特許第6231783号(P6231783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231783完全フロイントアジュバント投与による眼瞼状態の変化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231783
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】完全フロイントアジュバント投与による眼瞼状態の変化方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20171106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20171106BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20171106BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   G01N33/50 Z
   A61K45/00
   G01N33/48 N
   A61P27/02
   G01N33/15 Z
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-127456(P2013-127456)
(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公開番号】特開2014-24835(P2014-24835A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2016年4月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-137779(P2012-137779)
(32)【優先日】2012年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小田 知子
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0223169(US,A1)
【文献】 特開2008−231123(JP,A)
【文献】 特開2008−263887(JP,A)
【文献】 Shii D, Nakagawa S, Yoshimi M, Katsuta O, Oda T, Nakamura M.,Inhibitory effects of cyclosporine a eye drops on symptoms in late phase and delayed-type reactions in allergic conjunctivitis models.,Biol Pharm Bull.,2010年,Vol.33,No.8 ,Page.1314-1318
【文献】 天野志郎,マイボーム腺機能不全の定義と診断基準,あたらしい眼科,日本,2010年,Vol.27,No.5,Page.627-631
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 33/15
A61K 45/00
A61P 27/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
げっ歯目又はウサギ目に対して完全フロイントアジュバントを投与することによる眼瞼の状態を変化させる方法であって、該眼瞼の状態の変化が、マイボーム腺開口部の閉塞及び/又はマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張である、方法。
【請求項2】
げっ歯目又はウサギ目がラット又はウサギである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
完全フロイントアジュバントを上眼瞼に投与する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
投与する完全フロイントアジュバントの量が1〜300μLである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
完全フロイントアジュバントの投与後3日間以上経過させる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法によるマイボーム腺開口部の閉塞及び/又はマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を伴う眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価するためのモデル動物の製造方法
【請求項7】
眼瞼疾患が眼瞼炎、眼瞼縁炎、マイボーム腺機能不全、マイボーム腺炎又はマイボーム腺梗塞である、請求項6に記載のモデル動物の製造方法
【請求項8】
