(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
酸化チタン粒子は紫外線を吸収すると強い酸化作用を発揮するため、近年、様々な用途に光触媒として利用されている(例えば、下記(1)〜(5))。
(1)自動車の排気ガス等から排出される窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)等の環境汚染物質を分解することによる大気浄化
(2)アンモニア、アセトアルデヒド、硫化水素、メチルメルカプタン等の悪臭物質を分解することによる脱臭
(3)テトラクロロエチレンやトリハロメタン等の有機塩素化合物を分解することによる浄水
(4)殺菌し、更にその死骸を分解することによる抗菌
(5)油分を分解することにより、油分に砂や垢が付着して生じる汚れを防止する防汚
【0003】
酸化チタン光触媒は溶液に懸濁させて用いる場合と、基材に担持した状態で用いる場合がある。一般的に、その表面積の大きさが光触媒能に比例するため前者の方がより活性が高いが、実用性の観点から後者が採用される場合が多い。後者を採用する場合は、主に、分散剤を使用して高分散した酸化チタン光触媒をバインダー成分を使用して基材に密着させる方法が採用される。
【0004】
分散剤としては、ポリカルボン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリエチレングリコール等の有機高分子化合物や、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、リン酸塩、蓚酸塩等の無機化合物を使用することが知られている(特許文献1〜3)。分散剤を使用すると酸化チタン光触媒を高分散し、その比表面積を大きくすることにより光触媒能を向上させる効果が得られるが、酸化チタン光触媒の表面に分散剤が存在すると、酸化チタン光触媒の表面を覆う部分の分散剤に優先的に酸化作用が働き、見かけ上の光触媒効果が低減される。特に、酸化チタン光触媒の光触媒作用によって分解されにくい無機化合物を分散剤として使用した場合は、本来の光触媒効果を発現することができなくなることが問題であった。更に、分散剤として無機化合物を使用すると、初期の分散性には優れるが、長時間にわたって高分散状態を維持することは困難であり、分散安定性が低いことが問題であった。
【0005】
一方、分散剤として有機高分子化合物を使用すると、酸化チタン光触媒表面に存在する分散剤が優先的に分解されるため、酸化チタン光触媒を高分散するのに十分な量の有機高分子化合物を使用すると本来の光触媒効果を発現するまでの待機時間が長くかかることが問題であった。また、有機高分子化合物の分子量を小さくすると光触媒能を発現するまでの待機時間を短縮することは可能であるが、分散剤としての効果が得難くなることが問題であった。
【0006】
また、バインダー成分としては、チタン過酸化物とキトサンやセルロース等の多糖類を使用することが記載されている(特許文献4)。しかし、前記キトサンやセルロース等の多糖類は水に不溶であるため、バインダー液を調製する際に多量の過酸化水素水に高温で溶解させる必要があること、塗布液が酸性になり、用途が限定されることが問題であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、分散性及び分散安定性に優れ、塗布・乾燥することにより速やかに且つ優れた光触媒能を発現する光触媒塗膜を形成することができる酸化チタン分散液を提供することにある。
本発明の他の目的は、多量の過酸化水素水に高温で溶解させる必要がなく、簡易な操作で調製でき、コストを低減できるとともに、分散性、分散安定性及び塗工性に優れた酸化チタン塗布液を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、中性に近い領域で調製できるとともに、分散性、分散安定性及び塗工性に優れた酸化チタン塗布液を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、前記酸化チタン塗布液を用いて形成された光触媒塗膜、及び基材表面に前記光触媒塗膜が設けられた光触媒塗装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記目的を達成するため鋭意検討した結果、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子に溶媒と特定の分散剤を配合すると、多量の過酸化水素水に高温で溶解させなくても、室温付近で、しかも中性に近い領域で簡易に、分散性及び分散安定性に優れ、塗布・乾燥することにより速やかに且つ優れた光触媒能を発現する光触媒塗膜を形成することができる酸化チタン分散液を得ることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)、ポリアクリル酸又はその塩からなる分散剤(B)、及び溶媒(C)を含む酸化チタン分散液を提供する。
【0011】
本発明は、また、分散剤(B)におけるポリアクリル酸又はその塩がポリアクリル酸アルカリ金属塩である前記の酸化チタン分散液を提供する。
【0012】
本発明は、また、分散剤(B)におけるポリアクリル酸又はその塩の重量平均分子量が1000〜100000の範囲内である前記の酸化チタン分散液を提供する。
【0013】
本発明は、また、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)が、鉄化合物担持酸化チタン粒子である前記の酸化チタン分散液を提供する。
【0014】
本発明は、また、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)が、酸化チタン粒子の酸化反応面に遷移金属化合物を担持する粒子である前記の酸化チタン分散液を提供する。
【0015】
本発明は、また、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)における酸化チタン粒子が、ルチル型酸化チタン粒子である前記の酸化チタン分散液を提供する。
【0016】
本発明は、また、前記の酸化チタン分散液と、過酸化チタン、ケイ素系化合物、及びフッ素系樹脂から選択される少なくとも1種のバインダー成分(D)を含む酸化チタン塗布液を提供する。
【0017】
