特許第6231823号(P6231823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231823
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】燃料電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20171106BHJP
   H01M 8/0271 20160101ALI20171106BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20171106BHJP
【FI】
   H01M8/02 E
   H01M8/02 S
   !H01M8/10
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-181371(P2013-181371)
(22)【出願日】2013年9月2日
(65)【公開番号】特開2015-50056(P2015-50056A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】福水 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】村上 顕一
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−225495(JP,A)
【文献】 特開2012−199049(JP,A)
【文献】 特開2008−159320(JP,A)
【文献】 特表2007−503688(JP,A)
【文献】 特開2007−042347(JP,A)
【文献】 特開2013−114932(JP,A)
【文献】 特開2003−017092(JP,A)
【文献】 特開2007−056064(JP,A)
【文献】 特開2012−079621(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0298302(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両面に、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられる電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池であって、
前記ガス拡散層は、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成した多孔質シートで構成されるとともに、
前記多孔質シートの外周部には、プレス加工により中央部よりも肉薄な薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記固体高分子電解質膜に当接し、前記薄肉部の前記セパレータ側には、ガス不透過シートが接合されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
固体高分子電解質膜の両面に、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられる電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池であって、
前記ガス拡散層は、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成した多孔質シートで構成されるとともに、
前記多孔質シートの外周部には、プレス加工により中央部よりも肉薄な薄肉部が形成され、前記薄肉部の前記セパレータ側及び前記固体高分子電解質膜側には、それぞれガス不透過シートが接合されることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
固体高分子電解質膜の両面に、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられる電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池の製造方法であって、
カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成することにより、前記ガス拡散層である多孔質シートを形成する工程と、
前記多孔質シートの外周部に、中央部よりも肉薄な薄肉部を設けるとともに、前記薄肉部にガス不透過シートを接合する工程と、
を有し、
前記薄肉部は、前記固体高分子電解質膜に当接し、前記薄肉部の前記セパレータ側には、ガス不透過シートが接合されることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項4】
固体高分子電解質膜の両面に、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられる電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池の製造方法であって、
カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成することにより、前記ガス拡散層である多孔質シートを形成する工程と、
前記多孔質シートの外周部に、中央部よりも肉薄な薄肉部を設けるとともに、前記薄肉部にガス不透過シートを接合する工程と、
を有し、
前記薄肉部の前記セパレータ側及び前記固体高分子電解質膜側には、それぞれ前記ガス不透過シートが接合されることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の製造方法において、前記多孔質シートの外周部に前記ガス不透過シートを配置した状態で、プレス処理を施すことにより、前記多孔質シートの外周部に前記薄肉部を設け、且つ、前記ガス不透過シートをプレス接合することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4記載の製造方法において、前記多孔質シートの外周部にプレス処理を施すことにより、前記薄肉部を設ける工程と、
