(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記潤滑処理剤は、ステアリン酸ナトリウム50〜55質量%、四ホウ酸ナトリウム及びこれの水和物から選択された1つ以上のホウ酸塩0.25〜2.5質量%、水酸化カルシウム15〜20質量%、及びステアリン酸25〜30質量%を含むことを特徴とする、請求項1に記載の塑性加工用金属材料の非リン皮膜処理方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、多くの産業分野で使われる金属製品、例えばボルトやナットなどの機械部品工具、及び自動車部品などの金属製品は冷間圧造などの塑性加工により製造される。例えば、ボルトやナットなどは冷間圧造塑性工程、脱脂工程、熱処理工程、及び表面処理工程(着色、メッキ)などを連続的に進行して製造される。
【0003】
金属材料の塑性加工、例えば冷間圧造及び伸線などの塑性加工では、金型と金属材料(被加工材)の摩擦界面に潤滑皮膜が必要である。潤滑皮膜が充分でなければ、所望の形状への加工が困難であるか、または焼付(焦げ付き)が発生する等の問題点が発生する。特に、非常に大きい圧力が伴われる冷間圧造用塑性加工の場合に甚だしく発生する。
【0004】
これによって、大部分の金属材料(被加工材)は、冷間圧造などの塑性加工の前に、前処理として酸(acid)洗浄などにより金属材料の表面の異質物及びスケールを除去した後、潤滑性のための皮膜処理を進行している。この際、皮膜処理を進行するに当たって、金属材料の表面にリン酸亜鉛などのリン酸塩結晶を皮膜する化成皮膜と、石鹸系潤滑処理剤を組み合わせた皮膜法として、ボンダライジング(bonderizing)またはボンダライジングルブリカント(bonderizin glubricant)皮膜法が広範囲に用いられている。具体的に、リン酸塩及び亜鉛塩などを含むリン酸塩皮膜処理剤を金属材料の表面と反応させてリン酸塩皮膜を形成させ、以後、石鹸系潤滑処理剤を塗布してリン酸塩皮膜上に潤滑層を形成させている。
【0005】
リン酸塩皮膜は摩擦を低減させると共に、金属材料の表面を補修被覆して、冷間圧造などの塑性加工における焼付現象を抑制する。また、リン酸塩皮膜上に形成された石鹸系潤滑層は摩擦を低減させて潤滑性をより増加させる。このような理由により、リン酸塩皮膜処理と石鹸系潤滑処理との組合せは冷間圧造などの塑性加工のために安定的で、かつ良好な潤滑性を供給する。
【0006】
例えば、大韓民国公開特許公報第10−2000−0023075号、大韓民国公開特許公報第10−2002−0072634号、大韓民国公開特許公報第10−2002−0089214号、及び大韓民国公開特許公報第10−2008−0094039号等には上記と関連した技術として、リン酸塩皮膜処理剤を用いた皮膜処理方法が提示されている。
【0007】
しかしながら、上記先行特許文献を含んだ従来技術に従う皮膜処理方法は、次のような問題点がある。
【0008】
前述したように、金属材料(被加工材)は冷間圧造などの塑性加工を経た後、熱処理が進行される。この際、熱処理工程で炭化物付着及び浸燐現象が発生する問題点がある。具体的に、リン酸塩皮膜に含まれたリン(P)が熱処理工程で金属材料の内部に浸燐される。このような浸燐現象が発生すれば、金属材料の脆性を引き起こし、高強度金属製品が剪断される危険性が大きくなり、強度が低下する。これによって、熱処理工程の前に脱リン工程を経なければならず、この場合には製品の脱リン処理時に発生する製品の損傷により不良率発生及び処理費用が過度に発生して生産性も落ちる。
【0009】
また、従来技術に従う皮膜処理方法は、処理時間が長くかかる問題点がある。例えば、良好な皮膜のために、予熱約20〜30分、及び反応時間約10分以上などの長時間が要求される。併せて、リン(P)は環境有害物質であるので、リン酸塩皮膜処理や脱リン工程などは親環境的でない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書で使われる用語“及び/又は”は前後に羅列した構成要素のうち、少なくとも1つ以上を含む意味として使われる。
