特許第6231686号(P6231686)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231686
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】交差条片を有する計時器共振器
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/04 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   G04B17/04
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-535688(P2016-535688)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公表番号】特表2017-503155(P2017-503155A)
(43)【公表日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】EP2015079515
(87)【国際公開番号】WO2016096677
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2016年6月1日
(31)【優先権主張番号】14199039.0
(32)【優先日】2014年12月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ディ・ドメニコ,ジャンニ
(72)【発明者】
【氏名】イノー,バティスト
(72)【発明者】
【氏名】クリンガー,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】エルフェ,ジャン−リュック
【審査官】 藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02911012(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02645189(EP,A1)
【文献】 BARROT F,UN NOUVEAU REGULATEUR MECANIQUE POUR UNE RESERVE DE MARCHE EXCEPTIONNELLE,ACTES DE LA JOURNEE D'ETUDE,2014年 9月17日,PAGE(S):43 - 48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続要素(2)に対して揺動する少なくとも1つの錘(1)を備える計時器共振器(100)であって、前記接続要素(2)は、前記共振器内に含まれ、計時器ムーブメント(200)の構造体に直接又は間接的に固定するように配置し、前記少なくとも1つの錘(1)は、交差条片(3、4)によって前記接続要素(2)から懸架し、前記交差条片(3、4)は、2つの平行平面内で互いからある距離で延在する弾性条片であり、前記平行平面のうち1つにおける前記交差条片の方向突出部は、前記錘(1)の仮想枢動軸(O)で交差し、前記仮想枢動軸(O)から、頂角である第1の角度(α)を一緒に画定し、前記仮想枢動軸(O)に対向して、前記接続要素(2)の部分が延在し、前記接続要素(2)の前記部分は、前記交差条片(3、4)の前記接続要素(2)への取付け部の間に位置する、計時器共振器(100)において、前記第1の角度(α)は、68°から76°の間を含み、
前記交差条片(3、4)は、内側半径(ri)が前記仮想枢動軸(O)と前記交差条片の前記接続要素(2)への前記取付け点との間であり、外側半径(re)が前記仮想枢動軸(O)と前記交差条片の前記錘(1)への取付け点との間であり、全長(L)がL=ri+reである場合、Q=ri/Lの比率(Q)が0.12から0.13の間を含むように寸法決定することを特徴とする、計時器共振器(100)。
【請求項2】
