(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定周期で周波数が変わる送信信号と、該送信信号に基づく送信波の物標での反射波を受信した受信信号との差分周波数から得られるピーク信号を前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで抽出し、該抽出したピーク信号に基づいて物標の情報を導出するレーダ装置であって、
前回の確定したピーク信号に基づいて、今回のピーク信号を予測する予測手段と、
所定の周波数の範囲内に存在するピーク信号の中から、前記予測したピーク信号に対応する今回のピーク信号を抽出する抽出手段と、
前記予測したピーク信号と今回のピーク信号とをフィルタ処理して、その結果を今回の確定したピーク信号として出力するフィルタ手段と、を備え、
前記フィルタ手段は、今回のピーク信号に基づいて導出した物標が、自装置が搭載された自車両の前方に存在する前方車両である場合に、前記前回の確定したピーク信号に基づき前記物標の情報が導出された前記前方車両が停止した状態から発進した状態に変化したときは、前記フィルタ処理を実行せずに今回のピーク信号を今回の確定したピーク信号として出力することを特徴とするレーダ装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
<1.第1の実施の形態>
<1−1.構成>
まず、本発明の各構成について説明する。
図3は、車両CRの全体図である。車両CRは、本実施の形態の車両制御システム10に含まれるレーダ装置1と、車両制御装置2とを備えている。レーダ装置1は、車両前方のバンパー近傍に備えられている。このレーダ装置1は、一回の走査で所定の走査範囲を走査して、車両CRと物標との距離を導出する。導出する距離は、車両進行方向に対応する距離と、車両横方向(車幅方向)に対応する距離である。
【0024】
車両進行方向に対応する距離とは、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに到達するまでの距離(縦距離)である。また、車両横方向(車幅方向)に対応する距離とは、車両CRの進行方向に仮想的に延伸する基準軸BLに対して略直交する方向における車両CRに対する物標の距離(横距離)である。なお、横距離は車両CRに対する物標の角度の情報と縦距離とを用いた三角関数の演算を行うことで導出される。このように、レーダ装置1は、車両CRに対する物標の位置情報を導出する。さらに、レーダ装置1は、物標の速度や、車両CRの速度に対する物標の速度である相対速度も導出する。
【0025】
また、
図1のレーダ装置1は、その搭載位置を車両前方のバンパー近傍としているが、これに限定されない。例えば、車両CRの後方のバンパー近傍及び車両CRの側方のサイドミラー近傍等、後述する車両制御装置2の車両CRの制御目的に応じて物標を導出できる搭載位置であれば他の部分であってもよい。
【0026】
また、車両制御装置2は、車両CRの各装置を制御するECU(Electronic Control Unit)である。
【0027】
図4は、車両制御システム10のブロック図である。車両制御システム10は、レーダ装置1と、車両制御装置2とを備えている。レーダ装置1と車両制御装置2とは電気的に接続されており、レーダ装置1から車両制御装置2に対して位置情報や相対速度を含む物標情報が送信される。つまり、レーダ装置1は、車両CRに対する物標の縦距離、横距離及び相対速度の情報である物標情報を車両制御装置2に出力する。
【0028】
レーダ装置1は、信号生成部11、発振器12、送信アンテナ13、受信アンテナ14、ミキサ15、LPF(Low Pass Filter)16、AD(Analog to Digital)変換器17、及び信号処理部18を備えている。
【0029】
信号生成部11は、後述する送信制御部107の制御信号に基づいて、例えば三角波状に電圧が変化する変調信号を生成する。
【0030】
発振器12は、電圧で発振周波数を制御する電圧制御発振器である。発振器12は、信号生成部11で生成された変調信号に基づき所定周波数の信号(例えば、76.5GHz)を周波数変調し、この所定周波数(76.5GHz)を中心周波数とする周波数帯の送信信号として送信アンテナ13に出力する。
【0031】
送信アンテナ13は、送信信号に係る送信波を車両外部に出力するアンテナである。送信アンテナ13は、発振器12と接続され、発振器12から入力した送信信号に対応した送信波を連続的に車両外部に出力する。
【0032】
受信アンテナ14は、送信アンテナ13から連続的に送信された送信波が物体にて反射した際の反射波を受信する複数のアレーアンテナである。本実施の形態では、受信アンテナとして、4本の受信アンテナ14a(ch1)、14b(ch2)、14c(ch3)、及び14d(ch4)を備えている。なお、受信アンテナ14a〜14dのそれぞれのアンテナは等間隔に配置されている。
【0033】
ミキサ15は、各受信アンテナ14a〜14dに設けられており、受信信号と送信信号とを混合する。そして、ミキサ15は、受信信号と送信信号とを混合する際に、送信信号と受信信号との差の信号であるビート信号を生成し、LPF16に出力する。
【0034】
LPF16は、所定周波数より低い周波数の成分を減少させることなく、所定周波数より高い周波数の成分を減少させるフィルタである。なお、LPF16もミキサ15と同様に各受信アンテナ14a〜14dに設けられている。
【0035】
AD変換器17は、アナログ信号であるビート信号をデジタル信号に変換する。AD変換器17は、アナログ信号のビート信号を所定周期でサンプリングして、複数のサンプリングデータを導出する。そして、AD変換器17は、サンプリングされたデータを量子化することで、アナログ信号のビート信号をデジタル信号に変換して、デジタル信号のビート信号を信号処理部18に出力する。なお、AD変換器17もミキサ15と同様に各受信アンテナ14a〜14dに設けられている。
【0036】
