【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一実施態様は、動物細胞から製造された、α1−アンチトリプシン変異体(NexP)及びヒト成長ホルモン(hGH)が融合されたタンパク質であって、5.2以下の等電点を有する持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHタンパク質を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、(a)ヒト成長ホルモン及びα1−アンチトリプシン変異体が融合された持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含む生物学的乳液を陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーにかけるステップと、(b)前記NexP−hGHを含む生物学的乳液、又はステップ(a)で生成された溶出液を疎水性樹脂クロマトグラフィーにかけるステップと、(c)前記持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含む生物学的乳液、ステップ(a)で生成された溶出液、又はステップ(b)で生成された溶出液を抗α1−アンチトリプシン抗体断片が付着した樹脂で充填されたアフィニティークロマトグラフィーにかけるステップとを含む、持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHの精製方法を提供する。
【0020】
本発明における用語「ヒト成長ホルモン(human growth hormone,hGH)」とは、ペプチドホルモンであって、ヒトの成長、細胞生産又は再生をもたらすホルモンを意味する。前記ヒト成長ホルモンは、体内で骨端軟骨板の細胞分化を刺激して成長を促進するタンパク質であればいかなるものも含まれる。前記ヒト成長ホルモンには、自然に生産された成長ホルモンと遺伝工学技術を用いて生産された成長ホルモンの両方が含まれ、遺伝工学技術を用いて生産された成長ホルモンであることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、前記ヒト成長ホルモンに関する情報は、米国生物工学情報センター(NCBI)のGenBankなどの公知のデータベースから得ることができ、例えば、Accession Number(受託番号)がAAA98618であるヒト成長ホルモンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
ヒト成長ホルモンは、体内で骨端軟骨板の細胞分化を刺激することにより成長を促進することができるので、体内合成又は分泌に問題のある個体において治療用タンパク質として重要視されている。しかし、患者に対する投与の利便性及び治療効果の面から、従来の成長ホルモンに比べて半減期が延長された持続型ヒト成長ホルモンの開発が求められているので、本発明者らは、α1−アンチトリプシン変異体を開発し、それをヒト成長ホルモンに融合させ、次いで動物細胞において発現させることにより、高グリコシル化されたヒト成長ホルモンNexP−hGHを開発した。前記高グリコシル化されたヒト成長ホルモンNexP−hGHは、動物細胞から生産され、等電点(pI)5.2以下のタンパク質であり、等電点5.2を超えるものに比べてグリコシル化の程度が高いので、体内持続性や薬効が高い。
【0022】
本発明における「持続型ヒト成長ホルモン」とは、ヒト成長ホルモン(hGH)及びα1−アンチトリプシン変異体(NexP)が融合された形態のタンパク質であり、本発明においては「NexP−hGH」と混用される。前記NexPは、本発明者らにより開発された、体内持続性を維持することにより体内半減期が延長された体内タンパク質であるα1−アンチトリプシン(alpha 1−Antitrypsin,A1AT)の変異体であり、本発明者らにより命名された用語である。タンパク質分解酵素抑制剤の活性をなくしたα1−アンチトリプシン変異体タンパク質の配列、製造方法などは特許文献5又は6に開示されており、特許文献5及び6の明細書全体は本発明の参考文献として含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