【0022】
本発明は、潤滑皮膜が形成された塑性加工用金属材料を提供する。また、本発明は少なくとも潤滑性を改善する潤滑皮膜であって、塑性加工用金属材料の表面にリン(P)を含有しない非リン皮膜(Non−Phosphate Coating layer)を形成する非リン皮膜処理方法を提供する。
【0023】
具体的に、本発明に従う塑性加工用金属材料は、金属材料;上記金属材料の表面に形成された皮膜層;及び上記皮膜層上に形成された潤滑層を少なくとも含む。この際、上記皮膜層はリン(P)を含有しない非リン皮膜(Non−Phosphate Coating layer)であって、これは本発明に従って四ホウ酸カルシウム(CaB
4O
7)を含む。
【0024】
また、本発明に従う塑性加工用金属材料の非リン皮膜処理方法(以下、“非リン皮膜処理方法”と略称する)は、少なくとも以下の(1)工程から(3)工程を含む。以下の(1)工程から(3)工程は連続的である。
(1)金属材料の表面の異質物やスケールを除去する前処理工程
(2)上記前処理された金属材料を皮膜処理剤に浸漬して金属材料の表面に皮膜層を形成させる皮膜処理工程
(3)上記皮膜処理された金属材料を潤滑処理剤と接触させて上記皮膜層上に潤滑層を形成させる潤滑処理工程
【0025】
この際、上記(2)工程で使われる皮膜処理剤は、本発明に従ってリン酸塩(または、リン)を含有しない非リン酸塩皮膜処理剤であって、これはホウ酸塩、亜硝酸ナトリウム、水酸化カルシウム、及び水を含む非リン酸塩処理液に特定される。以下、各工程別の例示的な実施形態を説明しながら本発明に従う塑性加工用金属材料を共に説明する。以下、本発明の例示的な実施形態を説明するに当たって、関連した公知の汎用的な機能または構成に対する詳細な説明は省略する。
【0026】
(1)前処理工程
本発明において、処理対象となる金属材料(被加工材)は冷間圧造などの塑性加工用であれば、特別に制限されるものではない。本発明において、“金属材料”は半製品及び/又は完成品などを含み、これは、例えばボルトやナットなどの機械部品工具、自動車部品などの金属製品であって、その形状や材質などは制限されない。金属材料は、例えば、炭素鋼、ボロン鋼、合金鋼、及び/又はベアリング鋼などの高強度金属材質でありうる。また、本発明において、“塑性加工”は、例えば冷間圧造及び/又は伸線などから選択された1つ以上を意味することができる。
【0027】
上記のような金属材料に対し、まず前処理を進行して表面の異質物及び/又はスケールを除去する。大部分の金属材料には油脂(油)やホコリなどの異質物及び/又はスケールなどが存在する。このような異質物やスケールは皮膜処理に悪影響を及ぼす。ここに、皮膜処理の前に異質物及び/又はスケールを除去する。
【0028】
本発明において、前処理工程(異質物及び/又はスケールの除去工程)は、金属材料の表面に存在する異質物やスケールなどを除去できるものであれば、特別に制限されるものではない。上記前処理工程(異質物及び/又はスケールの除去工程)は、例えば酸洗浄(Acid Pickling)、シャワー(Shower)及び/又は水洗(Rising)工程などを含むことができる。場合によって、前処理工程(異質物及び/又はスケールの除去工程)は、アルカリ洗浄を含むことができる。1つの例示で、前処理工程(異質物及び/又はスケールの除去工程)は、酸洗浄工程及び水洗(シャワー)工程を連続して含むことができる。この際、上記酸洗浄工程は、例えば塩酸や硫酸などの酸水溶液に金属材料を含浸するか、または上記酸水溶液を金属材料に噴霧して進行することができる。そして、上記酸水溶液はシャワーや水洗により除去されることがよい。
【0029】
(2)皮膜処理工程
上記前処理(異質物及び/又はスケール除去)された金属材料を皮膜処理剤に浸漬(Dipping)して金属材料の表面に化成皮膜を形成させる。即ち、金属材料の表面上に潤滑性のための皮膜層を形成させる。
