(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超音波振動子から発せられた超音波は、配管を流れる流体を伝搬する流体伝搬波と、配管の管壁で反射して配管を伝搬する配管伝搬波とに分けられる。従来の超音波流量計において、流体伝搬波は検出すべき信号(信号成分)であり、配管伝搬波は信号に対するノイズ(ノイズ成分)である。
【0005】
しかしながら、従来の超音波流量計では、流体伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)に対して配管伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)を十分に小さくできず、流体伝搬波と配管伝搬波との識別が困難になっていた。そのため、従来の超音波流量計は流体の流量を誤って測定してしまう可能性があった。
【0006】
本実施形態のいくつかの態様は前述の問題に鑑みてなされたものであり、気体の流量を正確に測定することのできる超音波流量計および超音波流量計用の超音波吸収体を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る超音波流量計は、内部を気体が流れる配管における上流側の外周に設けられ、超音波の送信および受信を行う第1の超音波送受信部と、前述の配管における下流側の外周に設けられ、超音波の送信および受信を行う第2の超音波送受信部と、第1の超音波送受信部から送信された超音波が第2の超音波送受信部に受信されるまでの時間と、第2の超音波送受信部から送信された超音波が第1の超音波送受信部に受信されるまでの時間とに基づいて、前述の気体の流量を測定する本体部と、前述の配管の外周に設けられ、前述の超音波が前述の配管を伝搬する配管伝搬波を吸収する超音波吸収体と、を備え、超音波吸収体は、
実質的に、100kHz以上であって2.0MHz以下の周波数帯の前述の超音波を吸収する未架橋のブチルゴム
からなる。
【0008】
かかる構成によれば、前述の配管の外周に設けられ、前述の超音波が配管を伝搬する配管伝搬波を吸収する超音波吸収体を備え、超音波吸収体が未架橋のブチルゴムを含む。ここで、未架橋のブチルゴムは、音響インピーダンスの値が配管の材料と近く、かつ、超音波の周波数帯の振動を吸収する能力(吸収性能)が高い。これにより、超音波吸収体は、配管を伝搬する過程で配管伝搬波を減衰させることができ、第1超音波送受信部および第2超音波送受信部に到達する配管伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)を気体伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)に対して十分に小さくする、すなわち、SN比を向上させることができる。
【0009】
また、未架橋のブチルゴムは、粘着性および弾性を有する粘弾性体でもある。これにより、超音波吸収体は粘着しやすいので、配管の外周に密着して固定することができるとともに、超音波吸収体は弾性により変形しやすいので、様々な材料、形状、表面状態の配管に容易に設けることができる。
【0010】
さらに、未架橋のブチルゴムは、超音波流量計の使用環境において、例えば、温度や湿度などについて、十分な耐久性(耐環境性)を有することが実験などで確認された。これにより、超音波吸収体は、強度や耐環境性を高めるために、硫黄などを用いた架橋(加硫)を行うことなく、未架橋のブチルゴムを利用することができる。
【0011】
好ましくは、超音波吸収体は、
実質的に、所定の混合粒子と混合された未架橋のブチルゴム
からなる。
【0012】
かかる構成によれば、超音波吸収体が
実質的に、所定の混合粒子と混合された未架橋のブチルゴム
からなる。これにより、所定の混合粒子として、音響インピーダンスの値が配管の材料と近くなる、および/または、超音波の周波数帯の振動を吸収する能力(吸収性能)を向上させる混合粒子を未架橋のブチルゴムと混合することで、超音波吸収体はSN比をさらに向上させることができる。
【0013】
好ましくは、前述の所定の混合粒子は、タングステンである。
【0014】
かかる構成によれば、所定の混合粒子がタングステンである。これにより、SN比をさらに向上させる超音波吸収体を容易に実現(構成)することができる。
【0015】
好ましくは、前述の所定の混合粒子は、フェライトである。
【0016】
かかる構成によれば、所定の混合粒子がフェライトである。これにより、SN比をさらに向上させる超音波吸収体を容易に実現(構成)することができる。
【0017】
好ましくは、前述の所定の混合粒子は、硫酸バリウムである。
【0018】
かかる構成によれば、所定の混合粒子が硫酸バリウムである。これにより、SN比をさらに向上させる超音波吸収体を容易に実現(構成)することができる。
【0019】