前記薄肉部に前記ガス不透過シートを接合する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜の両面に、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられる電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒(電極触媒層)と多孔質カーボン(ガス拡散層)からなるアノード電極及びカソード電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を備えている。電解質膜・電極構造体は、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持されることにより、発電セルを構成している。通常、燃料電池では、発電セルを所定の数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
電解質膜・電極構造体では、燃料ガスや酸化剤ガスが透過し易く、両極間で前記燃料ガスと前記酸化剤ガスとが混合すること(所謂、クロスリーク)を抑制する必要がある。このため、例えば、特許文献1に開示されている電極−電解質膜接合体が知られている。
【0004】
この電極−電解質膜接合体は、高分子電解質膜の一方面又は両面上に触媒層及びガスバリア性樹脂フィルムが同一の膜厚で形成され、さらに触媒層及びガスバリア性樹脂フィルム上にガス拡散基材が形成されている。そして、ガスバリア性樹脂フィルムは、触媒層の外周部に形成されており、前記ガスバリア性樹脂フィルムは、熱接着性樹脂フィルムを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5130690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の燃料電池では、触媒層の厚さが相当に薄肉状に構成される場合が多い。このため、触媒層を周回して高分子電解質膜とガス拡散基材との間に介装されるガスバリア性樹脂フィルムは、相当に薄肉状に形成される必要がある。従って、薄肉状のガスバリア性樹脂フィルムでは、所望のガス不透過機能を得ることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単な構成及び工程で、ガス拡散層の外周部からのガス透過を可及的に抑制することが可能な燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、固体高分子電解質膜の両面に、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられる電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池及びその製造方法に関するものである。
【0009】
この燃料電池では、ガス拡散層は、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成した多孔質シートで構成されている。そして、多孔質シートの外周部には、プレス加工により中央部よりも肉薄な薄肉部が形成され、前記薄肉部は、前記固体高分子電解質膜に当接し、前記薄肉部の前記セパレータ側には、ガス不透過シートが接合されている。
【0010】
また、本発明は、固体高分子電解質膜の両面に、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられる電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池であって、前記ガス拡散層は、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成した多孔質シートで構成されるとともに、前記多孔質シートの外周部には、プレス加工により中央部よりも肉薄な薄肉部が形成され、前記薄肉部の前記セパレータ側及び前記固体高分子電解質膜側には、それぞれガス不透過シートが接合される。
【0011】
さらに、この製造方法は、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成することにより、ガス拡散層である多孔質シートを形成する工程を有している。この製造方法は、次いで、多孔質シートの外周部に、中央部よりも肉薄な薄肉部を設けるとともに、前記薄肉部にガス不透過シートを接合する工程を有している。前記薄肉部は、前記固体高分子電解質膜に当接し、前記薄肉部の前記セパレータ側には、ガス不透過シートが接合される。また、本発明の製造方法は、固体高分子電解質膜の両面に、電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられる電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池の製造方法であって、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成することにより、前記ガス拡散層である多孔質シートを形成する工程と、前記多孔質シートの外周部に、中央部よりも肉薄な薄肉部を設けるとともに、前記薄肉部にガス不透過シートを接合する工程と、を有し、前記薄肉部の前記セパレータ側及び前記固体高分子電解質膜には、それぞれ前記ガス不透過シートが接合される。
【0012】
さらにまた、この製造方法では、多孔質シートの外周部にガス不透過シートを配置した状態で、プレス処理を施すことにより、前記多孔質シートの外周部に薄肉部を設け、且つ、前記ガス不透過シートをプレス接合することが好ましい。
【0013】
また、この製造方法では、多孔質シートの外周部にプレス処理を施すことにより、薄肉部を設ける工程と、前記薄肉部にガス不透過シートを接合する工程と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガス拡散層は、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成した多孔質シートで構成されている。このため、カーボンペーパで構成されるガス拡散層のように、特に端部の炭素繊維が固体高分子電解質膜に突き刺さることがなく、前記固体高分子電解質膜を良好に保護することができる。
【0016】