【0030】
この際、上記皮膜処理剤には、本発明に従ってリン酸塩(または、リン酸)を含有しない非リン酸塩皮膜処理剤を使用する。上記皮膜処理剤は、具体的にホウ酸塩、亜硝酸ナトリウム(NaNO
2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、及び水(H
2O)を含む非リン酸塩処理液(水溶液)であって、これはリン酸塩(または、リン酸)を含有しない。また、上記ホウ酸塩は四ホウ酸ナトリウム(=ホウ素酸四ナトリウム:Na
2B
4O
7)、及びこれの水和物(Na
2B
4O
7・10H
2O)から選択された1つ以上が使われる。この際、上記ホウ酸塩(四ホウ酸ナトリウム)と水酸化カルシウムは皮膜層のベース結晶を形成する。そして、上記亜硝酸ナトリウムは、例えば酸化剤及び/又は皮膜補助剤として作用する。また、上記水酸化カルシウムは、例えば耐摩耗性及び/又は耐食性などの表面物性改善と皮膜結晶の微細化を図る機能を兼ねる。
【0031】
上記のような非リン酸塩処理液に金属材料を浸漬すれば、潤滑性の皮膜層が形成される。本発明によれば、上記のような非リン酸塩処理液に浸漬後、所定時間が経てば、冷間圧造などの塑性加工用に適合した潤滑性皮膜層が形成される。この際、形成された皮膜層は少なくとも四ホウ酸カルシウム(CaB
4O
7)を含む結晶で構成される。また、上記皮膜層は、例えば2〜8g/m
2の付着量の厚さで金属材料の表面に形成できる。皮膜層の付着量が2g/m
2未満の場合、良好な潤滑性及び表面物性などを図ることが困難でありうる。そして、皮膜層の付着量が8g/m
2を超過する場合、過剰付着量に従う上昇効果があまり大きくないことがあり、金属材料の他の物性(例えば、脆性、引張など)に悪影響を及ぼすことがある。
【0032】
1つの実施形態に従って、金属材料を上記非リン酸塩処理液に60〜85℃の温度(浸漬温度)で2分〜5分(浸漬時間)間浸漬して皮膜処理することがよい。この際、浸漬時間が2分未満とあまり短ければ、良好な皮膜層を得ることが困難であり、四ホウ酸カルシウム(CaB
4O
7)結晶の生成量が少ないことがある。そして、浸漬時間が5分を超過する場合、過剰時間の付与に従う上昇効果があまり大きくなく、生産性及びエネルギー使用量の面で好ましくないことがある。このような点を考慮する時、4分〜5分間浸漬して皮膜処理することが好ましい。そして、上記浸漬温度、即ち上記非リン酸塩処理液の温度は70〜80℃のものが好ましい。最も最善の実施形態に従って、70〜80℃の浸漬温度で4分〜5分間浸漬して皮膜処理することがよい。
【0033】
本発明によれば、皮膜処理剤として上記のような特定の成分で組成された皮膜処理剤が使われて皮膜処理工程が効率的に改善される。具体的に、塑性加工に適合した潤滑皮膜が良好に形成されながら熱処理工程での炭化物付着及び浸燐現象が防止される。即ち、本発明によれば、皮膜処理剤が非リン酸塩処理液として、リン酸塩(または、リン酸)を含有しないので熱処理工程での浸燐現象が発生しない。そして、炭化物付着現象が防止または抑制される。また、浸漬時間を2分〜5分(4分〜5分)の短い時間の間進行した場合にも良好な皮膜が形成される。即ち、皮膜処理時間が短縮される。これによって、生産性が向上し、エネルギー使用量が少なくて処理費用が低減される。併せて、環境有害物質であるリン(P)の使用が排除されて親環境的である。
【0034】
好ましい実施形態に従って、上記非リン酸塩処理液は水1L(リットル)に対して四ホウ酸ナトリウム(Na
2B
4O
7)及びこれの水和物(Na
2B
4O
7・10H
2O)から選択された1つ以上のホウ酸塩3.5〜4.5g;亜硝酸ナトリウム(NaNO
