特許第6231857号(P6231857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231857眼房水中アルブミンに結合親和性を有する薬剤の効果を増強する眼科用組み合わせ剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231857
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】眼房水中アルブミンに結合親和性を有する薬剤の効果を増強する眼科用組み合わせ剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20171106BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/5575 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/403 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/402 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171106BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   A61K45/06
   A61P27/02
   A61K31/196
   A61K31/19
   A61K31/5575
   A61K31/192
   A61K31/403
   A61K31/381
   A61K31/195
   A61K31/551
   A61K31/402
   A61K31/404
   A61K31/20
   A61P27/06
   A61P29/00
   A61P43/00 121
   G01N33/53 D
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-234147(P2013-234147)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2014-114279(P2014-114279A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2016年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-249180(P2012-249180)
(32)【優先日】2012年11月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515268906
【氏名又は名称】▲高▼村 徳人
(73)【特許権者】
【識別番号】516186371
【氏名又は名称】尾崎 峯生
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 徳人
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 峯生
(72)【発明者】
【氏名】大崎 卓
(72)【発明者】
【氏名】緒方 賢次
(72)【発明者】
【氏名】徳永 仁
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 奈央
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−528826(JP,A)
【文献】 特表2004−509639(JP,A)
【文献】 特表2009−514969(JP,A)
【文献】 特表2005−534001(JP,A)
【文献】 特開2008−143856(JP,A)
【文献】 臨床病理,2008年,56巻 5号,pp.409-415
【文献】 YAKUGAKU ZASSHI,2007年,Vol.127(11),pp.1805-1811
【文献】 九州薬学会会報,2003年,第57号,第19〜27頁
【文献】 Biochem. J.,1972年,Vol.130,pp.631-636
【文献】 日医大医会誌,2012年 4月,Vol.8(2),pp.134-142
【文献】 Biochem. J.,1983年,Vol.213,pp.387-390
【文献】 Biochem. J.,1991年,Vol.273,pp.641-644
【文献】 日薬理誌,2009年,Vol.134,pp.78-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/06
A61K 31/19
A61K 31/192
A61K 31/195
A61K 31/196
A61K 31/20
A61K 31/381
A61K 31/402
A61K 31/403
A61K 31/404
A61K 31/551
A61K 31/5575
A61P 27/02
A61P 27/06
A61P 29/00
A61P 43/00
G01N 33/48
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロピルウノプロストンである第一の薬剤、および
