(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定顎部(21)と、可動顎部(31)と、グリップ部(22)と、操作レバー(4)と、螺合部材(K)を掴持状態で保持自在なクランプ保持機構(10)と、を有するバイスプライヤ部(1)を備え、
さらに、上記螺合部材(K)を掴持状態で保持しつつ螺進又は螺退させる回転操作力(F)が付与されて慣性力によって回転している時の動的バランスをとるためのバランスアーム部(9)を、上記固定顎部(21)又は上記可動顎部(31)の先端から延伸状に設けたことを特徴とする螺進退用作業工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ショッピングカートやカゴ台車等の生産現場におけるキャスター取付工程のように、数十台から数百台に対して螺進作業を行う場合や、配管・配線用吊り金具等の全ネジボルト部材にナットを螺進又は螺退させるような螺進退ストロークが長い作業を行う場合は、スパナの柄を把持して数十回と揺動操作する必要があるため、手指で所定位置まで螺進退させ、その後、スパナで本締めを行っていたが、大変な労力と手間がかかり作業効率が悪いといった問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、螺進退作業を容易かつ迅速に行うことができて、作業効率を向上可能な螺進退用作業工具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の螺進退用作業工具は、固定顎部と、可動顎部と、グリップ部と、操作レバーと、螺合部材を掴持状態で保持自在なクランプ保持機構と、を有するバイスプライヤ部を備え、さらに、上記螺合部材を掴持状態で保持しつつ螺進又は螺退させる回転
操作力が付与されて慣性力によって回転している時の
動的バランスをとるためのバランスアーム部を、上記固定顎部又は上記可動顎部の先端から延伸状に設けたものである。
また、
上記バランスアーム部は、金属製の帯板状であって、厚さ寸法を5mm以上15mm以下に設定しているものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バランスアーム部及びバイスプライヤ部が、慣性力によって螺合部材の軸心廻りにプロペラのように複数回にわたって回転し続けることができ、手放しで、螺合部材を螺進又は螺退させることができる。つまり、スパナのように繰り返し揺動操作を行う必要がなく、容易かつ迅速に螺進退作業を効率良く行うことができる。バランスアーム部により動的バランス(回転のバランス)がとれて回転が安定し、小さな回転付与力で複数回も回転させることができる。また、バランスアーム部とバイスプライヤ部の両方を把持して(右手と左手を使って)強い力で本締め作業を行うこともできる。また、螺合部材の側面側(ラジアル方向)から接近させて掴持でき、狭い作業空間に対応できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図示の実施形態に基づき本発明を詳説する。
本発明に係る螺進退用作業工具は、
図1及び
図2に示すように、固定顎部21と、その固定顎部21と対向する可動顎部31と、固定顎部21と一体状に設けられたグリップ部22と、グリップ部22に対向状に配設される操作レバー4と、グリップ部22と操作レバー4の間に介在させたスタッブ部材5と、を有するバイスプライヤ部1を備えている。さらに、固定顎部21の先端から延伸状に連設されるバランスアーム部9を備えている。
【0010】
