【文献】
SHET et al.,Carrier concentration tuning of bandgap-reduced p-type ZnO films by codoping of Cu and Ga for improv,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,米国,American Institute of Physics,2008年 4月,Vol.103,p.073504
【文献】
SIVARAMAKRISHNAN et al.,The role of copper in ZnO/Cu/ZnO thin films for flexible electronics,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,米国,American Institute of Physics,2009年 9月,Vol.106,p.063510
【文献】
PHILIPP et al.,Plasmonic excitations in ZnO/Ag/ZnO multilayer systems:Insight into interface and bulk electronic pr,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,米国,American Institute of Physics,2011年 3月,Vol.109,p.063710
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)Cuまたは/及びAgであるIB族元素と、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素とを含むn型ZnO系半導体単結晶構造を形成する工程と、
(b)前記n型ZnO系半導体単結晶構造に、N2または希ガス雰囲気中で第1アニールを施す工程と、
(c)前記第1アニール後のZnO系半導体単結晶構造に、酸化剤を含む雰囲気中で第2アニールを施す工程と
を有し、
前記工程(a)が、
(a1)(i)Zn、(ii)O、(iii)必要に応じてMg、(iv)B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素を供給して、前記IIIB族元素がドープされたMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、
(a2)前記MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上にCuまたは/及びAgであるIB族元素を供給する工程と、
(a3)前記工程(a1)と前記工程(a2)を交互に繰り返して積層構造を形成する工程と
を含み、
前記IB族元素と前記IIIB族元素が共ドープされたp型ZnO系半導体層を形成するp型ZnO系半導体層の製造方法。
(a)Cuまたは/及びAgであるIB族元素と、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素とを含むn型ZnO系半導体単結晶構造を形成する工程と、
(b)前記n型ZnO系半導体単結晶構造に、N2または希ガス雰囲気中で第1アニールを施す工程と、
(c)前記第1アニール後のZnO系半導体単結晶構造に、酸化剤を含む雰囲気中で第2アニールを施す工程と
を有し、
前記工程(a)が、
(a4)(i)Zn、(ii)O、(iii)必要に応じてMg、(iv)Cuまたは/及びAgであるIB族元素を供給して、前記IB族元素がドープされたMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、
(a5)前記MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素を供給する工程と、
(a6)前記工程(a4)と前記工程(a5)を交互に繰り返して積層構造を形成する工程と
を含み、
前記IB族元素と前記IIIB族元素が共ドープされたp型ZnO系半導体層を形成するp型ZnO系半導体層の製造方法。
(a)Cuまたは/及びAgであるIB族元素と、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素とを含むn型ZnO系半導体単結晶構造を形成する工程と、
(b)前記n型ZnO系半導体単結晶構造に、N2または希ガス雰囲気中で第1アニールを施す工程と、
(c)前記第1アニール後のZnO系半導体単結晶構造に、酸化剤を含む雰囲気中で第2アニールを施す工程と
を有し、
前記工程(a)が、
(a7)第1のMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、
(a8)前記第1のMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、Cuまたは/及びAgであるIB族元素を含むIB族元素層を形成する工程と、
(a9)前記IB族元素層上に、第2のMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、
(a10)前記第2のMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素を含むIIIB族元素層を形成する工程と、
(a11)前記工程(a7)〜(a10)を繰り返して積層構造を形成する工程と
を含み、
前記IB族元素と前記IIIB族元素が共ドープされたp型ZnO系半導体層を形成するp型ZnO系半導体層の製造方法。
(a)Cuまたは/及びAgであるIB族元素と、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素とを含むn型ZnO系半導体単結晶構造を形成する工程と、
(b)前記n型ZnO系半導体単結晶構造に、N2または希ガス雰囲気中で第1アニールを施す工程と、
(c)前記第1アニール後のZnO系半導体単結晶構造に、酸化剤を含む雰囲気中で第2アニールを施す工程と
を有し、
前記工程(a)が、
(a12)MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、
(a13)前記MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、Cuまたは/及びAgであるIB族元素と、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素とを供給する工程と、
(a14)前記工程(a12)と前記工程(a13)を交互に繰り返して積層構造を形成する工程と
を含み、
前記IB族元素と前記IIIB族元素が共ドープされたp型ZnO系半導体層を形成するp型ZnO系半導体層の製造方法。
(a)Cuまたは/及びAgであるIB族元素と、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素とを含むn型ZnO系半導体単結晶構造を形成する工程と、
(b)前記n型ZnO系半導体単結晶構造に、N2または希ガス雰囲気中で第1アニールを施す工程と、
(c)前記第1アニール後のZnO系半導体単結晶構造に、酸化剤を含む雰囲気中で第2アニールを施す工程と
を有し、
前記工程(a)が、