信号処理部18は、CPU181、および、メモリ182を備えるコンピュータである。信号処理部18は、AD変換器17から出力されたデジタル信号のビート信号をFFT処理してFFTデータを取得し、FFTデータのビート信号の中から信号レベルの値が所定の閾値を超える信号をピーク信号として抽出する。そして、信号処理部18は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングして物標情報を導出する。
【0037】
メモリ182は、CPU181により実行される各種演算処理などの実行プログラムを記録する。また、メモリ182は、信号処理部18が導出した複数の物標情報を記録する。例えば、過去の処理と今回の処理とで導出された物標情報(物標の縦距離、横距離及び相対速度)を記録する。さらに、メモリ182は、FFT処理により取得されたFFTデータ182aを記録する。このFFTデータ182aには、今回の物標導出処理で取得したFFTデータの他に、過去の物標導出処理で取得したFFTデータも含まれる。
【0038】
送信制御部107は、信号処理部18と接続され、信号処理部18からの信号に基づき、変調信号を生成する信号生成部11に制御信号を出力する。
【0039】
車両制御装置2は、車両CRに設けられた各種装置の動作を制御するものである。車両制御装置2は、車速センサ40及びステアリングセンサ41などの車両CRに設けられた各種センサと電気的に接続され、これら各種センサから情報を取得する。また、車両制御装置2は、ブレーキ50及びスロットル51などの車両CRに設けられた各種装置とも電気的に接続されている。そして、車両制御装置2は、各種センサから取得した情報とレーダ装置1の信号処理部18から取得した物標情報とに基づいて、各種装置を動作させて車両CRの挙動を制御する。
【0040】
車両制御装置2による車両制御の例としては次のようなものがある。例えば、車両CRが自車線の前方を走行する前方車両に追従走行する場合に、車両制御装置2が、その前方車両に追従して走行する制御を行う。具体的には、車両制御装置2は、ブレーキ50及びスロットル51の少なくとも一方の装置を制御して、車両CRと前方車両との車間距離を所定の距離に確保した状態で車両CRを前方車両に追従走行させるACC(Adaptive Cruise Control)の制御を行う。
【0041】
また、他の例として、車両CRの障害物への衝突に備え、車両CRの乗員を保護する制御もある。具体的には、車両CRが障害物に衝突する危険性がある場合に、車両制御装置2は、車両CRの乗員に対して警報器を用いて警告したり、ブレーキ50を制御して車両CRの速度を低下させるPCS(Pre-Crash Safety System)の制御を行う。また、車両制御装置2は、シートベルトで乗員を座席に固定したり、ヘッドレストを固定して衝突時の衝撃による乗員へのダメージを軽減するPCSの制御を行う。
【0042】
<1−2.全体の処理>
次に、レーダ装置1が物標情報を導出する処理について説明する。
図5は、信号処理部18が行う物標情報の導出処理のフローチャートである。
【0043】
まず、信号処理部18は、送信波を生成する指示信号を送信制御部107に出力する(ステップS101)。そして、信号処理部18から指示信号が入力された送信制御部107により信号生成部11が制御され、送信信号TXに対応する送信波が生成される。生成された送信波は、車両外部に出力される。
【0044】
そして、送信波が物標に反射することによって到来する反射波を受信アンテナ14が受信し、反射波に対応する受信信号RXと送信信号TXとがミキサ15によりミキシングされ、送信信号と受信信号との差分の信号であるビート信号が生成される。そして、アナログ信号であるビート信号BSが、LPF16によりフィルタリングされ、AD変換器17によりデジタル信号に変換され、信号処理部18に入力される。
【0045】
ここで、ビート信号を生成する方法について具体的に説明する。
図6は、ビート信号を生成する方法を示す図である。
図6では、FM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)の信号処理方式を例に用いている。なお、本実施の形態では、FM−CWの方式を例に用いて説明するが、送信信号の周波数が上昇するUP区間と周波数が下降するDOWN区間といった複数の区間を組み合わせて物標を導出する方式であれば、FM−CWの方式に限定されない。
【0046】
図6中に示すTXは送信信号であり、RXは受信信号である。また、f
oは送信波の中心周波数であり、△Fは周波数偏移幅である。また、Tは車両CRと物標との電波の往復時間である。
【0047】
図6(a)は、FM−CW方式の送信信号TX及び受信信号RXの信号波形を示す図であり、縦軸は周波数[GHz]を示し、横軸は時間[msec]を示している。送信信号TXは、中心周波数をf
0(例えば、76.5GHz)として、所定周波数(例えば76.6GHz)まで上昇した後に所定周波数(例えば、76.4GHz)まで下降をするように200MHzの間で一定の変化を繰り返す。このように、送信信号TXは、所定周波数まで周波数が上昇する区間と、所定周波数まで周波数が下降する区間とがある。以降においては、周波数が上昇する区間を「UP区間」ともいい、周波数が下降する区間を「DOWN区間」ともいう。例えば、
図6(a)では、区間U1及びU2がUP区間となり、区間D1及びD2がDOWN区間となる。
【0048】
また、送信アンテナ13から送信された送信波が物体で反射して、受信アンテナ14がその反射波を受信すると、その反射波に対応する受信信号RXがミキサ15に入力される。この受信信号RXについても送信信号TXと同じように所定周波数まで周波数が上昇する区間と、所定周波数まで周波数が下降する区間とが存在する。
【0049】
なお、本実施の形態では、あるUP区間とそれに続くDOWN区間との組み合わせを送信信号TXの1周期としており、レーダ装置1は、この送信信号TXの1周期分に相当する送信波を車両外部に送信する。