本発明は、また、バインダー成分(D)が過酸化チタンを少なくとも含有する前記の酸化チタン塗布液を提供する。
【0018】
本発明は、また、前記の酸化チタン塗布液を用いて形成された光触媒塗膜を提供する。
【0019】
本発明は、また、基材の表面に前記の光触媒塗膜が設けられた光触媒塗装体を提供する。
【0020】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1) 遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)、ポリアクリル酸又はその塩からなる分散剤(B)、及び溶媒(C)を含む酸化チタン分散液。
(2) 分散剤(B)におけるポリアクリル酸又はその塩がポリアクリル酸アルカリ金属塩である(1)に記載の酸化チタン分散液。
(3) 分散剤(B)におけるポリアクリル酸又はその塩の重量平均分子量が1000〜100000の範囲内である(1)又は(2)に記載の酸化チタン分散液。
(4) 遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)が、鉄化合物担持酸化チタン粒子である(1)〜(3)の何れか1つに記載の酸化チタン分散液。
(5) 遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)が、酸化チタン粒子の酸化反応面に遷移金属化合物を担持する粒子である(1)〜(4)の何れか1つに記載の酸化チタン分散液。
(6) 遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)における酸化チタン粒子が、ルチル型酸化チタン粒子である(1)〜(5)の何れか1つに記載の酸化チタン分散液。
(7) 遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)が、(110)(111)面を有し、前記(111)面に鉄化合物が担持されたルチル型酸化チタン、及び/又は(110)(111)(001)面を有し、及び前記(001)(111)面に鉄化合物が担持されたルチル型酸化チタン粒子である(1)〜(6)の何れか1つに記載の酸化チタン分散液。
(8) (1)〜(7)の何れか1つに記載の酸化チタン分散液と、過酸化チタン、ケイ素系化合物、及びフッ素系樹脂から選択される少なくとも1種のバインダー成分(D)を含む酸化チタン塗布液。
(9) バインダー成分(D)が過酸化チタンを少なくとも含有する(8)記載の酸化チタン塗布液。
(10) (8)又は(9)に記載の酸化チタン塗布液を用いて形成された光触媒塗膜。
(11) 基材の表面に(10)記載の光触媒塗膜が設けられた光触媒塗装体。
【発明の効果】
【0021】
本発明の酸化チタン分散液は分散剤としてポリアクリル酸又はその塩を使用するため、多量の過酸化水素水に高温で溶解させなくても、室温付近で、しかも中性に近い領域で簡易に調製することができ、分散安定性に優れ、長期間に亘って高分散状態を維持することができる。また、酸化チタン光触媒が分散剤を分解して本来の光触媒性能が発現するまでの待機時間を短くすることができ、光触媒性能の即効性を担保することができる。また、本発明の酸化チタン塗布液は、前記酸化チタン分散液を含有するので、中性に近い領域で調製することができ、汎用性に優れる。しかも、本発明の酸化チタン塗布液は、分散性及び分散安定性が高く、塗工性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)]
本発明では、光触媒として遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)を用いる。このため、本発明の酸化チタン塗布液を用いて形成された光触媒塗膜は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源下でも高い触媒活性を発揮する。
【0023】
遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)における「酸化チタン粒子」としては、例えば、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型酸化チタン粒子等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、アスペクト比が大きい形状を有する点でルチル型酸化チタン粒子が好ましい。
【0024】
前記遷移金属化合物は、遷移金属イオン、遷移金属単体、遷移金属塩、遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、遷移金属錯体等のいずれの状態で酸化チタン粒子に担持されていてもよい。
【0025】
前記遷移金属化合物としては、可視光領域に吸収スペクトルを有し、励起状態で伝導帯に電子を注入することができるものが好ましく、例えば、周期表第3〜第11族元素化合物、なかでも周期表第8〜第11族元素化合物が好ましく、特に鉄化合物[とりわけ、三価の鉄化合物]が好ましい。鉄化合物の酸化チタン粒子への担持においては、三価の鉄化合物は吸着しやすく、二価の鉄化合物は吸着しにくい特性を有するため、その特性を利用することにより容易に面選択的に遷移金属化合物を担持することができるからである。
【0026】
なお、本発明において、「面選択的に遷移金属化合物を担持」とは、露出結晶面を有する酸化チタン粒子に担持する遷移金属化合物の50%を超える量(好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上)が2面以上の露出結晶面のうち、全ての面ではなく、特定の面(例えば、特定の1面又は2面等)に担持されていることをいう。遷移金属化合物の担持は、透過型電子顕微鏡(TEM)やエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を使用し、露出結晶面上の遷移金属化合物由来のシグナルを確認することで判定できる。
【0027】
遷移金属化合物の担持量としては、酸化チタン粒子に対して重量基準で、例えば50ppm以上、好ましくは100ppm以上、更に好ましくは200ppm以上、特に好ましくは300ppm以上、最も好ましくは500ppm以上である。遷移金属化合物の担持量の上限は、例えば5000ppm程度、好ましくは3000ppm、特に好ましくは2000ppmである。遷移金属化合物の担持量が上記範囲を上回ると、励起電子が有効に作用せず、光触媒能が低下する傾向がある。一方、遷移金属化合物の担持量が少なすぎると、可視光線応答性が低下する傾向がある。
