(54)【発明の名称】a2v−ATPase、G−CSF、MIP1α、MCP−1のレベルを測定することによる、男性不妊症の決定のためのキット、ならびに人工授精手順における生殖結果を改善するための方法およびキット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の容器システム中に、マイクロスフェアの4種のバッチをさらに含み、該マイクロスフェアの4種のバッチのうちの各バッチは、1つのバッチを他のバッチの全てから区別する特有の特徴を有し、前記抗体の4種のバッチの各々のうちの1つは該マイクロスフェアの4種のバッチの各々のうちの1つに排他的に結合されている、請求項1に記載のキット。
前記抗体の4種のバッチの各々のうちの1つおよびコントロールを受容するための、間隔の空いた複数のウェルを有するプレートをさらに含む、請求項1に記載のキット。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
液胞型(H+)−ATPase(V−ATPase)は、ATP加水分解を形質膜をまたいだプロトンのポンプ輸送に共役させるマルチサブユニット酵素である。これは、真核生物細胞において遍在して発現され、真核生物細胞では、これは高度に分化したオルガネラ(ゴルジ装置、リソソーム、エンドソーム、および分泌小胞が挙げられる)の酸性化に関与する。さらに、V−ATPaseはまた、プロトンの能動輸送および細胞外区画のpH調節に関与する特殊化した上皮細胞の形質膜において高密度で見出される。それら形質膜V−ATPaseは、腎臓の酸性化、骨吸収もしくは精子受精能獲得のようなプロセスにおいて重要な役割を有する。ネズミ研究において、可逆的エンドサイトーシスおよびエキソサイトーシスによっても制御される、精巣上体明細胞の頂端膜におけるV−ATPaseは、精子成熟、生存性およびpHホメオスタシスに必要とされる。さらに、V−ATPaseのa2アイソフォーム(Atp6v0a2)は、ネズミ精子の先体膜に特異的に位置して、受精に必須のプロテアーゼであるチモーゲンをプロセシングするために必要な、先体内の酸性pHを調節する。この以前の研究と一致して、Atp6v0a2は、受精能を獲得したネズミ精子の先体領域において高度に発現されたが、精巣上体尾部からの受精能を獲得していない精子では検出されなかった。この研究は、受精能を獲得したヒト精子のAtp6v0a2と受精能との考えられる関連に新たな見識を提供した。なぜなら受精能獲得は、受精および胚発生に必要とされるからである。
【0004】
精液は、精子が女性生殖組織を横断するための輸送媒体として従来からみられていたが、現在では、女性の受精能を調節することにおいてより広い生物学的作用を有することが公知である。精液は、サイトカイン、ケモカイン、および他の生物活性分子の複雑な集まりを含む。精液は、女性生殖路において炎症促進性サイトカインおよびケモカイン(例えば、GM−CSF、IL−6、IL−8、MCP−1、MIP−3α、およびIL−1α)を誘発する。特に、IL−1は、妊娠初期の胚盤胞着床の調節において潜在的役割を有する。IL−1は、V−ATPase活性を増強し、IL−1の増大したレベルはフィードバックして、先天的免疫応答をダウンレギュレートし得、これは、着床のために必須である。本発明者らは、Atp6v0a2が、TNF−α分泌のその後の増殖をほとんどもしくは全く伴わずに、IL−1βおよびIL−1αを調節し得ることを示した。さらに、受精能獲得は、Atp6v0a2からの、N末端部分であるa2NTDの放出を引き起こすようである。本発明者らは、a2NTDが母体の炎症性サイトカイン(例えば、LIF、IL−1β、TNF−αおよびMIP−1α)を誘発すること、および精液を伴った精子へ子宮を曝露すると、妊娠成功率が高まることを示した。従って、受精能を獲得した精子に由来するAtp6v0a2は、子宮および胎盤におけるサイトカインおよびケモカインの発現において重要な役割を果たし得、着床および胎盤形成に必須の初期炎症プロセスを制御する。
【0005】
夫婦のうちの約30%では、男性要因の不妊が不妊の唯一の原因であり、夫婦のうちの別の20%〜30%では、それが彼らの不妊の寄与因子である。精液分析は、男性不妊についての最も一般的に使用される診断ツールである。近年、世界保健機関(WHO)は、2010年に異常精液分析の標準を発表した(Cooper)。しかし、これら標準は定量的ではなく、不妊の根底にある原因に関連する異常パラメーターを同定しない。これら標準を発表するために、受精能のある男性のみから得られる精液を使用し、そして男性を受精能が低い、もしくは受精能が不確定、もしくは受精能ありと区別するための精子濃度、運動性、および形態の「閾値」は存在しなかった。従って、これらパラメーターのうちのいずれも、大きな確信をもって精子の受精能もしくは妊娠転帰を推定することはできない。不運なことに、大部分の臨床検査室は、ケア計画を決定するために、標準のみに基づいて精液分析になお依拠している。実際には、卵細胞質内精子注入法(ICSI)を用いたIVFもしくはIVFのような技術を用いてすら、妊娠成功率は、25〜30%になお留まっている。これは、部分的には、精子および精液の分子病理の我々の理解の欠如に関連し得た。従って、新たなバイオマーカーを不妊症男性に由来する精子と関連づけれことができれば、これは、精子の受精能および妊娠転帰を推定するためのより良好な方法を提供する。
【0006】
本発明者らの実験室などからの知見に基づいて、本発明者らは、ヒト精子におけるAtp6v0a2が、「免疫学的特権」の確立に寄与すると仮定する。この研究において、本発明者らは、ヒト精子におけるAtp6v0a2の発現および局在を調査し、Atp6v0a2の、男性要因不妊の有用なバイオマーカーとしての可能性を調べた。
【0007】
