(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水銀を含有する炭化水素流体供給物から水銀を除去するためのプロセスであって、(i)水銀を含有する炭化水素流体供給物と固体担体物質上に固定化されたメタレート塩とを接触させる工程、ここで該メタレート塩は式:
[Q+][(Mx+)n(Ly−)m](nx−my)
〔式中、
各Mx+は、独立して、+2以上の酸化状態を有する遷移金属カチオンから選択される1種以上の金属カチオンであり;
各Ly−は、独立して、y−の電荷を有するリガンドであり;
nは1、2、または3であり;
mは2、3、4、5、6、7、または8であり;
xは2、3、4、5、または6であり;
yは0、1、2、または3であり;(nx−my)は負の数であり;
[Q+]は、[Li]+、[Na]+、[K]+、[Mg]2+、[Ca]2+、および[NH4]+から選ばれる1種以上のイオンである〕
を有する;および
(ii)水銀含有流体供給物と比較して水銀含量の減少した炭化水素流体生成物をメタレート塩から分離する工程;
を含む上記プロセス。
【背景技術】
【0002】
油田やガス田から得られる液体炭化水素とガス状炭化水素は、水銀で汚染されていることが多い。特に、オランダ、ドイツ、カナダ、米国、マレーシア、ブルネイ、および英国とその周辺の油田やガス田から得られる液体炭化水素とガス状炭化水素は、水銀を含有していることが知られている。N.S.Bloom(Fresenius J.Anal.Chem.,2000,366,438−443)が報告しているように、このような炭化水素中に含有されている水銀は様々な形態をとることがある。元素状水銀である場合が多いが、天然に存在する炭化水素源には、粒子状水銀(すなわち、粒状物質に結合した水銀)、有機水銀(たとえば、ジメチル水銀やジエチル水銀)、およびイオン性水銀(たとえば二塩化水銀)も見出されることがある。原油中の水銀濃度は、油井や場所に応じて1パーツ・パー・ビリオン(ppb)未満〜数千ppbの範囲である。同様に、天然ガス中の水銀濃度は1ng・m
−3未満〜1000μg・m
−3超の範囲である。
【0003】
炭化水素中に水銀が存在すると、その毒性ゆえに問題がある。水銀はさらに、炭化水素処理装置(たとえば、精油所やガス精製所において使用される装置)に対して腐食性である。水銀は、炭化水素処理装置のアルミニウム成分と反応してアマルガム形成することができ、このアマルガムが装置の破損を引き起こすことがある。たとえば、パイプライン溶接部、低温部材、アルミニウム熱交換器、および水素化触媒はいずれも、水銀で汚染された炭化水素によって損傷を受けることがある。このことは、きびしい経済的意味づけを伴う運転停止に至ることもあるし、あるいは極端な場合には、破滅的な結果を伴う恐れのある封じ込めの制御低下や完全なプラント破損に至ることもある。さらに、水銀汚染レベルの高い製品はより低品質であると考えられ、したがって売価はより低くなる。
【0004】
炭化水素からの水銀の除去に対して多くの対処法が提唱されている。これらの対処法としては、イオウ、遷移金属硫化物、重金属硫化物、遷移金属ヨウ化物、または重金属ヨウ化物を活性担体上に含有する固定床カラムを使用するスクラビング法;無機水銀や有機水銀を元素形態に還元してからスクラビングまたはアマルガム化を施すというプロセス;および、酸化の後にイオウ含有化合物で錯体形成させるというプロセス;などがある。しかしながら、原油蒸留物や天然ガス等の炭化水素から水銀を除去するためのより効果的なプロセスが依然として求められている(特に、2種以上の形態の水銀を含有する炭化水素源から‘全’水銀を除去するために)。
【0005】
本明細書で使用されている“イオン液体”とは、塩を溶融することにより生成させることのできる、そしてこのように生成させたときにイオンだけからなる液体を表わす。イオン液体は、1種のカチオン化学種と1種のアニオン化学種を含む均一物質から形成させることもできるし、あるいは1種より多いカチオン化学種及び/又は1種より多いアニオン化学種で構成させることもできる。したがってイオン液体は、1種より多いカチオン化学種と1種のアニオン化学種で構成させることができる。イオン液体はさらに、1種のカチオン化学種と1種以上のアニオン化学種で構成させることもできる。イオン液体はさらに、1種より多いカチオン化学種と1種より多いアニオン化学種で構成させることもできる。
【0006】
“イオン液体”という用語は、高融点を有する化合物と低融点(たとえば室温以下)を有する化合物の両方を含む。したがってイオン液体の多くは、200℃未満(特に100℃未満)、ほぼ室温(15〜30℃)、または更に0℃未満の融点を有する。約30℃未満の融点を有するイオン液体は、一般には“室温イオン液体”と呼ばれており、窒素含有複素環カチオン(たとえばイミダゾリウムベースカチオンやピリジニウムベースカチオン)を有する有機塩から誘導されることが多い。室温イオン液体においては、カチオンとアニオンの構造により秩序ある結晶構造の形成が妨げられ、したがって塩は室温にて液体となる。
【0007】
イオン液体は、溶媒として最も広く知られている。イオン液体の多くは、無視しうる蒸気圧、温度安定性、低い燃焼性、および低いリサイクル可能性を有することが示されている。アニオン/カチオンの組み合わせ数が膨大であることにより、ある特定用途の要件に適合するよう、イオン液体の物理的特性(たとえば、融点、密度、粘度、および水もしくは有機溶媒との混和性)を微調整することができる。
【0008】
無機系からイオン液体中への金属の分配(partitioning)について調べている限られた数のレポートがある。
【0009】
たとえば、水からイオン液体中への水銀イオン(+2の高い酸化状態での)の分配がRogers,et al.(Green Chem.,2003,5,129−135)によって報告されており、該報告によれば、ジカチオン性モノアニオン性液体錯形成剤(dicationic anionic liquid complexants)を使用して、水性塩からのHg(II)と酸性溶液とに分配できることが示された。Prausnitz,et al.(Ind.Eng.Chem.Res.,2008,47,5080−5086)は、水銀イオンが優先的に水から疎水性イオン液体中に分配する、ということを示した。
【0010】
Pinto et al.(米国特許出願第2007/0123660号明細書)は、金属錯形成リガンドと不活性担体上にコーティングされたイオン液体との組み合わせを、石炭燃焼煙道ガスから水銀を除去するための吸着剤として使用できる、ということを示した(Ji et al.,Water,Air,& Soil Polution:Focus 2008,8,349−358;Ind.Eng.Chem.Res.,2008,47,8396−8400;およびMain Group Chemistry 2008,7,181−189;を参照)。
【0011】
国際公開第98/06106号には、核燃料や核燃料クラッド材を硝酸塩ベースのイオン液体中に酸化溶解するためのプロセスが開示されている。開示されているイオン液体は、硝酸アニオン(および必要に応じて、硫酸アニオンまたはテトラフルオロホウ酸アニオン)、および溶媒の酸化力を高めるのに必要なブレンステッド酸またはフランクリン酸(たとえば、硝酸、硫酸、またはニトロニウムカチオン)を含む。開示されているイオン液体は、全て水溶性である。
【0012】
Pitner,W.R.らは、硝酸アニオンを含むイオン液体と硝酸との混合物中にて酸化ウランを可溶性化学種であるUO
22+に酸化する、という不溶性の酸化ウラン(UO
2)を溶解するための類似のプロセスを説明している(Green Industrial Applications of Ionic Liquids,NATO Science Sries II:Mathematics,Physics and Chemistry,2003,92,209−226,Kluwer Academic
Publishers,Dordrecht.)。しかしながら、元素金属の溶解については説明されていない。
【0013】
国際公開第98/06106号とPitnerらの文献中に開示の酸化プロセスは、ニトロニウムイオンを含有する高腐食性酸の使用を必要とする。このようなプロセスが炭化水素のプロセシングと相容れないのは自明のことである。なぜなら、オレフィンや芳香族化合物等の炭化水素成分は、酸やニトロニウムイオンとの反応(好ましくない副生物を生成する)を起こしやすいからである。酸の使用はさらに、特に炭化水素流体に対しては、組成物の全酸性度の望ましくない増大を招く。さらに、国際公開第98/06106号とPitnerらの文献中に開示の系は、腐食性が高いために、金属製の炭化水素処理装置、炭化水素貯蔵装置、および炭化水素輸送装置には不適合となる。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、特定の金属含有イオン液体が、元素形態、イオン形態、および有機形態の水銀を炭化水素流体から高効率で抽出することができる、という驚くべき知見に基づいている。イオン液体が、溶解水銀に対して極めて高い容量を有する、たとえば、イオン液体中への溶解水銀に対する容量が、イオン液体と水銀との総重量を基準として20重量%の高さである場合がある、ということが見出された。
【0017】
第1の態様では、本発明は、水銀を含有する炭化水素流体供給物から水銀を除去するためのプロセスを提供し、該プロセスは、
(i)水銀を含有する炭化水素流体供給物と式:
[Cat
+][M
+][X
−]
(式中、
[Cat
+]は1種以上の有機カチオン化学種であり;
[M
+]は、+2以上の酸化状態を有する遷移金属カチオンから選択される1種以上の金属カチオンであり;
[X
−]は1種以上のアニオン化学種である)
を有するイオン液体とを接触させる工程;および
(ii)水銀を含有する流体供給物と比較して減少した水銀含量を有する炭化水素流体生成物をイオン液体から分離する工程;
を含む。
【0018】
特定の理論で拘束されるつもりはないが、元素状水銀が極めて可溶性のイオン水銀化学種に酸化されるという穏やかに酸化する環境を、そして有機水銀化学種が、極めて可溶性の水銀イオンを形成するよう酸化開裂を受けるという穏やかに酸化する環境をイオン液体がもたらすと考えられる。このようして形成される水銀イオンは、炭化水素流体からイオン液体に高い選択性で分配すると考えられる。したがって本発明のイオン液体は、水銀を酸化し、酸化水銀化学種のための捕捉媒体として機能する、という二重の機能を果たす。これにより、全スペシエーションタイプの水銀を、炭化水素流体から高効率で除去することが可能となる。
