特許第6231790号(P6231790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231790
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】弛み止めナット
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/20 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   F16B39/20 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-140256(P2013-140256)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-14308(P2015-14308A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】591209246
【氏名又は名称】濱中ナット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】濱中 重信
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−078139(JP,A)
【文献】 特開2000−154818(JP,A)
【文献】 特開2007−040347(JP,A)
【文献】 特開2009−052648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット(10)は頂面(11)に座繰り構造のばね収納凹所(12)を有し、該ばね収納凹所(12)の底面とナット座面(14)との間はJIS・B・1181附属書1規定のねじ呼び径のナット高さの寸法(ml)になっており、上記ナット座面(14)からばね収納凹所(12)の底面までの部分雌ねじを有する一方、
上記ばね収納凹所(12)内にはコイルばね(20)が設置されており、該コイルばね(20)の線径はボルト(30)の雄ねじピッチの0.5から0.9倍の範囲内の線径で、巻き方向がボルト雄ねじの巻き方向であり、上記コイルばね(20)の平均径はボルト有効径の寸法に等しく、上記コイルばね(20)の一端部(21)はオープンエンド研削仕上げとなっており、他端部係止かぎ部(22)を有し、該係止かぎ部(22)が上記ばね収納凹所(12)外端面係止穴(13)に挿入係止されており、
ボルト(30)の螺進時に上記コイルばね(20)のオープンエンド研削端部がボルト(30)の雄ねじのピッチに入り込んでボルト(30)の雄ねじに保持されることによって上記コイルばね(20)がボルト軸部(31)に沿って伸びた状態でボルト(30)の雄ねじに巻きつき、ボルト(30)の弛み方向の回転に対して上記コイルばね(20)とボルト(30)の雄ねじとの間で摩擦力が発生して弛み止めするようになっていることを特徴とする弛み止めナット。
【請求項2】
ナット頂面(11)にばね収納凹所(12)が座繰り形成されかつ該ばね収納凹所(12)の底面とナット座面(14)との間がJIS・B・1181附属書1規定のねじ呼び径のナット高さの寸法(ml)になった形状のナットブランクが、鍛造によって製造されている請求項1記載の弛み止めナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弛み止めナットに関し、特に保証荷重性能を保証でき、長期にわたって使用しても弛み止め性能の経時変化が少ないようにしたナットに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト・ナットを用いて被締結物材を締結する方式は多くの構造物において採用されている。ボルト・ナットは単純に螺合し締付けただけでは、座面の陥没による弛み、ねじ締結体の接触部のあらさ、うねりあるいは形状誤差による初期弛み、軸力の静的な変動あるいは動的な変動に起因するナットの戻り回転などにより、締結の弛みが生ずることが懸念される。
【0003】
そこで、従来より、種々な弛み止め構造が提案されている。例えば、ナットを螺挿したボルト軸部にスプリングワッシャーを嵌め、あるいはダブルナットによってナットの弛み方向への回転を阻止する方法が提案されている。また、ナットを螺挿したボルト軸部にコイルばねを密着巻装し、ナットの弛み方向への回転を阻止する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、これらの方法では長期にわたって使用すると、振動や衝撃などによってナットが一旦弛み始めると、ボルト・ナットの締結が簡単に外れてしまうなど、弛み止め性能が不十分である。