接続要素(2)に対して揺動する少なくとも1つの錘(1)を備える計時器共振器(100)であって、前記接続要素(2)は、前記共振器内に含まれ、計時器ムーブメント(200)の構造体に直接又は間接的に固定するように配置し、前記少なくとも1つの錘(1)は、交差条片(3、4)によって前記接続要素(2)から懸架し、前記交差条片(3、4)は、2つの平行平面内で互いからある距離で延在する弾性条片であり、前記平行平面のうち1つにおける前記交差条片の方向突出部は、前記錘(1)の仮想枢動軸(O)で交差し、前記仮想枢動軸(O)から、頂角である第1の角度(α)を一緒に画定し、前記仮想枢動軸(O)に対向して、前記接続要素(2)の部分が延在し、前記接続要素(2)の前記部分は、前記交差条片(3、4)の前記接続要素(2)への取付け部の間に位置する、計時器共振器(100)において、前記第1の角度(α)は、68°から76°の間を含み、
前記交差条片(3、4)は、内側半径(ri)が前記仮想枢動軸(O)と前記交差条片の前記接続要素(2)への取付け点との間であり、外側半径(re)が前記仮想枢動軸(O)と前記交差条片の前記錘(1)への取付け点との間であり、厚さ(e)が各前記交差条片(3、4)の平面内である場合、Qm=(ri+e/2)/(ri+e/2+re)の比率(Qm)が0.12から0.13の間を含むように寸法決定することを特徴とする、計時器共振器(100)。
【請求項3】
前記第1の角度(α)は、70°から76°の間を含む、請求項1又は2に記載の共振器(100)。
【請求項4】
前記第1の角度(α)は、70°から74°の間を含む、請求項に記載の共振器(100)。
【請求項5】
前記第1の角度(α)は、71.2°に等しい、請求項に記載の共振器(100)。
【請求項6】
前記比率(Q)又は(Qm)は、0.1264に等しいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の共振器(100)。
【請求項7】
前記平行平面のうち1つにおける突出部では、前記共振器(100)は、前記共振器が休止位置にある場合、前記第1の角度(α)の二等分線(OX)に対して対称であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の共振器(100)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの錘(1)は、てんぷ車であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の共振器(100)。
【請求項9】
前記交差条片(3、4)はそれぞれ、前記接続要素(2)の表面上で前記接続要素(2)内に固定し、前記接続要素(2)の前記表面は、前記接続要素(2)の固定点で、関係する前記交差条片(3、4)の端部に直交することを特徴とする、請求項1又は2に記載の共振器(100)。
【請求項10】
前記共振器(100)は、少なくとも2つの揺動錘を調整アンクル構造内に含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の共振器(100)。
【請求項11】
前記共振器(1)は、一体式であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の共振器(100)。
【請求項12】
前記共振器(100)は、シリコン又はシリコン酸化物又は金属ガラス又は石英又はDLCから作製することを特徴とする、請求項11に記載の共振器(100)。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の前記共振器(100)内に含まれる少なくとも1つの接続要素(2)を直接又は間接的に固定した構造を備える計時器ムーブメント(200)。
【請求項14】
請求項13に記載のムーブメント(200)及び/又は請求項1又は2に記載の少なくとも1つの前記共振器(100)を含む計時器(300)又は時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器共振器に関し、計時器共振器は、接続要素に対して揺動する少なくとも1つの錘を備え、接続要素は、共振器内に含まれ、計時器ムーブメントの構造体に直接又は間接的に固定するように配置し、前記少なくとも1つの錘は、交差条片又は梁によって前記接続要素から懸架し、交差条片又は梁は、2つの平行平面内で互いからある距離で延在する弾性条片であり、前記平行平面のうち1つにおける前記条片の方向突出部は、前記錘の仮想枢動軸で交差し、前記仮想枢動軸から、頂角である第1の角度を一緒に画定し、仮想枢動軸に対向して、前記接続要素の部分が延在し、前記接続要素の部分は、前記交差条片の前記接続要素への取付け部の間に位置する。
【0002】
本発明は、そのような共振器を含む計時器ムーブメントにも関する。