図6(a)に示す例では、レーダ装置1は、送信期間t0〜t1のUP区間である区間U1と、送信期間t1〜t2のDOWN区間である区間D1とで送信波を出力する。そして、信号処理部18は、送信信号TXと受信信号RXとに基づいて、物標情報を導出するための信号処理を行う(t2〜t3の信号処理区間)。その後、レーダ装置1は、次の周期(送信期間t3〜t4のUP区間である区間U2と、送信期間t4〜t5のDOWN区間である区間D2)の送信波を出力し、信号処理部18が物標情報を導出するための信号処理を行う。そして、以降は同様の処理が繰り返される。
【0050】
なお、車両CRから物標までの距離に応じて、送信信号TXに比べて受信信号RXに時間的な遅れ(時間T)が生じる。さらに、車両CRの速度と物標の速度との間に速度差がある場合は、送信信号TXに対して受信信号RXにドップラーシフト分の差が生じる。
【0051】
図6(b)は、UP区間およびDOWN区間の送信信号TXと受信信号RXとの差分により生じるビート周波数を示す図であり、縦軸は周波数[kHz]を示し、横軸は時間[msec]を示している。例えば、区間U1ではビート周波数BF1が導出され、区間D1ではビート周波数BF2が導出される。このように各区間において、ビート周波数が導出される。
【0052】
図6(c)は、ビート周波数に対応するビート信号を示す図であり、縦軸は振幅[V]を示し、横軸は時間[msec]を示している。
図6(c)に示すように、ビート周波数に対応する信号として、アナログ信号のビート信号BSが生成される。当該ビート信号BSは、LPF16でフィルタリングされた後、AD変換器17によりデジタル信号に変換される。
【0053】
なお、
図6は、1つの反射点から受信した場合の受信信号RXに対応するビート信号BSを示している。これに対して、送信波が複数の反射点で反射し、受信アンテナ14が複数の反射波を受信した場合には、受信信号RXとして複数の反射波に対応する信号が検出される。この場合、ビート信号BSは、複数の受信信号RXと送信信号TXとのそれぞれの差分を合成したものとなる。
【0054】
図5に戻り、信号処理部18は、デジタル信号のビート信号に対してFFT処理を行う(ステップS102)。具体的には、信号処理部18は、UP区間及びDOWN区間の各々のビート信号に対してFFT処理を行う。これにより、信号処理部18は、UP区間及びDOWN区間の各々で、ビート信号に関する周波数ごとの信号レベルの値と位相情報とを有するFFTデータを取得する。なお、FFTデータは、各受信アンテナ14a〜14d毎に取得される。
【0055】
次に、信号処理部18は、FFTデータのうち信号レベルの値が所定の閾値を超えるビート信号をピーク信号として抽出する(ステップS103)。なお、この処理では、UP区間とDOWN区間との各区間のピーク信号が抽出され、ピーク信号数が確定する。
【0056】
そして、信号処理部18は、UP区間およびDOWN区間のそれぞれの区間において、ピーク信号に基づいて方位演算を行う(ステップS104)。具体的には、信号処理部18は、所定の方位演算アルゴリズムによって物標の方位(角度)を導出する。例えば、方位演算アルゴリズムは、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)である。信号処理部18は、各受信アンテナ14a〜14dにおける受信信号の位相情報から相関行列の固有値及び固有ベクトル等が演算されて、UP区間のピーク信号に対応する角度θupと、DOWN区間のピーク信号に対応する角度θdnとが導出される。そして、UP区間及びDOWN区間の各ピーク信号がペアリングされた場合に(1)式により物標の角度θmが導出される。
【0057】
【数1】
なお、ピーク信号の周波数の情報は、物標の距離や相対速度の情報に対応しているが、1つのピーク信号の周波数に複数の物標の情報が含まれているときがある。例えば、車両CRに対する物標の位置情報において、距離が同じ値で角度が異なる値の複数の物標の情報が、同じ周波数のピーク信号に含まれている場合がある。このような場合、異なる角度からの反射波の位相情報はそれぞれ異なるため、信号処理部18は、各反射波の位相情報に基づいて1つのピーク信号に対して異なる角度に存在する複数の物標情報を導出する。
【0058】
次に、信号処理部18は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングするペアリング処理を行う(ステップS105)。このペアリング処理は、例えば、マハラノビス距離を用いた演算により行われる。具体的には、レーダ装置1を車両CRに搭載する前に、予め試験的にUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングする。そして、その中で正しい組み合わせでペアリングされた正常ペアデータと、誤った組み合わせでペアリングされたミスペアデータとの各データを複数取得する。そして、各正常ペアデータにおけるUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との「信号レベルの値の差」、「角度の値の差」及び「角度スペクトラムの信号レベルの値の差」の3つのパラメータ値を用いて、複数の正常ペアデータの3つのパラメータごとの平均値を導出してメモリ182に記憶する。
【0059】
そして、レーダ装置1を車両CRに搭載した後に、信号処理部18が物標情報を導出する際には、今回処理で取得されたピーク信号のうちUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とのすべての組み合わせについての3つのパラメータ値と、上記で導出した3つのパラメータごとの平均値とを用いて以下に示す(2)式によりマハラノビス距離を導出する。
【0060】
【数2】
信号処理部18は、マハラノビス距離が最小の値となる今回処理のペアデータを正常ペアデータとして導出する。なお、マハラノビス距離とは、平均がμ=(μ1, μ2, μ3)Tで、共分散行列がΣであるような多変数ベクトルx=(x1, x2, x3)で表される一群の値に対するものであり(2)式により導出される。μ1, μ2, μ3は正常ペアデータの3つのパラメータの値を示し、x1, x2, x3は今回処理のペアデータの3つのパラメータの値を示す。
