるように算出された補正係数2によって、巻線温度推定部17内の温度上昇推定計算式(上記式(1))を補正する(
図4のステップS23)。つまり、補正された温度上昇推定計算式は、上記式(1)の右辺に補正係数1および補正係数2を乗じた式となる。すなわち、下記式(5)となる。
[モータ巻線の温度上昇]=[連続定格時の温度上昇×補正係数1×補正係数2]
×[モータ電流^2]÷[連続定格時の電流^2]
×(1−e^(−[経過時間]÷[熱時定数]))・・・(5)
その後、巻線温度推定部17は、補正された温度上昇推定計算式(上記式(5))を使用して巻線12の温度を推定することとなる。
【0045】
上述したように、第二方法例においては、機械を動作させたときの、クーラント、ワーク(被加工物)、加工ツールなどに起因したモータ11および巻線12の温度低下を考慮に入れて、温度上昇推定計算式を補正している。つまり、補正部20は、機械の動作時の冷却要因による温度低下量を考慮して温度上昇推定計算式を補正している。そのため、巻線12の温度を上述の第一方法例よりも更に正確に推定することが可能となる。
【0046】
なお、第二方法例においては、まず、加工プログラムに基づいてワークを加工したときの巻線実温度上昇プロファイルと、上述の第一方法例によって補正された温度上昇推定計算式(上記式(3))により推定される巻線推定温度上昇プロファイルとを比較する。それから、その比較結果に基づいて、推定される巻線温度が実際の巻線温度により近い値となるような温度上昇推定計算式の補正係数2を算出している。しかし、本願においては別方法も考えられる。すなわち、モータ11の回転軸に加工ツール(不図示)を取付け、加工ツールにより加工されるべきワーク(不図示)を機械の作業テーブル上に固定し、クーラントをワークおよび加工ツールに供給する。そして、このような状態においてワークを加工しないで、上述の第一方法例のステップS11、S12を順次実施することにより、上記式(2)の項α、βを求めて温度上昇推定計算式の補正係数1を算出してもよい。
【0047】
第三方法例
次に、
図1に示されたモータ制御装置1において、機械2の熱容量を考慮した巻線12の温度上昇プロファイルを推定するとともに、機械の1サイクルの動作を繰り返すときに巻線12の温度がアラームレベルを超えないことを満たすモータ駆動時間およびモータ休止時間の組合せ(すなわち許容デューティサイクル時間)を算出する機械の許容デューティサイクル時間算出方法を第三方法例として示す。
【0048】
図6は本発明に係る第三方法例を示したフローチャートである。
図6に示されているステップS31〜S38のうちのステップS31〜S33は、上述の第一方法例のステップS11〜S13(
図2参照)と同じであり、ステップS31〜S38のうちのステップS34〜S36は、上述の第二方法例のステップS21〜S23(
図4参照)と同じである。よって、以下では、ステップS37〜S38のみについて述べる。
【0049】
図6に示されたステップS31〜S36が終了すると、上記式(2)の補正係数1および上記式(4)の補正係数2が算出されて、上記式(1)の右辺に補正係数1および補正係数2を乗じた温度上昇推定計算式(上記式(5))が得られる。そして、得られた温度上昇推定計算式を用いることにより、機械2の実際の加工状況を考慮した巻線12の温度が正確に推定される。
【0050】
ここで、機械の1サイクルの動作を繰返すときに巻線12の温度がアラームレベルを超えないことを満たす機械の許容デューティサイクル時間を算出するには、機械の1サイクルの動作中におけるモータ11の巻線12の温度を推定する必要がある。この推定のためには、上記式(5)の温度上昇推定計算式における各パラメータの値が必要になる。式(5)における「モータ電流」および「経過時間」を除いた各パラメータの値は、指令部15や入力部21から巻線温度推定部17に既に与えられている。
【0051】
そのため、機械の1サイクルの動作に対応するモータ電流値(最大値)と、機械の1サイクルの動作時間(すなわちモータ駆動時間)とについては求める必要がある。本願の第三方法例においては、機械のオペレータが、例えば工作機械が実際に加工を行った実績や、加工プログラムの解析によるシミュレーションなどから、機械の1サイクルの動作に対応するモータ電流およびモータ駆動時間を事前に求め、求めたモータ電流値およびモータ駆動時間を入力部21から巻線温度推定部17に入力している。勿論、そのようなモータ電流およびモータ駆動時間については、モータ制御装置の指令部15内のコンピュータ(不図示)が加工プログラムから求めて、指令部15から巻線温度推定部17に入力してもよい。
【0052】
そして、上述のモータ電流値およびモータ駆動時間が入力部21または指令部15より巻線温度推定部17に入力されると、巻線温度推定部17は、上記式(5)の温度上昇推定計算式を用いて、機械の1サイクルの動作中の巻線12の温度を推定する(
図6のステップS37)。
【0053】
続いて、許容デューティサイクル時間算出部18(