ジクロフェナク、脂肪酸、フルルビプロフェン、イブプロフェン、6-メトキシ-2-ナフタレン酢酸、ナプロキセン、ケトプロフェン、カルプロフェン、スプロフェン、プロペネシド、ジアゼパム、ダンシルサルコシン、ダンシル−L−プロリン、およびインドキシル硫酸から選択される第二の薬剤
を別個の製剤中に含む眼科用組み合わせ剤であって、
第一の薬剤の投与前に第二の薬剤が投与される、組み合わせ剤。
【請求項2】
第二の薬剤が、中鎖脂肪酸、フルルビプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、6-メトキシ-2-ナフタレン酢酸、カルプロフェン、スプロフェン、およびイブプロフェンから選択される、請求項1に記載の組み合わせ剤。
【請求項3】
中鎖脂肪酸が、カプリル酸およびカプリン酸から選択される、請求項2に記載の組み合わせ剤または眼科用製剤。
【請求項4】
イソプロピルウノプロストンである第一の薬剤を含む眼科用製剤であって、
ジクロフェナク、脂肪酸、フルルビプロフェン、イブプロフェン、6-メトキシ-2-ナフタレン酢酸、ナプロキセン、ケトプロフェン、カルプロフェン、スプロフェン、プロペネシド、ジアゼパム、ダンシルサルコシン、ダンシル−L−プロリン、およびインドキシル硫酸から選択される第二の薬剤を含む眼科用製剤が投与された後に投与されることを特徴とする、眼科用製剤。
【請求項5】
第二の薬剤が、中鎖脂肪酸、フルルビプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、6-メトキシ-2-ナフタレン酢酸、カルプロフェン、スプロフェン、およびイブプロフェンから選択される、請求項4に記載の眼科用製剤。
【請求項6】
中鎖脂肪酸が、カプリル酸およびカプリン酸から選択される、請求項5に記載の眼科用製剤。
【請求項7】
体液中のアルブミンの特殊性を調べる方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)対象とするアルブミンを、以下のサイトプローブとそれぞれ接触させる工程:
(a)第一のサイトプローブ、および
(b)第一のサイトプローブと同じ結合部位に結合親和性を有し、第一のサイトプローブとは異なる血清アルブミンに対する結合定数を有する第二のサイトプローブ、
(2)第一のサイトプローブとの結合性を、第二のサイトプローブとの結合性と比較する工程、
ここで、結合定数の高いサイトプローブの結合性が、結合定数の低いサイトプローブの結合性より低かった場合、前記アルブミンは特殊なアルブミンまたは特殊な環境下のアルブミンと判断される。
【請求項8】
第一および第二のサイトプローブの濃度が、アルブミンの濃度の1/5以下である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
第二のサイトプローブの血清アルブミンに対する結合定数が、第一のサイトプローブの結合定数よりも2倍以上高い、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
第一のサイトプローブ、および
第一のサイトプローブと同じ結合部位に結合親和性を有し、第一のサイトプローブとは異なる血清アルブミンに対する結合定数を有する第二のサイトプローブ
を含む、請求項7〜9のいずれかに記載の方法を実施するためのキット。
【請求項11】
サイトプローブがサイトIプローブおよびサイトIIプローブから選択される、請求項10に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼房水中アルブミンに結合親和性を有する薬剤の効果を増強する眼科用組み合わせ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内における薬理効果の強弱は、標的組織への遊離型薬物の移行量に大きく依存する。その主要な調節因子のひとつが血漿蛋白質である。吸収された薬物は循環血中に移行したのち、様々な血漿蛋白質と結合する。これまでに、血漿蛋白質と薬物との結合を阻害して遊離型薬物濃度を高めることにより、薬物の効果を増強することが報告されている(特許文献1)。
【0003】
眼房水においてもアルブミンなどの蛋白質が存在することが報告されている。眼房水中アルブミンと結合した薬物は、眼内で効果を発現することもできずシュレム管より全身の血液中に排出される。また、アルブミン量は疾患の重症度や個体差により大きく変化することが予測されるため、患者個々での薬剤の効果に大きな差が出る可能性がある。しかしながら、眼房水中アルブミンと点眼薬物との結合を調べた報告は皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報第00/078352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、眼内に投与される薬剤の効果を高める方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下を提供する:
1.眼房水中アルブミンに結合親和性を有する第一の薬剤、および
第一の薬剤と同じ眼房水中アルブミンの結合部位に結合親和性を有する第二の薬剤
をそれぞれ別個の製剤中に含む眼科用組み合わせ剤であって、