【0019】
本発明のプロセスにおいて使用されるイオン液体は、イオン液体と、炭化水素流体及び/又は炭化水素処理/輸送/貯蔵装置との反応が防止されるほどに充分に温和である。この点において、本発明のプロセスは、炭化水素物質のプロセシングと適合しない腐食性の酸性媒体及び/又はニトロ化媒体(たとえば、硫酸アニオン、硝酸アニオン、ニトロニウムアニオン、及び/又は硫酸水素アニオンを含有するイオン液体)の使用を必要としない、ということがわかる。
【0020】
好ましい実施態様では、[M
+]は、少なくとも+2の酸化状態を有する第一列遷移金属カチオン(すなわち、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、および亜鉛から選ばれ、少なくとも+2の酸化状態を有する金属カチオン)から選ばれる1種以上の金属カチオンであってよい。
【0021】
したがって本発明によれば、[M
+]は、Sc
2+、Sc
3+、Ti
2+、Ti
3+、Ti
4+、V
2+、V
3+、V
4+、V
5+、Cr
2+、Cr
3+、Cr
4+、Cr
5+、Cr
6+、Mn
2+、Mn
3+、Mn
4+、Mn
5+、Mn
6+、Mn
7+、Fe
2+、Fe
3+、Fe
4+、Fe
5+、Fe
6+、Co
2+、Co
3+、Co
4+、Co
5+、Ni
2+、Ni
3+、Ni
4+、Zn
2+、Mo
2+、Mo
3+、Mo
4+、Mo
5+、及び/又はMo
6+から選ばれる1種以上の金属カチオンであってよい。
【0022】
さらなる好ましい実施態様では、[M
+]は、少なくとも+2の酸化状態を有する鉄カチオン(すなわち、Fe
2+、Fe
3+、Fe
4+、Fe
5+、及び/又はFe
6+から選ばれる鉄カチオン)であってよい。
【0023】
さらなる好ましい実施態様では、[M
+]は、少なくとも+2の酸化状態を有する銅カチオン(すなわち、Cu
2+、Cu
3+、及び/又はCu
4+から選ばれるカチオン)であってよい。さらに好ましくは、[M
+]はCu
2+であってよい。
【0024】
さらなる好ましい実施態様では、[M
+]は、少なくとも+2の酸化状態を有するモリブデンカチオン(すなわち、Mo
2+、Mo
3+、Mo
4+、Mo
5+、及び/又はMo
6+から選ばれるカチオン)であってよい。さらに好ましくは、[M+]はMo
6+であってよい。
【0025】
さらなる好ましい実施態様では、[M
+]は、少なくとも+2の酸化状態を有するコバルトカチオン(すなわち、Co
2+、Co
3+、Co
4+、及び/又はCo
5+から選ばれるカチオン)であってよい。さらに好ましくは、[M+]はCo
2+であってよい。
【0026】
言うまでもないが、特定の実施態様では、[M
+]は、1種より多い金属カチオンであってもよい。たとえば、[M
+]は、上記に開示の好ましいカチオン群から選ばれる1種より多い金属カチオン(すなわち、異なる金属のカチオンの混合物、及び/又は、同じ金属であって、異なる酸化状態を有する金属のカチオンの混合物)であってよい。
【0027】
特に好ましい実施態様では、[M
+]は、Fe
3+、Cu
2+、Mo
6+、およびCo
2+から選ばれる1種以上の金属カチオンである。さらに好ましくは、[M
+]は、Fe
3+とCu
2+から選ばれる1種以上の金属カチオンである。
【0028】
特に好ましい実施態様では、[M
+]はFe
3+である。
【0029】
さらなる特に好ましい実施態様では、[M
+]はCu
2+である。
【0030】
少なくとも+2の酸化状態を有する1種以上の金属イオンを使用することの1つの利点は、水銀の酸化時における該金属イオンの還元が、一般には、少なくとも+1の酸化状態を有する金属イオンの形成につながり、したがって副生物としての元素状金属の形成が防止される、という点である。
【0031】
金属イオンは、水銀の酸化後に少なくとも+1の酸化状態を有するように選択されるのが好ましい(たとえば、Cu
2+がCu
+に還元される)。このように、本発明にしたがって処理することができる水銀含有炭化水素流体は、1パーツ・パー・ビリオン(ppb)〜250,000ppbの水銀(たとえば、1〜200,000ppbの水銀、1〜100,000ppbの水銀、1〜50,000ppbの水銀、2〜10,000ppbの水銀、または5〜1000ppbの水銀)を含んでよい。
【0032】
天然に存在する炭化水素流体の水銀含有物は、さまざまな形態をとることがあり、本発明は、炭化水素流体から元素状水銀、粒子状水銀、有機水銀、またはイオン性水銀を除去するのに適用することができる。1つの好ましい実施態様では、炭化水素流体供給物は、元素状水銀、粒子状水銀、または有機水銀の少なくとも1種を含む。さらに好ましくは、炭化水素流体供給物は、元素状水銀と有機水銀の少なくとも1種を含む。したがって、1つの好ましい実施態様では、炭化水素流体供給物は元素状水銀を含む。さらに好ましい実施態様では、炭化水素流体供給物は有機水銀を含む。
【0033】
本発明のプロセスは、1種より多い水銀スペシエーション(mercury speciation)(たとえば、2種以上の水銀スペシエーション)を含有する炭化水素流体から水銀を抽出するのに特に適している。本発明の好ましい実施態様では、炭化水素流体は、
(i)元素状水銀と無機水銀;
(ii)元素状水銀と有機水銀;
(iii)無機水銀と有機水銀;または
(iv)元素状水銀、無機水銀、および有機水銀の全3種;
を含んでよい。
【0034】
本発明のプロセスは、水銀を含んでいて、プロセスの操作条件下にて液状もしくはガス状である、実質的に全ての炭化水素供給物に対して使用することができる。
【0035】
本明細書で使用している“炭化水素”という用語は、少なくとも50重量%の炭化水素、さらに好ましくは少なくとも60重量%の炭化水素、さらに好ましくは少なくとも70重量%の炭化水素、さらに好ましくは少なくとも80重量%の炭化水素、さらに好ましく
は少なくとも90重量%の炭化水素、そして最も好ましくは少なくとも95重量%の炭化水素を含有する液状もしくはガス状物質を表わしている。
【0036】
本発明にしたがって処理することができる炭化水素流体の例としては、液化天然ガス等の液体炭化水素;軽質留分(たとえば、液化石油ガス、ガソリン、および/又はナフサを含む留分);天然ガスコンデンセート;中間留分(たとえば、ケロシン及び/又はディーゼルを含む留分);重質留分(たとえば燃料油);および原油;などがある。本発明にしたがって処理することができる炭化水素流体はさらに、天然ガスや製油所ガス(refinery gas)等のガス状炭化水素を含む。
【0037】
本発明によれば、[Cat
+]は、アンモニウム、ベンゾイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ−ウンデセニウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ−オキサゾリウム、オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ−キノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレナゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ−チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ−チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ−トリアゾリウム、およびウロニウムから選ばれるカチオン化学種を含んでよい。
【0038】
本発明の1つの好ましい実施態様では、[Cat
+]は、ベンゾイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、ジアザビシクロ−ウンデセニウム、ジチアゾリウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ−オキサゾリウム、オキサチアゾリウム、フタラジニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ−キノリニウム、キノキサリニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ−チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ−チアゾリウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、およびイソ−トリアゾリウムから選ばれる芳香族複素環カチオン化学種を含む。
【0039】
さらに好ましくは、[Cat
+]は、式:
【0041】
〔式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、R
f、およびR
gはそれぞれ、水素、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、C
3−C
8シクロアルキル基、またはC
6−C
10アリール基から独立して選ばれるか、あるいは隣接の炭素原子に結合したR
b、R
c、R
d、R
e、およびR
fのいずれか2つがメチレン鎖−(CH
2)
q−(式中、qは3〜6である)を形成し、前記のアルキル基、シクロアルキル基、もしくはアリール基、または前記メチレン鎖は未置換であるか、あるいはC
1−C
6アルコキシ、C
2−C
12アルコキシアルコキシ、C
3−C
8シクロアルキル、C
6−C
10アリール、C
7−C
10アルカリール、C
7−C
10アラルキル、−CN、−OH、−SH、−NO
2、−CO
2R
x、−OC(O)R
x、−C(O)R
x、−C(S)R
x、−CS
2R
x、−SC(S)R
x、−S(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(O)O(C
1−C
6)アルキル、−OS(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(C
1−C
6)アルキル、−S−S(C
1−C
6)アルキル、−NR
xC(O)NR
yR
z、−NR
xC(O)OR
y、−OC(O)NR
yR
z、−NR
xC(S)OR
y、−OC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)SR