前記α1−アンチトリプシンは、約50,000Daの分子量を有する、哺乳類の血液中に存在するタンパク質の1つであり、α1−プロテアーゼインヒビター(alpha−1 protease inhibitor)とも呼ばれる。血液中から抽出したα1−アンチトリプシンは、FDAの許可を得てプロラスチン(Prolastin)という商品名で肺気腫治療剤として販売されている。プロラスチンは、通常60mg/kgの用量で1週間毎に静脈注射により人体に投与されるが、人体における安全性が立証されているタンパク質である。また、α1−アンチトリプシンのプロテアーゼインヒビターとしての役割や構造などは既によく知られている(非特許文献5)。また、前記α1−アンチトリプシンは、自然界に100種以上の対立遺伝子(allele)が存在し、表現型は等電点電気泳動(IEF、isoelectric focusing)のタイプによってAからZに分けられる(非特許文献6)。そのうち最も多いM対立遺伝子が野生型であり、アミノ酸配列変異によりM1(Val213)、M2、M3のように多くの亜型(subtype)に分けられる。よって、本発明に用いられるα1−アンチトリプシンは、自然界に存在する特定の亜型であり、他の亜型においても同じ効果を得ることができる。前記α1−アンチトリプシンタンパク質に関する情報は、米国生物工学情報センター(NCBI)のGenBankなどの公知のデータベースから得ることができ、例えば、Accession Number(受託番号)がAAH11991である野生型α1−アンチトリプシンタンパク質が挙げられるが、これに限定されるものではない。前記野生型α1−アンチトリプシンタンパク質の配列を配列番号1に示す。
【0024】
このようなα1−アンチトリプシンは、特定部位の突然変異誘発(site−directed mutagenesis)方法を用いて、少なくとも1つのアミノ酸残基を変形させて固有の体内活性をなくすことにより、半減期を延長させることができる。前記アミノ酸残基の変形により、N−グリコシル化部位を生成してα1−アンチトリプシンのプロテアーゼインヒビターの活性を中和すると共に、体内注入時にアミノ酸置換による免疫原性の可能性を最小限に抑えることができ、遊離システイン残基による二重体形成などを排除することができる。ここで、少なくとも1つのアミノ酸の変異は、P2位置である配列番号1のα1−アンチトリプシンタンパク質の357番目のアミノ酸のプロリン(P)を変異させたことを特徴とし、より具体的には、これをアスパラギン(N)に変異させたことを特徴とする。また、α1−アンチトリプシン変異体は、配列番号1のα1−アンチトリプシンタンパク質の9番目のアミノ酸のグルタミン(Q)のアスパラギンへの変異、232番目のアミノ酸のシステイン(C)のセリン(S)への変異、又は359番目のセリン(S)のスレオニン(T)への変異を含んでもよく、ここで、P2位置である357番目のアミノ酸のプロリンがアスパラギンに変異し、前記変異の少なくとも1つをさらに含んでもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
前記持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHは、このようなα1−アンチトリプシン(A1AT)の変異体をヒト成長ホルモンのN末端又はC末端に遺伝子組換えで融合したタンパク質である。特に、前記持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHは、ヒト成長ホルモンのN末端に、9番目のアミノ酸のグルタミン及び357番目のアミノ酸のプロリンの両方がアスパラギンに変異したα1−アンチトリプシンタンパク質が融合されたタンパク質(hGH−A1AT(Q9N,P357N))であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明における用語「高グリコシル化された持続型ヒト成長ホルモン」とは、α1−アンチトリプシン変異体とヒト成長ホルモンとを含む形態のタンパク質であって、自然に見られる野生型タンパク質よりグリコシル化の程度が高く、等電点が5.2以下となるようにグリコシル化された持続型ヒト成長ホルモンを意味する。
【0027】
本発明においては、前記持続型ヒト成長ホルモンのグリコシル化の程度が高くなるほど体内持続性が高くなることを確認し、とりわけ持続型ヒト成長ホルモンの等電点が5.2以下であるとin vitroとin vivoの両方で著しく高い体内持続性及び薬物活性を示すことを解明した。
【0028】
前記高グリコシル化された持続型ヒト成長ホルモンは、等電点が5.2以下、好ましくは3.5〜5.2であるが、これらに限定されるものではない。
ここで、グリコシル化部位とは、糖鎖構造の付加などのグリコシル化が起こり得るポリペプチド内のアミノ酸残基又は部位を意味し、このような部位としてはN−グリコシル化部位、又はO−グリコシル化部位などが代表的である。保存的なN−グリコシル化部位としては、Asn−X−SerやAsn−X−Thrが挙げられ、ここでXは任意のアミノ酸であるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
前記高グリコシル化された持続型ヒト成長ホルモンは、前記持続型ヒト成長ホルモンをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターが導入された動物細胞を培養することにより生産することができる。
【0030】