本発明のこれらおよび他の局面および属性は、以下の図面および添付の明細書を参照しながら考察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1A〜1D:精子および精液におけるAtp6v0a2 mRNAおよびタンパク質発現を、正常な受精能のあるドナーおよび不妊症男性において研究した。
図1A。精子におけるAtp6v0a2 mRNA発現を、RT−PCRによって分析した。全てのデータを、β−アクチンmRNAに対して正規化した。正常な受精能のあるドナーの精子におけるAtp6v0a2 mRNA発現は、不妊症男性のものより有意に高かった(P=0.027,各n=18)。
【
図1B】
図1A〜1D:精子および精液におけるAtp6v0a2 mRNAおよびタンパク質発現を、正常な受精能のあるドナーおよび不妊症男性において研究した。
図1B。ウェスタンブロットは、正常な受精能のあるドナーの精子ではAtp6v0a2の強い発現を、しかし不妊症男性の精子では弱い発現を示す。ウェスタンブロットの図は、代表的サンプルであった。β−アクチンは、ローディングコントロールとして働いた。ヒストグラムは、デンシトメトリーによって決定してβ−アクチンに対して正規化したときのAtp6v0a2タンパク質発現の定量を示す。精子のAtp6v0a2タンパク質発現は、不妊症男性と比較して、正常な受精能のあるドナーにおいて有意に高かった(P≦0.05,各n=5)。
【
図1C】
図1A〜1D:精子および精液におけるAtp6v0a2 mRNAおよびタンパク質発現を、正常な受精能のあるドナーおよび不妊症男性において研究した。
図1C。a2NTDを、ELISAによって定量した。正常な受精能のあるドナーの精液a2NTDは、不妊症男性のものより有意に高かった(P≦0.01,各n=20)。
【
図1D】
図1A〜1D:精子および精液におけるAtp6v0a2 mRNAおよびタンパク質発現を、正常な受精能のあるドナーおよび不妊症男性において研究した。
図1D。ウェスタンブロット分析は、正常な受精能のあるドナーの精液において、20kDaバンドでa2NTDの強い発現を検出したが、不妊症男性では検出しなかった。β−アクチンは、ローディングコントロールとして働いた。ヒストグラムは、β−アクチンと比較したるデンシトメトリー評価によるa2NTDペプチドの相対定量を示す。精液a2NTDレベルは、正常な受精能のあるドナーにおいて不妊症男性よりも有意に高かった(P≦0.05,n=6)。(正常な受精能のあるドナーに対して、
*P<0.05;
**P<0.01)
【
図2A】
図2A〜2F:Luminexアッセイによって測定された、不妊症男性および正常な受精能のあるドナー(各n=20)に由来する精液におけるサイトカインおよびケモカインの濃度。A,B;IFN−γおよびIL−12は、正常な受精能のあるドナーと不妊症男性との間で有意に異ならなかった。
【
図2B】
図2A〜2F:Luminexアッセイによって測定された、不妊症男性および正常な受精能のあるドナー(各n=20)に由来する精液におけるサイトカインおよびケモカインの濃度。A,B;IFN−γおよびIL−12は、正常な受精能のあるドナーと不妊症男性との間で有意に異ならなかった。
【
図2C】
図2A〜2F:Luminexアッセイによって測定された、不妊症男性および正常な受精能のあるドナー(各n=20)に由来する精液におけるサイトカインおよびケモカインの濃度。C〜F;不妊症男性におけるMCP−1(P≦0.05)、GM−CSF(P≦0.01)、G−CSF(P≦0.01)およびMIP−1α(P≦0.01)は、正常な受精能のあるドナーと比較して有意に減少していた(
*P<0.05;正常な受精能のあるドナーに対して
**P<0.01)。
【
図2D】
図2A〜2F:Luminexアッセイによって測定された、不妊症男性および正常な受精能のあるドナー(各n=20)に由来する精液におけるサイトカインおよびケモカインの濃度。C〜F;不妊症男性におけるMCP−1(P≦0.05)、GM−CSF(P≦0.01)、G−CSF(P≦0.01)およびMIP−1α(P≦0.01)は、正常な受精能のあるドナーと比較して有意に減少していた(
*P<0.05;正常な受精能のあるドナーに対して
**P<0.01)。
【
図2E】
図2A〜2F:Luminexアッセイによって測定された、不妊症男性および正常な受精能のあるドナー(各n=20)に由来する精液におけるサイトカインおよびケモカインの濃度。C〜F;不妊症男性におけるMCP−1(P≦0.05)、GM−CSF(P≦0.01)、G−CSF(P≦0.01)およびMIP−1α(P≦0.01)は、正常な受精能のあるドナーと比較して有意に減少していた(
*P<0.05;正常な受精能のあるドナーに対して
**P<0.01)。
【
図2F】
図2A〜2F:Luminexアッセイによって測定された、不妊症男性および正常な受精能のあるドナー(各n=20)に由来する精液におけるサイトカインおよびケモカインの濃度。C〜F;不妊症男性におけるMCP−1(P≦0.05)、GM−CSF(P≦0.01)、G−CSF(P≦0.01)およびMIP−1α(P≦0.01)は、正常な受精能のあるドナーと比較して有意に減少していた(
*P<0.05;正常な受精能のあるドナーに対して
**P<0.01)。
【
図3A】
図3A〜3C:ウェスタンブロットおよび蛍光顕微鏡検査による、運動性のある精子および運動性のない精子におけるAtp6v0a2タンパク質の発現。
図3A。Atp6v0a2(2C1)に対する抗体を使用する、ヒトの運動性のある精子および運動性のない精子におけるAtp6v0a2のウェスタンブロット分析は、100kDaでの単一のタンパク質バンドを明らかにした。
【
図3B】
図3A〜3C:ウェスタンブロットおよび蛍光顕微鏡検査による、運動性のある精子および運動性のない精子におけるAtp6v0a2タンパク質の発現。
