特許第6231534号(P6231534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231534
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ロータ形状を最適化した電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20171106BHJP
   H02K 21/12 20060101ALI20171106BHJP
   H02K 1/20 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   H02K1/27 501A
   H02K1/27 501K
   H02K1/27 501M
   H02K21/12 M
   H02K1/20 A
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-225181(P2015-225181)
(22)【出願日】2015年11月17日
(65)【公開番号】特開2017-93273(P2017-93273A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】新井 玲央
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−14457(JP,A)
【文献】 特開2008−29078(JP,A)
【文献】 特開2006−311738(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0043070(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 1/20
H02K 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ鉄心、及び前記ロータ鉄心に設けられた永久磁石を含む複数の磁極を有するロータと、
前記ロータの外周側に配置され、前記複数の磁極と対向する複数のティース、及び前記複数のティースに巻回された電気子巻線を収めるスロットが形成されたステータ鉄心を有するステータと、を有する電動機であって、
前記ロータの中心から外周までの距離r(θ)が下記の式(1)及び式(2)を満たすように、前記ロータが構成されている、
ことを特徴とする電動機。
【数1】
ただし
【数2】
R:ステータコアの最小径
0:ロータ最大径
1:従来形状のロータの径
p:ロータの極数
θ:ロータの回転中心から、回転軸に対して垂直にロータ極中心に向かう直線を基準(0[rad])とした際の角度[rad]
φ:r(θ)を指定する範囲[rad]
α,β,γ,μ:それぞれ式(1)及び(2)で範囲が指定された、ロータ形状を特徴付けるパラメータ(ただし、μ0=1とする。)
【請求項2】
前記ロータを1回転させた際のコギングトルクにおいて、ロータ極数とステータ歯数の最小公倍数回の周波数成分のコギングトルクの振幅が定格トルクの0.2%以下である、請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記ロータを1回転させた際のコギングトルクにおいて、ロータ極数とステータ歯数の最小公倍数回の周波数成分のコギングトルクの振幅が定格トルクの0.125%以下である、請求項1に記載の電動機。
【請求項4】
前記ロータの形状、前記ステータのティースの形状、及び両者の位相関係が、軸方向に渡って同一であり、前記ロータの複数の磁極のそれぞれの形状が同一である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電動機。
【請求項5】
パラメータφが前記式(5)の代わりに以下の式(5´)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数3】
【請求項6】
パラメータαが前記式(6)の代わりに以下の式(6´)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数4】
【請求項7】
パラメータγが前記式(9)の代わりに以下の式(9´)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数5】
【請求項8】
パラメータβが前記式(7)の代わりに以下の式(7´)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数6】
【請求項9】
パラメータφが前記式(5)の代わりに以下の式(5″)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数7】