y、−SC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)NR
yR
z、−C(O)NR
yR
z、−C(S)NR
yR
z、−NR
yR
z、または複素環基から選ばれる1〜3基で置換されてもよく、ここでR
x、R
y、およびR
zはそれぞれ、水素またはC
1−C
6アルキルから独立して選ばれる〕
を有する。
【0042】
R
aは、C
1−C
15の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのが好ましく、C
2−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのがさらに好ましく、C
2−C
8の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのがさらに好ましく、C
4−C
8の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのが最も好ましい。さらなる例としては、R
aが、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、およびn−オクタデシルから選択される場合がある。
【0043】
R
g基を含むカチオンでは、R
gは、C
1−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから
選択するのが好ましく、C
1−C
5の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのがさらに好ましく、メチル基であるのが最も好ましい。
【0044】
R
a基とR
g基の両方を含むカチオンでは、R
aとR
gはそれぞれ、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから独立して選択するのが好ましく、R
aとR
gの一方が水素であってもよい。さらに好ましくは、R
aとR
gの一方は、C
2−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、さらに好ましくはC
2−C
8の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、最も好ましくはC
4−C
8の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、そしてR
aとR
gの他方は、C
1−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、さらに好ましくはC
1−C
0の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、最も好ましくはメチル基である。さらなる好ましい実施態様では、R
aとR
g(存在する場合)はそれぞれ、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキルおよびC
1−C
15アルコキシアルキルから独立して選択することができる。
【0045】
さらなる好ましい実施態様では、R
aとR
gの一方が、ヒドロキシ、メトキシ、またはエトキシで置換されてもよい。
【0046】
さらなる好ましい実施態様態様では、R
b、R
c、R
d、R
e、およびR
fは、水素およびC
1−C
15の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから独立して選択され、R
b、R
c、R
d、R
e、およびR
fのそれぞれが水素であるのがさらに好ましい。
【0047】
本発明のこの実施態様では、[Cat
+]は、
【0049】
(式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、R
f、およびR
gは、前記したとおりである)から選択されるカチオンを含むのが好ましい。
【0052】
(式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、R
f、およびR
gは、前記したとおりである)から選択されるカチオンを含むのがさらに好ましい。
【0055】
(式中、R
aとR
gは、前記したとおりである)
から選択されるカチオンを含むのが好ましい。
【0058】
(式中、R
aとR
gは、前記したとおりである)
から選択されるカチオンを含むのがさらに好ましい。
【0059】
本発明にしたがって使用できる好ましい窒素含有芳香族複素環カチオンの特定の例としては、
【0062】
本発明の他の好ましい実施態様では、[Cat
+]は、環状アンモニウム、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、モルホリニウム、環状ホスホニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、キヌクリジニウム、および環状スルホニウムから選択される飽和複素環カチオンを含む。
【0066】
(式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、R
f、およびR
gは、前記したとおりである)を有する飽和複素環カチオンを含むのがさらに好ましい。
【0069】
(式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、R
f、およびR
gは、前記したとおりである)を有する飽和複素環カチオンを含むのがさらに好ましく、式:
【0071】
(R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、およびR
gは、前記したとおりである)を有する飽和複素環カチオンを含むのが最も好ましい。
【0072】
さらに本発明のこの実施態様によれば、[Cat
+]は、
【0074】
から選択される法複素環カチオンを含むのが好ましい。
【0075】
上記の飽和複素環カチオンでは、R
aは、C
1−C
15の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのが好ましく、C
2−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのがさらに好ましく、C
2−C
8の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのがさらに好ましく、C
4−C
8の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのが最も好ましい。さらなる例としては、R
aが、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、およびn−オクタデシルから選択される場合がある。
【0076】
R
g基を含むカチオンでは、R
gは、C
1−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのが好ましく、C
1−C
5の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのがさらに好ましく、メチル基であるのが最も好ましい。
【0077】
R
a基とR
g基の両方を含む飽和複素環カチオンでは、R
aとR
gはそれぞれ、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから独立して選択するのが好ましく、R
aとR
gの一方が水素であってもよい。さらに好ましくは、R
aとR
gの一方は、C
2−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、さらに好ましくはC
2−C
8の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、最も好ましくはC
4−C
8の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、そしてR
aとR
gの他方は、C
1−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、さらに好ましくはC
1−C
0の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択することができ、最も好ましくはメチル基である。
さらなる好ましい実施態様では、R
aとR
g(存在する場合)はそれぞれ、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキルおよびC
1−C
15アルコキシアルキルから独立して選択することができる。
【0078】
さらなる好ましい実施態様では、R
b、R
c、R
d、R
e、およびR
fが、水素およびC
1−C
5の直鎖もしくは分岐鎖アルキル独立して選択され、さらに好ましくは、R
b、R
c、R
d、R
e、およびR
fがそれぞれ水素である。
【0079】
さらなる好ましい実施態様では、R
aが、ヒドロキシ、メトキシ、またはエトキシで置換されてもよい。
【0080】
本発明の他の好ましい実施態様では、[Cat
+]は、
【0082】
〔式中、R
a、R
b、R
c、およびR
dはそれぞれ、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、C
3−C
8シクロアルキル基、またはC
6−C
10アリール基から独立して選択され、前記のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基は、未置換であるか、あるいはC
1−C
6アルコキシ、C
2−C
12アルコキシアルコキシ、C
3−C
8シクロアルキル、C
6−C
10アリール、C
7−C
10アルカリール、C
7−C
10アラルキル、−CN、−OH、−SH、−NO
2、−CO
2R
x、−OC(O)R
x、−C(O)R
x、−C(S)R
x、−CS
2R
x、−SC(S)R
x、−S(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(O)O(C
1−C
6)アルキル、−OS(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(C
1−C
6)アルキル、−S−S(C
1−C
6)アルキル、−NR
xC(O)NR
yR
z、−NR
xC(O)OR
y、−OC(O)NR
yR
z、−NR
xC(S)OR