先ず、バイスプライヤ部1は、固定顎部21とグリップ部22を一体状に有するボディ本体2と、可動顎部31を有すると共にボディ本体2に顎揺動軸心L3をもって枢着された揺動体3と、ボディ本体2と揺動体3とを枢着する顎枢着軸30と、揺動体3にレバー揺動軸心L4をもって枢着された操作レバー4と、揺動体3と操作レバー4の一端部とを枢着するレバー枢着軸40と、操作レバー4に一端部5aがスタッブ枢着軸心L5をもって枢着され他端部5bがグリップ部22の長手方向Nに沿ってスライド自在にボディ本体2にもうけたガイド溝23に保持されたスタッブ部材5と、操作レバー4の中間部とスタッブ部材5の一端部5aを枢着するスタッブ枢着軸50と、ボディ本体2の基端部に設けた雌ネジ部24に螺着すると共にスタッブ部材5の他端部5bの位置を調整するための調整ネジ6と、操作レバー4に枢着用軸71によって枢着されたリリースレバー7と、揺動体3に一端部が取着され他端部がボディ本体2に取着され可動顎部31(口部11)が開く方向に揺動体3を常時弾発付勢する引っ張りコイルバネ8と、調整ネジ6に螺着して雌ネジ部24と供働きして調整ネジ6の螺進退を阻止するロックナット60と、リリースレバー戻し用の捩じりコイルバネ70と、を備えている。
【0011】
そして、固定顎部21と可動顎部31によって、螺合部材Kを掴持するための口部11を形成し、固定顎部21と可動顎部31の対向面側には、螺合部材Kの六角形状被掴持部Kaを掴持するためのV字谷部11aを各々1つ有している。
V字谷部11aは、六角形状被掴持部Kaに対応するように開き角度θを110度以上130度以下に設定している。
【0012】
ここで、螺合部材Kは、雌ネジ部又は雄ネジ部を有する部材であって、例えば、ボルトやナット、上方突出状の取り付け雄ネジ部(ボルト部)を有するキャスターや、雌ネジ部(ナット部)を有する金具や管継手等である。なお、図例の六角形状被掴持部Kaは、六角ボルトの頭部である。
【0013】
そして、バイスプライヤ部1は、固定顎部21と可動顎部31との顎離間寸法を設定可能な口部調整機構(クランプサイズ調整機構)を有している。
口部調整機構は、ボディ本体2の雌ネジ部24と、調整ネジ6と、スタッブ部材5と、操作レバー4と、揺動体3と、レバー枢着軸40と、スタッブ枢着軸50と、で構成され、調整ネジ6を螺進退させてスタッブ部材5の他端部5bの位置をグリップ部22の長手方向Nに調整することで、スタッブ枢着軸50と操作レバー4を介してレバー枢着軸40(レバー揺動軸心L4)を固定顎部21に接近又は離間させて、揺動体3を顎揺動軸心L3廻りに揺動させ、固定顎部21に対して可動顎部31の顎離間寸法を設定して掴持可能サイズ(クランプサイズ)を調整自在に構成した機構である。
【0014】
なお、掴持可能サイズが、ワンサイズ、或いは、所定の数サイズに対応可能となるように、固定顎部21と可動顎部31の顎離間寸法を所定の値に固定した(調整不可能にした)専用工具とする場合は、螺進退用作業工具製造工程において調整ネジ6を所定位置で螺進退不可能に固着しても良い、或いは、口部調整機構を備えてなくとも良い。つまり、本発明において、バイスプライヤ部1とは、口部調整機構を備えていないものを含む。
そして、口部調整機構を設けない場合は、雌ネジ部24と調整ネジ6とロックナット60と、を省略して、スタッブ部材5の他端部5bとボディ本体2とを枢支軸をもって枢支、あるいは、ボディ本体2にスタッブ部材5の他端部5bが当接する当り部を設ければ良い。
【0015】
さらに、バイスプライヤ部1は、螺合部材Kを掴持状態で保持自在なクランプ保持機構10を有している。
クランプ保持機構10は、操作レバー4と、スタッブ部材5と、レバー枢着軸40と、スタッブ枢着軸50と、スタッブ部材5の他端部5bに当接する調整ネジ6の先端部である端部支持部90と、によって構成され、側面視で、端部支持部90の支持点(スタッブ部材5の他端部5bと調整ネジ6との当接点)Pと、レバー揺動軸心(点)L4と、を結ぶ直線を仮想直線Jと呼ぶと、
図1の口部開放状態において、側面視で、スタッブ枢着軸心(点)L5は、仮想直線Jよりもボディ本体2(グリップ部22)から離れた位置に配設されるように構成している。そして、
図2に示すように、グリップ部22と共に操作レバー4を握って螺合部材Kをクランプした掴持状態において、側面視でスタッブ枢着軸心(点)L5は、仮想直線Jを超えてボディ本体2(グリップ部22)に接近した位置に配設されるように構成して(スタッブ枢着軸心L5は、いわゆるデッドポイントを超えてボディ本体2と仮想直線Jの間に配設されるように構成して)、掴持状態を保持可能とした機構である。
