特許第6231665号(P6231665)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231665エナメル粉末、エナメルコーティングが設けられた表面部分を有する金属コンポーネント、およびこうした金属コンポーネントを製造するための方法
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  • 特許6231665-エナメル粉末、エナメルコーティングが設けられた表面部分を有する金属コンポーネント、およびこうした金属コンポーネントを製造するための方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231665
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】エナメル粉末、エナメルコーティングが設けられた表面部分を有する金属コンポーネント、およびこうした金属コンポーネントを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/14 20060101AFI20171106BHJP
   C03C 8/20 20060101ALI20171106BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20171106BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20171106BHJP
   F02F 1/42 20060101ALI20171106BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C03C8/14
   C03C8/20
   C23C26/00 A
   C09D1/00
   F02F1/42 B
   F02F1/24 M
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-515933(P2016-515933)
(86)(22)【出願日】2014年8月4日
(65)【公表番号】特表2016-535714(P2016-535714A)
(43)【公表日】2016年11月17日
(86)【国際出願番号】EP2014066735
(87)【国際公開番号】WO2015018795
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年2月15日
(31)【優先権主張番号】102013108428.1
(32)【優先日】2013年8月5日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516039723
【氏名又は名称】ネマク,ソシエダ アノニマ ブルサーティリ デ カピタル バリアブレ
【氏名又は名称原語表記】Nemak, S.A.B. de C.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ ゴスチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング クーン
(72)【発明者】
【氏名】アンネット ブレットシュナイダー
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−195640(JP,A)
【文献】 特開昭57−88041(JP,A)
【文献】 特開昭56−3673(JP,A)
【文献】 特開昭55−167152(JP,A)
【文献】 特開平2−129043(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102006043535(DE,A1)
【文献】 特開平11−189431(JP,A)
【文献】 特開昭61−23773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
F02F1/00−1/42,7/00
C23D1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナメルコーティング(11)を生成するためのエナメル粉末であって、前記エナメル粉末は、
− 100部のガラス粉末と、
− 前記ガラス粉末粒子よりも大きい10〜22部の粗ガラス顆粒と、
− 0.1〜7.5部の10〜1000μmの繊維長を有するセラミック繊維、ガラス繊維または炭素繊維と、
− 互いに代替的な、または互いに組み合わされた、
− 10〜21部のAl、TiおよびMgのうちの1つである軽金属の粉状酸化化合物、または