請求項6又は7に記載の製造方法によりモデル動物を製造し、そのモデル動物に被験物質を投与し、その眼瞼の状態を測定することを特徴とする、眼瞼疾患の治療又は予防効果を有する物質のスクリーニング方法であって、該眼瞼の状態がマイボーム腺開口部の閉塞及び/又はマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張である、スクリーニング方法。
【請求項9】
被験物質を点眼投与する請求項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトを除く哺乳動物の眼瞼の状態を変化させる方法、その方法により得られる眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価するためのモデル動物、そのモデル動物の製造方法、そのモデル動物を利用したスクリーニング方法及びそのスクリーニング方法により選択される眼瞼疾患の治療又は予防効果を有する物質、ならびに、当該物質を有効成分として含有する眼瞼疾患の治療又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マイボーム腺は瞼板内にあり、上下の眼瞼縁に開口部を持つ脂腺である。マイボーム腺から分泌される脂質は、眼瞼縁や涙液最表層に分布して、涙液蒸発の抑制、涙液安定性の促進、涙液の眼表面への伸展の促進、眼瞼縁における涙液の皮膚への流出の抑制、等の働きを担っており、マイボーム腺の機能に異常をきたすと、眼瞼炎、眼瞼縁炎、マイボーム腺機能不全、マイボーム腺炎又はマイボーム腺梗塞等の眼瞼疾患が引き起こされる。
【0003】
眼瞼炎は、瞼が炎症を起こしている症状であり、ただれ、かゆみ、痛みを伴い、悪化するとまつ毛が抜けたり、瞼が肥厚したりする。発症部位が、主にまつ毛の根元付近に起こるものを眼瞼縁炎又は前部眼瞼炎、主にまぶたの皮膚に起こるものを眼瞼皮膚炎、マイボーム腺開口部を結ぶ線より結膜側に発症するものを後部眼瞼炎と呼ぶ。また、主に目尻に起こるものを眼角眼瞼炎と呼ぶ。原因としては、細菌等の感染による化膿性のもの、アトピー性のもの、皮脂腺の過剰分泌による脂漏性のものがあり、ステロイド剤、抗生物質、抗ヒスタミン薬等が治療薬として用いられている。
【0004】
マイボーム腺機能不全とは、マイボーム腺の油脂の出口を含めて、その機能に異常をきたした状態をいう。大別すると、油脂の分泌量が減少する分泌減少型と、油脂の分泌が過剰になる分泌増加型の二つのタイプがある。原因としては、閉塞性、委縮性、先天性等の原発性のものと、酒さ、アトピー、アレルギー性結膜炎、Stevens−Johnson症候群、移植片対宿主病、トラコーマ、眼感染症、脂漏性皮膚炎、コンタクトレンズ装用、リュウマチ、乾癬、脂質代謝異常、白内障手術、近視矯正手術等に続発する続発性のものがある。症状は目の充血、異物感、乾燥感、灼熱感、かゆみ等多様で、抗生物質等が治療薬として用いられている。
【0005】
一方、完全フロイントアジュバントは、強力な免疫アジュバントとして関節炎モデル動物の作製に用いられている(Acta Pharmacol Sin, 2009, 30(2), 219−227(非特許文献1))。しかしながら、哺乳動物に対して完全フロイントアジュバントを投与することによる眼瞼部への影響を検討した報告はこれまでに存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Acta Pharmacol Sin, 2009, 30(2), 219−227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
眼瞼疾患の治療又は予防薬の創製には、治療又は予防効果が評価できるモデル動物を利用したスクリーニングが不可欠である。しかしながら、これまでに眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価できるモデル動物は存在しなかった。
【0008】
そこで、本発明者らは、眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価できるモデル動物及びスクリーニング方法を見出すべく鋭意研究を行った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その結果、哺乳動物に対して完全フロイントアジュバントを投与することで、驚くべきことにマイボーム腺開口部が閉塞し、及び/又は、マイボーム腺開口部周辺毛細血管が拡張することを見出した。さらに、これらの症状が既存薬により改善されることも見出した。そして、被験物質を投与した後のこれらの症状を測定することで、眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)ヒトを除く哺乳動物に対して完全フロイントアジュバントを投与することによる眼瞼の状態を変化させる方法。
【0011】
(2)眼瞼の状態の変化がマイボーム腺開口部の閉塞及び/又はマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張である、上記(1)に記載の方法。
【0012】
(3)哺乳動物がげっ歯目又はウサギ目である、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)哺乳動物がラット又はウサギである、上記(1)又は(2)に記載の方法。