図3B。ヒストグラムは、デンシトメトリーによって決定されてβ−アクチンに対して正規化したときのAtp6v0a2タンパク質発現の定量を示した。運動性のない精子は、運動性のある精子よりも有意に低いAtp6v0a2発現を有した(P≦0.01,n=6)(正常な受精能のあるドナーに対して*P<0.01)。
【
図3C】
図3A〜3C:ウェスタンブロットおよび蛍光顕微鏡検査による、運動性のある精子および運動性のない精子におけるAtp6v0a2タンパク質の発現。
図3C。このタンパク質の位置を決定する、抗Atp6v0a2−FITC(緑)およびDAPI(核染色に関して青色)で染色した、運動性のない精子および運動性のある精子の免疫蛍光顕微鏡検査。パネル1は、運動性のない精子において発現が起こらないことを示す。パネル2は、運動性のある精子の先体領域におけるAtp6v0a2の高い発現を示す。データは、5回の実験の代表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
本発明は、多くの種々の形態にある実施形態を許容する一方で、本開示が本発明の原理の例証としてみなされるべきでありかつ本発明を例示される具体的実施形態に限定することは意図されないということを理解した上で、本明細書で詳細に記載される具体的実施形態がある。
【0013】
(精液分析)
精液サンプルを、男性不妊症と診断され、生殖補助医療(ART)(例えば、Andrology Lab, Chicago, ILでのIVF/ICSI)を受けている最中であった、引き続いた35名の男性から得た。不妊症の継続期間は、少なくとも12ヶ月またはそれより長期であり、無精子症の(azospermic)男性を、この研究から排除した。さらに、精液サンプルを、35名の受精能のあるドナーが男性不妊手術のために精管切除術を行う前に、彼らから得た。上記研究は、Rosalind Franklin University of Medicine and ScienceのIRBによって承認された。インフォームドコンセントを、上記研究(これは、地域のInstitutional Review Board(IRB)によって承認された)に参加する前に、全ての研究対象患者およびコントロールから得た。
【0014】
ARTの実施の前に、精液サンプルを、3〜5日間の禁欲の後に自慰によって滅菌容器中に集めた。室温(22℃)で30分間、精液を液化した後、上記サンプルを、射精体積(ml)、精子濃度(n×10
6/mL)、運動性(%)、および形態(正常形態,%)について評価した。精子形態を、クルーガー氏による厳密形態基準(Kruger’s strict criteria)を使用して研究した。上記サンプルを、2010年WHO精液分析ガイドライン(正常精子:≧1500万/mL、≧32% 前進運動性(progressive motility)、および≧4% 正常形態)に従って分類した。上記精子サンプル全てを、2名のフェローシップ訓練を受けた臨床男性科学医(clinical andrologist)のうちの1名が評価した。各精液サンプルのアリコートを、400×gで10分間の遠心分離によって集めて、精子なしの精漿を得、次いで、分析を行うまで−80℃で凍結した。
【0015】
(精液からの密度遠心分離による運動性のある精子および運動性のない精子の単離)
PureSperm勾配40%および80%(Nidacon, Gothenburg, Sweden)を、実験のために使用した。媒体を、使用前に37℃の温度に加温した。滅菌ピペットを使用して、「下層」(80% PureSperm勾配)のうちの2.0mLを、円錐形の遠心管に移した。新しい滅菌ピペットを使用して、「上層」(40% PureSperm勾配)のうちの2.0mLを、下層の上に穏やかに分与した。次いで、液化した精液サンプルを、上層の上に配置し、上記管を、20分間、300×gで遠心分離した。遠心分離した後、上記遠心管の中で5つの層が確認できた。最下層は、運動性のある精子を含み、その一つ上の層は、運動性のない精子を含んだ。他の層を乱さないようにして、各層を新しい円錐型遠心管に注意深く移した。トランスファーピペットを使用して、PureSperm洗浄液のうちの2〜3mLを、運動性のある精子もしくは運動性のない精子のうちのいずれかを含む管に添加し、その再懸濁したペレットを、15分間、500×gで遠心分離した。精製後、その運動性は、運動性あり画分において≧95%、および運動性なし画分において<10%であった。
【0016】
(リアルタイム定量的RT−PCR)
製造業者の説明書に従ってRNase非含有DNaseセット(Qiagen, Valencia, CA, USA)を使用するオンカラムDNase消化を行い、RNAeasyミニキット(Qiagen, Valencia, CA, USA)を使用して、総RNAを単離した。RT−PCRもまた、Applied Biosystems 7500 Fast Real−Time PCR Systemを使用して、TaqMan遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystem)によって行った。TaqManアッセイ用のプライマーおよびプローブ[β−アクチン: Hs01060665_g1, Atp6v0a2: Hs00429389_m1]を、Applied Biosystemsから得た。その手順は、以下のとおりであった: 1.0μg 総RNAを使用して、20μl体積で、First Strand cDNA(Roche Applied Science, Indianapolis, IN, USA)を使用して逆転写によってcDNAを合成した。PCR増幅を、逆転写由来cDNAのうちの5ng、各プライマー25pmol、および10μl iQ Taqmanマスターミックスを含む、総体積20μlで行った。各反応物を、50℃で2分間、95℃で10分間でインキュベートし、次いで、95℃で15秒間の変性および60℃で1分間のアニーリング/伸長を含む60サイクルに供した。蛍光発色の閾値サイクル(TC)を測定した。全てのサンプルを、三連で実施した。実験サンプルおよびコントロールサンプル中の目的の遺伝子の転写レベルの比を、対応するサンプル中のβ−アクチン転写物レベルの比と比較した。なぜならβ−アクチンは、この方法論での安定な参照物と広く考えられているからである。