【請求項10】
パラメータαが前記式(6)の代わりに以下の式(6″)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数8】
【請求項11】
パラメータγが前記式(9)の代わりに以下の式(9″)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数9】
【請求項12】
前記距離r(θ)が前記式(1)の代わりに下記の式(1´)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数10】
【請求項13】
前記距離r(θ)が前記式(2)の代わりに下記の式(2´)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数11】
【請求項14】
前記距離r(θ)が前記式(2)の代わりに下記の式(2″)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数12】
【請求項15】
前記距離r(θ)が前記式(1)及び(2)の代わりに下記の式(10)及び(20)を満たすように決められる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機。
【数13】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関し、特に、ロータ形状を最適化した電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータ形状の最適化によって低減可能なコギングトルクの基本的な周波数成分(以下、「基本成分」という)は、ロータ1回転当たり、ロータ極数とステータ歯数の最小公倍数回発生することが一般的に知られている。
【0003】
従来から、コギングトルクの基本成分の低減のために、様々な形状最適化が行なわれてきた。図1に、ロータ形状を連続的に変化させた際のコギングトルク波形(基本成分)の変化を示す。ロータ形状を(1)から(5)まで徐々に変化させ、ロータ形状が(3)の場合にコギングトルクの振幅が最も小さくなったとする。この場合、(3)の形状を最適形状として使用する。
【0004】
従来の形状最適化は、基本成分の低減を目標としてはいたが、基本成分を消しきることは困難であった。その残った基本成分を消すために、モータ軸方向に渡って、ロータ形状やステータ歯(ティース)形状、または両者の位相関係等を異なるものにして、基本成分を打ち消すのが一般的であった。その中で最も一般的な手法として、ロータの極位相を軸方向に渡って変化させるスキューが知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
図2は、特許文献1に記載された従来の電動機における、2段でスキュー構造を構成した場合のロータの概略斜視図である。ロータ1002は、複数の磁極を構成する永久磁石1050を組み込んだロータコアブロック1041a,1041bを軸方向に2段に有している。そして、ロータ1002は、各段のロータコアブロック1041a,1041bを互いに周方向にずらした状態で一体形成した段スキュー構造を有する。
【0006】
図3は、特許文献1に記載された従来の電動機における、図2を軸方向から見たロータコア1040の要部拡大図である。スキュー角度は、段を異にするロータコアブロック1041a,1041bからなるロータコアブロック1041において、磁石挿入穴1042内に組み込んだ磁石1050の両側の空間で、隣り合う磁極のフラックスバリア部1060a,1060b同士の少なくとも一部が重なり合うように設定される。重なり合ったフラックスバリア部1060a,1060bは、少なくとも一部が段を通して軸方向で一致している。重なり合ったフラックスバリア部1060a,1060b同士の断面形状がほぼ長円形を呈しており、外周形状がほぼ一致している。フラックスバリア部1060a,1060bが段を通して軸方向でほぼ一致することよって、軸方向に流れる段間での短絡磁束を遮断できるというものである。
【0007】
図2に示した従来技術においては、ロータを複数段にし、それぞれのロータ位相をずらし、ロータとステータの位相関係をずらしている。これによって、発生するコギングトルクの位相をずらし、その重ね合わせによってコギングトルクを打ち消そうとしている。他にも、ステータの位相をずらす方法、ロータの形状をそれぞれの段で変える方法、ステータの歯形状をそれぞれの段で変える方法等を用いる場合もある。
【0008】