本発明における「動物細胞」とは、本発明の持続型ヒト成長ホルモンを発現させることのできる細胞であって、グリコシル化をもたらす細胞であればその種類が特に限定されるものではなく、例えば、CHO細胞、BHK細胞、Vero細胞、HeLa細胞、MDCK細胞、293細胞及び3T3細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の一実施例においては、9番目及び357番目のアミノ酸がどちらもアスパラギンに置換されたα1−アンチトリプシンが融合されたヒト成長ホルモンタンパク質を作製し、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターをCHO細胞に導入することにより安定細胞株を作製した(実施例1)。また、陰イオン交換樹脂クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、及び抗α1−アンチトリプシン抗体断片が付着した樹脂で充填されたアフィニティークロマトグラフィーを順に行うことにより、等電点の差によってNexP−hGHタンパク質を得た結果、アイソフォーム1〜3のうちpIの低いアイソフォーム1がアイソフォーム2及び3に比べてグリコシル化の程度が高く、アイソフォーム3に比べてpIの低いアイソフォーム2がアイソフォーム3に比べてグリコシル化の程度が高いことが確認された(
図1及び
図2)。さらに、ヒト成長ホルモンの薬力学を確認した結果、グリコシル化の程度が高くなるほど本発明の持続型ヒト成長ホルモンの薬力学が良好になり、特に陽性対照群と対等又はより良好になった(
図3)。さらに、アイソフォーム1及びアイソフォーム2は、陽性対照群に比べて試験動物の体長を著しく増加させることが確認された(
図4)。すなわち、本発明の高グリコシル化された持続型ヒト成長ホルモンは、陽性対照群に比べて有効性が著しく高かった。
【0032】
本発明の他の態様は、(a)α1−アンチトリプシン変異体(NexP)及びヒト成長ホルモン(hGH)が融合された持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHタンパク質を含む生物学的乳液を抗α1−アンチトリプシン抗体断片が付着した樹脂で充填されたアフィニティークロマトグラフィーにかけるステップと、(b)等電点の差により等電点(pI)5.2以下の持続型成長ホルモンNexP−hGHタンパク質を分離するステップとを含む、持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHタンパク質の製造方法を提供する。
【0033】
前記α1−アンチトリプシン変異体、ヒト成長ホルモン及び持続型ヒト成長ホルモンについては前述した通りである。
以下、前記製造方法の各ステップについて具体的に説明する。
【0034】
前記ステップ(a)は、持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含む生物学的乳液を抗α1−アンチトリプシン抗体断片が付着した樹脂で充填されたアフィニティークロマトグラフィーにかけるステップである。
【0035】
前記ステップは、NexPと抗体断片の親和性によりNexP−hGHをカラムに付着させるためのステップである。
本発明における用語「持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含む生物学的乳液」とは、持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHタンパク質を生産する細胞の培養上清、前記細胞の破砕物又はこれらを部分精製した形態を意味するが、これらに限定されるものではない。特に、前記生物学的乳液は、前記持続型ヒト成長ホルモンをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターが導入された動物細胞を培養することにより得られた培養上清又は前記細胞の破砕物であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明における「部分精製(partially purified)」とは、クロマトグラフィーなどの分画方法(fractionation procedure)を少なくとも1つ行ったものの、目的とするpI値を有するNexP−hGHタンパク質以外の他のタンパク質も存在する状態を意味する。前記部分精製過程は、特にその種類が限定されるものではなく、例えば、疎水性クロマトグラフィー又は陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記部分精製は、疎水性クロマトグラフィー及び陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーからなる群から選択される少なくとも1つの方法を用いて精製することができ、持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHタンパク質を生産する細胞の培養上清又は/及び前記細胞の破砕物を陰イオン交換樹脂クロマトグラフィー又は疎水性樹脂クロマトグラフィーにかけて溶出液を生成させることが好ましく、順に陰イオン交換樹脂クロマトグラフィー及び疎水性樹脂クロマトグラフィーにかけて溶出液を生成させることがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0037】