【0004】
他方、ナット頂面側にばね収納凹所を形成してコイルばねを収納し、ボルト・ナットの締付け方向への回転時にはコイルばねをボルトの雄ねじから離反させて摩擦力を少なくしてボルトの螺進を許容する一方、ボルト・ナットの弛み方向への回転時にはコイルばねをボルトの雄ねじに密着させて摩擦力を増大させ、ボルト・ナットの弛み方向への回転を抑制するようにした弛み止めナットが提案されている(特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−059514号公報
【特許文献2】特開2003−307210号公報
【特許文献3】特開2010−007819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献2、3記載の弛み止めナットはナットの弛み止め性能についての評価検討されているものの、ナットとして基本的に必要な保証荷重性能についての検討がなされていない。
【0007】
本発明はかかる状況において、保証荷重性能を保証でき、長期にわたって使用しても弛み止め性能の経時変化が少ない弛み止めナットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明に係る弛み止めナット構造は、ナット頂面にはばね収納凹所が座繰り形成され、該ばね収納凹所の底面とナット座面との間はJIS・B・1181附属書1規定のねじ呼び径のナット高さの寸法になっており、上記ナット座面からばね収納凹所の底面までの部分には雌ねじが形成される一方、上記ばね収納凹所内にはコイルばねが設置され、該コイルばねの線径はボルトの雄ねじピッチの0.5から0.9倍の範囲内の線径で、巻き方向がボルト雄ねじの巻き方向であり、上記コイルばねの平均径はボルト有効径の寸法に等しく、上記コイルばねの一端部はオープンエンド研削仕上げされ、他端部には係止かぎ部が形成され、該係止かぎ部が上記ばね収納凹所外端面に形成された係止穴に挿入係止されていることを特徴とする。
【0009】
一般にナットの弛み止め性能は組み合わせて使用されるボルトの軸力によって大きく影響され、ボルトの降伏点を越える軸力で締め付けたナットは弛み止め構造を使用しなくても弛みが発生することはほとんどない。本発明は軸力が降伏点以下の弾性変形領城のボルトにナットを組み合わせる際のナットの弛み止めを単純かつ有効な構造で実現するものである。
【0010】
つまり、本発明の特徴の1つは、ナット頂面のばね収納凹所にコイルばねを設置し、コイルばね他端部の係止かぎ部をばね収納凹所外端面に形成された係止穴に挿入係止するようにした点にある。
【0011】
これにより、ボルト・ナットを締付け方向に相対回転させる時にはコイルばねはボルトの雄ねじから離反されて摩擦力が少なくなる結果、ボルト雄ねじの螺進が許容される。他方、ボルト・ナットを弛み方向に相対回転させる時にはコイルばねがボルトの雄ねじに密着されて摩擦力が増大する結果、ボルト・ナットの弛み方向への相対回転が抑制されることとなる。
【0012】
コイルばねに上述の機能を発揮させる上で、コイルばねの線径はボルトの雄ねじピッチの0.5から0.9倍の範囲内の線径、巻き方向をボルト雄ねじの巻き方向、コイルばねの平均径はボルト有効径の寸法に等しく、コイルばねの一端部をオープンエンド研削仕上げするのが好ましい。
【0013】
本発明の第2の特徴はばね収納凹所の底面とナット座面との間をJIS・B・1181附属書1規定のねじ呼び径のナット高さの寸法とした点にある。これにより、ナットの基本的な保証荷重性能を確保できる。
【0014】
ナット頂面にばね収納凹所を座繰り形成しかつばね収納凹所の底面とナット座面との間をJIS・B・1181附属書1規定のねじ呼び径のナット高さの寸法とした形状のナットブランクは、切削加工で製造してもよいが、保証荷重性能を確保する上で、鍛造、好ましくは熱間鍛造によって製造されるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る弛み止めナットの好ましい実施形態におけるナットブランクを示す一部切欠き側面(a)及び平面(b)を示す図である。
図2】上記実施形態におけるコイルばねの側面(a)及び底面(b)を示す図である。
図3】上記実施形態の弛み止めナットを用いた締結構造を示す図である。
図4図3の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1ないし図4は本発明に係る弛み止めナットの好ましい実施形態を示す。図において、ナットブランク10はナット頂面11に内径dzの円形のばね収納凹所12が形成され、ばね収納凹所12の底面とナット座面14との間の部分はJIS・B・1181附属書1規定のねじ呼び径のナット高さの寸法mlとなっており、ナット座面14からばね収納凹所12の底面までの部分には雌ねじが形成される。