− 1〜5部の鉄に基づく材料である重金属の粉末と、
を含有する混合物として存在する、エナメル粉末。
【請求項2】
前記エナメル粉末が前記軽金属の粉状酸化化合物を含有する場合には、前記軽金属の粉状酸化化合物は酸化アルミニウムであることを特徴とする、請求項1に記載のエナメル粉末。
【請求項3】
記粗ガラス顆粒はガラス材料からなり、前記ガラス材料の組成および特性は、前記エナメル粉末から生成されるエナメルコーティングの組成および特性に対応することを特徴とする、請求項1または2に記載のエナメル粉末。
【請求項4】
記粗ガラス顆粒の平均直径は、40〜500μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエナメル粉末。
【請求項5】
前記エナメル粉末が前記軽金属の粉状酸化化合物を含有する場合には、前記軽金属の粉状酸化化合物の溶融点は1000℃よりも高いことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエナメル粉末。
【請求項6】
エナメルコーティングが設けられた表面部分(10)を有する金属コンポーネントであって、前記金属コンポーネントは前記表面部分がエナメルコーティング(11)によってコートされ、前記エナメルコーティング(11)は、請求項1〜5のいずれか1項に従って構成されたエナメル粉末から形成されることを特徴とする、金属コンポーネント。
【請求項7】
前記エナメルコーティング(11)の膨張係数は、前記エナメルコーティング(11)によってコートされた前記表面部分(10)における前記金属コンポーネントの膨張係数よりも低いことを特徴とする、請求項6に記載の金属コンポーネント。
【請求項8】
軽金属合金からなることを特徴とする、請求項6または7に記載の金属コンポーネント。
【請求項9】
前記エナメルコーティング(11)が設けられた前記表面部分は、ガスダクト(6)の内表面(10)であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の金属コンポーネント。
【請求項10】
内燃機関に対するシリンダヘッド(1)であることを特徴とする、請求項8または9に記載の金属コンポーネント。
【請求項11】
前記エナメルコーティング(11)が設けられた前記表面部分は、前記金属コンポーネントの外側にあることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項に記載の金属コンポーネント。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか1項に従って形成された金属コンポーネントを製造するための方法であって、以下の製造ステップ、すなわち
− 前記金属コンポーネントを提供するステップと、
− 請求項1〜5のいずれか1項に従って構成されたエナメル粉末およびスリップ手段を用いて形成されたエナメルスリップを、コートされるべき前記金属コンポーネントの前記表面部分に適用するステップと、
− 前記金属コンポーネントを構成する材料の溶融温度よりも低い温度で前記エナメルスリップを焼成することによって、前記エナメルコーティング(11)を生成するステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記エナメルスリップを焼成した後の前記金属コンポーネントは、得られた前記エナメルコーティング(11)が設けられた前記表面部分の範囲において機械加工を受けることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エナメルスリップを適用する前に、前記エナメルコーティング(11)によってコートされるべき前記金属コンポーネントの前記表面部分は表面処理を受け、ここで前記表面部分は脱脂および不動態化され、かつ前記表面部分に存在する表面近くの酸化物層が破壊されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル粉末、エナメルコーティングが設けられた表面部分を有する金属コンポーネント、およびこうした金属コンポーネントを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に詳細に説明されるとおり、何世紀にもわたって公知である、鋼および銅で作られたコンポーネントをエナメル加工する手段に加えて、前世紀の中頃からは、たとえばアルミニウム、マグネシウムおよびチタンなどの軽金属で作られたコンポーネントのエナメル加工の重要度が増している。ここでは、技術的観点から、コンポーネント表面の腐食性攻撃からの保護が優先される。
【0003】