y、−OC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)SR
y、−SC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)NR
yR
z、−C(O)NR
yR
z、−C(S)NR
yR
z、−NR
yR
z、または複素環基から選択される1〜3基で置換されてもよく、ここでR
x、R
y、およびR
zは、水素またはC
1−C
6アルキルから独立して選択され、R
a、R
b、R
c、およびR
dの1つが水素であってもよい〕
から選択されるアクリルカチオンを含む。
【0085】
〔式中、R
a、R
b、R
c、およびR
dはそれぞれ、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、C
3−C
8シクロアルキル基、またはC
6アリール基から独立して選択され、前記のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基は、未置換であるか、あるいはC
1−C
6アルコキシ、C
2−C
12アルコキシアルコキシ、C
3−C
8シクロアルキル、C
6−C
10アリール、C
7−C
10アルカリール、C
7−C
10アラルキル、−CN、−OH、−SH、−NO
2、−CO
2R
x、−OC(O)R
x、−C(O)R
x、−C(S)R
x、−CS
2R
x、−SC(S)R
x、−S(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(O)O(C
1−C
6)アルキル、−OS(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(C
1−C
6)アルキル、−S−S(C
1−C
6)アルキル、−NR
xC(O)NR
yR
z、−NR
xC(O)OR
y、−OC(O)NR
yR
z、−NR
xC(S)OR
y、−OC(
S)NR
yR
z、−NR
xC(S)SR
y、−SC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)NR
yR
z、−C(O)NR
yR
z、−C(S)NR
yR
z、−NR
yR
z、または複素環基から選択される1〜3基で置換されてもよく、ここでR
x、R
y、およびR
zは、水素またはC
1−C
6アルキルから独立して選択され、R
a、R
b、R
c、およびR
dの1つが水素であってもよい〕
から選択されるカチオンを含む。
【0086】
上記アクリルカチオンにおいて、R
aは、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのが好ましく、C
2−C
16の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのがさらに好ましく、C
4−C
14の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから選択するのが最も好ましい。さらなる例としては、R
aが、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、およびn−オクタデシルから選択される場合がある。
【0087】
上記アクリルカチオンにおいて、R
b、R
c、およびR
dは、C
1−C
10の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから独立して選択するのが好ましく、C
1−C
5の直鎖もしくは分岐鎖アルキルから独立して選択するのがさらに好ましい。
【0088】
好ましくはR
b、R
c、およびR
dのうちの2つが、さらに好ましくはR
b、R
c、およびR
dのそれぞれが、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、およびn−ヘキシルから選択される。
【0089】
さらに好ましくはR
b、R
c、およびR
dのうちの2つが、さらに好ましくはR
b、R
c、およびR
dのそれぞれがn−ブチルまたはn−ヘキシルである。
【0090】
さらなる好ましい実施態様では、R
a、R
b、R
c、およびR
dのうちの1つが、ヒドロキシ、メトキシ、またはエトキシで置換されてもよい。
【0091】
本発明に従った使用に適した好ましいアンモニウムカチオンおよびホスホニウムカチオンの特定の例としては、
【0094】
本発明のさらなる実施態様では、[Cat
+]は、グアニジニウム、環状グアニジニウム、ウロニウム、環状ウロニウム、チウロニウム、および環状チウロニウムから選択されるカチオンを含む。
【0095】
さらに好ましくは、[Cat
+]は、式:
【0097】
〔式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、およびR
fはそれぞれ、C
1−C
20の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、C
3−C
8シクロアルキル基、またはC
6−C
10アリール基から独立して選択されるか、あるいは異なる窒素原子に結合したR
a、R
b、R
c、およびR
dのいずれか2つがメチレン鎖−(CH
2)
q−(式中qは2〜5である)を形成し、前記のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基、あるいは前記メチレン鎖は、未置換であるか、あるいはC
1−C
6アルコキシ、C
2−C
12アルコキシアルコキシ、C
3−C
8シクロアルキル、C
6−C
10アリール、C
7−C
10アルカリール、C
7−C
10アラルキル、−CN、−OH、−SH、−NO
2、−CO
2R
x、−OC(O)R
x、−C(O)R
x、−C(S)R
x、−CS
2R
x、−SC(S)R
x、−S(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(O)O(C
1−C
6)アルキル、−OS(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(C
1−C
6)アルキル、−S−S(C
1−C
6)アルキル、−NR
xC(O)NR
yR
z、−NR
xC(O)OR
y、−OC(O)NR
yR
z、−NR
xC(S)OR
y、−OC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)SR
y、−SC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)NR
yR
z、−C(O)NR
yR
z、−C(S)NR
yR
z、−NR
yR
z、または複素環基から選択される1〜3基で置換されてもよく、ここでR
x、R
y、およびR
zは、水素またはC
1−C
6アルキルから独立して選択される〕を有するカチオンを含む。
【0098】
本発明に従った使用に適したグアニジニウムカチオン、ウロニウムカチオン、およびチウロニウムカチオンの特定の例としては、
【0101】
さらなる好ましい実施態様では、[Cat
+]は、電子の豊富なイオウ成分もしくはセレン成分を含むカチオンを含む。例としては、ペンダントのチオール置換基、チオエーテル置換基、もしくはジスルフィド置換基を含む上記のようなカチオンがある。
【0102】
さらに他の好ましい実施態様では、[Cat
+]は、トリブチルメチルアンモニウムの立体ボリューム(steric volume)以下の立体ボリュームを有する1種以上
のカチオンを表わす。
【0103】
本発明によれば、[X
−]は、ハロゲン化物アニオン、過ハロゲン化物アニオン、偽ハロゲン化物アニオン、硫酸アニオン、亜硫酸アニオン、スルホン酸アニオン、スルホンイミドアニオン、リン酸アニオン、亜リン酸アニオン、ホスホン酸アニオン、メチドアニオン、ホウ酸アニオン、カルボン酸アニオン、アゾレートアニオン(azolates)、炭酸アニオン、カルバミン酸アニオン、チオリン酸アニオン、チオカルボン酸アニオン、チオカルバミン酸アニオン、チオ炭酸アニオン、キサントゲン酸アニオン、チオスルホン酸アニオン、チオ硫酸アニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、過塩素酸アニオン、アミノ酸アニオン、およびホウ酸アニオンから選択される1種以上のアニオンを含んでよい。
【0104】
したがって[X]は、
a)F
−、Cl
−、Br
−、およびI
−から選択されるハロゲン化物アニオン;
b)[I
3]
−、[I
2Br]
−、[IBr
2]
−、[Br
3]
−、[Br
2C]
−、[BrCl
2]
−、[ICl
2]
−、[I
2Cl]
−、および[Cl
3]
−から選択される過ハロゲン化物アニオン;
c)[N
3]
−、[NCS]
−、[NCSe]
−、[NCO]
−、および[CN]
−から選択される偽ハロゲン化物アニオン;
d)[HSO
4]
−、[SO
4]
2−、および[R
2OSO
2O]
−から選択される硫酸アニオン;
e)[HSO
3]
−、[SO
3]
2−、および[R
2OSO
2]
−から選択される亜硫酸アニオン;
f)[R
1SO
2O]
−から選択されるスルホン酸アニオン;
g)[(R
1SO
2)
2N]
−から選択されるスルホンイミドアニオン;
h)[H
2PO
4]
−、[HPO
4]
2−、[PO
4]
3−、[R
2OPO
3]
2−、および[(R
2O)
2PO
2]
−から選択されるリン酸アニオン;
i)[H
2PO
3]
−、[HPO
3]
2−、[R
2OPO
2]
2−、および[(R
2O)
2PO]
−から選択される亜リン酸アニオン;
j)[R
1PO
3]
2−および[R
1P(O)(OR
2)O]
−から選択されるホスホン酸アニオン;
k)[(R
1SO
2)
3C]
−から選択されるメチドアニオン;
l)[ビスオキサラートボラート]アニオンおよび[ビスマロナートボラート]アニオンから選択されるホウ酸アニオン;
m)[R
2CO
2]
−から選択されるカルボン酸アニオン;
n)[3,5−ジニトロ−1,2,4−トリアゾレート]アニオン、[4−ニトロ−1,2,3−トリアゾレート]アニオン、[2,4−ジニトロイミダゾレート]アニオン、[4,5−ジニトロイミダゾレート]アニオン、[4,5−ジシアノイミダゾレート]アニオン、[4−ニトロイミダゾレート]アニオン、および[テトラゾレート]アニオンから選択されるアゾレートアニオン;
o)チオ炭酸アニオン(たとえば[R
2OCS