2)0.2〜0.45g;及び水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)80〜90gを含むことがよい。このような含有量範囲に適正組成される場合、皮膜層の潤滑性、耐摩耗性、耐食性、金属材料に対する密着性、及び/又は皮膜形成時間短縮などで非常に効果的である。この際、水1L基準にホウ酸塩の含有量が3.5g未満の場合には、例えば潤滑性及び/又は耐摩耗性などが微々たるものになることがある。そして、亜硝酸ナトリウムの含有量が0.2g未満の場合には、例えば密着性などが低下するか、または皮膜形成時間が長くなることがあり、水酸化カルシウムの含有量が80g未満の場合には、例えば密着性、耐摩耗性、及び/又は耐食性などが低下することがある。また、各成分が上記範囲より多く使われた場合、過剰使用に従う上昇効果が大きくなく、一部の成分は皮膜形成に関与せず、残留することがあるので、好ましくない。
【0035】
(3)潤滑処理工程
上記のような非リン酸塩処理液を用いて皮膜層を形成させた後、上記皮膜処理された金属材料を潤滑処理剤と接触させて上記皮膜層上に潤滑層を形成させる。このような潤滑処理(潤滑層)により潤滑性がより改善される。この際、上記潤滑処理剤(潤滑層)は潤滑性を改善させることができるものであれば、特別に制限されず、これは例えば通常的に使われるものを使用することができる。
【0036】
好ましい実施形態に従って、上記潤滑処理剤(潤滑層)にはステアリン酸ナトリウム;四ホウ酸ナトリウム、及びこれの水和物から選択された1つ以上のホウ酸塩;水酸化カルシウム;及びステアリン酸を含む粉末を使用することがよい。このように組成された潤滑処理剤は潤滑性の改善に効果的であることは勿論、上記非リン酸塩処理液により形成された皮膜層との密着性が優れるので本発明に好ましい。より具体的な実施形態に従って、上記潤滑処理剤(潤滑層)は、潤滑処理剤(潤滑層)の全体重量基準にステアリン酸ナトリウム50〜55質量%;四ホウ酸ナトリウム、及びこれの水和物から選択された1つ以上のホウ酸塩0.25〜2.5質量%;水酸化カルシウム15〜20質量%;及びステアリン酸25〜30質量%を含むことが好ましい。
【0037】
上記潤滑処理は金属材料に上記のような潤滑処理剤を噴射などの方法により塗布するか、または粉末上の潤滑処理剤が積層された積層体に金属材料を通過させる方法(
図1参照)により接触させて処理することができる。
【0038】
以上で説明した本発明によれば、前述したように、冷間圧造などの塑性加工に適合した潤滑皮膜を形成させながら熱処理工程での炭化物付着及び浸燐現象が除去されることができ、脱リン工程を排除することができる。また、皮膜処理時間が短縮されて生産性などが向上し、親環境を図ることができる。
【0039】
以下、本発明の実施例及び比較例を例示する。以下の実施例は本発明の理解を助けるために例示的に提供されるものであり、これによって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の比較例は従来技術を意味するものでなく、これは単に実施例との比較のために提供されるものである。
【0040】
(実施例1〜3)
<前処理(異質物及びスケール除去)>
金属試片として炭素鋼材質の棒(wire rod)を用意した後、約60℃の塩酸水溶液に5分間浸漬して酸洗浄(Pickling)した。次に、上記酸洗浄した金属試片を常温(約12℃)の水道水を用いて3回水洗(Rinsing)した後、乾燥させた。
【0041】
<化成皮膜処理>
まず、水に四ホウ酸ナトリウム水和物(Na
2B
4O
7・10H
2O)を入れて溶解させた後、亜硝酸ナトリウム(NaNO
2)と水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)を順次に滴下して溶解させた後、水を補充して5Lの非リン酸塩皮膜処理液(水溶液)を製造した。この際、以下の<表1>示すように、各実施例によって非リン酸塩皮膜処理液の組成(含有量)を異にした。以下の<表1>で、各成分の含有量(重量)は水1Lを基準としたものである。
【0042】
次に、上記各実施例に従う非リン酸塩皮膜処理液に金属試片を浸漬した後、約80℃の温度で4.5分(270秒)間浸漬状態を維持して皮膜処理した。