【0061】
そして、信号処理部18は、このペアリング処理において正常ペアデータのパラメータの値と以下の(3)式及び(4)式とを用いて、正常ペアデータの縦距離と相対距離とを導出する。なお、式中のRは縦距離であり、fupはUP区間のピーク信号に対応する周波数であり、fdnはDOWN区間のピーク信号に対応する周波数であり、cは光速(電波の速度)である。また、式中の△Fは周波数偏移幅であり、fmは変調波の繰り返し周波数であり、Vは相対速度である。
【0063】
【数4】
また、信号処理部18は、縦距離と上述の(1)式で導出した角度θmとの情報から、三角関数を用いた演算を行い、正常ペアデータの横距離を導出する。
【0064】
次に、信号処理部18は、今回の物標導出処理によりペアリングされた今回ペアデータと、前回の処理によって確定された前回ペアデータとの間に時間的に連続する関係があるか否かの連続性判定処理を行う(ステップS106)。ここで、両者に時間的に連続する関係がある(連続性がある)場合とは、例えば、前回ペアデータに基づいて今回ペアデータを予測した予測ペアデータを生成し、今回ペアデータと予測ペアデータとの縦距離、横距離及び相対速度の差の値が所定値以内の場合である。連続性がある場合、今回処理により導出された物標と、過去処理により導出された物標とが同一物標であると判定される。なお、信号処理部18は、所定値以内に複数の今回ペアデータが存在する場合、最も予測ペアデータとの差の値が小さい今回ペアデータを前回ペアデータと時間的に連続する関係を有するものと判定することができる。
【0065】
また、信号処理部18は、今回ペアデータと予測ペアデータとの縦距離、横距離及び相対速度の差の値が所定値以内ではない場合には、今回ペアデータと前回ペアデータとは時間的に連続する関係がない(連続性がない)と判定する。そして、このように連続性がないと判定されたペアデータは今回の物標導出処理において初めて導出されたデータ(新規ペアデータ)となる。なお、信号処理部18は、連続性判定において、所定回数連続して連続性があると判定した場合(すなわち、同一物標であると判定した場合)は、検出した物標を真の物標として確定する処理も行う。
【0066】
次に、信号処理部18は、今回ペアデータと前回ペアデータとに時間的に連続する関係が存在する場合は、今回ペアデータと予測ペアデータとの間で縦距離、相対速度、横距離及び信号レベルの値のフィルタ処理を行う(ステップS107)。信号処理部18は、フィルタ処理されたペアデータ(過去対応ペアデータ)を今回処理の物標情報として導出する。
【0067】
例えば、両者に時間的に連続する関係がある場合に、信号処理部18は、横距離について予測ペアデータの横距離に0.75の値の重み付けを行い、今回ペアデータの横距離に0.25の値の重み付けを行って、両方の値を足し合わせたものを今回の物標導出処理の過去対応ペアデータの横距離として導出する。また、縦距離、相対速度及び信号レベルの値についても同様にフィルタ処理を行う。そして、信号処理部18は、導出した過去対応ペアデータを今回の物標情報として確定する。
【0068】
ただし、本実施の形態においては、前方車両の状態(前方車両が停止状態から発進状態に変化したか否か)に応じて、フィルタ処理の実行の可否を変えるようになっている。すなわち、今回ペアデータと前回ペアデータとが時間的に連続する関係がある場合であっても、停止中の前方車両の発進時には、フィルタ処理を実行せずに今回ペアデータを今回の物標情報として確定する。これらフィルタ処理の詳細については後述する。
【0069】
次に、信号処理部18は、複数の物標情報が一つの物体に対応する物標情報である場合にそれらをまとめる結合処理を行う(ステップS108)。これは、例えば、レーダ装置1の送信アンテナ13から送信波が射出され、その送信波が前方車両にて反射した場合、受信アンテナ14が受信する反射波は複数存在する。つまり、同一物体における複数の反射点からの反射波が受信アンテナ14に到来する。信号処理部18は、それぞれの反射波に基づいて物標情報を導出するため、結果として位置情報の異なる物標情報が複数導出されることになる。しかしながら、もともとは一つの車両の物標情報なので、各物標情報を一つにまとめて同一物体の物標情報として取り扱うこととしている。そのため、複数の物標情報の各相対速度が略同一で、各物標情報の縦距離および横距離が所定範囲内であれば、信号処理部18は複数の物標情報を同一物体における物標情報とみなし、当該複数の物標情報を一つの物標に対応する物標情報にまとめる結合処理を行う。
【0070】
そして、信号処理部18は、ステップS108の処理で結合処理された物標情報から車両制御装置2に出力する優先順位の高い物標情報を車両制御装置2に出力する(ステップS109)。
【0071】
<1−3.フィルタ処理>
次に、本実施の形態に係るフィルタ処理(ステップS107)の詳細について説明する。
図7は、フィルタ処理を示すフローチャートである。本実施の形態に係るフィルタ処理は、自車両の前方に存在する前方車両の状態に応じてフィルタ処理の実行の可否を変えるものである。
【0072】
今回ペアデータと前回ペアデータとの間に連続性がある場合には、まず、信号処理部18は、今回ペアデータに係る物標が前方停止車両であるか否かを判断する(ステップS201)。前方停止車両とは、自車両の前方に存在する車両であって、停止状態から発進状態に変化した車両である。したがって、前方停止車両であるか否かの判断は、自車両と同じ車線に存在する1つ前の車両であるか否かと、その車両が所定の速度で走行しているか否かとを判断することにより行われる。例えば、信号処理部18は、前方車両の縦距離が、停止状態から発進状態に移行する場合の距離に対応する第1の所定距離以下であるか否かや、横距離が、自車両と同一レーンに位置することを示す所定距離範囲内であるか否かなどを判断する。また、信号処理部18は、前方車両の速度が、停止状態から発進状態に移行する場合の速度に対応する所定速度範囲内であるか否かも判断する。
【0073】
