(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231792
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】すべり軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/10 20060101AFI20171106BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
F16C33/10 Z
F16C17/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-143267(P2013-143267)
(22)【出願日】2013年7月9日
(65)【公開番号】特開2015-17627(P2015-17627A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 崇廉
(72)【発明者】
【氏名】服部 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】冨田 健一
(72)【発明者】
【氏名】岩重 健五
(72)【発明者】
【氏名】通澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】重永 泰宣
(72)【発明者】
【氏名】山下 智彬
(72)【発明者】
【氏名】辺見 真
(72)【発明者】
【氏名】中村 建樹
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−67325(JP,A)
【文献】
特開2000−145781(JP,A)
【文献】
特開2013−104546(JP,A)
【文献】
特表2013−524111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/10
F16C 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上半軸受と下半軸受からなるすべり軸受け装置であって、
前記上半軸受と前記下半軸受は、それぞれ軸受台金の内周側に低強度金属が形成されており、
前記下半軸受は、回転方向下流側の前記上半軸受との合わせ面に開口する給油口と、軸受幅方向中央で周方向に設けられた周方向溝を備え、
前記上半軸受は、前記下半軸受の前記周方向溝の回転方向下流側出口と対向する前記上半軸受の回転方向上流側の領域にある前記上半軸受の前記低強度金属を部分的に除去し、前記軸受台金を部分的に露出させたことを特徴とすることを特徴とするすべり軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記低強度金属を部分的に除去した箇所に前記低強度金属よりも高強度の金属シールドを形成したことを特徴とするすべり軸受け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり軸受装置に係り、特に、大型の駆動機や回転電機に好適なすべり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンなどの駆動機やタービン発電機などの回転電機の回転軸は、すべり軸受装置(ジャーナル軸受装置)によって支持されている。近年、新興国などの電力需要に対応するために、パワートレイン(タービンおよび発電機)単機の容量が増加傾向にあり、これに伴い回転軸を支える軸受装置の幅や径も増大化する傾向にある。
【0003】
タービンやタービン発電機に用いられるすべり軸受装置では、下半軸受の軸受面に軸受幅の中央でかつ周方向に溝を形成している(例えば、特許文献1)。周方向溝を設けない場合、軸受幅の増大とともに、軸の受圧面積が増えて軸を浮上させる力が大きくなり、軸受の安定性が失われる傾向にあるが、軸受幅の中央に周方向溝を設けることによって、潤滑油の油膜の形成を促し、軸受の安定性を保つことができる。
【0004】
また、特許文献2には、蒸気タービンなどに用いられるジャーナル軸受において、潤滑油に発生するキャビテーションにより軸受内周面が浸食されるのを防止するため、軸受本体上半部の内周面を熱処理等により表面硬度を高め組織を均質化するようにしたり、また、軸受本体上半部の内周面にメッキ等による硬化層を形成したりすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-93769号公報
【特許文献2】特開昭62-67325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軸受径の増大に伴い、軸の周速が増加する。例えば、軸径が550mmで、60Hz運転の場合、周速は100m/secを超える。このような軸の周速の増加によって、軸と軸受面との間の潤滑油の流速も増加し、また軸と軸受面との間に真空層発生が引き起こされる。軸受面の内周には給油溝や排油溝などに起因する不連続部が形成されており、この不連続部では、特に周方向溝内の潤滑油の流速増加によって、潤滑油の衝突によるエロージョンや、キャビテーションによる壊食が発生する可能性がある。
【0007】
特に、大型の駆動機や回転電機の場合、軸を保護するために、軸受の全内周に、軸の材料(鋼)より柔らかい低強度の金属(バビットメタル(ホワイトメタル))をライニング施工している。この低強度の金属は、潤滑油の衝突によるエロージョンや、キャビテーションによる壊食を受けやすい。
【0008】
特許文献2においては、キャビテーションにより軸受内周面が浸食されるのを防止するため、軸受本体上半部の内周面全体に熱処理またはメッキなどにより硬化層を形成している。しかし、軸を保護するためには、上半軸受の軸受面にバビットメタルなどの金属を設けることが望ましい。
【0009】