2]
−)、チオカルバミン酸アニオン(たとえば[R
22NCS
2]
−)、チオカルボン酸アニオン(たとえば[R
1CS
2]
−)、チオリン酸アニオン(たとえば[R
2O)
2PS
2]
−)、チオスルホン酸アニオン(たとえば[RS(O)
2S]
−)、およびチオ硫酸アニオン(たとえば[ROS(O)
2S]
−)から選択されるイオウ含有アニオン;ならびに
p)硝酸アニオン([NO
3]
−)または亜硝酸アニオン(たとえば[NO
2]
−);から選択される1種以上のアニオンを表わしてよく、ここでR
1とR
2は、C
1−C
10アルキル、C
6アリール、C
1−C
10アルキル(C
6)アリール、およびC
6アリール(C
1−C
10)アルキルからなる群から独立して選択され、R
1とR
2のそれぞれが、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、C
1−C
6アルコキシ、C
2−C
12アルコキシア
ルコキシ、C
3−C
8シクロアルキル、C
6−C
10アリール、C
7−C
10アルカリール、C
7−C
10アラルキル、−CN、−OH、−SH、−NO
2、−CO
2R
x、−OC(O)R
x、−C(O)R
x、−C(S)R
x、−CS
2R
x、−SC(S)R
x、−S(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(O)O(C
1−C
6)アルキル、−OS(O)(C
1−C
6)アルキル、−S(C
1−C
6)アルキル、−S−S(C
1−C
6)アルキル、−NR
xC(O)NR
yR
z、−NR
xC(O)OR
y、−OC(O)NR
yR
z、−NR
xC(S)OR
y、−OC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)SR
y、−SC(S)NR
yR
z、−NR
xC(S)NR
yR
z、−C(O)NR
yR
z、−C(S)NR
yR
z、−NR
yR
z、または複素環基から選択される1つ以上の基で置換されてもよく、ここでR
x、R
y、およびR
zは、水素またはC
1−C
6アルキルから独立して選択され、R
1は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素であってもよい。
【0105】
[X
−]は、過ハロゲン化物アニオンまたは酸性水素原子を有するアニオンを含まないのが好ましい。
【0106】
1つの好ましい実施態様では、[X
−]は、[F]
−、[Cl]
−、[Br]
−、および[I]
−から選択されるハロゲン化物アニオンを含むか、あるいは前記ハロゲン化物アニオンからなる。さらに好ましくは、[X
−]は、[Cl]
−と[Br]
−から選択されるハロゲン化物アニオンを含むか、あるいは前記ハロゲン化物アニオンからなる。さらに好ましくは、[X
−]は、[Cl]
−アニオンを含むか、あるいは[Cl]
−アニオンからなる。
【0107】
さらなる好ましい実施態様では、[X
−]は、[N
3]
−、[NCS]
−、[NCSe]
−、[NCO]
−、および[CN]
−から選択される偽ハロゲン化物アニオンを含むか、あるいは前記偽ハロゲン化物アニオンからなる。
【0108】
さらなる好ましい実施態様では、[X
−]は、[R
2CO
2]
−(式中、R
2は前記したとおりである)から選択されるカルボン酸アニオンを含むか、あるいは前記カルボン酸アニオンからなる。このカテゴリーのアニオンのさらなる例としては、[HCO
2]
−、[MeCO
2]
−、[EtCO
2]
−、[CH
2(OH)CO
2]
−、[CH
3CH(OH)CH
2CO
2]
−、および[PhCO
2]
−などがある。特に好ましいカルボン酸アニオンは[MeCO
2]
−である。
【0109】
さらなる好ましい実施態様では、[X
−]は、硫酸アニオン[SO
4]
2−を含むか、あるいは硫酸アニオンからなる。
【0110】
さらなる好ましい実施態様では、[X
−]は、電子の豊富なイオウ成分もしくはセレン成分を含むカチオンを含む。例としては、ペンダントのチオール置換基、チオエーテル置換基、もしくはジスルフィド置換基、または[NCS]
−、[NCSe]
−、[R
2OCS
2]
−、[R
22NCS
2]
−、[R
1CS
2]−、[(R
2O)
2PS
2]
−、[R
1S(O)
2S]
−、もしくは[R
2OS(O)
2S]
−を含む上記アニオンが挙げられる。このカテゴリーのアニオンのさらなる例としては、[CH
2(SH)CO
2]
−、[CH
3CH
2(SH)CO
2]
−、[CH
3CS
2]
−、[CH
3CH
2CS
2]
−、[PhCS
2]−、[(MeO)
2PS
2]
−、[(EtO)
2PS
2]
−、[(PhO)
2PS
2]
−、[(CH
3)
2NCS
2]
−、[(CH
3CH
2)
2NCS
2]
−、[Ph
2NCS
2]
−、[CH
3OCS
2]
−、[CH
3CH
2OCS
2]
−、[PhOCS
2]
−、
【0113】
さらに好ましくは、[X
−]は、上記ハロゲン化物アニオン及び/又は上記偽ハロゲン化物アニオン及び/又は[SO
4]
2−を含むか、あるいは上記ハロゲン化物アニオン及び/又は上記偽ハロゲン化物アニオン及び/又は[SO
4]
2−からなる。[X
−]は、[Cl]
−、[Br]
−、および[SCN]
−から選択するのがさらに好ましい。[X
−]は[Cl]
−であるのが最も好ましい。
【0114】
言うまでもなく、本発明は、単一カチオンと単一アニオンを含むイオン液体に限定されない。したがって特定の実施態様では、[Cat
+]は、2種以上のカチオン(たとえば、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、および1,3−ジエチルイミダゾリウムカチオンの統計的混合物)であってよい。同様に、特定の実施態様では、[X
−]は、2種以上のアニオン〔たとえば、塩化物アニオン([Cl]
−)と臭化物アニオン([Br]
−)の混合物〕であってよい。
【0115】
さらに言うまでもなく、上記イオン液体中の[Cat
+]と[M
+]と[X
−]の相対モル量は固定されず、全体的なチャージバランスが保たれているという条件にてある範囲の値をとってよい。したがって、[Cat
+]と[M
+]と[X
−]の相対モル量は、金属カチオン[M
+]の濃度、ならびに[Cat
+]イオン、[M
+]イオン、および[X
−]イオンのそれぞれ上の荷電に依存する。
【0116】
上記の有機カチオン[Cat
+]とアニオン[X
−]は、一般には単一電荷イオンである。しかしながら本発明によれば、[Cat
+]及び/又は[X
−]は、多重荷電を有するイオン(たとえば、二重荷電イオン、三重荷電イオン、または四重荷電イオン)を表わすこともある。たとえば[SO
4]
2−は、[X
−]の定義に含まれる二重荷電アニオンの例として見なすことができる。
【0117】
イオン液体中の[Cat
+]対[M
+]のモル比は、10:1〜1:2の範囲であるのが好ましく、5:1〜1:2の範囲であるのがさらに好ましく、2:1〜1:1の範囲であるのが最も好ましい。[Cat
+]対[M
+]のモル比を2:1〜1:1にすると、有機カチオン[Cat
+]の選択によって、イオン液体の特性(たとえば、融点や水混和性)を制御する能力を失うことなく、イオン液体の金属負荷容量(metal loading)を最大にすることができる、ということが見出された。
【0118】
本発明に従って使用されるイオン液体は、あるイオン液体に金属カチオン[M
+]の塩を加えることによって調製することができる。塩のアニオンは、イオン液体のアニオン[X
−]と同じであるのが好ましい。たとえば、金属塩は、塩化物アニオンや臭化物アニオン等のハロゲン化物アニオンを含むのが好ましい。
【0119】
イオン液体に加えられる塩は、FeCl
3、FeBr
3、CuCl
2、およびCuBr
2から選択するのが最も好ましい。
【0120】
本発明の好ましい実施態様では、金属イオン[M
+]と1つ以上のリガンドとを結びつ
けて配位錯体を形成させる。{X
−]は、金属イオン[M
+]に対するリガンドとして機能する1つ以上のアニオン化学種を含むのが好ましい。これとは別に、イオン液体は、金属イオン[M
+]に配位することができる中性化学種(たとえば、アミンやホスフィン)を含んでよい。
【0121】
配位錯体は、式:
[(M
x+)
n(L
y−)
m]
(nx−my)
(式中、
各M
x+は、独立して、x+の電荷を有する、上記にて定義の金属イオン[M
+]を表わし;
各L
y−は、独立して、y−の電荷を有するリガンドを表わし;
nは、1、2、または3であり;
mは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
xは、2、3、4、5、または6であり;そして
yは、0、1、2、または3である)
を有するのが好ましい。
【0122】
言うまでもなく、配位錯体の正確な構造(したがってn、m、x、およびyの値)は、使用される特定の金属およびリガンドの化学に依存する。適切な構造は、配位化学の基本原理を利用する当業者であれば容易に導き出せる。
【0123】
各L
y−は、上記にて定義のアニオン化学種(たとえば[O
2−]や[S
2−])から独立して選択するのが好ましい。
【0124】
各L
y−は、ハロゲン化物アニオン、過ハロゲン化物アニオン、カルボン酸アニオン、[O
2−]、および[S
2−]から独立して選択するのがさらに好ましい。たとえば、各L
y−は、[F]
−、[Cl]
−、[Br]
−、[I]
−、[N
3]
−、[NCS]
−、[NCSe]
−、[NCO]
−、[CN]
−、[R
2CO
2]
−(式中、R
2は前記にて定義したとおりである)、[O
2−]、および[S
2−]から独立して選択することができる。
【0125】
(nx−my)は負の数であるのが好ましい。(nx−my)が負の数であるとき、本明細書では、この配位錯体をメタレートアニオン(metallate anion)と呼ぶ。
【0126】
特に好ましいメタレートアニオンとしては、[FeCl
4]
−、[CuCl
4]
2−、[Cu
2Cl
6]
2−、および[MoS
4]
2−などがある。
【0127】
上記にて定義のメタレートアニオンは、イオン液体に金属塩を加えることによって形成させることができる(イオン液体アニオンが金属塩と化合してメタレートアニオンを形成する)。
【0128】
たとえば、本発明のイオン液体が、塩化物イオン液体(たとえば[bmim]
+[Cl]
−)にFeCl