第一の薬剤の投与前に第二の薬剤が投与される、組み合わせ剤。
2.第一の薬剤が、ジクロフェナクである、前記1記載の組み合わせ剤。
3.第一の薬剤が、イソプロピルウノプロストンである、前記1記載の組み合わせ剤。
4.第二の薬剤が、中鎖脂肪酸、フルルビプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、6-メトキシ-2-ナフタレン酢酸、カルプロフェン、スプロフェン、およびイブプロフェンから選択される、前記1〜3のいずれか記載の組み合わせ剤。
5.中鎖脂肪酸が、カプリル酸およびカプリン酸から選択される、前記4記載の組み合わせ剤。
6.体液中のアルブミンの薬物に対する結合性を調べる方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)対象とするアルブミンを、第一のサイトプローブと接触させる工程、
(2)第一のサイトプローブと接触させたアルブミンを、第一のサイトプローブと同じ結合部位に結合親和性を有し、第一のサイトプローブとは異なる第二のサイトプローブと接触させる工程、および
(3)第一のサイトプローブの遊離濃度を測定する工程。
7.体液中のアルブミンの薬物に対する結合性を調べる方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)対象とするアルブミンを、以下のサイトプローブとそれぞれ接触させる工程:
(a)第一のサイトプローブ、および
(b)第一のサイトプローブと同じ結合部位に結合親和性を有し、第一のサイトプローブとは異なる血清アルブミンに対する結合定数を有する第二のサイトプローブ、
(2)第一のサイトプローブとの結合性を、第二のサイトプローブとの結合性と比較する工程。
8.第一のサイトプローブ、および
第一のサイトプローブと同じ結合部位に結合親和性を有し、第一のサイトプローブとは異なる第二のサイトプローブ
を含む、前記6記載の方法を実施するためのキット。
9.第一のサイトプローブ、および
第一のサイトプローブと同じ結合部位に結合親和性を有し、第一のサイトプローブとは異なる血清アルブミンに対する結合定数を有する第二のサイトプローブ
を含む、前記7記載の方法を実施するためのキット。
10.サイトプローブがサイトIプローブおよびサイトIIプローブから選択される、前記8または9記載のキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、眼内に投与される薬剤の効果を単独で投与した場合よりも増強することができ、より効果的な眼科用組み合わせ剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】眼房水中アルブミンに対するサイトIプローブおよびサイトIIプローブの結合性。
図2】血清アルブミンに対するサイトIプローブおよびサイトIIプローブの結合性。
図3】眼房水中アルブミンとジクロフェナクの結合に対するカプリン酸の影響。
図4】眼房水中アルブミンとジクロフェナクの結合に対する各種サイトIプローブおよびサイトIIプローブの影響。
図5】イブプロフェンによる眼房水中アルブミンとフルルビプロフェンの結合阻害。
図6】血清アルブミン(HSA)におけるジクロフェナクの結合サイトの同定。
図7】血清アルブミンとジクロフェナクの結合に対する中鎖脂肪酸および長鎖脂肪酸の影響。
図8】血清アルブミンとジクロフェナクの結合に対するサイトIIプローブであるフルルビプロフェンとイブプロフェンの影響。
図9】血清アルブミンとフルルビプロフェンの結合に対するイブプロフェンの影響。
図10】血清アルブミンとワルファリンの結合に対するフェニルブタゾンの影響。
図11】血清アルブミンとワルファリンの結合に対するイソプロピルウノプロストン(IU)およびその活性代謝物(IUM1)の影響。
図12】血清アルブミンとジアゼパムの結合に対するイソプロピルウノプロストン(IU)およびその活性代謝物(IUM1)の影響。
図13】眼房水中アルブミン、血清アルブミン、および希釈血清とワルファリンの結合に対するフェニルブタソンの影響。左:眼房水中アルブミン、中央:血清アルブミン、右:希釈血清。
図14】眼房水中アルブミン、血清アルブミン、および希釈血清とフルルビプロフェンの結合に対するイブプロフェンの影響。左:眼房水中アルブミン、中央:血清アルブミン、右:希釈血清。
図15】眼房水中アルブミン、血清アルブミン、および希釈血清とジクロフェナクの結合に対するフルルビプロフェンの影響。左:眼房水中アルブミン、中央:血清アルブミン、右:希釈血清。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.眼科用組み合わせ剤
本発明は、眼房水中アルブミンに結合親和性を有する第一の薬剤、および、第一の薬剤と同じ眼房水中アルブミンの結合部位に結合親和性を有する第二の薬剤をそれぞれ別個の製剤中に含む眼科用組み合わせ剤であって、第一の薬剤の投与前に第二の薬剤が投与される組み合わせ剤に関する。眼房水中アルブミンに結合親和性を有する第一の薬剤の投与前に,共通の眼房水中アルブミンの結合部位に結合親和性を有する第二の薬剤を投与すると,第二の薬剤の眼房水中アルブミンへの結合により第一の薬剤の眼房水中アルブミンへの結合が阻害され、第一の薬剤の遊離濃度が上昇し、第一の薬剤を単独で投与した場合よりも高い効果を得ることができる。