(a15)Cuまたは/及びAgであるIB族元素がドープされた第1のMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、
(a16)前記第1のMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素がドープされた第2のMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、
(a17)前記工程(a15)と前記工程(a16)を交互に繰り返して積層構造を形成する工程と
を含み、
前記IB族元素と前記IIIB族元素が共ドープされたp型ZnO系半導体層を形成するp型ZnO系半導体層の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、ZnO系半導体層等の成長に用いられる結晶製造装置について説明する。以下に説明する実験及び実施例では、結晶製造方法として分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy; MBE)を用いる。ここでZnO系半導体は、少なくともZnとOを含む。
【0025】
図1は、MBE装置を示す概略的な断面図である。真空チャンバ71内に、Znソースガン72、Oソースガン73、Mgソースガン74、Cuソースガン75、及びGaソースガン76が備えられている。
【0026】
Znソースガン72、Mgソースガン74、Cuソースガン75、Gaソースガン76は、それぞれZn(7N)、Mg(6N)、Cu(9N)、及びGa(7N)の固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、セルを加熱することにより、Znビーム、Mgビーム、Cuビーム、Gaビームを出射する。
【0027】
Oソースガン73は、たとえば13.56MHzのラジオ周波数を用いる無電極放電管を含み、無電極放電管内でO
2ガス(6N)をプラズマ化して、Oラジカルビームを出射する。放電管材料として、アルミナまたは高純度石英を使用することができる。
【0028】
基板ヒータを備えるステージ77が基板78を保持する。ソースガン72〜76は、それぞれセルシャッタを含む。各セルシャッタの開閉により、基板78上に各ビームが照射される状態と照射されない状態とを切り替え可能である。基板78上に所望のタイミングで所望のビームを照射し、所望の組成のZnO系化合物半導体層を成長させることができる。
【0029】
ZnOにMgを添加することにより、バンドギャップを広げることができる。しかしZnOはウルツ鉱構造(六方晶)であり、MgOは岩塩構造(立方晶)であることから、Mg組成が高すぎると相分離を起こす。MgZnOのMg組成をxと明示するMg
xZn
1−xOにおいて、Mg組成xはウルツ鉱構造を保つため0.6以下とするのが好ましい。なお、Mg
xZn
1−xOという表記は、x=0の場合としてMgの添加されないZnOを含む。
【0030】
ZnO系半導体のn型導電性は、不純物のドープを行わなくても得られる。Ga等の不純物をドープし、n型導電性を高めることができる。ZnO系半導体のp型導電性は、p型不純物のドープにより得られる。
【0031】
真空チャンバ71内に、水晶振動子を用いた膜厚計79が備えられている。膜厚計79で測定される付着速度から、各ビームのフラックス強度が求められる。
【0032】
真空チャンバ71に、反射高速電子回折(reflection high energy electron diffraction; RHEED)用のガン80、及び、RHEED像を映すスクリーン81が取り付けられている。RHEED像から、基板78上に形成された結晶層の表面平坦性や成長モードを評価することができる。
【0033】
結晶が2次元成長し表面が平坦なエピタキシャル成長(単結晶成長)である場合、RHEED像はストリークパターンを示し、結晶が3次元成長し表面が平坦でないエピタキシャル成長(単結晶成長)の場合、RHEED像はスポットパターンを示す。多結晶成長の場合は、RHEED像がリングパターンとなる。
【0034】
次に、Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)結晶成長におけるVI/IIフラックス比について説明する。Znビームのフラックス強度をJ
Zn、Mgビームのフラックス強度をJ
Mg、Oラジカルビームのフラックス強度をJ
Oと表す。金属材料であるZnあるいはMgのビームは、原子、または複数個の原子を含むクラスターのZnあるいはMgを含む。原子とクラスターのいずれも結晶成長に有効である。ガス材料であるOのビームは、原子ラジカルや中性分子を含むが、ここでは結晶成長に有効な原子ラジカルのフラックス強度を考える。
【0035】
結晶へのZnの付着しやすさを示す付着係数をk
Zn、Mgの付着しやすさを示す付着係数をk
Mg、Oの付着しやすさを示す付着係数をk
Oと表す。Znの付着係数k
Znとフラックス強度J
Znの積k
ZnJ
Zn、Mgの付着係数k
Mgとフラックス強度J
Mgの積k
MgJ
Mg、Oの付着係数k
Oとフラックス強度J
Oの積k
OJ
Oは、それぞれ基板の単位面積に単位時間当たりに付着するZn原子、Mg原子、及びO原子の個数に対応する。
【0036】
k
ZnJ
Znとk
MgJ
Mgの和に対するk
OJ
Oの比であるk
OJ
O/(k
ZnJ
Zn+k
MgJ
Mg)を、VI/IIフラックス比と定義する。VI/IIフラックス比が1より小さい場合をII族リッチ条件(Mgを含まない場合は単にZnリッチ条件)、VI/IIフラックス比が1に等しい場合をストイキオメトリ条件、VI/IIフラックス比が1より大きい場合をVI族リッチ条件(あるいはOリッチ条件)と呼ぶ。
【0037】
なお、Zn面(+c面)での結晶成長においては、基板表面温度850℃以下であれば、付着係数k
Zn、k
Mg及びk
Oを1とみなすことができ、VI/IIフラックス比をJ
O/(J
Zn+J
Mg)と表すことが可能である。
【0038】
VI/IIフラックス比は、たとえばZnOの成長においては、以下の手順で算出することができる。Znフラックスは、水晶振動子を用いた膜厚モニタにより、室温でのZnの蒸着速度F
Zn(nm/s)として測定される。ZnフラックスはF
Zn(nm/s)からJ
Zn(atoms/cm
2s)に換算される。
【0039】
一方、Oラジカルフラックスは、以下のように求められる。Oラジカルビーム照射条件一定(たとえばRFパワー300W、O
2流量2.0sccm)のもとで、Znフラックスを変化させてZnOを成長させ、ZnO成長速度のZnフラックス依存性を実験的に求める。その結果を、ZnO成長速度G
ZnOの近似式:G
ZnO=[(k
ZnJ
Zn)
−1+(k
OJ
O)
−1]
−1を用いてフィッティングすることにより、その条件におけるOラジカルフラックスJ
Oが算出される。こうして得られたZnフラックスJ
Zn及びOラジカルフラックスJ
Oから、VI/IIフラックス比を算出することができる。
【0040】
続いて、本願発明者らが行った第1実験及び第2実験について説明する。説明においては、アニール前の試料をアニール前試料、アニール終了後の試料をアニール後試料と記載する。
【0041】
第1実験及び第2実験に用いるサンプルのアニール前試料の作製方法について説明する。
図2Aに、アニール前試料の概略的な断面図を示す。
【0042】