従来技術ではコギングトルクの基本成分の低減が十分ではなく、ロータのスキュー(連続的スキューや、ロータの複数段をずらすスキュー)によって対応する場合もあった。しかしながら、スキューを行なった場合には、モータの出力が下がる恐れがあるという問題があった。また、スキューを行なうと部品点数や工数が増加することになり、コストが上昇してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014−150626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ロータ形状の最適化によって、ロータ極数とステータスロット数に起因するコギングトルクの基本成分を消し、コギングトルクの大幅な低減を達成可能な電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施例に係る電動機は、ロータ鉄心、及びロータ鉄心に設けられた永久磁石を含む複数の磁極を有するロータと、ロータの外周側に配置され、複数の磁極と対向する複数のティース、及び複数のティースに巻回された電気子巻線を収めるスロットが形成されたステータ鉄心を有するステータと、を有する電動機であって、ロータの中心から外周までの距離r(θ)が下記の式(1)及び式(2)を満たすように、ロータが構成されていることを特徴とする。
【0012】
【数1】
ただし、
【0013】
【数2】
R:ステータコアの最小径
0:ロータ最大径
1:従来形状のロータの径
p:ロータの極数
θ:ロータの回転中心から、回転軸に対して垂直にロータ極中心に向かう直線を基準(0 [rad])とした際の角度[rad]
φ:r(θ)を指定する範囲[rad]
α,β,γ,μ:それぞれ上式で範囲が指定された、ロータ形状を特徴付けるパラメータ
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施例に係る電動機によれば、ロータ形状の最適化によって、ロータ極数とステータスロット数に起因するコギングトルクの基本成分を消し、コギングトルクの大幅な低減を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来の電動機において、ロータ形状を連続的に変化させた際のコギングトルク波形(基本成分)の変化を表す概念図である。
図2】従来の電動機における、スキュー構造を2段で構成した場合のロータの概略斜視図である。
図3図2に示した従来の電動機を軸方向から見た要部拡大図である。
図4】本発明の実施例に係る電動機の断面図である。
図5】本発明の実施例に係る電動機のロータ周辺部の拡大断面図である。
図6】本発明の実施例において、ロータ形状を連続的に変化させた際のコギングトルク波形(基本成分)の変化を表す概念図である。
図7】本発明の実施例に係る電動機のマグネット及びマグネット穴の拡大断面図である。
図8】本発明の実施例に係る電動機において、パラメータを変化させた場合のロータ形状のシミュレーション結果である。
図9】本発明の実施例に係る電動機のロータ中心からのマグネット穴周辺部までの距離を示すマグネット穴の拡大断面図である。
図10】本発明の実施例に係る電動機において、ロータ形状を連続的に変化させた際のコギングトルクの基本成分波形の変化のシミュレーション結果である。
図11】本発明の実施例に係る電動機及び従来の電動機におけるコギングトルクの回転角依存性を示すグラフである。
図12】本発明の実施例に係る電動機及び従来の電動機におけるコギングトルクの周波数成分を示すグラフである。
図13】本発明の実施例に係る電動機において、マグネット位置を50μm移動させる前と移動後におけるコギングトルクの基本成分波形の変化を示すグラフである。
図14】本発明の実施例に係る電動機において、マグネットの磁束密度Brを変化させた場合のコギングトルクの基本成分波形の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る電動機について説明する。図4に、本発明の実施例に係る電動機の断面図を示す。本発明の実施例に係る電動機100は、ロータ1と、ステータ2とを有する。ロータ1は、ロータ鉄心11、及びロータ鉄心11に設けられた永久磁石12を含む複数の磁極13を有する。ステータ2は、ロータ1の外周側に配置され、複数の磁極13と対向する複数のティース21、及び複数のティース21に巻回された電気子巻線(図示せず)を収めるスロット22が形成されたステータ鉄心23を有する。
【0017】
さらに、本発明の実施例に係る電動機100は、ロータ1の中心Cから外周までの距離r(θ)が下記の式(1)及び式(2)を満たすように、ロータ1が構成されていることを特徴とする。
【0018】
【数3】
ただし、f(θ)は以下の式(3)で表される。