前記ステップ(b)は、pIの差により等電点(pI)5.2以下の持続型成長ホルモンを分離するステップである。
前記抗体断片が付着した樹脂から分離するステップにおいて、持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHの糖鎖パターン及び等電点が異なる構造的な亜型(isoform)は、MgCl
2の濃度によって分離溶出することができる。
【0038】
よって、前記ステップ(b)は、等電点(pI)5.2以下の持続型成長ホルモンを分離溶出するために、0〜1000mM MgCl
2、好ましくは0〜300mM MgCl
2、より好ましくは0〜200mM MgCl
2、さらに好ましくは200mM MgCl
2を含むトリス緩衝液を用いることにより、等電点(pI)5.2以下の持続型成長ホルモンを分離溶出することができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
分離溶出のためのトリス緩衝液において、MgCl
2は選択的に添加してもよく、添加しなくてもよい。
本発明のさらに他の実施態様は、持続型ヒト成長ホルモンの製造方法を提供する。
【0040】
本発明の具体的な実施例においては、ヒト成長ホルモン/α1−アンチトリプシン変異体が形質転換されたCHO細胞を培養し、培養液の上清を20mMリン酸ナトリウム緩衝液で限外濾過システムによりダイアフィルトレーション(diafiltration)した。前記特許文献12の明細書全体は本発明の参考文献として含まれる。
【0041】
以下、製造方法について具体的に説明する。
ステップ(a)は、ヒト成長ホルモン及びα1−アンチトリプシン変異体が融合された持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含む生物学的乳液を陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーにかけるステップであり、平衡化した陰イオン交換樹脂に持続型ヒト成長ホルモンを含む培養液、又は前記培養液をpH6〜9の0〜100mM NaCl含有緩衝液でダイアフィルトレーションした培養液を加えて吸着させ、その後pH6〜9の0〜100mM NaCl含有緩衝液で洗浄し、その後pH6〜9の100〜1000mM NaCl含有緩衝液で持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含有する分画を溶出するステップであることが好ましい。このような陰イオン交換樹脂を用いることにより、培養液中の染料、DNA/RNAなどの核酸などを除去することができ、生物学的乳液中の持続型ヒト成長ホルモンを濃縮することができる。
【0042】
本発明における用語「陰イオン交換樹脂クロマトグラフィー」とは、陽性に荷電した支持体に陰性に荷電した(又は酸性)分子を結合させることにより、分子をこれらの電荷に応じて分離する技法であり、分子の同族体(酸性、塩基性及び中性)はこの技法により容易に分離することができる。本発明の陰イオン交換クロマトグラフィーに用いることのできる樹脂としては、強陰イオン交換樹脂と弱陰イオン交換樹脂を制限なく用いることができ、例えば、セファデックス、セファロース、ソース、モノ、ミニ(商品名,GE healthcare社)などが挙げられ、これらに限定されるものではないが、前記樹脂の官能基がQ(第四級アミン)、DEAE(ジエチルアミノエチル)、QAE(第4級アミノエチル)などである樹脂を用いることができる。前記樹脂の官能基がQ又はDEAEであるものが好ましく、強陰イオン交換樹脂であるQ−セファロースを用いることが最も好ましい。
【0043】
陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーは、カラムクロマトグラフィーで行うこともでき、バッチモード(batch mode)で行うこともできる。商業的な製造においてはバッチモードを用いることが好ましい。陰イオン交換樹脂を洗浄し、段階的な塩勾配(stepwise salt gradient)又は連続的な塩勾配(continuous salt gradient)で溶出させる。段階的な塩勾配又は連続的な塩勾配は、不純物と持続型ヒト成長ホルモンを分離できるものであればいかなるものであってもよい。
【0044】
また、本発明の陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーに用いられる陰イオン交換樹脂は、培養液を吸着させる前に水性緩衝液で平衡化してもよい。陰イオン交換樹脂に培養液を吸着させる前に、pH6〜9の0〜100mM NaCl含有緩衝液で培養液を希釈するか、又は濃縮及び透析を行うと、精製収率を一層向上させることができる。これは、限外濾過法を用いたダイアフィルトレーションを行うことにより得ることができる。前記ダイアフィルトレーションは、培養液中の30,000分画分子量(MWCO、molecular weight cut off)以下の低分子物質(例えば、界面活性剤、染料、低分子ペプチド、糖成分など)の除去及び陰イオン交換樹脂クロマトグラフィー平衡緩衝液への緩衝液交換によりカラム吸着効率を向上させることができる。