3をイオン液体対金属イオン比が1:1にて加えることによって作製される場合は、該金属塩が該イオン液体の塩化物と化合して式[bmim]
+[FeCl
4]
−(式中、[FeCl
4]
−がメタレート錯体を表わす)を有するイオン液体を形成する。
【0129】
本発明のイオン液体が、塩化物イオン液体(たとえば[bmim]
+[Cl]
−)にCuCl
2をイオン液体対金属イオン比が2:1にて加えることによって作製される場合は
、該金属塩が該イオン液体の塩化物と化合して式([bmim]
+)
2([CuCl
4]
2−)(式中、[CuCl
4]
2−がメタレート錯体を表わす)を有するイオン液体を形成する。
【0130】
これとは別に、本発明のイオン液体が、塩化物イオン液体(たとえば[bmim]
+[Cl]
−)にCuCl
2をイオン液体対金属イオン比が1:1にて加えることによって作製される場合は、該金属塩が該イオン液体の塩化物と化合して式([bmim]
+)
2([Cu
2Cl
6]
2−)(式中、[Cu
2Cl
6]
2−がメタレート錯体を表わす)を有するイオン液体を形成する。
【0131】
言うまでもなく、イオン液体の金属負荷容量が低い場合は、イオン液体は、メタレートアニオンと錯体化されていないアニオン[X
−]との混合物を含んでよい。
【0132】
式[Cat
+][M
+][X
−]を有するイオン液体は、250℃以下の融点を有するのが好ましく、150℃以下の融点を有するのがさらに好ましく、100℃以下の融点を有するのがさらに好ましく、80℃以下の融点を有するのがさらに好ましく、そして30℃未満の融点を有するのが最も好ましい。
【0133】
本発明の幾つかの実施態様では、イオン液体は、融点抑制剤を添加剤として含んでよい。融点抑制剤は一般に、イオン液体が、融点抑制剤に対して水素結合を形成しうる部分(たとえばヒドロキシル基)を含有する場合に使用される。適切な融点抑制剤は当業界によく知られており、エチレングリコール、グリセロール、ウレア、およびフェノールなどがある。
【0134】
本発明の他の実施態様では、イオン液体が融点抑制剤を含有しないのが好ましい場合がある。
【0135】
本発明のプロセスは、特に、水の存在の影響を受けにくい(たとえば、本発明のプロセスは、わずかな割合の水を含む炭化水素ストリームに対して適合している)ということが見出された。さらに、イオン液体それ自体がわずかな割合の水を含んでよい。出発イオン液体の含水率は、30重量%未満であるのが好ましく、20重量%未満であるのがさらに好ましく、10重量%未満であるのがさらに好ましく、5重量%未満であるのが最も好ましい。たとえば、イオン液体を作製するのに水和塩(たとえばCuCl
2・2H
2O)を使用すると、イオン液体中にわずかな割合の水を生じることがある。
【0136】
イオン液体は、特に炭化水素流体が液体炭化水素を含む場合は、該炭化水素流体に対して実質的に不混和性となるように選択するのが最も好ましい。
【0137】
さらに、液体炭化水素やガス状炭化水素からの水銀の効率的な分配が、本発明のプロセスを使用して得られ、このときイオン液体組成物中に添加剤(たとえば、補助溶媒及び/又は水銀錯化リガンド及び/又は追加のオキシダント及び/又はレドックス中間体)は必要とされない、ということが見出された。したがって1つの好ましい実施態様では、イオン液体は補助溶媒を含有しない。さらなる好ましい実施態様では、イオン液体は水銀錯化リガンドを含有しない。さらなる好ましい実施態様では、イオン液体は追加のオキシダントを含有しない。さらなる好ましい実施態様では、イオン液体は、レドックス中間体として機能しうる添加剤を含有しない。
【0138】
さらなる好ましい実施態様では、イオン液体を固体担体物質上に固定化させることができる。
【0139】
第2の態様では、本発明は、水銀含有炭化水素流体供給物から水銀を除去するためのプロセスを提供し、該プロセスは、
(i)水銀含有炭化水素流体供給物と、固体担体物質上に固定化されたイオン液体とを接触させる工程、ここで該イオン液体は式:
[Cat
+][M
+][X
−]
(式中、
[Cat
+]は1種以上の有機カチオン化学種であり;
[M
+]は、+2以上の酸化状態を有する遷移金属カチオンから選択される1種以上の金属カチオンであり;
[X
−]は1種以上のアニオン化学種である)
を有する;および
(ii)水銀含有流体供給物と比較して水銀含量の減少した炭化水素流体生成物をイオン液体から分離する工程;
を含む。
【0140】
本発明のこの第2の態様によれば、イオン液体は、本発明の第1の態様と関連して定義されているとおりであるのが好ましい。本発明の第1の態様に関して特定されている[Cat
+]、[M
+]、および[X
−]の好ましい定義は、本発明のこの第2の態様に関しても好ましい。さらに、金属カチオン[M
+]と1つ以上のリガンドとを結合させて、本発明の第1の態様に関して記載されているような配位錯体(好ましくはメタレートアニオン)を作製することができる。
【0141】
本発明の上記態様にしたがって使用される固体担体物質は、多孔質担体物質を含むか、あるいは多孔質担体物質からなる。特に好ましい多孔質担体物質は、10m
2・g
−1〜3000m
2・g
−1のBET表面積を有する担体物質であり、20〜1000m
2・g
−1のBET表面積を有するのがさらに好ましく、50〜500m
2・g
−1のBET表面積を有するのがさらに好ましく、100〜300m
2・g
−1のBET表面積を有するのが最も好ましい。
【0142】
本発明の上記態様にしたがって使用される固体担体は、0.1mm〜100mmの範囲の質量平均径を有するペレット、グラニュール、またはビーズの形態をとっているのが好ましく、0.5mm〜50mmの範囲の質量平均径を有するのがさらに好ましく、1mm〜10mmの範囲の質量平均径を有するのが最も好ましい。
【0143】
本発明の上記態様にしたがって使用される好ましい多孔質固体担体物質の例としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、および活性炭などがある。固体担体物質はシリカであるのが最も好ましい。
【0144】
本発明の上記態様にしたがって使用するためのイオン液体担持担体は、イオン液体と固体担体の総重量を基準として1〜50重量%のイオン液体を含むのが一般的であり、10〜30重量%のイオン液体を含むのがさらに好ましく、15〜25重量%のイオン液体を含むのが最も好ましい。こうしたイオン液体比率を有する固体担体は、担体の細孔をふさぐことなく、あるいは接触速度を低下させることなく最大表面積をもたらすことが見出された。
【0145】
本明細書に開示の本発明の任意の態様によれば、イオン液体と水銀含有炭化水素流体供給物は、1:1〜10,000:1の炭化水素:イオン液体体積比にて接触させるのが好ましく、20:1〜10,000:1の体積比にて接触させるのがさらに好ましく、100:1〜10,000:1の体積比にて接触させるのがさらに好ましく、そして1000:1〜10,000:1の体積比にて接触させるのが最も好ましい。一般には、炭化水素
の量に対してイオン液体の体積は少ないほうが好ましい。これにより、エマルジョンの形成が防止されるからである。
【0146】
さらなる好ましい実施態様では、水銀含有炭化水素流体供給物中の水銀1モル当たり1〜10,000モルの、さらに好ましくは1〜1000モルの、さらに好ましくは1〜100モルの、さらに好ましくは1〜10モルの、そして最も好ましくは1〜5モルのイオン液体を水銀含有炭化水素流体供給物と接触させるように、イオン液体:炭化水素接触比が選定される。
【0147】
本発明の上記態様によれば、イオン液体と水銀含有炭化水素流体供給物とは0℃〜250℃の温度で接触させるのが好ましく、10℃〜150℃の温度で接触させるのがさらに好ましく、20℃〜100℃の温度で接触させるのがさらに好ましく、40℃〜80℃の温度で接触させるのがさらに好ましく、50℃〜70℃の温度で接触させるのが最も好ましい。
【0148】
水銀含有炭化水素流体供給物は、大気圧(約100kPa)にてイオン液体と接触させることができるが、大気圧より高い又は低い圧力も、必要に応じて使用することができる。たとえば、本発明のプロセスは、10kPa〜10000kPaの圧力にて、さらに好ましくは20kPa〜1000kPaの圧力にて、さらに好ましくは50kPa〜200kPaの圧力にて、そして最も好ましくは80kPa〜120kPaの圧力にて行うことができる。
【0149】
一般には、水銀含有炭化水素流体供給物とイオン液体とを、熱を加えることなく接触させるのが最も経済的であり、製油所生成物ストリームは、それらが製油所から出てくる温度(通常は最も高くて100℃)にて温度で適切に処理することができる。
【0150】
イオン液体を、水銀含有炭化水素流体供給物中の水銀の少なくとも一部がイオン液体相中に移動するのを可能にするに足る時間にわたって、水銀含有炭化水素流体供給物と接触させる。適切なタイムスケールは0.1分〜5時間であり、さらに好ましくは0.2分〜2時間であり、最も好ましくは0.5分〜1時間である。
【0151】
第3の態様では、本発明は、水銀含有炭化水素流体供給物から水銀を除去するためのプロセスを提供し、該プロセスは、
(i)水銀含有炭化水素流体供給物と、固体担持されたメタレート塩とを接触させる工程、ここで該メタレート塩は式:
[Q
+][(M
x+)
n(L
y−)
m]
(nx−my)
〔式中、
各M
x+は、独立して、x+の電荷を有する上記にて定義の金属カチオン[M
+]であり;
各L
y−は、独立して、y−の電荷を有するリガンドであり;
nは1、2、または3であり;mは2、3、4、5、6、7、または8であり;
xは2、3、4、5、または6であり;yは0、1、2、または3であり;
(nx−my)は負の数であり;
[Q
+]は、(my−nx)の全電荷を有する1種以上の無機カチオンである〕
を有する;および
(ii)水銀含有流体供給物と比較して水銀含量の減少した炭化水素流体生成物をイオン液体から分離する工程;
を含む。
【0152】
言うまでもないが、メタレートアニオン[(M
x+)
n(L
y−)
m]
(nx−my)
の正確な構造(したがってn、m、x、およびyの値)は、使用される特定の金属とリガンドに依存する。適切な構造は、当業者であれば、配位化学の基本的原理を使用して容易に推測できる。
【0153】
各L
y−は、[O
2−]や[S
2−]のみならず、上記にて定義のアニオン化学種[X
−]から独立して選択するのが好ましい。
【0154】
各L
y−は、ハロゲン化物アニオン、過ハロゲン化物アニオン、カルボン酸アニオン、[O