【0019】
【数4】
式(1)〜(3)における、φ,α,β,μ,γはロータ形状を特徴付けるパラメータであって、以下の式(5)〜(9)を満たすように設定される。
【0020】
【数5】
また、式(1)〜(3)における、R,r0,r1,p,θ,φは、以下のように定義される。
R:ステータコア23の最小径
0:ロータ1の最大径
1:従来形状のロータの径
p:ロータ1の極数
θ:ロータ1の回転中心Cから、回転軸に対して垂直にロータ極中心に向かう直線を基準(0 [rad])とした際の角度[rad]
φ:r(θ)を指定する範囲[rad]
【0021】
f(θ)とr(θ)の関係を図5に示す。図5で、曲線f(θ)とr(θ)で囲われる面積は−φ〜φの範囲において、以下のように表され、式(1)の左辺はこれに比例している。
【0022】
【数6】
式(1)の左辺が大きいということはf(θ)と、r(θ)の形状差が大きいということになる。一方、式(1)の右辺はロータの最大径r0とステータの最小径Rで囲われた以下の式で表される面積に比例している。
【0023】
【数7】
式(1)は「ロータ形状の曲線f(θ)とr(θ)との差の許容範囲」を「ロータの最大径r0とステータの最小径Rで囲われた面積」に対する割合で指定しているといえる。
【0024】
ここで、式(1)の右辺の係数(1/10)の妥当性について補足説明する。一例として、p=8、φ=π/8、R=30mm、r0=29.6mmとし、曲線f(θ)とr(θ)の差が常に20μmであった場合について説明する。f(θ)を計算上の都合で円形状であると仮定すると、図5において、曲線f(θ)とr(θ)で囲われる面積は−φ〜φの範囲において、以下のように求められる。
【0025】
【数8】
=1/2*π/8*2*(29.6^2−29.58^2)≒0.4648
ロータの最大径r0とステータの最小径Rで囲まれた面積は−φ〜φの範囲において、以下のように求められる。
【0026】
【数9】
=π/8*(30^2−29.6^2)≒9.3619
上記2つの計算結果の比を求めると、
0.4648/9.3619=0.049648…≒1/20
となる。
以上から、式(1)の右辺の係数を1/10とした。
【0027】
【数10】
f(θ)は円ではないが、曲線f(θ)とr(θ)で囲われる面積の近似値を求める際には妥当であると判断した。
仮に、常に10μmの差であれば同様に計算すると下記の式が妥当であるという結果が得られる。
【0028】
【数11】
【0029】
パラメータφは式(5)の代わりに以下の式(5´)を満たすように決められるようにしてもよい場合がある。
【0030】
【数12】
【0031】
パラメータαは式(6)の代わりに以下の式(6´)を満たすように決められるようにしてもよい場合がある。
【0032】
【数13】
【0033】
パラメータγは式(9)の代わりに以下の式(9´)を満たすように決められるようにしてもよい場合がある。
【0034】
【数14】
【0035】
パラメータβは式(7)の代わりに以下の式(7´)を満たすように決められるようにしてもよい場合がある。
【0036】
【数15】
【0037】
パラメータφは式(5)の代わりに以下の式(5″)を満たすように決められるようにしてもよい場合がある。
【0038】
【数16】
【0039】
パラメータαは式(6)の代わりに以下の式(6″)を満たすように決められるようにしてもよい場合がある。
【0040】
【数17】
【0041】
パラメータγは式(9)の代わりに以下の式(9″)を満たすように決められるようにしてもよい場合がある。
【0042】
【数18】
【0043】
金型の精度によっては、距離r(θ)は式(1)の代わりに下記の式(1´)を満たすように決められるようにしてもよい。
【0044】
【数19】
【0045】
距離r(θ)は式(2)の代わりに下記の式(2´)を満たすように決められるようにしてもよい。これにより、r1との乖離量がより明確になる。
【0046】
【数20】
【0047】
距離r(θ)は式(2)の代わりに下記の式(2″)を満たすように決められるようにしてもよい。これにより、r1との乖離量が更に明確になる。
【0048】
【数21】
【0049】
距離r(θ)は式(1)及び(2)の代わりに下記の式(10)及び(20)を満たすように決められるようにしてもよい。
【0050】
【数22】
【0051】
ここで、式(2)及び(4)について簡単に説明する。同期モータでは一般的に鎖交磁束のロータ回転角による変化が三角関数であることを前提に制御している。鎖交磁束のロータ回転角による変化が三角関数から外れると、トルクリップル(通電時のトルク脈動)が大きくなり制御性が悪化する。このため磁束の変化を三角関数状にしたいがために、ロータ形状そのものに三角関数を使用する(より厳密にはロータとステータ間の距離の変化量を三角関数で与える。)慣例があった。その際にはロータ1極分を三角関数の半周期(1山分)としていた(p極のモータであればcos(pθ/2)を使用することになる。)。