n型導電性を有するZn面ZnO(0001)基板(以下、本明細書においてZnO基板)51に900℃で30分間のサーマルクリーニングを施した後、基板51温度を300℃まで下げた。その温度(成長温度300℃)で、ZnフラックスF
Znを0.17nm/s(J
Zn=1.1×10
15atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)とし、ZnO基板51上に厚さ30nmのZnOバッファ層52を成長させた。ZnOバッファ層52の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で10分間のアニールを行った。
【0043】
ZnOバッファ層52上に、成長温度を900℃、ZnフラックスF
Znを0.17nm/s(J
Zn=1.1×10
15atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)として、厚さ100nmのアンドープZnO層53を成長させた。アンドープZnO層53はn型ZnO層である。アンドープZnO層53上に、Zn、O及びGaと、Cuとを異なるタイミングで供給し、交互積層構造54を形成した。交互積層構造54の形成温度は250℃とした。
【0044】
図2Bは、交互積層構造を形成する際のZnセル、Oセル、Gaセル、及びCuセルのシャッタシーケンスを示すタイムチャートである。
【0045】
交互積層構造54の形成に当たっては、Znセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタを開き、Cuセルシャッタを閉じるGaドープZnO単結晶層成長工程と、Znセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタを閉じ、Cuセルシャッタを開くCu付着工程(Cu層形成工程)とを交互に繰り返した。
【0046】
GaドープZnO単結晶層成長工程においては、OセルシャッタとGaセルシャッタの開閉は同時に行い、Oセルシャッタ及びGaセルシャッタの開期間の前後に、Znセルシャッタの開期間を延長する。
【0047】
サンプルのアニール前試料の作製においては、Oセルシャッタ及びGaセルシャッタの1回当たりの開期間を10秒とし、Oセルシャッタ及びGaセルシャッタの開期間の前後にZnセルシャッタの開期間を1秒ずつ延長した。Znセルシャッタの1回当たりの開期間は12秒である。Znセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタがすべて開状態となる10秒間が、1回当たりのGaドープZnO単結晶層成長期間である。Cuセルシャッタの1回当たりの開期間は50秒とした。
【0048】
GaドープZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に60回ずつ繰り返し、厚さ140nmの交互積層構造54を得た。GaドープZnO単結晶層成長工程でのZnフラックスF
Znは0.15nm/s(J
Zn=9.9×10
14atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)、Gaのセル温度T
Gaは600℃(F
Gaは検出下限値未満)とした。VI/IIフラックス比は0.82(Znリッチ条件)である。Cu付着工程でのCuのセル温度T
Cuは990℃とし、CuフラックスF
Cuを0.004nm/sとした。
【0049】
図2Cは、交互積層構造54の概略的な断面図である。交互積層構造54は、GaドープZnO単結晶層54aとCu層54bが交互に積層された積層構造を有する。
【0050】
GaドープZnO単結晶層54aの厚さは2.3nm程度、Cu層54bの厚さ(Cuの付着厚さ)は1原子層以下、たとえば約1/20原子層である。この場合、GaドープZnO単結晶層54a表面のCu被覆率は5%程度となる。
【0051】
図2Dに、GaドープZnO単結晶層54a及びCu層54bの概略的な断面図を示す。たとえば約1/20原子層の厚さをもつCu層54bは、本図に示すように、GaドープZnO単結晶層54a表面の一部に付着するCuで形成される。以後、図面の簡略化のため、このようなCuの付着態様も含め、交互積層構造を
図2Cの層構造で表す。
【0052】
図3に、サンプルのアニール前試料の交互積層構造54に係る、CV特性及び不純物濃度のデプスプロファイルを示す。第1段はCV特性、第2段は不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフである。各グラフの両軸の意味するところは、
図14Aに示すグラフのそれらに等しい。
【0053】
CV特性を示すグラフを参照すると、右上がりの曲線(電圧が増加すると1/C
2が増加する関係)が得られ、交互積層構造54がn型導電性を備えることが示されている。
【0054】
不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフを参照すると、交互積層構造54における不純物濃度(ドナー濃度)N
dは1.0×10
21cm
−3程度であることがわかる。
【0055】
なお、交互積層構造54における、Cuの絶対濃度[Cu]及びGaの絶対濃度[Ga]を、2次イオン質量分析法(secondary ion mass spectrometry; SIMS)により調べたところ、Cu濃度[Cu]は2.7×10
21cm
−3程度、Ga濃度[Ga]は8.9×10
20cm
−3程度、[Ga]に対する[Cu]の比である[Cu]/[Ga]の値は3.0程度であることがわかった。
【0056】
次に、サンプルにアニール処理を施した。アニールは2段階に分けて行った。
【0057】
図4A、
図4Bは、それぞれ第1実験の第1アニール、第2アニールのアニール温度を示すグラフである。第1実験においては、第1アニールを、窒素(N
2)雰囲気中で行った。また、第2アニールは、第1アニールの終了後、酸素(O
2)雰囲気中で行った。第1アニールは780℃で10分間、第2アニールは350℃で30分間実施した。
【0058】
図5は、第1実験の第2アニール後試料の交互積層構造54形成位置における、CV特性及び不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフである。第1段にCV特性、第2段に不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフを記載した。グラフの両軸の意味するところは、
図14Aに示すグラフのそれらに等しい。
【0059】
CV特性を示すグラフを参照すると、右下がりの曲線(電圧が増加すると1/C
2が減少する関係)が得られ、交互積層構造54形成位置がp型導電性を備えることが示されている。
【0060】
不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフを参照すると、第2アニール後試料における交互積層構造54形成位置(p型層形成位置)の不純物濃度(アクセプタ濃度)N
aは3.2×10
20cm
−3程度であることがわかる。
【0061】
なお、SIMSによる分析の結果、第2アニール終了後の交互積層構造54形成位置(p型層形成位置)におけるCu濃度[Cu]は9.7×10
20cm
−3程度、Ga濃度[Ga]は8.3×10
20cm
