(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231767
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】回転電気機器の絶縁診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
G01N17/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-93186(P2013-93186)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-215189(P2014-215189A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正博
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓明
(72)【発明者】
【氏名】田中 清輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓司
(72)【発明者】
【氏名】小野田 満
【審査官】
山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/045353(WO,A1)
【文献】
特開昭58−118926(JP,A)
【文献】
特開平07−095739(JP,A)
【文献】
特開平07−128394(JP,A)
【文献】
特開2000−002744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00 − 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器絶縁材料の熱劣化度を診断するものであって、
回転電気機器の固定子コイルの周辺部材の加熱温度毎の加熱時間と比重の検量線(以下、第一検量線という)を作成し、
前記周辺部材を採取して周辺部材の比重を求め、
前記回転電気機器の運転時間を前記加熱時間として、求めた前記周辺部材の比重と前記第一検量線を照合して、前記回転電気機器の運転時に前記周辺部材に加わった温度(以下、周辺部材の運転温度という)を推定し、
推定した前記周辺部材の運転温度、前記固定子コイルの絶縁層の発熱量、並びに、前記周辺部材及び前記絶縁層の熱伝導率及び厚みに基づき熱伝達に従った計算で前記回転電気機器の運転時における前記固定子コイルの絶縁層の温度(以下、コイル絶縁層の運転温度という)を推定することを特徴とするコイル絶縁層の非破壊劣化診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコイル絶縁層の非破壊劣化診断方法において、
前記周辺部材の採取は、前記周辺部材の最も変色の激しい部分を採取することを特徴とするコイル絶縁層の非破壊劣化診断方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコイル絶縁層の非破壊劣化診断方法において、
前記周辺部材がウエッジ材又はライナ材であることを特徴とするコイル絶縁層の非破壊劣化診断方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のコイル絶縁層の非破壊劣化診断方法において、
前記固定子コイルの運転温度毎の運転時間と破壊電圧(BDV)残存率の検量線(以下、第二検量線という)を作成し、
前記コイル絶縁層の運転温度を前記固定子コイルの運転温度として、推定した前記コイル絶縁層の運転温度と前記第二検量線を照合して、前記固定子コイルの破壊電圧(BDV)残存率を推定することを特徴とするコイル絶縁層の非破壊劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
回転電気機器の絶縁劣化診断方法に係り、特に絶縁劣化時における絶縁材料の劣化状況を非破壊で把握する絶縁診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電機等の回転電気機器に於いては、一旦絶縁劣化による故障が発生すると、発電機等の回転電気機器の復旧にかかる時間と費用以外に社会的損出が発生するため、従来からこの故障を未然に防ぐための絶縁劣化診断の開発が進められている。
【0003】
