特許第6231701号(P6231701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231701色中心を有するダイヤモンド基材上に圧磁または圧電素子を含むセンサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231701
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】色中心を有するダイヤモンド基材上に圧磁または圧電素子を含むセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20171106BHJP
   G01L 1/16 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   G01N24/00 Z
   G01L1/16 Z
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-563085(P2016-563085)
(86)(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公表番号】特表2017-514130(P2017-514130A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】EP2014057788
(87)【国際公開番号】WO2015158383
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】514093327
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ジェレツコ フョードル
(72)【発明者】
【氏名】カイ ジアンミン
(72)【発明者】
【氏名】プレニオ マルティン
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−059192(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/051886(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02790031(EP,A1)
【文献】 特表2013−537303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00−24/14
G01R 33/20−33/64
G01L 1/00− 1/26
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの色中心(15)を有する第1のダイヤモンド基材(9)を含むセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)であって、
センサ(1、2、3、4、5、6、7、8)が、第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)をさらに含み、一次素子(10、11)が、第1のダイヤモンド基材(9)の色中心(15)と相互作用するように配置されることを特徴とする、
センサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
【請求項2】
色中心(15)が窒素空孔中心であることを特徴とする、
請求項に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
【請求項3】
一次圧磁(10)または圧電素子(11)が、基材(9)の色中心(15)と磁気的または電気的に相互作用するように配置されることを特徴とする、
請求項1または2に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
【請求項4】
第1の一次素子(10、11)の少なくとも一部が、第1のダイヤモンド基材(9)の表面の少なくとも一部にわたって層として延在することを特徴とする、
請求項1からまでのいずれか1項に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
【請求項5】
第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)と相互作用するように配置される第1の二次素子(12、13)を含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載のセンサ(3、4、5、7、8)。
【請求項6】
センサ(1、2、3、4、5、6、7、8)が、いくつかの二次素子(12、13)を含み、それぞれが一次素子(10、11)と相互作用するように配置されることを特徴とする、請求項に記載のセンサ(3、4、5、7、8)。
【請求項7】
第1の二次素子(12、13)が、第1の一次素子(10、11)においてまたはその上にアイランドを形成することを特徴とする、請求項5または6に記載のセンサ(3、4、5、7、8)。
【請求項8】
第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)の変化が、第1のダイヤモンド基材(9)の少なくとも1つの色中心(15)の対応する変化を検出することにより検出され、色中心(15)が第1の一次素子(10、11)と相互作用する、方法。
【請求項9】
少なくとも1つの色中心(15)の変化が、色中心(15)の電子スピンの変化であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
色中心(15)の磁気共鳴の光検出を伴うことを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
電子スピンが光ポンピングにより偏極されることを特徴とする、請求項8から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
検出される色中心(15)の変化が、色中心(15)の蛍光の変化であることを特徴とする、請求項8から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
スピンが、マイクロ波場により達成されるパルス感知スキームで測定されることを特徴とする、請求項8から12までのいずれか1項に記載の方法
【請求項14】
色中心(15)がマイクロ波場に曝露されることを特徴とする、請求項8から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)の変化が、第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)に適用される力または力の変化により誘導されることを特徴とする、請求項8から14までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの色中心を有する第1のダイヤモンド基材を含むセンサに関する。本発明は、第1の圧磁または圧電一次素子の変化を検出する方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
A. Gruber et al.により"Scanning Confocal Optical Microscopy and Magnetic Resonance on Single Defect Centers", Science 276, 2012, 1997において実証されたとおり、ダイヤモンドにおいて、電子は、特定の種類の色中心、窒素空孔中心(NV中心)においてスピンし、偏極され、共焦点蛍光分光法で光学的に読み取られうる。さらに、F. Jelezko et al.は、Observation of Coherent Oscillations in a Single Electron Spin", Phys. Rev. Lett. 92, 076401, 2004において、かかる電子スピンを、マイクロ波場でコヒーレントに操作できることを示す。
M. D. Lukin et al.は、"Nanoscale magnetic sensing with an individual electronic spin in diamond", Nature 455, 644-647, 2008において、外部印加DC/AC磁場を測定する磁気計としての、ダイヤモンドにおけるNV中心の使用を報告する。Nanoscale imaging magnetometry with diamond spins under ambient conditions", Nature 455, 648-651, 2008において、G. Balasubramanian et al.は、単一のNV中心を含有するナノ結晶がカンチレバーの先端部に取り付けられた、ダイヤモンドスピンを有する試作ナノスケール走査プローブを開示する。G. Balasubramanian et al.は、約20nmの空間分解能を有する、ナノメートルサイズの磁気構造により生成される磁場のプロファイルの画像化を報告する。光検波磁気共鳴法は、NV中心電子スピン上の磁場の効果を測定するために使用される。
【0003】