さらに、多孔質シートの外周部には、プレス加工によりガス透過性を低下させた薄肉部が形成され、前記薄肉部には、ガス不透過シートが接合されている。従って、ガス拡散層は、薄肉部とガス不透過シートとによるガス不透過機能を備えることができ、簡単な構成及び工程で、前記ガス拡散層の外周部からのガス透過を可及的に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視図である。
図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面図である。
図3】前記燃料電池を構成する電解質膜・電極構造体の分解斜視説明図である。
図4】前記電解質膜・電極構造体を構成する導電性多孔質シート上にガス不透過シートが載置された載置体の説明図である。
図5】前記載置体を加圧板間に配置した状態の説明図である。
図6】前記加圧板間を加圧処理する際の説明図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る製造方法において、前記導電性多孔質シート上にプレス用シートが載置された載置体の説明図である。
図8】前記載置体を加圧板間に配置した状態の説明図である。
図9】前記加圧板間を加圧処理する際の説明図である。
図10】前記プレス用シートに代えて他のプレス用シートが配置された載置体の説明図である。
図11】前記載置体を加圧板間に配置した状態の説明図である。
図12】前記加圧板間を加圧処理する際の説明図である。
図13】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池の断面説明図である。
図14】本発明の第4の実施形態に係る燃料電池の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12とアノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16とが、立位姿勢で矢印A方向(例えば、水平方向)に積層される。複数の燃料電池10が矢印A方向に積層されることにより、例えば、車載用燃料電池スタックが構成される。なお、燃料電池10は、矢印C方向(鉛直方向)に積層されてもよい。
【0019】
アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16は、横長形状を有しているが、縦長形状を有していてもよい。アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16としては、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータが使用される。
【0020】
燃料電池10は、矢印B方向(水平方向)の一端縁部に、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス入口連通孔18a及び燃料ガス出口連通孔20bが設けられる。酸化剤ガス入口連通孔18aは、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給する。燃料ガス出口連通孔20bは、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを排出する。酸化剤ガス入口連通孔18aと燃料ガス出口連通孔20bとは、矢印C方向(鉛直方向)に配列して設けられる。
【0021】
燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔20a及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔18bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0022】
燃料電池10の矢印C方向の一端縁部(上端縁部)には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔22aが設けられる。燃料電池10の矢印C方向の他端縁部(下端縁部)には、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔22bが設けられる。
【0023】
アノード側セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、燃料ガス入口連通孔20aと燃料ガス出口連通孔20bとに連通する燃料ガス流路24が、矢印B方向に延在して設けられる。燃料ガス流路24の入口側には、入口バッファ部24aが設けられる一方、前記燃料ガス流路24の出口側には、出口バッファ部24bが設けられる。
【0024】
カソード側セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、酸化剤ガス入口連通孔18aと酸化剤ガス出口連通孔18bとに連通する酸化剤ガス流路30が、矢印B方向に延在して設けられる。酸化剤ガス流路30は、燃料ガス流路24と同様に構成されており、その詳細な説明は省略する。
【0025】
アノード側セパレータ14とカソード側セパレータ16とは、互いに対向する面14b、16b同士の間に冷却媒体流路32を一体的に形成する。冷却媒体流路32は、矢印C方向に延在して設けられる。
【0026】
アノード側セパレータ14の面14a、14bには、このアノード側セパレータ14の外周縁部を周回して第1シール部材34が一体的又は個別に設けられる。カソード側セパレータ16の面16a、16bには、このカソード側セパレータ16の外周縁部を周回して第2シール部材36が一体的又は個別に設けられる。
【0027】
第1シール部材34及び第2シール部材36には、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材等の弾性を有するシール部材が用いられる。
【0028】
電解質膜・電極構造体12は、横長形状を有するとともに、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜38と、前記固体高分子電解質膜38を挟持するアノード電極40及びカソード電極42とを備える。固体高分子電解質膜38の外形寸法は、アノード電極40及びカソード電極42の外形寸法よりも大きく設定される。なお、アノード電極40とカソード電極42とは、互いに異なる大きさに設定することにより、所謂、段差MEAを構成してもよい。固体高分子電解質膜38は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質が使用される。