特に発電機等の回転電気機器のうちでも、火力発電所や水力発電所等で使用されている大型発電機の固定子コイルの電気絶縁には、巻き線に樹脂含浸のガラスクロス/マイカテープが使用されている。これらの絶縁材料が使用されていても、長期運転に伴い運転負荷状態、運転時間、始動停止回数、設置環境等の要因により、色々な絶縁劣化形態を示した現象が発生する。
【0004】
劣化現象としては、例えば、巻き線部の発熱による内部絶縁層の分解が原因で空洞が発生し、振動などにより絶縁層の剥離が起こり、この剥離面、空洞部等での部分放電の発生により絶縁材料が加速的に劣化する。火力発電機や水力発電機等の回転電気機器が故障すると、復旧するためには巻き線等の固定子コイルの交換が必要となるため、多大な時間と修復費や人件費がかかると共に、社会的な損失
が発生する場合がある。
【0005】
ところで、従来の電気特性における電気機器の寿命予測は10年単位での予測であり、寿命予測精度が悪く信頼性に欠ける等の問題を有している。実際に電気特性試験では問題が無いにもかかわらず、補強部材の機械強度の低下により絶縁層に無理な応力が加わって絶縁層が破壊する事故が発生している。
【0006】
このような電気特性試験等では電気機器の絶縁層に加わる応力によ
る機械強度特性の低下や過熱等による絶縁材料の劣化等
は把握が困難である。このようなことから、絶縁材料の破壊による回転電気機器の故障
について、巻線に使用される絶縁材料の劣化度を適切に評価、把握できれば早期の段階で劣化度を把握し故障を未然に防止することが可能となる。但し、解決するには次のような問題を有している。
(1)巻き線のスロット部の吸湿、空隙等を劣化現象との相関関係による電気的非破壊試験により把握する方法では、直接絶縁材料の熱劣化現象を把握できない。
(2) 巻き線を機械的に固定、
支持する絶縁材料の劣化度を把握できない。
(3) IEC.pub.216による耐熱性評価方法は存在するが、この方法では破壊試験、重量減少の試験項目となるため実機の巻き線には直接適用できない。このため、回転機の巻線交換等を大幅な修復をせずに、そのまま再使用が可能な試験方法の開発が望まれている。
【0007】
これらを解決する方法として、特許文献1には、TG-DTA装置
から得られる絶縁材料の重量変化時における熱重量減少曲線の第一次重量減少量と第二次重量減少量の比率からマスタカーブを作成し、
このマスタカーブに電気機器絶縁材料から採取した試料の
TG-DTA装置の評価結果を照合し
て熱劣化度を判断する電気機器の絶縁劣化診断
方法が開示されている。また、特許文献2には、電気機器に使用されるコイル絶縁材などの材料の熱劣化試料および未劣化試料の熱分解曲線を熱重量測定装置で求め、該両曲線上の両試料の重量減少率から熱劣化試料の樹脂減量率を求め、次いで
この樹脂減量率になるまでの熱量を求め、この熱料を必要とする仮使用温度までの仮設定時間を求め、これらの仮使用温度および仮設定時間をプロットして得た点を通
り、前記未劣化試料の熱分解曲線から求めた劣化の活性化エネルギーを用いて得た傾斜をもつ温度
−時間の関係を示す直線から、運転時間に対応する温度を求めることを特徴とする電気機器の運転
温度履歴推定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-064698号公報
【特許文献2】特開昭58−118926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
火力発電機や水力発電機の固定子コイルのように、コイルエンド部付近と中央部付近では、コイルの発熱量が異なり運転時に温度差が生じる。また、コイルの巻き線に巻かれている絶縁材料としては、樹脂が含浸されたガラスクロス/マイカテープが使用され、製品によってはその表面にワニスが塗布されているものもある。このため、コイル絶縁層の評価時の試料採取場所の影響が大きく、絶縁劣化診断の精度が十分に得られない。
【0010】
また、一般的な劣化手法では、試料採取領域が限られることから、測定に際しては装置上試料量も少量となる。このような観点から、回転電気機器に用いられている絶縁材料の採取場所によって劣化度合いが異なり、信頼性に欠けるものが見られる。更に、評価方法や装置が複雑であるため定期点検等の比較的短時間の作業時に、固定子コイル絶縁層の劣化度を診断することは困難であるという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、回転電気