−3程度、[Cu]/[Ga]の値は1.2程度であることがわかった。またCuとGaは、p型層形成位置の厚さ方向の全体にわたって均一にドープされていた。
【0062】
続いて、第2実験について説明する。第2実験においては、第2アニール時の雰囲気を第1実験と異ならせた。
【0063】
図6A、
図6Bに、それぞれ第2実験の第1アニール、第2アニールのアニール温度を示す。第1アニールは、第1実験と同様に、N
2雰囲気中、780℃で10分間実施する。第2アニールは、第1アニールの終了後、キャリアガスに水蒸気を含ませた雰囲気中で行った。具体的には、流量1L/minの酸素(キャリアガス)に水蒸気を含ませ、350℃で30分間実施した。なお、ボイリングした純水中にO
2ガスを通すことで、水蒸気を含ませた。
【0064】
図7は、第2実験の第2アニール後試料の交互積層構造54形成位置における、CV特性及び不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフである。第1段にCV特性、第2段に不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフを記載した。グラフの両軸の意味するところは、
図14Aに示すグラフのそれらに等しい。
【0065】
CV特性を示すグラフを参照する。右下がりの曲線(電圧が増加すると1/C
2が減少する関係)が得られ、第2実験においても、第2アニール後試料の交互積層構造54形成位置がp型導電性を備えることが示されている。
【0066】
不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフを参照する。第2実験の第2アニール後試料における交互積層構造54形成位置(p型層形成位置)の不純物濃度(アクセプタ濃度)N
aは3.7×10
20cm
−3程度であることがわかる。
【0067】
なお、SIMSによる分析の結果、第2実験の第2アニール終了後の交互積層構造54形成位置(p型層形成位置)におけるCu濃度[Cu]は9.7×10
20cm
−3程度、Ga濃度[Ga]は8.3×10
20cm
−3程度、[Cu]/[Ga]の値は1.2程度であり、第1実験におけるそれらとほぼ等しいことがわかった。またCuとGaは、p型層形成位置の厚さ方向の全体にわたって均一にドープされていた。
【0068】
第1実験及び第2実験の双方において、第1アニールと第2アニールにより、交互積層構造54形成位置はp型化する。先の出願に係る提案においては、p型化したZnO系半導体構造のアクセプタ濃度N
aが6.0×10
17cm
−3程度(
図14C参照)であったが、第1及び第2実験に係るp型層のアクセプタ濃度N
aは、それよりも3桁程度高い。また、第1及び第2実験においては、p型層のアクセプタ濃度N
aは、たとえば10
20〜10
21cm
−3オーダー(
図3、
図5、及び
図7参照)である交互積層構造54形成位置のCu濃度(ドーピング濃度)[Cu]に対し、桁数が等しい、または1桁低いだけである。
【0069】
なお、第1アニール後試料の交互積層構造54形成位置における、CV特性及び不純物濃度のデプスプロファイルを調べたところ、交互積層構造54形成位置は、アニール前試料の交互積層構造54(
図3参照)よりも高抵抗のn型またはp型層となっていた。
【0070】
本願発明者らが行った実験(第1実験及び第2実験)より、サンプルの交互積層構造54は、アズグロウンでn型であり(
図3参照)、第1アニール及び第2アニールを経て、高いアクセプタ濃度N
aを有するp型層となる(
図5及び
図7参照)ことが理解される。
【0071】
酸素分圧の低い条件下、実験においてはN
2雰囲気中で熱処理(第1アニール)を行うことにより、O及びZnがある程度結晶から脱離(蒸発)するとともに、交互積層構造54内にCuとGaが拡散すると考えられる。Znの脱離により、CuがZn位置を置換しやすくなり、Cuは先の出願に係る提案においてよりも、高い割合でZn位置を置換する。Cuがp型不純物として機能する一方、交互積層構造54形成位置にドナー源として作用するO空孔が生じ、交互積層構造54形成位置は、アニール前試料の交互積層構造54よりも高抵抗のn型またはp型層となる。
【0072】
酸化剤を含む雰囲気中、第1実験においては、O
2雰囲気中、第2実験においては、キャリアガスに水蒸気(H
2O)を含ませた雰囲気の中で、第2アニールを行うことにより、O空孔にOが補完され、交互積層構造54形成位置が高いアクセプタ濃度N
aを有するp型層となると考えられる。CuがZn位置を高い割合で置換しているため、高いアクセプタ濃度N
aを有するp型層(CuとGaが共ドープされたp型ZnO単結晶層)が形成されると思われる。
【0073】
第1アニールは、N
2と同様に、不活性で酸素分圧の低い条件を実現する希ガス雰囲気中で行うことが可能である。特に、He、Ne、Ar、Krを好ましく用いることができる。更に、二酸化炭素(CO
2)雰囲気中等で実施することも可能であろう。
【0074】
また、第2アニールにおける酸化剤としては、O
2、H
2Oのほか、NO
2、N
2O、オゾン、メチルアルコール、エチルアルコール等を使用することが可能である。
【0075】
なお、第2実験においては、第2アニール時のキャリアガスに酸素を使用した。キャリアガスに特段の制限はないが、交互積層構造54形成位置から脱離する酸素を減少させるという観点からは、酸素を用いることが好ましい。
【0076】
更に、本願発明者らの鋭意研究の結果、交互積層構造54に対し、第1アニールを第2アニールより高い処理温度で、たとえば第1アニールを、N
2雰囲気中で750℃〜800℃の処理温度、第2アニールをO
2雰囲気中、またはキャリアガスに水蒸気(H
2O)を含ませた雰囲気の中で、350℃〜400℃の処理温度で行うことにより、たとえばアクセプタ濃度N
aが10
20cm
−3オーダー以上であり、Cu濃度(ドーピング濃度)とほぼ等しい、または1桁程度低いだけの、高アクセプタ濃度p型層(Cu、Ga共ドープp型ZnO層)を形成可能であることがわかった。また、第1アニールの処理温度が低いと、第2アニールにおいて高い処理温度が必要となる傾向も認められた。
【0077】
本願実験に係る方法は、CuのZn位置置換率を向上させ、CuをZn位置に効率的に置換して、交互積層構造54を高いアクセプタ濃度N
aを備えるp型層とする、p型ZnO半導体層の製造方法である。
【0078】
第1及び第2実験より、GaドープZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に繰り返し形成した交互積層構造に2段階のアニール処理を施すことで、Cu及びGaが、層の厚さ方向の全体にわたって均一にドープされ、アクセプタ濃度の高いCu、Ga共ドープp型ZnO層(p型ZnO系半導体層)が得られることがわかった。続いて、Cu、Ga共ドープZnO層をp型半導体層に用い、ZnO系半導体発光素子を製造する第1実施例について説明する。
【0079】
図8A及び
図8Bは、実施例によるZnO系半導体発光素子の製造方法の概略を示すフローチャートである。なお、実施例においては半導体発光素子について説明するが、本発明は、発光素子に限らず広く半導体素子について適用することができる。
【0080】
図8Aに示すように、実施例によるZnO系半導体発光素子の製造方法は、基板上方にn型ZnO系半導体層を形成する工程(ステップS101)と、ステップS101で形成されたn型ZnO系半導体層上方に、p型ZnO系半導体層を形成する工程(ステップS102)を含む。