【0017】
(a2NTDについてのELISA)
Atp6v0a2(a2NTD)のN末端部分のレベルを、サンドイッチ型酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)を使用して測定した。第1に、ニワトリ抗a2NTDを、ポリスチレントレイに一晩添加した。この抗体を廃棄した後、精子非含有精液サンプルのうちの100μlを、25μlのインキュベーション緩衝液を満たした各ウェルに添加し、次いで、50μlのビオチン化ニワトリ抗a2NTDとともに室温で2時間インキュベートした。上記ウェルを吸引して4回洗浄した後、100μlのストレプトアビジン−HRP作業溶液を各ウェルに添加し、室温で30分間インキュベートした。次いで、上記ウェルを4回洗浄し、100μlの安定化色原体溶液(R&D system)とともに室温で30分間、暗所にてインキュベートした。上記反応を、100μlの停止溶液で停止させ、次いで、450nmで吸光度を読み取った。
【0018】
(ウェスタンブロッティング)
洗浄した精子をSDSサンプル緩衝液中に入れ、5分間煮沸した。等量の精子溶解物を、4〜20% SDS−PAGEで分離し、続いて、ニトロセロース膜に転写した。次いで、上記ブロットを、ニワトリ抗Atp6v0a2ポリクローナル抗体(3μg/ml)(抗a2V)もしくはマウス抗ヒトβ−アクチン(Sigma−Aldrich, St Louis, MO, USA)でプローブし、続いて、ロバ抗ニワトリIRDye−800CW(1:20,000)およびヤギ抗マウスIRdye−680CW(LI−COR Biosciences, Lincoln, Nebraska, USA)で、それぞれプローブした。蛍光ブロットを、Odyssey Infrared Imaging System(LI−COR Biosciences, Lincoln, Nebraska, USA)で画像化した。
【0019】
(免疫蛍光染色)
運動性のある精子および運動性のない精子を、上記のように単離し、次いで、4% パラホルムアルデヒド中で一晩4℃で固定し、次いで、スライド上で風乾した。精子を、室温で10分間、PBS中の0.1% Triton X−100で透過性にし、次いで、PBSで洗浄した。次いで、スライドを、1% BSA中で希釈した一次ニワトリ抗Atp6v0a2ポリクローナル抗体(1:50)とともに4℃で一晩インキュベートした。スライドを、PBSで3回、各10分間洗浄し、次いで、FITCと結合体化したロバ抗ニワトリIgG二次抗体とともにインキュベートし(1:40, 37℃で0.5時間)、次いで、洗浄し、Vectashield中でDAPI(Vector Laboratories, Burlingame, CA)とともに載せ、暗所で4℃で保存した。その染色したスライドを蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse 80i; Nikon Inc, Tokyo, Japan)の下で見た。FITCの蛍光を、495nmバンドパスバリアフィルタ付きのB−2フィルタを使用してモニターした。
【0020】
(マルチプレックスアッセイ)
全ての手順を、製造業者の説明書に従った(Milliplex MAPキット, Millipore)。25μlの体積の未希釈精液を、ケモカインおよびサイトカインを測定するために使用した。特異的抗体(RCYTOMAG−80K−PMX, Milliplex MAP Kit, Millipore)で被覆した25μlの体積の磁性ビーズ(ビーズサイズ=6.45μ)を、上記サンプルに添加し、その反応物を、4℃で24時間インキュベートした。上記ビーズを洗浄し、25μlのビオチン化検出抗体とともに室温で2時間インキュベートした。上記反応を完了させるために、25μlのストレプトアビジン−フィコエリトリン結合体化合物を添加し、30分間室温でインキュベートした。次いで、上記ビーズを洗浄し、150μlのシース液(sheath fluid)とともに5分間室温でインキュベートした。
【0021】
上記サンプルを、MAGPIX機器で分析した。次いで、上記分析物の濃度を、それぞれ、Bio−Plex Managerバージョン5.0およびMAGPIX xPONENTソフトウェアを使用して決定した。上記アッセイを三連で行って、その結果を確認した。分析物を、Bradfordアッセイ(比色タンパク質アッセイ)で概算される総タンパク質濃度に対して正規化した。11種の分析物を決定した:IL−1β、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、IL−12p70、IFN−γ、ケモカインC−Cモチーフリガンド2(CCL2(単球走化性タンパク質1、MCP−1として以前に公知))、ケモカインC−Cモチーフリガンド3(CCL3(マクロファージ炎症性タンパク質1α、MIP−1αとして以前に公知))、TNF−α、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)。
【0022】
(統計分析)
SPSSバージョン20を使用して、詳細な統計分析を行った。Atp6v0a2のmRNAおよびタンパク質のレベルを比較するためにMann−Whitney U検定を適用し、上記2つの群の精子パラメーター、精液サイトカインおよびケモカインレベルの比較のためにスチューデントt検定を適用した。Spearmanの検定を、a2NTDとサイトカインレベルおよびケモカインレベルとの間の相関を決定するために使用した。<0.05の確率を、有意に異なるとみなした。