【0017】
また、ばね収納凹所12内にはコイルばね20が設置されている。このコイルばね20の線径はボルト30の雄ねじピッチの0.5から0.9倍の範囲内の線径で、巻き方向がボルト雄ねじの巻き方向であり、コイルばね20の平均径はボルト有効径の寸法に等しく さらにコイルばね20の一端部21はオープンエンド研削仕上げされ、他端部には係止かぎ部22が形成され、他方、ばね収納凹所12外端面には係止穴13が形成され、係止穴13にはコイルばね20の他端部の係止かぎ部22が挿入されて係止されている。
【0018】
次に、ねじ呼び径がM18のナットを例に説明する。JIS・B・1052・2表5に規定する強度区分10の保証荷重要求値、硬さ要求値を満足するように、JIS・G・4051に規定するS45C鋼材を用い、熱間鍛造によってねじ呼び径、高さ18mmで、ナット頂面にねじ収納凹所の座繰りを有する形状に鍛造成形し、所定の硬度HV272からHV353に調質する。
【0019】
座繰り部の深さはナット全高の20%程度とする。ナット頂面の端部にねじりコイルばねを固定する内径1.52φmm、深さ9mmの係止穴を加工する。
【0020】
弛み止めナットブランクに組み合わせるコイルばねは、ナットに組み合わせるボルトのねじピッチの0.5〜0.9倍の線径、今回は1.47mmで、巻き方向が右巻きのコイル、平均径がボルトの有効径寸法16・3730mmに略等しい寸法とし、一端部はオープンエンド研削仕上げをし、他端部は係止かぎ部を加工する。
【0021】
ねじ収納凹所を座繰り形成したナットブランクにねじりコイルばねを、オープンエンド研削仕上げした端部を底側にしてセットする。コイルばねの反対側端部の係止かぎ部をナットブランクに頂面に形成した係止穴に挿入する。
【0022】
製造実績のあるナットの有効高さ、有効ねじ長さ(呼び径の80%)が確保され、硬さHv272〜335、保証荷重応力1060N/mm2の機械的性質を満足する。
【0023】
今、図3及び図4に示されるように、ボルト30の軸部31を被締結部材40、41の挿通穴に挿通し、上述の弛み止めナット10に螺挿し、コイルばね20に挿通すると、コイルばね20はボルト30の雄ねじから離反されて摩擦力が少なくなる結果、ボルト30の螺進が許容される。
【0024】
他方、ボルト30・ナット10を弛み方向に相対回転させると、コイルばね20がボルト30の雄ねじに密着されて摩擦力が増大する結果、ボルト30・ナット10の弛み方向への相対回転が抑制される。
【0025】
つまり、コイルばね瑞部をナット頂面の係止穴に差し込むだけの単純な構造で、ボルト30をナット10に挿入して締め付けると、ナット座繰り部に固定されたコイルばね20のオープンエンド研削端面がボルト30の雄ねじのピッチに入り、軸方向に伸びながらボルト30の雄ねじに巻きつく。
【0026】
さらにボルト30を締め付けると、固定されたコイルばね20がボルト30とコイルばね20の摩擦力によってばねを弛める方向、つまりばねの径を広げる力向に変形して、ボルト30はナット10に軽く螺挿されることができる。
【0027】
ボルト30の締め付けを止めると、ボルト30とコイルばね20の摩擦力がなくなり、コイルばね20を弛める、つまりコイルばね20の径を広げる力もなくなり、コイルばね20の弾性復元力によってコイルばね20がボルト30を締め付け、コイルばね20とボルト30の摩捺力で弛み止め効果が発揮される。
【0028】
コイルばね20の弾性でコイルばね20がボルト30を締め付けた状態でボルト30を取リ外す、つまり弛める力がかかると、コイルばね20とボルト30の間に摩捺力が発生する。発生した摩擦力はコイルばね20を締め付ける方向に変形させる。コイルばね20が締め付けられるため、コイルばね20とボルト30の間の摩擦力は更に増加し、弛み止め効果を発揮する。
【0029】
ボルト30をナット10から取り外す場合、ナット10の係止穴13に固定されたコイルばね20の係止かぎ部22を抜き取ることで、ナット10は取り外すことができる。ただ、コイルばね20は変形するため、再使用はできない。
【0030】
以下、M12からM39までの各ねじ呼び径のナットブランクの寸法を表1に、そのナットブランクに用いるコイルばねの寸法を表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【符号の説明】
【0033】
10 ナットフランク
11 ナット頂面
12 ばね収納凹所
13 係止穴
14 ナット座面
20 コイルばね
21 オープンエンド研削仕上げ端部
22 係止かぎ部
図1
図2
図3
図4