本発明に係る超音波流量計用の超音波吸収体は、内部を気体が流れる配管における上流側の外周から送信された超音波が前述の配管における下流側の外周で受信されるまでの時間と、前述の配管における下流側の外周から送信された超音波が前述の配管における上流側の外周で受信されるまでの時間とに基づいて、前記気体の流量を測定する超音波流量計用の超音波吸収体であって、前述の配管の外周に設けられ、前述の超音波が前述の配管を伝搬する配管伝搬波を吸収し、
実質的に未架橋のブチルゴム
からなる。
【0020】
かかる構成によれば、前述の配管の外周に設けられ、前述の超音波が前述の配管を伝搬する配管伝搬波を吸収し、
実質的に未架橋のブチルゴム
からなる。ここで、未架橋のブチルゴムは、音響インピーダンスの値が配管の材料と近く、かつ、超音波の周波数帯の振動を吸収する能力(吸収性能)が高い。これにより、超音波吸収体は、配管を伝搬する過程で配管伝搬波を減衰させることができ、受信される配管伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)を気体伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)に対して十分に小さくする、すなわち、SN比を向上させることができる。
【0021】
また、未架橋のブチルゴムは、粘着性および弾性を有する粘弾性体でもある。これにより、超音波吸収体は粘着しやすいので、配管の外周に密着して固定することができるとともに、超音波吸収体は弾性により変形しやすいので、様々な材料、形状、表面状態の配管Aに容易に設けることができる。
【0022】
さらに、未架橋のブチルゴムは、超音波流量計の使用環境において、例えば、温度や湿度などについて、十分な耐久性(耐環境性)を有することが実験などで確認された。これにより、超音波吸収体は、強度や耐環境性を高めるために、硫黄などを用いた架橋(加硫)を行うことなく、未架橋のブチルゴムを利用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の超音波流量計によれば、超音波吸収体は、配管を伝搬する過程で配管伝搬波を減衰させることができ、第1超音波送受信部および第2超音波送受信部に到達する配管伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)を気体伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)に対して十分に小さくする、すなわち、SN比を向上させることができる。したがって、超音波流量計は、気体伝搬波と配管伝搬波とを容易に識別することができ、気体の流量を正確に測定することができる。特に、配管の内部を流れる気体の圧力が低い場合に、気体伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)は相対的に小さくなるが、超音波吸収体は、気体の圧力が低い場合でもSN比を向上させることができるので、超音波流量計は、圧力の低い気体の流量を正確に測定することができる。
【0024】
本発明の超音波流量計用の超音波吸収体によれば、超音波吸収体は、配管を伝搬する過程で配管伝搬波を減衰させることができ、受信される配管伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)を気体伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)に対して十分に小さくする、すなわち、SN比を向上させることができる。したがって、超音波流量計は、気体伝搬波と配管伝搬波とを容易に識別することができ、気体の流量を正確に測定することができる。特に、配管の内部を流れる気体の圧力が低い場合に、気体伝搬波のエネルギー(大きさ、または強度)は相対的に小さくなるが、超音波吸収体は、気体の圧力が低い場合でもSN比を向上させることができるので、超音波流量計は、圧力の低い気体の流量を正確に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法などは以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。なお、以下の説明において、図面の上側を「上」、下側を「下」、左側を「左」、右側を「右」という。
【0027】
図1ないし
図10は、本発明に係る超音波流量計および超音波流量計用の超音波吸収体の一実施形態を示すためのものである。
図1は、超音波流量計100の概略構成の一例を示す構成図である。
図1に示すように、超音波流量計100は、配管Aの内部を流れる気体(ガス)の流量を測定するためのものである。超音波流量計100の測定対象である気体は、
図1において白抜き矢印で示す方向(
図1における左から右の方向)に流れている。超音波流量計100は、第1超音波送受信部20Aと、第2超音波送受信部20Bと、本体部50と、超音波吸収体10と、を備える。
【0028】
第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bは、それぞれ配管Aの外周に設けられる。