【0013】
(5)完全フロイントアジュバントを上眼瞼に投与する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【0014】
(6)投与する完全フロイントアジュバントの量が1〜300μLである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0015】
(7)完全フロイントアジュバントの投与後3日間以上経過させる、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
【0016】
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法により得られる眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価するためのモデル動物。
【0017】
(9)眼瞼疾患がマイボーム腺開口部の閉塞及び/又はマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を伴う疾患である、上記(8)に記載のモデル動物。
【0018】
(10)眼瞼疾患が眼瞼炎、眼瞼縁炎、マイボーム腺機能不全、マイボーム腺炎又はマイボーム腺梗塞である上記(8)に記載のモデル動物。
【0019】
(11)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法による眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価するためのモデル動物の製造方法。
【0020】
(12)上記(8)〜(10)のいずれかに記載のモデル動物に被験物質を投与し、その眼瞼の状態を測定することを特徴とする、眼瞼疾患の治療又は予防効果を有する物質のスクリーニング方法。
【0021】
(13)眼瞼の状態がマイボーム腺又はその周辺の状態である、上記(12)に記載のスクリーニング方法。
【0022】
(14)マイボーム腺及びその周辺の状態がマイボーム腺開口部の閉塞及び/又はマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張である、上記(13)に記載のスクリーニング方法。
【0023】
(15)被験物質を点眼投与する、上記(12)〜(14)のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0024】
(16)上記(12)〜(15)のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択される眼瞼疾患の治療又は予防効果を有する物質。
【0025】
(17)上記(16)に記載の物質を有効成分として含有する眼瞼疾患の治療又は予防剤。
【0026】
尚、上記(1)から(17)の各構成は、任意に1以上を選択して組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、被験物質の眼瞼疾患の治療又は予防効果を簡便に評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の完全フロイントアジュバント投与による眼瞼状態の変化方法は、ヒトを除く哺乳動物に対して完全フロイントアジュバントを投与することによる眼瞼の状態を変化させることを特徴とする。本発明の完全フロイントアジュバント投与による眼瞼状態の変化方法に利用される「哺乳動物」とは、ヒトを除くほか、特に制限はなく、具体例として、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル等が挙げられ、マウス、ラット又はウサギが好ましく、ラット又はウサギが特に好ましい。雌雄、週齢、体重については、特に制限はない。
【0029】
本発明における「完全フロイントアジュバント」(Complete Freund’s Adjuvant:CFA)とは、パラフィンとアラセルの混合物にミコバクテリア又は結核菌の死菌を加え、抗原性を増強させたアジュバントである。ここで、「アジュバント」とは、抗原と共に生体に接種すると免疫反応が増強される効果のある物質のことである。
【0030】
本発明における完全フロイントアジュバントの投与は、完全フロイントアジュバントをそのまま又は希釈して、眼瞼、好ましくは上眼瞼に投与することにより行われ、好ましくは注射することにより行われる。その投与量は、哺乳動物の種類などにより適宜調節できるが、1〜300μLが好ましく、1〜200μLがより好ましく、5〜100μLがさらに好ましく、10〜60μLが特に好ましい。完全フロイントアジュバントの投与回数は、1回でも、時間を空けて複数回にわたってもよく、複数回にわたる場合は、2〜5回が好ましく、2又は3回がより好ましい。1回の投与につき、1箇所に投与しても複数の箇所に分けて投与してもよく、1〜5箇所に投与することが好ましく、1〜3箇所に投与することがより好ましい。
【0031】
完全フロイントアジュバントの投与完了後、3日間以上、好ましくは5日間以上、より好ましくは7日間以上経過することで本発明のモデル動物が得られる。