【0010】
本明細書において、サイトプローブまたはサイト薬物とは、アルブミンの薬物結合部位に結合する薬物を意味する。眼房水中アルブミンの代表的な薬物結合部位としては、サイトIおよびサイトIIが存在する。本明細書において、サイトIに結合親和性を有する薬剤は、サイトIプローブまたはサイトI薬物とも称し、サイトIIに結合親和性を有する薬剤は、サイトIIプローブまたはサイトII薬物とも称する。
【0011】
本発明において,眼房水中アルブミンに結合親和性を有する第一の薬剤は,投与の目的に沿った薬剤であれば治療薬または診断薬のいずれでもよい。第二の薬剤は,治療あるいは診断目的とは関係なく、第一の薬剤またはその活性本体(代謝物)と眼房水中アルブミンに対する結合部位が共通し、第一の薬剤またはその活性本体の眼房水中アルブミンへの結合を阻害するものであればよい。第一の薬剤が眼房水中アルブミンの複数の異なる結合部位に結合親和性を有する場合、複数の第二の薬剤を用いても良い。さらに、第二の薬剤は、その本来の薬理作用が臨床的に許容されるものであること、常用量の範囲が広く、服用後の血中濃度が高く維持できること等を考慮して選択すればよい。
【0012】
眼房水中アルブミンのサイトIに結合親和性を有する薬剤としては、フェニルブタゾン、ワルファリン、バルプロ酸、アスピリン、ブコローム、セファゾリン、サリチル酸、セフトリアキソン、スルファメチゾール、カンレノン酸、ブメタニド、ピレタニド、バルサルタン、ダンシル−L−アスパラギン等が挙げられる。サイトIIに結合親和性を有する薬剤としては、ジクロフェナク、イソプロピルウノプロストン、脂肪酸、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ナブメトンの主代謝物(6-メトキシ-2-ナフタレン酢酸(6-methoxy-2-naphthylacetic acid:6MNA))、ナプロキセン、ケトプロフェン、カルプロフェン、スプロフェン、プロペネシド、ジアゼパム、ダンシルサルコシン、ダンシル−L−プロリン、インドキシル硫酸等が挙げられる。本発明に好適な脂肪酸は中鎖脂肪酸および長鎖脂肪酸であり、なかでも中鎖脂肪酸が好適である。中鎖脂肪酸として、例えば、カプリル酸およびカプリン酸が挙げられる。
【0013】
好ましい態様において、第一の薬剤はジクロフェナクであり、第二の薬剤は中鎖脂肪酸である。
【0014】
別の好ましい態様において、第一の薬剤はイソプロピルウノプロストンであり、第二の薬剤は中鎖脂肪酸である。
【0015】
第一の薬剤および第二の薬剤の投与量、および第一の薬剤と第二の薬剤の投与時期は、第二の薬剤による第一の薬剤の眼房水中アルブミンへの結合阻害、および第一の薬剤の治療薬または診断薬としての所望の作用が得られるように、適宜選択される。
【0016】
本発明の眼科用組み合わせ剤のそれぞれの製剤は、それぞれ独立して溶液、乳液または懸濁液のような液体、またはゲル、眼軟膏のような半固体の形をとることができる。
【0017】
水性の溶液剤、懸濁剤用希釈剤としては、蒸留水、生理食塩水が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤用希釈剤としては、植物油、流動パラフィン、鉱物油、プロピレングリコール、p−オクチルドデカノール等がある。また涙液と等張にすることを目的として塩化ナトリウム、ほう酸、クエン酸ナトリウム等の等張化剤、pHを例えば5.0〜8.0程度に一定に保持することを目的としてほう酸緩衝液、りん酸緩衝液等の緩衝剤を加えることができる。さらに、亜硫酸ナトリウム、プロピレングリコール等の安定剤、エデト酸ナトリウム等のキレート剤、グリセリン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー等の増粘剤、メチルパラベン、ピロピルパラベン等の防腐剤を含んでいてもよい。
【0018】
眼軟膏は、ワセリン、ゼレン50、プラスチベース、マクロゴール等を基剤とし、親水性を高めることを目的として界面活性剤を加えることができる。また、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシビニルポリマーなどのゼリー剤等を含んでいてもよい。
【0019】
本発明はまた、眼房水中アルブミンに結合親和性を有する第一の薬剤を含有する眼科用製剤であって、第一の薬剤と同じ眼房水中アルブミンの結合部位に結合親和性を有する第二の薬剤を含む眼科用製剤が投与された後に投与されることに特徴付けられる眼科用製剤に関する。
【0020】
本発明はさらに、眼房水中アルブミンに結合親和性を有する第一の薬剤と同じ眼房水中アルブミンの結合部位に結合親和性を有する第二の薬剤を含有する眼科用製剤であって、第一の薬剤を含有する眼科用製剤の投与に先だって投与されることに特徴付けられる眼科用製剤に関する。
【0021】
2.体液中のアルブミンの薬物に対する結合性を調べる方法