図1に示す例では、第1超音波送受信部20Aが配管Aにおける上流側に、第2超音波送受信部20Bは配管Aにおける下流側に、それぞれ配置される。第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bは、それぞれ超音波の送信および受信を行い、相互に超音波を送受信する。すなわち、第1超音波送受信部20Aが送信した超音波は、第2超音波送受信部20Bによって受信され、第2超音波送受信部20Bが送信した超音波は、第1超音波送受信部20Aによって受信される。
【0029】
図2は、
図1に示した第1超音波送受信部20Aの構成を説明する拡大断面図である。
図2に示すように、第1超音波送受信部20Aは、くさび21と、圧電素子22と、を備える。
【0030】
くさび21は、配管Aに対して所定の鋭角で超音波を入射させるためのものであり、樹脂製または金属製の部材である。くさび21は、底面21aが配管Aの外周面に接触するように設置される。また、くさび21は、底面21aに対して所定の角度を有する斜面21bが形成されている。斜面21bには、圧電素子22が設置される。
【0031】
本実施形態では、底面21aが配管Aの外周面に接触する例を示したが、これに限定されない。底面21aと配管Aの外周面との間に接触媒質(カプラント)を介在させてもよい。
【0032】
圧電素子22は、超音波を送信するとともに、超音波を受信するためのものである。圧電素子22には、リード線(図示省略)が電気的に接続されている。リード線を介して所定周波数の電気信号が印加されと、圧電素子22は、当該所定周波数で振動して超音波を発する。これにより、超音波が送信される。
図2において破線の矢印で示すように、圧電素子22から送信された超音波は、斜面21bの角度でくさび21を伝搬する。くさび21を伝搬する超音波は、くさび21と配管Aの外壁との界面で屈折して入射角が変化し、配管Aの内壁と配管Aの内部を流れる気体との界面でさら屈折して入射角が変化し、当該気体を伝搬する。界面おける屈折は、スネルの法則に従うので、配管Aを伝搬するときの超音波の速度、気体を伝搬するときの超音波の速度に基づいて、斜面21bの角度をあらかじめ設定することにより、超音波を所望の入射角で気体に入射させ、伝搬させることができる。
【0033】
一方、圧電素子22に超音波が到達すると、圧電素子22は、当該超音波の周波数で振動して電気信号を発生させる。これにより、超音波が受信される。圧電素子22に発生した電気信号は、リード線を介して後述する本体部50で検出される。
【0034】
なお、第2超音波送受信部20Bは、第1超音波送受信部20Aと同様の構成を備える。すなわち、第2超音波送受信部20Bも、くさび21と、圧電素子22と、を備える。よって、前述した第1超音波送受信部20Aの説明をもって、第2超音波送受信部20Bの詳細な説明を省略する。
【0035】
図1に示す本体部50は、超音波が配管Aの内部を流れる気体を伝搬する時間に基づいて当該気体の流量を測定するためのものである。本体部50は、切替部51と、送信回路部52と、受信回路部53と、計時部54と、演算制御部55と、入出力部56と、を備える。
【0036】
切替部51は、超音波の送信および受信を切り替えるためのものである。切替部51は、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bに接続されている。切替部51は、例えば、切替スイッチなどを含んで構成することが可能である。演算切替部51は、演算制御部55から入力される制御信号に基づいて切替スイッチを切り替え、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bのうちの一方を送信回路部52に接続させるとともに、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bのうちの他方を受信回路部53と接続させる。これにより、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bのうちの一方が超音波を送信し、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bのうちの他方が当該超音波を受信することができる。
【0037】
送信回路部52は、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bに超音波を送信させるためのものである。送信回路部52は、例えば、所定周波数の矩形波を生成する発振回路、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bを駆動する駆動回路などを含んで構成することが可能である。送信回路部52は、演算制御部55から入力される制御信号に基づいて、駆動回路が発振回路により生成された矩形波を駆動信号として第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bのうちの一方の圧電素子22に出力する。これにより、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bの一方の圧電素子22が駆動され、当該圧電素子22が超音波を送信する。