"A robust scanning diamond sensor for nanoscale imaging with single NV centres", Nature Nanotechnology 7, 320-324, 2012において、A. Yacoby et al.は、原子間力顕微鏡の先端部として使用した高純度ダイヤモンドナノピラーの末端部に、単一のNV中心を配置する。A. Yacoby et al.は、試料表面から数十ナノメートル以内の単一のNV中心を走査し、NV軸に沿って試料磁場を決定することにより、25nmの幅で磁区を画像化することを報告する。
"Stray-field imaging of magnetic vortices with a single diamond spin", Nature Commun. 4, 2279, 2013において、V. Jacques et al.は、NV磁気測定を使用した強磁性薄膜における磁気渦の画像化を報告する。V. Jacques et al.は、磁気ナノ構造上の浮遊磁場の3次元分布を測定する。実験は、NV中心スピンベースの磁気測定と同じ原理に基づく。
【0004】
"Nuclear magnetic resonance spectroscopy and imaging with single spin sensitivity"(出版のため提出済み)において、C. Muller et al.は、シリコン層をダイヤモンド表面上に置き、浅く埋め込まれたNV中心を、29Si核を検出するために使用する。彼らの実験において、彼らは、単一の29Si核スピンのレベルで非常に高い磁場感度を見出す。C. Muller et al.は、浅いNV中心(約2nmの深さ)を創出し、これらが磁場センシングのための良好なコヒーレンス特性を有するという彼らの発見を報告する。
上の研究が、NV中心磁気計の原理を用いた一方で、これらの刊行物のいずれも、圧力の効果を検出するための、色中心ベースダイヤモンド量子センサの適用を開示しない。
"Electric-field sensing using single diamond spins", Nature Physics 7, 459-463, 2011において、F. Dolde et al.は、ダイヤモンド点欠陥スピンセンサに作用する、印加電圧を有する微細構造により生成される3次元電場を測定するために、ダイヤモンドにおける単一のNV欠陥中心スピンを使用することを報告する。F. Dolde et al.は、印加a.c.電場によるNV中心の磁気転移頻度変化を測定する。基礎にある機序は、NV中心スピンと電場との間の直接結合に基づき、これは達成可能な感度を制約する。電場の測定について達成される感度は、202(Vcm-1)Hz-1/2である。
【0005】
"Electronic properties and metrology of the diamond NV-centre under pressure", Phys. Rev. Lett. 112, 047601, 2014において、Marcus W. Doherty et al.は、ダイヤモンドにおけるNV中心のスピン特性に対する、ダイヤモンド上への圧力の直接効果を報告する。Marcus W. Doherty et al.は、ダイヤモンドにおけるNV中心基底スピンの共鳴振動数の、室温での圧力に対する依存性を測定し、NV中心の基底状態トリプレットのゼロ磁場分裂が、線形定数dD(P)/dP=14.58(6)MHz/GPaで、ほぼ圧力の線形関数であることを見出し、これは圧力の測定について、約1MPa Hz-1/2の感度をもたらす。Marcus W. Doherty et al.はまた、NVスピンの励起状態に対する圧力の効果がより顕著であると考えられ、圧力の測定について、感度が約0.1kPa Hz-1/2に到達しうることを示唆する。しかしながら、十分に細い光学線および長い励起状態寿命を得て、報告された測定感度を達成するためには、超低温(<12ケルビン)が必要である。これは、生物学的および医学的適用を、たとえば電子皮膚における、ほとんどの日常的適用とともに妨げる。
【0006】
"Nanometre-scale thermometry in a living cell", Nature 500, 54, 2013において、M. D. Lukin et al.は、ナノダイヤモンドにおけるNV中心の基底状態トリプレットのゼロ磁場分裂の変化を測定することによる、ナノスケール温度測定を示す。M. D. Lukin et al.は、200nmほどの短さの長さスケールで局所熱環境を測定する能力を示す。同様の研究が、David D. Awschalom et al.により"Fluorescence thermometry enhanced by the quantum coherence of single spins in diamond", Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 8417-8421, 2013において、J. Wrachtrup et al.により"High-Precision Nanoscale Temperature Sensing Using Single Defects in Diamond", Nano Lett. 13, 2738-2742, 2013において報告されている。これらの研究の基礎にあるアイデアは、温度が基底トリプレット状態のゼロ磁場分裂を、係数dD(T)/dT=74kHz/Kで変化させるという事実に基づく。温度の測定について達成される感度は、5〜10mK Hz-1/2である。細胞内のNV中心のトラッキング、コヒーレント操作、およびそれからの読み出しのための手法は、M. D. Lukin et al., Nature 500, 54, 2013およびL. P. McGuinness et al.による"Quantum measurement and orientation tracking of fluorescent nanodiamonds inside living cells"、Nature Nanotechnology 6, 358-363, 2011に開示されている。
【0007】
一般的なピエゾセンサは、それらの感度を制限する電気雑音という弱点を有し、それらのサイズは、通常は、マイクロメートルまたはミリメートルのスケールを超える。光ピンセット、磁気ピンセットおよび原子間力顕微鏡検査(AFM)の手法は、プローブサイズが大きい(マイクロメートル〜ミリメートル)という同じ弱点を有する。さらに、AFMは、界面に限定されるという欠点を有する。プローブのサイズが大きいことは、達成できる空間分解能を制約し、ナノメートルスケールシステム上でのこれらの手法の適用を妨げる。加えて、光ピンセット、磁気ピンセットおよび原子間力顕微鏡検査は、高度に一体化することができない。さらに、原子間力顕微鏡検査は周囲条件下で動作せず、光ピンセットは自由空間ソリューションを必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、少なくとも1つの色中心を有する第1のダイヤモンド基材を含む改良されたセンサを提供することを目的とする。さらに、本発明は、第1の圧磁または圧電一次素子の変化を検出する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題は、少なくとも1つの色中心を有する第1のダイヤモンド基材を含むセンサであって、センサが、第1の圧磁または圧電一次素子をさらに含み、一次素子が、第1のダイヤモンド基材の色中心と相互作用するように配置される、センサを提供することにより解決される。換言すれば、ダイヤモンド基材と圧磁または圧電素子とのハイブリッドデバイスが提供される。ダイヤモンドは、合成ダイヤモンドまたは天然ダイヤモンドでありうる。本発明の文脈における色中心は、ダイヤモンド格子における局在欠陥であり、この欠陥は、1つまたは複数の電子により満たされ、電磁放射線を吸収および放射できる。
本発明は、圧磁または圧電素子の変化がダイヤモンドの色中心の対応する変化を伴うように、圧磁または圧電素子がダイヤモンドの色中心と相互作用できるという事実を利用する。したがって、課題はまた、第1の圧磁または圧電一次素子の変化が、第1のダイヤモンド基材の少なくとも1つの色中心の対応する変化を検出することにより検出され、色中心が第1の一次素子と相互作用する、方法により解決される。
【0010】
本発明の文脈において、「第1の」という用語は、下でより詳細に論じるとおり、本発明のいくつかの実施形態において、第1のダイヤモンド基材または第1の一次素子に加えて、さらなる基材または一次素子がそれぞれ存在するという事実を表現する。「一次素子」という表現は、やはり下でより詳細に論じるとおり、本発明のいくつかの実施形態において、1つまたは複数の一次素子に加えて、1つまたは複数の二次素子もまた存在するという事実を示す。
第1の一次素子が圧磁性である場合、本発明は、圧磁素子または圧磁素子の位置の温度に対する外部からの作用、たとえば力の作用が、圧磁素子の磁区の磁化に影響を及ぼすという事実を利用できる。これはひいては、特に素子の浮遊磁場を介して、色中心、特に色中心の基底状態スピンのエネルギー準位に影響を及ぼしうる。したがって、一次素子が圧磁性である本発明の実施形態において、検出される一次素子の変化は、一次素子の磁気特性の変化である。
【0011】
同様に、一次素子が圧電性である場合、本発明は、圧電素子または圧電素子の位置の温度に対する外部からの作用、たとえば力の作用が、圧電素子における電荷分布に影響を及ぼすという事実を利用できる。これはひいては、特に浮遊電場を介して、色中心、特に色中心の基底スピンのエネルギー準位に影響を及ぼしうる。
