【実施例】
【0011】
(構成)
まず、
図1を用いて本実施例のアクチュエータの遠隔操作装置40を備える移動式クレーンとしてのラフテレーンクレーン1の全体構成について説明する。以下の実施例では、ラフテレーンクレーン1を例にして説明するが、これに限定されるものではなく、オールテレーンクレーンなどの移動式クレーンに広く本発明を適用できる。
【0012】
(クレーンの全体構成)
本実施例のラフテレーンクレーン1は、
図1に示すように、走行機能を有する車両の本体部分となる車体10と、車体10の四隅に設けられたアウトリガ11,・・・と、車体10に水平旋回可能に取り付けられた旋回台12と、旋回台12に立設されたブラケット13に取り付けられたブーム14と、を備えている。
【0013】
アウトリガ11は、スライドシリンダ52を伸縮することで車体10から幅方向外側にスライド張出/スライド格納可能であるとともに、ジャッキシリンダ51を伸縮することで車体10から上下方向にジャッキ張出/ジャッキ格納可能である。
【0014】
旋回台12は、旋回用モータの動力を伝達されるピニオンギヤを有しており、このピニオンギヤが車体10に設けた円形状のギヤに噛み合うことで旋回軸を中心に回動する。旋回台12は、前方右側に配置された運転室18と、後方中央に配置されたブラケット13と、後方下部に配置されたカウンタウェイト19と、を有している。運転室18内には、遠隔操作機能をONにするためのスイッチ75やパーキングブレーキスイッチ76などが配置されている(
図2参照)。
【0015】
ブーム14は、基端ブーム141と中間ブーム142と先端ブーム143とによって入れ子式に構成されており、内部に配置された伸縮シリンダによって伸縮できるようになっている。先端ブーム143の最先端のブームヘッドにはシーブが配置され、シーブにワイヤロープ16が掛け回されてフックブロック17が吊下げられている。
【0016】
最も外側の基端ブーム141は、付け根部がブラケット13に水平に設置された支持軸に回動自在に取り付けられており、支持軸を回転中心として上下に起伏できるようになっている。さらに、ブラケット13と基端ブーム141の下面との間には、起伏シリンダ15が架け渡されており、起伏シリンダ15を伸縮することでブーム14全体を起伏することができる。
【0017】
さらに、本実施例のラフテレーンクレーン1では、基端ブーム141の側面に、ジブ30及びテンションロッド20、20が横抱姿勢にて格納されている。ジブ30及びテンションロッド20、20は、複数のピン(不図示)とサイドアップシリンダ31とを用いて、装着/格納される。
【0018】
(制御系の構成)
次に、
図2を用いて本実施例の遠隔操作装置40を含む制御系の構成について説明する。本実施例の制御系は、アクチュエータとして、4つのジャッキシリンダ51、・・・と、4つのスライドシリンダ52、・・・と、旋回モータ53と、起伏シリンダ54と、伸縮シリンダ55と、メインウインチモータ56と、サブウインチモータ57と、を備えている。さらに、本実施例では、アクチュエータとして、各タイヤのディスクブレーキを作動させる作業用補助ブレーキ58と、ジブ30を伸縮させるためのジブ伸縮シリンダ59と、を備えている。これらのアクチュエータは、後述するコントロールバルブ64によって制御される。
【0019】
そして、本実施例の制御系は、油圧回路として、エンジン60のトランスミッション61から動力を取り出すPTO62と、PTO62によって回転駆動され油タンク65からの作動油を加圧する油圧ポンプ63と、油圧ポンプ63から吐出される作動油の流れを制御するコントロールバルブ64と、を備えている。コントロールバルブ64は、各アクチュエータに対応するバルブ群から構成される。各バルブはコントローラ70によって制御される。
【0020】
コントローラ70は、バス、演算装置、記憶装置などを有するコンピュータである。コントローラ70は、旋回レバー71、起伏レバー72、伸縮レバー73、メインウインチレバー74、などからの操作信号を受信して、又は、通信部70aを介して遠隔操作装置40からの操作信号を受信して、各バルブの移動方向及び移動量を演算し、コントロールバルブ64に信号を送信することによってアクチュエータを制御する。さらに、コントローラ70は、遠隔操作機能をONにするスイッチ75、パーキングブレーキスイッチ76、ジブ長さ検出器81、ブーム長さ検出器82などのスイッチや検出器からの信号を受信するように構成されている。