2−]、および[S
2−]から独立して選択するのがさらに好ましい。たとえば、各L
y−は、[F]
−、[Cl]
−、[Br]
−、[I]
−、[N
3]
−、[NCS]
−、[NCSe]
−、[NCO]
−、[CN]
−、[R
2CO
2]
−(式中、R
2は前記にて定義したとおりである)、[O
2−]、および[S
2−]から独立して選択することができる。
【0155】
特に好ましいメタレートアニオンとしては、[FeCl
4]
−、[CuCl
4]
2−、[Cu
2Cl
6]
2−、および[MoS
4]
2−などがある。
【0156】
[Q
+]は、[Li]
+、[Na]
+、[K]
+、[Mg]
2+、[Ca]
2+、および[NH
4]
+から選択される1種以上のイオンであるのが好ましい。[Q
+]は、[Li]
+と[Na]
+から選択される1種以上のイオンであるのがさらに好ましい。
【0157】
本発明のこの態様によれば、特に好ましいメタレート塩としては、[Li]
+2[Cu
2Cl
6]
2−および[Li]
+2[CuCl
4]
2−がある。
【0158】
本発明のこの態様によれば、固体担持されたメタレート塩と水銀含有炭化水素流体供給物とを0℃〜250℃で接触させるのが好ましく、10℃〜150℃で接触させるのがさらに好ましく、20℃〜100℃で接触させるのがさらに好ましく、40℃〜80℃で接触させるのがさらに好ましく、50℃〜70℃で接触させるの最も好ましい。
【0159】
水銀含有炭化水素流体供給物と固体担持されたメタレート塩とは、大気圧(約100kPa)にて接触させることができるが、必要に応じて、大気圧超もしくは大気圧未満の圧力も使用することができる。たとえば本発明のプロセスは、10kPa〜10000kPaの圧力にて行うことができ、20kPa〜1000kPaの圧力にて行うのが好ましく、50kPa〜200kPaの圧力にて行うのがさらに好ましく、80kPa〜120kPaの圧力にて行うのが最も好ましい。
【0160】
一般には、水銀含有炭化水素流体供給物と固体担持されたメタレート塩とを、熱を加えずに接触させるのが最も経済的であり、製油所生成物ストリームは、それらが製油所から出てくる温度(通常は最も高くて100℃)にて温度で適切に処理することができる。
【0161】
固体担持されたメタレート塩を、水銀含有炭化水素流体供給物中の水銀の少なくとも一部がイオン液体相中に移動するのを可能にするに足る時間にわたって、水銀含有炭化水素流体供給物と接触させる。適切なタイムスケールは0.1分〜5時間であり、さらに好ましくは0.2分〜2時間であり、最も好ましくは0.5分〜1時間である。
【0162】
本発明の上記態様によれば、水銀含有炭化水素流体供給物とイオン液体もしくは固体担持されたメタレート塩とは、連続処理によっても、あるいはバッチ処理によっても接触させることができる。
【0163】
非担持のイオン液体を使用する本発明の態様では、イオン液体と水銀含有炭化水素流体
供給物とは、本発明にしたがって任意の従来の液−液または気−液接触器装置を使用して接触させることができる。たとえば、イオン液体と水銀含有炭化水素流体供給物は、向流液−液接触器、並流液−液接触器、向流気−液接触器、並流気−液接触器、液−液バッチ接触器、または気−液バッチ接触器を使用して接触させることができる。
【0164】
担持されたイオン液体または固体担持されたメタレート塩を使用する本発明の態様では、接触は、固体担持されたイオン液体または固体担持されたメタレート塩の固定床上に水銀含有炭化水素流体供給物を通す、という固定床接触器装置を使用して行うのが好ましい。適切な接触器としては、固定床連続接触器(たとえば固定床スクラブ塔)や固定床バッチ接触器などがある。
【0165】
本発明の連続プロセスでは、炭化水素流体供給物とイオン液体または固体担持されたメタレート塩との接触は、イオン液体/固体担持されたメタレート塩の酸化キャパシティ(oxidising capacity)が有用なレベル未満に低下するまで(この段階でイオン液体/固体担持されたメタレート塩を取り換える)連続的に行うことができる。
【0166】
本発明のバッチ処理では、イオン液体または固体担持されたメタレート塩は、イオン液体/固体担持されたメタレート塩の酸化キャパシティが有用なレベル未満に低下するような時間まで、一連の炭化水素流体供給物に対して再使用することができる。
【0167】
本発明のプロセスによれば、イオン液体または固体担持されたメタレート塩は、水銀含有炭化水素流体供給物の水銀含量の少なくとも60重量%を抽出する。イオン液体または固体担持されたメタレート塩は、水銀含有炭化水素流体供給物中の水銀含有物の少なくとも70重量%を抽出するのがさらに好ましく、少なくとも80重量%を抽出するのがさらに好ましく、少なくとも90重量%を抽出するのがさらに好ましく、少なくとも95重量%を抽出するのがさらに好ましく、そして99重量%超を抽出するのが最も好ましい。
【0168】
したがって本発明のプロセスによれば、水銀含有炭化水素流体供給物中の水銀含有物の、好ましくは40重量%未満を含有する炭化水素流体生成物を得ることができ、さらに好ましくは30重量%未満を含有する炭化水素流体生成物を得ることができ、さらに好ましくは20重量%未満を含有する炭化水素流体生成物を得ることができ、さらに好ましくは10重量%未満を含有する炭化水素流体生成物を得ることができ、さらに好ましくは5重量%未満を含有する炭化水素流体生成物を得ることができ、そして最も好ましくは1重量%未満を含有する炭化水素流体生成物を得ることができる。
【0169】
本発明のプロセスの炭化水素流体生成物の水銀濃度は、好ましくは50ppb未満であり、さらに好ましくは10ppb未満であり、さらに好ましくは5ppb未満であり、さらに好ましくは2ppb未満であり、さらに好ましくは1ppb未満であり、さらに好ましくは0.5ppb未満であり、さらに好ましくは0.2ppb未満であり、そして最も好ましくは0.1ppb未満である。
【0170】
本発明の好ましい実施態様では、使用することができる任意の固体担体を除いて、イオン液体と水銀の総重量を基準として好ましくは少なくとも2重量%の水銀を含有するイオン液体が得られ、さらに好ましくは少なくとも5重量%の水銀を含有するイオン液体が得られ、さらに好ましくは少なくとも10重量%の水銀を含有するイオン液体が得られ、さらに好ましくは少なくとも15重量%の水銀を含有するイオン液体が得られ、そして最も好ましくは少なくとも20重量%の水銀を含有するイオン液体が得られる。
【0171】
さらに、同じ水銀含有炭化水素流体供給物に対して一連の接触工程(たとえば2〜10工程)にて本発明のプロセスを繰り返して、炭化水素流体生成物の水銀含量の連続的な減
少を果たすことができる。これとは別に、本発明のプロセスを使用して、他の従来の水銀除去プロセスを補足することもできる。しかしながら、本発明の1つの利点は、水銀除去工程の前に、固化した化学種を除去するために炭化水素流体を前処理するという必要性がなくなることである。
【0172】
言うまでもなく、本発明のプロセスは、炭化水素から水銀を除去するための単一工程プロセスを提供する。したがって本発明のプロセスは、工業用製油所において使用されているような、炭化水素原材料(たとえば原油)の多段階プロセシングに容易に組み込むことができる。炭化水素の典型的な多段階プロセシングは、蒸留、クラッキング、脱酸、および脱硫等のプロセスを含むことがある。このようなプロセスは、当業者によってよく理解されている。
【0173】
第4の態様では、本発明は、水銀含有炭化水素流体から水銀を除去するために、イオン液体を上記にて定義したように使用することを提供する。
【0174】
該使用は、プロセスを上記にて定義したように実施することを含むか、あるいは上記にて定義したように実施することからなるのが好ましい。
【0175】
第5の態様では、本発明は、水銀含有炭化水素流体から水銀を除去するために、固体担体上に固体化されたイオン液体を上記にて定義したように使用することを提供する。
【0176】
該使用は、プロセスを上記にて定義したように実施することを含むか、あるいは上記にて定義したように実施することからなるのが好ましい。
【0177】
第5の態様では、本発明は、水銀含有炭化水素流体から水銀を除去するために、固体担持されたメタレート塩を上記にて定義したように使用することを提供する。該使用は、プロセスを上記にて定義したように実施することを含むか、あるいは上記にて定義したように実施することからなるのが好ましい。
【0178】
以下に、実施例を挙げ、添付図面を参照しつつ本発明を説明する。
【実施例】
【0180】
下記の実施例において:
・[C
nmim]は、アルキル基がn個の炭素原子を有する1−アルキル−3−メチルイミダゾリウムカチオンを表わす
・[N
w,x,y,z]は、アルキル基がそれぞれw個、x個、y個、およびz個の炭素原子を有するテトラアルキルアンモニウムカチオンを表わす
・[P
w,x,y,z]は、アルキル基がそれぞれw個、x個、y個、およびz個の炭素原子を有するテトラアルキルホスホニウムカチオンを表わす。
【0181】
実施例1:銅含有イオン液体による元素状水銀の抽出
塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(5g,29ミリモル)と塩化銅(II)二水和物(5g,29ミリモル)をフラスコ中にて混合し、減圧下にて加熱して黄褐色の
粘稠な油状物を得た。
【0182】
0.037gの該油状物と0.0183gの元素状水銀とを接触させ、封管中にて60℃で一晩加熱して、淡いオフホワイトの沈殿物を含有する淡青色のイオン液体を得た。本混合物に10cm
3の脱イオン水を加え、濾過し、50cm
3に希釈した。希釈溶液の1cm
3を、脱イオン水でさらに50cm
3に希釈した。得られた溶液を、Milestone DMA−80直接水銀分析器を使用して水銀に関して分析した。本溶液は、3.27±0.21ppmの水銀を含有することがわかり、このことは、Cu(II)からCu(I)への2電子還元に基づいた0.294g/g水銀という理論的取り込み量と比較して、初期イオン液体1グラム当たり0.22gの水銀が水溶性イオン形に転化されたことを明確に示している。
【0183】
実施例2:銅含有イオン液体による元素状水銀の抽出
実施例1の銅(II)含有イオン液体と0.355gの元素状水銀とを接触させ、封管中にて60℃で一晩加熱した。得られた混合物を実施例1に記載のように分析し、本混合物は、検体溶液中に7.02±0.24ppmの水銀(可溶化された水銀の18.6重量%に相当する)を含有することがわかった。