したがって、一次素子が圧電素子である本発明の実施形態において、検出される一次素子の変化は、一次素子の電気特性の変化である。
センサが直接的に、一次素子とダイヤモンド基材において提供される色中心との間の相互作用を介して、一次圧磁または圧電素子の磁気または電気特性にそれぞれ影響を及ぼす機械力、温度または他のパラメータを感知できることは、本発明の達成可能な一利点である。本発明の文脈において、機械「力」へのどの言及も、それが分配される単位面積当たりの力である圧力もまた含むことが意図されている。
【0012】
発明の好ましい実施形態
単独でまたは組み合わせて適用できる本発明の好ましい特徴を、従属請求項において論じる。
好ましい第1のダイヤモンド基材は、いくつかの色中心を含む。本発明の文脈内で、「いくつかの」および「複数の」という用語は、「2つ以上の」という意味で互換的に使用される。第1の一次素子は、第1のダイヤモンド基材の1つのみまたはいくつかの色中心と相互作用するように配置できる。必須ではないが好ましくは、それは、第1のダイヤモンド基材のすべての色中心と相互作用するように配置される。第1の一次素子が2つ以上の色中心と相互作用する場合、これは有利には、センサの感度を高めることができる。さらに、色中心の空間分布に対応する空間分解能を達成できる。なぜなら、各色中心は主に、色中心に最も近い一次素子の部分の変化、または複数の一次素子の場合には、一次素子の変化の影響を受けるからである。センサの空間分解能は、典型的には約1nmである色中心の電子波動関数の範囲により制限されると考えられる。換言すれば、一次素子の複数の位置での変化、および/または複数の一次素子の場合には、異なる一次素子での変化を区別できることは、いくつかの色中心を有する本発明の実施形態の達成可能な一利点である。いくつかの一次素子を有するセンサの場合が、さらに下でより詳細に論じられる。
【0013】
本発明の典型的な実施形態において、いくつかの色中心は、規則的に、たとえば1つもしくはいくつかの直線に沿って、または2次元アレイで配置される。典型的な規則的配置において、色中心は、少なくとも1方向に互いに本質的に等距離に置かれる。好ましくは、色中心は、広範な面積にわたって、特に好ましくは、本質的に共通平面内に分布し、この面積の広さにわたった空間分解能を実現する。そのことにより、有利には、表面積にわたって物理的パラメータ、たとえば力(圧力を含む)、温度または電場もしくは磁場の分布を測定する表面センサが得られる。
【0014】
第1の一次素子と色中心との間の相互作用が十分に強力であることを保証するため、色中心は、好ましくは、第1のダイヤモンド基材の表面から、いくつかの色中心の場合には、好ましくは第1のダイヤモンド基材の同一表面から20nm(ナノメートル)の距離に位置する。さらに、いくつかの色中心の場合には、これらは好ましくは、第1のダイヤモンド基材内の共通平面に配置され、この平面は好ましくは、第1のダイヤモンド基材の表面と平行である。表面は好ましくは、第1の一次基材へと向けられたまたはそれと隣接した表面である。
好ましくは、いくつかの色中心の場合には、色中心は、優越方位を有する。この文脈において、「優越方位」は、窒素と中心の空孔とをつなぐベクトルとして定義される各色中心の方位が平行であることを意味する。
【0015】
本発明による好ましいセンサは、いくつかのダイヤモンド基材を含み、各基材は、少なくとも1つの色中心を含む。本発明のこの実施形態において、一次素子はまた、センサのさらなる基材の1つまたはいくつかの、好ましくはすべての色中心と相互作用しうる。さらなる基材がいくつかの色中心を含む場合、好ましくはさらなる基材のそれぞれにおけるこれらの色中心は、第1の基材における好ましい配置として上述のとおり配置される。
本発明による好ましいダイヤモンドは、合成ダイヤモンドである。本発明に好適な合成ダイヤモンドは、たとえば、当技術分野においてよく知られているとおり、化学蒸着(CVD)、爆轟またはより大きな結晶のミリングにより製造できる。合成ダイヤモンドは、12Cについて濃縮し、色中心スピンのより長いコヒーレンス時間を可能にしうる。さらに、合成ダイヤモンド材料は、費用をかけずに平面形状に合成でき、これは、たとえば化学蒸着(CVD)による他の材料の表面上へのダイヤモンドの堆積を含む。
【0016】
本発明が、同位炭素の天然存在度を有するダイヤモンド基材を使用して実施できる一方で、好ましいダイヤモンド基材は、99.9%を超える、より一層好ましくは99.99%を超える12C同位体濃度で濃縮される。マイクロ波プラズマ補助化学蒸着による、99.99%を超える12C同位体濃縮を伴う直径30mmまでの合成ダイヤモンド基材を得るのに好適な方法が、Junichi Isoya et al., "Chemical Vapor Deposition of 12C Isotopically Enriched Polycrystalline Diamond", Jpn. J. Appl. Phys. 2012, vol. 51, pp. 090104に記載されている。この刊行物の1〜2ページにわたる「実験手順」セクションは、参照により本開示に組み込まれる。
好ましいダイヤモンド基材はナノダイヤモンドであり、すなわち、基材は少なくとも1空間方向で1000nmより小さい。好ましいダイヤモンド基材は、2空間次元、より一層好ましくは3空間次元すべてで1000nmより小さい。特に好ましいナノダイヤモンド基材は、1空間次元、より好ましくは2空間次元、より一層好ましくは3空間次元すべてで400nmより小さい。より一層好ましいナノダイヤモンド基材は、1空間次元、より好ましくは2空間次元、より一層好ましくは3空間次元すべてで100nmより小さい。本発明のこの実施形態の達成可能な利点には、センサのサイズを低減でき、ナノスケール空間分解能を達成できることが含まれる。
【0017】
好ましいセンサは、ダイヤモンド基材の色中心と相互作用するように配置される、1つだけではないいくつかの圧磁または圧電一次素子を含みうる。それぞれのさらなる一次素子は、必要な変更を加えて、本明細書において第1の一次素子に関して有利と記載された特性および配置を有しうる。一実施形態において、いくつかの圧磁または圧電一次素子は、センサの同じ、典型的には唯一の(すなわち第1の)だが、必ずしも唯一のではないダイヤモンド基材の色中心と相互作用するように配置される。代わりに、いくつかの基材の場合には、2つ以上の、好ましくはすべてのいくつかの基材がそれぞれ、1つの、または本発明のいくつかの実施形態においてはいくつかの、それぞれの基材の色中心と相互作用するように配置される一次圧磁または圧電素子とともに提供されうる。
本発明の典型的な実施形態において、いくつかの一次素子は、規則的に、たとえば1つもしくはいくつかの直線に沿って、または2次元アレイで配置される。典型的な規則的配置において、一次素子は、少なくとも1方向に互いに本質的に等距離に置かれる。好ましくは、一次素子は、広範な面積にわたって、特に好ましくは、本質的に共通平面内に分布し、この面積の広さにわたった空間分解能を実現する。そのことにより、有利には、表面積にわたって物理的パラメータ、たとえば力(圧力を含む)、温度または電場もしくは磁場の分布を測定する表面センサが得られる。
【0018】
好ましい色中心は、NV中心とも呼ばれる窒素空孔中心である。NV中心において、窒素原子は炭素原子を置換し、ダイヤモンドの結晶格子に空孔をもたらす。他の色中心、たとえば、2つの隣接する炭素原子を欠き、1つのケイ素原子が一方または他方の空孔を占める、ケイ素空孔中心も好適である。好ましくは、色中心において検出される変化は、色中心の電子スピンの変化である。好ましくは、色中心の電子スピンの基底準位のエネルギーの変化が測定される。好ましい方法において、この目的のため、電子スピンは、光ポンピングにより偏極される。好ましくは、検出される色中心の変化は、たとえばスピンの基底状態における光検波磁気共鳴(ODMR)法による、色中心の蛍光の変化である。
【0019】
本発明による特に好ましい方法において、マイクロ波場が色中心に印加される。そのことにより、好適な色中心の電子スピンをマイクロ波場でコヒーレントに操作できることを、有利には利用できる。好ましくは、スピンは、マイクロ波場により、2つの基底スピン副準位のコヒーレントな重畳状態へと準備される。結果として、基底スピン副準位が動的な相対位相を獲得するということを達成可能であり、この位相は、たとえば、さらなるマイクロ波場とそれに続く色中心スピンの光学的蛍光を介して測定できる。代わりに、色中心スピンのコヒーレント操作を、低温、NV中心の場合には好ましくは10K未満での光学的ラマン場により達成でき、これは、光学的励起状態を介して基底電子スピン状態を結合する。好ましくは、色中心基底スピン状態の読み出しは、スピン依存性蛍光測定により実施される。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態において、圧磁または圧電一次素子は、基材の色中心と磁気的または電気的に相互作用するように配置される。換言すれば、一次素子により生成される磁場もしくは電場またはかかる電場もしくは磁場の変化が、検出可能な形で色中心に影響を及ぼす。この目的のため、好ましくは、圧磁または圧電一次素子は、それが相互作用する色中心を含有するダイヤモンド基材と直接接触する。色中心は、好ましくは、強力な相互作用を保証するために、一次圧磁または圧電素子から20nmを超えて離れてはいない。
【0021】