【0081】
また、ステップS102のp型ZnO系半導体層形成工程は、
図8Bに示すように、ステップS102a〜ステップS102eの5工程を含む。
【0082】
p型ZnO系半導体層形成工程(ステップS102)においては、まずZn、O、必要に応じてMg、及びGaを供給して、Gaがドープされたn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する(ステップS102a)。次に、ステップS102aで形成された、Gaドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上にCuを供給する(ステップS102b)。ステップS102aとステップS102bを交互に繰り返して積層構造を形成する(ステップS102c)。そしてステップS102cで形成された積層構造を、N
2または希ガス雰囲気中でアニール(第1アニール)する(ステップS102d)。第1アニールの処理温度は、相対的に高い温度であり、たとえば750℃〜800℃である。更に、酸化剤を含む雰囲気中でアニール(第2アニール)を行う(ステップS102e)。第2アニールの処理温度は、相対的に低い温度(第1アニールより低い温度)であり、たとえば350℃〜400℃である。第1アニールと第2アニールによって、CuとGaが共ドープされたp型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)層が形成される。
【0083】
図9A及び
図9Bを参照し、ホモ構造のZnO系半導体発光素子を製造する第1実施例について詳細に説明する。
図9Aは、第1実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。
【0084】
ZnO基板1上に、成長温度300℃で、ZnフラックスF
Znを0.15nm/s(J
Zn=9.9×10
14atoms/cm
2s)とし、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)として、厚さ30nmのZnOバッファ層2を成長させた。ZnOバッファ層2の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で10分間のアニールを行った。
【0085】
ZnOバッファ層2上に、成長温度900℃で、Zn、O及びGaを同時に供給し、厚さ150nmのn型ZnO層3を成長させた(たとえば
図8AのステップS101)。ZnフラックスF
Znは0.15nm/s(J
Zn=9.9×10
14atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー250W、O
2流量1.0sccm(J
O=4.0×10
14atoms/cm
2s)、Gaのセル温度は460℃とした。n型ZnO層3のGa濃度は、たとえば1.5×10
18cm
−3である。
【0086】
n型ZnO層3上に、成長温度900℃、ZnフラックスF
Znを0.03nm/s(J
Zn=2.0×10
14atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)として、厚さ15nmのアンドープZnO活性層4を成長させた。
【0087】
続いて、アンドープZnO活性層4上に、Cu、Ga共ドープp型ZnO層5を形成した(
図8AのステップS102)。
【0088】
まず、基板温度を250℃とし、サンプルのアニール前試料作製時と等しいシャッタシーケンス(
図2B参照)で、Zn、O及びGaと、Cuとを異なるタイミングで供給し、交互積層構造を形成した。具体的には、Zn、O及びGaを供給してGaドープZnO単結晶層を成長させる工程(
図8BのステップS102a)と、GaドープZnO単結晶層上にCuを供給する工程(
図8BのステップS102b)を交互に60回ずつ繰り返し、厚さ140nmの交互積層構造を形成した(
図8BのステップS102c)。1回当たりのGaドープZnO単結晶層成長期間は10秒、1回当たりのCu供給期間は50秒である。GaドープZnO単結晶層成長工程でのZnフラックスF
Znは0.15nm/s(J
Zn=9.9×10
14atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)とし、Gaのセル温度T
Gaは600℃とした。VI/IIフラックス比は0.82である。また、Cu供給工程でのCuのセル温度T
Cuは990℃とし、CuフラックスF
Cuを0.004nm/sとした。
【0089】
図9Bは、交互積層構造5Aの概略的な断面図である。交互積層構造5Aは、GaドープZnO単結晶層5aとCu層5bが交互に積層された積層構造を有する。GaドープZnO単結晶層5aの厚さは2.3nm程度、Cu層5bの厚さは1原子層以下、たとえば約1/20原子層(GaドープZnO単結晶層5a表面のCu被覆率が5%程度)である。交互積層構造5Aはn型導電性を示し、ドナー濃度N
dは、たとえば1.0×10
21cm
−3である。
【0090】
次に、交互積層構造5Aに第1アニールを施した(
図8BのステップS102d)。第1アニールは、たとえばN
2雰囲気中、780℃で10分間実施した。第1アニールによって、交互積層構造5A内にCuとGaが拡散する。O及びZnがある程度結晶から脱離(蒸発)し、CuがZn位置を置換しやすくなるため、Cuは、高い割合でZn位置を置換する。Cuがp型不純物として機能する一方、ドナー源として作用するO空孔が生じ、交互積層構造5A形成位置は、交互積層構造5Aよりも高抵抗のn型またはp型層となる。
【0091】
更に、O
2雰囲気中、第2アニールを350℃で30分間実施した(
図8BのステップS102e)。第2アニールによって、O空孔が補完される。
【0092】
第1及び第2アニールによって、交互積層構造5A形成位置がp型化され、Cu、Ga共ドープp型ZnO層5が形成された。
【0093】
なお、第2アニールを、たとえば流量1L/minの酸素(キャリアガス)に水蒸気を含ませ、350℃で30分間実施してもよい。
【0094】
その後、ZnO基板1の裏面にn側電極6nを形成した。Cu、Ga共ドープp型ZnO層5上にはp側電極6pを形成し、p側電極6p上にボンディング電極7を形成した。n側電極6nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成することができる。p側電極6pは、サイズ300μm□で厚さ1nmのNi層上に、厚さ10nmのAu層を積層して形成し、ボンディング電極7は、サイズ100μm□で厚さ500nmのAu層で形成した。このようにして、第1実施例による方法でZnO系半導体発光素子が作製された。
【0095】
第1実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子のCu、Ga共ドープp型ZnO層5は、CuとGaが共ドープされ、アクセプタ濃度N
aが10
20cm
−3オーダー以上、たとえば3.2×10
20cm
−3の高いアクセプタ濃度N
aを有するp型ZnO系半導体単結晶層である。Cu、Ga共ドープp型ZnO層5においては、Cu濃度[Cu]及びGa濃度[Ga]は、ともに層の厚さ方向にほぼ一定であり、Cu濃度[Cu]は、たとえば10
20〜10
21cm