【0021】
そして、本実施例のコントローラ70は、以下に説明する各前提条件が満たされたときにのみ、遠隔装置40によるアクチュエータの遠隔操作を可能とする。具体的には、前提条件が満たされた場合にのみ、運転室18内で遠隔操作機能をONにすることができるようになる。そして、遠隔操作機能がONになってはじめて遠隔操作装置40の電源がONになる。なお、いったん前提条件が満たされた後は、原則として継続的に条件を満たす必要はなく、条件設定は解除される。以下、前提条件として、「作業用補助ブレーキON」、「ジブ全縮」、「ブーム長さ1m以内」の各条件について説明する。
【0022】
(前提条件1:作業用補助ブレーキON)
アウトリガ11を張り出していない状況下で、タイヤを接地して敷板を吊る際(傾斜地でアウトリガ11を張り出す際)には、移動式クレーンが逸走する可能性がある。このような逸走を防止するために、各タイヤに装備されているディスクブレーキを油圧によって作動させて制動する「作業用補助ブレーキ(第3ブレーキ、AUXとも称する)」をONにすることを前提条件とするものである。具体的には、運転室18内のパーキングブレーキスイッチ76を「AUX」にすることで、作業用補助ブレーキがONになる。
【0023】
(前提条件2:ジブ全縮)
ジブ角度検出用コネクタ接続時に、ジブ全縮が検出されることを前提条件とするものである。これは、作業中はジブ30を伸ばした状態で作業しているところ、この状態では遠隔操作機能をONにできないようにする。その理由は、遠隔操作装置40にはジブ伸縮機能を設けないため、運転室18から降りる前に周知して、運転室18内でジブ30を全縮にさせるためである。具体的には、ジブ伸縮シリンダ59を縮めることでジブ30が全縮状態になり、これをジブ長さ検出器81によって検出する。さらに、別の理由として、作業準備に使用する遠隔操作機能であるのに、ジブ30が伸ばされた状態で使用できるようにすると、作業範囲が広くなり通常の作業ができてしまうことになるところ、これを抑止するためである。したがって、遠隔操作装置40には、ジブ30の伸縮機能(伸縮操作)が設けられていない。そして、遠隔操作装置40にジブ30の伸縮機能(伸縮操作)が設けられていないため、いったん前提条件2が満たされた後には、継続的に前提条件2を満たす必要がないようにされている。前提条件2は、ジブ作業時においてのみ、すなわちジブ角度検出用コネクタが接続されている状態においてのみ、前提条件とすることが好ましい。
【0024】
(前提条件3:ブーム伸び量1m以内)
ブーム14の伸び量が1m以内になっていることを前提条件とするものである。これは、遠隔操作では、通常の吊り荷作業を許容しないところ、作業範囲を制限することによって敷板吊やジブ着脱などの作業準備に限定することを目的としている。さらに、この条件のみは、遠隔操作機能がONになった後にも、条件設定を解除されることなく、継続的に条件として設定される。具体的には、伸縮シリンダ55を縮めることでブーム14が縮められ、これをブーム長さ検出器82によって検出する。
【0025】
(他の前提条件)
なお、上述した3つの前提条件以外にも以下のような前提条件を課すことが考えられる。例えば、PTOがONであることを前提条件とすれば、遠隔操作を作業時に限定できる。例えば、シフトレバーがN(ニュートラル)であることを前提条件とすれば、走行状態での遠隔操作を防止できる。例えば、旋回フリーがOFFであることを前提条件とすれば、傾斜や風による旋回を防止することができる。なお、自動で旋回フリーをOFFにすると、遠隔操作装置をOFFにしたときに、急に旋回フリーがONになって危険となるおそれがある。例えば、AMLベントを伴うエラーがないことを前提条件とすれば、重要なエラーが出た状態での遠隔操作を防止できる。例えば、荷重を検出していないことを前提条件とすれば、荷重を吊った状態での誤操作を防止できる。例えば、操作レバー71〜74による操作がないことを前提条件とすれば、操作中に誤って遠隔操作機能をONにしてしまい、アクチュエータが急停止することを防止できる。
【0026】