採取可能な体液(眼房水、血清等)中には必ずアルブミンが存在する。アルブミンの薬物に対する結合は、1)結合部位が同じであれば必ず置換現象が生じる、2)アルブミンの同一結合部位に結合するサイトプローブ(サイト薬物)であれば必ず結合定数の高い方が強く結合する(結合定数の高いサイトプローブは必ず遊離率が低くなる)、という性質を示す。したがって、上記の1)あるいは2)にしたがわないアルブミンは特殊な性質を有するアルブミンあるいは特殊な環境下のアルブミンであると判断することができる。
【0022】
上記1)の性質を有するか否かは、
(1)対象とするアルブミンを、第一のサイトプローブと接触させる、
(2)第一のサイトプローブと接触させたアルブミンを、第一のサイトプローブと同じ結合部位に結合親和性を有し、第一のサイトプローブとは異なる第二のサイトプローブと接触させる、および
(3)第一のサイトプローブの遊離濃度を測定する
ことにより調べることができる。第一のサイトプローブの遊離濃度が増加すれば置換現象が生じたということであり、対象とするアルブミンが上記1)の性質を有することがわかる。一方、遊離濃度が増加しなかった場合、対象とするアルブミンは上記1)の性質を有さないことがわかる。本方法においては、通常、第一のサイトプローブの濃度はアルブミン濃度の1/5以下、第二のサイトプローブの濃度はアルブミン濃度の2/3以上とすればよい。一般的に、タンパク結合で問題となる薬物の結合定数は1.0×105 M-1以上であるため、第一のサイトプローブの結合定数にもよるが、本方法においては1.0×105 M-1以上の結合定数を有する第二のサイトプローブが特に好適である。
【0023】
上記2)の性質を有するか否かは、
(1)対象とするアルブミンを、以下のサイトプローブとそれぞれ接触させる:
(a)第一のサイトプローブ、および
(b)第一のサイトプローブと同じ結合部位に結合親和性を有し、第一のサイトプローブとは異なる血清アルブミンに対する結合定数を有する第二のサイトプローブ、
(2)第一のサイトプローブとの結合性を、第二のサイトプローブとの結合性と比較する、
ことにより調べることができる。血清アルブミンに対する結合定数の高いサイトプローブが結合定数の低いサイトプローブよりも対象とするアルブミンに強く結合する場合、対象とするアルブミンは上記2)の性質を有することがわかる。比較の容易性のため、第二のサイトプローブの血清アルブミンに対する結合定数は、第一のサイトプローブの結合定数よりも2倍以上高いことが好ましい。また、第一および第二のサイトプローブの濃度は、アルブミン濃度の1/5以下にすることが好ましい。これにより、各サイトプローブによる相互の置換現象(阻害)が生じず、1つの眼房水サンプル等に全てのサイトプローブを一度に添加し、試験することができる。アルブミンとして眼房水中アルブミンを用いる場合、各サイトプローブの結合定数は1.0×105 M-1-5.0×107 M-1の範囲であることが好ましい。
【0024】
本発明の方法は、サイトIプローブまたはサイトIIプローブのいずれについても行うことができる。サイトIプローブまたはサイトIIプローブとしては、本発明の眼科用組み合わせ剤にについて記載したものが挙げられる。
【0025】
本発明の方法を実施するためのキットは、第一および第二のサイトプローブを含み、第一および第二のサイトIプローブ、並びに第一および第二のサイトIIプローブの全てを含んでいてもよい。
【0026】
生体内の様々な場所に存在する体液や、病態時のみに生じてくる体液(腹水や胸水など)を対象に本発明の方法を実施することで、それぞれの体液中に含まれるアルブミンの性質の特殊性、あるいはそのアルブミンが特殊な環境下のアルブミンであるかどうかを判断することができる。本発明の方法は、病態診断のための検査法となりうる。
【実施例】
【0027】
I.眼房水中アルブミンと薬物との結合
1.方法
1)各患者由来の眼房水サンプルにおける眼房水中アルブミン濃度の測定
白内障患者26人から採取した眼房水サンプル各20μLを、pH=7.4 リン酸バッファー 60μLにて4倍希釈し、そのすべてを『コバス用消耗品 コバスカップwith HOLE』に移し、『コバス コバス試薬 U-ALBII』を試薬として用い『コバス インテグラ400プラス』で測定を行った。

使用した機器
・ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社 ディスクリート方式臨床化学自動分析装置
『コバス インテグラ400プラス』

使用した試薬
・ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社 コバスシステム アルブミンキット
『コバス コバス試薬 U-ALBII』
【0028】
2)各患者由来の眼房水サンプルにおけるジクロフェナク濃度の測定
(i)検量線試料は、血清をアルブミン濃度が2μMになるように67mM リン酸バッファー(pH=7.4)で希釈し調製した。その調製液40μLに対しジクロフェナクを0.5、1.0、1.5μMになるように添加し、内部標準用試料(IS)である4−ヒドロキシ安息香酸ヘキシルも24μMになるように添加した。眼房水サンプル40μLに対しても4−ヒドロキシ安息香酸ヘキシルを24μMになるように添加した。
(ii)眼房水サンプルと(i)の検量線試料各40μLに対し、3N塩酸を各200μL、シクロヘキサンを各2.5mL添加した。これを10分振とうした後、4000rpm、10分間遠心分離し、有機層を2mLずつ採取して減圧吸引し乾固させた。