【0038】
受信回路部53は、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが受信した超音波を検出するためのものである。受信回路部53は、例えば、信号を所定の利得(ゲイン)で増幅する増幅回路、所定周波数の電気信号を取り出すためのフィルタ回路などを含んで構成することが可能である。受信回路部53は、演算制御部55から入力される制御信号に基づいて、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bのうちの一方の圧電素子22から出力された電気信号を増幅し、フィルタリングして受信信号に変換する。受信回路部53は、変換した受信信号を演算制御部55に出力する。
【0039】
計時部54は、所定の期間における時間を計測するためのものである。計時部54は、例えば、発振回路などで構成することが可能である。なお、発振回路は、送信回路部52と共有するようにしてもよい。計時部54は、演算制御部55から入力されるスタート信号およびストップ信号に基づいて、発振回路の基準波の数をカウントして時間を計測する。計時部54は、計測した時間を演算制御部55に出力する。
【0040】
演算制御部55は、配管Aの内部を流れる気体の流量を演算により算出するためのものである。演算制御部55は、例えば、CPU、ROMやRAMなどのメモリ、入出力インターフェースなどで構成することが可能である。また、演算制御部55は、切替部51、送信回路部52、受信回路部53、計時部54、および、入出力部56などの本体部50の各部を制御する。なお、演算制御部55が気体の流量を算出する方法については、後述する。
【0041】
入出力部56は、ユーザ(利用者)が情報を入力し、かつ、ユーザに対して情報を出力するためのものである。入出力部56は、例えば、操作ボタンなどの入力手段、表示ディスプレイなどの出力手段などで構成することが可能である。ユーザが操作ボタンなどを操作することにより、設定などの各種の情報が入出力部56を介して演算制御部55に入力される。また、入出力部56は、演算制御部55により算出された気体の流量、気体の速度、所定期間における積算流量などの情報を、表示ディスプレイなどに表示して出力する。
【0042】
図3は、配管Aの内部を流れる気体の流量の算出方法を説明するための側方断面図である。
図3に示すように、配管Aの内部を所定の方向(
図3において左側から右側への方向)に流れる気体の速度(以下、流速という)をV[m/s]、当該気体中を超音波が伝搬するときの速度(以下、音速という)をC[m/s]とし、当該気体を伝搬する超音波の伝搬経路長をL[m]とし、配管Aの管軸と超音波の伝搬経路とのなす角度をθとする。ここで、配管Aの上流側(
図3において左側)に設置された第1超音波送受信部20Aが超音波を送信し、配管Aの下流側(
図3において右側)に設置された第2超音波送受信部20Bが当該超音波を受信するときに、当該超音波が配管Aの内部の気体を伝搬する伝搬時間t
12は、以下の式(1)で表される。
t
12=L/(C+Vcosθ) …(1)
【0043】
一方、配管Aの下流側に設置された第2超音波送受信部20Bが超音波を送信し、配管Aの上流側に設置された第1超音波送受信部20Aが当該超音波を受信するときに、当該超音波が配管Aの内部の気体を伝搬する伝搬時間t
21は、以下の式(2)で表される。
t
21=L/(C−Vcosθ) …(2)
【0044】
式(1)および式(2)から、気体の流速Vは、以下の式(3)で表される。
V=(L/2cosθ)・{(1/t
12)−(1/t
21)} …(3)
【0045】
式(3)において、伝搬経路長Lおよび角度θは、流量の測定前に既知の値であるから、流速Vは、伝搬時間t
12および伝搬時間t
21を計測することで、式(3)から算出することができる。
【0046】
そして、配管Aの内部を流れる気体の流量Q[m
3/s]は、流速V[m/s]と、補数係数Kおよび配管Aの断面積S[m
3/s]と、を用いて以下の式(4)で表される。
Q=KVS …(4)
【0047】
したがって、演算制御部55は、伝搬経路長L、角度θ、補数係数K、および、配管Aの断面積Sを、あらかじめメモリなどに記憶しておく。そして、演算制御部55は、受信回路部53から入力される受信信号に基づいて、計時54により伝搬時間t
12および伝搬時間t
21を計測することで、式(3)および式(4)から、配管Aの内部を流れる気体の流量Qを算出することができる。
【0048】
本実施計形態では、
図3および式(1)ないし式(4)を用いて、伝搬時間逆数差法により気体の流量を算出する例を示したが、これに限定されない。演算制御部55は、他の方法、例えば、周知の伝搬時間差法により気体の流量を算出するようにしてもよい。