上述の非特許文献1にさらに説明されるとおり、エナメルコーティングは、提供された基体に対して、特に溶融温度および熱膨張係数に関して適合されたガラス層である。エナメルコーティングは、ガラス表面の特性を金属の材料特性および処理特性と組み合わせる。他のコーティングとは対照的に、ガラス−金属複合体は、それぞれのエナメルコーティングが焼成されるときに結合し、ここでガラス材料と金属基体との間にいわゆる合金相という中間層が形成される。これらの中間層は、コーティングが特に強力に金属に結合されることを確実にする。この目的のために、現在の最新のエナメルは多成分混合物であり、その低い焼成温度における共融系のおかげで、非常に良好な機械的硬度および化学的抵抗性が得られる。エナメル加工されたワークピースは、たとえば曲げ、鋸引きまたは穿孔などによる機械加工が可能であり、さらに、たとえば硬い引っ掻き抵抗性エナメルコーティングに温度抵抗性のノンスティック効果を補うなどのために、機能的なナノスケールのゾル−ゲル層が付加的に設けられてもよい。
【0004】
加えて特許文献1から、たとえば内燃機関のシリンダヘッドなどの、軽金属鋳造部分の排気ガスダクトの内表面を、ガラス材料からなるコーティングで少なくとも部分的にコートすることによって、それらの内表面を過剰な熱応力から効果的に保護できることが公知である。この提案を実際に適用するとき、一方では動作中に起こる機械的負荷および熱負荷にコーティングが信頼性高く耐える必要があり、他方ではコートされた表面部分に当接するそれぞれのコンポーネントの部分を、コーティングが欠ける危険なしに機械加工することを可能にする必要があるという事実によって、特定の課題が設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2010 025 286(A1)号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ヴォルフガング クーン(Wolfgang Kuehn)工学博士著「軽金属のエナメル加工の手段および制限(Moeglichkeiten und Grenzen der Emaillierung von Leichtmetallen)」,Oberflaechen Polysurfaces誌,02/2009版,6〜9頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の先行技術の背景に対して、本発明の目的は、金属コンポーネント、特に軽金属コンポーネントの上にコーティングが生成されることを可能にするコーティング材料を提供することであり、加えてこのコーティングは高い機械的負荷および熱負荷に信頼性高く耐えることができ、かつそのプロセスは機械加工に好適である。加えて、これに対応して構成されたコーティングが少なくとも1つの表面部分に設けられた金属コンポーネントと、こうした金属コンポーネントを製造するための方法とが明示されるはずである。
【0008】
コーティング材料に関して、上記の目的は、請求項1に明示される構成要素を有するエナメル粉末によって、本発明に従って達成される。
【0009】
金属コンポーネントに関して、上記の目的は、請求項6に明示される特徴を有する金属コンポーネントによって達成される。
【0010】
最後に方法に関して、上記の目的は、エナメルコーティングが設けられた少なくとも1つの表面部分を有する金属コンポーネントを製造するときに、請求項12に示される方法ステップを行うことによって、本発明に従って達成される。
【0011】
本発明の有利な実施形態は従属請求項に明示されており、かつ一般的な発明概念と同様に以下に詳細に説明される。
【0012】
本発明に従うエナメル粉末は、100部のガラス粉末と、10〜22部の、ガラス粉末粒子よりも大きい粗ガラス顆粒と、0.1〜7.5部のセラミック繊維、ガラス繊維または炭素繊維と、互いに代替的な、または互いに組み合わされた、10〜21部の軽金属の粉状酸化化合物、または1〜5部の重金属の粉末とを含有する混合物として存在する。
【0013】
エナメル技術において通例であるとおり、本明細書において用量の尺度として「部」に言及するとき、それはすべての構成要素に対して同じ単位尺度によって測定された、エナメル粉末に加えられるそれぞれの構成要素の量であると理解され、個々の構成要素に対して本発明に従ってそれぞれ与えられる「部」は、この単位尺度のそれぞれの倍数を示す。したがって、本明細書において用いられる「部」のデータは、たとえばgまたはkgなどのある任意の重量単位に基づく量データである(すなわち体積データではない)。それぞれの重量単位は、それぞれに必要とされる総量の関数として選択され得る。本発明に従うエナメル粉末が1キログラム未満の領域にある少量だけ必要とされるときは、基準単位として「グラム」が選択される。