一次素子と色中心との間の相互作用を促進するために、一次素子は、好ましくは、ダイヤモンド基材と直接接触する。本発明の代替的一実施形態において、一次素子は、一次素子とダイヤモンド基材との間の電場または磁場に透過性の材料を介して、間接的に接触しうる。
本発明のいくつかの実施形態において、一次素子、またはいくつかの一次素子を有するセンサの場合には、これらのいくつかの一次素子の1つもしくは複数は、固体フェライト材料を含むか、好ましくはそれからなる圧磁素子である。好ましい固体フェライトは、Tb0.27 Dy0.73 Fe2(テルフェノールD)である。他の圧磁性材料もまた好適である。好ましい圧磁性材料は、300Kを超える、より好ましくは500Kを超える、より一層好ましくは650Kを超えるキュリー温度を有する。センサが非常に高温で動作できることは、本発明のこの実施形態の達成可能な利点である。有利には、窒素空孔中心は、高温でも必要な検知プロトコルを可能にするのに十分な、良好な特性を有する。センサの動作温度は、通常は、キュリー温度により制限される。
【0022】
好ましくは、バイアス磁場が圧磁一次素子に印加され、センサを最適な作動体制に調整する。好ましくは、バイアス磁場の磁束密度は1Tより小さく、より好ましくは0.1Tより小さい。磁場は、好ましくは、NV中心の軸に沿って整列させられる。好ましくは、磁場は、永久磁石または冷却に依存しない電磁石により提供される。
本発明のいくつかの実施形態において、一次素子、またはいくつかの一次素子を有するセンサの場合には、これらのいくつかの一次素子の1つもしくは複数は、合成セラミック材料を含むか、好ましくはそれからなる圧電素子である。好ましい合成セラミックは、Pb[ZrxTi1-x]O3(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、および圧電セラミック、たとえばチタン酸ビスマスBi4Ti312の群からの材料である。他の圧電性材料もまた本発明に好適である。好ましくは、バイアス電場が圧電一次素子に印加され、センサを最適な作動体制に調整する。
【0023】
センサがいくつかの一次素子を含む場合には、それは、圧磁および圧電一次素子の両方を含みうるのであり、かかるセンサにおいて、好ましくは、バイアス磁場およびバイアス電場の両方が印加される。代わりに、すべての素子が、同じ圧磁性または圧電性材料を含み、好ましくはそれからなる。
好ましいセンサにおいて、第1の一次素子の少なくとも一部、好ましくは全部が、第1のダイヤモンド基材の表面の少なくとも一部、好ましくは表面全体にわたって層として延在する。「層」という用語は、ダイヤモンド基材へと向けられる第1の一次素子の表面の最大断面積が、この表面と垂直な第1の一次素子の延在よりも大きいことを示すことが意図されている。同様に、第1のダイヤモンド基材は、好ましくは、層の形態を有する。いくつかの一次圧磁または圧電素子および/またはいくつかのダイヤモンド基材の場合には、各一次素子の好ましくは少なくとも一部、好ましくは全部が、それが相互作用する各ダイヤモンド基材の少なくとも一部、好ましくは全部にわたって層として延在する。
【0024】
第1の圧磁または圧電一次素子に加えて好ましいセンサには、第1の一次素子と相互作用するように配置される第1の二次素子が含まれる。やはり、「第1の」は、下でより詳細に論じるとおり、本発明のいくつかの実施形態において、第1の二次素子に加えて、さらなる二次素子が存在することを意味する。好ましくは、第1の一次素子および第1の二次素子は、以下では歪みとも呼ばれる機械力が一次素子と二次素子との間で伝達されうるという意味で、機械的に相互作用する。より好ましくは、二次素子により一次素子上に及ぼされる力またはかかる力の変化は、色中心に対する一次素子の作用を検出可能な形で変化させるように一次素子に影響を及ぼす。
二次素子と一次素子との間の機械的相互作用を容易にするために、二次素子は、好ましくは、一次素子と直接接触する。本発明の代替的一実施形態において、素子は、二次素子と一次素子との間の力の伝達を媒介する材料を介して、間接的に接触しうる。
【0025】
センサは、それぞれが一次素子と相互作用するように配置されるいくつかの二次素子を含みうる。それぞれのさらなる二次素子は、必要な変更を加えて、本明細書において第1の二次素子に関して有利と記載された特性および配置を有しうる。一実施形態において、いくつかの二次素子は、同じ、典型的には唯一の(すなわち第1の)だが、必ずしも唯一のではない一次素子と相互作用するように配置される。代わりに、いくつかの一次素子の場合には、2つ以上の、好ましくはすべてのいくつかの一次素子がそれぞれ、1つの、または本発明のいくつかの実施形態においてはいくつかの、それぞれの一次素子と相互作用するように配置される二次素子とともに提供されうる。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態において、二次素子は、第1の一次素子上にアイランドを形成する。いくつかの一次素子および/またはいくつかの二次素子の場合には、好ましくは各二次素子は、唯一の(すなわち第1の)一次素子においてもしくはその上に、または、いくつかの一次素子の場合には、いくつかの一次素子のうちの1つにおいてもしくはその上に、アイランドを形成する。「アイランド」という用語は、二次素子が、一次素子の凹部または開いたもしくは閉じた空隙内に提供され、凹部または空隙を部分的に、より好ましくは完全に満たすことを意味する。この配置は、二次素子と一次素子との間の機械的相互作用を容易にする。
本発明の典型的な実施形態において、いくつかの二次素子は、規則的に、たとえば1つもしくはいくつかの直線に沿って、または2次元アレイで配置される。典型的な規則的配置において、二次素子は、少なくとも1方向に互いに本質的に等距離に置かれる。好ましくは、二次素子は、広範な面積にわたって、特に好ましくは、本質的に共通平面内に分布し、この面積の広さにわたった空間分解能を実現する。そのことにより、有利には、表面積にわたって物理的パラメータ、たとえば温度または電場の分布を測定する表面センサが得られる。
【0027】
好ましい二次素子は、圧電性である。本発明のこの実施形態において、二次素子が電場または電場の変化を感知でき、電場または電場の変化に反応してその形状を変化させることを利用できる。一次素子との機械的相互作用を通じて、それは一次素子の変化、たとえば一次素子磁気または電気特性の変化を誘導できる。これらはひいては、上で論じたとおりダイヤモンド基材における色中心に検出可能な形で影響を及ぼしうる。圧電二次素子は、合成セラミック材料を含み、好ましくはそれからなる。好ましい合成セラミックは、Pb[ZrxTi1-x]O3(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、および圧電セラミック、たとえばチタン酸ビスマスBi4Ti312の群からの材料である。他の圧電性材料もまた本発明に好適である。好ましくは、バイアス電場が圧電一次素子に印加され、センサを最適な作動体制に調整する。
【0028】
本発明の好ましい一実施形態において、二次素子は、第1の素子との相互作用を通じた温度または温度変化が第1の素子の変化を誘導しうるという意味で熱感受性である。好ましくは熱感受性素子は、一次素子の位置での温度変化に反応してその形状を変化させる。これは、機械的相互作用を通じて、一次素子の変化を誘導しうる。好ましい熱感受性アイランドは、大きな熱膨張係数および/またはヤング弾性率を有する材料から構成される。好適な材料には、金属および合金、たとえばアルミニウム、銅および鋼が含まれる。他の熱感受性材料もまた本発明に好適である。本発明の好ましい一実施形態において、熱膨張係数とヤング弾性率とのの積(熱的に誘導される力を決定する)は、1.5MPa K-1より大きく、より好ましくは、2MPa K-1より大きく、より一層好ましくは、2.5MPa K-1より大きい。
【0029】
センサがいくつかの二次素子を含む場合には、それは、圧電および熱感受性二次素子の両方を含みうるのであり、かかるセンサにおいて、好ましくは、バイアス電場が印加される。代わりに、すべての素子が、好ましくは圧電性または熱感受性である同じ材料を含み、好ましくはそれからなる。
本発明による好ましいセンサは、10μm(マイクロメートル)未満、好ましくは1μm未満、より好ましくは100nm未満、たとえば10〜100nmの間の直径を有する。より好ましくは、直径は、30nm未満、たとえば10nmである。直径は、ダイヤモンド基材と一次素子との間の界面と平行な平面において測定される。本発明のこの実施形態では、NV中心スピンが、小さなスケールで、特にナノダイヤモンド、すなわちダイヤモンド基材の直径が1μm未満であるダイヤモンドの場合には、良好なスピンコヒーレンス特性を有することを利用でき、これは、それらがきわめて小さな電場および磁場を感知することを可能にする。有利には、本発明のこの実施形態では、圧力および他の物理的パラメータを、ナノスケール空間分解能で測定できる。好ましいセンサは、ナノスケールで、たとえば生細胞の内部で動作できる。さらに、一体型感知デバイスを創出できる。
【0030】
センサが、空間分解感知のためのいくつかの色中心を含む場合には、センサ面積は、好ましくは、0.1mm2(平方ミリメートル)より大きく、より好ましくは、1mm2より大きく、たとえば1mm2〜100mm2の間である。センサ面積は、センサの色中心が分布する面積である。
本発明による好ましい一実施形態において、センサは、非毒性材料、たとえば具体的な一例として、ポリエチレンイミン(PEI)でのポリマーでコーティングされる。有利には、コーティングは、インビボでの適用において、ダイヤモンドおよびピエゾ素子層のより高い生体適合性をもたらす。