【0032】
本発明は、このように上述した本発明の完全フロイントアジュバント投与による眼瞼状態の変化方法により得られる眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価するためのモデル動物についても提供する。また、本発明は、上述した本発明の完全フロイントアジュバント投与による眼瞼状態の変化方法による眼瞼疾患の治療又は予防効果を評価するためのモデル動物の製造方法についても提供する。
【0033】
本発明において「眼瞼疾患」とは、眼瞼に生じる疾患をいい、マイボーム腺開口部の閉塞及び/又はマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を伴う疾患であることが好ましい。具体例としては、眼瞼炎、眼瞼縁炎、マイボーム腺機能不全、マイボーム腺炎、マイボーム腺梗塞等が挙げられる。
【0034】
本発明において「眼瞼炎」とは、瞼が炎症を起こしている症状であり、前部眼瞼炎、眼瞼縁炎、後部眼瞼炎、眼瞼皮膚炎、眼角眼瞼炎等が含まれる。原因として、細菌等の感染による化膿性のもの、アトピー性のもの、脂漏性のもの等がある。
【0035】
本発明において「マイボーム腺機能不全」とは、マイボーム腺の油脂の出口を含めて、その機能に異常をきたした状態をいい、油脂の分泌が減少する分泌減少型と油脂の分泌が過剰になる分泌増加型とが存在する。原因として、閉塞性、委縮性、先天性等の原発性のものと、酒さ、アトピー、アレルギー性結膜炎、Stevens−Johnson症候群、移植片対宿主病、トラコーマ、眼感染症、脂漏性皮膚炎、コンタクトレンズ装用、リュウマチ、乾癬、脂質代謝異常、白内障手術、近視矯正手術等に続発する続発性のものがある。
【0036】
本発明において「マイボーム腺炎」とは、マイボーム腺が炎症を起こしている症状であり、マイボーム腺梗塞は、マイボーム腺の導管内で角化物と油脂の混合物が固まっている症状である。
【0037】
本発明はさらに、上述した本発明のモデル動物に被験物質を投与し、その眼瞼の状態を測定することを特徴とする、眼瞼疾患の治療又は予防効果を有する物質のスクリーニング方法についても提供する。
【0038】
本発明における「被験物質」としては、公知又は新規の合成又は天然化合物が挙げられる。具体例としては、芳香族化合物、脂肪族化合物、環状又は鎖状ペプチド、タンパク質、糖、核酸及びこれらの誘導体、並びにこれらの塩等が挙げられる。
【0039】
本発明における被験物質は、経口でも、非経口でも投与することができ、点眼投与が特に好ましい。
【0040】
被験物質を点眼投与する場合、被験物質を精製水、生理食塩液、緩衝液等に溶解又は懸濁させ、投与することができる。
【0041】
また、白色ワセリン、流動パラフィン等の基剤を用いて調製した眼軟膏を塗布することにより被験物質を投与することもできる。
【0042】
本発明におけるスクリーニング方法を実施する場合、被験物質の治療効果は、完全フロイントアジュバントを投与して得られたモデル動物に被験物質を投与した後、モデル動物の眼瞼の状態を測定することにより評価できる。一方、被験物質の予防効果は、モデル動物の作製と同時期又はその前に被験物質を投与した時のモデル動物の眼瞼の状態を測定することにより評価できる。
【0043】
本発明におけるスクリーニング方法を実施する場合、被験物質を投与したモデル動物とビヒクルや生理食塩液を投与したモデル動物との眼瞼の状態を比較することが好ましい。また、完全フロイントアジュバントを投与されていない動物を比較対照に用いるのが好ましい。
【0044】
本発明における眼瞼疾患の治療又は予防効果の評価はモデル動物の眼瞼の状態を測定して行われ、マイボーム腺又はその周辺の状態を測定して行うのが好ましく、マイボーム腺開口部の閉塞及び/又はマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を測定して行うのがより好ましい。
【0045】
マイボーム腺開口部の閉塞を測定して評価する場合は、スリットランプ等を用いてマイボーム腺開口部を観察し、閉塞しているマイボーム腺の数を測定して評価することが好ましい。ここで、「閉塞している」とは、マイボーム腺開口部が白色若しくは黄白色に混濁した状態、又はマイボーム腺開口部が白濁して盛り上がった状態等をいう。スクリーニング基準は投与する被験物質の量や使用する動物種等に応じて設定することができ、特に制限はないが、被験物質投与群の閉塞しているマイボーム腺の数の平均値がビヒクル又は生理食塩液投与群より少ないことが好ましく、被験物質投与群の閉塞しているマイボーム腺の数がビヒクル又は生理食塩液投与群より有意に少ないことがより好ましい。
【0046】
マイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を測定して評価する場合は、スリットランプ等を用いてマイボーム腺開口部を観察し、マイボーム腺開口部の間を走行する拡張した毛細血管の数を測定して評価することが好ましい。ここで、「拡張した毛細血管」とは、血管径が拡大した結果、通常視認できない毛細血管が確認できる状態にある毛細血管などをいう。スクリーニング基準は投与する被験物質の量や使用する動物種等に応じて設定することができ、特に制限はないが、被験物質投与群の拡張した毛細血管の数の平均値がビヒクル又は生理食塩液投与群より少ないことが好ましく、被験物質投与群の拡張した毛細血管の数がビヒクル又は生理食塩液投与群より有意に少ないことがより好ましい。