【0049】
また、本実施計形態では、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Aの一方が送信した超音波が、配管Aの内部の気体を伝搬し、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Aの他方で直接受信する例を示したが、これに限定されない。配管Aの内部の気体を伝搬する超音波は、配管Aの内壁において反射し得る。よって、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Aの他方は、配管Aの内壁で2n回(nは正の整数)反射した超音波を受信してもよい。
【0050】
図1に示す超音波吸収体10は、配管Aの外周面に設けられる。具体的には、超音波吸収体10は、配管Aの外周面において、少なくとも第1超音波送受信部20Aと第2超音波送受信部20Bとの間の領域を覆うように配置され、配管Aの外周面に密着して固定される。第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが配管Aの外周面に直接接触するように、超音波吸収体10のうちの第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが配置される部分は、超音波吸収体10の一部が枠状に切り取られる。また、超音波吸収体10は、主な材料として、架橋していない、すなわち、未架橋のブチルゴム(IIR、イソブチレンとイソプレンとの共重合体)を含んでいる。
【0051】
図4は、第1超音波送受信部20Aから送信された超音波が第2超音波送受信部20Bに受信される様子を説明するための断面図である。
図4に示すように、例えば、第1超音波送受信部20Aから送信された超音波は、配管Aを通過(透過)して配管Aの内部の気体を伝搬する気体伝搬波W
1と、配管Aの管壁で反射して配管Aを伝搬する配管伝搬波W
2とに分けられる。気体伝搬波W
1は、再び配管Aを通過して第2超音波送受信部20Bに到達する。一方、配管伝搬波W
2も、配管Aの内壁および外壁を複数回反射しながら第2超音波送受信部20Bに到達し得る。図示およびその詳細な説明を省略するが、第1超音波送受信部20Aから送信された超音波と同様に、第2超音波送受信部20Aから送信された超音波も、気体伝搬波W
1と配管伝搬波W
2とに分けられ、気体伝搬波W
1は配管Aを通過して第1超音波送受信部20Aに到達するとともに、配管伝搬波W
2も配管Aの内壁および外壁を複数回反射しながら第1超音波送受信部20Aに到達し得る。
【0052】
一般に、一方の媒質を伝搬する音波が、他方の媒質との界面で透過(通過)するか、反射するかは、一方の媒質と他方の媒質との音響インピーダンスの差によって決まる。すなわち、音響インピーダンスの差が小さいほど、一方の配質を伝搬する音波は他方の媒質に透過し、音響インピーダンスの差が大きいほど、一方の配質を伝搬する音波は他方の媒質との界面で反射する傾向がある。
【0053】
配管Aの内部を流れる流体が、例えば、液体である場合、液体の音響インピーダンスと、配管の材料、例えば、ステンレス(SUS)などの金属や合成樹脂などの高分子化合物の音響インピーダンスとの差が相対的に小さいので、超音波は、配管Aを透過(通過)して内部を流れる液体を伝搬する割合(透過率)が多く(大きく)、つまり、配管Aの管壁で反射する割合(反射率)が少なく(小さく)、配管伝搬波W
2のエネルギー(大きさ、または強度)は小さい。これに対し、気体の音響インピーダンスは、液体の音響インピーダンスと比較して小さい。そのため、配管Aの内部を流れる流体が気体である場合、気体の音響インピーダンスと、配管Aの音響インピーダンスとの差が相対的に大きくなるので、超音波は、配管Aを透過(通過)して内部を流れる液体を伝搬する割合(透過率)が少なく(小さく)、つまり、配管Aの管壁で反射する割合(反射率)が多く(大きく)、配管伝搬波W
2のエネルギー(大きさ、または強度)は大きい。
【0054】
ここで、超音波の気体伝搬波W
1を受信して伝搬時間を計測し、当該伝搬時間に基づいて流量を測定する超音波流量計において、気体伝搬波W
1は検出すべき信号(新合成分)であり、配管伝搬波W
2は信号に対するノイズ(ノイズ成分)である。そのため、気体伝搬波W
1のエネルギー(大きさ、または強度)に対して配管伝搬波W
2のエネルギー(大きさ、または強度)が十分に小さくないと、気体伝搬波W
1と配管伝搬波W
2との識別が困難になる。その結果、気体伝搬波W
1と配管伝搬波W
2とを取り違えて伝搬時間の計測を誤り、誤った伝搬時間に基づいて気体の流量を測定してしまう可能性がある。
【0055】
超音波吸収体10は、配管Aの外周に設けられており、配管Aを伝搬する配管伝搬波W