(iii)(ii)の抽出物に移動相を120μL添加して調製し、このうち50μLをHPLCに注入し測定した。移動相については、精製水1291.7mL+アセトニトリル1200mL+メタノール250mL+酢酸8.3mLで調製したもの(全量2750mLとして調製)を使用した。流速は1mL/minで行った。UV検出器は島津製作所『SPD-10Avp』を使用し、波長は275nmで測定した。測定用プログラムは島津製作所『LCsolution』を使用した。
(iv)検量線用試料の、ジクロフェナクとISのピークの面積の比から検量線を作成し、各眼房水サンプルの結果から総ジクロフェナク濃度を算出した。
抽出に使用した機器
・東京理科器械『遠心エバポレーター CVE−200D』
・タイテック『レシプロシェーカー SR-2w』
・久保田製作所『ユニバーサル冷却遠心機 5922』
【0029】
3)各患者由来の眼房水サンプルにおける眼房水中アルブミンとジクロフェナクの結合性
(i)67mM リン酸バッファー(pH=7.4)にジクロフェナクを0.01、0.02、0.03、0.04、0.05μM(もしくは0.03、0.05、0.07、0.09、0.11μM)になるように添加した。これら5サンプルを検量線試料とした。
(ii)限外濾過器の膜洗浄は『ミニセント−10』に蒸留水を各500μLいれ、3700rpm、5分の条件で限外ろ過して行った。この操作を2回繰り返した後、蒸留水が入っていない状態で1回限外ろ過してろ過膜の水分を除去し、限外濾過器のカップ部分を蒸留水で洗浄して、限外濾過器の膜とカップ部分を1時間程度乾燥させた。
(iii)各眼房水サンプル50μLを、限外濾過器にいれ、3500rpm、7〜9分限外ろ過し、ろ液を得た。(i)の検量線用試料も同様の処理をした。
(iv)(iii)のろ液15μLをHPLCに注入し測定した。移動相は、水987.5mL+アセトニトリル1500mL+メタノール250mL+酢酸12.5mLで調製したもの(全量2750mLとして調製)を使用した。流速は1mL/minで行った。UV検出器は島津製作所『SPD-20A』を使用し、波長は275nmとした。測定用プログラムは、島津製作所『CLASS-VP Ver.6.1』を使用した。
(v)検量線用試料の結果をもとに検量線を作成し、各眼房水サンプルの結果から遊離のジクロフェナク濃度を算出した。
【0030】
4)眼房水中アルブミンまたは血清アルブミンとサイトプローブとの結合性
(i)眼房水中アルブミン
各患者から採取した眼房水サンプルを複数混合してプール眼房水とした。プール眼房水のアルブミン濃度および総ジクロフェナク濃度は、測定していた個々の眼房水サンプルのデータから算出した。プール眼房水を約60〜75μLに分注し(眼房水の量は同一系の実験では同一である)、実験目的に応じてサイトプローブとして機能する薬剤を添加し、さらにサイトプローブ阻害物質を添加した。サンプルを3500rpm、7〜9分(限外ろ過の時間は同一系の実験では同一である)で限外ろ過し、ろ液中の遊離のサイトプローブの濃度をHPLCで測定した。
【0031】
(ii)血清アルブミン
ヒトアルブミン粉末を、所定の濃度(実験目的により異なるが、基本的に同時に測定する眼房水中アルブミン濃度と同一濃度)となるように、pH=7.4、67mMリン酸バッファーで溶解した(以下、血清アルブミンと称す)。血清も同様のバッファーで希釈した(以下、希釈血清と称す)。サンプルに、サイトプローブとして機能する薬剤を添加し、さらにサイトプローブ阻害物質を添加した。サンプルを3500rpm、7〜9分で限外ろ過した(限外ろ過の時間は同一系の実験では同一である)のち、ろ液中の遊離のサイトプローブの濃度をHPLCで測定した。サイトIプローブであるフェニルブタゾンとワルファリン、および、サイトIIプローブであるフルルビプロフェンとジクロフェナクは、下記のHPLCの機器と条件にて同時定量できる。
【0032】
(iii)使用した機器
島津製作所 島津高速液体クロマトグラフ
・送液ユニット:島津製作所『LC-10ADvp』
・UV検出器:島津製作所『SPD-20A』
・デガッサー:島津製作所『DGU-14A』
・システムコントローラー:島津製作所『SCL-10Avp』
・カラムオーブン:島津製作所『CTO-10Avp』
・測定プログラム:島津製作所『CLASS-VP Ver.6.1』
HPLC条件
移動相:水987.5mL+アセトニトリル1500mL+メタノール250mL+酢酸12.5mL(全量2750mLとして調製)
カラム:関東化学株式会社『Hiber RT 250-4.0 LiChrosorb RP-18(7μm)』
UV検出器波長:275nm
流速:1mL/min
【0033】
2.結果
1)眼房水中アルブミン濃度
採取した眼房水中のアルブミン濃度は0.3〜0.6μMであり、個体間の差が大きいことが分かった。
【0034】
2)眼房水中ジクロフェナク濃度
採取した眼房水中のジクロフェナク濃度は0.03〜1.06μMであり、個体間の差が大きいことが分かった。
【0035】
3)眼房水中アルブミンとジクロフェナクの結合性
ジクロフェナクの眼房水中アルブミンとの結合率は30〜90%であり、個体間の差は大きいものの高い結合率を有する患者も存在することが明らかとなった。