【0047】
本発明はさらに、上述した本発明のスクリーニング方法により選択される眼瞼疾患の治療又は予防効果を有する物質、ならびに、当該物質を有効成分として含有する眼瞼疾患の治療又は予防剤についても提供する。
【実施例】
【0048】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
1.完全フロイントアジュバントの投与よるマイボーム腺開口部の閉塞及びマイボーム腺周辺毛細血管の影響
(実験方法)
約2kgの雄性日本白色種ウサギに完全フロイントアジュバントまたは生理食塩液を上眼瞼に10μLずつ3箇所に投与した。投与後7日目、14日目、21日目に、スリットランプを用いて観察し、上眼瞼の眼瞼縁を耳側、中央部、鼻側の3分画に等分してそれぞれの分画についてマイボーム腺開口部の閉塞、開口部周辺の毛細血管拡張スコアを下記表1、2に示す基準に従い判定し、3分画のスコアの和を1眼あたりのスコアとして算出した。この実験では、「マイボーム腺開口部の閉塞」として、マイボーム腺開口部が白色または黄白色に混濁した状態を確認した。また、「拡張した毛細血管」とは、血管径が拡大した結果、通常視認できない毛細血管が確認できる状態にある毛細血管をいう。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(結果及び考察)
マイボーム腺開口部閉塞スコア(各群8匹)についての結果を表3、マイボーム腺開口部周辺毛細血管拡張スコア(各群8匹)についての結果を表4に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
完全フロイントアジュバント投与後7日目、14日目、21日目において、完全フロイントアジュバント投与群では、生理食塩液投与群に比べ、マイボーム腺開口部の閉塞スコアの増加、毛細血管拡張スコアの増加が認められた。
【0056】
2.治療薬の効果の確認(ウサギ)
(実験方法)
約2kgの雄性日本白色種ウサギに完全フロイントアジュバントを上眼瞼に10μLずつ3箇所に投与した。惹起4日目に、スリットランプを用いて右上眼瞼のマイボーム腺開口部ならびにその周辺を観察し、スコア判定を行った。スコア判定は、上記表1、2に示した基準に従った。各スコアの平均値のばらつきが小さくなるように、生理食塩液投与群とTobraDexST(0.3% tobramycin、0.05% dexamethasone)投与群に群分けした(各群8匹)。惹起後5日目より、生理食塩液、TobraDexST点眼液を10日間右眼に点眼した(50μL/眼、1日4回)。惹起11日目ならびに15日目にスリットランプを用いて、右上眼瞼縁のマイボーム腺開口部ならびにその周辺を観察し、スコア判定を行った。マイボーム腺開口部閉塞スコアについての結果を表5、マイボーム腺開口部周辺毛細血管拡張スコアについての結果を表6に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
(結果及び考察)
TobraDexST点眼液投与群は生理食塩液投与群に比べ、明らかにマイボーム腺開口部の閉塞スコア及び毛細血管拡張スコアを改善し、本試験系で薬効評価が可能なことが明らかとなった。
【0060】
3.治療薬の効果の確認(ラット)
(実験方法)
5週齢の雌性Lewisラットに完全フロイントアジュバントを25μL右上眼瞼に1箇所投与した。惹起7日目に、スリットランプを用いて右上眼瞼のマイボーム腺開口部周辺を観察し、毛細血管拡張スコア判定を行った。毛細血管拡張スコア判定は、下記表7に示す基準に従った。各スコアの平均値のばらつきが小さくなるように、生理食塩液投与群とリンデロン(登録商標)点眼・点耳・点鼻液0.1%(0.1% ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム)投与群に群分けした(各群5または6眼)。惹起後8日目より、生理食塩液(5μL/眼、1日4回)、リンデロン(登録商標)点眼・点耳・点鼻液0.1%を21日間右眼に点眼した(5μL/眼、1日2回又は1回)。惹起14日目、21日目及び28日目にスリットランプを用いて、右上眼瞼のマイボーム腺開口部周辺を観察し、スコア判定を行った。
【0061】
【表7】
【0062】
(結果及び考察)
マイボーム腺開口部周辺毛細血管拡張スコアの結果を表8に示す。
【0063】
【表8】
【0064】
リンデロン(登録商標)点眼・点耳・点鼻液0.1%投与群は、生理食塩液投与群に比べ、明らかに毛細血管拡張スコアを改善し、本試験系で薬効評価が可能なことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により、被験物質の眼瞼疾患の治療又は予防効果を簡便に評価することができ、眼瞼疾患の治療又は予防薬を効率的に創製することができる。