【0029】
図2に示すように、アノード電極40は、固体高分子電解質膜38の一方の面38aに形成される第1電極触媒層40aと、導電性多孔質シートで構成される微細多孔質層(MPL)(Micro Porous Layer)からなる第1ガス拡散層40bとを有する。導電性多孔質シートは、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成することにより得られる。カソード電極42は、同様に、固体高分子電解質膜38の他方の面38bに形成される第2電極触媒層42aと、導電性多孔質シートで構成される微細多孔質層(MPL)からなる第2ガス拡散層42bとを有する。
【0030】
第1ガス拡散層40b及び第2ガス拡散層42bは、厚さが50μm〜250μm、好ましくは、80μm〜180μmの範囲内であり、電子伝導性物質と非親水性樹脂(撥水性樹脂)とを含み、導電性を有している。電子伝導性物質としては、例えば、カーボン繊維やカーボン粉末(カーボンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等)が単独又は2種以上混合して使用される。非親水性樹脂としては、結晶性フッ素樹脂(ETFT)(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、非晶質フッ素樹脂及びシリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等の少なくとも1種を含有している。
【0031】
図2及び図3に示すように、第1ガス拡散層40bの外周部及び第2ガス拡散層42bの外周部には、プレス加工により中央部よりも肉薄な額縁状の薄肉部である第1ガス不透過処理部40bs及び第2ガス不透過処理部42bsが形成される。第1ガス不透過処理部40bs及び第2ガス不透過処理部42bsは、固体高分子電解質膜38に当接するとともに、アノード側セパレータ14側及びカソード側セパレータ16との間に空間が設けられる。
【0032】
第1ガス不透過処理部40bs及び第2ガス不透過処理部42bsには、各空間に対応して第1ガス不透過シート44a及び第2ガス不透過シート44bが接合される。すなわち、第1ガス不透過シート44a及び第2ガス不透過シート44bは、第1ガス不透過処理部40bs及び第2ガス不透過処理部42bsのセパレータ側の面に接合(例えば、プレス接合)される。
【0033】
第1ガス不透過シート44a及び第2ガス不透過シート44bは、非親水性樹脂からなる。例えば、結晶性フッ素樹脂(ETFT)(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、非晶質フッ素樹脂及びシリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等の少なくとも1種を含有している。
【0034】
なお、第1ガス不透過シート44a及び第2ガス不透過シート44bは、例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)製のフィルムやPET(ポリエチレンテレフタレート)製のフィルム等を用いてもよい。
【0035】
図2に示すように、第1ガス不透過処理部40bsの厚さt1aと第1ガス不透過シート44aの厚さt2aとの和は、第1ガス拡散層40bと第1電極触媒層40aを加えた厚さと同等に設定される。第2ガス不透過処理部42bsの厚さt1bと第2ガス不透過シート44bの厚さt2bとの和は、第2ガス拡散層42bと第2電極触媒層42aを加えた厚さと同等に設定される。第1ガス不透過シート44a及び第2ガス不透過シート44bの表面位置は、第1ガス拡散層40b及び第2ガス拡散層42bの表面位置と同一位置に配置され、全体として段差のない同一平面を形成する。
【0036】
次いで、第1の実施形態に係る製造方法について、以下に説明する。
【0037】
先ず、図4に示すように、第1ガス拡散層40b及び第2ガス拡散層42bを構成する導電性多孔質シート50が作製される。具体的には、水溶液にカーボンブラックを投入して撹拌分散させた後、PTFEディスパージョン溶液を、PTFEとカーボンブラックとが重量比で7:3となるように添加して混合した。得られた分散液からPTFEとカーボンブラックとを凝集させ、乾燥処理を施した後、例えば、厚さ130μmのシートを成形し、導電性多孔質シート50が得られた。
【0038】
一方の導電性多孔質シート50上には、第1ガス不透過シート44aが載置されて載置体52aが得られるとともに、他方の導電性多孔質シート50上には、第2ガス不透過シート44bが載置されて載置体52bが得られる(図4参照)。各載置体52a、52bは、図5に示すように、加圧板54a、54b間に挟持される。加圧板54a、54bは、工作紙56の両面にPTFEシート58とポリイミドシート60とが設けられる。各PTFEシート58は、挟持面を構成する。
【0039】
次いで、図6に示すように、加圧板54a、54b間に所定のプレス圧及び加熱温度を付与する。このため、先ず、第1ガス不透過シート44a(第2ガス不透過シート44b)が加圧されて圧縮されるとともに、前記第1ガス不透過シート44a(第2ガス不透過シート44b)により導電性多孔質シート50の外周部が押圧変形される。さらに、加圧板54a、54b間で、導電性多孔質シート50全体が加圧されて圧縮される。
【0040】
従って、導電性多孔質シート50の中央部が所定の厚さに圧縮される一方、外周部が薄肉化され、前記外周部に第1ガス不透過シート44a(第2ガス不透過シート44b)が接合される。これにより、外周部に第1ガス不透過処理部40bsが設けられるとともに、前記第1ガス不透過処理部40bsに第1ガス不透過シート44aが接合された第1ガス拡散層40bが得られる。同様に、外周部に第2ガス不透過処理部42bsが設けられるとともに、前記第2ガス不透過処理部42bsに第2ガス不透過シート44bが接合された第2ガス拡散層42bが得られる。
【0041】