機器の固定子コイル絶縁層の劣化状況を非破壊で、簡素な方法で、かつ、短時間に劣化度を判断できる絶縁診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、電気機器絶縁材料の劣化診断方法は、
回転電気機器の固定子コイル
の周辺部材の
加熱温度毎の加熱時間と比重の検量線(第一検量線)を作成し、
前記周辺部材を採取して周辺部材の比重を求め、前記回転電気機器の運転時間を前記加熱時間として、求めた前記周辺部材の比重と前記第一検量線を照合して、前記回転電気機器の運転時に前記周辺部材に加わった温度
(周辺部材の運転温度)を推定し、
推定した前記周辺部材の運転温度、前記固定子コイルの絶縁層の発熱量、並びに、前記周辺部材
及び前記絶縁層の熱伝導率
及び厚み
に基づき熱伝達に従った計算で前記回転電気機器の運転時における前記固定子コイル
の絶縁層の温度
(コイル絶縁層の運転温度)を推定することを特徴とするコイル絶縁層の非破壊劣化診断方法
である。
【0013】
また、
上記コイル絶縁層非破壊の劣化診断方法において、固定子コイルの周辺部材が最も変色の激しい部分を採
取することを特徴とす
る。
【0014】
また、
上記コイル絶縁層非破壊の劣化診断方法において、固定子コイルの周辺部材がウエッジ材又はライナ材であることを特徴とす
る。
【0015】
更に、
上記コイル絶縁層非破壊の劣化診断方法において、前記固定子コイルの運転温度毎の運転時間と破壊電圧(BDV)残存率の検量線(第二検量線)を作成し前記コイル絶縁層の運転温度を前記固定子コイルの運転温度として、推定した前記コイル絶縁層の
運転温度と
前記第二検量線を照合して、前記固定子コイルの破壊電圧(BDV)残存
率を推定
することを特徴とす
る。
【発明の効果】
【0016】
以上のとおり、本発明によれば運転コイルから絶縁層を取り出すことなく、非破壊で固定子コイル絶縁層の推定温度 を把握することが可能である。また、実機返送固定子コイルの運転温度や破壊電圧(BDV)の推定が簡素な方法で確認でき、固定子コイルの交換時期も推定可能となる。更に、評価方法が簡便で短時間で結果が分かることから、定期点検等で固定子コイル絶縁層の劣化度、交換時期等の判断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例を示す回転電気機器の絶縁診断法のフローチャート
。
【
図2】本発明の実施例を示す回転電気機器のステータウエッジ内コイル絶縁層の
運転温度毎の運転時間と
比重の検量線。
【
図3】本発明の実施例を示す回転電気機器の固定子コイル周辺模式図。
【
図4】本発明の実施例を示す回転電気機器のステータウエッジ内ライナの
加熱温度毎の加熱時間と
比重の検量線。
【
図5】本発明の実施例を示す回転電気機器のステータウエッジ内コイ
ルの運転温度毎の運転時間と破壊電圧(BDV)残存
率の検量線。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施例の図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0019】
本実施例では、図
3に示す実機回転電気機器のステータウエッジ内コイル周辺部材のライナ材A(運転時間:16,000時間程度) の目視で変色が最も激しい部分を選定し、約60mm×60mm×3mmの大きさのものを2個採取した試料を用いた。先ず、アルファ−ミラ−ジュ(株)製 電子比重計 SD-200L型を用いて、試料の空気中の重量を測定後した。更に、水中で重量を測定し比重を算出した。尚、比重算出法は下式1(アルキメデスの式)を用いた。上記試料ライナ材の比重は、1.778と1.794の値を示した。得られた比重の値を図
4に示す
加熱温度毎の加熱時間と比重の検量線に照らし合わせた結果、運転時にライナ材に加わった温度は、120℃程度と推定することができる。更に、予め評価した上記ライナ材の推定温度とコイル絶縁層の発熱量をもとに設計値から計算し、熱伝導率と厚み等の関係からコイル絶縁層の運転時の温度を熱伝達に従った計算で推測した結果、135℃の値を示した。実機返送の回転電気機器ステータウエッジ内コイル絶縁層から採取、評価し比重値を図
2の
運転温度毎の運転時間と
比重の検量線に照らし合わせると、運転時の推定温度は140℃〜145℃となり、計算結果の推定温度に比べ、5〜10℃程度高い値を示した。更に、実機運転の回転電気機器を今までと同一条件で運転すれば、固定子コイル絶縁層の交換時期は、図