【0023】
(結果)
(研究集団の特徴)
不妊症男性(研究群)および正常精子ドナー(コントロール)の精液プロフィールを、表1に示す。コントロールの精液は、異常なパラメーターを有しなかった。他方で、研究群の精液は、精子の体積、濃度、運動性もしくは形態のうちの少なくとも1つまたはそれより多くの異常な所見を有した。研究群の精液体積(P≦0.01)、精子濃度(P≦0.05)および精子運動性(P≦0.01)は、正常な受精能のあるドナーと比較した場合に、不妊症男性では有意に低下していた。
【0024】
(ヒト精子におけるAtp6v0a2のmRNAおよびタンパク質の発現)
上記Atp6v0a2遺伝子発現を、不妊症男性および正常な受精能のあるドナーから回収した精子(各n=18)においてリアルタイムPCRによって分析した。Atp6v0a mRNAのレベルは、正常な受精能のあるドナーと比較した場合、不妊症男性から回収した精子では有意に低下していた(P≦0.05)(
図1A)。ウェスタンブロッティング分析から、Atp6v0a2タンパク質は、正常な受精能のあるドナーと比較した場合に、不妊症男性から回収した精子では有意に低下していたことが確認された(P≦0.05, n=5)(
図1B)。
【0025】
(精液における分泌a2NTDのレベル)
分泌a2NTDの濃度を、不妊症男性および正常な受精能のあるドナーから回収した精子非含有精液中で測定した。分泌a2NTDタンパク質は、不妊症男性群(45.7±16.3ng/ml, n=20; P≦0.01)と比較した場合に、正常な受精能のあるドナー群(57.9±11.0ng/ml, n=20)では有意に高かった(
図1C)。同様に、抗a2NTDでの精液のウェスタンブロット分析は、a2NTDが約20kDaバンドで検出され、そのレベルが、不妊症男性群と比較して、正常な受精能のあるドナー群にでは有意に高かったことを示す(P≦0.05, 各n=6)(
図1D)。
【0026】
(精液サイトカインおよびケモカインプロフィール)
MCP−1(P≦0.05)、GM−CSF(P≦0.01)、G−CSF(P≦0.01)、およびMIP−1α(P≦0.01)の濃度は、正常な受精能のあるドナー群と比較した場合に、不妊症男性群から回収した精子非含有精液中で有意に低下していた。対照的に、IFN−γおよびIL−12は、両方の研究群の精子非含有精液間で有意差がなかった(
図2)。TNF−α、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−6およびIL−10は、精液中で検出できなかった。なぜならそれらは、そのアッセイの感度レベルを下回り、おそらく非常に低かったからである。以前に、本発明者らは、a2NTDが、女性生殖路において種々のケモカインおよびサイトカインの分泌を誘発することを示した。精液の分泌a2NTDが種々のサイトカインおよびケモカインの分泌と関連するか否かを研究するために、線形相関を行った。精液において、a2NTDのレベルと、G−CSF(P≦0.01)、GM−CSF(P≦0.01)、MCP−1(P≦0.05)およびMIP−1α(P≦0.01)との間には、有意に正の相関が認められた。
【0027】
(正常精子から集めた運動性のない精子および運動性のある精子におけるAtp6v0a2タンパク質の発現レベルおよび免疫局在)
Atp6v0a2タンパク質と精子運動性との関連を決定するために、Atp6v0a2タンパク質レベルを、運動性のある精子および運動性のない精子においてチェックした。ウェスタンブロット分析は、Atp6v0a2タンパク質の発現が正常な受精能のあるドナーの運動性のない精子と比較して運動性のある精子では有意に高かった(P≦0.01;各n=6)ことを示す(
図3A〜B)(
図3B)。これら結果は、増大したAtp6v0a2タンパク質がヒト精子の運動性と関連したことを示唆する。
【0028】
免疫組織化学分析を行って、正常コントロールの運動性のある精子および運動性のない精子におけるAtp6v0a2タンパク質の発現および局在を調べた。Atp6v0a2タンパク質は、運動性のない精子では検出されなかった(
図3C; パネル1)が、運動性のある精子では、Atp6v0a2タンパク質は、先体領域において豊富に検出され局在していた(
図3C; パネル2)。
【0029】
(考察)
精子は、卵子に雄性ゲノムを送達するのみならず、いくつかの決定的な分子(例えば、受精および初期の胚発生に必要とされるmRNAおよびタンパク質)をも送達する。本発明者らの先の研究は、精子におけるAtp6v0a2が受精において重要な役割を有し得るという可能性を示唆した。本研究では、本発明者らは、Atp6v0a2が正常ヒト精子において高度に発現されるが、不妊症男性の精子ではごく弱くしか発現されないことを実証する。さらに、Atp6v0a2は、正常精子を使用した場合、運動性のある精子では高度に発現されたが、運動性のない精子では発現されなかった。これら所見は、精子におけるAtp6v0a2が、ヒト精子の受精能において重要な役割を果たし、ネズミ精子においても同様であることを示唆する。
【0030】
先体領域は、精子が透明帯を通って通過するのに関与する加水分解酵素を含む酸性分泌小胞であることが公知である。従って、プロトンポンプのアセンブリは、この特有のオルガネラの生物形成(biogenesis)物発生説にとって必須の工程である。以前に、本発明者らは、Atp6v0a2がネズミでは、受精能を獲得した精子の先体領域に局在することを実証した。精子の細胞内pHは、精巣上体尾部および精管に貯蔵される哺乳動物の成熟精子を制御する重要な因子である。精子は、本質的に静止しており、細胞内および細胞外の酸性pHによって主に、運動性がない状態で維持される。精液は、よりアルカリ性が高く(pH>7.0)、精子細胞質のアルカリ化および精子運動性の活性化に適した環境を提供する。近年、形質膜におけるV−ATPaseが、精子運動性を活性化しかつ先体領域酸性化の単独の原因である細胞内オルガネラのpHを調節することが示された。