【0028】
遷移金属化合物は、酸化チタン粒子の露出結晶面における酸化反応面又は還元反応面のうち一方の面(特に、酸化反応面)に選択的に担持されることが、酸化反応と還元反応の反応場を空間的により大きく引き離すことができ、励起電子とホールの分離性を高め、励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行を極めて低いレベルにまで抑制することができ、より高い光触媒活性を発揮することができる点で好ましい。
【0029】
酸化チタン粒子のうち、ルチル型酸化チタン粒子の主な露出結晶面としては、例えば、(110)(001)(111)(011)面等を挙げることができる。ルチル型酸化チタン粒子としては、例えば、(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子、(110)(011)面を有するルチル型酸化チタン粒子、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、酸化反応と還元反応の反応場を空間的により大きく引き離すことができ、励起電子とホールとの再結合及び逆反応の進行を抑制することができる点で、(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子が好ましい。前記(111)面と(001)面は酸化反応面であり、(110)面は還元反応面である。
【0030】
従って、本発明における遷移金属化合物担持酸化チタン粒子としては、なかでも、(110)(111)面を有し、前記(111)面に鉄化合物が担持されたルチル型酸化チタン、及び/又は(110)(111)(001)面を有し、及び前記(001)(111)面に鉄化合物が担持されたルチル型酸化チタン粒子が好ましい。
【0031】
酸化チタン粒子としては、公知の方法により製造されたものを使用することができる。
【0032】
また、酸化チタン粒子のうち、(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子や(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子は、例えば、チタン化合物を、水性媒体(例えば水、又は水と水溶性有機溶媒との混合液)中で水熱処理[例えば100〜200℃、3〜48時間(好ましくは6〜12時間)]することにより合成することができる。
【0033】
前記チタン化合物としては、例えば、3価のチタン化合物、4価のチタン化合物を挙げることができる。3価のチタン化合物としては、例えば、三塩化チタンや三臭化チタン等のトリハロゲン化チタン等を挙げることができる。3価のチタン化合物としては、なかでも安価で、入手が容易な点で三塩化チタン(TiCl
3)が好ましい。
【0034】
また、4価のチタン化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物等を挙げることができる。
Ti(OR)
tX
4-t (1)
(式中、Rは炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す。tは0〜3の整数を示す)
【0035】
Rにおける炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等のC
1-4脂肪族炭化水素基等を挙げることができる。
【0036】
Xにおけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素原子等を挙げることができる。
【0037】
このような4価のチタン化合物としては、例えば、TiCl
4、TiBr
4、TiI
4等のテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH
3)Cl
3、Ti(OC
2H
5)Cl
3、Ti(OC
4H
9)Cl
3、Ti(OC
2H
5)Br
3、Ti(OC
4H
9)Br
3等のトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH
3)
2Cl
2、Ti(OC
2H
5)
2Cl
2、Ti(OC
4H
9)
2Cl
2、Ti(OC
2H
5)
2Br
2等のジハロゲン化ジアルコキシチタン;Ti(OCH
3)
3Cl、Ti(OC
2H
5)
3Cl、Ti(OC
4H
9)
3Cl、Ti(OC
2H
5)
3Br等のモノハロゲン化トリアルコキシチタン等を挙げることができる。本発明における4価のチタン化合物としては、なかでも安価で、入手が容易な点で、テトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタン(TiCl
4)が好ましい。
【0038】
特に、前記チタン化合物として4価のチタン化合物を使用する場合は、反応温度110〜220℃(好ましくは130〜220℃)、その反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下、水性媒体中で2時間以上(好ましくは5〜15時間)水熱処理を施すことにより(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子、及び/又は(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子を合成することができる。
【0039】
(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタンは、その他、(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子を硫酸(好ましくは50重量%以上の高濃度の硫酸、特に好ましくは濃硫酸)中に投入し、加熱下で撹拌することにより、酸化チタン粒子の稜又は頂点の部位を浸食(溶解)して合成することもできる。
【0040】
上記方法により得られた酸化チタン粒子は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0041】
酸化チタン粒子の比表面積としては、例えば10m
2/g以上、好ましくは10〜200m