【0045】
一方、限外濾過法は、液体中に溶解又は分散した物質を粒径により分画する方法であり、通常は分子量が数千〜数十万程度の分子又はコロイド粒子を対象に分離、濃縮、精製することができる。限外濾過膜の性能は分画分子量(MWCO)で表わすが、その膜の分画分子量以上の物質は排除されることになる。通常、MWCOは、90%以上排除できる球状タンパク質の分子量で表わす。このような限外濾過膜の主な機能は、ダイアフィルトレーション、精製及び濃縮である。
【0046】
前記各洗浄及び溶出ステップで用いる緩衝液は、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、又はトリス緩衝液であることが好ましい。
本発明の具体的な実施例においては、CHO細胞から持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを発現させて得た培養液を20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で限外濾過システムによりダイアフィルトレーションし、その後前記試料を20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で平衡化したQ−セファロース樹脂が充填されたXK−50カラムに20ml/minの流速で負荷して結合させ、その後3カラム容量の100mM NaCl含有20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で20ml/minの流速にて不純タンパク質を除去する洗浄を行い、その後200mM NaCl含有20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で20ml/minの流速、3カラム容量の溶出溶媒により持続型ヒト成長ホルモンを溶出した。その結果、純度は約85%であった(
図5)。
【0047】
ステップ(b)は、前記持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含む培養液、又はステップ(a)で生成された溶出液を疎水性樹脂クロマトグラフィーにかけるステップであり、平衡化した疎水性樹脂に前記陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーステップで回収された溶液を加えて吸着させ、その後pH6〜8の1〜3M NaCl含有緩衝液で洗浄し、その後pH6〜8の0〜1M NaCl含有緩衝液で持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含有する分画を溶出するステップであることが好ましい。疎水性樹脂は、陰イオン交換樹脂で精製できない細胞由来不純物をさらに除去することができる。これらの結果は、
図5の陰イオン交換樹脂の純度が約80%であり、
図6の疎水性樹脂の純度が約90%以上であることを比較しても分かる。
【0048】
このように、ステップ(a)の後にステップ(b)を行うことを構成的特徴とする本発明における精製方法が従来の精製方法と異なる理由は次の通りである。(1)陰イオン交換樹脂(約10〜20mg NexP−hGH/resin 1ml)はNexP−hGHに対する結合容量(binding capacity)において疎水性樹脂(約6mg NexP−hGH/resin 1ml)より優れるので、培養液中のNexP−hGHキャプチャ(capture)を目的とする1次カラムには陰イオン交換樹脂が適することを見出し、(2)工程の効率性においても、陰イオン交換樹脂工程の後に陰イオン交換樹脂溶出液に対する濃透析を行うことなく疎水性樹脂工程を直ちに行うことができるというカラムの特性を見出し、それらから導かれたクロマトグラフィーの組み合わせであるという特徴がある。もし、疎水性樹脂を用いるステップであるステップ(b)を先に行うと、疎水性樹脂溶出液が陰イオン交換樹脂平衡緩衝液で濃透析された後に陰イオン交換樹脂工程を行わなければならないなど、濃透析過程が追加されるという欠点がある。また、(3)培養液由来染料及びDNAの除去に陰イオン交換樹脂が効果的であるので、それを1次カラムに用いる本発明の方法が従来の精製方法より優れた結果をもたらすことができる。
【0049】
本発明における用語「疎水性樹脂クロマトグラフィー」とは、市販されている各種マトリクスに結合した疎水性、好ましくは芳香族又は脂肪族の電荷を帯びていないリガンドを有するゲルで行われる任意のクロマトグラフィーであり、前記ゲルとして用いることのできる樹脂は、高い解像度を維持するために比較的小さなビーズサイズ(bead size)を有することが好ましい。例えば、ソース(Source,GE healthcare社)、リソース(Resource,GE healthcare社)などの樹脂を用いることができるが、これらに限定されるものではない。リガンドとして作用する前記樹脂の官能基としては、フェニル、オクチル、イソプロピル、ブチル、エチル基などが好ましい。フェニル樹脂であることが好ましい。