【0031】
Atp6v0a2は、精子形成においてpHセンサーとしてある役割を果たし得ることは、可能である。本結果は、Atp6v0a2が、生きていて運動性のない精子におけるより、運動性のある精子において豊富に発現されることを明らかに示した。ネズミモデルでの受精能を獲得した精子の研究によれば、Atp6v0a2は、ヒト正常精子の先体領域に主に局在した。Atp6v0a2は、pH調節因子として運動性のある精子の分化に関与するようである。さらに、本発明者らは、Atp6v0a2がネズミ胚の成功裡の着床においてある役割を果たすことを報告した。本発明者らは、Atp6v0a2の発現が、受精能を獲得していない精子が受精した卵子におけるより、受精能を獲得した精子が受精した卵子において顕著に高いことを見出した。従って、ヒト精子におけるAtp6v0a2は、細胞内pHを制御するのみならず、胚発生にも寄与する、極めて重要な分子であり得る。
【0032】
発生中の胚における母体免疫応答の役割は、懸命に研究されてきた。潜在的に有害な母体免疫応答(これは、半同種異系の胎児の生存を危うくすることがある)を防ぐために種々の機構が存在することは、公知である。しかし、いくつかの炎症性サイトカイン(これは、胎児に対して潜在的に有害である)が、着床前期間の間の成功裡の着床に必要であることもまた、公知である。従って、精密な免疫協調が、成功裡の妊娠経過期間中に必要とされる。初期炎症ステージに続いて、抗炎症ステージがあり、両方が、成功裡の妊娠に必要とされる。以前は、本発明者らは、受精能を獲得した精子が、免疫調節分子a2NTDの放出によって母体側に炎症を開始させ、このa2NTDは翻って、炎症性サイトカイン(例えば、LIF、IL−1β、およびTNF−α)の発現を誘発することを報告した。他の研究では、本発明者らは、a2Vタンパク質の重要な部分であるa2NTD(N末端部分)が活性化単球から放出され、サイトカイン分泌を誘発することを示した。本研究において、本発明者らは、正常精子ドナーの精液に分泌a2NTDが富化され、a2NTDのレベルが、G−CSF、GM−CSF、MCP−1およびMIP−1αのレベルと有意に相関することを示した。精液中のa2NTDとG−CSFとの間に最も強い相関が見出された(正の相関係数0.784)。サイトカインおよびケモカインの上昇した精液濃度は、精液の質が不十分であることおよび男性不妊症と関連づけられた。さらに、これらサイトカインのうちの多くが精子形成に有害な影響を及ぼし得るという証拠は、増大しつつある。従って、これらの知見は、精液中のa2NTDが、精子形成および着床という2つの相をもつ免疫学的環境の確立に寄与するようであることを示唆する。
【0033】
ケモカインは、白血球遊走、脈管形成および細胞活性化に関与する、30種より多くの走化性サイトカインのファミリーである。それらは、炎症および免疫防御と関連する事象において重要な役割を果たし、おそらくは、男性生殖路において同様の役割を有する。MCP−1(これは、単球、記憶T細胞、および樹状細胞を組織損傷、感染および炎症の部位へと補充する)は、同種異系の胎児に対する母体の免疫寛容を維持するために、Th2への偏りを制御し得る。以前に、本発明者らは、MCP−1が動物モデルにおいて子宮Atp6v0a2の発現を誘発し得ることを報告した。本研究において、本発明者らは、正常精子ドナーの精液中のMCP−1が、a2NTDと同様に、不妊症男性の精液と比較して、有意に増大していることを実証した。従って、MCP−1およびa2NTDが、着床部位での免疫環境を確立するために相乗効果を有するが、母体の胎児寛容におけるそれらの役割を決定するためにさらなる研究が必要であるのは、考えられることである。
【0034】
精液は、炎症促進性サイトカインおよびケモカインの発現、ならびにマクロファージ、樹状細胞、および記憶T細胞の強い補充を誘発する。精液によって子宮頸部において誘発される白血球およびサイトカイン環境は、受精を促進する女性の免疫応答において適応を開始する力があるようである。本研究において、MIP−1αは、不妊症男性および正常精子ドナーの精液において比較的高い濃度で存在した。しかし、正常精子ドナーの精液中のMIP−1αは、不妊症男性の精子中よりも豊富にある。MIP−1αの増大した発現は、子宮内膜における着床前後期間の間に起こる。さらに、精液中のMIP−1αは、他のサイトカイン(例えば、IL−6)の合成の急増を開始し、これはその後、子宮内膜間質(ここで抗原提示細胞は、父系の射精液抗原を飲み込み、処理する)への抗原提示細胞の補充および活性化を誘発する。
【0035】
正常精子ドナーの精液は、不妊症男性の精液と比較して、G−CSFのレベルがより高いことによって特徴付けられた。このことは、G−CSFがまた、未だ明確にされていないものの、ある役割を有し得ることを示唆する。G−CSFは、その後の胎盤顆粒球増加症に関与し、インビトロでのヒト栄養膜細胞増殖および機能を損ない、ネズミモデルにおいて流産を引き起こすことが公知である有害レベルのIFN−γの生成(本発明者らは、不妊症男性および正常精子ドナーの両方の精液において比較的低いと報告している)を調節し得る。G−CSFは、V−ATPaseを活性化することによって好中球におけるアポトーシスを遅らせる。これらデータは、Atp6v0a2を発現する精子からの精液が、同種異系の胎児に対する母体の免疫寛容の誘発および維持を可能にするために十分な量のMIP−1αおよびG−CSFを有する機構を説明する一助となり得る。Robertson et alは、精液におけるサイトカインネットワークが受精に必要とされ、GM−CSFが、生殖路の樹状細胞および発生中の胚の両方を標的とする、受精能を調節する重要な因子であることを報告した。本研究では、本発明者らはまた、GM−CSFが検出され得るものの、GM−CSFのレベルが正常精子ドナーの精液と不妊症男性の精液との間で有意差がないことを示した。この報告での矛盾は、一部は、異なるアッセイ技術および研究集団が原因であり得る。