【0043】
<潤滑処理>
全体重量基準にステアリン酸ナトリウム50質量%、四ホウ酸ナトリウム水和物(Na
2B
4O
7・10H
2O)2質量%、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)20質量%、及びステアリン酸28質量%を混合して白色固形粉末の潤滑処理剤を用意した。この際、実施例3の場合には、ステアリン酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウム水和物(Na
2B
4O
7・10H
2O)の含有量を異にした。
【0044】
以後、上記粉末上の潤滑処理剤に上記皮膜処理された各金属試片を通過(接触)させた後、乾燥させて潤滑処理した。添付した
図1は潤滑処理過程を示す写真である。
【0045】
(比較例1〜3)
上記実施例1と同様に実施し、かつ化成皮膜処理時、非リン酸塩皮膜処理液の組成(成分及び含有量)を異にしたことを除いては、上記実施例1と同様に実施した。また、比較例3の場合には潤滑処理剤の組成を異にした。各比較例に従う非リン酸塩皮膜処理液の組成を以下の<表1>に示した。
【0046】
(比較例4及び5)
上記実施例1と同様に実施し、かつ化成皮膜処理工程を異にしたことを除いては、上記実施例1と同一に実施した。具体的に、本比較例では皮膜処理剤として、従来に一般的に使われているリン酸塩亜鉛系皮膜処理剤(水溶液)を使用し、かつ上記リン酸塩亜鉛系皮膜処理剤に金属試片を浸漬した後、約80℃の温度で20分(比較例4)及び10分(比較例5)間浸漬状態を維持して皮膜処理した。以後、実施例1と同一な方法により潤滑処理した。
【0048】
上記実施例1及び比較例4に従う金属試片に対し、次のようにリン(P)検出試験を実施した。また、上記各実施例及び比較例に従う金属試片に対し、次のように耐摩耗性、耐食性、密着性、及び塑性加工性能(潤滑性能)を評価した。その結果を以下の<表2>に示した。
【0049】
1.リン(P)検出試験
10mlの試験液(ジポスペインティング加熱試験液:10gのアンモニウムモリブデートを500ml蒸溜水に溶解させた後、135mlの硫酸を混合した試験液)を300mlの三角フラスコに入れて蒸溜水50mlで希釈させた。以後、試片を5cmに切断した後、三角フラスコに投入し、10秒間振った後、取り出した。次に、アスコロビン酸を加えた後、溶液を80℃に加熱(マグネチックバーを用いてアスコロビン酸を溶解)した。この際、溶液の色相が透明な無色または黄色に変われば、リン酸が存在しないことを意味し、溶液の色相が濃い青色に変われば、リン酸が存在することを意味する。
【0050】
添付した
図2は実施例1に従う試片に対して上記のような過程でリン(P)検出試験を実施した結果を示す写真であり、添付した
図3は比較例4に従う試片に対して上記のような過程でリン(P)検出試験を実施した結果を示す写真である。
図2及び
図3に示すように、実施例1に従う試片(
図2)は黄色であって、リン(P)が検出されないが、比較例4に従う試片(
図3)は濃い青色としてリン(P)が検出されることが分かる。
【0051】
2.耐摩耗性
上記各金属試片の化成皮膜(潤滑処理前)に対し、ASTM D 968に準じた砂落下試験を通じて皮膜の耐摩耗性を評価した。この際、肉眼観察を通じて摩耗程度を評価したものであり、評価基準は、次の通りである。
【0052】
<耐摩耗性の評価基準>
◎:皮膜に剥離や傷が全く見えない
○:皮膜に剥離や傷が発生した面積率が10%以上20%未満
△:皮膜に剥離や傷が発生した面積率が20%以上50%未満
×:皮膜に剥離や傷が発生した面積率が50%以上
【0053】
3.耐食性
上記各金属試片の化成皮膜(潤滑処理前)に対し、塩水噴霧試験を通じて皮膜の耐食性を評価した。この際、5質量%NaCl水溶液(約35℃)を皮膜の表面に24時間の間噴霧した後、肉眼観察を通じて変色があるか否か(サビ発生)を確認した。評価基準は、次の通りである。
【0054】
<耐食性の評価基準>