よって、100gのガラス粉末と、10〜22gの、ガラス粉末粒子よりも大きい粗ガラス顆粒と、0.1〜7.5gのセラミック繊維、ガラス繊維または炭素繊維と、互いに代替的な、または互いに組み合わされた、10〜21gの軽金属の粉状酸化化合物、または1〜5gの重金属の粉末とが混合されて、本発明に従うエナメルが形成される。他方で、500kgのサイズの量が必要とされるときは、本発明に従うエナメル粉末調合物の各「部」に、たとえば「5kg」の量単位が割り当てられてもよい。よって本発明に従って、500kgのガラス粉末と、50〜110kgの、ガラス粉末粒子よりも大きい粗ガラス顆粒と、0.5〜37.5kgのセラミック繊維、ガラス繊維または炭素繊維と、互いに代替的な、または互いに組み合わされた、50〜105kgの軽金属の粉状酸化化合物、または5〜25kgの重金属の粉末とが混合されて、本発明に従うエナメルが形成される。
【0014】
本発明に従うエナメル粉末の個々の構成要素は、以下の定義を有する。
【0015】
a)ガラス粉末
ガラス粉末は、本発明に従うエナメル粉末の主成分であって、本発明に従って構成され、かつ金属コンポーネントのそれぞれの表面部分において生成されるエナメルコーティングに対するマトリックスを形成し、このマトリックス中にエナメル粉末の他の構成要素が埋め込まれる。
【0016】
先行技術においてこの目的のために一般的に用いられるタイプのガラスが、ガラス粉末として用いられ得る。同時に、各場合に本発明に従うエナメル粉末によって形成されるエナメルコーティングでコートされるべき表面部分を有する基体材料よりも低い膨張係数を有するタイプのガラスからなるガラス粉末が、本発明に対して好適である。エナメルコーティングを焼成する過程で、それぞれの金属基体が損傷または変形することを防ぐために、こうしたタイプのガラスから生成されるガラス粉末は、それぞれの基体材料の溶融温度が存在する温度範囲よりも低い温度で溶融すべきである。
【0017】
軽金属コンポーネントの表面部分に適用されるときの、ガラス粉末の典型的な許容可能溶融温度は480〜650℃、特に540〜580℃または510〜540℃の範囲に存在する。
【0018】
軽金属から製造されるコンポーネントの表面に適用されるとき、こうしたガラス粉末を主成分として生成され、かつ他の点において本発明に従って構成されたエナメルコーティングは、もしそのエナメルコーティングが設けられた表面においてそれぞれのコンポーネントが動作中に露出される温度が、軽金属材料の溶融温度および本発明に従うエナメル粉末から生成された実際のコーティングの溶融温度よりもかなり高ければ、熱負荷および機械的負荷に信頼性高く耐え、かつ軽金属基体を信頼性高く保護することが明らかとなった。よって、本発明に従うエナメル粉末は、使用中に高温の排気ガス流に露出される、特にアルミニウム材料などの軽金属材料から製造された内燃機関に対するコンポーネントの表面をコートするために特に好適である。この種のコンポーネントは、実際には鋳造によって通常製造される。
【0019】
しかし、本発明に従うエナメル粉末は、高温ガス流に露出される表面部分をコートするために好適であるだけでなく、金属コンポーネントの外側にある表面をコートするためにも用いられ得る。動作中に高温に加熱されるコンポーネントの場合、本発明に従うエナメル粉末から形成されるコーティングは、熱放射を低減させる働きをし得る。
【0020】
金属コンポーネントの表面は、本発明に従うエナメル粉末によって均一にコートされてもよく、コートされた後の金属コンポーネントは非常に平滑な表面を有することとなる。こうした表面はたとえば、流体が金属コンポーネントのダクトを通って流れるところ、または動作中に流体の流れに露出されるその他のコンポーネント部分に設けられ得る。
【0021】
本発明に従うエナメル粉末から生成されるコーティングはさらに、攻撃的な環境において、標的とされるやり方で、本発明に従って生成されたエナメルコーティングがそれぞれ設けられた表面を腐食から保護することができる。
【0022】
本発明に従うエナメル粉末の主成分を形成するガラス粉末の粒子の粒径(平均直径)は、典型的に5〜40μmの範囲に存在し、実際には平均25μmの粒径を有するガラス粉末が特に好適であることが判明している。
【0023】
b)粗ガラス顆粒
本発明に従うエナメル粉末から生成されるエナメルコーティングに、クラック形成に対するさらに改善された抵抗性を提供するために、本発明に従うエナメル粉末に10〜22部の粗ガラス顆粒が加えられ得る。本発明に従うエナメル粉末の主成分を形成するガラス粉末の最大粒子よりも大きいそれらのガラス粒子は「粗ガラス顆粒」と呼ばれる。よって典型的に、40μmを超える平均直径を有するガラス顆粒がこれに含まれる。同時に、本発明に従うエナメル粉末によって本発明に従って生成されるコーティングが過剰に粗くなることを防ぐために、粗ガラス顆粒の平均直径は500μmを超えるべきではない。