本発明による好ましい方法において、色中心のスピンのエネルギー、より好ましくは色中心の基底スピン副準位が測定される。好ましい色中心は、NV中心である。好ましくは、たとえば光検波磁気共鳴(ODMR)測定で、好ましくは強力レーザにより、色中心のスピン依存性蛍光が測定される。
【0031】
より好ましくは、スピンは、光ポンピングにより、好ましくはレーザで偏極される。スピンは、好ましくは、マイクロ波場により達成されるパルス感知スキームで測定される。好ましくは、パルス感知スキームは、NV中心の電子の基底スピン副準位ms=−1および+1が使用される。温度不安定性および電子ノイズのNVスピンに対する直接効果が、これら2つのスピン副準位のエネルギーを等しくシフトし、それゆえ脱位相を誘導しないことは、この方法の達成可能な利点である。これは、かかるダイヤモンドスピンセンサの長いコヒーレンス時間を伴う。
本発明による好ましい方法は、12Kを超える温度で実施される。より好ましくは、この方法は、77Kを超える、より好ましくは200Kを超える、より一層好ましくは273Kを超える、最も好ましくは300Kを超える温度で実施される。本発明のこの実施形態において、ダイヤモンド基材の電子スピンを偏極するために極低温が必要とされないことを利用できる。
【0032】
本発明は、ダイヤモンドにおける色中心およびピエゾ活性層に基づくハイブリッドセンサの原理を提案する。本発明で、室温条件下および大気圧または高圧下を含む様々な周囲条件下での高感度を達成できる。さらに、本発明で、ナノスケール空間分解能を達成可能である。また、悪条件下でも安定的に動作する高度に一体化されたデバイスが得られる。
特に、本発明は、弱い圧力および力を測定する高度に感度の高いデバイスを提供する。精度は、kPa Hz-1/2以下(圧力測定について)、ピコニュートン(fN)Hz-1/2以下(力測定について)、(V cm-1)Hz-1/2以下(電場測定について)、およびmK Hz-1/2以下(温度測定について)を超えうる。ナノスケールサイズを有する本発明によるセンサは、10nmよりも良好な空間分解能を提示できる。さらに、基本圧力センサユニットの一体化は、表面圧収集に適用可能なデバイスに、たとえば双方向入力制御デバイスおよび電子皮膚のための、顕著に増強された感度および反応時間を提供できる。
本発明を、図面を用いてさらに詳細に示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1a】(a)圧磁一次素子を使用した本発明による力センサの構造を概略的に断面で示す図である。
図1b】圧電一次素子を使用した本発明による力センサを概略的に断面で示す図である。
図1c】圧電二次素子および圧磁一次素子を使用した本発明による電場センサを概略的に断面で示す図である。
図1d】熱感受性二次素子および圧磁一次素子を使用した本発明による温度センサを概略的に断面で示す図である。
図1e】アレイにより空間分解センサを得るハイブリッドセンサ(すなわち図1a〜図1dのセンサ)アレイを概略的に断面で示す図である。
図2a】圧磁一次素子層および色中心のアレイを含有するダイヤモンド層を含む本発明による空間分解力センサを断面で示す図である。
図2b】圧磁一次素子層、圧電二次素子アイランドおよび色中心のアレイを含有するダイヤモンド層を含む本発明による空間分解電場センサを断面で示す図である。
図2c】ダイヤモンド基材と隣接する一次素子層、熱感受性二次素子アイランドおよび色中心のアレイを含有するダイヤモンド層を含む本発明による空間分解温度センサを断面で示す図である。
図3】左側は、磁気共鳴実験において使用されるガラス上のマイクロ波共鳴器構造の光学顕微鏡画像を示す図である。右側は、ストリップ構造が示されるホルダの画像である。
図4a】NV中心の電子スピンの光ポンピングおよび光検出のための実験セットアップの概念図を示す図である。
図4b】マイクロ波ストリップラインに調整された単一のNV中心の共焦点マップを示す図である。
図5】円筒状の磁石が取り付けられた磁石ステージの写真を示す図である。
図6a】単一のNV中心の基底スピン準位構造を示す図である。これは、スピントリプレット(|1>、|0>、および|−1>)であり、2.87GHz結晶場分裂である。ゼーマンシフトは、|1>および|−1>の分裂もたらす。励起(緑色)光を約530nmの波長で適用することにより、NV中心は、ゼロフォノン線近く、約638nmの波長で、室温でもスピン依存性フォトルミネセンスを示す。これは、NV中心スピン状態の光ポンピングおよび光検出を可能にする。
図6b】外部パラメータ、たとえば圧力、磁場、電場、および温度に対する単一のNV中心の反応を測定するために使用されるパルスシーケンスを示す図である。NV中心スピンは、緑色レーザでの光ポンピングにより開始され、これは、マイクロ波場操作で|1>および|−1>のコヒーレント重畳へとさらに準備される。自由発展時間t後、外部シグナルから得られた位相情報を、スピン状態集団に戻してマイクロ波場操作でマッピングし、これを次に、緑色レーザでの光検出により読み出す。
図6c】ODMRスペクトルにおける2つの共鳴振動数間の分離を、圧力σの関数として示す。
図6d】シグナルを、捕捉時間taでの適用された1軸応力σの関数として示す図である。
図6e】応力および力の測定についてのショット雑音限界感度を、問合わせ時間の関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の実施形態の詳細な説明
ダイヤモンド材料
高圧高温(HPHT)法または化学蒸着法をダイヤモンドナノ結晶とともに使用して成長させたバルクダイヤモンドを、本発明に用いることができる。NV中心でのダイヤモンドのドーピングを、窒素含有ダイヤモンドの電子照射および窒素の埋込みと、それに続く焼なましにより実施できる。
ダイヤモンドの同位体濃縮は、NV中心のコヒーレンス時間の延長を提供するが、異なる同位体含有量(天然存在度を含む)を有するダイヤモンド結晶においても感知実験を実施できる。合成ダイヤモンドにおいて界面と制御可能な距離にあるNV中心の層(1〜2nmの深さ不確実性を有する)を、David D. Awschalom et al. "Engineering shallow spins in diamond with nitrogen delta-doping", Appl. Phys. Lett. 2012, vol. 101, pp. 082413に記載の窒素デルタドーピングにより創出する。この方法は、1ページおよび2ページの左カラムに詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。測定感度の全体的増強を得るために、NV中心の横位置が規則的格子内にある必要はないことに留意すべきである。
【0035】
ハイブリッドダイヤモンドピエゾ感知デバイスの製作
ピエゾ活性薄膜、すなわち圧磁または圧電薄膜を、スパッタ堆積法、たとえば高周波マグネトロンスパッタリングで、ダイヤモンドの基材上に堆積させる。この方法は、他の基材、たとえばSiおよびLaAlO3上へのピエゾ活性薄膜の堆積と類似する。好適なスパッタ堆積法は、M. Ohring et al.により"Materials Science of Thin Films: Deposition and Structure", Academic Press, 2002において開示される。この方法は、この論文の第5章(205〜230ページ)に詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。
【0036】
ピエゾ活性薄膜はまた、化学蒸着により単結晶ダイヤモンド上に成長させられうる。好適な方法は、B. Zhao et al.により"Preparation and optimization of ZnO films on single-crystal diamond substrate by metal-organic chemical vapour deposition", Semicond. Sci. Technol. 19, 770, 2004において開示される、表面音響波デバイスを製作するためにダイヤモンド表面上に酸化亜鉛(ZnO)薄膜を成長させるために使用される方法と類似する。この方法は、この論文の「実験」セクション(771ページ)に詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。しかしながら、本発明によるセンサを製造するためにピエゾ活性膜を堆積させるために使用される方法において、LP−MOCVDの工程において、ZnO膜のためのジエチル亜鉛(DEZn)およびO2の前駆体が、特定のピエゾ活性素子のためのものに適切に置き換えられる。
【0037】