【0003】
本発明は、そのようなムーブメント及び/又はそのような共振器を含む計時器、特に時計にも関する。
【0004】
本発明は、計時器、特に時計に関する時間の基礎の分野に関する。
【背景技術】
【0005】
交差条片又は梁を有するてんぷ車は、ぜんまい付きてんぷの代わりに、機械式時計における時間の基礎として使用できる共振器である。
【0006】
交差条片又は梁を使用すると、枢動部でもはや摩擦が一切ないため、品質係数が高まるという利点を有する。
【0007】
しかし、交差条片を有するてんぷには、2つの著しい欠点がある。
弾性戻りトルクが非線形であるため、システムを非等時性にする、即ち、共振器の振動数が、振動振幅によって変化すること;
てんぷの質量中心は、瞬間回転軸の寄生運動に起因する残留運動を受けることである。したがって、共振器の振動数は、重力場での時計の向きによって変化し、このことは、位置効果として公知である。
【0008】
F.Barrot、T.Hamaguchiによる刊行物、「Un nouveau regulateur mecanique pour une reserve de marche exceptionnelle」、スイス時計学会の2014年スタディー・デイの会報では、著者等は、交差条片を有するてんぷから形成した揺動器を開示した。上記著者等は、「重力に対するてんぷの向きとは無関係な振動数をもたらす」ために「Wittrick型の枢動部の実装を選択する」ことを説明している。条片がその長さ部の8分の7で交差するこの特性の構成は、W.H.Wittrickの著書、<<The properties of crossed flexure pivots and the influence of the point at which the strips cross(交差撓み枢動部の特性及び条片交差点の影響)>>、The Aeronautical Quarterly II(4)、272〜292頁(1951年)において開示された。上記特性は、仮想回転軸の変位を最小にし、その結果、位置効果を最小にするという利点を有する。しかし、2つの条片の間が90°の角度である場合、これらの著書で使用される、こうした交差条片を有するてんぷは、かなり非等時性であり、この理由は、上記書著等が、等時性補正器と呼ばれる更なる構成要素を介して補償を使用したためである。実験測定値は、そのような補償が、実際には非常に達成困難であることを示しており、したがって、弾性戻りトルクの非線形によって生じる位置効果及び非等時性の両方をなくす条片の形状を見出すことが非常に有用であると思われる。
【0009】
CSEM名義のEP特許出願第2911012A1号は、仮想枢動部を有する回転計時器揺動器を開示しており、仮想枢動部は、特に、一体式実施形態では、いくつかの可撓性条片によって支持部に接続したてんぷを有する。少なくとも2つの可撓性条片は、揺動器の平面に直交する平面で延在し、直線における互いへの割線は、揺動器の揺動形状軸を画定し、この軸は、それぞれの長さ部の8分の7で2つの条片を交差させる。
【0010】
独自の摩擦のない、仮想揺動軸周りの回転を得る一方で、この軸の変位を最小にするために、長さ部の8分の7で交差点を有する構成が最適であることは、W.H.Wittrick、シドニー大学、1951年2月の著書により既に公知である。
【0011】
この文献EP2911012A1では、条片が、N個の辺を有する内側正多角形の辺に直交して出現し、揺動仮想軸周りにN個の対称位数を有することが想定されているにもかかわらず、唯一の示される特定構成は、内側正方形の構成であり、この構成では、条片を含む2つの平面は、互いに直交する。当該文献によれば、条片の数及びそれらの構成は、特に、美的観点からシステムに与えられた空間とシステムの安定性との間の妥協の結果によって規定されるという。既に公知である8分の7規則以外、EP特許出願第2911012A1号には、最適な等時性に関する特定の好ましい形状パラメータの明示的な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP特許出願第2911012A1号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】F.Barrot、T.Hamaguchiによる刊行物、「Un nouveau regulateur mecanique pour une reserve de marche exceptionnelle」、スイス時計学会の2014年スタディー・デイの会報