そして、今回ペアデータが前方停止車両に係るものである場合には(ステップS201でYes)、信号処理部18は、実測値が真値であるか否かを判断する(ステップS202)。実測値とは、今回ペアデータから導出された信号レベルの値などの物標に関する情報である。また、実測値が真値である場合とは、導出した値が物標の値として正確である可能性が高い場合をいう。本実施の形態では、信号処理部18は、今回ペアデータから導出した角度に関するピーク信号レベルが閾値以上である場合に、今回ペアデータが真値であると判断する。すなわち、この場合、物標情報の正確性が高いと判断される。この閾値は、物標情報の信頼性が高いとされる値を適宜設定すればよい。
【0074】
実測値が真値であると判断された場合には(ステップS202でYes)、信号処理部18は、前方車両が発進を開始したと判断し、フィルタ処理を行わず実測値を出力する(ステップS203)。すなわち、信号処理部18は、今回ペアデータを今回の確定したペアデータとして出力し、後の処理である結合処理(ステップS108)に使用する。
【0075】
一方、今回ペアデータに係る物標が前方停止車両でない場合(ステップS201でNo)や、実測値が真値でない場合(ステップS202でNo)には、信号処理部18は、通常のフィルタ処理を実行する(ステップS204)。すなわち、信号処理部18は、今回ペアデータと予測ペアデータとをフィルタ処理して今回の過去対応ペアデータを導出する。そして、信号処理部18は、フィルタ処理した後の値(今回の過去対応ペアデータ)を出力する(ステップS205)。つまり、信号処理部18は、過去対応ペアデータを今回の確定したペアデータとして出力し、後の処理である結合処理(ステップS108)に使用する。
【0076】
ここで、本実施の形態におけるフィルタ処理について図を用いて説明する。
図8及び
図9は、前方車両の今回のペアデータを確定する処理を示す図であり、前方車両が停止状態から発進したときの様子を示す。
図8及び
図9中の「確定値」は確定したペアデータを示し、「予測値」は今回のペアデータを予測した予測ペアデータを示し、「実測値」は今回のペアデータを示している。
図8及び
図9では、これら各ペアデータから導出された位置を模式的に表している。また、各値に付された「t」は、導出処理のタイミングを示す時間を表している。
【0077】
図8に示すように、前回の導出処理の際に前方車両が停止した状態である場合には、今回の予測値(t)は、確定値(t−1)と同じ位置になる。そして、信号処理部18は、予測値(t)を中心とした予測範囲内に今回の実測値(t)が含まれているか否かを判断し、含まれている場合には確定値(t−1)と実測値(t)とは時間的に連続する関係があると判断する。
図8では、前方車両が停止状態から発進した状態を示しており、実測値(t)は予測値(t)と離れた位置になっているものの、予測範囲内に含まれるため時間的に連続する関係があると判断される。このとき、実測値(t)が前方停止車両であると判断するための前記条件(縦距離、横距離、速度)を満たす場合、次に、信号処理部18は、実測値(t)が真値であるか否かを判断し、真値である場合には、通常のフィルタ処理を実行せずに実測値(t)を出力する。すなわち、信号処理部18は、物標が前方停止車両であると判断し、実測値(t)を今回の確定値(t)とする。
【0078】
そして、
図9に示すように、次回の導出処理では、確定値(t)に基づいて導出した予測値(t+1)を中心として予測範囲が設定される。このため、前方車両がさらに先に進んだ場合であっても、実測値(t+1)が予測範囲内に入り、時間的に連続した関係を継続させることができる。また、この場合においても、前方の車両が前方停止車両である場合には、信号処理部18は、実測値(t+1)を確定値(t+1)として出力する。
【0079】
図8に示すように、前方の車両が停止した状態から発進した場合には、予測値(t)と実測値(t)とが大きく異なるため、従来のフィルタ処理を実行すると確定値(t)が本来の値と異なる値となってしまう。このため、フィルタ処理を実行せず、実測値(t)を確定値(t)とすることで連続性を保つことが可能となり、前方車両を消失させてしまうことを回避できる。
【0080】
ここで、本実施の形態におけるフィルタ処理の内容についてより具体的に説明する。
図10は、本実施の形態におけるフィルタ処理を示すフローチャートである。まず、信号処理部18は、対象とする物標の縦距離が10m以下であるか否かを判断する(ステップS301)。これは、その物標が停止状態から発進状態に移行する場合の距離に対応する第1の所定距離以下に存在しているかを確認する処理である。縦距離は上述した方法を用いて今回ペアデータから導出することができる。
【0081】
なお、縦距離とは、上述したように、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに到達するまでの距離としているが、車両CRの進行方向に仮想的に延伸する基準軸BLの方向における車両CRに対する物標の距離としてもよい。この場合、横距離は車両CRに対する物標の角度の情報と縦距離とを用いた三角関数の演算を行うことで導出される。
【0082】
そして、縦距離が10m以下である場合には(ステップS301でYes)、信号処理部18は、対象とする物標の横距離が±0.9m以下であるか否かを判断する(ステップS302)。これは、その物標が自車両と同一レーンに位置することを示す所定距離範囲内に存在しているかを確認する処理である。横距離も、上述した方法を用いて今回ペアデータから導出することができる。
【0083】
そして、横距離が±0.9m以下である場合には(ステップS302でYes)、信号処理部18は、対象とする物標の速度が1km/h以上20km/h以下であるか否かを判断する(ステップS303)。これは、その物標が停止状態から発進状態に移行する場合の速度に対応する所定速度範囲内の速度で走行しているかを判断する処理である。物標の速度も、今回ペアデータから導出することができる。
【0084】