圧電性および熱活性アイランドが、たとえば、集束イオンビームパターニング、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィまたは当業者に知られている他の方法を使用して、薄膜を切断することにより製作される。集束イオンビームパターニングの好適な方法は、S. Buhlmann et al.により"Size effect in mesoscopic epitaxial ferroelectric structures: Increase of piezoelectric response with decreasing feature size", Appl. Phys. Lett. 80, 3195, 2002において開示される。この方法は、この論文の第3パラグラフ(3195ページ)に詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。好適なフォトリソグラフィ法は、K. Lee et al.により"Two-dimensional planar size effects in epitaxial PbTiO3 thin films", Appl. Phys. Lett. 85, 4711, 2004において開示される。この方法は、この論文の第4〜第5パラグラフ(4711ページ)に詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。電子ビームリソグラフィの好適な方法は、Chia-Wen Wu et al.により"Electron-beam lithography assisted patterning of surfactant-templated mesoporous thin films", Nanotechnology 15, 1886 - 1889 2004において開示される。この方法は、この論文の「実験」セクション(1887ページ)に詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。
【0038】
実験セットアップの概観
図1a〜図2cは、ダイヤモンド基材層9および圧磁10または圧電一次素子層11を含むセンサ1、2、3、4、5、6、7、8の実施形態を概念的に詳しく示し、これらはいくつかの実施形態において、圧電12または熱感受性二次素子アイランド13とともに提供される。一次素子層は、図5に示す永久磁石14の磁場に曝露される。ダイヤモンド層9は、NV中心である色中心15を含有する。レーザは、色中心15のスピンを偏極し、読むのに寄与する。ダイヤモンドをレーザの焦点へと移動させるために、ダイヤモンドまたは顕微鏡対物レンズが、ピエゾステージ上に取り付けられる(図示せず)。磁石14は、色中心の結晶軸との磁場の整列のために使用されるベクトル電磁石の回転/並進ステージ(図示せず)上に取り付けられる。図3は、ODMR測定および色中心スピンのコヒーレント操作のために使用されるマイクロ波源を示す。ODMR測定の原理は、図4aに描かれている。色中心15は、(典型的には緑色)レーザ光16に曝露され、色中心15の蛍光17は、光検出器18により検出される。4ストリップ微細構造上のダイヤモンド基材の蛍光画像を、図4bに示す。画像の上部と下部とに、1本のストリップがそれぞれ示されている。ストリップの間に、ダイヤモンド領域を見ることができる。明るい点は、NV中心の蛍光発光に相当する。
【0039】
圧磁性基材を使用した力センサ
力または圧力を測定するために使用できる本発明によるセンサ1を、図1aに示す。デバイスは、埋め込まれたNV中心15を有するダイヤモンド基材層9およびダイヤモンド基材層9に直接隣接し接触する圧磁素子層10からなる。機械力または圧力に対する大きな磁気歪みを有する圧磁性層10の反応は、圧電性材料の磁区の磁化方向の変化をもたらし、ひいては、NV中心15の基底スピン準位のエネルギーに影響を及ぼす浮遊磁場の変化をもたらす。バイアス磁場が、圧力に対する感度をより高くするために圧磁素子層10に印加される。
【0040】
NV中心スピンのスピン依存性蛍光は、基底状態における光検波磁気共鳴(ODMR)測定を実施する効率的な機序を提供する。一次素子層に対する圧力または力の効果、およびそのことによる力または圧力の値は、ODMRスペクトルにおける共鳴振動数により決定される。NV中心スピンのODMR測定の好適な方法は、A. Gruber et al. "Scanning Confocal Optical Microscopy and Magnetic Resonance on Single Defect Centers", Science 1997, vol. 276, pp. 2012 to 2014に記載されている。この方法は、この論文の第3パラグラフ(2013ページ)に詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。
【0041】
磁場を測定するためにNVスピンを磁気計として使用することの代替的方法は、J. R. Maze et al. "Nanoscale magnetic sensing with an individual electronic spin in diamond", Nature 2008, vol. 455, pp. 644 to 647に記載のパルス感知スキームである。この方法は、この論文の、645ページの図の説明を含めた図1、647ページの方法の要約および刊行物の「方法」補遺(ページ番号なし)に詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。NVスピンは、マイクロ波場を印加することにより、2つの基底スピン副準位のコヒーレントな重畳状態へとまず準備される。圧磁性層上の負荷応力への依存性を示す基底スピン副準位のエネルギーは、動的位相をもたらし、NVスピンの光学的蛍光を介して測定される。
【0042】
圧電性基材を使用した力センサ
圧力または力を測定するために使用できる本発明による別のセンサ2を、図1bに示す。このデバイスは、埋め込まれたNV中心15を有するダイヤモンド基材層9に直接隣接し接触する圧電素子層11を含む。機械力または圧力に対する大きな圧電定数を有する圧電性層11の反応は、圧電性材料内の電荷分布の変化をもたらし、ひいては、ODMRスキームまたはパルス磁気感知スキームにより決定される、NV中心15の基底スピン準位のエネルギーに影響を及ぼす浮遊電場の変化をもたらす。力または圧力の値は、そのことにより、浮遊電場から得られる。この方法は、F. Dolde et al. "Electric-field sensing using single diamond spins", Nature Physics 2011, vol. 7, pp. 459 to 463に記載のとおり、単一のNVスピンセンサでの浮遊電場の測定に依存する。この方法は、この論文の、図の説明を含めた図1および図3ならびに方法セクション(462ページ)に詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれ、その関係する部分は、参照により本開示に組み込まれる。
【0043】
電場センサ
図1cは、図1aのものと類似するが、電場の測定のためのものであるセンサ3を示す。このためにセンサ3は、圧磁一次素子層10およびNV中心15を含有するダイヤモンド基材層9に加えて、一次素子層10の空隙内に提供される圧電二次素子アイランド12を含む。圧電素子アイランド12における内部機械歪みが、印加された電場から生成される。電場に誘導された歪みは、圧磁素子層10に変換され、磁場を生成し、ダイヤモンド基材9のNV中心15において検出される力を生成する。センサ3は、遠隔電気素量(たとえば単一の電子)を感知するために使用できる。
【0044】
熱感受性アイランドを使用した温度センサ
図1dは、温度を測定するためのセンサ4を示す。それは、熱感受性二次素子アイランド13、圧磁一次素子層10およびNV中心15を含有するダイヤモンド基材層9を含む。温度変化は、熱感受性素子アイランド13の熱膨張をもたらす。熱に誘導された歪みは、圧磁素子層10に変換され、磁場を生成し、ダイヤモンド基材9のNV中心15において検出される力を生成する。これは、本発明に従って、様々な物理的パラメータ、たとえば磁場、電場、圧力(力)および温度について、感度の高い変換器を提供する問題を解決できる。温度感知の可能な用途には、ナノスケールでの化学反応の観察、またはナノスケールでの生物学的過程をモニタリングするための細胞内部の温度の観察が含まれる。
空間分解力センサ
図2aは、NV中心15の2次元アレイ、圧磁一次素子層10および色中心15のアレイを含有するダイヤモンド層を有するダイヤモンド基材9を含む、本発明による空間分解力センサ6を示す。このセンサ6で、センサの表面上の力または圧力分布を測定できる。
【0045】
空間分解電場センサ
図2bは、NV中心15の2次元アレイ、圧磁一次素子層10、圧電二次素子アイランド12を有するダイヤモンド基材層9を含み、ダイヤモンド層9が色中心のアレイを含有する、本発明による空間分解電場センサ7を示す。
空間分解温度センサ
図2cは、NV中心15の2次元アレイ、ダイヤモンド層9と隣接する一次素子層10、および熱感受性二次素子アイランド13を有するダイヤモンド基材層9を含み、ダイヤモンド層9が色中心のアレイを含有する、本発明による空間分解温度センサ8を断面で示す。
合成ダイヤモンドにおけるNV中心の層は、David D. Awschalom et al. "Engineering shallow spins in diamond with nitrogen delta-doping ", Appl. Phys. Lett. 2012, vol. 101, pp. 082413に記載のとおり、窒素デルタドーピングで創出される。ダイヤモンド全体にNVスピン(およそ109の数を有する)がある1mm2を超える側表面積を有するダイヤモンドは、総圧力測定について少なくとも104倍で感度を高める。
【0046】
センサアレイ