【非特許文献2】W.H.Wittrickの著書、<<The properties of crossed flexure pivots and the influence of the point at which the strips cross(交差撓み枢動部の特性及び条片交差点の影響)>>、The Aeronautical Quarterly II(4)、272〜292頁(1951年)
【非特許文献3】W.H.Wittrick、シドニー大学、1951年2月の著書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者等は、一方で、位置効果が、2つの交差条片の間の角度によってほとんど変化しないこと、他方で、弾性戻り力の非線形によって生じる非等時性は、前記角度によってかなり変化することを観察したので、本発明者等は、多数の模擬実験によって、位置効果及び等時性の両方を同時に最適化する角度値を見出すことが可能であることを実証した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明は、てんぷ条片のために最適化した形状を提案することによって、従来技術の欠点をなくすことを提案するものであり、これらのてんぷ条片は、非線形弾性戻り力によって生じる位置効果及び非等時性の両方をなくす。この目的で、本発明は、計時器共振器に関し、計時器共振器は、接続要素に対して揺動する少なくとも1つの錘を備え、接続要素は、共振器内に含まれ、計時器ムーブメントの構造体に直接又は間接的に固定するように配置し、前記少なくとも1つの錘は、交差条片によって前記接続要素から懸架し、交差条片は、2つの平行平面内で互いからある距離で延在し、前記平行平面のうち1つにおける前記条片の方向突出部は、前記錘の仮想枢動軸で交差し、前記仮想枢動軸から、頂角である第1の角度を一緒に画定し、仮想枢動軸に対向して、前記接続要素の部分が延在し、前記接続要素の部分は、前記交差条片の前記接続要素への取付け部の間に位置し、前記第1の角度は、68°から76°の間を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明は、そのような発振器を含む計時器ムーブメントにも関する。
【0017】
本発明は、そのようなムーブメント及び/又はそのような共振器を含む計時器、特に時計にも関する。
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実線で示す休止位置、及びてんぷがその休止位置から離れた瞬時位置(交差条片を点線で示す)における、交差条片を有するてんぷを有する共振器の概略平面図である。図1は、交差条片が交差条片を保持する接続要素内に斜めに固定された一般的なケースを示し、接続要素は、計時器ムーブメントの構造体に取り付ける。
図1A】接続要素の固定点で、各条片の端部に直交する表面において固定を達成した、好ましい構成の図である。
図2】交差条片が共振器の休止位置で直交する従来技術を示すグラフであり、縦座標上の弾性定数kの変動は、横座標上の休止位置に対してんぷが形成する現在の角度θに応じて変化することを示す。
図3】同じ従来技術のグラフであり、X及びΔXに対する質量中心変動の座標は、横座標上の休止位置に対してんぷが形成する現在の角度θに応じて変化することを示す。座標ΔXの変動は、グラフが単位を有さないように条辺長さLに対して標準化する。
図4】同じ従来技術のグラフであり、Y及びΔYに対する質量中心変動の座標は、横座標上の休止位置に対してんぷが形成する現在の角度θに応じて変化することを示す。座標ΔYの変動は、グラフが単位を有さないように条辺長さLに対して標準化する。
図5】交差条片が共振器の休止位置において72°に近い第1の角度αを互いに形成する本発明を示すグラフであり、縦座標上の弾性定数kの変動は、横座標上の休止位置に対してんぷが形成する現在の角度θに応じて変化することを示す。
図6】交差条片が共振器の休止位置において72°に近い第1の角度αを互いに形成する本発明のグラフであり、X及びΔXに対する質量中心変動の座標は、横座標上の休止位置に対してんぷが形成する現在の角度θに応じて変化することを示す。座標ΔXの変動は、グラフが単位を有さないように条辺長さLに対して標準化する。