これらステップS301〜ステップS303の処理は、対象とする物標が前方停止車両であるか否かを判断する処理である。すなわち、縦距離が10m以下であり、横距離が±0.9m以下であり、かつ、速度が1km/h以上20km/h以下である場合には、対象とする物標は前方停止車両と判断される。なお、本実施の形態では、縦距離及び横距離の条件を各々10m以下及び±0.9m以下としているが、これに限定されるものではない。対象とする物標が前方車両であることを判別可能な距離であればよく、適宜設定可能である。また、速度を1km/h以上20km/h以下としているが、これに限定されるものではない。対象とする物標が停止状態から発進状態に移行したことを判別可能な速度であればよく、適宜設定可能である。また、速度条件として「1km/h以上」の条件を取り除き、「20km/h以下」としてもよい。この場合、前方車両が停止中の場合も含まれることになる。
【0085】
そして、速度が1km/h以上20km/h以下である場合には(ステップS303でYes)、信号処理部18は、角度に関するピーク信号のレベルが閾値以上であるか否かを判断する(ステップS304)。これは、今回ペアデータが真値であるか否かを判断する処理である。信号レベルが閾値以上である場合には(ステップS304でYes)、その角度に前方停止車両が存在する確実性が高く、今回ペアデータが真値である可能性が高いことになる。このため、信号処理部18は、実測値(すなわち、今回ペアデータの値)を今回のペアデータとして確定し、出力する(ステップS305)。
【0086】
一方、ステップS301〜ステップS304の各処理において、いずれかの条件を満たさない場合には、信号処理部18は、通常のフィルタ処理を実行する(ステップS306)。すなわち、今回ペアデータと予測ペアデータとをフィルタリングする。これは、各処理のいずれかを満たさない場合には、対象とする物標が前方停止車両でないか又は今回ペアデータの値が真値でない可能性が高いためである。
【0087】
そして、信号処理部18は、フィルタ処理で導出された値(過去対応ペアデータ)を今回のペアデータとして確定し、出力する(ステップS307)。
【0088】
このように、前方車両が停止した状態から発進した状態に変化した場合であって、今回ペアデータの値が真値であると判断された場合には、信号処理部18は、フィルタ処理を実行せずに実際に導出された今回ペアデータを出力する。これにより、予測値と実測値とが離れてしまうことで時間的な連続性を失い、前方車両を消失してしまうことを回避することが可能になる。
【0089】
<2.第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、前方停止車両か否かの判断に速度を用いた構成としていたが、速度ではなく相対速度を用いた構成としてもよい。このため、第2の実施の形態では、相対速度を用いて前方停止車両か否かを判断する構成について説明する。なお、本実施の形態においても、前方停止車両とは、停止状態から発進状態に変化した前方車両のことをいう。
【0090】
<2−1.構成及び全体の処理>
第2の実施の形態に係る車両制御システムは、
図4に示す車両制御システム10と同様の構成である。また、レーダ装置1が物標情報を導出する処理についても、フィルタ処理(ステップS107)以外の処理は第1の実施の形態で説明した処理と同様である。このため、以下では、フィルタ処理について第1の実施の形態と相違する点を中心に説明する。
【0091】
<2−2.フィルタ処理>
第2の実施の形態に係るフィルタ処理の詳細について説明する。
図11は、第2の実施の形態に係るフィルタ処理(ステップS107)を示すフローチャートである。
【0092】
今回ペアデータと前回ペアデータとの間に連続性がある場合には、まず、信号処理部18は、前方停止車両フラグが1であるか(セットされているか)否かを判断する(ステップS401)。前方停止車両フラグとは、導出された物標が前方停止車両であるか否かを示すフラグである。本実施の形態では、物標が前方停止車両と判断されると、その後の導出処理では所定回数はフィルタ処理を実行せずに実測値を出力するようになっている。このため、一旦前方停止車両と判断されると、所定回数の導出処理が終了するまではフラグは1のままである。したがって、信号処理部18は、前方停止車両フラグが1である場合には(ステップS401でYes)、前方停止車両であるか否かを判断することなく実測値を出力する処理を実行する(ステップS404)。
【0093】
一方、前方停止車両フラグが1でない場合(ステップS401でNo)、信号処理部18は、対象とする物標が前方停止車両であるか否かを判断する(ステップS402)。なお、前方停止車両フラグが1でない場合とはフラグが0の場合(クリアされている場合)である。本実施の形態では、物標が前方停止車両であるか否かの判断は、物標が自車両の前方に存在する車両であるか否かの判断と、物標の自車両に対する相対速度とに基づいて行われる。
【0094】
例えば、信号処理部18は、前方車両の縦距離が、停止状態から発進状態に移行する場合の距離に対応する第1の所定距離以下であるか否かや、横距離が、自車両と同一レーンに位置することを示す所定距離範囲内であるか否かなどを判断する。また、信号処理部18は、前方車両の相対速度が、停止状態から発進状態に移行する場合の相対速度の変化に対応しているか否かも判断する。前方停止車両であるか否かの判断の詳細は後述する。
【0095】
前方停止車両であると判断された場合には(ステップS402でYes)、信号処理部18は、実測値が真値であるか否かを判断する(ステップS403)。この実測値が真値であるか否かの判断は、上述したステップS202と同様にして行うことができる。
【0096】
実測値が真値あると判断された場合には(ステップS403でYes)、信号処理部18は、前方停止車両フラグを1にする(ステップS404)。これは、次回以降の所定回数の導出処理において、対象とする物標が前方停止車両であるか否かに関わらず実測値を出力するようにするためである。
【0097】
次に、信号処理部18は、実測値を出力する(ステップS405)。すなわち、信号処理部18は、今回ペアデータを今回の確定したペアデータとして出力し、後の処理である結合処理(ステップS108)に使用する。
【0098】