【0016】
したがって、バイスプライヤ部1は、口部開放状態の口部11に、螺合部材Kの被掴持部Kaに対応させ、グリップ部22と共に操作レバー4を握る(操作レバー4を閉じる)ことで、口部11が被掴持部Kaをクランプし、グリップ部22及び操作レバー4から作業者が手を離して操作力を解除しても、掴持状態を保持する(クランプ保持状態となる)。
【0017】
なお、図示省略するが、口部調整機構を設けず、スタッブ部材5の他端部5bを、ボディ本体2に枢支軸をもって枢支した場合において、クランプ保持機構10は、枢支軸が端部支持部90となり、スタッブ部材5の他端部5bとボディ本体2の枢支軸心が支持点Pとなる。
また、図示省略するが、口部調整機構を設けず、ボディ本体2にスタッブ用の当り部を設けた場合において、クランプ保持機構10は、当り部が端部支持部90となり、当り部とスタッブ部材5の他端部5bとの当接点が支持点Pとなる。
【0018】
そして、バランスアーム部9は、固定顎部21の先端部から、グリップ部22(ボディ本体2)の長手方向Nに沿って設けられている。言い換えると、掴持状態で、工具全体形状を略一文字状に形成している。
【0019】
バランスアーム部9は、金属製であって、鉄又はステンレスが望ましい。
また、バランスアーム部9は、帯板状であって、厚さ寸法は、5mm以上15mm以下に設定するのが望ましい。5mm未満であると、十分な強度と剛性を得られず使い勝手が悪くなると共に耐久性が低下する。15mmを超えると全体重量が大きくなりすぎると共に広い作業空間が必要になる。
【0020】
また、
図2に示すように、クランプ保持状態において、螺合部材K(のネジ部)の軸心Lkからバランスアーム部9の先端までのアーム側長手寸法S9を、軸心Lkからバイスプライヤ部1の基端までのプライヤ側長手寸法S1の0.8倍以上1.4倍以下に設定している。
このように設定することで、作業者が両手で、バランスアーム部9とバイスプライヤ部1とを夫々握って、大きな操作力を付与しやすくなって螺合部材Kの本締めを容易におこなうことができる。つまり、本締め用握り部(柄部)と併用している。
【0021】
また、バランスアーム部9の帯板状側面9aを、クランプ可能な螺合部材Kを意味する文字や記号、色等の識別情報を表示するための識別表示部と併用している。
対応する螺合部材Kの規格(ナット形状やボルト頭又はネジ部)のサイズや規格を意味する、或いは、対応する螺合部材Kの名称(φ50キャスター用や、φ100キャスター用等)を意味する、文字や数字や記号を、記載や刻印やシール貼り等で表示する部位としている。また、各サイズや規格、名称等に対応する色を設定し、設定した色を塗装やメッキ等を付与することで表示する部位としている。
このよう設けることで、サイズや規格が異なる複数種類の螺合部材Kに、夫々対応可能となるように、本発明の螺進退用作業工具を、複数種類設けた場合に、選択間違い(取り違い)を防止できる。
【0022】
次に、本発明の螺進退用作業工具の実施の一形態について説明する。
図1に示すように、口部開口状態の口部11を、螺合部材Kの側方(ラジアル方向)から接近させて、口部11に差し込んで対応させ、グリップ部22と共に操作レバー4を握って、
図2に示すように掴持状態とする。
なお、螺進させる場合は、掴持する前又は後に、螺合部材Kを、相手側螺合部材に僅かに(1山程度)螺合させる。
【0023】
そして、
図3に示すように、螺合部材Kを掴持状態で保持しつつ、螺進又は螺退させる回転操作力(勢い)Fをバイスプライヤ部1又はバランスアーム部9に付与して、直後に作業者が手を離せば、バランスアーム部9及びバイスプライヤ部1が、慣性力によって螺合部材Kの軸心Lk廻りにプロペラのように回転し続けて、螺合部材Kは螺進又は螺退する。
つまり、スパナのように繰り返し揺動操作を行う必要がなく、作業者が手放し状態であっても、螺進又は螺退作業が行われることとなる。