2から約84,000時間後と推定できる。
【0020】
以上の様に、固定子コイル絶縁層を採取することなく、非破壊で実機固定子コイルの運転温度を推定することが可能である。
式1 ρ=Wa/(Wa-Ww)×(ρ0-d)+d
比重=ρ/ρw
ρ0:水(23℃)の密度
d:空気の密度
ρw:水(4℃)の密度
【実施例2】
【0021】
本実施例では、図
3に示す実機回転電気機器のステータウエッジ内コイル周辺部材のライナ材B(運転時間:110,000時間程度) の目視で変色が最も激しい部分を選定し、約60mm×60mm×3mmの大きさのものを2個採取した試料を用いた。比重評価方法及び算出方法は、既に説明した実施例1と同一であるため、説明を省略する。上記試料ライナ材の比重は1.802と1.815の値を示した。得られた比重の値を図
4に示す
加熱温度毎の加熱時間と比重の検量線に照らし合わせた結果、運転時にライナ材に加わった温度は、100℃程度と推定することができる。更に、実施例1と同様に予め評価した上記ライナ材の推定温度とコイル絶縁層の発熱量をもとに設計値から計算し、熱伝導率と厚み等からコイル絶縁層の運転時の温度を熱伝達に従った計算で推測した結果、115℃の値を示した。実機返送の回転電気機器ステータウエッジ内コイル絶縁層から採取、評価し、比重値を図
2の
運転温度毎の運転時間と
比重の検量線に照らし合わせると、運転時の推定温度は122℃程度であり、計算結果の推定温度に比べ、7℃程度高い値を示した。更に、実機運転の回転電気機器を今までと同一条件で運転すれば、固定子コイル絶縁層の交換時期は、図
2から25,000時間後と推定できる。以上の様に、固定子コイル絶縁層を採取することなく、非破壊で実機固定子コイルの運転温度を推定することが可能である。
【実施例3】
【0022】
本実施例では、実施例1で得られたコイル絶縁層に加わった推定温度140〜145℃程度を、予め作成したコイルの
運転温度毎の運転時間と破壊電圧(BDV)
残存率の検量線に照らし合わせた結果、回転電気機器のステータウエッジ内コイルA(運転時間:16,000時間程度)の破壊電圧(BDV)残存率は、70%程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から固定子コイルの破壊電圧(BDV)残存率は、初期100%に対して40%まで低下すると固定子コイルの交換時期であることが既に分かっている。また、上記の破壊電圧(BDV)残存率の結果から実機運転している回転電気機器を今までと同様の条件で運転すれば、固定子コイルの交換時期は約55,000時間後と推定することができる。
【実施例4】
【0023】
本実施例では、実施例2で得られたコイル絶縁層に加わった推定温度120℃程度を、予め作成したコイルの
運転温度毎の運転時間と破壊電圧(BDV)
残存率の検量線に照らし合わせた結果、回転電気機器のステータウエッジ内コイルB(運転時間:110,000時間程度)の破壊電圧(BDV)残存率は、63%程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から固定子コイルの破壊電圧(BDV)残存率は、初期100%に対して40%まで低下すると交換時期であることが分かっている。また、上記の破壊電圧(BDV)残存率の結果から実機運転している回転電気機器を今までと同様の条件で運転すれば、固定子コイルの交換時期は約25,000時間後と推定することができる。
【実施例5】
【0024】
本実施例では、
図2に示す実機コイル絶縁層C(運転時間:65,000時間程度)について得られたコイル絶縁層に加わった推定温度140℃程度を、予め作成したコイルの
運転温度毎の運転時間と破壊電圧(BDV)
残存率の検量線に照らし合わせた結果、回転電気機器のステータウエッジ内コイルC(運転時間:65,000時間程度)の破壊電圧(BDV)残存率は、63%程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から固定子コイルの破壊電圧(BDV)残存率は、初期100%に対して40%まで低下すると固定子コイルの交換時期であることが既に分かっている。また、上記の破壊電圧(BDV)残存率の結果から実機運転している回転電気機器を今までと同様の条件で運転すれば、固定子コイルの交換時期は約20,000時間後と推定することができる。