そして、信号処理部18は、実測値の出力が所定回数終了したか否かを判断する(ステップS406)。これは、物標が前方停止車両である場合には予測値と実測値とが離れてしまうため、フィルタ処理することなく実測値を出力することとしているが、停止車両の発進時等では、その後の数回は同様の状況が発生する可能性があるため、本実施の形態では、その後の所定回数は実測値を出力することとしている。所定回数は、前方の車両が前方停止車両でなくなる程度の回数であればよく、任意に設定可能である。
【0099】
所定回数が終了した場合には(ステップS406でYes)、信号処理部18は、前方停止車両フラグを0にする。そして、次の処理(ステップS108)に進む。一方、所定回数が終了していない場合には(ステップS406でNo)、前方停止車両フラグは1を保持したまま次の処理(ステップS108)に進む。
【0100】
なお、前方停止車両でない場合(ステップS402でNo)や、実測値が真値でない場合(ステップS403でNo)には、信号処理部18は、通常のフィルタ処理を実行する(ステップS408)。すなわち、信号処理部18は、今回ペアデータと予測ペアデータとをフィルタ処理して今回の過去対応ペアデータを導出する。そして、信号処理部18は、フィルタ処理した後の値(今回の過去対応ペアデータ)を出力する(ステップS409)。つまり、信号処理部18は、過去対応ペアデータを今回の確定したペアデータとして出力し、後の処理である結合処理(ステップS108)に使用する。
【0101】
ここで、本実施の形態におけるフィルタ処理の内容についてより具体的に説明する。
図12は、本実施の形態におけるフィルタ処理を示すフローチャートである。今回ペアデータと前回ペアデータとの間に連続性がある場合には、まず、信号処理部18は、前方停止車両フラグが1であるか否かを判断する(ステップS501)。前方停止車両フラグが1である場合には(ステップS501でYes)、信号処理部18は、実測値を出力する(ステップS507)。
【0102】
一方、前方停止車両フラグが1でない場合には(ステップS501でNo)、信号処理部18は、対象とする物標の縦距離が10m以下であるか否かを判断する(ステップS502)。これは、その物標が停止状態から発進状態に移行する場合の距離に対応する第1の所定距離以下に存在しているかを確認する処理である。縦距離の導出方法等は上述したステップS301と同様である。
【0103】
そして、縦距離が10m以下である場合には(ステップS502でYes)、信号処理部18は、対象とする物標の横距離が±0.9m以下であるか否かを判断する(ステップS503)。これは、その物標が自車両と同一レーンに位置することを示す所定距離範囲内に存在しているか否かを確認する処理である。横距離も、上述した方法を用いて導出することができる。
【0104】
そして、横距離が±0.9m以下である場合には(ステップS503でYes)、信号処理部18は、対象とする物標の相対側速度が0km/hから0km/hでない状態に変化したか否かを判断する(ステップS504)。これは、その物標が、停止状態から発進した状態に変化したか否かを判断する処理である。この条件に該当する場合とは、例えば、自車両と前方車両とが停止した状態から、前方車両が発進した状態に変化した場合である。したがって、信号処理部18は、前回ペアデータから導出された相対速度が0km/hであり、かつ、今回ペアデータから導出された相対速度が0km/hでない場合に、条件を満たしていると判断する。なお、相対速度は、上述した方法を用いて導出することができる。
【0105】
これらステップS502〜ステップS504の処理は、対象とする物標が前方停止車両であるか否かを判断する処理である。すなわち、縦距離が10m以下であり、横距離が±0.9m以下であり、かつ、相対速度が0km/hから0km/hでない状態に変化した場合には、対象とする物標は前方停止車両と判断される。なお、本実施の形態においても、縦距離及び横距離の条件を各々10m以下及び±0.9m以下としているが、これに限定されるものではない。対象とする物標が前方車両であることを判別可能な距離であればよく、適宜設定可能である。
【0106】
そして、相対速度が0km/hから0km/hでない状態に変化した場合には(ステップS504でYes)、信号処理部18は、角度に関するピーク信号のレベルが閾値以上であるか否かを判断する(ステップS505)。これは、今回ペアデータが真値であるか否かを判断する処理である。
【0107】
信号レベルが閾値以上である場合には(ステップS505でYes)、信号処理部18は、前方停止車両フラグを1にセットする(ステップS506)。その後、信号処理部18は、実測値を出力し(ステップS507)、所定回数終了したか否かを判断し(ステップS508)、前方停止車両フラグを0にクリアする処理(ステップS509)を実行する。これらステップS506〜ステップS509は、上述したステップS404〜ステップS407と同様の処理である。
【0108】
また、ステップS502〜ステップS505の各処理において、いずれかの条件を満たさない場合には、信号処理部18は、通常のフィルタ処理を実行し(ステップS510)、フィルタ処理された値を出力する(ステップS511)。これら各処理は、上述したステップS408及びステップS409と同様の処理である。
【0109】
このように、前方車両が停止した状態から発進した状態に変化した場合であって、今回ペアデータの値が真値であると判断された場合には、信号処理部18は、フィルタ処理を実行せずに実際に導出された今回ペアデータを出力する。これにより、予測値と実測値とが離れてしまうことで時間的な連続性を失い、前方車両を消失してしまうことを回避することが可能になる。
【0110】
<3.第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、自車両及び前方車両が共に停止した状態から、前方車両が発進した状態に変化した場合について、相対速度を用いて判断していた。第3の実施の形態では、自車両が前方車両に追従走行している状態から、前方車両が加速又は減速した状態に変化した場合について、相対速度を用いて判断する構成について説明する。このため、本実施の形態における前方停止車両とは、追従走行状態から加速又は減速した前方車両のことをいう。