【0052】
本実施例ではトルクリップルではなくコギングトルクを最適化するために、従来の三角関数の使用方法に拘らずに新たな三角関数の使用方法を用いて形状を最適化した点を特徴としている(逆にいえば従来の三角関数の使用方法ではコギングトルクの基本成分を最小化できない。)。そこで、従来の使用方法とは異なり、式(2)及び(4)を用いている。
【0053】
式(3)について簡単に説明する。式(3)についてはパラメータα、β、μ、γを従来の関数式(4)に追加することで、ロータの外周形状の自由度を上げ、コギングトルクの最小点を見つけやすくしたものである。上記パラメータとロータの外周形状との間には以下の関係がある。
・αが1より小さい場合は、式(4)で規定されるロータの外周形状に比べ外側に膨らむ。αが1より大きい場合は、式(4)で規定されるロータの外周形状に比べ内側にしぼむ。
・βがp/2より小さい場合は、式(4)で規定されるロータの外周形状に比べ外側に膨らむ。βがp/2より大きい場合は、式(4)で規定されるロータの外周形状に比べ内側にしぼむ。
・γが1より小さい場合は、θ<μの範囲では、式(4)で規定されるロータの外周形状に比べ内側にしぼむ。θ>μの範囲では、式(4)で規定されるロータの外周形状に比べ外側に膨らむ。
γが1より大きい場合は、θ<μの範囲では、式(4)で規定されるロータの外周形状に比べ外側に膨らみ。θ>μの範囲では、式(4)で規定されるロータの外周形状に比べしぼむ。
【0054】
それぞれのパラメータで形状の膨らみ方が異なることにも注意が必要である。また、ここでいう「膨らむ」または「しぼむ」エリアは主に図4の15(極の肩落ち部分)であり、ロータの最大径は変化しない。
上記の特性を利用し、さらにマグネットサイズ、マグネット位置等のパラメータも利用してコギングトルクの最小点を見つける。
【0055】
本発明の実施例に係る電動機では、図4に示すとおりにロータ外周形状を定義し、関数のパラメータα,β,γ,μと、マグネット位置、マグネット形状、マグネット穴形状(IPMの場合)の、1つまたは複数のパラメータを変化させて最適化を行なう。これにより、以下に示すとおり、従来の最適化と異なる効果が得られる。本発明の実施例に係る電動機におけるロータ形状とは上記の全てのパラメータのことであり、外周形状だけでなく、マグネット位置、マグネット形状、マグネット穴形状の全てを含む。
【0056】
さらに、ロータ1の形状、ステータ2のティース21の形状、及び両者の位相関係が、軸方向に渡って同一であり、ロータ1の複数の磁極13のそれぞれの形状が同一であることが好ましい。このような構成とすることで、スキューや段ズラシをする必要が無く、それらによるトルクの低下も発生しない。
【0057】
本発明の実施例に係る電動機においては、ロータ形状を連続的に変化させた際に基本成分の位相が半周期分ずれる(反転する)ことに着目し、その反転する際の形状を使用することで、基本成分を消している。ロータの外周形状には三角関数を使用し、複数のパラメータによって形状を変化させ、最適化を行なうことができる。
【0058】
図6は、本発明の実施例において、ロータ形状を連続的に変化させた際のコギングトルク波形(基本成分)の変化図である。本発明の実施例に係る電動機においてはでは、ロータ形状番号(1)から(7)に示すように、上記複数のパラメータ(またはそのうちの一つ)を徐々に変化させる。このようにパラメータを徐々に変化させた場合、図6に示すとおりコギングトルクの基本成分が変化し、(1)と(7)とを比較すると位相が半周期分ずれる(波形形状が反転する)。このことから、(1)から(7)までの間の途中の段階、例えば、(4)の場合に、基本成分が限りなく0になる形状が存在する。従って、コギングトルクが0に近くなる形状(例えば、(4)の形状)を使用することで、基本成分が非常に小さい電動機を作製することが出来る。
【0059】
ここで、ロータ外周形状とは、磁石表面貼りつけ構造(SPM)ではマグネット外周形状であり、磁石埋め込み構造(IPM)ではロータコア外周形状である。主に磁性体の形状(コギングトルクに影響を与える物体の形状)を念頭に置いており、非磁性体やそれに準ずるものの形状(樹脂製のカバーや薄いSUSのカバー等のコギングトルクに影響のない物体の形状)は念頭においていない。
【0060】