−3オーダーである。Cu、Ga共ドープp型ZnO層5は、Cu濃度[Cu]とほぼ等しい、または1桁程度低いだけの、高アクセプタ濃度N
aを有するp型層である。
【0096】
第1実施例による製造方法によれば、Cu及びGaが層の厚さ方向の全体にわたって均一にドープされ、アクセプタ濃度N
aの高いCu、Ga共ドープp型ZnO層5を備えるZnO系半導体発光素子を製造することができる。
【0097】
実験及び第1実施例では、Cu、Ga共ドープp型ZnO層を形成した(たとえば
図8BのステップS102a〜ステップS102eのMg
xZn
1−xO表記においてx=0)が、Gaドープn型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶層成長工程とCu付着工程とを交互に繰り返して形成した交互積層構造に第1アニール及び第2アニールを施すことにより、高いアクセプタ濃度N
aを有するCu、Ga共ドープMg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶層を得ることができる(たとえば
図8BのステップS102a〜ステップS102eのMg
xZn
1−xO表記においてx≠0)。
【0098】
図10は、Cu、Ga共ドープp型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶層形成時、交互積層構造を作製する際のZnセル、Mgセル、Oセル、Gaセル、及びCuセルのシャッタシーケンスの一例を示すタイムチャートである。
【0099】
交互積層構造の作製においては、Znセルシャッタ、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタを開き、Cuセルシャッタを閉じるGaドープMg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶層成長工程と、Znセルシャッタ、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタを閉じ、Cuセルシャッタを開くCu付着工程とを交互に繰り返す。
【0100】
本図に示す例では、GaドープMg
xZn
1−xO単結晶層成長工程におけるZnセルシャッタの開期間が、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの開期間を含むように設定されている。具体的には、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの開閉は同時に行われ、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの開期間の前後に、Znセルシャッタの開期間が延長される。
【0101】
たとえば、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの1回当たりの開期間は10秒である。Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの開期間の前後にZnセルシャッタの開期間を1秒ずつ延長し、Znセルシャッタの1回当たりの開期間を12秒とする。Znセルシャッタ、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタがすべて開状態となる10秒間が、1回当たりのGaドープMg
xZn
1−xO単結晶層成長期間である。Cuセルシャッタの1回当たりの開期間は50秒である。
【0102】
次に、Cu、Ga共ドープp型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶層を備える、ダブルへテロ構造のZnO系半導体発光素子を製造する第2実施例及び第3実施例について説明する。
【0103】
図11Aは、第2実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。
【0104】
ZnO基板11上にZn及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのZnOバッファ層12を成長させた。一例として、成長温度を300℃、ZnフラックスF
Znを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとすることができる。ZnOバッファ層12の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で10分間のアニールを行った。
【0105】
ZnOバッファ層12上にZn、O及びGaを同時に供給し、たとえば成長温度900℃で、厚さ150nmのn型ZnO層13を成長させた。ZnフラックスF
Znを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー250W、O
2流量1.0sccm、Gaのセル温度を460℃とした。n型ZnO層13のGa濃度は、たとえば1.5×10
18cm
−3となる。
【0106】
n型ZnO層13上にZn、Mg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのn型MgZnO層14を成長させた。成長温度を900℃、ZnフラックスF
Znを0.1nm/s、MgフラックスF
Mgを0.025nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとすることができる。n型MgZnO層14のMg組成は、たとえば0.3である。
【0107】
n型MgZnO層14上にZn及びOを同時に供給し、たとえば成長温度900℃で、厚さ10nmのZnO活性層15を成長させた。ZnフラックスF
Znを0.1nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとした。
【0108】
なお、
図11Bに示すように、活性層15として、単層のZnO層ではなく、MgZnO障壁層15bとZnO井戸層15wが交互に積層された量子井戸構造を採用することができる。
【0109】
基板温度をたとえば250℃まで下げ、Gaドープn型MgZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に繰り返し、活性層15上に交互積層構造を形成した。交互積層構造形成に当たってのZnセル、Mgセル、Oセル、Gaセル、及びCuセルのシャッタシーケンスは、たとえば
図10に示すそれと同様である。
【0110】
たとえば、1回当たりのGaドープMgZnO単結晶層成長工程での成長期間を10秒とし、1回当たりのCu付着工程におけるCu供給期間を50秒とした。GaドープMgZnO単結晶層成長工程でのZnフラックスF
Znは0.15nm/s、MgフラックスF
Mgは0.04nm/s、Oラジカルビーム照射条件は、RFパワー300W、O
2流量2.0sccm、Gaのセル温度T
Gaは600℃である。VI/IIフラックス比は0.70となる。Cu供給工程でのCuのセル温度T
Cuは990℃とし、CuフラックスF
Cuを0.004nm/sとした。GaドープMgZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に60回ずつ繰り返し、厚さ140nmの交互積層構造を得た。
【0111】