遠隔操作装置40は、
図3、4に示すように、アクチュエータを操作するための操作面42と、操作面42の下方に延びて手で把持される把持部41と、を有する。また、遠隔操作装置40は通信部40aを有しており、以下に説明するレバースイッチS1〜S4や設定ボタンF1〜F3等を操作することでコントローラ70の通信部70aを介してコントローラ70に指示を出したり、コントローラ70から情報を取得したりする。把持部41の背面側には把持部41を握った状態で人差し指で操作されるトリガ45が配置されている。ただし、上述した各前提条件のいずれかが満たされていないときには、コントローラ70側で遠隔操作機能がONにならないため、遠隔操作装置40の電源がONにならず、コントローラ70を介してアクチュエータを操作することはできない。
【0027】
操作面42は、上部に配置される表示部43と;表示部43の右に配置される電源スイチ44と;表示部の下左に配置されるモードボタン46と;モードボタン46の右に並んで配置される3つの設定ボタンF1、F2、F3と;モードボタン46及び設定ボタンF1、F2、F3に対応して下方に配置される4つの選択手段としての旋回レバースイッチS1、起伏レバースイッチS2、サブウインチレバースイッチS3、及びメインウインチレバースイッチS4と;を備えている。
【0028】
このように、主操作装置とは別に設けられてアクチュエータを操作する遠隔操作装置40と、アクチュエータを動作させる制御部としてのコントローラ70と、によって本発明の移動式クレーンの安全装置Sが構成される。
【0029】
(作用)
次に、
図5のフローチャートを用いて、本実施例の移動式クレーンの安全装置Sの作用について説明する。
【0030】
はじめに、運転室18内のスイッチ75をONにすることによって、遠隔操作機能をON操作する(ステップS1)。実際には、この時点では遠隔操作機能はONにならず、遠隔操作装置40の電源もONにならない。
【0031】
遠隔操作機能をON操作されると、作業用補助ブレーキ58がONになっているか否かが判定される(ステップS2)。具体的には、コントローラ70によって運転室18内のパーキングブレーキスイッチ76がAUX位置になっているか否かを判定される。ONになっていれば(YES)、ステップS3に進む。ONになっていなければ(NO)、作業用補助ブレーキ58をONにするように周知する(ステップS21)。
【0032】
作業用補助ブレーキ58がONになっていれば、ジブ30が全縮状態か否かが判定される(ステップS3)。具体的には、コントローラ70によって、ジブ長さ検出器81が検出した長さに基づいてジブ30が全縮状態か否かが判定される。全縮になっていれば(YES)、ステップS4に進む。全縮になっていなければ(NO)、ジブ30を全縮にするように周知する(ステップS31)。
【0033】
ジブ30が全縮になっていれば、ブーム伸び量が1m以下か否かが判定される(ステップS4)。具体的には、コントローラ70によって、ブーム長さ検出器82が検出した長さに基づいてブーム伸び量が1m以下か否かが判定される。1m以下になっていれば(YES)、ステップS5に進む。1m以下になっていなければ(NO)、ブーム14を縮めるように周知する(ステップS41)。
【0034】
ブーム伸び量が1m以下になっていれば、その他の条件が判定される(ステップS5)。具体的には、コントローラ70によって、その他の条件が判定される。その他の条件を満たしていれば(YES)、ステップS6に進む。その他の条件を満たしていなければ(NO)、その他の条件を満たすように周知する(ステップS51)。
【0035】
その他の条件が満たされていれば、コントローラ70によって、実際に遠隔操作機能がONにされる(ステップS6)。さらに、遠隔操作機能がONになれば、遠隔操作機能40の電源もONにすることができる。
【0036】
(効果)
次に、本実施例の移動式クレーンの安全装置Sの奏する効果を列挙して説明する。
【0037】