【0050】
本発明の疎水性クロマトグラフィーに用いることのできる溶出液の種類は限定されないが、pH6〜8の0〜1M NaCl含有緩衝液を溶出液として用いることが好ましい。
本発明において、陰イオン交換樹脂溶出液を疎水性樹脂に吸着させる前に、pH6〜8の3〜4M NaCl含有緩衝液で希釈するか、又はpH6〜8の1〜3M NaCl含有緩衝液で濃縮及び透析を行って陰イオン交換樹脂溶出液中のNaCl濃度を2M以上に高めると、精製収率を向上させることができる。
【0051】
前記各洗浄及び溶出ステップで用いる緩衝液は、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、又はトリス緩衝液であることが好ましい。
また、前記緩衝液を用いて陰イオン交換樹脂クロマトグラフィー溶出液を疎水性樹脂クロマトグラフィーカラムに負荷し、その後クロマトグラフィー樹脂に結合された持続型ヒト成長ホルモンを前記緩衝液により直線濃度勾配で溶出することが好ましい。
【0052】
本発明の具体的な一実施例においては、Q−セファロースカラム溶出液に4M NaCl含有20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)を添加して2.5M NaCl含有20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)となるようにしてフェニル−セファロースローディング液を準備し、その後2.5M NaCl含有20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で平衡化したフェニル−セファロースが充填されたXK−50カラムに前記ローディング液を20ml/minの流速で流し、その後3カラム容量の2.5M NaCl含有20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)を流して洗浄し、その後4カラム容量の0.5M NaCl含有20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)を流して持続型ヒト成長ホルモンを溶出した。その結果、純度は約96%であった(
図6)。
【0053】
ステップ(c)は、前記持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含む生物学的乳液、ステップ(a)で生成された溶出液、又はステップ(b)で生成された溶出液を抗α1−アンチトリプシン抗体断片が付着した樹脂で充填されたアフィニティークロマトグラフィーにかけるステップであり、平衡化した抗α1−アンチトリプシン抗体断片が付着した樹脂に持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含有する培養液、前記ステップ(a)の溶出液、又は前記ステップ(b)の溶出液を加えて吸着させ、その後pH6.5〜8.5の0〜200mM NaCl含有トリス緩衝液で洗浄し、その後pH6.5〜8.5の0〜1M MgCl
2含有トリス緩衝液で持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含有する分画を溶出するステップであることが好ましい。
【0054】
高純度及び高収率の精製が行える本発明の精製方法は、このように抗体断片が付着した樹脂工程を行うステップ(c)を最後のステップとして行うことに特徴がある。ステップ(c)を最初の工程として用いて、ダイアフィルトレーションされた培養液中に残存する洗浄剤(detergent)、染料、その他不純物などが多量に含まれる培養液を直接ローディングしたとしても、純度90%以上の持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを得ることができるが、結合容量や収率が低下するという欠点を本発明者らが初めて解明した。
【0055】
最初の工程として、洗浄剤、染料、その他不純物などが存在したとしても、持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHに対する結合容量が高い(10mg/ml以上)ステップ(a)を行うことにより不純物を一部除去し、その後ステップ(b)及び(c)を順に行うことが、98%以上の純度及び25%以上の収率を実現する精製工程であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0056】