2を吸収する。また、超音波吸収10は、前述したように、未架橋のブチルゴムを含んでいる。ここで、未架橋のブチルゴムは、音響インピーダンスの値が配管Aの材料と近く、かつ、超音波の周波数帯の振動を吸収する能力(吸収性能)が高い。これにより、超音波吸収体10は、配管Aを伝搬する過程で配管伝搬波W
2を減衰させることができ、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bに到達する、つまり、受信される配管伝搬波W
2のエネルギー(大きさ、または強度)を気体伝搬波W
1のエネルギー(大きさ、または強度)に対して十分に小さくする、すなわち、SN比を向上させることができる。
【0056】
また、未架橋のブチルゴムは、粘着性および弾性を有する粘弾性体でもある。これにより、超音波吸収体10は粘着しやすいので、配管Aの外周に密着して固定することができるとともに、超音波吸収体10は弾性により変形しやすいので、様々な材料、形状、表面状態の配管Aに容易に設けることができる。
【0057】
さらに、未架橋のブチルゴムは、超音波流量計100の使用環境において、例えば、温度や湿度などについて、十分な耐久性(耐環境性)を有することが実験などで確認された。これにより、超音波吸収体10は、強度や耐環境性を高めるために、硫黄などを用いた架橋(加硫)を行うことなく、未架橋のブチルゴムを利用することができる。
【0058】
一般に、超音波は、20[kHz]以上の周波数帯の音波を意味する。よって、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波は、20[kHz]以上の周波数帯の音波である。好ましくは、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波は、100[kHz]以上であって2.0[MHz]以下の周波数帯の超音波である。より好ましくは、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波は、0.5[MHz]以上であって1.0[MHz]以下の周波数帯の超音波である。なお、いずれの場合であっても、第1超音波送受信部20Aが送信する超音波と第2超音波送受信部20Bが送信する超音波とは、同一周波数であってもよいし、異なる周波数であってもよい。
【0059】
図5および
図6は、
図1に示した受信回路部53が出力する受信信号のグラフである。
図5および
図6において、横軸は時間であり、縦軸は振幅(電圧)である。また、
図5および
図6において、上段は配管Aの内部を流れる気体の圧力が0.5[MPa]のグラフであり、下段は配管Aの内部を流れる気体の圧力が0.3[MPa]のグラフである。さらに、
図5は第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波の周波数が0.5[MHz]のグラフであり、
図6は第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波の周波数が1.0[MHz]のグラフである。
図5の上段のグラフに示すように、気体の圧力が0.5[MPa]であって、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波の周波数が0.5[MHz]である場合に、超音波吸収体10は配管伝搬波W
2を減衰させることができ、演算制御部55はグラフの中央付近に発生する相対的に振幅の大きい気体伝搬波W
1を識別して検出することができる。また、
図6の上段のグラフに示すように、気体の圧力が0.5[MPa]であって第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波の周波数が1.0[MHz]である場合も同様に、超音波吸収体10は配管伝搬波W
2を減衰させることができ、演算制御部55はグラフの中央付近に発生する相対的に振幅の大きい気体伝搬波W
1を識別して検出することができる。
【0060】
配管Aの内部を流れる気体の圧力が低い場合、例えば、気体の圧力が0.5[MPa]より低い場合、気体の音響インピーダンスは圧力に比例するので、配管Aの音響インピーダンスとの差はさらに大きくなり、気体伝搬波W
1のエネルギー(大きさ、または強度)はさらに小さくなる。しかし、配管Aの内部を流れる気体の圧力が低い場合、例えば、気体の圧力が0.3[MPa]の場合であっても、
図5および
図6の下段のグラフに示すように、超音波吸収体10は配管伝搬波W
2を減衰させることができ、演算制御部55はグラフの中央付近に発生する相対的に振幅の大きい気体伝搬波W
1を識別して検出することができる。このように、超音波吸収体10は、気体伝搬波W
1のエネルギー(大きさ、または強度)が小さい場合であっても、配管伝搬波W
2を十分に減衰させることができ、SN比を向上させることができる。
【0061】
図7は、他の超音波吸収体を備える仮想的な超音波流量計の受信信号のグラフである。なお、仮想的な超音波流量計は、超音波吸収体10とは異なる超音波吸収体を備える点を除き、超音波流量計100と同様とする。