図11Cは、交互積層構造16Aの概略的な断面図である。交互積層構造16Aは、GaドープMgZnO単結晶層16aとCu層16bが交互に積層された積層構造を有する。GaドープMgZnO単結晶層16aの厚さは2.3nm程度、Cu層16bの厚さは1原子層以下、たとえば約1/20原子層(GaドープMgZnO単結晶層16a表面のCu被覆率が5%程度)である。交互積層構造16Aはn型導電性を示し、ドナー濃度N
dは、たとえば1.0×10
21cm
−3である。
【0112】
次に、交互積層構造16Aに第1アニールを施した。第1アニールは、たとえばN
2雰囲気中、780℃で10分間実施した。第1アニールによって、交互積層構造16A内にCuとGaが拡散する。O、Zn及びMgがある程度結晶から脱離(蒸発)し、Zn及びMg位置をCuが置換しやすくなるため、Cuは高い割合でZn及びMg位置を置換する。Cuがp型不純物として機能する一方、ドナー源として作用するO空孔が生じ、交互積層構造16A形成位置は、交互積層構造16Aよりも高抵抗のn型またはp型層となる。
【0113】
更に、O
2雰囲気中、第2アニールを350℃で30分間実施した。第2アニールによって、O空孔が補完される。
【0114】
第1及び第2アニールによって、交互積層構造16A形成位置がp型化され、活性層15上にCu、Ga共ドープp型MgZnO層16が形成された。Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16のMg組成は、たとえば0.3である。
【0115】
なお、第2アニールを、たとえば流量1L/minの酸素(キャリアガス)に水蒸気を含ませ、350℃で30分間実施してもよい。
【0116】
その後、ZnO基板11の裏面にn側電極17nを形成し、Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16上にp側電極17pを形成する。また、p側電極17p上にボンディング電極18を形成する。たとえばn側電極17nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成し、p側電極17pは、大きさ300μm□で厚さ1nmのNi層上に、厚さ10nmのAu層を積層して形成することができる。ボンディング電極18は、大きさ100μm□で厚さ500nmのAu層で形成する。このようにして、第2実施例による方法でZnO系半導体発光素子が作製される。
【0117】
第2実施例においてはZnO基板11を用いたが、MgZnO基板、GaN基板、SiC基板、Ga
2O
3基板等の導電性基板を使用することが可能である。
【0118】
第2実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子のCu、Ga共ドープp型MgZnO層16は、CuとGaが共ドープされ、アクセプタ濃度N
aが10
20cm
−3オーダー以上、たとえば3.2×10
20cm
−3の高いアクセプタ濃度N
aを有するp型ZnO系半導体単結晶層である。Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16においては、Cu濃度[Cu]及びGa濃度[Ga]は、ともに層の厚さ方向にほぼ一定であり、Cu濃度[Cu]は、たとえば10
20〜10
21cm
−3オーダーである。Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16は、Cu濃度[Cu]とほぼ等しい、または1桁程度低いだけの、高アクセプタ濃度N
aを有するp型層である。
【0119】
第2実施例による製造方法によれば、Cu及びGaが層の厚さ方向の全体にわたって均一にドープされ、アクセプタ濃度の高いCu、Ga共ドープp型MgZnO層16を備えるZnO系半導体発光素子を製造することができる。
【0120】
図12は、第3実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。第1及び第2実施例においては導電性基板上に結晶成長し、層形成を行ったが、第3実施例では絶縁性基板上に結晶成長する。
【0121】
絶縁性基板であるc面サファイア基板21上にMg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ10nmのMgOバッファ層22を成長させる。一例として、成長温度を650℃、MgフラックスF
Mgを0.05nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとすることができる。MgOバッファ層22は、その上のZnO系半導体がZn面を表面として成長するように制御する極性制御層として機能する。
【0122】
MgOバッファ層22上に、たとえば成長温度300℃、ZnフラックスF
Znを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとして、Zn及びOを同時に供給し、厚さ30nmのZnOバッファ層23を成長させる。ZnOバッファ層23はZn面で成長する。ZnOバッファ層23の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で30分間のアニールを行う。
【0123】
ZnOバッファ層23上にZn、O及びGaを同時に供給し、たとえば厚さ1.5μmのn型ZnO層24を成長させる。一例として成長温度を900℃、ZnフラックスF
Znを0.05nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm、Gaのセル温度を480℃とする。
【0124】
n型ZnO層24上に、Zn、Mg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのn型MgZnO層25を成長させる。成長温度を900℃、ZnフラックスF
Znを0.1nm/s、MgフラックスF
Mgを0.025nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとすることができる。n型MgZnO層25のMg組成は、たとえば0.3である。
【0125】
n型MgZnO層25上に、たとえば厚さ10nmのZnO活性層26を成長させる。成長条件は、第2実施例における活性層15の場合と等しくすることができる。単層のZnO層のかわりに、量子井戸構造を採用してもよい。
【0126】
活性層26上にCu、Ga共ドープp型MgZnO層27を形成する。形成方法は、たとえば第2実施例におけるCu、Ga共ドープp型MgZnO層16のそれと等しい。
【0127】
第3実施例のc面サファイア基板21は絶縁性基板であるため、基板21裏面側にn側電極を取ることができない。そこでCu、Ga共ドープp型MgZnO層27の上面から、n型ZnO層24が露出するまでエッチングを行い、露出したn型ZnO層24上にn側電極28nを形成する。また、Cu、Ga共ドープp型MgZnO層27上にp側電極28pを形成し、p側電極28p上にボンディング電極29を形成する。
【0128】
n側電極28nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成し、p側電極28pは、厚さ0.5nmのNi層上に厚さ10nmのAu層を積層して形成することができる。ボンディング電極29は、厚さ500nmのAu層で形成する。このようにして、第3実施例による方法でZnO系半導体発光素子が作製される。