また、式(4)は、従来からロータ外形に使用されていた関数であり、一般的な三角関数の使用方法である。式(2)では式(4)とは異なる形状であることを明確に指定している。より最適化するために、式(3)のように各種パラメータによって外周形状をあえて一般的な三角関数から外している。
従来形状からの差をより際立たせるには下記のように右辺に値を入れればよい。
【0061】
【数23】
ここで、r(θ)の描く(トルクに寄与する)形状は式(9)より式(10)の方が従来形状r1と異なっている。
【0062】
図7は、本発明の実施例に係る電動機のマグネット及びマグネット穴の拡大断面図である。マグネット穴14の形状は、図7に示すように、単にマグネット12を収納するためだけの穴ではなく、図7におけるA、A´の様にマグネット12そのものの形状とは異なる突起を含んでいても良い。
【0063】
次に、ロータの外周形状の例と利点について説明する。図8は、本発明の実施例に係る電動機において、パラメータを変化させた場合のロータ形状のシミュレーション結果である。
【0064】
図8において曲線(i)は従来からロータ形状によく使用されている下記の式(4)をプロットしたものである。
【0065】
【数24】
【0066】
曲線(ii)〜(iv)は式(3)の各種パラメータを、それぞれ以下のように設定した場合のロータの外周形状である。
(ii)α=1, γ=1, β=3.8, μ=1
(iii)α=1, γ=1.7, β=7.5, μ=1
(iv)α=1, γ=1, β=3.5, μ=1
図8における長方形の点線はマグネット穴の配置例である。
【0067】
(i)の場合のロータの外周形状と比較して、(ii)〜(iv)の場合のロータの外周形状には、マグネットサイズ、マグネット穴の位置に大きな自由度が生まれていることがわかる。これによってロータ形状の最適化を行なう際に、定格出力の低下を防ぐことができる。また、マグネット穴位置の自由度が生まれたことで、マグネット穴位置や形状の微調整を行いやすくなり、コギングトルクの最小化に寄与する。
【0068】
図9は、本発明の実施例に係る電動機のロータ中心からのマグネット穴周辺部までの距離を示すマグネット穴の拡大断面図である。図9において、rmはロータ中心Cからマグネット穴外周辺中心までの距離、rmmはロータ中心からマグネット穴外周辺の極間付近まで距離の最大値、rgはロータ中心Cから極間中心までの距離である。
【0069】
本実施例では、基本的にはrmm>rgとし、マグネット穴とロータコア外周部の距離を狭めることで図9における領域X、X´において磁気飽和させ、マグネットによる鎖交磁束を大きくしている。これと同時に、各種パラメータを用いて、コギングトルクを最適化することを想定している。また、rgをもう一つのパラメータとして考え、必要に応じて最適化を行なうことも有効である。その際にはrmm>rgに拘らず、rgを大きくし、例えば極間の直線部分とマグネット穴で磁気飽和部分を作り最適化が出来る場合もある。
【0070】
次に、ロータ形状変化の連続性とコギングトルク波形の連続性について説明する。当然のことながら、ロータ形状(外周形状や、マグネット配置位置など)やステータ歯形状はどのような形状であれ、異なる形状間には連続性が保証されている。言い換えれば、形状を徐々に変化させることで、全く異なる形状になることが可能である。
【0071】
形状を徐々に連続的に変化させれば、その際のコギングトルク波形も徐々に連続的に変化すると考えるのが妥当であり、実際そうなっている。良識的な範囲内における連続的な形状変化では特異点は存在しない。仮に、異なるロータ形状間でコギングトルクの反転が生じるのであれば、連続性から、その形状間にコギングトルクが無になる形状が存在すると推測できる。
【0072】
なお、ここで言う「良識的な範囲内」とは、マグネットが隣のマグネットと接触したり、ロータ外周とステータが接触したりしない範囲。言い換えればロータを構成する閉曲面が形状変化中に接触を伴わない範囲をいう。
【0073】
図10は8極36スロット(極数8、スロット数36)のモータにおいて、(1)から(6)まで、ロータの形状を徐々に連続的に変化させた際のコギングトルクをシミュレーションしたものである。それぞれの形状について、1/72回転(5度)のシミュレーションを行なった。即ち、8極36スロットによって生じるコギングトルクの基本周波数成分は72回であるので、1周期分についてシミュレーションした。
【0074】
図10における(1)及び(6)の場合のシミュレーション結果を比べると、位相が半周期ずれている(波形形状が反転している)ことがわかる。また、(1)と(6)の間にある(4)では、基本周波数成分の波が、ほぼ0になっていることがわかる。また、(1)から(6)の波形形状は徐々に連続的に変化している。
【0075】