【0036】
4)眼房水中アルブミンおよび血清アルブミンに対するサイトIプローブおよびサイトIIプローブの結合性の比較
図1および図2に示すように、眼房水中アルブミンとサイトIプローブおよびサイトIIプローブの結合率の大小(図1)は、血清アルブミンと各サイトプローブの結合定数の大小(図2)に一致した。このことより、血清アルブミンに結合するサイトIプローブおよびサイトIIプローブは眼房水中のアルブミンに間違いなく結合していることが分かった。
なお、血清アルブミンにおけるサイトIプローブであるフェニルブタゾンとワルファリンの結合定数は、フェニルブタゾン(7.0×105 M-1)の方がワルファリン(1.5×105 M-1)より大きい。また、血清アルブミンにおけるサイトIIプローブであるフルルビプロフェンとジクロフェナクの結合定数はフルルビプロフェン(3.6×107 M-1)の方がジクロフェナク(3.3×106 M-1)より大きい。

実験条件
アルブミン濃度:1.87μM
フェニルブタゾン濃度:0.4μM
ワルファリン濃度:0.4μM
フルルビプロフェン濃度:0.4μM
ジクロフェナク濃度:0.4μM
【0037】
5)眼房水中アルブミンとジクロフェナクの結合に対するカプリン酸の影響
ジクロフェナクの血清アルブミンへの結合は中鎖脂肪酸により強い結合阻害を受ける(「II.血清アルブミンと薬物との結合」参照)ことから、ジクロフェナクの眼房水中アルブミンへの結合に対するカプリン酸の影響を調べた。
図3に示されるように、眼房水中アルブミンに結合したジクロフェナクはカプリン酸により結合阻害を受けなかった。

実験条件
アルブミン濃度:1.87μM
ジクロフェナク濃度:0.4μM
カプリン酸濃度:1.87μM
【0038】
6)眼房水中アルブミンとジクロフェナクの結合に対する各種サイトIプローブおよびサイトIIプローブの影響
ジクロフェナクの血清アルブミンへの結合は、サイトIIプローブであるフルルビプロフェンやイブプロフェンにより強い結合阻害を受ける(「II.血清アルブミンと薬物との結合」参照)。そこで、フルルビプロフェンやイブプロフェンによるジクロフェナクの眼房水中アルブミンへの結合に対する影響を調べた。加えて、サイトIプローブであるフェニルブタゾンについても同様のことを調べた。
図4に示されるように、ジクロフェナクの眼房水中アルブミンへの結合は、サイトIIプローブであるフルルビプロフェンやイブプロフェンにより結合阻害を受けなかった。さらに、サイトIプローブであるフェニルブタゾンにも結合阻害を受けなかった。この結果から、点眼されたジクロフェナクの眼房水中アルブミンへの結合は、サイトIプローブおよびIIプローブにより置換できないことが判明した。眼房水中アルブミンへ一旦結合した目的薬物は、結合阻害しにくい性質があることが推察された。

実験条件
アルブミン濃度:1.86μM
フルルビプロフェン濃度:1.2μM
フェニルブタゾン濃度:2.0μM
イブプロフェン濃度:2.0μM
ジクロフェナク濃度:0.19μM
プローブ添加順:フルルビプロフェン→イブプロフェン
【0039】
7)眼房水中アルブミンに対する目的薬物の結合阻害
上記6)の結果より、眼房水中アルブミンにおいては、一旦結合した薬物は結合阻害しにくい性質があることが推察された。プール房水中には既にジクロフェナクが含まれていることから、眼房水に含まれていないサイトII薬物であるフルルビプロフェンを用い、結合阻害物質としてサイトII薬物であるイブプロフェンを用いて、先に、イブプロフェンを添加し、一時間後にフルルビプロフェンを添加する阻害実験を行った。
図5に示されるように、イブプロフェンの添加によりサンプル中の遊離のフルルビプロフェン濃度は1.43倍増加し、フルルビプロフェンの眼房水中アルブミンへの結合はイブプロフェンにより阻害された。この結果から、目的薬物の眼房水アルブミンへの結合を阻害するためには、目的薬物と同じ結合サイトに結合する阻害物質を先に添加する必要があることが明らかとなった。

実験条件
アルブミン濃度:1.86μM
フルルビプロフェン濃度:1.2μM
イブプロフェン濃度:4.0μM
ジクロフェナク濃度:0.19μM
プローブ添加順:イブプロフェン→フルルビプロフェン(イブプロフェン添加して45分後にフルルビプロフェンを添加。)
【0040】
II.血清アルブミンと薬物との結合
上記Iと同様にして、血清アルブミンと薬物との結合を検討した。
1)血清アルブミンとジクロフェナクとの結合性
図6に示されるように、ジクロフェナクの血清アルブミンに対する結合はサイトIIプローブ(イブプロフェン、フルルビプロフェン)によって阻害されたが、サイトIプローブ(ワルファリン、フェニルブタゾン)によっては阻害されなかった。これら結果は、ジクロフェナクがサイトIIに結合していることを示す。

実験条件
アルブミン濃度:4.0μM
ジクロフェナク濃度:1.0μM
ワルファリン濃度:3.0μM
フェニルブタゾン濃度:3.0μM
フルルビプロフェン濃度:3.0μM
イブプロフェン濃度:3.0μM
【0041】
2)血清アルブミンとジクロフェナクの結合に対する中鎖脂肪酸および長鎖脂肪酸の影響