【0024】
粗顆粒は体積が比較的大きいために、エナメルコーティングが焼成されるときに完全に溶融せず、基本構造を保持する。もし実際の使用中にエナメルコーティングにクラックが形成されれば、本発明に従うエナメルコーティング中に存在するガラス顆粒が、それぞれのクラックによって克服され得ない一種のバリアとして作用して、クラックのさらなる拡大を妨げる。このやり方で、クラックの進行が阻止され、コーティングのさらなる損傷が防がれる。
【0025】
本発明に従うエナメル粉末と同様に構成されたガラス粒子が、粗ガラス顆粒として用いられてもよい。こうしたエナメル粉末から生成された粗ガラス顆粒は、本発明に従うエナメル粉末から生成されたコーティングの組成および特性に対応する組成および特性を有する。このやり方で、本発明に従って生成されたコーティングが、粗ガラス顆粒の存在にもかかわらず、最大限可能な程度に均一な特性および等しく一貫した挙動を有することが確実にされる。本発明に従うエナメル粉末を製造する過程でフリットとしてすでに添加されていたそれらの粗ガラス顆粒は、本発明に従うエナメル粉末に対して特に好適であることが判明している。こうしたフリット化ガラス顆粒、すなわち完全に溶融されていないガラス顆粒は、本発明に従うエナメル粉末によって生成されるエナメルコーティングにおいてより大きなクラックの形成を防ぐことに関して、特に有効であることが判明している。
【0026】
粗ガラス顆粒の効果を所望の信頼性とともにもたらすために、本発明に従うエナメル粉末はこれらのガラス顆粒を10〜22部含有し、ここで本発明に従うエナメル粉末に少なくとも15部の粗ガラス顆粒が添加されるときに、最適な効果がもたらされる。
【0027】
c)セラミック繊維、ガラス繊維または炭素繊維
本発明に従うエナメル粉末の中に存在する繊維は、特別重要である。これらの繊維は、本発明に従う粉末から形成されるエナメルコーティングが、温度変動によって起こり得る高い応力、および実際の使用中に起こる機械的圧力負荷の存在下でも信頼性高くまとまっていることを確実にする。
【0028】
この機能を実現するために、本発明に従うエナメル粉末中には0.1〜7.5部、特に少なくとも2部または少なくとも3.5〜7.5部のセラミック繊維、ガラス繊維または炭素繊維が存在し、ここでセラミック繊維、ガラス繊維および炭素繊維はそれぞれ別個に加えられてもよいし、混合物として加えられてもよい。本発明に従う粉末中に4〜6部の繊維材料が存在するときに、最適な効果が生じる。
【0029】
原則として、10〜9000μmの繊維長を有するセラミック繊維、ガラス繊維または炭素繊維が、本発明に従うエナメル粉末に対して好適である。繊維長が長いと、本発明に従うエナメル粉末から形成されるエナメルコーティングの粘着に関して有利であることが判明しているが、加工性を損ない得る。10μm未満の繊維長では、強化効果が弱すぎる。10〜1000μmの長さを有する繊維は、十分有効であることが判明しており、同時に良好な加工性を保証することが判明している。
【0030】
炭素繊維に対して、商業的に入手可能な繊維を用いてもよい。セラミック繊維およびガラス繊維についても同様であり、ここでは例として、異なる組成の炭化ケイ素繊維またはガラス繊維を挙げることができる。
【0031】
d)軽金属の酸化化合物または重金属の粉末
それぞれ意図される使用に関して重要でない範囲において、エナメル粉末から形成されるコーティングの溶融点をシフトさせるために、軽金属の粉状酸化化合物または重金属の粉末が、同時または代替的に本発明に従うエナメル粉末中に存在し得る。
【0032】
このやり方で、軽金属コンポーネント上にもエナメルコーティングを生成でき、このエナメルコーティングはそれぞれの軽金属材料の溶融温度に関する非臨界的焼成条件で形成するが、実際の使用中に起こる最高温度に安全に耐えられるほどの温度抵抗性を有する。
【0033】
この効果を達成するために、本発明に従うエナメル粉末は、10〜21部、特に12〜17部の軽金属の粉状酸化化合物、および/または1〜5部、特に2〜4部の重金属の粉末を含有する。
【0034】
本文において、5g/cm未満の密度を有する金属は「軽金属」と理解される。特にAl、TiおよびMgが軽金属に含まれる。
【0035】
これらの軽金属の酸化物のうち、Al酸化物は2000℃を超える高い溶融点を有することから、本発明に従うエナメル粉末に用いるために特に好適である。しかし、特に軽金属コンポーネントをコートするときには、たとえばTi酸化物などからなる粉末など、その他の軽金属酸化物粉末が用いられてもよく、各場合の粉末の溶融点はなおも1000℃を超えているため、明らかに軽金属基体の溶融温度範囲よりも上にある。