一方、固体高分子電解質膜38の面38aには、第1電極触媒層40aが形成されるとともに、面38bには、第2電極触媒層42aが形成される。具体的には、第1電極触媒層40aは、例えば、白金触媒とイオン伝導性ポリマー溶液とが混合された触媒ペーストを調整し、前記触媒ペーストをPTFEシート上に塗布した後、熱処理を行うことにより作製される。また、第2電極触媒層42aは、上記の第1電極触媒層40aと同様に、PTFEシート上に作製される。
【0042】
さらに、固体高分子電解質膜38の面38aには、第1電極触媒層40aが転写され、面38bには、第2電極触媒層42aが転写されることにより、膜電極部材が得られる。なお、転写は、デカール法により行うことができる。そして、第1電極触媒層40aに第1ガス拡散層40bが配置される一方、第2電極触媒層42aに第2ガス拡散層42bが配置される。これらは、所定の温度及び面圧が付与されることにより、熱圧着されて一体化され、電解質膜・電極構造体12が得られる。
【0043】
電解質膜・電極構造体12は、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16に挟持され、積層方向に締め付け荷重が付与されることにより、燃料電池10が構成される。
【0044】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0045】
図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔18aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔20aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔22aに純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。
【0046】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔18aからカソード側セパレータ16の酸化剤ガス流路30に導入される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路30に沿って矢印B方向に流通し、電解質膜・電極構造体12のカソード電極42に沿って移動する。
【0047】
一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔20aからアノード側セパレータ14の燃料ガス流路24に導入される。この燃料ガス流路24では、燃料ガスが矢印B方向に流通することにより、電解質膜・電極構造体12のアノード電極40に沿って移動する。
【0048】
従って、電解質膜・電極構造体12では、カソード電極42に供給される酸化剤ガスと、アノード電極40に供給される燃料ガスとが、第2電極触媒層42a及び第1電極触媒層40a内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0049】
次いで、カソード電極42に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔18bに排出される。同様に、アノード電極40に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔20bに排出される。
【0050】
一方、冷却媒体入口連通孔22aに供給された冷却媒体は、互いに隣接するアノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16間に形成された冷却媒体流路32に導入される。この冷却媒体流路32では、冷却媒体が重力方向(矢印C方向)に移動する。従って、冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12の発電面全面にわたって冷却した後、冷却媒体出口連通孔22bに排出される。
【0051】
この場合、第1の実施形態では、第1ガス拡散層40b及び第2ガス拡散層42bは、カーボン材料と非親水性樹脂とを含むペーストをシート状に形成した導電性多孔質シート50で構成されている。すなわち、微細多孔質層(MPL)で構成されている。このため、カーボンペーパで構成されるガス拡散層のように、特に端部の炭素繊維が固体高分子電解質膜38に突き刺さることがなく、前記固体高分子電解質膜38を良好に保護することができる。
【0052】
さらに、導電性多孔質シート50の外周部には、プレス加工によりガス透過性を低下させた薄肉部が形成され、前記薄肉部が第1ガス不透過処理部40bs及び第2ガス不透過処理部42bsを構成している。そして、第1ガス不透過処理部40bs及び第2ガス不透過処理部42bsには、第1ガス不透過シート44a及び第2ガス不透過シート44bがプレス接合されている。
【0053】
従って、第1ガス拡散層40bは、第1ガス不透過処理部40bsと第1ガス不透過シート44aとによるガス不透過機能を備えることが可能になる。同様に、第2ガス拡散層42bは、第2ガス不透過処理部42bsと第2ガス不透過シート44bとによるガス不透過機能を備えることができる。これにより、簡単な構成及び工程で、第1ガス拡散層40b及び第2ガス拡散層42bの外周部からのガス透過を可及的に抑制することが可能になるという効果が得られる。
【0054】
図7以降は、本発明の第2の実施形態に係る製造方法の説明図である。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の燃料電池10に適用してもよい。また、第1の実施形態と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0055】
先ず、図7に示すように、導電性多孔質シート50上には、第1ガス不透過シート44a及び第2ガス不透過シート44bに対応する額縁状のプレス用シート62が載置されて載置体64が得られる。プレス用シート62は、導電性多孔質シート50と接合しないように、例えば、ガラスクロスやポリイミドで形成される。
【0056】
次に、図8に示すように、載置体64は、加圧板54a、54b間に挟持された状態で、前記加圧板54a、54b間に所定のプレス圧及び加熱温度が付与される(図9参照)。このため、プレス用シート62が加圧されて圧縮されるとともに、前記プレス用シート62により導電性多孔質シート50の外周部が押圧変形される。さらに、加圧板54a、54b間で、導電性多孔質シート50全体が加圧されて圧縮される。