2/g、より好ましくは10〜150m
2/g、更に好ましくは30〜150m
2/g、特に好ましくは50〜100m
2/g、最も好ましくは60〜100m
2/gである。酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を下回ると、反応物質を吸着する能力が低下して光触媒能が低下する傾向があり、一方、酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を上回ると、励起電子とホールの分離性が低下し、光触媒能が低下する傾向がある。
【0042】
酸化チタン粒子の形状は、特に限定されないが、棒状或いは針状が好ましく、酸化チタン粒子の平均アスペクト比(長径/短径)は例えば1.5以上、好ましくは1.5〜100、より好ましくは1.5〜50、特に好ましくは1.5〜20、最も好ましくは2〜15である。平均アスペクト比が上記範囲を下回ると(すなわち、酸化チタン粒子の形状がより球形に近くなると)、バインダー成分と混合した際に、より密に充填されるため、光触媒塗膜に細孔を形成することが困難となり、表面積が低下し、塗膜表面への光触媒の露出量が低下する結果、光触媒能が低下する傾向がある。
【0043】
尚、本発明において平均アスペクト比は下記調整方法で得られたサンプルについて、下記測定方法で求めた値である。
<サンプル調製方法>
1.少量(耳かきサイズのスパチュラで半分程度)の酸化チタン粒子を9mLのガラス製サンプル瓶に入れ、エタノールを7mL入れ、超音波洗浄器にて超音波を5分間かけてエタノール中に分散させエタノール分散液を得る。
2.得られたエタノール分散液をガラス製スポイドで1滴取り、SEM用試料台の上に落として自然乾燥させた後、30秒間白金蒸着を行う。
<測定方法>
電界放出型走査電子顕微鏡(商品名「FE-SEM JSM-6700F」、日本電子(株)製、加速電圧:15kV、WD:約3mm、倍率:20万倍)を使用して結晶粒子をランダムに観察し、代表的な3カ所を抽出し、抽出されたSEM写真全体の中で、見た目に極端に大きく又は小さくなく、平均的な大きさの粒子を中心に輪郭がはっきりしている粒子30個を抽出してOHPシートに写し、それらの粒子について、画像解析ソフトウェア(商品名「WinROOF Version5.6」、三谷商事(株)製)を用いて各短径(最大長径に直交する幅)を求め、それらの値を平均して平均短径とした。また、同様の方法で平均長径(最大長径)を求め、これらの比(平均長径/平均短径)を平均アスペクト比とした。
【0044】
遷移金属化合物の酸化チタン粒子への担持は、例えば、酸化チタン粒子に遷移金属化合物を含浸する含浸法により行うことができる。
【0045】
含浸は、具体的には、酸化チタン粒子の水分散液中に遷移金属化合物を添加することにより行うことができ、例えば、遷移金属化合物として三価の鉄化合物を使用する場合は、鉄化合物(例えば、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等)を添加することにより行うことができる。
【0046】
含浸時間としては、例えば30分から24時間程度、好ましくは1〜10時間である。
【0047】
そして、酸化チタン粒子に遷移金属化合物を含浸する際には励起光を照射することが好ましい。励起光を照射すると、酸化チタン粒子の価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子が生成し、これらは粒子表面へ拡散し、各露出結晶面の特性に従って励起電子とホールとが分離されて酸化反応面と還元反応面とを形成する。この状態で遷移金属化合物として、例えば三価の鉄化合物の含浸を行うと、三価の鉄化合物は酸化反応面には吸着するが、還元反応面では三価の鉄化合物は二価の鉄化合物に還元され、二価の鉄化合物は吸着しにくい特性を有するため、溶液中に溶出し、結果として酸化反応面に選択的に鉄化合物が担持された遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を得ることができる。
【0048】
励起光の照射方法としては、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することができればよく、例えば、紫外線を照射することにより行うことができる。紫外線照射手段としては、例えば、中・高圧水銀灯、UVレーザー、UV−LED、ブラックライト等の紫外線を効率よく生成する光源を使用した紫外線露光装置等を使用することができる。励起光の照射量としては、例えば0.1〜300mW/cm
2程度、好ましくは1〜5mW/cm
2である。
【0049】
さらに、本発明においては、含浸の際に犠牲剤を添加してもよい。犠牲剤を添加することにより、酸化チタン粒子表面において、特定の露出結晶面に高い選択率で遷移金属化合物を担持することができる。犠牲剤としては、それ自体が電子を放出しやすい有機化合物を使用することが好ましく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸等のカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエタノールアミン(TEA)等のアミン等を挙げることができる。
【0050】
犠牲剤の添加量としては、適宜調整することができ、例えば、酸化チタン溶液の0.5〜5.0重量%程度、好ましくは1.0〜2.0重量%である。犠牲剤は過剰量を使用してもよい。
【0051】
上記方法により得られた遷移金属化合物担持酸化チタン粒子は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0052】
[分散剤(B)]
本発明では、分散剤として、ポリアクリル酸又はその塩を用いる。ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩は水に溶解するので、簡易な操作で容易に酸化チタン分散液や酸化チタン塗布液を調製することができる。また、ポリアクリル酸又はその塩(特に、ポリアクリル酸塩)の水溶液は中性に近いので、これを含む酸化チタン分散液や酸化チタン塗布液は使用用途が限定されず、汎用性に優れる。さらに、ポリアクリル酸又はその塩は、カルボキシル基又はその塩(−COOM;Mは水素原子、金属原子、アンモニウムイオン等)1個当たりの分子量が小さく、酸化チタン粒子の分散に必要な添加量を少なくすることができる。そのため、酸化チタン塗布液から形成される光触媒塗膜中の有機基の量(濃度)を低減でき、光触媒が分散剤を分解して本来の光触媒性能が発現するまでの待機時間を短くできる。すなわち、光触媒性能の即効性を担保できる。また、該分散剤の分解によるアセトアルデヒド等のVOC(=揮発性有機化合物)の発生量を低減できるので、臭気の発生を抑制できる。さらに、分散剤としてポリアクリル酸又はその塩を使用する酸化チタン塗布液から形成される光触媒塗膜は高い硬度を有するので、塗膜に傷が付きにくい利点がある。