次に、本発明を利用した電動機と従来技術に従って最適化を行った電動機とを実際に電動機を作成して比較した結果について説明する。図11(a)及び(b)は本発明による最適化と従来の最適化のそれぞれの電動機のコギングトルクを測定し、比較したものである。図12(a)及び(b)はそれぞれの周波数成分を比較したものである。
【0076】
図11及び12から、本発明によって最適化されたモータは従来の最適化によるモータと比べ、コギングトルクの基本成分(このモータは72/回転)が極めて低いことがわかる。
【0077】
ここで、ロータを1回転させた際のコギングトルクにおいて、ロータ極数とステータ歯数の最小公倍数回の周波数成分のコギングトルクの振幅を、(形状最適化によって)最適化したとしても、最低でも定格トルクの0.125%程度残存する可能性を考慮すべきである。実際にモータを製造するに当たり、マグネット、ステータ、ロータそれぞれの形状の寸法公差を設ける必要がある。またマグネットのBr(磁束密度)にも公差を設ける必要がある。したがって、仮にシミュレーション上でコギングトルクの基本成分を完全に消しきっても実際のモータでは、それぞれの精度に限界があり、コギングトルクの基本成分が少し残ってしまう。また、シミュレーションでも、完全に平らな直線になっていないことや、シミュレーションの計算誤差等を考えると、理想的な形状を選定したつもりでも実際の電動機にはごく僅かな基本成分が残っていると考えるのが妥当である。
【0078】
したがって、以下のように基本成分が残るものとした。
形状そのものに含まれる基本成分(シミュレーションの誤差を含む):0.025%
マグネットの位置と形状公差による影響:0.025%
ロータコアの形状公差による影響:0.025%
ステータ歯の形状公差による影響:0.025%
マグネットのBrの公差による影響:0.025%
上記の基本成分を加算して0.125%とした。
上記は、比較的高度な技術管理下での値であり、低コスト、短納期等の状況下の加工や磁石選定では場合によっては形状最適化をしても更に大きな基本成分(例えば0.2%)が残存する可能性も否定できない。
【0079】
図13(a)及び(b)は、あるロータ(IPM(Interior Permanent Magnet)構造)のマグネットの位置を50μm周方向にずらす前及びずらした後のコギングトルクの基本成分波形の変化である(シミュレーション結果)。50μmの変化によって振幅((最大値−最小値)/2)が0.123%から0.196%と0.073%大きくなっていることがわかる。これは、単純計算で10μm当たり、0.0146%に相当する。加工技術や歩留まりを考慮すると最低でも±10〜20μm程度の公差を用いるのが妥当であるので、0.0146〜0.0292%程度を考慮するべきであり、上記のマグネットの位置と形状で0.025%を見積もっていることが妥当(必要以上に大きくない)であると考えられる。
【0080】
ロータ形状、ステータ歯形状については、公差内での形状自由度が大きく、先述のIPMに於けるマグネット位置よりもコギングトルクへの影響が大きいと考えられる。しかしながら、最低でも0.025%の範囲が必要であろうとの見地に立ち、マグネット位置と同等の0.025%という値を用いた。
【0081】
図14はマグネットの磁束密度Brを±2%変化させた際の、コギングトルクの基本成分波形の変化を示したものである。指定値から+2%ずれると約0.02%コギングトルクの振幅((最大値−最小値)/2)が悪化することがわかる。工業用に販売されているBrの公差は±2〜3%であることが多いことから、上記見積の0.025%が妥当であることがわかる。
【0082】
従来の形状最適化では、基本成分を消すため、ロータ軸方向に渡ってロータの形状を変化させたり、ロータの位相を変化させたりする(スキューや段スキューなど)場合があった。そのような場合、構造が複雑になりコストが掛かる、出力が下がる等の問題点があった。
【0083】
本発明によれば、従来なかったコギングトルクの基本成分波形を小さくする形状とすることでコギングトルクを小さくすることができる。
【0084】
形状の最適化が十分でない場合、最適なスキュー(特に連続スキューではなく段スキューの場合)を行なっても完全に基本成分が消えないことが多い。従って、コギングトルクの最適化によって、仮に生産時の加工公差、組み立て誤差等によって基本成分が少し生じた場合でも、スキューを行なうことでほぼ完全に消すことが出来る。
【符号の説明】
【0085】
1 ロータ
11 ロータ鉄心
12 永久磁石
13 磁極
2 ステータ
21 ティース
22 スロット
23 ステータ鉄心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14