図7において、横軸は時間であり、縦軸は振幅(電圧)である。また、
図7において、超音波の周波数は0.5[MHz]であり、上段は配管の内部を流れる気体の圧力が0.5[MPa]のグラフであり、下段は配管の内部を流れる気体の圧力が0.3[MPa]のグラフである。主な材料としてアスファルトを含む他の超音波吸収体を備えた仮想的な超音波流量計は、
図5に示した本実施形態の超音波流量計100のグラフと比較して、
図7に示すように、超音波吸収体が配管伝搬波W
2を十分に減衰させることができず、配管伝搬波W
2と気体伝搬波W
1とを識別するのが困難になる。
【0062】
図8は、様々な材料の超音波吸収体のSN比を示す表である。
図8において、配管Aの内部を流れる気体の圧力は0.3[MPa]であり、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波の周波数は、0.5[MHz]である。
図8に示すように、アスファルトを含む超音波吸収体を備える場合、気体伝搬波W
1の最大振幅と配管伝搬波W
2の最大振幅との比(以下、SN比という)は、3.8に止まる。一方、未架橋のブチルゴムを含む超音波吸収体10を備える場合、SN比は7.4となって約2倍にまで向上する。
【0063】
また、一般に、天然ゴムや合成ゴムなどのゴム類(ゴム組成物)は、振動吸収性能が高い。しかしながら、
図8に示すように、超音波吸収体の主な材料として、未架橋のブチルゴム以外のゴム類(ゴム組成物)を使用しても、超音波の周波数帯域で配管Aを流れる気体を伝搬させる場合には、SN比が向上しないことが分かった。
【0064】
超音波吸収体10は、未架橋のブチルゴムのみを含む場合に限定されない。超音波吸収体10は、未架橋のブチルゴムと混合される所定の混合粒子を含んでいてもよい。これにより、所定の混合粒子として、音響インピーダンスの値が配管Aの材料と近くなる、および/または、超音波の周波数帯の振動を吸収する能力(吸収性能)を向上させる混合粒子を未架橋のブチルゴムと混合することで、超音波吸収体10はSN比をさらに向上させることができる。
【0065】
所定の混合粒子としては、例えば、タングステンなどの金属の粒子、フェライトなどの有機化合物の粒子、または、硫酸バリウムなどの無機化合物の粒子などが挙げられる。
【0066】
図9は、超音波吸収体10のSN比を示す表である。
図9において、配管Aの内部を流れる気体の圧力は0.3[MPa]であり、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが送信する超音波の周波数は、0.5[MHz]である。
図9に示すように、未架橋のブチルゴムのみを含む超音波吸収体10を備える場合、前述したように、SN比は7.4である。一方、超音波吸収体10が、所定の混合粒子11として、フェライトをさらに含む場合には8.9に、タングステンをさらに含む場合には11.7に、硫酸バリウムをさらに含む場合には34.2に、未架橋のブチルゴムのみを含む超音波吸収体10と比較して、それぞれSN比がさらに向上する。
【0067】
図1では、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bが互いに対向するように、
図1において配管Aの上側に第1超音波送受信部20Aを配置し、配管Aの下側に第2超音波送受信部20Bを配置する例を示したが、これに限定されない。第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bは、配管Aの上流側と下流側との外周に設けられていればよい。
【0068】
図10は、超音波流量計100の概略構成の他の例を示す構成図である。なお、
図1に示した超音波流量計100と同一構成部分は同一符号をもって表し、その説明を適宜省略する。
図10に示すように、第1超音波送受信部20Aは配管Aにおける上流側(
図10において左側)の外周に、第2超音波送受信部20Bは配管Aにおける下流側(
図10において右側)の外周に、それぞれ設けられる。第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bは、ともに、
図10において配管Aの上側に、配管Aの管軸に平行な直線上に配置される。このような配置の場合、例えば、第1超音波送受信部20Aから送信した超音波の気体伝搬波W
1は、配管Aの内壁で反射されて第2超音波送受信部20Bに到達する反射法(V法)により受信される。
【0069】
このように、本実施形態における超音波流量計100によれば、配管Aの外周に設けられ、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bにより送信された超音波が配管Aを伝搬する配管伝搬波W
2を吸収する超音波吸収体10を備え、超音波吸収体10が未架橋のブチルゴムを含む。ここで、未架橋のブチルゴムは、音響インピーダンスの値が配管Aの材料と近く、かつ、超音波の周波数帯の振動を吸収する能力(吸収性能)が高い。これにより、超音波吸収体10は、配管Aを伝搬する過程で配管伝搬波W