【0053】
ポリアクリル酸又はその塩としては、公知のポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩を使用することができ、例えば、ポリアクリル酸;ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸セシウム等のポリアクリル酸アルカリ金属塩;ポリアクリル酸アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、着色を抑制できる点で、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウムが好ましく、とりわけ、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウムが好ましい。本発明においては、例えば、商品名「アロンT−50」、「アロンA−210」、「アロンA−30L」(以上、東亞合成社製)、商品名「アクアリックDL」(日本触媒社製)、商品名「ノプコスパース44C」(サンノプコ(株)製)などの市販品を用いることができる。
【0054】
ポリアクリル酸又はその塩の重量平均分子量としては、特に限定されないが、例えば1000〜100000、好ましくは1200〜50000、さらに好ましくは1500〜30000、特に好ましくは6000〜20000の範囲から適宜選択して使用できる。上記範囲の重量平均分子量を有するポリアクリル酸又はその塩を使用すると、少量の使用により遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を安定的に分散することができる。ポリアクリル酸又はその塩の重量平均分子量が上記範囲を下回ると、少量の添加で分散安定性を得ることが困難となる傾向がある。一方、ポリアクリル酸又はその塩の重量平均分子量が上記範囲を上回ると、添加することでかえって遷移金属化合物担持酸化チタンの凝集を促進させる場合がある。
【0055】
[溶媒(C)]
溶媒(C)としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリンなどのアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのエステル;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの鎖状又は環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルなどのケトンなどが挙げられる。有機溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
[バインダー成分(D)]
本発明におけるバインダー成分(D)は、上記酸化チタン粒子を基材(被塗装体)に固定する働きを有するものであり、過酸化チタン(=ペルオキソチタン酸)、ケイ素系化合物、フッ素系樹脂から選択される少なくとも1種を使用することができる。
【0057】
過酸化チタンは、下記式で表される二核錯体であると考えられる。
Ti
2O
5(OH)
x(2-x)
(式中、xは1〜6の整数を示す)
【0058】
過酸化チタンは、例えば、塩基性物質(例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム等)の存在下で、TiCl
4等のチタン化合物の水溶液に過酸化水素水を添加することにより合成することができる。
【0059】
ケイ素系化合物としては、例えば、テトラブロモシラン、テトラクロロシラン、トリブロモシラン、トリクロロシラン、ジブロモシラン、ジクロロシラン、モノブロモシラン、モノクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロエチルシラン、クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロジメチルシラン、クロロジエチルシラン、クロロメチルシラン、クロロエチルシラン、t−ブチルクロロジメチルシラン、t−ブチルクロロジエチルシラン等のハロゲン化シラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メトキシシラン、エトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシエチルシラン、ジエトキシエチルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジエチルシラン、エトキシジエチルシラン等のアルコキシシラン化合物等を挙げることができる。
【0060】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、パーフルオロシクロポリマー、ビニルエーテル−フルオロオレフィンコポリマー、ビニルエステル−フルオロオレフィンコポリマー、テトラフルオロエチレン−ビニルエーテルコポリマー、クロロトリフルオロエチレン−ビニルエーテルコポリマー、テトラフルオロエチレンウレタン架橋体、テトラフルオロエチレンエポキシ架橋体、テトラフルオロエチレンアクリル架橋体、テトラフルオロエチレンメラミン架橋体等を挙げることができる。
【0061】
前記バインダー成分としては、少なくとも過酸化チタンを用いることが好ましく、バインダー成分(D)全量に占める過酸化チタンの割合は、10重量%以上であることが好ましく、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上、最も好ましくは75重量%以上である。過酸化チタンは単独で使用してもよく、過酸化チタンとケイ素系化合物若しくはフッ素系樹脂を併用して使用してもよい。過酸化チタンは、成膜性が高く、塗布、乾燥することにより、優れた接着性を有する塗膜を速やかに形成することができ、しかも、酸化チタン粒子の光触媒作用によっても分解されることがないため、耐久性に優れ、長期に亘って、基材(被塗装体)表面に酸化チタン粒子を固定することができる。