前記陰イオン交換樹脂及び疎水性樹脂工程で90〜95%の純度の持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを得ることができ、99%以上の高純度の持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを得るために、抗体断片が付着した樹脂を追加してもよい。また、抗体断片が付着した樹脂のみを用いて培養液を精製すると、収率は前記工程に比べて約20%低下するが、約90〜95%の純度の持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHが得られることが確認された。
【0057】
前記疎水性樹脂から得られた持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含有する溶出液をpH7〜9の0〜100mM NaCl含有トリス緩衝液で濃縮及び透析するか、又は溶液中のNaCl濃度が200mM以下となるように希釈することが好ましい。濃縮及び透析した溶液、又は希釈した溶液を抗体断片が付着した樹脂、具体的には抗α1−アンチトリプシン抗体断片が付着した樹脂に加えて吸着させ、pH6.5〜8.5の0〜200mM NaCl含有トリス緩衝液で洗浄し、その後pH6.5〜8.5の0〜1M MgCl
2含有トリス緩衝液で持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含有する分画を溶出する。
【0058】
前記各洗浄及び溶出ステップで用いる緩衝液は、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、又はトリス緩衝液であることが好ましい。
本発明の具体的な一実施例においては、前記ステップ(b)で得られた持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHを含む溶液を150mM NaCl含有トリス緩衝液(pH7.4)で限外濾過システムによりダイアフィルトレーションした。抗α1−アンチトリプシン(A1AT)抗体断片が付着した樹脂(以下、「AIAT」ともいう)をXK−50カラム(GE Healthcare社)に充填し、150mM NaCl含有トリス緩衝液(pH7.4)を十分に流してカラムを平衡化し、その後前記ダイアフィルトレーション液を20ml/minの流速で前記カラムに流し、その後再び約3カラム容量の150mM NaCl含有トリス緩衝液(pH7.4)を流してカラムを洗浄した。次いで、50mM MgCl
2含有トリス緩衝液(pH7.4)でカラムを洗浄し、その後100mM MgCl
2含有トリス緩衝液(pH7.4)、200mM MgCl
2含有トリス緩衝液(pH7.4)、300mM MgCl
2含有トリス緩衝液(pH7.4)を順に流して持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHを含む分画を溶出した。持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含有する溶出液は、150mM NaCl含有PBS(pH7.45)緩衝液で限外濾過システム(分子量カットオフ30,000)によりダイアフィルトレーションした。回収した溶出液の純度を確認した結果、約99%であった(
図7)。
【0059】
前記方法は、(d)抗α1−アンチトリプシン抗体断片が付着した樹脂で充填されたアフィニティークロマトグラフィー精製ステップに、0〜1000mM MgCl
2で持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHの糖鎖パターン及び等電点が異なる構造的な亜型(isoform)を分離溶出するステップをさらに含むことが好ましい。このようなステップ(d)は、MgCl
2ではなく、NaClを用いることができ、ここで、MgCl
2の代わりに0〜2000mM NaClで持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHの糖鎖パターン及び等電点が異なる構造的な亜型を分離溶出するステップであることが好ましい。
【0060】
前記抗体断片が付着した樹脂から分離ステップにおいて、持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHの糖鎖パターン及び等電点が異なる構造的な亜型は、MgCl
2の濃度によって分離溶出することができる。例えば、100mM MgCl
2緩衝液は、200mM MgCl
2緩衝液より、糖鎖が多く、等電点が低い構造的な亜型を選択的に溶出することができる(
図8)。
【0061】
抗体断片が付着した樹脂から得られた溶出液であって、持続型ヒト成長ホルモンであるNexP−hGHを含有する溶出液は、さらなる緩衝液交換工程を行ってもよい。緩衝液交換工程は、ゲル濾過や、濃縮及びダイアフィルトレーションなどにより行うことができる。
【0062】
本発明のさらに他の実施態様は、前記方法で製造された持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHタンパク質を提供する。
前記方法及び持続型ヒト成長ホルモンNexP−hGHタンパク質については前述した通りである。