◎:変色が全く無い
○:変色された面積率が10%以上20%未満
△:変色された面積率が20%以上50%未満
×:変色された面積率が50%以上
4.密着性
【0055】
上記各金属試片に対し、金型で塑性加工(冷間圧造)を実施し、塑性加工後、変形された試片(加工品)の潤滑皮膜に剥離発生(脱落状態)程度を観察して評価した。評価基準は、次の通りである。
【0056】
<密着性の評価基準>
○:皮膜に剥離が全く見えない
△:皮膜の一部に剥離が見える
×:皮膜が全体的に剥離された
【0057】
5.塑性加工性能(潤滑性能)
上記各金属試片に対し、金型で塑性加工(冷間圧造)を実施し、塑性加工後、変形された試片(加工品)と金型の表面に傷や焼付(焦げ付き)が発生した程度を観察して評価した。評価基準は、次の通りである。
【0058】
<塑性加工性能の評価基準>
◎:加工品の表面や金型の表面に傷や焼付が全く見えない
○:加工品の表面や金型の表面に傷や焼付が発生した面積率が10%以上20%未満
△:加工品の表面や金型の表面に傷や焼付が発生した面積率が20%以上50%未満
×:加工品の表面や金型の表面に傷や焼付が発生した面積率が50%以上
【0060】
上記<表2>示すように、実施例に従う試片は比較例と比較して全ての物性に良好な結果を示した。実施例1〜3及び比較例1〜3を比較して見ると、皮膜処理剤(非リン酸塩皮膜処理液)の組成(成分及び含有量)によって物性の差を示すことが分かり、特に実施例1は非常に優れた結果を示すことが分かる。
【0061】
また、実施例と比較例4及び5を比較して見ると、従来のリン酸塩亜鉛系皮膜処理剤は長時間の間皮膜処理が進行(比較例4の場合、20分)されなければ良好な結果を示さないが、実施例の場合には短時間の間(270秒=4.5分)皮膜処理が進行されても良好な結果を示すことが分かる。
【0062】
一方、添付した
図4aは上記実施例1に従う金属試片の皮膜処理前(原素材)の写真であり、
図4bは上記実施例1に従う金属試片の潤滑皮膜処理(皮膜処理及び潤滑処理)後の写真であり、
図4cは上記実施例1に従う金属試片の伸線後の形態を示す写真である。そして、
図4dは塑性加工後、金属試片のさまざまな製品を示す写真である。
【0063】
(実施例4〜17)
上記実施例1と同様に実施し、かつ化成皮膜処理時、非リン酸塩皮膜処理液及び浸漬条件を異にしたことを除いては、上記実施例1と同一に実施した。具体的に、皮膜処理時、水1Lに対し、四ホウ酸ナトリウム水和物(Na
2B
4O
7・10H
2O)4.0g、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)0.3g、及び水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)85gを含む非リン酸塩皮膜処理液(水溶液)を使用し、かつ浸漬条件に従う特性を知るために、各実施例に従う浸漬時間及び浸漬温度を異にした。各実施例に従う浸漬時間及び浸漬温度を以下の<表3>に示した。
【0064】
また、各実施例に従う金属試片に対し、上記と同一な方法により耐摩耗性、耐食性、密着性、及び塑性加工性能(潤滑性能)を評価した。そして、生産性を評価し、以上の結果を以下の<表3>及び添付した
図5に示した。この際、生産性の評価基準は、次の通りである。
【0065】
<生産性の評価基準>
◎:浸漬時間が4.5分以下の場合
△:浸漬時間が4.5分超過、5.5分以下の場合
×:浸漬時間が5.5分超過の場合
【0067】
上記<表3>及び添付した
図5に示すように、浸漬時間及び浸漬温度によって物性(耐摩耗性、耐食性、密着性、及び塑性加工性能)と生産性が変わることが分かった。
【0068】
また、上記結果から70〜80℃の浸漬温度で4分〜5分の浸漬時間の間皮膜処理を進行した場合に、耐摩耗性、耐食性、密着性、及び塑性加工性能などの物性は勿論、生産性が非常に優れる結果を示すことが分かり、特に浸漬温度75℃及び浸漬時間4.5分で進行した場合に最適であることが分かった。