【0036】
過去10年にわたって、多くの実験検査が精子機能の特性を決定するために開発されてきたが、WHO精液分析の代わりに慣用的な臨床使用へと採用されるものはほとんどなかった。従って、本発明者らは、この定義の限界を理解するべきである。なぜなら、正常な標準パラメーターにもかかわらず、機能不全の精子が存在し得るからである。本研究では、本発明者らは、Atp6v0a2がWHO精液分析で診断された精子状態と関連するか否かを分析し、不妊症男性の精子におけるさらに低いAtp6v0a2発現がWHO精液分析に基づく「異常」と一致する(すなわち、パラメーターは、精液体積、数および運動性ならびに形態について示される標準より低い)ことを示した。精子運動性に関して、本発明者らは、運動性のある精子におけるAtp6v0a2が、運動性のない精子におけるよりも高いレベルで発現されることを見出した。この結果から、Atp6v0a2は、精液がWHO精液分析基準に基づいて正常と診断されようが異常と診断されようが、精子運動性の評価に潜在的に有用であることが強く示唆された。
【0037】
まとめると、不妊症男性の精子におけるAtp6v0a2のタンパク質およびmRNAは、正常精子のものと比較して、有意に低かった。蛍光顕微鏡検査から、先体領域におけるAtp6v0a2のmRNAおよびタンパク質の発現は、運動性のない精子よりも運動性のある精子において高いことが明らかにされた。正常精子ドナーの精液における分泌a2NTDは、不妊症男性より有意に高かった。さらに、a2NTD発現は、受精および精子形成に必要とされるサイトカインおよびケモカインのレベルと相関した。結論として、Atp6v0a2の不可欠なレベルは、精子の正常な機能に必須であり得る。Atp6v0a2が存在しないかもしくはそのレベルが低いと、男性不妊症が推測され得る。
【表1】
【0038】
(精液サンプルの受精能を決定するためのキット)
本発明は、任意の適切な酵素ベースのアッセイ(例えば、ELISA)によって、もしくはさらにより好ましくは、マルチプレックスアッセイにおいて、精液サンプルの男性の受精能を決定するために、精液サンプルを調製するためのキットをさらに提供する。上記キットは、特に、分析物Atp6v0a2、G−CSF、MIP 1α、およびMCP−1についての酵素結合抗体の供給を含む。上記キットはまた、酵素結合抗体を結合するための基質を含み、そしてビーズ、マイクロスフェア、マイクロタイタープレートもしくは全てを含み得る。語句「ビーズ」および「マイクロスフェア」は、交換可能に使用される。上記キットの構成要素は、輸送および取り扱いに適したパッケージングの中に含まれ、上記キットを使用して、精液サンプルの受精能を決定するための説明書のセットを含む。
【0039】
本発明の1つの好ましい形態において、各酵素結合抗体は、特有の基質に、およびより好ましくは、特有のマイクロスフェアに、結合される。適切なマイクロスフェアは、マイクロスフェアのあるバッチを他のバッチから区別するための特有の特徴を有する。本発明の1つの好ましい形態において、上記特有の特徴は、マイクロスフェアのサイズ、マイクロスフェアの形状、マイクロスフェアの色、もしくはマイクロスフェアの電磁スペクトルである。適切なマイクロスフェアは、金属、プラスチック、およびこれらの組み合わせから製作され得る。好ましい金属としては、磁場に反応するものが挙げられ、金属、金属含有ミネラル、もしくは金属含有複合材が挙げられる。磁場に反応する材料は、磁性特性(例えば、強磁性、フェリ磁性、常磁性および超常磁性)を有する。本発明の1つの好ましい形態において、上記材料は鉄である。適切な金属含有ミネラルは、最も好ましくは、磁鉄鉱を含む。本発明の別の好ましい形態において、上記マイクロスフェアは、磁性特性を有するが、残留磁気はほとんどないかもしくは無視できる程度である。
【0040】
好ましいプラスチックとしては、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエステル、タンパク質および他の生物学的材料が挙げられる。本発明の別の好ましい形態において、上記プラスチックは、上記に示される金属、金属含有ミネラル、もしくは金属含有複合材のうちの1つの存在によって磁性にされ、最も好ましくは、上記マイクロスフェアは、有効量の磁鉄鉱を含む。上記磁性材料は、プラスチックに添加され得、上記プラスチックが溶融状態にあるときに均質な様式でマイクロスフェア全体に組みこまれ得るか、上記マイクロスフェアの外表面に被覆され得るか、または上記プラスチック材料へと他の手段によって組みこまれ得る。
【0041】
本発明の1つの好ましい形態において、ビーズの各バッチは、2種の異なる色素の組み合わせ、ならびにさらにより好ましくは、種々の量の赤色色素および赤外色素(infrared dye)の組み合わせによって規定される特有の色を有する。本発明の1つの好ましい形態において、上記ビーズは、約400nm〜約10μm、より好ましくは、約4μm〜約7μmの直径を有する。好ましくは、上記マイクロスフェアは、水のような液体中に、約500,000ビーズ/ml〜約1500万ビーズ/mlの濃度で懸濁される。適切なビーズは、商標MAGPLEX(登録商標)および商標MICROPLEX(登録商標)でLUMINEX(登録商標) Corporationによって販売される。
【0042】