2を減衰させることができ、第1超音波送受信部20Aおよび第2超音波送受信部20Bに到達する配管伝搬波W
2のエネルギー(大きさ、または強度)を気体伝搬波W
1のエネルギー(大きさ、または強度)に対して十分に小さくする、すなわち、SN比を向上させることができる。したがって、超音波流量計100は、気体伝搬波W
1と配管伝搬波W
2とを容易に識別することができ、気体の流量を正確に測定することができる。特に、配管Aの内部を流れる気体の圧力が低い場合に、気体伝搬波W
1のエネルギー(大きさ、または強度)は相対的に小さくなるが、超音波吸収体10は、気体の圧力が低い場合でもSN比を向上させることができるので、超音波流量計100は、圧力の低い気体の流量を正確に測定することができる。
【0070】
また、未架橋のブチルゴムは、粘着性および弾性を有する粘弾性体でもある。これにより、超音波吸収体10は粘着しやすいので、配管Aの外周に密着して固定することができるとともに、超音波吸収体10は弾性により変形しやすいので、様々な材料、形状、表面状態の配管Aに容易に設けることができる。
【0071】
さらに、未架橋のブチルゴムは、超音波流量計100の使用環境において、例えば、温度や湿度などについて、十分な耐久性(耐環境性)を有することが実験などで確認された。これにより、超音波吸収体10は、強度や耐環境性を高めるために、硫黄などを用いた架橋(加硫)を行うことなく、未架橋のブチルゴムを利用することができる。
【0072】
また、本実施形態における超音波流量計100によれば、超音波吸収体10が未架橋のブチルゴムと混合される所定の混合粒子をさらに含む。これにより、所定の混合粒子として、音響インピーダンスの値が配管Aの材料と近くなる、および/または、超音波の周波数帯の振動を吸収する能力(吸収性能)を向上させる混合粒子を未架橋のブチルゴムと混合することで、超音波吸収体10はSN比をさらに向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態における超音波流量計100によれば、所定の混合粒子がタングステンである。これにより、SN比をさらに向上させる超音波吸収体10を容易に実現(構成)することができる。
【0074】
また、本実施形態における超音波流量計100によれば、所定の混合粒子がフェライトである。これにより、SN比をさらに向上させる超音波吸収体10を容易に実現(構成)することができる。
【0075】
また、本実施形態における超音波流量計100によれば、所定の混合粒子が硫酸バリウムである。これにより、SN比をさらに向上させる超音波吸収体10を容易に実現(構成)することができる。
【0076】
また、本実施形態における超音波流量計100用の超音波吸収体10は、配管Aの外周に設けられ、配管における上流側の外周から送信された超音波および配管における下流側の外周から送信された超音波が配管Aを伝搬する配管伝搬波W
2を吸収し、未架橋のブチルゴムを含む。ここで、未架橋のブチルゴムは、音響インピーダンスの値が配管Aの材料と近く、かつ、超音波の周波数帯の振動を吸収する能力(吸収性能)が高い。これにより、超音波吸収体10は、配管Aを伝搬する過程で配管伝搬波W
2を減衰させることができ、受信される配管伝搬波W
2のエネルギー(大きさ、または強度)を気体伝搬波W
1のエネルギー(大きさ、または強度)に対して十分に小さくする、すなわち、SN比を向上させることができる。したがって、超音波流量計100は、気体伝搬波W
1と配管伝搬波W
2とを容易に識別することができ、気体の流量を正確に測定することができる。特に、配管Aの内部を流れる気体の圧力が低い場合に、気体伝搬波W
1のエネルギー(大きさ、または強度)は相対的に小さくなるが、超音波吸収体10は、気体の圧力が低い場合でもSN比を向上させることができるので、超音波流量計100は、圧力の低い気体の流量を正確に測定することができる。
【0077】
また、未架橋のブチルゴムは、粘着性および弾性を有する粘弾性体でもある。これにより、超音波吸収体10は粘着しやすいので、配管Aの外周に密着して固定することができるとともに、吸音体10は弾性により変形しやすいので、様々な材料、形状、表面状態の配管Aに容易に設けることができる。
【0078】
さらに、未架橋のブチルゴムは、超音波流量計100の使用環境において、例えば、温度や湿度などについて、十分な耐久性(耐環境性)を有することが実験などで確認された。これにより、超音波吸収体10は、強度や耐環境性を高めるために、硫黄などを用いた架橋(加硫)を行うことなく、未架橋のブチルゴムを利用することができる。
【0079】
なお、前述した実施形態の構成は、組み合わせたり、あるいは一部の構成部分を入れ替えたりしたりしてもよい。また、本実施形態の構成は前述した実施形態のみに限定されるものではなく、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。