【0024】
バランスアーム部9によって、回転を付与している時(螺進回転中又は螺退回転中)の釣り合いが保たれ(動的バランスがとれて)、回転が安定し、回転操作力Fを1回付与するだけで、螺合部材Kが複数回、回転する。
【0025】
また、回転を付与して螺進させる場合において、螺合部材Kの締め付け端面が、相手側螺合部材の締め付け端面に当接すると、その回転力(慣性力)によって本締めを行うことができる。つまり、回転によって螺進作業と本締め作業を行える。或いは、バランスアーム部9とバイスプライヤ部1の両方を把持して(右手と左手を使って)強い力で本締め作業を行う。また、強い力で締め付けられている螺合部材Kを、強いトルクをもって螺退させることができる。
【0026】
次に、他の実施形態について説明する。
図4に示すように、バランスアーム部9を、可動顎部31から延伸状に連設したものである。このように構成することで、右手でバイスプライヤ部1を把持して掴持作業をおこなった後に、時計廻りに回転(
図3参照)させた際に、大きな慣性力がバランスアーム部9にかかっても可動顎部31を閉じる方向に作用するので、回転力による不意なクランプ外れを防止できる。他の構成及び作用効果は上述の実施形態と同様である。
【0027】
なお、本発明は、設計変更可能であって、V字谷部11aの底部に、六角形状被掴持部Kaの角部に対応する逃がし部(ヌスミ部)を設けているが省略しても良い(V字を形成する一対の斜面が直接的に接するように形成しても良い)。固定顎部21及び可動顎部31のクランプ部(クランプ面)の形状は、V字谷型に限らず、複数の山部と谷部を交互に有する鋸刃型(ジグザグ型)や、平担面状(側面視一文字状)であっても良い。リリースレバー7や、リリースレバー戻し用の捩じりコイルバネ70、ロックナット60は省略しても良い。
【0028】
以上のように、本発明の螺進退用作業工具は、固定顎部21と、可動顎部31と、グリップ部22と、操作レバー4と、螺合部材Kを掴持状態で保持自在なクランプ保持機構10と、を有するバイスプライヤ部1を備え、さらに、螺合部材Kを掴持状態で保持しつつ螺進又は螺退させる回転を付与している時の釣り合いを保つためのバランスアーム部9を、固定顎部21又は可動顎部31の先端から延伸状に設けたので、バランスアーム部9及びバイスプライヤ部1が、慣性力によって螺合部材Kの軸心Lk廻りにプロペラのように回転し続けて、螺進又は螺退作業を手放しで行うことができる。特に、ショッピングカートやカゴ台車等の製造(大量生産)でのキャスター取り付け作業等の螺進作業に最適である。また、配管や配線等の吊り金具の全ネジボルト部材にナットを螺着させるような螺進退ストロークの長い作業に最適である。スパナのように繰り返し揺動操作を行う必要がなく、容易かつ迅速に螺進退作業を効率良く行うことができる。バランスアーム部9により動的バランスがとれて回転が安定し、僅かな操作力で何回転もさせることができる。また、バランスアーム部9とバイスプライヤ部1の両方を把持して強い力で本締め作業を行うこともできる。また、螺合部材の側面側(ラジアル方向)から接近させて掴持できる。
【0029】
また、固定顎部21と可動顎部31の対向面側には、螺合部材Kを掴持するためのV字谷部11aを各々有しているので、固定顎部21及び可動顎部31と、六角形状被掴持部Kaとが係合かつ圧接でき、バイスプライヤ部1の口部11と六角形状被掴持部Kaの間で滑りが発生するのを防止できる。回転中のバイスプライヤ部1に、強い遠心力が作用しても、口部11から螺合部材Kが不意に外れるのを防止でき、安全に作業できる。本締めの際に強いトルクを被掴持部Kaに作用させることができる。
【解決手段】固定顎部21と、可動顎部31と、グリップ部22と、操作レバー4と、螺合部材Kを掴持状態で保持自在なクランプ保持機構10と、を有するバイスプライヤ部1を備え、さらに、螺合部材Kを掴持状態で保持しつつ螺進又は螺退させる回転を付与している時の釣り合いを保つためのバランスアーム部9を、固定顎部21又は可動顎部31の先端から延伸状に設けた。