【0062】
[酸化チタン分散液]
本発明の酸化チタン分散液は、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)、ポリアクリル酸又はその塩からなる分散剤(B)、及び溶媒(C)を含む。
【0063】
ポリアクリル酸塩からなる分散剤(B)の使用量(固形分換算)は、例えば、分散液中の遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)100重量部に対して、例えば1〜50重量部、好ましくは3〜40重量部、さらに好ましくは5〜30重量部である。ポリアクリル酸塩からなる分散剤(B)の使用量が少なすぎると、酸化チタンの分散性が低下しやすくなり、逆に多すぎると、酸化チタンの凝集体が発生しやすくなる。
【0064】
また、本発明の酸化チタン分散液はポリアクリル酸又はその塩からなる分散剤(B)以外の分散剤を含有していてもよいが、本発明の酸化チタン分散液に含まれる全分散剤に占めるポリアクリル酸又はその塩からなる分散剤(B)の割合は、25重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは75重量%以上である。
【0065】
酸化チタン分散液中の全固形分濃度は適宜選択でき、例えば0.1〜50重量%、好ましくは0.2〜40重量%、さらに好ましくは1〜30重量%である。また、酸化チタン分散液中の遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)の含有量は、例えば、0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0066】
酸化チタン分散液の調製方法としては、特に限定されず、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)と分散剤(B)と溶媒(C)とを混合することにより調製できる。各成分の添加順序は特に制限はないが、例えば、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)と溶媒(C)を含むスラリー溶液に分散剤(B)を加え、ビーズミル、ジェットミル、ロールミル、ハンマーミル、振動ミル、ボールミル、サンドミル、パールミル、スパイクミル、アジテータミル、コボールミル等の分散機(特に、メディア撹拌型分散機)を用いて混合することにより、酸化チタン分散液を調製することができる。
【0067】
[酸化チタン塗布液]
本発明の酸化チタン塗布液は、上記酸化チタン分散液と、過酸化チタン、ケイ素系化合物、及びフッ素系樹脂から選択される少なくとも1種のバインダー成分(D)を含む。
【0068】
本発明の酸化チタン塗布液において、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)とバインダー成分(D)の配合比率[前者:後者(重量比)]は、例えば1:6〜30:1、好ましくは1:1〜15:1、特に好ましくは1.5:1〜13:1である。遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)の配合量が上記範囲を下回ると、光触媒能が低下する傾向があり、一方、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)の配合量が上記範囲を上回ると、基材(被塗装体)に対する接着性、基材(被塗装体)の劣化防止性が低下する傾向がある。
【0069】
酸化チタン塗布液中の全固形分濃度は、塗布作業性等を損なわない範囲で適宜選択でき、例えば0.1〜50重量%、好ましくは0.2〜40重量%、さらに好ましくは1〜30重量%である。また、酸化チタン塗布液中の遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)の含有量は、例えば0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0070】
酸化チタン塗布液の調製方法としては、特に限定されず、例えば、上記酸化チタン分散液にバインダー成分(D)を加え、ビーズミル、ジェットミル、ロールミル、ハンマーミル、振動ミル、ボールミル、サンドミル、パールミル、スパイクミル、アジテータミル、コボールミル等の分散機(特に、メディア撹拌型分散機)を用いて混合することにより、調製することができる。
【0071】
本発明の酸化チタン塗布液には、上記酸化チタン分散液、バインダー成分(D)以外に、他の成分(例えば、塗布助剤等の通常光触媒塗料に配合される成分)を必要に応じて適宜配合することができる。他の成分の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲内であればよく、例えば、酸化チタン塗布液全量の10重量%以下程度(例えば0.01〜10重量%)である。
【0072】
[光触媒塗膜及び光触媒塗装体]
本発明の光触媒塗膜は前記酸化チタン塗布液を用いて形成される。また、本発明の光触媒塗装体は、基材(被塗装体)の表面に前記光触媒塗膜が設けられている。本発明の光触媒塗膜及び光触媒塗装体は、例えば、基材の表面(シート状の基材の場合は、少なくとも一方の表面)に前記酸化チタン塗布液を塗布し、乾燥することにより製造することができる。
【0073】
本発明の光触媒塗装体を構成する基材の素材としては、特に限定されることがなく、各種プラスチック材料[例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のα−オレフィンをモノマー成分とするオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC);酢酸ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等]、ゴム材料(例えば、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム等)、金属材料(例えば、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス等)、紙質材料(例えば、紙、紙類似物質等)、木質材料(例えば、木材、MDF等の木質ボード、合板等)、繊維材料(例えば、不織布、織布等)、革材料、無機材料(例えば、石、コンクリート等)、ガラス材料、磁器材料等の各種の素材を挙げることができる。これらのなかでも、前記基材として、プラスチック製基材(プラスチック製シート等)が好ましい。