Atp6v0a2に対する抗体によって認識される抗原は、配列YSSSHPPAEHKKMVLWNDSVVRH(配列番号1)を有する。G−CSF、MIP 1α、およびMCP−1に対する抗体は、Milliplex Mapキット(Millipore)から、名称MCTYOMAG−70Kで入手される。各抗体は、ビーズの特有のバッチに曝され、インキュベートされ、洗浄される。被覆されたビーズの4種の異なるバッチは、第1の容器システムを画定する1個の容器から4個の容器までの容器システム内に配置され、最も好ましくは、ビーズの4種のバッチは合わせて1個の容器に入れられる。
【0043】
適切な抗体は、適切な科学的機器使用によって検出され得る官能基を有するか、または色、蛍光、電磁スペクトルサインの変化を引き起こして、目的の分析物の定量を可能にする別の分子もしくは薬剤と反応させられ得る。本発明の一形態において、上記酵素結合抗体は、ビオチン基を有するか、またはビオチン化される。
【0044】
本発明の1つの好ましい形態において、上記薬剤は、第2の容器システム内に含まれ、ストレプトアビジン含有化合物であり、そしてより好ましくは、一価のストレプトアビジンであり、さらにより好ましくは、発色団に結合したストレプトアビジンである。本発明の1つの好ましい形態において、上記発色団は、フィコエリトリンである。上記ビオチン化した抗体がストレプトアビジン−R−フィコエリトリンに曝される場合、上記分析物の量は、488nmの波長を有する励起源に上記ビーズを曝すことによって決定され得る。
【0045】
上記キットはまた、上記キットの構成成分と、精液サンプルとを使用して、このサンプルの受精能を決定するための説明書のセットを含む。上記キットのエンドユーザーは、ヒト患者から精液サンプルを得、上記精液サンプルは、上記分析物が上記酵素結合抗体に結合して試験サンプルを形成するのに有効な時間にわたって、上記第1の容器システムの内容物と合わされる。次いで、上記第2の容器システムからの薬剤は、上記試験サンプルと合わされ、有効な時間(例えば、約30分間)にわたってインキュベートされる。上記試験サンプルは、リン酸緩衝化食塩水で洗浄され、−5℃を下回る温度へと凍結され、検査施設へと送られる。
【0046】
上記キットはまた、受精能獲得緩衝液(capacitance buffer)の第3の容器システムを必要に応じて含む。上記受精能獲得緩衝液は、本発明の好ましい形態において、クレブスリンゲル緩衝液であり、BSA、HCO
3−、およびCa
++が補充されている。上記受精能獲得緩衝液は、上記精液サンプルへと等しい体積で添加され、30分間静置される。
【0047】
上記キットはまた、上記酵素結合抗体の各々のうちの1つ、適切な量のサンプル、検出薬剤およびコントロールを受容するための間隔を空けた複数のウェルを有するプレートを必要に応じて含み得る。本発明の好ましい形態において、上記プレートは、プラスチック、好ましくは、ポリスチレンから作製されたマイクロタイタータイプのプレートであり、8ウェル×12ウェルの配置にある96ウェルを有する。
【0048】
(マルチプレックスアレイでサンプルを試験するための方法)
指定された検査施設は、凍結したサンプルを受け取り、これを解凍して、分析の準備をする。上記解凍したサンプルは、撹拌もしくは振盪することによって混合され、適切な量がマイクロタイタープレートのウェルに添加され、LUMINEX(登録商標) Corporationが販売するMAGPIX機器によって分析に供される。分析物の量が決定され、決定される予定のペプチド抗原のモル濃度を含む組換え(recombinate)ペプチド標準に対して比較される。上記試験サンプルは、既知の標準物質と比較される。受精能のあるサンプルは、上記試験サンプル中の上記4種の分析物のうちの1つの量、より好ましくは、上記分析物のうちの2種、より好ましくは、上記分析物のうちの3種、および最も好ましくは、上記分析物の全4種の量が、上記コントロールサンプル中のものを超えるか否か確認される。次いで、その試験結果は、適切な存在(entity)もしくは個人に報告される。
【0049】
(人工受精手順のための精液サンプルを調製するための方法)
本発明は、人工受精手順(「AI」)のための精液サンプルを調製して、受精転帰を増大させるための方法をさらに提供する。上記方法は、精液サンプルを得る工程、上記サンプルに、有効量の受精能獲得緩衝液を添加する工程;および上記サンプルに、a2NTD、G−CSF、GM−CSF、MIP 1α、およびMCP−1からなる群より選択されるタンパク質のうちの1種またはそれより多くのタンパク質カクテルの有効量を添加して、精液サンプルの受精能を増強する工程を包含する。上記タンパク質カクテルは、0.5cc〜1.0cc a2NTD、0.5cc〜1.0cc G−CSF、0.5cc〜1.0cc GM−CSF、0.5cc〜1.0cc MIP 1α、および0.5cc〜1.0cc MCP−1を含む。
【0050】
実質的に減少した数の精子細胞がAI手順で使用される先行技術のAI手順とは異なり、本発明の方法は、最初のサンプルからの精子細胞の本質的に全てを使用する。すなわち、上記サンプルからの精子細胞の数を減少させようとする努力はない。
【0051】
上記方法は、増強された精漿および精子サンプルを卵子に曝して、その卵子を受精させる工程をさらに包含する。精漿および精子は、a2NTDを含む受精能獲得緩衝液に5〜20分間曝される。受精能を獲得した精子は、受精能を獲得していない精子より、AIによって得られた卵子を受精させる可能性がより大きく、AI手順のためのさらに多くの成功裡の受精卵を生じる。
【0052】
本発明は、最も実用的でかつ好ましい実施形態であると現在考えられているものと関連して記載されている一方で、本発明が開示される実施形態に限定されないことは理解されるべきであり、特許請求の範囲の趣旨および範囲内に包含される種々の改変および等価な取り合わせを網羅することが意図される。本発明における改変およびバリエーションは、特許請求の範囲において定義されるとおりの本発明の新規な局面から逸脱することなく行われ得る。添付の特許請求の範囲は、広くかつここでの本発明の趣旨および範囲と一致した様式で、解釈されるべきである。