【0057】
従って、プレス用シート62が剥離されることにより、外周部に第1ガス不透過処理部40bsが設けられた第1ガス拡散層40bが得られる。同様に、外周部に第2ガス不透過処理部42bsが設けられた第2ガス拡散層42bが得られる。図10に示すように、第1ガス不透過処理部40bsに第1ガス不透過シート44aが載置されて載置体66aが得られる一方、第2ガス不透過処理部42bsに第2ガス不透過シート44bが載置されて載置体66bが得られる。
【0058】
そこで、図11に示すように、各載置体66a、66bは、加圧板54a、54b間に挟持される。この状態で、載置体66a、66bを挟持する加圧板54a、54b間には、図12に示すように、所定のプレス圧及び加熱温度が付与される。これにより、第1ガス不透過シート44a(第2ガス不透過シート44b)が加圧されて圧縮されるとともに、前記第1ガス不透過シート44a(第2ガス不透過シート44b)が、第1ガス不透過処理部40bs(第2ガス不透過処理部42bs)にプレス接合される。なお、第1ガス不透過シート44a(第2ガス不透過シート44b)は、第1ガス不透過処理部40bs(第2ガス不透過処理部42bs)に接着剤により接合してもよい。
【0059】
このため、外周部に第1ガス不透過処理部40bsが設けられるとともに、前記第1ガス不透過処理部40bsに第1ガス不透過シート44aが接合された第1ガス拡散層40bが得られる。同様に、外周部に第2ガス不透過処理部42bsが設けられるとともに、前記第2ガス不透過処理部42bsに第2ガス不透過シート44bが接合された第2ガス拡散層42bが得られる。
【0060】
さらに、固体高分子電解質膜38に第1電極触媒層40a及び第2電極触媒層42aが転写された膜電極部材が製造される。そして、第1電極触媒層40aに第1ガス拡散層40bが配置される一方、第2電極触媒層42aに第2ガス拡散層42bが配置される。これらは、所定の温度及び面圧が付与されることにより、熱圧着されて一体化され、電解質膜・電極構造体12が得られる。
【0061】
このように、第2の実施形態では、簡単な構成及び工程で、第1ガス拡散層40b及び第2ガス拡散層42bの外周部からのガス透過を可及的に抑制することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0062】
図13は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池80の断面説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第4の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0063】
燃料電池80を構成する電解質膜・電極構造体82は、第1ガス拡散層40bの外周部及び第2ガス拡散層42bの外周部に、プレス加工により第1ガス不透過処理部40bs1及び第2ガス不透過処理部42bs1が形成される。第1ガス不透過処理部40bs1及び第2ガス不透過処理部42bs1は、固体高分子電解質膜38に当接する側が凹部を構成する。
【0064】
第1ガス不透過処理部40bs1及び第2ガス不透過処理部42bs1には、固体高分子電解質膜38に当接して第1ガス不透過シート44a1及び第2ガス不透過シート44b1が接合される。
【0065】
このように構成される燃料電池80では、簡単な構成及び工程で、第1ガス拡散層40b及び第2ガス拡散層42bの外周部からのガス透過を可及的に抑制することが可能になる等、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
図14は、本発明の第4の実施形態に係る燃料電池90の断面説明図である。
【0067】
燃料電池90を構成する電解質膜・電極構造体92は、第1ガス拡散層40bの外周部及び第2ガス拡散層42bの外周部に、プレス加工により第1ガス不透過処理部40bs2及び第2ガス不透過処理部42bs2が形成される。第1ガス不透過処理部40bs2及び第2ガス不透過処理部42bs2は、固体高分子電解質膜38に当接する側とセパレータ側との両側に凹部が構成される。
【0068】
第1ガス不透過処理部40bs2の両側には、アノード側セパレータ14に当接する第1ガス不透過シート44a2及び固体高分子電解質膜38に当接する第1ガス不透過シート44a3が接合される。第2ガス不透過処理部42bs2の両側には、カソード側セパレータ16に当接する第2ガス不透過シート44b2及び固体高分子電解質膜38に当接する第2ガス不透過シート44b3が接合される。
【0069】
このように構成される燃料電池90では、簡単な構成及び工程で、第1ガス拡散層40b及び第2ガス拡散層42bの外周部からのガス透過を可及的に抑制することが可能になる等、上記の第1〜第3の実施形態と同様の効果が得られる。なお、燃料電池80及び90は、第1の実施形態の製造方法で製造することができ、また、第2の実施形態の製造方法でも製造することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
10、80、90…燃料電池 12、82、92…電解質膜・電極構造体
14、16…セパレータ 18a…酸化剤ガス入口連通孔
18b…酸化剤ガス出口連通孔 20a…燃料ガス入口連通孔
20b…燃料ガス出口連通孔 22a…冷却媒体入口連通孔
22b…冷却媒体出口連通孔 24…燃料ガス流路
30…酸化剤ガス流路 32…冷却媒体流路
38…固体高分子電解質膜 40…アノード電極
40a、42a…電極触媒層 40b、42b…ガス拡散層
40bs、40bs1、40bs2、42bs、42bs1、42bs2…ガス不透過処理部
42…カソード電極
44a、44a1、44a2、44a3、44b、44b1、44b2、44b3…ガス不透過シート
50…導電性多孔質シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図11
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