【0074】
用途からみた基材としては特に制限されることがなく、例えば、レンズ(例えば、眼鏡やカメラのレンズ等)、プリズム、自動車や鉄道車両等の乗物部材(窓ガラス、照明灯カバー、バックミラー等)、建築部材(例えば、外壁材、内壁材、窓枠、窓ガラス等)、機械構成部材、交通標識等の各種表示装置、広告塔、遮音壁(道路用、鉄道用等)、橋梁、ガードレ−ル、トンネル、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、照明器具、浴室用品、浴室部材(例えば、鏡、浴槽等)、台所用品、台所部材(例えば、キッチンパネル、流し台、レンジフード、換気扇等)、空調、トイレ用品、トイレ部材(例えば、便器等)等の抗菌・防カビ、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚効果が期待される物品や、前記物品表面に貼着させるためのフィルム、シート、シール等を挙げることができる。
【0075】
基材への酸化チタン塗布液の塗布は、例えば、スプレー、刷毛、ローラー、グラビア印刷等により行うことができる。基材表面に塗布した後は、乾燥(溶媒を蒸発)させることよって、速やかに塗膜を形成することができる。乾燥方法としては、室温で乾燥させてもよく、加熱して乾燥させてもよい。
【0076】
酸化チタン塗布液の塗布量は、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子(A)の含有量が、例えば0.1g/m
2以上(好ましくは0.1〜5.0g/m
2、特に好ましくは0.1〜3.0g/m
2)となる範囲である。酸化チタン塗布液の塗布量が上記範囲を下回ると、光触媒能が低下する傾向がある。
【0077】
酸化チタン塗布液は、基材表面に直接塗布してもよく、基材表面に予めバインダー成分(特に、過酸化チタン)を含むコーティング剤を塗布することにより下塗り層を設け、その上に酸化チタン塗布液を塗布してもよい。下塗り層を設けた場合、基材と光触媒塗膜とが下塗り層により完全に隔てられるため、基材として有機素材からなる基材を使用しても、光触媒作用が完全にブロックされ、基材を損傷から保護することができる。基材表面に下塗り層を設ける場合、その厚みとしては、例えば0.01〜5.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmである。
【0078】
こうして形成された光触媒塗膜及び光触媒塗装体は、高い光触媒能を発揮することができ、光の照射によって有害化学物質を水や二酸化炭素にまで分解することが可能である。そのため、抗菌・防カビ、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚等の様々な用途に使用することができる。
【0079】
また、従来の酸化チタン光触媒は紫外線が必要なため、紫外線の少ない室内では機能が充分に発揮できず、室内用途への応用はなかなか進まなかったが、本発明においては、光触媒として遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を使用するので、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光を吸収して、高い触媒活性を発揮することができるため、室内等の低照度環境でも高いガス分解性能や抗菌作用を示し、室内の壁紙や家具をはじめ家庭内や病院、学校等の公共施設内での環境浄化、家電製品の高機能化等、広範囲への応用が可能である。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0081】
調製例1
(粗酸化チタン水分散液の調製)
室温(25℃)にて、四塩化チタン水溶液(Ti濃度:16.5重量%±0.5重量%、塩素イオン濃度:31重量%±2重量%、東邦チタニウム(株)製)をTi濃度が5.6重量%になるように純水で希釈した。希釈後の四塩化チタン水溶液5650gを容量10Lのタンタルライニングのオートクレーブに入れ密閉した。熱媒を用い、2時間かけて上記オートクレーブ内温度を140℃まで昇温した。その後、撹拌しつつ、温度:140℃、圧力:その温度における蒸気圧の条件下で10時間保持した後、熱媒を冷却することによりオートクレーブを冷却した。オートクレーブ内温度が40℃以下になったことを確認して、粗酸化チタン水分散液5650gを取り出した。
【0082】
(クロスフロー方式による膜濾過処理(1))
得られた粗酸化チタン水分散液を、中空糸型限外濾過膜(商品名「FS03−FC−FUS03C1」、材質:PES、公称分画分子量:3万、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)を用い、室温(25℃)、濾過圧力0.02MPaにて、透過液量と同量の純水を加えながらクロスフロー方式による濾過処理を行うことにより、酸化チタン水分散液を得た。酸化チタン水分散液の一部を常圧下、105℃で1時間乾燥したところ、(110)(111)面を有する棒状ルチル型酸化チタンと、(110)(111)(001)面を有する棒状ルチル型酸化チタンの混合物であった。
【0083】
(鉄化合物担持処理)
上記で得られた酸化チタン水分散液に塩化鉄水溶液(35重量%)7.5gを添加し、室温(25℃)にて30分撹拌した。その後、メタノール95g(酸化チタン水分散液の1.7重量%)を添加し、100Wの高圧水銀ランプを用いて紫外線(UV)を3時間照射して(UV照射量:5mW/cm
2)、粗鉄化合物担持酸化チタン水分散液を得た。
【0084】
(クロスフロー方式による膜濾過処理(2))
粗鉄化合物担持酸化チタン水分散液を、中空糸型限外濾過膜(商品名「FS03−FC−FUS03C1」、材質:PES、公称分画分子量:3万、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)を用い、室温(25℃)、濾過圧力0.02MPaにて、透過液量と同量の純水を加えながらクロスフロー方式による濾過処理を行い、精製鉄化合物担持酸化チタン水分散液を得た。