【0036】
もし軽金属酸化物がエナメル粉末から形成されるアモルファスコーティング材料の量に対して最大30%の量で存在すれば、それぞれに提供される軽金属酸化物は、本発明に従うエナメル粉末から生成されるエナメルコーティングの特性に最適なやり方で影響し得る。
【0037】
5g/cm以上の密度を有するすべての金属およびその合金は「重金属」とみなされる。すべての鉄に基づく材料、特に合金鋼からなる金属粉末は重金属に含まれる。高純度の鋼からなる金属粉末、たとえば「V2A」および「V4A」という呼称で公知であり、かつ材料番号1.4301および1.4401によって規格化された鋼X5CrNi18−10およびX5CrNiMo17−12−2などは、特に好適であることが判明している。ここではさらに、焼成プロセスの際に金属粉末の特性が変化しないように、それぞれの金属粉末の溶融点が1000℃よりも高いことが有利であることが判明している。
【0038】
もし重金属またはその合金の金属粉末が、アモルファスコーティング材料の量に対して最大10%の量で存在すれば、金属粉末は、本発明に従うエナメル粉末から生成されるエナメルコーティングの特性に最適なやり方で影響し得る。
【0039】
本発明に従うエナメル粉末に加えられるそれぞれの金属粉末の粒、または軽金属のそれぞれの粉状酸化物の粒の平均直径は、典型的に10〜500μmの範囲に存在すべきである。
【0040】
e)その他の構成要素
前に定義された構成要素に加えて、エナメルコートを生成するために典型的に必要とされるとおり、もちろん任意にその他の添加剤が本発明に従うエナメル粉末中に存在してもよい。たとえばホウ酸、苛性カリ溶液、水ガラス、または脱塩水などがその添加剤に含まれる。
【0041】
本発明に従うエナメル粉末は、特定の量の個々の構成要素を混ぜ合わせて、均一な粉末が得られるまでともに粉砕することによって生成され得る。粗ガラス顆粒は、粉砕プロセスの最後まで完全に微粉砕されずに、粉砕完了した粉末中になおも本発明に従って必要とされるサイズで存在するように、十分遅く粉砕材料に加えられてもよい。同じやり方で、繊維も完全に微粉砕されずに、粉砕プロセスの最後に必要な長さで存在するように、粉砕プロセスのより遅い時点でのみ粉砕材料に加えられてもよい。
【0042】
代替的に、本発明に従うエナメル粉末は、それぞれに必要とされる粒径によって予め別々に製作された構成要素が混合されてもよい。
【0043】
本発明に従うエナメル粉末から生成されるエナメルコーティングの、前に定義された特性を用いて、本発明に従う金属コンポーネントは、実際の使用中に露出される熱負荷および機械的負荷から保護するために、本発明に従うエナメル粉末から形成されるエナメルコーティングによってコートされた表面部分を有する。本発明に従ってコートされたそれぞれの表面が、そこを流れる高温ガス、特に内燃機関の排気ガスの結果としてもたらされる高い熱負荷および機械的負荷に耐える必要があるような金属コンポーネントに対して、本発明は特に有利であることが判明している。
【0044】
本発明に従って構成および生成されるコーティングは無機非金属アモルファス材料であり、その構成要素のために、変動する熱負荷および機械的負荷に対する高い耐久性を有する。このプロセスにおいて、より粗いガラス粒子が存在するために、たとえコーティングにより小さいクラックが形成されたとしても、より大きなクラック形成は起こらずに、コーティングがそれぞれの表面部分に固着し続けることが確実にされる。同時に、本発明に従って提供されるエナメルコーティングに存在する繊維は、エナメルコーティングが高応力下でもまとまっていることを確実にする。
【0045】
本発明に従って構成されたエナメルコーティングは、その構成要素のために、基本的には引っ張り強さよりも圧力抵抗性が高い。したがって、エナメルコーティングによってコートされた表面部分において、エナメルコーティングの膨張係数が金属コンポーネントの膨張係数よりも低くなるように本発明に従って指定された制限内に設定されたエナメル粉末の組成によりエナメルコーティングでそれぞれコートされた表面部分によって、エナメルコーティングがクラックおよびチップを形成する傾向をさらに最小化できる。
【0046】
本発明に従うエナメル粉末は、軽金属または軽金属合金からなる金属コンポーネント上にエナメルコーティングを生成するために特に好適である。これは特に、鋳造によって製造される金属コンポーネントに当てはまる。よって、特に軽金属鋳造部分の表面部分、特にアルミニウム鋳造部分を、本発明に従うやり方でコートできる。経済的および技術的観点から特に重要な、本発明に従うタイプのエナメルコーティングの使用は、内燃機関の構築を行うための軽金属鋳造部分の表面部分のコーティングである。たとえば、排気ガスを排出するシリンダヘッドのダクトおよびターボチャージャハウジングなどの内表面などがこの表面部分に含まれる。