図7】交差条片が共振器の休止位置において72°に近い第1の角度αを互いに形成する本発明のグラフであり、Y及びΔYに対する質量中心変動の座標は、横座標上の休止位置に対してんぷが形成する現在の角度θに応じて変化することを示す。座標ΔYの変動は、グラフが単位を有さないように条辺長さLに対して標準化する。
図8】交差条片を有する共振器が、調整アンクル共振器である変形形態の図である。
図9図1のケースの微細加工材料から作製した接続要素を有する一体弾性条片の撓みの影響の領域の深さを点線で示す詳細図である。
図9A図1Aのケースの等価物の図である。
図10】そのような共振器を備える機構を有するムーブメントを含む計時器又は時計を示すブロック図である。
図11A】交差条片を有するてんぷの非等時性が、パラメータQ=ri/Lに応じて変化することを示すグラフであり、このパラメータは、本発明(α=71.2°)と従来技術(α=90°)との性能の比較を可能にする。1日あたりの秒(s/d)で測定した非等時性は、異なる振幅で観察された比率の差である(12°及び8°の選択値は、関係するシステムの動作範囲の典型である)。
図11B】交差条片を有するてんぷの比率に対する位置効果が、本発明(α=71.2°)及び従来技術(α=90°)に対するパラメータQ=ri/Lに応じて変化することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用する用語「質量中心」は、用語「慣性中心」としても理解することができる。
【0021】
本発明は、計時器共振器100に関し、計時器共振器100は、共振器内に含まれる接続要素2に対して揺動する少なくとも1つの錘1を含む。この接続要素2は、計時器ムーブメント200の構造体に直接又は間接的に取り付けるように構成する。
【0022】
この少なくとも1つの錘1は、接続要素2から交差条片又は梁3、4によって懸架し、交差条片又は梁3、4は、2つの平行平面内で互いからある距離で延在する弾性条片又は梁であり、これらの平行平面のうち1つの前記条片の方向突出部は、錘1の仮想枢動軸Oで交差し、この仮想枢動軸Oから、頂角である第1の角度αを一緒に画定し、仮想枢動軸Oに対向して、交差条片3、4の接続要素2への取付け部の間に位置する接続要素2の部分が延在する。
【0023】
本発明によれば、本明細書の以下で説明するように、この第1の角度αは、68°から76°の間を含む。
【0024】
より具体的且つ非限定的には、錘1は、図1及び図1Aに見られるようにてんぷ車であり、図1及び図1Aは、休止位置における、交差条片を有する錘を有する共振器100の形状を実線で示す。
【0025】
錘1は、2つの交差条片3及び4によって接続要素2に固定保持する。これらの交差条片3及び4は、2つの平行平面内で互いからある距離で延在する弾性条片であり、平行平面のうち1つの前記条片の方向突出部は、錘1の仮想枢動軸Oで交わる。これらの交差条片により、錘1が回転し、錘1が3つの方向X、Y、Zに実質的に並進移動しないようにし、小さな衝撃への良好な耐性をもたらすことも可能になる。図1は、交差条片3、4が、交差条片3、4を保持する接続要素2内に斜めに固定された一般的なケースを示す。図1Aは、固定が、接続要素の固定点で、各条片3、4の端部に直交する表面上にある、好ましい構成を示す。
【0026】
座標Oの起点は、共振器100がその休止位置にある場合、条片3及び4の交点に置かれる。錘がその休止位置にある場合、錘の瞬時回転中心及び質量中心も、起点Oに位置する。第1の角度αの二等分線は、方向Xを画定し、方向Xにより、前記平行平面のうち1つにおける2つの条片3及び4の突出部は、第1の角度αの半分である角度βを形成する。
【0027】
図1の好ましい実施形態では、共振器100は、軸OXに対して対称である。
【0028】
従来技術では、第1の角度αは、90°の値を有する。
【0029】
図1では、内側半径riは、点Oと、接続要素2内の条片3及び4の固定点との間の距離である。外側半径reは、点Oと、錘1内の条片3及び4の固定点との間の距離である。ri及びreの役割は、使用する基準枠が接続要素のものであるか又は錘のものであるかどうかに応じて交換できることに留意されたい。以下の式の全ては、計数される相対回転運動であるため、依然として有効である。
【0030】
条片のそれぞれの全長Lは、この対称構成では、L=ri+reである。
【0031】