【0111】
<3−1.構成及び全体の処理>
第3の実施の形態に係る車両制御システムは、
図4に示す車両制御システム10と同様の構成である。また、レーダ装置1が物標情報を導出する処理についても、フィルタ処理(ステップS107)以外の処理は第1の実施の形態で説明した処理と同様である。さらに、フィルタ処理についても、第2の実施の形態とほぼ同様の処理である。このため、以下では、フィルタ処理について第2の実施の形態と相違する点を中心に説明する。
【0112】
<3−2.フィルタ処理>
第3の実施の形態に係るフィルタ処理の詳細について説明する。
図13は、第3の実施の形態に係るフィルタ処理(ステップS107)を示すフローチャートである。
【0113】
図13に示すフローチャートの各処理ステップS601〜ステップS611のうち、第2の実施の形態で説明した
図12に示すフローチャートの各処理ステップS501〜ステップS511とは、ステップS602及びステップS604が異なるのみで他のステップSは同じ処理である。したがって、ステップS602及びステップS604について説明する。
【0114】
前方停止車両フラグが1でない場合(ステップS601でNo)、信号処理部18は、対象とする物標の縦距離が100m以下であるか否かを判断する(ステップS602)。これは、前方車両が通常走行中であることを示す第2の所定距離以下に存在することを確認する処理である。前方車両が通常走行中であって、自車両が前方車両に追従走行している場合には、通常、一定の車間距離を確保しながら走行している場合が多く、そのような前方車両の存在をも確認できるような距離を条件としている。したがって、このような条件であれば100mに限定されることはない。なお、縦距離の導出方法等は上述したステップS502と同様である。
【0115】
そして、縦距離が100m以下である場合には(ステップS602でYes)、信号処理部18は、対象とする物標の横距離が±0.9m以下であるか否かを判断し(ステップS603)、±0.9m以下である場合には、対象とする物標の相対速度が0km/hから0km/hでない状態に変化したか否かを判断する(ステップS604)。これは、その物標が自車両とほぼ同じ速度で走行していた状態から、加速又は減速した状態に変化したか否かを判断する処理である。したがって、信号処理部18は、前回ペアデータから導出された相対速度が0km/hであり、かつ、今回ペアデータから導出された相対速度が0km/hでない場合に、条件を満たしていると判断する。相対速度は、上述した方法を用いて導出することができる。
【0116】
なお、自車両が前方車両に追従走行している際は、相対速度は厳密に0km/hを維持し続けているのではなく、ある程度の範囲内を変動しながら走行している場合が多い。このため、本実施の形態では、相対速度が0km/hから0km/hでない状態に変化する場合とは、相対速度が略0km/hから略0km/hでない状態に変化する場合も含む。ここで、略0km/hとは、追従走行していると判別できる程度の幅を持った相対速度である。例えば、−3km/h〜+3km/hや、−5km/h〜+5km/hとすることができるが、これに限定されるものではなく任意に設定可能である。したがって、相対速度がこれらの範囲内である場合には「相対速度が0km/hの状態」であり、これらの範囲を超える場合には「相対速度が0km/hでない状態」であるといえる。
【0117】
第2の実施の形態と同様に、これらステップS602〜ステップS604の処理は、対象とする物標が前方停止車両であるか否かを判断する処理である。そして、相対速度が0km/hから0km/hでない状態に変化した場合には(ステップS604でYes)、信号処理部18は、角度に関するピーク信号のレベルが閾値以上であるか否かを判断し(ステップS605)、以降は第2の実施の形態と同様の処理を実行する。
【0118】
このように、自車両が前方車両に追従走行している際に、前方車両が加速又は減速した状況においても、今回ペアデータの値が真値であると判断された場合には、信号処理部18は、フィルタ処理を実行せずに実際に導出された今回ペアデータを出力する。これにより、予測値と実測値とが離れてしまうことで時間的な連続性を失い、前方車両を消失してしまうことを回避することが可能になる。
【0119】
<4.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。上記実施の形態及び以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
【0120】
上記第2及び第3の実施の形態では、停止中の前方車両が発進した際のフィルタ処理と、追従走行している前方車両が加速又は減速した際のフィルタ処理について分けて説明したが、一連のフィルタ処理の中でこれら両方を実行してもよい。
【0121】
例えば、前方停止車両フラグが1でない場合に、信号処理部18は、前回の処理において導出された前方車両の速度が0km/hであるか否かを判断する処理を実行する。そして、前方車両の前回の速度が0km/hである場合には、前方車両が停止している状態であるため、信号処理部18は、ステップS502以降の処理を実行する。一方、前方車両の前回の速度が0km/hでない場合には、前方車両が走行している状態であるため、信号処理部18は、ステップS602以降の処理を実行する。
【0122】
これにより、前方車両の走行状態に応じて、フィルタ処理の実行の可否を判断することができ、相対速度が0km/hから0km/hでない状態に変化した場合に前方車両を消失してしまうことを回避することができる。
【0123】
また、上記各実施の形態では、プログラムに従ったCPUの演算処理によってソフトウェア的に各種の機能が実現されると説明したが、これら機能のうちの一部は電気的なハードウェア回路により実現されてもよい。また逆に、ハードウェア回路によって実現されるとした機能のうちの一部は、ソフトウェア的に実現されてもよい。