本発明の目的は、上半軸受の軸受面にもバビットメタルなどの低強度の金属をライニングしたすべり軸受装置において、軸受径が増大しても、潤滑油によるエロージョンや、キャビテーションによる壊食を抑制することが可能なすべり軸受け装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下半軸受に形成された周方向溝の回転方向下流側と対向する上半軸受の軸受面に形成された低強度金属を部分的に除去し、高強度の軸受台金を部分的に露出させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上半軸受の軸受面にもバビットメタルなどの低強度の金属をライニングしたすべり軸受装置において、軸受径が増大しても、潤滑油によるエロージョンや、キャビテーションによる壊食を抑制することが可能となる。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例のすべり軸受装置の軸受幅中央での断面図である。
【
図2】本発明の一実施例のすべり軸受装置の下半軸受の上面図である。
【
図3】本発明の一実施例のすべり軸受装置の上半軸受の上面図(下半軸受と対向する面を上側に向けた時に上半軸受の上面図)である。
【
図4】本発明の一実施例のすべり軸受装置の下半軸受の斜視図である。
【
図5】本発明の一実施例のすべり軸受装置の上半軸受の斜視図(下半軸受と対向する面を上側に向けた時に上半軸受の斜視図)である。
【
図6】本発明の一実施例のすべり軸受装置の上半軸受の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0015】
本実施例のすべり軸受装置は、
図1に示すように、上下方向に2分割、すなわち、上半軸受1b及び下半軸受1aに分割されている。上半軸受1b及び下半軸受1aのそれぞれは、軸受台金の内周面、すなわち軸受面の全周に軸受台金よりも低強度の金属(バビットメタルなど)が数mm程度ライニングされている。また、必要に応じて軸受台金の内周面にライナーが設けられ、その場合、ライナー上に低強度の金属がライニングされる。
【0016】
本実施例のすべり軸受装置は、負荷側の下半軸受1aに、潤滑油を供給するための給油管3と、潤滑油の一部を排出するための排油管4が設けられている。給油管3から供給された潤滑油は、軸受面、すなわち低強度の金属の内周面に形成された周方向溝2a,2bを流れ、周方向溝2a,2bからの軸受面と軸8との間に潤滑油が供給され油膜が形成される。これにより回転軸8は油膜を介して上半軸受1b及び下半軸受1aにより回転自在に支持される。
【0017】
図2及び
図4に示すように、下半軸受1aには、上半軸受1bとの合せ面近傍に、給油管3側と排油管4側に水平空間部7がそれぞれ設けてある。また、水平空間部7と下半軸受1aの軸受面をなだらかにつなぐ幅広(軸受幅の略全巾)の給排油溝6aが形成されている。また、下半軸受1aの軸方向中央には、回転軸8の振動安定性を確保するため回転方向に沿って周方向溝2を設けている。また、下半軸受1aの軸受面の最下部で周方向溝2の両側に給油孔10が形成されている。駆動機や回転電機の起動時に、この給油孔10から潤滑油を供給して軸8を浮上させ、軸8と下半軸受1aの軸受面が固着した状態から軸8が回転するのを防止する。
【0018】
図3及び
図5に示すように、上半軸受1bには、二つの幅広の周方向溝2bが形成されている。この周方向溝2bは一つの幅広の周方向溝としても良い。また、上半軸受1bには、下半軸受1aとの合せ面から上半軸受1bの軸受面にわたってなだらか形成された幅広(軸受幅の略全巾)の給排油溝6bが設けられている。また、下半軸受1aの回転方向下流側(給油管3が設けられている側)と合わせられる上半軸受1bの回転方向上流側には、下半軸受1aの周方向溝2aと対向する部位の低強度金属が切り欠かれた切欠き部9が設けられている。詳細は
図6を用いて説明する。
【0019】
また、
図2〜5に示すように、上半軸受1b及び下半軸受1aは、外周が球面形状15となっており、この外周に球面座(図示省略)が設けられている。
【0020】
潤滑油によるエロージョンや、キャビテーションによる壊食は、主に、下半軸受1aから上半軸受1bに至る箇所の不連続部で発生する。特に、下半軸受1aの周方向溝2aの出口側に位置する上半軸受1bの対向領域に発生する。そこで、本実施例では、潤滑油によるエロージョンや、キャビテーションによる壊食が発生した位置を試験などで確認し、その発生領域を含めて、上半軸受1bの軸受面にライニングされた低強度金属を予め部分的に除去する。
【0021】
すなわち、
図6に示すように、上半軸受1bは、軸受台金11の内周面に低強度金属12がライニングされている。なお、
図6において軸受台金11の断面ハッチングは省略している。周方向溝2bはこの低強度金属の内周面に設けられている。そして、
図3、
図5、
図6に示すように、下半軸受2aの周方向溝2aの出口に対向する上半軸受1bの入口領域における低強度金属12を予め部分的に切り欠き、切欠き部9を形成している。このように予め切欠き部9を設けることにより、低強度金属よりも高強度の軸受台金(鋼鉄製の台金。ステンレス鋼や高炭素クロム鋼)が部分的に露出することになる。したがって、この切欠き部9においては、部分的に高強度の金属によるシールドを形成したに等しい効果が得られる。
【0022】
従って、軸受面の略全周に低強度金属をライニングした状態においても、上半軸受1bの潤滑油によるエロージョンや、キャビテーションによる壊食による損傷を抑制することができ、軸受寿命を長くすることができる。切欠き部9を設けない場合、長期間運転後、潤滑油によるエロージョンや、キャビテーションによる壊食による損傷により、切欠き部9を形成した場合と同様に軸受台金11が露出することが考えられるが、本実施例のように予め切欠き部9を形成しておくことにより、運転中に低強度金属がはがれたり、削れたりして、異物が軸受面と軸との間に入り込むようなことを、未然に防止することができる。
【0023】
なお、上述の実施例では低強度金属を部分的に除去し、高強度の軸受台金を露出させているが、低強度金属を部分的に除去した上で、低強度金属を除去した箇所に高強度の金属(例えば材料力学強度が数十倍高い金属)でシールドを形成するようにしても良い。
【0024】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0025】
1a 下半軸受
1b 上半軸受
2a,2b 周方向溝
3 給油管
4 排油管
6a,6b 給排油溝
7 水平空間部
8 回転軸
9 切欠き部
10 給油孔
11 軸受台金
12 低強度金属