第1の角度αは、錘共振器100がその休止位置にある場合、2つの条片3と4との間の角度である。この第1の角度αは、(Oでは)頂角であり、接続要素2に対する条片3及び4の開度を画定し、Oに対向して、交差条片3及び4の前記要素への取付け部との間に位置する接続要素2の部分が延在する。
【0032】
条片によって錘に加えられる弾性戻りトルクは、M=k.θとして記述でき、式中、kは弾性定数であり、θは、錘1の休止位置に対して錘1がもたらした現在の角度である。図1及び図1Aは、現在の角度θの瞬時値θiを示し、現在の角度θの瞬時値θiは、その瞬時位置Miに対する点Mの偏差に対応し、瞬時位置Miは、図1及び図1Aの点線で示す条片3及び4の撓み位置3i及び4iに対応する。
【0033】
トルクは非線形であるため、弾性定数は、錘の角度k(θ)=M/θと共に変動する。
【0034】
従来技術の場合の、錘の現在の角度θに応じて変化する弾性定数kの変動を図2に示す。弾性戻り力は、比率Q=ri/L=0.10では線形であることがわかる。
【0035】
同じ従来技術の場合の、錘の角度θに応じて変化する錘(ΔX、ΔY)の質量中心の変位を図3及び図4に示す。異なる曲線は、異なるQ=ri/L比率に対応する。従来技術では、ri/Lが0.12から0.13の間を含む場合、Xに沿った変位は最小であることがわかる。
【0036】
したがって、従来技術を表す図2から図4の全てでは、実質的な線形戻りトルク及び実質的にゼロの変位ΔXが同時にある比率Q=ri/Lの値がないことが観察される。
【0037】
したがって、α=90°である従来技術の構成では、等時性(線形弾性戻り力)であると同時に位置に依存しない(Xに沿った質量中心のゼロ変位)システムを有することが可能ではない。
【0038】
本発明は、そのような共振器が等時性で且つ位置に依存しないものとすることができる形状の決定に努める。
【0039】
本発明の範囲内で行った研究により、適切な値を決定することができる。
【0040】
72°の第1の角度α、及び0.12から0.13の間を含む比率Q=ri/Lを用いると、システムは、等時性であると同時に位置に依存しない。
【0041】
実際に、72°に近い第1の角度αを用いて、錘の現在の角度θに応じて変化する弾性定数kの変動を図5に示す。弾性戻り力は、比率Q=ri/Lが0.12から0.13の間を含む場合、線形であることがわかる。
【0042】
同様に、72°に近い第1の角度αを用いて、錘の現在の角度θに応じて変化するXに沿った錘の質量中心の変位を図6に示す。異なる曲線は、異なるri/L比率に対応する。Q=ri/Lが0.12から0.13の間を含む場合、Xに沿った変位はなくなることがわかる。
【0043】
したがって、72°に近い第1の角度α及び0.12から0.13の間を含む比率Q=ri/Lを用いると、線形戻りトルクであると同時にXに沿った質量中心がゼロ変位であることが観察され、このことは相当な利点である。
【0044】
第1の角度αの値のこの特徴は、本発明の本質的な特徴を構成し、決して偶発的なものではない。というのは、この値は、等時性を保証すると同時に位置効果をなくすことができる唯一の値であるためである。この点を明確に示すために、本発明者等は、交差条片を有する錘の非等時性、即ち、2つの異なる振幅で観察した(1日あたりの秒の)比率の差の模擬実験を行った(本発明者等は、関係するシステムの動作範囲の典型である12°及び8°を選択した)。従来技術(α=90°)の場合及び本発明(α=72°)の場合の両方で、パラメータQ=ri/Lに応じて変化する結果を図11Aのグラフに示す。非等時性は、角度α及びパラメータQ=ri/Lによって大きく異なることが観察される。パラメータQ=0.125であり角度α=90°の場合の従来技術は、かなり非等時性である。というのは、比率変動が1日当たり約17秒の値を有するためである。しかし、本発明によると、交差条片を有する錘は、α=71.2°では等時性である。完全にする目的で、本発明者等は、交差条片を有する錘に対する位置効果、即ち、水平位置(水平X軸及びY軸)と垂直位置(重力と位置合わせした水平Y軸及びX軸)との間で観察される比率差の模擬実験も行った。従来技術(α=90°)の場合及び本発明(α=71.2°)の場合の両方で、パラメータQ=ri/Lに応じて変化する結果を図11Bのグラフに示す。位置効果は、角度α及びパラメータQ=ri/Lにはそれほど変化しないことが観察される。このことは、αを使用して等時性を最適化し、Qを使用して位置効果を最小にすることにある本発明者等のアプローチを説明している。Q=ri/Lの最適値は、角度αよってはほとんど変化せず、最適値は、本発明(α=71.2°)では0.1264の値を有し、従来技術(α=90°)では0.1270の値を有することに留意されたい。最後に、α=71.2°の選択は、システムを等時性で且つ位置に依存しないものとすることができる唯一の選択であることに留意することが重要である。