図1a〜図1dのセンサ1、2、3、4を、アレイへと組み合わせることができ、そのことにより空間分解センサ19が得られる。たとえば、図1aまたは図1bのセンサ1、2を組み合わせることにより、表面圧コレクタを創出できる。センサ1、2、3、4をセンサアレイへと組み合わせるとき、各個別のセンサは、それ自体の基材9、一次素子層10、11および場合によって二次素子アイランド12、13を有しうる(図1e)。それらをアレイへと物理的に組み合わせるため、それらは、共通基材20上に取り付けられ、好適な基材は当業者に知られている。
【0047】
拡張可能であること、すなわち、原理的に無限数の感知ユニット(図2a〜図2cの場合)またはセンサ1、2、3、4(図1の場合)を互いに組み合わせることができることは、空間分解センサ6、7、8および上で論じたセンサアレイ19の達成可能な利点である。これは、触覚イメージング、電子皮膚、および双方向入力/制御デバイス等の用途に向けた圧力センサの一体化の問題を解決できる。かかる表面圧コレクタは、音響および振動運動を検出するため、きわめて短距離(100nm未満)で微小な力が測定されなければならない場合にカシミール効果を検出するため、および、基本的な量子物理学現象を研究するために使用できる。
【0048】
光検波磁気共鳴(ODMR)に基づく検出スキーム
本実施形態において、共焦点顕微鏡技術を使用して単一のNV中心が検出される。532nmで動作するレーザビームダイオード励起固体レーザの焦点を、高開口数顕微鏡対物レンズ(Olympus UPLAPO 60×)を使用して回折限界点上に合わせる。試料を、圧電駆動ステージ(nPoint,Inc.)を使用して走査する。同じ顕微鏡対物レンズにより蛍光を収集し、単光子感度を有するアバランシェフォトダイオード(SPCM−AQRH、Excelitas)上に焦点を合わせる。光子アンチバンチングの観察により、個別のNV中心が焦点にあることを検出できる。
単一の電子スピン上での磁気共鳴の蛍光検出は、NV中心と関連づけられるスピン状態の光学コントラストに基づく。D. Le Sage el al. "Efficient photon detection from colour centres in a diamond optical waveguide", Phys. Rev. B 85, 121202(R) (2012)において開発された側面収集スピン依存性フォトルミネセンス法を、光検出効率を改善するために使用する。この方法は、この刊行物の1ページおよび2ページに詳細に記載されており、これは参照により本開示に組み込まれる。
【0049】
NV中心電子スピンの開始
NV中心と関連づけられる電子スピンを、短い(300ns)レーザの4パルスの適用により偏極する。光ポンピングが、励起電子状態へのNV中心の励起により達成される。この状態の、主に基底状態のスピン副準位のうちの1つへの減衰が生じる。
NV中心電子スピンのコヒーレント操作のためのマイクロ波励起
ダイヤモンドにおける単一の色中心のマイクロ波遷移を励起するため、試料を、効率的なダイヤモンドの励起を提供する自家製のマイクロ波ストリップライン上に置いた。図3の上に、この構造の光学顕微鏡写真を示し、これは、従来のフォトリソグラフィによりガラスカバースリップ上に製作され、磁気共鳴実験において使用される。各マイクロストリップの幅および間隔は、20μmである。図3の下に、ストリップラインを有するホルダの写真を見ることができる。SMAコネクタに接続され、2つのコプレナーマイクロストリップに適合された同軸ケーブルを介してシグナルが適用される。
【0050】
市販のマイクロ波源(Anritsu MG 37020A)を実験において使用する。数MHzのラビ振動数を達成するため、市販の高出力マイクロ波増幅器(10W、Gigatronics GT 1000A)を使用してマイクロ波源を増幅する。マイクロ波場の位相制御を、市販の位相調整器(Narda,Inc.)を使用して達成する。市販のマイクロ波スイッチ(General Microwave、F9914)を使用してマイクロ波パルスを形成する。マイクロ波駆動の強度を、マイクロ波源の出力レベルにより制御する。
【0051】
時間分解測定
光学的スピン偏極および磁気共鳴の時間分解検出のための光パルスを、音響光学変調器(Crystal Technology)を使用して生成した。マイクロ波、光パルス、試料走査、およびデータ収集を、音響光学変調器、マイクロ波スイッチおよび高速光子計数器(FastComtec、P7998)の駆動部に接続されるコンピュータ制御パルス発生器(Tektronix、DTG)により同期する。
磁気共鳴の光検出は、科学刊行物Jelezko, F. et al., "Single defect centres in diamond: A review." Physica Status Solidi (a) Applications and Materials Science, 2006. 203(13): pages 3207 to 3225、Jelezko, F. et al., "Read-out of single spins by optical spectroscopy.", Journal of Physics-Condensed Matter, 2004. 16(30): pages R1089 to R1104およびJelezko, F., et al., “Observation of coherent oscillations in a single electron spin", Physical Review Letters, 2004. 92(7)に従い実施され、これら刊行物の関係する部分は、参照により本開示に組み込まれる。
【0052】
磁場制御
およそ1Tまでの磁場が、ダイヤモンド面から約100μmに位置する永久磁石14(magnets4you GmbH)により生成される。磁場をNV欠陥の結晶軸(z軸)と整列させるため、図5に示すとおり回転および並進ステージ21(Micos GmbH)を使用して磁石を移動させる。
ピエゾ素子層の圧力反応の感知
NVスピンの基底32準位は、ms=0とms=±1のスピン副準位の間のD=2.87GHzのゼロ磁場分裂を示す。基底スピン準位構造を、図6aに示す。外部磁場とのゼーマン相互作用、および外部電場との結合を含むスピンハミルトニアンは、
【0053】
【数1】
により与えられ、式中、γは、電子磁気回転比であり、Bx,y,zおよびEx,y,zは、磁場および電場の3つの成分を表し、これは、印加外部磁場/電場および圧磁性膜により生成される浮遊磁場/電場の両方から生じる。Eにより定量されるNV中心上の歪みの効果は、基底状態スピン副準位の混合を誘導し、NV軸に沿ったエネルギー分裂よりも通常は(MHzの単位で)はるかに小さい。
光検波磁気共鳴(ODMR)測定スペクトルにおける共鳴振動数ω±1は、それぞれスピン副準位ms=0およびms=±1からの電子遷移に相当し、これはNV中心上に作用する磁場に依存する。図6cは、弱い圧力下(MPa以下)でのNVスピンのODMR共鳴スペクトルの反応の一例を示す。応力σの関数としてのODMRスペクトルにおける2つの共鳴振動数間の分離Δを示す。Δの値は、σ=0について15.55GHzである。テルフェノールD膜の寸法は(15nm)3と選択され、NV中心から界面までの距離はd=15nmである。印加外部磁場は、<001>方向に沿ってB0=2350Gであり、応力は、<111>方向に沿っている。温度は300Kである。
【0054】
パルス感知スキームにおいて、その一例を図6bに示し、窒素中心電子スピンを、コヒーレント重畳状態
【数2】
へと、マイクロ波場Hd=Ω[cos(ω+1t)|+1><0|+cos(ω-1t)|−1><0|]+h.c.を持続時間tπ/2=π/Ωで印加することにより、まず準備する。NV中心スピンの理想的発展は、
【0055】
【数3】
であり、式中、Δは、ODMRスペクトルにおける共鳴の振動数差である。同位体操作ダイヤモンドにおけるNV中心スピンについて、13C核スピンバスからの磁気ノイズは無視でき、本モデルにおける主な磁気ノイズは、ピエゾ素子層におけるゆらぎから生じる。
環境ノイズ下でのNV中心スピンの実質的なダイナミクスは、以下のマスター方程式に
【0056】
【数4】
より記述され、式中、Γ(ωk)およびΓz(0)は、NV軸と平行および垂直な磁気ノイズのパワースペクトルを表し、Λ(ρ,sz)=szρsz−ρでsz=|+1><+1|−|−1><−1|、およびΛ(ρ,s0k)=L(ρ,|k><0|)+L(ρ,|0><k|)で
【数5】
である。
【0057】
自由発展時間t後のNV中心のスピン状態は、式(2)におけるマスター方程式の解により与えられ、
【数6】
式中、
【数7】
捕捉時間t後の蛍光測定は、状態ms=0集団を測定し、以下のとおりである。
【数8】
より大きな捕捉時間tを選択することにより、感度を改善することが可能である一方で、スピンはさらなる磁気ノイズに妨げられる。圧力測定の感度は、層面積約200nm2でησ約0.35kPa Hz-1/2を達成でき、これは、約75フェムトニュートン(fN)Hz-1/2の力測定感度ηFに相当する。tの最適な選択は、NV中心スピンのコヒーレンス時間と近似する。ハイブリッドシステムの寸法を最適化し、NV中心のアレイを使用することにより、感度をさらに改善できる。
【0058】
ダイヤモンドにおける色中心およびピエゾ素子での電場の感知