【0047】
本発明に従う金属コンポーネントを製造するための本発明に従う方法は、一般的に以下の製造ステップを含む。
− 金属コンポーネントを提供するステップ、
− 本発明に従うエナメル粉末と、スリップ手段とを用いて形成されたエナメルスリップを、それぞれコートされるべき金属コンポーネントの表面部分に適用するステップ、および
− 金属コンポーネントを構成する材料の溶融温度よりも低い温度でエナメルスリップを焼成することによって、エナメルコーティングを生成するステップ。
【0048】
たとえば脱塩水は、スリップ手段に対して好適である。加えて、たとえば塩化マグネシウム、亜硝酸ナトリウム、ホウ酸、苛性カリ溶液、または水ガラスなどのさらなる添加剤が、セットアップ剤としてエナメルスリップ中に存在し得る。
【0049】
スリップは、たとえば噴霧、フラッディング、または塗り広げることなどによって、それぞれにコートされるべき表面に適用される。狭いダクト、凹みおよび空洞の内表面にエナメルコートを適用するためには、フラッディングが特に好適である。これは、たとえば内燃機関に対するコンポーネントに見出されるものなどの狭い排気ガスダクトなどに当てはまる。コートの厚さは、それぞれの適用に適合され得る。よってその厚さは、必要であれば0.5mmより大きく、特に最大1mmの範囲であってもよい。たとえば300〜600μmなどのコート厚さが、実際に提示される要求に対して十分であることが判明している。しかし、熱負荷および機械的負荷が高い場合には、それぞれの金属基体を、そこに流れる高温のガスの影響から十分に保護するために、より大きなコート厚さを提供することが有利であり得る。こうした場合には、0.6mmを超える厚さのエナメルコーティング、特に最大0.75mmの厚さ、最大1mmの厚さ、最大1.5mmの厚さ、または最大2mmの厚さのエナメルコーティングが有利であり得る。
【0050】
150μm以上の、より大きいコート厚さを有するコーティングは、2つまたはそれ以上のコートを適用することによって形成でき、ここで個々のコートはそれぞれ1つのパスで適用されてもよい。これを行う際に、コート構造が形成されてもよく、その一番上のカバーコートは本発明に従うエナメル粉末から形成され、カバーコートの間に、先行技術においてこれらの目的のためにすでに用いられていた粉砕エナメルからなる1つまたはそれ以上のコートが存在する。機能性コートとしての、本発明に従うエナメル粉末からなるカバーコートは、次いでコーティング全体の外側仕上を形成する。
【0051】
エナメルコーティングが金属コンポーネントのそれぞれの表面部分に最適なやり方で結合することを確実にするために、エナメルコーティングによってコートされるべき金属コンポーネントの表面部分に、エナメルスリップを適用する前に表面処理を受けさせてもよく、ここで表面部分は脱脂および不動態化され、かつ表面部分に存在する表面近くの酸化物層が破壊される。酸化物層は、たとえばブラスティングまたは機械的粗面化などによって破壊され得る。
【0052】
本発明に従うエナメルコーティングが軽金属コンポーネント上に生成されるとき、完全に乾燥せずにまだ湿っているエナメルスリップによって、焼成が最適に行われる。
【0053】
エナメルコーティングの焼成は、各場合に、それぞれコートされるべき表面部分を構成する金属材料の溶融温度よりも低い温度にて行われる。アルミニウムから製造されるコンポーネントの場合には、焼成温度は典型的に480〜650℃、特に510〜540℃の範囲に存在する。
【0054】
焼成は別個の製造ステップとして行われてもよく、各場合のこのプロセスにおいて、適用されるエナメルスリップコートは、ガラスマトリックスが溶融して金属基体に結合することを可能にするために焼成温度まで短時間加熱されるだけでよいため、短時間しか要しない。
【0055】
代替的に、焼成は、それぞれの金属コンポーネントの機械的特性またはその他の特性を定めるために金属コンポーネントが受ける熱処理ステップと組み合わせて行われてもよい。アルミニウム鋳造部分またはその他の軽金属鋳造部分の場合、たとえば多くの適用において必要とされる溶液アニーリングがこのために適切であり、ここでそれぞれの鋳造部分は焼成プロセスのために好適な温度範囲で保持される。
【0056】
本発明に従って生成されるエナメルコーティングの特に有利な点は、こうしたやり方でコートされた金属コンポーネントが、エナメルスリップを焼成した後に、得られたエナメルコーティングが設けられた表面部分の範囲において、エナメルコーティングを破壊することなく機械加工を受け得ることである。