図7に示されるように、ジクロフェナクの血清アルブミンへの結合は、中鎖脂肪酸(カプリル酸およびカプリン酸)および長鎖脂肪酸(オレイン酸)により結合阻害を受けた。ジクロフェナク結合阻害は、中鎖脂肪酸のほうが長鎖脂肪酸より強かった。

実験条件
アルブミン濃度:3.0μM
ジクロフェナク濃度:1.0μM
n-カプリル酸濃度:3.0、6.0μM
カプリン酸濃度:3.0、6.0μM
オレイン酸濃度:3.0、6.0μM
【0042】
3)血清アルブミンとジクロフェナクの結合に対するサイトIIプローブの影響
図8に示されるように、ジクロフェナクはフルルビプロフェンやイブプロフェンにより強い結合阻害を受けた。阻害率は、血清アルブミン濃度が低下するにつれ低下した。

実験条件
アルブミン濃度:4.0、3.0、2.0、1.0、0.75μM
フルルビプロフェン濃度:4.0、3.0、2.0、1.0、0.75μM
イブプロフェン濃度:4.0、3.0、2.0、1.0、0.75μM
ジクロフェナク濃度:0.5μM
【0043】
4)血清アルブミンとフルルビプロフェンの結合に対するイブプロフェンの影響、および血清アルブミンとワルファリンの結合に対するフェニルブタゾンの影響
図9および10に示されるように、血清アルブミン(3.0μM)に対するサイトIIプローブであるフルルビプロフェン(1.2μM)の結合は、同じくサイトIIプローブであるイブプロフェン(3.0μM)により著しく阻害された。サイトIプローブであるワルファリン(0.3μM)の結合は、同じくサイトIプローブであるフェニルブタゾン(3.0μM)により著しく阻害された。

実験条件
アルブミン濃度:3.0μM
ワルファリン濃度:0.3μM
フルルビプロフェン濃度:1.2μM
フェニルブタゾン濃度:3.0μM
イブプロフェン濃度:3.0μM
プローブ添加順:ワルファリン→フェニルブタソン、またはフルルビプロフェン→イブプロフェン
【0044】
5)血清アルブミンとイソプロピルウノプロストンまたはその活性代謝物の結合性
血清アルブミンとサイトIプローブであるワルファリンの結合、および血清アルブミンとサイトIIプローブであるジアゼパムの結合に対するイソプロピルウノプロストンおよびその活性代謝物(カルボン酸体)の影響を調べた。
図11に示されるに、血清アルブミンとワルファリンの結合は、イソプロピルウノプロストンおよびその活性代謝物によっては阻害されなかった。一方、図12に示されるに、血清アルブミンとジアゼパムの結合は、イソプロピルウノプロストンおよびその活性代謝物により阻害された。この結果から、イソプロピルウノプロストンおよびその活性代謝物はアルブミンのサイトIIに結合することが示された。

実験条件
アルブミン濃度:3.0μM
ワルファリン濃度:1.0μM
ジアゼパム濃度:1.0μM
イソプロピルウノプロストン濃度:3.0、6.0μM
イソプロピルウノプロストン活性代謝物濃度:3.0、6.0μM
【0045】
III.体液中のアルブミンの薬物に対する結合性
1.検査方法1
眼房水中アルブミンおよび血清アルブミンにそれぞれサイトプローブを添加し、その後アルブミン濃度の約1〜2倍の濃度のサイトプローブ阻害物質(結合阻害薬)を添加して、サイトプローブの遊離濃度を測定した。サイトプローブの遊離濃度が増加すれば、置換現象が生じる正常なアルブミンあるいは正常な環境下のアルブミンであると判断され、サイトプローブの遊離濃度が変化しなければ、特殊なアルブミンあるいは特殊な環境下のアルブミンであると判断される。
図13〜15に示されるように、眼房水中アルブミンに結合したサイトIプローブおよびサイトIIプローブは、結合阻害薬により阻害(置換)されなかった。一方、血清アルブミンや希釈血清に結合したサイトIおよびサイトIIプローブは、結合阻害薬により阻害(置換)された。本検査において、眼房水中アルブミンは置換現象を示さず、特殊なアルブミンあるいは特殊な環境下のアルブミンであると判断された。一方、血清アルブミンや希釈血清については、正常なアルブミンあるいは正常な環境下のアルブミンであると判断された。

実験条件
アルブミン濃度:1.87μM
ワルファリン濃度:0.3μM
ジクロフェナク濃度:0.2μM
フルルビプロフェン濃度:1.2μM
フェニルブタゾン濃度:2.0μM
イブプロフェン濃度:2.0μM
【0046】
2.検査方法2
血清アルブミンのサイトIあるいはサイトIIに対して明らかに結合定数の異なるサイトプローブを、眼房水中アルブミンと血清アルブミンに一定量(同一モル濃度になるように)添加した。サイトプローブが眼房水中アルブミンに対して血清アルブミンに対する結合定数どおりの結合性を示せば(結合定数が大きいプローブの方が高い結合性を示せば)、血清アルブミンと同様の正常なアルブミンあるいは正常な環境下のアルブミンであると判断され、結合定数どおりの結合性を示さなければ、特殊なアルブミンあるいは特殊な環境下のアルブミンと判断される。
図1および2に示されるように、眼房水中アルブミンとサイトIプローブおよびサイトIIプローブの結合性の大小は、血清アルブミンと各サイトプローブの結合定数の大小に一致した。本検査においては、眼房水中のアルブミンは、血清アルブミンに対する各サイトプローブの結合定数どおりの結合性を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15