【0184】
実施例3:ドデカンからの元素状水銀の抽出
塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムと塩化銅(II)二水和物とのモル比を2:1とするイオン液体を調製した。0.18gのイオン液体を、1000ppmの元素状水銀を含有する10cm
3のドデカンとともにサンプルバイアルに加え、得られた混合物を60℃で一晩撹拌した。次いで、得られたドデカン相を全水銀濃度に関して分析し、34.9ppbの水銀を含有することがわかった。
【0185】
実施例4:ドデカンからの塩化水銀(II)の抽出
塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムと塩化銅(II)二水和物とのモル比を2:1とするイオン液体を調製した。0.275gのイオン液体を、10cm
3のドデカンおよび0.069gのHgCl
2(8115ppmの全水銀含量に相当する)とともにサンプルバイアルに加え、得られた混合物を60℃で一晩撹拌した。次いで、得られたドデカン相を全水銀濃度に関して分析し、42.75ppbの水銀を含有することがわかった。イオン液体は176,000ppmの水銀を含有することがわかった。
【0186】
次いで、さらに0.0397gのHgCl
2を混合物に加え、60℃にて1時間撹拌した。得られたドデカン相を全水銀濃度に関して分析し、96.75ppbの水銀(すなわち、初期水銀濃度の0.46%)を含有することがわかった。イオン液体は292,000ppmの水銀を含有することがわかった。
【0187】
実施例5:ドデカンからの酸化水銀(II)の抽出
塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムと塩化銅(II)二水和物とのモル比を2:1とするイオン液体を調製した。0.22gのイオン液体を、10cm
3のドデカンおよび0.0114gのHgO(1696ppmの全水銀含量に相当する)とともにサンプルバイアルに加え、得られた混合物を60℃で一晩撹拌した。次いで、得られたドデカン相を全水銀濃度に関して分析し、13.25ppbの水銀を含有することがわかった。イオン液体は4.8重量%の水銀を含有することがわかった。
【0188】
次いで、さらに0.0152gのHgOを混合物に加え、60℃にて1時間撹拌した。得られたドデカン相を全水銀濃度に関して分析し、69.95ppbの水銀を含有することがわかった。イオン液体は11.1重量%の水銀を含有することがわかった。
【0189】
実施例6:ドデカンからの元素状水銀の抽出
塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムと塩化銅(II)二水和物とのモル比を2:1とするイオン液体を調製した。0.23gのイオン液体を、0.0488gの元素状水銀を含有する10cm
3のドデカンとともにサンプルバイアルに加え、得られた混合物を60℃で一晩撹拌した。次いで、得られたドデカン相を全水銀濃度に関して分析し、946.7ppbの水銀を含有することがわかった。イオン液体は21.2重量%の水銀を含有することがわかった。得られた混合物は、水銀で飽和したイオン液体(IL)、水銀で飽和した炭化水素、および少量の分散した元素状水銀を含有した。
【0190】
次いで、さらに0.0768gのイオン液体を混合物に加え、60℃にて1時間撹拌した。得られたドデカン相を全水銀濃度に関して分析し、65.55ppbの水銀に減少したことがわかった。
【0191】
実施例3〜6の結果を表1に示す。
【0192】
【表1】
【0193】
実施例7:銅を含有する塩化コリン/エチレングリコール共晶液体による元素状水銀の抽出
“Abbott et al.,PCCP 2009,11,4269”に記載の手順に従って、塩化コリン(30g)とエチレングリコール(60g)とを混合し、塩化コリンが完全に溶解するよう50℃に加熱することによって混合物を作製した。次いで、塩化銅二水和物(1.3g,7.6ミリモル)を塩化コリン/エチレングリコール共晶混合物(4.76g,11.4ミリモル)に加えて、黒っぽい濃緑色の液体を得た。
【0194】
元素状水銀(0.35g)を共晶液体のサンプル(0.85g)に加え、60℃にて一晩加熱した。多量の淡緑色沈殿物が形成された。該共晶液体のサンプル0.17gを5cm
3の脱イオン水で希釈して、淡緑色溶液と白色沈殿物を得た。この溶液を濾過し、50cm
3に希釈し、そして希釈溶液1cm
3を脱イオン水でさらに50cm
3に希釈した。得られた溶液を、Milestone DMA−80直接水銀分析器を使用して水銀に関して分析した。共晶液体は、最初の共晶混合物を基準として16.9重量%の水溶性水銀化学種を含有することがわかった。
【0195】
実施例8:異なるメタレートアニオンを含有するイオン液体による元素状水銀の抽出
本実施例では、バルクの元素状水銀の抽出に対する、異なるメタレートアニオンを含有するイオン液体の有効性を調べる。各イオン液体のサンプルとバルクの元素状水銀とを接触させ、60℃で一晩撹拌し、得られたイオン液体の少量サンプルを水中に抜き取り、実施例1に記載の手順にしたがって水溶性水銀に関して分析した。使用したイオン液体と得られた結果を表2に示す。
【0196】
【表2】
【0197】
実施例9:担持イオン液体による元素状水銀の抽出
本実施例は、天然ガスコンデンセートからの元素状水銀の抽出に及ぼす種々のカチオンの影響を示す(“PETRONAS Onshore Gas Terminal,Kerteh,Malaysia”から)。
【0198】
[Q][Cl]イオン液体([Q]は、イオン液体のカチオンを表わす)とCuCl
2とのモル比2:1とする一連のイオン液体を作製した。Davisil SP540粉末シリカに各イオン液体を含浸させて、1重量%のCu(II)を含有する担持イオン液体を得た(カチオンに応じて7.5〜17重量%のイオン液体)。固体担持されたイオン液体をウエハーに圧縮し、水銀含有コンデンセートの撹拌リザーバー(a stirred
reservoir)と3時間接触させた。比較のため、イオン液体を含まないシリカを使用して実験を行った。得られた結果を表3に示す。
【0199】
【表3】
【0200】
実施例10:担持イオン液体による元素状水銀の抽出
本実施例は、ヘキサンからの元素状水銀の抽出に及ぼす種々のカチオンの影響を示す。
【0201】
式[Cat
+][Cl]のイオン液体とCuCl
2から、種々のモル比にて一連のクロロメタレートイオン液体を作製した。該イオン液体を多孔質シリカビーズ(Johnson Matthey,直径2〜4mm,表面積122m
2/g)中に含浸させ、撹拌タンク反応器中にて、元素状水銀のリザーバーの存在下でヘキサンと18日間接触させた。固体担持されたイオン液体の組成を、各イオン液体に関して6日後、13日後、および18日後に調べた。得られた結果を表4に示す。
【0202】
【表4】
【0203】
実施例11:担持イオン液体による元素状水銀の抽出
本実施例は、ヘキサンから、シリカ球体(Johnson Matthey,直径1.7〜4mm,表面積135m
2/g)およびCalgon AP4−60活性炭中に含浸させたイオン液体と非イオン液体塩への水銀の競争抽出を示す。反応条件は実施例10に記載のとおりである。表5のデータから、競争抽出条件下においては、シリカ担持物質は、活性炭担持物質より多くの水銀取り込みをもたらした、ということがわかる。
【0204】
【表5】
【0205】
実施例12:イオン液体塩と非イオン液体メタレート塩による元素状水銀の抽出
本実施例は、ヘキサンから、直径0.7〜1.4mmまたは直径1.7〜4.0mmの範囲のシリカビーズ(Johnson Mattheyから市販)中に含浸させたイオン液体と非イオン液体メタレート塩への水銀の抽出を示す。反応条件は実施例11に記載のとおりである。得られたデータを表6に示す。
【0206】
【表6】
【0207】
実施例13:メタレートアニオンを有する固体担持イオン液体、非イオン液体固体担持メタレート塩、および非メタレート塩の抽出容量の比較
本実施例は、CuCl
2、LiCl/CuCl
2(1:1、メタレートアニオンCu
2Cl
62−を形成する)、および[N
4,4,4,1]Cl/Cu
2Cl
2(1:1、これもメタレートアニオンCu
2Cl
62−を形成する)を含浸させたシリカビーズの抽出容量の比較を示す。
図1のデータは、メタレートアニオンを含有する塩の場合には抽出容量が明らかに改良されること、およびイオン液体を使用すると、抽出容量がさらに改良されることを示している。
【0208】
実施例14:[C4mim]Cl/CuCl2・2H2O(2:1)を使用するコンデ
ンセートからの全水銀の液体−イオン液体抽出
イオン液体組成物[C
4mim]Cl/CuCl
2・2H
2O(2:1)は、2つの成分である塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムと塩化銅(II)二水和物を、加温しながら直接混合することによって作製した。天然ガスコンデンセートとイオン液体とを50:1の質量比にて接触させ、室温で撹拌し、上方のバルク状コンデンセート相を定期的にサンプリングして、Milestone DMA−80水銀分析器を使用して直接水銀の分析を行った。
【0209】
得られた結果を表7に示す。これらの結果から、60分後にはサンプル中の全水銀の約75%が除去されたこと、および1日後には水銀含量が3ppb未満に減少したことがわかる。
【0210】
【表7】
【0211】
実施例15:担持イオン液体によるガスからの水銀のスクラビング
水銀を含有するガスストリーム(水銀濃度20〜30mg/m
3、流量60ml/分)を、0.1g(約0.2cm
3)の担持イオン液体(床長さ約1.2cm)を含有するパイプ反応器(厚さ0.035"の1/4"ss管)に通すことによって、ガスストリームから水銀が抽出されることが実証された。反応器出口での水銀含量を、ガスサンプルを抜き取ってPSA Sir Galahad水銀分析器を使用して分析することによって定期的に測定した。測定に対する検出限界は2μg/m
3であった。
【0212】
活性炭と多孔質シリカに担持されたイオン液体を使用した場合の試験結果を、市販のイオウ含浸活性炭を使用した場合の比較用実験との比較の形で表8に示し、
図2にてグラフ表示した。これらの結果から、4種の担持イオン液体はいずれも、水銀の除去という点に関して、市販のイオウ含浸活性炭よりも効果的である、ということが実証された。
【0213】
【表8】