【0057】
例示的実施形態を表す図面の助けによって、以下に本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】シリンダヘッドの長手方向の伸長に対して横方向に整列された部分における、シリンダヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
たとえば火花点火機関またはディーゼル機関に対するAlSi 11合金など、これらの目的に対して通常使用されるアルミニウム鋳造材料から鋳造されたシリンダヘッド1は、平坦な接触表面2を有し、使用中は接触表面2によって、適切に挿入されたここには図示されないシリンダヘッドガスケットを介して、同様にここには図示されないそれぞれの内燃機関の機関ブロックの上にシリンダヘッド1が載る。内燃機関は、同様にここには見られない上下に動く内側のピストンとともに直列に配置された燃焼室を有する。
【0060】
内燃機関のシリンダの数に対応する多くのドーム形の凹み3が接触表面2内に成形されており、内燃機関のピストンのストローク方向における内燃機関の燃焼室の上側閉鎖を形成している。
【0061】
吸気ポート5は、シリンダヘッド1の一方の長手側4’から供給されて、各場合に凹み3内に開いており、動作中はこの吸気ポート5を介してそれぞれの燃料−空気混合物が燃焼室に入れられる。同時に、排気ガスダクト6はそれぞれの凹み3からシリンダヘッド1の反対の長手側4”に通じており、この排気ガスダクト6を介して、燃焼プロセスの間に蓄積した排気ガスが内燃室の燃焼室から排出される。燃焼プロセスの進行の機能として、吸気ポート5の開口部7と、排気ガスダクト6の入口開口部8とは、明瞭性のためにここには図示されないそれぞれの弁によって、それ自体公知の態様で開放または閉鎖される。
【0062】
燃焼プロセスの結果として動作中に生じる熱を放散させるために、シリンダヘッド1には、それ自体公知の態様で冷却ダクト9が横切っており、動作中にはこの冷却ダクト9を通って冷却液が流れる。
【0063】
排気ガスダクト6を囲む排気ガスダクト6の内表面10は、特に入口開口部8に接続される区域において、入口開口部が開いているときに高流速で排気ガスダクト6に流れ込む高温の排気ガスによって、動作中に高い熱負荷および機械的負荷に露出される。
【0064】
これらの負荷に対する保護を提供するために、内表面10は薄いエナメルコーティング11によってコートされており、このエナメルコーティング11の厚さは平均400μmであり、かつエナメルコーティング11は排気ガスダクト6の全長にわたって内表面10を被覆している。
【0065】
エナメルコーティング11は、エナメルコーティングを形成するために排気ダクト6をエナメルスリップでフラッディングした後に、まだ湿った状態で520℃の焼成温度で焼成することによって、180μmの厚さで内表面10に適用されたエナメルスリップからなる1つまたはそれ以上のコートを焼成することによって、1つまたはそれ以上のパスにおいて必要なコート厚さに応じて形成された。このやり方で得られるエナメルコートは、たとえば約120μmの厚さを有する。
【0066】
エナメルスリップを生成するために、
100.0部のガラス粉末であって、そのガラス粒子の平均直径は25μmであった、ガラス粉末と、
20.0部の平均直径100μmの粗ガラス顆粒と、
0.5部の平均の長さ300μmの炭素繊維と、
15.0部の平均直径100μmの酸化アルミニウム粒子と、
3.0部のV2A高純度鋼からなる粉末であって、この高純度鋼粉末の粒子の平均直径は平均50μmであった、高純度鋼粉末と、
を混ぜ合わせてエナメル粉末を形成後、38.0部の脱塩水によって処理してエナメルスリップにした。この目的のために、たとえば個々の成分をともに粉砕し、材料特性を考慮してそれぞれの成分を加える時点を選択することによって、粉砕プロセスの最後にそれぞれの成分が有する粒径を定めた。
【0067】
このやり方で組み合わされたエナメルスリップの、フラッディングによって行われる適用に先行して表面処理が行われ、ここで内表面10は熱または化学的に脱脂された後に化学的に不動態化され、加えて、シリンダヘッド1のAl鋳造材料と周囲の酸素との接触の結果としてそこに形成された酸化物層が、内表面10を標的とした粗面化によって破壊された。
【符号の説明】
【0068】
1 シリンダヘッド
2 接触表面
3 燃焼室の凹み
4’、4” 長手側
5 吸気ポート
6 排気ガスダクト
7 吸気ポート5の開口部
8 排気ガスダクト6の入口開口部
9 冷却ダクト
10 排気ガスダクト6の内表面
11 エナメルコーティング
図1