図1)は、機械の1サイクルの動作中における巻線12の温度上昇量に基づいて、機械の許容デューティサイクル時間を算出する(
図6のステップS38)。
【0054】
このステップS38をさらに具体的に説明する。
図7は、
図6に示されるステップS38を具体的に説明するグラフであり、巻線温度がアラームレベルを超えないことを満たす機械の許容デューティサイクル時間(図中の符号T)と、許容デューティサイクルに対応する巻線推定温度上昇プロファイル(図中の実線のグラフ)とをそれぞれ示したグラフである。
【0055】
図7のグラフから分かるように、工作機械においては巻線12を焼損させない温度がアラームレベル(所定の設定温度P5)として予め設定されている。そして、ステップS37において推定した巻線温度の最大値が、機械の1サイクルの動作(
図7中の符号A参照)を繰返したときにアラームレベルを超えないように、機械の1サイクルの動作と動作の間に挿入するモータ休止時間(
図7中の符号B参照)を求める。
【0056】
つまり、モータ11の巻線12に電流を絶えず印加していると巻線12が飽和温度に達して巻線12の過熱および焼損が発生するので、アラームレベルを設定して巻線12の焼損を予防する必要がある。よって、機械の1サイクルの動作を繰返すときに、機械の1サイクルの動作に対応するモータ駆動時間後にモータ休止時間を設定しない場合は、モータ11の巻線12に電流を絶えず印加していることになるので、推定される巻線12の温度はアラームレベルを超えるおそれがある。一方、モータ休止時間を設定すれば、モータ11の巻線12に電流を印加していない時間を作れるので、モータ休止時間においては巻線12の温度は低下するようになる。そこで、本願においては、機械の1サイクルの動作を繰返したときに、推定される巻線12の温度がアラームレベルを超えないための最短のモータ休止時間を求めるようにしている。なお、各1サイクルの動作時間(
図7中の符号A)はすべて同じ時間であり、各モータ休止時間(
図7中の符号B)もすべて同じ時間である。
【0057】
最短のモータ休止時間を求めるには、例えば、機械の1サイクルの動作に対応する巻線12の温度上昇量をΔt1、モータ休止時間に対応する巻線12の温度低下量をΔt2、機械の1サイクルの動作を繰返す回数をNとする。そして、巻線12の温度上昇量Δt1から巻線12の温度低下量Δt2を減算した値に繰返し回数Nを乗じた値が少なくともアラームレベルP5を超えない条件を満たすようにする。
つまり、P5>(Δt1−Δt2)×N ・・・(6)
の条件式を満たすようなモータ休止時間を求める。
【0058】
ここで、機械の1サイクルの動作に対応する巻線12の温度上昇量Δt1は、上述のステップS37において取得されている。繰返し回数Nについては、機械のオペレータが動作プログラムなどに基づいて繰返し回数Nを許容デューティサイクル時間算出部18に入力しておけばよい。そして、上記式(6)の右辺の値がアラームレベルP5を超えないように、上記式(6)の左辺の値を所定の温度Tmだけ低く見積り、見積った値が上記式(6)の右辺の値と等しくなるようなΔt2の値を算出する。すなわち、下記の式(7)より、Δt2の値を算出する。
P5−Tm=(Δt1−Δt2)×N ・・・(7)
そして、モータ休止時間は、モータ休止時間に対応する温度低下量Δt2に巻線12の熱時定数を乗じることによって求まる。
【0059】
以上のことから、許容デューティサイクル時間算出部18は、ステップS37において巻線12の温度上昇量Δt1を取得すると、上記式(7)を用いて巻線12の温度低下量Δt2を算出する。つまり、温度上昇量Δt1、アラームレベルP5、所定の温度Tmおよび繰返し回数Nの各値を上記式(7)に代入することにより、温度低下量Δt2が算出される。さらに、許容デューティサイクル時間算出部18は、事前に取得されている巻線12の熱時定数を用い、算出された温度低下量Δt2に巻線12の熱時定数を乗じることにより、温度低下量Δt2に要する時間を算出する。このようにして算出された時間がモータ休止時間となる。
【0060】
そして、許容デューティサイクル時間算出部18は、求めたモータ休止時間を、機械の1サイクルの動作に対応するモータ駆動時間の後に加算して、機械の許容デューティサイクル時間を算出している。なお、機械の1サイクルの動作に対応するモータ駆動時間は、入力部21から巻線温度推定部17に既に入力されている。
【0061】
上述したように、第三方法例によれば、機械の熱容量を考慮して巻線の温度を効率よく正確に推定し、この推定値を用いて機械の許容デューティサイクル時間も正確に算出することができる。
【0062】
なお、以上に説明した実施形態においては、巻線12の温度上昇推定計算式(上記式(1))を補正する補正係数を求める式として上記の式(2)や式(4)を例示したが、本発明はそれらの計算式に限定して実施されるものではない。
また、以上では典型的な実施形態を示したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の思想を逸脱しない範囲で上述の実施形態を様々な形、構造や材料などに変更可能である。