(1)上述してきたように、本実施例の移動式クレーンの安全装置Sは、運転室18内に配置される主操作装置とは別に設けられてアクチュエータを遠隔操作する遠隔操作装置40であって、移動式クレーンの作業準備に使用される、遠隔操作装置40と、遠隔操作装置40による指示を受けてアクチュエータを動作させる制御部としてのコントローラ70と、を備えている。そして、コントローラ70は、移動式クレーンの作業準備の前提条件が満たされたときにのみ、遠隔操作装置40によるアクチュエータの遠隔操作を可能とするように構成される。このように、作業準備の前提条件を課すことで作業準備の安全性を高めた移動式クレーンの安全装置Sとなる。
【0038】
(2)また、制御部としてのコントローラ70は、前提条件として、作業用補助ブレーキがONになっているときにのみ、遠隔操作装置40によるアクチュエータの遠隔操作を可能とするように構成することができる。このような構成によれば、アウトリガ11を張り出していない状況下で、タイヤを接地して敷板を吊る際(傾斜地でアウトリガ11を張り出す際)に、移動式クレーンの逸走を防止できる。
【0039】
(3)さらに、制御部としてのコントローラ70は、前提条件として、ジブ30が全縮になっているときにのみ、遠隔操作装置40によるアクチュエータの遠隔操作を可能とするように構成することができる。つまり、作業中はジブ30を伸ばした状態で作業しているところ、この状態では遠隔操作機能をONにできないようにする。これによって、ジブ30の着脱作業に際して、遠隔操作装置40にはジブ伸縮機能を設けないため、運転室18から降りる前に周知して、運転室18内でジブ30を全縮にさせることができる。逆に言うと、ジブ30の全縮を前提条件としない場合には、運転室18から降りた後にジブ30が全縮でないことに気づくことになり、いったん運転室18に昇ってジブ30を縮めたうえで、ジブ30の着脱作業を再開することになる。さらに、ジブ30全縮を前提条件とすることで、作業範囲が狭い範囲に限定されるため、ジブ30を用いて通常の作業をすることが困難になる。これにより、遠隔操作装置40によるアクチュエータの遠隔操作を作業準備に限定することができる。
【0040】
(4)また、制御部としてのコントローラ70は、前提条件として、ブーム14の伸び量が所定量以下となっているときにのみ、遠隔操作装置40によるアクチュエータの遠隔操作を可能とするように構成することができる。このような構成によれば、遠隔操作では、通常の吊り荷作業を許容しないところ、作業範囲を制限することによって敷板吊やジブ着脱などの作業準備に限定することができる。
【0041】
(5)なお、上述した3つの前提条件以外にも以下のような前提条件を課すことが考えられる。例えば、PTOがONであることを前提条件とすれば、遠隔操作を作業時に限定できる。例えば、シフトレバーがN(ニュートラル)であることを前提条件とすれば、走行状態での遠隔操作を防止できる。例えば、旋回フリーがOFFであることを前提条件とすれば、傾斜や風による旋回を防止することができる。例えば、AMLベントを伴うエラーがないことを前提条件とすれば、重要なエラーが出た状態での遠隔操作を防止できる。例えば、荷重を検出していないことを前提条件とすれば、荷重を吊った状態での誤操作を防止できる。例えば、操作レバー71〜74による操作がないことを前提条件とすれば、操作中に誤って遠隔操作機能をONにしてしまい、アクチュエータが急停止することを防止できる。
【0042】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0043】
例えば、実施例では、3つの前提条件をすべて満たさなければ、遠隔操作機能がONにならないとして説明したが、これに限定されるものではない。3つのうちのいずれか1つ、又は2つのみを条件とすることもできる。
【0044】
さらに、実施例では特に説明しなかったが、前提条件を満たさない場合に、遠隔操作機能をONにしてアクチュエータの遠隔操作を可能とさせつつ、警告を発するように構成することもできる。
【0045】
また、実施例では特に説明しなかったが、重要度の低い前提条件であれば、前提条件の採用/不採用をオペレータが選択できるように構成することもできる。
【0046】
さらに、
図5に示すフローチャートでは、順次、作業準備の前提条件をチェックして、各前提条件を満たしていなければ1つずつ周知するようになっているが、これに限定されるものではなく、満足していない前提条件を一時的に記憶しておき、最後にまとめて周知するように構成することもできる。