【0129】
第3実施例によるZnO系半導体発光素子のCu、Ga共ドープp型MgZnO層27は、第2実施例のCu、Ga共ドープp型MgZnO層16と同様の性質を有するp型ZnO系半導体単結晶層である。
【0130】
以上、実験及び実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されない。
【0131】
たとえば実験及び実施例においては、MBE装置の酸素源としてOラジカルを用いたが、オゾンやH
2O、アルコールなどの極性酸化剤等、酸化力の強い他のガスを使用することができる。
【0132】
また、実験及び実施例では、Gaドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層とCu層が交互に積層された構造に第1アニール及び第2アニールを行い、p型導電性を示すCu、Ga共ドープMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成(p型化)した。Cu(IB族元素)とGa(IIIB族元素)を含む交互積層構造がアニールされることで、CuがVIB族元素であるOと1価(Cu
+)の状態で結合しやすくなり、アクセプタとして機能する1価のCu
+が2価のCu
2+より生じやすくなる結果、交互積層構造がp型化すると考えられる。したがって、Cuにかえて、またはCuとともに、Cuと同様に複数の価数を形成しうるIB族元素であるAgを用いることができる。また、Gaに限らず、Gaと同じくIIIB族元素であるB、Al及びInを使用することができる。使用されるIIIB族元素は、B、Ga、Al及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素であればよい。
【0133】
更に、本願発明者らは、Gaドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層とCu層が交互に積層された構造だけでなく、Cu(IB族元素)とGa(IIIB族元素)を含む種々のn型ZnO系半導体単結晶構造を形成し、これにアニールを施すことによって、Cu(IB族元素)とGa(IIIB族元素)が共ドープされたp型ZnO系半導体層を形成する方法、及び、該p型ZnO系半導体層を用いてZnO系半導体素子を製造する方法に関し、複数の提案を行っている。これらの提案においてアニール対象とされるn型ZnO系半導体単結晶構造も、第1アニール及び第2アニールを行うことで、高アクセプタ濃度N
aを有するp型ZnO系半導体層とすることができる。
【0134】
図13A〜
図13Dは、第1アニール及び第2アニールを行うことで、高いアクセプタ濃度N
aを有するp型ZnO系半導体単結晶層を形成可能なn型ZnO系半導体単結晶構造の例を示す概略的な断面図である。
【0135】
図13Aは、Cuドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層61aとGa層61bが交互に積層された交互積層構造61Aを示す(たとえば特願2013−036824号参照)。
【0136】
交互積層構造61Aは、たとえば(i)Zn、(ii)O、(iii)必要に応じてMg、(iv)Cuまたは/及びAgであるIB族元素を供給して、IB族元素がドープされたMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素を供給する工程を交互に繰り返して形成することが可能である。
【0137】
図13Bは、n型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層62a、Cu層62b、n型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層62a、Ga層62cがこの順に交互に積層された交互積層構造62Aを示す(たとえば特願2013−085380号参照)。
【0138】
交互積層構造62Aは、たとえば第1のMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、第1のMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、Cuまたは/及びAgであるIB族元素を含むIB族元素層を形成する工程と、IB族元素層上に、第2のMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、第2のMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素を含むIIIB族元素層を形成する工程を繰り返して形成することが可能である。
【0139】
図13Cは、n型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層63aとCu、Ga層63bが交互に積層された交互積層構造63Aを示す(たとえば特願2013−085381号参照)。
【0140】
交互積層構造63Aは、たとえばMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、Cuまたは/及びAgであるIB族元素と、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素とを供給する工程を交互に繰り返して形成することが可能である。
【0141】
図13Dは、Cuドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層64aとGaドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層64bが交互に積層された交互積層構造64Aを示す(たとえば特願2013−138550号参照)。
【0142】
交互積層構造64Aは、たとえばCuまたは/及びAgであるIB族元素がドープされた第1のMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程と、第1のMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層上に、B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素がドープされた第2のMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する工程を交互に繰り返して形成することが可能である。
【0143】
これらの構造に対しても第1アニール及び第2アニールを行うことにより、高いアクセプタ濃度、たとえば10
20cm
−3オーダー以上のアクセプタ濃度N
aを有するCu(IB族元素)、Ga(IIIB族元素)共ドープp型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成することができる。形成されるCu、Ga共ドープp型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層は、たとえばCu濃度[Cu]とほぼ等しい、または1桁程度低いだけの、高アクセプタ濃度N
aを有するp型層である。
【0144】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。