本発明の方法において、成長中にNV中心でドーピングされる化学蒸着(CVD)により形成される合成ダイヤモンド層、圧磁素子層、および基材上の圧電素子アイランドからなるハイブリッドデバイスが、電場を測定する。電場は、圧電素子アイランドの着色εを誘導し、これは、取り付けられた圧磁性層に作用する応力σ=ε・Yを生成し、Yは、圧電性材料のヤング率を意味する。大きな圧電定数を有する圧電性アイランド、たとえばPb[ZrxTi1-x]O3(PZT)について、電場誘導歪みは、εe=0.0002(MV/m)-1ほどの大きさでありえ、対応するヤング率は、Y約105MPaである。したがって、電場測定の感度は、
ηΕ=ησ/(εe・Y) (5)
に到達する。
【0059】
圧力測定の感度ησ約0.35kPa Hz-1/2は、電場測定の感度ηΕ約0.2(V cm-1)Hz-1/2を示し、これは、F. Dolde et al.により"Electric-field sensing using single diamond spins", Nature Physics 2011, vol. 7, pp. 459-463において報告された結果に対する3桁の強度改善を表す。この感度は、NVスピンセンサから約8μmの距離にある単一の電気素量により生成される電場の約1秒後の検出を可能にすると考えられ、したがって、単一電荷の遠隔感知の可能性を開く。
図6eは、総実験時間1秒以内の応力(および力)の測定についてのショット雑音限界感度を、問合わせ時間taの関数として示す。
【0060】
【数9】
Cの値は0.3であり、NVスピン準備および読み出し時間はtp=600nsである。他のパラメータは、図6cと同じである。
ダイヤモンドにおける色中心およびピエゾ素子での温度の測定
本発明の方法において、成長中にNV中心でドーピングされる化学蒸着(CVD)により形成される合成ダイヤモンド層、圧磁素子層、および基材上の熱感受性素子アイランドからなるハイブリッドデバイスが、温度を測定する。温度変化は、熱感受性素子アイランドの膨張を熱膨張定数εTで誘導し、これは、2.3x10-5-1(アルミニウム)、および1.2x10-5-1(鋼)ほどの高さでありうる。熱膨張は、取り付けられた圧磁性層上に作用する応力σT=εT・Yを生成し、式中、Yは、熱感受性材料のヤング率を意味し、Y=7x104MPa(アルミニウム)、および2x105MPa(鋼)である。したがって、温度測定の感度は、
【0061】
ηT=ησ/(εT・Y) (7)
に到達する。
圧力測定の感度ησ約0.25kPa Hz-1/2は、電場測定の感度ηΕ約0.25mk Hz-1/2を示す。
【0062】
上の明細書、特許請求の範囲および図面に記載された特徴は、任意の組合せで本発明と関係する。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 少なくとも1つの色中心(15)を有する第1のダイヤモンド基材(9)を含むセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)であって、
センサ(1、2、3、4、5、6、7、8)が、第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)をさらに含み、一次素子(10、11)が、第1のダイヤモンド基材(9)の色中心(15)と相互作用するように配置されることを特徴とする、
センサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
2. 第1のダイヤモンド基材(9)がいくつかの色中心(15)を含むことを特徴とする、上記1に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
3. センサ(1、2、3、4、5、6、7、8)が、いくつかのダイヤモンド基材(9)を含み、各基材(9)が、少なくとも1つの色中心(15)を含むことを特徴とする、
上記1または2に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
4. ダイヤモンド基材(9)の色中心(15)と相互作用するように配置されるいくつかの一次圧磁(10)または圧電素子(11)を含むことを特徴とする、
上記1から3までのいずれか1項に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
5. 色中心(15)が窒素空孔中心であることを特徴とする、
上記1から4までのいずれか1項に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
6. 一次圧磁(10)または圧電素子(11)が、基材(9)の色中心(15)と磁気的または電気的に相互作用するように配置されることを特徴とする、
上記1から5までのいずれか1項に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
7. 一次素子が、固体フェライト材料を含む圧磁素子(10)であることを特徴とする、
上記1から6までのいずれか1項に記載のセンサ(1、3、4、5、6、7、8)。
8. バイアス磁場が、圧磁一次素子(10)に印加されることを特徴とする、上記7に記載のセンサ(1、3、4、5、6、7、8)。
9. 一次素子が、合成セラミック材料を含む圧電素子(11)であることを特徴とする、上記1から8までのいずれか1項に記載のセンサ(2、5)。
10. 第1の一次素子(10、11)の少なくとも一部が、第1のダイヤモンド基材(9)の表面の少なくとも一部にわたって層として延在することを特徴とする、
上記1から9までのいずれか1項に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
11. 第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)と相互作用するように配置される第1の二次素子(12、13)を含むことを特徴とする、上記1から10までのいずれか1項に記載のセンサ(3、4、5、7、8)。
12. センサ(1、2、3、4、5、6、7、8)が、いくつかの二次素子(12、13)を含み、それぞれが一次素子(10、11)と相互作用するように配置されることを特徴とする、上記11に記載のセンサ(3、4、5、7、8)。
13. 第1の二次素子(12、13)が、第1の一次素子(10、11)においてまたはその上にアイランドを形成することを特徴とする、上記11または12に記載のセンサ(3、4、5、7、8)。
14. 二次素子が圧電性(12)であることを特徴とする、上記11から13までのいずれか1項に記載のセンサ(1、2、3、5、6、7)。
15. 二次素子(13)が熱感受性であることを特徴とする、上記11から13までのいずれか1項に記載のセンサ(4、5、8)。
16. センサ(1、2、3、4、5、6、7、8)の直径が10μm未満であることを特徴とする、上記1から15までのいずれか1項に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
17. センサ(6、7、8)が、空間分解感知のためのいくつかの色中心(15)を含み、センサ面積(6、7、8)が0.1mm2より大きいことを特徴とする、上記1から16までのいずれか1項に記載のセンサ(6、7、8)。
18. 非毒性材料でコーティングされていることを特徴とする、上記1から17までのいずれか1項に記載のセンサ(1、2、3、4、5、6、7、8)。
19. 第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)の変化が、第1のダイヤモンド基材(9)の少なくとも1つの色中心(15)の対応する変化を検出することにより検出され、色中心(15)が第1の一次素子(10、11)と相互作用する、方法。
20. 少なくとも1つの色中心(15)の変化が、色中心(15)の電子スピンの変化であることを特徴とする、上記19に記載の方法。
21. 色中心(15)の磁気共鳴の光検出を伴うことを特徴とする、上記19または20に記載の方法。
22. 電子スピンが光ポンピングにより偏極されることを特徴とする、上記19から21までのいずれか1項に記載の方法。
23. 検出される色中心(15)の変化が、色中心(15)の蛍光の変化であることを特徴とする、上記19から22までのいずれか1項に記載の方法。
24. スピンが、マイクロ波場により達成されるパルス感知スキームで測定されることを特徴とする、上記19から23までのいずれか1項に記載の方法
25. 色中心(15)がマイクロ波場に曝露されることを特徴とする、上記19から24までのいずれか1項に記載の方法。
26. 12Kを超える温度で実施されることを特徴とする、上記19から25までのいずれか1項に記載の方法。
27. 第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)の変化が、第1の圧磁(10)または圧電一次素子(11)に適用される力または力の変化により誘導されることを特徴とする、上記19から26までのいずれか1項に記載の方法。
【符号の説明】
【0063】
1、2、3、4、5、6、7、8 センサ
9 ダイヤモンド基材層
10 圧磁一次素子層
11 圧電一次素子層
12 圧電二次素子アイランド
13 熱感受性二次素子アイランド
14 永久磁石
15 色中心
16 (典型的には緑色)レーザ光
17 蛍光
18 光検出器
19 センサアレイ
20 共通基材
21 回転および並進ステージ
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図2a
図2b
図2c
図3
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e