【0085】
得られた精製鉄化合物担持酸化チタン水分散液の一部を、常圧下、105℃で1時間乾燥して、鉄化合物担持酸化チタン(比表面積:78m
2/g、平均アスペクト比:3)を得た。得られた鉄化合物担持酸化チタンの鉄化合物の含有量は830ppmであった。また、得られた鉄化合物担持酸化チタンは、(110)(111)面を有し、前記(111)面に鉄化合物が担持された棒状ルチル型酸化チタンと、(110)(111)(001)面を有し、前記(001)(111)面に鉄化合物が担持された棒状ルチル型酸化チタンの混合物であった。
【0086】
実施例1
(酸化チタン分散液の調製)
調製例1で得られた精製鉄化合物担持酸化チタン水分散液(鉄化合物担持酸化チタンの濃度:10重量%)200gに、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液(商品名「アロンT−50」、固形分43重量%、ポリアクリル酸ナトリウムの重量平均分子量:6000、東亞合成社製)10g、イオン交換水190gを加え、湿式媒体撹拌ミル(商品名「ウルトラアペックスミル UAM−015」、寿工業社製)を用いて分散させ、鉄化合物担持酸化チタン濃度5重量%の酸化チタンゾル(酸化チタン分散液)を得た。
【0087】
(酸化チタン塗布液の調製)
この酸化チタンゾルに、さらに、バインダーとしての過酸化チタンの水溶液(商品名「ティオスカイコートC」、(株)ティオテクノ製、過酸化チタン濃度:1重量%)170gを加えて混合し、酸化チタン塗布液(1)(光触媒塗布液)[鉄化合物担持酸化チタン/過酸化チタン(重量比)=12/1]を調製した。
【0088】
(光触媒塗膜の調製)
スプレーコート法により、得られた酸化チタン塗布液(1)をガラス板上に塗布量(乾燥重量)が1.5g/m
2になるように塗布して、光触媒塗膜(1)を得た(膜厚:1μm)。得られた光触媒塗膜(1)について、以下の評価試験を行った。
【0089】
(1)VOC分解試験
光触媒塗膜(1)に光照射することで気相中のVOCであるメチルメルカプタンを分解させ、その分解量から光触媒性能を評価した。
光触媒塗膜(1)5cm×10cmを反応容器(テドラーバッグ、材質:フッ化ビニル樹脂)の中に入れ、70ppmのメチルメルカプタンガス1Lを反応容器内に吹き込み、室温(25℃)で光照射(蛍光灯1000ルクス)を行った。光照射開始から24時間後の反応容器中のメチルメルカプタン残量を炎光光度検出器付きガスクロマトグラフ(商品名「GC−2010」、島津製作所製)を使用して測定し、初期濃度との差から分解量(%)を算出した。その結果、メチルメルカプタンの24時間後の分解量(%)は100%であった。
【0090】
(2)塗膜表面硬度
光触媒塗膜(1)の表面硬度を鉛筆硬度計(日本理学工業製)を用いて評価した。評価基準は、JIS5600−5−4に従った。その結果、鉛筆硬度HBであった。
【0091】
(3)塗膜密着性
光触媒塗膜(1)のガラス板との密着性をクロスカット法により評価した。評価基準は、JIS5600−5−6に従った。その結果、剥がれはほとんど見られなかった(JIS5600−5−6における分類0に相当)。
【0092】
(4)塗膜透明性
光触媒塗膜(1)の透明性をヘーズメーター(商品名「NDH5000W」、日本電色工業製)を用いて、曇り度(ヘーズ)、全光線透過率値により評価した。その結果、曇り度が43%、全光線透過率は84%であった。
【0093】
実施例2
(酸化チタン塗布液の調製)
室温(25℃)にて、調製例1で得られた精製鉄化合物担持酸化チタン水分散液(鉄化合物担持酸化チタンの濃度:10重量%)500gに、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液(商品名「ノプコスパース44C」、固形分40重量%、サンノプコ(株)製)5.87gを加え、湿式媒体撹拌ミル(商品名「ウルトラアペックスミル UAM−015」、寿工業社製)を用いて分散させ、鉄化合物担持酸化チタン濃度9.9重量%の酸化チタンゾルを得た。この酸化チタンゾルに、さらに、イオン交換水14.4g、バインダーとしての過酸化チタンの水溶液(商品名「ティオスカイコートC」、(株)ティオテクノ製、過酸化チタン濃度:1重量%)8.5gを加えて混合し、酸化チタン塗布液(2)(光触媒塗布液)[鉄化合物担持酸化チタン/過酸化チタン(重量比)=8/1]を調製した。
【0094】
(光触媒塗膜の調製)
スプレーコート法により、得られた酸化チタン塗布液(2)をガラス板上に塗布量(乾燥重量)が1.5g/m
2になるように塗布して、光触媒塗膜(2)を得た(膜厚:1μm)。得られた光触媒塗膜(2)について、以下の評価試験を行った。
【0095】
(1)VOC分解試験
光触媒塗膜(2)に光照射することで気相中のVOCであるアセトアルデヒドを分解させ、その分解量から光触媒性能を評価した。
光触媒塗膜(2)5cm×10cmを反応容器(スマートバッグ、材質:フッ化ビニリデン樹脂)の中に入れ、16ppmのアセトアルデヒドガス1Lを反応容器内に吹き込み、室温(25℃)で光照射(蛍光灯6000ルクス)を行った。光照射開始から24時間後の反応容器中のアセトアルデヒド残量を水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ(商品名「GC−14B」、島津製作所製)を使用して測定し、初期濃度との差から分解量(%)を算出した。その結果、アセトアルデヒドの24時間後の分解量(%)は100%であった。
【0096】
比較例1
調製例1で得られた精製鉄化合物担持酸化チタン水分散液(鉄化合物担持酸化チタンの濃度:10重量%)200gに、イオン交換水200gを加え、湿式媒体撹拌ミル(商品名「ウルトラアペックスミル UAM−015」、寿工業社製)を用いて分散させ、鉄化合物担持酸化チタン濃度5重量%の酸化チタンゾルを得た。この酸化チタンゾルに、さらに、バインダーとしての過酸化チタンの水溶液(商品名「ティオスカイコートC」、(株)ティオテクノ製、過酸化チタン濃度:1重量%)170gを加えて混合し、酸化チタン塗布液(3)(光触媒塗布液)[鉄化合物担持酸化チタン/過酸化チタン(重量比)=12/1]を調製した。しかし、しばらくすると、鉄化合物担持酸化チタン粒子同士が凝集した凝集物が見られるとともに、透明性も低下した。