【0045】
要約すると、従来技術は、最適な等時性からほど遠く、本発明は、最適な等時性を達成するために適切な角度値を用いることにある。
【0046】
実際には、この最適な形状構成は、条片3及び4の幅、錘の振動振幅及び製造公差に応じて、非常にわずかに変動することがある。
【0047】
図9及び図9Aは、交差条片の材料の性質に応じて、条片3及び4の全長の推定をごくわずかに修正できる現象を示す。条片の曲げ効果が接続要素の深さに現れた場合(シリコン等から作製した一体式実施形態の例の場合)、この深さは、条片のほぼ半分の厚さに対応することが推定できる。次に、値riを値rim=ri+e/2と置き換えることによって、値riを修正することが必要であり、式中、eは、関係する条片3又は4の厚さである。
【0048】
したがって、全長を修正し:Lm=ri+e/2+re、比率Qを同様に修正しなければならない:Qm=(ri+e/2)/(ri+e/2+re)。Qmは、0.12から0.13の間を含まなければならない。
【0049】
実際には、第1の角度αの適切な値は、68°から76°の間を含み、好ましくは、できるだけ71.2°に近く、比率Q=ri/Lの最適な値は、0.12から0.13の間を含む。
【0050】
特定の変形形態では、共振器100は、一体式である。
【0051】
より具体的には、共振器100は、MEMS又はLIGA技術によって製造可能な微細加工材料から作製するか、若しくはシリコン若しくはシリコン酸化物から作製するか又は少なくとも部分的に非晶質金属若しくは金属ガラス若しくは石英若しくはDLCから作製する。
【0052】
これらのケースのうち1つでは、最適な値は、比率Qm=(ri+e/2)/(ri+e/2+re)であり、Qmは、0.12から0.13の間を含まなければならない。より具体的には、この比率Qmは、0.1264に等しいように選択する。
【0053】
有利な変形形態では、第1の角度αは、70°から76°の間を含む。
【0054】
更により具体的には、第1の角度αは、70°から74°の間を含む。更により具体的には、第1の角度αは、71.2°に等しい。
【0055】
Yに沿った質量中心の変位は、図7に見られる関数ΔY(θ)の偶奇性のために、共振器の比率に影響を与えないことも留意されたい。換言すると、交差条片を有する錘を有するこの共振器に関して、位置に依存しない比率に対する変位ΔXをなくすのに十分である。
【0056】
本発明は、少なくとも1つのそのような共振器100を含む計時器ムーブメント200にも関する。
【0057】
本発明は、そのようなムーブメント200及び/又はそのような共振器100を含む計時器300、特に時計にも関する。
【0058】
したがって、本発明は、交差条片を有する錘を有する共振器を、等時性にすると同時に位置に依存させないことが可能である。
【0059】
本発明は、交差条片を有する共振器の他の構成、特に図8に見られる調整アンクル構造において適用可能である。いくつかの揺動錘の使用が、固定点での損失を最小にできるため、有利である。実際、単一の錘は、固定点で反力を生じるので、損失が生じる。固定点での反力の和がゼロであるようにいくつかの揺動錘を組み合わせることによって、これらの損失を相殺することが可能である。詳細には、共振器100は、少なくとも2つの揺動錘、特に、この図で見られるように2つの揺動錘を含むことができ、揺動錘の反対の動きにより、固定点で互いに補償する反力が生じる。この特定の非限定的な実施形態では、2つの錘1はそれぞれ、上記した特性に従って配置した2つの交差条片3及び4によって共通の接続要素2に固定保持する。ここで、共振器100は、有利には、軸Yに対して完全に対称である。当然、他の変形実施形態が可能である。
図1
図1A
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図9A
図10
図11A
図11B